(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007372
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】逆流防止装置とこれを備えた射出装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20250109BHJP
B29C 45/52 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B22D17/20 L
B29C45/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108728
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 毅
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206JA07
4F206JQ11
4F206JQ26
(57)【要約】
【課題】ピストンリングが逆流防止リングとシリンダとの間の隙間に侵入しにくい逆流防止装置を提供する。
【解決手段】射出装置3の逆流防止装置4は、射出装置3のシリンダ32の内面と対向する環状溝42を有する逆流防止リング41と、環状溝42に嵌められたピストンリング51と、を有している。環状溝42とピストンリング51はそれぞれ、射出装置3の射出方向における後部側面44,55を有し、環状溝42の後部側面44とピストンリング51の後部側面55は、それぞれの径方向内側部44B,55Bのみで互いに接触可能である。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出装置のシリンダの内面と対向する少なくとも一つの環状溝を有する逆流防止リングと、
前記少なくとも一つの環状溝に嵌められた少なくとも一つのピストンリングと、を有し、
前記少なくとも一つの環状溝と前記少なくとも一つのピストンリングはそれぞれ、前記射出装置の射出方向における後部側面を有し、
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面と前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面は、それぞれの径方向内側部のみで互いに接触可能である、射出装置の逆流防止装置。
【請求項2】
前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向内側部が前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向内側部と接触したときに、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の径方向外側部と前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の径方向外側部との間にギャップが形成される、請求項1に記載の射出装置の逆流防止装置。
【請求項3】
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向外側部は、前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向内側部に対し射出方向における後方にあり、
前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向外側部は、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向内側部に対し前記射出方向後方に突き出ている、請求項2に記載の逆流防止装置。
【請求項4】
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向内側部と、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向内側部は前記シリンダの中心軸と直交する平面である、請求項3に記載の逆流防止装置。
【請求項5】
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向外側部と前記径方向内側部との間の距離は、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向外側部と前記径方向内側部との間の距離より大きい、請求項4に記載の逆流防止装置。
【請求項6】
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向内側部と、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向内側部は前記シリンダの中心軸に対し傾斜している、請求項3に記載の逆流防止装置。
【請求項7】
