(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025071590
(43)【公開日】2025-05-08
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20250428BHJP
【FI】
F16J15/34 H
F16J15/34 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181886
(22)【出願日】2023-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 優記
(72)【発明者】
【氏名】福本 翔也
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA02
3J041BA01
3J041DA01
(57)【要約】
【課題】メカニカルシールの摺動部分において局部摩耗が生じるのを抑制する。
【解決手段】メカニカルシール1は、回転軸91側に一体回転可能に設けられシール面13aを有する回転環13と、回転軸91を包囲しているケーシング92側に設けられ、回転環13のシール面13aが摺動するシール面353aを有する遊動環35と、を備え、回転環13及び遊動環35の両シール面13a,353aの摺動部分よりも径方向外方に、被密封流体を密封する機内領域Aが形成される。遊動環35は、その内周において周方向に沿って形成された環状の溝354を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸側に一体回転可能に設けられ、シール面を有する回転環と、
前記回転軸を包囲しているケーシング側に設けられ、前記回転環のシール面が摺動するシール面を有する固定環と、を備え、
前記回転環及び前記固定環の両シール面の摺動部分よりも径方向外方に被密封流体を密封する機内領域が形成されるメカニカルシールであって、
前記固定環は、当該固定環の内周において周方向に沿って形成された環状の溝を有する、メカニカルシール。
【請求項2】
前記溝は、前記両シール面間を閉じようとする力として前記固定環に作用する前記被密封流体の圧力の径方向の範囲と、前記両シール面間を開こうとする力として前記固定環に作用する前記被密封流体の圧力の径方向の範囲との境界を示すバランスラインに対して、径方向内方に位置する、請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記溝は、湾曲部を有する、請求項1又は請求項2に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所のボイラーに給水するポンプのように高負荷条件下で使用される軸封手段として、例えば特許文献1に示すインサイド型のメカニカルシールが知られている。かかるメカニカルシールは、
図4に示すように、シールケース101に設けられた静止環102及び遊動環103と、回転軸104に設けられた回転環105と、を備えている。遊動環103に形成されたシール面103aに対して、回転環105に形成されたシール面105aが摺動することで、その摺動部分よりも径方向外側に被密封流体を密封する機内領域が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記メカニカルシールの両シール面103a,105a間には、その径方向外側から径方向内側に向かって機内領域の被密封流体が浸入することで、潤滑膜が形成される。このため、両シール面103a,105a間の径方向外側よりも径方向内側のほうが、潤滑膜が形成されにくく、高温になりやすい。その結果、
図4の拡大図で示すように、両シール面103a,105a間では、径方向外側と径方向内側との間で熱膨張差が生じることによって、径方向内側においてシール面圧が増大し、局部摩耗が生じるおそれがある。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、メカニカルシールの摺動部分において局部摩耗が生じるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示のメカニカルシールは、回転軸側に一体回転可能に設けられ、シール面を有する回転環と、前記回転軸を包囲しているケーシング側に設けられ、前記回転環のシール面が摺動するシール面を有する固定環と、を備え、前記回転環及び前記固定環の両シール面の摺動部分よりも径方向外方に被密封流体を密封する機内領域が形成されるメカニカルシールであって、前記固定環は、当該固定環の内周において周方向に沿って形成された環状の溝を有する。
