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特開2025-72615ニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌、並びにニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025072615
(43)【公開日】2025-05-09
(54)【発明の名称】ニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌、並びにニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/32 20060101AFI20250430BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20250430BHJP
   A23L 33/13 20160101ALI20250430BHJP
【FI】
C12P19/32 Z
C12N1/20 E
A23L33/13
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025021095
(22)【出願日】2025-02-12
(62)【分割の表示】P 2021551670の分割
【原出願日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2019187501
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 信行
(72)【発明者】
【氏名】西川 孝治
(72)【発明者】
【氏名】井戸垣 秀聡
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、ニコチンアミドリボシドの産生効率が高い微生物、並びにニコチンリボモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの両方を産生できる微生物を提供することである。
【解決手段】フルクトバシラス属に属する乳酸菌を培養することによって、ニコチンリボモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌の培養を行い、ニコチンアミドリボシドを含む培養物を調製する工程を含む、ニコチンアミドリボシドの製造方法。
【請求項2】
前記培養を、フルクトースを含まない培地にて行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選ばれる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌から得られるニコチンアミドリボシドを含む培養物、前記培養物から分離された上清、及び/又は前記上清から単離されたニコチンアミドリボシドを含有する、ニコチンアミドリボシド強化剤。
【請求項6】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、請求項5に記載の強化剤。
【請求項7】
前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、請求項5に記載の強化剤。
【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載のニコチンアミドリボシド強化剤を含む飲食品、化粧品又は医薬品。
【請求項9】
Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、ニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌。
【請求項10】
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌の培養を行う工程を含む、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法。
【請求項11】
前記培養を、フルクトースを含む培地にて行う、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選ばれる、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項14】
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌から得られるニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを含む培養物、前記培養物から分離された菌体、前記菌体の破砕物、及び/又は前記破砕物から単離されたニコチンアミドリボシド及びニコチンアミドリボシドを含有する、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤。
【請求項15】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、請求項14に記載の強化剤。
【請求項16】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、請求項14に記載の強化剤。
【請求項17】
請求項14~16のいずれかに記載のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤を含む飲食品、化粧品又は医薬品。
【請求項18】
Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌、並びにニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老化および老化関連疾患は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD+)量低下及びNAD+依存性脱アセチル化酵素サーチュインの活性低下と密接な関わりを持つことが示されている(非特許文献1、2)。また、サーチュインの活性化は、カロリー制限における寿命延長又は健康増進に関わる効果の多くを説明すると考えられている(非特許文献2)。
【0003】
NAD+は、古くから酸化還元反応の補酵素として知られている一方、近年では、ポリADPリボースポリメラーゼ、CD38/CD157、サーチュインの基質等としての役割も知られるようになった(非特許文献1)。特に、サーチュインによるNAD+からニコチンアミドへの分解反応は、それと共役するサーチュインによるリシン残基脱アセチル化反応を促進することで、健康、長寿に関わるさまざまな生命現象に関与している(非特許文献1、2)。老化に伴いNAD+量およびサーチュイン活性は低下する一方で、ニコチンアミドからNAD+を再合成する律速酵素ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)の酵素反応産物、具体的には、ニコチンアミドモノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN)及びニコチンアミドリボシド(nicotinamide riboside:NR)といったNAD+中間代謝産物の補充は、サーチュインを効果的に再活性化する(非特許文献1)ことが知られており、更に、サーチュインの活性化を介して幅広い抗酸化作用を発現することが知られている。このため、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドは、カロリー制限における寿命延長及び健康増進等に関わる多くの生体現象に寄与することが知られている。
【0004】
従って、ニコチンアミドモノヌクレオチド又はニコチンアミドリボシドを効率的に生産する方法が望まれている。これまで、トルラ酵母等の食経験のある酵母からニコチンアミドモノヌクレオチドが取得できること(特許文献1)、及び、大腸菌(E.coli)、B.サブチリス(B.subtilis)、C.グルタミカム(C.glutamicum)、A.バイリイ(A.baylyi)、及びR.オイトロファ(R.eutropha)からなる群から選択される細菌の遺伝修飾細菌からニコチンアミドリボシドを取得できること(特許文献2)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/200050号
【特許文献2】国際公開第2017/083858号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Imai, S. & Guarente, L. (2014) Trends Cell Biol., 24, 464-471.
