(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007100
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】二次電池電極用複合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/36 20060101AFI20250109BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M4/36 A
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108281
(22)【出願日】2023-06-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
(72)【発明者】
【氏名】上野 敦
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA11
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】
電極作製時の溶剤除去に要する乾燥エネルギーの削減と、凝集力の高い繊維状炭素と活物質の均質な複合化を両立可能な複合粒子を提供し、電極中でも高い導電性を獲得できる二次電池電極用複合物を提供すること。
【解決手段】
電極活物質及び繊維状炭素を含む二次電池電極用複合物の製造方法であって、電極活物質と、繊維状炭素が溶媒に分散された繊維状炭素分散体とを、非スラリー状でメカノケミカル混合装置を用いて複合する工程及び、溶媒を除去し乾燥させる工程、を含むことを特徴とする二次電池電極用複合物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質及び繊維状炭素を含む二次電池電極用複合物の製造方法であって、
電極活物質と、繊維状炭素が溶媒に分散された繊維状炭素分散体とを、非スラリー状でメカノケミカル混合装置を用いて複合する工程及び、溶媒を除去し乾燥させる工程、を含むことを特徴とする二次電池電極用複合物の製造方法。
【請求項2】
前記繊維状炭素分散体が、繊維状炭素と、分散剤と、溶媒と、を含み、
前記分散剤が、脂肪族炭化水素構造単位及びニトリル基含有構造単位を含有する共重合体を含む請求項1記載の二次電池電極用複合物の製造方法。
【請求項3】
前記共重合体が、
脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、及びアルキル基置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位を含む共重合体を含有し、
前記脂肪族炭化水素構造単位が、アルキレン構造単位を含み、前記脂肪族炭化水素構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として40質量%以上85質量%未満であり、前記ニトリル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として15質量%以上50質量%以下であり、前記アルキル基置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として10質量%以下であり、
前記脂肪族炭化水素構造単位、前記ニトリル基含有構造単位、及び前記アルキル基置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位の合計の含有量が、前記共重合体の質量を基準として80質量%以上であり、
前記共重合体の重量平均分子量が、5,000以上400,000以下である請求項2記載の二次電池電極用複合物の製造方法。
【請求項4】
前記共重合体が、前記共重合体の質量を基準として1質量%未満のカルボキシル基含有構造単位を更に含む、請求項2又は3記載の二次電池電極用複合物の製造方法。
【請求項5】
前記繊維状炭素分散体が、前記共重合体の質量を基準として1質量%以上20質量%以下の塩基を含有する、請求項2又は3記載の二次電池電極用複合物の製造方法。
【請求項6】
前記二次電池電極用複合物が、酸素雰囲気下における熱重量-示差熱同時分析法で得られた繊維状炭素の発熱ピークの温度が520℃以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の二次電池電極用複合物の製造方法。
【請求項7】
前記二次電池電極用複合物が、バインダー樹脂を含む請求項1又は2記載の二次電池電極用複合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の方法にしたがって二次電池用電極複合物を作製し、前記二次電池用電極複合物を用いて電極膜を形成することを含む、電極膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の方法にしたがって二次電池用電極複合物を作製し、前記二次電池用電極複合物を用いて電極膜を形成することを含む、二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極用複合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及や携帯機器の小型軽量化及び高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有する二次電池、さらに、その二次電池の高容量化が求められている。このような背景の下で高エネルギー密度、高電圧という特徴から非水系電解液を用いる非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池が多くの機器に使われるようになっている。
【0003】
また、リチウムイオン二次電池の用途拡大に伴い、高容量化や高速充電、高寿命化といった電池性能の追求のみならず、電池コスト削減や、生産における環境負荷低減が求められている。特に、CO2排出量削減につながる環境負荷低減に対するニーズは高まっており、電気自動車の製造に必要なコストや消費エネルギーの多くを占めるリチウムイオン二次電池製造に係るエネルギー消費量削減が課題となっている。
【0004】
上記課題に対して、合材スラリーを用いる従来の電極製造法では溶剤の除去に多量の乾燥エネルギーを要するため、合材スラリーを必要としない粉体成形によって電極を製造する方法が提案されている。粉体成形による電極製造においては生産性の向上や電極材の均一化が課題となるため、材料の流動性向上や粒子径分布の狭小化が期待できる活物質の複合粒子が利用されている。
例えば、特許文献1では、電極活物質と水溶性高分子、結着樹脂、分散媒を含む複合粒子用スラリーを噴霧、乾燥することにより作製した複合粒子の粒子径分布等を制御することにより、粉体成形時の低目付での厚み精度を上げる方法が開示されている。
また、特許文献2では正極活物質とカーボンブラック、セルロースナノファイバーを含むスラリーを噴霧造粒することで、粒子強度に優れる複合粒子を製造する例が開示されている。
また、活物質の複合粒子は粉体成形だけでなく、合材スラリーによる従来の製造プロセスにおいても活用が期待されている。二次電池の高容量化には電極中の活物質比率の増加が必須となるため、助剤成分の僅少化が求められる。そのため、導電剤としてはより少量添加で導電ネットワークの形成が可能な、外径が小さく、繊維長の大きい繊維状炭素の活用が有望視されているが、一方で凝集力の大きさと相反するため電極中に均一に分布させることが難しくなる。そこで予め活物質表面に繊維状炭素を吸着させた複合粒子を利用する方法が提案されている。
例えば、特許文献3では、正極活物質粒子と繊維状炭素を溶剤中で超音波分散機を用いて分散したスラリーを噴霧造粒することで材料が均一に混合された複合粒子を製造し、合材スラリーの調製を経て、電極化する例が開示されている。
また、特許文献4では、正極活物質とカーボンナノチューブを窒素雰囲気下でメカノケミカル処理により複合化させ、高電子伝導性と高機械的強度を有する正極活物質を製造する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6954424号公報
【特許文献2】特許6380526号公報
【特許文献3】特許5377946号公報
【特許文献4】特開2016-201228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に開示の方法では、複合粒子を作製する際に噴霧造粒の工程が必要となる。材料が均一に分散されたスラリーを噴霧し加熱槽内で瞬時に乾燥、均質な複合粒子を作製可能であるが、スプレー状に噴霧するためにはスラリーを低粘度化する必要があり高固形分化には限界がある。そのため、従来の合材スラリーに使われる溶剤量よりも多くの溶剤量が必要となり、電極作製に係るエネルギー消費量削減効果は大きくない。
特許文献4に開示の方法では、粉体状態で混合するため溶剤を使用せずに複合粒子を作製可能だが、繊維状で絡み合ったカーボンナノチューブを複合化の過程で解すことが困難であり、カーボンナノチューブの活物質表面への均一な吸着には至らず不均一な複合粒子となり易く、電極中での均一な導電ネットワーク形成は困難である。
【0007】
本発明は前記問題点、すなわち電極作製時の溶剤除去に要する乾燥エネルギーの削減と、凝集力の高い繊維状炭素と活物質の均質な複合化を両立可能な複合粒子を提供し、電極中でも高い導電性を獲得できる二次電池電極用複合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は電極活物質及び繊維状炭素を含む二次電池電極用複合物の製造方法であって、電極活物質と、繊維状炭素が溶媒に分散された繊維状炭素分散体とを、非スラリー状でメカノケミカル混合装置を用いて複合する工程及び、溶媒を除去し乾燥させる工程、を含むことを特徴とする二次電池電極用複合物の製造方法に関する。
【0009】
本発明は前記繊維状炭素分散体が、繊維状炭素と、分散剤と、溶媒と、を含み、
前記分散剤が、脂肪族炭化水素構造単位及びニトリル基含有構造単位を含有する共重合体を含む前記の二次電池電極用複合物の製造方法に関する。
【0010】
本発明は、前記共重合体が、
脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、及びアルキル基置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位を含む共重合体を含有し、
前記脂肪族炭化水素構造単位が、アルキレン構造単位を含み、前記脂肪族炭化水素構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として40質量%以上85質量%未満であり、前記ニトリル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として15質量%以上50質量%以下であり、前記アルキル基置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位の含有量が、前記共重合体の質量を基準として10質量%以下であり、
前記脂肪族炭化水素構造単位、前記ニトリル基含有構造単位、及び前記アルキル基置換又は非置換のカルバモイル基含有構造単位の合計の含有量が、前記共重合体の質量を基準として80質量%以上であり、
前記共重合体の重量平均分子量が、5,000以上400,000以下である前記の二次電池電極用複合物の製造方法に関する。
【0011】
本発明は、前記共重合体が、前記共重合体の質量を基準として1質量%未満のカルボキシル基含有構造単位を更に含む、前記の二次電池電極用複合物の製造方法に関する。
に関する。
【0012】
前記繊維状炭素分散体が、前記共重合体の質量を基準として1質量%以上20質量%以下の塩基を含有する、前記の二次電池電極用複合物の製造方法に関する。
【0013】
前記二次電池電極用複合物が、酸素雰囲気下における熱重量-示差熱同時分析法で得られた繊維状炭素の発熱ピークの温度が520℃以下であることを特徴とする前記の二次電池電極用複合物の製造方法。
【0014】
前記二次電池電極用複合物が、バインダー樹脂を含む前記の二次電池電極用複合物の製造方法に関する。
【0015】
前記の方法にしたがって二次電池用電極複合物を作製し、前記二次電池用電極複合物を用いて電極膜を形成することを含む、電極膜の製造方法に関する。
【0016】
前記の方法にしたがって二次電池用電極複合物を作製し、前記二次電池用電極複合物を用いて電極膜を形成することを含む、二次電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、活物質上の繊維状炭素の分散状態を細かくコントロールすることで、導電性の優れる二次電池電極用複合物を提供することができる。本発明のさらに他の実施形態によれば、高出力、高寿命な非水電解質二次電池及びこれに用いられる電極膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、全反射測定法による赤外分光分析での共重合体1、分散剤1、及び分散剤3の赤外分光スペクトルである。
【
図2】
図2は、核磁気共鳴装置による分散剤1及び分散剤3の13C-NMR定量スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態である二次電池電極用複合物の製造方法について詳しく説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
【0020】
本明細書において、カーボンナノチューブを「CNT」と表記することがある。水素化ニトリルゴムを「H-NBR」、N-メチル-2-ピロリドンを「NMP」と表記することがある。なお、本明細書では、カーボンナノチューブ分散体を単に「CNT分散体」または「分散液」という場合がある。また、二次電池電極用複合物を「電極用複合物」または、「複合物」をいう場合がある。
【0021】
<二次電池電極用複合物の製造方法>
本発明の二次電池用電極複合物の製造方法は、電極活物質と繊維状炭素が溶媒に分散された繊維状炭素分散体を、非スラリー状態でメカノケミカル混合装置を用いて複合する工程及び、溶剤を除去し乾燥させる工程、を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の二次電池電極用複合物の製造過程においては、下記(1)~(3)を含むことが良好な抵抗特性を有する複合物を作製するために重要な要素となる。
(1)繊維状炭素の分散体を使用
(2)電極活物質と繊維状炭素が分散された分散体の混合物の状態の制御
(3)メカノケミカル混合装置での複合
以下上記の理由について説明する。
(1)繊維状炭素が解れた一次粒子やバンドル粒子の形態で活物質の表面に吸着させるためには、凝集力の強い繊維状炭素を上記状態まで解砕する必要があり、これには液相状態(スラリー)での分散が不可欠である。しかしながら、スラリー状態で活物質と複合すると電極製造に係る溶剤の乾燥エネルギーを削減することができない。よって、予め繊維状炭素の一次粒子またはバンドル粒子が均一に分散・安定化された繊維状炭素の分散体を使用する必要がある。
(2)高固形分濃度の非スラリー状での複合化することで、従来の合材スラリーを利用した電極製造に係る溶剤の乾燥エネルギーの総量よりも小さくすることが可能である。また、混合物が非スラリー状であると、液としての流動性を持たないため、一般的な合材スラリーよりも樹脂成分が少ない組成であっても乾燥時における成分の分離や繊維状炭素同士の乾燥凝集を抑制することができる。非スラリー状の混合物は、固形分濃度が80質量%以上であると好ましい。
混合物の形態は溶剤の含有量によって次のように変化する。溶剤の含有量が多い方からスラリー状(液の流動性あり)、粘土状(液の流動性なし、粘り気あり)、そぼろ状(液の流動性なし、粘り気無し)、パウダー状(絶乾)となる。本発明での非スラリー状とは粘土状又はそぼろ状を指す。これら形態の変化は見た目だけでなく、混合物の混合状態にも大きく影響を与える。本発明の複合物における混合物の形態は、溶剤除去過程における繊維状炭素の乾燥凝集を抑制できるため、そぼろ状での混合がより好ましい。
