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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025072680
(43)【公開日】2025-05-09
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20250430BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 T
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025026832
(22)【出願日】2025-02-21
(62)【分割の表示】P 2021205290の分割
【原出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南雲 裕司
(72)【発明者】
【氏名】植茶 雅史
(72)【発明者】
【氏名】津間 博基
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 輝顕
(57)【要約】
【課題】シリコンよりも硬い半導体材料を用いた半導体装置の製造方法において、ダイシング工程に起因する半導体装置の残留応力を低減する。
【解決手段】シリコンよりも硬い半導体材料によりなる半導体ウェハ30の一面を研削し、一面の研削前よりも表面粗さが大きい破砕層32を形成する。その後、破砕層32を形成した半導体ウェハ30について、破砕層32を介してクラックCを形成する。これにより、鏡面状態の半導体ウェハに比べて、小さい力によりクラックCを形成でき、半導体ウェハ30に生じる残留応力を低減できる。
【選択図】図6C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンよりも硬い半導体材料を用いた半導体ウェハ(30)を用意することと、
前記半導体ウェハの一面(30b)を研削し、前記一面を研削する前よりも表面粗さが大きい破砕層(32)を形成することと、
前記破砕層を介して前記半導体ウェハの表層にクラック(C)を形成することと、
前記クラックを形成した後に、前記破砕層を除去することと、
前記半導体ウェハのうち前記クラックを形成した裏面(30c)上に裏面電極(33)を形成することと、
前記裏面電極を形成した後、前記半導体ウェハのうち前記裏面とは反対側の表面を押圧し、前記クラックを起点として前記半導体ウェハを劈開して個片化することとを含む、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体装置は、半導体ウェハに半導体素子を備える複数の素子領域を形成した後、ブレードにより半導体ウェハを切断し、複数の素子領域を分割して個片化することで形成される。半導体ウェハを個片化するダイシング工程では、半導体チップにクラックが生じたり、ブレードが当接する裏面電極にバリが生じたりすることがある。
【0003】
このようなダイシング工程における半導体チップのクラックや裏面電極のバリの発生を抑制する半導体装置の製造方法としては、例えば、次のような特許文献1に記載のものが提案されている。この半導体装置の製造方法では、半導体ウェハの裏面にV字状のV溝および裏面電極をこの順に形成した後、半導体ウェハの表面のうち裏面のV溝上に位置する部分にV溝を形成する。そして、半導体ウェハにレーザー光を照射し、半導体ウェハの内部であって、表面および裏面のV溝の間に改質層を形成する。その後、半導体ウェハにダイシングテープを貼り付け、当該半導体ウェハをダイシングテープごと引き延ばすことで、V溝および改質層を起点に劈開して分割する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-165371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、近年、IGBTやMOSFETなどのパワー半導体装置の分野では、炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いたものの開発が進められている。SiCは、シリコン(Si)よりも低オン抵抗および高耐圧であるため、パワー半導体装置の性能向上の効果が期待されている。なお、IGBTは、Insulated Gate Bipolar Transistorの略である。MOSFETは、Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略である。
