(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007182
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】樹脂可塑化方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B29B 11/06 20060101AFI20250109BHJP
B29B 11/08 20060101ALI20250109BHJP
B29B 11/10 20060101ALI20250109BHJP
B29C 48/76 20190101ALI20250109BHJP
B29C 48/80 20190101ALI20250109BHJP
B29C 48/285 20190101ALI20250109BHJP
B29C 45/46 20060101ALI20250109BHJP
B29C 45/63 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B29B11/06
B29B11/08
B29B11/10
B29C48/76
B29C48/80
B29C48/285
B29C45/46
B29C45/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108408
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】523250809
【氏名又は名称】住田 嘉久
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】住田 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】居野家 博之
【テーマコード(参考)】
4F201
4F206
4F207
【Fターム(参考)】
4F201AB25
4F201AG14
4F201AJ08
4F201AR12
4F201BA03
4F201BC01
4F201BC02
4F201BC13
4F201BD04
4F201BD05
4F206AB25
4F206AM32
4F206JA07
4F206JD03
4F206JL02
4F206JM01
4F206JN05
4F206JQ03
4F206JQ51
4F207AJ08
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KF01
4F207KF02
4F207KK43
4F207KL41
4F207KM14
(57)【要約】
【課題】樹脂乃至補強繊維から不純物等を効果的に除去し、又補強繊維の分散も良好に行える樹脂可塑化方法を提供する。
【解決手段】本発明による樹脂可塑化装置は、加熱シリンダーの先端にガス放出ノズルが設けられており、前記加熱シリンダーは、樹脂原料に含まれている水分が少なくとも前記ガス放出ノズルを含む領域で亜臨界又は超臨界状態となりその後前記ガス放出ノズルから排気されるように温度制御される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の吸湿状態とされた樹脂原料を、ガス放出ノズルが先端に設けられた加熱シリンダーの内部で輸送しながら実行される樹脂可塑化方法であって、
前記樹脂原料を可塑化するステップと、
可塑化された樹脂を加熱、加圧するステップと、
亜臨界又は超臨界状態となった水分をガス放出ノズルの排気口から排気するステップと、
水分が排気されたあとの樹脂をガス放出ノズルの樹脂放出口から放出するステップと、
を備えることを特徴とする樹脂可塑化方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記樹脂原料は、補強繊維を含んでいることを特徴とする樹脂可塑化方法。
【請求項3】
請求項2において、
外部に放出された樹脂は、前記補強繊維の大部分が3ミリメートル以下の短繊維に切断されていることを特徴とする樹脂可塑化方法。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂可塑化方法を実行するための樹脂可塑化装置であって、
加熱シリンダーの先端にガス放出ノズルが設けられており、
前記加熱シリンダーは、樹脂原料に含まれている水分が少なくとも前記ガス放出ノズルを含む領域で亜臨界又は超臨界状態となりその後前記ガス放出ノズルから排気されるように温度制御されることを特徴とする樹脂可塑化装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記樹脂原料は、所定の吸湿状態で前記加熱シリンダーに投入されることを特徴とする樹脂可塑化装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記樹脂原料は補強繊維を含んでいることを特徴とする樹脂可塑化装置。