(3)非スラリー状で混合することで、乾燥凝集の抑制が期待できる一方で、液としての流動することができないため、活物質表面に対して繊維状炭素の分散体が濡れ広がり難く不均一になり易い。そのため、せん断力を掛けることが可能なメカノケミカル混合装置により、活物質表面に繊維状炭素の分散体を押し付け、濡れ広がりを促すことで、繊維状炭素を解しながら活物質表面に繊維状炭素をムラなく吸着させる効果が期待できる。
上記(1)~(3)により、電極作製時の乾燥エネルギーを削減し、繊維状炭素が解れた状態でムラなく活物質表面に吸着し、かつ、溶剤の濃縮・蒸発過程において含有成分の分離や繊維状炭素同士の乾燥凝集が起こりにくく、導電性の高い複合物及び電極得ることができる。
【0023】
<メカノケミカル混合装置を用いて複合する工程>
メカノケミカル混合装置としては、非スラリー状の混合物にせん断力を加えて混合できる装置であれば特に限定はされない。
例えば、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置、「ミラーロ」、プライミクス社製「ハイビスミックス」ハイビスディパーミックス」、井上製作所社製混合機「プラネタリーミキサー」、「トリミックス」、アーステクニカ社製混合・造粒機「ハイスピードミキサー」等が挙げられる。
メカノケミカル混合装置の中では、せん断複合と材料の均一混合が可能なプラネタリーミキサーやトリミックス、メカノフュージョンが好ましい。
【0024】
<電極活物質>
電極活物質は電気エネルギーを取り出すために必要な電池反応を起こす物質であり、特に限定されない。
正極活物質としては、例えば、二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物および金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixNiyCozMn1-y-zO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4)等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4など)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV2O5、V6O13)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、TiS2、およびFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。これらの活物質の中でも、特に、Niおよび/またはMnを含有する活物質は(遷移金属中のNiおよび/またはMnの合計量が50mol%以上の場合は殊更)、原料由来成分または金属イオンの溶出によって、塩基性が高くなる傾向があり、その影響によってバインダー樹脂のゲル化や分散状態の悪化が起こりやすいことから、Niおよび/またはMnを含有する活物質を含有する電池の場合、本実施形態が特に有効である。
【0025】
負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン系材料(金属Si,Si合金、SiOxなど)、LiXTiO2、LiXFe2O3、LiXFe3O4、LiXWO2等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。特にシリコン系材料を用いる場合、理論容量が大きい反面、体積膨張が極めて大きいため、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料等と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0026】
<繊維状炭素>
繊維状炭素は繊維状の炭素材料であって、長軸方向のアスペクト比が高くカーボンブラックなどの粒子状炭素に比べて、導電ネットワークの形成が容易となる。
繊維状炭素にはカーボンファイバー(CNF)やカーボンナノチューブ(CNT)が挙げられる。
CNTは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状であり、単層CNT、二層CNT、薄層(数層)CNT、多層CNTを含み、これらが混在してもよい。単層CNTは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層CNTは、二または三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、CNTの側壁はグラファイト構造でなくともよい。また、例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるCNTも本明細書ではCNTである。
【0027】
CNTの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含む様々な形状が挙げられる。中でも、CNTの形状は、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。CNTは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0028】
CNTの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は2種以上を組み合わせた形態を有していてもよい。
【0029】
繊維状炭素の平均外径は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。平均外径が大きすぎると複合物と均一に複合化することが難しくなる場合がある。また、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、13nm以下であることがさらに好ましい。また、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましい。なお、繊維状炭素の平均外径は、透過型電子顕微鏡によって、繊維状炭素を観測するとともに撮像し、観測写真において、任意の300個の繊維状炭素を選び、それぞれの外径を計測することで算出できる。
【0030】
<分散剤>
繊維状炭素分散体の分散剤は、繊維状炭素分散体中で繊維状炭素を分散安定化できるものが好ましい。分散剤は、樹脂型分散剤及び界面活性剤のいずれも使用することができるが、繊維状炭素への吸着力が強く良好な分散安定性が得られることから、樹脂型分散剤が好ましい。繊維状炭素の分散に要求される特性に応じて適宜好適な種類の分散剤を、好適な配合量で使用することができる。
【0031】
樹脂型分散剤としては、(メタ)アクリル系ポリマー、エチレン性不飽和炭化水素由来のポリマー、セルロース系誘導体、これらのコポリマー等が使用できる。エチレン性不飽和炭化水素由来のポリマーとしては、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ニトリルゴム類等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、水酸基以外の官能基(例えば、アセチル基、スルホ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基)を有する変性ポリビニルアルコール、各種塩によって変性されたポリビニルアルコール、その他アニオン変性またはカチオン変性されたポリビニルアルコール、アルデヒド類によってアセタール変性(アセトアセタール変性またはブチラール変性等)されたポリビニルアセタール(ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルブチラール等)等が挙げられる。ポリアクリロニトリル系樹脂としては、ポリアクリロニトリルのホモポリマー、ポリアクリロニトリルのコポリマー、これらの変性体等であってよく、ヒドロキシル基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、及びメルカプト基等の活性水素基、塩基性基、(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたはα―オレフィン等に由来して導入されるアルキル基等からなる群から選択される少なくとも1種を有するポリアクリロニトリル系樹脂等が好ましく、例えば特開2020-163362号公報記載のアクリロニトリル共重合体を用いることができる。ニトリルゴム類としては、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。セルロース系誘導体としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、シアノエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等、またはこれらのコポリマー等が挙げられる。また、国際公開2008/108360号パンフレット、特開2018-192379号公報、特開2019-087304号公報、特許6524479号公報、特開2009-026744号公報に記載の分散剤を用いてよいが、これらに限定されるものではない。特にメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリルのホモポリマー、ポリアクリロニトリルのコポリマー、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴムが好ましい。これらのポリマーの一部に他の置換基を導入したポリマー、変性させたポリマー等を用いてもよい。樹脂型分散剤の重量平均分子量は、被分散物と分散媒との親和性バランスの観点および、電解液への耐性の観点から、500,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましく、3,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましい。樹脂型分散剤は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
市販のポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、クラレポバール(クラレ製ポリビニルアルコール樹脂)、ゴーセノール、ゴーセネックス(日本合成化学工業製ポリビニルアルコール樹脂)、などの商品名で、種々のグレードを入手することができる。また、各種官能基を有する変性ポリビニルアルコールも同様に入手できる。市販のポリビニルピロリドン系樹脂としては、具体的には、ポリビニルピロリドンK30、K90(富士フィルム和光)、K120(DSP五経フード&ケミカル製)などが挙げられる。市販のニトリルゴム類としては、テルバン(Therban)(アランセオ製水素化ニトリルゴム)、バイモード(Baymod)(アランセオ製ニトリルゴム)、Zetpole(日本ゼオン製水素化ニトリルゴム)、NipoleNBR(日本ゼオン製ニトリルゴム)などの商品名で、ニトリル比率、水素化率、および分子量等が異なる種々のグレードを入手することができる。また、公知の合成方法で合成したものを用いてもよい。上記した樹脂型分散剤に代えて又は加えて界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤はアニオン性、カチオン性、両性のイオン性界面活性剤と、ノニオン性界面活性剤に分類される。
【0033】
樹脂型分散剤として、少なくとも脂肪族炭化水素構造単位、およびニトリル基含有構造単位を含む重合体を用いてもよい。重合体の脂肪族炭化水素構造単位は、アルキレン構造単位を含んでもよい。この重合体は水素添加されていてもよい。
【0034】
分散剤としては、以下に挙げる脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有単位、及びカルバモイル基含有構造単位を含む共重合体を含有したものを使用すると、複合物の乾燥時に繊維状炭素の凝集を抑制できるため好ましい。
また、脂肪族炭化水素構造単位が、少なくともアルキレン構造単位を含む。脂肪族炭化水素構造単位の含有量は、共重合体の質量を基準として40質量%以上85質量%未満であり、ニトリル基含有単位の含有量は、共重合体の質量を基準として15質量%以上50質量%以下であり、カルバモイル基含有構造単位の含有量は、共重合体の質量を基準として10質量%以下である。共重合体の重量平均分子量は、5,000以上400,000以下であると、繊維状炭素の凝集力を効果的に抑え均質な複合物の作製に繋がるため、より好ましい。
【0035】
本明細書において、当該共重合体を「共重合体I」という場合がある。また、本明細書において、「置換又は非置換のカルバモイル基」(-CO-NR'2(R'は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基である。))を「アミド基」という場合がある。
【0036】
脂肪族炭化水素構造単位は、脂肪族炭化水素構造を含む構造単位であり、好ましくは脂肪族炭化水素構造のみからなる構造単位である。脂肪族炭化水素構造は、飽和脂肪族炭化水素構造を少なくとも含み、不飽和脂肪族炭化水素構造を更に含んでもよい。脂肪族炭化水素構造は、直鎖状脂肪族炭化水素構造を少なくとも含むことが好ましく、分岐状脂肪族炭化水素構造を更に含んでもよい。
【0037】
脂肪族炭化水素構造単位の例として、アルキレン構造単位、アルケニレン構造単位、アルキル構造単位、アルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等が挙げられる。脂肪族炭化水素構造単位は、少なくともアルキレン構造単位を含む。
【0038】
アルキレン構造単位は、アルキレン構造を含む構造単位であり、好ましくはアルキレン構造のみからなる構造単位である。アルキレン構造は、直鎖状アルキレン構造又は分岐状アルキレン構造であることが好ましい。
【0039】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0040】
【0041】
一般式(1A)中、nは、1以上の整数を表す。nは、2以上の整数であることが好ましく、3以上の整数であることがより好ましく、4以上の整数であることが特に好ましい。nは、6以下の整数であることが好ましく、5以下の整数であることがより好ましい。特に、nは、4であることが好ましい。本明細書において「*」は、他の構造との結合部を表す。
【0042】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0043】
【0044】
一般式(1B)中、nは、1以上の整数を表す。nは、2以上の整数であることが好ましく、3以上の整数であることがより好ましい。nは、5以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましい。特に、nは、3であることが好ましい。
【0045】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1C)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0046】
【0047】
一般式(1C)中、nは、1以上の整数を表す。nは、4以下の整数であることが好ましく、3以下の整数であることがより好ましく、2以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。
【0048】
共重合体Iへのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1a)又は(1b)の方法が挙げられる。
【0049】
(1a)の方法では、共役ジエン単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、共役ジエン単量体に由来する単量体単位を含む。本発明において、「共役ジエン単量体に由来する単量体単位」を「共役ジエン単量体単位」という場合があり、他の単量体に由来する単量体単位についても同様に省略する場合がある。次いで、共役ジエン単量体単位に水素添加することで、共役ジエン単量体単位の少なくとも一部をアルキレン構造単位に変換する。以下、「水素添加」を「水素化」という場合がある。最終的に得られる共重合体Iは、共役ジエン単量体単位を水素化した単位をアルキレン構造単位として含む。
