(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007030
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電解セル
(51)【国際特許分類】
C25B 9/63 20210101AFI20250109BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20250109BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20250109BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250109BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20250109BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20250109BHJP
【FI】
C25B9/63
C25B1/042
C25B1/23
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108159
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】松野 雄多
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 至貢
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA49
4K011AA69
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021CA02
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】ガス拡散層のガス拡散性向上と電解質層及び水素極層の損傷抑制とを両立可能な電解セルを提供する。
【解決手段】電解セル1は、金属支持体10とセル本体部20とを備える。金属支持体10は、第1主面12に形成された複数の連通孔11を有する。セル本体部20は、複数の連通孔11を覆うガス拡散層5と、ガス拡散層5上に配置される水素極層6と、酸素極層9と、水素極層6と酸素極層9の間に配置される電解質層7とを有する。ガス拡散層5は、NiOとセラミック材料によって構成される。ガス拡散層5の厚さは、100μm以上である。ガス拡散層5に対して750℃の還元雰囲気で熱処理が施された還元体の状態にあるガス拡散層5の常温での寸法をL2とし、非還元体の状態にあるガス拡散層5の常温での寸法をL1とし、その変化量をΔL=L2-L1としたとき、(ΔL/L1)×100は±0.05%以内である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に形成された複数の連通孔を有する金属支持体と、
前記主面上に形成され、前記複数の連通孔を覆うガス拡散層と、前記ガス拡散層上に配置される水素極層と、酸素極層と、前記水素極層と前記酸素極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記ガス拡散層は、NiOとセラミック材料によって構成され、
前記ガス拡散層の厚さは、100μm以上であり、
前記ガス拡散層に対して750℃の還元雰囲気で熱処理が施されることによって得られる還元体の状態にある前記ガス拡散層の常温での寸法をL2とし、前記熱処理が施されていない非還元体の状態にある前記ガス拡散層の常温での寸法をL1とし、その変化量をΔL=L2-L1としたとき、(ΔL/L1)×100は±0.05%以内である、
電解セル。
【請求項2】
前記ガス拡散層の厚さは、450μm以下である、
請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記ガス拡散層は、前記セラミック材料としてイットリアを含有する、
請求項1又は2に記載の電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属支持体上に配置されたセル本体部を備えるメタルサポート形の電解セルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のセル本体部は、接合層と、水素極層と、電解質層と、酸素極層とを有している。接合層は、金属支持体の主面に形成された複数の連通孔を覆う。接合層は、酸化ニッケル(NiO)とセラミック材料によって構成される。水素極層は、接合層と電解質層の間に配置される。電解質層は、水素極層と酸素極層の間に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、接合層内のガス拡散性について検討されておらず、接合層の厚さについても言及されていないが、接合層内のガス拡散性を高めるには接合層を厚くすることが好ましい。
【0006】
ここで、接合層(以下、「ガス拡散層」という。)に電子伝導性を付与するために、高温下にて還元ガスを供給する熱処理(以下、「還元処理」と呼ぶ。)を施してガス拡散層に含まれるNiOをNiへと還元すると、電解セルに反りが生じて電解質層や水素極層に損傷(剥離や割れ)が生じる場合がある。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ガス拡散層の厚さと還元処理に伴うガス拡散層の寸法変化率とが電解セルの反りに大きな影響を及ぼしているという知見を得た。
