(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007398
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】有機電気化学デバイス及び有機電気化学デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/414 20060101AFI20250109BHJP
G01N 33/66 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N27/414 301G
G01N33/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108765
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】三ツ石 方也
(72)【発明者】
【氏名】及川 涼香
(72)【発明者】
【氏名】金田一 修平
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA31
2G045FB05
2G045JA07
(57)【要約】
【課題】従来よりも簡便な方法で製造可能な有機電気化学デバイス及び有機電気化学デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】導電性ポリマー及びグリコサミノグリカンを含むチャネルと、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極とを備え、前記グリコサミノグリカンがN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸、イズロン酸及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の糖との2糖の繰返し構造からなるグリコサミノグリカンであり、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は前記チャネルと接触して電気的に接続しており、前記ゲート電極及び前記チャネルと接触する電解質が存在すれば前記ゲート電極は前記チャネルと前記電解質を介して電気的に接続可能であり、前記電解質は電解質溶液及びイオン液体からなる群から選択される少なくとも1種である、有機電気化学デバイス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマー及びグリコサミノグリカンを含むチャネルと、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極とを備え、
前記グリコサミノグリカンがN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸、イズロン酸及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の糖との2糖の繰返し構造からなるグリコサミノグリカンであり、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は前記チャネルと接触して電気的に接続しており、
前記ゲート電極及び前記チャネルと接触する電解質が存在すれば前記ゲート電極は前記チャネルと前記電解質を介して電気的に接続可能であり、前記電解質は電解質溶液及びイオン液体からなる群から選択される少なくとも1種である、
有機電気化学デバイス。
【請求項2】
前記導電性ポリマーがPEDOT:PSSである、請求項1に記載の有機電気化学デバイス。
【請求項3】
前記グリコサミノグリカンがヒアルロン酸である、請求項1に記載の有機電気化学デバイス。
【請求項4】
前記電解質が体液である、請求項1に記載の有機電気化学デバイス。
【請求項5】
前記体液が血液である、請求項4に記載の有機電気化学デバイス。
【請求項6】
グルコースセンサである、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機電気化学デバイス。
【請求項7】
前記ゲート電極が前記チャネルと前記電解質溶液を介して電気的に接続されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機電気化学デバイス。
【請求項8】
有機電気化学トランジスタである、請求項7に記載の有機電気化学デバイス。
【請求項9】
導電性ポリマー及びグリコサミノグリカンを含むチャネル形成用組成物を調製し、
前記チャネル形成用組成物をソース電極及びドレイン電極が配置された絶縁体基板上に、前記チャネル形成用組成物が前記ソース電極及びドレイン電極と接触するように塗布してチャネルを形成し、
前記チャネルと電解質を介して電気的に接続可能であるようにゲート電極を配置する、
有機電気化学デバイスの製造方法であって、