前記少なくとも一つのピストンリングは、前記少なくとも一つの環状溝に収容された収容部と、前記少なくとも一つの環状溝よりも径方向外側に位置する外周面と、を有し、前記外周面の前記射出方向における後端部は、前記収容部の前記射出方向における後端部に対し前記射出方向における前方にある、請求項1に記載の逆流防止装置。
【請求項8】
前記外周面の前記後端部と前記収容部の前記後端部とを結ぶ面が、
前記シリンダの中心軸を中心軸とする筒状面と、
前記筒状面の前記射出方向における前端部と前記外周面の前記後端部とを接続し、前記シリンダの中心軸に対し傾斜している傾斜面と、
を有する、請求項7に記載の射出装置の逆流防止装置。
【請求項9】
前記外周面の前記後端部と前記収容部の前記後端部とを結ぶ面が前記シリンダの中心軸に対し全体的に傾斜している、請求項7に記載の射出装置の逆流防止装置。
【請求項10】
前記収容部の前記後端部の径方向における最外部は、前記径方向において前記環状溝の開口と略同じ位置にある、請求項8または9に記載の射出装置の逆流防止装置。
【請求項11】
前記収容部の前記後端部の径方向における最外部は前記環状溝の内部にある、請求項8または9に記載の射出装置の逆流防止装置。
【請求項12】
前記少なくとも一つの環状溝と前記少なくとも一つのピストンリングはそれぞれ、前記射出方向における前部側面を有し、
前記少なくとも一つの環状溝の前記前部側面と前記少なくとも一つのピストンリングの前記前部側面は、それぞれの径方向内側部のみで互いに接触可能である、請求項1に記載の逆流防止装置。
【請求項13】
前記ピストンリングの内径は前記射出方向における後部が前記射出方向における前部より大きい、請求項1に記載の逆流防止装置。
【請求項14】
請求項1に記載の逆流防止装置と、
前記シリンダと、
前記シリンダに収容されたスクリュと、
前記シリンダの先端に取り付けられた射出ノズルと、を有する射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は逆流防止装置とこれを備えた射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の射出装置は、射出時に射出される材料の逆流を防止する逆流防止装置を備えている。特許文献1には、シリンダに収容されたスクリュと、スクリュに取り付けられた押し金と、スクリュのスクリュヘッドと押し金との間に設けられた逆流防止装置と、を有する射出装置が記載されている。射出時にスクリュが前進すると逆流防止装置は押し金に押し付けられ、射出される材料が押し金の後方に回り込むことが防止される。逆流防止装置は逆流防止リングと、逆流防止リングに嵌めこまれたピストンリングと、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピストンリングは逆流防止装置とシリンダとのシール性を高める目的で設けられている。しかし、射出時にはスクリュが高速で動くため、ピストンリングが変形し逆流防止リングとシリンダとの間の隙間に侵入する可能性がある。この場合、ピストンリングの摩耗が進むだけでなく、逆流防止リングとシリンダとの間の隙間に侵入したピストンリングがシリンダを損傷させる可能性がある。
【0005】
本発明はピストンリングが逆流防止リングとシリンダとの間の隙間に侵入しにくい逆流防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の逆流防止装置は、環状溝を有する逆流防止リングと、環状溝に嵌められたピストンリングと、を有している。環状溝の射出方向における後部側面とピストンリングの射出方向における後部側面は、それぞれの径方向内側部のみで互いに接触可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピストンリングが逆流防止リングとシリンダとの間の隙間に侵入しにくい逆流防止装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る射出成形機の概略正面図である。
【
図5】第2の実施形態における
図2のB部に相当する部位の拡大図である。
【
図6】第3の実施形態における
図2のB部に相当する部位の拡大図である。
【
図7】第4の実施形態における
図2のB部に相当する部位の拡大図である。
【
図8】第5の実施形態における
図2のB部に相当する部位の拡大図である。
【
図9】第6の実施形態における
図2のB部に相当する部位の拡大図である。
【
図10】第7の実施形態における
図2のB部に相当する部位の拡大図である。
【
図11A】比較例における
図2のB部に相当する部位の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。本発明は金属射出成形機に好適に適用することができ、特に溶融時の粘度の低い金属を射出する金属射出成形機に好適に適用することができる。しかし、本発明は樹脂を射出する射出成形機にも適用することが可能である。以下の説明でX方向はシリンダ32の軸方向をいい、射出方向を+X方向、射出方向と反対方向を-X方向という。「前方」「後方」「前部」「後部」等の用語は射出方向を基準に定義される。また、「径方向」はシリンダ32の中心軸CLを基準に定義される。
