(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007186
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】樹脂可塑化射出装置及び樹脂成型品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108415
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】516046617
【氏名又は名称】居野家 博之
(71)【出願人】
【識別番号】523250810
【氏名又は名称】住田 嘉久
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】居野家 博之
(72)【発明者】
【氏名】住田 嘉久
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA11
4F206AB25
4F206AD16
4F206AD32
4F206JA07
4F206JD04
4F206JD05
4F206JE21
4F206JL02
4F206JM01
4F206JN03
4F206JN05
4F206JP30
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】樹脂乃至補強繊維から不純物等を効果的に除去し、又補強繊維の分散も良好に行えるようにする。
【解決手段】樹脂可塑化射出装置は、補強用連続繊維を内部に導入するためのベント開口部が中間部上面に形成された可塑化シリンダーと、前記ベント開口部の上方に配置され、前記補強用連続繊維を連続的に供給する連続繊維供給手段と、前記ベント開口部と前記連続繊維供給手段との間に配置され、前記ベント開口部に導入される前の補強用連続繊維にプラズマ処理を施すプラズマ処理部と、逆流防止機構を介して前記可塑化シリンダーの樹脂放出口に連通された射出シリンダーと、前記射出シリンダーの先端部に結合されたガス放出ノズルとを、備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用連続繊維を内部に導入するためのベント開口部が周壁中間部の上面に形成された可塑化シリンダーと、
前記ベント開口部の上方に配置され、前記補強用連続繊維を連続的に供給する連続繊維供給手段と、
前記ベント開口部と前記連続繊維供給手段との間に配置され、前記ベント開口部に導入される前の補強用連続繊維にプラズマ処理を施すプラズマ処理部と、
逆流防止機構を介して前記可塑化シリンダーの樹脂放出口に連通された射出シリンダーと、
前記射出シリンダーの先端部に結合されたガス放出ノズルとを、
備えたことを特徴とする樹脂可塑化射出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記逆流防止機構は、前記可塑化シリンダーに内装されているスクリューを進退させることによって、該スクリューの先端部が前記可塑化シリンダーの先端部に形成された樹脂放出口を閉鎖、開放する構成とされていることを特徴とする樹脂可塑化射出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂可塑化射出装置を用いた樹脂成型品の製造方法であって、
前記可塑化シリンダーの原料投入口に対して、補強用短繊維を含みかつ所定の吸湿状態とされた熱可塑性樹脂原料を供給する工程と、
前記ベント開口部に対して、補強用連続繊維を供給する工程と、
前記射出シリンダーで樹脂中の水分を亜臨界又は超臨界状態とする工程と、
亜臨界又は超臨界状態とされた前記水分を前記ガス放出ノズルから放出させる工程とを含むことを特徴とする樹脂成型品の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記補強用連続繊維、前記補強用短繊維は少なくとも太さが異なることを特徴とする樹脂成型品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂可塑化射出装置及び樹脂成型品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の強度を高めることを目的として樹脂にグラスファイバーやカーボンファイバー等の補強繊維を含有させる技術がある。例えば次の特許文献には、加熱シリンダーの中間部に形成したベント部から補強用繊維を供給する射出成形機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記特許文献の射出成型機では、樹脂乃至補強繊維に不純物等が残っておりまた補強繊維の分散が不充分であるため、高品質な成形品が得られ難いという問題があった。これに対して本発明は、樹脂乃至補強繊維から不純物等を効果的に除去し、又補強繊維の分散も良好に行える樹脂可塑化射出装置及び樹脂成型品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による樹脂可塑化射出装置は、補強用連続繊維を内部に導入するためのベント開口部が周壁中間部の上面に形成された可塑化シリンダーと、前記ベント開口部の上方に配置され、前記補強用連続繊維を連続的に供給する連続繊維供給手段と、前記ベント開口部と前記連続繊維供給手段との間に配置され、前記ベント開口部に導入される前の補強用連続繊維にプラズマ処理を施すプラズマ処理部と、逆流防止機構を介して前記可塑化シリンダーの樹脂放出口に連通された射出シリンダーと、前記射出シリンダーの先端部に結合されたガス放出ノズルとを、備えたことを特徴とする。
