(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007261
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】光電変換素子の短波長感度を改善する方法
(51)【国際特許分類】
H10F 10/142 20250101AFI20250109BHJP
【FI】
H01L31/06 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】55
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108539
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 豊
(72)【発明者】
【氏名】大下 祥雄
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA02
5F251AA03
5F251AA05
5F251AA08
5F251AA09
5F251DA15
5F251DA18
5F251FA02
5F251FA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光源(太陽光等)のスペクトラムの光エネルギー密度―波長特性(光子密度―波長特性)が設計標準値より大きくずれた場合に、高変換効率タンデム型光電変換素子(タンデム太陽電池)は著しく出力電流低下することをを回避する方法
【解決手段】第1エネルギーギャップE
G1を有し第1導電型を有する第1半導体領域と、
第1エネルギーギャップE
G1より大きい第3エネルギーギャップE
G3を有する逆導電型の第2導電型を有する第3半導体領域から構成され、第3半導体領域のエネルギーバンド端は第1半導体領域のエネルギーバンド端と第1導電型キャリアに対するバンド端不連続ΔE
S(バンド端オフセットともいう)を形成し、ΔE
Sのエネルギー|ΔE
S|は第1エネルギーギャップE
G1より大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エネルギーギャップEG1を有し第1導電型を有する第1半導体領域と、
該第1エネルギーギャップEG1より大きい第3エネルギーギャップEG3を有し第1導電型と逆導電型の第2導電型を有する第3半導体領域とから少なくとも構成され、
該第1半導体領域は対向する第1表面と第2表面を有し、
該第3半導体領域は対向する第3表面と第4表面を有し、
該第3半導体領域は該第4表面で該第1半導体領域の第1表面と対向して設置され、
該第3半導体領域に照射された光によって該第3半導体領域に光生成した第1導電型キャリアが輸送される該第3半導体領域のエネルギーバンド端は
第4表面において該第1半導体領域のエネルギーバンド端と該第1導電型キャリアに対するバンド端不連続ΔESを形成し、
該バンド端不連続ΔESのエネルギー|ΔES|は該第1エネルギーギャップEG1より大きく、
該第1表面と該第4表面は接するか、該第1表面と該第4表面の距離は該第1導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔES|―EG1以上失うことなく輸送(transport)される距離であり、
該第3半導体領域に第3表面側から照射された光によって該第3半導体領域に光生成した第1導電型キャリアを該第1半導体領域の第1エネルギーギャップEG1より大きなエネルギーを保持した状態で該第1半導体領域へ注入することにより、該第1半導体領域内で電子・正孔対を更に生成することを特徴とする、光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項2】
第1導電帯端と第1価電子帯端とを有し、該第1導電帯端と第1価電子帯端との間に第1エネルギーギャップEG1を有し第1導電型を有する第1半導体領域と、
第3導電帯端と第3価電子帯端とを有し、該第3導電帯端と第3価電子帯端との間に第3エネルギーギャップEG3を有し第1導電型と逆導電型の第2導電型を有する第3半導体領域とから少なくとも構成され、
該第1半導体領域は対向する第1表面と第2表面を有し、
該第3半導体領域は対向する第3表面と第4表面を有し、
該第3半導体領域は該第4表面で該第1半導体領域の第1表面と対向して設置され、
該第1導電型はn型であり、
該第3半導体領域の第4表面における第3導電帯端は、そのエネルギーレベルにおいて該第1半導体領域の第1表面における第1導電帯端より真空のエネルギーレベルに近く、該第1導電帯端との間にバンド端オフセットΔECSを形成し、
該バンド端オフセットΔECSの絶対値|ΔECS|は該第1エネルギーギャップEG1より大きく、
該第1表面と該第4表面の距離は該第1導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔECS|-EG1以上失うことなく輸送(transport)される距離であり、
該第3半導体領域に第3表面側から照射された光によって該第3半導体領域に光生成した第1導電型キャリアを該第1半導体領域の第1エネルギーギャップEG1より大きなエネルギーを保持した状態で該第1半導体領域へ注入することにより、該第1半導体領域内で電子・正孔対を更に生成することを特徴とする、請求項1記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項3】
第1導電帯端と第1価電子帯端とを有し、該第1導電帯端と第1価電子帯端との間に第1エネルギーギャップEG1を有し第1導電型を有する第1半導体領域と、
第3導電帯端と第3価電子帯端とを有し、該第3導電帯端と第3価電子帯端との間に第3エネルギーギャップEG3を有し第1導電型と逆導電型の第2導電型を有する第3半導体領域とから少なくとも構成され、
該第1半導体領域は対向する第1表面と第2表面を有し、
該第3半導体領域は対向する第3表面と第4表面を有し、
該第3半導体領域は該第4表面で該第1半導体領域の第1表面と対向して設置され、
該第1導電型はp型であり、
該第3半導体領域の第4表面における第3価電子帯端は、そのエネルギーレベルにおいて該第1半導体領域の第1表面における第1価電子帯端より真空のエネルギーレベルから遠く、該第1表面における第1価電子帯端との間にバンド端オフセットΔEVSを型成し、
該バンド端オフセットΔEVSの絶対値|ΔEVS|は該第1エネルギーギャップEG1より大きく、
該第1表面と該第4表面の距離は該第2導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔEVS|-EG1以上失うことなく輸送(transport)される距離であり、
該第3半導体領域に第3表面側から照射された光によって該第3半導体領域に光生成した第1導電型キャリアを該第1半導体領域の第1エネルギーギャップEG1より大きなエネルギーを保持した状態で該第1半導体領域へ注入することにより、該第1半導体領域内で電子・正孔対を更に生成することを特徴とする、請求項1記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項4】
前記第4表面と前記第1表面間は真空であることを特徴とする請求項1、請求項2および請求項3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項5】
前記第4表面と第1表面は接していることを特徴とする請求項1、請求項2および請求項3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項6】
前記第3半導体領域の第4表面と第1半導体領域の第1表面の間に、前記第3半導体領域で光生成した第1導電型キャリアのエネルギー損失が前記バンド端オフセットΔESの絶対値|ΔES|から第1半導体のエネルギーギャップEG1を引いた値以下となる厚さの中間膜を設けた請求項1、請求項2および請求項3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項7】
前記第4表面と第1表面との間に、前記第3半導体領域で光生成した第1導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔECS|-EG1以上失うことなく輸送(transport)される厚さに限定された中間膜を介在させた
ことを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項8】
前記第4表面と第1表面との間に、前記第3半導体領域で光生成した第1導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔEVS|-EG1以上失うことなく輸送(transport)される厚さに限定された中間膜を介在させた
ことを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項9】
前記中間膜は水素化アモルファスシリコン系の半導体膜であることを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項10】
前記中間膜は水素化アモルファスシリコン系の半導体膜であることを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項11】