【0010】
(第1の実施形態)
<射出成形機の全体構成>
図1は、第1の実施形態に係る射出成形機1の概略正面図を示している。射出成形機1はマグネシウム合金、アルミニウム合金などの溶融金属を射出する横型の金属射出成形機である。射出成形機1は、金型を型締めする型締装置2と、射出される金属材料を加熱溶融して射出する射出装置3と、から概略構成されている。
【0011】
<型締装置2>
型締装置2は、ベッド(図示せず)上に固定され固定金型M1が取り付けられる固定盤21と、ベッド上をスライド可能で可動金型M2が取り付けられる可動盤22と、を備えている。可動盤22に関し固定盤21の反対側には、ベッド上をスライド可能な型締ハウジング(図示せず)が設けられ、固定盤21と型締ハウジングは複数本のタイバー23によって連結されている。可動盤22と型締ハウジングとの間には、金型を開閉するためのリンク機構(図示せず)が設けられている。リンク機構は電動式のボールねじで駆動される。リンク機構の代わりに、油圧式の型締シリンダを設けてもよい。固定金型M1と可動金型M2との間には、溶融金属が充填されるキャビティM3が形成される。
【0012】
<射出装置3>
射出装置3は基台(図示せず)上に設けられている。射出装置3は、射出される金属材料を加熱溶融するための中空円筒のシリンダ32と、シリンダ32に収容されたスクリュ33と、スクリュ33を駆動する駆動機構34と、を備えている。スクリュ33はシリンダ32と同軸である。スクリュ33は駆動機構34によって回転駆動されるとともに+X及び-X方向に駆動される。シリンダ32の外周には金属材料を加熱溶融するヒータ38が設けられている。
【0013】
シリンダ32は、後方から前方に向けて供給部P1、圧縮部P2、計量部P3に概ね区分される。供給部P1にはホッパ36が設けられ、ペレット状の金属材料が供給される。金属材料はヒータ38からの加熱を受けながら圧縮部P2に送られる。金属材料は圧縮部P2で圧縮・加熱・混錬されることで溶融状態となり、計量部P3に搬送される。計量部P3は1回の射出サイクル(ショット)で射出される溶融金属を計量する。スクリュ33はX方向の先端にスクリュヘッド35を備えている。シリンダ32の先端には、キャビティM3に溶融金属を供給する射出ノズル37が取り付けられている。
【0014】
<逆流防止装置4>
図2は、シリンダ32の前方部分の部分詳細図(
図1のA部拡大図)を示している。
図2では便宜上、シリンダ32の中心軸CLより上側が逆流防止装置4の射出時の状態を示し、下側が逆流防止装置4の計量時の状態を示している。
図3Aは
図2のB部拡大図、
図3Bは
図2のC部拡大図であり、環状溝42とピストンリング51の位置関係を示している。すなわち、
図3Aは射出時の状態(
図2の上側に示す逆流防止リング41の状態)を示し、
図3Bは計量時の状態(
図2の下側に示す逆流防止リング41の状態)を示している。
図4は
図3Aの4-4線に沿った断面図である。
【0015】
図2に示すように、射出装置3のシリンダ32の計量部P3には、射出される金属材料の逆流を防止する逆流防止装置4が設けられている。逆流防止装置4は、金属製の中空円筒部材からなる逆流防止リング41を有し、逆流防止リング41は射出装置3のシリンダ32の内面と対向する環状溝42を有している。逆流防止装置4は、逆流防止リング41の環状溝42に嵌められたピストンリング51を有している。逆流防止リング41と環状溝42とピストンリング51はシリンダ32と同軸である。環状溝42は逆流防止リング41の外周に沿って周回し、シリンダ32の中心軸CLの周りの各角度位置で同じ断面を有している。
【0016】
本実施形態では、逆流防止リング41は2つの環状溝42を有し、各環状溝42に一つのピストンリング51が嵌められているが、環状溝42とピストンリング51はそれぞれ少なくとも一つあればよい。
【0017】
ピストンリング51は逆流防止リング41の環状溝42に嵌められた円環状のシール部品で、逆流防止リング41の前方と後方とを仕切る。ピストンリング51は金属で作成されている。
図4に示すように、ピストンリング51は段付きの両端部63を有し、両端部63の段差が周方向に重なり合うように環状溝42に装着されている。従って、ピストンリング51の内周面52と外周面53に掛かる圧力に応じて両端部63の段差が周方向にずれることで、ピストンリング51の径が変化する。ピストンリング51は、両端部63の近傍を除き、シリンダ32の中心軸CLの周りの各角度位置で同じ断面を有している。
【0018】
図2に示すように、スクリュヘッド35には環状の板からなる押し金39が挿入されている。逆流防止リング41は、射出方向前方のスクリュヘッド35と射出方向後方の押し金39との間でスクリュ33に挿入されている。スクリュヘッド35と押し金39の外径は逆流防止リング41の内径より大きく、逆流防止リング41のX方向長さは、スクリュヘッド35と押し金39のX方向の離間距離より小さい。従って、逆流防止リング41は、スクリュヘッド35と押し金39とに規制されながらX方向に移動可能である。
【0019】
図2のB部及び
