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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007263
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】エアロゲル
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/20 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C08F20/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108542
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】野坂 直矢
(72)【発明者】
【氏名】田畑 有基
(72)【発明者】
【氏名】高梨 和憲
(72)【発明者】
【氏名】石田 康博
(72)【発明者】
【氏名】孫 志方
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL63P
4J100CA01
4J100DA11
4J100EA03
4J100EA13
(57)【要約】
【課題】機械的特性及び熱特性に優れる積層体を提供する。
【解決手段】1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレートに由来する繰り返し単位を有し、BET比表面積が100m/g以上800m/g以下であるエアロゲル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレートに由来する繰り返し単位を有し、BET比表面積が100m/g以上800m/g以下であるエアロゲル。
【請求項2】
1分子中に1個のアクリル基を有する単官能アクリレート及び1分子中に2個のアクリル基を有する2官能アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位をさらに有する請求項1に記載のエアロゲル。
【請求項3】
上記多官能アクリレートがペンタエリスリトールテトラアクリレートである請求項1に記載のエアロゲル。
【請求項4】
密度が0.05g/cm以上0.30g/cm以下である請求項1に記載のエアロゲル。
【請求項5】
空孔容積が0.3cm/g以上1.5cm/g以下である請求項1に記載のエアロゲル。
【請求項6】
窒素下におけるTG-DTAの分解開始温度が250℃以上400℃以下である請求項1に記載のエアロゲル。
【請求項7】
熱伝導率が0.05W/mK未満である請求項1に記載のエアロゲル。
【請求項8】
圧縮強度が5MPa以上100MPa以下である請求項1に記載のエアロゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質体を形成している粒子の大きさとその粒子間に形成される空隙の大きさが入射する光の波長よりも小さい場合には、光は界面で散乱されず多孔質体を通過することが知られている。また、マトリックス中に空気が導入されるためマトリックスの組成を変化させずに誘電率や屈折率が低くなることも知られている。このような性質を有する有機多孔質体としては、例えば、レゾルシノールとホルムアルデヒドの重縮合により合成した有機湿潤ゲルを超臨界乾燥することで得られる有機エアロゲル(下記特許文献1)、メラミン-ホルムアルデヒドを用いた有機エアロゲル(下記特許文献2)、同様の方法によって得られるポリイソシアネート系エアロゲル(下記特許文献3)、メタクリル酸メチルとエチレングリコールジメタクリレートの共重合で得られるゲルを超臨界乾燥した多孔質体(下記特許文献4)が知られている。
【0003】
従来知られている重縮合系の有機多孔質体は、濃赤色などに著しく着色したり、経時的に透明性が低下したりするという課題があった。また、メタクリル酸メチルとエチレングリコールジメタクリレートから得られる有機多孔質体は、空孔径が1μm以上で透明性はないという問題があった。
【0004】
湿潤ゲルを超臨界乾燥して多孔質体を得る超臨界乾燥法は、空隙率の高い多孔質体を製造する方法として知られている(下記特許文献5)。しかしながら、超臨界乾燥法はエアロゲルを安定的量産するという観点からすれば改善点があり、量産性に優れるエアロゲルが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4873218号明細書
【特許文献2】米国特許第5086085号明細書
【特許文献3】国際公開第95/03358号
【特許文献4】米国特許第5252620号明細書
【特許文献5】国際公開第2021/132296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、機械的強度及び熱特性に優れたエアロゲルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレートに由来する繰り返し単位を有し、BET比表面積が100m/g以上800m/g以下であるエアロゲルである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエアロゲルは、機械的強度及び熱特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の積層体について詳説する。
