(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007325
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/46 20060101AFI20250109BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20250109BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S7/02 216
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108632
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大藪 弘和
(72)【発明者】
【氏名】高畑 利彦
(72)【発明者】
【氏名】山浦 新司
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA06
5J021HA04
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD05
5J070AD10
5J070AE20
5J070AF03
5J070AH31
5J070AH35
5J070AH40
5J070AK07
5J070BD02
(57)【要約】
【課題】物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することが可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置1は、複数の第1アンテナ素子Txを含む送信アンテナ群3と、複数の第2アンテナ素子Rxを含む受信アンテナ群4と、制御部6と、を備える。制御部6は、1つの第1アンテナ素子Txと複数の第2アンテナ素子Rxを用いた物標に対応する信号の検出結果と複数の第1アンテナ素子Txと複数の第2アンテナ素子Rxを用いた物標に対応する信号の検出結果に基づいて信号が実像か偽像かを識別する。制御部6は、各信号検出部61、62で検出された物標に対応する信号のピーク位置が所定範囲内にあり、且つ、物標に対応する信号のピークレベルの差が所定閾値以下である場合に実像と識別する。また、制御部6は、前記ピーク位置が所定範囲外、または、前記ピークレベルの差が所定閾値を超える場合に虚像と識別する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波により物標を検出するレーダ装置であって、
実在する複数の第1アンテナ素子(Tx)を含む送信アンテナ群(3)と、
実在する複数の第2アンテナ素子(Rx)を含む受信アンテナ群(4)と、
前記送信アンテナ群および前記受信アンテナ群のうち、一方のアンテナ群に含まれる1つのアンテナ素子および他方のアンテナ群に含まれる2つ以上のアンテナ素子を用いて電波を送受信した際に受信される電波に基づいて前記物標に対応する信号を検出する第1信号検出部(61)と、
前記一方のアンテナ群に含まれる2つ以上のアンテナ素子および前記他方のアンテナ群に含まれる2つ以上のアンテナ素子との間で電波を送受信した際に受信される電波に基づいて、前記物標に対応する信号を検出する第2信号検出部(62)と、
前記第1信号検出部での前記物標に対応する信号の検出結果および前記第2信号検出部での前記物標に対応する信号の検出結果を比較し、比較結果に基づいて前記物標に対応する信号が、実像か偽像かを識別する識別部(63)と、を備え、
前記識別部は、前記第1信号検出部および前記第2信号検出部それぞれで検出された前記物標に対応する信号のピーク位置が所定範囲内にあり、且つ、前記物標に対応する信号のピークレベルの差が所定閾値以下である場合に実像と識別し、前記ピーク位置が前記所定範囲外、または、前記ピークレベルの差が前記所定閾値を超える場合に虚像と識別する、レーダ装置。
【請求項2】
前記所定範囲は、前記物標に対応する信号の電力スペクトルのシミュレーション結果に基づいて、実像となる信号の前記ピーク位置の変動幅を基準に設定され、
前記所定閾値は、前記シミュレーション結果に基づいて、実像となる信号の前記ピークレベルの変動幅を基準に設定される、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記識別部は、前記第1信号検出部および前記第2信号検出部の一方で検出された信号のうち、前記ピークレベルが所定の選定閾値を超えるものを判定対象として選定し、前記判定対象となる信号を含む判定対象範囲において、前記第1信号検出部および前記第2信号検出部それぞれで検出された信号を複数回比較して前記判定対象となる信号が実像か偽像かを識別する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
複数の前記第1アンテナ素子および複数の前記第2アンテナ素子は、前記一方のアンテナ群に含まれる1つのアンテナ素子および前記他方のアンテナ群に含まれる2つ以上のアンテナ素子によって構成される第1アレイアンテナのアンテナ開口長が、前記一方のアンテナ群に含まれる2つのアンテナ素子および前記他方のアンテナ群に含まれる2つ以上のアンテナ素子を含んで構成されるMIMO用の第2アレイアンテナのアンテナ開口長の半分より大きくなるように配置されている、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記第2アレイアンテナは、前記第2アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子の一部が不等な間隔となる不等間隔アレイとなっており、
前記第2信号検出部は、前記第2アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子の並び方向に交差する方向から到来する電波によって生じる複数のアンテナ素子の間の位相差に対応する差分信号を利用して、前記第2アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子のうち、他に比べて間隔が大きくなるアンテナ素子間に位置付ける仮想アンテナ素子の信号を補間する拡張処理を実行し、前記拡張処理によって得られる拡張アレイアンテナを用いて前記物標に対応する信号を検出する、請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記第2信号検出部は、前記拡張処理において前記拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号が複数得られる場合には複数の信号を平均化する、請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記第2信号検出部は、前記拡張処理において前記拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号について窓関数処理による重み付けを行う、請求項5に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物標を検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のレーダ装置において、アンテナで受信された電波に基づいて検出された物標に対応する信号が実像か虚像かを識別する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、1つのアンテナから送信されて複数のアンテナで受信された電波に基づく物標の検出結果と複数のアンテナから送信されて複数のアンテナで受信された電波に基づく物標の検出結果を比較し、実像か虚像かを識別するものが開示されている。以下では、複数のアンテナから送信された電波を複数のアンテナで受信する構成を“MIMO”と呼んだり、1つのアンテナから送信された電波を複数のアンテナで受信する構成を“SIMO”と呼んだりすることがある。なお、MIMOは、Multi Input Multi Outputの略称である。SIMOは、Single Input Multi Outputの略称である。MISOは、Multi Input Single Outputの略称である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、電波の往路と復路とが一致しない場合に、MIMOで検出される信号のピーク位置がずれることを考慮し、MIMOおよびSIMOそれぞれで検出される信号のピーク位置に基づいて物標に対応する信号が実像か偽像かを識別する。具体的には、MIMOおよびSIMOそれぞれで検出される信号のピーク位置が異なる場合に信号が偽像であると判定し、MIMOおよびSIMOそれぞれで検出される信号のピーク位置が一致している場合に信号が実像であると判定するようになっている。
【0005】
しかしながら、電波の往路と復路とが一致する場合であっても、アンテナ構成の違いによってMIMOおよびSIMOそれぞれで検出される信号のピーク位置がずれることがある。つまり、特許文献1に示されたアンテナの配置構成では、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することができない場合がある。このことは、MIMOの構成での物標の検出結果と、複数のアンテナから送信された電波を1つのアンテナで受信する構成(MISO)の構成での物標の検出結果とを比較する場合も同様である。
【0006】
本開示は、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することが可能なレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
