(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007192
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】壁パネル
(51)【国際特許分類】
E04C 2/12 20060101AFI20250109BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
E04C2/12 E
E04B1/94 L
E04B1/94 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108424
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506223037
【氏名又は名称】野村不動産ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500460690
【氏名又は名称】銘建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 義隆
(72)【発明者】
【氏名】滝 悟
(72)【発明者】
【氏名】深津 志向
(72)【発明者】
【氏名】刈内 一博
(72)【発明者】
【氏名】宮竹 靖
【テーマコード(参考)】
2E001
2E162
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA04
2E001FA07
2E001GA42
2E001HC01
2E162CC01
(57)【要約】
【課題】木質の非耐力壁の耐火性を向上させることができる壁パネルを提供する。
【解決手段】建物の非耐力壁を構成するための壁パネルは、壁パネルの厚さ方向の一方側に配置され、木材により形成されている第1木質層と、壁パネルの厚さ方向の他方側に配置され、木材により形成されている第2木質層と、第1木質層と第2木質層との間に配置され、木材により形成されている中間木質層と、を備え、第1木質層および第2木質層のうちの少なくとも一方は、少なくとも内部に難燃剤が含浸された難燃部が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の非耐力壁を構成するための壁パネルであって、
前記壁パネルの厚さ方向の一方側に配置され、木材により形成されている第1木質層と、
前記壁パネルの厚さ方向の他方側に配置され、木材により形成されている第2木質層と、
前記第1木質層と前記第2木質層との間に配置され、木材により形成されている中間木質層と、を備え、
前記第1木質層および前記第2木質層のうちの少なくとも一方は、少なくとも内部に難燃剤が含浸された難燃部が形成されている、
壁パネル。
【請求項2】
前記第1木質層は、前記建物の外側空間に面して配置されており、
前記第2木質層は、前記建物の内側空間に面して配置されており、
前記難燃部は、前記第2木質層の内部に形成されている、
請求項1に記載の壁パネル。
【請求項3】
前記第2木質層には、前記内側空間側の表面から凹む複数の凹部が形成されており、
前記難燃部は、少なくとも前記凹部の周囲に形成されている、
請求項2に記載の壁パネル。
【請求項4】
建物の非耐力壁を構成するための壁パネルであって、
前記壁パネルの厚さ方向の一方側に配置され、木材により形成されている第1木質層と、
前記壁パネルの厚さ方向の他方側に配置され、木材により形成されている第2木質層と、
前記第1木質層と前記第2木質層との間に配置され、木材により形成されている中間木質層と、
前記第1木質層の前記中間木質層側とは反対側の表面、および前記第2木質層の前記中間木質層側とは反対側の表面のうちの少なくとも一方に取り付けられ、不燃材により形成されている不燃層と、を備える、
壁パネル。
【請求項5】
前記第1木質層は、前記建物の外側空間に面して配置されており、
前記不燃層は、前記第2木質層の前記表面に取り付けられる複数の第1板状部材と、前記第1板状部材よりも前記厚さ方向の前記第2木質層側とは反対側に位置する少なくとも1つの第2板状部材と、を含み、
前記少なくとも1つの第2板状部材は、前記少なくとも2つの第1板状部材のそれぞれと重なり合うように配置されている、
請求項4に記載の壁パネル。
【請求項6】
複数の前記第2板状部材のそれぞれは、共通の1つの前記第1板状部材と重なり合うように配置されている、