【0006】
また本発明による樹脂成型品の製造方法は、前記樹脂可塑化射出装置を用いた樹脂成型品の製造方法であって、前記可塑化シリンダーの原料投入口に対して、補強用短繊維を含みかつ所定の吸湿状態とされた熱可塑性樹脂原料を供給する工程と、前記ベント開口部に対して、補強用連続繊維を供給する工程と、前記射出シリンダーで樹脂中の水分を亜臨界又は超臨界状態とする工程と、亜臨界又は超臨界状態とされた前記水分を前記ガス放出ノズルから放出させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂乃至補強繊維から不純物等を効果的に除去し、又補強繊維の分散も良好に行える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る樹脂可塑化射出装置の縦断面図である。
【
図3】本発明に係る樹脂成型品の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示すように本発明に係る樹脂可塑化射出装置Aは、いわゆるスクリュー・プランジャー型の装置であり、スクリュー10が内装された可塑化シリンダーBと、プランジャー11が内装された射出シリンダーCとを連通させた基本構成になっている。射出シリンダーCと金型Dは接続、分離が可能である。
【0010】
可塑化シリンダーBは、補強用連続繊維を内部に導入するためのベント開口部12が周壁中間部の上面に形成されており、周壁には電熱コイル13が巻設され更に断熱材14で覆われている。可塑化シリンダーBの基部には樹脂原料P(ペレット)を貯留するホッパー15が設けられている。
【0011】
可塑化シリンダーBに内装されるスクリュー10は樹脂原料P及び可塑化された樹脂を前方に輸送するものであり、その基部にはスクリュー10を回転させるためのモーター装置16と、スクリュー10を前進、後退させるための油圧装置17が結合されている。スクリュー10の軸径及びらせん歯の形状は部位毎に異なっている。
【0012】
連続繊維供給手段18は、ベント開口部12の上方に配置されている。この例では、補強用連続繊維が巻かれたボビンとしているが糸道等は省略している。補強用連続繊維は例えばカーボンファイバーやグラスファイバーであるが、これに限定されない。
【0013】
プラズマ処理部19は、ベント開口部12と連続繊維供給手段18との間の繊維輸送経路に配置されており、補強用連続繊維が挿通される処理室19aと、ガス供給装置19bと、電源装置19cとで構成されている。このプラズマ処理は常温常圧でよく、ガスとしては酸素、水素、窒素、アルゴン、アンモニア等が利用可能である。プラズマ処理は、親水性を向上させ、また補強用連続繊維の繊維を収束しているサイジング剤(エポキシ樹脂)等を除去する作用がある。
【0014】
逆流防止機構20は、射出シリンダーCから樹脂を射出するときに樹脂が可塑化シリンダーBに逆流することを防止するためのものである。逆流防止機構20は、可塑化シリンダーBから射出シリンダーCへ樹脂を送る間は可塑化シリンダーBの先端部に形成された樹脂放出口に一定の隙間を維持する一方、射出シリンダーCから樹脂を射出する間は可塑化シリンダーBの樹脂放出口を完全に閉鎖する構成とすれば、補強用連続繊維の過度な破断を抑えること可能になる。
【0015】
そのための具体例として、逆流防止機構20は、例えば可塑化シリンダーBに内装されているスクリュー10を進退させることによって、スクリュー10の先端部が可塑化シリンダーBの樹脂放出口を閉鎖、開放する構成としてもよい。
【0016】
射出シリンダーCは、逆流防止機構20を介して可塑化シリンダーBの樹脂放出口から連通されており、先端部にガス放出ノズル21が設けられている。射出シリンダーCの周壁には電熱コイル13が巻設され更に断熱材14で覆われている。
【0017】
射出シリンダーCに内装されるプランジャー11は、射出シリンダーC内の樹脂を加圧して射出させるためのものであり、その基部にはプランジャー11を前進、後退させるための油圧装置17が結合されている。
【0018】
ガス放出ノズル21は、可塑化が完了した樹脂の流速を速め、樹脂中の水分等をガス化して除去するように構成された特別なノズルであり、射出シリンダーCの先端部に配置されている。
【0019】
次いで、前記可塑化射出装置Aを用いた樹脂成型品の製造方法を説明する。
この製造方法は、補強用長繊維と補強用短繊維とを含んだ樹脂成型品を目的としたものであり、次のような特徴を持つ。
すなわち製造方法は、可塑化シリンダーBの原料投入口に対して、補強用短繊維を含みかつ所定の吸湿状態とされた樹脂原料Pを供給する工程と、ベント開口部12に対して、補強用連続繊維を供給する工程と、ガス放出ノズル21を含む射出シリンダーCの一部領域で樹脂中の水分を亜臨界又は超臨界状態とする工程と、その水分をガス放出ノズル21から放出させる工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
ここで樹脂原料Pはポリプロピレンと想定して製造方法を更に説明する。
図2に示すように、樹脂原料Pは母材Mと補強用短繊維Sとが混錬されたものであり所定の吸湿状態とされている。ここに補強用短繊維は例えば平均直径1μ長さ10~100μ程度のカーボンファイバーであり、また吸湿状態は吸水率に略等しい0.02%程度であると想定する。なお樹脂原料Pは一定時間以上通常保存しておくと吸水率に略等しい吸湿状態になるので、本発明では特に乾燥処理をせずに樹脂原料Pをそのまま使用すればよい。