【非特許文献2】Guarente, L. (2013) Genes Dev., 27, 2072-2085.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ニコチンアミドモノヌクレオチド又はニコチンアミドリボシドを産生するこれまでの微生物学的方法では、依然として生産効率に改善の余地がある。
【0008】
そこで、本発明は、ニコチンアミドリボシドの産生効率が高い微生物、並びにニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの両方を産生可能な微生物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討の結果、特定の属に属する乳酸菌が、ニコチンアミドリボシドを効率よく産生し、更に、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの両方を生産できることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌の培養を行い、ニコチンアミドリボシドを含む培養物を調製する工程を含む、ニコチンアミドリボシドの製造方法。
項2. 前記培養を、フルクトースを含まない培地にて行う、項1に記載の製造方法。
項3. 前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選ばれる、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、項1又は2に記載の製造方法。
項5. フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌から得られるニコチンアミドリボシドを含む培養物、前記培養物から分離された上清、及び/又は前記上清から単離されたニコチンアミドリボシドを含有する、ニコチンアミドリボシド強化剤。
項6. 前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、項5に記載の強化剤。
項7. 前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、項5に記載の強化剤。
項8. 項5~7のいずれかに記載のニコチンアミドリボシド強化剤を含む飲食品、化粧品又は医薬品。
項9. Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、ニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌。
項10. フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌の培養を行う工程を含む、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法。
項11. 前記培養を、フルクトースを含む培地にて行う、項10に記載の製造方法。
項12. 前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選ばれる、項10又は11に記載の製造方法。
項13. 前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、項10又は11に記載の製造方法。
項14. フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌から得られるニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを含む培養物、前記培養物から分離された菌体、前記菌体の破砕物、及び/又は前記破砕物から単離されたニコチンアミドリボシド及びニコチンアミドリボシドを含有する、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤。
項15. 前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、項14に記載の強化剤。
項16. 前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、項14に記載の強化剤。
項17. 項14~16のいずれかに記載のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤を含む飲食品、化粧品又は医薬品。
項18. Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを産生する乳酸菌。
項19.フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌から得られるニコチンアミドリボシドを含む培養物、前記培養物から分離された上清、及び/又は前記上清から単離されたニコチンアミドリボシドの、ニコチンアミドリボシド強化剤の製造のための使用。
項20.フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌から得られるニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを含む培養物、前記培養物から分離された菌体、前記菌体の破砕物、及び/又は前記破砕物から単離されたニコチンアミドリボシド及びニコチンアミドリボシドの、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤の製造のための使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ニコチンアミドリボシドの産生効率が高い微生物、及びニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの両方を産生可能な微生物として、フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌が提供される。従って、フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌から得られる、ニコチンアミドリボシドを含む培養物、又はニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを含む培養物は、それぞれ、ニコチンアミドリボシドを強化する食品添加物又はニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを強化する食品添加物に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.ニコチンアミドリボシドの製造方法