【0010】
<エアロゲル>
当該エアロゲルは、1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレートに由来する繰り返し単位を有し、BET比表面積が100m/g以上800m/g以下である。
【0011】
当該エアロゲルは、機械的強度及び熱特性に優れる。当該エアロゲルが上記構成を備えることにより上記効果を奏する理由としては必ずしも明確ではないが、例えば次のように推察される。即ち、1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレートの使用により、(1)高強度のゲルとなるため乾燥後のエアロゲルも機械的強度に優れると考えられ、(2)乾燥時の収縮が抑えられるため、BET比表面積が大きく、空孔容積が増加するため、熱特性に優れると考えられる。
【0012】
当該エアロゲルは、上記多官能アクリレートがラジカル重合することで得られるポリマーであり、3次元の網目構造(架橋構造)を有し、空孔を有する。当該エアロゲルは、後述するエアロゲル形成用組成物を用いることにより作製できる。
【0013】
本明細書において「多官能」とは、複数のアクリル基を有するという意味において使用しており、例えば「2官能アクリレート」とは2つのアクリル基を有する化合物を意味する。また、「単官能」とは、1個のアクリル基を有するという意味で使用している。
【0014】
1分子中に3個のアクリル基を有する多官能アクリレート(3官能アクリレート)としては、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、イソシアヌル酸トリス(2-アクリロイルオキシエチル)、トリアクリル酸グリセリン、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリアクリレートが挙げられる。
【0015】
1分子中に4個のアクリル基を有する多官能アクリレート(4官能アクリレート)としては、例えばペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートが挙げられる。
【0016】
1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレートとしては、4官能アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールテトラアクリレートがより好ましい。この場合、より高架橋密度となるため、機械的強度及び熱特性がより向上する。
【0017】
当該エアロゲルは、1分子中に1個のアクリル基を有する単官能アクリレート及び1分子中に2個のアクリル基を有する2官能アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位をさらに有することが好ましい。この場合、疎水性などの機能性を付与できることに加え、物性の調整ができる。
【0018】
1分子中に1個のアクリル基を有する単官能アクリレートとしては、例えばアクリル酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、トリフルオロエチルアクリレート、ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、トリメチルシリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレートが挙げられる。
【0019】
1分子中に2個のアクリル基を有する2官能アクリレートとしては、例えばエチレングリコールジアクリラート、1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコールの繰り返し単位数4~15)、ポリプロピレングリコールジアクリラート(プロピレングリコールの繰り返し単位数4~15)が挙げられる。
【0020】
当該エアロゲルのBET比表面積は、100m/g以上800m/g以下である。当該エアロゲルのBET比表面積は、後述の実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0021】
上記BET比表面積の下限としては、100m/gであり、200m/gが好ましく、300m/gがより好ましく、350がさらに好ましい。上記BET比表面積の上限としては、800m/gであり、700m/gが好ましく、600m/gがより好ましく、500m/gがさらに好ましい。
【0022】
当該エアロゲルの密度は0.05g/cm以上0.30g/cm以下であることが好ましい。上記密度が上記範囲であることにより、機械的強度及び熱特性をより向上できる。上記密度の下限としては、0.05g/cmが好ましく、0.10g/cmがより好ましく、0.20g/cmがさらに好ましく、0.21g/cmが好ましい場合もある。上記密度の上限としては、0.30g/cmが好ましく、0.29g/cmがより好ましく、0.27g/cmが好ましい場合もある。上記密度は、後述の実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0023】