前記中間膜は水素化アモルファスシリコン系の半導体膜であることを特徴とする請求項8に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項12】
前記中間膜は15nm以下の膜厚の水素化アモルファスシリコン系半導体膜であることを特徴とする請求項9記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項13】
前記中間膜は15nm以下の膜厚の水素化アモルファスシリコン系半導体膜であることを特徴とする請求項10記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項14】
前記中間膜は15nm以下の膜厚の水素化アモルファスシリコン系半導体膜であることを特徴とする請求項11記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項15】
前記中間膜は1nm以下の膜厚のシリコン酸化膜であることを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項16】
前記中間膜は1nm以下の膜厚のシリコン酸化膜であることを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項17】
前記中間膜は1nm以下の膜厚のシリコン酸化膜であることを特徴とする請求項8に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項18】
前記中間膜は、前記第1半導体と格子定数がほぼ整合した10nm以下の膜厚の化合物半導体膜であることを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項19】
前記中間膜は、前記第1半導体と格子定数がほぼ整合した10nm以下の膜厚の化合物半導体膜であることを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項20】
前記中間膜は、前記第1半導体と格子定数がほぼ整合した10nm以下の膜厚の化合物半導体膜であることを特徴とする請求項8に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項21】
前記第4表面近くの前記第3半導体領域に不純物濃度が少ない部分を設けたことを特徴とする請求項1、請求項2および請求項3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項22】
前記第4表面へ、前記第1導電型キャリアが輸送されるエネルギー帯端が前記第3半導体より前記第1半導体に近い第4半導体領域を第1表面と対向して設けたことを特徴とする請求項1、請求項2および請求項3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項23】
前記第3半導体領域の第3価電子帯端が前記第1半導体領域の第1価電子帯端より真空のエネルギー準位から遠い方向に位置することを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項24】
前記第3半導体領域の第3導電帯端が前記第1半導体領域の第1導電帯端より真空のエネルギー準位に近い方向へ位置することを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項25】
前記第3半導体第3表面へ、前記第3半導体領域がp型の時は前記第3半導体領域より導電帯端が真空のエネルギー準位に近い第5半導体領域を設けた、前記第3半導体領域がn型の時は前記第3半導体領域より価電子帯端が真空のエネルギー準位より遠い第5半導体領域を設けたことを特徴とする請求項1、請求項2および請求項3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項26】
前記第3半導体の第3表面へ透明電極を設けたことを特徴とする請求項1、請求項2および請求項3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項27】
前記第5半導体の第5表面へ透明電極を設けたことを特徴とする請求項25記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項28】
前記第3半導体領域の第3表面は入射光の波長の1/4以上の平面寸法の凹凸を有することを特徴とする請求項1、請求項2および請求項3のうちの1つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項29】
前記第5半導体領域の第5表面は入射光の波長の1/4以上の平面寸法の凹凸を有することを特徴とする請求項25記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項30】
前記透明電極は酸化亜鉛であり、かつその表面に入射光波長の1/4以上の平面寸法の凹凸を有することを特徴とする請求項26に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項31】
前記透明電極は酸化亜鉛であり、かつその表面に入射光波長の1/4以上の平面寸法の凹凸を有することを特徴とする請求項27に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項32】
前記第1の半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はセレン化亜鉛(ZnSe)から構成され、前記中間領域は硫化亜鉛(ZnS)から形成されることを特徴とする請求項18記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項33】
前記第1の半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はセレン化亜鉛(ZnSe)から構成され、前記中間領域は硫化亜鉛(ZnS)から形成されることを特徴とする請求項19記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項34】
前記第1の半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はセレン化亜鉛(ZnSe)から構成され、前記中間領域は硫化亜鉛(ZnS)から形成されることを特徴とする請求項20記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項35】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は混晶ZnSxSe(1-x)で形成されたことを特徴とする請求項1、請求項2および請求項3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項36】
前記第3半導体領域は混晶ZnSxSe(1-x)で形成され、前記第3半導体領域の第3表面に近づくほどxが大きくなる半導体領域を前記第3半導体領域の少なくとも一部に設けたことを特徴とする請求項35に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項37】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は混晶ZnSxSe(1-x)から構成され、前記中間領域は硫化亜鉛(ZnS)から形成されることを特徴とする請求項18記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項38】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は混晶ZnSxSe(1-x)から構成され、前記中間領域は硫化亜鉛(ZnS)から形成されることを特徴とする請求項19記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項39】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は混晶ZnSxSe(1-x)から構成され、前記中間領域は硫化亜鉛(ZnS)から形成されることを特徴とする請求項20記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項40】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSeから構成され、前記ZnSeの第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする請求項32記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項41】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSeから構成され、前記ZnSeの第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする請求項33記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項42】