【0050】
なお、共役ジエン単量体単位は、炭素-炭素二重結合を1つ持つ単量体単位を少なくとも含む。例えば、共役ジエン単量体単位である1,3-ブタジエン単量体単位は、cis-1,4構造を持つ単量体単位、trans-1,4構造を持つ単量体単位、及び1,2構造を持つ単量体単位からなる群から選択される少なくとも1種の単量体単位を含み、2種以上の単量体単位を含んでいてもよい。また、共役ジエン単量体単位は、炭素-炭素二重結合を持たない単量体単位であって、分岐点を含む単量体単位を更に含んでいてもよい。本明細書において、「分岐点」とは分岐ポリマーにおける分岐点をいい、共役ジエン単量体単位が分岐点を含む単量体単位を含む場合、上記の調製した共重合体及び共重合体Iは分岐ポリマーである。
【0051】
(1b)の方法では、α-オレフィン単量体を含む単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、α-オレフィン単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体Iは、α-オレフィン単量体単位をアルキレン構造単位として含む。
【0052】
これらの中でも、共重合体の製造が容易であることから(1a)の方法が好ましい。共役ジエン単量体の炭素数は、4以上であり、好ましくは4以上6以下である。共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(水素化共役ジエン単量体単位)を含むことが好ましく、1,3-ブタジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(水素化1,3-ブタジエン単量体単位)を含むことがより好ましい。共役ジエン単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
水素化は、共役ジエン単量体単位を選択的に水素化できる方法であることが好ましい。水素化の方法として、例えば、油層水素添加法又は水層水素添加法などの公知の方法が挙げられる。
【0054】
水素化は、通常の方法により行うことができる。水素化は、例えば、共役ジエン単量体単位を有する共重合体を、適切な溶媒に溶解させた状態において、水素化触媒の存在下で水素ガスで処理することにより行うことができる。水素化触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、銅等が挙げられる。
【0055】
(1b)の方法において、α-オレフィン単量体の炭素数は、2以上であり、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である。α-オレフィン単量体の炭素数は、6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。α-オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン化合物が挙げられる。α-オレフィン単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
アルキレン構造単位は、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位、及び、分岐状アルキレン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルキレン構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルキレン構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、上記式(1B)で表される構造単位、及び、上記式(1C)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましい。
【0057】
アルキレン構造単位は、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含んでもよい。アルキレン構造単位が、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含む場合、分岐状アルキレン構造の含有量は、アルキレン構造単位の質量を基準として(すなわち、アルキレン構造単位の質量を100質量%とした場合に)、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。特に、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。共重合体Iが、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含む場合、分岐状アルキレン構造の含有量は、アルキレン構造単位の質量を基準として(すなわち、アルキレン構造単位の質量を100質量%とした場合に)、例えば、1質量%以上であり、5質量%以上あってもよく、更に10質量%以上であってもよい。
【0058】
脂肪族炭化水素構造単位において、アルキレン構造単位の含有量は、脂肪族炭化水素構造単位の合計の質量を基準として(すなわち、脂肪族炭化水素構造単位の質量を100質量%とした場合に)、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。アルキレン構造単位の含有量は、脂肪族炭化水素構造単位の合計の質量を基準として(すなわち、脂肪族炭化水素構造単位の質量を100質量%とした場合に)、例えば、100質量%未満であり、99.5質量%以下、99質量%以下、又は98質量%以下であってもよい。アルキレン構造単位の含有量は、100質量%であってもよい。
【0059】
脂肪族炭化水素構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。脂肪族炭化水素構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、85質量%未満であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
【0060】
ニトリル基含有構造単位は、ニトリル基を含む構造単位であり、好ましくはニトリル基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはニトリル基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ニトリル基含有構造単位は、ニトリル基により置換されたアルキル構造を含む(又はのみからなる)構造単位を更に含んでもよい。ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基の数は、1つであることが好ましい。
【0061】
ニトリル基含有構造単位は、下記一般式(2A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0062】
【0063】
一般式(2A)中、nは、2以上の整数を表す。nは、6以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。
【0064】
ニトリル基含有構造単位は、下記一般式(2B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0065】
【0066】
一般式(2B)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子であることが好ましい。
【0067】
共重合体Iへのニトリル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されないが、ニトリル基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する方法((2a)の方法)を好ましく用いることができる。最終的に得られる共重合体Iは、ニトリル基含有単量体単位をニトリル基含有構造単位として含む。ニトリル基含有構造単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合とニトリル基とを含む単量体が挙げられる。例えば、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和基含有化合物が挙げられ、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。特に、共重合体I同士及び/又は共重合体Iと被分散物(被吸着物)との分子間力を高める観点から、ニトリル基含有単量体は、アクリロニトリルを含むことが好ましい。ニトリル基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
ニトリル基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。ニトリル基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、50質量%以下であることが好ましく、46質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。ニトリル基含有構造単位の含有量を上記範囲にすることで、被分散物への吸着性及び分散媒への親和性をコントロールすることができ、被分散物を分散媒中に安定に存在させることができる。また、共重合体Iの電解液への親和性もコントロールでき、電池内で共重合体Iが電解液に溶解して電解液の抵抗を増大させるなどの不具合を防ぐことができる。
【0069】
アミド基含有構造単位は、アミド基を含む構造単位であり、好ましくはアミド基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはアミド基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。アミド基含有構造単位は、アミド基により置換されたアルキル構造を含む(又は、のみからなる)構造単位を更に含んでもよい。アミド基含有構造単位に含まれるアミド基の数は、1つであることが好ましい。アミド基は、置換又は非置換のカルバモイル基であり、置換基としては、アルキル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。共重合体Iにアミド基含有構造単位を含ませることで、被分散物への吸着力を著しく向上させ、分散性とロバスト性とを向上させることができる。また、アミド基は強い水素結合を形成し得ることから、共重合体Iにアミド基含有構造単位を含ませることで、共重合体Iの分子内に水素結合による架橋構造が導入されていてもよい。架橋構造が導入された共重合体Iは、被分散物に三次元的に吸着することができるため、分散性とロバスト性をより向上させることができる。
【0070】
アミド基含有構造単位は、下記一般式(3A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0071】
【0072】
一般式(3A)中、nは、2以上の整数を表す。nは、6以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。R'は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基は、アルキル基又はヒドロキシアルキル基であることが好ましい。R'は、少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、2つが水素原子であることがより好ましい。
【0073】
アミド基含有構造単位は、下記一般式(3B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0074】
【0075】
一般式(3B)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子であることが好ましい。R'は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基は、アルキル基又はヒドロキシアルキル基であることが好ましい。R'は、少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、2つが水素原子であることがより好ましい。
【0076】
共重合体Iへのアミド基含有構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば、以下の(3a)又は(3b)の方法が挙げられる。
【0077】
(3a)の方法では、アミド基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、アミド基含有単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体Iは、アミド基含有単量体単位をアミド基含有構造単位として含む。
【0078】
(3b)の方法では、ニトリル基含有構造単位を含む共重合体を調製する。次いで、ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基を、塩基性雰囲気下で加水分解することで、ニトリル基含有構造単位の少なくとも一部をアミド基含有構造単位に変換する。ニトリル基含有構造単位を含む共重合体は、例えば、上記(2a)の方法により得ることができる。最終的に得られる共重合体Iは、ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基を加水分解により変性した単位をアミド基含有構造単位として含む。
【0079】
共重合体Iを(3b)の方法を経て調製する場合、共重合体Iにアミド基が導入されていることは、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定により確認できる。また、簡易的には、加水分解前の共重合体と共重合体Iとの間に生じる重量平均分子量及び/又は粘度(溶液の粘度)の変化によって確認することができる。共重合体Iの重量平均分子量は、加水分解前の共重合体の重量平均分子量に対して小さい値となる傾向がある(例えば、0.05~0.6倍となる。)。また、例えば、共重合体Iの溶液のせん断応力1,000/sにおける粘度は、加水分解前の共重合体の溶液のせん断応力1,000/sにおける粘度に対して小さい値となる傾向がある(例えば、0.05~0.6倍となる)。なお、共重合体Iの調製方法によらず、共重合体Iにアミド基が導入されていることは、同様に、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定により確認できる。
【0080】
(3a)の方法において、アミド基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのモノアルキル(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等などのジアルキル(メタ)アクリルアミド類;N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN-(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド;ダイアセトン(メタ)アクリルアミド;アクリロイルモルホリン等が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを表す。特に、アミド基含有単量体は、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びN,N-ジメチルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。アミド基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
(3b)の方法において、塩基性雰囲気下にするために、無機塩基、及び、有機水酸化物(有機塩基)からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基を用いることができる。
