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特開2025-7271塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤及びそれを用いて表面処理した塩化ビニル系樹脂製皮革
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  • 特開-塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤及びそれを用いて表面処理した塩化ビニル系樹脂製皮革 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007271
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤及びそれを用いて表面処理した塩化ビニル系樹脂製皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/08 20060101AFI20250109BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20250109BHJP
   C08G 18/12 20060101ALI20250109BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
D06N3/08
C08G18/44
C08G18/12
C08G18/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108552
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南北 直輝
(72)【発明者】
【氏名】宗石 徹也
【テーマコード(参考)】
4F055
4J034
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA13
4F055CA05
4F055CA15
4F055EA23
4F055FA08
4F055FA20
4F055FA21
4F055GA03
4F055GA26
4F055GA32
4F055HA06
4F055HA18
4J034BA08
4J034CA14
4J034CA15
4J034CA16
4J034CC12
4J034CC26
4J034CC29
4J034CC45
4J034CC52
4J034CC62
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DF02
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA42
4J034QB14
4J034QB17
4J034QC05
4J034RA03
(57)【要約】
【課題】塩化ビニル系樹脂(PVC)を含む表面を有する皮革用基材の前記表面を処理するための水性表面処理剤であって、PVCを含む基材表面に含まれる可塑剤の移行が抑制され、耐摩耗性、耐揉み性、及び耐アルコール性に優れたPVC製皮革を製造することが可能なPVC製皮革用水性表面処理剤を提供すること。
【解決手段】(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、及び(C)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物、又は
(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、(E)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物、及び(C)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物
を含み、
前記(B)ポリオールが、(B1)炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールのみで構成されたポリカーボネートジオールを含むものであり、
前記(C)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである、
塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂を含む表面を有する皮革用基材の前記表面を処理するための水性表面処理剤であって、
前記水性表面処理剤が、
(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、及び(C)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物、又は
(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、(E)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物、及び(C)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物
を含み、
前記(B)ポリオールが、(B1)炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールのみで構成されたポリカーボネートジオールを含むものであり、
前記(C)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである、
ことを特徴とする塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
【請求項2】
前記(B)ポリオールにおける前記(B1)ポリカーボネートジオールの割合が40質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
【請求項3】
前記(C)多価アルコールの割合が、
前記鎖伸長物が前記イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物である場合には、前記(B)ポリオール及び前記(C)多価アルコールの合計量に対して、
前記鎖伸長物が前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物である場合には、前記(B)ポリオール、前記(C)多価アルコール及び前記(E)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物の合計量に対して、
0.1~1.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
【請求項4】
前記イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量が0.2~4.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
【請求項5】
前記(A)有機ポリイソシアネートが、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
【請求項6】
塩化ビニル系樹脂を含む表面を有する皮革用基材の前記塩化ビニル系樹脂を含む表面に請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤により形成された表面処理層を備えていることを特徴とする塩化ビニル系樹脂製皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤及びそれを用いて表面処理した塩化ビニル系樹脂製皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性又は熱可塑性のポリウレタン樹脂からなる表皮層を有する合成皮革や、少なくとも基材の表面が塩化ビニル系樹脂(以下、「PVC」ともいう)を含む合成皮革(以下、「PVC製皮革」ともいう)等の製造工程においては、合成皮革の表面の耐摩耗性や艶消し性を向上させるために、表面処理剤による加工が行われている。従来の表面処理剤に用いられる樹脂組成物は、ジメチルホルムアミド、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤を含んだ溶剤系が主流であったが、これらの有機溶剤は引火性が強く、毒性が高いものが多いことから、火災の危険性、作業環境の悪化、大気、水質等の環境汚染等の問題があった。また、合成皮革の製造においては、これらの有機溶剤を回収することも行われているが、多額のコストや労力がかかるという問題点があった。
【0003】
近年、環境規制の高まりだけでなく、有機溶剤系の表面処理剤を用いて得られた合成皮革の内部に有機溶剤が残留するため、皮膚障害等の人体への影響も問題とされている。そのため、有機溶剤を極力、或いは全く含まない水性の表面処理剤の開発が進められており、特に、自動車内装材に使用される合成皮革の皮革用材においては、残留有機溶剤の人体への影響が危惧されるため、水性の表面処理剤が強く要望されている。
【0004】
特に、PVC製皮革は、熱硬化性又は熱可塑性のポリウレタン樹脂からなる表皮層を有する合成皮革と比べ、コストの面から需要が伸びているが、耐摩耗性が劣るため、使用する水性の表面処理剤に対し、高い耐摩耗性が求められている。また、PVC中に可塑剤が含まれるため、経時で可塑剤がブリードアウトし、光沢が上昇する等の問題がある。さらに、近年、内装材表面をアルコールで拭き取ることが増加しており、アルコールに対する耐久性も求められてきているが、PVC製皮革においては、PVCを含む基材表面と前記水性表面処理剤により形成された表面処理層との密着性が不足し、前記表面処理層の剥がれや白化等が起こりやすいという問題がある。
【0005】
例えば、国際公開第2019/221088号(特許文献1)には、ポリオール成分、イソシアネート成分を含むポリウレタン樹脂であって、(1)前記ポリオール成分としてポリカーボネートジオール成分を含み、前記イソシアネート成分として直鎖型脂肪族イソシアネート成分を含み、(2)前記ポリカーボネートジオール成分は数平均分子量が500~3000であり、その構造中に炭素数3~10のジオール由来構造を含み、(3)前記イソシアネート成分のうち、10mol%以上が炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート成分である、ポリウレタン樹脂を含む塗料、及びこの塗料を表面に含む合成擬革が記載されている。特に、特許文献1の実施例においては、前記ポリカーボネートジオール成分として、1,4-ブタンジオール及び1,10-デカンジオール由来のポリカーボネートジオールを用いて製造したポリウレタン樹脂を含む表面処理剤でPVCシートを表面処理した合成擬革が記載されており、この合成擬革が、優れた耐寒屈曲性と耐薬品性と両立できることも記載されている。
【0006】
また、国際公開第2022/097332号(特許文献2)には、1,9-ノナンジオール及び2-メチル-1,8-オクタンジオールを原料とするポリカーボネートポリオールを用いて調製した水系ポリウレタン樹脂組成物を、PVC基材上に塗工して作製した積層体が記載されており、この積層体が、密着性、耐ブリード性に優れていることも記載されている。
【0007】
さらに、国際公開第2022/097333号(特許文献3)には、1,6-ヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール及びポリテトラメチレングリコールを用いて調製した水系ポリウレタン樹脂組成物を、PVC基材上に塗工して作製した積層体が記載されており、この積層体が、密着性、耐ブリード性に優れていることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/221088号
【特許文献2】国際公開第2022/097332号
【特許文献3】国際公開第2022/097333号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3のいずれに記載の合成擬革あるいは皮革においても、耐摩耗性、耐可塑剤移行性、及び耐アルコール性が必ずしも十分ではなかった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、PVCを含む表面を有する皮革用基材の前記表面を処理するための水性表面処理剤であって、PVCを含む基材表面(例えば、PVCを含む表皮層)に含まれる可塑剤の移行が抑制され、耐摩耗性、耐揉み性、及び耐アルコール性に優れたPVC製皮革を製造することが可能なPVC製皮革用水性表面処理剤、並びに、このPVC製皮革用水性表面処理剤で表面処理されたPVC製皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールのみで構成されたポリカーボネートジオールを含むポリオール及び少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを併用して合成したイソシアネート基末端プレポリマー又はその中和物の鎖伸長物を含む水性表面処理剤を用いて、PVCを含む表面を有する皮革用基材の前記表面を処理することによって、PVC製皮革の可塑剤移行が抑制され、PVC製皮革に優れた耐摩耗性、耐揉み性、及び耐アルコール性を付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
[1]塩化ビニル系樹脂を含む表面を有する皮革用基材の前記表面を処理するための水性表面処理剤であって、
前記水性表面処理剤が、
