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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025073516
(43)【公開日】2025-05-13
(54)【発明の名称】リサイクル炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/10 20060101AFI20250502BHJP
   D06M 11/05 20060101ALI20250502BHJP
   D06M 11/60 20060101ALI20250502BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
D06M11/05
D06M11/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184397
(22)【出願日】2023-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】和田 匡史
(72)【発明者】
【氏名】北岡 諭
(72)【発明者】
【氏名】林 一美
(72)【発明者】
【氏名】永納 保男
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 千佳
【テーマコード(参考)】
4F401
4L031
【Fターム(参考)】
4F401AA19
4F401AA21
4F401AA23
4F401AA26
4F401AB06
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA68
4F401CA73
4F401CA75
4F401CB14
4F401EA45
4F401EA46
4F401FA07Z
4L031AA24
4L031AB01
4L031BA01
4L031BA08
4L031BA16
4L031CA17
(57)【要約】
【課題】炭素繊維強化プラスチック、又は、サイジング剤が付与された炭素繊維を原料として、これらの原料の製造に用いた非被覆の炭素繊維に対して、引張強度の低下が抑制された非被覆の炭素繊維を得るリサイクル炭素繊維製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のリサイクル炭素繊維製造方法は、炭素繊維強化プラスチック、及び、サイジング剤が付与された炭素繊維から選ばれた少なくとも1種を含む原料を、過熱水蒸気及びアンモニアガスを含む混合ガスに接触させる混合ガス接触工程を備える。混合ガスに含まれるアンモニアガスの含有割合は、好ましくは0.1~2.4体積%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチック、及び、サイジング剤が付与された炭素繊維から選ばれた少なくとも1種を含む原料から、非被覆の炭素繊維を得る方法であって、
前記原料を、過熱水蒸気及びアンモニアガスを含む混合ガスに接触させる混合ガス接触工程を備える、リサイクル炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
前記混合ガスに含まれる前記アンモニアガスの含有割合が0.1~2.4体積%である請求項1に記載のリサイクル炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
前記混合ガス接触工程において、前記過熱水蒸気と、アンモニア水とを用いて、前記過熱水蒸気の熱により前記アンモニア水からアンモニアガスを生成させ、次いで、前記過熱水蒸気及び前記アンモニアガスを含む混合ガスを形成させ、その後、前記原料を載置した室において、該混合ガスに前記原料を接触させる請求項1又は2に記載のリサイクル炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック、又は、サイジング剤が付与された炭素繊維から、非被覆の炭素繊維を得るリサイクル炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、強度、弾性率等の物理物性に優れることから、マトリックス樹脂(硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)と併用して、炭素繊維強化プラスチックの製造原料として用いられている。そして、炭素繊維強化プラスチックからなる成形品は、航空・宇宙産業、自動車産業、発電設備、家電、スポーツ、レジャー、玩具等の分野で広く用いられている。尚、炭素繊維強化プラスチックの成形品を製造する場合には、複合材料としての性能を高める等の目的で、予め、未処理の炭素繊維(束)を、サイジング剤付与処理に供して準備したサイジング剤付着炭素繊維(束)が用いられることがある。