図3Aに示すように、溶融金属が射出される際はスクリュ33が+X方向に前進し、逆流防止リング41はスクリュ33に対して-X方向に相対的に後退する。逆流防止リング41は押し金39に突き当たり、スクリュ33前方の計量された溶融金属が射出時(スクリュ33前進時)に、後方に漏れることを防止する。
図2のC部及び
図3Bに示すように、溶融金属を計量する際はスクリュ33が-X方向に後退し、逆流防止リング41はスクリュ33に対して+X方向に相対的に前進する。逆流防止リング41はスクリュヘッド35に突き当たるが、押し金39の後方の溶融金属はスクリュヘッド35の内部の流路35Aを通って、スクリュヘッド35の前方空間に供給される。このように、逆流防止リング41は機能的には弁の一種である。
【0020】
射出方向に関して前方の環状溝42には逆流防止リング41を径方向に貫通する貫通孔46が接続されている。貫通孔46には高圧の溶融金属が流入しピストンリング51に径方向外側の圧力を掛ける。この圧力によってピストンリング51がシリンダ32の内壁に押し付けられ、ピストンリング51のシール性が高められる。後方の環状溝42には貫通孔46が接続されていない。しかし、溶融金属の一部は前方のピストンリング51とシリンダ32との間の隙間、逆流防止リング41とシリンダ32との間の隙間、及び後方の環状溝42を通って後方のピストンリング51の内周面52に圧力を及ぼす。従って、前方と後方のピストンリング51は共にシール性の向上に寄与する。
【0021】
貫通孔46を設けることでシール性が高められるが、ピストンリング51に大きな圧力が掛かるため、ピストンリング51の摩耗が進行しやすくなる。貫通孔46を設置するか否かはシール性とピストンリング51の摩耗の抑制を考慮して適宜決定される。両方の環状溝42に貫通孔46を設けてもよいし、後方の環状溝42のみに貫通孔46を設けてもよし、いずれの環状溝42にも貫通孔46を設けないようにしてもよい。ただし、前方の環状溝42のみに貫通孔46を設けることで、前方のピストンリング51と後方のピストンリング51の摩耗量を均等化することが容易になる。
【0022】
前方の環状溝42と後方の環状溝42は貫通孔46が接続されているか否かを除き同じ構成を有している。2つのピストンリング51は同じ構成を有している。従って、以下の説明では主に前方の環状溝42と前方の環状溝42に嵌められたピストンリング51について説明する。
【0023】
<比較例の逆流防止装置104>
ここで、比較例の逆流防止装置104について説明する。
図11Aは、
図2のB部に相当する部位の拡大図である。環状溝142とピストンリング151は矩形断面を有している。前述のようにピストンリング151には径方向外側の圧力が掛かるため、ピストンリング151はシリンダ32の内壁に押し付けられる。また、射出時には溶融金属が逆流防止リング141とシリンダ32との間の隙間を-X方向に流れ環状溝142に流入するため、ピストンリング151は環状溝142の後部側面144に押し付けられる。計量時には、ピストンリング151は環状溝142の前部側面143に押し付けられるが(図示略)、射出時の方がスクリュ33の速度が高いため、ピストンリング151が環状溝142の側面に押し付けられる圧力は射出時の方が大きい。
【0024】
図11Bはピストンリング151が変形した様子を示している。ピストンリング151は比較的柔らかい金属でできている。このため、ピストンリング151が径方向外側及び-X方向に押し付けられると、ピストンリング151が変形しその一部が逆流防止リング141とシリンダ32との間の-X方向の隙間Gに侵入することがある。この様な状態が発生すると、ピストンリング151の摩耗が進むだけでなく、逆流防止リング141とシリンダ32との間の隙間Gに侵入したピストンリング151の一部がシリンダ32を損傷させる可能性がある。
【0025】
<環状溝42とピストンリング51の形状>
主に
図3Aを参照して、本実施形態の環状溝42とピストンリング51の形状についてより詳細に説明する。環状溝42は、前部側面43と後部側面44と底面45とを有している。底部45は環状溝42の最も深い部位であり、前部側面43と後部側面44とを仕切っている。後部側面44は段差部44Cを有している。後部側面44は、段差部44Cで仕切られた径方向外側部44Aと径方向内側部44Bとを有している。前部側面43はシリンダ32の中心軸CLと直交する平面である。底面45には貫通孔46が接続されている。
【0026】
ピストンリング51は、内周面52と外周面53と前部側面54と後部側面55とを有している。内周面52は環状溝42の最も深い部位にあり、前部側面54と後部側面55とを仕切っている。内周面52は環状溝42の底面45と対向している。ピストンリング51の後部側面55は段差部55Cを有している。ピストンリング51の後部側面55は、段差部55Cで仕切られた径方向外側部55Aと径方向内側部55Bとを有している。径方向外側部55Aと径方向内側部55Bと段差部55Cはそれぞれ、環状溝42の後部側面44の径方向外側部44Aと径方向内側部44Bと段差部44Cと対向している。前部側面54はシリンダ32の中心軸CLと直交する平面であり、環状溝42の前部側面43と対向している。