電波により物標を検出するレーダ装置であって、
実在する複数の第1アンテナ素子(Tx)を含む送信アンテナ群(3)と、
実在する複数の第2アンテナ素子(Rx)を含む受信アンテナ群(4)と、
送信アンテナ群および受信アンテナ群のうち、一方のアンテナ群に含まれる1つのアンテナ素子および他方のアンテナ群に含まれる2つ以上のアンテナ素子を用いて電波を送受信した際に受信される電波に基づいて物標に対応する信号を検出する第1信号検出部(61)と、
一方のアンテナ群に含まれる2つ以上のアンテナ素子および他方のアンテナ群に含まれる2つ以上のアンテナ素子との間で電波を送受信した際に受信される電波に基づいて、物標に対応する信号を検出する第2信号検出部(62)と、
第1信号検出部での物標に対応する信号の検出結果および第2信号検出部での物標に対応する信号の検出結果を比較し、比較結果に基づいて物標に対応する信号が、実像か偽像かを識別する識別部(63)と、を備え、
識別部は、第1信号検出部および第2信号検出部それぞれで検出された物標に対応する信号のピーク位置が所定範囲内にあり、且つ、物標に対応する信号のピークレベルの差が所定閾値以下である場合に実像と識別し、ピーク位置が所定範囲外、または、ピークレベルの差が所定閾値を超える場合に虚像と識別する。
【0008】
これによれば、電波の往路と復路とが一致する場合にアンテナ構成の違いによってMIMOおよびSIMOそれぞれで検出される信号のピーク位置がずれたとしても、当該信号を実像として判定することが可能となる。このため、前述の従来技術に比べて、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るレーダ装置の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態に係るレーダ装置における実在する複数の送信アンテナ素子を含む送信アンテナ群を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態に係るレーダ装置における実在する複数の受信アンテナ素子を含む受信アンテナ群を示す模式図である。
【
図4】第1実施形態に係るレーダ装置におけるMIMO用の第2アレイアンテナを説明するための説明図である。
【
図5】レーダ装置の制御部が実行する物標検出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】レーダ装置におけるアンテナ素子の配置態様の一例を示す模式図である。
【
図7】SIMOにおける物標に対応する信号の電力スペクトルを説明するための説明図である。
【
図8】MIMOにおける物標に対応する信号の電力スペクトルを説明するための説明図である。
【
図9】
図6のアンテナ構成で1つの物標の方位を推定した際のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図10】電波の往路と復路とが一致する場合および電波の往路と復路とが一致しない場合を説明するための説明図である。
【
図11】物標が2つある場合のSIMOにおける電力スペクトルを説明するための説明図である。
【
図12】物標が2つあり、且つ、電波の往路と復路とが一致する場合のMIMOにおける電力スペクトルを説明するための説明図である。
【
図13】電波の往路と復路とが一致する場合において、2つの物標の方位を推定した際のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図14】物標が2つあり、且つ、電波の往路と復路とが不一致となる場合のMIMOにおける電力スペクトルを説明するための説明図である。
【
図15】電波の往路と復路とが不一致となる一例において、2つの物標の方位を推定した際のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図16】電波の往路と復路とが不一致となる他の例において、2つの物標の方位を推定した際のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図17】電波の往路と復路とが不一致となる場合において、2つの物標の方位を推定した際のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図18】レーダ装置の制御部が実行する信号判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図19】第1実施形態の比較例となるアンテナ構成を説明するための説明図である。
【
図20】第1実施形態の比較例となるアンテナ構成での方位の推定結果を示すスペクトル図である。
【
図21】第1実施形態に係るレーダ装置のアンテナ構成を説明するための説明図である。
【
図22】第1実施形態に係るレーダ装置のアンテナ構成での方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図23】第2実施形態に係るレーダ装置のアンテナ構成を説明するための説明図である。
【
図24】第2実施形態に係るレーダ装置のアンテナ構成での方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図25】第3実施形態に係るレーダ装置のアンテナ構成を説明するための説明図である。
【
図26】第3実施形態に係るレーダ装置のアンテナ構成での方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図27】第4実施形態に係るレーダ装置における拡張アレイアンテナを説明するための説明図である。
【
図28】第4実施形態に係るレーダ装置における拡張アレイアンテナの共分散行列を説明するための説明図である。
【
図30】拡張アレイアンテナを用いた場合の方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図31】第2アレイアンテナを用いた場合の方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図32】拡張アレイアンテナを用いた場合の方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図33】電波の往路と復路とが一致する場合および不一致となる場合の反射波が混在している状況での方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図34】電波の往路と復路とが不一致となる場合の反射のみが存在している状況での方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図35】位相がランダムに変化して
図34とは異なる位相条件となる場合であって、電波の往路と復路とが不一致となる場合の反射のみが存在している状況での方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図36】位相がランダムに変化して
図34、
図35とは異なる位相条件となる場合であって、電波の往路と復路とが不一致となる場合の反射のみが存在している状況での方位のシミュレーション結果を示すスペクトル図である。
【
図37】第5実施形態のレーダ装置の制御部が実行する信号判定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0012】
(第1実施形態)
本実施形態について、
図1~
図22を参照しつつ説明する。本実施形態では、本開示のレーダ装置1を、車両に搭載されて車両の周囲に存在する様々な物標を検出する物標検出装置に適用した例について説明する。
【0013】
レーダ装置1は、車両の前方に向けて電波を出射するとともに、車両の前方にある物標によって反射した電波を受信することで、物標までの距離、自車両に対する相対速度、自車両に対する方位等を求める。
【0014】
レーダ装置1は、信号の変調方式としてFMCW方式が採用されている。レーダ装置1は、電波の動作周波数が、ミリ波に対応する周波数帯(例えば、76.5GHz)とされている。なお、レーダ装置1が送受信する電波の動作周波数は、ミリ波に対応する周波数に限定されず、ミリ波以外の周波数であってもよい。
【0015】
図1に示すように、レーダ装置1は、送信部2と、実在する複数の第1アンテナ素子Txを含む送信アンテナ群3と、実在する複数の第2アンテナ素子Rxを含む受信アンテナ群4と、受信部5と、制御部6とを備える。
【0016】
送信部2は、送信アンテナ群3から送信する信号を生成し、送信アンテナ群3に伝える。具体的には、送信部2は、ローカル信号を生成し、生成したローカル信号を受信部5に伝える。また、送信部2は、連続的に周波数が変化するチャープ信号を生成し、生成したチャープ信号を送信アンテナ群3に提供する。
【0017】
送信アンテナ群3は、送信部2から提供されたチャープ信号に対応する電波を車両の前方に向けて送信する。本例の送信アンテナ群3は、実在する2つの第1アンテナ素子Txによって構成されている。第1アンテナ素子Txは、所定の間隔をあけて予め定めた方向に配列方向に沿って一列に配置されている。
【0018】
本実施形態の第1アンテナ素子Txは、車両の幅方向に並ぶように配列されている。
図2に示すように、第1アンテナ素子Txは、基準距離dの2倍となる「2d」の間隔をあけて配置されている。第1アンテナ素子Txの間隔は、厳密に基準距離dの倍数となっている状態の他、本開示の技術が属する技術分野で一般的に許容される誤差であって、本開示の技術の趣旨に反しない程度の誤差が含まれていてもよい。
【0019】
ここで、基準距離dは、レーダ装置1の探知範囲を“±1/2・θfov”としたとき、以下の数式F1を満たすように設定される。本実施形態では、θfovを“180°”とし、基準距離dを“1/2・λ”とする。なお、λは、電波の波長である。