【0082】
無機塩基としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、又はホウ酸塩;及び、水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも容易にカチオンを供給できる観点から、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。なお、無機塩基が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0083】
有機水酸化物は、有機カチオンと水酸化物イオンとを含む塩である。有機水酸化物としては、例えば、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、セチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、3-トリフルオロメチル-フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げらる。これらの中でも、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド及びテトラメチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0084】
塩基の使用量は、共重合体の質量を基準として1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。塩基の使用量は、共重合体の質量を基準として20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。使用量が少なすぎると、加水分解によるニトリル基の変性が起こりにくい傾向がある。使用量が多すぎると、分散装置及び/又は電池内部の腐食の原因となり得る。
【0085】
(3b)の方法において、加水分解は、アルキレン構造単位及びニトリル基含有単量体単位を含む共重合体と、塩基と、溶媒とを混合することによって行うことができる。更に任意の成分を混合してもよい。共重合体、塩基及び溶媒の容器への添加順序及び混合方法に制限はなく、これらを同時に容器に添加してもよいし;共重合体、塩基及び溶媒をそれぞれ別に容器に添加してもよいし;又は、共重合体及び塩基のいずれか一方又は両方を溶媒と混合し、共重合体含有液及び/又は塩基含有液を調製し、共重合体含有液及び/又は塩基含有液を容器に添加してもよい。特に、ニトリル基を効率よく変性させることができることから、共重合体を溶媒に溶解させた共重合体溶液に、塩基を溶媒中に分散させた塩基分散液を、撹拌しながら添加する方法が好ましい。撹拌には、ディスパー(分散機)又はホモジナイザー等を用いることができる。溶媒としては、後述する分散剤組成物の説明において挙げた溶媒を用いることができる。
【0086】
混合する際の温度に制限はないが、30℃以上に加温することで変性を早めることができる。また、変性を促進するために、微量の水分及び/又はアルコールを容器に添加してもよい。水及び/又はアルコールは、共重合体及び塩基を混合しながら容器に添加してもよいし、共重合体及び塩基を容器に加える前に容器に添加してもよいし、共重合体及び塩基と同時又はこれらに続けて容器に添加してもよい。また、共重合体、塩基、必要に応じて用いられる任意の成分の吸湿性が高い場合は、水を、吸湿された水として含んでいてもよい。水及び/又はアルコールの量は、共重合体の質量を基準として、0.05~20質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましく、0.05~1質量%が更に好ましい。
【0087】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなどが挙げられる。アルコールは、1種類を単独で、又は、2種類以上を組み合わせて用いることができる。加水分解は、メタノール、エタノール、及び水からなる群から選択される少なくとも1種の存在下で行われることが好ましく、特に水の存在下で行われることが好ましい。
【0088】
アミド基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましい。アミド基含有構造単位の含有量が上記範囲以下であると、共重合体I同士の水素結合が強くなりすぎることによって起こり得る、繊維状炭素分散体が貯蔵中にゲル化するという問題を防ぐことができる。アミド基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、0.7質量%以上であることが特に好ましい。アミド基含有構造単位の含有量が上記範囲以上であると、被分散物への吸着力を十分に向上させ、分散性とロバスト性との良好な向上効果を得ることができる。
【0089】
共重合体Iは、任意の構造単位を含んでもよい。任意の構造単位として、カルボキシル基含有構造単位;アルケニレン構造単位;アルキル構造単位;アルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等の分岐点を含む構造単位などが挙げられる。分岐点を含む構造単位は、分岐状アルキレン構造を含む構造単位及び分岐状アルキル構造を含む構造単位とは異なる構造単位である。
【0090】
カルボキシル基含有構造単位は、カルボキシル基を含む構造単位であり、好ましくはカルボキシル基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはカルボキシル基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。カルボキシル基含有構造単位は、カルボキシル基により置換されたアルキル構造を含む(又は、のみからなる)構造単位を更に含んでもよい。カルボキシル基含有構造単位に含まれるカルボキシル基の数は、1つ又は2つであることが好ましい。共重合体Iにカルボキシル基含有構造単位を含ませることで、被分散物への吸着力を著しく向上させるとともに、繊維状炭素分散体の粘性を低下させ、分散効率を向上させることができる。
【0091】
カルボキシル基含有構造単位は、下記一般式(4A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0092】
【0093】
一般式(4A)中、nは、2以上の整数を表す。nは、6以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。
【0094】
カルボキシル基含有構造単位は、下記一般式(4B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0095】
【0096】
一般式(4B)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子であることが好ましい。
【0097】
カルボキシル基含有構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば、以下の(4a)又は(4b)の方法が挙げられる。
【0098】
(4a)の方法では、カルボキシル基含有単量体を含有する組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、カルボキシル基含有単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体Iは、カルボキシル基含有単量体単位をカルボキシル基含有構造単位として含む。
【0099】
(4b)の方法では、アミド基含有構造単位を含む共重合体を調製する。次いで、アミド基含有構造単位に含まれるアミド基を、酸性雰囲気下で加水分解することで、アミド基含有構造単位をカルボキシル基含有構造単位に変換する。アミド基含有構造単位を含む共重合体は、例えば、上記(3a)又は(3b)の方法により得ることができる。最終的に得られる共重合体Iは、アミド基含有構造単位に含まれるアミド基を加水分解により変性した単位をカルボキシル基含有構造単位として含む。
【0100】
(4a)の方法において、カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。特に、カルボキシル基含有単量体は、アクリル酸及びマレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むこと好ましい。カルボキシル基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
(4b)の方法において、酸性雰囲気下にするために、無機酸及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸を用いることができる。
【0102】
無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、コハク酸及びクエン酸が好ましい。
【0103】
酸の使用量は、共重合体の質量を基準として0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましい。酸の使用量は、共重合体の質量を基準として10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。使用量が少なすぎると、加水分解によるアミド基の変性が起こりにくい傾向がある。使用量が多すぎると、分散装置及び/又は電池内部の腐食の原因となり得る。
【0104】
カルボキシル基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、1質量%未満が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。カルボキシル基含有構造単位の含有量が上記範囲未満(又は以下)であると、共重合体I同士の水素結合が強くなりすぎることによって起こり得る、後述する繊維状炭素分散体が貯蔵中にゲル化するという問題を防ぐことができる。カルボキシル基含有構造単位の含有量は、共重合体Iの質量を基準として(すなわち、共重合体Iの質量を100質量%とした場合に)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることが更に好ましい。カルボキシル基含有構造単位の含有量が上記範囲以上であると、被分散物への吸着力を十分に向上させるとともに、繊維状炭素分散体の粘性を低下させ、分散効率を向上させることができる。
【0105】
アルケニレン構造単位は、アルケニレン構造を含む構造単位であり、好ましくはアルケニレン構造のみからなる構造単位である。アルケニレン構造は、直鎖状アルケニレン構造又は分岐状アルケニレン構造であることが好ましい。
【0106】
アルケニレン構造単位は、直鎖状アルケニレン構造を含む構造単位、及び、分岐状アルケニレン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルケニレン構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルケニレン構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0107】
例えば、上記(1a)の方法を経て共重合体Iを得る場合、共重合体Iには、単位内に炭素-炭素二重結合を持つ共役ジエン単量体単位が、水素添加されることなく分子内に残ることがある。最終的に得られる共重合体Iは、単位内に炭素-炭素二重結合を持つ共役ジエン単量体単位をアルケニレン構造単位として含んでもよい。
【0108】
アルキル構造単位は、アルキル構造を含む構造単位(但し、分岐状アルキレン構造単位等の他の脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、アミド基含有構造単位、及びカルボキシル基含有構造単位には該当しない構造単位である。)であり、好ましくはアルキル構造のみからなる構造単位である。アルキル構造は、直鎖状アルキル構造又は分岐状アルキル構造であることが好ましい。
【0109】
アルキル構造単位は、直鎖状アルキル構造を含む構造単位、及び、分岐状アルキル構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルキル構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルキル構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0110】
例えば、上記(1a)又は(1b)の方法を経て共重合体Iを得る場合、共重合体Iには、共重合体Iの末端基として、好ましくは、水素化共役ジエン単量体単位又はα-オレフィン単量体単位が少なくとも導入されることが好ましい。最終的に得られる共重合体Iは、これらの単量体単位をアルキル構造単位として含んでもよい。
【0111】
アルカントリイル構造単位は、アルカントリイル構造を含む構造単位であり、好ましくはアルカントリイル構造のみからなる構造単位である。アルカンテトライル構造単位は、アルカンテトライル構造を含む構造単位であり、好ましくはアルカンテトライル構造のみからなる構造単位である。
【0112】
例えば、上記(1a)の方法を経て共重合体Iを得る場合、共重合体Iには、共役ジエン単量体単位が、単位内に炭素-炭素二重結合を持たない単量体単位であって、分岐点を含む単量体単位として分子内に導入されることがある。この場合、最終的に得られる共重合体Iは分岐ポリマーであり、共役ジエン単量体単位をアルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等の分岐点を含む脂肪族炭化水素構造単位として含んでもよい。脂肪族炭化水素構造単位が分岐点を含む構造単位を含む場合、共重合体Iは分岐ポリマーである。分岐ポリマーは、網目ポリマーであってもよい。分岐点を含む構造単位を含む共重合体Iは、被分散物に三次元的に吸着することができるため、分散性とロバスト性をより向上させることができる。
【0113】
共重合体Iの好ましい態様として、以下が挙げられる。・共重合体Iに含まれる脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、及びカルバモイル基含有構造単位の合計の含有量が、共重合体Iの質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体I。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。・共重合体Iに含まれる脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、カルバモイル基含有構造単位、及びカルボキシル基含有構造単位の合計の含有量が、共重合体Iの質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体I。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。・一般式(1A)で表される構造単位、一般式(2A)で表される構造単位、及び一般式(3A)で表される構造単位を含み、任意の構造単位として一般式(4A)で表される構造単位を含んでもよく、前記構造単位の合計の含有量が、共重合体Iの質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体I。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。・一般式(1B)で表される構造単位、一般式(2B)で表される構造単位、及び一般式(3B)で表される構造単位を含み、任意の構造単位として一般式(4B)で表される構造単位を含んでもよく、前記構造単位の合計の含有量が、共重合体Iの質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体I。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
【0114】
本明細書において、構造単位の含有量は、単量体の使用量、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定を利用して求めることができる。