【0003】
炭素繊維強化プラスチックの利用が増える一方、炭素繊維強化プラスチックからなる製品製造の過程で生じる廃材や、炭素繊維強化プラスチックを含む部材の廃棄物から、炭素繊維をリサイクルする技術の検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、炭素繊維強化プラスチックを含む被処理体を800℃以上の過熱水蒸気にて処理することにより、前記炭素繊維強化プラスチック中のプラスチックを除去して炭素繊維を回収することを特徴とする炭素繊維の回収方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、炭素繊維含有樹脂から、特に炭素繊維強化樹脂(CFPs若しくはCFP材料)から、好ましくは炭素繊維含有及び/若しくは炭素繊維強化合成物(複合材料)から炭素繊維を回収(リサイクル)するための方法において、ポリマーマトリクス内に炭素繊維を具備する炭素繊維含有樹脂の基づく対象物は、酸素の存在において複数段の熱分解にさらされると共に、前記ポリマーマトリクスのポリマーは、炭素繊維を与えるために熱分解の間分解されることを特徴とする方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、炭素繊維及びマトリックス樹脂成分を含有する炭素繊維強化プラスチックからリサイクル炭素繊維を得るリサイクル炭素繊維の製造方法であって、(a)炭素繊維強化プラスチック廃材を破砕し所定の繊維長を有する炭素繊維強化プラスチック破砕片を作製する破砕処理工程、(b)前記炭素繊維強化プラスチック破砕片をホッパーに送り貯蔵する搬送貯蔵工程、(c)前記炭素繊維強化プラスチック破砕片を前記ホッパーから除粉装置に定量供給し、前記除粉装置にて前記炭素繊維強化プラスチック破砕片に含まれる粉体を除去し、炭素繊維強化プラスチック除粉片を生成する除粉処理工程、(d)前記炭素繊維強化プラスチック除粉片を熱分解炉に定量供給しながら加熱し、前記炭素繊維強化プラスチック除粉片に含まれる前記マトリックス樹脂成分を除去してリサイクル炭素繊維熱分解体を得る熱分解処理工程、(e)前記リサイクル炭素繊維熱分解体を冷却しながら次工程に送る冷却搬送工程、(f)前記リサイクル炭素繊維熱分解体を分級してリサイクル炭素繊維分級体を得る分級処理工程、(g)前記リサイクル炭素繊維分級体から磁気力により金属粉を取り除く除鉄処理工程、に至る各工程間の搬送を自動化することを特徴とするリサイクル炭素繊維の製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、樹脂材料及び炭素繊維を含有する原材料を熱処理することを含む、リサイクル炭素繊維の製造方法であって、(i)前記熱処理が、乾留処理からなること、又は、(ii)前記熱処理が、乾留処理、及び酸化処理からなること、並びに、前記リサイクル炭素繊維における前記樹脂材料由来の残留炭素の含有率が、前記リサイクル炭素繊維に含有される炭素繊維に対して、10.0質量%超40.0質量%以下であることを特徴とする、リサイクル炭素繊維の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-122032号公報
【特許文献2】特表2016-521295号公報
【特許文献3】特開2019-127040号公報
【特許文献4】特開2023-13706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
炭素繊維強化プラスチック、又は、サイジング剤が付与された炭素繊維(以下、「サイジング剤付着炭素繊維」という)を過熱水蒸気に接触させた場合、非被覆の炭素繊維をリサイクル炭素繊維として効率よく回収できるものの、得られたリサイクル炭素繊維の引張強度が、炭素繊維強化プラスチック等の製造に用いた非被覆の炭素繊維(以下、「バージン炭素繊維」という)の引張強度に対して大きく低下することが分かった。
本発明の目的は、炭素繊維強化プラスチック又はサイジング剤付着炭素繊維から、非被覆の炭素繊維であって、バージン炭素繊維に対して引張強度の低下が抑制されたリサイクル炭素繊維を効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示される。
