(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007029
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電解セル
(51)【国際特許分類】
C25B 9/63 20210101AFI20250109BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20250109BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20250109BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250109BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20250109BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20250109BHJP
C25B 11/089 20210101ALI20250109BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20250109BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20250109BHJP
【FI】
C25B9/63
C25B1/042
C25B1/23
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/052
C25B11/089
C25B11/031
C25B11/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108158
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】松野 雄多
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA49
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021CA02
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】水素極層にクラックが生じることを抑制可能な電解セルを提供する。
【解決手段】電解セル1は、金属支持体10とセル本体部20とを備える。金属支持体10は、第1主面12に形成された複数の連通孔11を有する。セル本体部20は、第1主面12上に形成され、各連通孔11を覆う水素極層6と、酸素極層9と、水素極層6及び酸素極層9の間に配置される電解質層7とを有する。水素極層6は、NiOとセラミック材料とによって構成される。水素極層6に対して750℃の還元雰囲気で熱処理が施されることによって得られる還元体の状態にある水素極層6の常温での寸法をL2とし、熱処理が施されていない非還元体の状態にある水素極層6の常温での寸法をL1とし、その変化量をΔL=L2-L1としたとき、(ΔL/L1)×100は±0.05%以内である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に形成された複数の連通孔を有する金属支持体と、
前記主面上に形成され、前記複数の連通孔を覆う水素極層と、酸素極層と、前記水素極層及び前記酸素極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記水素極層は、NiOとセラミック材料とによって構成され、
前記水素極層に対して750℃の還元雰囲気で熱処理が施されることによって得られる還元体の状態にある前記水素極層の常温での寸法をL2とし、前記熱処理が施されていない非還元体の状態にある前記水素極層の常温での寸法をL1とし、その変化量をΔL=L2-L1としたとき、(ΔL/L1)×100は±0.05%以内である、
電解セル。
【請求項2】
前記主面における前記複数の連通孔の開口率は5%以上である、
請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記非還元体の状態にある前記水素極層の気孔率は16%以上である、
請求項1又は2に記載の電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属支持体上に配置されたセル本体部を備えるメタルサポート形の電解セルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
金属支持体は、主面に形成された複数の連通孔を有する。セル本体部は、金属支持体の主面上に形成され、複数の連通孔を覆う水素極層と、酸素極層と、水素極層及び酸素極層の間に配置される電解質層とを有する。水素極層は、ニッケルを含有する。水素極層が含有するニッケルは、酸化雰囲気では酸化ニッケル(NiO)となり、還元雰囲気では金属ニッケル(Ni)となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水素極層に導電性を付与するには、高温下にて還元ガスを供給する熱処理(以下、「還元処理」と呼ぶ。)を行うことによって、水素極層に含まれるNiOをNiへと還元する必要がある。
【0006】
しかしながら、メタルサポート形の電解セルでは、水素極層のうち連通孔の直上に位置する直上部分へは還元ガスが供給されやすい一方で、水素極層のうち直上部分以外の連通孔と接触していない部分へは還元ガスが供給されにくい。
【0007】