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSeから構成され、前記ZnSeの第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする請求項34記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項43】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSxSe(1-x)から構成され、前記ZnSxSe(1-x)の第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする請求項35に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項44】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSxSe(1-x)から構成され、前記ZnSxSe(1-x)の第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする請求項36に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項45】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSxSe(1-x)から構成され、前記ZnSxSe(1-x)の第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする請求項37に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項46】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSxSe(1-x)から構成され、前記ZnSxSe(1-x)の第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする請求項38に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項47】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSxSe(1-x)から構成され、前記ZnSxSe(1-x)の第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする請求項39に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項48】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は燐化アルミニュウム(AlP)から構成されることを特徴とする請求項1及び請求項3のうち一つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項49】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は燐化アルミニュウム(AlP)から構成され、前記中間領域は燐化ガリウム(GaP)から形成されることを特徴とする請求項18記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項50】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は燐化アルミニュウム(AlP)から構成され、前記中間領域は燐化ガリウム(GaP)から形成されることを特徴とする請求項19記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項51】
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は燐化アルミニュウム(AlP)から構成され、前記中間領域は燐化ガリウム(GaP)から形成されることを特徴とする請求項20記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項52】
前記第3半導体領域を形成するAlPの第3表面にGaNの保護膜を設けたことを特徴とする請求項48に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項53】
前記第3半導体領域を形成するAlPの第3表面にGaNの保護膜を設けたことを特徴とする請求項49に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項54】
前記第3半導体領域を形成するAlPの第3表面にGaNの保護膜を設けたことを特徴とする請求項50に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【請求項55】
前記第3半導体領域を形成するAlPの第3表面にGaNの保護膜を設けたことを特徴とする請求項51に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を電気に変換する光電変換素子の短波長感度を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子には、光源の強度、波長などが変化した結果、素子抵抗が変化するフォトレジスタ、素子電流または電圧が変化するフォトダイオード、素子電流がフォトダイオードより増幅されて変化するフォトトランジスタ、出力電流、電圧、電力が変化する太陽電池などがある。フォトダイオード、太陽電池を構成する電子構造には、ホモ接合、ヘテロ接合、MIS構造などが知られている。
【0003】
ホモ接合は、同じ半導体材料のp型半導体とn型の半導体とが接合して構成されるpn接合。ヘテロ接合は異種半導体材料同士が接合して構成される接合で、該異種半導体の片方がp型、他方がn型の場合はpn接合となり、アニソタイプ(anisotype)ヘテロ接合と呼ばれる。このヘテロ接合は高効率の太陽電池を化合物半導体で実現する手段などとして使われてきた。一方、同一の導電型で異種半導体を接触したイソタイプ(isotype)ヘテロ接合も光電変換素子として使われてきた。(例えば非特許文献1、Fig. 5 参照)
【0004】
シリコン半導体でフォトダイオード、フォトトランジスタを実現する場合はホモ接合を用いる場合が多いが、水素化アモルファスシリコンと結晶シリコンのpn接合によるヘテロ接合太陽電池が高効率を目指して開発されてきた。(例えば、非特許文献2を参照)。
【0005】
更に高効率を実現する太陽電池として、短波長に感度を有し、開放電圧の高い接合Hと長波長まで感度を有する接合Lを直列に接続した「タンデム」太陽電池が開発されてきた。
図2は、非特許文献3の
図9.11(a)のタンデム太陽電池の各構成要素に符号を追加した断面図である。
図2において、101は第1導電型(例えばp型)を有する第1半導体、102は第2導電型(例えばn型)を有する第1半導体で、それらは接して接合Lを形成している。101,102、後述の103を総合して第1半導体領域100と呼ぶ。
201は第1導電型を有する第2半導体、202は第2導電型を有する第2半導体で、それらは接して接合Hを形成している。201,202、後述の203を総合して第2半導体領域200と呼ぶ。
103は高不純物濃度を有する第2導電型の第1半導体であり、203は高不純物濃度を有する第1導電型の第2半導体であり、103と203との接合は低抵抗のトンネル接合を形成し、101と102とで形成される該タンデム太陽電池の長波長領域太陽電池要素と201と202とで形成される該タンデム太陽電池の短波長域太陽電池要素とを直列接続する。
該タンデム太陽電池は、太陽光の標準スペクトラム(光エネルギー密度または光のフォトン密度を光波長の関数として表したもの)にたいして、短波長域太陽電池要素内で発生する短波長域光電流値I
phHと長波長域太陽電池要素内で発生する長波長域光電流I
phLとがほぼ同一となるように、該第2半導体のバンドギャップと厚さを調節して、該接合Hの電圧V
Hと該接合Lの電圧V
Lの和と該光電流(I
phH≒I
phL)を出力して高効率となるように設計される。
なお、104は第1半導体101へ設けられたオーム性電極、204は第2半導体202へ設けられたオーム性電極である。
【0006】
しかし、太陽光のスペクトラムが上記標準スペクトラムからずれたとき、上記タンデム太陽電池は変換効率の低下は大きくなり、太陽光エネルギー密度の変化に比例した出力変化より低い出力しか得られなくなる。例えば短波長域の太陽光エネルギーが極端に低下してゼロに近くなった場合、IphLがほとんど変化しない場合でも上記タンデム太陽電池の出力電流はゼロに近くなってしまう。逆に長波長域の太陽光エネルギーが極端に低下してゼロに近くなった場合、IphHがほとんど変化しない場合でも上記タンデム太陽電池の出力電流はゼロに近くなってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y, Hayashi, M. Yamanaka and Jin Murayama, “SnO2/nSi SOLAR CELL”, 1981 IEDM Digest of Technical Papers, 6.4, p140.