【0007】
本開示のメカニカルシールによれば、固定環の内周に形成された溝によって、固定環の軸方向両端部が径方向内方に倒れ込むように変形しやすくなる。このため、回転環及び固定環の両シール面の摺動部分では、前記溝を有しない従来の固定環(遊動環)よりも径方向内側の面圧が低くなる。したがって、機内領域の被密封流体は、摺動部分の径方向外側から径方向内側に向かって浸入しやすくなる。これにより、摺動部分の径方向全体にわたって被密封流体による潤滑膜が形成されやすくなるので、径方向外側と径方向内側との間の熱膨張差を緩和することができる。その結果、両シール面の摺動部分の径方向内側において局部摩耗が生じるのを抑制することができる。
【0008】
(2)前記(1)のメカニカルシールにおいて、前記溝は、前記両シール面間を閉じようとする力として前記固定環に作用する前記被密封流体の圧力の径方向の範囲と、前記両シール面間を開こうとする力として前記固定環に作用する前記被密封流体の圧力の径方向の範囲との境界を示すバランスラインに対して、径方向内方に位置するのが好ましい。
この場合、固定環に溝が形成されても、被密封流体の圧力を受ける静止環48の軸方向他方側の側面から伝達される応力に起因する静止環48の変形を抑制できるので、メカニカルシールのシール性能が低下するのを抑制することができる。
【0009】
(3)前記(1)又は(2)のメカニカルシールにおいて、前記溝は、湾曲部を有するのが好ましい。
この場合、固定環の溝に生じる応力集中を緩和することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、メカニカルシールの摺動部分において局部摩耗が生じるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るメカニカルシールを示す断面図である。
【
図2】上記メカニカルシールの遊動環とその周辺を示す拡大断面図である。
【
図3】第2実施形態に係るメカニカルシールを示す断面図である。
【
図4】従来のメカニカルシールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本開示の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
[全体構成]
図1は、第1実施形態に係るメカニカルシール1を示す断面図である。
図1において、メカニカルシール1は、例えば火力発電所のボイラーに給水するポンプ等の回転機器90において高負荷条件下で用いられる。回転機器90は、回転軸91と、回転軸91を包囲しているケーシング92と、を備えている。メカニカルシール1は、主に回転軸91とケーシング92との間において、回転軸91の軸方向に沿って配置される。
【0013】
以下、本明細書において、「軸方向」とは、回転軸91の軸線Cに沿った方向である。また、本明細書において「径方向」とは、回転軸91の軸線Cに対して直交する方向であり、「周方向」とは、回転軸91の軸線C回りの方向である。また、本明細書では、便宜上、
図1の左側を軸方向一方側といい、
図1の右側を軸方向他方側という(
図2,
図3も同様)。
【0014】
メカニカルシール1は、回転機器90の機内領域Aの被密封流体(ここではボイラー水)が機外領域Bへ漏洩するのを抑制するものである。本実施形態のメカニカルシール1は、後述する回転環13と遊動環35との摺動部分よりも径方向外方が機内領域Aとなり、前記摺動部分よりも径方向内方が機外領域Bとなる、いわゆるインサイド型のメカニカルシールである。メカニカルシール1は、回転軸91に一体回転可能に設けられた回転側ユニット2と、ケーシング92に設けられた静止側ユニット3と、を備えている。
【0015】
[回転側ユニット]
回転側ユニット2は、スリーブ11、ストッパリング12、回転環13、及びポンピングリング14を備えている。スリーブ11は、回転軸91の外周に嵌合して固定された円筒状のスリーブ本体11aと、スリーブ本体11aの軸方向他端部から径方向外側に延びる円板状のスリーブ板部11bと、スリーブ板部11bの径方向外端から軸方向一方側に延びる円筒状のスリーブ筒部11cと、を有している。
【0016】
スリーブ本体11aの軸方向一方側における回転軸91の外周には、ストッパリング12が嵌め込まれている。ストッパリング12の軸方向他端部は、スリーブ本体11aの軸方向一端部の外周に嵌合されており、その嵌合部分にはセットスクリュー15がストッパリング12の径方向に締め込まれている。以上により、スリーブ11は、回転軸91に固定されている。スリーブ本体11aの軸方向他端部の内周面と回転軸91の外周面との間は、Oリング16によりシール(二次シール)されている。スリーブ板部11bの軸方向他方側及びスリーブ筒部11cの径方向外側には、ポンピングリング14が固定されている。