(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、及び(C)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物、又は
(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、(E)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物、及び(C)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物
を含み、
前記(B)ポリオールが、(B1)炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールのみで構成されたポリカーボネートジオールを含むものであり、
前記(C)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである、
塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
[2]前記(B)ポリオールにおける前記(B1)ポリカーボネートジオールの割合が40質量%以上である、[1]に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
[3]前記(C)多価アルコールの割合が、
前記鎖伸長物が前記イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物である場合には、前記(B)ポリオール及び前記(C)多価アルコールの合計量に対して、
前記鎖伸長物が前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物である場合には、前記(B)ポリオール、前記(C)多価アルコール及び前記(E)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物の合計量に対して、
0.1~1.5質量%である、[1]又は[2]に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
[4]前記イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量が0.2~4.0質量%である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
[5]前記(A)有機ポリイソシアネートが、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤。
[6]塩化ビニル系樹脂を含む表面を有する皮革用基材の前記塩化ビニル系樹脂を含む表面に[1]~[5]のうちのいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂製皮革用水性表面処理剤により形成された表面処理層を備えている、塩化ビニル系樹脂製皮革。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、PVCを含む表面を有する皮革用基材を備えており、PVCを含む基材表面(例えば、PVCを含む表皮層)に含まれる可塑剤の移行が抑制され、耐摩耗性、耐揉み性、及び耐アルコール性に優れたPVC製皮革を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の塩化ビニル系樹脂製皮革の一実施態様を示す断面図である。
図2】本発明の塩化ビニル系樹脂製皮革の他の一実施態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
〔PVC製皮革用水性表面処理剤〕
先ず、本発明のPVC製皮革用水性表面処理剤について説明する。本発明のPVC製皮革用水性表面処理剤(以下、単に「水性表面処理剤」ともいう)は、PVCを含む表面を有する皮革用基材の前記表面を処理するための水性表面処理剤であって、
前記水性表面処理剤が、
(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、及び(C)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物、又は
(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、(E)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物、及び(C)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物
を含み、
前記(B)ポリオールが、(B1)炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールのみで構成されたポリカーボネートジオールを含むものであり、
前記(C)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである。
【0017】
ここで、前記イソシアネート基末端プレポリマーが(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、及び(C)多価アルコールの反応生成物である場合、前記イソシアネート基末端プレポリマーは強制乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーであり、この強制乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物を含む水性表面処理剤は、強制乳化型水性表面処理剤である。また、前記イソシアネート基末端プレポリマーが(A)有機ポリイソシアネート、(B)ポリオール、(E)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物、及び(C)多価アルコールの反応生成物である場合、前記イソシアネート基末端プレポリマーは自己乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーであり、この自己乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物を含む水性表面処理剤は、自己乳化型水性表面処理剤である。
【0018】
このように、本発明の水性表面処理剤は、前記強制乳化型又は前記自己乳化型のいずれの水性表面処理剤であってもよいが、得られるPVC製皮革に、乳化剤によるきわつきが発生しないという観点から、自己乳化型水性表面処理剤が好ましい。
【0019】
前記強制乳化型のイソシアネート基末端プレポリマー及び水性表面処理剤は、アニオン性親水基(カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基等)を有さず、自己乳化性を示さず、水に対して乳化させるためには乳化剤の添加が必要であり、乳化剤により強制的に乳化させることが可能となるタイプ(強制乳化型)のイソシアネート基末端プレポリマー及び水性表面処理剤である。
【0020】
前記自己乳化型のイソシアネート基末端プレポリマー及び水性表面処理剤は、アニオン性親水基(カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基等)を有し、乳化剤を使用しなくても、自己乳化が可能となるタイプ(自己乳化型)のイソシアネート基末端プレポリマー及び水性表面処理剤である。
【0021】
なお、前記強制乳化型の水性表面処理剤における「水性」とは、強制乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物を、乳化剤を用いて水に乳化分散させて水中の前記強制乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の濃度が35質量%である乳化分散液を調製した後に、この乳化分散液を20℃で12時間静置しても分離や沈降が観察されないような状態とすることが可能であることを意味する。
【0022】
また、前記自己乳化型の水性表面処理剤における「水性」とは、自己乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物を水に乳化分散させて水中の前記自己乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の濃度が35質量%である乳化分散液を調製した後に、この乳化分散液を20℃で12時間静置しても分離や沈降が観察されないような状態とすることが可能であることを意味する。
【0023】
以下、前記強制乳化型及び自己乳化型のイソシアネート基末端プレポリマー及び水性表面処理剤に含まれる成分について説明する。
【0024】
(A)有機ポリイソシアネート(以下、「A成分」という)
本発明に用いられるA成分としては特に制限はなく、従来より一般に用いられている芳香族、脂肪族及び脂環式のポリイソシアネートが挙げられる。例えば、芳香族ポリイソシアネートとしては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらのA成分は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのA成分の中でも、得られる水性表面処理剤が無黄変性のものとなるという観点から、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートが好ましく、耐揉み性、及び耐アルコール性の観点から、脂肪族ポリイソシアネートがより好ましい。
【0025】
(B)ポリオール(以下、「B成分」という)
本発明に用いられるB成分は、(B1)炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールのみで構成されたポリカーボネートジオールを含むものである。
【0026】
前記(B1)ポリカーボネートジオールの重量平均分子量としては、500~3000が好ましく、800~2500がより好ましい。前記(B1)ポリカーボネートジオールの重量平均分子量が前記下限未満になると、耐揉み性が低下するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、前記(B1)ポリカーボネートジオール自体の粘度が高くなり過ぎる傾向にあり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0027】
前記炭素数が4~10の偶数である直鎖構造(直鎖の炭化水素基)を有するジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール等が挙げられる。
【0028】
前記(B1)ポリカーボネートジオールとして、具体的には、1,4-ブタンジオール/1,6-ヘキサンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、旭化成株式会社製のデュラノールT4692(重量平均分子量:2000))、1,4-ブタンジオール/1,10-デカンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、三菱ケミカル株式会社製のベネビオールNL2010DB(重量平均分子量:2000))、1,6-ヘキサンジオールのみ由来のポリカーボネートジオール(例えば、旭化成株式会社製のデュラノールT6002(重量平均分子量:2000)、宇部興産株式会社製のETERNACOLLUH-200(重量平均分子量:2000)、旭化成株式会社製のデュラノールT6001(重量平均分子量:1000))、1,10-デカンジオールのみ由来のポリカーボネートジオール(例えば、三菱ケミカル株式会社製のベネビオールNL2000D(重量平均分子量:2000))等が挙げられる。
【0029】
前記(B1)ポリカーボネートジオールは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0030】
B成分における、前記(B1)ポリカーボネートジオール以外のポリオール(以下、「その他のポリオール」ともいう)としては、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、前記(B1)ポリカーボネートジオール以外のポリカーボネート系ポリオール(以下、「その他のポリカーボネート系ポリオール」ともいう)等の高分子ポリオール、低分子量ジオールが挙げられる。
【0031】
ポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの重合物が挙げられる。このような重合物は1種類のアルキレンオキサイドの単独重合物であってもよいし、2種類以上のアルキレンオキサイドの共重合物であってもよい。共重合物である場合、ランダム重合物であっても、ブロック重合物であってもよい。また、このようなポリエーテル系ポリオールの重量平均分子量としては、400~5000が好ましい。また、前記ポリエーテル系ポリオールとして、低分子量2価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した化合物を使用することもできる。前記低分子量2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0032】