【非特許文献2】M. Taguchi, M. Tanaka, T. Matsuyama, T. Matsuoka, S. Tsuda, S. Nakano, Y. Kishi and Y. Kuwano, “Improvement of the conversion efficiency of polycrystalline silicon thin film solar cell”, Technical Digest of the International PVSEC-5, 論文番号C-IIIa-1, p. 689, Kyoto, Japan, 1990.
【非特許文献3】山口真史、M.A.グリーン、大下祥雄、小島伸晃著、「太陽電池の基礎と応用」平成22年7月30日、丸善株式会社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記太陽電池の場合で説明したように、太陽光(一般には光源)のスペクトラムの光波長特性が設計標準値より大きくずれた場合に、高変換効率タンデム太陽電池(タンデム型光電変換素子)は著しく出力電流が低下する。この現象を回避し、かつ従来の単一接合太陽電池(光電変換素子)の出力電流より大きい出力電流を有する光電変換素子を実現する方法が必要である。光源スペクトラムが大きく変化する環境―例えば、移動体搭載、時間によって樹木又は他の建物の影になる建造物への設置―で使用できる高効率光電変換素子の実現方法が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、光電変換素子において、短波長域の1光子に対して電子・正孔対への変換効率を1より大きい値に改善する方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、次の方法を提供する。
(1)[態様1]
第1エネルギーギャップEG1を有し第1導電型を有する第1半導体領域と、
該第1エネルギーギャップEG1より大きい第3エネルギーギャップEG3を有し第1導電型と逆導電型の第2導電型を有する第3半導体領域とから少なくとも構成され、
該第1半導体領域は対向する第1表面と第2表面を有し、
該第3半導体領域は対向する第3表面と第4表面を有し、
該第3半導体領域は該第4表面で該第1半導体領域の第1表面と対向して設置され、
該第3半導体領域に照射された光によって該第3半導体領域に光生成した第1導電型キャリアが輸送される
該第3半導体領域のエネルギーバンド端は第4表面において該第1半導体領域のエネルギーバンド端と該第1導電型キャリアに対するバンド端不連続ΔESを形成し、
該バンド端不連続ΔESのエネルギー|ΔES|は該第1エネルギーギャップEG1より大きく、
該第1表面と該第4表面は接するか、該第1表面と該第4表面の距離は該第1導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔES|―EG1以上失うことなく輸送(transport)される距離であり、
該第3半導体領域に第3表面側から照射された光によって該第3半導体領域に光生成した第1導電型キャリアを該第1半導体領域の第1エネルギーギャップEG1より大きなエネルギーを保持した状態で該第1半導体領域へ注入することにより、該第1半導体領域内で電子・正孔対を更に生成することを特徴とする、光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【0011】
ここで、上記の動作を
図1のエネルギーバンド図を参照して説明する。
第3表面側から光を入射した場合、上記第3半導体のエネルギーギャップに対応する波長λ
EG3=1240/E
G3(単位:nm、E
G3の単位はeV)より長い波長λ
Lの入射光は第3半導体を通過して、第1半導体内で吸収され、電子・正孔対を生成する。一方、上記第3半導体のエネルギーギャップに対応する波長λ
EG3=1240/E
G3(単位:nm、E
G3の単位はeV)より短い波長λ
Sの光は第3半導体で吸収されて電子(e1)・正孔(h1)対を生成する。そのうち第1導電型キャリア(図示の場合は電子e1)は、図中矢印のように第1半導体領域の方へ移動(ドリフト、拡散)して上記バンド端不連続ΔE
S(バンド端オフセットとも呼ばれている、以後このように記載する)から、エネルギーΔE
Sをもらって第1半導体領域へ注入されそのうちのいくつかは第1半導体領域内で更に電子(e2)・正孔(h2)対を発生させる。
図において、E
C1およびE
V1はそれぞれ第1半導体領域100の導電帯端および価電子帯端、E
C3およびE
V3はそれぞれ第3半導体領域300の導電帯端および価電子帯端、
図1は導電帯端にエネルギーオフセットΔE
Sがある場合(下記(2)のΔE
CSに相当)を示している。E
Fは第1半導体領域と第2半導体領域がゼロバイアス状態でのフェルミレベルである。該第1半導体領域100はその第1表面で該第3半導体領域の第4表面と対向している。真空あるいは接触あるいは後述の中間層400を介して対向している。
【0012】
(2)[態様2]
第1導電帯端と第1価電子帯端とを有し、該第1導電帯端と第1価電子帯端との間に第1エネルギーギャップEG1を有し第1導電型を有する第1半導体領域と、
第3導電帯端と第3価電子帯端とを有し、該第3導電帯端と第3価電子帯端との間に第3エネルギーギャップEG3を有し第1導電型と逆導電型の第2導電型を有する第3半導体領域とから少なくとも構成され、
該第1半導体領域は対向する第1表面と第2表面を有し、
該第3半導体領域は対向する第3表面と第4表面を有し、
該第3半導体領域は該第4表面で該第1半導体領域の第1表面と対向して設置され、
該第1導電型はn型であり、
該第3半導体領域の第4表面における第3導電帯端は、そのエネルギーレベルにおいて該第1半導体領域の第1表面における第1導電帯端より真空のエネルギーレベルに近く、該第1導電帯端との間にバンド端オフセットΔECSを形成し、
該バンド端オフセットΔECSの絶対値|ΔECS|は該第1エネルギーギャップEG1より大きく、
該第1表面と該第4表面の距離は該第1導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔECS|-EG1以上失うことなく輸送(transport)される距離であり、
