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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007188
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】固体光源用電源装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 45/36 20200101AFI20250109BHJP
   H05B 45/10 20200101ALI20250109BHJP
   H05B 47/105 20200101ALI20250109BHJP
【FI】
H05B45/36
H05B45/10
H05B47/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108418
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】392000486
【氏名又は名称】株式会社エルム
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮原 隆和
(72)【発明者】
【氏名】西 輝之
【テーマコード(参考)】
3K273
【Fターム(参考)】
3K273AA09
3K273BA03
3K273BA25
3K273CA02
3K273CA03
3K273CA25
3K273FA03
3K273FA14
3K273FA26
3K273GA08
3K273GA10
3K273GA17
3K273GA28
3K273GA29
(57)【要約】
【課題】調光装置で設定される固体光源の照度が小さい場合にも固体光源の発光にちらつきが生じることを抑えることができる固体光源用電源装置を提供する。
【解決手段】固体光源用電源装置(21)は、調光装置(10)の出力に基づいて固体光源(22)に電力を供給する装置であって、前記調光装置の出力を入力し、該出力の実効電圧を検出して、該実効電圧の値を出力する実効電圧検出部(33)と、前記実効電圧検出部の出力側に設けられた、ベッセルフィルタを用いたローパスフィルタ(35)と、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を変化させるカットオフ周波数変更部(34)と、前記ローパスフィルタの出力に基づき、パルス幅変調信号を生成するPWM部(36)と、前記調光装置の出力より、前記PWM部の出力に応じたパルス状直流電流を生成し、前記固体光源に供給する点灯部(28)とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調光装置の出力に基づいて固体光源に電力を供給する装置であって、
a) 前記調光装置の出力を入力し、該出力の実効電圧を検出して、該実効電圧の値を出力する実効電圧検出部と、
b) 前記実効電圧検出部の出力側に設けられた、ベッセルフィルタを用いたローパスフィルタと、
c) 前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を、前記実効電圧検出部が検出した実効電圧に応じて変化させるカットオフ周波数変更部と、
d) 前記ローパスフィルタの出力に基づき、パルス幅変調信号を生成するPWM部と、
e) 前記調光装置の出力より、前記PWM部の出力に応じたパルス状直流電流を生成し、前記固体光源に供給する点灯部と
を備える固体光源用電源装置。
【請求項2】
前記実効電圧検出部が、調光装置から出力される電圧を入力してアナログ/デジタル変換した出力に基づいて前記実効電圧を検出するものである、請求項1に記載の固体光源用電源装置。
【請求項3】
前記実効電圧検出部が、前記調光装置から出力される位相制御された電圧の通電期間又は非通電期間を検出し、それら通電期間又は非通電期間に基づいて前記実効電圧を検出するものである、請求項1に記載の固体光源用電源装置。
【請求項4】
前記ローパスフィルタが2次のベッセルフィルタである、請求項1に記載の固体光源用電源装置。
【請求項5】
前記カットオフ周波数変更部が、前記実効電圧検出部で検出された前記実効電圧に正の比例係数で比例するように前記カットオフ周波数を変更するものである、請求項4に記載の固体光源用電源装置。
【請求項6】