【0027】
環状溝42の後部側面44の径方向外側部44Aは径方向内側部44Bに対し射出方向における後方にあり、ピストンリング51の後部側面55の径方向外側部55Aは径方向内側部55Bに対し射出方向後方(-X方向)に突き出ている。ピストンリング51の内径は射出方向における後部が射出方向における前部より大きい。環状溝42の後部側面44の径方向外側部44Aと径方向内側部44Bとの間のX方向の距離D1は、ピストンリング51の後部側面55の径方向外側部55Aと径方向内側部55Bとの間のX方向の距離D2より大きい。
【0028】
このため、射出時にピストンリング51が環状溝42に対して-X方向に相対移動したとき、ピストンリング51の後部側面55の径方向内側部55Bは環状溝42の後部側面44の径方向内側部44Bと接触可能である、一方、ピストンリング51の後部側面55の径方向外側部55Aは環状溝42の後部側面44の径方向外側部44Aと接触することができない。つまり、ピストンリング51の後部側面55の径方向内側部55Bが環状溝42の後部側面44の径方向内側部44Bと接触したときに、ピストンリング51の後部側面55の径方向外側部55Aと環状溝42の後部側面44の径方向外側部44Aとの間に距離D1-D2に等しいギャップSが形成される。
【0029】
このように、環状溝42の後部側面44とピストンリング51の後部側面55は、それぞれの径方向内側部44B,55Bのみで互いに接触可能である。本実施形態では、環状溝42とピストンリング51の形状を比較例から変更することで、ピストンリング51の一部が逆流防止リング41とシリンダ32との-X側の隙間Gに侵入しにくくなっている。
【0030】
前述の通りピストンリング51には径方向外側の圧力が掛かるが、本実施形態ではこの圧力の低減または調整が容易である。ピストンリング51がシリンダ32の内面を押し付ける圧力はピストンリング51の内周面52に掛かる圧力によって生じる。ピストンリング51の内周面52に掛かる圧力をP1、ピストンリング51がシリンダ32を押し付ける圧力をP2、ピストンリング51の内周面52の幅をW1、ピストンリング51の外周面53の幅をW2とすると、P2=(W1/W2)×P1である。P2<P1であるため、ピストンリング51の摩耗を抑制することができる。しかも、圧力P2はW1/W2によって調整することができるため、シール性能とピストンリング51の摩耗の抑制をバランスさせることができる。
【0031】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。以下に示す実施形態において、説明を省略した構成や効果は第1の実施形態と同様である。
【0032】
(第2の実施形態)
図5は第2の実施形態を示す、
図2のB部に相当する部位の拡大図である。本実施形態では、環状溝42の段差部43Cとピストンリング51の段差部54Cが射出方向前方にも形成されている。環状溝42の前部側面43は、段差部43Cで仕切られた径方向外側部43Aと径方向内側部43Bとを有している。ピストンリング51の前部側面54は、段差部54Cで仕切られた径方向内側部54Aと径方向内側部54Bとを有している。
【0033】
環状溝42の前部側面43の径方向外側部43Aは径方向内側部43Bに対し射出方向における前方にあり、ピストンリング51の前部側面54の径方向外側部54Aは径方向内側部54Bに対し射出方向(X方向)に突き出ている。環状溝42の前部側面43の径方向外側部43Aと径方向内側部43Bとの間のX方向の距離D3は、ピストンリング51の前部側面54の径方向外側部54Aと径方向内側部54Bとの間のX方向の距離D4より大きい。このため、
図5に破線で示すように、計量時にピストンリング51が環状溝42に対してX方向に相対移動したとき、ピストンリング51の前部側面54の径方向内側部54Bは環状溝42の前部側面43の径方向内側部43Bと接触可能である、一方、ピストンリング51の前部側面54の径方向外側部54Aは環状溝42の前部側面43の径方向外側部43Aと接触することができない。
【0034】
従って、環状溝42の前部側面43とピストンリング51の前部側面54は、それぞれの径方向内側部43B,54Bのみで互いに接触可能である。前述のように、計量時にはスクリュ33の速度が遅いため、ピストンリング51が逆流防止リング41とシリンダ32との間の+X側の隙間G1に侵入する可能性は低い。しかし、本実施形態によればその可能性をさらに低減させることができる。
【0035】
(第3の実施形態)
図6は第3の実施形態を示す、
図2のB部に相当する部位の拡大図である。環状溝42の後部側面44の径方向内側部44Bとピストンリング51の後部側面55の径方向内側部55Bはシリンダ32の中心軸CLに対し同じ角度で傾斜している。環状溝42の径方向内側部44Bと底面45とは鈍角をなし、ピストンリング51の径方向内側部55Bと内周面52は鈍角をなす。このため、射出時にピストンリング51の後部側面55の径方向内側部55Bは環状溝42の後部側面44の径方向内側部44Bに均等に接触する。環状溝42の後部側面44の径方向外側部44Aとピストンリング51の後部側面55の径方向外側部55Aはシリンダ32の中心軸CLと直交している。本実施形態ではピストンリング51に-X方向に掛かる圧力P3が径方向外側を向く圧力P4に変換されるため、シール性を高めることができる。
