(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007163
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】照明装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108376
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】518055877
【氏名又は名称】ラクテン・メディカル,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和佐野 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】金箱 秀樹
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082PA02
4C082PG05
4C082PJ01
4C082PL05
(57)【要約】
【課題】 光感受性物質が反応することを抑え、かつ室内の照度や患部を照らす照度の低下を抑えることができる照明装置を提供する。
【解決手段】 光感受性物質が反応する特定の波長域の光の照度を減少させるフィルタを介して照明する照明装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光感受性物質が反応する特定の波長域の光の照度を減少させるフィルタを介して照明する照明装置。
【請求項2】
前記フィルタを保持する保持具をさらに備え、
前記保持具は前記特定の波長域の光を透過しない、請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記フィルタによって減少される光の波長は、650nm以上、660nm以上、若しくは670nm以上であり、750nm以下、740nm以下、730nm以下、若しくは720nm以下の範囲、又は650nm以上750nm以下、670nm以上750nm以下、650nm以上720nm以下、若しくは670nm以上720nm以下の範囲である、請求項1に記載の照明装置。
【請求項4】
前記フィルタは前記特定の波長域の光の照度を90%以上、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は99%以上減少させる、請求項1に記載の照明装置。
【請求項5】
前記光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とから組成される複合体を含む薬剤を投与された患者が入室している室内において使用される、請求項1に記載の照明装置。
【請求項6】
前記光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とから組成される複合体を含む薬剤を製造する製造室内において使用される、請求項1に記載の照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とから組成される複合体を含む薬剤の患者への投与、及び光感受性物質が反応する特定の波長の光の照射の2段階で構成される治療法が存在する。光感受性物質とは、特定の波長域の光と反応する物質である。同薬剤を投与し、特定の細胞に選択的に集積させた後、その細胞に特定の波長の光を照射することで、光感受性物質を活性化させ、生化学および物理学的プロセスにより、特定の細胞を壊死させ、あるいは、排除するものである。上記の治療は、特定の細胞以外にはダメージを与え難く副作用が小さいため、患者の負担が少ない治療法である。
【0003】
上記の薬剤に含まれる光感受性物質は、上記の治療において照射される光(以下、治療光と称する)以外の光、例えば太陽光及び照明等からの光とも反応し、薬剤の組成が変化し、所望の治療効果が得られないことがある。また、上記の薬剤が投与された患者が治療光以外の光を受けることによって、光過敏症を生ずる可能性がある。このようなことを防ぐために、患者が入室している室内、上記の薬剤を投与する準備を行う室内、及び上記の薬剤を製造する製造室内等では、光感受性物質が反応せず、かつ室内の照度の低下を抑えることができる照明装置が求められている。また、患部を照らす照明部を備える医療機器、例えば内視鏡等において、光感受性物質が反応せず、かつ照度の低下を抑えることができる照明部が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光感受性物質が反応することを抑え、かつ室内の照度や患部を照らす照度の低下を抑えることができる照明装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、光感受性物質が反応する特定の波長域の光の照度を減少させるフィルタを介して照明する照明装置である。