本発明のニコチンアミドリボシドの製造方法は、フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌を培養し、ニコチンアミドリボシドを含む培養物を調製する工程を含むことを特徴とする。以下、本発明のニコチンアミドリボシドの製造方法について詳述する。
【0013】
乳酸菌
本発明の製造方法で用いられる乳酸菌は、フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌であれば特に限定されない。フルクトバシラス属に属する乳酸菌は、ニコチンアミドリボシドを産生する。
【0014】
好ましい乳酸菌の例としては、フルコトバシラス・ドゥリオニス(Fructobacillus durionis)、フルクトバシラス・トロパエオイル(Fructobacillus tropaeoil)、及びフルクトバシラス・フルクトサス(Fructobacillus fructosus)が挙げられ、より好ましくは、フルクトバシラス・トロパエオイル(Fructobacillus tropaeoil)、及びフルクトバシラス・フルクトサス(Fructobacillus fructosus)が挙げられる。
【0015】
より好ましい乳酸菌の例としては、Fructobacillus durionis RD011727株、Fructobacillus tropaeoil RD012353株、Fructobacillus tropaeoil RD012354株、Fructobacillus fructosus NBRC3516株、及びFructobacillus durionis NBRC113239株が挙げられ、更に好ましくは、Fructobacillus durionis RD011727株、Fructobacillus tropaeoil RD012353株、Fructobacillus tropaeoil RD012354株、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株が挙げられる。
【0016】
本発明のニコチンアミドリボシドの製造方法においては、ニコチンアミドリボシドをより一層多く産生する観点から、乳酸菌として、好ましくは、フルクトバシラス・フルクトサス(Fructobacillus fructosus)及びFructobacillus tropaeoil RD012353株が挙げられ、より好ましくは、Fructobacillus tropaeoil RD012353株、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株が挙げられ、特に好ましくは、Fructobacillus tropaeoil RD012353株が挙げられる。
【0017】
Fructobacillus durionis RD011727株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2018年8月21日付で受託番号NITE-P02764として国内寄託されている。
【0018】
Fructobacillus tropaeoil RD012353株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2018年8月21日付で受託番号NITE P-02765として国内寄託されている。
【0019】
Fructobacillus tropaeoil RD012354株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2018年8月21日付で受託番号NITE P-02766として国内寄託されている。
【0020】
これらのフルクトバシラス菌乳酸菌株は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
培地
フルクトバシラス菌乳酸菌の培養に用いられる培地は適宜選択されればよい。培地としては、拡大培養に用いられるもの(前培養培地)、及び生産培養に用いられるもの(本培養培地)が挙げられる。本培養培地は、前培養培地として用いられる培地を基本として、更に添加物を含有させて調製することができる。培地の性状については、好ましくは液体培地であるが、寒天培地であってもよい。培地は、炭素源の他、一般的には窒素源、ミネラル等を含む。
【0022】
炭素源としては、糖質及び糖質材料が挙げられる。糖質としては、糖類(単糖、二糖、オリゴ糖)、多糖類、及び糖アルコールが挙げられる。糖質としては、乳糖、ショ糖、グルコース、デンプン、キシリトール、デキストロース等が挙げられる。糖質材料は、糖質を含む有機組成物であればよく、例えば、乳及びその加工品(脱脂粉乳、ホエイ、ミルクパウダー、練乳等)、豆乳及びその加工品(豆乳加水分解物等)、穀類、果実、野菜等の食品が挙げられる。乳としては、ウシ、ヤギ、ヒツジ、水牛、ラクダ、ラマ、ロバ、ヤク、ウマ、トナカイ等の任意の哺乳動物に由来するものが挙げられる。なお糖質は、単離されたものであってもよいし、糖質材料に含まれているものであってもよい。例えば、フルクトース(糖質)は、果実(糖質材料)に含まれる形態のものを用いてもよい。これらの炭素源は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの炭素源の中でも、好ましくはグルコースが挙げられる。本発明のニコチンアミドリボシドの製造方法においては、培地にはフルクトースを含まないことが好ましい。
【0023】
培地中の炭素源の濃度については特に限定されず、培地の種類や培養方式等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.5~4w/w%、好ましくは1~3w/w%、より好ましくは1.5~2.5w/w%が挙げられる。
【0024】