【0036】
(第4の実施形態)
図7は第4の実施形態を示す、
図2のB部に相当する部位の拡大図である。環状溝42の後部側面44は、径方向外側部44Aと径方向内側部44Bと段差部44Cとを有し、径方向外側部44Aと径方向内側部44Bは段差部44Cで仕切られている。ピストンリング51の内径は射出方向における後部が射出方向における前部より大きい。射出時にピストンリング51が環状溝42に対して-X方向に相対移動したとき、ピストンリング51の後部側面55の径方向内側部55Bは環状溝42の後部側面44の径方向内側部44Bと接触可能である、一方、ピストンリング51の後部側面55の径方向外側部55Aは環状溝42の後部側面44の径方向外側部44Aと接触することができない。
【0037】
ピストンリング51は、環状溝42に収容された収容部56と、環状溝42の外側にある突出し部57と、を有している。ピストンリング51の外周面53は、環状溝42の径方向外側に位置している。外周面53の射出方向の後端部53Aは、収容部56の射出方向の最後端部(後部側面55の径方向外側部55A)に対し射出方向における前方にあるピストンリング51の外径は射出方向における後部が射出方向における前部より小さい。本実施形態は第1の実施形態と比べて、ピストンリング51が隙間Gから離れているため、ピストンリング51は一層隙間Gに侵入しにくい。
【0038】
外周面53の後端部53Aと収容部56の後端部の径方向における最外部58とを結ぶ面は、シリンダ32の中心軸CLを中心軸とする筒状面60と、筒状面60と外周面53の後端部53Aとを接続し、シリンダ32の中心軸CLに対し傾斜している傾斜面61と、を有している。このため、ピストンリング51を隙間Gから離すのが容易であり、ピストンリング51が隙間Gに侵入しにくくなっている。筒状面60の直径はX方向に一定であるが、+X方向に増加していてもよい。
【0039】
(第5の実施形態)
図8は第5の実施形態を示す、
図2のB部に相当する部位の拡大図である。本実施形態は収容部56の後端部の径方向における最外部58は、環状溝42の内部にあり、その他の点は第4の実施形態と同じである。本実施形態は第4の実施形態の効果を奏する。また、本実施形態は第1の実施形態及び第4の実施形態と比べて、ピストンリング51が隙間Gからさらに離れているため、ピストンリング51は一層隙間Gに侵入しにくい。
【0040】
ピストンリング51は使用によって摩耗するため、突出し部57の厚さが徐々に減少し、最終的に筒状面60がシリンダ32に接触する可能性がある。しかし、筒状面60が環状溝42の内部にあるため、摩耗してピストンリング51が減肉していっても筒状面60がシリンダ32に接触するまでより長時間を要する。本実施形態ではピストンリング51の寿命を伸ばすことができ、ピストンリング51の交換頻度を減らすことができる。
【0041】
(第6の実施形態)
図9は第6の実施形態を示す、
図2のB部に相当する部位の拡大図である。外周面53の後端部53Aと収容部56の後端部の径方向における最外部58とを結ぶ面62がシリンダ32の中心軸CLに対し全体的に傾斜している。その他の点は第4の実施形態と同じである。収容部56の後端部の径方向における最外部58は、径方向において環状溝42の開口59と略同じ位置にある。本実施形態は第4の実施形態とほぼ同様の効果を奏するが、外周面53の後端部53Aと収容部56の後端部の径方向における最外部58とを結ぶ面62の形状が単純であるため、ピストンリング51の加工が容易である。
【0042】
(第7の実施形態)
図10は第7の実施形態を示す、
図2のB部に相当する部位の拡大図である。本実施形態は収容部56の後端部の径方向における最外部58は、環状溝42の内部にあり、その他の点は第6の実施形態と同じである。本実施形態は第5の実施形態と同様の効果を奏する。すなわち、最外部58が環状溝42の内部にあるため、摩耗してピストンリング51が減肉していっても最外部58がシリンダ32に接触するまでより長時間を要する。本実施形態ではピストンリング51の寿命を伸ばすことができ、ピストンリング51の交換頻度を減らすことができる。また、本実施形態は第1の実施形態と比べて、ピストンリング51が隙間Gから離れているため、ピストンリング51は一層隙間Gに侵入しにくい。
【0043】
(付記)本明細書は以下の開示を含む。
[構成1]
射出装置のシリンダの内面と対向する少なくとも一つの環状溝を有する逆流防止リングと、
前記少なくとも一つの環状溝に嵌められた少なくとも一つのピストンリングと、を有し、
前記少なくとも一つの環状溝と前記少なくとも一つのピストンリングはそれぞれ、前記射出装置の射出方向における後部側面を有し、