【発明の効果】
【0006】
光感受性物質が反応することを抑え、かつ室内の照度や患部を照らす照度の低下を抑えることができる照明装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る照明装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る照明装置の一部を拡大して示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るフィルタ保持具を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るフィルタ保持具を示す断面図である。
【
図5】
図5は、内視鏡の照明部として使用される、実施形態に係る照明装置を示す模式図である。
【
図6】
図6は、照明光の波長に対する光エネルギーの関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、患者のQOL評価の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、医療従事者の作業効率評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。また、実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0009】
<実施形態>
以下、
図1及び
図2を参酌して、実施形態に係る照明装置を説明する。
実施形態に係る照明装置1は、光感受性物質が反応する特定の波長域の光の照度を減少させるフィルタ3を介して照明する。照明装置1は、フィルタ1及び光源2を備える。照明装置1は、フィルタ3を保持するフィルタ保持具4、光源2及びフィルタ3を支持する支持部6及び支持部6を固定するクリップ7をさらに備えても良い。
【0010】
フィルタ3は、光感受性物質が反応する特定の波長域の光の照度を減少させる。光感受性物質は、特定の波長域の光に反応する物質であり、例えば、特定の波長域の光を吸収して活性化する色素等である。このような色素として、650nm以上750nm以下の波長域の光を吸収して活性化するサロタロカン(6-({[3-({(OC-6-13)-ビス({3-[ビス(3-スルホプロピル)(3-スルホナトプロピル)アザニウミル]プロピル}ジメチルシラノラト-κ0,κ0’)[(フタロシアニナト(2-)κN29,κN30,κN31,κN32)-1-イル]シリコン}オキシ)プロポキシ]カルボニル}アミノ)ヘキサノイルの四ナトリウム塩(IRDye(登録商標)700DX、楽天メディカル社製)等を挙げることができる。光感受性物質がIRDye(登録商標)700DX(楽天メディカル社製)である場合、フィルタ3は、少なくとも波長域650nm以上750nm以下の光の照度を減少させることが好ましく、少なくとも波長域675nm以上750nm以下の光の照度を減少させることがより好ましい。また、フィルタ3は、少なくとも650nm以上、660nm以上、又は670nm以上であり、750nm以下、740nm以下、730nm以下、又は720nm以下の波長の光の照度を減少させることが好ましく、650nm以上750nm以下、670nm以上750nm以下、650nm以上720nm以下、又は670nm以上720nm以下の波長の光の照度を減少させることが好ましい。
【0011】
フィルタ3は、特定の波長域の光の照度を90%以上、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%減少させることが好ましく、99%以上減少させることがより好ましい。また、フィルタ3は、特定の波長域以外の光の照度を減少させないことが好ましい。
【0012】
フィルタ3の形態は、照明装置1がフィルタ3を介して照明することができるものであればよく、例えば、LED素子上に成膜もしくは貼付したフィルムでもよい。蛍光管型のLED照明装置の場合には、フィルタ3は、蛍光管の内面もしくは外面に貼付したフィルムでもよい。
【0013】
以上述べたようなフィルタ3として、例えば、誘電体多層膜を用いることができる。光感受性物質がIRDye(登録商標)700DX(楽天メディカル社製)である場合は、透過阻止帯が675~850nmの誘電体多層膜(TECHSPEC(登録商標)OD2.0ショートパスフィルター、エドモンド・オプティクス社製)をフィルタ3として用い、当該フィルタ3と光源2との角度を調整することによって、少なくとも波長域650nm以上750nm以下の範囲の光の照度を99%以上減少させることができる。
【0014】