前記グリコサミノグリカンがN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸、イズロン酸及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の糖との2糖の繰返し構造からなるグリコサミノグリカンである、
有機電気化学デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記ゲート電極が前記絶縁体基板上に配置されている、請求項9に記載の有機電気化学デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電気化学デバイス及び有機電気化学デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電気化学センサ等において、糖類の検知にグルコース脱水素酵素及びグルコースオキシダーゼ等グルコース測定用酵素が用いられている。しかし、酵素の製造、保存安定性や酵素の価格が問題となっている。
【0003】
近年、酵素を用いない有機電気化学トランジスタ(Organic electrochemical transistor,略称:OECT)を用いた非酵素型グルコースOECTセンサが注目されている。非酵素型グルコースOECTセンサにおいては煩瑣なデバイス作製過程が課題となっている(非特許文献1)。既往の研究ではグルコースを感知する官能部位であるフェニルボロン酸(Phenylboronic Acid,略称:PBA)を電解重合などの重合反応によって活性層内に埋め込むプロセスが一般的である(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Wustoni, S.、外4名、“Enzyme-Free detection of Glucose with a Hybrid Conductive Gel Electrode”、Advanced Materials Interfaces、2019年、第6巻、1800928
【非特許文献2】Tseng, A. C.、外1名、“Direct Electrochemical Signaling in Organic Electrochemical Transistors Comprising High-Conductivity Double-Network Hydrogels”、ACS Applied Materials & Interfaces、2022年、第14巻、p.24729-24740
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、既報の非酵素型グルコースOECTセンサは、一般的なデバイス作製に用いられるスピンコート法やデジタル印刷技術への適合が難しい。
【0006】
本発明は、従来よりも簡便な方法で製造可能な有機電気化学デバイス及び有機電気化学デバイスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、グルコース検知部位として従来のPBAではなく、グルコースと類似の化学構造を有する多糖類を用い、これを単に活性材料に混合することで機能性膜を作製することを知得し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
【0008】
[1] 導電性ポリマー及びグリコサミノグリカンを含むチャネルと、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極とを備え、
前記グリコサミノグリカンがN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸、イズロン酸及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の糖との2糖の繰返し構造からなるグリコサミノグリカンであり、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は前記チャネルと接触して電気的に接続しており、
前記ゲート電極及び前記チャネルと接触する電解質が存在すれば前記ゲート電極は前記チャネルと前記電解質を介して電気的に接続可能であり、前記電解質は電解質溶液及びイオン液体からなる群から選択される少なくとも1種である、
有機電気化学デバイス。
[2] 前記導電性ポリマーがPEDOT:PSSである、[1]に記載の有機電気化学デバイス。
[3] 前記グリコサミノグリカンがヒアルロン酸である、[1]又は[2]に記載の有機電気化学デバイス。
[4] 前記電解質が体液である、[1]~[3]のいずれかに記載の有機電気化学デバイス。
[5] 前記体液が血液である、[4]に記載の有機電気化学デバイス。
[6] グルコースセンサである、[1]~[5]のいずれかに記載の有機電気化学デバイス。
[7] 前記ゲート電極が前記チャネルと前記電解質溶液を介して電気的に接続されている、[1]~[3]のいずれかに記載の有機電気化学デバイス。
[8] 有機電気化学トランジスタである、[7]に記載の有機電気化学デバイス。
[9] 導電性ポリマー及びグリコサミノグリカンを含むチャネル形成用組成物を調製し、