前記実効電圧検出部が、前記調光装置の出力に含まれるスパイクノイズを除去する処理を行ったうえで前記実効電圧の検出を行うものである、請求項1に記載の固体光源用電源装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の固体光源用電源装置と、前記点灯部の出力側に接続された固体光源とを備える照明装置。
【請求項8】
請求項7に記載の照明装置と、前記実効電圧検出部の入力側に接続された調光装置とを備える照明システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)やエレクトロルミネセンス(Electro Luminescence:EL)等の固体光源(Solid State Lighting:SSL)用の電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs等で求められている気候変動(地球温暖化)対策の一環としてエネルギー効率の良いSSLを利用した照明器具が多用されるようになってきている。例えば、スタジオや舞台等の照明においては、従来より商用電源の位相制御による調光装置が多用されており、そのような従来の調光装置に接続された照明器具もSSL(特にLED)化が進んでいる。SSLはタングステン電球等の白熱電球に比べて応答速度が極めて速いため、ノイズ等を原因として電圧が短期的に変動した際に明るさが変化するという、いわゆる「ちらつき」が発生しやすい。特にスタジオや舞台等の照明では、演出上、照度を下げて仄かな明るさとする機会が多く、従来の調光装置にSSLを接続すると、そのような仄かな明るさとした際にちらつきが目立つ、という問題が生じる。
【0003】
特許文献1には、そのようなLED(SSL)の発光のちらつきを防止するために用いられるLED用の点灯装置が記載されている。この点灯装置は、調光装置から出力される位相制御された電力を分岐させて電源回路及び制御回路に入力する。電源回路は入力された電力を整流回路及び平滑回路により直流にして変換回路に入力する。変換回路はスイッチング素子を備えており、次に述べる制御回路による制御によりON/OFF制御される。制御回路は、入力された電力を所定のサンプリング間隔(例えば185.12マイクロ秒)でデジタル信号に変換し、所定のサンプリング個数(例えば4~30の範囲内)のデジタル値につき移動平均値を演算し、得られた演算結果に対応するデューティ比を有するPWM(パルス幅変調)信号を変換回路に出力する。変換回路では、電源回路から入力される直流の電力を、制御回路から入力されたPWM信号のデューティ比でON/OFFすることにより、該デューティ比に対応する照度(光出力、明るさ)でLEDを点灯させる。ここで調光装置から出力されるアナログ電力をサンプリングしたデジタル信号をそのまま用いるのではなく、その値の移動平均値を用いて照度を設定することにより、調光装置の出力電圧に短期的な変動が生じたときに照度が変動することを抑え、それによりちらつきを抑えることができる。特許文献2では特許文献1よりもサンプリング間隔を短く(10マイクロ秒)すると共に移動平均値を演算する時間間隔を長く(250ミリ秒)しており、調光装置の出力電圧の短期的な変動に伴う照度の変動がより抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-207364号公報
【特許文献2】特開2017-220438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の調光装置では、調光装置の出力電圧(すなわち、調光装置で設定されるLED(SSL)の照度)が比較的高いときにはちらつきを防ぐことができるものの、この電圧を低下させるとちらつきが生じてしまう。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、調光装置で設定される照度が小さい場合にもSSLの発光にちらつきが生じることを抑えることができる、SSL用の電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る固体光源用電源装置は、調光装置の出力に基づいて固体光源に電力を供給する装置であって、
a) 前記調光装置の出力を入力し、該出力の実効電圧を検出して、該実効電圧の値を出力する実効電圧検出部と、
b) 前記実効電圧検出部の出力側に設けられた、ベッセルフィルタを用いたローパスフィルタと、
