(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007393
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】固体電池用電極及び固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20250109BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250109BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108759
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三井 昭男
(72)【発明者】
【氏名】埜崎 寛雄
(72)【発明者】
【氏名】長尾 賢治
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H050AA12
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA02
(57)【要約】
【課題】固体電池の抵抗増加を低減することができる、固体電池用電極及び固体電池の提供。
【解決手段】硫化物固体電解質と、前記硫化物固体電解質と反応し、電子伝導性を発現する金属と、を含有し、固体電池用電極の総体積に対する上記金属の含有率が、5体積ppm以上、10,000体積ppm未満である、固体電池用電極等。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質と、
前記硫化物固体電解質と反応し、電子伝導性を発現する金属と、
を含有し、
固体電池用電極の総体積に対する前記金属の含有率が、5体積ppm以上、10,000体積ppm未満である、固体電池用電極。
【請求項2】
前記金属が、銅、銀、ニッケル、鉄、スズ、アルミニウム、チタン、クロム、亜鉛、金、マグネシウム、アンチモン、ジルコニウム、モリブデン及びこれらの合金から選択される少なくとも1種の金属である、請求項1に記載の固体電池用電極。
【請求項3】
前記金属が、銅及び銀の少なくとも一方である、請求項2に記載の固体電池用電極。
【請求項4】
固体電池用電極の総体積に対する前記金属の含有率が、50体積ppm以上である、請求項1に記載の固体電池用電極。
【請求項5】
固体電池用電極の総体積に対する前記金属の含有率が、5,000体積ppm以下である、請求項1に記載の固体電池用電極。
【請求項6】
前記硫化物固体電解質が、リン原子を含む、請求項1に記載の固体電池用電極。
【請求項7】
正極層と、固体電解質層と、負極層と、を備える、固体電池であって、
前記正極層及び前記負極層の少なくとも一方が、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の固体電池用電極である、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電池用電極及び固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。中でもエネルギー密度が高く、安全性に優れるという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。
【0003】
従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたため、短絡時の温度上昇を抑制する安全装置の取付、短絡防止のための構造、材料面での改善が必要となる。これに対して、電解液を固体電解質に代えて、電池を固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0004】
通常、固体電池が備える正極層及び負極層が銅等の金属が含有する場合、短絡を引き起こすおそれがあるため、除去されている。
例えば、特許文献1においては、正極層、硫化物固体電解質層及び負極層を備える固体電池を初充電前にエージングすることが行われており、これにより、銅等の金属が溶融除去されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、固体電池は、充放電を繰り返すことにより抵抗が増加する傾向にある。抵抗増加率の増加は、電池を充放電することに起因する電池の劣化が大きくなることを意味する。
今般、本発明者らは、正極層又は負極層へ、特定の金属を、特定の含有率で含有させることにより、上記した抵抗の増加を抑制することができることを見出した。
【0007】
本開示の一実施形態は、上記事情に鑑みてなされたものであり、解決しようとする課題は、固体電池の抵抗増加を低減することができる、固体電池用電極及び固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 硫化物固体電解質と、
前記硫化物固体電解質と反応し、電子伝導性を発現する金属と、
を含有し、
固体電池用電極の総体積に対する前記金属の含有率が、5体積ppm以上、10,000体積ppm未満である、固体電池用電極。
<2> 前記金属が、銅、銀、ニッケル、鉄、スズ、アルミニウム、チタン、クロム、亜鉛、金、マグネシウム、アンチモン、ジルコニウム、モリブデン及びこれらの合金から選択される少なくとも1種の金属である、上記<1>に記載の固体電池用電極。
<3>
前記金属が、銅及び銀の少なくとも一方である、上記<2>に記載の固体電池用電極。
<4>
固体電池用電極の総体積に対する前記金属の含有率が、50体積ppm以上である、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の固体電池用電極。
<5>
固体電池用電極の総体積に対する前記金属の含有率が、5,000体積ppm以下である、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の固体電池用電極。
<6>
前記硫化物固体電解質が、リン原子を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の固体電池用電極。
<7>
正極層と、固体電解質層と、負極層と、を備える、固体電池であって、
前記正極層及び前記負極層の少なくとも一方が、<1>~<6>のいずれか1つに記載の固体電池用電極である、固体電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、固体電池の抵抗増加を低減することができる、固体電池用電極及び固体電池を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の固体電解質の一実施形態を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。