前記チャネル形成用組成物をソース電極及びドレイン電極が配置された絶縁体基板上に、前記チャネル形成用組成物が前記ソース電極及びドレイン電極と接触するように塗布してチャネルを形成し、
前記チャネルと電解質を介して電気的に接続可能であるようにゲート電極を配置する、
有機電気化学デバイスの製造方法であって、
前記グリコサミノグリカンがN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸、イズロン酸及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の糖との2糖の繰返し構造からなるグリコサミノグリカンである、
有機電気化学デバイスの製造方法。
[10] 前記ゲート電極が前記絶縁体基板上に配置されている、[9]に記載の有機電気化学デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来よりも簡便な方法で製造可能な有機電気化学デバイス及び有機電気化学デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の有機電気化学デバイスの一実施形態を示す図である。
【
図2】本発明の有機電気化学デバイスの他の実施形態を示す図である。
【
図4】
図4は、最大トランスコンダクタンス値の箱ひげ図である。
【
図5】
図5は、グルコース応答性評価の結果を示すプロットである。
【
図6】
図6は、グルコース応答性実験の結果を示す片対数プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【0012】
[有機電気化学デバイス]
図1及び
図2に示すように、本発明の有機電気化学デバイス100は、導電性ポリマー及びグリコサミノグリカンを含むチャネル104と、ソース電極106と、ドレイン電極108と、ゲート電極102とを備える。
【0013】
ソース電極106及びドレイン電極108はチャネル104と接触して電気的に接続している。
【0014】
ゲート電極106及びチャネル104と接触する電解質110が存在すればゲート電極102はチャネル104と電解質110を介して電気的に接続可能である。
図1、
図2では、一例として、ソース電極106、ドレイン電極108及びゲート電極106は、3次元的に配置されているが、同一の絶縁体基板112に形成するのが好ましい。その場合は、ソース電極106及びドレイン電極108上にチャネル104を配置し、チャネル104と、チャネル104と間隔を開けて設けられてゲート電極106との間を電解質110が接触するように構成すればよい。
【0015】
図1に示すように、ソース電極106、ドレイン電極108及びチャネル104は、絶縁体基板112上に配置されていることが好ましい。
一方で、
図2に示すように絶縁体基板112を用いず構成することもできる。
【0016】
前記導電性ポリマーとしては、入手が容易で導電性に優れ、安全性も高いことから、PEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)から成る複合物)が好ましい。PEDOT:PSSは通常分散液で供給され、水で適宜希釈して使用することができる。
【0017】
電解質110は電解質溶液、電解質溶液をゲル化したもの、イオン液体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0018】
前記電解質溶液としては、リン酸緩衝生理食塩水等のイオン性物質を含む水溶液、ヒトを含む動物の血液、汗等の体液が非限定的な例として挙げられる。
前記イオン液体としては、イミダゾリウム系イオン液体、ピロリジニウム系イオン液体、ピリジ二ウム系イオン液体、ピペリジニウム系イオン液体、アンモニウム系イオン液体、及びホスホニウム系イオン液体等が非限定的な例として挙げられる。
前記電解質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
前記グリコサミノグリカンは、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸、イズロン酸及びガラクトースからなる群から選択される少なくとも1種の糖との2糖の繰返し構造からなるグリコサミノグリカンである。
前記グリコサミノグリカンとしては、ヒアルロン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記ヒアルロン酸の分子量は、特に限定されないが、ヒアルロン酸ナトリウムの場合で平均分子量2827から400万までの範囲内であることが好ましく、100万から250万までの範囲内であることがより好ましい。
前記グリコサミノグリカンは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明の有機電気化学デバイスは、グルコースセンサとして好適に使用できる。
【0021】
本発明の有機電気化学デバイスは、前記ゲート電極が前記チャネルと前記電解質溶液を介して電気的に接続されている場合、有機電気化学トランジスタとして機能し、使用することが可能である。