請求項5に記載の壁パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物の非耐力壁を構成するための壁パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木質の壁は、耐火性を向上させるために様々な工夫がなされている。例えば、特許文献1には、長期荷重を支持するに足り木材からなる荷重支持層と、荷重支持層の外周に配置される燃え止まり層と、燃え止まり層の外周に配置され木材からなる燃えしろ層と、を備える木質構造材が開示されている。また、特許文献2には、荷重を受ける構造部と、構造部の周囲を被覆する被覆部と、構造部と被覆部との間に層状に介在する絶縁部と、を備える木質建築部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-036457号公報
【特許文献2】特開2007-046286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、壁は、建物の構造体の一部として耐力を負担しないと考えられる非耐力壁を含むことがある。しかしながら、特許文献1及び特許文献2のそれぞれに開示されている技術は、耐力を負担すると考えられるもの(構造部材)を対象としており、非耐力壁を対象とするものではない。また、非耐力壁は、建物として要求される構造性能や耐火性能などが耐力壁とは異なっている。このため、非耐力壁に耐力壁と同等の耐火性能を付加するのは経済的に不合理である。
【0005】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、木質の非耐力壁の耐火性を向上させることができる壁パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る壁パネルは、建物の非耐力壁を構成するための壁パネルであって、前記壁パネルの厚さ方向の一方側に配置され、木材により形成されている第1木質層と、前記壁パネルの厚さ方向の他方側に配置され、木材により形成されている第2木質層と、前記第1木質層と前記第2木質層との間に配置され、木材により形成されている中間木質層と、を備え、前記第1木質層および前記第2木質層のうちの少なくとも一方は、少なくとも内部に難燃剤が含浸された難燃部が形成されている。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る壁パネルは、建物の非耐力壁を構成するための壁パネルであって、前記壁パネルの厚さ方向の一方側に配置され、木材により形成されている第1木質層と、前記壁パネルの厚さ方向の他方側に配置され、木材により形成されている第2木質層と、前記第1木質層と前記第2木質層との間に配置され、木材により形成されている中間木質層と、前記第1木質層の前記中間木質層側とは反対側の表面、および前記第2木質層の前記中間木質層側とは反対側の表面のうちの少なくとも一方に取り付けられ、不燃材により形成されている不燃層と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の壁パネルによれば、木質の非耐力壁の耐火性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る壁パネルにより構成された第1の外壁を備える建物の構成を概略的に示す図である。
【
図2】一実施形態に係る壁パネルの構成を概略的に示す図である。
【
図3】一実施形態に係る内層の構成を概略的に示す図である。
【
図4】一実施形態に係る凹部の構成を説明するための拡大図である。
【
図5】別の一実施形態に係る壁パネルの構成を概略的に示す図である。
【
図6】不燃層の構成の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態による壁パネルについて、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
<建物>
図1は、一実施形態に係る壁パネル1により構成された第1の外壁100Aを備える建物200の構成を概略的に示す図である。
図1に例示する形態では、建物200は、外壁100と、屋根102と、上下方向D1に沿って互いに間隔を空けて並べられた複数の床104と、を含んでいる。具体的には、建物200は、地面G上に建てられた8階建ての建物である。尚、建物200の建物構造は、特に限定されず、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、または鉄骨鉄筋コンクリート造等の任意の建物構造が適用される。
【0012】
建物200は、外壁100及び屋根102によって囲われることで内部に内側空間201が形成されている。外壁100は、建物200の内側空間201に面する内壁面106、及び建物200の外側空間203に面する外壁面108を含んでいる。
【0013】