【0006】
しかし、SiCを用いた半導体装置は、SiCがシリコンよりも硬いため、ダイシング工程においてブレードに掛かる負荷が大きい。そこで、Siよりも硬い半導体材料を用いた半導体装置の製造方法として、スクライブ工程およびブレイク工程によりなるダイシング工程が提案されている。スクライブ工程は、半導体ウェハにブレードを押し当てて表層に垂直クラックを形成する工程である。ブレイク工程は、半導体ウェハのうち垂直クラックを形成した面とは反対面にプレート等を押し当て、三点曲げの要領で垂直クラックを起点として半導体ウェハを劈開して分割する工程である。以下、説明の簡便化のため、スクライブ工程およびブレイク工程によりなるダイシング工程を「スクライブ・ブレイク工程」と称することがある。
【0007】
本発明者らがこの種の半導体装置の製造方法について鋭意検討した結果、スクライブ・ブレイク工程により個片化された半導体チップは、ブレードによる切断方式に比べて、個片化により生じる端面近傍における残留応力が大きいことが判明した。また、この残留応力が大きいと、他の部材にはんだ等により搭載された半導体チップでは、熱応力によりクラックが生じることが判明した。
【0008】
一方、特許文献1に記載の製造方法をこの種の半導体装置に適用した場合、ブレードにより硬い半導体ウェハの表層を切断するため、ブレードに掛かる負荷が大きい。また、ブレードにより半導体ウェハの裏面に加えて、表面にもV溝を形成する工程およびレーザー光照射による改質層を形成する工程が必要であり、工程数が多くなり、製造コストが増大してしまう。さらに、レーザー光照射による改質層の形成工程により、半導体ウェハ内部の残留応力が大きくなることが懸念される。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑み、シリコンよりも硬い半導体材料を用いた半導体装置の製造方法において、ダイシング工程に起因する半導体装置の残留応力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の半導体装置の製造方法は、シリコンよりも硬い半導体材料を用いた半導体ウェハ(30)を用意することと、半導体ウェハの一面(30b)を研削し、一面を研削する前よりも表面粗さが大きい破砕層(32)を形成することと、破砕層を介して半導体ウェハの表層にクラック(C)を形成することと、クラックを形成した後に、破砕層を除去することと、半導体ウェハのうちクラックを形成した裏面(30c)上に裏面電極(33)を形成することと、裏面電極を形成した後、半導体ウェハのうち裏面とは反対側の表面を押圧し、クラックを起点として半導体ウェハを劈開して個片化することとを含む。
【0011】
この半導体装置の製造方法は、硬い半導体ウェハを研削することで破砕層を形成し、かつ裏面電極を形成する前に破砕層を介して半導体ウェハにクラックを形成する。これにより、鏡面とされた面にクラックを形成する場合に比べて、小さい圧力でのクラックの形成が可能となり、個片化された後においてクラック形状工程に起因する残留応力が低減された半導体装置を製造することが可能となる。また、クラックを形成後に破砕層を除去することで、破砕層に起因する抗折強度の低下を抑制でき、信頼性の低下が抑制される効果も得られる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る半導体装置を用いた半導体モジュールの一例を示す上面レイアウト図である。
図2図1中のII-II間の断面構成を示す断面図である。
図3】従来のスクライブ・ブレイク工程の説明図である。
図4】従来の切断方式およびスクライブ・ブレイク工程により得られた半導体装置の残留応力の測定結果を示す図である。
図5図2中のV領域の拡大図に相当するものであって、従来のスクライブ・ブレイク工程に起因する半導体装置の残留応力に伴うクラック発生の説明図である。
図6A】実施形態に係る半導体装置のダイシング工程のうち支持基板への貼り付け工程を示す断面図である。
図6B図6Aに続く工程を示す断面図である。
