(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007280
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】巨大コンテナ船用の動揺軽減水槽装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B63B 39/03 20060101AFI20250109BHJP
B63B 39/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B63B39/03 Z
B63B39/02
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108567
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】591238110
【氏名又は名称】株式会社スタビロ
(74)【代理人】
【識別番号】590002828
【氏名又は名称】松村 紀孝
(72)【発明者】
【氏名】松村 紀孝
(57)【要約】 (修正有)
【課題】巨大コンテナ船用の横揺れ軽減に係わる、動揺軽減水槽装置及びパラメトリック横揺れ対応の制御方法に関する。
【解決手段】U字管型をベースにしたスタビロ製DW式A.R.Tに、新構想のセンタータンクと、左右の液体通路で連結した、その横断面形状が山字形になるA.R.T本体であって、船の平均横揺周期値を下に、機器室下方の縦隔壁5を境に左右の仮想タンク機能を創り、その仮想タンクと、A.R.T本体の機能とを、自動制御するプログラムと、パラメトリック横揺れ現象に至るか否かを予見するプログラムとを具備して、排水量200,000噸級という巨大コンテナ船でも、使用液体重量を約1,000噸以内に収め、更に有効な減揺率を得るという、A.R.T装備の提供が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の両舷に同一寸法のDW式ウイングタンク(2p,2s)を有するU字管型の動揺軽減水槽装置にあって、船体中心付近に設けるセンタータンク(3)と、減揺水槽内の液体(w)を左右方向に移動させる左右各1組の液体通路(6p,6s)から、その横断面形状が山字形となるように構成したA.R.T本体(1)にあって、センタータンク内の機器室(4)と、その機器室の下方に開口を有した縦隔壁(5)と、その開閉閉鎖装置(5c)と、液体の制動(7v)や移動速さの調整を司る該機器(8d)と、船の動揺角等を検知する傾斜センサーと、そのセンサーから出力された情報を解読させる演算回路と、情報処理回路と、制御実行回路とを含むコントロール部と、コントロール部で解読された結果を基に、予め設定する該機材を駆動させる制御仕様を実行する装置部とを具備し、検知した平均横揺周期値が短い(速い)場合は、センタータンク(3)と、仮想タンク(1p,1s)の機能を創設し、または、長い(遅い)周期の場合は、センタータンクと、仮想タンクの機能を消滅させ得ることを特徴とする巨大コンテナ船用の動揺軽減水槽装置。
【請求項2】
仮想タンク(1p,1s)を創り出すために不可欠なセンタータンク(3)内に、独立した機器室(4)
と、その機器室下方の船体左右方向の中心位置に液体通路の底板から頂板間の縦隔壁(5)と、必要とする面積の開口(5o)と、その開口の閉鎖装置(5c)とを、具備することを特徴とする
請求項1に記載の船舶の動揺軽減水槽装置。
【請求項3】
センタータンクの外板(3p,3s)と、DW式ウィングタンクの内側外板(2b)とを連結する左右1組の液体通路(6p,6s)と、その通路内を船首尾方向の任意箇所に肋板などで仕切った少なくとも3組の通路(6)と、その該通路の縦断面積を可変することで、複数のタンク固有周期(Tts)が得られる遠隔駆動式の下部ダンパ(8d1,8d2)であって、時計回りに0~90度を開閉させる途中に少なくとも一箇所以上の停止が可能であり、その位置信号をコントロール部へ送信するセンサーと、下部ダンパの停止位置に於いて翼の先端付近に発生する液体の乱流を防ぐ、下部ダンパ軸を中心に一対の整流板とを、具備することを特徴とする、請求項1記載の船舶の動揺軽減水槽装置。
【請求項4】
請求項1~3に記載のA.R.T本体(1)において、船の横揺れと、縦揺れの瞬時情報を時系列に検知し、その情報から一揺れの周期と角度、移動平均横揺周期と平均角度、さらに一揺れ先の周期と角度等を予測した演算結果に基づき、遭遇する各平均値に対応させる手段としての縦隔壁(5)の開口閉鎖装置(5c)と、下部ダンパ(8d1,8d2)と、空気ダクト付バルブ(7v)の駆動制御仕様を実行させる制御方法であって、縦隔壁の開口閉鎖装置と、下部ダンパNO.1(8d1)を閉じ、空気ダクト(7a,7b)のバルブ(7v)を開くと、センタータンクと仮想タンクの機能が発揮され、この状態で下部ダンパNO.2(8d2)を開閉すると、船の横揺周期範囲の18.5~26秒に対応する制御グループ(CASE1~CASE4)が構成され、船が遭遇する該移動平均周期(ATs)値に最適な制御グループが自動的に選択される。 また、この状態に於いて、開口閉鎖装置(5c)と、下部ダンパ(8d1)を開くと、センタータンクと仮想タンクの機能が解除され、その上で、空気ダクト(7b)を閉じた状態で、下部ダンパ(8d1,8d2)を、それぞれ開閉すると、船の横揺周期範囲の25.5~34秒に対応する制御グループ(CASE5~CASE9)が構成され、船が遭遇する該移動平均周期値に最適な制御グループが自動的に選択される。 また、周期設定外の34.5秒を超える船の横揺周期を検知した時は、強制的に空気ダクト(7a,7b)を閉じて液体移動を停止(A.R.Tを非作動)にする、 ことを特徴とした、請求項1記載の船舶の動揺軽減水槽装置の制御方法。
【請求項5】
請求項4の[船舶の動揺軽減水槽装置の制御方法]にあって、
該船舶航海中の船速、風向・風速と、縦揺と、横揺角度と、その周期等の情報から、一揺れ先の予測周期と角度等を解析するプログラムに、パラメトリック横揺れに至るか否かを予見させるプログラムを追加し、パラメトリック横揺れに至るであろうと判断した時は、パラメトリック横揺れを回避させるための警報ブザー、警報の表示、或いは音声等で操船者に知らせ、また、パラメトリック横揺れに至った場合は、A.R.Tの動揺軽減と言う機能を発揮させる該機器の駆動を瞬時に実行するとを特徴とした、請求項1記載の船舶の動揺軽減水槽装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、進化する巨大化の船舶、特に巨大コンテナ船用の横揺れ軽減に係わる、動揺軽減水槽装置及びパラメトリック横揺れ対応の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国は、船舶安全法・船舶復元性規則に則り、荒天時の船の横揺れ角度を20度以下に軽減する動揺軽減装置の普及に力をいれ、特に発火性の高い燃料を搭載した“燃えやすい車と、多数の乗客”を混載するカーフェリーを特定し、“FinStabilizer”又は“Anti-rolling Tank(以下A.R.Tという)”の二種類を船舶の有効な動揺軽減装置と指定し、1973年に法定装備品とし設置義務を課している。
【0003】
A.R.Tには、能動式と受動式の2種類があり、その受動式には、横断面形状が長方形の“Flume式”と、U字管型の“Frahm式”(以下単に、U字管型または、A.R.Tとも言う)とが有り、本願にあっては“Frahm式”を採用する。 この技術は、液体が高所から低所へ流れる自然現象を利用し、その液体が船の揺れに対し、“ワンテンポ遅れる”考案がFrahm氏によって1910年に成されている。 この装置は、船体の両舷に左右対称の縦管(ウイングタンク)と、これら縦管の底部を連結して、タンク内の液体wを左右方向へ移動させる液体通路(下部ダクトともいう)からなる。