1.炭素繊維強化プラスチック及びサイジング剤付着炭素繊維から選ばれた少なくとも1種を含む原料から、非被覆の炭素繊維を得る方法であって、
上記原料を、過熱水蒸気及びアンモニアガスを含む混合ガスに接触させる混合ガス接触工程を備える、リサイクル炭素繊維の製造方法。
2.上記混合ガスに含まれる上記アンモニアガスの含有割合が0.1~2.4体積%である上記項1に記載のリサイクル炭素繊維の製造方法。
3.上記混合ガス接触工程において、上記過熱水蒸気と、アンモニア水とを用いて、上記過熱水蒸気の熱により上記アンモニア水からアンモニアガスを生成させ、次いで、上記過熱水蒸気及び上記アンモニアガスを含む混合ガスを形成させ、その後、上記原料を載置した室において、該混合ガスに上記原料を接触させる上記項1又は2に記載のリサイクル炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭素繊維強化プラスチック又はサイジング剤付着炭素繊維から、非被覆の炭素繊維であって、バージン炭素繊維に対して引張強度の低下が抑制されたリサイクル炭素繊維を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1等で用いたリサイクル炭素繊維製造装置を示す概略図である。
図2】実施例1~3及び比較例1で得られたリサイクル炭素繊維の相対強度を示すグラフである。
図3】実施例4~6及び比較例2で得られたリサイクル炭素繊維の相対強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリサイクル炭素繊維製造方法は、炭素繊維強化プラスチック及びサイジング剤付着炭素繊維から選ばれた少なくとも1種を含む原料から、非被覆の炭素繊維を得る方法であって、上記原料を、過熱水蒸気及びアンモニアガスを含む混合ガスに接触させる混合ガス接触工程を備える。本発明のリサイクル炭素繊維製造方法は、混合ガス接触工程の後、必要に応じて、他の工程を備えることができる。尚、本発明に係る過熱水蒸気は、飽和水蒸気が更に加熱されて100℃を超える温度になっている気体である。
【0014】
本発明に係る混合ガス接触工程は、炭素繊維強化プラスチック及びサイジング剤付着炭素繊維から選ばれた少なくとも1種を含む原料を、過熱水蒸気及びアンモニアガスを含む混合ガスに接触させる工程である。
【0015】
はじめに、混合ガスを接触させる原料について、説明する。
炭素繊維強化プラスチックは、バージン炭素繊維及びサイジング剤付着炭素繊維の少なくとも一方が、プラスチック材料を含むマトリックスの中に、例えば、補強材として含まれてなる素材である。
【0016】
バージン炭素繊維は、どのような方法により得られたものであってもよい。例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等とすることができる。また、繊維径、繊維長等のサイズは、特に限定されない。
【0017】
サイジング剤付着炭素繊維は、バージン炭素繊維の表面の少なくとも一部に、例えば、脂肪族エポキシ化合物及び芳香族エポキシ化合物を含むサイジング剤、主鎖結合中にエステル結合、ウレタン結合、カーボネート結合のいずれか1種の結合を有する高分子を含むサイジング剤、フェノール樹脂を含むサイジング剤を付着させてなるものとすることができる。
【0018】
プラスチック材料は、熱可塑性樹脂、及び、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂組成物、光硬化性樹脂組成物、室温硬化性樹脂組成物等)に由来する硬化樹脂のいずれでもよい。
【0019】
熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体、ABS樹脂等のスチレン系樹脂;ゴム強化熱可塑性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体等のアクリル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,12等のポリアミド系樹脂(PA);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール樹脂(POM);ポリカーボネート樹脂(PC);ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂;ウレタン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;ポリビニルブチラール;フェノキシ樹脂;生分解性プラスチック等が挙げられる。