【0020】
1/sin(θfov/180・π)・2<d ・・・(F1)
受信アンテナ群4は、送信アンテナ群3から送信されて物標によって反射した電波等を受信する。本例の受信アンテナ群4は、実在する4つの第2アンテナ素子Rxによって構成されている。第2アンテナ素子Rxは、所定の間隔をあけて予め定めた方向に配列方向に沿って一列に配置されている。
【0021】
本実施形態の第2アンテナ素子Rxは、車両の幅方向に並ぶように等間隔に配列されている。
図3に示すように、第2アンテナ素子Rxは、基準距離dの3倍となる「3d」の間隔をあけて配置されている。
【0022】
第2アンテナ素子Rxの間隔は、厳密に基準距離dの倍数となっている状態の他、本開示の技術が属する技術分野で一般的に許容される誤差であって、本開示の技術の趣旨に反しない程度の誤差が含まれていてもよい。また、“等間隔”とは、厳密に同じ間隔となっている状態だけを意味するものではなく、本開示の技術が属する技術分野で一般的に許容される誤差であって、本開示の技術の趣旨に反しない程度の誤差を含むものも含まれる。
【0023】
受信部5は、受信アンテナ群4で受信された受信信号および送信部2から伝えられたローカル信号に基づいてビート信号を生成し、当該ビート信号をサンプリングして制御部6へ提供する。図示しないが、受信部5は、ミキサ、増幅器、AD変換器等を含んで構成されている。
【0024】
制御部6は、プロセッサ、メモリを備えたマイクロコンピュータを中心に構成された電子制御機器である。メモリは、例えば、ROM、RAM等である。マイクロコンピュータの各種機能は、プロセッサが非遷移的実体的記憶媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0025】
制御部6は、1つの第1アンテナ素子Txおよび複数の第2アンテナ素子Rxといったアンテナ構成に対応するSIMO用の第1アレイアンテナを用いて電波を送受信した際に受信される電波に基づいて物標に対応する信号を検出する。本実施形態の第1アレイアンテナは、1つの第1アンテナ素子Txおよび4つの第2アンテナ素子Rxといったアンテナ構成となっている。本実施形態では、制御部6のうち、第1アレイアンテナを用いて電波を送受信した際に受信される電波に基づいて物標に対応する信号を検出するソフトウエア、ハードウエアが“第1信号検出部61”を構成している。
【0026】
また、制御部6は、複数の第1アンテナ素子Txおよび複数の第2アンテナ素子Rxといったアンテナ構成に対応するMIMO用の第2アレイアンテナを用いて電波を送受信した際に受信される電波に基づいて物標に対応する信号を検出する。本実施形態の第2アレイアンテナは、2つの第1アンテナ素子Txおよび4つの第2アンテナ素子Rxといったアンテナ構成となっている。本実施形態では、制御部6のうち、第2アレイアンテナを用いて電波を送受信した際に受信される電波に基づいて物標に対応する信号を検出するソフトウエア、ハードウエアが“第2信号検出部62”を構成している。第2信号検出部62は、MIMO等による仮想アンテナを生成する補間処理を実行し、当該補間処理の処理結果に基づいて物標に対応する信号を検出する。
【0027】
ここで、MIMO用のアレイアンテナについて説明する。本実施形態の第2アレイアンテナは、4つの第2アンテナ素子Rxに4つの仮想アンテナ素子Vxを加えた仮想アレイとなっている。このような仮想アレイは、2つの第1アンテナ素子Txから送信された電波を4つの第2アンテナ素子Rxを受信し、信号処理を施すことで得られる。本実施形態の第2アレイアンテナは、アンテナ素子が不等間隔となる配置構成となっている。
【0028】
具体的には、本実施形態のレーダ装置1は、実在するアンテナ素子として、
図4の上段に示すように、“2d”の間隔をあけて配置された2つの第1アンテナ素子Txと、“3d”の間隔をあけて配置された4つの第2アンテナ素子Rxとを備える。
【0029】
第2アンテナ素子Rxの正面方向に対する電波の到来角を“θ”としたとき、隣り合う第2アンテナ素子Rxでの行路差は“3dsinθ”となる。また、電波の波長をλをとしたとき、隣り合う第2アンテナ素子Rxでの位相差は、行路差に“2π/λ”を乗じた“(2π/λ)・3dsinθ”となる。また、2つの第1アンテナ素子Txから多重送信する場合、2つの第1アンテナ素子Txの間隔に対応する行路差も加わる。
【0030】
したがって、本実施形態の第2アレイアンテナは、4つの第2アンテナ素子Rxおよび4つの仮想アンテナ素子Vxが、
図4の下段に示すように配列された仮想アレイとして構成されている。
【0031】
但し、当該仮想アレイは、電波の往路と復路の角度が略一致していることが前提である。マルチパスによって電波の往路と復路の角度が異なる場合、第2アレイアンテナでは、物標に対応する信号だけでなく、物標の方位とは異なる方位に対応する信号が偽像として検出される。なお、ミラーとしては、道路側方に配置されるガードレールや壁等が挙げられる。
【0032】
一方、第1アレイアンテナは、実在するアンテナ素子で構成されるSIMO用のアレイアンテナなので、電波の往路と復路の角度が略一致している必要がない。このため、第1アレイアンテナでは、マルチパスによる偽像の影響がない。
【0033】
これらを踏まえ、レーダ装置1は、物標検出処理において、第1アレイアンテナおよび第2アレイアンテナの双方によって物標に対応する信号を検出し、その検出結果に基づいて、物標に対応する信号が実像か偽像かを識別するようになっている。具体的には、制御部6は、第1アレイアンテナを用いた際の物標に対応する信号の検出結果と第2アレイアンテナを用いた際の物標に対応する信号の検出結果とを比較し、比較結果に基づいて、物標に対応する信号が実像か偽像かを識別する。本実施形態では、制御部6のうち、第1信号検出部61での物標に対応する信号の検出結果および第2信号検出部62での物標に対応する信号の検出結果を比較し、比較結果に基づいて物標に対応する信号が実像か偽像かを識別する“識別部63”を構成している。
【0034】
以下、レーダ装置1の制御部6が実行する物標検出処理について
図5を参照しつつ説明する。
図5に示す処理は、送信アンテナ群3から所定の送信周期でチャープ信号が送信されると、制御部6によって周期的または不定期に実行される。
【0035】
図5に示すように、制御部6は、ステップS100にて、物標からの反射波を受信アンテナ群4で受信する。この受信信号は受信部5のミキサにてローカル信号と混合される。その後、ローパスフィルタにより所望の周波数成分が抽出されて、当該周波数成分がビート信号として受信部5から制御部6へ提供される。
【0036】
続いて、制御部6は、ステップS110にて、距離FFTの処理を行う。制御部6は、ビート信号をFFTにより周波数解析することで、物標までの距離を求める。なお、FFTは、Fast Fourier Transformの略称である。
【0037】
続いて、制御部6は、ステップS120にて、速度FFTの処理を行う。制御部6は、FFTによりビート周波数成分毎にFFTを行ってドップラ周波数を求めるとともに当該ドップラ周波数に基づいて物標の相対速度を求める。
【0038】
続いて、制御部6は、ステップS130にて、SIMO用の第1アレイアンテナによってレーダ装置1に対する物標の方位を検出する第1方位推定の処理を行う。制御部6は、第1アレイアンテナを構成するアンテナ素子で受信される受信信号の位相が反射波の到来角によって異なることを基に、物標の方位を検出する。
【0039】
続いて、制御部6は、ステップS140にて、MIMO用の第2アレイアンテナによって物標の方位を検出する第2方位推定の処理を行う。制御部6は、第2アレイアンテナを構成するアンテナ素子で受信される受信信号の位相が反射波の到来角によって異なることを基に、物標の方位を検出する。
【0040】
続いて、制御部6は、ステップS150にて、物標に対応する信号が実像か偽像かを判定する信号判定処理を行う。この信号判定処理では、SIMO用の第1アレイアンテナでの物標に対応する信号の検出結果とMIMO用の第2アレイアンテナでの物標に対応する信号の検出結果を比較し、比較結果に基づいて物標に対応する信号が、実像か偽像かを識別する。具体的には、制御部6は、第1アレイアンテナでの物標に対応する信号の電力スペクトルと第2アレイアンテナでの物標に対応する信号の電力スペクトルとを比較して、物標に対応する信号が実像か偽像かを識別する。
【0041】
ここで、
図6に示すアンテナ素子xlmの配置態様を例に、物標に対応する信号の電力スペクトルについて
図7~
図17を参照しつつ説明する。なお、以下では、SIMO用の第1アレイアンテナを“SIMO”と呼んだり、MIMO用の第2アレイアンテナを“MIMO”と呼んだりすることがある。xlmは、“l”が送信アンテナに対応するインデックスであり、“m”が受信アンテナに対応するインデックスである。
【0042】
図7の(1.1)に示すように各アンテナ素子xlmでの受信信号をベクトルXで表し、
図7の(1.2)に示すように方位UをアレイベクトルAで表したとき、両者を掛け合わせることで、
図7の(1.3)に示す方位Uでのスペクトル信号Spが求められる。なお、
図7では、“n”がアンテナ数、“m”が第2アンテナ素子Rxのアンテナ位置、“l”が第1アンテナ素子Txのアンテナ位置、“U”が方位角θの正弦(sinθ)を示している。MIMOでは“l”と“m”の組み合わせとなる。
【0043】
SIMOの場合、ターゲットがk個での受信信号は
図7の(1.4)で示すものとなり、ターゲットが1個の場合は
図7の(1.5)で示すものとなる。例えば、k=1、ターゲット位置が“U=0(θ1=0°)”の場合、ベクトルXが(1、1)
Tとなるのでスペクトル信号Spは
図7の(1.6)で示すものとなる。なお、SIMOの場合、第1アンテナ素子Txが1つであるためdm=0としている。