【0008】
本発明の課題は、ガス拡散層のガス拡散性向上と電解質層及び水素極層の損傷抑制とを両立可能な電解セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面に係る電解セルは、金属支持体とセル本体部とを備える。金属支持体は、主面に形成された複数の連通孔を有する。セル本体部は、前記主面上に形成され、前記複数の連通孔を覆うガス拡散層と、前記ガス拡散層上に配置される水素極層と、酸素極層と、前記水素極層と前記酸素極層の間に配置される電解質層とを有する。前記ガス拡散層は、NiOとセラミック材料によって構成される。前記ガス拡散層の厚さは、100μm以上である。前記ガス拡散層に対して750℃の還元雰囲気で熱処理が施されることによって得られる還元体の状態にある前記ガス拡散層の常温での寸法をL2とし、前記熱処理が施されていない非還元体の状態にある前記ガス拡散層の常温での寸法をL1とし、その変化量をΔL=L2-L1としたとき、(ΔL/L1)×100は±0.05%以内である。
【0010】
本発明の第2の側面に係る電解セルは、上記第1の側面に係り、前記ガス拡散層の厚さは、450μm以下である。
【0011】
本発明の第3の側面に係る電解セルは、上記第1又は第2の側面に係り、前記ガス拡散層は、前記セラミック材料としてイットリアを含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガス拡散層のガス拡散性向上と電解質層及び水素極層の損傷抑制とを両立可能な電解セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電解セルの断面図である。
【
図2】
図2は、還元処理に伴うガス拡散層の寸法変化率がマイナスである場合における、ガス拡散層の厚さと電解セルの曲率との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、還元処理に伴うガス拡散層の寸法変化率がプラスである場合における、ガス拡散層の厚さと電解セルの曲率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(電解セル1)
図1は、実施形態に係る電解セル1の断面図である。電解セル1は、いわゆるメタルサポート形の電解セルである。
【0015】
図1に示すように、電解セル1は、金属支持体10、セル本体部20、及び流路部材30を備える。
【0016】
[金属支持体10]
金属支持体10は、セル本体部20を支持する。金属支持体10は、板状に形成される。金属支持体10は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0017】
金属支持体10は電解セル1を支持できればよく、その厚さは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0018】
金属支持体10は、複数の連通孔11、第1主面12及び第2主面13を有する。
【0019】
各連通孔11は、第1主面12から第2主面13まで金属支持体10を貫通する。各連通孔11は、第1主面12及び第2主面13それぞれに開口する。各連通孔11の第1主面12側の開口は、後述するガス拡散層5によって覆われる。各連通孔11の第2主面13側の開口は、後述する流路30aに繋がる。
【0020】
各連通孔11は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。
【0021】
本実施形態において、各連通孔11は、Z軸方向に沿って直線状に形成される。ただし、各連通孔11は、Z軸方向に対して傾斜していてもよいし、直線状でなくてもよい。なお、Z軸方向とは、第1主面12に垂直な方向を意味する。
【0022】
第1主面12は、第2主面13の反対側に設けられる。第1主面12には、セル本体部20が配置される。第2主面13には、流路部材30が接合される。
【0023】
第1主面12における複数の連通孔11の開口率は5%以上であることが好ましい。これによって、各連通孔11及びガス拡散層5を介して、後述する水素極層6に原料ガスを均一に供給することができるため、水素極層6内における電極反応場を均一にすることができる。その結果、水素極層6内の電流密度を高めることができる。
【0024】
なお、開口率は、第1主面12の平面視において、複数の連通孔11それぞれの開口面積の合計値を、第1主面12のうち水素極層6によって被覆された領域の面積で割ることによって算出される。
【0025】
金属支持体10は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体10は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体10におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0026】
金属支持体10は、Ti(チタン)やAl(アルミニウム)を含有していてもよい。金属支持体10におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体10におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体10は、TiをTiO2(チタニア)として含有していてもよいし、AlをAl2O3(アルミナ)として含有していてもよい。