そのため、直上部分ではNiOの還元が進行して寸法変化が生じやすいのに対して、非直上部分ではNiOの還元が進行せず寸法変化が生じにくい。その結果、直上部分と非直上部分との間にクラックが生じるおそれがある。
【0008】
本発明の課題は、水素極層にクラックが生じることを抑制可能な電解セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面に係る電解セルは、金属支持体とセル本体部とを備える。金属支持体は、主面に形成された複数の連通孔を有する。セル本体部は、前記主面上に形成され、前記複数の連通孔を覆う水素極層と、酸素極層と、前記水素極層及び前記酸素極層の間に配置される電解質層とを有する。前記水素極層は、NiOとセラミック材料とによって構成される。前記水素極層に対して750℃の還元雰囲気で熱処理が施されることによって得られる還元体の状態にある前記水素極層の常温での寸法をL2とし、前記熱処理が施されていない非還元体の状態にある前記水素極層の常温での寸法をL1とし、その変化量をΔL=L2-L1としたとき、(ΔL/L1)×100が±0.05%以内である。
【0010】
本発明の第2の側面に係る電解セルは、上記第1の側面に係り、前記主面における前記複数の連通孔の開口率は5%以上である。
【0011】
本発明の第3の側面に係る電解セルは、上記第1又は第2の側面に係り、前記非還元体の状態にある前記水素極層の気孔率は16%以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水素極層にクラックが生じることを抑制可能な電解セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電解セルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(電解セル1)
図1は、実施形態に係る電解セル1の断面図である。電解セル1は、いわゆるメタルサポート形の電解セルである。
【0015】
図1に示すように、電解セル1は、金属支持体10、セル本体部20、及び流路部材30を備える。
【0016】
[金属支持体10]
金属支持体10は、セル本体部20を支持する。金属支持体10は、板状に形成される。金属支持体10は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0017】
金属支持体10は電解セル1を支持できればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0018】
金属支持体10は、複数の連通孔11、第1主面12及び第2主面13を有する。
【0019】
各連通孔11は、第1主面12から第2主面13まで金属支持体10を貫通する。各連通孔11は、第1主面12及び第2主面13それぞれに開口する。各連通孔11の第1主面12側の開口は、水素極層6によって覆われる。各連通孔11の第2主面13側の開口は、後述する流路30aに繋がる。
【0020】
各連通孔11は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。
【0021】
本実施形態において、各連通孔11は、Z軸方向に沿って直線状に形成される。ただし、各連通孔11は、Z軸方向に対して傾斜していてもよいし、直線状でなくてもよい。また、連通孔11どうしが互いに連なっていてもよい。
【0022】
第1主面12は、第2主面13の反対側に設けられる。第1主面12には、セル本体部20が配置される。第2主面13には、流路部材30が接合される。
【0023】
第1主面12における複数の連通孔11の開口率は5%以上であることが好ましい。これによって、各連通孔11を介して、後述する水素極層6に還元ガスを均一に供給することができるため、水素極層6内における還元むらを低減できる。その結果、水素極層6内における還元むらが低減されることで、水素極層6にクラックが発生することを抑制できる。
【0024】
なお、開口率は、第1主面12の平面視において、複数の連通孔11それぞれの開口面積の合計値を、第1主面12のうち水素極層6によって被覆された領域の面積で割ることによって算出される。
【0025】
金属支持体10は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体10は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体10におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0026】
金属支持体10は、Ti(チタン)やAl(アルミニウム)を含有していてもよい。金属支持体10におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体10におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体10は、TiをTiO2(チタニア)として含有していてもよいし、AlをAl2O3(アルミナ)として含有していてもよい。
【0027】
金属支持体10は、金属支持体10の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化クロム膜は、金属支持体10の表面の少なくとも一部を覆う。また、酸化クロム膜は、各連通孔11の内壁面の少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0028】
[セル本体部20]
セル本体部20は、金属支持体10上に配置される。セル本体部20は、金属支持体10によって支持される。セル本体部20は、水素極層6(カソード)、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9(アノード)を有する。