【0022】
[有機電気化学デバイスの製造方法]
本発明の有機電気化学デバイス100は、導電性ポリマー及びグリコサミノグリカンを含むチャネル形成用組成物を調製し、前記チャネル形成用組成物をソース電極及びドレイン電極が配置された絶縁体基板112上に、前記チャネル形成用組成物がソース電極106及びドレイン電極108と接触するように塗布してチャネル104を形成し、チャネル104と電解質110を介して電気的に接続可能であるようにゲート電極102を配置することで、製造できる。
【0023】
絶縁体基板112は、特に限定されないが、無機ガラスや、ポリエチレンテレフタラート、ポリメタクリラート等のポリマーが好ましい。
【0024】
ソース電極106、ドレイン電極108、ゲート電極102、及びチャネル104は、前述のように、同一の絶縁体基板112上に配置されることが好ましい。製造がより容易となり、量産性に優れるからである。
【0025】
前記チャネル形成用組成物を絶縁体基板112上に塗布する方法は特に限定されないが、例えばスピンコートやインクジェット印刷等のデジタル印刷技術の採用が好ましい。
【0026】
前記導電性ポリマー、前記グリコサミノグリカンは前述したとおりである。
【実施例0027】
以下では実験例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実験例に限定されるものではない。
【0028】
[実験例1]
PEDOT:PSS(Clevios PH1000,ヘレウス社製)9.5mL、エチレングリコール(EG)(富士フイルム和光純薬社製)0.5mL、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)(関東化学社製)(10倍希釈したもの)0.17mLを混合し、15分間超音波洗浄を行うことでPEDOT:PSS溶液を得た。EGはPEDOT:PSSの結晶化度を向上させることで導電性を高める役割を持つ。
【0029】
【0030】
また、ヒアルロン酸ナトリウム(Hya)(ナカライテスク社製,#18237-41)を0.1wt%になるように、コンドロイチン-6-硫酸ナトリウム(Cho)(東京化成社製,#C0335)を1.2wt%になるように、それぞれ純水に溶解した溶液(多糖溶液)を作製した。なお、下記化学式中のnはそれぞれ独立に自然数を表す。
【0031】
【0032】
PEDOT:PSS溶液と多糖溶液それぞれを各割合で混合し、15分間超音波処理した。作製した溶液について粘度測定を行ない、溶液の特性を評価した。
【0033】
続いて、多糖類として、ヒアルロン酸ナトリウム(Hya)を含む膜と、コンドロイチン-6-硫酸ナトリウム(Cho)を含む膜とをそれぞれ作製した。
はじめに基板処理について説明する。基板にはガラス基板、片面研磨p-Siウェハ、石英基板を用い、はじめにアセトン(ナカライテスク社製)、2-プロパノール(IPA)(関東化学社製)、及び純水にて各15分間超音波洗浄した。
本発明では、架橋剤も膜形成で影響が生じるため、製膜方法の概要を
図3に示す、二通りの手法で有機電気化学デバイス100を作製した。
一つは、以下、基板処理系と呼ぶ手法で、基板を架橋剤で処理した状態で、成膜用の溶液を添加して成膜する手法である。もう一つは、以下、架橋剤添加系と呼ぶ手法で、基板を通常処理した状態で、成膜用の溶液に架橋剤添加系を添加して成膜する手法である。
そのため、基板処理を以下の2通りで行った。
基板処理系は、基板両面をUVオゾンクリーナーで30分間オゾン処理することで残存する有機物を除去し、親水処理を行った後、架橋剤となる(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GOPS)を1vol%添加したトルエン溶液に一晩浸漬し、表面にGOPSを修飾した。
一方、架橋剤添加系は、片面のみUVオゾンクリーナーで30分間オゾン処理をすることで親水処理のみ行った。
【0034】
【0035】
次に製膜方法について説明する。
基板処理系は、作製した多糖混合PEDOT:PSS溶液をGOPS修飾基板上にスピンコートした。
一方、架橋剤添加系は、作製した多糖混合PEDOT:PSS溶液に架橋剤としてGOPSを添加し、親水処理基板上にスピンコートした。
なお、スピンコーティングの条件は、400rpmで10秒、3000rpmで60秒であった。
その後、基板処理系及び架橋剤添加系で塗膜した基板を130℃で30分間アニーリングすることでスピンコート膜を得た。
【0036】
作製したそれぞれの多糖混合膜は、アニーリング後の純水浸漬前後の基板の様子を観察し、原子間力顕微鏡(AFM)及びUV-vis吸収スペクトルによって分析を行った。AFM測定には片面研磨p-Siウェハ、UV-vis吸収スペクトルには石英基板を用いて行った。AFM測定は、原子間力顕微鏡(AFM、SPA400、SII)を用い、DFMモードで実験を行った。
【0037】
<結果と考察>
(溶液の特性評価)