【0017】
スリーブ本体11aとスリーブ筒部11cとの間には、回転環13が嵌め込まれて固定されている。回転環13の軸方向一方側の側面には、シール面13aが形成されている。スリーブ筒部11cの内周面と回転環13の外周面との間は、Oリング17によりシール(二次シール)されている。スリーブ板部11bの軸方向一方側の側面と回転環13の軸方向他方側の側面との間は、Oリング18によりシール(二次シール)されている。
【0018】
[静止側ユニット]
静止側ユニット3は、シールケース31、リテーナ32、静止環33、アダプタリング34、及び遊動環(固定環)35を備えている。シールケース31は、環状に形成されている。シールケース31の径方向外側部は、ケーシング92の軸方向一方側の側面に当接した状態で、図示しないボルト等によりケーシング92に固定されている。シールケース31の軸方向他方側の側面とケーシング92の軸方向一方側の側面との間は、Oリング36によりシール(二次シール)されている。シールケース31の径方向内部の軸方向他方側には、環状溝31aが形成されている。
【0019】
リテーナ32は、シールケース31の環状溝31aに嵌め込まれた状態で、ボルト37によりシールケース31に固定されている。リテーナ32の外周面と環状溝31aの内周面との間は、Oリング38によりシール(二次シール)されている。リテーナ32の軸方向他方側の外周には、静止環33が軸方向に移動可能に取り付けられている。静止環33の軸方向他方側の側面には押圧面33aが形成されている。
【0020】
リテーナ32と静止環33との間には、スプリング39が設けられている。スプリング39は、リテーナ32に対して静止環33及び遊動環35を軸方向他方側へ付勢している。静止環33の内周面とリテーナ32の外周面との間は、Oリング40によりシール(二次シール)されている。
【0021】
アダプタリング34は、ケーシング92内においてシールケース31の軸方向他方側に配置されている。アダプタリング34は、円筒状に形成されたアダプタ本体34aと、アダプタ本体34aの軸方向他端部から径方向外側に突出する環状の突出部34bと、を有している。
【0022】
アダプタ本体34aの軸方向一端部は、図示しないボルトによりリテーナ32の外周に固定された状態で、シールケース31の環状溝31aに嵌め込まれている。アダプタ本体34aの外周面とケーシング92の内周面との間には、環状流路41が形成されている。アダプタ本体34aの軸方向の途中部には、環状流路41と機内領域Aとを連通する貫通孔34cが径方向に貫通して形成されている。貫通孔34cは、アダプタ本体34aの周方向に複数形成されている。突出部34bの外周面は、ケーシング92の内周面に嵌合されている。突出部34bの外周面とケーシング92の内周面との間は、Oリング42によりシール(二次シール)されている。
【0023】
ケーシング92には、フラッシング流体が流れる供給路93及び排出路94が形成されている。フラッシング流体は、機内領域Aにおいて回転環13のシール面13aと遊動環35のシール面353a(後述)との摺動部分を冷却する流体であり、例えば被密封流体と同じ流体(ボイラー水)からなる。フラッシング流体は、供給路93から、環状流路41及び貫通孔34cを通過して機内領域Aに供給される。機内領域Aにおいて前記摺動部分を冷却したフラッシング流体は、排出路94から外部に排出される。
【0024】
[遊動環]
図2は、遊動環35とその周辺を示す拡大断面図である。
図2において、遊動環35は、静止環33と回転環13との間において軸方向両側から挟圧保持されている。遊動環35は、本体部351と、押圧部352と、シール部353と、を有している。
【0025】
本体部351は、環状に形成されている。本体部351の外周面は、球面状に形成され、アダプタ本体34aの内周面に嵌合して支持されている。本体部351には、軸方向に貫通する貫通孔351aが、周方向に間隔をあけて複数形成されている。本体部351の各貫通孔351aには、静止環33から軸方向他方側に突出するドライブピン43が挿入されている。これにより、遊動環35は、静止環33に対して軸方向へ移動可能に保持されながら、静止環33に対する相対回転が規制されている。
【0026】