図1に例示する形態では、建物200は、第1の外壁100A(100)と、第2の外壁100B(100)と、を含む。第1の外壁100Aは、建物200の壁のうち建物200の構造体の一部として耐力を負担しない(構造設計上有効とされない)と考えられる非耐力壁である。第1の外壁100Aは、後述する1つの壁パネル1によって構成されてもよいし、複数の壁パネル1を互いに接続させることで構成されてもよい。
【0014】
第2の外壁100Bは、建物200の壁のうち建物200の構造体の一部として耐力を負担すると考えられる耐力壁であり、地震などによる水平力、及び建物200の自重などによる鉛直力のそれぞれに対抗する。第2の外壁100Bは、梁112を介して屋根102や床104に接続されていてもよいし、梁112を介することなく屋根102や床104に接続されていてもよい。
【0015】
図1に例示する形態では、建物200は、内側空間201を仕切り、且つ非耐力壁である内壁110(間仕切壁)をさらに含んでいる。尚、建物200は、内側空間201を仕切り、且つ耐力壁である内壁(間仕切壁)を含んでもよい。
【0016】
<壁パネル>
(構成)
一実施形態に係る壁パネル1の構成について説明する。
図2は、一実施形態に係る壁パネル1の構成を概略的に示す図である。壁パネル1は、上述したように建物200の非耐力壁(第1の外壁100A)を構成する。このような壁パネル1は、
図2に示すように、第1木質層(外層2)と、第2木質層(内層4)と、中間木質層6と、を含む。
【0017】
外層2は、壁パネル1の厚さ方向D2の一方側(外側空間203側)に配置されている。具体的には、外層2は、建物200の外側空間203に面して配置されている。この外層2は、木材Wにより形成されている。具体的には、外層2は、板形状を有するように、長尺の複数の木材Wを小端立てにして、木材Wの短手方向に沿って互いに積層される木質材料、いわゆるNLT(NLT:Nail Laminated Timber)で形成されている。一実施形態では、外層2を形成する木材Wの繊維方向D3aは、上下方向D1に沿って延びている。幾つかの実施形態では、外層2は、集成材又はCLT(CLT:Cross Laminated Timber)で形成されている。
【0018】
一実施形態では、
図2に例示するように、外層2には、外側空間203側の表面8に耐候性塗料10が塗布されている。耐候性塗料10は、特に限定されないが、例えば、シリコン樹脂を含む塗料である。耐候性塗料10は、外層2を形成する木材Wを視認可能であるように透明性を有している。本開示において、外層2の表面8は外側空間203に向いており、外層2の裏面20は中間木質層6に向いている。不図示であるが、幾つかの実施形態では、外層2は、耐候性塗料10に代えて、または耐候性塗料10とともに、表面8に金属板(例えば、ガルバリウム鋼板(登録商標))が取り付けられている。尚、耐候性塗料10は、透明性を有するものに限定されず、カラー塗料であってもよい。
【0019】
内層4は、壁パネル1の厚さ方向D2の他方側(内側空間201側)に配置されている。具体的には、内層4は、建物200の内側空間201に面して配置されている。この内層4は、木材Wにより形成されている。外層2と同様に、内層4は、板形状を有するように、NLTで形成されている。一実施形態では、内層4を形成する木材Wの繊維方向D3bは、上下方向D1に沿って延びている。幾つかの実施形態では、内層4は、集成材又はCLTで形成されている。尚、外層2と内層4とは、互いに同じ樹種の木材Wにより形成されてもよいし、互いに異なる樹種の木材Wにより形成されてもよい。本開示において、内層4の表面14は内側空間201に向いており、内層4の裏面16は中間木質層6に向いている。
【0020】
中間木質層6は、厚さ方向D2において外層2と内層4との間に配置されている。中間木質層6は、木材Wにより形成されている。中間木質層6は、外層2および内層4と同様に、板形状を有するようにNLTで形成されている。一実施形態では、中間木質層6を形成する木材Wの繊維方向D3cは、厚さ方向D2に沿って延びており、外層2の繊維方向D3aおよび内層4の繊維方向D3bのそれぞれと交差している。一実施形態では、外層2、内層4、および中間木質層6のそれぞれは、厚さ方向D2の大きさが互いに同じであり、例えば、20mmである。幾つかの実施形態では、中間木質層6は、ひき板、集成材又はCLTで形成されている。尚、外層2、内層4および中間木質層6のそれぞれは、互いに同じ樹種の木材Wにより形成されてもよいし、互いに異なる樹種の木材Wにより形成されてもよい。例えば、外層2および内層4はオウシュウアカマツにより形成され、中間木質層6はスギにより形成される。
【0021】
一実施形態では、中間木質層6は、難燃性接着剤12を介して、内層4の内側空間201側(厚さ方向D2の他方側)の表面14とは反対側の裏面16に接着されている。さらに、中間木質層6は、難燃性接着剤12を介して、外層2の表面8とは反対側の裏面20に接着されている。難燃性接着剤12は、例えば、レゾルシノール樹脂系接着剤、又は水性高分子イソシアネート系接着剤である。