c) 前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を、前記実効電圧検出部が検出した実効電圧に応じて変化させるカットオフ周波数変更部と、
d) 前記ローパスフィルタの出力に基づき、パルス幅変調信号を生成するPWM部と、
e) 前記調光装置の出力より、前記PWM部の出力に応じたパルス状直流電流を生成し、前記固体光源に供給する点灯部と
を備える。
【0008】
本発明に係る固体光源用電源装置は、電圧制御型調光装置又は位相制御型調光装置に接続して用いることができる。
【0009】
図1に示すように、調光装置の出力は、固体光源を含む照明装置に供給される。本発明に係る固体光源用電源装置は、この照明装置のうち、調光装置の出力と固体光源の間に配置されるものであり、調光装置の出力を電力部分と制御部分に分け、それぞれ入力部と制御部で処理する。
制御部のうち実効電圧検出部では、調光装置の出力を入力し、該出力の実効電圧を検出して、その値を所定の周期で出力する。この実効電圧の検出は、例えば、調光装置から出力される電圧を入力してアナログ/デジタル(A/D)変換した出力に基づいて実行することができる(図2(a))。あるいは、ゼロクロス検出器等を利用して調光装置の出力電圧の導通期間又は非導通期間を計測し、それら導通期間又は非導通期間の値に基づいて実効電圧を算出(検出)してもよい(図2(b))。実効電圧検出部は、検出した実効電力の値をパルス化してローパスフィルタ(LPF)に出力する。
【0010】
実効電圧検出部が実効電圧の値を出力する周期は、商用電源の周期の1/2よりも長い周期となるが、具体的には商用電源の周期の2倍~4倍程度とするのが好ましい。すなわち、商用電源の周波数が50Hzである場合には実効電圧検出部の出力周波数は25Hz~12.5Hz、同周波数が60Hzである場合には30Hz~15Hz程度とする。
【0011】
ローパスフィルタは、実効電圧検出部からの出力のうちカットオフ周波数よりも周波数が高い成分を除去して出力する。その出力はPWM部に与えられる。
カットオフ周波数変更部(cut-off f)は、このローパスフィルタのカットオフ周波数を変更する。このカットオフ周波数の変更は、実効電圧検出部で検出された調光装置からの実効電圧の値に応じて自動的に行う。図2(a)及び図2(b)は、実効電圧検出部で検出された調光装置からの実効電圧の値に応じて自動的にカットオフ周波数の変更を行う回路の例を示している。
【0012】
PWM部は、ローパスフィルタの出力に基づき、それに対応したデューティ比を有するパルス幅信号を生成する。このパルス幅変調信号の周波数は、人がちらつきを認識できない程度に大きく(例えば200Hz)する。
そして点灯部では、入力部で生成された直流電流からPWM部からのパルス信号に基づきパルス電流を生成し、固体電源に供給する。これにより、固体光源が調光装置の出力に対応した照度で発光する。
【0013】
本発明に係る固体光源用電源装置によれば、カットオフ周波数変更部がローパスフィルタのカットオフ周波数を変更することにより、固体光源のちらつきの程度に応じて、そのちらつきを抑えることができる。前記のとおり、カットオフ周波数の変更は、調光装置が出力する実効電圧(調光度)に応じて自動的に行う。
【0014】
ローパスフィルタにはベッセルフィルタ、バターワースフィルタ、チェビシェフフィルタ等があるが、本発明に係る固体光源用電源装置では、それらのいずれも用いることができる。ただし、以下の理由により、このうちベッセルフィルタを用いることが好ましく、特に2次のベッセルフィルタを用いることがより好ましい。
【0015】
ベッセルフィルタは、カットオフ周波数付近における減衰が比較的緩やかである一方、通過域における平坦性が他のローパスデジタフィルタよりも良いという特長を有する。本発明者が発熱電球であるタングステン電球につき、電圧を印加していない状態から或る時刻(時刻t=0とする)に或る電圧V1を印加するようにステップ状に電圧を変化させたときの照度の時間変化を測定したところ、時刻t=0からタングステン電球の照度が最大となる一定値に達するまでの照度の変化(過渡応答)と、ベッセルフィルタ(特に2次のベッセルフィルタ)のステップ応答関数が近似していることが判明した。ここでステップ応答関数は、フィルタの特性を示す周波数の関数である伝達関数を逆ラプラス変換することで得られる時間の関数であって、定数としてカットオフ周波数を含む。タングステン電球に印加する電圧V1毎にステップ応答関数のカットオフ周波数を設定することにより、各電圧V1における過渡応答とステップ応答関数を近似させることができる。これにより、ステップ応答関数をタングステン電球の過渡応答に合わせるようにカットオフ周波数を設定すれば、タングステン電球と同等の動的特性を有し、ちらつきの発生が抑えられた固体光源の調光を実現することができる。
