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特開2025-7299人力駆動車用のクラッチ装置、および、人力駆動車用の変速装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007299
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】人力駆動車用のクラッチ装置、および、人力駆動車用の変速装置
(51)【国際特許分類】
   B62M 11/16 20060101AFI20250109BHJP
   F16D 41/12 20060101ALI20250109BHJP
   F16H 3/44 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B62M11/16 A
B62M11/16 C
F16D41/12 A
F16H3/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108597
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】横澤 太
(72)【発明者】
【氏名】池田 魁
【テーマコード(参考)】
3J528
【Fターム(参考)】
3J528EA08
3J528EA25
3J528EB33
3J528EB35
3J528EB64
3J528EB77
3J528FA60
3J528FB06
3J528FC13
3J528FC24
3J528FD22
3J528GA19
3J528HA27
3J528JJ04
3J528JL05
3J528JN01
(57)【要約】
【課題】動力を好適に伝達できる人力駆動車用のクラッチ装置、および、人力駆動車用の変速装置を提供する。
【解決手段】人力駆動車用のクラッチ装置は、基材と、基端部と遊端部とを有する少なくとも1つの係合部材と、前記基材とは別体に形成されて、前記基材に設けられる支持部材と、を備え、前記支持部材は、前記少なくとも1つの係合部材の前記基端部に接触可能な支持面を有し、前記基端部が前記支持面に接触した状態において、前記少なくとも1つの係合部材をピボット可能に支持する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力駆動車用のクラッチ装置であって、
基材と、
基端部と遊端部とを有する少なくとも1つの係合部材と、
前記基材とは別体に形成されて、前記基材に設けられる支持部材と、を備え、
前記支持部材は、前記少なくとも1つの係合部材の前記基端部に接触可能な支持面を有し、前記基端部が前記支持面に接触した状態において、前記少なくとも1つの係合部材をピボット可能に支持する、クラッチ装置。
【請求項2】
前記基材と前記支持部材との間に配置され、前記基材に対する前記係合部材の位置を調整する調整部材をさらに備える、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記支持部材は、
前記基材に支持される第1平面と、
前記基材に支持され、かつ、前記第1平面とは平行ではない第2平面と、を含む、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記支持部材を、前記基材に固定する少なくとも1つのファスナ部材をさらに備える、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記基材は、第1材料を含み、
前記支持部材は、前記第1材料とは異なる第2材料を含む、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
人力駆動車用のクラッチ装置であって、
基材と、
基端部と遊端部とを有する少なくとも1つの係合部材と、
前記基材に設けられる支持部材と、を備え、
前記支持部材は、前記少なくとも1つの係合部材の前記基端部に接触可能な支持面を有し、前記基端部が前記支持面に接触した状態において、前記少なくとも1つの係合部材をピボット可能に支持し、
前記基材は、第1材料を含み、
前記支持部材は、前記第1材料とは異なる第2材料を含む、クラッチ装置。
【請求項7】
前記第2材料は、前記第1材料よりも硬い、請求項5または6に記載のクラッチ装置。
【請求項8】
前記第1材料は、アルミニウム合金を含み、
前記第2材料は、鉄を含む、請求項7に記載のクラッチ装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの係合部材は、前記遊端部が前記基材に近い第1位置と、前記遊端部が前記第1位置よりも前記基材から離れる第2位置との間において、ピボット可能であり、
前記少なくとも1つの係合部材を前記第1位置に付勢する付勢部材をさらに備える、請求項1または6に記載のクラッチ装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの係合部材に接触することによって、前記少なくとも1つの係合部材を前記第1位置から前記第2位置に移動させる制御部材をさらに備える、請求項9に記載のクラッチ装置。
【請求項11】
前記基材は、中心軸心を有する軸部材を含み、
前記支持面は、前記中心軸心に平行なピボット軸線まわりに前記少なくとも1つの係合部材がピボット可能であるように前記少なくとも1つの係合部材を支持可能に構成される、請求項1または6に記載のクラッチ装置。
【請求項12】
前記基材は、中心軸心を有する軸部材を含み、
前記中心軸心に平行な方向から見て、前記支持部材は、前記中心軸心に関して180度未満の範囲において前記基材に設けられる、請求項1または6に記載のクラッチ装置。
【請求項13】
前記支持部材は、前記基端部が配置される少なくとも1つの第1凹部を含む、請求項1または6に記載のクラッチ装置。
【請求項14】
前記支持部材は、前記遊端部の少なくとも一部が配置される第2凹部をさらに含む、請求項13に記載のクラッチ装置。
【請求項15】
前記中心軸心まわりに回転可能に前記軸部材に設けられる環状部材をさらに備え、
前記環状部材の前記中心軸心に関する内周部は、前記遊端部に係合可能な被係合部を有する、請求項11に記載のクラッチ装置。