【0044】
図7の(1.6)によると、ターゲットを示すU=0でスペクトル信号Spが2s1となり最大となる。また、U=2/3では、3πsinθ=2πとなり、
図7の(1.6)の各項が同位相となり強め合うことで、スペクトル信号Spが2s1となる。つまり、ターゲット位置(U=0)以外でも、スペクトル信号Spが最大のピークとなる。これがグレーティングローブGLである。
【0045】
ここで、等間隔で配置されるアンテナ素子の数が増えた場合のスペクトル信号Spは、“Sp=s1+s1e^(-j3πU)+s1e^(-j2*3πU)+s1e^(-j3*3πU)+・・・”となる。このため、同じ条件下であれば各項の位相が2πの整数倍で同位相となり、グレーティングローブGLが発生する。つまり、等間隔のアンテナ素子の配置態様によっては、グレーティングローブGLが発生する。なお、アンテナ素子の基準距離dを1/2λとすると、-1<(2π/λ)・3dsinθ<1を満たさないのでグレーティングローブGLが生じない。
【0046】
一方、MIMOの場合、ターゲットがk個での受信信号は
図8の(2.1)で示すものとなる。例えば、k=1、ターゲット位置が“U=0”の場合、ベクトルXが(1、1、1、1)
Tとなるのでスペクトル信号Spは
図8の(2.2)で示すものとなる。
【0047】
図8の(2.2)によると、U=0でスペクトル信号Spが4s1となり最大となる。一方、U=0以外で各項が同位相となるものは存在しない。つまり、MIMOでは、グレーティングローブGLが発生しない。但し、4s1より小さいものの各項が強め合い、スペクトル信号Spの絶対値がピークを持つことがある。これがサイドローブSLである。このサイドローブSLについては、理論式で定めるのは難しく、シミュレーションで計算する必要がある。
【0048】
MIMOにおいて各アンテナ素子の位置“dl+dm”が“1/2λ”となる間隔に並ぶ場合のスペクトル信号Spは、“Sp=s1+s1e^(-jπU)+s1e^(-j2πU)+s1e^(-j3πU)+・・・”となる。各項のeの階乗の位相項にπUの自然数倍が並ぶため位相を強め合う方位角が存在し難く、スペクトル信号Spは位相が回転する同じ振幅の複素数の和になるためU=0以外でのスペクトル信号Spはゼロに近づく。このため、例えば、各アンテナ素子の位相差に基づく差分信号を用いて1/2λとなる間隔に並ぶアンテナ素子を増やすことでサイドローブSLを低減することができる。なお、1/2λ以上の等間隔の場合は、スペクトル信号Spの各項が同位相となる条件でグレーティングローブGLとなるが、1/2λ間隔で並ぶ場合のように様々な位相成分を持つ各項の和にはならないため、サイドローブSLは最小となる。
【0049】
図9は、ターゲットが中央にあり(U1=0)、反射電力s1=1とした場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
図9に示すように、SIMOのスペクトル信号Spは、ターゲット位置以外にグレーティングローブGLが生ずる。一方、MIMOのスペクトル信号Spは、ターゲット位置以外にグレーティングローブGLが生じない。したがって、SIMOのスペクトル信号SpおよびMIMOのスペクトル信号Spを比較することで、物標を示す信号が実像か偽像かを識別することができる。
【0050】
続いて、
図10の左側に示すように、ミラーによる反射が加わり、ターゲットが2個となった場合について説明する。この前提において、SIMOでの各アンテナ素子xijでの受信信号が
図11の(3.1)、ベクトルXが
図11の(3.2)、スペクトル信号Spが
図11の(3.3)に示すものとなる。
【0051】
一方、MIMOにおいて電波の往路と復路との経路が一致し、且つ、ミラーによる反射が加わった場合、各アンテナ素子xlmでの受信信号が
図12の(4.1)、ベクトルXが
図12の(4.2)、スペクトル信号Spが
図12の(4.3)に示すものとなる。
【0052】
図12の(4.1)、(4.2)には、ミラーによる反射を示す項が加わっている。これにより、スペクトル信号Spを示す(4.3)では、各項のeの階乗の位相を強め合う方位Uが“0”からずれ、その絶対値も
図8の(2.2)で示すものとは異なる。
【0053】
これに加えて、“θ
2”でミラーによる反射を示す項も強め合うため、“θ
2”の近くでもスペクトル信号Spの絶対値が大きくなる。なお、SIMOのスペクトル信号Spを示す
図11の(3.3)とMIMOのスペクトル信号Spを示す
図12の(4.3)は式の形が異なるため、それぞれのピーク位置および絶対値が異なる。
【0054】
図13は、ターゲットが2個(U1=0、U2=0.643)あり、反射電力をs1=s2=1とした場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
図13に示すように、ターゲット位置におけるSIMOのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベル(すなわち、振幅)は、MIMOのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルとは異なるものとなっている。
【0055】
このように、ターゲットが複数ある場合、経路が一致している場合であっても、SIMOとMIMOとでスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルが異なることがある。
【0056】
続いて、
図10の中央および右側に示すように、電波の往路と復路との経路が一致しない場合について説明する。MIMOにおいて電波の往路と復路との経路が一致せず、且つ、ターゲットが1つの場合、各アンテナ素子xlmでの受信信号が
図14の(5.1)に示すものとなる。電波の往路がθ
t=θ
2、復路がθ
r=θ
1=0である場合、ベクトルXが
図14の(5.2)で示すものとなり、スペクトル信号Spが
図14の(5.3)で示すものとなる。
【0057】
図14の(5.3)で示すスペクトル信号Spは、
図7の(1.6)で示したスペクトル信号Spに比べて項の数が多く、それぞれアンテナ素子xmの位置に対応した位相を持ち、それらの和となっている。このため、U=0でスペクトルの絶対値は最大とはならず、異なる位置で最大となり、その値はSIMOとは異なる。
【0058】
また、
図14の(5.3)で示すスペクトル信号Spは、MIMOにおいて経路一致でミラーによる反射が加わった場合のスペクトル信号Spを示す
図12の(4.3)とも異なる形となっている。このため、θ
r=0°やθ
tとは異なる位置でピークを持つこともある。これがMIMOにおける経路不一致による偽像である。また、この受信信号をSIMOでデジタルビームフォーミング(すなわち、DBF)した場合のスペクトル信号Spは、
図14の(5.4)で示すものとなる。
【0059】
図15は、
図14の(5.3)で示すスペクトル信号Spと
図14の(5.4)で示すスペクトル信号Spとの比較結果である。
図15に示すように、SIMOのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルは、MIMOのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルとは異なるものとなっている。
【0060】
また、電波の往路θ
t=θ
1=0が、復路がθ
r=θ
2である場合、ベクトルXが
図14の(5.5)で示すものとなり、スペクトル信号Spが
図14の(5.6)で示すものとなる。この受信信号をSIMOでデジタルビームフォーミングした場合のスペクトル信号Spは、
図14の(5.7)で示すものとなる。
【0061】
図16は、
図14の(5.6)で示すスペクトル信号Spと
図14の(5.7)で示すスペクトル信号Spとの比較結果である。
図16に示すように、SIMOのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルは、MIMOのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルとは異なるものとなっている。
【0062】
また、電波の経路が不一致となる電波が重なる場合もある。この場合の受信信号は、
図14の(5.3)と(5.5)を加算したものとなる。この場合、スペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルが、例えば、
図17に示すように変化する。このような変化は、電波の経路が一致する電波および経路が不一致となる電波が重なる場合も同様に生じる。
【0063】
このように、SIMOおよびMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルは、ターゲットの位置を示す方位U1、U2であっても変化することがある。このことを踏まえ、本実施形態の制御部6は、SIMOおよびMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルが所定の判定領域JA内にあるか否かを判定する信号判定処理を行うようになっている。以下、制御部6が実行する信号判定処理について
図18を参照しつつ説明する。
【0064】
図18に示すように、制御部6は、ステップS151にて、判定の対象とするスペクトル信号Spを選定する。制御部6は、例えば、MIMOでのスペクトル信号Spのうち、ピークレベルが所定の選定閾値を超えるものを判定対象に選定する。選定閾値は、実験やシミュレーションにより設定される。選定閾値は、例えば、物標に対応する信号が実像である場合のスペクトル信号Spのピークの最小値に設定される。なお、制御部6は、SIMOでのスペクトル信号Spに基づいて判定対象とするスペクトル信号Spを選定するようになっていてもよい。