【0016】
前記ローパスフィルタが2次のベッセルフィルタである場合には、該カットオフ周波数変更部は、調光装置の出力の実効電圧に正の比例係数で比例するように前記カットオフ周波数を変更するものであることが好ましい。これにより、タングステン電球の過渡応答により近いデジタルフィルタを設定することができる。
【0017】
本発明においてさらに、前記実効電圧検出部が前記調光装置の出力に含まれるスパイクノイズを除去するスパイクノイズ除去フィルタを有する、という構成を取ることができる(図2(a))。これにより、実効電圧検出部が出力するデジタル信号へのスパイクノイズの影響を除去することができるため、固体光源のちらつきをより確実に抑えることができる。スパイクノイズ除去フィルタには、例えば調光装置の出力をA/D変換したデジタル信号の強度値の移動平均を取るものや、そのような移動平均を取る際に強度値の最大値及び/又は最小値を除いて平均を取るものを用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、調光装置で設定される照度が小さい場合にも固体光源の発光にちらつきが生じることを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る固体光源(SSL)用電源装置の一実施形態である電源装置の構成を示すブロック図。
図2】本実施形態の電源装置における制御部の2つの例の機能ブロック図であり、(a)はA/D変換により実効電圧を検出するもの、(b)は導通/非導通期間の計測により実効電圧を計測するもの。
図3】PAR64型タングステン電球(500W)及びその代替品であるLEDライトにつき、電圧0の状態から100Vの電圧を印加したときの照度の過渡応答を示すグラフ。
図4】PAR64型タングステン電球及びその代替品であるLEDライトにつき、100Vの電圧を印加した状態から電圧を遮断したときの照度の過渡応答を示すグラフ。
図5】PAR36型タングステン電球(300W)及びその代替品であるLEDライトにつき、電圧0の状態から100Vの電圧を印加したときの照度の過渡応答を示すグラフ。
図6】PAR36型タングステン電球及びその代替品であるLEDライトにつき、100Vの電圧を印加した状態から電圧を遮断したときの照度の過渡応答を示すグラフ。
図7】PAR64型タングステン電球に異なる電圧(100V, 40V, 20V)を印加したときの照度の過渡応答及びそれに対応する2次のベッセルフィルタの過渡応答を示すグラフ。
図8】PAR64型タングステン電球につき、印加する電圧と2次のベッセルフィルタのカットオフ周波数の関係を示す実測値及びその線形近似を示すグラフ。
図9】PAR36型タングステン電球につき、印加する電圧と2次のベッセルフィルタのカットオフ周波数の関係を示す実測値及びその線形近似を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図9を参照しつつ、本発明に係る固体光源(SSL)用電源装置の一実施形態である、LED用電源装置を説明する。なお、EL等の他の固体光源を用いる場合にも、本実施形態の構成を適用することができる。
【0021】
図1は、本発明の一本実施形態である電源装置21を含むLED照明装置20と、調光装置10と、を備える照明システム1の電気的構造を示すブロック図である。本実施形態の電源装置21は調光装置10から電力を受け、固体光源としてのLED22を調光装置10で設定された照度で点灯させる。本電源装置21は入力部23、制御部27、点灯部28等を含み、入力部23には力率改善回路が含まれる。制御部27はCPUにより構成される。
【0022】