該第3半導体領域に第3表面側から照射された光によって該第3半導体領域に光生成した第1導電型キャリアを該第1半導体領域の第1エネルギーギャップEG1より大きなエネルギーを保持した状態で該第1半導体領域へ注入することにより、該第1半導体領域内で電子・正孔対を更に生成することを特徴とする、態様1記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(3)[態様3]
第1導電帯端と第1価電子帯端とを有し、該第1導電帯端と第1価電子帯端との間に第1エネルギーギャップEG1を有し第1導電型を有する第1半導体領域と、
第3導電帯端と第3価電子帯端とを有し、該第3導電帯端と第3価電子帯端との間に第3エネルギーギャップEG3を有し第1導電型と逆導電型の第2導電型を有する第3半導体領域とから少なくとも構成され、
該第1半導体領域は対向する第1表面と第2表面を有し、
該第3半導体領域は対向する第3表面と第4表面を有し、
該第3半導体領域は該第4表面で該第1半導体領域の第1表面と対向して設置され、
該第1導電型はp型であり、
該第3半導体領域の第4表面における第3価電子帯端は、そのエネルギーレベルにおいて該第1半導体領域の第1表面における第1価電子帯端より真空のエネルギーレベルから遠く、該第1表面における第1価電子帯端との間にバンド端オフセットΔEVSを形成し、
該バンド端オフセットΔEVSの絶対値|ΔEVS|は該第1エネルギーギャップEG1より大きく、
該第1表面と該第4表面の距離は該第2導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔEVS|-EG1以上失うことなく輸送(transport)される距離であり、
該第3半導体領域に第3表面側から照射された光によって該第3半導体領域に光生成した第1導電型キャリアを該第1半導体領域の第1エネルギーギャップEG1より大きなエネルギーを保持した状態で該第1半導体領域へ注入することにより、該第1半導体領域内で電子・正孔対を更に生成することを特徴とする、態様1記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【0013】
上記の電子構造の相互関係により、前記第3半導体領域内で、光生成したキャリアの内少数キャリアが第1エネルギーギャップEG1より大きなエネルギーを持って、前記第3半導体領域から前記第1半導体領域へ注入されると、ある確率を以って更に電子・正孔対が発生する。すなわち、ひとつの光子で先ず第3半導体領域内で1対の電子・正孔対が生じ、そのうちの第3半導体にとっての少数キャリア(第1導電型キャリア)がEG1より大きいエネルギーを持った状態で第1半導体領域へ注入された結果更にもう1対の電子正孔対を発生する。該発生確率は|ΔECS|-EG1または|ΔEVS|-EG1が大きくなるほど大きくなる。
【0014】
ここで、前記第4表面と第1表面は離間して対向していても、たとえばその間が真空であれば、前記第4表面を第1表面に向かって飛び出した前記第1導電型のキャリアはエネルギーを失うことなく前記第1表面を通して前記第1半導体領域へ注入される。
(4)[態様4]
前記第4表面と前記第1表面間は真空であることを特徴とする態様1、態様2および態様3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【0015】
一方、前記第4表面と第1表面が接している場合は上記の第1電導型キャリアは第1半導体領域から見てEG1より大きなエネルギーをもって第1半導体領域へ注入され、本発明の効果を得ることが出来る。したがって、下記(5)は本発明の有効な構成である。
(5)[態様5]
前記第4表面と第1表面は接していることを特徴とする態様1、態様2および態様3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【0016】
しかし、該第1表面あるいは該第4表面に形成される電子欠陥により本発明の光電変換素子を太陽電池として使用する場合に出力電力が低下してしまうことがある。あるいは前記第1半導体領域の第1表面へ第3半導体領域が前記第4表面を介して接触して形成されると、互いの構成材料の界面における結合により界面層が形成され、フェルミレベル・ピンニング
(Fermi level pinning)と呼ばれる現象が生じ、本発明の光電変換素子を太陽電池として使用する場合に出力電圧が低下してしまうことがある。この場合は、
図3に示すように、第1半導体および第3半導体と異なる材料からなる中間膜400を介して第1半導体領域と第3半導体領域を対向させることにより、この現象が生ずることを避ける手段をとることができる。しかし、この中間膜を介在させたときに前記E
G1より大きいエネルギーを有する第1導電型のキャリアの大部分がこの中間膜の格子または欠陥に衝突してエネルギーを失ってしまっては本発明の動作は実現しない。
図3において、100は第1半導体領域、300は第3半導体領域、400は中間層、105は第1半導体領域に設けられたオーム性接触電極、304は第1半導体に設けられたオーム性接触電極である。該第1半導体領域100はその第1表面110で該第3半導体領域300の第4表面340と中間層400を介して対向している。なお、120は該第1半導体領域100の第1表面110と対向した第2表面、330は該第3半導体領域300の第4表面340と対向した第3表面を示す。
【0017】
前記第1半導体領域と第3半導体領域の間に中間膜400を設けた場合は、前記第1導電型キャリアの該中間膜における散乱が軽微な厚さであれば、前記第2半導体領域から該中間膜へ前記第1導電型キャリアが注入された場合に、前記第1導電型キャリアは僅かなエネルギー損失で前記第1半導体領域へ注入される。
なお、該中間膜の実施例として水素化アモルファスシリコン系の膜(水素化アモルファスシリコン、水素化アモルファスシリコン・炭素、水素化アモルファスシリコン・酸素など)を用いることができる。この水素化アモルファスシリコン系の半導体膜厚は15nm以下が更に望ましい。また1nm厚以下のシリコン酸化膜も中間膜として利用できる。特に第1半導体領域100がシリコンである場合に好適である。
更に該中間膜が前記第1半導体と格子定数がほぼ整合した10nm厚以下の化合物半導体の場合も好適である。
すなわち、次の構成で本発明の動作は実現できる。
(6)[態様6]