【請求項16】
人力駆動車用の変速装置であって、
請求項1または6に記載の前記クラッチ装置を備える、変速装置。
【請求項17】
人力駆動車用の変速装置であって、
請求項15に記載の前記クラッチ装置と、
遊星歯車機構と、を備え、
前記遊星歯車機構は、太陽ギアを含み、
前記太陽ギアは、前記環状部材を含む、変速装置。
【請求項18】
前記人力駆動車は、ハブ軸を備え、
前記ハブ軸は、前記基材を含む、請求項16に記載の変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人力駆動車用のクラッチ装置、および、人力駆動車用の変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の人力駆動車は、クラッチ装置を備える変速装置を開示する。特許文献1のクラッチ装置は、動力の伝達状態を切り替える切替機構を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-84608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的の1つは、動力を好適に伝達できる人力駆動車用のクラッチ装置、および、人力駆動車用の変速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1側面に従うクラッチ装置は、人力駆動車用のクラッチ装置であって、基材と、基端部と遊端部とを有する少なくとも1つの係合部材と、前記基材とは別体に形成されて、前記基材に設けられる支持部材と、を備え、前記支持部材は、前記少なくとも1つの係合部材の前記基端部に接触可能な支持面を有し、前記基端部が前記支持面に接触した状態において、前記少なくとも1つの係合部材をピボット可能に支持する、クラッチ装置。
第1側面のクラッチ装置によれば、支持部材が基材とは別体に形成されるため、基材に対する支持部材の位置、および、支持部材の形状の少なくとも1つを調整することによって、少なくとも1つの係合部材の基材に対する位置を調整できる。したがって、クラッチ装置は、動力を好適に伝達できる。
【0006】
本開示の第1側面に従う第2側面のクラッチ装置において、前記基材と前記支持部材との間に配置され、前記基材に対する前記係合部材の位置を調整する調整部材をさらに備える。
第2側面のクラッチ装置によれば、調整部材によって、少なくとも1つの係合部材の基材に対する位置を好適に調整できる。
【0007】
本開示の第1または第2側面に従う第3側面のクラッチ装置において、前記支持部材は、前記基材に支持される第1平面と、前記基材に支持され、かつ、前記第1平面とは平行ではない第2平面と、を含む。
第3側面のクラッチ装置によれば、第1平面および第2平面を基材に支持させることによって、支持部材を基材に対して好適に位置決めできる。
【0008】
本開示の第1から第3側面のいずれか1つに従う第4側面のクラッチ装置において、前記支持部材を、前記基材に固定する少なくとも1つのファスナ部材をさらに備える。
第4側面のクラッチ装置によれば、少なくとも1つのファスナ部材によって支持部材を基材に好適に取り付けできる。
【0009】
本開示の第1から第4側面のいずれか1つに従う第5側面のクラッチ装置において、前記基材は、第1材料を含み、前記支持部材は、前記第1材料とは異なる第2材料を含む。
第5側面のクラッチ装置によれば、基材および支持部材のそれぞれに好適な材料によって、基材および支持部材を形成できる。
【0010】
本開示の第6側面に従うクラッチ装置は、人力駆動車用のクラッチ装置であって、基材と、基端部と遊端部とを有する少なくとも1つの係合部材と、前記基材に設けられる支持部材と、を備え、前記支持部材は、前記少なくとも1つの係合部材の前記基端部に接触可能な支持面を有し、前記基端部が前記支持面に接触した状態において、前記少なくとも1つの係合部材をピボット可能に支持し、前記基材は、第1材料を含み、前記支持部材は、前記第1材料とは異なる第2材料を含む。
第6側面のクラッチ装置によれば、基材および支持部材のそれぞれに好適な材料によって、基材および支持部材を形成できるため、クラッチ装置は、動力を好適に伝達できる。
【0011】
本開示の第5または第6側面に従う第7側面のクラッチ装置において、前記第2材料は、前記第1材料よりも硬い。
第7側面のクラッチ装置によれば、第2材料が第1材料よりも硬いため、支持部材が少なくとも1つの係合部材との接触によって変形しにくい。
【0012】
本開示の第7側面に従う第8側面のクラッチ装置において、前記第1材料は、アルミニウム合金を含み、前記第2材料は、鉄を含む。
第8側面のクラッチ装置によれば、基材がアルミニウム合金を含むため、クラッチ装置の軽量化に貢献できる。第8側面のクラッチ装置によれば、支持部材が鉄を含むため、支持部材が少なくとも1つの係合部材との接触によって変形しにくい。
【0013】
本開示の第1から第8側面のいずれか1つに従う第9側面のクラッチ装置において、前記少なくとも1つの係合部材は、前記遊端部が前記基材に近い第1位置と、前記遊端部が前記第1位置よりも前記基材から離れる第2位置との間において、ピボット可能であり、前記少なくとも1つの係合部材を前記第1位置に付勢する付勢部材をさらに備える。
第9側面のクラッチ装置によれば、付勢部材によって、少なくとも1つの係合部材が好適に動作する。
【0014】
本開示の第9側面に従う第10側面のクラッチ装置において、前記少なくとも1つの係合部材に接触することによって、前記少なくとも1つの係合部材を前記第1位置から前記第2位置に移動させる制御部材をさらに備える。
第10側面のクラッチ装置によれば、制御部材によって、少なくとも1つの係合部材が好適に動作する。
【0015】
本開示の第1から第10側面のいずれか1つに従う第11側面のクラッチ装置において、前記基材は、中心軸心を有する軸部材を含み、前記支持面は、前記中心軸心に平行なピボット軸線まわりに前記少なくとも1つの係合部材がピボット可能であるように前記少なくとも1つの係合部材を支持可能に構成される。
第11側面のクラッチ装置によれば、支持部材によって、少なくとも1つの係合部材が軸部材の中心軸心に平行なピボット軸線まわりに好適にピボットできる。
【0016】