位相制御型調光装置10からは、そこで指定された照度に対応する実効電圧を持つ交流電圧が入力される。調光装置10からの入力は入力部23の力率改善回路で直流電圧に変換される。この直流電圧を元に、制御用電源部25は制御部27を動作させるための5V程度の電圧を生成する。入力部は、後述する電源断時の時定数を大きくするために必要なエネルギーを保持させるために、容量の大きいコンデンサ24を内蔵させることが望ましい。同様に制御用電源部25も、電源断時に必要な時間だけ制御を維持することができるように、小型のスーパーキャパシタ等の蓄電機能を持つことが望ましい。
【0023】
制御部27は、調光装置10からの出力される交流電圧を分圧回路26により降圧し、以下に述べる信号処理を行う。制御部27には、2つのタイプのものがある。一つは図2(a)に示すように、調光装置10の出力をA/D変換で高速サンプリングすることによりデジタル的に実効電圧を算出するものであり、もう一つは図2(b)に示すように、ゼロクロス変換器を用いて調光装置の出力の導通期間と非導通期間を測定し、それに基づき実効電圧を算出するものである。
【0024】
以下、A/D変換のタイプについて説明を行う。このタイプの制御部では、調光装置10からの出力をA/D変換器31に入力し、そこで所定のサンプリング周波数で電圧値をデジタル信号とする。サンプリング周波数は、例えば電源周波数の256倍程度とする。すなわち、電源周波数が60Hzであれば15.36kHz、電源周波数が50Hzであれば12.80kHz程度となる。このようにサンプリングされたデジタル信号に対して移動平均法等の処理を行うことにより、調光装置の出力の実効電圧を検出する(実効電圧検出部33)。ここで移動平均法の処理を行うことは、調光装置の出力に含まれるスパイク状のノイズの影響を緩和する役割を併せ持つ。さらに、実効電圧を算出する際に、A/D変換器31から入力されるデジタル信号のうちの最大値及び/又は最小値を除去したうえで平均を取る処理を行うことにより、スパイク状のノイズをより確実に除去するようにしてもよい(ノイズ除去回路32)。
【0025】
このようにして得られた調光装置の出力の実効電圧に対して、ローパスフィルタ(LPF)35によるフィルタ処理を行う。ここで、ローパスフィルタ35のカットオフ周波数(cut off f)34は、先に検出した実効電圧により変更される。本実施形態では、カットオフ周波数は実効電圧の大きさに対応させて変化させる。
【0026】
PWM発生器36は、所定の周波数(例えば200Hz)のパルス信号を生成するとともに、そのデューティ比を、ローパスフィルタ35の出力に対応する値とする。こうして、調光装置10からの出力の実効電圧に対応する、すなわち、調光装置で設定された照度値に対応するデューティ比を有するPWM信号が点灯部28に入力され、点灯部28ではその信号に基づいて入力部23からの直流電流をパルス化してLED22に供給する。こうして、LED22は調光装置10における照度設定に応じた照度で点灯するとともに、電源電圧の急激な変化がローパスフィルタ35により除去され、ちらつきの少ない照明として作動する。
【0027】
以下、図3図9を参照しつつ、本実施形態のLED用電源装置21において実行されるフィルタ処理について説明する。図3図9は、本実施形態で実行するフィルタ処理で用いるデジタルフィルタの種類やカットオフ周波数を決定するための実験結果を示すグラフである。この実験では、(LED等のSSLではなく)白熱電球であるタングステン電球に対して、電圧0の状態から所定の大きさの電圧を印加したときや、所定の大きさの電圧を印加した状態から電圧を遮断(電圧を0に)した場合の照度の時間変化(過渡応答)を求めた。併せて、それらのタングステン電球を代替するLEDライトにつき、フィルタ処理を行うことなく同様の電圧の印加及び遮断を行った場合についても同様に照度の過渡応答を求めた。
【0028】
まず、消費電力が500WのPAR64型タングステン電球及びその代替品であるLEDライトにつき、電圧0の状態から100Vの実効電圧を印加したとき(図3)、及び実効電圧100Vを印加した状態から電圧印加を遮断(電圧0に)したとき(図4)の照度の過渡応答を測定した結果を示す。また、消費電力が300WであるPAR36型タングステン電球及びその代替品であるLEDライトについても同様の電圧の印加(図5)及び遮断(図6)を行ったときの照度の過渡応答を測定した結果を示す。いずれの測定結果も、タングステン電球よりもLEDライトの方が照度の変化が急激であることがわかる。このように照度の変化が急激であることが、LEDにおいてノイズ等の瞬間的な電圧の変動が生じたときに照度の変化(ちらつき)が生じ易い理由の1つである。そのため、LEDにおいて、タングステン電球と同等に電圧の変動時に生じる照度の変化を緩やかにするように制御することにより、ちらつきの発生を抑えることができる。
