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特開2025-7367自律移動体および自律移動体の走行制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007367
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】自律移動体および自律移動体の走行制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20250109BHJP
【FI】
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108719
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000202361
【氏名又は名称】綜合警備保障株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守興 優
(72)【発明者】
【氏名】荒木 優花
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA10
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301DD01
5H301DD06
5H301DD07
5H301DD15
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG29
5H301HH01
5H301LL01
5H301LL06
5H301LL14
5H301QQ06
(57)【要約】
【課題】自律移動体が、障害物回避行動が正常に機能しなかったことが原因で走行できない侵入禁止エリアに侵入して停止した場合でも、侵入禁止エリアから移動できる位置を自律移動体自身で探索し、人手を介すことなく該位置へ退避する。
【解決手段】目標地点に向かって自律走行中に壁に衝突することを防ぐために設けられた仮想壁を含む所定の範囲を侵入禁止エリアとして設定する自律移動体において、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入した際に、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアから移動できる位置を探索して該位置へ退避する退避行動を制御する退避行動制御部を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標地点に向かって自律走行中に壁に衝突することを防ぐために設けられた仮想壁を含む所定の範囲を侵入禁止エリアとして設定する自律移動体において、
前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入した際に、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアから移動できる位置を探索して該位置へ退避する退避行動を制御する退避行動制御部を備える、
ことを特徴とする自律移動体。
【請求項2】
前記退避行動制御部は、
前記自律移動体の現在位置に基づく前記侵入禁止エリアに対する前記自律移動体の近さを示す値から、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入したかを判断する侵入判断部と、
前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入した際に、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアから移動できる位置として、前記自律移動体の現在位置の周囲の位置のうち、該位置に基づく前記侵入禁止エリアに対する前記自律移動体の近さを示す値が最も小さい位置である第2目標地点を探索する探索部と、
前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入した際に、前記侵入禁止エリアに侵入する前に目標地点として設定されていた第1目標地点のパラメータとして設定されていたデフォルト値を、該デフォルト値よりも小さい値に変更する、パラメータ変更部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の自律移動体。
【請求項3】
前記パラメータ変更部は、前記自律移動体が前記第2目標地点に到達すると、前記自律移動体の走行時の余裕幅のパラメータの値を前記デフォルト値に戻すとともに、前記自律移動体の目標地点を前記第1目標地点に戻す、
ことを特徴とする請求項2に記載の自律移動体。
【請求項4】
前記探索部は、前記自律移動体の現在位置から該現在位置を中心とする所定の半径の円周上の移動できる位置のうち位置コストが最も小さい位置を円形探索する、
ことを特徴とする請求項2に記載の自律移動体。
【請求項5】