本開示の第1から第10側面のいずれか1つに従う第12側面のクラッチ装置において、前記基材は、中心軸心を有する軸部材を含み、前記中心軸心に平行な方向から見て、前記支持部材は、前記中心軸心に関して180度未満の範囲において前記基材に設けられる。
第12側面のクラッチ装置によれば、支持部材は、中心軸心に関して180度未満の範囲において基材に設けられるため、基材の強度の低下が抑制される。
【0017】
本開示の第1から第12側面のいずれか1つに従う第13側面のクラッチ装置において、前記支持部材は、前記基端部が配置される少なくとも1つの第1凹部を含む。
第13側面のクラッチ装置によれば、第1凹部によって少なくとも1つの係合部材を安定して支持できる。
【0018】
本開示の第13側面に従う第14側面のクラッチ装置において、前記支持部材は、前記遊端部の少なくとも一部が配置される第2凹部をさらに含む。
第14側面のクラッチ装置によれば、少なくとも1つの係合部材をピボットさせて遊端部を基部に近づける場合に、第2凹部によって少なくとも1つの係合部の支持部材からの突出量を抑制できる。
【0019】
本開示の第11または第12側面に従う第15側面のクラッチ装置において、前記中心軸心まわりに回転可能に前記軸部材に設けられる環状部材をさらに備え、前記環状部材の前記中心軸心に関する内周部は、前記遊端部に係合可能な被係合部を有する。
第15側面のクラッチ装置によれば、環状部材の内周部に、少なくとも1つの係合部材の遊端部を係合することによって、少なくとも1つの係合部に対する環状部材の回転を規制できる。
【0020】
本開示の第16側面に従う変速装置は、人力駆動車用の変速装置であって、第1から第15側面のいずれか1つの前記クラッチ装置を備える。
第16側面の変速装置によれば、動力を好適に伝達できる。
【0021】
本開示の第17側面に従う変速装置は、人力駆動車用の変速装置であって、第15側面の前記クラッチ装置と、遊星歯車機構と、を備え、前記遊星歯車機構は、太陽ギアを含み、前記太陽ギアは、前記環状部材を含む。
第17側面の変速装置によれば、遊星歯車機構を含む変速装置において、動力を好適に伝達できる。
【0022】
本開示の第16または第17側面に従う第18側面の変速装置において、前記人力駆動車は、ハブ軸を備え、前記ハブ軸は、前記基材を含む。
第18側面の変速装置によれば、ハブ軸まわりに設けられるクラッチ機構において、動力を好適に伝達できる。
【発明の効果】
【0023】
本開示の人力駆動車用のクラッチ装置、および、人力駆動車用の変速装置は、動力を好適に伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態の人力駆動車用のクラッチ装置および人力駆動車用の変速装置を含むハブユニットの平面図である。
図2図1のD2-D2線に沿う断面図である。
図3図2の人力駆動車用のクラッチ装置の一部を示す平面図である。
図4図2のD4-D4線に沿う部分断面図である。
図5図2の基材、支持部材、および、ファスナ部材を示す平面図である。
図6図5の基材、支持部材、および、ファスナ部材を示す分解斜視図である。
図7図2のD7-D7線に沿う部分断面図である。
図8図7の一部を拡大して示す断面図である。
図9図7のカムについてカム角度とローラ接触径との関係を示すグラフである。
図10】第1変更例の人力駆動車用のクラッチ装置の断面図である。
図11】第2変更例の遊星歯車機構の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<実施形態>
図1から図9を参照して、人力駆動車用の変速装置30および人力駆動車用のクラッチ装置80が説明される。
【0026】
人力駆動車は、少なくとも1つの車輪を有し、少なくとも人力駆動力によって駆動できる乗り物である。人力駆動車は、例えばマウンテンバイク、ロードバイク、シティバイク、カーゴバイク、ハンドバイク、および、リカンベントなど種々の種類の自転車を含む。人力駆動車が有する車輪の数は限定されない。人力駆動車は、例えば1輪車および2輪以上の車輪を有する乗り物も含む。人力駆動車は、人力駆動力のみによって駆動できる乗り物に限定されない。人力駆動車は、人力駆動力だけではなく、電気モータの駆動力を推進に利用するE-bikeを含む。E-bikeは、電気モータによって推進が補助される電動アシスト自転車を含む。以下、それぞれの実施形態において、人力駆動車は、自転車として説明される。
【0027】
人力駆動車10は、少なくとも1つの車輪と、車体と、を含む。少なくとも1つの車輪は、例えば、前輪、および、後輪を含む。車体は、フレームを含む。人力駆動車10は、例えば、人力駆動力が入力されるクランクをさらに含む。クランクは、例えば、クランクアームおよびクランク軸を含む。クランク軸は、例えば、フレームに対して回転可能である。クランクアームには、例えば、ペダルが連結される。
【0028】
フレームには、フロントフォークが接続される。フロントフォークには、前輪が取り付けられる。フロントフォークには、ハンドルバーがステムを介して連結される。後輪は、フレームに支持される。クランクは、駆動機構によって後輪と連結される。後輪は、クランク軸が回転することによって駆動される。前輪および後輪の少なくとも1つが、駆動機構によってクランクに連結されてもよい。
【0029】
駆動機構は、クランク軸に連結される第1回転体を含む。第1回転体は、例えば、フロントスプロケットを含む。第1回転体は、プーリ、または、ベベルギアを含んでいてもよい。本実施形態では、人力駆動車10がコースタブレーキを含むため、クランク軸は、フロントスプロケットと、ワンウェイクラッチを介さずに連結されるが、人力駆動車10がコースタブレーキを含まない場合、クランク軸は、フロントスプロケットと、ワンウェイクラッチを介して連結されてもよい。
【0030】
駆動機構は、第2回転体12および伝達部材をさらに含む。伝達部材は、第1回転体の回転力を少なくとも1つの第2回転体12に伝達するように構成される。伝達部材は、例えば、チェーンを含む。伝達部材は、ベルト、または、シャフトを含んでいてもよい。第2回転体12は、例えば、リアスプロケットを含む。第2回転体12は、プーリ、または、ベベルギアを含んでもよい。チェーンは、例えば、フロントスプロケットおよびリアスプロケットに巻き掛けられる。第2回転体12は、例えば、後輪に連結される。後輪は、例えば、第2回転体12の回転にともなって回転するように構成される。