【0029】
水素極層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9は、Z軸方向において、この順で金属支持体10側から積層されている。水素極層6、電解質層7、及び酸素極層9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0030】
[水素極層6]
水素極層6は、金属支持体10及び電解質層7の間に配置される。水素極層6は、金属支持体10の第1主面12上に形成される。
図1に示すように、本実施形態では、水素極層6が金属支持体10の各連通孔11に埋設されているが、水素極層6は金属支持体10の各連通孔11に埋設されていなくてもよい。
【0031】
水素極層6には、各連通孔11を介して原料ガスが供給される。原料ガスは、原料ガスは少なくともH2Oを含む。
【0032】
原料ガスがH2Oのみを含む場合、水素極層6は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2を生成する。
【0033】
・水素極層6:H2O+2e-→H2+O2-・・・(1)
【0034】
原料ガスがH2Oに加えてCO2を含む場合、水素極層6は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2、CO及びO2-を生成する。
【0035】
・水素極層6:CO2+H2O+4e-→CO+H2+2O2-・・・(2)
・H2Oの電気化学反応:H2O+2e-→H2+O2-・・・(3)
・CO2の電気化学反応:CO2+2e-→CO+O2-・・・(4)
【0036】
水素極層6は、電子伝導性を有する多孔体である。水素極層6は、酸化ニッケル(NiO)とセラミック材料とによって構成される。
【0037】
セラミック材料としては、Y2O3、YSZ、CSZ、ScSZ、GDC、SDC、(La,Sr)(Cr,Mn)O3、(La,Sr)TiO3、Sr2(Fe,Mo)2O6、(La,Sr)VO3、(La,Sr)FeO3、LDC(ランタンドープセリア)、LSGM(ランタンガレート)及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。
【0038】
水素極層6全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)に対するNiOの体積比率は、Ni換算で35体積%以上55体積%以下とすることができる。水素極層6全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)に対するセラミック材料の体積比率は、45体積%以上65体積%以下とすることができる。NiO及びセラミック材料それぞれの体積比率は、後述する還元処理が施されていない非還元体の状態での測定値である。
【0039】
水素極層6の気孔率は特に制限されないが、後述する非還元体の状態において、例えば10%以上40%以下とすることができる。水素極層6の気孔率は、非還元体の状態において、16%以上であることが好ましい。これによって、後述する還元ガスが水素極層6の内部に拡散しやすくなるため、水素極層6内における還元むらを低減できる。その結果、水素極層6内における還元むらが低減されることで、水素極層6にクラックが発生することを抑制できる。
【0040】
なお、水素極層6の気孔率は、次の手法により算出される。まず、Z軸方向に沿った水素極層6の断面を露出させる。次に、SEM装置(日本電子株式会社製、FE-SEM JSM-7900F)を用いて、水素極層6の断面の反射電子像を10000倍で取得する。次に、MEDIACYBERNETICS社製の画像解析ソフトImage-Proを用いて、反射電子像において黒色で表示された部分(気孔に相当)を特定する。そして、水素極層6の反射電子像の全面積で気孔の合計面積を割ることによって、水素極層6の気孔率が算出される。
【0041】
水素極層6の厚みは特に制限されないが、例えば5μm以上400μm以下とすることができる。
【0042】
水素極層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0043】
ここで、水素極層6に導電性を付与するには、水素極層6に対して高温下にて還元ガスを供給する熱処理(以下、「還元処理」という。)を行うことによって、水素極層6に含まれるNiOをNiへと還元する必要がある。
【0044】
NiOからNiへの還元に伴って水素極層6には寸法変化が生じる。このとき、水素極層6のうち連通孔11の直上に位置する直上部分へは還元ガスが供給されやすい一方で、水素極層6のうち直上部分以外の非直上部分へは還元ガスが供給されにくい。そのため、直上部分ではNiOの還元が進行して寸法変化が生じやすいのに対して、非直上部分ではNiOの還元が進行せず寸法変化が生じにくい。その結果、直上部分と非直上部分との間にクラックが生じるおそれがある。そこで、本実施形態に係る電解セル1では、NiOからNiへの還元に伴う水素極層6の寸法変化が次のとおり低減されている。
【0045】
本実施形態では、750℃にて還元ガスを3時間供給する「還元処理」が水素極層6に対して実施される。この還元処理によって、水素極層6に含まれるNiOがNiへ還元されて、水素極層6は非還元体の状態から還元体の状態に変わる。
【0046】
この際、非還元体の状態にある水素極層6の常温での寸法をL1とし、還元体の状態にある水素極層6の常温での寸法をL2とし、その変化量をΔL=L2-L1としたとき、(ΔL/L1)×100は±0.05%以内(すなわち、-0.05%以上かつ+0.05%以下)である。これによって、水素極層6のうち直上部分及び非直上部分それぞれの寸法変化の差を低減させることができるため、直上部分と非直上部分との間にクラックが生じることを抑制できる。