本開示において、「硫化物固体電解質」には結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質と、非晶性硫化物固体電解質との両方が含まれる。
本開示において、結晶性硫化物固体電解質とは、粉末X線回折(XRD)測定においてX線回折パターンに、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わない材料である。すなわち、結晶性硫化物固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよいものである。そして、結晶性硫化物固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性硫化物固体電解質(「ガラス成分」とも称される。)が含まれていてもよいものである。したがって、結晶性硫化物固体電解質には、非晶性固体電解質(ガラス成分)を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
また、本開示において、非晶性硫化物固体電解質(ガラス成分)とは、粉末X線回折(XRD)測定においてX線回折パターンが実質的に材料由来のピーク以外のピークが観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものであることを意味する。
【0012】
[固体電池用電極]
本開示に係る固体電池用電極は、硫化物固体電解質と、硫化物固体電解質と反応し電子伝導性を発現する金属(以下、「特定金属」とも記す。)と、を含有し、
固体電池用電極の総体積に対する上記金属の含有率が、5体積ppm以上、10,000体積ppm未満である。
【0013】
本開示に係る固体電池用電極によれば、固体電池の抵抗増加を低減することができる。上記効果が奏される理由は明らかではないが以下のように推定される。
本開示に係る固体電池用電極が、硫化物固体電解質及び5体積ppm以上の特定金属を含有することにより、充放電時の発熱時において、硫化物固体電解質及び特定金属が反応し、硫化金属又はチオリン酸金属が生じる。これらは、電子伝導性に優れるため、電子伝導経路効率が改善され、抵抗増大が抑制されると推測される。また、硫化物固体電解質及び特定金属の反応により、硫化物固体電解質に電子伝導性が付与され、抵抗増大が抑制されると推測される。
更に、本開示に係る固体電池用電極における特定金属の含有率を10000体積ppm未満とすることにより、イオン電導性の低下を抑制することができ、抵抗増大が抑制されると推測される。
【0014】
(硫化物固体電解質)
硫化物固体電解質は、リチウム原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含むことができる。
硫化物固体電解質及び特定金属を反応させ、抵抗増大をより抑制する観点から、硫化物固体電解質は、リン原子を含むことが好ましい。硫化物固体電解質がリン原子を含むことで、チオリン酸金属が生成され、イオン伝導性と電子伝導性を両立することができる。
硫化物固体電解質は、非晶性であってもよく、結晶性であってもよい。
【0015】
一実施形態において、硫化物固体電解質の組成は、例えば、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLi2S・(1-x)P2S5)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)等で表される。
また、硫化物固体電解質は、下記一般式(1)で表される組成を有してもよい。
Li4-xGe1-xPxS4 (0<x<1) ・・・式(1)
式(1)において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも一つで置換されてもよい。また、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Sの一部は、ハロゲンで置換されてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl,Br及びIの少なくとも1つである。
【0016】
非晶性硫化物固体電解質としては、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-LiI-LiBr等の、硫化リチウム、硫化リン及びハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;更に酸素原子、珪素原子等の他の原子を含む、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI等の固体電解質などが挙げられる。
より高いイオン伝導度を得る観点から、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-LiI-LiBr等の硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質が好ましく挙げられる。
非晶性硫化物固体電解質を構成する原子の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
結晶性硫化物固体電解質は、非晶性固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスであってもよく、その結晶構造としては、Li3PS4結晶構造、Li4P2S6結晶構造、Li7PS6結晶構造、Li7P3S11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)等が挙げられる。また、Li4-xGe1-xPxS4系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742-746(2001)参照)、Li4-xGe1-xPxS4系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721-2725参照))等も挙げられる。
【0017】
硫化物固体電解質の形状は、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
【0018】