【0065】
続いて、制御部6は、ステップS152は、SIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置とMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置との差が、所定範囲内であるか否かを判定する。具体的には、判定対象となるスペクトル信号Spのピーク位置を含む所定範囲内に、SIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置があるか否かを判定する。
【0066】
所定範囲は、実験やシミュレーションにより設定される。所定範囲は、例えば、物標に対応する信号が実像である場合のSIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置とMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置との最大値に設定される。本発明者らの検討によれば、物標に対応する信号が実像である場合のMIMOでのスペクトル信号Spのピークの半値幅となる範囲内に、SIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置が存在するケースが多い傾向があった。このため、所定範囲は、MIMOでのスペクトル信号Spのピークの半値幅に設定されていてもよい。
【0067】
SIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置とMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置との差が所定範囲外である場合、制御部6は、ステップS153にて、判定対象となる物標に対応する信号が“偽像”であると判定する。
【0068】
一方、SIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置とMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置との差が所定範囲内である場合、制御部6は、ステップS154に移行する。制御部6は、ステップS154にて、SIMOでのスペクトル信号SpのピークレベルとMIMOでのスペクトル信号Spのピークレベルとの差が、所定閾値以下であるか否かを判定する。具体的には、ピーク位置が所定範囲内にあるスペクトル信号Spのピークレベルの差が、所定閾値以下であるか否かを識別する。
【0069】
所定閾値は、実験やシミュレーションにより設定される。所定範囲は、例えば、物標に対応する信号が実像である場合のSIMOでのスペクトル信号SpのピークレベルとMIMOでのスペクトル信号Spのピークレベルとの差の最大値に設定される。
【0070】
SIMOでのスペクトル信号SpのピークレベルとMIMOでのスペクトル信号Spのピークレベルとの差が、所定閾値以下である場合、制御部6は、ステップS155にて、判定対象となる物標に対応する信号が“実像”であると識別する。
【0071】
また、SIMOでのスペクトル信号SpのピークレベルとMIMOでのスペクトル信号Spのピークレベルとの差が、所定閾値を超える場合、制御部6は、ステップS153にて、判定対象となる物標に対応する信号が“偽像”であると識別する。
【0072】
このような信号判定処理は、判定対象となる信号が複数ある場合、判定対象となる信号毎に実施される。信号判定処理が完了すると、制御部6は、
図5のステップS160に移行して、信号判定処理にて実像と識別された信号に基づいて物標の検出を行う。
【0073】
以上説明したレーダ装置1は、物標検出処理において、第1アレイアンテナおよび第2アレイアンテナの双方によって物標に対応する信号を検出し、その検出結果に基づいて、物標に対応する信号が実像か偽像かを識別するようになっている。これによれば、ターゲットとなる物標を精度よく検出することが可能となる。
【0074】
特に、制御部6は、SIMOおよびMIMOそれぞれで検出された物標に対応する信号のピーク位置が所定範囲内にあり、且つ、物標に対応する信号のピークレベルの差が所定閾値以下である場合に実像と識別する。また、制御部6は、SIMOおよびMIMOそれぞれで検出された物標に対応する信号のピーク位置が所定範囲外、または、物標に対応する信号のピークレベルの差が所定閾値を超える場合に虚像と識別する。
【0075】
これによれば、電波の往路と復路とが一致する場合にアンテナ構成の違いによってMIMOおよびSIMOそれぞれで検出される信号のピーク位置がずれたとしても、当該信号を実像として判定することが可能となる。このため、従来技術に比べて、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0076】
また、本実施形態のレーダ装置1は、以下の特徴を備える。
【0077】
(1)所定範囲は、物標に対応する信号の電力スペクトルのシミュレーション結果に基づいて、実像となる信号のピーク位置の変動幅を基準に設定される。また、所定閾値は、物標に対応する信号の電力スペクトルのシミュレーション結果に基づいて、実像となる信号のピークレベルの変動幅を基準に設定される。このように、所定範囲および所定閾値についてシミュレーション結果に基づいて設定すれば、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0078】
ここで、SIMOおよびMIMOでは大小様々な信号が検出されるが、レーダ装置1では、物標を検出することができればよいので、全ての信号について実像か偽像かを識別する必要はない。このため、制御部6は、SIMOおよびMIMOの一方で検出された信号のうちピークレベルが所定の選定閾値を超えるものを判定対象とし、判定対象となる信号をSIMOおよびMIMOの他方で検出された信号とを比較するようになっていることが望ましい。
【0079】
(2)従来技術のアンテナ構成は、
図19に示すように、“4d”の間隔をあけて配置された2つの第1アンテナ素子Txと、“1d”の間隔をあけて配置された4つの第2アンテナ素子Rxとを備える構成となっている。
【0080】
このようなアンテナ構成では、SIMOのアンテナ開口長が“3d”となり、MIMOのアンテナ開口長が“7d”となる。つまり、MIMOのアンテナ開口長がSIMOのアンテナ開口長に比べて倍以上となり、両者の分解能が大きく異なる。このことは、物標に対応する信号が実像か偽像かを判定する際の精度低下を招く。
【0081】
図20は、従来技術のアンテナ構成において、ターゲットが2個(U1=0、U2=0.259)、反射電力を1(0dB)とした場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
図20に示すように、接近した2つの物標がターゲットとなる場合、MIMOの構成では2つの物標に対応する2つの信号のピークを検出できても、SIMOの構成では2つの物標に対応する2つの信号のピークを検出できない。この場合、SIMOおよびMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置が判定領域JA外となり、ターゲット位置にある像を偽像と判定してしまう虞がある。
【0082】
これに対して、本実施形態のレーダ装置1は、SIMOのアンテナ開口長が、MIMOのアンテナ開口長の半分より大きくなるように第1アンテナ素子Txおよび第2アンテナ素子Rxが配置されている。このようなアンテナ構成は、第1アンテナ素子Txの間隔をSIMOのアンテナ開口長よりも小さくすることで得られる。本実施形態のレーダ装置1では、第2アンテナ素子Rxを基準距離dの複数倍となる基準間隔をあけて等間隔に並んで配置するとともに、第1アンテナ素子Txを基準間隔よりも小さい間隔で配置している。なお、第1アンテナ素子Txが3つ以上ある場合、第1アンテナ素子Txの最大の間隔をSIMOのアンテナ開口長よりも小さくすることで、SIMOのアンテナ開口長がMIMOのアンテナ開口長の半分より大きくなるアンテナ構成が得られる。
【0083】
具体的には、
図21に示すように、レーダ装置1は、“2d”の間隔をあけて配置された2つの第1アンテナ素子Txと、“3d”の間隔をあけて配置された4つの第2アンテナ素子Rxとを備える。このようなアンテナの配置構成では、SIMOのアンテナ開口長が“9d”となり、MIMOのアンテナ開口長が“11d”となる。つまり、SIMOのアンテナ開口長がMIMOのアンテナ開口長の半分より大きくなっている。
【0084】
図22は、本実施形態のアンテナ構成において、ターゲットが2個(U1=0、U2=0.259)、反射電力を1(0dB)とした場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
図22に示すように、接近した2つの物標がターゲットとなる場合、MIMOの構成およびSIMOの構成の双方において、2つの物標に対応する2つの信号のピークを検出することができる。そして、SIMOおよびMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルの双方が判定領域JA内となり、ターゲット位置にある像を実像と判定することができる。
【0085】
このように、本実施形態のレーダ装置1は、SIMOおよびMIMOの分解能の違いに起因する実像および偽像の判定精度が低下し難くなっており、前述の従来技術に比べて、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0086】