【0027】
金属支持体10は、金属支持体10の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化クロム膜は、金属支持体10の表面の少なくとも一部を覆う。また、酸化クロム膜は、各連通孔11の内壁面の少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0028】
[セル本体部20]
セル本体部20は、金属支持体10上に配置される。セル本体部20は、金属支持体10によって支持される。セル本体部20は、ガス拡散層5、水素極層6(カソード)、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9(アノード)を有する。
【0029】
ガス拡散層5、水素極層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9は、Z軸方向において、この順で金属支持体10側から積層されている。ガス拡散層5、水素極層6、電解質層7、及び酸素極層9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0030】
[ガス拡散層5]
ガス拡散層5は、金属支持体10の第1主面12上に形成される。ガス拡散層5は、金属支持体10と水素極層6の間に配置される。ガス拡散層5は、第1主面12に形成された複数の連通孔11を覆っている。ガス拡散層5の一部は、金属支持体10の各連通孔11の内側に入り込んでいてもよい。
【0031】
ガス拡散層5は、酸化ニッケル(NiO)とセラミック材料によって構成される。
【0032】
ガス拡散層5に含まれるNiは、酸化雰囲気ではNiOの形態で存在し、還元雰囲気では金属ニッケル(Ni)の形態で存在する。還元雰囲気において、Niは、電子伝導性材料として機能する。還元雰囲気において、ガス拡散層5は、水素極層6より高い電子伝導性を有していることが好ましい。
【0033】
ガス拡散層5に含まれるセラミック材料は、酸素イオン伝導性を有していてもよいし、有していなくてもよい。セラミック材料としては、イットリア(Y2O3)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)、(La,Sr)(Cr,Mn)O3、(La,Sr)TiO3、Sr2(Fe,Mo)2O6、(La,Sr)VO3、(La,Sr)FeO3、LDC(ランタンドープセリア)、LSGM(ランタンガレート)及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。
【0034】
ガス拡散層5全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)に対するNiOの体積比率は、Ni換算で35体積%以上55体積%以下とすることができる。ガス拡散層5全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)に対するセラミック材料の体積比率は、45体積%以上65体積%以下とすることができる。NiO及びセラミック材料それぞれの体積比率は、後述する還元処理が施されていない非還元体の状態での測定値である。
【0035】
ガス拡散層5の厚さは、100μm以上である。これにより、ガス拡散層5のガス拡散性を向上させることができるため、水素極層6に原料ガスを均一に供給することができる。その結果、水素極層6内の電極反応場が均一になるため、水素極層6内の電流密度を高めることができる。
【0036】
ガス拡散層5の厚さの上限値は特に限られないが、600μm以下とすることができる。ガス拡散層5の厚さは、450μm以下であることが好ましい。これによって、ガス拡散層5に含まれるNi量を抑えることができるため、電解セル1の製造コストを削減することができる。
【0037】
なお、ガス拡散層5の厚さは、次の手法により算出される。まず、Z軸方向に沿ったガス拡散層5及び水素極層6の断面を露出させる。次に、SEM装置(日本電子株式会社製、FE-SEM JSM-7900F)を用いて、断面の反射電子像を3000倍で取得する。次に、MEDIACYBERNETICS社製の画像解析ソフトImage-Proを用いて、反射電子像において黒色で表示された部分(気孔に相当)を特定する。次に、反射電子像上において気孔率が大きく変化するラインをガス拡散層5と水素極層6の境界に設定する。次に、反射電子像上において、金属支持体10の第1主面12に垂直な3本のライン上でガス拡散層5の厚さを測定する。次に、3本のライン上で測定した厚さを算術平均することによってガス拡散層5の厚さを求める。
【0038】
ガス拡散層5は、ガス拡散性を有する多孔体である。ガス拡散層5は、原料ガスを水素極層6側に透過させる。ガス拡散層5は、水素極層6の内部で生成された生成ガスを連通孔11側に透過させる。
【0039】
ガス拡散層5の気孔率は特に制限されないが、後述する非還元体の状態において、例えば10%以上40%以下とすることができる。ガス拡散層5の気孔率は、非還元体の状態において、16%以上であることが好ましい。これによって、ガス拡散層5のガス拡散性をより向上させることができるため、水素極層6に原料ガスをより均一に供給することができる。その結果、水素極層6内の電極反応場がより均一になるため、水素極層6内の電流密度をより高めることができる。
