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  • 特開-光電変換素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007239
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10F 10/142 20250101AFI20250109BHJP
   H10F 10/00 20250101ALI20250109BHJP
【FI】
H01L31/06 310
H01L31/04 620
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108511
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優紀子
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 陽平
(72)【発明者】
【氏名】落合 夏葉
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】荒井 昌和
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251DA18
5F251JA23
(57)【要約】
【課題】多接合化された光電変換素子における光電変換効率を向上させる。
【解決手段】光電変換素子において、第1共振器ミラー層と、第2共振器ミラー層と、前記第1共振器ミラー層と前記第2共振器ミラー層との間に備えられた多接合型光吸収層とを備え、前記第1共振器ミラー層に単一波長の光が入射した場合に前記多接合型光吸収層において生じる定在波の節の位置に基づいて、前記多接合型光吸収層における各トンネル接合層の位置が定められている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1共振器ミラー層と、
第2共振器ミラー層と、
前記第1共振器ミラー層と前記第2共振器ミラー層との間に備えられた多接合型光吸収層とを備え、
前記第1共振器ミラー層に単一波長の光が入射した場合に前記多接合型光吸収層において生じる定在波の節の位置に基づいて、前記多接合型光吸収層における各トンネル接合層の位置が定められている
光電変換素子。
【請求項2】
前記定在波の節の位置に、前記多接合型光吸収層におけるトンネル接合層が存在するように構成された請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記光の波長をλとし、前記多接合型光吸収層を構成する光吸収層の屈折率をnとし、mを整数とし、各トンネル接合層が光吸収層より十分に薄い、あるいは、各トンネル接合層の屈折率が光吸収層の屈折率と同等の屈折率である場合において、前記第1共振器ミラー層と前記多接合型光吸収層との境界を基準に、各トンネル接合層の深さがλm/2nとなるように、各光吸収層の厚さが定められている
請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換の技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
無線給電技術の1つとして、例えば非特許文献2に開示された光無線給電技術が知られている。光無線給電では、レーザから出力されたビーム(単色光)が光電変換素子に入射され、光電変換素子が光を電気に変換する。
【0003】
上記のようなレーザを用いた光無線給電において、光電変換素子における光電変換の効率向上が望まれている。
【0004】
光電変換素子の高効率化の手法として、光吸収層を多段に積層することで、単層の場合よりも高い電圧を取り出せるようにした多接合化が知られている(非特許文献1)。多接合化において、2つの光吸収層の間には、電流損失の少ない低抵抗なトンネル接合層(以下、TJ層 :Tunnel Junction)が用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】秋山英文, "多接合太陽電池の診断・設計と発光絶対値・発光量子効率の評価", 応用物理, 第84巻, 第4号(2015)、https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/84/4/84_319/_pdf/-char/ja、令和5年6月2日検索
【非特許文献2】宮本智之, "光ビームで実現する光無線給電" (2021)、https://www.jsap.or.jp/columns/gx/e1-8、令和5年6月2日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光電変換素子の多接合化の際、上述したTJ層には電流損失を低減するために高濃度ドープされた材料を用いる必要がある。
【0007】
しかし、入射光が光電変換素子の内部を通る(=光電変換が行われる)際には、TJ層の高濃度ドープの影響で一部の光が吸収されることから損失が発生し、これが光電変換効率低下の原因となる。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、多接合化された光電変換素子における光電変換効率を向上させるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示の技術によれば、第1共振器ミラー層と、
第2共振器ミラー層と、
前記第1共振器ミラー層と前記第2共振器ミラー層との間に備えられた多接合型光吸収層とを備え、
前記第1共振器ミラー層に単一波長の光が入射した場合に前記多接合型光吸収層において生じる定在波の節の位置に基づいて、前記多接合型光吸収層における各トンネル接合層の位置が定められている
光電変換素子が提供される。
【発明の効果】
【0010】
開示の技術によれば、多接合化された光電変換素子における光電変換効率を向上させるための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態における光電変換素子100の構成例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における光電変換素子100において、多重反射の様子を示す図である。
図3】光電変換素子100の内部での光分布の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。本実施の形態では、単一波長の光であるレーザを用いた光無線給電を想定した光電変換素子を対象とする。
【0013】
(実施の形態に係る技術の概要)
本実施の形態では、多接合化された光電変換素子における光電変換効率の低下という課題を解決するために、光電変換素子における多接合型光吸収層を共振器として動作させるようにする。つまり、光電変換素子に共振器構造を導入する。
【0014】