前記探索部は、前記自律移動体の現在位置から前記自律移動体の周囲について、同心円状または螺旋状に範囲を広げながら探索する、
ことを特徴とする請求項2に記載の自律移動体。
【請求項6】
検知領域における物体との距離を計測する距離センサをさらに備え、
前記距離センサが物体を検知した場合、該物体を含む所定の範囲も侵入禁止エリアとして設定する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の自律移動体。
【請求項7】
検知領域における物体との距離を計測する距離センサをさらに備え、
前記探索部は、前記自律移動体が現在位置においてその場旋回して、前記距離センサによる物体の検知の有無を確認しながら探索する、
ことを特徴とする請求項2に記載の自律移動体。
【請求項8】
目標地点に向かって自律走行中に壁に衝突することを防ぐために設けられた仮想壁を含む所定の範囲を侵入禁止エリアとして設定する自律移動体の走行制御方法であって、
前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入した際に、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアから移動できる位置を探索して該位置へ退避する前記自律移動体の退避行動を制御する退避行動制御工程を含む、
ことを特徴とする自律移動体の走行制御方法。
【請求項9】
前記退避行動制御工程は、
前記自律移動体の現在位置に基づく前記侵入禁止エリアに対する前記自律移動体の近さを示す値から、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入したかを判断する侵入判断工程と、
前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入した際に、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアから移動できる位置として、前記自律移動体の現在位置の周囲の位置のうち、該位置に基づく前記侵入禁止エリアに対する前記自律移動体の近さを示す値が最も小さい位置である第2目標地点を探索する探索工程と、
前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入した際に、前記侵入禁止エリアに侵入する前に目標地点として設定されていた第1目標地点を、前記第2目標地点に変更するとともに、前記自律移動体の走行時の余裕幅のパラメータとして設定されていたデフォルト値を、該デフォルト値よりも小さい値に変更するパラメータ変更工程と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の自律移動体の走行制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律移動体および自律移動体の走行制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自律移動体である移動ロボットが自律走行中に壁に衝突することを防ぐために設けられた仮想壁を含む所定の範囲の領域を、移動ロボットの侵入禁止エリアとして設定することで、移動ロボットを安全に自律走行させる技術が知られている。
【0003】
また、特許文献1には、移動ロボットが自律走行中に障害物を検知すると、移動ロボットが回避行動を取る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-206237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術によれば、何らかの理由で自律走行にかかる機能が正常に動作しなかったことにより、移動ロボットが侵入禁止エリアに一度侵入すると、自動では脱出できずに自律走行を停止してしまう、という問題がある。
【0006】
また、特許文献1に開示の技術によれば、障害物のある場所または人混みの中を自律走行中の移動ロボットが回避行動を取れない場合は、作業者に遠隔操作要求信号を送信することで、人手を介して回避行動を実現するものとなっている。移動ロボットの利用者は、人件費削減を図ることを目的として、人間が行う業務を移動ロボットに代替させている。