光源2は、特に制限されず、例えば、少なくとも3光源(青、緑、赤)のLED素子の連続した配列で構成され、人間の可視領域で白色として視認できる市販の白色LEDやハロゲンランプおよびキセノンランプ等を用いることができる。
【0015】
フィルタ3は、
図1及び
図2に示すように、フィルタ保持具4に保持された状態で光源2の手前に配置されても良い。フィルタ保持具4は、光感受性物質が反応する特定の波長域の光を透過しないか、透過率が極めて低いことが好ましく、例えば、金属や白く着色されたABS樹脂などからなることが好ましい。
【0016】
図3及び
図4(
図3の4-4断面)を参酌して、実施形態に係るフィルタ保持具4を説明する。フィルタ保持具4は、筒体41と、フレーム42とを備える。筒体41は、フィルタ3より小さい直径を有する貫通穴が設けられた略円筒形状を有する。筒体41は、その略円筒形状の内部にフィルタ3を保持するための段部が形成されている。フレーム42は、フィルタ3より小さい直径を有する貫通穴が設けられている。フィルタ保持具4は、筒体41と、フレーム42とをねじで固定することによって、筒体41の段部に設置されたフィルタ3を保持する。このようなフィルタ保持具4は、光源2とフィルタ3との間から、フィルタ3を介さない光が漏れることを抑制できる。
【0017】
照明装置1は、光源2、フィルタ3、フィルタ保持具4を囲むフード5をさらに備えても良い。フード5は、照明装置から生じる光(以下、照明光と称する)の方向を制限又は調整することができる。
【0018】
照明装置1は、可撓性を有する支持部6をさらに備えても良い。支持部6は、光源2、フィルタ3、フィルタ保持具4及びフード5を、所定の位置で保持することができる。
【0019】
照明装置1は、支持部6の一端に、クリップ7をさらに備えても良い。クリップ7は、照明装置1を任意の場所に取り付けることができる。
【0020】
照明装置は、上記のフィルタを介して照明することによって、光源から生じる光から、光感受性物質が反応する特定の波長域の光の照度を減少させる。また、照明装置は、光感受性物質が反応する特定の波長域以外の光の照度は減少させないことが好ましい。これにより、光感受性物質が照明光と反応することを抑えることができ、かつ当該照明装置が設置される室内の照度や患部を照らす照度の低下を抑えることができる。
【0021】
照明装置は、上記のフィルタを介して照明することによって、光源から生じる光から、光感受性物質が反応する特定の波長域の光の光エネルギーを減少させることが好ましい。また、照明装置は、他の波長域の光エネルギーを減少させず、維持することが好ましい。例えば、光感受性物質がIRDye(登録商標)700DX(楽天メディカル社製)である場合は、フィルタを介さない場合の光エネルギーに対するフィルタを介した場合の光エネルギーの比が、波長域650nm以上750nm以下においては0.1以下であり、波長域380nm以上600nm以下においては0.9以上であることが好ましい。これにより、光感受性物質が照明光と反応することを抑えることができ、かつ当該照明装置が設置される室内の照度や患部を照らす照度の低下を抑えることができる。
【0022】
照明装置は、波長域600nm以上650nm未満の光エネルギーを減少させないか、当該光エネルギーの減少が極めて小さいことが好ましい。これにより、照明光が青白くなることを抑えられ、自然光や白色LED照明に近い色味の照明光を提供することができる。
【0023】
各波長域の光エネルギーは、分光計を用いて照明光の波長ごとの光エネルギーを測定し、各波長域について光エネルギーの積分値を算出することによって得られる。光エネルギーは、例えば、Thorlabs製の小型分光器CCS175及びコサインコレクタCCSA1を用いて測定することができる。
【0024】
実施形態に係る照明装置は、医療処置用照明として使用することができる。医療処置用照明は、例えば、特定の光に反応する光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とから組成される複合体を含む薬剤を投与された患者が入室している室内、及び上記の薬剤を投与する準備を行う室内において使用される照明、例えば読書灯、手元灯、室内の天井や壁に設置される直接照明及び間接照明等、手術室において使用される照明、例えば手術灯及び無影灯等、並びに患部を照らす照明部を備える医療機器、例えば内視鏡等の照明部である。また、実施形態に係る照明装置は、上記の薬剤を製造する製造室において使用される照明として使用することができる。
【0025】
薬剤が投与された患者が入室している室内とは、患者が入室するあらゆる室内を指し、例えば、病室、手術室、処置室、待機室及びこれらの室内を繋ぐ廊下等を挙げることができる。
【0026】