液体の移動速さ(水槽、またはタンクの固有周期ともいう)は、ウイングタンクと液体通路の縦断面積の比率から算出でき、船の横揺周期STsとほぼ等しくなるようにタンク固有周期Ttsを設計することによって、船の横揺れを誘起する波と、船の横揺れと、タンク内の液体との間に、各々90度の位相遅れが生じ高い減揺効果が得られる事が知られている。(
図2参照)
国内では、1930年に、Frahm式を含む「減揺水槽の設計について」と題した発表が造船協議会報46号でなされ、1963年に産官学の共同で実用化されたMN式が知られている。
【0004】
しかしながら、このU字管型のウイングタンクは、MN式を含め単水槽(Single式)で、タンク固有周期は変えられず、載荷重量が大きく変化する商船には不向きであるため、本願発明者は、単水槽内を船首尾方向の縦隔壁で仕切り、異なるタンク固有周期を有する「Double Wing(DW式)」、更に3個のウイングタンクを備える「Triple Wing(TW式)」を用い、船の種類、大きさ、使途に対応し得る最適な形状と、その制御方法を実用化している。 尚、DW式A.R.Tは、「(株)スタビロ製D・W減揺タンク」として、旧運輸省が認可した装置で下記非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3537785号(船舶の動揺軽減水槽装置及びその制御方法)
【特許文献2】特許3377782号(船舶の動揺軽減水槽装置及びその制御方法)
【特許文献3】特許30428865号(船舶の動揺軽減水槽装置の制御方法)
【特許文献4】実等2144338号(船舶の揺水槽装置)
【特許文献5】特許4262127号(パラメトリック横揺れ防止装置)
【特許文献6】特許4721169号(パラメトリック横揺れ防止用可変周期型減揺水槽装置)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】海検第115号の2 通達(1987年11月18日付け 海上技術安全局主席船舶検査官)
【非特許文献2】TopTier N2M Paramatric Roll Following Seas V1.1Notice to Mariners 追い波でのパラメトリック横揺れに注意
【非特許文献3】パラメトリック横揺れ防止装置としてのアンチローリングタンクの性能推定(第2報) 日本船舶海洋工学会論文集 第8号 2008年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、船幅が40~60m、GM2.0m以上で、排水量的に、150,000~300,000噸級という、これまでに類の無い巨大コンテナ船用のA.R.Tと、パラメトリック横揺れ防止に係わる。
【0008】
(1) 2000年頃から、国際航路のコンテナ船が大型になるに従って、そのコンテナの積載数が激増し、航行中にコンテナが多数流出したり、損傷するという事故が多発し、その原因の一つがパラメトリック横揺れと呼ばれる大きな横揺角の発生であると推測され、その対応の一つとして、2004年に出願された「パラメトリック横揺れ防止用の減揺水槽装置」等の特許文献6と7がある。
(2) 2020年~2021年の冬季、コンテナ損失を伴う大事故が多発し、これを受けて、同種事故の再発防止対策を探るため、業界による共同プロジェクト(The TopTier project)が展開され、追い波でのパラメトリック横揺れが特に危険であることが明らかとなり、追い波でのパラメトリック横揺れ防止に際し、コンテナ船の乗組員並びに運航に関わるスタッフがどのように計画、認識し、行動に移したらよいか等のアドバイスが実施されているという非特許文献2が有る。
【0009】
2021年に入り、巨大コンテナ船向けのA.R.T装備の依頼が多くなり、提示された一条件は、
(1) 船長335.0m、船幅50.0m、深さ30.0m、排水量200,000噸、満載~入港状態の復原性能は、GoM値4.0~2.0m、横揺周期は20~30秒、目標減揺効率50%である。
(a) A.R.Tの計画は、注文仕様に提示される復原性諸数値と、タンクの据付け上下位置を基に、まず要求される減揺効率を満足し得るA.R.T寸法を提供しなければならない。
(b) そこで、依頼主が提示した、船幅50m、GoM値4.0m、横揺周期値20秒等を従来技術計算に当て嵌めると、液体の平均流速は約5.0m/秒。また、同じくGoM値2.0m、横揺周期値30秒の時では、液体の平均流速は約3.33m/秒程度になる。
(c) 机上計算で想定される横揺周期は20~30秒である。 これに、向い波(向波ともいう)と、追い波(向波ともいう)を考慮すると、減揺有効周期範囲は、18.5~34秒が必要になる。
(d) 注文要求の減揺効率50%を得るには、本願の段落0023の(1)復原性諸元に記載した復原性係数は800,000t-mという、これらの大きい値を考慮すると、必要とするタンク長さは約15m、液体通路高さ:約2.5m、使用液体重量:約2,200噸、排水量に対し約1.1%になる。 因みに、非特許文献3 パラメトリック横揺れ防止装置としてのアンチローリングタンクの性能推定(第2報)での排水量は105,000噸、復原性係数は111,300t-mである。(表1参照)
(2) この使用液体重量2,200噸の搭載は、積載貨物量の減少に繋がり、A.R.T装備に伴う費用対効果の観点から実用にはほど遠く、新開発を切望されているのが現状である。
【0010】
パラメトリック横揺れ防止用の減揺水槽装置に係わる先行技術の概要及び本願との比較。
(1) 先行技術調査等の結果
(a) 調査種類: J-Platpatを使用した特許調査
(b) F1/IPC: B63B39/03
(c) 調査範囲: 「全文の範囲」においての検索式
(d) 検索項目: F1(B63B39/03):268件と、IPC(B63B39/03):381件。
(e) 検索項目: F1/IPC+キーワード
(e1) :「巨大船+巨大コンテナ船+山字形」は、F1、IPCとも0件。
(e2) :「減揺水槽(74件/91件)、 ART(21件/22件)。
(e3) :「アンチローリングタンク(15件/17件)、「U字管型(41件/44件)」
(e4) :「パラメトリック横揺れ+減揺水槽装置」は、FI:2件/IPC:2件。 であった。
(2) 先行技術調査の内容について、
(a) 巨大コンテナ船に関する動揺軽減水槽装置について先行技術の確認を行ったが、本願発明の特徴である「横断面形状が山字形」の開示は見当たらず、新規性はあると考えられる。
(b) パラメトリック横揺れ+減揺水槽装置は、「特許文献5と、特許文献6」が有り、この2件は供に同一発明者で“U字管型(Single式)”を採用しており、本願発明との対比を次に示す。
(3) 特許文献5のパラメトリック横揺れ防止装置では、その解決手段の一つとして「要約・解決手段」の段落に、「船体1に設置したタンク5内の液体(海水)を出し入れすることによって、船体1の重心の位置を移動させて、船体1の横揺れ周期を変化させることにより、横揺れ周期と縦揺れ周期の比が予め設定したあるパラメトリック横揺れ発生条件から外れるようにする」旨を記載されているが、そもそも、排水量の約0.6%程度の液体重量の注排で横揺れ周期値を可変させるという技術的に不可能で、また、液体を排水すると減揺効果は皆無になる手段は本願発明には無い。
(4) 特許文献6では、
(a) その段落0014に、「前記減揺水槽内に搭載する液体の重量が、前記船舶の排水量の0.8%~0.2%であることを特徴とする・・・」と明記をしているが、「使用液体重量」と、「排水量」の具体的な数値の開示も示唆も無い。
(b) その段落0015に、「左右一対のウイングタンクと前記左右一対のウイングタンクの下部を連通する連結水路とを備える減揺水槽と、前記連結水路に設けられ、その開閉によって前記減揺水槽内の液体の揺動周期を調整するためのダンパと、前記左右一対のウイングタンクの上部を連通する空気ダクトと、前記空気ダクトに設けられ、その開閉によって前記減揺水槽内の液体の作動または停止の切り替えを行うためのバルブとを備える」と、U字管型の構成を特定しているが、U字管型にあっては、「一対のウイングタンク」、「連通する連結水路」、「液体通路内の液体の揺動周期を調整するためのダンパ」、「上部を連通する空気ダクト、そのバルブ」などは、必要不可欠な公知の技術であり、どのような仕様、その制御方法に係わる具体的な開示も示唆も無い。