【0040】
なお、ガス拡散層5の気孔率は、次の手法により算出される。まず、Z軸方向に沿ったガス拡散層5の断面を露出させる。次に、SEM装置(日本電子株式会社製、FE-SEM JSM-7900F)を用いて、ガス拡散層5の断面の反射電子像を3000倍で取得する。次に、MEDIACYBERNETICS社製の画像解析ソフトImage-Proを用いて、反射電子像において黒色で表示された部分(気孔に相当)を特定する。そして、ガス拡散層5の反射電子像の全面積で気孔の合計面積を割ることによって、ガス拡散層5の気孔率が算出される。
【0041】
ガス拡散層5の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0042】
ガス拡散層5の還元処理に関する詳細構成については後述する。
【0043】
[水素極層6]
水素極層6は、ガス拡散層5上に配置される。水素極層6は、ガス拡散層5と電解質層7の間に配置される。
【0044】
水素極層6には、ガス拡散層5を介して各連通孔11から原料ガスが供給される。原料ガスは、原料ガスは少なくともH2Oを含む。
【0045】
原料ガスがH2Oのみを含む場合、水素極層6は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2を生成する。
【0046】
・水素極層6:H2O+2e-→H2+O2-・・・(1)
【0047】
原料ガスがH2Oに加えてCO2を含む場合、水素極層6は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2、CO及びO2-を生成する。
【0048】
・水素極層6:CO2+H2O+4e-→CO+H2+2O2-・・・(2)
・H2Oの電気化学反応:H2O+2e-→H2+O2-・・・(3)
・CO2の電気化学反応:CO2+2e-→CO+O2-・・・(4)
【0049】
水素極層6は、NiOと酸素イオン伝導性材料とを含有する。Niは、電子伝導性材料として機能するとともに、水電解又は共電解の電気化学反応を促進させる触媒として機能する。酸素イオン伝導性材料としては、YSZ、CSZ、ScSZ、GDC、SDC及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。水素極層6は、ガス拡散層5より高い酸素イオン伝導性を有することが好ましい。
【0050】
水素極層6全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)に対するNiOの体積比率は、Ni換算で35体積%以上55体積%以下とすることができる。水素極層6全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)に対するセラミック材料の体積比率は、45体積%以上65体積%以下とすることができる。NiO及びセラミック材料それぞれの体積比率は、後述する還元処理が施されていない非還元体の状態での測定値である。
【0051】
水素極層6の厚さは特に限られないが、例えば5μm以上30μm以下とすることができる。水素極層6は、ガス拡散層5より薄い。
【0052】
水素極層6の気孔率は特に制限されないが、後述する非還元体の状態において、例えば10%以上30%以下とすることができる。
【0053】
なお、水素極層6の気孔率は、上述したガス拡散層5の気孔率と同様の手法により算出される。
【0054】
水素極層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0055】
[電解質層7]
電解質層7は、水素極層6と酸素極層9の間に配置される。本実施形態では、電解質層7と酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、電解質層7は、水素極層6と反応防止層8の間に挟まれている。
【0056】
電解質層7は、水素極層6を覆うとともに、金属支持体10の第1主面12のうち水素極層6から露出する領域を覆う。
【0057】
電解質層7は、水素極層6において生成されたO2-を酸素極層9側に伝達させる。電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密質材料によって構成される。電解質層7は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア、例えば8YSZ)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム固溶セリア)、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができる。
【0058】
電解質層7の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上7%以下とすることができる。電解質層7の厚さは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0059】