薬剤を投与する準備を行う室内とは、上記の薬剤を投与するための準備、例えば薬剤の混注作業等を行うための薬剤部、病棟、ナースステーション、及び処置室等を挙げることができる。
【0027】
薬剤は、例えば、上記の光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とから組成される複合体を含む薬剤の患者への投与、及び光感受性物質が反応する特定の光の照射の2段階で構成される治療に用いられるものである。上記の治療は、例えば、上記の薬剤を患者に投与し、特定の細胞に選択的に集積させた後、上記の特定の細胞に光感受性物質が反応する光を照射することで、光感受性物質を活性化させ、上記の特定の細胞を壊死させ、あるいは、排除することによって行われる。
【0028】
特定の細胞としては、がん細胞等を挙げることができる。がん細胞としては、例えば、頭頚部がん細胞等を挙げることができる。頭頚部がんとしては、上咽頭がん、中咽頭がん及び下咽頭がん等の咽頭がん、声門がん、声門上がん及び声門下がん等の喉頭がん、上顎洞がん等の鼻腔・副鼻腔がん、舌がん等の口腔がん、唾液腺がん並びに甲状腺がん等を挙げることができる。
【0029】
特定の細胞に選択的に集積する成分としては、抗体等を用いることができ、例えば、キメラ型抗ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体(IgG1)であるセツキシマブを用いることができる。
【0030】
複合体としては、光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とが結合しているものを用いることができる。このような複合体として、IRDye(登録商標)700DX(楽天メディカル社製)と、キメラ型抗ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体(IgG1)であるセツキシマブとが結合した化合物であるセツキシマズ サロタロカンナトリウムを用いることができる。
【0031】
薬剤としては、上記の複合体を含むものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、セツキシマズ サロタロカンナトリウムを含む、アキャルックス(登録商標)点滴静注250mg(楽天メディカル社製)等を用いることができる。
【0032】
薬剤の投与の方法は特に制限されず、例えば、点滴静脈注射等によって投与することができる。
【0033】
上記のような薬剤に含まれる光感受性物質は、治療光以外の光、例えば太陽光及び照明等からの光と反応し、薬剤の組成が変化してしまうことがある。光感受性物質が治療光以外の光と反応することを抑えるため、薬剤を投与された患者が入室する室内、薬剤を投与する準備を行う室内、及び薬剤を製造する製造室内等は、照度を一定の値以下として明るさが管理されていた。しかしながら、このように明るさを管理された室内は極めて暗く、患者の生活に支障をきたしてQuality of Life (QOL、すなわち生活の質)を低下させたり、医療従事者の作業効率を低下させたりする虞があった。また、上記の薬剤の製造において、作業効率を低下させる虞があった。
【0034】
医療処置用照明として使用される実施形態に係る照明装置は、光感受性物質が反応する特定の波長の光の照度を減少させるフィルタを介して照明するため、薬剤が反応することを抑えることができ、かつ照度の低下を抑えることができる。従って、実施形態に係る照明装置は、薬剤を投与された患者のQOLの低下を抑制でき、医療従事者の作業効率の低下を抑制できる。
【0035】
光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とから組成される複合体を含む薬剤を投与された患者が入室している室内において使用される、実施形態に係る照明装置は、光感受性物質が反応する特定の波長の光の照度を減少させるフィルタを介して照明するため、患者に投与された薬剤が反応することを抑えることができ、かつ室内の照度の低下を抑えることができる。従って、実施形態に係る照明装置は、薬剤を投与された患者のQOLの低下を抑制でき、かつ医療従事者の作業効率の低下をも抑制できる。
【0036】
実施形態に係る照明装置は、光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とから組成される複合体を含む薬剤を投与する準備を行う室内においても使用することができる。実施形態に係る照明装置は、薬剤が反応することを抑えることができ、かつ上記室内の照度の低下を抑えることができる。従って、薬剤を投与する準備を行う際における薬剤の組成の変化を防ぎ、かつ、医療従事者の作業効率の低下を抑制できる。
【0037】