【0031】
人力駆動車10は、例えば、ハブユニット20を備える。人力駆動車10は、例えば、ハブ軸22を備える。ハブ軸22は、例えば、ハブユニット20に設けられる。ハブ軸22は、例えば、人力駆動車10のフレームに支持される。
【0032】
ハブユニット20は、例えば、入力回転体24、および、出力回転体26を備える。入力回転体24には、第2回転体12の回転トルクが伝達される。出力回転体26は、車輪のリムに回転トルクを伝達する。出力回転体26は、例えば、入力回転体24に対して回転可能に構成される。出力回転体26は、例えば、ハブシェルである。出力回転体26は、例えば、車輪のスポークが取り付けられるスポーク取付部26Aを備える。出力回転体26は、リムと一体に構成されていてもよい。
【0033】
ハブユニット20は、例えば、人力駆動車用の変速装置30を備える。変速装置30は、人力駆動車10の変速比率を変更するように構成される。変速装置30は、例えば、人力駆動車10における人力駆動力の伝達経路に設けられ、かつ、変速比率を変更するように構成される。変速比率は、例えば、入力回転体24の回転速度に対する出力回転体26の回転速度の比率である。出力回転体26の回転速度は、例えば、駆動輪の回転速度を含む。
【0034】
変速比率と、出力回転体26の回転速度と、入力回転体24の回転速度との関係は、式(1)によって表される。式(1)において、Rは、変速比率を示す。式(1)において、Wは、出力回転体26の回転速度を示す。式(1)において、Cは、入力回転体24の回転速度を示す。
式(1):R=W(rpm)/C(rpm)
【0035】
人力駆動車用の変速装置30は、例えば、クラッチ装置80を備える。変速装置30は、例えば、クラッチ装置80と、遊星歯車機構32を備える。遊星歯車機構32は、太陽ギア34を含む。
【0036】
遊星歯車機構32は、例えば、第1遊星歯車機構36と、第1遊星歯車機構36からの回転力が入力される第2遊星歯車機構38と、を含む。第1遊星歯車機構36には、例えば、入力回転体24を介して、第2回転体12の回転力が伝達される。第2遊星歯車機構38には、例えば、第1遊星歯車機構36の回転力が伝達される。第1遊星歯車機構36および第2遊星歯車機構38は、ハブ軸22に設けられる。
【0037】
第1遊星歯車機構36は、例えば、第1太陽ギア40、第1遊星ギア42、第1キャリア44、および、第1リングギア46を備える。第1太陽ギア40、第1遊星ギア42、第1キャリア44、および、第1リングギア46の数および構成は、変速装置30に要求される変速ステージ数に応じて変更される。
【0038】
第1太陽ギア40は、例えば、ハブ軸22のまわりに設けられる。本実施形態では、第1遊星歯車機構36は、第1太陽ギア40Aおよび第1太陽ギア40Bを備える。第1太陽ギア40Aの歯数は、例えば、第1太陽ギア40Bの歯数よりも少ない。第1遊星歯車機構36は、例えば、第1遊星ギア42Aおよび第1遊星ギア42Bを備える。第1遊星ギア42Aの歯数は、第1遊星ギア42Bの歯数よりも多い。第1遊星ギア42Aは、第1太陽ギア40Aと噛み合い、かつ、第1遊星ギア42Bは、第1太陽ギア40Bと噛み合う。
【0039】
第1遊星ギア42Aおよび第1遊星ギア42Bは、例えば、段付きの第1遊星ギアユニット48を構成する。複数の第1遊星ギアユニット48は、第1太陽ギア40のまわりに配置される。第1キャリア44は、複数の第1遊星ギアユニット48を支持する。第1キャリア44は、複数の第1遊星ギアユニット48を、第1太陽ギア40に対して一体に公転させる。第1リングギア46は、第1遊星ギア42Aおよび第1遊星ギア42Bの一方に噛み合うように複数の第1遊星ギアユニット48のまわりに配置される。
【0040】
第2遊星歯車機構38は、例えば、第2太陽ギア50、第2遊星ギア52、第2キャリア54、および、第2リングギア56を備える。第2太陽ギア50、第2遊星ギア52、第2キャリア54、および、第2リングギア56の数および構成は、変速装置30に要求される変速ステージ数に応じて変更される。
【0041】
第2太陽ギア50は、例えば、ハブ軸22のまわりに設けられる。本実施形態では、第2遊星歯車機構38は、第2太陽ギア50Aおよび第2太陽ギア50Bを備える。第2太陽ギア50Aは、例えば、ハブ軸22の軸方向Xにおいて、第2太陽ギア50Bよりも第1遊星歯車機構36に遠い位置に設けられる。第2太陽ギア50Aの歯数は、例えば、第2太陽ギア50Bの歯数よりも少ない。第2遊星歯車機構38は、例えば、第2遊星ギア52Aおよび第2遊星ギア52Bを備える。第2遊星ギア52Aの歯数は、例えば、第2遊星ギア52Bの歯数よりも多い。第2遊星ギア52Aは、第2太陽ギア50Aと噛み合い、かつ、第2遊星ギア52Bは、第2太陽ギア50Bと噛み合う。
【0042】
第2遊星ギア52Aおよび第2遊星ギア52Bは、例えば、段付きの第2遊星ギアユニット58を構成する。複数の第2遊星ギアユニット58は、第2太陽ギア50のまわりに配置される。第2キャリア54は、複数の第2遊星ギアユニット58を支持する。第2キャリア54は、複数の第2遊星ギアユニット58を、第2太陽ギア50に対して一体に公転させる。第2リングギア56は、第2遊星ギア52Aおよび第2遊星ギア52Bの一方に噛み合うように複数の第2遊星ギアユニット58のまわりに配置される。
【0043】
入力回転体24は、第1端部24Aおよび第2端部24Bを含む。第2回転体12は、第1端部24Aに取り付けられる。第2端部24Bは、第1キャリア44に取り付けられる。入力回転体24は、第2回転体12の回転トルクを第1キャリア44に伝達する。第1キャリア44に伝達された回転は、変速装置30を介して、出力回転体26に伝達される。
【0044】
変速装置30は、変速ステージを変更するクラッチ装置80をさらに備える。クラッチ装置80は、第1太陽ギア40および第2太陽ギア50の回転状態を変更する。本実施形態では、クラッチ装置80は、第1太陽ギア40A、第1太陽ギア40B、第2太陽ギア50A、および、第2太陽ギア50Bの回転状態を、それぞれハブ軸22に対する回転が規制される規制状態と、ハブ軸22に対する回転が許容される許容状態とに切り替える。