図6C図6Bに続く工程を示す断面図である。
図6D図6Cに続く工程を示す断面図である。
図6E図6Dに続く工程を示す断面図である。
図6F図6Eに続く工程を示す断面図である。
図6G図6Fに続く工程を示す断面図である。
図6H図6Gに続く工程を示す断面図である。
図6I図6Hに続く工程を示す断面図である。
図7図6Bに示す工程で形成された裏面側の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果を示す図である。
図8図6Eに示す工程後の裏面電極の断面をTEMにより観察した結果を示す図である。
図9A図6Cに続く工程の他の例を示す断面図である。
図9B図9Aに続く工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(実施形態)
実施形態に係る半導体装置が用いられた半導体モジュールについて、図面を参照して説明する。この半導体装置は、例えば、主にSiC等のシリコンよりも硬い半導体材料により構成されたパワー半導体素子とされ、インバータ等に適用されうる。本明細書では、半導体装置がインバータを構成する半導体モジュールに適用された場合を代表例として説明するが、この例に限定されるものではなく、他の用途にも適用されうる。
【0016】
図1では、半導体モジュール100の構成を分かり易くするため、後述する封止樹脂8の外郭を二点鎖線で示すと共に、半導体モジュール100の構成部材の外郭のうち封止樹脂8以外の他の構成部材と重なった部分を破線で示している。
【0017】
以下、説明の便宜上、図1に矢印等で示すように、図1の紙面平面の左右方向に沿った方向を「x方向」と称し、同平面上のうちx方向に垂直な方向を「y方向」と称し、同平面すなわちxy平面に対して直交する方向を「z方向」と称する。図1以降の図に矢印等で示すx、y、zの各方向は、図1のx、y、zの各方向にそれぞれ対応している。
【0018】
〔半導体モジュール〕
半導体モジュール100は、例えば図1に示すように、第1リードフレーム1と、第2リードフレーム2と、z方向におけるリードフレーム1、2の間に配置される半導体装置3、導体ブロック4および接続部材6、7と、ワイヤ5と、封止樹脂8とを有してなる。
【0019】
第1リードフレーム1は、例えば、銅等の導電性材料で構成されると共に、正極端子Pを備える正極板11と、出力端子Oを備える出力板12と、負極端子Nを備える負極板13と、複数の信号端子14とを有してなる。第1リードフレーム1は、例えば、正極板11、出力板12、負極板13および信号端子14が図示しないバスバー等により連結されていた板材が半導体モジュール100の製造工程において連結部分が除去されることでそれぞれ分離したものである。
【0020】
正極板11は、例えば、y方向に沿って封止樹脂8から突出する正極端子Pを有し、x方向において出力板12と離れて配置されると共に、図示しない接合材を介して第1の半導体装置3aが搭載されている。正極板11は、第1の半導体装置3a上に配置される第1の導体ブロック4aを介して後述する第1接続板21と電気的に接続されている。正極板11のうち第1の半導体装置3aが搭載されるアイランド部は、第1の半導体装置3aと向き合う面の反対面が封止樹脂8から露出しており、図示しない冷却器等との接触による冷却が可能となっている。なお、このとき、図示しない冷却器とアイランド部の露出部分との間には図示しない絶縁部材が配置され、冷却器と半導体モジュール100との間における電気的な絶縁が確保される。
【0021】
出力板12は、例えば、正極端子Pと並行配置され、正極端子Pと同じ方向に向かって封止樹脂8から突出する出力端子Oを有し、第2の半導体装置3bが搭載されている。出力板12は、例えば、正極板11に向かい、かつz方向において後述する第1接続板21に近づくように延設された突出部121を有し、突出部121上に配置される第1接続部材6を介して第1接続板21と電気的に接続されている。出力板12は、第2の半導体装置3b上に配置される第2の導体ブロック4bを介して後述する第2接続板22と電気的に接続されている。出力板12は、正極板11と同様に、第2の半導体装置3bが搭載されるアイランド部のうち第2の半導体装置3b側とは反対側の面が封止樹脂8から露出しており、図示しない冷却器による冷却が可能となっている。
【0022】