押圧部352は、本体部351の軸方向一方側の側面における径方向内端部から、軸方向一方側に突出する環状部分である。押圧部352の突出端面は、静止環33の押圧面33aに接触する押圧面352aとされている。押圧面352aには、静止環33を介してスプリング39の付勢力が作用する。これにより、遊動環35は、スプリング39の付勢力により静止環33を介して軸方向他方側に押圧されている。押圧部352よりも径方向外側における、本体部351の軸方向一方側の側面と静止環33の押圧面33aとの間は、Oリング44によりシール(二次シール)されている。
【0027】
シール部353は、本体部351の軸方向他方側の側面における径方向内端部から、軸方向他方側に突出する環状部分である。シール部353の突出端面は、回転環13のシール面13aが摺動するシール面353aとされている。これにより、ケーシング92内における回転環13及び遊動環35の両シール面13a,353aの摺動部分よりも径方向外方には、被密封流体が密封される機内領域Aが形成されている。
【0028】
遊動環35は、その軸方向両側がほぼ対称形状となるように形成されている。具体的には、押圧部352及びシール部353を含む遊動環35全体が、その径方向に延びる中心線X1を挟んで、軸方向にほぼ対称に形成されている。特に、遊動環35における被密封流体が接する軸方向両側の側面、すなわち、本体部351の軸方向両側における押圧部352及びシール部353よりも径方向外側の側面が、中心線X1を挟んでほぼ対称に形成されている。
【0029】
これにより、遊動環35は、被密封流体の圧力による影響を軸方向においてバランスよく受けることができる。すなわち、遊動環35が被密封流体から軸方向に受ける圧力が軸方向両側でほぼ同一となるので、遊動環35が軸線C(
図1参照)に対して傾くような圧力歪みは生じにくい。したがって、被密封流体の圧力変動が大きい高負荷条件下においても、遊動環35のシール面353aが回転環13のシール面13aに対して傾くのを抑制できるので、良好なシール性能を発揮することができる。
【0030】
遊動環35の本体部351の内周には、周方向に沿って環状の溝354が形成されている。上記のように遊動環35全体は中心線X1を挟んでほぼ対称に形成される必要があるために、溝354も中心線X1を挟んで対称形状となるように形成されている。本実施形態の溝354は、例えば、本体部351の内周の軸方向中央部において断面U字形状に形成されており、底側に湾曲部354aを有している。湾曲部354aは、例えば半円弧形状に形成されている。
【0031】
溝354は、本体部351を通過するバランスラインL1に対して、径方向内方に位置している。「バランスラインL1に対して径方向内方」とは、バランスラインL1よりも径方向内方だけでなく、バランスラインL1上も含む意味である。本実施形態の溝354は、その最底部(中心線X1との交点)がバランスラインL1上に位置するように形成されている。
【0032】
バランスラインL1は、軸方向に延びる仮想線であり、回転環13及び遊動環35の両シール面13a,353a間を閉じようとする力として遊動環35に作用する被密封流体の圧力の径方向の範囲と、両シール面13a,353a間を開こうとする力として遊動環35に作用する被密封流体の圧力の径方向の範囲との境界を示している。前記閉じようとする力は、被密封流体が、遊動環35の軸方向一方側の側面に対して直接的に又は間接的に(静止環33を介して)、回転環13側(軸方向他方側)へ押圧する力である。本実施形態の遊動環35において、バランスラインL1よりも径方向外側の軸方向他方側の側面は、被密封流体の圧力を受け、遊動環35には前記開こうとする力が作用する。
【0033】
[作用効果]
第1実施形態のメカニカルシール1によれば、静止環33と回転環13との間で遊動環35が挟圧保持されると、遊動環35の内周に形成された溝354によって、遊動環35の軸方向両端部(押圧部352とシール部353)が径方向内方に倒れ込むように変形しやすくなる。このため、回転環13と遊動環35の両シール面13a,353aの摺動部分では、溝354を有しない従来の遊動環よりも径方向内側の面圧が低くなる。このような面圧の低下は、構造解析によっても確認することができた。したがって、機内領域Aの被密封流体は、摺動部分の径方向外側から径方向内側に向かって浸入しやすくなる。これにより、摺動部分の径方向全体にわたって被密封流体による潤滑膜が形成されやすくなるので、径方向外側と径方向内側との間の熱膨張差を緩和することができる。その結果、両シール面13a,353aの摺動部分の径方向内側において局部摩耗が生じるのを抑制することができる。特に、メカニカルシール1が高負荷条件下で使用される場合、両シール面13a,353a間の径方向内側に潤滑膜が形成されにくい傾向が強くなるので、本開示を適用することがより有効となる。
【0034】