(c) その段落0016には、「前記空気ダクトが、・・・かくして、前記空気ダクトが前記減揺水槽の船尾側または船首側に設けられていることを特徴とする」 と記載されているが、本願発明では、この技術の使用は無く、上部に設置できない時は特許文献4の対応で可能である。
(d) その段落0020には、「パラメトリック横揺れを防止するためのモーメント量は、現在まで解明されておらず未知であったため、パラメトリック横揺れ防止用の可変周期型減揺水槽装置の設計手法は現在まで確立されていない・・・」と、明記されているが、必要とする減揺モーメントを有さないA.R.Tでは、「パラメトリック横揺れを防止する」ことは不可能である。
(e) 尚、必要とするA.R.Tの減揺モーメントは、該船舶の「排水量」、「KG、「GoM」、「船の横揺周期」、「目標とする減揺効率」などから容易に把握する事は可能である。
(f) 上記の対比から分かるように、先行文献(特許文献5と特許文献6)と、本願発明とは、そのA.R.Tの形状、付帯機器の構成や仕様、制御手段が大きく異なっている事が分かる。
(5) 因みに、「非特許文献3」は、2008年頃の巨大コンテナ船のパラメトリック横揺れ防止としたA.R.Tに係わる実験結果の論文で、以下の記載があり、貴重な資料である。
(a) 本願の実施例と、先行文献の主要項目の比較は次の表1に示す。
(b) 下記表1の特許文献5,6と非特許文献のタンク形式は、U字管型(Single Wing Type)である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
A.R.Tの過大な使用液体重量と、パラメトリック横揺れに係わる課題を解決する本願発明について、「A.R.T」と、「パラメトリック横揺れ」の項を分けて解り安く説明する。
(1) A.R.Tの技術詳細説明は段落0012~0035に示す。
(2) パラメトリック横揺れに係わる説明は、段落0036~0039に示す。
【0012】
本願発明が解決しようとする段落0007の巨大コンテナ船用のA.R.Tに係わる基本的な技術は、特許文献1~4(本願発明者による技術)の実績、並びに、その改良である。また、パラメトリック横揺れ対応には、A.R.T機能を実行するプログラムに、パラメトリック横揺れに至るか否かを予見する演算プログラムを追加し、更に、パラメトリック横揺れを防ぐ制御可能な技術を提供する。
(1) 特許文献1は、大型船向けの商船用で、船長:158.0m、船幅30.2m、GM値2.0m、排水量16,000噸、タンク長さ3.6~4.8m、横揺周期:11秒~26秒、液体通路高さ1.5m、そして、A.R.Tタンクの使用液体重量も約200~260噸という諸数値で好評を博している。
(a) その段落0003の船の固有周期計算~段落0044の制御グループまでに、A.R.Tの設計に必要な総合的な技術が記載されており、その改良が本願発明の技術となる。
因みに、本願発明の段落0013~0035に多くを流用している。
(b) 特許文献2は、風向・風速、船速・周期等の外部情報を基に追波状態に至るか否かの技術を記載している。 この技術を改良して、パラメトリック横揺れに係わるプログラムを構築する。
(c) 特許文献3は、移動平均周期計算や複数の制御グループ等の技術を記載している。
この技術を改良して、パラメトリック横揺れにも対応する本願発明の段落0035の表2に記載した成
果を得ることができる。
(d) 特許文献4は、空気連通管の上部設置が不可能な場合の手段を記載している。
(2) 前述のように上記先行文献(特許文献1~4)は、本願発明者による公知の技術で有り、技術内容は熟知しているが、本願発明に於いてその図面等は省略した。
【0013】
(1) これまでに船幅約30.0mに対応したA.R.Tを搭載した実績のある大型船とは比較にならない、船幅が40~60m故に生じる大きな復原性係数、具体的にはGoM値4.0mで20秒という船の横揺周期に対応させ得る、A.R.Tの移動液体の平均流速値等から逆計算すると、使用液体重量は2~3千噸にも及ぶ。
(2) そこで、U字管型のA.R.Tは、タンク全幅が狭い程、液体通路の縦断面積を小さくできる事に着目し、使用液体重量を可能な限り少なくする設計手段として、DW式A.R.Tの設計技術と、その思想を反映させたA.R.Tにあって、その横断面形状が山の字形(以下山字形と言う)になる
図1の形状を発明した。
(3) 山字形のA.R.Tにあって、移動液体の平均流速値を遅くする手段は、該タンク幅を狭くするセンタータンク3と、センタータンク内の独立した機器室4と、機器室下方の船体中心位置に設ける縦隔壁5と、左右各1組の液体通路6p,6sと、DW式ウイングタンク2p,2sとからなる。
(a) 縦隔壁5を境とした、左右二つの仮想タンク1p,1s、は、次の(b),(c)となる。
(b) 仮想タンク1pは、左舷ウイングタンク2pと、液体通路6pと、機器室下方の縦隔壁を境とした、左舷側のタンクを言う。
(c) 仮想タンク1sは、機器室下方の縦隔壁を境としたセンタータンクの右舷と、液体通路6sと、右舷ウイングタンク2sを含んだ右舷側のタンクを言う。
(4) 山字形の構成と機能を発揮させ得る、前項(a)と、(b)を連結した状態を、
図3に示す。
【0014】
本願発明の請求項1は、A.R.Tの全幅と、その全幅の約1/2幅の仮想タンク1p,1sを左右各一組を構成させ得るセンタータンクから、その横断面形状が山字形となるA.R.T本体に係わり、荒天時の横揺れ、並びにパラメトリック横揺れにも減揺効果を発揮させ、且つ、パラメトリック横揺れに至るで有ろう予測とその回避を可能とすることを特徴とする巨大コンテナ船用の動揺軽減水槽装置。
【0015】
請求項2の発明は、仮想タンク1p,1sを創り出すために不可欠なセンタータンク3と、そのセンタータンク内に設ける機器室4に係わるもので、これらを具備することを特徴とする請求項1に記載の巨大コンテナ船用の動揺軽減水槽装置。
【0016】
請求項3の発明は、A.R.Tの液体通路6p,6sに係わるもので、複数の異なるタンク固有周期を得るハード的な一つの手段を、 具備することを特徴とする請求項1に記載の巨大コンテナ船用の動揺軽減水槽装置。
【0017】
請求項4の発明は、
(1) 異なる複数のタンク固有周期を含む制御グループ(CASE1~9)を構築する手段と、
(2) 予め設定する制御用の平均横揺周期値(単に横揺周期ともいう)を、閾値(25.5秒)として、その敷値未満の値を検知した時、減揺有効周期範囲の18.5~26秒に対応させる、センターンク3と、仮想タンクの機能を創り出し、
(3) 横揺周期が閾値を超えた時、減揺有効周期範囲の25.5~34秒に対応させる、センタ
ータンク3と、仮想タンクの機能を解除し、
(4) 予め設定する34.5秒以上を検知した時にA.R.Tを非作動とする。
(5) 前項(1)~(4)に不可欠な機材の駆動制御を特徴とする請求項1に記載の巨大コンテナ船用の動揺軽減水槽装置の制御方法である。
【0018】
請求項5の発明は、パラメトリック横揺れ対応に係わるもので、A.R.T機能を実行する「請求項4」のプログラムに、パラメトリック横揺れに至るか否かを予見する演算プログラムを加え、遭遇する船の横揺れ状況に瞬時に対応する ことを特徴とする請求項1に記載の巨大コンテナ船用の動揺軽減水槽装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0019】