電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0060】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7と酸素極層9の間に配置される。反応防止層8は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質層7の構成元素が酸素極層9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0061】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0062】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚さは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0063】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0064】
[酸素極層9]
酸素極層9は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質層7と酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極層9は反応防止層8に接続される。電解質層7と酸素極層9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極層9は電解質層7に接続される。
【0065】
酸素極層9は、下記(2)式の化学反応に従って、水素極層6から電解質層7を介して伝達されるO2-からO2を生成する。
【0066】
・酸素極層9:2O2-→O2+4e-・・・(2)
【0067】
酸素極層9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。酸素極層9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O3、(La,Sr)FeO3、La(Ni,Fe)O3、(La,Sr)CoO3、及び(Sm,Sr)CoO3のうち1つ以上と酸化物イオン伝導性材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0068】
酸素極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層9の厚さは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0069】
酸素極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0070】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体10の第2主面13に接合される。流路部材30は、金属支持体10との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体10の各連通孔11を介して、セル本体部20の水素極層6に供給される。
【0071】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体10と同様の材料によって形成されていてもよい。この場合、流路部材30は、金属支持体10と実質的に一体であってもよい。
【0072】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側方を取り囲む環状部材である。枠体31は、金属支持体10の第2主面13に接合される。インターコネクタ32は、外部電源又は他の電解セルを電解セル1と電気的に直列に接続するための板状部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0073】
本実施形態では、枠体31とインターコネクタ32が別部材となっているが、枠体31とインターコネクタ32は一体の部材であってもよい。
【0074】
(ガス拡散層5の還元処理に関する詳細構成)
ガス拡散層5に電子伝導性を付与するには、ガス拡散層5に対して高温下にて還元ガスを供給する熱処理(すなわち、還元処理)を行うことによって、ガス拡散層5に含まれるNiOをNiへと還元する必要がある。
【0075】
NiOからNiへの還元によってガス拡散層5には寸法変化が生じる。これに伴い、電解セル1が金属支持体10側に向かって突状に反ったり、或いは、電解セル1が金属支持体10と反対側に向かって突状に反ったりする。電解セル1が金属支持体10側に反ると、Z軸方向に垂直なX軸方向における水素極層6及び電解質層7の中央付近に割れが生じやすい。また、電解セル1が金属支持体10と反対側に反ると、電解質層7と水素極層6の間、或いは、電解質層7と反応防止層8の間に剥離が生じやすい。
【0076】
ここで、
図2及び
図3は、750℃で還元ガスを3時間供給する還元処理を行った場合における、ガス拡散層5の厚さと電解セル1の曲率との関係を示すシミュレーション結果である。
【0077】
ガス拡散層5の厚さの単位は、μmである。曲率は、Z軸方向における電解セル1の反りの度合いを示す指標である。曲率の単位は、1/mである。曲率がプラスの値であることは、電解セル1が金属支持体10側に反っていることを意味し、曲率がマイナスの値であることは、電解セル1が金属支持体10と反対側に反っていることを意味する。
【0078】
なお、
図2及び
図3のシミュレーション条件は、次のとおりである。
【0079】
・金属支持体10:厚さ300μm、ステンレス