【0045】
本実施形態では、第1太陽ギア40A、第1太陽ギア40B、第2太陽ギア50A、および、第2太陽ギア50Bのいずれも太陽ギア34である。
【0046】
人力駆動車用のクラッチ装置80は、基材82と、少なくとも1つの係合部材84と、支持部材86と、を備える。少なくとも1つの係合部材84は、例えば、基端部84Aと遊端部84Bとを有する。基材82は、例えば、中心軸心C1を有する軸部材88を含む。クラッチ装置80は、例えば、中心軸心C1まわりに回転可能に軸部材88に設けられる環状部材90をさらに備える。環状部材90の中心軸心C1に関する内周部90Aは、例えば、遊端部84Bに係合可能な被係合部90Bを有する。
【0047】
本実施形態のハブ軸22は、基材82を含む。本実施形態の太陽ギア34は、環状部材90を含む。本実施形態では、第1太陽ギア40A、第1太陽ギア40B、第2太陽ギア50A、および、第2太陽ギア50Bのそれぞれが、環状部材90を含む。クラッチ装置80が複数の太陽ギア34を含む場合、クラッチ装置80は、例えば、複数の太陽ギア34のそれぞれに対応する複数の係合部材84を含む。本実施形態では、クラッチ装置80は、第1太陽ギア40A、第1太陽ギア40B、第2太陽ギア50A、および、第2太陽ギア50Bのそれぞれに対応する4つの係合部材84を備える。環状部材90は、回転中心軸心を有する。環状部材90の回転中心軸心は、例えば、基材82の中心軸心C1に実質的に一致する。例えば、環状部材90の回転中心軸心まわりの外周部に複数の歯が形成されることによって、太陽ギア34が構成される。環状部材90の内周部90Aには、例えば、複数の凹部が中心軸心C1まわりの周方向に並ぶように形成される。被係合部90Bは、例えば、内周部90Aの複数の凹部を含む。
【0048】
少なくとも1つの係合部材84は、例えば、遊端部84Bが基材82に近い第1位置と、遊端部84Bが第1位置よりも基材82から離れる第2位置との間において、ピボット可能である。遊端部84Bが第1位置にある場合、係合部材84は、環状部材90の軸部材88に対する回転を許容する。遊端部84Bが第2位置にある場合、係合部材84は、環状部材90の軸部材88に対する一方の回転を規制する。
【0049】
支持部材86は、基材82とは別体に形成されて、基材82に設けられる。基材82は、例えば、支持部材86を配置するための配置部82Bを含む。配置部82Bは、例えば、基材82のうちの軸方向Xの中間部分に設けられる。配置部82Bは、凹部を含む。基材82は、例えば、第1材料を含む。支持部材86は、例えば、第1材料とは異なる第2材料を含む。第2材料は、例えば、第1材料よりも硬い。第1材料は、例えば、アルミニウム合金を含む。第2材料は、例えば、鉄を含む。第1材料は、例えば、第2材料よりも軽い。基材82の単位体積当たりの重量は、例えば、支持部材86の単位体積当たりの重量よりも小さい。支持部材86の体積は、例えば、基材82の体積よりも小さい。支持部材86の硬度は、例えば、基材82の硬度よりも大きい。第1材料は、第2材料よりも軽く、かつ、第2材料は、第1材料よりも硬いため、支持部材86の剛性を確保しつつ、変速装置30の軽量化に貢献できる。
【0050】
中心軸心C1に平行な方向から見て、支持部材86は、例えば、中心軸心C1に関して180度未満の範囲において基材82に設けられる。中心軸心C1に平行な方向から見て、支持部材86は、例えば、中心軸心C1に関して80度以上かつ120度未満の範囲において基材82に設けられる。支持部材86は、例えば、クラッチ装置80のうちの、軸方向Xにおいて、少なくとも1つの係合部材84が配置される範囲に設けられる。
【0051】
支持部材86は、例えば、基材82に支持される第1平面92Aと、基材82に支持され、かつ、第1平面92Aとは平行ではない第2平面92Bと、を含む。第1平面92Aは、例えば、軸方向Xに平行する。第2平面92Bは、例えば、軸方向Xに平行する。第1平面92Aは、例えば、第2平面92Bと連続する。第1平面92Aの一端は、例えば、第2平面92Bの一端に接続される。第1平面92Aと第2平面92Bとのなす角は、例えば、45度以上かつ120度以下である。第1平面92Aと第2平面92Bとのなす角は、例えば、80度以上かつ100度以下である。第1平面92Aと第2平面92Bとのなす角は、例えば、実質的に90度である。第1平面92Aおよび第2平面92Bには、ローレットなどの滑り止めのための微小な凹凸がそれぞれ形成されていてもよい。第2平面92Bは、基材82の中心軸心C1に平行な方向から見て、基材82の中心軸心C1と少なくとも1つの係合部材84のピボット軸線C2との間に配置される。
【0052】
配置部82Bは、例えば、基材82の中心軸心C1に平行な方向から見て、基材82の中心軸心C1に重ならないように形成される。基材82の配置部82Bは、支持部材86の第1平面92Aに対応する第1基材平面83Aと、支持部材86の第2平面92Bに対応する第2基材平面83Bとを有する。第1基材平面83Aと第2基材平面83Bとのなす角は、第1平面92Aと第2平面92Bとのなす角と等しい。
【0053】
支持部材86は、少なくとも1つの係合部材84の基端部84Aに接触可能な支持面86Aを有する。支持部材86は、基端部84Aが支持面86Aに接触した状態において、少なくとも1つの係合部材84をピボット可能に支持する。支持面86Aは、例えば、中心軸心C1に平行なピボット軸線C2まわりに少なくとも1つの係合部材84がピボット可能であるように少なくとも1つの係合部材84を支持可能に構成される。
【0054】
支持部材86は、例えば、基端部84Aが配置される少なくとも1つの第1凹部86Bを含む。第1凹部86Bは、例えば、支持面86Aを形成する。支持部材86は、例えば、遊端部84Bの少なくとも一部が配置される第2凹部86Cをさらに含む。第2凹部86Cは、省略されてもよい。
【0055】
支持部材86の第1凹部86Bおよび第2凹部86Cの間の部分の外面は、例えば、曲面として構成される。支持部材86の第1凹部86Bおよび第2凹部86Cの間の部分の外面は、例えば、中心軸心C1まわりの周方向の中間部分が、中心軸心C1に関して径方向の外側に向かって突出する曲面として構成される。