そのため、人手を介して回避行動を実現するのでは、目的を達成することはできない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、自律移動体において自律走行にかかる機能が正常に動作しなかったことにより走行できない侵入禁止エリアに侵入して停止した場合でも、侵入禁止エリアから移動できる位置を自律移動体自身で探索し、人手を介すことなく侵入禁止エリアから退避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、目標地点に向かって自律走行中に壁に衝突することを防ぐために設けられた仮想壁を含む所定の範囲を侵入禁止エリアとして設定する自律移動体において、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアに侵入した際に、前記自律移動体が前記侵入禁止エリアから移動できる位置を探索して該位置へ退避する退避行動を制御する退避行動制御部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自律移動体において自律走行にかかる機能が正常に動作しなかったことにより、走行できない侵入禁止エリアに侵入して停止した場合でも、侵入禁止エリアから移動できる位置を自律移動体自身で探索し、人手を介すことなく侵入禁止エリアから退避することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態にかかる自律移動体である移動ロボットの機能的構成を示すブロック図である。
図2図2は、移動ロボットの外観の一例を示す説明図である。
図3図3は、退避行動制御部が備える各種機能を示す機能ブロック図である。
図4図4は、走行経路、障害物、仮想壁、侵入禁止エリアおよび移動ロボットの位置関係を例示的に示す図である。
図5図5は、移動ロボットのハードウェア構成を示す図である。
図6図6は、退避行動制御処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、図6のステップS5~S13にかかる侵入禁止エリアからの退避行動の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、自律移動体および自律移動体の走行制御方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は、実施の形態にかかる自律移動体である移動ロボット100の機能的構成を示すブロック図である。また図2は、移動ロボット100の外観の一例を示す説明図である。
【0013】
自律移動体は、基本的な動作として、自己の現在位置から最終目的地までの走行経路上に、通過地点であるウェイポイント(本発明の第1目標地点に相当する。)が設定され、自己の現在位置を逐次取得しながら、障害物との衝突を回避しつつ、次のウェイポイントを目標地点としてそれに向かって順番に走行し、最終的には最終目的地を目標地点として走行する。移動ロボット100も同様に動作する。
【0014】
また、自律移動体の外形は任意であるが、図2に示す本実施の形態にかかる自律移動体である移動ロボット100は、その下部の最も幅広な部分の水平断面の輪郭の形状が略円形である。
【0015】
本実施の形態において、床面上に位置する移動ロボット100をその真上から見て、その全体が内部に収まる最小の円を床面に描いた時のその円を「移動ロボット100の本体領域円」、その本体領域円の半径を「移動ロボット100の半径」と表現する。また、その本体領域円の中心は、移動ロボット100の自己の現在位置である。
【0016】
さらに、移動ロボット100の走行時における障害物との衝突を回避するため、移動ロボット100の本体領域円の外側に所定の幅のドーナツ状の余裕領域を設定しており、本実施の形態ではこれを「移動ロボット100のパディング領域」と表現する。また、この幅を、「移動ロボット100のパディング領域の幅」(本発明の「自律移動体の走行時の余裕幅」に相当する。)と表現する。
【0017】
移動ロボット100は、レーザレンジセンサ101(以下、「LRS101」という。)と、検知情報受信部102と、監視カメラ103と、画像情報受信部104と、操作パネル部105と、操作パネル制御部106と、スピーカ107と、音声出力制御部108と、現在位置取得部109と、位置コスト算出部115と、回避行動制御部116と、退避行動制御部110と、走行制御部112と、通信部113と、駆動部114とを主に備えている。
【0018】
LRS101は、検知領域における物体を検知し、物体との距離および方向を計測する距離センサである。ここで物体とは、移動ロボット100の走行時に衝突する可能性がある障害物(例えば走行経路付近で立ち止まっている人物や床面に置かれた荷物、移動する通行人や本移動ロボット100とは別に稼働している移動ロボット等の移動体、等)や、移動ロボット100の走行経路の周囲に存在する固定物(例えば壁面、什器等)などが含まれる。LRS101は、一定時間ごとに検知動作を行い、物体の位置、より詳細には、LRS101から照射されたレーザを反射しその反射したレーザがLRS101で検知された物体の表面の位置である計測点を逐次検知している。LRS101は、図2に示すように移動ロボット100の足元に設置されている。検知情報受信部102は、LRS101が物体を検知した際の検知情報を受信し、当該検知情報に含まれる検知した物体の位置情報、移動ロボット100の現在位置および後述するROM22(図5参照)に記憶された地図情報に基づいて、移動ロボット100の向きを判断するとともに、その検知した物体が地図情報に含まれていない物体であると判断した場合には、その物体の位置をRAM23(図5参照)に記憶する。