ポリエステル系ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、重量平均分子量300~1,000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン又はこれらのアルキレンオキサイド付加体等のジオール成分と、ダイマー酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p,p’-ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物又はエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分との脱水縮合反応によって得られるポリエステル系ポリオール、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応により得られるポリエステル系ポリール、これらを共重合したポリエステル系ポリオール等が挙げられる。
【0033】
前記その他のポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、炭素数が4~10の偶数である直鎖構造(直鎖の炭化水素基)を有するジオール以外のジオール(以下、「その他のジオール」ともいう)と、ジフェニルカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネート系ポリオール、炭素数が4~10の偶数である直鎖構造(直鎖の炭化水素基)を有するジオールと前記その他のジオールとの混合物と、ジフェニルカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネート系ポリオール等が挙げられる。前記その他のジオールとしては、例えば、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,9-ノナンジオール等の炭素数が奇数の直鎖構造(直鎖の炭化水素基)を有するジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の分岐構造(分岐状炭化水素基)を有するジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のエチレン鎖を有するジオールが挙げられる。前記その他のポリカーボネート系ポリオールとして、具体的には、1,3-プロパンジオールのみ由来のポリカーボネートジオール(豊国製油株式会社製のHS PD-2003)、2-メチル-1,3-プロパンジオールのみ由来のポリカーボネートジオール(宇部興産株式会社製のETERNACOLL UP-200)、1,5-ペンタンジオールと1,6-ヘキサンジオール由来のポリカーボネートジオール(旭化成株式会社製のデュラノールT5652)、3-メチルー1,5―ペンタンジオールと1,6-ヘキサンジオール由来のポリカーボネートジオール(株式会社クラレ製のクラレポリオールC-2090)等が挙げられる。
【0034】
前記低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0035】
これらのその他のポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0036】
B成分における前記(B1)ポリカーボネートジオールの割合としては、耐摩耗性、耐もみ性、耐可塑剤移行性、及び耐アルコール性の観点から、前記(B)ポリオール全量に対して、40質量%以上が好ましく、特に、前記(B1)ポリカーボネートジオールと前記その他のポリカーボネート系ポリオールとを併用する場合には、耐アルコール性が更に向上するという観点から、50質量%以上がより好ましく、耐摩耗性及び耐もみ性が更に向上するという観点から、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がまたさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、また、前記(B1)ポリカーボネートジオールと前記その他のポリオール(前記その他のポリカーボネート系ポリオールを除く)とを併用する場合には、耐摩耗性、耐もみ性、耐可塑剤移行性、及び耐アルコール性が更に向上するという観点から、60質量%以上がより好ましく、耐摩耗性、耐可塑剤移行性、及び耐アルコール性がまた更に向上するという観点から、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0037】
(C)多価アルコール(以下、「C成分」という)
本発明に用いられるC成分は、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである。このようなC成分としては、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上の低分子多価アルコールが挙げられる。また、このような3価以上の低分子多価アルコール又は低分子ポリアルキレンポリアミンに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した重量平均分子量500以下の化合物等も使用することができる。前記低分子量ポリアルキレンポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。このようなC成分のうち、耐摩耗性の観点から、3~4価の多価アルコールが好ましく、3価の多価アルコールがより好ましい。
【0038】
(D)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン(以下、「D成分」という)
本発明に用いられるD成分としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’-エチレンヒドラジン、1,1’-トリメチレンヒドラジン、1,1’-(1,4-ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体が挙げられる。これらのポリアミンは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなD成分の使用量としては、耐摩耗性の観点から、後述する強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマー及び自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの遊離イソシアネート基に対して、0.7~1.2当量のアミノ基等を含む量が好ましい。
【0039】
(E)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(以下、「E成分」という)
E成分は、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基等のアニオン性親水基とヒドロキシ基等の活性水素含有基2個以上とを有する化合物である。このE成分を共重合させることによって、自己乳化型のイソシアネート基末端プレポリマー及び水性表面処理剤が得られる。前記E成分としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジヒドロキシマレイン酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
【0040】
前記自己乳化型のイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物に対するE成分由来のアニオン性親水基の含有量としては、0.3~3.0質量%が好ましく、0.5~3.0質量%がより好ましく、0.5~2.5質量%がさらに好ましい。E成分由来のアニオン性親水基の含有量が前記下限未満になると、水性表面処理剤の乳化安定性及び貯蔵安定性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、水性表面処理剤を処理した表面処理層が硬くなり過ぎる傾向にあり、耐揉み性が低下するおそれがある。
【0041】
(強制乳化型水性表面処理剤)
本発明の強制乳化型水性表面処理剤は、A成分、B成分及びC成分の反応生成物である強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物を含むものである。
【0042】
(強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマー)
前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーは、A成分、B成分及びC成分の反応生成物である。このような強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの製造方法は特に制限はなく、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法が挙げられる。反応温度としては40~150℃が好ましい。この際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジ-2-エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等の反応触媒、或いは燐酸、燐酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0043】
また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン等が挙げられる。これらの有機溶剤のうち、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチルが特に好ましい。また、これらの有機溶剤は、強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散及び鎖伸長後、加熱減圧することによって除去することができる。
【0044】
前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーにおいて、B成分、及びC成分の合計量に対するC成分の割合[(C/(B+C))×100]としては、0.1~1.5質量%が好ましく、0.15~1.45質量%がより好ましく、0.2~1.4質量%がさらに好ましく、0.25~1.35質量%が特に好ましく、0.3~0.95質量%が最も好ましい。B成分、及びC成分の合計量に対するC成分の割合が前記下限未満になると、水性表面処理剤の架橋密度が低くなる傾向にあり、耐摩耗性、耐可塑剤移行性、耐アルコール性が不足するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、水性表面処理剤の架橋密度が高くなり過ぎる傾向にあり、耐揉み性が低下するおそれがある。
【0045】
前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの製造に際しては、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比(NCO/OH)が、2.0/1.0~1.1/1.0であることが好ましく、1.7/1.0~1.15/.1.0であることがより好ましい。原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比を前記範囲内に調整することによって、所望の遊離イソシアネート基含有量を有する強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを得ることができる。一方、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比が前記下限未満になると、耐摩耗性が低下するおそれがある。他方、前記上限を超えると、製造時の粘度が高くなり過ぎて製造が困難となるとともに耐揉み性が低下するおそれがある。
【0046】
このようにして得られる強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量としては、0.2~4.0質量%が好ましく、0.6~3.5質量%がより好ましく、0.8~2.5質量%がさらに好ましい。前記遊離イソシアネート基含有量が前記下限未満になると、製造時の強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの粘度が著しく上昇する傾向にあり、乳化分散が困難となったり、多量の有機溶剤が必要となりコスト的に不利となる傾向にある。他方、前記遊離イソシアネート基含有量が前記上限を超えると、乳化分散後とD成分による鎖伸長後の水溶性のバランスが大きく変化する傾向にあり、水性表面処理剤の経時貯蔵安定性又は加工安定性が低下、また耐揉み性が低下するおそれがある。
【0047】
なお、A成分、B成分及びC成分は、いずれも反応点が複数存在するものであり、このようなA成分、B成分及びC成分を反応させることによって得られる前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーは、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0048】
(強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物)
前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物は、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを、乳化剤を用いて水に乳化分散させた状態で、D成分を用いて鎖伸長させることによって得られるものである。
【0049】
(乳化分散)