・ガス拡散層5:厚さ50~600μm、NiO+Y2O3
・水素極層6:厚さ15μm、NiO+8YSZ
・電解質層7:厚さ8μm、8YSZ
・反応防止層8:厚さ8μm、GDC
・酸素極層9:厚さ15μm、LSCF
【0080】
図2には、ガス拡散層5の寸法変化率を-0.01%,-0.03%,-0.05%,-0.07%,-0.09%と変化させたときの厚さ-曲率の関係を示す5本の曲線が図示されている。
図2では、曲率がプラスの値であるので、電解セル1は金属支持体10側に反った状態である。
【0081】
図3には、ガス拡散層5の寸法変化率を+0.01%,+0.03%,+0.05%,+0.07%,+0.09%と変化させたときの厚さ-曲率の関係を示す5本の曲線が図示されている。
図3では、曲率が主にマイナスの値であるので、電解セル1は金属支持体10と反対側に反った状態である。
【0082】
図2及び
図3から分かるように、ガス拡散層5の厚さと寸法変化率の両方が電解セル1の曲率(すなわち、反り)に大きな影響を及ぼしている。
【0083】
具体的には、ガス拡散層5の寸法変化率の絶対値が大きくなるほど電解セル1の曲率は増大する傾向がある。また、ガス拡散層5の厚さが50μm~200μmの区間では、厚さが大きくなるほど電解セル1の曲率は増大する傾向があり、ガス拡散層5の厚さが200μm超の区間では、厚さが大きくなるほど電解セル1の曲率は減少する傾向がある。
【0084】
図2では、電解セル1が金属支持体10側に反った状態であるので、その曲率が大きければ水素極層6及び電解質層7に割れが生じやすいところ、水素極層6及び電解質層7の割れを抑制可能な曲率の閾値は0.55(1/m)に設定される。また、上述の通り、本実施形態では、ガス拡散層5の厚さは100μm以上が必要とされている。
【0085】
そうすると、曲率を0.55(1/m)以下に抑えるには、寸法変化率が-0.09%であればガス拡散層5の厚さを550μm以上とする必要があり、また、寸法変化率が-0.07%であればガス拡散層5の厚さを380μm以上とする必要がある。一方で、寸法変化率が-0.05%以上であればガス拡散層5の厚さが100μm以上の全範囲において曲率を0.55(1/m)以下に抑えることができる。
【0086】
図3では、電解セル1が金属支持体10と反対側に反った状態であるので、その曲率が大きければ水素極層6及び電解質層7に剥離が生じやすいところ、水素極層6及び電解質層7の剥離を抑制可能な曲率の閾値は0.40(1/m)に設定される。また、ガス拡散層5に100μm以上の厚さが必要であることは上述の通りである。
【0087】
そうすると、曲率を0.40(1/m)以下に抑えるには、寸法変化率が+0.09%であればガス拡散層5の厚さを600μm超とする必要があり、また、寸法変化率が+0.07%であればガス拡散層5の厚さを500μm以上とする必要がある。一方で、寸法変化率が+0.05%以下であればガス拡散層5の厚さが100μm以上の全範囲において曲率を0.40(1/m)以下に抑えることができる。
【0088】
以上の通り、ガス拡散層5の厚さを100μm以上とし、ガス拡散層5の寸法変化率を±0.05%以内(すなわち、-0.05%以上かつ+0.05%以下)とすることによって、ガス拡散層5のガス拡散性向上と水素極層6及び電解質層7の損傷抑制とを両立させることができる。
【0089】
なお、ガス拡散層5の寸法変化率は、非還元体の状態にあるガス拡散層5の常温での寸法をL1とし、還元体の状態にあるガス拡散層5の常温での寸法をL2とし、その変化量をΔL=L2-L1としたとき、(ΔL/L1)×100によって表される。
【0090】
「寸法」とは、ガス拡散層5の厚さ、平面視におけるガス拡散層5の形状の代表長さ(円の場合には直径、正方形の場合には1辺の長さ、矩形の場合には長辺の長さ)等である。
【0091】
ΔLは、NiOとセラミック材料との平均粒径比率、NiOの体積比率、セラミック材料の体積比率のうち少なくとも1つを調整することによって制御することができる。NiOの平均粒径をR1とし、セラミック材料の平均粒径をR2としたとき、平均粒径比率R2/R1の値は特に限られないが、例えば0.1以上1.5以下とすることができる。平均粒径比率R2/R1は、還元処理が施されていない非還元体の状態での測定値である。
【0092】
NiOとセラミック材料との平均粒径比率R2/R1は、以下の手法により求めることができる。まず、ガス拡散層5の表面をポリッシングした後に、ガス拡散層5の表面をサーマルエッチングすることによって、NiO粒子とセラミックス粒子の粒界を明確にする。次に、NiO粒子とセラミックス粒子が合計150個程度入る倍率で、ガス拡散層5の表面のSEM(走査電子顕微鏡)画像を取得する。次に、SEM画像を画像解析することによって、全NiO粒子の合計面積及び粒子数と、全セラミックス粒子の合計面積及び粒子数とを求める。そして、全NiO粒子の合計面積を粒子数で割ることによってNiOの平均粒径R1を算出し、全セラミックス粒子の合計面積を粒子数で割ることによってセラミックス材料の平均粒径R2を算出する。そして、平均粒径R2を平均粒径R1で割ることによって平均粒径比率R2/R1を算出する。
【符号の説明】
【0093】
1 電解セル
10 金属支持体
11 連通孔
12 第1主面
13 第2主面
20 セル本体部
5 ガス拡散層
6 水素極層
7 電解質層
8 反応防止層
9 酸素極層
30 流路部材
30a 流路