固体電池用電極の総質量に対する硫化物固体電解質の含有率は、2質量%~90質量%であることが好ましく、5質量%~30質量%であることがより好ましい。
また、固体電池用電極の総体積に対する硫化物固体電解質の含有率(体積比率)は、3体積%~95体積%であることが好ましく、4体積%~85体積%であることがより好ましい。
【0019】
(特定金属)
本開示に係る固体電池用電極は、硫化物固体電解質と反応し、電子伝導性を発現する金属(特定金属)を含有する。特定金属としては、例えば、銅、銀、ニッケル、鉄、スズ、アルミニウム、チタン、クロム、亜鉛、金、マグネシウム、アンチモン、ジルコニウム、モリブデン及びこれらの合金から選択される少なくとも1種の金属が挙げられる。上記した中でも、抵抗増加をより低減するという観点から、銅及び銀の少なくとも一方が好ましく、銅がより好ましい。
金属の形状は、特に限定されるものではなく、粒子状であってもよく、非粒子状であってもよい。
【0020】
ここで、金属が、硫化物固体電解質と反応し電子伝導性を発現する金属(特定金属)であるか否かの検証方法について説明する。まず、検証の対象となる金属と硫化物固体電解質とを混合し、熱処理して試料を得る。この際、混合条件及び熱処理条件を下記の通り設定する。
混合条件:硫化物固体電解質と対象となる金属(金属粉末を用いる)とを、金属粉末の体積濃度が5%となるよう混合する。硫化物固体電解質を1g、金属粉末を体積濃度5%となるように秤量し、乳鉢を用いて5分間充分に乾式混合し、混合粉末を得る。
熱処理条件:下記に示すSwagelokセルを150℃に設定した恒温槽に投入し、7日間熱処理を実施する。7日後、恒温槽から取り出し、25℃まで冷却後に熱処理後の電子伝導度を測定する。
【0021】
次いで、得られた試料について、熱処理の前後それぞれについての電子伝導度を下記方法にて測定する。
試料200mgを秤量し、Swagelok社製のシリンダに入れ1ton/cm2の圧力でプレスする。得られたペレットの両端をSUS製ピンで挟みボルト締めによりペレットに拘束圧を印加する。Swagelok社製のシリンダにペレットを封入したものを、Swagelokセルと呼称する。熱処理後の試料については、このSwagelokセルに対して前記熱処理条件での熱処理を実施する。得られた試料を25℃に保った状態で直流分極法により電子伝導度を算出する。測定には、Solartron社製のCelltest及びソーラトロン1260を使用する。印加電圧を0.1V、0.2V、0.3Vの条件で30秒印加し、通電電流量を計測する。印加電圧と通電電流量の関係から、抵抗を算出し、電子伝導度を算出する。
【0022】
その後、熱処理前後での電子伝導度を比較する。熱処理後の電子伝導度を熱処理前の電子伝導度で除することで、電子伝導度の増大率を算出する。電子伝導度の増大率が2.17以上であれば、硫化物固体電解質と反応し電子伝導性を発現する金属(特定金属)であると判定する。
【0023】
特定金属が粒子状である場合、その粒子径は、小さい方が、硫化物固体電解質との反応性が高まりより効果が発揮されるため、好ましい。
【0024】
硫化物固体電解質及び特定金属を反応させ、抵抗増加をより低減するという観点から、固体電池用電極の総体積に対する特定金属の含有率は、20体積ppm以上であることが好ましく、100体積ppm以上であることがより好ましく、200体積ppm以上であることが更に好ましく、450体積ppm以上であることが特に好ましく、600体積ppm以上であることが最も好ましく、1000体積ppm以上であってもよい。
イオン導電性の低下を抑制し、抵抗増加をより低減するという観点から、固体電池用電極の総体積に対する特定金属の含有率は、8000体積ppm以下であることが好ましく、7000体積ppm以下であることがより好ましく、6000体積ppm以下であることが更に好ましく、5500体積ppm以下であることが特に好ましく、5000体積ppm以下であってもよい。
さらに、自己放電量を小さくし、短絡を抑制するという観点から、固体電池用電極の総体積に対する特定金属の含有率は、4000体積ppm以下であることがより好ましく、3000体積ppm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本開示において、固体電池用電極における特定金属の含有率(体積比率)は、以下の方法により測定することができる。
固体電池用電極の断面を、EDS搭載走査電子顕微鏡(SEM-EDS、倍率30000倍)により観察し、エネルギー分散型分光法(EDS)にて元素分析を行うことで、特定金属の含有率(体積比率)を測定することができる。
【0026】
(活物質)
本開示に係る固体電池用電極は、活物質を含むことができる。活物質は、正極活物質であってもよく、負極活物質であってもよい。
【0027】
正極活物質として、リチウム複合酸化物を含むことが好ましい。リチウム複合酸化物は、F,Cl,N,S,Br及びIよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有してもよい。また、リチウム複合酸化物は、空間群R-3m、Immm、及びP63-mmc(P63mc、P6/mmcともいう。)より選ばれる少なくとも1つの空間群に属する結晶構造を有してもよい。また、リチウム複合酸化物は、遷移金属、酸素、及びリチウムの主たる配列がO2型構造であってもよい。
R-3mに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、LixMeyOαXβ(MeはMn、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si及びPからなる群より選択される少なくとも一種を表し、Xは、F、Cl、N、S、Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種を表し、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.0、1≦α<2、0<β≦1を満たす。)で表される化合物が挙げられる。
Immmに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、Lix1M1A1
2(1.5≦x1≦2.3を満たし、M1はNi,Co,Mn,Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、A1は少なくとも酸素を含み、A1に占める酸素の比率は85原子%以上である。)で表される複合酸化物(具体的な例としてLi2NiO2)、Lix1M1A
1-x2M1B
x2O2-yA2