【0047】
なお、「寸法」とは、水素極層6の厚さ、平面視における水素極層6の形状の代表長さ(円の場合には直径、正方形の場合には1辺の長さ、矩形の場合には長辺の長さ)等である。
【0048】
ΔLは、NiOとセラミック材料との平均粒径比率、NiOの体積比率、セラミック材料の体積比率のうち少なくとも1つを調整することによって制御することができる。NiOの平均粒径をR1とし、セラミック材料の平均粒径をR2としたとき、平均粒径比率R2/R1の値は特に限られないが、例えば0.1以上1.5以下とすることができる。平均粒径比率R2/R1は、還元処理が施されていない非還元体の状態での測定値である。
【0049】
NiOとセラミック材料との平均粒径比率R2/R1は、以下の手法により求めることができる。まず、水素極層6の表面をポリッシングした後に、水素極層6の表面をサーマルエッチングすることによって、NiO粒子とセラミックス粒子の粒界を明確にする。次に、NiO粒子とセラミックス粒子が合計150個程度入る倍率で、水素極層6の表面のSEM(走査電子顕微鏡)画像を取得する。次に、SEM画像を画像解析することによって、全NiO粒子の合計面積及び粒子数と、全セラミックス粒子の合計面積及び粒子数とを求める。そして、全NiO粒子の合計面積を粒子数で割ることによってNiOの平均粒径R1を算出し、全セラミックス粒子の合計面積を粒子数で割ることによってセラミックス材料の平均粒径R2を算出する。そして、平均粒径R2を平均粒径R1で割ることによって平均粒径比率R2/R1を算出する。
【0050】
[電解質層7]
電解質層7は、水素極層6及び酸素極層9の間に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、電解質層7は、水素極層6及び反応防止層8の間に挟まれている。
【0051】
電解質層7は、水素極層6を覆うとともに、金属支持体10の第1主面12のうち水素極層6から露出する領域を覆う。
【0052】
電解質層7は、水素極層6において生成されたO2-を酸素極層9側に伝達させる。電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密質材料によって構成される。電解質層7は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア、例えば8YSZ)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム固溶セリア)、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができる。
【0053】
電解質層7の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上7%以下とすることができる。電解質層7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0054】
電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0055】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7及び酸素極層9の間に配置される。反応防止層8は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質層7の構成元素が酸素極層9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0056】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0057】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0058】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0059】
[酸素極層9]
酸素極層9は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極層9は反応防止層8に接続される。電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極層9は電解質層7に接続される。
【0060】
酸素極層9は、下記(2)式の化学反応に従って、水素極層6から電解質層7を介して伝達されるO2-からO2を生成する。
【0061】
・酸素極層9:2O2-→O2+4e-・・・(2)
【0062】
酸素極層9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。酸素極層9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O3、(La,Sr)FeO3、La(Ni,Fe)O3、(La,Sr)CoO3、及び(Sm,Sr)CoO3のうち1つ以上と酸化物イオン伝導性材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0063】
酸素極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0064】