【0019】
なお、本実施の形態では、図2に示すように下部に設置する距離センサをすべてレーザレンジセンサとする場合について説明するが、これに限られず、例えば移動ロボット100の正面の下部にレーザレンジセンサを設置するとともに、レーザレンジセンサとは物体の検知原理が異なる距離センサ(例えば超音波式距離センサ)を左右の下部に設置し、互いの検知領域の一部が重なり合うようにして、レーザレンジセンサで物体の検知ができない場合(例えば物体の表面が鏡面であって計測点が検知できない場合等)でも、他の距離センサでその物体を検知できるようにしてもよい。
【0020】
監視カメラ103は、監視領域を撮像する。監視カメラ103は、図2に示すように移動ロボット100の上部に設置されている。画像情報受信部104は、監視カメラ103が撮像した画像情報を受信する。
【0021】
操作パネル部105は、表示部とその表示部の表示に対するユーザのタッチ操作を受け付ける入力部とを兼ね備えるデバイスであって、例えばタッチパネル付き液晶ディスプレイである。移動ロボット100に対する操作のメニューや種々の情報を表示し、その操作のメニューに対するユーザのタッチ操作による選択指示を受け付ける。操作パネル制御部106は、操作パネル部105に対する入出力制御を行う。
【0022】
スピーカ107は、音声メッセージを出力する。スピーカ107は、図2に示すように移動ロボット100の側面に配置されている。音声出力制御部108は、例えば操作パネル部105に表示する情報に関連する音声メッセージ等、各種の音声メッセージのスピーカ107による出力を制御する。
【0023】
現在位置取得部109は、移動ロボット100の現在位置を取得する。この現在位置の取得方法については任意であるが、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)から位置情報を取得したり、移動ロボット100に加速度センサ及びジャイロセンサを設置してその検知結果に基づいて推定した出発地点からの移動方向および移動距離の情報を用いることにより現在位置を取得したり、発信位置が既知の複数の無線LAN(Local Area Network)のアクセスポイントから発信されるビーコン信号を移動ロボット100で受信して、その電波強度によりアクセスポイントとの距離を推定して現在位置を取得したり、発信位置が既知のUWB(Ultra Wide Band)電波を発する複数のタグからその電波を移動ロボット100で受信し、その電波の到達時間や到来角度から現在位置を取得したりする等の公知技術を用いればよい。
【0024】
位置コスト算出部115は、任意の位置における侵入禁止エリアまでの近さを示す値である、位置コストを算出する。
【0025】
侵入禁止エリアは、仮想壁の周囲やLRS101が検知した物体の周囲に、所定の幅をもって設定されるが、本実施の形態では、仮想壁またはLRS101が検知した物体の、移動ロボット100の走行経路側に面した侵入禁止エリアの幅を、移動ロボット100の半径+パディング領域の幅とする。
【0026】
位置コストは、その位置から侵入禁止エリアまでの距離が近いほど大きい値となり、侵入禁止エリア内の位置では最大値をとる。位置コストの算出方法については任意であるが、例えば、ある位置から周囲の仮想壁またはLRS101が検知した物体までの距離のうち最小のものをd、移動ロボット100の半径をr、パディング領域の幅をp、位置コストをcと置いた場合、d>r+pの場合、つまり侵入禁止エリア内ではない走行経路上の任意の位置では、c=1/(1+d-r-p)とし、d≦r+pの場合、つまり侵入禁止エリア内の任意の位置では、c=1(cの最大値)として算出すればよい。このような算出方法により算出された位置コストに基づいて、その位置が侵入禁止エリアの内部か否か、あるいは侵入禁止エリアにどの程度近いかが判断できる。
【0027】
回避行動制御部116は、移動ロボット100が障害物のある場所または人混みの中を走行する場合において、検知情報受信部102がLRS101から受信した検知情報に基づいて、走行経路上の障害物への衝突を回避するように、かつ、走行経路上の侵入禁止エリア(図4参照)に侵入しないように、かつ、本来の走行経路に沿うように走行経路を修正する。走行制御部112は、修正された走行経路に沿って移動ロボット100が走行するように駆動部114を制御する。
【0028】
退避行動制御部110は、移動ロボット100が障害物のある場所または人混みの中を走行する場合において、様々な要因(例えば現在位置取得部109において現在位置の取得ができなかった場合や、LRS101の検知領域外から接近した通行人等が移動ロボット100に衝突した場合、あるいは走行する床面が濡れていたために移動ロボット100の車輪(不図示)がスリップして移動ロボット100の姿勢が不安定になった場合、等)によって、移動ロボット100の自律走行にかかる機能が正常に動作せず、移動ロボット100が走行経路上の侵入禁止エリア(図4参照)に侵入した際に、検知情報受信部102が受信したLRS101の検知情報から、移動ロボット100の周囲の障害物の有無を確認するとともに、移動ロボット100が侵入禁止エリア内である現在位置の周囲の位置の位置コストを算出して、最も位置コストの小さい位置を、現在位置から移動できる新たな目標地点として設定して侵入禁止エリアから退避する、退避行動を制御する。退避行動制御部110の詳細については後述する。