溝354は、バランスラインL1に対して、径方向内方に位置する。これにより、被密封流体の圧力を受ける遊動環35の軸方向他方側の側面から伝達される応力に起因する遊動環35の変形を抑制できるので、メカニカルシール1のシール性能が低下するのを抑制することができる。また、溝354は、その底側に湾曲部354aを有するので、遊動環35の溝354に生じる応力集中を緩和することができる。
【0035】
<第2実施形態>
図3は、第2実施形態に係るメカニカルシール1を示す断面図である。
図3において、本実施形態のメカニカルシール1は、主として静止側ユニット3が遊動環を備えていない点で、第1実施形態と相違する。以下、本実施形態のメカニカルシール1について説明する。本実施形態のメカニカルシール1は、回転環13と後述する静止環48との摺動部分よりも径方向外方が機内領域Aとなり、前記摺動部分よりも径方向内方が機外領域Bとなる。
【0036】
[回転側ユニット]
メカニカルシール1の回転側ユニット2は、スリーブ11と、回転環13と、を備えている。スリーブ11は、スリーブ本体11aと、スリーブ板部11bと、スリーブ内筒部11dと、スリーブ外筒部11eと、を有している。スリーブ内筒部11d及びスリーブ外筒部11eは、それぞれ円筒状に形成されている。スリーブ内筒部11dは、スリーブ板部11bの径方向の途中部から軸方向一方側に延びている。
【0037】
スリーブ外筒部11eは、スリーブ内筒部11dよりも径方向外方において、スリーブ板部11bの径方向外端から軸方向一方側に延びている。スリーブ外筒部11eの外周面は、ケーシング92の内周面に近接している。スリーブ外筒部11eには、径方向に貫通する連通孔11fが形成されている。連通孔11fは、ケーシング92の排出路94の径方向内方に配置され、排出路94と連通している。
【0038】
スリーブ本体11aとスリーブ内筒部11dとの間には、回転環13が嵌め込まれている。回転環13の軸方向他方側の端部には、係合溝13bが形成されている。回転環13の係合溝13bには、スリーブ板部11bから軸方向一方側に突出する係合ピン19が挿入されている。これにより、回転環13は、スリーブ11に対する相対回転が規制されている。スリーブ内筒部11dの内周面と回転環13の外周面との間は、Oリング20によりシール(二次シール)されている。
【0039】
[静止側ユニット]
メカニカルシール1の静止側ユニット3は、シールケース31、第1リテーナ46、第2リテーナ47、及び静止環(固定環)48を備えている。第1リテーナ46は、シールケース31の環状溝31aに嵌め込まれた状態で、ボルト49によりシールケース31に固定されている。第1リテーナ46の外周面と環状溝31aの内周面との間は、Oリング50によりシール(二次シール)されている。
【0040】
第1リテーナ46の軸方向他方側の外周には、第2リテーナ47が軸方向に移動可能に取り付けられている。第1リテーナ46と第2リテーナ47との間には、スプリング51が設けられている。スプリング51は、第1リテーナ46に対して第2リテーナ47及び静止環48を軸方向他方側へ付勢している。第1リテーナ46の外周面と第2リテーナ47の内周面との間は、Oリング52によりシール(二次シール)されている。
【0041】
第2リテーナ47の軸方向他方側には、静止環48が設けられている。静止環48は、本体部481と、シール部483と、を有している。本体部481は、環状に形成されている。本体部481は、第2リテーナ47の軸方向他方側の内周面に嵌め込まれている。
【0042】
本体部481には、第2リテーナ47を介してスプリング51の付勢力が作用する。これにより、静止環48は、スプリング51の付勢力により第2リテーナ47を介して軸方向他方側に押圧されている。本体部481と第2リテーナ47との間は、Oリング53によりシール(二次シール)されている。
【0043】
シール部483は、本体部481の軸方向他方側の側面における径方向内端部から、軸方向他方側に突出する環状部分である。シール部483の突出端面は、回転環13のシール面13aが摺動するシール面483aとされている。これにより、ケーシング92内における回転環13及び静止環48の両シール面13a,483aの摺動部分よりも径方向外方には、被密封流体が密封される機内領域Aが形成されている。
【0044】
シールケース31には、フラッシング流体が流れる供給路31bが形成されている。フラッシング流体は、機内領域Aにおいて回転環13のシール面13aと静止環48のシール面483aとの摺動部分を冷却する流体であり、例えば被密封流体と同じ流体(ボイラー水)からなる。フラッシング流体は、供給路31bから、機内領域Aに供給される。機内領域Aにおいて前記摺動部分を冷却したフラッシング流体は、スリーブ11の連通孔11fを通過し、ケーシング92の排出路94から外部に排出される。