負極板13は、正極板11と出力板12との間において、これらとは離れて配置されている。負極板13は、正極端子Pおよび出力端子Oと並行配置され、これらと同じ方向に向かって封止樹脂8から突出する負極端子Nを有する。負極板13は、正極板11と出力板12との隙間であって、負極端子Nとは反対方向に延設される延設部131を有し、延設部131上に配置される第2接続部材7を介して第2接続板22と電気的に接続されている。
【0023】
複数の信号端子14は、第1の半導体装置3aとワイヤ5を介して接続される複数の第1信号端子14aと、第2の半導体装置3bとワイヤ5を介して接続される複数の第2信号端子14bとを有してなる。複数の信号端子14は、正極板11と出力板12との間であって、端子P、O、Nとは反対側において他の部材から離れた位置に配置される。
【0024】
第2リードフレーム2は、例えば、第1接続板21と、第2接続板22とを有してなり、z方向において半導体装置3および導体ブロック4を隔てて第1リードフレーム1と対向配置されている。第1接続板21は、正極板11と対向配置されると共に、第2接続板22とは離れて配置されている。第1接続板21は、例えば、第2接続板22に向かって突出し、かつ出力板12に向かうように一部が折り曲げられた突出部211を有する。第1接続板21は、第1の半導体装置3aがオン状態とされたとき、正極板11、第1の半導体装置3a、第1の導体ブロック4aおよび出力板12を繋ぐ電流経路を構成する。第2接続板22は、例えば、第1接続板21と同様の形状とされ、第1接続板21に向かって突出する突出部221を有する。第2接続板22は、突出部221およびその直下に配置される第2接続部材7を介して、負極板13に電気的に接続されている。第2接続板22は、第2の半導体装置3bがオン状態とされたとき、出力板12、第2の半導体装置3b、第2の導体ブロック4bおよび負極板13を繋ぐ電流経路を構成する。第1接続板21および第2接続板22は、それぞれ導体ブロック4側の面とは反対側の面のうち突出部211、221を除く部分が封止樹脂8から露出しており、正極板11および出力板12と同様に、図示しない冷却器による冷却が可能となっている。
【0025】
半導体装置3は、例えば、SiC、窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga)等のシリコンよりも硬い半導体材料によりなる半導体基板を用いて構成される。以下、説明の便宜上、シリコンよりも硬い半導体材料を「硬半導体材料」と称する。半導体装置3は、例えば、IGBTやMOSFET等のスイッチング素子およびフリーホイールダイオード(FWD)が形成されたパワー半導体素子を構成している。本明細書では、半導体装置3がIGBTおよびFWDを有する場合を代表例として説明するが、この例に限定されるものではない。半導体装置3は、例えば、スイッチング素子の表面電極となるエミッタと裏面電極となるコレクタに対してFWDのアノードとカソードとをそれぞれ電気的に接続した構造となっている。半導体装置3は、スイッチング素子の図示しないゲート電極にワイヤ5が接続されており、信号端子14を介したオン/オフの制御がなされる。
【0026】
半導体装置3は、例えば図2に示すように、はんだ等によりなる接合材9を介して正極板11または出力板12に搭載されている。半導体装置3は、高剛性の硬半導体材料で構成された半導体ウェハに複数形成され、後述するスクライブ・ブレイク工程を経て個片化されて製造され、ダイシングに起因する残留応力が低減された状態となっている。この残留応力の低減およびその効果についての詳細は後述する。
【0027】
導体ブロック4は、例えば銅等の導電性材料により構成されると共に、半導体装置3のうち正極板11または出力板12の反対側に配置され、接合材9により半導体装置3に接合されている。導体ブロック4は、例えば図1に示すように、半導体装置3よりも小さい平面サイズとされ、半導体装置3のうちワイヤ5が接続される部位以外の部分に接続される。導体ブロック4は、正極板11と第1接続板21との間、および出力板12と第2接続板22との間にそれぞれ配置され、これらの隙間を確保し、ワイヤ5が接続板21、22に接触することを防ぐ役割を果たす。
【0028】
ワイヤ5は、例えば、金やアルミニウム等の導電性材料により構成され、ワイヤボンディングにより信号端子14および半導体装置3にそれぞれ接続される。