前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを乳化分散させる方法としては、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを用い、これを乳化剤を用いて水に乳化分散させる方法が挙げられる。
【0050】
前記乳化剤としては、非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤が挙げられる。前記非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンプロピレンジスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンプロピレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、プルロニック(登録商標)型非イオン界面活性剤が挙げられる。また、前記アニオン界面活性剤としては、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリアルキレングリコール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテルリン酸エステル塩、硫酸化脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩及びその重合物、パラフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩が挙げられる。このような乳化剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよいが、前記非イオン界面活性剤のうちの少なくとも1種を用いることが好ましく、中でも、強制乳化型水性表面処理剤の水乳化分散物の貯蔵安定性と加工安定性の観点から、HLBが7~16であるものを用いることがより好ましい。なお、本発明において、HLBの値は、次式:非イオン界面活性剤中のオキシエチレン基部分の分子量×20/非イオン界面活性剤の分子量によって得られる値である。
【0051】
前記乳化剤の添加量としては、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの親水性により異なるものであり、一概には言えないが、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマー100質量部に対して0.5~10質量部が好ましく、1~6質量部がより好ましい。乳化剤の添加量が前記下限未満になると、十分に安定な乳化分散状態を得ることが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、水性表面処理剤の塗工によって得られる表面処理層の耐水性が低下したり、PVC製皮革にきわつきが発生したりする傾向にある。
【0052】
(鎖伸長)
次に、このようにして水に乳化分散させた前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを、D成分を用いて鎖伸長させることにより、本発明の強制乳化型水性表面処理剤が形成される。
【0053】
鎖伸長の方法としては特に制限はなく、例えば、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散物にD成分を添加して鎖伸長する方法、或いはD成分に前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散物を添加して鎖伸長する方法が好ましい。前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーとD成分との反応は、20~50℃の反応温度で、通常、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーとD成分との混合後、30~120分間で完結する。
【0054】
このような鎖伸長は、前記乳化分散と同時に行ってもよいし、前記乳化分散の後に行ってもよいし、前記乳化分散の前に行ってもよい。また、得られた強制乳化型水性表面処理剤に有機溶剤が含まれる場合には、減圧下、30~80℃の温度で前記有機溶剤を除去することが好ましい。
【0055】
なお、A成分、B成分、及びC成分と同様に、D成分も反応点が複数存在するものであり、このようなD成分を用いて前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを鎖伸長させることにより得られる前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物(強制乳化型水性表面処理剤)も、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーと同様に、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0056】
このようにして得られた強制乳化型水性表面処理剤は、水に乳化分散させた状態で使用することが好ましく、その水性表面処理剤中の前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の濃度としては特に制限はないが、20~60質量%が好ましい。このような強制乳化型水性表面処理剤の水乳化分散物(以下、「強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の水分散物」ともいう)における前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物濃度は、水を追加又は除去することによって調整することができる。
【0057】
(自己乳化型水性表面処理剤)
本発明の自己乳化型水性表面処理剤は、A成分、B成分、C成分及びE成分の反応生成物である自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物を含むものである。
【0058】
(自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマー)
前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーは、A成分、B成分、C成分及びE成分の反応生成物である。このような自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの製造方法としては、E成分を含むことを除いて、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの製造方法と同様の方法を採用することができる。
【0059】
前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーにおいて、B成分、C成分及びE成分の合計量に対するC成分の割合[(C/(B+C+E))×100]としては、0.1~1.5質量%が好ましく、0.15~1.45質量%がより好ましく、0.2~1.4質量%がさらに好ましく、0.25~1.35質量%が特に好ましく、0.3~0.95質量%が最も好ましい。B成分、C成分及びE成分の合計量に対するC成分の割合が前記下限未満になると、水性表面処理剤の架橋密度が低くなる傾向にあり、耐摩耗性、耐可塑剤移行性、耐アルコール性が不足するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、水性表面処理剤の架橋密度が高くなり過ぎる傾向にあり、耐揉み性が低下するおそれがある。
【0060】
前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの製造に際しては、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比(NCO/OH)が、2.0/1.0~1.1/1.0であることが好ましく、1.7/1.0~1.15/.1.0であることがより好ましい。原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比を前記範囲内に調整することによって、所望の遊離イソシアネート基含有量を有する自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを得ることができる。一方、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比が前記下限未満になると、耐摩耗性が低下するおそれがある。他方、前記上限を超えると、製造時の粘度が高くなり過ぎて製造が困難となるとともに耐揉み性が低下するおそれがある。
【0061】
このようにして得られる自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量としては、0.2~4.0質量%が好ましく、0.6~3.5質量%がより好ましく、0.8~2.5質量%がさらに好ましい。前記遊離イソシアネート基含有量が前記下限未満になると、製造時の自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの粘度が著しく上昇する傾向にあり、乳化分散が困難となったり、多量の有機溶剤が必要となりコスト的に不利となる傾向にある。他方、前記遊離イソシアネート基含有量が前記上限を超えると、乳化分散後とD成分による鎖伸長後の水溶性のバランスが大きく変化する傾向にあり、水性表面処理剤の経時貯蔵安定性又は加工安定性が低下、また耐揉み性が低下するおそれがある。
【0062】
なお、A成分、B成分、C成分及びE成分は、いずれも反応点が複数存在するものであり、このようなA成分、B成分、C成分及びE成分を反応させることによって得られる前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーは、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0063】
(自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物)
前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基が中和されたものである。このような自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(i)A成分、B成分、C成分及びE成分を反応させて得られる自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基を公知の方法で中和することによって製造してもよいし、(ii)A成分、B成分、C成分及びE成分を混合した後、E成分中のアニオン性親水基を公知の方法で中和し、次いで、この中和したE成分、A成分、B成分及びC成分を反応させることによって製造してもよい。また、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(iii)A成分、B成分、C成分及び前記アニオン性親水基がアニオン性親水基の塩であるE成分を反応させることによって製造することもできる。
【0064】
前記(i)及び(ii)の製造方法において、E成分のアニオン性親水基の中和に用いられる塩基性化合物としては特に制限はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチル-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルモノエタノールアミン、N,N-ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア等が挙げられる。これらの中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類が特に好ましい。
【0065】
前記(i)及び(ii)の製造方法におけるE成分のアニオン性親水基の中和に際して、前記中和用塩基性化合物の使用量としては、アニオン性親水基に対して、0.5~1.5当量が好ましく、0.6~1.4当量がより好ましく、0.7~1.3当量が特に好ましい。前記中和用塩基性化合物の使用量が前記下限未満になると、自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の乳化性及び保存安定性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超える量の前記中和用塩基性化合物を添加しても、自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の乳化性や保存安定性がそれ以上向上しないため、経済的に好ましくない。
【0066】
(自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物)
前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物は、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、水に乳化させた状態で、D成分を用いて鎖伸長させることによって得られるものである。
【0067】
(乳化分散)