【0115】
共重合体Iの製造方法の好ましい態様として、以下が挙げられる。・共役ジエン単量体及びニトリル基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製すること((1a)及び(2a)の方法)、前記共重合体に含まれる共役ジエン単量体単位に水素添加すること((1a)の方法)、及び、前記共重合体に含まれるニトリル基含有構造単位を加水分解により変性すること((3b)の方法)を含む、共重合体Iの製造方法。この方法においては、共役ジエン単量体単位の一部又は全部に水素添加する。また、共重合体Iにニトリル基含有構造単位が含まれるよう、ニトリル基含有構造単位の一部(全部ではない。)を加水分解により変性する。・共役ジエン単量体、ニトリル基含有単量体、及びアミド基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製すること((1a)、(2a)及び(3a)の方法)、及び、前記共重合体に含まれる共役ジエン単量体単位に水素添加すること((1a)の方法)を含む、共重合体Iの製造方法。この方法においては、共役ジエン単量体単位の一部又は全部を水素添加する。
【0116】
上記態様の製造方法において、前記単量体組成物が、カルボキシル基含有単量体を更に含んでいてもよい。又は、上記態様の製造方法は、アミド基含有構造単位を加水分解により変性すること((4b)の方法)を更に含んでもよく、この方法においては、アミド基含有構造単位の一部(全部ではない。)を加水分解により変性する。
【0117】
(3b)の方法を経て製造した共重合体Iは、加水分解後の、共重合体I、塩基及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)の状態で分散剤として使用することができる。又は、(3b)の方法を経て製造した共重合体Iは、加水分解後の、共重合体I、塩基及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)から塩基を抽出除去した後に、共重合体I及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)の状態で分散剤として使用することができる。塩基の抽出除去の方法は特に限定されないが、例えば、塩基の良溶媒であって、共重合体Iの貧溶媒である洗浄溶媒に、混合物(分散剤含有液)を滴下し、沈殿した共重合体Iを回収する方法が挙げられる。洗浄溶媒は多いほど除去効率が高い。また、沈殿した共重合体Iを再溶解して、共重合体Iを繰り返し洗浄することでも除去効率が高くなる。塩基の良溶媒であって、共重合体Iの良溶媒である溶媒と、混合物(分散剤含有液)とを十分に混合してから同様に洗浄してもよい。
【0118】
共重合体の調製に用いられる重合反応は、乳化重合反応であることが好ましく、通常の乳化重合の方法を用いることができる。乳化重合に使用する乳化剤(界面活性剤)、重合開始剤、キレート剤、酸素捕捉剤、分子量調整剤等の重合薬剤は、従来公知のそれぞれの薬剤が使用でき、特に限定されない。例えば、乳化剤としては、通常、アニオン系又はアニオン系とノニオン(非イオン)系の乳化剤が使用される。
【0119】
アニオン系乳化剤としては、例えば、牛脂脂肪酸カリウム、部分水添牛脂脂肪酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム、水添ロジン酸カリウム、水添ロジン酸ナトリウム等の樹脂酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリエチレングリコールエステル型、ポリプロピレングリコールエステル型、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド等のブロック共重合体型の乳化剤が挙げられる。
【0120】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等の熱分解型開始剤;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;これらと二価の鉄イオン等の還元剤とからなるレドックス系開始剤等が挙げられる。これらの中でもレドックス系開始剤が好ましい。開始剤の使用量は、例えば、単量体の全量に対して0.01~10質量%の範囲である。
【0121】
乳化重合反応は、連続式又は回分式のいずれでもよい。重合温度は、低温~高温重合のいずれでもよいが、好ましくは0~50℃、更に好ましくは0~35℃である。また、単量体の添加方法(一括添加、分割添加等)、重合時間、重合転化率等も特に限定されない。転化率は85質量%以上が好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0122】
共重合体Iの重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、50,000以上が更に好ましい。共重合体Iの重量平均分子量は、400,000以下が好ましく、350,000以下がより好ましく、300,000以下が更に好ましい。共重合体Iの重量平均分子量が、5,000以上、かつ、400,000以下である場合、被分散物への吸着性及び分散媒への親和性が良好となり、分散体の安定性が向上する傾向がある。重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量であり、ゲルバーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定できる。具体的には実施例に記載の方法により測定すればよい。
【0123】
分散剤は、少なくとも共重合体Iを含有する。分散剤は、任意の重合体、任意の共重合体等を更に含んでもよい。分散剤における共重合体Iの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。分散剤における共重合体Iの含有量は100質量%であってもよく、この場合、分散剤は共重合体Iのみからなる。
【0124】
<分散剤組成物>
分散剤組成物は、分散剤と、共重合体Iの質量を基準として1質量%以上20量%以下の塩基と、溶媒とを含有する。すなわち、分散剤組成物は、共重合体Iと、共重合体Iの質量を基準として1質量%以上20量%以下の塩基と、溶媒とを含有する。共重合体Iを上述の(3b)の方法を経て得た場合、分散剤組成物は(3b)の方法に使用した塩基を含有してもよい。塩基の含有量は、共重合体Iの質量を基準として、1質量%以上であり、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。塩基の含有量は、ゲル化及び経時による増粘、並びに、分散装置及び/又は電池内部の腐食を防止する観点から、共重合体Iの質量を基準として、20質量%以下であり、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。分散剤組成物は、酸等の任意の成分を含有してもよい。
【0125】
分散剤組成物は、溶媒を含有する。溶媒は、共重合体Iを溶解できる溶媒であることが好ましく、水溶性有機溶媒のいずれか1種からなる溶媒、又は、水溶性有機溶媒のいずれか2種以上からなる混合溶媒であることが好ましい。
【0126】
水溶性有機溶媒としては、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。水溶性有機溶媒は、アミド系有機溶媒を含むことが好ましく、N-メチル-2-ピロリドン及びN-エチル-2-ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0127】
分散剤組成物における共重合体Iの含有量は、繊維状炭素分散体、バインダー樹脂含有繊維状炭素分散体、及び電極膜用スラリーにおける導電材及び/又は電極活物質の濃度を十分なものとする観点から、分散剤組成物の質量を基準として、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。導電材及び/又は電極活物質の濃度が十分である場合、良好な塗工性が得られ、また、乾燥時間及び移送コストが増すことによる製造コストの増加を防止することができる。共重合体Iの含有量は、不溶解分の発生を防ぐ観点から、分散剤組成物の質量を基準として、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0128】
上述の(3b)の方法を経て得られる、共重合体I、塩基、及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)を、分散剤組成物として使用してもよい。また、上述の(3b)と(4b)の方法を経て得られる、共重合体I、塩基、酸、及び溶媒を含有する混合物(分散剤含有液)を分散剤組成物として使用してもよい。
【0129】
<溶媒>
繊維状炭素分散体の溶媒(分散媒)は、特に限定されないが、高誘電率溶媒であることが好ましく、高誘電率溶媒のいずれか1種からなる溶媒、または2種以上からなる混合溶媒を含むことが好ましい。また、高誘電率溶媒に、その他の溶媒を1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0130】
高誘電率溶媒としては、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、カーボネート系(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート)、水、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。分散媒としては、アミド系有機溶媒や水を含むことが好ましく、アミド系有機溶媒はN-メチル-2-ピロリドンおよびN-エチル-2-ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。高誘電率溶媒の比誘電率は、溶剤ハンドブック等に記載の数値とすることができ、20℃において2.5以上であることが好ましい。
【0131】
<繊維状炭素分散体>
繊維状炭素分散体は、繊維状炭素と溶媒(分散媒)とを含み、任意で分散剤を含む。繊維状炭素分散体は、必要に応じて、湿潤剤、界面活性剤、pH調整剤、濡れ浸透剤、レベリング剤等のその他の添加剤、その他の導電材、その他の高分子成分等の任意成分を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜含んでもよい。任意成分は、分散液作製前、分散時、分散後、又はこれらの組み合わせ等、任意のタイミングで添加することができる。
【0132】
繊維状炭素分散体における繊維状炭素の分散性は、レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めたメジアン径(μm)でも評価できる。レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めたメジアン径(μm)では、粒子による散乱光強度分布により、繊維状炭素凝集粒子の粒子径を見積もることができる。メジアン径(μm)は0.4μm以上であることが好ましく、また、5.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましい。上記範囲とすることで適切な分散状態の繊維状炭素分散体を得ることができる。上記範囲を下回ると凝集した状態の繊維状炭素が存在し、また、上記範囲を上回ると微細に切断された繊維状炭素が多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなる。メジアン径は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0133】
繊維状炭素分散体の粘度は、B型粘度計を用いて、25℃において60rpmで測定した粘度が10mPa・s以上10000mPa・s未満であることが好ましく、10mPa・s以上2000mPa・s未満であることがより好ましく、10mPa・s以上1000mPa・s未満であることがさらに好ましい。
【0134】
繊維状炭素分散体のTI値は、B型粘度計にて25℃において測定した6rpmにおける粘度(mPa・s)を、60rpmにおける粘度(mPa・s)で除した値から算出できる。TI値は1.0以上10.0未満であることが好ましく、1.0以上5.0未満がより好ましく、1.0以上3.0未満がさらに好ましい。TI値が高いほど繊維状炭素、分散剤、その他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等に起因する構造粘性が大きく、TI値が低いほど構造粘性が小さくなる。TI値を上記範囲とすることで、繊維状炭素、分散剤、その他樹脂成分の絡まりを抑えつつ、これらの分子間力を適度に作用させることができる。
【0135】
繊維状炭素分散体中の繊維状炭素の平均繊維長は0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。なお、繊維状炭素分散体中の繊維状炭素の平均繊維長は、繊維状炭素分散体をNMP等の非水溶媒によって50倍に希釈したものを基材に滴下して乾燥させた試料を走査型電子顕微鏡によって観察し、観測写真において、任意の300個の繊維状炭素を選び、それぞれの繊維長を計測することで算出できる。
【0136】
繊維状炭素の含有量は、繊維状炭素分散体の全量に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。上記範囲にすることで、沈降やゲル化を起こすことなく、繊維状炭素を良好に、かつ安定に存在させることができる。より好ましくは0.1~20質量%であり、さらに好ましくは0.5~10質量%である。また、繊維状炭素の含有量は、繊維状炭素の比表面積、分散媒への親和性、分散剤の分散能等によって、適当な流動性または粘度の繊維状炭素分散体が得られるように、適宜調整することが好ましい。
【0137】
分散剤の含有量は、繊維状炭素の100質量部に対して、5~200質量部使用することが好ましく、10~100質量部使用することがより好ましく、15~80質量部使用することがさらに好ましい。分散剤の含有量は、繊維状炭素分散体の全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
【0138】
繊維状炭素分散体の固形分量は、0.2~40質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0139】
繊維状炭素分散体は、平均外径が異なる2種以上の繊維状炭素を別々に用意して、分散媒に添加して用意してもよい。繊維状炭素として、平均外径が異なる2種以上の繊維状炭素を使用する場合、第一の繊維状炭素の平均外径は1nm以上、5nm未満であることが好ましい。第二の繊維状炭素の平均外径は5nm以上、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。繊維状炭素として、平均外径が異なる2種以上の繊維状炭素を使用する場合、第一の繊維状炭素と第二の繊維状炭素の質量比率は1:10~1:100であることが好ましく、1:10~1:50であることがより好ましい。
【0140】
繊維状炭素の平均繊維長は0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましい。また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。なお、繊維状炭素の平均繊維長は、まず走査型電子顕微鏡によって、繊維状炭素を観測するとともに撮像し、観測写真において、任意の300個の繊維状炭素を選び、それぞれの繊維長を計測することで算出できる。
【0141】
繊維状炭素の繊維長を、外径で除した値がアスペクト比である。平均繊維長と平均外径の値を用いて、代表的なアスペクト比を求めることができる。アスペクト比が高い導電材ほど、電極を形成した際に高い導電性を得ることができる。繊維状炭素のアスペクト比は、30以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、80以上であることがさらに好ましい。また、10,000以下であることが好ましく、3,000以下であることがより好ましく、1,000以下であることがさらに好ましい。