【0029】
駆動部114は、移動ロボット100の車輪(不図示)を駆動する。走行制御部112は、ROM22(図5参照)に記憶された走行経路に従って、移動ロボット100が走行(移動および回転(現在位置を変更せずに移動ロボット100の向きだけを変更するその場回転を含む))するように駆動部114を制御する。具体的には、駆動部114は、移動ロボット100の車輪を駆動する駆動部(車輪モータ等)であり、例えば、モータ、モータドライバおよび制御モジュール等が該当する。
【0030】
通信部113は、ネットワークで接続された監視装置(不図示)と各種情報の送受信を行う。具体的には、監視装置から走行経路の巡回の開始、停止などの指示を受信する。また、画像情報受信部104が監視カメラ103から受信した画像情報や、検知情報受信部102がLRS101から受信した検知情報を監視装置に送信する。
【0031】
ROM22(図5参照)は、移動ロボット100が自律走行する環境にかかる地図情報(実在する壁等の障害物および仮想壁の位置)、移動ロボット100の走行経路、ウェイポイント、最終目的地、位置コスト算出部115において位置コストの算出に用いられる移動ロボット100の半径、パディング領域の幅のデフォルト値等を記憶する記憶部である。
【0032】
次に、退避行動制御部110の詳細について説明する。概略的には、退避行動制御部110は、移動ロボット100が障害物のある場所または人混みの中を走行する場合において、走行経路上の侵入禁止エリア(図4参照)に侵入した際に、移動ロボット100のその時点での目標地点と後述する侵入禁止エリアの設定に用いているパディング領域の幅の2つのパラメータを一時的に変更すること、移動ロボット100が自ら探索した退避用目標地点(本発明の第2目標地点に相当する。)へ移動させること、移動ロボット100が一時的に侵入禁止エリアから退避した後にパディング領域の幅と目標地点を変更前のものに戻すことで、元の走行経路に戻ることを可能とする。
【0033】
ここで、図3は退避行動制御部110が備える各種機能を示す機能ブロック図である。図3に示すように、退避行動制御部110は、侵入判断部1101と、記憶制御部1102と、パラメータ変更部1103と、探索部1104と、を備える。
【0034】
侵入判断部1101は、現在位置取得部109が取得した移動ロボット100の現在位置に基づいて位置コスト算出部115が算出した位置コストから、移動ロボット100が走行経路上の侵入禁止エリアに侵入したかを判断する。
【0035】
ここで、図4は走行経路、障害物、仮想壁、侵入禁止エリアおよび移動ロボット100の位置関係を例示的に示す図である。移動ロボット100については、本体領域円とその中心である現在位置、および本体領域円の周囲に設定したパディング領域を合わせて表示している。図4中の(a)の移動ロボット100は、現在位置が走行経路上にあり、侵入禁止エリアには侵入していない状態を示している。一方、図4中の(b)の移動ロボット100は、現在位置が侵入禁止エリア内にあり、侵入禁止エリアに侵入して停止した状態を示している。
【0036】
走行経路は、ROM22(図5参照)に記憶された地図情報における、仮想壁の間の移動ロボット100が走行可能な領域内(例えば通路)に形成される。侵入禁止エリアは、移動ロボット100が仮想壁に衝突することを防ぐための領域であり、仮想壁を含む所定の範囲の領域に設定されている。
【0037】
より詳細には、侵入禁止エリアは、ROM22(図5参照)に記憶された地図情報における仮想壁から移動ロボット100の走行経路側に、「移動ロボット100の半径+パディング領域の幅」の大きさの幅をもって設定される。例えば、移動ロボット100の半径を35cm、パディング領域の幅をデフォルトで5cmとした場合、侵入禁止エリアの幅はデフォルトで40cm(35cm+5cm)となる。なお、当然のことながら、実在の壁(障害物)と仮想壁との間のエリアも、侵入禁止エリアとなることはいうまでもない。
【0038】
さらに、検知情報受信部102により、LRS101が検知した物体がROM22(図5参照)に記憶されている地図情報に含まれていない物体である、と判断され、その位置がRAM23(図5参照)に記憶された場合は、その物体の走行経路側に、「移動ロボット100の半径+パディング領域の幅」の大きさの幅をもって侵入禁止エリアを設定する。
【0039】
記憶制御部1102は、移動ロボット100が侵入禁止エリアに侵入して後述する退避行動制御処理を行う際、その侵入の前に目標地点としていたウェイポイントを、記憶部であるRAM23(図5参照)に一時的に記憶する。