酸素極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0065】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体10の第2主面13に接合される。流路部材30は、金属支持体10との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体10の各連通孔11を介して、セル本体部20の水素極層6に供給される。
【0066】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体10と同様の材料によって形成されていてもよい。この場合、流路部材30は、金属支持体10と実質的に一体であってもよい。
【0067】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側方を取り囲む環状部材である。枠体31は、金属支持体10の第2主面13に接合される。インターコネクタ32は、外部電源又は他の電解セルを電解セル1と電気的に直列に接続するための板状部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0068】
本実施形態では、枠体31とインターコネクタ32が別部材となっているが、枠体31とインターコネクタ32は一体の部材であってもよい。
【実施例0069】
以下において本発明に係る電解セルの実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0070】
本実施例では、上記実施形態に係る電解セルについて、「水素極層6におけるNiOの体積比率」、「水素極層6が含むセラミック材料の種類」、「水素極層6におけるセラミック材料の体積比率」、「水素極層6におけるNiOとセラミック材料の平均粒径比率R2/R1」、「金属支持体10の開口率」及び「水素極層6の気孔率」の組み合わせが異なる複数の試験品(サンプル)を作製した。
【0071】
具体的には、表1に示すように、39種類のサンプルを1つずつ作製した。サンプルNo.1~13では水素極層6のセラミック材料としてY2O3を用い、サンプルNo.14~26では水素極層6のセラミック材料としてYSZを用い、サンプルNo.27~39では、水素極層6のセラミック材料としてGDCを用いた。
【0072】
各サンプルにおいて、金属支持体10としてのステンレス円板(直径10cm、厚さ300μm)上にセル本体部20を焼成法で形成した。表1に示すように、金属支持体10の開口率をサンプルごとに設定した。セル本体部20では、水素極層6の厚さを200μm、電解質層7(8YSZ)の厚さを5μm、反応防止層8(GDC)の厚さを5μm、酸素極層9(LSCF)の厚さを30μmに統一した。表1に示すように、水素極層6の気孔率をサンプルごとに設定した。
【0073】
表1において、体積比率、平均粒径比率R2/R1及び気孔率は、焼成後かつ還元処理前の非還元体の状態での測定値である。体積比率は、蛍光X線を用いた周知の手法の1つを利用して算出した。平均粒径R1、平均粒径R2、平均粒径比率R2/R1、及び気孔率は、上記実施形態にて説明した手法により算出した。
【0074】
各サンプルの非還元体(焼成体)において、室温(常温)にて還元処理前の水素極層6のうち所定箇所の寸法(L1)を測定した。その後、各サンプルを750℃に昇温された状態で水素極層6に還元ガス(水素)を3時間供給することで還元処理を行った。そして、各サンプルの還元体を室温まで冷却した後に、水素極層6の上記所定箇所の寸法(L2)を再び測定した。還元処理前後の寸法変化量ΔL(=L2-L1)をL1で除した値(ΔL/L1)に100を掛けた値が表1に記載されている。
【0075】
なお、還元処理により焼成体が還元体に変化していることは、還元処理前後に測定した重量と、体積比率から算出された重量とを比較することで確認した。
【0076】
また、各サンプルに対して、上述した還元処理を実施した後、水素極層6の断面におけるクラックの有無をSEMで確認した。この際、水素極層6の特性に影響を及ばさない程度の微小クラックの有無も確認した。なお、長さ50μm以下かつ幅0.5μm以下のクラックを特性に影響を及ばさない程度の微小クラックと判断した。クラックの確認結果を表1に示す。表1では、クラックが観察されなかった場合を「◎」と評価し、微小クラックのみが観察された場合を「〇」と評価し、微小クラックより大きなクラックが観察された場合を「×」と評価した。
【0077】
【0078】
表1に示すように、(ΔL/L1)×100の値を±0.05%以内としたサンプルでは、セラミック材料の種類に関わらず、水素極層6にクラックが発生することを抑制できた。このような結果が得られたのは、水素極層6のうち連通孔11の直上に位置する直上部分とそれ以外の非直上部分との寸法変化差を低減できたためである。
【0079】
また、サンプルNo.2,10,11、サンプルNo.15,23,24、及びサンプルNo.28,36,37それぞれの比較から分かるように、金属支持体10の開口率を5%以上とすることによって、水素極層6にクラックが発生することをより抑制できた。このような結果が得られたのは、金属支持体10の連通孔11から水素極層6へ還元ガスを均一に供給することによって、水素極層6のうち直上部分(連通孔11の直上に位置する部分)と非直上部分(直上部分以外の部分)との間における還元むらを低減できたためである。
【0080】
また、サンプルNo.2,12,13、サンプルNo.15,25,26、及びサンプルNo.28,38,39それぞれの比較から分かるように、非還元体の状態にある水素極層6の気孔率を16%以上とすることによって、水素極層6にクラックが発生することをより抑制できた。このような結果が得られたのは、水素極層6内に還元ガスを均一に拡散することによって、水素極層6のうち直上部分と非直上部分との間における還元むらを低減できたためである。