当該エアロゲルの空孔容積の下限としては、0.3cm/gが好ましく、0.4cm/gがより好ましく、0.5cm/gが好ましい場合もある。上記空孔容積の上限としては、1.5cm/gが好ましく、1.0cm/gがより好ましく、0.9cm/gがさらに好ましく、0.8cm/gが好ましい場合もある。上記空孔容積が上記範囲であることにより、当該エアロゲルの機械的特性がより向上する。上記空孔容積は、後述の実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0024】
当該エアロゲルの窒素下におけるTG-DTAの分解開始温度は250℃以上400℃以下であることが好ましい。この場合、高温環境下で使用可能な部材として適用できる。
【0025】
当該エアロゲルの熱伝導率は0.05W/mK未満であることが好ましい。当該エアロゲルの熱伝導率が上記範囲であることにより、サーマルマネージメント材料として使用できる。上記熱伝導率の下限としては、0.020W/mKが好ましく、0.025W/mKがより好ましい。上記熱伝導率の上限としては、0.05W/mKが好ましく、0.045W/mKがより好ましい。上記熱伝導率は、後述の実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0026】
当該エアロゲルの圧縮強度は5MPa以上100MPa以下であることが好ましい。当該エアロゲルの圧縮強度が上記範囲であることにより、高い外部応力がかかる部材として長期使用ができる。上記圧縮強度は、後述の実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0027】
当該エアロゲルの空孔の直径としては、1nm以上500nm以下が好ましい。
【0028】
<エアロゲル形成用組成物>
エアロゲル形成用組成物は、1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレート(以下、「[A]多官能アクリレート」ともいう)と、ラジカル光重合開始剤(以下、「[B]ラジカル光重合開始剤」ともいう)と、沸点が大気圧下で100℃以上300℃以下である溶媒(以下、「[C]溶媒」ともいう)とを含有する。エアロゲル形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて[A]多官能アクリレート、[B]ラジカル光重合開始剤及び[C]溶剤以外のその他の成分(以下、単に「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0029】
上記エアロゲル形成用組成物によれば、機械的特性及び熱特性に優れるエアロゲルを形成することができる。その理由としては必ずしも明確ではないが、例えば次のように推察される。絶縁膜形成用組成物における[A]1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレートは、比較的低沸点の溶剤中でラジカル重合することで、架橋構造に欠陥の少なく、ある程度大きさが揃った空孔が存在するエアロゲルを得ることができる。このポリマーエアロゲルに空孔に空気が困窮することで、優れた機械的特性及び熱特性を発揮するものと考えられる。
【0030】
エアロゲル形成用組成物の固形分濃度は5質量%以上35質量部以下であることが好ましい。固形分濃度が上記範囲であると、空孔容積の高いエアロゲルを得ることができる。固形分濃度の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、15質量%がさらに好ましい。固形分濃度の上限としては、35質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、25質量%がさらに好ましい。固形分濃度とは、エアロゲル形成用組成物に含有される[C]溶媒以外の全成分の濃度を意味する。
【0031】
以下、エアロゲル形成用組成物が含有する各成分について説明する。
【0032】
[[A]多官能アクリレート]
[A]多官能アクリレートは、1分子中に3又は4個のアクリル基を有する多官能アクリレートであり、上記<エアロゲル>の項において説明している。エアロゲル形成用組成物は、[A]多官能アクリレート以外に、単官能アクリレートや2官能アクリレートを含有していてもよい。これらも上記<エアロゲル>の項において説明している。エアロゲル形成用組成物は1種又は2種以上の[A]多官能アクリレートを併用して用いることができる。
エアロゲル形成用組成物における[A]多官能アクリレートの含有割合の下限は、組成物中、5質量%が好ましく、9質量%がより好ましく、12質量%がさらに好ましい。また、上記含有量の上限としては、30質量%が好ましく、25質量%がより好ましく、20質量部がさらに好ましい。上記含有量を上記範囲とすることにより、機械的強度に優れたエアロゲルを生成することができる。
【0033】
[[B]ラジカル光重合開始剤]
[B]ラジカル光重合開始剤としては、例えば可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等の放射線の露光により、[A]多官能アクリレートのラジカル重合反応を開始し得る活性種を発生することができる化合物が挙げられる。[B]ラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