【0029】
第1接続部材6および第2接続部材7は、例えば、銅等の導電性材料により構成され、突出部121と突出部211との間、延設部131と突出部221との間にそれぞれ配置され、これらを電気的に接続する。
【0030】
封止樹脂8は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂材料で構成され、任意の樹脂成型法により形成される。
【0031】
以上が、インバータとされた場合の半導体モジュール100の基本的な構成である。半導体モジュール100に用いられる半導体装置3は、硬半導体材料で構成された半導体ウェハが改良されたスクライブ・ブレイク工程により個片化されており、従来のスクライブ・ブレイク工程に比べて、残留応力が低減された状態となっている。
【0032】
〔半導体装置の残留応力〕
本発明者らの鋭意検討の結果、SiC等の硬半導体材料で構成された半導体ウェハを従来のスクライブ・ブレイク工程により個片化した場合、個片化された半導体チップの残留応力が大きいことが判明した。
【0033】
ここで、従来のスクライブ・ブレイク工程について図3を参照して説明する。従来のスクライブ・ブレイク工程は、半導体ウェハWに所定深さの垂直クラックCを形成するスクライブ工程と、垂直クラックCを起点に半導体ウェハWを三点曲げの要領で劈開するブレイク工程とによりなる。スクライブ工程は、例えば、半導体ウェハWの表面Waを吸着テーブル等に仮固定した状態で、ブレードBを裏面Wbに押し当てることによりに裏面Wbの表層に垂直クラックCを形成するものである。ブレイク工程は、例えば、半導体ウェハWの表面WaにテープTを、裏面Wbに保護フィルムPFを、それぞれ貼り付けた状態で台座に載せ、表面Waのうち垂直クラックC上の位置をブレイクプレートBPで押圧する。このとき、半導体ウェハWは、垂直クラックCが形成された部位が台座から離れた中空状態とされると共に、ブレイクプレートBPによる押圧箇所を挟んだ両端が台座に支えられており、三点曲げの要領で垂直クラックCを起点として劈開され、分割される。従来のスクライブ工程は、半導体ウェハWの裏面WbをCMP等の研磨工程により表面粗さが非常に小さい鏡面状態とし、この裏面Wb上に金属材料によりなる裏面電極を形成した状態で行われる。なお、CMPとは、Chemical Mechanical Polishingの略である。
【0034】
本発明者らの鋭意検討によれば、半導体ウェハWが硬半導体材料で構成されている場合、スクライブ工程におけるブレード圧、すなわちスクライブ圧が大きくなり、個片化された後の半導体チップにおける残留応力が高くなることが判明した。
【0035】
具体的には、例えば図4に示すように、SiCで構成された半導体ウェハWをブレードBにより切断することで個片化された半導体チップのサンプルS1は、ダイシング領域における残留応力が最大で約23MPaであった。なお、サンプルS1は、ダイシングによるチップ端面からの距離が約2μmの位置において残留応力が最大であった。
【0036】
これに対して、SiCで構成された半導体ウェハWを上記した従来のスクライブ・ブレイク工程により個片化した半導体チップのサンプルS2は、ダイシング領域における残留応力が最大で約68MPaであった。これは、垂直クラックの形成において、半導体ウェハWの裏面Wbが鏡面かつ金属材料によりなる裏面電極で覆われた状態であるため、必要なスクライブ圧が約6Nと大きく、半導体ウェハWのスクライブライン近傍に歪みとして残ることに起因すると考えられる。なお、サンプルS2は、ダイシングによるチップ端面からの距離が約6μmの位置において残留応力が最大であった。なお、図4に示す半導体チップの残留応力は、ラマン散乱分光法により測定したものである。
【0037】
半導体チップの残留応力が大きい状態の場合、半導体チップは、他の部材に搭載された構成では、周囲の部材との熱膨張係数差に起因した熱応力がかかる。残留応力が大きい半導体チップSC(半導体装置3に相当)を用いて上記した半導体モジュール100を構成した場合には、半導体チップSCは、例えば図5に示すように、熱応力に起因して残留応力が大きい箇所を起点としてクラックが生じうる。このようなクラックが生じた場合、IGBT等の素子領域に向かってクラックが進展し、半導体モジュール100の信頼性が低下してしまう。