【0056】
基材82は、例えば、鍛造または鋳造によって製造される。例えば、鍛造または鋳造によって製造された部材に、切削によって第1凹部86Bおよび第2凹部86Cが形成されることによって支持部材86が製造される。本実施形態では、支持部材86に加工の精度が必要な第1凹部86Bおよび第2凹部86Cが形成されるため、基材82の加工が容易になる。
【0057】
クラッチ装置80は、例えば、支持部材86を、基材82に固定する少なくとも1つのファスナ部材94をさらに備える。少なくとも1つのファスナ部材94は、例えば、ボルト94Aを含む。基材82には、例えば、ボルト94Aが挿入される第1孔82Cが形成される。第1孔82Cは、配置部82Bに形成される。基材82のうち第1孔82Cを定義する内周面には、雌ねじが形成される。第1孔82Cは、例えば、基材82の強度の低下を抑制するために基材82を貫通しないように形成される。第1孔82Cは、基材82を貫通していてもよい。
【0058】
ボルト94Aの回転中心軸心は、例えば、第1平面92Aに垂直である。ボルト94Aの回転中心軸心は、第2平面92Bに垂直であってもよい。ボルト94Aの回転中心軸心は、第1平面92Aまたは第2平面92Bに対して傾斜していてもよい。ボルト94Aによって支持部材86の第1平面92Aが第1基材平面83Aに向かって押圧され、かつ、ボルト94Aによって支持部材86の第2平面92Bが第2基材平面83Bに向かって押圧されるように、ボルト94Aの回転中心軸心が第1平面92Aまたは第2平面92Bに対して傾斜していてもよい。
【0059】
支持部材86は、例えば、ボルト94Aが挿入される第2孔86Dを含む。例えば、第2孔86Dは、例えば、支持部材86のうちの軸方向Xの中間部分に設けられる。ファスナ部材94は、例えば、係合部材84と接触しない位置に設けられる。クラッチ装置80が複数の係合部材84を備える場合、ファスナ部材94は、例えば、軸方向Xにおいて隣り合う2つの係合部材84の間に設けられる。
【0060】
本実施形態では、少なくとも1つのファスナ部材94は、1つのボルト94Aを含むが、少なくとも1つのファスナ部材94は、複数のボルト94Aを含んでいてもよい。少なくとも1つのファスナ部材94が複数のボルト94Aを含む場合、基材82には各ボルト94Aに対応する第1孔82Cが形成され、かつ、支持部材86には各ボルト94Aに対する第2孔86Dが形成される。
【0061】
クラッチ装置80は、例えば、少なくとも1つの係合部材84を第1位置に付勢する付勢部材96をさらに備える。付勢部材96は、例えば、環状に形成される。付勢部材96は、例えば、金属ばねを含む。付勢部材96は、例えば、少なくとも1つの係合部材84が複数の係合部材84を含む場合、係合部材84ごとに設けられる。係合部材84には、例えば、付勢部材96が挿入される孔または溝が形成される。係合部材84に形成される孔または溝は、例えば、ハブ軸22の周方向に延びる。
【0062】
クラッチ装置80は、例えば、少なくとも1つの係合部材84に接触することによって、少なくとも1つの係合部材84を第1位置から第2位置に移動させる制御部材98をさらに備える。制御部材98は、例えば、ハブ軸22の周方向に回転可能にハブ軸22に取り付けられる。制御部材98は、変速ステージを変更する場合に、ハブ軸22の周方向に回転するように構成される。制御部材98は、例えば、変速操作装置の操作にともなって回転するように構成される。変速操作装置と変速装置30とがケーブルによって接続される場合、制御部材98は、ケーブルの動作によって回転する。変速操作装置と変速装置30とが通信可能に接続される場合、変速装置30には電動アクチュエータが設けられる。変速操作装置が操作されると、電動アクチュエータが駆動することによって、制御部材98が回転する。
【0063】
制御部材98は、例えば、基部98Aおよびアーム部98Bを備える。基部98Aは、例えば、ハブ軸22の軸方向Xに延びる。アーム部98Bは、例えば、基部98Aからハブ軸22の周方向に延びる。制御部材98は、例えば、環状部材90と対応する数のアーム部98Bを備える。
【0064】
係合部材84の遊端部84Bは、例えば、環状部材90の被係合部90Bと係合する第1部分84Cと、第1部分84Cから軸方向Xに延びる第2部分84Dとを含む。軸方向Xにおいて、アーム部98Bは、例えば、第2部分84Dと対応する位置に設けられる。アーム部98Bが、第2部分84Dと接触することによって、係合部材84が第2位置に維持される。アーム部98Bが、第2部分84Dと接触しない場合、係合部材84が第1位置に維持される。
【0065】
クラッチ装置80は、例えば、環状部材90を支持する第1支持部材80Aをさらに備える。第1支持部材80Aは、例えば、環状に形成される。第1支持部材80Aは、例えば、軸部材88の径方向において、軸部材88と環状部材90との間に配置される。第1支持部材80Aの外周面は、例えば、環状部材90の内周面と摺動するように構成される。環状部材90は、例えば、環状部材90ごとに設けられる。
【0066】
変速装置30は、第1ワンウェイクラッチ60をさらに備える。第1ワンウェイクラッチ60は、第1キャリア44と、第2キャリア54との間に配置される。第1ワンウェイクラッチ60は、クランクの第1方向と対応する回転方向における第1キャリア44の回転速度が第2キャリア54の回転速度以上の場合、第1キャリア44の回転トルクを第2キャリア54に伝達する。第1ワンウェイクラッチ60は、クランクの第1方向と対応する回転方向における第2キャリア54の回転速度が第1キャリア44を超える場合、第2キャリア54の回転を第1キャリア44に伝達しない。第1ワンウェイクラッチ60は、ローラクラッチであってもよく、爪式クラッチであってもよい。
【0067】
変速装置30は、第2ワンウェイクラッチ62をさらに備える。第2ワンウェイクラッチ62は、第2リングギア56と出力回転体26との間に設けられる。第2ワンウェイクラッチ62は、クランクの第1方向と対応する回転方向における第2リングギア56の回転速度が出力回転体26の回転速度以上の場合、第2リングギア56の回転を出力回転体26に伝達する。第2ワンウェイクラッチ62は、クランクの第1方向と対応する回転方向における出力回転体26の回転速度が第2リングギア56の回転速度を超える場合、出力回転体26の回転を第2リングギア56に伝達しない。