【0020】
硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂(エポキシ基を有するアクリル系重合体を含む)、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン系樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。
【0021】
本発明に係る原料が炭素繊維強化プラスチックである場合、炭素繊維強化プラスチックからなる製品製造の過程で生じる廃材等を混合ガス接触工程に供することができるが、過熱水蒸気及びアンモニアと反応しない材料からなる部分と、炭素繊維強化プラスチックからなる部分とを含む複合体(廃棄物等)を混合ガス接触工程に供してもよい。
【0022】
次に、原料に接触させる混合ガスは、過熱水蒸気及びアンモニアガスからなることが好ましいが、過熱水蒸気及びアンモニアガスと反応しないものであれば、他のガスを含んでもよい。他のガスとしては、空気、酸素、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0023】
混合ガスに含まれるアンモニアガスの含有割合は、本発明の効果が十分に得られることから、好ましくは0.1~2.4体積%、より好ましくは0.1~1.5体積%、更に好ましくは0.5~1.5体積%である。
【0024】
混合ガスの調製方法は、特に限定されない。混合ガスが混合ガス調製室で製造されるとすると、例えば、(あ)過熱水蒸気及びアンモニアガスを、別々に、混合ガス調製室に導入する方法、(い)予め、過熱水蒸気を収容した混合ガス調製室に、アンモニアガスを導入する方法、(う)予め、アンモニアガスを収容した混合ガス調製室に、過熱水蒸気を導入する方法、(え)混合ガス調製室内への過熱水蒸気の気流中にアンモニア水を供給して、過熱水蒸気の熱によりアンモニア水をアンモニアガスに変換し、混合ガスを形成させる方法等が挙げられる。また、アンモニア水を、蒸気ボイラーを介して過熱水蒸気生成手段を用いて加熱する方法とすることができる。
【0025】
本発明に係る混合ガス接触工程において、原料に混合ガスを接触させる方法は、特に限定されない。原料と混合ガスとの接触は、通常、雰囲気制御下でなされるので、以下、原料と混合ガスとを接触させてリサイクル炭素繊維を得る室を、「リサイクル炭素繊維製造室」として、混合ガス接触工程の具体的な方法を例示する。
【0026】
(1)リサイクル炭素繊維製造室を、気体の導入及び排気の可能な構成とし、室中に原料を配置した後、予め、調製した混合ガスを室内に導入し、混合ガスを原料に接触させる方法。
(2)気体の導入及び排気を可能としたリサイクル炭素繊維製造室の中に原料を配置した後、過熱水蒸気及びアンモニアガスを室内に別々に導入して、室内で混合ガスを形成させ、混合ガスを原料に接触させる方法。
(3)気体及び液体の導入並びに排気を可能とした混合ガス調製室に、過熱水蒸気と、アンモニア水とを別々に導入して、過熱水蒸気の熱により、アンモニア水をアンモニアガスに変換して混合ガスを形成させ、混合ガスを、原料が配置されたリサイクル炭素繊維製造室の中に供給し、混合ガスを原料に接触させる方法。
【0027】
上記方法(1)、(2)及び(3)においては、リサイクル炭素繊維製造室内への混合ガスの導入、もしくは、混合ガスの原料の導入を連続的に行いながら、原料と混合ガスとを接触させてよいし、室内に混合ガスを充満させて原料と混合ガスとを接触させてもよい。また、原料と混合ガスとが接触すると、原料において炭素繊維に付着している樹脂等が分解されて分解ガスが発生することがあるので、原料と混合ガスとの接触率を向上させるために、室内への混合ガスの導入、もしくは、混合ガスの原料の導入を連続的に行いながら分解ガスを排気する方法も好ましい態様である。尚、ガスの導入及び排気を行う場合の速度は、特に限定されない。
【0028】
原料に接触させる混合ガスの温度は、過熱水蒸気が維持される100℃を超える温度であれば、特に限定されず、好ましくは300℃以上である。この温度は、本発明の効果が十分に得られることから、好ましくは300℃~700℃、より好ましくは350℃~650℃、更に好ましくは400℃~600℃である。尚、例えば、1体の原料からリサイクル炭素繊維を得ようとする場合、混合ガスの温度が上記範囲にある限りにおいて、終始、一定温度に保持してもよいし、昇温、降温等を組み合わせてもよい。