以上の本願発明は、商船用として実用化が困難で、これまでにA.R.T搭載実績が無い巨大船舶にも、大型船で培った技術を反映させ、山字型のA.R.Tを以て、巨大コンテナ船の国際航路で多発するという荒天時の横揺軽減や、パラメトリック横揺れ現象に至るか否かの予見と、その事前回避と、パラメトリック横揺状態に成った場合の減揺対応を瞬時に実行させ得る事が可能で、特に、使用する機材は、従来の大型船用と同等の仕様で良く、巨大コンテナ船用の動揺軽減水槽装置として効果の大きい発明である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】発明に係わる山字形減揺水槽本体1の斜視図である。尚、船の船尾(後方)から見て図の左側が左舷、右側を右舷と称する。
【
図2】波(Mt)と、船(FMt)と、タンク(TMt)の減揺モーメントとの位相遅れを示す表である。
【
図3】縦隔壁5の開口5oを開閉するゲート5cを閉じ、空気ダクト7a,7b付のバルブ7vを開放して、ウイングタンク2p,2sと、仮想タンク1p,1sの機能を創り出す一例を示す横断面図である。
【
図4】
図3に於いて、船が1/2回転した時の液体移動状態を示す一例の横断面図である。
【
図5】
図3に於いて、ゲート5cを開き、センタータンクの機能と、左右の液体通路6p,6sと、仮想タンク1p,1sの機能を解除し、空気ダクト7b付バルブ7vを閉じ7vcて、外側のウイングタンク2otを、使用する一例の横断面図である。
【
図6】
図5に於いて、船が1/2回転した時の液体移動状態を示す一例の横断面図である。
【
図7】液体通路上のセンタータンクと機器室形状と該機材配置を示す一例の斜視図である。
【
図8】
図7に於いて、センタータンク付近の液体通路頂板の一例を示す平面図である。
【
図9】
図7に於いて、センタータンクの中心線位置の縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本願発明の明細書は、海外展開を視野にPCT国際出願を目指しているため、公知技術も含め、本願発明者の思想により重複する説明箇所も有る。
(1) A.R.Tを計画する時の最も重要な事項は、船の横揺固有周期を把握することにある。
我が国の船舶復原性規則に基づく横揺固有周期の推定計算式は次の通りである。
Ts(船の横揺固有周期)=(2.01 x B x k)/√GoM (単位:秒)
B:船の幅(m)、k:環動半径(係数)、GoM:メタセンタ-高さ(m)
この式から、分母のGoM値が大きい程、横揺固有周期は短く(速く)なることが理解できる。因みに、排水量を一定とした場合、GoM値が大きくなるほど、必要とする減揺モーメントは大きくなる。
(2) 船の横揺周期STsは、規則的な波周期に遭遇した状態では、船の横揺固有周期FTsと同じであるが、不規則的な波状態に遭遇すると、波と、船との出会い角度と周期によって船の横揺周期は異なり、特に、船との出会い周期と、船の固有周期Tsとが同調した時に、大きい揺れが誘起される。尚、ここでは、波高に係わる説明は省略する。
(3) タンクの固有周期Ttsとは、タンク内の液体が一往復する所要時間をいう。尚、受動式の場合は、船が外力により誘起された後に、タンク内の液体は移動する。
(4) 船の揺れを誘起する波と、横揺れと、タンクの液体移動の位相遅れについて説明する。
(a) 船の揺れは、波の周期値と、船の横揺固有周期値とが同じ時に、ワンテンポ遅れて誘起される、このワンテンポ遅れる状態を、波と船との位相遅れと称している。
(b) 船の横揺周期値と、タンクの固有周期値とが、ほぼ同じ値に成ると、船の揺れに対し、ワンテンポ遅れて液体移動が生じる。この船と、液体移動の状態も位相遅れと称している。
(c) 高い減揺効果を得るには、横揺周期と、タンクの固有周期の一致が不可欠となる。
(d) 船の揺れは、反復運動であり、一揺れを一回転(360度)と置き換えると、水平(0度)⇒右舷傾斜(1/4回転:90度)⇒水平(1/2回転:180度)⇒左舷傾斜(3/4回転:270度)⇒水平(一回転:360度=0度)と表すことができる。 尚、位相遅れの構図を
図2に示すが、理論的には滑らかなSin曲線であるが、本図では、波と、船の横揺れと、タンク内の液体の位相遅れを強調するため、敢えて、直線にて表示し、各頂点間が一揺れであり、一周期である。
(e) A.R.Tでは、船を誘起する波⇒船の揺れが生じる⇒タンク内の液体移動という流れになり、波と、船の揺れ間には、必ず90度の位相遅れが生じ、更に、横揺周期値STsと、タンク固有周期値Ttsとが同じ状態の時には、船の揺れと、タンクの液体移動との間に90度の位相遅れが生じる。 言い換えれば、船を誘起する波の力Mtの頂点を右舷側とすると、180度の位相遅れが生じるタンクの減揺力(減揺モーメントともいう)TMtの頂点は、反対側の左舷側になる。このことは、波が船を揺らそうとする波の力Mtと、船の揺れを押さえようとする減揺力TMtとの位置が正反対の方向あり、従って、双方の力が相殺されて減揺効果が得られる。
【0022】
初めに横揺状態の基本的な説明をする。
(1)荒天時の揺れ状況について、
(a) 航海中の船の動揺は、船に対する波との出会い周期と、船の横揺固有周期とが一致した時に生じる公知の現象である。
(b) 船の横揺状況は、針路と波方向によって定まる。そこで船の進行方向の船首を(0°)とし左舷真横(90°)、船尾(180°)、右舷真横(270°)、一回りした船首(360°=0°)とする。
(c) 縦揺角最大は、船首(0°)方向の向波と、船尾(180°)からの追波状態時に生じる。
(d) 横揺角最大は、真横(90°と、270°)方向からの横波状態時に生じる。
(e) 縦揺れと、横揺れの境目は、45°,135°,225°、315°である。
(f) 縦揺れが生じる範囲は、0°~ ±45°間と、135°~225°間である。
(g) 横揺れが生じる範囲は、45°~135°間と、225°~315°間である。
(2) A.R.T制御に不可欠な横揺周期と、角度情報を解析する手段を説明する。
(a) 受動式のA.R.T制御には、一揺れ毎に異なる動揺値を用いる必要は無く、例えば、計測中の複数の蓄積データを平均すれば良く、例えば、5回のデータを次のように解析する。
5個のデータに次の新たな6個目の数値を加え、最初の一番古い値を削除した合計値を5で割るという、単純な移動平均値で充分である。
A1=(n1+n2+n3+n4+n5)/5 ⇒ A2=(n2+n3+n4+n5+n6)/5 となる。
(b) 移動平均の横揺周期(ATs)=(STs1+STs2+STs3+STs4+STs5)/5
STs:船の横揺周期
(c) 移動平均の縦揺周期(APs)=(SPs1+SPs2+SPs3+SPs4+SPs5)/5
SPs:船の縦揺周期
(d) 移動平均の横揺角度(ATθ)=(STθ1+STθ2+STθ3+STθ4+STθ5)/5
STθ:船の横揺角度
(e) 移動平均の縦揺角度(APθ)=(SPθ1+SPθ2+SPθ3+SPθ4+SPθ5)/5
SPθ:船の縦揺角度
(3) A.R.T制御に用いる横揺情報
(a) 本願発明者は、A.R.Tに係わる50年を超える実績と経緯から移動平均演算方式を採用している。
(b) 移動平均計算に用いる蓄積データ数は、これまでの実績から3~5個が最適ではあるが、これに拘る必要は無い。
(c)尚、データ数が少ないと該機器の切り替え駆動回数が多くなり、また、逆に、刻々と変わるデータ数が多くなると、瞬時予測精度が悪くなる。
【0023】
以下、本願発明のA.R.Tの実施形態について、図面を用いて説明する。
尚、
図1~
図9は形態の説明であり、図の縮尺は無視した。
また、実施例は、注文主(建造造船所、設計社、船主殿)の注文条件などにより、該船舶毎に異なる形態に合わせた実施が可能であり、以下に示す実施形態に記載された具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
(1) 船の復原性諸元
(a) 復原力とは、何らかの要因で傾いた船の姿勢を基に戻そうとする力を言い、本実施例では、復原力係数として、排水量(200,000t) x GoM(4.0m)=800,000t-m とする。
(b) 船幅とタンク全幅は 50.00mとする。