y(0≦x2≦0.5、0≦y≦0.3であり、x2及びyの少なくとも一方は0でなく、M1AはNi,Co,Mn,Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種を表し、M1BはAl,Mg,Sc,Ti,Cr,V,Zn,Ga,Zr,Mo,Nb,Ta及びWよりなる群から選択される少なくとも1種を表し、A2はF,Cl,Br,S及びPよりなる群から選択される少なくとも1種を表す。)で表される複合酸化物が挙げられる。
P63-mmcに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、M1xM2yO2(M1はアルカリ金属(Na及びKの少なくとも一種が好ましい)を表し、M2は遷移金属(Mn,Ni,Co及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい)を表し、x+yは0<x+y≦2を満たす。)で表される複合酸化物が挙げられる。
O2型構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、Lix[Liα(MnaCobMc)1-α]O2(0.5<x<1.1、0.1<α<0.33、0.17<a<0.93、0.03<b<0.50、0.04<c<0.33であり、MはNi、Mg、Ti、Fe、Sn、Zr、Nb、Mo、W及びBiよりなる群から選ばれる少なくとも一種を表す。)で表される複合酸化物が挙げられ、具体的な例としてLi0.744[Li0.145Mn0.625Co0.115Ni0.115]O2等が挙げられる。
【0028】
負極活物質としては、シリコン、シリコン合金、シリコン酸化物等が挙げられる。また、負極活物質として、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素、金属スズ等の、金属リチウム又は金属リチウムと合金を形成し得る金属、これら金属の酸化物、これら金属と金属リチウムとの合金等を使用してもよい。酸化物としては、例えばLi4Ti5O12等の酸化物活物質が挙げられる。さらに、負極活物質として炭素等も挙げられる。炭素としては天然黒鉛、人造黒鉛、あるいはハードカーボン(難黒鉛化性炭素)又はソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)を挙げることができる。人造黒鉛としては、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ等が挙げられる。
【0029】
本開示に係る固体電池用電極における正極及び負極のそれぞれにおける活物質の含有率は、正極の総質量又は負極の総質量に対して、20質量%~99質量%であることが好ましく、50質量%~90質量%であることがより好ましい。ただし、負極に関しては、Li金属などを使用する場合において、活物質の含有率が100質量%であってもよい。
また、正極及び負極のそれぞれにおける活物質の含有率(体積比率)は、正極の総体積又は負極の総体積に対して、10体積%~99体積%であることが好ましく、32体積%~81体積%であることがより好ましい。
【0030】
(導電助剤)
本開示に係る固体電池用電極は、導電助剤を含むことができる。
導電助剤としては、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素等の炭素系材料が挙げられる。
【0031】
本開示に係る固体電池用電極における正極及び負極のそれぞれにおける導電助剤の含有率は、正極の総質量又は負極の総質量に対して、0質量%~20質量%であることが好ましく、0質量%~3質量%であることがより好ましい。
また、正極及び負極のそれぞれにおける導電助剤の含有率(体積比率)は、正極の総体積又は負極の総体積に対して、0体積%~45体積%であることが好ましく、0体積%~5.5体積%であることがより好ましい。
【0032】
(バインダー)
本開示に係る固体電池用電極は、バインダーを含むことができる。
バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ブチレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム等の熱可塑性エラストマー、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポロビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、シリコーン樹脂等の各種樹脂が例示される。
【0033】
本開示に係る固体電池用電極における正極及び負極のそれぞれにおけるバインダーの含有率は、正極の総質量又は負極の総質量に対して、0質量%~10質量%であることが好ましく、0質量%~3質量%であることがより好ましい。
また、正極及び負極のそれぞれにおけるバインダーの含有率(体積比率)は、正極の総体積又は負極の総体積に対して、0体積%~42.5体積%であることが好ましく、0体積%~12体積%であることがより好ましい。
【0034】
(その他の成分)
本開示に係る固体電池用電極は、上記した成分以外の成分(以下、「その他の成分」とも記す。)を含有してもよい。その他の成分としては、硫化物固体電解質以外の固体電解質等が挙げられる。硫化物固体電解質以外の固体電解質としては、酸化物固体電解質、ハロゲン化固体電解質等が挙げられる。
酸化物固体電解質として、アニオン元素の主成分として、酸素(O)を含有することが好ましく、例えば、Li、Q元素(Qは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo,W及びSの少なくとも一種を表す。)、及びOを含有してもよい。酸化物固体電解質としては、ガーネット型固体電解質、ペロブスカイト型固体電解質、ナシコン型固体電解質、Li-P-O系固体電解質、Li-B-O系固体電解質等が挙げられる。ガーネット型固体電解質としては、例えば、Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3(Zr2-xNbx)O12(0≦x≦2)、Li5La3Nb2O12等が挙げられる。ペロブスカイト型固体電解質としては、例えば、(Li、La)TiO3、(Li、La)NbO3、(Li、Sr)(Ta、Zr)O3等が挙げられる。ナシコン型固体電解質としては、例えば、Li(Al、Ti)(PO4)3、Li(Al、Ga)(PO4)3等が挙げられる。Li-P-O系固体電解質としては、Li3PO4、LIPON(Li3PO4のOの一部をNに置換した化合物)、Li-B-O系固体電解質としては、Li3BO3、Li3BO3のOの一部をCで置換した化合物等が挙げられる。