【0029】
また、原料と混合ガスとの接触時間は、原料の形状、質量等により、適宜、設定すればよいが、通常、10分以上である。
【0030】
本発明に係る混合ガス接触工程に適用する装置は、好ましくは、上記方法(1)、(2)又は(3)を行うことができる装置であり、その構成は、特に限定されない。本発明においては、バッチ式又は連続式とすることができる。尚、「連続式」は、リサイクル炭素繊維を大量生産するために、大量の原料を次々に供給し、混合ガスと接触させることを意味する。
【0031】
本発明のリサイクル炭素繊維製造方法によれば、混合ガス接触工程により、非被覆の炭素繊維であって、バージン炭素繊維に対して引張強度の低下が抑制されたリサイクル炭素繊維を効率よく製造することができる。従来、過熱水蒸気のみを原料に接触させて非被覆の炭素繊維を得た場合、引張強度の低下が30%程度であったが、本発明のリサイクル炭素繊維製造方法によると、引張強度の低下を30%未満、好ましくは20%以下とすることができる。
【0032】
混合ガス接触工程により得られたリサイクル炭素繊維は、従来、公知の方法で、炭素繊維を含む製品の製造に好適であるが、このような製品を効率よく製造するために、混合ガス接触工程の後、必要に応じて、表面処理工程、樹脂含浸工程等の他の工程を備えることができる。
【実施例0033】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0034】
1.供試材
炭素繊維強化プラスチックからなる小片と、サイジング剤付着炭素繊維束と、このサイジング剤付着炭素繊維束をアセトンに浸漬してサイジング剤を除去して得られた炭素繊維(バージン炭素繊維)とを用いた。
炭素繊維強化プラスチックは、多数本の上記サイジング剤付着炭素繊維束にエポキシ樹脂組成物を含浸させた後、加熱して得られたものである。
【0035】
2.リサイクル炭素繊維製造装置
上記の各供試材からリサイクル炭素繊維を製造する装置は、図1に示される。この装置は、その内部において、載置した供試材に過熱水蒸気及びアンモニアガスからなる混合ガスを接触させるリサイクル炭素繊維製造室と、水(イオン交換水)を原料として過熱水蒸気を調製する過熱水蒸気製造手段と、アンモニアガスの原料であるアンモニア水を供給する手段とを備えるものであり、イオン交換水を加熱して飽和水蒸気とした後,それを誘導加熱方式で発熱するペレット型ヒーターを積層搭載したセラミックス管内に通すことで過熱水蒸気を生成させ、生成した過熱水蒸気と、別途、アンモニア水供給手段から供給される38質量%のアンモニアの水溶液(アンモニア水)とを、リサイクル炭素繊維製造室内に設けられた混合ガス調製部に導入し、この混合ガス調製部において、高温の過熱水蒸気によりアンモニアガスを生成させて混合ガスとした後、この混合ガスを、混合ガス調製部から連絡された混合ガス吹出口から供試材が載置されたリサイクル炭素繊維製造室内に連続的に供給して、供試材の樹脂等を除去して非被覆の炭素繊維を得るバッチ式製造装置である。尚、リサイクル炭素繊維製造室内部の温度、即ち、リサイクル炭素繊維の製造温度を安定化させるために、リサイクル炭素繊維製造室内部に複数のアシストヒーターを設置した。更に、混合ガス中においてアンモニアガスを所定割合(体積割合)とするために,アンモニア水供給手段から混合ガス調製部へのアンモニア水の供給量を制御した。以下の実験例では、混合ガスを、リサイクル炭素繊維製造室に連続的に供給したので、リサイクル炭素繊維製造室には、供試材に接触後のガスが排気されるように排出口を設けた。また、アンモニア水に含まれた水は、供給された過熱水蒸気と接触して過熱水蒸気に変換されるので、混合ガスに含まれるアンモニアガスの含有割合は、供給された過熱水蒸気、アンモニア水に由来する過熱水蒸気、及び、アンモニア水から精製したアンモニアガスの合計量に対して算出したものである。
【0036】
3.リサイクル炭素繊維の製造及び評価