【0022】
図2に示すように、本開示に係る内層4は、内部に難燃剤Xが含浸された難燃部30が形成されている。難燃剤Xは、例えば、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、リン・窒素系難燃剤、又はホウ酸系難燃剤である。一実施形態では、難燃部30は、内層4の内側空間201側に位置している。一実施形態では、内層4は、表面14にも難燃部30が形成されている。不図示であるが、幾つかの実施形態では、内層4の表面14には、難燃剤Xによって形成される難燃膜が設けられている。
【0023】
図3は、一実施形態に係る内層4の構成を概略的に示す図であって、建物200の内側空間201側から視ている。一実施形態では、
図3に示すように、内層4には、内側空間201側の表面14に開口22を有する複数の凹部24が形成されている。複数の凹部24は、内層4の表面14に、500~10000個/m2の密度で形成されている。好ましくは、複数の凹部24は、内層4の表面14に、1000~5000個/m2の密度で形成されている。凹部24の開口22は、矩形状を有しており、内層4の繊維方向D3bに沿って長手形状を有している。尚、本開示は、凹部24の開口22を矩形状に限定するものではない。幾つかの実施形態では、凹部24の開口22は、楕円形のようなオーバル形状を有している。幾つかの実施形態では、凹部24の開口22は、内層4の繊維方向D3bと直交する方向(左右方向D4)に沿って長手形状を有している。
【0024】
一実施形態では、
図3に示すように、複数の凹部24は、第1の凹部24A(24)と、上下方向D1において第1の凹部24Aと隣接する第2の凹部24B(24)と、を含む。
図3の紙面において上下方向D1と直交する方向を左右方向D4とすると、第1の凹部24Aと第2の凹部24Bとは左右方向D4において互いにずれている(重なり合わない)。幾つかの実施形態では、第1の凹部24Aと第2の凹部24Bは、左右方向D4において少なくとも一部が互いに重なり合っている。
【0025】
一実施形態では、
図3に示すように、複数の凹部24は、左右方向D4に沿って互いに間隔を空けて配置され、且つ、上下方向D1において互いに重なり合う複数の第1の凹部24Aを含む。同様に、複数の凹部24は、左右方向D4に沿って互いに間隔を空けて配置され、且つ、上下方向D1において互いに重なり合う複数の第2の凹部24Bを含む。複数の第1の凹部24Aと複数の第2の凹部24Bとは、上下方向D1において互いにずれている。このように、一実施形態では、複数の凹部24が、内層4の表面14の全体に亘って配置されている。
【0026】
図4は、一実施形態に係る凹部24の構成を説明するための拡大図であって、内層4の一部を内層4の上下方向D1に沿って切断した断面図である。一実施形態では、
図4に示すように、難燃部30は、少なくとも凹部24の周囲に形成されている。難燃部30は、凹部24の表面にも形成されている。内層4の厚みをt1、凹部24の深さをdとした場合に、0.1<d/t1<0.7を満たす。
【0027】
(作用・効果)
一実施形態に係る壁パネル1の作用・効果について説明する。一実施形態によれば、壁パネル1は、内層4の内部及び表面14に難燃部30が形成されている。このため、木質の非耐力壁である第1の外壁100Aの耐火性を向上させることができる。
【0028】
一実施形態によれば、壁パネル1は建物200の非耐力壁を構成するので、建物200の耐力壁を構成する場合とは異なり、構造設計上の規制を受けることなく中間木質層6を、設計することができる。そして、内層4の内部には難燃部30が形成されているので、難燃部30の形成によって壁パネル1の耐火性を向上させた分だけ中間木質層6を薄くし、壁パネル1を薄くしたり、軽量化したりすることができる。
【0029】
一実施形態によれば、壁パネル1は第1の外壁100Aに適用され、難燃部30は、中間木質層6よりも建物200の内側空間201側に位置している。このため、建物200の内側空間201内で火災が発生した際に、難燃部30を含む内層4、中間木質層6および外層2の順で火災の影響を受けるので、第1の外壁100Aの所定の耐火性能(例えば、火災が発生した際に30分以内に焼失しない)の達成が容易となる。また、外層2が建物200の外側空間203に面し、内層4が建物200の内側空間201に面している。つまり、両面に木材Wを視認可能な(木材Wを表しにする)第1の外壁100Aの耐火性を向上させることができる。
【0030】
一実施形態によれば、内層4の表面14に複数の凹部24を形成することで、内層4を形成する木材Wの組織が破壊されている。このため、内層4の表面14から内部への難燃剤Xの含浸を促進させ、難燃部30の形成が速やかに行われる。よって、壁パネル1の生産性を高めることができる。