前記第3半導体領域の第4表面と第1半導体領域の第1表面の間に、第1導電型キャリアのエネルギー損失が前記バンド端オフセットΔESの絶対値|ΔES|から第1半導体のエネルギーギャップEG1を引いた値以下となる厚さの中間膜を設けた態様1に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(7)[態様7]
前記第4表面と第1表面との間に前記第3半導体領域で光生成した第1導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔECS|-EG1以上失うことなく輸送(transport)される厚さに限定された中間膜を介在させた
ことを特徴とする態様2に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(8)[態様8]
前記第4表面と第1表面との間に前記第3半導体領域で光生成した第1導電型キャリアがそのエネルギーを|ΔEVS|-EG1以上失うことなく輸送(transport)される厚さに限定された中間膜を介在させた
ことを特徴とする態様3に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(9)[態様9]前記中間膜は水素化アモルファスシリコン系の半導体膜であることを特徴とする態様6、態様7ないし態様8のうち1つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(10)[態様10]前記中間膜は15nm以下の膜厚の水素化アモルファスシリコン系半導体膜であることを特徴とする態様9記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(11)[態様11]前記中間膜は1nm以下の膜厚のシリコン酸化膜であることを特徴とする態様6、態様7ないし態様8のうち1つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(12)[態様12]前記中間膜は、上記第1半導体と格子定数がほぼ整合した10nm以下の膜厚の化合物半導体膜であることを特徴とする態様6、態様7ないし態様8のうち1つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【0018】
built-in field
前記第3半導体領域内に光発生した前記第1導電型キャリアが前記第4表面から前記第1表面を通して前記第1半導体領域へ注入される確率を増やすためには、前記第3半導体領域の第4表面近傍に第1導電型キャリアを前記第1半導体領域へ向けて加速する内部電界を設けることが望ましい。この加速電界を形成するために下記の構成をとることが出来る。
(13)[態様13]第4表面近くの第3半導体領域に不純物濃度が少ない部分を設けたことを特徴とする態様1、態様2および態様3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(14)[態様14]第4表面へ、第1導電型キャリアが輸送されるエネルギー帯端が第3半導体より第1半導体に近い第4半導体領域を第1表面と対向して設けたことを特徴とする態様1、態様2および態様3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
を施すことによりすることにより前記第2半導体領域の第4表面近傍に第1導電型キャリアを前記第1半導体領域へ向けて加速する内部電界を形成することが出来る。
【0019】
Voc
上記の構成、動作で光電流の増加は得られるが、光起電圧の確保が必要な応用もある。光起電圧を大きくするためには、第3半導体領域と第1半導体領域の接合の組み込み電圧が大きい必要がある。これを実現するためには、
(15)[態様15]前記第3半導体領域の第3価電子帯端が前記第1半導体領域の第1価電子帯端より真空のエネルギー準位から遠い方向に位置することを特徴とする態様2に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(16)[態様16]前記第3半導体領域の第3導電帯端が前記第1半導体領域の第1導電帯端より真空のエネルギー準位に
近い方向へ位置することを特徴とする態様3に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
がのぞましい。
【0020】
front surface field & passivation
前記第3半導体領域へ入射した光により発生した第1導電型キャリアが、前記第3半導体領域の第3表面で再結合をして消失することを防ぎ第3表面から押し返されて、第4表面へ輸送されるのを助けるために、前記第3半導体領域第3表面へ、第3半導体領域がp型の時は第3半導体領域より導電帯が真空のエネルギー準位に近い第5半導体領域を設け、第3半導体領域が第n型の時は第3半導体領域より価電子帯が真空のエネルギー準位に近い第5半導体領域を設け、ことが出来る。すなわち、
(17)[態様17]前記第3半導体第3表面へ、第3半導体領域がp型の時は第3半導体領域より導電帯端が真空のエネルギー準位に近い第5半導体領域を設け、第3半導体領域がn型の時は第3半導体領域より価電子帯端が真空のエネルギー準位より遠い第5半導体領域を設けたことを特徴とする態様1、態様2および態様3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【0021】
透明電極&texture
本発明の光電変換素子は第3半導体領域の第3表面側から光が入射される。そのため、第3半導体領域の第3表面または(17)記載の第5半導体領域の第5表面へ反射防止膜が設けられる場合が多いが、
前記第3半導体領域のシート抵抗または前記第3半導体領域と前記第5半導体領域との並列のシート抵抗が大きい場合は、前記第3半導体領域から電流または電圧を直列抵抗の影響を少なく取り出すために、第3半導体領域の第3表面または(17)記載の第5半導体領域の第5表面に透明電極を堆積する必要がある。
更には第3半導体領域の第3表面または(17)記載の第5半導体領域の第5表面は入射光の反射を防止するために入射光波長の1/4以上の平面寸法の凹凸を有することが望ましい。すなわち、