(3)複数の第2アンテナ素子Rxは、所定の基準距離dの複数倍となる基準間隔をあけて等間隔に並んで配置されている。複数の第1アンテナ素子Txは、基準間隔よりも小さい間隔で配置されるものが含まれている。このように、第1アンテナ素子Txおよび第2アンテナ素子Rxの一方の間隔について基準間隔をあけて等間隔に並んで配置し、他方の間隔について基準間隔よりも小さい間隔を含むものとすれば、MIMOでのアンテナ素子の間隔を小さくすることができる。この場合、MIMOでのサイドローブSLが小さくなり易くなるので、サイドローブSLを実像として誤検出することが抑制される。
【0087】
(4)第1アンテナ素子Txは、基準間隔よりも基準距離dの分だけ小さい間隔をあけて配置されるものが含まれている。これによれば、MIMOにおいて実在するアンテナ素子と仮想アンテナ素子との間隔が基準距離dとなるものが含まれることで、MIMOでのサイドローブSLの発生を抑えることができる。
【0088】
(第1実施形態の変形例)
上述の実施形態の如く、SIMOのアンテナ開口長が、MIMOのアンテナ開口長の半分より大きくなるように第1アンテナ素子Txおよび第2アンテナ素子Rxが配置されていることが望ましいが、これに限定されない。レーダ装置1は、例えば、MISOのアンテナ開口長が、MIMOのアンテナ開口長の半分以下となるように、第1アンテナ素子Txおよび第2アンテナ素子Rxが配置されていてもよい。
【0089】
上述の実施形態の如く、複数の第2アンテナ素子Rxは、所定の基準距離dの複数倍となる基準間隔をあけて等間隔に並んで配置されていることが望ましいが、これに限定されない。複数の第2アンテナ素子Rxは、少なくとも一部が不等間隔となるように配置されていてもよい。
【0090】
上述の実施形態の如く、第1アンテナ素子Txは、基準間隔よりも基準距離dの分だけ小さい間隔をあけて配置されるものが含まれていることが望ましいが、そのようになっていなくてもよい。
【0091】
上述の実施形態の制御部6は、SIMOおよびMIMOそれぞれで検出された物標に対応する信号のピーク位置が所定範囲内にあり、且つ、物標に対応する信号のピークレベルの差が所定閾値以下である場合に実像と識別するようになっている。この所定範囲は、物標に対応する信号の電力スペクトルのシミュレーション結果に基づいて、実像となる信号のピーク位置の変動幅を基準に設定されることが望ましいが、これに限定されない。所定範囲は、例えば、経験的に得られた範囲(例えば、半値幅)に設定されていてもよい。
【0092】
また、所定閾値は、物標に対応する信号の電力スペクトルのシミュレーション結果に基づいて、実像となる信号のピークレベルの変動幅を基準に設定されることが望ましいが、これに限定されない。所定閾値は、例えば、物標に対応する信号が実像である場合のSIMOでのスペクトル信号SpのピークレベルとMIMOでのスペクトル信号Spのピークレベルとの差の平均値または最大値に設定されていてもよい。
【0093】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、
図23、
図24を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0094】
図23に示すように、本実施形態の受信アンテナ群4は、4つの第2アンテナ素子Rxを備える。本実施形態の第2アンテナ素子Rxは、基準距離dの複数倍となる基準間隔をあけて等間隔に並んで配置されている。具体的には、第2アンテナ素子Rxは、基準距離dの6倍となる「6d」の間隔をあけて配置されている。
【0095】
また、本実施形態の送信アンテナ群3は、3つの第1アンテナ素子Txを備える。第1アンテナ素子Txは、基準間隔よりも小さい間隔をあけて配置されている。具体的には、第1アンテナ素子Txのうち一端側に位置するものを基準素子としたとき、基準素子から基準距離dの2倍となる「2d」の間隔をあけた位置と、基準距離dの5倍となる「5d」の間隔をあけた位置に第1アンテナ素子Txが配置されている。なお、本例の第1アンテナ素子Txには、基準間隔よりも基準距離dの分だけ小さい間隔をあけて配置されるものが含まれている。
【0096】
このようなアンテナ構成では、SIMOのアンテナ開口長が“18d”となり、MIMOのアンテナ開口長が“23d”となる。つまり、SIMOのアンテナ開口長がMIMOのアンテナ開口長の半分より大きくなっている。また、MIMOを構成する第2アレイアンテナは、アンテナ素子同士の間隔が「1d」、「2d」、「3d」、「4d」、「5d」、「6d」といった連番となる配置構成となっている。
【0097】
図24は、本実施形態のアンテナ構成において、ターゲットが2個(U1=0、U2=0.174)、反射電力を1(0dB)とした場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
図24に示すように、接近した2つの物標がターゲットとなる場合、MIMOの構成およびSIMOの構成の双方において、2つの物標に対応する2つの信号のピークを検出することができる。そして、SIMOおよびMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルの双方が判定領域JA内となり、ターゲット位置にある像を実像と判定することができる。
【0098】
ここで、SIMOにおける第2アンテナ素子Rxの間隔が大きくなることでグレーティングローブGLが大量に発生する。一方、MIMOにおけるアンテナ素子同士の間隔が「1d」、「2d」、「3d」、「4d」、「5d」、「6d」といった連番となる配置構成となっているのでサイドローブSLが小さくなっている。このため、本実施形態のレーダ装置1によれば、ターゲット位置以外にある像を偽像と判定することができる。
【0099】
以上の如く、本実施形態のレーダ装置1は、SIMOおよびMIMOの分解能の違いに起因する実像および偽像の判定精度が低下し難くなっており、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0100】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態のレーダ装置1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0101】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、
図25、
図26を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0102】
図25に示すように、本実施形態の受信アンテナ群4は、4つの第2アンテナ素子Rxを備える。本実施形態の第2アンテナ素子Rxは、基準距離dの複数倍となる基準間隔をあけて等間隔に並んで配置されている。具体的には、第2アンテナ素子Rxは、基準距離dの8倍となる「8d」の間隔をあけて配置されている。
【0103】
また、本実施形態の送信アンテナ群3は、3つの第1アンテナ素子Txを備える。第1アンテナ素子Txは、基準間隔よりも小さい間隔をあけて配置されている。具体的には、第1アンテナ素子Txのうち一端側に位置するものを基準素子としたとき、基準素子から基準距離dの2倍となる「2d」の間隔をあけた位置と、基準距離dの7倍となる「7d」の間隔をあけた位置に第1アンテナ素子Txが配置されている。なお、本例の第1アンテナ素子Txには、基準間隔よりも基準距離dの分だけ小さい間隔をあけて配置されるものが含まれている。
【0104】
このようなアンテナ構成では、SIMOのアンテナ開口長が“24d”となり、MIMOのアンテナ開口長が“31d”となる。つまり、SIMOのアンテナ開口長がMIMOのアンテナ開口長の半分より大きくなっている。また、MIMOを構成する第2アレイアンテナは、アンテナ素子同士の間隔が「1d」、「2d」、「3d」、「5d」、「6d」、「7d」、「8d」となり、「4d」を除いて連番となる配置構成となっている。
【0105】
図26は、本実施形態のアンテナ構成において、ターゲットが2個(U1=0、U2=0.122)、反射電力を1(0dB)とした場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
図26に示すように、接近した2つの物標がターゲットとなる場合、MIMOの構成およびSIMOの構成の双方において、2つの物標に対応する2つの信号のピークを検出することができる。そして、SIMOおよびMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルの双方が判定領域JA内となり、ターゲット位置にある像を実像と判定することができる。
【0106】
ここで、SIMOにおける第2アンテナ素子Rxの間隔が大きくなることでグレーティングローブGLが大量に発生する。一方、MIMOにおけるアンテナ素子同士の間隔が「1d」、「2d」、「3d」と「5d」、「6d」、「7d」、「8d」といった連番となる配置構成を含んでいるのでサイドローブSLが小さくなっている。このため、本実施形態のレーダ装置1によれば、ターゲット位置以外にある像を偽像と判定することができる。
【0107】
以上の如く、本実施形態のレーダ装置1は、SIMOおよびMIMOの分解能の違いに起因する実像および偽像の判定精度が低下し難くなっており、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0108】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態のレーダ装置1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0109】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について、
図27~
図34を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0110】
本実施形態のMIMO用の第2アレイアンテナは、第1実施形態と同様のアンテナ構成となっている。