(c) 仮想タンク1p,1sは、左右対称の同寸法で、各タンク幅を25.00mとする。
(d) タンク長さは、依頼主が提示した復原性諸元に基づく計算結果から9.00mとなるが、長さを2等分し、4.50m x 2組として、その内の1組について説明する。 尚、タンクを長くすると、船体の定常縦傾斜やピッチング等の影響を受け、タンク内の液体が船首尾方向にも移動するため、減揺に必要な左右方向の液体移動を妨げない為にも、タンク長さは分割して短くすることが望ましい。
(e) A.R.T底板位置は、本船底板上~33.0m、前後方向の位置は船体中央部付近としA.R.Tの上部に居住甲板室を含むブリッジを施す。その目的は、コンテナ船では、コンテナを高く積み上げるため、見通しを良くする手段として、ブリッジ位置を高くし、また、A.R.T搭載用のスペースを新に確保する必要も無く、従って、コンテナ数の減少を考慮することも不要になる。
(f) 居住甲板室やブリッジを前後二ヶ所に設ける船舶では、A.R.Tの長さの関係から必要に応じ、二ヶ所に設けることも可能であるが、設計者の思考により、これに拘ることは無い。
(g) A.R.Tの前後方向の位置は、可能な限り、船首尾付近は避けることが望ましい。その根拠は、巨大船になるほど、A.R.Tが必要とする自重と使用液体重量が多くなり、船にとっては、トリムや船体縦強度に悪影響を与えることになる。
【実施例0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明するが、本願発明は船の種類、大きさ、復原性諸数値及びA.R.Tの設置位置等により該船舶毎に多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態に記載された具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
前述の目的を達成するための基本的なA.R.Tの全体構成は、
(1)
図1に示すように、U字管型をベースにした、船体の両舷に同一寸法のDW式ウイングタンク2pと、2sの間に、センタータンク3を設け、タンク3と、ウイングタンク2itの底部に液体wを左右へ移動させる左右各一組の液体通路6p,6sからなるタンク内を密閉とした、その横断面形状が山字形となるA.R.T本体1にあって、
(a) A.R.Tの減揺有効横揺周期範囲は、向波と、追波を考慮して18.5~34秒とし、仮想タンクを使用するか否かの制御用の横揺れ対応の閾値を25.5秒とする。
(b) 閾値未満の短い平均横揺周期ATsの時は、向波状態にも対応可能な仮想タンクの機能を発揮させる。
(c) 閾値を超える長い平均横揺周期の時は、仮想タンクの機能を解除い、追波状態にも対
応可能なA.R.T本体の機能を発揮させる。
【0025】
DW式ウィングタンク2p,2sは、その各タンク内に船首尾方向の縦隔壁2bhを1条設け、その縦隔壁でウイングタンク内を左右に分割したタンク2it,2otからなる。
(1) 縦隔壁は、タンク2p,2sを構成する内方外板2bの頂板から適当な距離を取り、その位置を基点として、ウイングタンク内の下方に傾斜を付けた板を縦隔壁2bhに接続する。
(a) その目的は、タンク2otの上部の容積を増やし大揺れ時の移動液体wがウイングタンク頂板に激突しない工夫の一つである。
(b) 縦隔壁下端位置は、液体通路6p,6sの頂板高さの内法寸法と同一高さにする。
(2) ウィングタンクの高さは、10.00mとする。
(a) A.R.T本体のタンク幅が50.00m、横揺角度を15°と仮定すると、ウイングタンク内の液体の上方移動高さは約6.7mとなり、この値にタンク本体の水位(ここでは1.80m)を加算すると8.50m。 これに加速度などの要因を考慮し、更に高くすることが望ましい。
(b) 特に、荒天時の横揺角度に対し、約1.5倍にもなるというパラメトリック横揺れ時の減揺効果を得るには、充分なウィングタンクの高さにする必要がある。
【0026】
センタータンク3と、センタータンク内の機器室の設置は、A.R.T幅が30mを超える場合に不可欠な装置の一つになるが、その横幅や高さ、そして長さ等は、注文依頼者の設計条件を満足させる動揺時の片側のDW式ウィングタンク2p,2sの該水量を受け入れる程度を確保すれば良く、その寸法は設計思想による。
(1) センタータンクの設置目的は、2組の仮想タンク1p,1sを創り出すことにある。
(2) センタータンク内の機器室は、仮想タンクの創設と、その機能の解除を目的として設ける。
(3) 機器室の高さ寸法は、タンク本体の平均水位より高くし、その上端はセンタータンク頂板
より任意の間隔をとって低くする。
(a) その目的は、動揺角度が大きく液体通路6p,6sから流れ込む液体wが、機器室の上部を超える時は、その上端からオーバーフローさせて隣の仮想タンク内へ流出させることにある。
(4) 機器室下方の船体中心位置に、液体通路の底板~頂板間に船首尾方向の縦隔壁5を1条と、その縦隔壁5に必要とする開口面積と、その開口5oを開閉する駆動遠隔式のゲート5cとを設ける。
(a) ゲート5cの目的は、開口を閉鎖状態にすると、センタータンクと、仮想タンク1p,1sの機能が発揮され、ゲートを開くと、センタータンクと、仮想タンクの機能を解除させる手段である。
(b) 尚、移動液体は、予め設定された速さ(周期)で一揺れの1/2毎に反転を繰り返すため、費用対効果の観点からゲートを水密構造にする必要は無い。
(c) 機器室の左右方向の幅寸法は、ゲート5cの幅より広くする事が望ましい。
(d) 尚、機器室内に設置する機材の挿入、保守点検修理、作業用の吊りピース及び必要な箇所に出入口を設ける。
【0027】
液体通路6p,6sは、センタータンク3の左右外板3p,3sと、ウィングタンクの内方外板2bとを連結し、左右に各1組を設ける。
(1) 液体通路6p,6sの高さは、可能な限り低くなるように計画する事が望ましい。
(a) その目的は、液体通路高さにより、タンク全体の液面高さ(水位)Whと、ウイングタンクの基本的な高さが決まる。
(b) また、液体通路の容積(縦断面積 x 液体通路の幅)が占める液量は、必要とする総使用量の約60~70%程度になるため、液体通路を低く、使用液体量を少なくすることにある。
(c) 因みに、液体通路の最小高さは、溶接や、保守点検修理時の作業を容易にする約0.70m以上とするのが望ましいが、設計思想により、この数値に拘る必要は無い。
(d) 特に注意することは、液体通路の底板と、その頂板は平行にすることが望ましい。
(2) 液体通路の船首尾方向の長さは、ウィングタンクの長さと同一にすることが望ましい。
(a) 条件によっては、算出した液体通路の高さが0.50m以下になることもある。
(b) この場合は、液体通路高さ寸法を大きく取り、必要とする液体通路の縦断面積を確保する手段として、通路の長さをウィングタンクの長さより短くすることも可能である。
(3) 液体通路内は、その船首尾方向の任意の箇所に、肋板などで仕切った少なくとも3組の通路と、必要数の下部ダンパ8d1、8d2を備え、ダンパを停止させる箇所にはダンパ廻りを通過する液体の乱流を防ぐ手段として、該ダンパ軸を中心に一対の整流板を設ける。
(4) ダンパ8dは、上下方向の軸を中心に時計回りに0~90度の開度と、その中途に少なくとも一箇所以上を停止させる油圧遠隔駆動式を採用し、停止位置確認用のセンサー等を取付け、ダンパの全閉、中途停止、全開の位置を電気信号にてコントロ-ル部へ送信する手段を施す。
(a) 駆動源を油圧式にする目的は、急変する横揺周期、特に、パラメトリック横揺れの対応は、瞬時動作を必要とする本願発明者の設計思想であり、他の駆動式にすることも可能である。
(b) 尚、ダンパに係わる技術は公知であり、本願での詳細記述は省略する。
【0028】
空気ダクト7(空気ダクト7a,7bとも言う)は、A.R.Tの液体制動(作動或いは、停止)と、タンク固有周期Ttsの可変手段であり、ウイングタンク上部付近に、遠隔駆動式の閉鎖装置7vを介し、DW式ウイングタンクの該分割された左右対象位置に直接連結する。