【0142】
繊維状炭素の比表面積は100m2/g以上であることが好ましく、150m2/g以上であることがより好ましく、200m2/g以上であることがさらに好ましい。また、1200m2/g以下であることが好ましく、1000m2/g以下であることがより好ましい。繊維状炭素の比表面積は窒素吸着測定によるBET法で算出する。繊維状炭素の平均外径、平均繊維長、アスペクト比、および比表面積が上記範囲内であると、電極中で発達した導電パスを形成しやすくなる。
【0143】
繊維状炭素の炭素純度は繊維状炭素中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度は繊維状炭素100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましい。
【0144】
金属触媒等の不純物を除去または低減し、炭素純度を上げる目的で、高純度化処理を行った繊維状炭素を用いてもよい。
【0145】
繊維状炭素をビーズミル等のメディアとの衝突による分散機で分散する場合や、長時間かけて繰り返し分散機を通過させるような処理を行う場合、繊維状炭素が破損して短片状の炭素質が生じる場合がある。短片状の炭素質が生じると、繊維状炭素分散体の粘度は低下し、繊維状炭素分散体を塗工乾燥させて得た塗膜の光沢は高くなることから、これらの評価結果のみで判断すると分散状態が良好なように思われるが、短片状の炭素質は接触抵抗が高く、導電ネットワーク形成が難しいため、電極の抵抗を悪化させる場合がある。短片状の炭素質が生じた程度は、分散液を希釈し、表面が平滑で分散媒と親和性のよい基材に滴下し乾燥した試料を、走査型電子顕微鏡で観察する等の方法で確認できる。0.1μm以下の炭素質が生じないように分散条件や分散液の配合を調整すると、導電性の高い電極を得ることができる。
【0146】
繊維状炭素はどのような方法で製造した繊維状炭素でも構わない。繊維状炭素は一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法及び燃焼法で製造できるが、これらに限定されない。例えば、酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中、500~1000℃にて、炭素源を触媒と接触反応させることで繊維状炭素を製造することができる。炭素源は炭化水素及びアルコールの少なくともいずれか一方でもよい。
【0147】
<乾燥工程>
溶媒を除去し乾燥する方法としては、非スラリー状の混合物から溶媒を除去できれば特に限定はなく、例えば、熱風乾燥や真空乾燥、凍結乾燥などの乾燥方法が挙げられる。中でも熱風乾燥や真空乾燥が生産性の面から好ましい。
【0148】
<二次電池電極用複合物>
二次電池電極用複合物は、電極活物質、繊維状炭素を含み、更に、任意でバインダー樹脂を含んでもよい。電極用複合物は、任意成分がさらに含まれてもよい。
【0149】
本発明の電極用複合物に含まれる繊維状炭素は、少なくとも一部が解砕された形態を有し活物質の表面に付着している。
【0150】
繊維状炭素が解砕された形態で活物質表面にあることで、電池反応に必要となる電子を活物質に効率的に供給することが出来る。また電極を作製した際の活物質間の接触抵抗低減に寄与することができる。
よって、繊維状炭素が解砕された形態で活物質表面にムラなく均一に吸着した状態で、と数の繊維状炭素の集合体が含まれると、二次電池用電極とした際、電極抵抗を下げると共に、電池反応中の活物質への電子伝導パスの形成が有利となり、電池レート特性やサイクル特性を向上させることができる。加えて、少量の導電助剤で効率的な導電パスを形成できるため、電極中の導電助剤量を低減でき電池容量の向上が可能となる。
【0151】
繊維状炭素が解砕された形態とは、繊維状炭素の二次粒子(凝集体)が一次粒子又は、複数の一次粒子が束になったバンドル状態に解された形態を指す。繊維状炭素が解砕され活物質表面に吸着する状態としては、一次粒子及び/またはバンドルが孤立した状態や、一次粒子及び/またはバンドルが重なり合った状態が挙げられる。活物質への電子供給や複合物同士の導電パスの観点より、一次粒子及び/またはバンドルが重なり合い網目状に吸着した状態が好ましい。
【0152】
本発明における繊維状炭素が解砕された形態で活物質表面に吸着している状態とは、繊維が解砕された状態で活物質に吸着した繊維状炭素の占める面積が、活物質の表面全体の10%以上であることを指し、20%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
【0153】
上記繊維が解砕された状態で活物質に吸着した繊維状炭素の占める面積は、走査電子顕微(SEM)や走査型電子顕微鏡‐エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により撮影した倍率5,000~50,000倍の観察画像から、活物質と繊維状炭素のコントラスト差などから測定することができ、複合物中の活物質20個から算出した上記面積の平均値を使用した。
【0154】
本発明の電極用複合物は、酸素を含む雰囲気下における繊維状炭素の燃焼温度が520℃以下であると、活物質表面に吸着した繊維状炭素が解れた状態且つ均一な状態の複合物となる。
【0155】
本発明の発熱ピークの温度は、TG-DTA(ThermoGravimetry-Di fferential Thermal Analysis)測定により、求めることができる。具体的には、空気又は酸素フローの条件下において、TG-DTA測定を行うことにより、TG曲線とDTA曲線が得られる。得られたDTA曲線における、300~700℃付近にある繊維状炭素の燃焼に由来する最大発熱ピークのトップを読み取り、繊維状炭素の発熱ピークの温度とした。これは、繊維状炭素の燃焼温度を表す。
繊維状炭素は一般的にファンデルワールス力により一次粒子が強く凝集した太い束(バンドル)や、バンドル同士が凝集した大きな二次凝集体を有する。これら凝集状態の違いにより熱安定性などの諸物性は異なる。そのため同じ種類の繊維状炭素であっても凝集状態によって上記燃焼温度は変化し、凝集が強い程燃焼温度は高くなる。
【0156】
二次電池電極用複合物の酸素を含む雰囲気下における繊維状炭素の燃焼温度は、520℃以下であると活物質上の繊維状炭素がより解れた状態で吸着しており、繊維状炭素から活物質への電子伝導パスがパスの形成が有利となり電池特性が向上するため好ましい。480℃以下であると好ましく、450℃以下であるとより好ましい。
【0157】
二次電池用電極複合物の20kNの荷重時の体積抵抗率が500Ω・cm以下であることで、複合物中の繊維状炭素の偏在化が生じずより均一状態で活物質上に吸着されており、二次電用電極とした際に電極抵抗を下げることができる。100Ω・cm以下であることが好ましく、50Ω・cm以下がより好ましい。
【0158】
二次電池用電極複合物の体積抵抗率は、四端子四探針法に基づく抵抗率測定を行うことによって把握することができる。具体的には、測定対象の二次電池電極用複合物を4本の針状の探針(電極)を接触させ、外側の2本の探針間に流した電流と、内側の2本の探針間に生じる電位差とから試験片の抵抗を求める。そして、測定された抵抗と試験片の厚さとから、CNTの体積抵抗率を算出することができる。測定は、体積抵抗率測定装置(例えば株式会社日東精工アナリテック製自動粉体抵抗測定システム 低抵抗版 MCP-PD600)を用いて、荷重が20kNの条件で行う。
【0159】
二次電池用電極複合物は、粒子状であることが好ましく、平均粒子径は、0.5μm以上500μm以下が好ましい。1μm以上200μm以下がより好ましい。
【0160】
上述の通り、燃焼温度が520℃以下であり、体積抵抗率が100Ω・cm以下であると、複合物中で繊維状炭素が解砕され活物質上に細く、均一に吸着されており、二次電池用電極とした際、電極抵抗を下げると共に、電池反応中の活物質への電子伝導パスの形成が有利となり、電池レート特性やサイクル特性を向上させることができるため好ましい。加えて、少量の導電助剤で効率的な導電パスを形成できるため、電極中の導電助剤量を低減でき電池容量の向上が可能となる。
【0161】
複合物中の繊維状炭素の含有量は、二次電池電極用複合物の質量を基準として、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることがさらに好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。上記範囲を上回ると、電極中の活物質の充填量が低下して電池容量の低化を招く。特に高容量の電池向けには10質量%以下が好ましい。また、上記範囲を下回ると、電極および電池の導電性が不十分となる場合がある
【0162】
複合物には、繊維状炭素以外の導電材が含まれてもよい。その他の導電材としては、例えば、カーボンブラック、フラーレン、グラフェン、多層グラフェン、グラファイト等の炭素材料等が挙げられる。カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。その他の導電材は、1種または2種以上併用して用いてもよい。
【0163】
<バインダー樹脂>
本発明の複合物では必要によってバインダー樹脂を含むことができる。バインダー樹脂は、通常、バインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。複合物に用いるバインダー樹脂は、活物質、繊維状炭素等の物質間を結合することができる樹脂が好ましい。複合物に用いるバインダー樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン等を構造単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース系樹脂;、スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でもよい。特にフッ素樹脂が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、これらの変性体等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐性面から分子内にフッ素原子を有する重合体または共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等、これらの構造単位を有する樹脂、これらの変性体等が好ましい。
【0164】
複合物中のバインダー樹脂の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0165】
<二次電池用電極>
本発明における二次電池用電極は、二次電池電極用複合物を含む。電極には、バインダーや分散剤等の任意成分がさらに含まれてもよい。一般的には集電体上に粉体加圧成形または合材スラリーを塗工して揮発分を除去して形成される。
【0166】
集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5~30μm程度が好ましい。
【0167】
<二次電池電極の製造方法>
二次電池電極は、二次電池電極用複合物にバインダーなどを加えて溶剤を含まない乾式条件で各成分をプレスなどによってシート化して粉体加圧成形したり、合材スラリーを作製、集電体上に塗工して揮発分を除去することで形成したりすることができる。
合材スラリーを使用せずに粉体加圧成形する方法は、溶剤の乾燥に係るエネルギー消費を削減できるため好ましい。
【0168】
粉体加圧成形する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。
尚、合材スラリーを使用せず粉体加圧成形で電極を作製する場合、電極用複合物とバインダーなどを予め混合した乾式混合物または、湿式混合後の乾燥物を用いても良い。
二次電池電極用複合物にバインダーなどを加えて各成分を乾式で混合または湿式混合する方法としては、特に限定されず各種分散機や混合装置、造粒装置などを適宜選択することができる。
【0169】
粉体加圧成形により二次電池電極用複合物にバインダーなどを加えて各成分をプレスなどによってシート化して電極を形成する場合は、二次電池電極用複合物にバインダーなどを加えた各成分、または前記乾式混合物や湿式混合の乾燥物を集電体に直接供給し加圧成形しても良いし、二次電池電極用複合物にバインダーなどを加えた各成分、または前記乾式混合物や湿式混合の乾燥物からなる自立膜を予め作製し、その後集電体に積層しても良い。また、集電体に予めバインダー成分となる樹脂薄膜を形成したものを使用しても作製しても良い。
【0170】
粉体加圧成形する方法としては、平版プレス、カレンダーロール等が挙げられる。中でも生産性や均一な成形ができるカレンダーロールの使用が好ましい。
【0171】
合材スラリーを使用して電極を作製する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げられる。塗工後の乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等が使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0172】
合材スラリーの塗工後、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。電極膜の厚みは、例えば、1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0173】
<二次電池>
二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極及び負極からなる群から選択される少なくとも1つが本発明の複合物から作製された電極膜を含む。
【0174】
正極としては、集電体上に正極活物質を含む電極膜を作製したものを使用することができる。負極としては、集電体上負極活物質を含む電極膜を作製したものを使用することができる。
【0175】
電解質は、液体電解質、ゲル状電解質、及び固体電解質のいずれであってもよい。例えば、液体電解質は、リチウム塩等の電解質塩及び非水溶媒を含むものであってよい。電解質塩としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4(ただし、Phはフェニル基である)等のリチウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。電解質塩は非水溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0176】
非水溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0177】
二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施した不織布等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0178】
二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0179】
本発明の二次電池電極用複合物は、活物質と繊維状炭素理想的に複合されているため、合材スラリーから作製した電極だけでなく、固体や半固体プロセスで作製した電極にも好適に使用することができる。これら固体プロセスで作製した電極は、従来の電解液を用いたリチウムイオン二次電池に加え、全固体電池や半固体電池などにも適用することが可能となる。
【0180】
本発明の二次電池は、自動車等の車両や、パソコンやスマートフォンなどの携帯電子機器等のバッテリーとして好適に用いることができる。
【実施例0181】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、実施例中、「分散剤」と溶媒とを含む「分散剤含有液」を「分散剤溶液」という場合がある。
【0182】
<重量平均分子量(Mw)測定用サンプルの調製>