前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、乳化剤を使用せずに、水に乳化分散させることができる。前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の乳化分散の方法としては特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を用いた従来公知の方法が挙げられる。前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、特に乳化剤を添加しなくても、0~40℃の範囲内の温度で水に乳化分散させることが可能である。これにより、イソシアネート基と水との反応を抑制することができる。また、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散させる際には、必要に応じて、燐酸、燐酸二水素ナトリウム、燐酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0068】
(鎖伸長)
次に、このようにして水に乳化分散させた前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、D成分を用いて鎖伸長させることにより、本発明の自己乳化型水性表面処理剤が形成される。
【0069】
鎖伸長の方法としては特に制限はなく、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長の方法と同様の方法を採用することができる。
【0070】
なお、A成分、B成分、C成分及びE成分と同様に、D成分も反応点が複数存在するものであり、このようなD成分を用いて前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を鎖伸長させることにより得られる前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物(自己乳化型水性表面処理剤)も、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーと同様に、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0071】
このようにして得られた自己乳化型水性表面処理剤は、水に乳化分散させた状態で使用することが好ましく、その水性表面処理剤中の前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の濃度としては特に制限はないが、20~60質量%が好ましい。このような自己乳化型水性表面処理剤の水乳化分散物(以下、「自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の水分散物」ともいう)における前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の濃度は、水を追加又は除去することによって調整することができる。
【0072】
<PVC製皮革用水性表面処理剤>
本発明のPVC製皮革用水性表面処理剤は、PVCを含む表面を有する皮革用基材の前記表面を処理するための水性表面処理剤であり、この水性表面処理剤で前記PVCを含む表面を処理することによって、前記PVCを含む表面に前記水性表面処理剤により表面処理層が形成されるため、色や光沢、風合い、触感等が調整され、さらに、PVCを含む基材表面(例えば、PVCを含む表皮層)に含まれる可塑剤の移行が抑制され、耐摩耗性、耐揉み性、及び耐アルコール性が向上する。このような本発明の水性表面処理剤としては、前記強制乳化型又は前記自己乳化型のいずれの水性表面処理剤も使用可能であるが、得られるPVC製皮革に、乳化剤によるきわつきが発生しないという観点から、自己乳化型水性表面処理剤が好ましい。
【0073】
また、本発明の水性表面処理剤においては、本発明の効果を損なわない範囲において、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物又は前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物以外の樹脂、艶消し剤、平滑剤、増粘剤、架橋剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、膜形成剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料等の各種添加剤を配合することができる。
【0074】
(樹脂)
前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物又は前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物以外の樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0075】
前記アクリル系樹脂に用いられるアクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。また、これらのアクリル系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0076】
前記アクリル系樹脂に用いられる共重合モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のアクリルアミド類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等のビニル化合物;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの共重合モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0077】
(艶消し剤)
本発明の水性表面処理剤においては、PVC製皮革表面の艶感・光沢を調整するために、艶消し剤を配合してもよい。このような艶消し剤としては、例えば、有機ビーズ;シリカ粒子、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、アルミナシリケート、カオリン、雲母、及びマイカ等の無機粒子等が挙げられる。これらの艶消し剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0078】
前記有機ビーズとしては、例えば、ウレタンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、オレフィンビーズ、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等が挙げられる。また、前記シリカ粒子としては、乾式シリカ、湿式シリカ等が挙げられ、中でも、散乱効果が高く、グロス値の調整を少量で行うことができるという観点から、乾式シリカが好ましい。有機ビーズの平均粒子径としては、2~14μmが好ましく、3~12μmがより好ましい。
【0079】
このような艶消し剤の配合量としては、目的とするPVC製皮革表面の外観(艶感・光沢)の向上を図るといった観点から、必要に応じて適量を用いればよいが、通常、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物又は前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、5~120質量部がより好ましく、7~100質量部が更に好ましい。
【0080】
(平滑剤)
本発明の水性表面処理剤においては、PVC製皮革表面の平滑性及び耐摩耗性を向上させるために、平滑剤を配合してもよい。このような平滑剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ハイドロジェン変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ハロゲン化変性シリコーン、メタクリロキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられ。これらの平滑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの平滑剤の中でも、耐摩耗性の向上効果が大きいという観点から、ポリジメチルシリコーン及びエポキシ変性シリコーンが好ましい。
【0081】
本発明の水性表面処理剤においては、このような平滑剤として市販のものを用いることができる。前記ポリジメチルシリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSILSM490EX、DOWSILSM-8706EX、DOWSILIE-7046T、DOWSILFBL-3289、DOWSILQ2-3238(以上、ダウ東レ株式会社製)、KM-752T、KM-862T、KM-9737A、POLONMF-33(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。また、前記エポキシ変性シリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSILSM-8701(ダウ東レ株式会社製)、POLONMF-18T、X-51-1264(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0082】
このような平滑剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、PVC製皮革表面の平滑性及び耐摩耗性に応じて適量を用いればよいが、通常、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物又は前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、5~120質量部がより好ましく、7~100質量部が更に好ましい。
【0083】
(増粘剤)
本発明の水性表面処理剤においては、適切な粘度に調整するために、増粘剤を配合してもよい。このような増粘剤としては、例えば、アルカリ増粘型アクリル樹脂、会合型増粘剤、水溶性有機高分子等が挙げられる。これらの増粘剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0084】
本発明の水性表面処理剤においては、前記アルカリ増粘型アクリル樹脂として市販のものを用いることができる。前記アルカリ増粘型アクリル樹脂の市販品としては、例えば、ニカゾールVT-253A(日本カーバイド工業株式会社製)、アロンA-20P、アロンA-7150、アロンA-7070、アロンB-300、アロンB-300K、アロンB-500(以上、東亞合成株式会社製)、ジュリマーAC-10LHP、ジュリマーAC-10SHP、レオジック835H、ジュンロンPW-110、ジュンロンPW-150(以上、日本純薬株式会社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615、プライマルRM-5(以上、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)、SNシックナーA-818、SNシックナーA-850(以上、サンノプコ株式会社製)、パラガム500(パラケム・サザン株式会社製)、レオレート430(エレメンティス・ジャパン株式会社製)、ネオステッカーV-420(日華化学株式会社製)等が挙げられる。このようなアルカリ増粘型アクリル樹脂は、通常、樹脂の乳化分散物として市販されており、乳化分散させた状態で使用することが好ましい。
【0085】
また、本発明の水性表面処理剤においては、前記会合型増粘剤として市販のものを用いることができる。前記会合型増粘剤の市販品としては、例えば、アデカノールUH-450、アデカノールUH-540、アデカノールUH-752(以上、旭電化工業株式会社製)、SNシックナー601、SNシックナー612、SNシックナー621N、SNシックナー623N、SNシックナー660T(以上、サンノプコ株式会社製)、レオレート244、レオレート278、レオレート300(以上、エレメンティス・ジャパン株式会社製)、DKシックナーSCT-275(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0086】
前記水溶性有機高分子としては、例えば、天然水溶性有機高分子、半合成水溶性有機高分子、合成水溶性有機高分子が挙げられる。前記天然水溶性有機高分子としては、ばれいしょデンプン、かんしょデンプン、小麦デンプン、米デンプン、タピオカデンプン、コーンスターチ等のデンプン類;アラビアガム、トラガカントガム、カラヤガム、トロロアオイ等の樹脂多糖類;アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、寒天(ガラクタン)、ふのり等の海藻多糖類;キサンタンガム、プルラン、カードラン、デキストリン、レバン等の微生物発酵多糖類;カゼイン、ゼラチン、アラブミン、にかわ、コラーゲン等のタンパク質;ペクチン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0087】
前記半合成水溶性有機高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロース硫酸エステルナトリウム等のセルロース誘導体;デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ジアルデヒドデンプン、リン酸デンプン、アセチルデンプン等のデンプン誘導体;アルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
【0088】