【請求項7】
請求項4において、
前記樹脂可塑化装置は、押出成形装置を構成していることを特徴とする樹脂可塑化装置。
【請求項8】
請求項4において、
前記樹脂可塑化装置は、射出成形装置を構成していることを特徴とする樹脂可塑化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂原料を可塑化し放出する樹脂可塑化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の強度を高めることを目的として樹脂にグラスファイバーやカーボンファイバー等の補強繊維を含有させる技術がある。例えば次の特許文献には、加熱シリンダーの中間部に形成したベント部から補強用繊維を供給するベント式射出成形機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記のようなベント式射出成形機では、樹脂乃至補強繊維に不純物等が残っておりまた補強繊維の分散が不充分であるため、高品質な成形品が得られ難いという問題があった。これに対して本発明は、樹脂乃至補強繊維から不純物等を効果的に除去し、又補強繊維の分散も良好に行える樹脂可塑化方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による樹脂可塑化方法は、所定の吸湿状態とされた樹脂原料を、ガス放出ノズルが先端に設けられた加熱シリンダーの内部で輸送しながら実行される樹脂可塑化方法であって、前記樹脂原料を可塑化するステップと、可塑化された樹脂を加熱、加圧するステップと、亜臨界又は超臨界状態となった水分をガス放出ノズルの排気口から排気するステップと、水分が排気されたあとの樹脂をガス放出ノズルの樹脂放出口から放出するステップと、を備えることを特徴とする。
また本発明による樹脂可塑化装置は、前記樹脂可塑化方法を実行するための樹脂可塑化装置であって、加熱シリンダーの先端にガス放出ノズルが設けられており、前記加熱シリンダーは、樹脂原料に含まれている水分が少なくとも前記ガス放出ノズルを含む領域で亜臨界又は超臨界状態となりその後前記ガス放出ノズルから排気されるように温度制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、樹脂乃至補強繊維から不純物等を効果的に除去し、又補強繊維の分散も良好に行える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】樹脂可塑化装置の基本構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1の樹脂可塑化装置による樹脂可塑化方法を示すフロー図である。
【
図3】樹脂可塑化装置の基本構成の他例を示す縦断面図である。
【
図4】
図3の樹脂可塑化装置による樹脂可塑化方法を示すフロー図である。
【
図6】(a)、(b)はいずれも樹脂中の補強繊維の分散状態を示す断面図である。
【
図7】樹脂の補強繊維含有率と引張強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は本発明に係る樹脂可塑化装置の基本構成を示す縦断面図である。この可塑化装置Aは可塑化した樹脂を、ダイBを通じて押し出す押出成形装置を構成している。金型Bは従来のものと同様のものである。なお可塑化装置Aは2軸式とすることも可能である。
【0009】
可塑化装置Aは、加熱シリンダー10の基部にホッパー11が設けられ、中間部にベント部12が設けられ、先端にガス放出ノズル13が設けられている。なお加熱シリンダー10を加熱する電気ヒーターは図示を省略している。
【0010】
ホッパー11は、加熱シリンダー10に投入されるべき樹脂原料(ペレット)を蓄積する容器であり、底部が加熱シリンダー10に連通されている。
【0011】
ベント部12は、可塑化された樹脂に含まれて流動してくる空気、水分、不純物等の気泡を外部に放出するための開口であり加熱シリンダー10の中間部の側面に形成されている。
【0012】
ガス放出ノズル13は、射出ノズルの材料流路に微細なベント部材13aを設け、可塑化が完了した樹脂の流速を速め、樹脂中の水分等をガス化して除去するように構成された特別なノズルである。ガス放出ノズル13にはガス放出口13b、樹脂放出口13cが形成されている。
【0013】
ベント部12及びガス放出ノズル13から放出されたガスは、中間部に有害物質フィルター14を設けた配管15を通じてエアポンプ16によって吸引され外部に放出されるようになっている。
【0014】