【0029】
そこで本実施形態では、急激な照度の変化を抑えるように、制御部27においてローパスフィルタ35によるデジタル信号処理を行う。ローパスフィルタ35にはベッセルフィルタ、バターワースフィルタ、チェビシェフフィルタ等の種々のものを用いることができるが、本実施形態では以下の実験により、それらの中からタングステン電球の過渡応答に最も近い出力が得られるものを特定した。この実験では、PAR64型及びPAR36型の各タングステン電球に対して、電圧0の状態から100V、40V及び20Vという異なる3つの大きさの実効電圧をそれぞれ印加したときの過渡応答の実験値を求めたうえで、ローパスフィルタの計算式から求められる計算値と対比した。
【0030】
図7に、PAR64型タングステン電球に対する上記3つの実効電圧におけるそれぞれの実験値と、2次のベッセルフィルタを用いて求めた計算値を示す。この例のように入力(電圧)を0から所定値にステップ状に変化させた際の応答を示すステップ応答における2次のベッセルフィルタの計算式は、以下に示す伝達関数G(s)
【数1】

をラプラス変換することにより得られるステップ応答関数y(t)
【数2】

で表される。ここでsはラプラス変数、ωcはカットオフ周波数(角周波数)、Kは定数(ここでは照度の最大値を1に規格化するよう、K=1とした)、ωn=31/2ωc、ζ=(3/2)・(ωcn)、φ=tan-1((1-ζ2)1/2/ζ)である。カットオフ周波数ωcは、各実効電圧の実験値の各々に計算値が最も近付くように、実効電圧毎に定めた。図7に示すように、PAR64型タングステン電球の過渡応答は、印加する実効電圧が小さくなるほど照度の時間変化が緩やかとなる過渡応答を示す。そして、同図に示すように、実効電圧毎のPAR64型タングステン電球の過渡応答は、それぞれ異なるカットオフ周波数を有する2次のベッセルフィルタで近似することができる。照度の時間変化が緩やかなほど、カットオフ周波数は小さくなる。
【0031】
図8に、図7で得られた、PAR64型タングステン電球に印加する実効電圧毎の、対応する2次のベッセルフィルタのカットオフ周波数をグラフで示す。図8に示すように、カットオフ周波数は実効電圧に比例する。PAR36型タングステン電球に関しても同様の実験を行い、実効電圧毎のカットオフ周波数を求めたところ、図9に示すように、カットオフ周波数は実効電圧に(PAR64型のときとは異なる比例係数で)比例する。
【0032】
そこで、カットオフ周波数ωcを、実効電圧Vin及びタングステン電球毎に定まる正の比例係数Aを用いてωc=AVinとする。すなわち、カットオフ周波数変更部34は、実効電圧検出部33から入力される実効電圧Vinが小さくなるほどローパスフィルタ35のカットオフ周波数ωcが小さくなるよう設定(変更)する。この場合、伝達関数G(s)は
【数3】

となる。また、ステップ応答関数y(t)は、ζ=(3/2)・(ωcn)=31/2/2≒0.866、φ=tan-1((1-ζ2)1/2/ζ)≒0.524とすると、
【数4】

となる。
【0033】
従来のSSL用電源装置では、調光装置による照度の指示値に依らずに同じ条件(サンプリング間隔)でノイズ除去の処理を行っていた。そのため、照度の指示値が小さいときには、十分にちらつきの発生を抑えることができなかった。それに対して本実施形態では、調光装置10による照度の指示値が小さくなるほどローパスフィルタ35のカットオフ周波数ωcを小さく設定するため、従来はちらつきが発生しやすかった照度の指示値が小さい場合にも効果的にちらつきの発生を防止することができる。
【0034】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0035】
1…照明システム
10…調光装置
20…LED照明装置
21…電源装置
22…LED
23…入力部
24…コンデンサ
25…制御用電源部
26…分圧回路
27…制御部
28…点灯部
31…A/D変換器
32…ノイズ除去回路
33…実効電圧検出部
34…カットオフ周波数変更部
35…ローパスフィルタ
36…PWM発生器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9