実施形態に係る照明装置は、特定の光に反応する光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とから組成される複合体を含む薬剤を製造する製造室内においても使用することができる。実施形態に係る照明装置は、薬剤が反応することを抑えることができ、かつ製造室内の照度の低下を抑えることができる。従って、薬剤の製造における薬剤の組成の変化を防ぎ、かつ、作業効率の低下を抑制できる。
【0038】
実施形態に係る照明装置は、患部を照らす照明部を備える医療機器、例えば内視鏡等の照明部としても使用することができる。以下、
図5を参照して、内視鏡の照明部として使用される照明装置を説明する。上記の実施形態と同様の構成についての説明は、上記の説明を援用して省略する。
【0039】
実施形態に係る照明装置101は、光感受性物質が反応する特定の波長域の光の照度を減少させるフィルタ103を介して照明する。照明装置101は、例えば、光源102、光源102からの光を集光する集光レンズ108、集光レンズ108によって集光された光を内視鏡の遠位端部へ導くライトガイド109、ライトガイド109によって導かれた光を内視鏡の遠位端部から照明する照明レンズ110を備える。光源102として、例えばハロゲンランプやキセノンランプ等を用いることができる。ライトガイド109として、例えば、光ファイバーを複数束ねたもの等を用いることができる。その他、照明装置101は、内視鏡の照明部として公知の構成を特に制限なく備えることができる。
【0040】
フィルタ103は、光源102と集光レンズ108との間に設置されてもよく、集光レンズ108とライトガイド109との間に設置されてもよい。
図5に、光源102と集光レンズ108との間に設置されたフィルタ103を示す。図示しないが、フィルタ103は、照明レンズ110の内側又は外側に設置されてもよい。また、図示しないが、フィルタ103は、光源102に貼付されてもよい。このような構成を備える照明装置101は、光源102からの光をフィルタ103を介して患者の患部およびその周囲に照明できる。
【0041】
このような照明装置は、光感受性物質が反応する特定の波長の光の照度を減少させるフィルタを介して照明するため、上記の薬剤が反応することを抑えることができ、かつ照明される患者の患部での照度の低下を抑えることができる。従って、医療従事者の作業効率の低下を抑制できる。
【0042】
以上説明した実施形態に係る照明装置は、光感受性物質が反応する特定の波長域の光の照度を減少させるフィルタを介して照明するため、光感受性物質が反応することを抑えることができ、かつ当該照明装置が設置される室内の照度や患部を照らす照度の低下を抑えることができる。
【0043】
<実施例>
以下、実施例を例示して本発明をさらに詳細に説明するが、これらの例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
(フィルタによる光の照度の減少率の測定)
フィルタとして透過阻止帯が675~850nmの誘電体多層膜(TECHSPEC(登録商標)OD2.0ショートパスフィルター、エドモンド・オプティクス社製)を用意した。BioBlade(登録商標)レーザシステム(楽天メディカル社製)のディフューザーから、放射照度が150mW/cm2の690nmの波長のレーザ光を照射した。フィルタを介して照射した場合と、フィルタを介さずに照射した場合の照度を照度計(RQ-881E,WapoRich社製)で測定した。また、以下の式(1)を用いて、フィルタによる690nmの波長の光の照度の減少率を計算した。表1に結果を示す。
照度の減少率(%)=(1-(フィルタを介して照射した場合の照度/フィルタを介さずに照射した場合の照度))×100・・・(1)
【0045】
【0046】
なお、光感受性物質と、特定の細胞に選択的に集積する成分とが結合した複合体を含む薬剤であるアキャルックス(登録商標)点滴静注250mg(楽天メディカル社製)の光感受性物質IRDye(登録商標)700DX(楽天メディカル社製)が反応する光は、波長域650nm以上750nm以下である。また、当該薬剤の極大吸収波長は、690nmである。
【0047】
表1から明らかなように、実施例1のフィルタを介して照射することによって、光感受性物質であるIRDye(登録商標)700DX(楽天メディカル社製)の極大吸収波長である、690nmの波長の光の照度が、99%以上減少した。
【0048】
(実施例2)
(照明装置の準備)
LEDクリップライト(YP200CL、ニトリ社製)、フィルタ(TECHSPEC(登録商標)OD2.0ショートパスフィルター、エドモンド・オプティクス社製)及びフィルタ保持具を用意した。フィルタ保持具は、