【0068】
第2ワンウェイクラッチ62は、例えば、ローラクラッチである。第2ワンウェイクラッチ62は、例えば、ローラ64、および、ローラ64が配置されるカム66を含む。カム66は、例えば、第2リングギア56の外周部に設けられる。カム66は、例えば、第2リングギア56の周方向に延びる溝である。カム66は、例えば、ローラ接触径とカム角度との関係が、複数の正円の円弧を連続させた形状を有する。カム66は、例えば、周方向において、第1正円の円弧と対応する第1カム面66Aと、第2正円の円弧と対応する第2カム面66Bと、を備える。
【0069】
図9の破線は、ローラ接触径に対して要求されるカム角度を示す。カム66は、ローラ接触径に対して要求されるカム角度に近似するように、複数の正円の円弧を連続させた形状を有する正円の円弧を有する曲面は、正円とは異なる曲面と比較して、カム66の形状を設計しやすい。したがって、カム66は、第2ワンウェイクラッチ62の製造効率の向上に貢献できる。第2ワンウェイクラッチ62は、爪式クラッチであってもよい。
【0070】
変速装置30は、第3ワンウェイクラッチ70をさらに備える。第3ワンウェイクラッチ70は、第2キャリア54と出力回転体26との間に設けられる。第3ワンウェイクラッチ70は、クランクの第1方向と対応する回転方向における第2キャリア54の回転速度が出力回転体26の回転速度以上の場合、第2キャリア54の回転を出力回転体26に伝達する。第3ワンウェイクラッチ70は、クランクの第1方向と対応する回転方向における出力回転体26の回転速度が第2キャリア54の回転速度を超える場合、出力回転体26の回転を第2キャリア54に伝達しない。第3ワンウェイクラッチ70は、ローラクラッチであってもよく、爪式クラッチであってもよい。
【0071】
本実施形態の変速装置30は、第1変速ステージ、第2変速ステージ、第3変速ステージ、第4変速ステージ、および、第5変速ステージを有する。
【0072】
第1変速ステージにおいては、第2回転体12の回転トルクは変速されずに第1遊星歯車機構36、第1ワンウェイクラッチ60、第2リングギア56、および、第2ワンウェイクラッチ62を介して出力回転体26に伝達される。
【0073】
第2変速ステージにおいては、第2回転体12の回転トルクは、第1遊星歯車機構36において第1太陽ギア40Aによって増速された後、第1リングギア46、第2キャリア54、第2リングギア56、および、第2ワンウェイクラッチ62を介して出力回転体26に伝達される。第2変速ステージにおける変速比は、第1変速ステージにおける変速比よりも大きい。
【0074】
第3変速ステージにおいては、第2回転体12の回転トルクは、第1遊星歯車機構36において第1太陽ギア40Bによって増速された後、第1リングギア46、第2キャリア54、第2リングギア56、および、第2ワンウェイクラッチ62を介して出力回転体26に伝達される。第3変速ステージにおける変速比は、第2変速ステージにおける変速比よりも大きい。
【0075】
第4変速ステージにおいては、第2回転体12の回転トルクは、第1遊星歯車機構36において第1太陽ギア40Bによって増速された後、第1リングギア46を介して第2遊星歯車機構38の第2キャリア54に伝達される。第2遊星歯車機構38に入力された回転トルクは、第2遊星歯車機構38において第2太陽ギア50Aによって増速された後、第3ワンウェイクラッチ70を介して出力回転体26に伝達される。第4変速ステージにおける変速比は、第3変速ステージにおける変速比よりも大きい。
【0076】
第5変速ステージにおいては、第2回転体12の回転トルクは、第1遊星歯車機構36において第1太陽ギア40Bによって増速された後、第1リングギア46を介して第2遊星歯車機構38の第2キャリア54に伝達される。第2遊星歯車機構38に入力された回転トルクは、第2遊星歯車機構38において第2太陽ギア50Bによって増速された後、第2キャリア54および第3ワンウェイクラッチ70を介して出力回転体26に伝達される。第5変速ステージにおける変速比は、第4変速ステージにおける変速比よりも大きい。
【0077】
ハブユニット20は、ブレーキ機構28をさらに備える。ブレーキ機構28は、ハブ軸22に対する出力回転体26の回転を制動する。ブレーキ機構28は、コースタブレーキを構成する。
【0078】
ブレーキ機構28は、人力駆動車10の駆動力の伝達状態を切り替える切替機構28Aを備える。切替機構28Aは、クランクが人力駆動車10を前進させる場合に回転する第1方向に回転する場合、切替機構28Aによる駆動力の伝達を行わない。切替機構28Aは、クランクが第1方向とは反対方向の第2方向に回転する場合において、切替機構28Aによる駆動力の伝達を行う。
【0079】
制動部28Bは、第2キャリア54の端部と出力回転体26との間に設けられる。制動部28Bは、摩擦部28Cを含む。摩擦部28Cは、クランクが第2方向に回転する場合に、出力回転体26に係合し、出力回転体26に対して摩擦力を付与する。制動部28Bは、例えば、ローラブレーキである。ローラブレーキのカムは、第2ワンウェイクラッチ62のカム66と同様に、ローラ接触径とカム角度との関係が、複数の正円の円弧を連続させた形状を有していてもよい。
【0080】
切替機構28Aは、第1遊星歯車機構36と、第2遊星歯車機構38との間に設けられる。切替機構28Aは、クランクが第2方向に回転する場合、第1遊星歯車機構36に入力された回転を第2遊星歯車機構38に伝達する。第2遊星歯車機構38に伝達された回転は、制動部28Bに伝達される。クランクが第2方向に回転する場合、第1ワンウェイクラッチ60は、第1キャリア44の回転を第2キャリア54に伝達しない。クランクが第2方向に回転する場合、第2ワンウェイクラッチ62は、第2リングギア56の回転を出力回転体26に伝達しない。クランクが第2方向に回転する場合、第3ワンウェイクラッチ70は、第2キャリア54の回転を出力回転体26に伝達しない。
【0081】
<変更例>