図27に示すように、第2アレイアンテナは、第2アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子の一部が不等な間隔となる不等間隔アレイとなっている。つまり、第2アレイアンテナは、他に比べてアンテナ素子同士の間隔が大きくなる箇所を含むアンテナ構成となっている。
【0111】
このようなアンテナ構成では、複数のアンテナ素子の並び方向に交差する方向から到来する電波によって生じる複数のアンテナ素子の間の位相差に対応する差分信号を利用して、アンテナの欠落箇所の信号を拡張処理によって補完できる場合がある。拡張処理では、第2アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子のうち、他に比べて間隔が大きくなるアンテナ素子間に位置付ける仮想アンテナ素子の信号を複数のアンテナ素子の間の位相差に対応する差分信号を利用して補間する。そして、レーダ装置1は、第2アレイアンテナの代わりに、拡張処理によって得られる拡張アレイアンテナを用いて物標に対応する信号を検出する。
【0112】
本例の拡張処理は、Khatri-Rao積拡張アレイ処理である。拡張処理では、他に比べて間隔が大きくなるアンテナ素子間に位置付ける仮想アンテナ素子の信号を複数のアンテナ素子の間の位相差に対応する差分信号を利用して補間する。
【0113】
図28の左側に示すマトリクスは、
図27に示すアンテナ構成について、アンテナ素子における受信信号と当該受信信号の複素共役との分散行列e
iωを示している。
図28の中央に示すマトリクスは、
図28の左側に示す分散行列e
iωにおける独立成分の指数部分だけを示したものである。このマトリクスは、第2アレイアンテナのアンテナ素子の配設位置に対応する数値を最上行として並べるとともに当該アンテナ素子の配設位置に対応する数値を符号反転した数値を最左列として並べこれらの数値を縦横加算して配列させたものに相当する。なお、
図28の中央に示すマトリクスに配列された数値(指数)は、拡張アレイアンテナにおける各配設位置に相当する。また、
図28の右側に示す表の個数は、各アンテナ素子に対応する信号の数に相当する。
【0114】
このような拡張処理によって得られる拡張アレイアンテナは、
図27の下段に示すように、アンテナ開口長が「22d」となる大開口のアンテナ構成となる。
【0115】
本実施形態の拡張アレイアンテナは、中央付近で、アンテナ素子が等間隔で並ぶようにアンテナ素子が配置されている。具体的には、拡張アレイアンテナは、21個のアンテナ素子を有し、両端にあるアンテナ素子が「2d」の間隔をあけて配置され、両端を除く中央のアンテナ素子が「1d」の間隔をあけて配置されるアンテナ構成となっている。このように、本例の拡張アレイアンテナは、両端側で独立成分の指数が連番になっていない。例えば、独立成分の指数が「-9」の次は「-11」であり、「-10」が存在しない。このことは、サイドローブSLの増加を招く要因となるものであり、第1アンテナ素子Txまたは第2アンテナ素子Rxが等間隔に配置されていることで生じ易い。
【0116】
このことを考慮し、本実施形態の制御部6は、拡張処理において、拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号について窓関数処理による重み付けを行う。この窓関数処理では、例えば、
図29に示すハン窓、ブラックマン窓を用いることができる。ハン窓は、ダイナミックレンジが狭いものの周波数分解能が高いといった特徴を有する。一方、ブラックマン窓は、周波数分解能が低いものの、ダイナミックレンジが広いといった特徴を有する。
【0117】
また、本実施形態の拡張アレイアンテナは、マトリクス状に配列された独立成分の指数の中央値に近い位置で検出される信号の個数(重複数)が、中央値から最も離れた位置で検出さえる信号の個数よりも大きくなるように、アンテナ素子が配置されている。具体的には、拡張アレイアンテナでは、
図28の右側に示すように、独立成分の指数が「-9」、「-8」、「-6」~「0」~「6」、「8」、「9」となる位置で信号が複数得られる。本例の拡張アレイアンテナは、独立成分の指数が「0」の位置を基準位置としたとき、当該基準位置からに離れるほど信号の数が減少しているわけではなく、増減している。信号の数は、例えば、基準位置では8個だが、「-1」では3個に減少し、「-2」では4個、「-3」では6個と増加し、「-4」では2個に減少している。
【0118】
このことを考慮し、制御部6は、拡張処理において、拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号が複数得られる場合には複数の信号を加算して平均化する。換言すれば、制御部6は、拡張アレイアンテナにおける配設位置に相当する数値の個数が複数である場合に、当該配設位置にて複数求められる差分信号を平均化する。これによれば、隣接するターゲット間の干渉が抑制される。
【0119】
図30は、本実施形態のアンテナ構成において、ターゲットが2個(U1=0、U2=0.259)、反射電力を1(0dB)とした場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
【0120】
図30に示すように、接近した2つの物標がターゲットとなる場合、MIMOの構成およびSIMOの構成の双方において、2つの物標に対応する2つの信号のピークを検出することができる。そして、SIMOおよびMIMOでのスペクトル信号Spのピーク位置およびピークレベルの双方が判定領域JA内となり、ターゲット位置にある像を実像と判定することができる。
【0121】
ここで、ターゲットの反射率は様々であり、車のような強い反射物の横に歩行者のような弱い反射物がある場合がある。
図31、
図32は、中央にあるターゲット(U1=0)の近くに反射電力が1/10(s2=0.1)となるターゲット(U2=0.259)がある場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。なお、
図31、
図32では、ターゲットの信号源の位相はランダムとし、ある位相関係になった状態での結果を示している。
【0122】
図31は、第2アレイアンテナを用いて上記ターゲットの方位を推定したシミュレーション結果である。
図31に示すように、第2アレイアンテナを用いる場合、MIMOでのサイドローブSLが大きく、ターゲットが存在しない場所に生ずる像を実像と判定してしまうことがある。これは、MIMOでのサイドローブSLが、弱い反射物に対応する信号に対して電力が大きいからである。
【0123】
図32は、拡張アレイアンテナを用いて上記ターゲットの方位を推定したシミュレーション結果である。
図32に示すシミュレーションでは、拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号について窓関数処理による重み付けを行っている。
図32に示すように、拡張アレイアンテナを用いる場合、MIMOでのサイドローブSLが小さく、ターゲットが存在しない場所に生ずる像を偽像と判定することができる。
【0124】
また、
図10に示すように、レーダ装置1は、直接波、鏡面反射波、経路不一致の反射波といった3種の反射波を受ける。3種の反射波それぞれの信号は、経路が異なるため信号の位相がランダムとなる。
【0125】
図33、
図34は、中央にターゲット(U1=0)、s1=1)があり、その近くにミラー反射の位置(U2=0.174)がある場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。本例では、ミラー反射の信号振幅での反射率を“0.316”としている。この場合、鏡面反射波の電力は、0.01(≒0.316^4)となる。また、電波の往路と復路との経路が不一致となる際の反射波の電力は、0.1(≒0.316^2)となる。なお、
図33、
図34では、ターゲットの信号源の位相が同じ状態での結果を示している。
【0126】
具体的には、
図33は、直接波、鏡面反射波、経路不一致の反射波といった3種の反射波の信号を経路距離の差によって分離できない場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
図33に示すように、MIMOでは、経路不一致の反射波に対応するピークが生ずるが、SIMOのピークよりも充分に小さいので偽像と判定することができる。
【0127】
また、図示しないが、3種の反射波の信号を経路距離の差によって分離できた場合における直接波、鏡面反射波での電力スペクトルをシミュレーションすると、経路不一致の反射波が含まれていないので、ターゲット位置にある像を実像と判定することができる。
【0128】
図34は、3種の反射波の信号を経路距離の差によって分離できた場合における経路不一致の反射波の電力スペクトルのシミュレーション結果である。
図34に示すように、電波の往路と復路とが一致しない場合、ターゲット位置におけるSIMOおよびMIMOでのスペクトル信号Spのピークレベルが判定領域JA外となる。この場合、ターゲット位置にある像を偽像と判定することになるが、直接波、鏡面反射波に基づいてターゲット位置にある像を実像と判定することができるので、問題にはならない。
【0129】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態のレーダ装置1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0130】
また、本実施形態のレーダ装置1は、以下の特徴を備える。
【0131】