【0021】
可塑化シリンダーBでは、部位毎に温度、圧力が制御され、スクリュー10を回転させることによって、ホッパー15に貯留されている樹脂原料Pをシリンダーに導入して先端側に輸送しながら可塑化、ベント(ガス放出)、補強用連続繊維の投入等の各種処理を行う。スクリュー10の回転は、可塑化シリンダーBから射出シリンダーCに樹脂を輸送、充填するタイミングで行えばよく、そのときスクリュー10を後退位置とすることで逆流防止機構20は開状態になっている。このとき射出シリンダーCのプランジャー11は樹脂の充填に合わせて徐々に後退させればよい。
【0022】
更に詳細に説明すると、可塑化シリンダーBでは、樹脂投入口22からベント開口部12までの領域において、可塑化及び加圧のため温度を100℃~240℃まで段階的に上げて可塑化しつつ圧力も段階的に上げて空気を樹脂投入口22に逃がすようにする。温度の制御は電熱コイル13の制御になされ、圧力の制御はスクリュー10の軸径、ピッチの制御により予め設定されている。
ベント開口部12においては、温度は280℃を保つ一方、樹脂の噴出を防止するため圧力を下げる。ベント開口部12から揮発性の不純物、空気、水分等が排気されると同時に、補強用連続繊維がシリンダーに導入される。補強用連続繊維は、補強用短繊維と同一の素材のものでも異なった素材のものでもよい。また補強用連続繊維は、強度の点から補強用短繊維よりも大きな直径のもの例えば直径10~20μのものが望ましい。ここで補強用連続繊維は既にプラズマ処理によってサイジング剤の一部が除去された状態である。そして補強用連続繊維は、樹脂と混錬されながらスクリュー10の回転等によって繰り返し切断されて、平均長さ0.5ミリ程度の長繊維となる。
ベント開口部12よりも前方の領域においては、樹脂の炭化を防止するため温度を220℃に下げる一方、圧力を上げてベント開口部12からの空気の侵入を防止する。
可塑化シリンダーBから射出シリンダーCへの樹脂の輸送、充填が終われば、スクリュー10を前進させることで、逆流防止機構20を閉状態にする。
【0023】
一方、射出シリンダーCは、シリンダー本体とガス放出ノズル21とで異なる温度制御を行うとよい。すなわちシリンダー本体は220℃として樹脂の炭化を防ぎ、ガス放出ノズル21は200℃として水分の放出に適したものにするとよい。
金型Dへ樹脂を射出する際にはプランジャー11を前進させるのであるが、これにより樹脂が強く加圧されて樹脂中の水分が亜臨界状態になる。
亜臨界状態となった水分は、通常の水分よりも高い流動性、溶解性を示す。具体的には樹脂及び補強短繊維、長繊維の隙間によく浸透して分散を促すとともに、残存しているサイジング剤を分解、溶解するという効果を発揮する。サイジング剤が除去されると樹脂成型品における樹脂と補強用短繊維、長繊維との結合状態も良くなる。
そして亜臨界状態の水分を含んだ樹脂は、金型Dに射出される直前、すなわちガス放出ノズル21を通過する際に加速、減圧されて水分がガス放出ノズル21から外部に放出される。
【0024】
図3に示すように、製造方法の工程をまとめると次のようになる。ここに示す工程は同一の樹脂原料に対する処理を時系列的に示したものであって、実際には一部の工程は並列同時に実行される。
ステップS1は可塑化シリンダーに樹脂原料を投入する工程である。
ステップS2は樹脂原料を可塑化し加圧する工程である。
ステップS3は樹脂を減圧しベントする工程である。
ステップS4は補強用連続繊維をプラズマ処理する工程である。
ステップS5はプラズマ処理された補強用連続繊維を可塑化シリンダーに投入する工程である。
ステップS6は樹脂を加圧する工程である。
ステップS7は樹脂を可塑化シリンダーから射出シリンダーへ輸送、充填する工程である。この工程のあと逆流防止機構は閉状態にされる。
ステップS8は樹脂を加圧して樹脂中の水分を亜臨界状態にする工程である。
ステップS9は水分をガス放出ノズルから放出させる工程である。
ステップS10は樹脂を金型に射出する工程である。
【0025】
最後に本発明による樹脂成型品を、ネジ型の成形品について具体的に説明する。
図4に示すように、本発明による樹脂成型品Xは母材Mに補強用長繊維L、短繊維Sが分散された状態となる。より詳細には補強用長繊維Lは主に成形品の厚みのある部分に分散するのに対して、補強用短繊維Sは成形品の細部を含めて全体に均一に分散する傾向になる。そのため成型品は全体として曲げや折れに強く、また細部も砕け難いという非常に丈夫なものになる。
【0026】
なお以上の説明では樹脂の種別としてポリプロピレンを例に説明したが、本発明はポリエチレン、ABS、アクリル、ポリアミド、ポリカーボネイト、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂にも適用できる。また射出シリンダーにおいて樹脂中の水分を亜臨界状態としていたが、樹脂の種別によっては超臨界状態とすることも可能であり、そうした場合は更に良好にサイジング剤の除去や補強用繊維の分散がなされると考えられる。
【符号の説明】
【0027】
A 樹脂可塑化射出装置
B 可塑化シリンダー
C 射出シリンダー
12 ベント開口部
18 連続繊維供給手段
19 プラズマ処理部
20 逆流防止機構
21 ガス放出ノズル