共重合体、塩基及び溶媒を含む分散剤含有液(分散剤組成物)から下記の方法で共重合体を分離して回収し、測定サンプルとした。分散剤含有液を精製水に滴下して共重合体を沈殿させ、ブフナー漏斗でろ過して沈殿物を回収した。沈殿物をそのままブフナー漏斗上で精製水をふりかけてすすいだ後、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、溶液を得た。得られた溶液を精製水に再び滴下して前記ろ過及び精製水を用いた洗浄工程を行い、沈殿物をTHFに再溶解させ、測定サンプルとした。また、共重合体、塩基、溶媒、及び導電材を含む繊維状炭素分散体からは、遠心分離により導電材を分離し、分取した上澄みについて上記と同様の工程を行い、測定サンプルを調製した。
【0183】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。装置としてHLC-8320GPC(東ソー株式会社製)を用い、分離カラムを3本直列に繋ぎ、充填剤には順に東ソー株式会社製「TSK-GELSUPERAW-4000」、「AW-3000」、及び「AW-2500」を用い、オーブン温度40℃、溶離液として30mMトリエチルアミン及び10mMLiBrのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、流速0.6mL/minで測定した。測定サンプルは前記溶離液からなる溶剤を用いて1%の濃度となるように濃度を調整し、20マイクロリットル注入した。重量平均分子量はポリスチレン換算値である。
【0184】
<共重合体溶液及び分散剤含有液の粘度の測定>
共重合体は、NMPを溶媒とした8%溶液となるように溶解し、得られた溶液を粘度測定用サンプルとした。分散剤含有液(分散剤組成物)は、8%溶液となるようにNMPで希釈して粘度測定用サンプルとした。粘度測定用サンプルを試料台にセットし、25℃、直径60mm、2°のコーンにてレオメーター(ThermoFisherScientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用いて、せん断応力1/sから1,000/sまで連続的に粘度を測定した。
【0185】
<全反射測定法による赤外分光分析>
固体状の共重合体はそのまま測定に用いた。分散剤含有液(分散剤組成物)については、100℃の熱風により10時間処理して十分に乾固させ、得られた固体状の共重合体を測定サンプルとした。測定サンプルに対し、赤外分光光度計(ThermoFisherScientific株式会社製NicoletiS5FT-IR分光装置)を用いてIR測定した。
【0186】
<共重合体の水素添加率の測定>
水素添加率は、前述の全反射測定法による赤外分光分析と同様の方法でIR測定を行い求めた。共役ジエン単量体単位に由来する二重結合は970cm-1にピークが表れ、水素添加された単結合は723cm-1にピークが表れることから、この二つのピークの高さの比率から水素添加率を計算した。
【0187】
<アミド基含有構造単位の含有量の測定>
ニトリル基含有構造単位を加水分解する方法を経て共重合体にアミド基含有構造単位を導入した場合のアミド基含有構造単位の含有量は、核磁気共鳴装置(ADVANCE400Nanobay:BrukerJapan株式会社製、測定溶媒CDCl3、10mmNMRチューブ使用)による13C-NMR定量スペクトルから、式[A]/([A]+[B])によってニトリル基の変性率(モル比)を算出し、共重合体全体における組成比(質量%)に換算して求めた。後述の表における「アミド基量」は、「アミド基含有構造単位の含有量(質量%)」を意味する。
[A]:ケミカルシフト値180.5~183.5ppmのピーク面積
[B]:ケミカルシフト値121.5~123.0ppmのピーク面積
ただし、13C-NMR測定は定量感度が低いため、アミド基含有構造単位の含有量が1%以上ないと検出できない。そのため、前述の全反射測定法による赤外分光分析と同様の方法でIR測定にてアミド基に由来する約1570cm-1及び約1650cm-1にピークが検出できた共重合体については、アミド基含有構造単位を含むと判断し、アミド基含有構造単位の含有量を1%未満とした。なお、前述と同様のIR測定にてピークが検出できたことから、アミド基含有構造単位の含有量は0.3%以上であると判断した。また、アミド基含有単量体を含む単量体組成物を用いて共重合体を調製する方法を経てアミド基含有構造単位を導入した場合のアミド基含有構造単位の含有量も、1%未満の場合は同じく定量ができないため、1%未満とした。1%以上の場合は13C-NMR定量スペクトルによってニトリル基含有構造単位とアミド基含有構造単位との比率を確認し、アミド基含有構造単位の含有量が1%以上の共重合体については、合成時の単量体の仕込み量から算出される含有量と一致することを確認した。
【0188】
<カルボキシル基含有構造単位の含有量の測定>
カルボキシル基含有構造単位の含有量は、一般にはアミド基含有構造単位の含有量の測定と同様に核磁気共鳴装置による13C-NMR定量スペクトルから求めることができるが、カルボキシル基含有構造単位の含有量が1%未満の場合は定量が難しい。そのため、前述の全反射測定法による赤外分光分析と同様の方法でIR測定にて、C=O伸縮振動に由来する約1710cm-1のピークが検出され、アミド基に由来する約1570cm-1のピークが縮小したことをもって、アミド基の一部が加水分解されて共重合体にカルボキシル基が導入されており、共重合体はカルボキシル基含有構造単位を含むと判断した。なお、前述と同様のIR測定にてピークが検出できたことから、カルボキシル基含有構造単位の含有量は0.3%以上であると判断した。
【0189】
<混合物の水分の測定>
混合物の水分は、カールフィッシャー水分計(卓上型電量法水分計CA-200型:株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて、窒素ガス250mlL/分流通下、230℃で試料を処理し、カールフィッシャー法により測定した値を、共重合体、塩基、及び溶媒の合計の質量に対する含有量として算出した。
【0190】
<繊維状炭素分散体の初期粘度の測定>
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業株式会社製「BL」)を用いて、繊維状炭素分散体の温度25℃にて、繊維状炭素分散体をヘラで十分に撹拌した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2,000mPa・s未満の場合はNo.3を、2,000以上10,000mPa・s未満の場合はNo.4のローターをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた繊維状炭素分散体が明らかに分離又は沈降しているものは分散性不良とした。判定基準
◎:500mPa・s未満(優良)
○:500mPa・s以上2,000mPa・s未満(良)
△:2,000mPa・s以上10,000mPa・s未満(可)
×:10,000mPa・s以上、沈降又は分離(不良)
【0191】
<共重合体1の作製>
ステンレス製重合反応器に、アクリロニトリル30部、1,3-ブタジエン70部、オレイン酸カリ石ケン3部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.6部、及びイオン交換水200部を加えた。窒素雰囲気下において、撹拌しながら、45℃で20時間の重合を行い、転化率90%で重合を終了した。未反応のモノマーを減圧ストリッピングにより除き、固形分濃度約30%のアクリロニトリル-共役ジエン系ゴムラテックスを得た。続いて、ラテックスにイオン交換水を追加して全固形分濃度を12%に調整し、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入して、窒素ガスを10分間にわたり流して内容物中の溶存酸素を除去した。水素化触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウムに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して調製した触媒液を、オートクレーブに添加した。オートクレーブ内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間の水素化反応を行った。その後、内容物を常温に戻し、オートクレーブ内を窒素雰囲気とした後、固形分を乾燥させて共重合体1を回収した。共重合体1の水素添加率は99.5%であり、重量平均分子量(Mw)は200,000であった。アクリロニトリル-共役ジエン系ゴムにおいて、アクリロニトリル-共役ジエン系ゴムの質量を基準として、共役ジエン単量体単位の含有量は70%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は30%であった。また、共重合体1において、共重合体1の質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は70%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は30%であった。これらの単量体単位の含有量及び構造単位の含有量は、単量体の使用量から求めた(以下、同様である。)。
【0192】
<合成例1 分散剤1の作製>
ステンレス製容器1に、NaOH16部及びNMP84部を入れ、ホモジナイザーにより1時間撹拌し、NaOHの懸濁液を調製した。ステンレス製容器2に、合成例1で得た共重合体1を9部及びNMP91部を入れ、ホモジナイザーにより1時間撹拌し、共重合体1の溶液を調製した。続いて、NaOH及び共重合体1が表1に示す組成となるように、NaOHの懸濁液及び共重合体1の溶液を、ステンレス製容器3に入れ、更にNMPを加えて濃度を調整し、混合物を得た。混合物の水分は0.1%であった。混合物をホモジナイザーで2時間撹拌して共重合体1のニトリル基の一部をアミド基に変性し、分散剤1としての共重合体(実施例において、変性後の共重合体Iを「分散剤1」という場合がある。)、NMPと、NaOHとを含む分散剤1含有液(分散剤組成物)を得た。分散剤1のアミド基含有構造単位の含有量及び重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。分散剤1において、分散剤1の質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は70%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は29%超30%未満であり、アミド基含有構造単位の含有量は1%未満であった。これらの構造単位の含有量は、単量体の使用量、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定を利用して求めた(以下、同様である。)。
【0193】
<共重合体2の作製>
使用するモノマーを、アクリロニトリル20部、1,3-ブタジエン40部、及び2-メチル-1,3-ブタジエン40部に変更した以外は、合成例1と同様にして、共重合体2を得た。共重合体2の水素添加率は99.0%であり、重量平均分子量(Mw)は300,000であった。共重合体2において、共重合体2質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は80%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は19%超20%未満であり、アミド基含有構造単位の含有量は1%未満であった。
【0194】
<合成例2 分散剤2の作製>
使用する共重合体を共重合体2に変更した以外は、合成例1と同様にして、分散剤2含有液を得た。NaOH懸濁液及び共重合体2含有液の混合物の水分は、1.0%であった。分散剤2のアミド基含有構造単位の含有量及び重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。共重合体2(分散剤2)において、共重合体の質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は65%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は34.5%であり、アミド基含有単量体単位の含有量は0.5%であった。
【0195】
なお、表1及び後述の表2のモノマー及び塩基の欄に記した略号は、以下を意味する。
BD:1,3-ブタジエン
MBD:2-メチル-1,3-ブタジエン
AN:アクリロニトリル
AAm:アクリルアミド
【0196】
<合成例3、4 分散剤3、4の作製>
使用する塩基の種類及び/又は量を、表1に従って変更した以外は、合成例1と同様にして、それぞれ分散剤3、4含有液を得た。各分散剤のアミド基含有構造単位の含有量及び重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。
【0197】
<合成例5 分散剤5の作製>
合成例1で作製した分散剤1含有液に、更にクエン酸を分散剤1(共重合体1)に対して5%添加して、アミド基の一部をカルボキシル基に変性し分散剤5を得た。全反射測定法による赤外分光分析によりカルボキシル基の存在を確認した。分散剤5はカルボキシル基含有構造単位を含むと判断した。
【0198】
<合成例6 分散剤6の作製>
ステンレス製重合反応器に、アクリロニトリル34.5部、1,3-ブタジエン65部、アクリルアミド0.5部、オレイン酸カリ石ケン3部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.6部、及びイオン交換水200部を加えた。窒素雰囲気下において、撹拌しながら、45℃で20時間の重合を行い、転化率90%で重合を終了した。未反応のモノマーを減圧ストリッピングにより除き、固形分濃度約30%のアミド基含有アクリロニトリル-共役ジエン系ゴムラテックスを得た。続いて、ラテックスにイオン交換水を追加して全固形分濃度を12%に調整し、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入して、窒素ガスを10分間にわたり流して内容物中の溶存酸素を除去した。水素化触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウムに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して調製した触媒液を、オートクレーブに添加した。オートクレーブ内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間の水素化反応を行った。その後、内容物を常温に戻し、オートクレーブ内を窒素雰囲気とした後、固形分を乾燥させて分散剤6を回収した。分散剤6の水素添加率は99.5%であり、重量平均分子量(Mw)は200,000であった。共重合体6(分散剤6)において、共重合体6の質量を基準として、アルキレン構造単位を含む脂肪族炭化水素構造単位の含有量は65%であり、ニトリル基含有単量体単位の含有量は34.5%であり、アミド基含有単量体単位の含有量は0.5%であった。
【0199】
図1に、共重合体1、分散剤1、及び分散剤3のIRスペクトルを示す。共重合体1、分散剤1、及び分散剤3のIRスペクトルを比較すると、分散剤3は約1570cm-1及び約1650cm-1にアミド基に由来するシャープなピークを有しており、分散剤1も強度は低いものの同じくアミド基に由来するピークがあることが確認できる。一方、共重合体1はアミド基を有しないためこのピークは存在しない。近傍の約1690cm-1に見られるピークは溶媒のNMPに由来するものである。このことから、分散剤1及び分散剤3には、確かにアミド基が導入できていることが確認できた。分散剤1及び分散剤3は、アミド基含有構造単位を含むと判断した。また、他の分散剤についても同様に確認を行った。
【0200】
図2に、分散剤1及び分散剤3の13C-NMRスペクトルを示す。13C-NMRスペクトルから算出したアミド基含有構造単位の含有量は、分散剤1が1%未満、分散剤3が3.0%であった。
【0201】
【0202】
<繊維状炭素分散体の作製>
(製造例1)