スクリュー17は、可塑化された樹脂の圧力を制御するため部位毎に軸経(及びピッチ)が異なっている。スクリュー17の基部はスクリュー17を回転及び前進後退させる駆動部18に接続されている。スクリュー17を回転させることで、ホッパー11に投入された樹脂原料が加熱シリンダー10の内部でガス放出ノズル13の方向に輸送され、その途中で可塑化等の処理がなされる。
【0015】
可塑化すべき樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS、アクリル、ポリアミド、ポリカーボネイト、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂を想定しているが、本発明では、樹脂原料に含まれている水分を利用するので、樹脂原料は所定の吸湿状態であることが望ましく、事前に乾燥処理をする必要はない。例えばポリプロピレンの吸水率は約0.02%、ポリエチレンの吸水率は約0.04%、ABSの吸水率は約0.33%であるが、空気中に一定時間以上保存しておくと、どのような樹脂であっても略飽和するまで吸水するのでそれをそのまま用いればよい。
また樹脂原料は、カーボンファイバーやグラスファイバー等の補強繊維を含んでいてもよい。このとき補強繊維は、直径0.05~10ミクロン程度のものでよい。
【0016】
次いで可塑化装置Aにおける可塑化処理を詳細に説明する。ここで処理対象としては補強繊維を含有したポリプロピレンの樹脂原料を想定している。なお補強繊維はベント部12から供給されてもよい。
【0017】
加熱シリンダー10及びガス放出ノズル13は、樹脂の可塑化及びそれに続く処理のために部位毎に温度制御される。具体的には加熱シリンダー10及びガス放出ノズル13を複数の領域I~Vに区分して領域毎に温度制御する。またスクリュー17はそれらの領域に適合するように部位毎に軸経を異ならせている。
【0018】
具体的には領域Iは樹脂原料を可塑化するため、加熱シリンダー10は100℃~240℃と徐々に高くなるように温度制御する一方、スクリュー17は細い軸経としている。なお樹脂原料間の空気は主にホッパー11から排気される。
領域IIは可塑化されたあとの樹脂を加圧するため、加熱シリンダー10は240℃に温度制御する一方、スクリュー17は太い軸経としている。
領域IIIはベント部12を含む領域であり、樹脂に含まれている不純物、空気、水分の気泡を外部に放出するため、加熱シリンダー10は240℃に温度制御する一方、スクリュー17は細い軸経としている。この領域では樹脂を減圧することでベント部12からの樹脂の噴出が防止される。
領域IVは樹脂を再び加圧するため、加熱シリンダー10は220℃に温度制御する一方、スクリュー17は太い軸経としている。この領域が領域IIIより温度が低いのは樹脂中の水分が減少したため生じやすくなった炭化を防止するためである。
領域Vは樹脂を減圧するために、ガス放出ノズル13は200℃に温度制御する。
なお上記の温度制御は一例であり、樹脂の種別等に応じて加熱シリンダー10の温度制御は適宜設定すればよい。
【0019】
本発明では樹脂原料に通常よりも多くの水分が含まれているので、前記のような温度制御、圧力制御を行えば、領域II、Vにおいて水分が亜臨界状態となって好ましい作用を発揮する。つまり亜臨界水は液体と気体の両方の性質、つまり高流動性、高溶解性を持つため、樹脂及び補強繊維の隙間によく浸透して不純物を溶解するとともに補強繊維の分散を促すという効果を発揮する。そして不純物を吸収した水分は亜臨界状態を脱してベント部12又はガス放出ノズル13のガス放出口13bからガスとして外部に放出される。一方水分が除去された樹脂は、樹脂放出口13cから放出される。
【0020】
なおガス放出ノズル13の温度制御(領域V)は、加熱シリンダー10に対して+40℃~-40℃の範囲、望ましくは-20℃~-30℃の範囲でよく実験的に最適な温度を求めるとよい。
【0021】
図2は、
図1の樹脂可塑化装置による樹脂可塑化方法を示すフロー図である。
この樹脂可塑化方法は、所定の吸湿状態とされた樹脂原料を、ベント部が中間部に設けられ、ガス放出ノズルが先端に設けられた加熱シリンダーの内部で輸送しながら実行される方法である。
具体的な工程としては、樹脂原料を加熱シリンダーに投入するステップS1と、樹脂原料を加熱して可塑化するステップS2と、可塑化された樹脂を更に加熱、加圧するステップS3と、不純物等をベント部の排気口から排気するステップS4と、樹脂を再び加熱、加圧するステップS5と、亜臨界又は超臨界状態の水分をガス放出ノズルの排気口から排気するステップS6と、水分が排気されたあとの樹脂をガス放出ノズルの樹脂放出口から放出するステップS7とを備えることを特徴とする。
ここでステップS2~S6はそれぞれ前記の領域I~Vにおける処理に相当している。
【0022】