(1) 実施例では、油圧駆動式のバルブ7vを介した2組の空気ダクト7a,7bを設けた。
(a) タンク内は密閉であり、空気ダクト付のバルブ7vを閉じると、該左右タンク間の空気の流通が遮断され液体移動は停止する。 尚、この状態をA.R.T非作動という。
(b) 空気ダクト7a,7bの両方を開くと、DW式ウイングタンク内の2it,2otは、各舷とも一つのタンク2p,2sとなり、この状態は、見かけの液体通路幅が短く、ウイングタンク幅を広くすることになり、機能的には、長いタンク固有周期Ttsが得られると同時に、大きな減揺力が得られる。
因みに、ウイングタンクの幅が広いほど、減量力(減揺モーメント)は大きくなる。
(c) 空気ダクト7aを開き、空気ダクト7bを閉じる(図ではX7vc)と、ウイングタンク内の2分割された外側タンク2otのみ液体移動が可能となる。この状態は、液体通路が長く、ウイングタンクの幅を短くすることになり、機能的には、短いタンク固有周期Ttsが得られる。 目的は、本実施例がの遅い横揺周期範囲である25.5~34秒に対応させ、液体通路の高さを低くする特殊制御手段である。(
図5に示す)
(d) 前項(b)と、(c)のタンク固有周期の記述に矛盾を感じられると思うが、前項(b)を選択する時は、タンク幅が25.0mで液体移動距離が短く、また、前項(c)は、タンク幅が50.0mあり、液体移動距離が長いという異なる液体通路に於いて、前項(b)と、(c)の液体通路高さを同一にする先行技術には無い斬新な一つの手段である。
(2) 空気ダクト7の形状は、丸形(管)、或いは、矩形でも良く、その断面積(口径とも言う)は、液体の流速値から空気の流速値を算出し、騒音が生じない口径を適宜決定する。
(a) 一つの口径が大きくなる時は、その費用やウイングタンクの構造等を勘案して、必要とする断面積を確保できれば、小さい口径の空気ダクトを複数にすることもある。
(b) 空気ダクトは、
図1のように直管式が望ましいが、周囲の環境から困難な場合は、U字式(特許文献4)でも可能である。
(c) 尚、大気開放式の空気管を採用しても良いが、この場合、タンク内の液体が飛沫となって流出するので、必要に応じて注水することになる。
(3) 尚、センタータンク3は、液体通路の一部であり、そのセンタータンクと、左右のウイングタンクとを空気連通管で接続しても特段の効果は得られない事が判明している。
【0029】
A.R.T本体1には図示していないが、使用する液体の注排水設備、測深管(液面計)、水位調整管、空気抜き管など、タンクとして必要な艤装を施し、外部に通じる全ての管に閉鎖手段を設け、タンク内の密閉状態を可能とする。
【0030】
ここで、改めて本願発明の液体通路6p,6sの高さを低くする技術的な補足を解り安くするため、重複する箇所を含め説明する。
(1) 液体の移動距離
(a) 移動距離は、液体移動の重心間距離ではあるが、実施例では単純に該タンク全幅を一往復した移動距離とする。
(b) A.R.T本体1では、 50.0m x 2= 100.0m とする。
(c) 仮想タンク1p,1sでは、各25.0m x 2= 50.0m とする。
(2) 液体移動の所要時間
(a) 一揺れは、例えば、水平⇒左舷下方傾斜⇒復原力により元の水平に戻り、更に、加速度が加わり⇒右舷上方傾斜を経て、⇒元の水平に戻るという反復動作を繰り返す状況を言う。
(b) 受動式のA.R.Tでは、高所⇒低所へ流れる自然現象を利用しているから、液体移動が反転する過程で、例えば、最大流速から徐々に遅く成り、液体移動停止を経て、反転方向へ次第に速く、そして最大流速となる一揺れに要した時間が一周期であり、液体移動の所要時間となる。
(3) 平均流速値
(a) 本実施例で要求される最も短いタンク固有周期値は20秒である。これを基に
(b) A.R.T本体(幅50m)の平均流速値は、100/20=5.0m/秒とする。
(c) 仮想タンク(幅25m)にすると平均流速値は、50/20=2.5m/秒とする。
(4) 液体通路の高さ
(a) 前項(b)の流速値5.0m/秒に必要な液体通路高さは、約2.5mとなる。
(b) 前項(c)の流速値2.5m/秒に必要な液体通路高さは、約0.9mとなる。
(c) そこで、本実施例では、仮想タンク(液体通路高さ約0.9m)を採用する。
(5) 機能的なタンク選択基準は、長い横揺周期≧閾値(25.5秒)≧短い横揺周期として
(a) 仮想タンクは、閾値(25.5秒)≧船の平均周期の時に使用する。
(b) A.R.T本体は、船の平均周期≧閾値(25.5秒)の時に使用する。
(6) タンクの減揺有効横揺周期範囲(単に有効横揺周期範囲とも言う)
(a) 仮想タンクの減揺有効横揺周期範囲は、18.5~26秒とする。
(b) タンク本体の減揺有効横揺周期範囲は、25.5~34秒とする。
【0031】
仮想タンクを創る基本制御方法は次のとおりである。
(1) 仮想タンクの一例の形状
(a) 仮想タンク1pの形状は、左舷ウイングタンク2pと、液体通路6pと、センタータンク3内の縦隔壁5迄となり、左舷側のタンクとも言う。
(b) 仮想タンク1sの形状は、センタータンク内の縦隔壁の右舷と、液体通路6sと、右舷ウイングタンク2s迄となり、右舷側のタンクとも言う。
(c) 以下の(d)~(f)を実行すると、仮想タンクが構成され、その形状は
図3に示す。
(d) センタータンク内の機器室下方に設けた、縦隔壁の開口閉鎖装置5cを閉じる。
(e) 液体通路6s内のダンパ8d1を閉じ、ダンパ8d2を開く。
(f) 空気ダクト7a,7bのバルブ7vを開く。
(2) 仮想タンクの機能
(a) 仮想タンクの減揺有効横揺周期範囲は18.5~26.0秒間である。
(b) タンク固有周期Ttsを含む制御ブループ(CASE1~4)を構築する。
(c) 航行中に横揺周期STsが短くなる要因は、向波状態に遭遇した時であり、見かけのGoM値も大きくなる。これに対応させるにはタンクの減揺力TMtを、大きくする必要があるため、幅の広いウイングタンク2p,2sをこれに当てる。
(d) 向波時(パラメトリック横揺れ含む)に生じる短い周期にはCASE1~2で対応する。
(3) 仮想タンクの液体移動の状況
一例として船体が右舷方向に揺れる(傾斜する)時は、
(a) 仮想タンク1pでは、左舷側ウイングタンク2p内の液体wが液体通路6pを介してセンタータンク3内に流入する。
(b) 仮想タンク1sは、センタータンク内の液体が、液体通路4sを介して右舷側ウイングタンク2s内に移動する。
(c) 右舷傾斜を経て水平(1/2回転)になった時の液体の様子を
図4に示す。
(4) 尚、
図3と、
図4に於いて、ウイングタンク2itと、2otは、一つのウイングタンク2p,2sとして使用するので、DW式ウイングタンク内の縦隔壁2bhを仮想線とした。
【0032】
A.R.T本体1の基本制御方法は次のとおりである。
(1) A.R.T本体の形状
(a) センタータンク3内の機器室下方の縦隔壁5付ゲート5cを開く。
(b) 液体通路6s内のダンパ8d1と、8d2を開く。
(c) 空気ダクト7aを開き、空気ダクト7bを閉じる。
(d) 前項(a)~(c)を実行すると、A.R.T本体形状が構築される。
(e) 前項(d)の状態を
図5に示すが、分割された外側ウイングタンク2otを構成するのでDW式ウイングタンクの内側外板2bを仮想線にした。
(f) 尚、設定した横揺れ周期が、例えば、36秒になる長周期に場合は、前項(c)状態から空気ダクト7bを開き、これに対応させることも可能である。
(2) A.R.T本体の機能
(a) A.R.T本体の減揺有効横揺周期範囲は25.5~34.0秒間である。
(b) タンク固有周期を含む制御ブループ(CASE5~9)を構築する。
(c) 航行中に横揺周期STsが長くなる要因は、追波状態に遭遇した時で、見かけのGoM値が小さくなり、これに対応させる減揺力は小さくて良いから、ウイングタンク2otをこれに当てる。
(d) 追波時(パラメトリック横揺れ含む)の長い周期には、CASE8~9で対応する。