はじめに多糖溶液の粘度測定の結果を述べる。多糖溶液とPEDOT:PSS溶液の混合比率を変えて粘度測定を行った。
ヒアルロン酸を水に溶解すると少量で粘度の高い溶液が生成し、PEDOT:PSSに対するヒアルロン酸の割合を増加させほど粘度が増加した。さらにヒアルロン酸混合溶液は粘度とせん断速度の依存性が大きい非ニュートン流体の性質を示した。これはヒアルロン酸ナトリウム塩とPEDOT:PSS溶液の酸の強弱によるものだと考えられる。
【0038】
一方でコンドロイチンはPEDOT:PSSに対する混合割合を増加させると粘度が減少した。これはコンドロイチン溶液の粘度が小さく、混合によりPEDOT:PSS溶液が薄まったためであると考えられる。さらにコンドロイチン混合溶液では粘度とせん断速度の依存性は見られず、ニュートン流体の性質を示した。今回用いたコンドロイチン-6-硫酸ナトリウムはスルホ基由来のナトリウム塩であるためヒアルロン酸のような遊離は生じず、溶液中での相互作用は特に生じていないといえる。以上より、コンドロイチンはPEDOT:PSSと混合しても粘性を向上させる作用はなく、ヒアルロン酸は少量混合するだけで粘性のある溶液を作製できるといえる。
【0039】
(作製した基板の耐久性評価)
はじめに、本研究で行った基板処理系である、基板へのGOPS修飾した上で多糖混合PEDOT:PSS溶液を塗布して形成した膜を評価する。
GOPS修飾を施した基板と親水処理のみ施した基板について接触角測定を行った。なお、純水を滴下し、異なる5点の平均を用いて議論する。親水処理のみ施した基板、GOPS処理を施した基板それぞれの接触角はそれぞれ4.2°、25.2°となり、基板へのGOPS処理が進んだとみなした。
【0040】
粘度測定の結果から、スピンコートする溶液の多糖とPEDOT:PSSの割合としてPEDOT:PSSのみ(neat)、ヒアルロン酸混合溶液hya1/48(1/48の表記は、PEDOT:PSS:ヒアルロン酸の混合質量比が48:1であることを示す。)、hya1/12(1/12の表記は、PEDOT:PSS:ヒアルロン酸の混合質量比が412:1であることを示す。)コンドロイチン混合溶液cho1/48(1/48の表記は、PEDOT:PSS:コンドロイチンの混合質量比が48:1であることを示す。)、cho1/12(1/12の表記は、PEDOT:PSS:コンドロイチンの混合質量比が12:1であることを示す。)を選択した。
【0041】
はじめに純水浸漬前後の基板の状態について述べる。架橋剤添加系では一晩浸漬後もすべての基板で膜全体が残存していた。これより架橋剤添加系では、GOPSによって架橋反応が起こり、耐水性を持った膜であることが確認された。
一方で基板修飾系ではヒアルロン酸混合膜のみ膜全体が基板上に残存しており、その他の膜では純水浸漬中に基板からの剥離が見られた。
なお、基板修飾系ヒアルロン酸混合膜についてスピンコート直後と90時間純水浸漬後の膜のUV-vis吸収スペクトル測定の結果、架橋剤添加系と比べて基板修飾系ではPSSの吸収ピークの減少率がほとんど変わらないことから、ヒアルロン酸混合膜では膜の溶解もほとんど起きていないと言える。
以上より、架橋剤添加系では安定した膜を得ることができる。一方、基板修飾系では、ヒアルロン酸混合の場合は安定した膜を作製できたと言える。
【0042】
[実験例2]
以下、それぞれの膜を有機電気化学デバイスに適用した。
OECT基板は、下洗浄としてacetone(ナカライテスク)、IPA(関東化学)、純水にて各15分間超音波処理を行い、IPA中に保存したガラス基板にTiを6nm、Auを60nm真空蒸着したものをアセトン、IPA、及び純水ですすぎ、上述した基板と同様に2通りの処理を行った。
基板処理系として、GOPS処理した基板に多糖混合PEDOT:PSS溶液をスピンコートし、親水処理のみ施した基板に、架橋剤としてGOPSを添加した多糖混合PEDOT:PSS溶液(PEDOT:PSSへの多糖混合割合は、hya1/48、hya1/12)をスピンコートした。その後、基板を130°Cで30分間アニーリングすることでスピンコート膜を得た。なお、スピンコーティングの条件は、400rpmで10秒、3000rpmで60秒であった。
架橋剤添加系では、上述した基板処理の後、基板に多糖混合PEDOT:PSS溶液(PEDOT:PSSへの多糖混合割合は、hya1/48、hya1/12、cho1/48)をスピンコートし、以下同様にして作製した。
また、架橋剤添加系で基板に、PSS溶液のみ(neat)をスピンコートし、以下同様にして作製したヒアルロン酸、コンドロイチンを含まない膜も作製した。
作製したOECTデバイスを用いて4155C半導体パラメータ・アナライザ(キーサイト・テクノロジー社製)による分析を行った。なお、電解質としてはリン酸緩衝食塩水(PBS)を用い、ファラデーケージ内で測定を行った。
【0043】
<結果と考察>
まず、今回の実験条件が適切かどうか調べるためにneat膜(多糖類を添加していないPEDOT:PSS膜)によって作製したOECT測定を行ったところ、出力曲線は、公知のOECTと同様のディプレッションモードの動作が確認された。伝達曲線も、公知のOECTと同様の傾向を示した。また、今回の値と公知のPEDOT:PSSを用いて作製されたOECTのトランスコンダクタンスの値膜厚、チャネル長、チャネル幅で規格化し(式(3))、その値を規格化トランスコンダクタンスgm