なおこの樹脂可塑化方法において、樹脂原料は、補強繊維を含んでいてもよい。その場合、可塑化され外部に放出された樹脂では、補強繊維の大部分がスクリューと加熱シリンダーとの境界におけるせん断等によって3ミリメートル以下の短繊維に切断された状態になる。このような短繊維は最終的な樹脂製品に成形されたときその樹脂製品の細部の強化に非常に役立つものである。
またこのような樹脂可塑化及び押出成形によって、樹脂をストランドという長い紐状に押し出して冷却し、ストランドカッターで切断することで短繊維を含んだ高品質な樹脂ペレットが製造できる。
【0023】
図3は、本発明に係る樹脂可塑化装置の基本構成の他例を示す縦断面図である。この可塑化装置Aは可塑化した樹脂を金型Cに射出する射出成形装置を構成している。前記例と共通する要素には同一の参照符号を付けて説明を省略する。
【0024】
この例では前記例と違ってベント部は採用されていない。そのためスクリュー17の中間部に細い軸径の部分もなくなっている。
【0025】
領域VIは樹脂原料を可塑化するため、加熱シリンダー10は100℃~240℃と徐々に高くなるように温度制御する一方、スクリュー17は細い軸経としている。
領域VIIは可塑化されたあとの樹脂を加圧するため、加熱シリンダー10は240℃に温度制御する一方、スクリュー17は太い軸経としている。この領域VII及び領域VIIIにおいて樹脂の射出のためにスクリュー17が前進したときに水分は亜臨界状態になる。
【0026】
図4は、
図3の樹脂可塑化装置による樹脂可塑化方法を示すフロー図である。
この樹脂可塑化方法は、所定の吸湿状態とされた樹脂原料を、ガス放出ノズルが先端に設けられた加熱シリンダーの内部で輸送しながら実行される方法である。
具体的な工程としては、樹脂原料を加熱シリンダーに投入するステップS8と、樹脂を可塑化するステップS9と、樹脂を加熱、加圧するステップS10と、亜臨界又は超臨界状態の水分をガス放出ノズルの排気口から排気するステップS11と、水分が排気されたあとの樹脂をガス放出ノズルの樹脂放出口から放出するステップS12とを備えることを特徴とする。
ここでステップS9~S11は、領域VI~VIIIにおける処理に相当している。
【0027】
以上のように本発明に係る樹脂可塑化装置、樹脂可塑化方法では、亜臨界水の効果により、最終的に得られる成形品は不純物及び気泡が少ない高品質なものになる。また補強繊維を含有させている場合は、補強繊維を収束しているサイジング剤(主にエポキシ樹脂)も除去されるので樹脂と補強繊維との結合性も良くなる。
【0028】
図5は水の相図である。水は温度及び圧力によって固体、液体、気体の三相の状態になるが、臨界点(374℃、22MPa)以上の温度、圧力の領域においては超臨界状態になる。超臨界状態において水は気体と液体の両方の性質、例えば気体的な性質として伸縮性、高浸透性(低表面張力)、液体としての性質として高溶解性を示す。しかしながら例としたポリプロピレンでは樹脂特性から水分を超臨界状態にはできないので、それよりも温度、圧力が低い亜臨界状態として利用する。そのような亜臨界状態を図中に斜線領域Xとして示している。この亜臨界状態における水分は略液体であるが、通常の水分に対して十分な超臨界的性質を示す。亜臨界状態の水分はベント部及びガス放出ノズルにおいて減圧することで気体状態になる。
なお樹脂の種別によれば同様の装置によって樹脂中の水分を超臨界状態にすることも可能と考えられ、その場合には本発明の効果がより一層発揮される。
【0029】
図6(a)、(b)はいずれも樹脂中の補強繊維の分散状態を示す断面図である。
図6(a)はガス放出ノズルを備えない従来の可塑化装置から放出された樹脂の断面図であるが、樹脂M中において補強繊維Fが複数個所に局在した状態になっている。これは補強繊維Fがサイジング剤でコーティングされていること、補強繊維F間に樹脂Mが浸透し難いいこと等が原因であると考えられる。
一方
図6(b)はガス放出ノズルを備えた本発明に係る可塑化装置から放出された樹脂の断面図であるが、樹脂M中に補強繊維Fが略一様に分散した状態になっている。これは補強繊維F間に亜臨界状態の水分が浸透すること、サイジング剤が水分に吸収されて補強繊維Fが分散しやすくなること等が原因であると考えられる。
【0030】
図7は、樹脂の補強繊維含有率と引張強度との関係を示すグラフである。グラフ中に従来の可塑化装置による成形品のデータ分布と、本発明に係る可塑化装置による成形品のデータ分布をそれぞれ斜線領域Y、Zに示す。補強繊維含有率と引張強度との関係では基本的にある特定の補強繊維含有率において引張強度が最大になると考えられるが、従来の可塑化装置による成形品よりも、本発明に係る可塑化装置による成形品の方が全般的により高い引張強度を示す。これは後者の方が補強繊維の分散性が高くまた補強繊維と樹脂との結合がサイジング剤の除去等により強固になっているためと考えられる。
【符号の説明】
【0031】
A 樹脂可塑化装置
10 加熱シリンダー
13 ガス放出ノズル