前記合成水溶性有機高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルキルエーテル、無水マレイン酸共重合体、マレイン酸共重合体、マレイン酸塩共重合体等が挙げられる。
【0089】
このような増粘剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、水性表面処理剤の粘度に応じて適量を用いればよいが、通常、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物又は前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物100質量部に対して、0.5~40質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましく、2~20質量部が更に好ましい。
【0090】
(架橋剤)
本発明の水性表面処理剤においては、PVC製皮革の耐水性及び耐久性を向上させるために、架橋剤を配合してもよい。このような架橋剤としては、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、水分散イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの架橋剤は、本発明の水性表面処理剤が、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物を含むもの、又は前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物を含むもののいずれの場合にも配合することができるが、カルボキシル基を有する自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物を含む水性表面処理剤の場合には、これらの架橋剤の中でも、風合い、加工液の安定性の観点から、カルボジイミド系架橋剤を配合することが特に好ましい。
【0091】
本発明の水性表面処理剤においては、このような架橋剤として市販のものを用いることができる。前記カルボジイミド系架橋剤の市販品としては、例えば、カルボジライトE-02、カルボジライトSV-02、カルボジライトV02-L2、カルボジライトV-10(以上、日清紡ケミカル株式会社製)、NKアシストCI-02(日華化学株式会社製)等が挙げられる。
【0092】
このような架橋剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、PVC製皮革の耐摩耗性及び耐揉み性の観点から、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物又は前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましい。
【0093】
〔塩化ビニル系樹脂製皮革〕
本発明の塩化ビニル系樹脂製皮革(PVC製皮革)は、塩化ビニル系樹脂(PVC)を含む表面を有する皮革用基材(PVC製皮革用基材)の前記PVCを含む表面に前記本発明のPVC製皮革用水性表面処理剤により形成された表面処理層を備えるものである。
【0094】
(PVC製皮革用基材)
本発明に用いられる皮革用基材は、PVCを含む表面を有するPVC製皮革用基材であれば特に制限はなく、基材全体がPVCを含むものであってもよいが、一般的には、図1に示すように、基布(11)と前記基布(11)上に形成されたPVCを含む表皮層(12)とを備えるPVC製皮革用基材(13)や、図2に示すように、基布(21)と前記基布(21)上に形成された中間層(22)(例えば、発泡層等)と前記中間層(22)上に形成されたPVCを含む表皮層(23)とを備えるPVC製皮革用基材(24)が挙げられ、図1における前記基布(11)と前記表皮層(12)との間や、図2における前記基布(21)と前記中間層(22)との間、及び/又は、前記中間層(22)と前記表皮層(23)との間には接着層(図示なし)が形成されていてもよい。
【0095】
(基布)
基布としては特に制限されず、PVC製皮革に利用可能な繊維が挙げられ、公知のものを適宜利用できる。このような繊維としては、例えば、編地、織物、不織布等の布やそれに類似した材料等が挙げられる。このような繊維としては、レザーライク性を付与するといった観点からは、編地(例えば、天竺編み、スムース編み等のメリヤス編)を用いることが好ましく、中でも、捲縮加工等により伸縮性が付与された糸を用いた編布が特に好ましい。なお、このような繊維としてポリエステルのみからなる編布を利用する場合、ポリエステルが硬いことから、捲縮加工により伸縮性を増した編布として利用することが好ましい。また、前記繊維が織物や不織布の場合には、織物を構成する糸、及び、不織布を構成する短繊維(ステープル)として、例えば、捲縮加工等により伸縮特性が付与されたものを用いたり、短繊維から糸を作る際に弾性が付与される加工を施した糸を使用する等して、その布(前記織物や前記不織布)に柔軟性を持たせることが好ましい。
【0096】
また、繊維の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。なお、このような繊維としては市販のものを用いてもよい。また、このようなPVC製皮革に利用する繊維(基布)の厚さは、目的とする合成樹脂レザーの設計によっても異なるものであり、特に制限されるものではないが、加工品の強度、伸縮性の観点からは、300~1000μm程度であることが好ましい。
【0097】
(塩化ビニル系樹脂)
塩化ビニル系樹脂(PVC)は、塩化ビニル又は塩化ビニリデンを必須の単量体(モノマー)成分としてなる重合体である。すなわち、PVCは分子中(1分子中)に、塩化ビニル又は塩化ビニリデンに由来する構成単位を少なくとも含む重合体である。前記ポリ塩化ビニルとしては、塩化ビニルの単独重合体であるポリ塩化ビニル、塩化ビニリデンの単独重合体であるポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル又は塩化ビニリデンと他の単量体との共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。
【0098】
また、前記塩化ビニル又は塩化ビニリデンと他の単量体との共重合体としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体や塩化ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の塩化ビニル-ビニルエステル類共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体等が挙げられる。これらの中でも、前記PVCとしては、塩化ビニルの単独重合体が好ましい。
【0099】
前記PVCの平均重合度(JIS K6721に準拠して測定される値を採用する)は、特に限定されないが、1000~3500が好ましく、1100~3000がより好ましく、1300~2800がさらに好ましい。
【0100】
前記PVCを製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0101】
(PVCを含む表皮層)
PVCを含む表皮層とは、前記PVCを含有する表皮層である。これらのうち、PVCとして塩化ビニルの単独重合体を含む表皮層が好ましい。さらに、前記PVCを含む表皮層としては、前記PVCとともに各種添加剤を含んでいてもよい。このように、前記PVCを含む表皮層は、前記PVCと前記各種添加剤の組成物により形成された層としてもよい。このような添加剤としては、公知のものを適宜利用でき、例えば、可塑剤、熱安定剤、充填剤、顔料、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤を適宜利用可能である。
【0102】
前記可塑剤としては、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジー2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ブチルベベンジルフタレート(BBP)、ジウンデシルフタレート(DUP)等に代表される一般のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、アゼライン酸ジオクチル(DOZ)に代表される一般の脂肪酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチル(TOTM)等に代表されるトリメリット酸エステル系可塑剤、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシリルホスフェート(TXP)等に代表されるトリアリールリン酸エステル系可塑剤、エポキシ化大豆油等に代表されるエポキシ系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等に代表されるポリエステル系可塑剤等の高分子可塑剤、塩素化パラフィン等の一般の可塑剤等が挙げられる。これらの可塑剤は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
(中間層)
本発明に用いられる皮革用基材は、図2に示すように、前記基布(21)と前記PVCを含む表皮層(23)との間に中間層(22)を備えていてもよい。このような中間層としては、例えば、発泡層が挙げられる。このような発泡層を中間層として設けることによって、PVC製皮革にクッション性が付与され、しなやかで上質な風合いを有するPVC製皮革が得られる。前記発泡層としては特に制限はなく、PVCを含む発泡層であってもよいし、ポリウレタン系樹脂(PU)等のPVC以外の樹脂を含む発泡層であってもよい。
【0104】
(PVC製皮革用基材の製造方法)
前記PVC製皮革用基材の製造方法としては特に制限はなく、例えば、図1に示したPVC製皮革用基材(13)の場合には、基布(11)とPVCを含む表皮層(12)とを接着する方法;図2に示したPVC製皮革用基材(24)の場合には、基布(21)と中間層(22)とを接着し、その上(中間層(22)の上)にPVCを含む表皮層(23)を積層する方法、中間層(22)上にPVCを含む表皮層(23)を積層した後、得られた積層体と基布(21)とを接着する方法等が挙げられる。
【0105】
基布(11)とPVCを含む表皮層(12)、基布(21)と中間層(22)、及び中間層(22)とPVCを含む表皮層(23)とを接着する方法としては特に制限はなく、例えば、接着剤を使用して接着する方法、加熱して接着する方法、及び加圧して接着する方法等が挙げられ、前記の接着する方法より選ばれた少なくとも1種の方法を使用して接着すればよい。接着剤を使用して接着する場合、接着剤の塗布方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。
【0106】
また、図2に示したPVC製皮革用基材(24)の場合、基布(21)と中間層(22)、及び中間層(22)とPVCを含む表皮層(23)とを接着する方法としては、一方が接着剤を使用して接着する方法であり、他方が加熱及び/又は加圧して接着する方法であってもよいし、両方とも接着剤を使用して接着する方法であってもよいし、両方とも加熱及び/又は加圧して接着する方法であってもよい。
【0107】
(PVC製皮革)
本発明のPVC製皮革は、前記PVCを含む表面を有する皮革用基材と前記PVCを含む表面に前記本発明のPVC製皮革用水性表面処理剤により形成された表面処理層とを備えるものであり、例えば、図1及び図2に示すように、基布(11)とPVCを含む表皮層(12)とを備えるPVC製皮革用基材(13)又は基布(21)と中間層(22)とPVCを含む表皮層(23)とを備えるPVC製皮革用基材(24)と、前記PVCを含む表皮層(12又は23)の表面に前記本発明の水性表面処理剤により形成された表面処理層(14又は25)とを備えるものが挙げられる。前記表面処理層(14又は25)と前記PVCを含む表皮層(12又は23)はそれ以外の層を介さずに各層が直接接する状態である。このような皮革としては、車両用内装材、オートバイのシート・グリップ、スポーツ靴、衣料、家具等に利用される。
【0108】
本発明のPVC製皮革の製造方法としては特に制限はなく、例えば、前記PVC製皮革用基材(13又は24)の前記PVCを含む表皮層(12又は23)の表面に前記本発明の水性表面処理剤を塗工した後、乾燥して、前記PVCを含む表皮層(12又は23)の表面に表面処理層(14又は25)を形成することによって、本発明のPVC製皮革を製造することができる。
【0109】
前記水性表面処理剤の塗工方法としては特に制限はなく、例えば、前記水性表面処理剤を、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて前記PVCを含む表皮層(12又は23)の表面に塗布する方法;前記水性表面処理剤を前記PVCを含む表皮層(12又は23)の表面に噴霧する方法;前記水性表面処理剤に前記PVC製皮革用基材(13又は24)を浸漬する方法等が挙げられるが、グラビアコーターによるダイレクトコート法、リバースコート法がより好ましい。前記水性表面処理剤の塗工量としては、乾燥後の塗布量が1~20g/mとなる量が好ましく、2~15g/mとなる量がより好ましい。
【0110】
塗工した前記水性表面処理剤の乾燥方法としては特に制限はなく、例えば、40~160℃の範囲内の温度で30秒~10分間乾燥することが好ましく、80~130℃の範囲内の温度で30秒~2分間乾燥することがより好ましい。また、乾燥後に20~100℃の範囲内の温度で5~72時間のエージング処理を行うことが好ましい。