【0040】
探索部1104は、移動ロボット100が侵入禁止エリアに侵入した際に、移動ロボット100の現在位置の周囲の障害物をLRS101によって検知するとともに、移動ロボット100の現在位置を中心とする所定の半径の円弧上の任意の位置について、位置コスト算出部115により位置コストを算出し、位置コストが最も小さい位置、すなわち、侵入禁止エリアまでの距離が最も遠い位置を探索(円形に探索)する。探索の結果として得られた、最も位置コストが小さい位置を、退避用目標地点として設定する。
【0041】
パラメータ変更部1103は、移動ロボット100が侵入禁止エリアに侵入した際に、侵入禁止エリアに侵入する前に目標地点としていたウェイポイントを、記憶制御部1102によってRAM23に一時記憶したうえで、移動ロボット100が退避行動を取るための退避用目標地点に変更するとともに、移動ロボット100のパディング領域の幅を小さく変更する。具体的には、本体領域円の半径とパディング領域の幅の和が、現在位置から周囲の仮想壁またはLRS101が検知した物体までの距離より小さくなるように、パディング領域の幅を小さく変更する。
【0042】
パラメータ変更部1103は、移動ロボット100が退避用目標地点に到達すると、移動ロボット100の目標地点を、記憶制御部1102によってRAM23に一時記憶されたウェイポイントに戻すとともに、パディング領域の幅を、ROM22に記憶されているパディング領域の幅のデフォルト値に戻す。
【0043】
図5は、本実施の形態にかかる移動ロボット100のハードウェア構成を示す図である。移動ロボット100は、ハードウェア構成として、移動ロボット100における制御処理を実行する制御プログラムおよび走行経路などが格納されているROM22と、ROM22内のプログラムに従って移動ロボット100の各部を制御するCPU21と、移動ロボット100の制御に必要な種々のデータを記憶する記憶部であるRAM23と、ネットワークに接続して通信を行う通信I/F24と、駆動部114と、各部を接続するバス25とを備えている。検知情報受信部102、画像情報受信部104、操作パネル制御部106、音声出力制御部108、現在位置取得部109、位置コスト算出部115、回避行動制御部116、退避行動制御部110、走行制御部112、通信部113は、これらのハードウェアの協働により実現される。
【0044】
移動ロボット100の制御プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、FD(Flexible Disk)、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0045】
この場合には、制御プログラムは、移動ロボット100において上記記録媒体から読み出して実行することにより主記憶装置上にロードされ、上記ソフトウェア構成で説明した各部が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【0046】
また、本実施の形態の制御プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。
【0047】
続いて、退避行動制御処理について説明する。
【0048】
ここで、図6は退避行動制御処理の流れを示すフローチャートである。前提として、移動ロボット100は、記憶された走行経路に従った駆動部114の制御駆動によって自律走行を開始する。走行経路中に障害物または人混みがある場合、移動ロボット100は、障害物等を検知すると、障害物等を回避する回避行動をとる。このように回避行動をとった際、侵入禁止エリアに侵入する可能性がある。移動ロボット100は侵入禁止エリアに侵入した場合、自律走行を停止する。
【0049】
図6に示すように、走行制御部112が移動ロボット100の自律走行の停止を監視し(ステップS1のNo)、移動ロボット100が自律走行を停止すると(ステップS1のYes)、退避行動制御部110の侵入判断部1101は、現在位置取得部109から移動ロボット100の現在位置を取得し(ステップS2)、その位置に基づいて位置コスト算出部115が位置コストを算出する(ステップS3)。
【0050】
次に、侵入判断部1101は、移動ロボット100の現在位置のコストが最大値かを判断する(ステップS4)。
【0051】
移動ロボット100の現在位置のコストが最大値ではないと判断した場合(ステップS4のNo)、走行制御部112は、ウェイポイントまで移動ロボット100を走行させる(ステップS14)。
【0052】
一方、移動ロボット100の現在位置のコストが最大値であると判断した場合(ステップS4のYes)、記憶制御部1102は、移動ロボット100が侵入禁止エリアに侵入する前に目標地点としていたウェイポイントを、RAM23に一時記憶する(ステップS5)。
【0053】