窒素源としては、任意の無機窒素源又は有機窒素源を使用することができる。例えば、酵母エキス(ビール酵母等)、肉エキス、カゼイン等のタンパク質;ペプトン(プロテアーゼペプトン等)等のタンパク質加水分解物、ペプチド等のペプチド類;アンモニウム塩(クエン酸アンモニウム等)、硝酸塩等の含窒素塩等が挙げられる。これらの窒素源は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
培地中の窒素源の濃度については特に限定されず、培地の種類や培養方式等に応じて適宜設定すればよいが、タンパク質の場合、例えば0.3~4w/w%、好ましくは0.5~3w/w%、より好ましくは1~2w/w%が挙げられ;ペプチド類の場合、例えば0.1~2w/w%、好ましくは0.3~1.8w/w%、より好ましくは0.5~1.5w/w%が挙げられ;含窒素塩の場合、例えば0.03~1.5w/w%、好ましくは0.05~1w/w%、より好ましくは0.1~0.5w/w%が挙げられる。
【0026】
ミネラルとしては、例えば、マンガン(硫酸マンガン等)、亜鉛、鉄、ナトリウム(酢酸ナトリウム等)、カリウム(硫酸水素二カリウム、リン酸カリウム等)、マグネシウム(硫酸マグネシウム等)、カルシウム、リン(リン酸カリウム等)、硫黄(硫酸マンガン、硫酸水素カリウム、硫酸マグネシウム等)、微量元素等が挙げられる。これらのミネラルは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらのミネラルの中でも、好ましくは、マンガン、ナトリウム、マグネシウム、カリウムが挙げられる。
【0027】
培地中のミネラルの濃度については特に限定されず、培地の種類や培養方式等に応じて適宜設定すればよいが、マンガンの場合、例えば0.001~0.01w/w%、好ましくは0.003~0.008w/w%が挙げられ;ナトリウムの場合、例えば0.05~1.5w/w%、好ましくは0.1~1w/w%が挙げられ;マグネシウムの場合、例えば0.001~0.02w/w%、好ましくは0.005~0.015w/w%が挙げられ;カリウムの場合、例えば0.05~1w/w%、好ましくは0.1~0.5w/w%が挙げられる。
【0028】
培地は、上記成分以外に、ビタミン(ビタミンB群など)、界面活性剤(非イオン性界面活剤(Tween等)、陰イオン性界面活性剤(SDS等)等)、抗菌剤(トリクロサン等)、抗生物質(モネシン等)等の他の成分を含んでもよい。これらの他の成分は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの他の成分の中でも、好ましくは界面活性剤、より好ましくは非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0029】
培地中の他の成分の濃度については特に限定されず、他の成分の種類、培地の種類、培養方式等に応じて適宜設定すればよいが、界面活性剤を含む場合、界面活性剤の濃度として、例えば0.01~0.5w/w%、好ましくは0.05~0.3w/w%が挙げられる。
【0030】
また、本発明の製造方法で得られた培養物を食品へのニコチンアミドリボシド強化剤として用いる場合、培地成分は、上記の成分のうち、食品添加物として認可されている成分が選択される。
【0031】
培養方法
本発明の製造方法におけるフルクトバシラス属乳酸菌の培養方法としては、フルクトバシラス属乳酸菌の生育条件下、ニコチンアミドリボシドを含む培養物を調製できる条件下であれば特に限定されない。
【0032】
培養温度としては、培養対象となるフルクトバシラス属乳酸菌の至適温度であればよく、例えば26~40℃、好ましくは27~38℃、より好ましくは28~36℃、更に好ましくは29~34℃が挙げられる。培養時間としては、実際に培養するフルクトバシラス属乳酸菌の種類等に合せて適宜設定すればよく、例えば4~48時間、好ましくは8~36時間、より好ましくは12~24時間が挙げられる。
【0033】
本発明の製造方法においては、フルクトバシラス属乳酸菌の培養中に培養液を攪拌しなくてもよく、そのような条件であっても、ニコチンアミドリボシドを高産生できる。なお、本発明の製造方法では、ニコチンアミドリボシドをより高産生するために、乳酸菌の培養中に培養液を攪拌しても構わない。
【0034】
本発明の製造方法においては、好ましくは、上述の培養を一定時間生産培養(本培養)として行い、その前に、少量(例えば体積比で本培養培地の1/6~1/4)の培地で拡大培養を(前培養)行うことができる。前培養の培養条件は、フルクトバシラス属乳酸菌の種類などに合せて適宜設定すればよく、上述の条件を採用することができる。また、本培養においては、前培養で得られた培養物を、OD660が例えば0.01~0.04、好ましくは0.01~0.03となるように本培養培地に植菌することができる。
【0035】
以上のようにして得られるニコチンアミドリボシドを含む培養物が調製される。この培養物には、培養で共産生された他のフルクトバシラス属乳酸菌代謝物が含まれていてもよい。
【0036】
調製されたニコチンアミドリボシドを含む培養物の使用形態としては、調製された培養物そのままで使用する形態、当該培養物から上清を分離して使用する形態、及び上清からニコチンアミドリボシドを単離して使用する形態が挙げられる。分離方法としては、例えば遠心分離法、膜ろ過法等が挙げられる。単離法としては、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー技術、塩析、溶媒沈殿等が挙げられる。
【0037】
2.ニコチンアミドリボシド強化剤;飲食品、化粧品又は医薬品
以上のようにして得られたニコチンアミドリボシドを含む培養物、当該培養物から分離された上清、及び/又は当該上清から単離されたニコチンアミドリボシドは、ニコチンアミドリボシドの強化を目的とした食品への添加物若しくは化粧品又は医薬品の有効成分として配合される、ニコチンアミドリボシド強化剤として、好適に用いることができる。
【0038】
ニコチンアミドリボシド強化剤は、飲食品、化粧品又は医薬品に配合して摂取、服用又は適用させることで、体内に取り込まれたニコチンアミドリボシドが、細胞がエネルギーを利用するために必要な物質であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに変換されることによる様々な有用な効果ができる。
【0039】
ニコチンアミドリボシド強化剤は、ニコチンアミドリボシド以外に、他のフルクトバシラス属乳酸菌代謝物が含まれていてよい。この場合、ニコチンアミドリボシド強化剤は、ニコチンアミドリボシドに加えて、当該他のフルクトバシラス属乳酸菌代謝物の少なくともいずれかの強化剤としても用いることができる。