【実施例0111】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、合成例における遊離イソシアネート基含有量は以下の方法により測定した。
【0112】
(遊離イソシアネート基含有量)
強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマー又は自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマー0.3gを三角フラスコに採取し、0.1Nジブチルアミントルエン溶液10mlを加えて強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマー又は自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを溶解させた。次いで、ブロモフェノールブルー液を数滴加え、0.1N塩酸メタノール溶液で滴定し、下記式:
NCO%=(a-b)×0.42×f/x
(前記式中、a:0.1Nジブチルアミントルエン溶液10mlのみを滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量、b:強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマー又は自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーを溶解させた溶液を滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量、f:0.1N塩酸メタノール液のファクター、x:強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマー又は自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマー量)
により遊離イソシアネート基含有量NCO%を求めた。
【0113】
また、合成例で使用した各原料を以下に示す。
【0114】
<有機ポリイソシアネート>
1,5-PDI:1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(三井化学株式会社製「スタビオPDI」)。
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成株式会社製「デュラネート50M」)。
H12MDI:ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート(コベストロ社製「デスモジュールW」)。
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー株式会社製「ミリオネートMT」)。
【0115】
<ポリオール>
NL2000D:三菱化学株式会社製ポリカーボネートジオール(1,10-デカンジオール)、商品名「ベネビオールNL-2000D」、重量平均分子量2,000。
T4692:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,4-ブタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT4692」、重量平均分子量2,000。
NL2010DB:三菱化学株式会社製ポリカーボネートジオール(1,4-ブタンジオール/1,10-デカンジオール)、商品名「ベネビオールNL-2010DB」、重量平均分子量2,000。
T6002:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT6002」、重量平均分子量2,000。
T6001:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT6001」、重量平均分子量1,000。
C2090:株式会社クラレ製ポリカーボネートジオール(3-メチル-1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「クラレポリオールC-2090」、重量平均分子量2,000。
UP200:宇部興産株式会社製ポリカーボネートジオール(2-メチル-1,3-プロパンジオール)、商品名「ETERNACOLL UP-200」、重量平均分子量2,000。
HS PD2003:豊国製油株式会社製ポリカーボネートジオール(1,3-プロパンジオール)、商品名「HS PD-2003」、重量平均分子量2,000。
PTMG2000:三菱化学株式会社製ポリテトラメチレンエーテルグリコール、商品名「PTMG2000」、重量平均分子量2,000。
1,4-BD:1,4-ブタンジオール(三菱ケミカル株式会社製「1,4-ブタンジオール」)。
【0116】
<3価以上の多価アルコール>
TMP:トリメチロールプロパン(Perstorp社製「トリメチロールプロパン」)。
【0117】
<鎖伸長剤>
N2H4:ヒドラジン一水和物(日本カーバイド工業株式会社製「水加ヒドラジン60%」)。
DETA:ジエチレントリアミン(東ソー株式会社製「ジエチレントリアミン」)。
【0118】
<アニオン性親水基/活性水素含有化合物>
DMPA:ジメチロールプロピオン酸(Perstorp社製「Bis-MPA」)。
【0119】
<中和アミン>
TEA:トリエチルアミン(株式会社ダイセル製「トリエチルアミン」)。
【0120】
また、実施例及び比較例で使用した水性ポリウレタン樹脂は以下の方法により合成した。
【0121】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、(B)ポリオールとしてポリカーボネートジオール(1,10-デカンジオール)(三菱ケミカル株式会社製「ベネビオールNL-2000D」、数平均分子量2,000)87.8質量部、(C)多価アルコールとしてトリメチロールプロパン0.42質量部、及びメチルエチルケトン24.8質量部を仕込み、均一に混合した後、(A)有機ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート10.9質量部、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.01質量部を加え、80℃で90分間反応させ、強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーに対する遊離イソシアネート基含有量が1.37質量%の強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0122】
この溶液にりん酸二水素ナトリウム0.5質量部、及びポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤(HLB=13)3.0質量部を添加し、均一に混合した後、ディスパー羽根を用い、水180質量部を徐々に加えて乳化分散させた。得られた乳化分散液に(D)鎖伸長剤としてヒドラジン一水和物0.65質量部、ジエチレントリアミン0.21質量部を添加した後、90分間攪拌して、強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の分散物を得た。次いで、この強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物35.0質量%、粘度50mPa・s、平均粒子径0.3μmの安定な強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の水分散物を得た。
【0123】
得られた強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の水分散物における、(B)ポリオール全量に占める前記(B1)ポリカーボネートジオールの割合、(B)ポリオール、及び(C)多価アルコールの合計量に対する(C)多価アルコールの割合、(D)鎖伸長剤の含有量、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基含有量、前記強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物におけるアニオン性親水基含有量、NCO/OH比を表1に示す。
【0124】
(合成例2)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、(B)ポリオールとしてポリカーボネートジオール(1,10-デカンジオール)(三菱ケミカル株式会社製「ベネビオールNL-2000D」、数平均分子量2,000)78.97質量部、(C)多価アルコールとしてトリメチロールプロパン0.4質量部、(E)アニオン性親水基/活性水素含有化合物としてジメチロールプロピオン酸3.55質量部、及びメチルエチルケトン24.7質量部を仕込み、均一に混合した後、(A)有機ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート15.8質量部、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.01質量部を加え、80℃で90分間反応させ、自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーに対する遊離イソシアネート基含有量が2.00質量%の自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0125】
この溶液にトリエチルアミン2.54質量部を添加し、均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させた。得られた乳化分散液に(D)鎖伸長剤としてヒドラジン一水和物0.95質量部、ジエチレントリアミン0.31質量部を添加した後、90分間攪拌して、自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の分散物を得た。次いで、この自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物35.0質量%、粘度100mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定な自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の水分散物を得た。
【0126】
得られた自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の水分散物における、(B)ポリオール全量に占める前記(B1)ポリカーボネートジオールの割合、(B)ポリオール、(E)アニオン性親水基/活性水素含有化合物及び(C)多価アルコールの合計量に対する(C)多価アルコールの割合、(D)鎖伸長剤の含有量、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基含有量、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物におけるアニオン性親水基含有量、NCO/OH比を表1に示す。
【0127】
(合成例3~26及び比較合成例1~5)
表1~表3に示す種類及び量の有機ポリイソシアネート、ポリオール、多価アルコール、アニオン性親水基/活性水素含有化合物、中和アミン及び鎖伸長剤を用いた以外は合成例2と同様にして自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の水分散物(自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物35.0質量%)を得た。得られた自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の水分散物における、(B)ポリオール全量に占める前記(B1)ポリカーボネートジオールの割合、(B)ポリオール、(E)アニオン性親水基/活性水素含有化合物及び(C)多価アルコールの合計量に対する(C)多価アルコールの割合、(D)鎖伸長剤の含有量、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基含有量、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物におけるアニオン性親水基含有量、NCO/OH比を表1~表3に示す。
【0128】
(比較合成例6~7)
表3に示す種類及び量の有機ポリイソシアネート、ポリオール、多価アルコール、アニオン性親水基/活性水素含有化合物及び中和アミンを用い、(D)鎖伸長剤を用いなかった以外は合成例2と同様にして自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の水分散物(自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物35.0質量%)を得た。得られた自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の水分散物における、(B)ポリオール全量に占める前記(B1)ポリカーボネートジオールの割合、(B)ポリオール、(E)アニオン性親水基/活性水素含有化合物及び(C)多価アルコールの合計量に対する(C)多価アルコールの割合、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基含有量、前記自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物におけるアニオン性親水基含有量、NCO/OH比を表3に示す。