エアロゲル形成用組成物の塗膜を露光することにより、[B]ラジカル光重合開始剤からラジカルが発生し、[A]多官能アクリレートの架橋反応を進行させることにより、硬化を促進しエアロゲルを形成することができる。
【0035】
[B]ラジカル光重合開始剤の具体例としては、例えばO-アシルオキシム化合物、α-アミノケトン化合物、α-ヒドロキシケトン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物が挙げられる。
【0036】
上記O-アシルオキシム化合物としては、例えば1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-エタン-1-オンオキシム-O-アセタート、1-[9-エチル-6-ベンゾイル-9.H.-カルバゾール-3-イル]-オクタン-1-オンオキシム-O-アセテート、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、1-[9-n-ブチル-6-(2-エチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロピラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-5-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-{2-メチル-4-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラニル)メトキシベンゾイル}-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]が挙げられる。
【0037】
上記α-アミノケトン化合物としては、例えば2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オンが挙げられる。
【0038】
上記α-ヒドロキシケトン化合物としては、例えば1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-i-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。
【0039】
上記アシルホスフィンオキサイド化合物としては、例えば2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。
【0040】
[B]ラジカル光重合開始剤としては、放射線による硬化反応をより促進させる観点から、O-アシルオキシム化合物又はアシルホスフィンオキサイド化合物が好ましく、1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-エタン-1-オンオキシム-O-アセタート、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、またはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドがより好ましい。
【0041】
エアロゲル形成用組成物がラジカル重合開始剤を含有する場合、[B]ラジカル光重合開始剤の含有量の下限としては、[A]多官能アクリレート100質量部に対して、0.1質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましく、1質量部がさらに好ましい。また、上記含有量の上限としては、[A]多官能アクリレート100質量部に対して、20質量部が好ましく、10質量部がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。上記含有量を上記範囲とすることにより、放射線による硬化反応をより促進させることができる。
【0042】
[[C]溶媒]
[C]溶媒は、大気圧(1気圧)下、沸点が100℃以上300℃以下である溶媒である。沸点が特定の範囲にある溶媒を用いることで、高温高圧で乾燥する必要がないため、エアロゲルも空孔の構造を保ちつつ、機械的強度に優れたエアロゲルを製造することができる。[C]溶媒は、1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
[C]溶媒の沸点の下限としては、100℃であり、120℃がより好ましく、150℃がさらに好ましい。上記沸点の上限としては、300℃であり、250℃がより好ましく、230℃がさらに好ましい。
【0044】
[C]溶媒としては、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸3-メトキシブチル、シクロヘキサノールアセテート、ベンジルアルコール、3-メトキシブタノール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。これらの溶媒のうち、特にトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤がエアロゲルの機械的強度と空孔容積を高いレベルで両立できる点で好ましい。
【0045】
[その他の成分]
その他の成分としては、例えば密着助剤、界面活性剤、重合禁止剤が挙げられる。
【0046】
密着助剤としては、例えばトリメトキシシリル安息香酸、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルアルキルジアルコキシシラン、γ-クロロプロピルトリアルコキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。