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面と前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面は、それぞれの径方向内側部のみで互いに接触可能である、射出装置の逆流防止装置。
[構成2]
前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向内側部が前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向内側部と接触したときに、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の径方向外側部と前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の径方向外側部との間にギャップが形成される、構成1に記載の射出装置の逆流防止装置。
[構成3]
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向外側部は、前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向内側部に対し射出方向における後方にあり、
前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向外側部は、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向内側部に対し前記射出方向後方に突き出ている、構成2に記載の逆流防止装置。
[構成4]
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向内側部と、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向内側部は前記シリンダの中心軸と直交する平面である、構成3に記載の逆流防止装置。
[構成5]
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向外側部と前記径方向内側部との間の距離は、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向外側部と前記径方向内側部との間の距離より大きい、構成4に記載の逆流防止装置。
[構成6]
前記少なくとも一つの環状溝の前記後部側面の前記径方向内側部と、前記少なくとも一つのピストンリングの前記後部側面の前記径方向内側部は前記シリンダの中心軸に対し傾斜している、構成3に記載の逆流防止装置。
[構成7]
前記少なくとも一つのピストンリングは、前記少なくとも一つの環状溝に収容された収容部と、前記少なくとも一つの環状溝よりも径方向外側に位置する外周面と、を有し、前記外周面の前記射出方向における後端部は、前記収容部の前記射出方向における後端部に対し前記射出方向における前方にある、構成1から6のいずれか1項に記載の逆流防止装置。
[構成8]
前記外周面の前記後端部と前記収容部の前記後端部とを結ぶ面が、
前記シリンダの中心軸を中心軸とする筒状面と、
前記筒状面の前記射出方向における前端部と前記外周面の前記後端部とを接続し、前記シリンダの中心軸に対し傾斜している傾斜面と、
を有する、構成7に記載の射出装置の逆流防止装置。
[構成9]
前記外周面の前記後端部と前記収容部の前記後端部とを結ぶ面が前記シリンダの中心軸に対し全体的に傾斜している、構成7に記載の射出装置の逆流防止装置。
[構成10]
前記収容部の前記後端部の径方向における最外部は、前記径方向において前記環状溝の開口と略同じ位置にある、構成8または9に記載の射出装置の逆流防止装置。
[構成11]
前記収容部の前記後端部の径方向における最外部は前記環状溝の内部にある、構成8または9に記載の射出装置の逆流防止装置。
[構成12]
前記少なくとも一つの環状溝と前記少なくとも一つのピストンリングはそれぞれ、前記射出方向における前部側面を有し、
前記少なくとも一つの環状溝の前記前部側面と前記少なくとも一つのピストンリングの前記前部側面は、それぞれの径方向内側部のみで互いに接触可能である、構成1から11のいずれか1項に記載の逆流防止装置。
[構成13]
前記ピストンリングの内径は前記射出方向における後部が前記射出方向における前部より大きい、構成1から12のいずれか1項に記載の逆流防止装置。
[構成14]
構成1から13のいずれか1項に記載の逆流防止装置と、
前記シリンダと、
前記シリンダに収容されたスクリュと、
前記シリンダの先端に取り付けられた射出ノズルと、を有する射出装置。
【符号の説明】
【0044】
3 射出装置
4 逆流防止装置
32 シリンダ
33 スクリュ
41 逆流防止リング
42 環状溝
44 環状溝の後部側面
44A 環状溝の後部側面の径方向外側部
44B 環状溝の後部側面の径方向内側部
46 貫通孔
51 ピストンリング
53 外周面
53A 外周面の後端部
55 ピストンリングの後部側面
55A ピストンリングの後部側面の径方向外側部
55B ピストンリングの後部側面の径方向内側部
56 収容部