図4及び5に示す筒体41並びにフレーム42を備える上記のフィルタ保持具4と同様のものを使用した。フィルタ保持具の材質は、白く着色されたABS材であった。LEDクリップライトのLED光源から生じる光をフィルタが介するように、フィルタを保持したフィルタ保持具をLED光源の手前に設置した。このように作成した照明装置を、実施例2の照明装置とした。また、比較例の照明装置として、フィルタ及びフィルタ保持具を設置していない状態のLEDクリップライト(YP200CL、ニトリ社製)を用意した。
【0049】
(照度の測定)
実施例2の照明装置による全量の照度(照度計が検出しうる全波長域の照度)を、照度計(RQ-881E,WapoRich社製)を用いて測定した。全量の照度は、照明装置を天井から照射した場合の照明装置のフード直下、及びフードから15cm下の位置の照度を測定した。比較例の照明装置についても同様に照度の測定を行った。また、以下の式(2)を用いて、照度の減少率を計算した。表2にその結果を示す。
照度の減少率(%)=(1-(実施例2の照度/比較例の照度))×100・・・(2)
【0050】
【0051】
表2から明らかなように、実施例2の照明装置は、光感受性物質IRDye(登録商標)700DX(楽天メディカル社製)が反応する特定の波長域の光の照度を99%以上減少するフィルタを介した場合であっても、フィルタを介していない比較例の照明装置と比較して、照明装置を天井から照射した場合のフード直下、及びフードから15cm下のいずれの位置においても、全量の照度は15%以下しか低下しなかった。
【0052】
(光エネルギーの測定)
実施例2の照明装置の照明光について、波長ごとの光エネルギーを分光器(小型分光器CCS175、及びコサインコレクタCCSA1、Thorlabs社製)を用いて測定し、波長に対する光エネルギーをプロットした。また、比較例の照明装置の照明光についても同様に光エネルギーを測定し、波長に対する光エネルギーをプロットした。また、各波長の実施例2の光エネルギーに対する比較例の光エネルギーの比、すなわちフィルタを介さない場合の光エネルギーに対するフィルタを介した場合の光エネルギーの比を計算し、プロットした。その結果を
図6に示す。また、実施例2及び比較例の光エネルギーについて、波長が650nm以上750nm以下、及び380nm以上600nm以下の範囲の積分値を算出して、各波長域におけるフィルタを介さない場合の光エネルギーに対するフィルタを介した場合の光エネルギーの比をそれぞれ算出したところ、波長域650nm以上750nm以下においては0.1以下であり、波長域380nm以上600nm以下においては0.9以上であった。
【0053】
実施例2の照明装置において、各波長域におけるフィルタを介さない場合の光エネルギーに対するフィルタを介した場合の光エネルギーの比は、光感受性物質IRDye(登録商標)700DX(楽天メディカル社製)が反応する波長域650nm以上750nm以下においては0.1以下であり、波長域380nm以上600nm以下においては0.9以上である。従って、実施例2の照明装置は、光感受性物質が反応する波長域の光エネルギーを大幅に低下させる一方、他の波長域の光エネルギーは殆ど減少しなかった。また、
図6から明らかなように、実施例2の照明装置は、波長域600nm以上650nm未満の光エネルギーを減少させず、青白さを抑えた自然光や白色LEDに近い色味の照明光を提供できた。
【0054】
(患者のQOL評価)
1日目に、患者に対し、アキャルックス(登録商標)点滴静注250mg(楽天メディカル社製)の点滴静脈注射による投与を行った。その後、患者を照度が120ルクス以下に管理された病室に入室させた。患者に実施例2の照明装置を提供し、自由に使用してもらった。2日目に、患者に対し、BioBlade(登録商標)レーザシステムを用いた、アキャルックス(登録商標)が反応する690nmの波長のレーザ光による治療を行った。治療後、患者を上記の病室に再入室させた。患者が病室に再入室し、点滴静脈注射から5日目まで、患者に実施例2の照明装置を自由に使用してもらった。そして点滴静脈注射から3日目、4日目、5日目に、患者の経過観察を行った。5日目の経過観察の後、実施例2の照明装置を回収した。6日目に、患者の経過観察を行った。経過観察の後、患者に対し、病室での過ごしやすさについて、1回目のアンケートを行った。アンケートの後、実施例2の照明装置を再度提供し、自由に使用してもらった。7日目に、患者に対し、病室での過ごしやすさについて、2回目のアンケートを行った。
【0055】
アンケートは、100mmのビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて行った。VASの直線の左端を0mm、右端を100mmとした。以下の評価項目(1)~(10)について、0mm及び100mmをそれぞれ以下のように定義した。各評価項目について、該当する直線上の位置を患者に回答してもらい、各位置の0mmからの距離(mm)をそれぞれ測定した。実施例2の照明装置を使用している間、患者は携帯電話及びパソコン等を使用しなかったため、患者は2回目のアンケートの評価項目(6)について回答を行わなかった。