【0040】
ニコチンアミドリボシド強化剤を飲食品に配合することで、飲食によってニコチンアミドリボシドを効率的に摂取することができる。これによって、ニコチンアミドリボシド摂取による健康効果(カロリー制限、アンチエイジング、健康増進等)を期待することができる。なお、飲食品には、ヒト用の飲食品だけでなく、動物用の飼料も含む。
【0041】
飲食品としては、特に限定されないが、例えば、飲料としては、特に限定されないが、例えば、発酵乳(ドリンクヨーグルト等)、乳酸菌飲料、乳飲料(コーヒー牛乳、フルーツ牛乳等)、茶系飲料(緑茶、紅茶及び烏龍茶等)、果物・野菜系飲料(オレンジ、りんご、ぶどう等の果汁、トマト、ニンジン等の野菜汁を含む飲料)、アルコール性飲料(ビール、発泡酒、ワイン等)、炭酸飲料、清涼飲料、水ベースの飲料等の飲料;及び発酵乳(セットタイプヨーグルト、ソフトヨーグルト等)、菓子、インスタント食品、調味料等の加工食品等の食品が挙げられる。
【0042】
また、飲食品としては、機能性食品も挙げられる。機能性食品は、生体に対して一定の機能性を有する食品を意味し、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)及び栄養機能食品等の保健機能食品、機能性表示食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤等の各種剤形のもの)及び美容食品(例えばダイエット食品)等が挙げられる。更に、機能性食品は、病者用食品、妊産婦・授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳、高齢者用食品、介護用食品等の特別用途食品であってもよい。
【0043】
また、当該ニコチンアミドリボシド強化剤を化粧品に配合することで、適用によって、ニコチンアミドリボシドによる薬理効果(老化予防等)を期待できる。
【0044】
化粧品としては、化粧水、乳液、クリーム、エッセンス、ゲル、パック、シートマスク、リップクリーム等の基礎化粧料;洗顔料、メイク落とし(クレンジング剤を含む)、角質除去剤、ボディーシャンプーなどの皮膚洗浄料;サンスクリーン剤、ボディー用ジェル、ボディー用マッサージ剤、抑汗剤、防臭剤、除毛剤、入浴剤等のボディーケア化粧料;ファンデーション、おしろい、口紅、頬紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、眉墨等のメークアップ化粧料;マネキュア、ネイルリムーバー等の爪用化粧料;ヘアスタイリング剤、シャンプー、コンディショナー、リンス、育毛剤等の毛髪化粧料;液体歯磨、練歯磨、洗口液、マウススプレー等の口腔用化粧料等が挙げられる。
【0045】
更に、当該ニコチンアミドリボシド強化剤を医薬品に配合することで、服用又は適用によってニコチンアミドリボシドを有効成分として経口又は経皮摂取することができる。これによって、ニコチンアミドリボシド摂取による薬理効果(コケイン症候群及び加齢関連疾病等の治療又は予防、並びに皮膚の酸化損傷の治療又は予防等)を期待できる。
【0046】
医薬品としては、経口剤及び外用剤(医薬部外品を含む)が挙げられる。経口剤の剤形としては、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤等が挙げられ、外用剤の剤型としては、液剤(ローション剤、スプレー剤、エアゾール剤、及び乳液剤を含む)、フォーム剤、軟膏剤、クリーム剤、ジェル剤、貼付剤等が挙げられる。
【0047】
ニコチンアミドリボシド強化剤を含む飲食品、化粧品又は医薬品の適用対象としては、好ましくは哺乳動物が挙げられ、例えば、ヒト、チンパンジー、ゴリラ等の霊長類;イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ロバ等のペット又は家畜;マウス、ラット、ハムスター、サル等の実験動物が挙げられる。
【0048】
3.ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌は、ニコチンアミドリボシドと共にニコチンアミドモノヌクレオチドも産生する。従って、本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法も提供する。
【0049】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法では、フルクトバシラス属乳酸菌の生育条件下、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを含む培養物を調製できる条件下で培養を行うことで、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを共産生する。これによって、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを含む培養物が調製される。
【0050】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法において用いられる乳酸菌は、上記「1.ニコチンアミドリボシドの製造方法」において記載した通りである。具体的には、好ましい乳酸菌の例としては、フルコトバシラス・ドゥリオニス(Fructobacillus durionis)、フルクトバシラス・トロパエオイル(Fructobacillus tropaeoil)、及びフルクトバシラス・フルクトサス(Fructobacillus fructosus)が挙げられる。
【0051】
より好ましい乳酸菌の例としては、Fructobacillus durionis RD011727株、Fructobacillus tropaeoil RD012353株、Fructobacillus tropaeoil RD012354株、Fructobacillus fructosus NBRC3516株、及びFructobacillus durionis NBRC113239株が挙げられる。
【0052】