(18)[態様18]前記第3半導体の第3表面へ透明電極を設けたことを特徴とする態様1、態様2および態様3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(19)[態様19]前記第5半導体の第5表面へ透明電極を設けたことを特徴とする態様17記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
なお、透明導電膜としては酸化インジュウム(InOx)、水素化酸化インジュウム(InOx:H)、酸化インジュウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnOx)およびそのアルミニュム(Al)添加物またはホウ素(B)添加物、グラフェンなどのナノカーボン、などが使用される。
(20)[態様20]前記第3半導体領域の第3表面は入射光の波長の1/4以上の平面寸法の凹凸を有することを特徴とする態様1、態様2および態様3のうちの1つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(21)[態様21]前記第5半導体領域の第5表面は入射光の波長の1/4以上の平面寸法の凹凸を有することを特徴とする態様17記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(22)[態様22]前記透明電極は酸化亜鉛であり、かつその表面に入射光波長の1/4以上の平面寸法の凹凸を有することを特徴とする態様18及び19のうちの1つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
CVD技術で堆積した酸化亜鉛は堆積条件によってその表面に凹凸構造を形成することが出来る。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光電変換素子の短波長感度の改善方法により、
太陽光等光源の光子数―波長特性が標準値より大きくずれた場合の高変換効率タンデム太陽電池(タンデム光電変換素子)に見られる著しい出力電流低下を避け、かつ従来の単一接合光電変換素子の出力電流より大きい出力電流を有する光電変換素子が実現される。光源スペクトラムが大きく変化する環境―例えば、移動体搭載、時間によって他の建物や樹木の影になる建造物や壁への設置―で使用できる高効率光電変換素子の実現に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の光電変換素子の短波長感度の改善方法を実現する動作を説明するエネルギーバンドダイアグラムである。
【
図3】本発明の実施が可能な、中間層を設けた光電変換素子の構造例。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ZnSxSe(1-x)
以下に第1半導体領域が結晶Siであり、第3半導体領域がZnSe系化合物半導体である場合の実施形態を説明する。
(23)[態様23]前記第1の半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3の半導体領域はセレン化亜鉛(ZnSe)から構成され、前記中間領域は硫化亜鉛(ZnS)から形成されることを特徴とする態様12記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
ZnSeからSiへ注入された第1導電型キャリアはZnSeとSiとの間に発生している価電子帯端のオフセットEVS(1.6~1.7eV)によりエネルギーを与えられ、高エネルギーの第1導電型キャリアとして電子正孔対を発生させる。
ZnSはSiと格子定数が近く、Siの第1表面の格子欠陥の発生を少なくすることができるので、ZnSeからSiへ注入された高エネルギー第1導電型キャリア(この場合は正孔)の界面での再結合を少なくすることができる。このため、Siへ注入後の高エネルギー正孔による電子正孔対発生は確保される。ZnSeの価電子帯端から見たZnSの価電子帯端バリアは約0.3eVであるが、ZnSの厚さが10nm以下と正孔がトンネルできる距離であるので問題ない。
第3半導体領域をZnSとZnSeの混晶ZnSxSe(1-x)(0<x<1)で形成した場合、xの値により価電子帯端のバンドオフセットの絶対値|EVS|は1.7~1.9eVの間で変化する。|EVS|が大きくなれば、第1半導体領域Siへ注入された高エネルギー第1導電型キャリアによる電子・正孔対発生の確率は大きくなるが、一方エネルギーギャップEG3は大きくなるので、エネルギーギャップEG3に対応する光源の短波長領域の波長範囲が小さくなり、第1半導体領域Siへ注入される高エネルギー第1導電型キャリアの数は少なくなるので、光源のスペクトルによりxの最適値を選ぶ。
一方、Siとの界面の格子整合が良好に成長した場合は、xが0近くまで減少すると、導電帯端のバンドオフセットの絶対値|ΔECS|が~1.9eVまで増加するので、上記と同様に光源のスペクトルによりxの最適値を選ぶことができる。この場合は、ZnSxSe(1-x)からSiへ注入される高エネルギー第1導電型キャリアが電子となる。ZnSxSe(1-x)はp型、Siはn型に設計される。
(24)[態様24]前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は混晶ZnSxSe(1-x)で形成されたことを特徴とする態様1、態様2および態様3の内のひとつに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(25)なお、第1導電型キャリアを前記第3半導体領域の第4表面近傍から前記第1半導体領域へ向けて加速する内部電界を設けることが望ましい。この加速内部電界は、前記第3半導体領域が混晶ZnSxSe(1-x)で形成され場合は、前記第3半導体領域の第3表面に近づくほどxが大きくなる半導体領域を前記第3半導体領域内の少なくとも一部に設けることにより実現できる。
[態様25]前記第3半導体領域は混晶ZnSxSe(1-x)で形成され、前記第3半導体領域の第3表面に近づくほどxが大きくなる半導体領域を前記第3半導体領域の少なくとも一部に設けたことを特徴とする態様24に記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(26)前記第3半導体領域が混晶ZnSxSe(1-x)で形成され場合もZnS中間層の効果は有効である。
[態様26]