【0047】
エアロゲル形成用組成物が密着助剤を含有する場合、密着助剤の含有量としては、[A]多官能アクリレート100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、1質量部以上10質量部以下がより好ましい。密着助剤の含有量が上記範囲内であると、基剤と形成される絶縁膜との密着性が向上する。
【0048】
界面活性剤としては、例えばフッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。エアロゲル形成用組成物が界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の含有量としては、[A]多官能アクリレート100質量部に対して、1質量部以下が好ましく、0.01質量部以上0.6質量部以下がより好ましい。
【0049】
重合禁止剤は、露光若しくは加熱によって発生したラジカルを捕捉し、又は酸化によって生成した過酸化物を分解することにより、[A]多官能アクリレートの分子の開裂を抑制する成分である。エアロゲル形成用組成物が重合禁止剤を含有すると、形成される絶縁膜中の重合体分子の解裂劣化が抑制されるため、エアロゲルの耐光性を向上させることができる。
【0050】
重合禁止剤としては、例えばヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、アルキルホスファイト化合物、チオエーテル化合物が挙げられる。中でも、ヒンダードフェノール化合物が好ましい。
【0051】
エアロゲル形成用組成物が重合禁止剤を含有する場合、重合禁止剤の含有量としては、[A]多官能アクリレート100質量部に対して、1質量部以下が好ましく、0.01質量部以上0.6質量部以下がより好ましい。
【0052】
<エアロゲルの製造方法>
当該エアロゲルの製造方法は、エアロゲル形成用組成物に放射線を照射(露光)し、ゲルを得る工程(以下、「ゲル形成工程」ともいう。)、及び上記ゲルを乾燥する工程(以下、「乾燥工程」ともいう。)を備える。
【0053】
当該エアロゲルの製造方法によれば、熱特性及び機械的特性に優れるエアロゲルを製造できる。以下、各工程について説明する。
【0054】
[ゲル形成工程]
本工程では、エアロゲル形成用組成物に放射線を照射(露光)し、光硬化反応によりゲルを形成する。光硬化反応の反応条件としては、ゲル得ることができる限り、特に限定されず、反応温度、反応時間等は従来のゲルと同様の範囲とすることができる。光硬化反応は、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。通常、上記放射線としては、例えば可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等を使用できる。これらの放射線の中でも、波長が190nm以上450nm以下の範囲にある放射線が好ましく、365nmの紫外線を含む放射線がより好ましい。
【0055】
本工程における露光量の下限としては、放射線の波長365nmにおける強度を照度計(OAI Optical Associates Inc.社の「OAI model356」)により測定した値として、10mJ/cmが好ましく、20mJ/cmがより好ましい。また、上記露光量の上限としては、上記照度計により測定した値として、2,000mJ/cmが好ましく、1,000mJ/cmがより好ましい。
[乾燥工程]
本工程では、形成したゲルを乾燥することでエアロゲルを得る。ゲルの乾燥方法として公知の方法を用いることができる。例えば、常圧乾燥法、減圧乾燥法、凍結乾燥法、超臨界乾燥法等が挙げられるが、減圧乾燥法が好ましく用いられる。減圧乾燥の条件を的確に制御することで、ゲル骨格の破壊・収縮を抑制することができるためである。また、ゲルを超臨界乾燥法により乾燥する場合、ゲルの分散媒の臨界点以上の温度及び圧力にて分散媒を除去する。超臨界乾燥法の場合、前述した溶媒置換を行なうことにより、ゲルの分散媒は、反応溶媒から、エタノールに置換し、さらに液化二酸化炭素に置換することが好ましい。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
<エアロゲルの作製>
[実施例1]エアロゲルA1の作製
2.46gのトルエンに、0.54gのペンタエリスリトールテトラアクリレート及び0.016gの2,2-ジエトキシアセトフェノンを溶解し、窒素バブリングした後、直径15mmの円筒形透明ポリエチレン容器に封入した。この容器を室温にて250Wの高圧水銀灯で30分間照射することにより、前駆体のゲルを得た。このゲルを減圧乾燥機に導入し、0.03気圧、40℃で12時間乾燥することによりエアロゲルA1を得た。
【0058】
[実施例2]エアロゲルA2の作製
トルエンの量を2.64gとし、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの量を0.36gとした以外は実施例1と同様にして、エアロゲルA2を得た。
【0059】
[実施例3]エアロゲルA3の作製
ペンタエリスリトールテトラアクリレート0.54gをジトリメチロールプロパンテトラアクリレート0.54gとした以外は実施例1と同様にして、エアロゲルA3を得た。