上記の各供試材を、過熱水蒸気及びアンモニアガスからなる各種の混合ガス、又は、過熱水蒸気のみに接触させ、非被覆の炭素繊維を回収した。その後、インストロン社製「万能材料試験機5942」を用い、得られた各炭素繊維の中から、それぞれ、20本の単繊維を抽出し、JIS R7606に準拠した方法で、最大引張荷重を測定した。比較のため、20本のバージン炭素繊維についても、最大引張荷重を測定した。図2及び図3におけるプロットは、測定数20の平均値(バージン炭素繊維の最大引張荷重の測定値の平均値に対する、実施例及び比較例で得られたリサイクル炭素繊維の最大引張荷重の平均値の割合:相対強度)を反映するものであり、プロットの上下に明示したエラーバーは、測定値の正規分布の標準偏差σの値を反映するものである。
【0037】
実施例1
図1の装置を用いて、リサイクル炭素繊維製造室内において、過熱水蒸気及びアンモニアガスの体積割合がそれぞれ、99.9体積%及び0.1体積%の混合ガスが形成されるように、イオン交換水及びアンモニア水を供給し、アシストヒーターにより500℃に調整したリサイクル炭素繊維製造室内において、2時間に渡って、混合ガスを炭素繊維強化プラスチックからなる小片(約2g)に接触させ、非被覆の炭素繊維を得た。その後、上記の方法に従って最大引張荷重を測定し、相対強度(76%)を得た(図2参照)。
【0038】
実施例2
リサイクル炭素繊維製造室内において、過熱水蒸気及びアンモニアガスの体積割合がそれぞれ、99.0体積%及び1.0体積%の混合ガスが形成されるようにした以外は、実施例1と同様の操作を行って、非被覆の炭素繊維を得た。その後、上記の方法に従って最大引張荷重を測定し、相対強度(83%)を得た(図2参照)。
【0039】
実施例3
リサイクル炭素繊維製造室内において、過熱水蒸気及びアンモニアガスの体積割合がそれぞれ、97.6体積%及び2.4体積%の混合ガスが形成されるようにした以外は、実施例1と同様の操作を行って、非被覆の炭素繊維を得た。その後、上記の方法に従って最大引張荷重を測定し、相対強度(79%)を得た(図2参照)。
【0040】
比較例1
過熱水蒸気及びアンモニアガスを含む混合ガスに代えて、過熱水蒸気のみをリサイクル炭素繊維製造室内に供給した以外は、実施例1と同様の操作を行って、非被覆の炭素繊維を得た。その後、上記の方法に従って最大引張荷重を測定し、相対強度(69%)を得た(図2参照)。
【0041】
実施例4
図1の装置を用いて、リサイクル炭素繊維製造室内において、過熱水蒸気及びアンモニアガスの体積割合がそれぞれ、99.9体積%及び0.1体積%の混合ガスが形成されるように、イオン交換水及びアンモニア水を供給し、アシストヒーターにより500℃に調整したリサイクル炭素繊維製造室内において、2時間に渡って、混合ガスをサイジング剤付着炭素繊維束からなる小片(約0.5g)に接触させ、非被覆の炭素繊維を得た。その後、上記の方法に従って最大引張荷重を測定し、相対強度(93%)を得た(図3参照)。
【0042】
実施例5
リサイクル炭素繊維製造室内において、過熱水蒸気及びアンモニアガスの体積割合がそれぞれ、99.0体積%及び1.0体積%の混合ガスが形成されるようにした以外は、実施例4と同様の操作を行って、非被覆の炭素繊維を得た。その後、上記の方法に従って最大引張荷重を測定し、相対強度(94%)を得た(図3参照)。
【0043】
実施例6
リサイクル炭素繊維製造室内において、過熱水蒸気及びアンモニアガスの体積割合がそれぞれ、97.6体積%及び2.4体積%の混合ガスが形成されるようにした以外は、実施例4と同様の操作を行って、非被覆の炭素繊維を得た。その後、上記の方法に従って最大引張荷重を測定し、相対強度(79%)を得た(図3参照)。
【0044】
比較例2
過熱水蒸気及びアンモニアガスを含む混合ガスに代えて、過熱水蒸気のみをリサイクル炭素繊維製造室内に供給した以外は、実施例4と同様の操作を行って、非被覆の炭素繊維を得た。その後、上記の方法に従って最大引張荷重を測定し、相対強度(72%)を得た(図3参照)。
【0045】
図2及び図3から明らかなように、炭素繊維強化プラスチック、及び、サイジング剤付着炭素繊維を、過熱水蒸気及びアンモニアガスを含む混合ガスに接触させると、過熱水蒸気のみを接触させた場合に比べて、最大引張荷重、即ち、引張強度の低下が抑制されたリサイクル炭素繊維を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、航空・宇宙産業、自動車産業、発電設備、家電、スポーツ、レジャー、玩具等の分野において、炭素繊維強化プラスチックからなる製品製造の過程で生じる廃材や、炭素繊維強化プラスチックを含む部材の廃棄物から、物性低下が抑制されたリサイクル炭素繊維を効率よく製造することができる。また、上記廃棄物による環境汚染を抑制することもできる。
図1
図2
図3