【0045】
静止環48の本体部481の内周には、周方向に沿って環状の溝484が形成されている。溝484は、本体部481の径方向に延びる中心線X2を挟んで対称形状となるように形成されている。本実施形態の溝484は、例えば、本体部481の内周の軸方向中央部において断面U字形状に形成されており、底側に湾曲部484aを有している。湾曲部484aは、例えば半円弧形状に形成されている。
【0046】
溝484は、本体部481を通過するバランスラインL2に対して、径方向内方に位置している。「バランスラインL2に対して径方向内方」とは、バランスラインL2よりも径方向内方だけでなく、バランスラインL2上も含む意味である。本実施形態の溝484は、その最底部(中心線X2との交点)がバランスラインL2上に位置するように形成されている。
【0047】
バランスラインL2は、軸方向に延びる仮想線であり、回転環13及び静止環48の両シール面13a,483a間を閉じようとする力として静止環48に作用する被密封流体の圧力の径方向の範囲と、両シール面13a,483a間を開こうとする力として静止環48に作用する被密封流体の圧力の径方向の範囲との境界を示している。前記閉じようとする力は、被密封流体が、静止環48の軸方向一方側の側面に対して直接的に又は間接的に(第2リテーナ47を介して)、回転環13側(軸方向他方側)へ押圧する力である。本実施形態の静止環48において、バランスラインL2よりも径方向外側の軸方向他方側の側面は、被密封流体の圧力を受け、静止環48には前記開こうとする力が作用する。
本実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
[作用効果]
第2実施形態のメカニカルシール1によれば、静止環48の内周に形成された溝484によって、静止環48の軸方向両端部(本体部481の軸方向一端部とシール部483)が径方向内方に倒れ込むように変形しやすくなる。このため、回転環13と静止環48の両シール面13a,483aの摺動部分では、溝484を有しない従来の静止環よりも径方向内側の面圧が低くなる。このような面圧の低下は、構造解析によっても確認することができた。したがって、機内領域Aの被密封流体は、摺動部分の径方向外側から径方向内側に向かって浸入しやすくなる。これにより、摺動部分の径方向全体にわたって被密封流体による潤滑膜が形成されやすくなるので、径方向外側と径方向内側との間の熱膨張差を緩和することができる。その結果、両シール面13a,483aの摺動部分の径方向内側において局部摩耗が生じるのを抑制することができる。特に、メカニカルシール1が高負荷条件下で使用される場合、両シール面13a,483a間の径方向内側に潤滑膜が形成されにくい傾向が強くなるので、本開示を適用することがより有効となる。
【0049】
溝484は、バランスラインL2に対して、径方向内方に位置する。これにより、被密封流体の圧力を受ける静止環48の軸方向他方側の側面から伝達される応力に起因する静止環48の変形を抑制できるので、メカニカルシール1のシール性能が低下するのを抑制することができる。また、溝484は、その底側に湾曲部484aを有するので、静止環48の溝484に生じる応力集中を緩和することができる。
【0050】
<その他>
上記実施形態のメカニカルシール1は、火力発電所のボイラーに給水するポンプ以外の回転機器にも適用することができる。また、溝354,484は、本体部351,481の内周における軸方向中央部に形成されているが、本体部351,481の内周における軸方向全体にわたって形成されていてもよい。また、溝354,484は、その少なくとも一部がバランスラインL1,L2よりも径方向外方に位置するように形成されていてもよい。
【0051】
溝354,484の形状は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、溝354,484は、断面円弧形状や断面楕円形状等の湾曲部のみの形状であってもよいし、三角形状等の湾曲部を有しない形状であってもよい。
【0052】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1 メカニカルシール
13 回転環
13a シール面
35 遊動環(固定環)
48 静止環(固定環)
91 回転軸
92 ケーシング
353a シール面
354 溝
354a 湾曲部
483a シール面
484 溝
484a 湾曲部
A 機内領域
L1 バランスライン
L2 バランスライン