【0031】
内層4の表面14に凹部24が形成されることで、内層4の表面14から内部への難燃剤Xの含浸を促進可能であるものの、凹部24が多すぎると壁パネル1の製造コストが却って高くなる虞がある。一実施形態によれば、複数の凹部24が500~10000個/m2の密度を満たすので、壁パネル1の製造コストの上昇を抑制しつつ、壁パネル1の生産性を高めることができる。
【0032】
従来、木材Wの内部に難燃剤Xを含浸させる方法として、注薬缶内に投入された木材Wに難燃剤Xを加圧注入する方法がある。しかしながら、加圧注入する方法を適用する場合、例えば、木材に対して減圧・加圧を行うための注薬缶のような大型の設備が必要になってしまう。これに対して、本実施例では、複数の凹部24が形成されている(インサイジング処理が施されている)内層4の表面14に難燃剤Xを塗布することで、加圧注入することなく難燃部30を含む内層4を製造できるようにした。このため、一実施形態によれば、内層4の表面14には500~10000個/m2の密度を満たす複数の凹部24が形成されている(インサイジング処理が施されている)ので、減圧・加圧のための大型の設備が不要となり、設備の小型化を図ることができる。
【0033】
また、難燃剤Xを木材Wの内部に加圧注入する場合には、加圧注入にかかる時間に加え、薬液注入後に木材Wの長時間の乾燥時間が必要となり、難燃部30を含む内層4の製造期間が長くなってしまう。これに対して、インサイジング処理を行う一実施形態によれば、複数の凹部24を形成し、そこに難燃剤Xを塗布することによって内層4が製造される。そして、複数の凹部24の存在により乾燥時間も大幅に短縮できるため、内層4の製造期間を短くすることができる。尚、本開示は、内層4の製造をインサイジング処理の後に難燃剤Xを塗布することに限定するものではない。幾つかの実施形態では、内層4は、インサイジング処理を行わずに難燃剤Xが塗布されることによって製造される。
【0034】
木材Wにより形成されている内層4は、内層4の繊維方向D3bに沿って長手形状を有していることが多い。一実施形態によれば、凹部24の開口22が内層4の繊維方向D3bに沿って長手形状を有しているので、内層4の繊維方向D3bおよび凹部24の開口22の長手方向を互いに揃えることで、内層4への凹部24の形成を容易化することができる。例えば、内層4に凹部24を形成する際に、回転する一対の破砕刃の間に内層4を通過させる回数を抑制することができる。
【0035】
一実施形態によれば、難燃剤Xは、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、リン・窒素系難燃剤、又はホウ酸系難燃剤を含むので、火災が発生した際に、内層4を形成する木材Wの熱分解を遅らせることができる。難燃剤Xがリン・窒素系難燃剤である場合を例にして具体的に説明すると、火災が発生した際に、内層4の木材Wの熱分解前に、リン成分が炭化層を形成する。さらに、窒素成分が発泡し、可燃性ガスを希釈し、炭化層を膨張させる。このため、難燃部30よりも外側空間203側に位置する壁パネル1の部材(外層2や中間木質層6)を保護可能な第1の外壁100A(非耐力壁)を提供することができる。
【0036】
尚、一実施形態では、
図2に例示して説明したように、難燃部30は、内層4の内側空間201側(内層4の内部及び表面14)に位置していたが、本開示は、この形態に限定されない。難燃部30は、内層4の少なくとも内部に形成されていればよい。
【0037】
一実施形態によれば、中間木質層6は、難燃性接着剤12を介して、内層4の裏面16及び外層2の裏面20のそれぞれに接着されている。このため、中間木質層6に外層2及び内層4の両方を接着させるとともに、第1の外壁100Aの耐火性を高めることができる。さらに、中間木質層6は、木材Wにより形成されているので、後述するような不燃材Mにより形成されている場合と比較して、外層2および内層4への接着性を高め、外層2と内層4とをより一体化させることができる。一実施形態によれば、外層2の表面8には耐候性塗料10が塗布されているので、天候による外層2の損傷を抑制することができる。
【0038】
別の一実施形態に係る壁パネル1Aについて説明する。
図5は、別の一実施形態に係る壁パネル1Aの構成を概略的に示す図である。
図5に例示する形態では、壁パネル1Aは、
図2を参照して説明した壁パネル1の難燃部30に代わり、不燃層120を備えている。
図5に例示する形態において、上述した一実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その説明は省略する。
【0039】