ハロゲン化物固体電解質として、Li、M及びXを含む固体電解質(MはTi、Al及びYの少なくとも1つを表し、XはF,Cl又はBrを表す。)が好適である。具体的には、Li6-3zYzX6(XはCl又はBrを表し、zは0<z<2を満たす。)、Li6-(4-x)b(Ti1-xAlx)bF6(0<x<1、0<b≦1.5)が好ましい。Li6-3zYzX6の中でも、リチウムイオン伝導度に優れる点で、Li3YX6(XはCl又はBr表す。)がより好ましく、更にはLi3YCl6が好ましい。また、Li6-(4-x)b(Ti1-xAlx)bF6(0<x<1、0<b≦1.5)は、例えば、硫化物固体電解質の酸化分解を抑える等の観点から、硫化物固体電解質等の固体電解質とともに含まれることが好ましく、硫化物固体電解質等の固体電解質の表面の少なくとも一部を被覆していることがより好ましい。これにより、リチウムイオン伝導度がより良好になる。
【0035】
(用途)
本開示に係る固体電池用電極は、固体電池の正極又は負極を構成する材料として好適に使用することができる。
【0036】
[固体電池]
本開示に係る固体電池は、正極層と、固体電解質層と、負極層と、を備え、
上記正極層及び上記負極層の少なくとも一方が、本開示に係る固体電池用電極である。
【0037】
本開示に係る固体電池は、正極層の固体電解質層側とは反対の側に正極集電体を備えていてもよい。
本開示に係る固体電池は、負極層の固体電解質層側とは反対の側に負極集電体を備えていてもよい。
【0038】
(正極層及び負極層)
本開示に係る固体電池が備える正極層及び負極層は、少なくとも一方が、本開示に係る固体電池用電極である。
本開示に係る固体電池用電極以外の固体電池用電極の構成は、特に限定されるものではなく、従来公知の構成とすることができる。例えば、本開示に係る固体電池用電極に特定金属を含有させない構成の電極等が挙げられる。
本開示に係る固体電池用電極については上記したため、ここでは記載を省略する。
正極層の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1nm以上500μm以下とすることができる。
負極層の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1nm以上500μm以下とすることができる。
【0039】
(固体電解質層)
固体電解質層は、固体電解質を含有することができる。固体電解質層は、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造であってもよい。固体電解質としては、固体電池が備える固体電解質層に使用できる従来公知のものを使用することができ、例えば、硫化物固体電解質が挙げられる。
【0040】
固体電解質層は、バインダーを含むことができる。バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム等のゴム系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ化物系バインダー等が挙げられる。
【0041】
固体電解質層の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1nm以上500μm以下とすることができる。
【0042】
(正極集電体)
正極集電体としては、従来公知のものを使用することができる。正極集電体としては、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、カーボン等が挙げられ、アルミニウム合金箔又はアルミニウム箔が好ましい。アルミニウム合金箔及びアルミニウム箔は、粉末を用いて製造されてもよい。正極集電体の形状は、例えば、箔状、メッシュ状である。
【0043】
正極集電体の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1nm以上50μm以下とすることができる。
【0044】
(負極集電体)
負極集電体は、上記した金属箔を使用することができ、ニッケル箔、及びアルミニウム箔が好ましい。
負極集電体の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1nm以上50μm以下とすることができる。
【0045】
図1に、本開示に係る固体電池の一実施形態を表す模式断面図を示す。
図1に示すように、負極層A、固体電解質層B及び正極層Cは積層されている。
図1において、負極活物質を符号101、正極活物質を符号103、導電助剤を符号105及び107、バインダーを符号109及び111、負極集電体を符号113、正極集電体を符号115で示す。
また、負極層A及び正極層Cの少なくとも一方は、特定金属を含有する(図示せず。)。
固体電池は、正極/固体電解質層/負極の積層構造の積層端面(側面)が樹脂で封止される構成を有していてもよい。正極集電体及び負極集電体は、表面に緩衝層、弾性層、又はPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ層が配置された構成であってもよい。
また、固体電解質層は、
図1に示すように、2層構造を有するものであってもよい。
【0046】
本開示に係る固体電池の製造方法の一実施形態を以下に説明するが、これに限定されるものではない。
まず、正極集電体上に、硫化物固体電解質、特定金属、正極活物質、導電助剤、バインダー等を任意の溶媒に溶解又は分散させた正極合剤ペーストを塗工し、乾燥させ、正極層を形成させ、正極集電体及び正極層を備える正極シートを作製する。
次いで、負極集電体上面に、硫化物固体電解質、特定金属、負極活物質、導電助剤、バインダー等を任意の溶媒に溶解又は分散させた負極合剤ペーストを塗工し、乾燥させ、負極層を形成させ、負極集電体及び負極層を備える負極シートを作製する。
次いで、アルミニウム箔(例えばSUS箔)等の金属箔上に、固体電解質、バインダー等を任意の溶媒に溶解又は分散させた固体電解質層用ペーストを塗工し、乾燥させ、固体電解質層を形成させ、金属箔及び固体電解質層を備える固体電解質シートを作製する。
次いで、負極シート及び固体電解質シートを積層し、プレスすることにより、固体電解質層を負極層表面に転写する。
次いで、固体電解質層の負極層側とは反対側に、正極シートを積層し、プレスすることにより、固体電池を製造することができる。
上記方法により製造される固体電池は、正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層及び負極集電体をこの順に備える。