レーザを用いた光無線給電においては単一波長の光を入射するので、共振器構造により、光電変換素子の内部に光を閉じ込め、光電変換素子の内部には多重反射による定在波が立つ。
【0015】
定在波は、光振幅(光強度)が小さくなる節を持つ。多接合型光吸収層のTJ層が定在波の節の位置にくるように各光吸収層の厚み及び層数を設計することで、TJ層による低電気抵抗のメリットを享受しつつ、光吸収のデメリットを低減でき、より高い変換効率を得ることができる。
【0016】
以下、本実施の形態における光電変換素子の構成例を詳細に説明する。
【0017】
(光電変換素子の構成例)
図1に、本実施の形態における光電変換素子100の構成例を示す。図1は、光電変換素子100における光(単色光、単一波長の光)が入射する面に垂直な面で光電変換素子100を切った場合の断面を示す。
【0018】
図1に示すように、光電変換素子100は、共振器ミラー層10、多接合型光吸収層20、及び共振器ミラー層30を有する。光が入射する側が+極であり、その反対側が-極である。
【0019】
共振器ミラー層10は、高屈折率層11、及び低屈折率層12を有する。共振器ミラー層30は、低屈折率層31、高屈折率層32、及び低屈折率層33を有する。
【0020】
共振器ミラー層10と共振器ミラー層30とにより、多接合型光吸収層20に定在波を生み出すことができる。
【0021】
多接合型光吸収層20は、P層とN層の組を光吸収層として有するとともに、TJ層を有する。各光吸収層は、光エネルギーを吸収し電気エネルギーに変換する。光吸収層は複数個設けられている。各TJ層は、2つの光吸収層に挟まれ、これらの光吸収層を直列に接続する。図1には、4つのTJ層21~24が示されている。+極、及び-極は、電流を取り出す電極である。
【0022】
定在波が発生する様子は図2に示されている。図2に示すように、共振器ミラー層10と光吸収層との境界と、共振器ミラー層30と光吸収層との境界との間で光が多重反射して光共振が生じることで定在波が生み出される。
【0023】
なお、図1に示す例では、光電変換素子100に5つの光吸収層が設けられているが、光吸収層の数を5とすることは一例である。光吸収層の数は5に限定されない。
【0024】
(TJ層の位置について)
次に、光電変換素子100において、光電変換効率を高くするという効果を得るための構成について説明する。
【0025】
図2において点線枠で囲んだ部分を図3に示す。図3は、光電変換素子100の内部での光分布の様子を示している。
【0026】
単色光用の光電変換素子では、予め入射される波長が想定されている。本実施の形態に係る光電変換素子100は、共振器構造を採用し、光電変換素子100を共振器として動作させるものである。
【0027】
光電変換素子100が共振器として動作する条件として、2枚の共振器ミラー層の反射面の間の間隔(=共振器長)をLとし、入力光の波長をλとし、共振器内の光吸収層の屈折率をnとすると、各TJ層が光吸収層より十分に薄い、あるいは、各TJ層の屈折率が光吸収層の屈折率と同等の屈折率である場合に、下記の関係が成り立つ必要がある。本実施の形態では、各TJ層が光吸収層より十分に薄い、あるいは、各TJ層の屈折率が光吸収層の屈折率と同等の屈折率であるものとする。
【0028】
2nL=mλ(m:1以上の整数)
共振器(光電変換素子100)に単色光を入射させた際、多段型光吸収層20には入射光の波長と光吸収層の屈折率に依存した定在波による光振幅強度分布ができる。
【0029】
本実施の形態の光電変換素子100において、吸収損失の大きいTJ層の位置が、共振器動作時の光振幅強度の節(定在波の節)となる部分に一致するように、各光吸収層の厚みと、吸収層の層数が定められる。これにより、各TJ層での損失を最低限に抑えることが可能となる。
【0030】
つまり、図3に示すように、共振器構造においては、単色光入射時に光吸収層に光電界の節(定常波の節)が生じる。光電変換素子100を、TJ層の位置が光電界の節と重なるように設計することで、損失を最低限にすることができる。
【0031】
より具体的には、共振器内では入射側の共振器ミラー層10と吸収層との境界を基準として、その基準からの深さλ/2nごとに光振幅強度の節ができる。そのため、光電変換素子100は、TJ層の深さがλm/2n(m:整数)となるように、各光吸収層の厚みと光吸収層の層数を持つ。これにより、光電変換効率を高めることができるという効果を得ることができる。
【0032】
図3に示す示す例において、波長aの光を用いる場合、ある節とその次の節との間に1つの光吸収層が存在する。つまり、波長aの光を用いる場合、am/2nにおける、m=1、2、3、4の各位置にTJ層がある。
【0033】
波長bの光を用いる場合、ある節とその次の次の節との間に1つの吸収層が存在する。つまり、波長bの光を用いる場合、bm/2nにおける、m=2、4、6、8の各位置にTJ層がある。
【0034】
(実施の形態の効果)
以上説明したとおり、本実施の形態に係る技術では、単色光用の光電変換素子に共振器構造を導入し、内部の光吸収層の厚みを入射する単色光の波長、及び吸収層の屈折率に合わせて最適化することとしたので、多接合化による光電変換効率の向上の効果を得ながら、TJ層の導入による多接合化で起こる光吸収を低減することができる。
【0035】
つまり、TJ層の導入による多接合化で起こる光吸収を低減できるので、従来の多接合化した光電変換素子よりも、光電変換効率を高くすることができる。
【0036】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0037】
<付記>
(付記項1)
第1共振器ミラー層と、
第2共振器ミラー層と、
前記第1共振器ミラー層と前記第2共振器ミラー層との間に備えられた多接合型光吸収層とを備え、
前記第1共振器ミラー層に単一波長の光が入射した場合に前記多接合型光吸収層において生じる定在波の節の位置に基づいて、前記多接合型光吸収層における各トンネル接合層の位置が定められている
光電変換素子。
(付記項2)
前記定在波の節の位置に、前記多接合型光吸収層におけるトンネル接合層が存在するように構成された付記項1に記載の光電変換素子。
(付記項3)
前記光の波長をλとし、前記多接合型光吸収層を構成する光吸収層の屈折率をnとし、mを整数とし、各トンネル接合層が光吸収層より十分に薄い、あるいは、各トンネル接合層の屈折率が光吸収層の屈折率と同等の屈折率である場合において、前記第1共振器ミラー層と前記多接合型光吸収層との境界を基準に、各トンネル接合層の深さがλm/2nとなるように、各光吸収層の厚さが定められている
付記項1又は2に記載の光電変換素子。
【0038】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
100 光電変換素子
10、20 共振器ミラー層
20 多接合型光吸収層
11、32 高屈折率層
12、31、33 低屈折率層
21~24 TJ層
図1
図2
図3