図5に例示する形態では、不燃層120は、内層4の表面14に取り付けられている。この不燃層120は、内層4の表面14の全体を覆っている。不燃層120は、不燃材Mにより形成されており、例えば、石膏を主成分として形成された石膏ボードであってもよいし、不燃性シートであってもよい。不燃層120は、内層4の表面14に取り付けられる複数の第1板状部材122と、第1板状部材122よりも厚さ方向D2の内層4側とは反対側に位置する第2板状部材124を含んでいる。複数の第1板状部材122は、下方の第1板状部材122と、下方の第1板状部材122よりも上方に配置される上方の第1板状部材122と、を含んでいる。第2板状部材124は、上下方向D1において、下方の第1板状部材122および上方の第1板状部材122の両方と互いに重なり合うように配置されている。不図示であるが、幾つかの実施形態では、不燃層120は、外層2の表面14に取り付けられている。
【0040】
図5に例示する構成によれば、壁パネル1Aは、内層4の表面14に取り付けられる不燃層120を備える。このため、木質の非耐力壁の耐火性を向上させることができる。また、
図5に例示する構成によれば、下方の第1板状部材122および上方の第1板状部材122のそれぞれは、第2板状部材124を介して互いに接続されている状態になるので、不燃層120を自立させることができる。特に、壁パネル1Aのうち不燃層120よりも中間木質層6側の部分が火災で損傷したとしても、不燃層120を自立させることができる。
【0041】
図6は、不燃層120の構成の一例を説明するための図であって、不燃層120を内側空間201側から視ている。
図6に例示する形態では、不燃層120は、6つの第1板状部材122と、2つの第2板状部材124と、を含んでいる。6つの第1板状部材122のそれぞれは、上下方向D1において2段となるように配置されている。6つの第1板状部材122の下段側には、左右方向D4に沿って並べられる3つの第1板状部材122A、122B、122Cが含まれている。この3つの第1板状部材122A、122B、122Cのそれぞれは、上下方向D1において、互いに同じ位置となるように配置されている。6つの第1板状部材122の上段側には、左右方向D4に沿って並べられる3つの第1板状部材122D、122E、122Fが含まれている。この3つの第1板状部材122D、122E、122Fのそれぞれは、上下方向D1において、互いに同じ位置となるように配置されている。
【0042】
第1板状部材122Aおよび第1板状部材122Dのそれぞれは、左右方向D4において、互いに同じ位置となるように配置されている。第1板状部材122Bおよび第1板状部材122Eのそれぞれは、左右方向D4において、互いに同じ位置となるように配置されている。第1板状部材122Cおよび第1板状部材122Fのそれぞれは、左右方向D4において、互いに同じ位置となるように配置されている。
【0043】
2つの第2板状部材124は、左右方向D4に沿って並べられる左方の第2板状部材124A(124)と、第2板状部材124Aよりも左右方向D4の右側に配置される右方の第2板状部材124B(124)と、を含む。尚、左右方向D4の右側とは、
図6の紙面における右側を指す。左方の第2板状部材124Aおよび右方の第2板状部材124Bのそれぞれは、共通の1つの第1板状部材122と重なり合うように配置されている。
図6に例示する形態では、共通の1つの第1板状部材122は、第1板状部材122Bおよび第1板状部材122Eの両方である。幾つかの実施形態では、複数の第1板状部材122および複数の第2板状部材124のそれぞれは、厚さ方向D2から視た場合に、千鳥状に配置されている。尚、
図6に例示する形態では、少なくとも1つの第2板状部材124は複数の第1板状部材122の一部を覆っているが、少なくとも1つの第2板状部材124は複数の第1板状部材122の全体を覆っていてもよい。
【0044】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0045】
[1]本開示に係る壁パネル(1)は、
建物(200)の非耐力壁を構成するための壁パネルであって、
前記壁パネルの厚さ方向(D2)の一方側に配置され、木材(W)により形成されている第1木質層(2)と、
前記壁パネルの厚さ方向の他方側に配置され、木材により形成されている第2木質層(4)と、
前記第1木質層と前記第2木質層との間に配置され、木材により形成されている中間木質層(6)と、を備え、
前記第1木質層および前記第2木質層のうちの少なくとも一方は、少なくとも内部に難燃剤(X)が含浸された難燃部(30)が形成されている。
【0046】
上記[1]に記載の構成によれば、壁パネルは、第1木質層及び第2木質層のうちの少なくとも一方の内部には難燃部が形成されている。このため、木質の非耐力壁の耐火性を向上させることができる。