実施形態に関する説明は、人力駆動車用のクラッチ装置および人力駆動車用の変速装置が取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本開示に従う人力駆動車用のクラッチ装置および人力駆動車用の変速装置は、例えば、以下に示される実施形態の変更例、および、相互に矛盾しない少なくとも2つの変更例が組み合わせられた形態を取り得る。以下の変更例において、実施形態と共通する部分については、実施形態と同一の符号を付してその説明が省略される。
【0082】
・支持部材86は、ファスナ部材90以外によって基材82に取り付けられてもよい。本変更例では、支持部材86は、例えば、接着剤によって基材82に取り付けられてもよく、溶接等によって基材82に取り付けられてもよい。
【0083】
図10に示されるように、クラッチ装置80は、基材82と支持部材86との間に配置され、基材82に対する係合部材84の位置を調整する調整部材100をさらに備えてもよい。基材82に対する係合部材84の位置は、例えば、径方向における中心軸心C1からの距離を含む。調整部材100は、例えば、金属材料を含む。調整部材100は、第1材料を含んでもよく、第2材料を含んでもよい。調整部材100は、可撓性の材料を含んでもよい。調整部材100は、例えば、薄板形状のシムを含む。調整部材100は、例えば、基材82の中心軸心C1に平行な方向から見て、基材82の中心軸心C1と少なくとも1つの係合部材84のピボット軸線C2との間に配置される。調整部材100は、例えば、第2平面92Bと第2基材平面83Bとの間に配置される。調整部材100には、ボルト94Aが挿入される第3孔が形成されていてもよい。第3孔は、第1孔82Cおよび第2孔86Dに対応する位置に形成される。調整部材100は、第1孔82Cおよび第2孔86Dに対応する位置を除く位置に配置されてもよい。調整部材100は、例えば、第1平面92Aと第1基材平面83Aとの間に配置されてもよい。
【0084】
・支持部材86の第2材料は、基材82の第1材料と同一であってもよい。第1材料が、第2材料と同一の材料の場合、第1材料および第2材料は、例えば、鉄を含む。本変更例では、支持部材86が基材82と別体に設けられる場合、支持部材86の形状の調整によって、基材82に対する係合部材84の位置を調整できる。したがって、クラッチ装置80は、動力を好適に伝達できる。
【0085】
・支持部材86の第2材料は、基材82の第1材料よりも軟らかくてもよい。本変更例では、係合部材84が支持部材86と接触することによる係合部材84の変形が抑制されるため、クラッチ装置80は、動力を好適に伝達できる。
【0086】
・クラッチ装置80は、基材82と、基端部84Aと遊端部84Bとを有する少なくとも1つの係合部材84と、基材82に設けられる支持部材86と、を備え、支持部材86は、少なくとも1つの係合部材84の基端部84Aに接触可能な支持面86Aを有し、基端部84Aが支持面86Aに接触した状態において、少なくとも1つの係合部材84をピボット可能に支持し、基材82は、第1材料を含み、支持部材86は、第1材料とは異なる第2材料を含めば、他の構成は適宜変更できる。本変更例では、例えば、支持部材86は、基材82と一体に形成されてもよい。支持部材86は、例えば、基材82のうちの係合部材84を支持する部分が硬化処理された第2材料によって形成されてもよい。
【0087】
図11に示されるように、第1キャリア44は、第1遊星ギアユニット48と一体に自転するキャリアピン44Aを備えてもよい。キャリアピン44Aは、複数の第1遊星ギアユニット48を貫通する。第1キャリア44は、軸方向Xにおいて、キャリアピン44Aの第1端部44Bに取り付けられる第1キャリア部分44Cを備える。キャリアピン44Aの第1端部44Bと第1キャリア部分44Cとの間には、第1軸受44Dが設けられる。第1キャリア44は、キャリアピン44Aの第2端部44Eに取り付けられる第2キャリア部分44Fを備える。キャリアピン44Aの第2端部44Eと第2キャリア部分44Fとの間には、第2軸受44Gが設けられる。第1軸受44Dおよび第2軸受44Gは、例えば、ラジアルベアリングを含む。キャリアピン44Aが第1遊星ギアユニット48と一体に自転するため、キャリアピン44Aと複数の第1遊星ギアユニット48との間に軸受が設けられる場合と比較して、第1遊星ギアユニット48の径方向のサイズの大型化を抑制できる。第2キャリア54が図11の第1キャリア44と同様に構成されてもよい。本変更例の第1キャリア44の構成は、本実施形態の遊星歯車機構42以外にも適用されてもよい。
【0088】
・カム66の形状は、第2ワンウェイクラッチ62以外のローラクラッチに適用されてもよい。
【0089】
・クラッチ装置80の構成は、変速装置40以外に設けられるクラッチ装置に適用されてもよい。例えば、クラッチ装置80は、人力駆動車用の変速操作装置に設けられるワンウェイクラッチに適用される。例えば、クラッチ装置80は、人力駆動車用のアシストドライブユニットに設けられるワンウェイクラッチに適用される。
【0090】
本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」または「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」または「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【0091】
本明細書において使用される「第1、第2、および、第3」などの序数については、単に同一の名称を有する複数の部材を区別するために用いられ、特別な意味を持たない。
【符号の説明】
【0092】
10…人力駆動車、22…ハブ軸、30…変速装置、32…遊星歯車機構、34…太陽ギア、80…クラッチ装置、82…基材、84…係合部材、84A…基端部、84B…遊端部、86…支持部材、86A…支持面、86B…第1凹部、86C…第2凹部、88…軸部材、90…環状部材、90A…内周部、90B…被係合部、92A…第1平面、92B…第2平面、94…ファスナ部材、96…付勢部材、98…制御部材、100…調整部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11