(1)MIMO用の第2アレイアンテナは、第2アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子の一部が不等な間隔となる不等間隔アレイとなっている。制御部6は、第2アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子の並び方向に交差する方向から到来する電波によって生じる複数のアンテナ素子の間の位相差に対応する差分信号を利用して、仮想アンテナ素子の信号を補間する拡張処理を実行する。そして、制御部6は、拡張処理によって得られる拡張アレイアンテナを用いて物標に対応する信号を検出する。これによれば、偽像の要因となるサイドローブSLの発生を充分に抑えられるので、実像か偽像かをより適切に識別することができる。
【0132】
(2)ここで、2つの物標をターゲットする場合、ターゲット間の干渉によって、実像に対応する2つのメインローブの間に、大きなピークとなる信号が表れることがある。このような信号は、実像か偽像かの識別結果に影響する場合がある。
【0133】
これらを考慮し、本実施形態のレーダ装置1では、拡張処理において拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号が複数得られる場合には複数の信号を平均化する。これによると、ターゲット間の干渉による影響を低減させることができるので、2つの物標をターゲットする場合であっても、実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0134】
(3)レーダ装置1は、拡張処理において拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号について窓関数処理による重み付けを行う。これによると、偽像となるサイドローブSLが低減されるので、2つの物標をターゲットする場合であっても、実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0135】
(第4実施形態の変形例)
レーダ装置1は、拡張処理において拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号が複数得られる場合には複数の信号を平均化するようになっていることが望ましいが、これに限定されない。レーダ装置1は、例えば、拡張処理において拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号が複数得られる場合には複数の信号のうち最大または最小となる信号を選択するようになっていてもよい。
【0136】
レーダ装置1は、拡張処理において拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号について窓関数処理による重み付けを行うようになっていることが望ましいが、これに限定されない。レーダ装置1は、拡張処理において拡張アレイアンテナを構成するアンテナ素子に対応する信号について窓関数処理による重み付けを行わないようになっていてもよい。
【0137】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について、
図35~
図37を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0138】
車両を使用する実環境下ではターゲットとなる物標が振動や移動しており、信号を検出する毎にターゲットの位置がmm単位で変化する。このため、ターゲットの位置変動に応じて、信号の位相が変化する。つまり、物標を検出する毎に制御部6の各信号検出部61、62で検出される信号が変化する。このような変化は、偽像を実像と誤判定する要因となり得る。
【0139】
ここで、
図35、
図36は、第4実施形態で説明した
図33、
図34と同様の条件で、中央にターゲット(U1=0、s1=1)があり、その近くにミラー反射の位置(U2=0.174)にある場合の電力スペクトルのシミュレーション結果である。また、ミラー反射の信号振幅での反射率については、第3実施形態と同様に“0.316”としている。この場合、鏡面反射波の電力は、0.01(≒0.316^4)となる。また、電波の往路と復路との経路が不一致となる際の反射波の電力は、0.1(≒0.316^2)となる。ただし、その信号移動をランダムに変えている。
図35、
図36に示すように、ターゲットとなる物標が振動や移動の影響によってピークの位置が変動し、同じような位置にある像を実像と判定したり、偽像と判定したりすることがある。
【0140】
このことを踏まえ、本実施形態の制御部6は、信号判定処理において、各信号検出部61、62それぞれで検出された信号を複数回比較して判定対象となる信号が実像か偽像かを識別するようになっている。以下、制御部6が実行する信号判定処理について
図37を参照しつつ説明する。なお、信号判定処理におけるステップS151~S154までの処理は、第1実施形態で説明した信号判定処理と同じであるため、その説明を省略する。
【0141】
図37に示すように、ステップS154にて、SIMOでのスペクトル信号SpのピークレベルとMIMOでのスペクトル信号Spのピークレベルとの差が、所定閾値以下と判定されると、制御部6は、ステップS156に移行する。
【0142】
制御部6は、ステップS156にて、複数のスナップショット(サンプル)で実像と判定されたか否かを判定する。具体的には、直近の数回分のスナップショットでもSIMOでのスペクトル信号SpのピークレベルとMIMOでのスペクトル信号Spのピークレベルとの差が、所定閾値以下と判定されたか否かを判定する。
【0143】
この結果、複数のスナップショットで実像と判定されている場合、制御部6は、ステップS157に移行して、判定対象となる物標に対応する信号が“実像”であると識別する。また、複数のスナップショットで実像と判定されていない場合、制御部6は、ステップS153に移行して、判定対象となる物標に対応する信号が“偽像”であると識別する。
【0144】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態のレーダ装置1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0145】
また、本実施形態のレーダ装置1は、以下の特徴を備える。
【0146】
(1)制御部6は、第1信号検出部61および第2信号検出部62の一方で検出された信号のうち、ピークレベルが所定の選定閾値を超えるものを判定対象として選定する。そして、制御部6は、判定対象となる信号を含む判定対象範囲において、第1信号検出部61および第2信号検出部62それぞれで検出された信号を複数回比較して判定対象となる信号が実像か偽像かを識別する。このように、各信号検出部61、62で検出された信号を複数回比較して判定対象となる信号が実像か偽像かを識別するようになっていれば、ターゲットとなる物標の振動や移動の影響を緩和して、物標に対応する信号が実像か偽像かを適切に識別することができる。
【0147】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0148】
上述の実施形態では、レーダ装置1のアンテナ構成について具体的なものを例示したが、レーダ装置1のアンテナ構成は、上述したものに限定されず、上述したものとは異なるアンテナ構成になっていてもよい。
【0149】
上述の実施形態のレーダ装置1は、SIMO用の第1アレイアンテナおよびMIMO用の第2アレイアンテナの双方によって物標に対応する信号を検出し、その検出結果に基づいて物標に対応する信号が実像か偽像かを識別しているが、これに限定されない。レーダ装置1は、例えば、MISO用のアレイアンテナおよびMIMO用の第2アレイアンテナの双方によって物標に対応する信号を検出し、その検出結果に基づいて物標に対応する信号が実像か偽像かを識別するようになっていてもよい。この場合、MISOのアンテナ開口長が、MIMOのアンテナ開口長の半分より大きくなるように第1アンテナ素子Txおよび第2アンテナ素子Rxを配置すればよい。このようなアンテナ構成は、第1アンテナ素子Txの間隔をMISOのアンテナ開口長よりも小さくすることで得られる。なお、MISO用のアレイアンテナは、複数の第1アンテナ素子Txから送信された電波を1つの第2アンテナ素子Rxで受信するアンテナ構成となる。
【0150】
これに対して、本実施形態のレーダ装置1は、MISOのアンテナ開口長が、MIMOのアンテナ開口長の半分より大きくなるように第1アンテナ素子Txおよび第2アンテナ素子Rxが配置されている。このようなアンテナ構成は、第1アンテナ素子Txの間隔をSIMOのアンテナ開口長よりも小さくすることで得られる。
【0151】
上述の実施形態では、車両に搭載されて車両の周囲に存在する様々な物標を検出する物標検出装置に本開示のレーダ装置1を適用した例について説明したが、レーダ装置1の適用対象は、これに限定されない。レーダ装置1は、例えば、車両以外の移動体や据え置き型の機器にも適用することができる。
【0152】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0153】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0154】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0155】
本開示の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせで構成された一つ以上の専用コンピュータで、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0156】
1 レーダ装置
3 送信アンテナ群
4 受信アンテナ群
61 第1信号検出部
62 第2信号検出部
63 識別部
Tx 第1アンテナ素子
Rx 第2アンテナ素子