ただし、本発明のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法においては、ニコチンアミドモノヌクレオチドをより多く(つまり、ニコチンアミドリボシドに対してニコチンアミドモノヌクレオチドの比率がより高くなるように)産生する観点から、乳酸菌として、好ましくはフルコトバシラス・ドゥリオニス(Fructobacillus durionis)、及びフルクトバシラス・フルクトサス(Fructobacillus fructosus)、及びFructobacillus tropaeoil RD012353株が挙げられ、より好ましくはフルコトバシラス・ドゥリオニス(Fructobacillus durionis)、フルクトバシラス・フルクトサス(Fructobacillus fructosus)が挙げられ、さらに好ましくはFructobacillus durionis RD011727株、及びFructobacillus fructosusNBRC3516株が挙げられる。
【0053】
また、本発明のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法においては、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの両方をバランス良く産生する観点から、乳酸菌として、好ましくはフルクトバシラス・トロパエオイル(Fructobacillus tropaeoil)が挙げられ、好ましくはFructobacillus tropaeoil RD012353株が挙げられる。
【0054】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法において用いられる培地は、炭素源として、更にフルクトースを含むことが好ましいことを除いて、上記「1.ニコチンアミドリボシドの製造方法」において記載した通りである。培地中のフルクトースの濃度については特に限定されず、培地の種類や培養方式等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.5~4w/w%、好ましくは1~3.5w/w%、より好ましくは1.5~2.5w/w%が挙げられる。培地中にフルクトースを含むことで、フルクトバシラス属に属する乳酸菌は、ニコチンアミドリボシド及びニコチンアミドリボシドを菌体内に蓄積する。
【0055】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法において用いられる培養方法等についても、上記「1.ニコチンアミドリボシドの製造方法」において記載した通りである。これによって、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの両方を産生する。調製されたニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの両方を含む培養物の使用形態としては、調製された培養物そのままで使用する形態、当該培養物から菌体を分離して使用する形態、菌体を破砕して使用する形態、及びニコチンアミドリボシドを単離して使用する形態が挙げられる。分離方法としては、例えば遠心分離法、膜ろ過法等が挙げられる。菌体破砕法としては、ビーズ破砕法等が挙げられる。単離法としては、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー技術、塩析、溶媒沈殿等が挙げられる。
【0056】
4.ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤;飲食品、化粧品又は医薬品
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法により得られるニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを含む培養物、当該培養物から分離された菌体、当該菌体の破砕物、及び/又は当該破砕物から単離されたニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドは、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの強化を目的とした食品への添加物若しくは化粧品又は医薬品の有効成分として配合される、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤として、好適に用いることができる。
【0057】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤は、飲食品、化粧品又は医薬品に配合して摂取、服用又は適用させることで、体内に取り込まれたニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドが、細胞がエネルギーを利用するために必要な物質であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに変換されることによる様々な有用な効果ができる。
【0058】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤は、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド以外に、他のフルクトバシラス属乳酸菌代謝物が含まれていてよい。この場合、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤は、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドに加えて、当該他のフルクトバシラス属乳酸菌代謝物の強化剤としても用いることができる。
【0059】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤を飲食品に配合することで、飲食によってニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを効率的に摂取することができる。
【0060】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤が配合される飲食品については、上記「2.ニコチンアミドリボシド強化剤;飲食品、化粧品又は医薬品」に記載の通りである。
【0061】
また、当該ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤を化粧品に配合することで、適用によって、ニコチンアミドリボシドによる薬理効果(老化予防等)及びニコチンアミドモノヌクレオチドによる薬理効果(細胞内ニコチンアミドモノヌクレオチド増加、老化予防等)を期待できる。