【0129】
(実施例1)
合成例1で得られた強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の水分散物286質量部(強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物35.0質量%)、艶消し剤として乾式法で製造されたシリカ粒子(エボニックデグサ社製「ACEMATTTS100」、平均粒子径:10μm)7質量部及びウレタンビーズ(根上工業株式会社製「アートパールP-800T」、平均粒子径:6μm、Tg=-34℃)30質量部、平滑剤(信越化学工業株式会社製「KM-862T」、不揮発分60質量%)40質量部、会合型増粘剤(サンノプコ株式会社製「SNシックナー612」、不揮発分40質量%)12質量部、イオン交換水343質量部、並びに水分散性カルボジイミド系架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV-02」、不揮発分40質量%)12質量部を、ディスパーを用いて均一に混合し、水性表面処理剤を調製した。
【0130】
(実施例2~26及び比較例1~5)
合成例1で得られた強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の水分散物の代わりに合成例2~26及び比較合成例1~5で得られた自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物の水分散物286質量部(自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物35.0質量%)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして水性表面処理剤を調製した。
【0131】
(比較例6~7)
合成例1で得られた強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物の水分散物の代わりに比較合成例6~7で得られた自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の水分散物286質量部(自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物35.0質量%)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして水性表面処理剤を調製した。
【0132】
<PVC製皮革用基材の作製>
図2に示したPVC製皮革に用いる基材として、基布(21)上に中間層(発泡層)(22)とPVCを含む表皮層(非発泡層)(23)とが順次積層されたPVC製皮革用基材(24)を作製した。
【0133】
先ず、軟質ポリ塩化ビニル(平均重合度1300のストレートレジン、新第一塩ビ株式会社製の商品名「ZEST1300Z」)100質量部に対して、第一の可塑剤(ジイソデシルフタレート:DIDP)65質量部と、第二の可塑剤(エポキシ化大豆油:花王株式会社製の商品名「カボックスS-6」)5質量部と、発泡剤(アゾジカルボンアミド)5質量部と、充填剤(炭酸カルシウム)10質量部と、難燃剤(三酸化アンチモン)7質量部と、顔料6質量部とからなる添加剤を配合した中間層(発泡層)形成用材料(添加剤の総量:93質量部)を準備した。この中間層形成用材料を可塑化し、カレンダー成形により、厚み300μmの中間層(発泡層)形成用のPVCシート(I)を得た。
【0134】
また、別途、ポリ塩化ビニル(平均重合度1300のストレートレジン、新第一塩ビ株式会社製の商品名「ZEST1300Z」)100質量部に対して、第一の可塑剤(ジイソデシルフタレート:DIDP)75質量部と、第二の可塑剤(エポキシ化大豆油:花王株式会社製の商品名「カボックスS-6」)5質量部と、難燃剤(三酸化アンチモン)10質量部と、顔料6質量部とからなる添加剤を配合した表皮層(非発泡層)形成用材料(添加剤の総量:96質量部)を準備した。この表皮層形成用材料を可塑化し、カレンダー成形により、厚み100μmのPVCを含む表皮層(非発泡層)形成用のPVCシート(II)を得た。
【0135】
次に、基布(21)としてポリエステル100%の83T捲縮糸で編成したパイル編布を準備し、この基布(21)の一方の表面上に二液型ポリウレタン接着剤を塗布して接着層(図示なし)を形成した。次いで、前記接着層上に、前記PVCシート(I)と前記PVCシート(II)とを順次配置し、基布(21)の表面上に接着層を介してPVCシート(I)とPVCシート(II)を重ね合わせた積層体を得た。得られた積層体を100℃に加熱してPVCシート(I)を発泡させて発泡PVCシートを形成させた後、絞ロールとゴムロールとで加圧することにより、絞付けを行うとともに、発泡PVCシートと非発泡のPVCシート(II)とを圧着させ、かつ、発泡PVCシートと基布(21)とを接着させて、基布(21)上に中間層(発泡層)(22)とPVCを含む表皮層(非発泡層)(23)とが順次積層されており、表面に凹凸模様を有するPVC製皮革用基材(24)を得た。
【0136】
<PVC製皮革の作製>
得られたPVC製皮革用基材(24)の表皮層(23)上に、100メッシュのグラビアコーターを用いて、実施例又は比較例で得られた水性表面処理剤を、乾燥後の塗布量が2~5g/mになるように塗工し、125℃で3分間熱風乾燥させて、前記PVC製皮革用基材(24)の表皮層(23)表面に表面処理層(25)を備えるPVC製皮革を作製した。このPVC製皮革の耐摩耗性、耐揉み性、耐可塑剤移行性及び耐アルコール性を以下のようにして評価した。
【0137】
<耐摩耗性>
JASO M403/88/シート表皮用布材料の平面摩耗試験機(B法)を参考に測定した。具体的には、得られたPVC製皮革を長さ約300mm×幅70mmにカットして試験片を作製し、この試験片の裏面の基布に、厚み10mmのウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーション製「UEI-3」)を両面テープで貼り付け、平面摩耗試験機(株式会社大栄科学精器製作所製の商品名「PA-2A」)の平面摩耗台にしわの無いように固定した。固定の際にウレタンフォーム下面中央に直径4.5mmのワイヤーを設置した。JIS L3102(綿帆布)の6号綿帆布を取り付けた摩擦子をセットし、摩擦子を含めて押圧荷重を19.6N、ストロークを140mm、速度を約60往復/分として、試験片に設置したワイヤー上をワイヤーと平行に8,000回往復して摩耗試験を行った。摩耗試験後の表面処理層の外観変化を確認し、下記評価基準で耐摩耗性を評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0138】
(評価基準)
5級:変化が認められない。
4級:表皮層に僅かに破れ等が認められる。
3級:表皮層の一部に破れ等が認められるが、裏面の基布の露出はない。
2級:試験回数終了時点で表皮層に破れ等が見られ、裏面の基布が露出する。
1級:試験回数未満で表皮層に破れ等が発生し、裏面の基布が露出する。
【0139】
<耐揉み性>
得られたPVC製皮革を長さ約120mm×幅30mmにカットして試験片を作製し、同一方向の2枚の試験片について、その表面側を内側にして重ね合わせたものをスコット型耐揉試験機(株式会社大栄科学精器製作所製)のつかみ具に、間隔を30mmとして取り付けた。つかみ具の間隔を狭めて試験片同士の表面にかかる荷重を9.8Nに調整し、ストロークを50mm、速度を120回/分として、1,000回の揉み操作を行った。揉み操作後の試験片表面の外観変化を確認し、下記評価基準で耐揉み性を評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0140】
(評価基準)
5級:変化が認められない。
4級:揉み部分に僅かに白化が見られる。
3級:揉み部分の一部に白化が認められるが、割れ等は認められない。
2級:揉み部分全体に白化が認められるが、割れ等は認められない。
1級:揉み部分全体に白化が認められ、塗膜に割れ等が認められる。
【0141】
<耐可塑剤移行性>
得られたPVC製皮革を長さ約100mm×幅約100mmにカットして試験片を作製し、この試験片を110℃に設定した乾燥機(エスペック株式会社製「SPHH-201」)内で100時間静置した。静置前後の光沢度(60°グロス値)の変化を確認し、下記評価基準で耐可塑剤移行性を評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0142】
(評価基準)
5級:変化が認められない。
4級:グロス値の変化が0.1~0.2。
3級:グロス値の変化が0.3~0.5。
2級:グロス値の変化が0.6~1.0。
1級:グロス値の変化が1.0より大きい。
【0143】
<耐アルコール性>
JISL0803に準拠して耐アルコール性評価を行った。具体的には、得られたPVC製皮革を長さ約150mm×幅100mmにカットして試験片を作製し、この試験片をクロックメーター(GESTERINTERNATIONAL社製「GT-D05」)にセットし、日本薬局方エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、96%エタノール)を十分に浸み込ませた綿金巾3号を用いて、荷重を1kgとして試験片表面について10往復のふき取り操作を行った。ふき取り操作後の試験片表面の外観変化を確認し、下記評価基準で耐アルコール性を評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0144】
(評価基準)
3級:変化が認められない。
2級:ふき取り部分に僅かに艶変化が認められるが、白化や破れ等は認められない。
1級:ふき取り部分の白化や破れ等が認められる。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
表1~表3に示したように、(B)ポリオールとして、(B1)炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールのみで構成されたポリカーボネートジオールを含むものを用い、かつ、(C)少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを用いて合成した強制乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物又は自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長物を含有する水性表面処理剤を用いて、PVCを含む表面を有する皮革用基材の前記表面を処理した場合(実施例1~26)には、耐摩耗性、耐揉み性、耐可塑剤移行性、及び耐アルコール性に優れたPVC製皮革が得られることがわかった。
【0149】
一方、前記(B1)ポリカーボネートジオールの代わりに他のポリカーボネートジオールを用いた場合(比較例1~3)には、前記(C)少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを用いても、(B)ポリオールとして前記(B1)ポリカーボネートジオールのみを用いた場合(実施例2~5)に比べて耐摩耗性、及び耐アルコール性が劣ることがわかった。
【0150】
また、前記(B1)ポリカーボネートジオールの代わりにポリエーテルポリオールを用いた場合(比較例4)には、前記(C)少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを用いても、(B)ポリオールとして前記(B1)ポリカーボネートジオールのみを用いた場合(実施例2~5)に比べて、耐摩耗性、耐揉み性、耐可塑剤移行性、及び耐アルコール性が劣ることがわかった。
【0151】
さらに、前記(C)少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを用いなかった場合(比較例5)には、(B)ポリオールとして前記(B1)ポリカーボネートジオールのみを用いても、前記(C)少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを用いた場合(実施例2)に比べて、耐摩耗性、耐可塑剤移行性、及び耐アルコール性が劣ることがわかった。
【0152】
また、自己乳化型イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を鎖伸長しなかった場合(比較例6~7)には、鎖伸長した場合(実施例5)に比べて、耐摩耗性、耐可塑剤移行性、及び耐アルコール性が劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0153】
以上説明したように、本発明によれば、耐摩耗性、耐揉み性、耐可塑剤移行性、耐アルコール性のすべてに優れたPVC製皮革用表面処理剤を得ることが可能となる。したがって、本発明のPVC製皮革用表面処理剤及びそれを用いて表面処理したPVC製皮革は、車両、家具、衣料、鞄、靴、袋物、雑貨等の各種産業分野において好適に利用することができ、さらには、表面処理層を設けて安定且つ高品位のPVC製皮革製品としても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0154】
11:基布、12:PVCを含む表皮層、13:PVC製皮革用基材、14:表面処理層、21:基布、22:中間層、23:PVCを含む表皮層、24:PVC製皮革用基材、25:表面処理層
図1
図2