【0038】
個片化した後の半導体チップにおける残留応力を低減するためには、ブレードによる切断方式を採用することも考えられる。しかし、ブレードによる切断方式は、半導体ウェハWが硬半導体材料で構成されている場合、ブレードにかかる負荷が大きく、個片化に要する時間がスクライブ・ブレイク工程よりも長いため、製造コストの増大の原因となる。そこで、本発明者らは、スクライブ・ブレイク工程により個片化しつつ、個片化後の半導体チップにおける残留応力を低減する方法を考案した。
【0039】
〔スクライブ・ブレイク工程〕
次に、実施形態に係る半導体装置3の製造工程のうち半導体ウェハから個片化するダイシング工程であって、上記した残留応力を低減可能なスクライブ・ブレイク工程について説明する。なお、後述する半導体ウェハ30におけるスイッチング素子やFWD等を備える素子領域31の形成工程については、公知の半導体プロセスにより可能であるため、本明細書では、その詳細な説明を省略する。
【0040】
まず、図6Aに示すように、SiC等の硬半導体材料によりなる半導体ウェハ30のうち素子領域31が形成された他面30a側を接着剤201で覆って保護した状態とし、支持基板200に貼り付けて仮固定する。支持基板200は、例えば、スリーエム社製のLTHCによりなる図示しない接着膜を有するガラス基板とされるが、半導体ウェハ30を支持可能であればよく、保護テープであってもよい。なお、支持基板200がガラス基板のように樹脂材料よりも剛性が高いもので構成されたほうが好ましい。これは、後のスクライブ工程において、半導体ウェハ30にかかるブレードの押圧力が逃げにくく、スクライブ圧をより小さくできるためである。接着剤201は、例えば、紫外線硬化性および熱可塑性を有する任意の樹脂材料により構成される。
【0041】
次いで、図6Bに示すように、半導体ウェハ30のうち支持基板200とは反対側の一面30bをグラインダー等の図示しない研削加工装置により研削し、半導体ウェハ30を薄型化する。この研削加工では半導体ウェハ30を砥石により粗く削って薄型化する工程であって、鏡面を形成するための研磨工程とは異なるため、一面30bを研削して得られる裏面30cの表層は、一面30bの研削前よりも表面粗さが大きい破砕層32となっている。具体的には、この研削工程後の半導体ウェハ30の裏面30cは、透過型電子顕微鏡(TEM)により断面を観察した結果、例えば図7に示すように、表層からウェハの厚み方向において約50nm程度の凹凸形状が形成された破砕層32となっていた。
【0042】
続いて、図6Cに示すように、支持基板200に貼り付けられた半導体ウェハ30を台座300上に載置し、ブレードBを破砕層32に押し当て、素子領域31同士の間に位置するダイシング領域に垂直クラックCを形成する。このとき、例えば、図示しないアライメントカメラ等によりブレードBと半導体ウェハ30のダイシング領域との位置合わせを行う。なお、垂直クラックCは、半導体ウェハ30の裏面30c側の表層に設けられ、半導体ウェハ30の厚み方向に沿った亀裂である。
【0043】
なお、同様のスクライブ工程を鏡面状態であって、裏面電極を形成する前のSiCウェハについて行う際に必要なスクライブ圧は約2Nであった。これに対して、破砕層32を有する半導体ウェハ30は、破砕層32がSiCで構成された基部よりも脆いため、スクライブ工程において必要なスクライブ圧が少なくとも2N未満となる。その結果、垂直クラック形成時に半導体ウェハ30に生じる歪みが低減され、スクライブライン近傍の残留応力が小さくなる。
【0044】
そして、図6Dに示すように、半導体ウェハ30の裏面30c上にスパッタリング等により裏面電極33を形成する。裏面電極33は、少なくとも破砕層32に接する部分が、例えば、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Co(コバルト)等のシリサイド化する導電性の金属材料の少なくとも1つを主成分とされる。なお、ここでいう主成分とは、50vol%を超える成分を意味する。例えば、裏面電極33は、破砕層32側からNi/Ti/Ni/Au(金)といった積層構成とされ、少なくとも破砕層32に接する領域が次の熱酸化工程によりシリサイド化した状態とされる。裏面電極33は、例えば、破砕層32の深さが50nmである場合には厚みが100nmといった具合に、少なくとも破砕層32よりも厚い構成とされる。これは、次の工程において、破砕層32のすべてを裏面電極33とシリサイド化させ、破砕層32を除去し、破砕層32に起因する抗折強度の過度な低下を抑制するためである。なお、図6Dの工程で形成した裏面電極33は、破砕層32側からNi/Ti/Ni/Auの構成である場合、熱酸化後にはNiSi/Ti/Ni/Auとなる。