【0062】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤が配合される化粧品については、上記「2.ニコチンアミドリボシド強化剤;飲食品、化粧品又は医薬品」に記載の通りである。
【0063】
更に、当該食品のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤を医薬品に配合することで、服用又は適用によってニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドを有効成分として経口又は経皮摂取することができる。これによって、ニコチンアミドモノヌクレオチド摂取による薬理効果(加齢関連疾病等の治療又は予防等)及びニコチンアミドリボシド摂取による薬理効果(コケイン症候群及び加齢関連疾病等の治療又は予防、並びに皮膚の酸化損傷の治療又は予防等)を期待できる。
【0064】
ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤が配合される医薬品の剤型及び適用対象については、上記「2.ニコチンアミドリボシド強化剤;飲食品、化粧品又は医薬品」に記載の通りである。
【実施例0065】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
実施例1 フルクトバシラス属乳酸菌を用いたニコチンアミドリボシドの産生
Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株を、それぞれ独立に、Difco社製のMRS培地(前培養培地)3mlに植菌し、30℃で24時間、静置で拡大培養した。得られた培養液をOD660が0.02となるように、MRS培地(本培養培地)15mlに植菌し、30℃で12時間、静置で生産培養した。得られた培養液を遠心分離に供して上清と菌体とをそれぞれ回収した。回収した培養上清及び回収した菌体それぞれについて、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)及びニコチンアミドリボシド(NR)の定量を行った。
【0067】
(MRS培地組成)
2w/w% グルコース
1w/w% プロテアーゼペプトン
1w/w% 牛肉エキス
0.5w/w% 酵母エキス
0.2w/w% クエン酸アンモニウム
0.1w/w% Tween80
0.5w/w% 酢酸ナトリウム
0.01w/w %硫酸マグネシウム
0.005w/w% 硫酸マンガン
0.2w/w% リン酸水素二カリウム
【0068】
(上清中のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの定量)
回収した上清15mlを、同体積の4w/w%炭酸水素ナトリウム溶液と混合し、得られた混合液をBondElut PBAカラム(1ml、アジレント社製)へ通液した。さらに、カラムに3mlの2w/w%炭酸水素ナトリウム溶液を通液して洗浄を行い、次いで、3mlの2v/v%ギ酸溶液を通液し、溶出液を回収した。溶出液250μlに、150μlの1.3M水酸化カリウム水溶液、及び100μlの20w/w%アセトフェノンを加え、4℃で30分間反応させた後、400μlの98v/v%ギ酸水溶液を加え、110℃で7分間反応させることで、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの蛍光誘導体化処理を行い、後述するHPLC条件にて分析し、上清中のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド生産量(培養液当たりの生産量;mg/L)を測定した。結果を表1に示す。なお、表1中、n.d.は、不検出であったことを示す。
【0069】
(菌体内のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの定量)
回収した菌体を10mlの0.85w/w%KCl水溶液で洗浄した。洗浄した菌体を再度遠心分離に供し、菌体を回収した。回収した菌体を0.5mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、0.1mmのジルコニアビーズを等量添加した後、ビーズ破砕機にて菌体を破砕した。破砕した菌体を遠心分離にて分離し、上清(菌体破砕抽出液)を回収した。菌体破砕抽出液250μlに、150μlの1.3M水酸化カリウム水溶液及び100μlの20w/w%アセトフェノンを加え、4℃で30分間反応させた後、400μlの98v/v%ギ酸水溶液を加え、110℃で7分間反応させることで、コチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの蛍光誘導体化処理を行い、後述するHPLC条件にて分析し、回収菌体中のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド生産量(菌体当たりの生産量;mg/乾燥菌体1g当り)を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
(HPLC分析条件)
カラム:YMC Triart C18(4.6×150mm)
カラム温度:30℃
溶離液A:0.1v/v%ギ酸の水溶液
溶離液B:0.1v/v%ギ酸のアセトニトリル溶液
グラジエント条件:0分(溶離液A:溶離液B=9:1(体積比))から15分(溶離液A:溶離液B=3:7(体積比))へのグラジエント
流速:1ml/min
検出器:蛍光検出器(Ex:320nm、Em:458nm)
検出時間:4.3分(ニコチンアミドモノヌクレオチドの場合)5.1分(ニコチンアミドリボシドの場合)
【0071】
【表1】
【0072】
表1から明らかなとおり、フルクトースを含まない培地を用いて得られた培養物においては、菌体内からはニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)及びニコチンアミドリボシド(NR)のいずれも検出されず、上清中からはニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が検出されなかった一方で、上清中からニコチンアミドリボシド(NR)の特異的産生が確認できた。また、中でもFructobacillus tropaeoil RD012353株及びFructobacillus fructosus NBRC3516株、特にFructobacillus tropaeoil RD012353株から、多くのニコチンアミドリボシド(NR)の産生が確認できた。