【0047】
また、上記[1]に記載の構成によれば、壁パネルは建物の非耐力壁を構成するので、建物の耐力壁を構成する場合とは異なり、構造設計上の規制を受けることなく中間木質層を、薄くすることができる。そして、第1木質層及び第2木質層のうちの少なくとも一方の内部には難燃部が形成されているので、難燃部の形成によって壁パネルの耐火性を向上させた分だけ中間木質層を薄くし、壁パネルを薄くしたり、軽量化したりすることができる。
【0048】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載の構成において、
前記第1木質層は、前記建物の外側空間(203)に面して配置されており、
前記第2木質層は、前記建物の内側空間(201)に面して配置されており、
前記難燃部は、前記第2木質層の内部に形成されている。
【0049】
上記[2]に記載の構成によれば、壁パネルは外壁に適用される。そして、難燃部は、中間木質層よりも建物の内側空間側に位置することになるので、建物の内側空間内で火災が発生した際に、難燃部及び中間木質層の順で火災の影響を受けるので、外壁の所定の耐火性能(例えば、火災が発生した際に30分以内に焼失しない)の達成が容易となる。また、上記[2]に記載の構成によれば、両面に木材を視認可能な(木材を表しにする)外壁の耐火性を向上させることができる。
【0050】
[3]幾つかの実施形態では、上記[2]に記載の構成において、
前記第2木質層には、前記内側空間側の表面(14)から凹む複数の凹部(24)が形成されており、
前記難燃部は、少なくとも前記凹部の周囲に形成されている。
【0051】
上記[3]に記載の構成によれば、第2木質層の表面に凹部が形成されることで、第2木質層を形成する木材の組織が破壊され、第2木質層の表面から内部への難燃剤の含浸を促進させることができる。このため、壁パネルの生産性を高めることができる。
【0052】
[4]本開示に係る壁パネルは、
建物の非耐力壁を構成するための壁パネル(1A)であって、
前記壁パネルの厚さ方向の一方側に配置され、木材により形成されている第1木質層と、
前記壁パネルの厚さ方向の他方側に配置され、木材により形成されている第2木質層と、
前記第1木質層と前記第2木質層との間に配置され、木材により形成されている中間木質層と、
前記第1木質層の前記中間木質層側とは反対側の表面、および前記第2木質層の前記中間木質層側とは反対側の表面のうちの少なくとも一方に取り付けられ、不燃材(M)により形成されている不燃層(120)と、を備える。
【0053】
上記[4]に記載の構成によれば、壁パネルは、第1木質層の表面および第2木質層の表面のうちの少なくとも一方に取り付けられる不燃層を備える。このため、木質の非耐力壁の耐火性を向上させることができる。
【0054】
[5]幾つかの実施形態では、上記[4]に記載の構成において、
前記第1木質層は、前記建物の外側空間に面して配置されており、
前記不燃層は、前記第2木質層の前記表面に取り付けられる複数の第1板状部材(122)と、前記第1板状部材よりも前記厚さ方向の前記第2木質層側とは反対側に位置する少なくとも1つの第2板状部材(124)と、を含み、
前記少なくとも1つの第2板状部材は、前記少なくとも2つの第1板状部材のそれぞれと重なり合うように配置されている。
【0055】
上記[5]に記載の構成によれば、2つの第1板状部材は第2板状部材を介して互いに接続されている状態になるので、不燃層を自立させることができる。
【0056】
[6]幾つかの実施形態では、上記[5]に記載の構成において、
複数の前記第2板状部材のそれぞれは、共通の1つの前記第1板状部材と重なり合うように配置されている。
【0057】
上記[6]に記載の構成によれば、不燃層をより強固に自立させることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 壁パネル(一実施形態)
1A 壁パネル(別の一実施形態)
2 外層
4 内層
6 中間木質層
8 外層の表面
10 耐候性塗料
12 難燃性接着剤
14 内層の表面
16 内層の裏面
20 外層の裏面
22 開口
24 凹部
24A 第1の凹部
24B 第2の凹部
30 難燃部
100 外壁
100A 第1の外壁
100B 第2の外壁
102 屋根
104 床
106 内壁面
108 外壁面
110 内壁
112 梁
120 不燃層
122 第1板状部材
124 第2板状部材
200 建物
201 内側空間
203 外側空間
D1 上下方向
D2 厚さ方向
D3a 外層の繊維方向
D3b 内層の繊維方向
D3c 中間木質層の繊維方向
D4 左右方向
G 地面
M 不燃材
W 木材
X 難燃剤