(3) A.R.T本体の液体移動の状況
(a) センタータンク機能を解除する縦隔壁5付ゲート5cを開くと、液体通路6p,6sが液体通路4になるため、左舷側ウイングタンクの液体wがそのまま右舷側ウイングタンクに移動する。
(b) 尚、右舷傾斜を経て水平(1/2回転)になった時の液体の様子を
図6に示す。
【0033】
制御装置の構成は、大きく分けて傾斜センサー等を含む情報解析と、予め設定する該機器の駆動指令を出すコントロ-ル部と、該開閉機器装置部等からなるが、これらはA.R.Tにあっては公知技術(引用特許1の段落0013~0034)であり、個々の図示と、その詳細は省略する。
(1) 実施例に於ける船の動揺情報の把握
動揺に係わるデータ(縦揺、横揺、風向・風速、船速等)は、アナログ式(垂れ流し)で収集する。 この技術は、本願発明者が詳細に記述した特許文献3がある。
(2) 本船の動揺情報の解析手段
収集した垂れ流しデータから、移動平均方式を用いて演算解読回路で、一揺れの1/2と、一揺れの角度と周期、更に、一揺れ先の予測情報を算出する。 因みに、進行中の揺れが反転するその時点を、一揺れの1/2とする。
(3) 該機器の制御
実行回路と、該機器の実行結果のフィードバック情報を基に、最適な処理を実行する回路を含むコントロール部から制御信号を出力する。
(4) DW式のA.R.Tに於けるタンク固有周期Ttsの可変と液体制動用機材
空気ダクト付閉鎖装置7vと、縦隔壁の開口閉鎖装置5cと、液体移動速さを調整する下部ダンパ8dの開閉を組合せる事で、タンク固有周期Ttsの可変と、必要時に応じ液体制動は可能であり、通常は自動制御にて実施する。
(5) 各制御グループの構築
予め定めた制御実行プログラムを実行すると、制御グループCASE1~9が構築され、この中から遭遇する船の移動平均横揺周期値ATsに最適なCASEが選択実行される。
【0034】
該制御グループは、高い減揺効率を発揮する個々のタンク固有周期値Ttsを含む約3秒間の有効周期範囲を一つのグループ(CASE)と称し、CASE1~CASE9の制御グループで構成する。
(1) 遭遇する一揺れ毎に変化する横揺周期を基に、複数の値を移動平均方式で、平均横揺周期ATsを演算し、最適な制御グループを選択する。尚、該グループと隣接するグループとの切替え時に、該機器のチャタリングが起きないように実施例では重複値0.5秒を設定するが、この重複値は船毎の条件で異なるものであり、設計者が適宜決定するものである。
(2) 各制御グループを形成するダンパ8d1,8d2と、ゲート5cと、バルブ7vの開閉組合せの状態は、該船舶毎にその制御仕様を構築するが、本実施例の手段を次の表に示す。
【0035】
【0036】
この段落から、パラメトリック横揺れに係わる記述をする。
(1) 非特許文献2には、パラメトリック横揺れの危険性とその根拠について次の記載がある。
(a) コンテナ船は、追波状態においてパラメトリック横揺れの影響を受け易い船種で有る。
(b) 船の横揺周期、船の速度、針路、そして船と波との出会角度により、突然、船と乗組員、貨物の安全を脅かすレベルにまで船の横揺れ角が急増加することがある。
(c) この現象は比較的穏やかな波高でも発生することが知られている。
(2) パラメトリック横揺れは次のような状況で発生する可能性がある。
船の動揺は、該運行時の船の横揺固有周期FTsと、波との出会い周期とが一致した時に誘起される。
(a) ピッチング周期に対し横揺周期が約2倍を含む付近であるとき。
(b) 波長が船の長さの範囲内であるとき。
(c) 荒天下の向波や、横揺周期が長くなる追波状態でも発生する可能性がある。
【0037】
パラメトリック横揺れ発生要因と予見について
(a) 本願の段落0023に、パラメトリック横揺れ発生の予見に必要な動揺情報として、船の横揺周期STsと、縦揺周期APsと、横揺角度ATθと、縦揺角度APθ等を常時把握している。
(b) 横揺角度ATθの値を時系列的に比較し、その横揺角度の増加値を監視する。
(c) 平均横揺周期ATsの値を時系列的に比較し、その横揺周期の増加値を監視する。
(d) 縦揺と、横揺周期との比率を監視し、その比率が1対2の推移状況を監視する。
(e) 航海中の船速と、推進器の回転数情報から、船速値が遅く成れば、向波、また、速く成れば、追波状態に成りつつあるかを監視する。
【0038】
パラメトリック横揺れ発生の可能性を予見した場合、その回避手段にとして
(a) 操船者に、警報ブザー、画面表示、或いは音声等で知らせる。
(b) 緊急対応処置として、推進器の回転数、可変プロペラのピッチの変更。
(c) 針路を変更して、波との出会い角度と、出合周期を変えて、パラメトリック横揺れの発生を回避する。
(d) 上記操作は公知の手段で、予め定めた操船マニュアルに則った手動操作である。
【0039】
パラメトリック横揺れに至るか否かの状況は、段落0037に記載したように常時監視をしている。
(1) パラメトリック横揺れと、荒天時の横揺れとの相違は、その振幅の大きさにある。
(a) パラメトリック横揺角は、荒天時の横揺角に対し、1.5~2倍を超える事もある。
(b) パラメトリック横揺れと、荒天時の横揺れには、各々の横揺周期値を有している。
(c) 向波状態でのパラメトリック横揺周期は短くなる。
(d) 追波状態でのパラメトリック横揺周期は長くなる。
(e) パラメトリック横揺れの発生は、向波と、追波状態に遭遇した時である。
(2) 本願によるパラメトリック横揺状態に至った場合の対応、
(a) 向波時に発生したパラメトリック横揺れの短い周期には、CASE1~2で対応する。
(b) 追波時に発生したパラメトリック横揺れの長い周期には、CASE8~9で対応する。
(c) 前項(a)、(b)の選択実行は、請求項5に記載したように瞬時に実行し得るものである。
(e) また、主機或いは操舵機メーカーとの事前調整で、自動制御も可能となる。
(f) 尚、前項(b)~(e)の操作により、横揺周期が急変しても、A.R.Tの減揺有効周期範囲は18.5~34秒に設定してあり、対応可能な制御グループ(CASE1~9)の中から、自動的に最適な制御グループを選択し、実行するので何ら問題は生じない。
本願発明は、船幅30m級のA.R.T搭載で実績がある大型船の設計思想と、その技術の改良から、船幅が50m級という巨大コンテナ船向けの動揺軽減水槽装置及びその制御方法で、荒天時の横揺と、パラメトリック横揺れの軽減、更に、パラメトリック横揺れの回避という対応が出来る産業上の利用の可能性が大きい。
シングルのウイングタンク内を船首尾方向の縦隔壁(2bh)で船の左右方向に二つに分割した内側のウイングタンク(2it)と、外側ウイングタンク(2ot)で構成するDW式ウイングタンクで、両舷のDW式ウイングタンクの下方にDW式ウイングタンク内の液体を左右に移動させる液体通路(6)と、両舷のDW式ウイングタンク間の中央付近の液体通路頂板上に設けるセンタータンク(3)とを一体化した構造物を、首尾方向に対し直角に切断した横断面形状が、左舷のDW式ウイングタンク(2p)と、液体通路(6)と、センタータンク(3)と、右舷のDW式ウイングタンク(2s)から山字形となる受動式のA.R.Tにあって、