次に、パラメータ変更部1103は、現在の目標地点として設定されているウェイポイントをリセットする(ステップS6)。これは、後述するステップS8で算出される退避用目標地点に変更するためである。また、ステップS9でパディング領域の幅を小さく変更する。これは、結果的に侵入禁止エリアの幅を小さくして移動ロボット100の現在位置が侵入禁止エリアに侵入していない状態にしてから、退避用目標地点に向かって自律走行するためである。
【0054】
続いて、探索部1104は、移動ロボット100の現在位置から移動ロボット100自身の周囲の障害物をLRS101によって検知するとともに、位置コストが最も小さい位置を円形に探索する(ステップS7)。
【0055】
ここで、図7図6のステップS5~S13にかかる侵入禁止エリアからの退避行動の一例を示す図である。図7(a)は、移動ロボット100が侵入禁止エリアに侵入した状態から、現在目標地点に設定されているウェイポイントを一時記憶した後(ステップS5)、現在の目標地点をリセットし(ステップS6)、ロボット100の周囲で、位置コストが最も小さい位置を円形に探索(ステップS7)する様子を示す図である。図7(b)は、ロボット100の周囲で、位置コストが最も小さい位置を円形に探索して(ステップS7)、退避用目標地点を設定し(ステップS8)、パラメータ変更部1103がパディング領域の幅を小さく変更(ステップS9)した様子を示す図である。
【0056】
図7(b)に示すように、探索部1104は、移動ロボット100の現在位置から移動ロボット100自身の周囲(例えば、半径0.7m)で、位置コストが最も小さい位置を円形に探索する。
【0057】
次に、パラメータ変更部1103は、位置コストが最も小さい位置を、退避用目標地点として目標地点に設定する(ステップS8)。
【0058】
図7(b)に示すように、パラメータ変更部1103は、位置コストが最も小さい位置を、退避用目標地点として目標地点に設定する。
【0059】
その後、パラメータ変更部1103は、パディング領域の幅を小さく変更する(ステップS9)。
【0060】
続いて、走行制御部112は、移動ロボット100を、ステップS8で設定した退避用目標地点に向かって、退避用目標地点に到達するまで走行させる(ステップS10、ステップS11のNo)。
【0061】
退避用目標地点に到達すると(ステップS11のYes)、パラメータ変更部1103は、パディング領域の幅を、デフォルト値に戻すとともに、ステップS5で記憶したウェイポイントを目標地点に再設定する(ステップS12、ステップS13)。
【0062】
そして、走行制御部112は、再設定された目標地点であるウェイポイントへ向かって移動ロボット100を走行させる(ステップS14)。
【0063】
このように本実施形態によれば、侵入禁止エリアに侵入した移動ロボット100の目標地点(ウェイポイント)とパディング領域の幅のパラメータを一時的に変更すること、および、退避用目標地点を移動ロボット100自ら探索して当該退避用目標地点へ移動することで、移動ロボット100が侵入禁止エリアから退避した後に元の走行経路に戻る。これにより、自律走行中に何らかの理由で自律走行にかかる機能が正常に動作しなかったことにより、侵入禁止エリアに移動ロボット100が侵入した場合において、侵入禁止エリアから退避できる位置を移動ロボット100自身で探索し、人手を介すことなく侵入禁止エリアから退避し、元の走行経路に戻ることが可能である。このような移動ロボット100の自律走行精度向上により、ロボット導入現場の人員コスト削減に寄与することができる。
【0064】
なお、本実施形態においては、探索部1104は、移動ロボット100の現在位置から移動ロボット100の周囲について、LRS101によって障害物を検知するとともに、現在位置を中心とする所定の半径の円周上で位置コストが最も小さい位置を円形探索するようにしたが、これに限るものではない。例えば、探索部1104は、移動ロボット100の現在位置から移動ロボット100の周囲について、同心円状、または螺旋状に範囲を広げながら探索するようにしてもよい。また、移動ロボット100の周囲についてより広範囲に障害物の有無を検知するために、走行制御部112が駆動部114を制御して、移動ロボット100をその場回転させながら、移動ロボット100の現在位置の周囲の障害物をLRS101によって検知してもよい。
【0065】
以上、本発明の実施の形態および変形例を説明したが、各実施の形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの各実施の形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
100 移動ロボット
101 レーザレンジセンサ(LRS)
110 退避行動制御部
1101 侵入判断部
1102 記憶制御部
1103 パラメータ変更部
1104 探索部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7