【0060】
[実施例4]エアロゲルA4の作製
ペンタエリスリトールテトラアクリレート0.54gをペンタエリスリトールテトラアクリレート0.432g及びトリシクロデカンジメタノールジアクリレート0.108gとした以外は実施例1と同様にして、エアロゲルA4を得た。
【0061】
[実施例5]エアロゲルA5の作製
ペンタエリスリトールテトラアクリレート0.54gをペンタエリスリトールテトラアクリレート0.432g及びアクリル酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル0.108gとした以外は実施例1と同様にして、エアロゲルA5を得た。
【0062】
[実施例6]エアロゲルA6の作製
ペンタエリスリトールテトラアクリレート0.54gをイソシアヌル酸トリス(2-アクリロイルオキシエチル)0.54gとした以外は実施例1と同様にして、エアロゲルA6を得た。
【0063】
[実施例7]エアロゲルA7の作製
ペンタエリスリトールテトラアクリレート0.54gをトリアクリル酸グリセリン0.54gとした以外は実施例1と同様にして、エアロゲルA7を得た。
【0064】
[比較例1]エアロゲルC1の作製
ペンタエリスリトールテトラアクリレート0.54gをヘキサメチレングリコールジアクリレート0.54gとした以外は実施例1と同様にして、エアロゲルC1を得た。
【0065】
[比較例2]エアロゲルC2の作製
ペンタエリスリトールテトラアクリレート0.54gをジペンタエリトリトールヘキサアクリレート0.54gとした以外は実施例1と同様にしてエアロゲルC2を得た。
【0066】
[比較例3]
2.46gのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に、0.54gのペンタエリスリトールテトラアクリレート及び0.016gの2,2-ジエトキシアセトフェノンを溶解し、窒素バブリングした後、直径15mmの円筒形透明ポリエチレン容器に封入した。この容器を室温にて250Wの高圧水銀灯で30分間照射することにより、前駆体のゲルを得た。このゲルを減圧乾燥機に導入し、0.03気圧、80℃で12時間乾燥したところ、クラックが発生した。
【0067】
<評価>
上記作製したエアロゲルについて、下記の方法に従い、密度、BET比表面積、空孔容積、熱分解温度、熱伝導率及び圧縮強度を測定した。
【0068】
[密度]
エアロゲルの密度測定は、寸法測定及び質量測定により行なった。寸法測定は、エアロゲルの任意の断面を以下の条件の走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
測定対象のサンプル:エアロゲルをカミソリにより薄片化した。
測定装置:Apreo S LoVac(Thermo Fisher Scientific社製)
測定条件:80Pa、室温
【0069】
[BET比表面積及び空孔容積]
エアロゲルのBET比表面積は、BELSORP18PLUS-HT(日本ベル製)を用い、窒素ガスの等温吸着を定法により測定した。また、GCMC法により空孔容積を算出した。
【0070】
[熱分解温度]
高感度差動型示差熱天秤(ネッチ・ジャパン社製の「STA 2500 Regulus」)を用い、定法にてエアロゲルの熱重量測定を行ない、5%重量減温度(Td5)を熱分解温度とした。
【0071】
[熱伝導率]
エアロゲルの熱伝導率の測定はai-Phase Mobile-10(アイフェイズ社製)を用い、温度波振幅法ベース/交流定常法により行った。
【0072】
[圧縮強度]
エアロゲルの圧縮強度を万能材料試験機(インストロン社の「Instron 5967」)を用い、室温、圧縮速度5mm/分の条件で破断時の強度を測定した。測定サンプルは、円筒サンプルの表面をカミソリで整形した。
【0073】
下記表1中、「[A]多官能アクリレート」の列に記載の記号は以下の通りである。
(A-1):ペンタエリスリトールテトラアクリレート(アクリル基数:4)
(A-2):ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(アクリル基数:4)
(A-3):イソシアヌル酸トリス(2-アクリロイルオキシエチル)(アクリル基数:3)
(A-4):トリアクリル酸グリセリン(アクリル基数:3)
(A-5):トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(アクリル基数:2)
(A-6):アクリル酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル(アクリル基数:1)
(A-7):ヘキサメチレングリコールジアクリレート(アクリル基数:2)
(A-8):ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(アクリル基数:6)
【0074】
【表1】
【0075】
表1から、実施例1~7は、比較例1及び2と比較して、熱伝導率が低く、圧縮強度に優れることが分かった。限定的な解釈を望むものではないが、実施例1~7が比較例1及び2と比較して、低い熱伝導率及び高い圧縮強度の両立を図ることができたことは、BET比表面積を高くできたことによるものと考えられる。アクリル基数が3又は4である多官能アクリレートを用いることにより、乾燥時の収縮を抑制できるため、BET比表面積を高くできたものと考えられる。