【0045】
その後、図6Eに示すように、半導体ウェハ30の熱処理を行い、破砕層32を裏面電極33とシリサイド化させる。この熱処理は、加熱炉などにより半導体ウェハ30の全体を加熱する方式であってもよいし、レーザー光を裏面電極33に照射し、局所的に裏面30cを加熱するレーザーアニールの方式であってもよく、公知の方法で行うことができる。この熱処理後の半導体ウェハ30は、例えば図8に示すように、裏面電極33が破砕層32とシリサイド化して厚みが約150nmとなり、かつ破砕層32が除去された状態となっていた。これにより、破砕層32が残存することによる半導体ウェハ30の抗折強度の過度な低下が抑制され、信頼性が向上する効果が得られる。
【0046】
次いで、図6Fに示すように、半導体ウェハ30の裏面電極33側の面にダイシングテープDTを貼り付ける。そして、例えば、レーザー光を照射することにより、図6Gに示すように、半導体ウェハ30と接着剤201および支持基板200とを剥離し、他面30aを露出させる。
【0047】
続けて、図6Hに示すように、半導体ウェハ30の他面30a側に保護テープPTを貼り付け、ステージ400上に半導体ウェハ30を載置する。このとき、半導体ウェハ30は、図示しないアライメントカメラ等により、垂直クラックCを形成した箇所がステージ400に設けられた隙間上に配置されるように位置合わせされる。そして、他面30aのうち垂直クラックCが形成された箇所の上に位置する部位をブレイクプレートBPにより押圧し、三点曲げの要領で垂直クラックCを半導体ウェハ30の厚み方向に進展させ、半導体ウェハ30を劈開する。このブレイク工程を垂直クラックCが形成されたスクライブラインの数だけ繰り返すことで、半導体ウェハ30は、複数の半導体装置3に分割された状態となる。
【0048】
上記のブレイク工程後、保護テープPTを剥離し、例えば、ダイシングテープDTに紫外線照射等により粘着力を低下させ、図6Iに示すように、図示しないピックアップ装置により分割された半導体装置3(半導体チップ)のピックアップを行う。
【0049】
以上のようなスクライブ・ブレイク工程により硬半導体材料によりなる半導体ウェハ30を個片化することで、スクライブ圧が従来よりも低減され、個片化により得られた端部近傍における残留応力が低減された半導体装置3を得ることができる。この方式は、ブレードBによる切断方式に比べて、ブレードBにかかる負荷が抑制されると共に、個片化に要する時間が短縮される。また、レーザー光照射による改質層の形成も不要であり、半導体装置3の製造コストの低減効果も得られる。
【0050】
なお、上記では、破砕層32の除去工程の一例として、裏面電極33とのシリサイド化を挙げたが、これに限定されるものではない。例えば、図6Cに示すスクライブ工程の後、図9Aに示すように、CMP等の機械的な研磨工程により破砕層32を除去してもよい。この場合、続けて、図9Bに示すように研磨後の半導体ウェハ30の裏面30cに裏面電極33を形成し、熱処理を行う。以降の工程については、上記と同様である。このような工程を経た場合であっても、スクライブ工程におけるスクライブ圧が低減され、破砕層32が除去された状態となるため、上記の図6A図6Iに示すダイシング工程を経た場合と同様の状態とされた半導体装置3が得られる。
【0051】
(他の実施形態)
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0052】
なお、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
30 半導体ウェハ
30a 半導体ウェハの他面
30b 半導体ウェハの一面
30c 半導体ウェハの裏面
32 破砕層
33 裏面電極
C 垂直クラック
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図7
図8
図9A
図9B