表2に示す材料と組成に従い、以下の通り繊維状炭素分散体を作製した。まず、ステンレス容器にNMPをとり、50℃に加温した。ディスパーで撹拌しながら分散剤を添加した後、1時間撹拌して、分散剤を溶解させた。続いて、繊維状炭素をディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,000rpmの速度で全体が均一になり、溝の最大深さ300μmのグラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、高圧ホモジナイザーにて50回パス式分散処理を行い。繊維状炭素分散体1を得た。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。
【0203】
(製造例2~9)
表2に示す材料や組成に従い変更および高圧ホモジナイザーのパス回数をした以外は、製造例1と同様にして繊維状炭素分散体2~9を得た。
【0204】
【0205】
なお、表2に使用した略号は、以下を意味する。
・BT1003:LUCAN BT1003M(LG Chem Ltd.製、多層CNT、繊維径13nm)
・8S:JENOTUBE8S(JEIO社製、多層CNT、繊維径6.8nm)
・H-NBR1:Therban(R)3406(LANXESS社製、水素化アクリロニトリル―ブタジエンゴム、アクリロニトリル含有量34%)
・PVP:ポリビニルピロリドンK30(富士フィルム和光純薬社製)
・NaOH:水酸化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>98.0%、顆粒状)
・KOH:水酸化カリウム(東京化成工業社製)
・NMP:N-メチルピロリドン(富士フィルム和光純薬社製)
【0206】
<二次電池用電極複合物>
(実施例1-1)
表3に示す組成に従い、以下の通り二次電池用電極複合物を作製した。まず、ステンレス容器に繊維状炭素分散体1を取り、ディスパーで撹拌しながらNMPを加え、30分撹拌した。次にプラネタリーミキサー(ハイビスミックス(R)2P-1型、プライミクス社製)の容器内にNMCと上記分散体を仕込み、回転数(公転)60rpmで60分撹拌し混合物を作製した。撹拌中は温調チラーで25℃に制御した。その後、得られた混合物をステンレスバットに取り出し真空乾燥機を用いて100℃、2時間真空乾燥を行い液体成分を完全に除去した。乾燥物を乳鉢で粗粉砕して二次電池用電極複合物1を得た。
【0207】
(実施例1-2~1-8)
表3に示す組成に従い、実施例1-1と同様にして複合物2~8を得た。
【0208】
(実施例1-9)
表3に示す組成に従い、以下の通り二次電池用電極複合物を作製した。まず、ステンレス容器に繊維状炭素分散体9を取り、ディスパーで撹拌しながらNMPを加え、30分撹拌した。次にノビルタ(NOB-MINI、ホソカワミクロン社製)の容器内にNMCと上記分散体を仕込み、回転数5000rpmで10分撹拌し混合物を作製した。撹拌中は温調チラーで25℃に制御した。その後、得られた混合物をステンレスバットに取り出し真空乾燥機を用いて100℃、2時間真空乾燥を行い液体成分を完全に除去した。乾燥物を乳鉢で粗粉砕して二次電池用電極複合物9を得た。
【0209】
(実施例1-10)
表3に示す組成に従い、プラネタリーミキサーの回転数(公転)を100rpmに変更した以外は実施例1-1と同様にして複合物10を得た。
【0210】
(実施例1-11)
表3に示す組成に従い、以下の通り二次電池用電極複合物を作製した。まず、ステンレス容器に繊維状炭素分散体2を取り、ディスパーで撹拌しながらNMPを加え、30分撹拌した。次にメカノフュージョン(AMS-MINI、ホソカワミクロン社製)の容器内にNMCと上記分散体を仕込み、回転数3000rpmで10分撹拌し混合物を作製した。撹拌中は温調チラーで25℃に制御した。その後、得られた混合物をステンレスバットに取り出し真空乾燥機を用いて100℃、2時間真空乾燥を行い、液体成分を完全に除去した。乾燥物を乳鉢で粗粉砕して二次電池用電極複合物11を得た。
【0211】
(実施例1-12)
表3に示す組成に従い、以下の通り二次電池用電極複合物を作製した。まず、ステンレス容器に繊維状炭素分散体2を取り、ディスパーで撹拌しながらNMPを加え、30分撹拌した。次にトリッミックス(TX-2L、井上製作所社製)の容器内にNMCと上記分散体を仕込み、回転数(公転)50rpmで30分撹拌し混合物を作製した。撹拌中は温調チラーで25℃に制御した。その後、得られた混合物をステンレスバットに取り出し真空乾燥機を用いて100℃、2時間真空乾燥を行い、液体成分を完全に除去した。乾燥物を乳鉢で粗粉砕して二次電池用電極複合物12を得た。
【0212】
(実施例1-13)
表3に示す組成に従い、以下の通り二次電池用電極複合物を作製した。まず、ステンレス容器に繊維状炭素分散体1を取り、ディスパーで撹拌しながらNMPを加え、30分撹拌した。次にプラネタリーミキサー(ハイビスミックス(R)2P-1型、プライミクス社製)の容器内にNMCと上記分散体を仕込み、回転数(公転)60rpmで60分撹拌し混合物を作製した。撹拌中は温調チラーで25℃に制御した。その後、得られた混合物をステンレスバットに取り出し真空乾燥機を用いて100℃、2.5時間真空乾燥を行い液体成分を完全に除去した。乾燥物を乳鉢で粗粉砕して二次電池用電極複合物13を得た。
【0213】
(実施例1-14)
表3に示す組成に従い、以下の通り二次電池用電極複合物を作製した。まず、ステンレス容器に繊維状炭素分散体1を取り、ディスパーで撹拌しながらNMPを加え、30分撹拌した。次にプラネタリーミキサー(ハイビスミックス(R)2P-1型、プライミクス社製)の容器内にNMCと上記分散体を仕込み、回転数(公転)60rpmで60分撹拌した後、予めNMP中に溶解させた10%バインダー溶液(ポリフッ化ビニリデン樹脂:KFポリマー#1300)を加え、回転数(公転)60rpmで45分撹拌し混合物を作製した。撹拌中は温調チラーで25℃に制御した。その後、温水チラーで容器内を80℃に保ちながら真空ポンプで減圧にして3時間乾燥を行い溶媒を完全に除去した。乾燥物を乳鉢で粗粉砕して二次電池用電極複合物14を得た。
【0214】
(実施例1-15)
表3に示す組成に従い、以下の通り二次電池用電極複合物を作製した。まず、ステンレス容器に繊維状炭素分散体1を取り、ディスパーで撹拌しながらNMPを加え、30分撹拌した。次にハイスピードミキサーの容器内にNMCと上記分散体を仕込み、アジテータの回転数500rpm、チョッパーの回転数1500rpmで45分撹拌した後、予めNM中に溶解させた10%バインダー溶液(ポリフッ化ビニリデン樹脂:KFポリマー#1300)を加え、同回転数で30分撹拌し混合物を作製した。撹拌中は温調チラーで25℃に制御した。その後、温水チラーで容器内を80℃に保ちながら真空ポンプで減圧にして3時間乾燥を行い溶媒を完全に除去した。乾燥物を乳鉢で粗粉砕して二次電池用電極複合物15を得た。
【0215】
(比較例1-1)
表3に示す組成に従い、以下の通り二次電池用電極複合物を作製した。メカノフュージョン(AMS-MINI、ホソカワミクロン社製)の容器内にNMCと繊維状炭素を仕込み、回転数5000rpmで10分撹拌し二次電池用電極複合物16を得た。撹拌中は温調チラーで25℃に制御した。
【0216】
(比較例1-2)
表3に示す組成に従い、容器にNMCと繊維状炭素分散体2を量り取り、薬さじで10分間撹拌し混合物を作製した。その後、得られた混合物をステンレスバットに取り出し真空乾燥機を用いて100℃、2時間真空乾燥を行い、液体成分を完全に除去した。乾燥物を乳鉢で粗粉砕して二次電池用電極複合物17を得た。
【0217】
(比較例1-3、1-4)
表3に示す組成に従い、乾燥温度と乾燥時間を120℃、4時間に変更した以外は実施例1-1と同様にして複合物18,19を得た。
【0218】
<複合物中の繊維状炭素の状態評価>
日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM―7800Fを用いて複合物中の繊維状炭素の分散状態を判定した。
・繊維状炭素の凝集物の判定基準
◎:5μm以下の繊維状炭素の凝集物が含まれる、または含まれない。
○:5μmを超え、10μm以下の繊維状炭素の凝集物が含まれる。
△:10μmを超え、50μm以下の繊維状炭素の凝集物が含まれる
×:50μmを超える繊維状炭素の凝集物が含まれる
・繊維状炭素の活物質表面の解砕状態の判定基準
◎:繊維が解砕された状態で活物質に吸着した繊維状炭素の占める面積が、活物質の表面全体の50%以上である
○:繊維が解砕された状態で活物質に吸着した繊維状炭素の占める面積が、活物質の表面全体の20%以上50%未満である
△:繊維が解砕された状態で活物質に吸着した繊維状炭素の占める面積が、活物質の表面全体の10%以上、20%未満である
×:繊維が解砕された状態で活物質に吸着していない
【0219】
<繊維状炭素の発熱ピーク温度>
繊維状炭素の発熱ピーク温度は示差熱天秤Rigaku社製ThermoplusEV02TG8121を用いて評価した。圧縮空気を200mL/min流し、40℃から800℃まで10℃/minで温度を上昇した際に得られた発熱ピーク温度を指標として使用した。発熱ピーク温度の算出は、測定により得られたDTA曲線における、400~700℃の範囲の繊維状炭素の燃焼による発熱ピークのピークトップの温度を読み取り行った。
【0220】
【0221】
なお、表3に使用した略号は、以下を意味する。
・NMC:NCM523(日本化学工業社製、組成:LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)
【0222】
表3の通り、SEMおよびTG-DTAの発熱ピーク温度より、実施例では複合物中の繊維状炭素が過度の凝集することなく活物質表面上に適度に解れ吸着された状態にあることがわかる。一方、比較例においては繊維状炭素の凝集の解砕や活物質表面上での解砕物の吸着が不十分であった。
【0223】
<正極用電極膜の作製>
実施例で作製した電極用複合物を用いて正極用電極膜を作製した。
プラスチック容器にバインダーとしてポリフッ化ビニリデン樹脂(KFポリマー#1300)1.5部と電極複合物1を98.5部量り取り、自転・公転ミキサー(シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで15秒間撹拌した。得られた粉体の混合物を、粉体フィーダーとカレンダーロール(ロール温度200℃)を用いて集電体である厚さ20μmのアルミ箔上に電極膜をカレンダー成形し、正極用電極膜1を得た。なお、正極用電極膜の密度は3.0g/cm3であった。
【0224】
複合物2~13、16~19を用いて、正極用電極膜1と同様にして、正極用電極膜2~13、16~19を得た。
【0225】
プラスチック容器にバインダーとしてポリフッ化ビニリデン樹脂(KFポリマー#1300)0.75部と電極複合物14を99.25部量り取り、自転・公転ミキサー(シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで15秒間撹拌した。得られた粉体の混合物を、粉体フィーダーとカレンダーロール(ロール温度200℃)を用いて集電体である厚さ20μmのアルミ箔上に電極膜をカレンダー成形し、正極用電極膜14を得た。なお、正極用電極膜の密度は3.0g/cm3であった。
【0226】
複合物15を用いて、正極用電極膜14と同様にして、正極用電極膜15を得た。
【0227】
(正極用電極膜の抵抗)
電極膜1~19の体積抵抗率は、JIS-K7194に準拠して、ロレスターGP(日東精工アナリテック社製)を用いて4探針法で測定した。尚、抵抗測定には各電極作製時の塗工基材をアルミ箔からPET基材に変更した測定用電極を使用した。
比較例1-3の電極膜の体積抵抗率を基準とした相対値(%)を求め、以下の基準で評価した。
電極抵抗特性判定基準
◎:200%以上(極めて優良)
○:150%以上200%未満(優良)
○△:100%以上150%未満(良)
△:50%以上100%未満(不良)
×:50%未満(極めて不良)
【0228】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
先に作製した電極膜1~19をφ16mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間にセパレーター(多孔質ポリプロピレンフィルム)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1 :1 で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0229】
<リチウムイオン二次電池正極のレート特性評価>
作製したリチウムイオン二次電池正極評価用セルを25℃ の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電レート0.2Cにて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流:0.02C電流 )を行った後、放電レート0.2Cにて放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電レート0.2Cにて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流:0.02C電流 )を行い、放電レート3Cにて放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った。1Cは正極の理論容量を1時間で充電または放電する電流値とした。レート特性は、0.2C放電容量と3C放電容量の比、下記の式1で表すことができる。
(式1)レート特性=3C放電容量/0.2C放電容量×100(%)
比較例1-3のレート特性を基準とした相対値(%)を求め、以下の基準で評価した。
レート特性判定基準
◎:150%以上(極めて優良)
○:130%以上150%未満(優良)
○△:100%以上130%未満(良)
×:100%未満(不良)
【0230】
<リチウムイオン二次電池正極のサイクル特性評価>
作製したリチウムイオン二次電池正極評価用セルを25℃ の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電レート0.2Cにて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流:0.02C電流 )を行った後、放電レート0.2Cにて放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。1Cは正極の理論容量を1時間で充電または放電する電流値とした。サイクル特性は、3回目の0.2C放電容量と60回目の0.2C放電容量の比、下記の式2で表すことができる。
(式2)サイクル特性=3回目の0.2C放電容量/60回目の0.2C放電容量×100(%)
比較例1-3のサイクル特性を基準とした相対値(%)を求め、以下の基準で評価した。
サイクル特性判定基準
◎:180%以上(極めて優良)
○:150%以上180%未満(優良)
〇△:100以上150%未満(良)
×:100%未満(不良)
【表4】
【0231】
表4に示すように、実施例では比較例に比べて優れた電池特性を示した。実施例の複合物中の繊維状炭素が過度に凝集することなく、活物質表面に解れ、吸着された状態にある。そのため、電極内の導電パスを均一に形成することが出来、電極抵抗の低減やレート特性やサイクル特性の向上に繋がったものと推察される。中でも繊維状炭素の吸着状態が良好であったものは特に良好な性能を示した。
一方、比較例では、複合物の製造過程で繊維状炭素の解砕不足や乾燥過程における過度の乾燥凝集等により、活物質表面への吸着量の減少や材料の偏在が生じるため、電極内の導電パスの形成が不均一となり、電極抵抗の増加やレート特性やサイクル特性の悪化に繋がったものと推察される。
以上より、本発明の製造方法により作製された電極用複合物では、優れた電池特性を発現できることが示された。
前記二次電池電極用複合物が、酸素雰囲気下における熱重量-示差熱同時分析法で得られた繊維状炭素の発熱ピークの温度が520℃以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の二次電池電極用複合物の製造方法。