【0073】
実施例2 フルクトバシラス属乳酸菌を用いたニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの産生
本培養培地に2w/w%のフルクトースを添加したこと以外は実施例1と同様の方法で、培養、培養上清及び菌体の回収、並びにニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの定量を行った。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2から明らかなとおり、フルクトースを含む培地を用いて得られた培養物においては、上清からはニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)及びニコチンアミドリボシド(NR)のいずれも検出されなかった一方で、菌体内でのニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)及びニコチンアミドリボシド(NR)の特異的産生が確認できた。また、Fructobacillus tropaeoil RD012353株及びFructobacillus tropaeoil RD012354株、特にFructobacillus tropaeoil RD012353株からは、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)及びニコチンアミドリボシド(NR)の両方がバランスよく産生された。一方、Fructobacillus durionis RD011727株及びFructobacillus fructosus NBRC3516株、特にFructobacillus durionis RD011727株からは、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)及びニコチンアミドリボシド(NR)の両方が産生するとともに、これらのうちニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の比率がとりわけ高くなるように産生したことが確認できた。
【手続補正書】
【提出日】2025-03-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌の培養を行い、ニコチンアミドリボシドを含む培養物を調製する工程を含む、ニコチンアミドリボシドの製造方法。
【請求項2】
前記培養を、フルクトースを含まない培地にて行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選ばれる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌と、ニコチンアミドリボシドと、培地成分とを含有する、及び/又は
ニコチンアミドリボシドと、ニコチンアミドリボシド以外の、フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌の代謝物と、を含有する、ニコチンアミドリボシド強化剤。
【請求項6】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、請求項5に記載の強化剤。
【請求項7】
前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、請求項5に記載の強化剤。
【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載のニコチンアミドリボシド強化剤を含む飲食品、化粧品又は医薬品。
【請求項9】
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌の培養を行う工程を含む、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシドの製造方法。
【請求項10】
前記培養を、フルクトースを含む培地にて行う、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選ばれる、請求項又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記乳酸菌が、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、請求項又は10に記載の製造方法。
【請求項13】
フルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌と、ニコチンアミドモノヌクレオチド及び/又はニコチンアミドリボシドと、培地成分とを含有する、並びに/若しくは、
ニコチンアミドモノヌクレオチド及び/又はニコチンアミドリボシドが菌体内に蓄積したフルクトバシラス(Fructobacillus)属に属する乳酸菌及び/又はの破砕物を含有する、
ニコチンアミドモノヌクレオチド及び/又はニコチンアミドリボシド強化剤。
【請求項14】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、Fructobacillus tropaeoil RD012353株(寄託番号NITE P-02765)、Fructobacillus tropaeoil RD012354株(寄託番号NITE P-02766)、及びFructobacillus fructosus NBRC3516株からなる群より選択される、請求項13に記載の強化剤。
【請求項15】
前記乳酸菌が、Fructobacillus durionis RD011727株(寄託番号NITE-P02764)、及び/又はFructobacillus fructosus NBRC3516株である、請求項13に記載の強化剤。
【請求項16】
請求項1315のいずれかに記載のニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチンアミドリボシド強化剤を含む飲食品、化粧品又は医薬品。