なお、上記した溶媒としては、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン、酪酸ブチル、テトラヒドロナフタレン、ヘプタン、ジブチルエーテル、及びジイソブチルケトン(DIBK)等が挙げられる。
【実施例0047】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
<実施例1~実施例7>
正極活物質として、LiNi0.8(CoAl)0.2O2を用意した。正極活物質は、LTAF(Li-Ti-Al-F)の表面処理が施されている。
正極活物質、導電性カーボン、固体電解質(Li2S-P2S5-LiBr-LiI系ガラスセラミックス)、バインダー(スチレンブタジエンゴム(SBR))、溶媒(テトラヒドロナフタレン)、及び銅を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、正極合剤ペーストを得た。
なお、正極活物質及び銅の含有比率(体積比率)を表1に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表1の(その他)に記載の量とした。溶媒は、正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー及び銅の含有率の和を100質量部としたとき、25質量部となる量で混合した。
【0049】
負極活物質としてLi4Ti5O12を用意した。
負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及び溶媒を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、負極合剤ペーストを得た。固体電解質、バインダー、及び溶媒には正極合剤ペーストと同じものを用いた。
なお、負極活物質の含有比率(体積比率)を表1に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表1の(その他)に記載の量とした。溶媒は、負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、及びバインダーの含有率の和を100質量部としたとき、35質量部となる量で混合した。
【0050】
ポリプロピレン製容器に、溶媒51質量部と、バインダー5質量部とを含んだ溶液3質量部と、固体電解質としてLiI-LiBr-Li2S-P2S5系ガラスセラミック46質量部とを加え、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて、30秒間混合した。バインダー及び溶媒には正極合剤ペーストと同じものを用いた。次に、容器を振とう器で3分間振とうさせて、固体電解質ペーストを得た。
【0051】
アプリケーターを使用したブレード法により、アルミニウム箔上に正極合剤ペーストを塗工した。塗工後、100℃のホットプレス上で30分間乾燥させて、アルミニウム箔の表面に正極層を有する正極シートを得た。
同様にして、アルミニウム箔上に、負極合剤ペーストを塗工し、乾燥させて、負極層を有する負極シートを得た。
同様にして、アルミニウム箔上に、固体電解質ペーストを塗工し、乾燥させて、固体電解質層を有する固体電解質シートを得た。なお、正極層の充電比容量を200mAh/gとした時に対する負極容量充電比容量が1倍となるように負極目付を調整した。
【0052】
負極シートと固体電解質シートとを積層し、プレスすることで、固体電解質層を負極シートの負極層表面に転写した。
次いで、固体電解質層の負極層側とは反対側に、正極シートを積層し、175℃、5ton/cmでロールプレスすることで、積層体を得た。
積層体は、アルミニウム箔、正極層、固体電解質層、負極層、及びアルミニウム箔をこの順に有するものであった。
得られた積層体をラミネート封入し、5MPaで拘束することで、全固体リチウムイオン二次電池を得た。
全固体リチウムイオン二次電池を温度80℃の環境に7日間静置した。
【0053】
<実施例8~実施例16>
正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及び溶媒を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、正極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、正極活物質の含有比率(体積比率)を表1に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表1の(その他)に記載の量とした。溶媒は、正極活物質、導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの含有率の和を100質量部としたとき、25質量部となる量で混合した。
【0054】
負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、溶媒、及び銅を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、負極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、負極活物質及び銅の含有比率(体積比率)を表1に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表1の(その他)に記載の量とした。溶媒は、負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー及び銅の含有率の和を100質量部としたとき、35質量部となる量で混合した。
【0055】
上記正極合剤ペースト及び負極合剤ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、全固体リチウムイオン二次電池を得た。その後、実施例1と同じ条件、つまり温度80℃の環境に7日間静置した。
【0056】
<比較例1>
正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及び溶媒を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、正極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、正極活物質の含有比率(体積比率)を表1に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表1の(その他)に記載の量とした。溶媒は、正極活物質、導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの含有率の和を100質量部としたとき、25質量部となる量で混合した。