DW式ウイングタンクの内側のウイングタンク(2it)と、外側ウイングタンク(2ot)内の空気を移動させる手段として、分割した内側と外側ウイングタンクの上方に、必要に応じ両舷のウイングタンク内の空気移動を遮断する遠隔駆動式の閉鎖装置(7v)を介した空気連通管(7a,7b)を両舷の相対する内側のウイングタンク(2it)と、外側ウイングタンク(2ot)に連結すると供に、船の船首尾方向の長さを三つに分割した液体通路内に、液体の移動速さを調整する遠隔駆動式の2組の下部ダンパ(8d1,8d2)と、液体通路の左右方向の中心位置に、液体通路の頂板(6t)と液体通路の底板とを固着する船首尾方向の縦隔壁(5)に所要の開口(5o)を設け、必要に応じて縦隔壁(5)の開口(5o)を開閉する遠隔駆動式の閉鎖装置(5c)と、センタータンク(3)内に、液体通路頂板(6t)を底板とする独立の機器室(4)を設け、船の横揺と縦揺の瞬時角度を検知する傾斜センサーから出力される情報を基に、船の横揺れ周期(STs)と、船の平均横揺れ周期(ATs)と、船の横揺れ固有周期(FTs)を演算し、更に、一揺れ先の船の横揺れと縦揺れの周期と角度を予測するプログラムと、2組の空気連通管(7a,7b)用の遠隔駆動式の閉鎖装置(7v)と、液体通路内の遠隔駆動式の2組の下部ダンパ(8d1,8d2)と、縦隔壁(5)の開口(5o)用の遠隔駆動の閉鎖装置(5c)から出力される情報を解読すると供に、液体通路の頂板(6t)と液体通路の底板とを固着する船首尾方向の縦隔壁(5)の開口(5o)用の閉鎖装置(5c)と、空気連通管用の閉鎖装置(7v)と、下部ダンパ(8d)の駆動をコントロールする制御盤を具備したことを特徴とするコンテナ船用のA.R.T。
液体通路内に船首尾方向の任意箇所に肋板、或いは、左右方向の任意幅を有する仕切り板を以て、液体通路の船首尾方向の長さを少なくとも三つに分割し、分割された液体通路内の任意箇所に、軸に羽根を固定した2組の遠隔駆動式の下部ダンパ(8d1,8d2)を施し、下部ダンパの羽根を液体が流れる左右方向に平行にした時を下部ダンパ全開、同じく、液体の流れ方向に対し直角に下部ダンパの羽根を回転させた時を下部ダンパ全閉と言い、下部ダンパの全開と全閉の回転範囲内の途中に少なくとも一箇所以上の箇所に下部ダンパが停止する位置を設け、2組の下部ダンパを正常な位置に駆動させる手段を具備することを特徴とする、請求項1記載のコンテナ船用のA.R.T。
本発明の要となるセンタータンク(3)は、片舷のDW式ウイングタンク(2p,2s)と同じ幅と長さとし、高さは、設計者の任意で決め、センタータンク(3)内の機器室(4)の幅と長さは設計者の任意で決め、高さは、センタータンク頂板(3t)より任意の隙間(4b)を以て低くし、船の横揺れ角度が大きくDW式ウイングタンク(2p,2s)内の液体が左舷の液体通路(6p)又は右舷の液体通路(6s)を介してセンタータンク(3)内に流れ込み、更に流れ込む液体が機器室頂板(4t)を超える時は、機器室の頂板とセンタータンクの間に設けた隙間(4b)から隣の液体通路(6p,6s)へ流出させることを特徴とする、請求項1記載のコンテナ船用のA.R.T。
船が荒天時に遭遇する様々な船の横揺れと縦揺れの状況に応じ、最適なA.R.Tの減揺効果を得る手段として、船の横揺れ角と、縦揺れ角の瞬時情報を時系列的に組換え、船の一揺れの横揺れと、縦揺れの周期と角度、同じく移動平均による横揺れ周期と角度、更に一揺れ先の横揺れ周期と角度を予測した演算結果に基づき、液体通路の頂板(6t)と液体通路の底板とを固着する船首尾方向の縦隔壁(5)の開口(5o)用の閉鎖装置(5c)と、DW式ウイングタンクの内側のウイングタンク(2it)と、外側ウイングタンク(2ot)用の空気連通管の閉鎖装置(7v)と、液体通路内の2組の遠隔駆動式の下部ダンパ(8d1,8d2)を、予め定めた駆動制御仕様を実行させ、異なるA.R.Tの固有周期を得る制御方法で、
液体通路の底板~頂板間に施す縦隔壁(5)の開口(5o)を閉じ、DW式ウイングタンクの内側のウイングタンク(2it)と、外側ウイングタンク(2ot)の空気連通管(7a,7b)の閉鎖装置(7v)を開くと、センタータンク(3)と左右舷のDW式ウイングタンク(2p,2s)からなる2組の仮想タンク(1p,1s)が構成され、この状態で液体通路内の下部ダンパ(8d1,8d2)を予め定めた位置に回転させると、向波状態を含む短い船の横揺れ周期に対応可能な4種類の短いA.R.Tの固有周期(Tts)を含んだ減揺有効周期範囲のCASE1~CASE4の制御グループが構成され、更に、液体通路の底板~頂板間の縦隔壁(5)の開口(5o)を開き、DW式ウイングタンクの内側のウイングタンク(2it)の空気連通管(7a)の閉鎖装置(7v)を閉じると、センタータンク(3)の機能が解除され、左右のDW式ウイングタンクの外側ウイングタンク(2ot)と液体通路(6)が直接連結され、この状態で液体通路内の2組の下部ダンパ(8d1,8d2)を予め定めた開閉位置に駆動すると、追波状態を含む長い船の横揺れ周期に対応可能な5種類の長いA.R.Tの固有周期(Tts)を含んだ減揺有効周期範囲のCASE5~CASE9の制御グループが構成され、刻々と変わる船の横揺れ移動平均周期(ATs)値に対応可能な、CASE1~CASE9の制御グループの中から最適な制御が自動的に選択され、また、船の横揺れ移動平均周期(ATs)の値が34.0秒を超えた時は、A.R.T内の液体が船の復原力に悪影響を及ぼさないように、2組の空気連通管(7a,7b)の閉鎖装置(7v)を強制的に閉じてA.R.T内の液体移動を停止させる、ことを特徴とした請求項1記載のコンテナ船用のA.R.Tの制御方法。
船の横揺れ周期値に対し、船の縦揺れの周期値が約1/2付近になった時に生じる横揺れ角が大きくなると言うパラメトリック横揺れ現象において、船の一揺れの横揺れ周期(STs)と、船の平均横揺れ周期(ATs)、さらに一揺れ先の予測横揺れ周期からパラメトリック横揺れ現象に至るか否かを予測するプログラムを構築し、パラメトリック横揺れに至ると予測した時は、パラメトリックに至る旨の予め定めた警報ブザー、警報の表示、或いは音声にて操船者に知らせると同時に、操船者がパラメトリック横揺れを回避させるための船速や針路を変えた時に生じる新たな船の横揺れ周期に対しA.R.Tの最適な制御グループを選択し、瞬時に実行させることを特徴とした、請求項4記載のコンテナ船用のA.R.Tの制御方法。
シングルのウイングタンク内を船首尾方向の縦隔壁(2bh)で船の左右方向に二つに分割した内側のウイングタンク(2it)と、外側ウイングタンク(2ot)で構成するDW式ウイングタンクで、両舷のDW式ウイングタンクの下方にDW式ウイングタンク内の液体を左右に移動させる液体通路(6)と、両舷のDW式ウイングタンク間の中央付近の液体通路頂板上に設けるセンタータンク(3)とを一体化した構造物を、首尾方向に対し直角に切断した横断面形状が、左舷のDW式ウイングタンク(2p)と、液体通路(6)と、センタータンク(3)と、右舷のDW式ウイングタンク(2s)から山字形となる受動式のA.R.Tにあって、
DW式ウイングタンクの内側のウイングタンク(2it)と、外側ウイングタンク(2ot)内の空気を移動させる手段として、分割した内側と外側ウイングタンクの上方に、必要に応じ両舷のウイングタンク内の空気移動を遮断する遠隔駆動式の閉鎖装置(7v)を介した空気連通管(7a,7b)を両舷の相対する内側のウイングタンク(2it)と、外側ウイングタンク(2ot)に連結すると供に、液体通路の船首尾方向の長さを少なくとも三つに分割した液体通路内に、液体の移動速さを調整する遠隔駆動式の2組の下部ダンパ(8d1,8d2)と、液体通路の左右方向の中心位置に、液体通路の頂板(6t)と液体通路の底板とを固着する船首尾方向の縦隔壁(5)に所要の開口(5o)を設け、必要に応じて縦隔壁(5)の開口(5o)を開閉する遠隔駆動式の閉鎖装置(5c)と、センタータンク(3)内に、液体通路頂板(6t)を底板とする独立の機器室(4)を設け、船の横揺と縦揺の瞬時角度を検知する傾斜センサーから出力される情報を基に、船の横揺れ周期(STs)と、船の平均横揺れ周期(ATs)と、船の横揺れ固有周期(FTs)を演算し、更に、一揺れ先の船の横揺れと縦揺れの周期と角度を予測するプログラムと、2組の空気連通管(7a,7b)用の遠隔駆動式の閉鎖装置(7v)と、液体通路内の遠隔駆動式の2組の下部ダンパ(8d1,8d2)と、縦隔壁(5)の開口(5o)用の遠隔駆動の閉鎖装置(5c)から出力される情報を解読すると供に、液体通路の頂板(6t)と液体通路の底板とを固着する船首尾方向の縦隔壁(5)の開口(5o)用の閉鎖装置(5c)と、空気連通管用の閉鎖装置(7v)と、下部ダンパ(8d)の駆動をコントロールする制御盤を具備したことを特徴とするコンテナ船用のA.R.T。