【0056】
<評価項目>
(1)日常生活の明るさと比較して、室内の明るさを管理した部屋は総合的に快適に過ごせましたか。
0mm:全く快適でなかった。
100mm:とても快適であった。
(2)日常生活の明るさと比較して、食事はしやすかったですか。
0mm:とても食べにくかった。
100mm:とても食べやすかった。
(3)日常生活の明るさと比較して、水やジュースなどは飲みやすかったですか。
0mm:とても飲みにくかった。
100mm:とても飲みやすかった。
(4)日常生活の明るさと比較して、新聞や雑誌等の印刷物は読みやすかったですか。
0mm:とても読みにくかった。
100mm:とても読みやすかった。
(5)日常生活の明るさと比較して、文字は書きやすかったですか。
0mm:とても書きにくかった。
100mm:とても書きやすかった。
(6)日常生活の明るさと比較して、携帯電話やパソコンなどは快適に使用できましたか。
0mm:全く快適でなかった。
100mm:とても快適であった。
(7)日常生活の明るさと比較して、睡眠はとれましたか。
0mm:全く眠れなかった。
100mm:とてもよく眠れた。
(8)日常生活の明るさと比較して、室内での歩行はしやすかったですか。
0mm:とても歩きにくかった。
100mm:とても歩きやすかった。
(9)日常生活の明るさと比較して、トイレは不便なく使えましたか。
0mm:とても不便であった。
100mm:全く不便でなかった。
(10)医師や看護師などの医療従事者と話すときに不便はありませんでしたか。
0mm:とても不便であった。
100mm:全く不便でなかった。
(11)ライトの色味は快適でしたか。
0mm:全く快適でなかった。
100mm:とても快適であった。
【0057】
【0058】
【0059】
表3及び
図7の評価項目(1)~(5)、及び(7)~(10)から明らかなように、実施例2の照明装置がある場合は、当該照明装置がない場合と比較して、患者の過ごしやすさの低下が抑制された。このように、実施例2の照明装置は、患者のQOLの低下を抑制できた。
【0060】
(医療従事者の作業効率評価)
実施例2の照明装置を用いた場合、及び実施例2の照明装置を用いなかった場合での作業効率について、看護師A~D、医師Eの5名の医療従事者に対し、アンケートを行った。看護師A~D及び医師Eは、上記のQOL評価において、上記の病室で作業を行った者である。アンケートは、上記のQOL評価と同様に、100mmのビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて行った。以下の評価項目(1)~(4)について、0mm及び100mmを以下のように定義した。各評価項目について、該当する直線上の位置を各医療従事者に回答してもらい、各位置の0mmからの距離(mm)をそれぞれ測定した。当該評価において、看護師A及びBはカルテ等の文字を判読しなかったため、看護師A及びBは評価項目(3)について回答を行わなかった。
【0061】
<評価項目>
(1)通常の病室と比較して、手術部位の検査など、患者様に接するにあたり部屋の明るさは十分でしたか。
0mm:とても暗かった。
100mm:十分明るかった。
(2)通常の病室と比較して、患者様が快適に過ごせる部屋の明るさでしたか(回答の選択は主観で構いません)。
0mm:とても暗かった。
100mm:十分明るかった。
(3)通常の病室と比較して、カルテ等の文字は判読しやすかったですか。
0mm:とても判読しにくかった。
100mm:とても判読しやすかった。
(4)通常の病室と比較して、文字は書きやすかったですか。
0mm:とても書きにくかった。
100mm:とても書きやすかった。
【0062】
実施例2の照明装置を用いなかった場合での作業効率についてのアンケートの結果を、以下の表4に示す。実施例2の照明装置を用いた場合での作業効率についてのアンケートの結果を、以下の表5に示す。また、アンケートの結果を
図8に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
表4、表5、及び
図8から明らかなように、実施例2の照明装置を用いた場合は、用いなかった場合と比較して、看護師及び医師の作業効率の低下が抑制された。
【符号の説明】
【0066】
1…照明装置、2…光源、3…フィルタ、4…フィルタ保持具、41…筒体、42…フレーム、5…フード、6…支持部、7…クリップ、101…照明装置、102…光源、103…フィルタ、108…集光レンズ、109…ライトガイド、110…照明レンズ。