【0057】
上記正極合剤ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、全固体リチウムイオン二次電池を得た。その後、実施例1と同じ条件、つまり温度80℃の環境に7日間静置した。
【0058】
<比較例2>
負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、溶媒、及び銅を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、負極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、負極活物質及び銅の含有比率(体積比率)を表1に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表1の(その他)に記載の量とした。溶媒は、負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー及び銅の含有率の和を100質量部としたとき、35質量部となる量で混合した。
【0059】
上記負極合剤ペーストを使用した以外は、実施例8と同様にして、全固体リチウムイオン二次電池を得た。その後、実施例1と同じ条件、つまり温度80℃の環境に7日間静置した。
【0060】
<<抵抗評価>>
得られた全固体リチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽内に配置し、充放電装置に接続した。
0.1C相当で定電流充電し、セル電圧が2.7V到達後、定電圧充電した。定電圧充電試験は、電流値が0.01C相当に到達した場合に終了とした。
次に、SOC40に相当する2.12Vまで0.1Cで定電流放電し、2.12Vで定電圧放電を実施した。電流値が0.01Cに到達した際に、定電圧放電を終了した。
その後、72Cで定電流放電し、0.1秒後の電圧から、オームの法則により直流抵抗を算出した。
比較例1の全固体リチウムイオン二次電池の抵抗値を100%としたときの、各実施例、各比較例の抵抗値の比率を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1の結果から、固体電池用電極の総体積に対する金属(銅)の含有率を、5体積ppm以上とした実施例の固体電池は、金属を含有させなかった比較例1の固体電池に比べ、抵抗増加率が低減されていることが分かる。また、固体電池用電極の総体積に対する金属(銅)の含有率を10,000体積ppm未満とした実施例の固体電池は、金属(銅)の含有率がこの範囲を超える量となっている比較例2の固体電池に比べ、抵抗増加率が低減されていることが分かる。
【0063】
なお、銅が、硫化物固体電解質と反応し電子伝導性を発現する金属であることの確認試験について、詳細は後述する。
【0064】
<実施例17~実施例20及び比較例3~比較例4>
負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、溶媒、及び銀を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、負極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、負極活物質及び銀の含有比率(体積比率)を表2に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表2の(その他)に記載の量とした。溶媒は、正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及び銀の含有率の和を100質量部としたとき、35質量部となる量で混合した。
【0065】
上記負極合剤ペーストを使用した以外は、実施例8と同様にして、全固体リチウムイオン二次電池を得た。その後、実施例1と同じ条件、つまり温度80℃の環境に7日間静置した。
【0066】
<<抵抗評価>>
得られた全固体リチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にして抵抗評価を実施した。
比較例1の全固体リチウムイオン二次電池の抵抗値を100%としたときの、各実施例、各比較例の抵抗値の比率を表2に示す。
【0067】
【0068】
表2の結果から、固体電池用電極の総体積に対する金属(銀)の含有率を、5体積ppm以上、10000体積ppm未満とした実施例の固体電池は、10000体積ppm以上含有させた比較例の固体電池に比べ、抵抗増加率が低減されていることが分かる。
【0069】
なお、銀が、硫化物固体電解質と反応し電子伝導性を発現する金属であることの確認試験について、詳細は後述する。
【0070】
<比較例5~比較例8>
負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、溶媒、及びステンレスSUS316を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、負極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、負極活物質及びステンレスSUS316の含有比率(体積比率)を表3に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表3の(その他)に記載の量とした。溶媒は、正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及びステンレスSUS316の含有率の和を100質量部としたとき、35質量部となる量混合した。
【0071】
上記負極合剤ペーストを使用した以外は、実施例8と同様にして、全固体リチウムイオン二次電池を得た。その後、実施例1と同じ条件、つまり温度80℃の環境に7日間静置した。
【0072】
<<抵抗評価>>
得られた全固体リチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にして抵抗評価を実施した。
比較例1の全固体リチウムイオン二次電池の抵抗値を100%としたときの、各比較例の抵抗値の比率を表3に示す。
【0073】
【0074】
表3の結果から、固体電池用電極へステンレスSUS316を含有させた比較例の固体電池は、抵抗増加率が低減されていないことが分かる。