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は混晶ZnSxSe(1-x)から構成され、前記中間領域は硫化亜鉛(ZnS)から形成されることを特徴とする態様12および態様25記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(27)更に、ZnSeまたはZnSxSe(1-x)のシート抵抗が大きく光電変換素子の出力電力損失を改善するためにZnSeまたはZnSxSe(1-x)の第3表面側に透明電極を設ける必要がある。その場合、該透明電極として酸化インジュウム錫(ITO)膜が好適である。
[態様27]前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSeから構成され、前記ZnSeの第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする態様23記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(28)[態様28]
前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域はZnSxSe(1-x)から構成され、前記ZnSxSe(1-x)の第3表面(受光面)に酸化インジュウム錫(ITO)膜からなる透明電極を設けたことを特徴とする態様24、態様25、および態様26のうち一つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【0025】
AlP,GaP
以下に第1半導体領域が結晶Siであり、第3半導体領域がAlP(燐化アルミニュウム)化合物半導体である場合の実施形態を説明する。
(29)[態様29]前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は燐化アルミニュウム(AlP)から構成されることを特徴とする態様1及び態様3のうち一つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
(30)[態様30]前記第1半導体領域は結晶シリコン(Si)から構成され、前記第3半導体領域は燐化アルミニュウム(AlP)から構成され、前記中間領域は燐化ガリウム(GaP)から形成されることを特徴とする態様11記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
AlPからSiへ注入された前記第1導電型キャリアはAlPとSiとの間に発生している価電子帯端のオフセットEVS(約1.4eV)によりエネルギーを与えられ、高エネルギーの第1導電型キャリアとして電子正孔対を発生させる。前記中間領域のGaPはAlPに対して価電子帯のバリアを作らないので、第1導電型キャリアは、前記中間領域をトンネルして前記第1半導体領域(結晶Si)高エネルギー状態で注入される。
なお、AlPは外気と接触すると不安定になるのでGaN等による受光面側に保護膜が必要になる。
(31)[態様31]前記第3半導体領域を形成するAlPの第3表面にGaNの保護膜を設けたことを特徴とする態様29及び態様30のうち一つに記載の光電変換素子の短波長感度の改善方法。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法を具現した光電変換素子は、
エネルギー密度-波長(光子密度-波長)特性が大きく変化する光源または使用環境において、高効率でありながら、
従来のタンデム型光電変換素子(タンデム型太陽電池)と違って変換効率が著しく変化しないので、
建物、樹木、壁などの影により経時的に光源のスペクトラムが変化する応用、経時的に光源のスペクトラムが変化する移動体への搭載に好適である。
【符号の説明】
【0027】
100:第1半導体領域(下記101、102、103を含む総称)
101:第1導電型を有する第1半導体領域
102:第2導電型を有する第1半導体領域
103:高不純物濃度を有する第1導電型の第1半導体領域
104:第1導電型を有する第1半導体領域101へ設けられたオーム性電極
105:第1半導体領域100へ設けられたオーム性電極
110:第1半導体領域の第1表面
120:第1半導体領域の第2表面
200:第2半導体領域(下記201、202、203を含む総称)
201:第1導電型を有する第2半導体領域
202:第2導電型を有する第2半導体領域
203:高不純物濃度を有する第1導電型の第1半導体領域
204:第2導電型を有する第2半導体領域202へ設けられたオーム性電極
300:第3半導体領域
304:第3半導体領域300へ設けられたオーム性電極
330:第3半導体領域の第3表面
340:第3半導体領域の第4表面
400:中間膜
IphH:短波長域光電流
IphL:長波長域光電流
EG1:第1エネルギーギャップ(第1半導体領域のエネルギーギャップ)
EG3:第3エネルギーギャップ(第3半導体領域のエネルギーギャップ)
EC1:第1半導体領域100の伝導帯端
EV1:第1半導体領域100の価電子帯端
EC3:第3半導体領域300の伝導帯端
EV3:第3半導体領域300の価電子帯端
EF:第1半導体領域と第2半導体領域間がゼロバイアス状態でのフェルミレベル
ΔES:第1導電型キャリアに対するバンド端不連続(バンド端オフセット)
ΔECS:(第3半導体領域の)第3導電帯端が(第1半導体領域の)第1導電帯端との間に形成するバンド端オフセット
ΔEVS:(第3半導体領域の)第3価電子帯端が(第1半導体領域の)第1価電子帯端との間に形成するバンド端オフセット
λEG3:第3半導体のエネルギーギャップに対応する光の波長、λEG3=1240/EG3(単位:nm、EG3の単位はeV)
λS:λEG3より短い光の波長
λL:λEG3より長い光の波長
e1:短波長λSの光が第3半導体で吸収されて発生する電子・正孔対の内の電子
h1:短波長λSの光が第3半導体で吸収されて発生する電子・正孔対の内の正孔
e2:短波長λSの光が第3半導体で吸収されて生成された電子(e1)・正孔(h1)対のうち第1導電型キャリアがバンド端不連続ΔESからエネルギーΔESをもらって第1半導体領域へ注入されて発生した電子・正孔対の内の電子
h2:短波長λSの光が第3半導体で吸収されて生成された電子(e1)・正孔(h1)対のうち第1導電型キャリアがバンド端不連続ΔESからエネルギーΔESをもらって第1半導体領域へ注入されて発生した電子・正孔対の内の正孔