*とした。
【0044】
【0045】
ここで、lはチャネル長、wはチャネル幅、dは膜厚である。
【0046】
今回の結果と公知のOECTの値を比較したものを表1に示す(トランスコンダクタンスの比較)。
【0047】
【0048】
作製したOECTは、公知のOECT(best)とほぼ等しい値、OECT(typical)の約5倍の値であり、高い電流応答性であることが分かる。これより、本実験でのPEDOT:PSS溶液の作製手順、OECTデバイスの作製手順は適切であることが確認された。
【0049】
次に混合膜の測定を行ったところ、出力曲線では、neat膜と同様にすべてのデバイスでOECTのディプレッションモードの動作が確認された。
また、伝達曲線に関しても、すべてneat膜のOECTと同様の動作を確認した。
これらの結果より、OECTデバイスとして正常に動作していることが示された。
【0050】
各基板の電極の最大トランスコンダクタンス値を規格化した箱ひげ図を
図4に示す。
PEDOT:PSS溶液は多糖混合によってトランスコンダクタンス値が大きく低下することはなく、多糖の種類や混合割合によっても異なる挙動を示すとわかる。また、ヒアルロン酸混合膜で比較すると、架橋剤添加系よりも基板修飾系でトランスコンダクタンス値が上昇した。GOPSを添加すると電気伝導率が低下するという報告がなされているが、その課題を解決する結果であるといえる。正常作動電極の本数を含め基板修飾系ヒアルロン酸1/48混合膜は今回作成した中で最も性能が良いといえる。
【0051】
[実験例3]
ドレイン電圧を-0.4V、ゲート電圧を-0.2Vに設定し、おおよそ0.8秒ごとにドレイン電流の値を記録した。この設定でOECTを作動させ電流値が安定するまで待った。その後ゲートを浸したPBSにグルコース/PBS溶液を少しずつ添加し、ゲート電解質溶液中のグルコース濃度を変化させた。3-5分待ったところでドレイン電流の値を読み取った。測定結果から、作製したデバイスのグルコース検出範囲と感度を算出しデバイスの性能を評価した。
【0052】
<結果と考察>
(グルコース応答性評価)
基板修飾系hya1/48膜と、架橋剤添加系PEDOT:PSS膜についてグルコース応答性実験をした。結果を
図5に示す。なおこのとき、はじめの安定化を待つ時間を6分とし、グルコース濃度を変化させる間隔を3分とした。
【0053】
測定したデータをもとに今回作製したデバイスのグルコース検出範囲と感度を算出した。濃度を対数にとりドレイン電流の変化量に対してプロットした。グルコース応答性実験の片対数プロットを
図6に示す。感度は検量線を引き、グルコース濃度が10mM変化したときのドレイン電流の変化量として算出した。
【0054】
作製したデバイスのグルコース検出範囲は1~10mA16μA/decとなった。人体の血糖値モニタリングにおいては4~8mMの範囲を測定できれば十分であるため実用的なデバイスであるという結果を得られたといえる。また、既報の非酵素型グルコースセンサと比較し表2に示す。今回作製したデバイスはほかの2つと比べ作製が非常に簡単であり、範囲や感度を同じ水準で測定できるため、新しい非酵素型グルコースセンサとしての応用が期待できる。
【0055】
【0056】
本発明では、基板修飾系hya1/48膜が特によいグルコース検出特性を示した。架橋剤添加系に対し、基板修飾系が優れているのは、多糖類を含むPEDOT:PSS溶液に直接架橋剤を添加すると、架橋が急速に進み、多糖類などをPEDOT:PSSとともに架橋してしまうのに対し、基板修飾系では、基板に修飾された架橋剤に、多糖類を含むPEDOT:PSSを塗布することで、架橋が緩やかになり、多糖類の効果が表れる形で架橋されるからではないかと推測される。
一方、ヒアルロン酸の方がコンドロイチン硫酸に対して、グルコース検出特性が優れているのは、コンドロイチン硫酸に含まれる、酸解離性が高いスルホ基が上記の架橋作用を阻害し、充分な架橋作用を実現しなかったのに対し、ヒアルロン酸ではカルボキシル基間の相互作用が適度な架橋作用を実現し、上記の望ましい架橋構造を取るためと推測される。
【0057】
[登録商標]
「Clevios」はHeraeus Deutschland GmbH & Co. KGの日本国における登録商標である。
本発明の有機電気化学デバイスでは、グルコース検知部位としては従来のPBAではなく、グルコースと類似の化学構造を有するヒアルロン酸等の多糖類を用い、これを単に導電性ポリマーに混合することで導電性高分子膜を作製する。特に、PEDOT:PSSとヒアルロン酸ナトリウム(hya)を混合した導電性高分子膜においてグルコース濃度1~10mMの範囲でグルコース応答が見られた。この範囲は一般的な血糖値の領域に収まる。そのため、本発明の有機電気化学デバイスは、血糖値モニタとしての応用のほか、果汁や飲料等の味覚センサとしての応用が期待できる。