【0075】
なお、ステンレスSUS316が、硫化物固体電解質と反応し電子伝導性を発現する金属で無いことの確認試験について、詳細は後述する。
【0076】
<比較例9~比較例10>
正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、溶媒、及び銅を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、正極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、正極活物質及び銅の含有比率(体積比率)を表4に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表4の(その他)に記載の量とした。溶媒は、正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及び銅の含有率の和を100質量部としたとき、25質量部となる量で混合した。
【0077】
上記正極合剤ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、全固体リチウムイオン二次電池を得た。その後、実施例1と同じ条件、つまり温度80℃の環境に7日間静置した。
【0078】
<比較例11>
負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、溶媒、及び銅を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、負極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、負極活物質及び銅の含有比率(体積比率)を表4に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表4の(その他)に記載の量とした。溶媒は、負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及び銅の含有率の和を100質量部としたとき、35質量部となる量で混合した。
【0079】
上記負極合剤ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、全固体リチウムイオン二次電池を得た。その後、実施例1と同じ条件、つまり温度80℃の環境に7日間静置した。
【0080】
<<短絡抑制性評価(自己放電量評価)>>
得られた全固体リチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽内に配置し、充放電装置に接続した。
2.515Vで定電圧充電を実施した。定電圧充電は、電流値が0.01Cまで減衰した場合に終了とした。その後、開回路電圧にて電池電圧を72時間測定した。48時間から72時間の間の24時間の電圧降下量を自己放電量として算出した。
上記自己放電量の測定を、実施例3~実施例7、実施例11~実施例16、比較例1~比較例2、及び比較例9~比較例11に対して行い、結果を表4にまとめた。
【0081】
【0082】
表4の結果から、固体電池用電極の総体積に対する金属(銅)の含有率を、4000体積ppm以下とした実施例3~6及び実施例11~15の固体電池は、4000体積ppmを超えて含有させた実施例7、16、及び比較例の固体電池に比べ、自己放電量が小さく、短絡抑制性が改善されていることが分かる。
【0083】
<実施例21~25>
正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、溶媒、及び銅を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、正極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、正極活物質及び銅の含有比率(体積比率)を表5に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表5の(その他)に記載の量とした。溶媒は、正極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及び銅の含有率の和を100質量部としたとき、25質量部となる量で混合した。
【0084】
負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、溶媒、及び銅を、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合し、負極合剤ペーストを得た。各種材料は実施例1と同じものを用いた。
なお、負極活物質及び銅の含有比率(体積比率)を表5に記載の量とし、さらに残部として導電性カーボン、固体電解質及びバインダーの量を適宜調整し合計で表5の(その他)に記載の量とした。溶媒は、負極活物質、導電性カーボン、固体電解質、バインダー、及び銅の含有率の和を100質量部としたとき、35質量部となる量で混合した。
【0085】
上記正極合剤ペースト及び負極合剤ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、全固体リチウムイオン二次電池を得た。その後、実施例1と同じ条件、つまり温度80℃の環境に7日間静置した。
【0086】
<<抵抗評価>>
得られた全固体リチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にして抵抗評価を実施した。
比較例1の全固体リチウムイオン二次電池の抵抗値を100%としたときの、各比較例の抵抗値の比率を表5に示す。
【0087】
<<短絡抑制性評価(自己放電量評価)>>
得られた全固体リチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にして短絡抑制性評価を実施した。自己放電量の結果を表5に示す。
【0088】
【0089】
<<金属が特定金属であるか否かの検証>>
上記実施例で用いた「銅、銀、ステンレスSUS316」、さらに上記実施例では用いていないニッケル、アルミニウム、金、鉄、白金、亜鉛について、硫化物固体電解質と反応し電子伝導性を発現する金属(特定金属)であるか否かを、前述の検証方法にしたがって確認した。測定された熱処理前後での電子伝導度の増大率の結果を、表6に示す。
【0090】
A:負極層、B:固体電解質層、C:正極層、101:負極活物質、103:正極活物質、105及び107:導電助剤、109及び111:バインダー、113:負極集電体、115:正極集電体