(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007415
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】膜形成用組成物、硬化膜及びその製造方法、並びに表示素子
(51)【国際特許分類】
C08G 61/00 20060101AFI20250109BHJP
G03F 7/11 20060101ALI20250109BHJP
G03F 7/023 20060101ALI20250109BHJP
G03F 7/039 20060101ALI20250109BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08G61/00
G03F7/11 503
G03F7/11 502
G03F7/023
G03F7/039 601
G03F7/20 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108798
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】村上 嘉崇
【テーマコード(参考)】
2H197
2H225
4J032
【Fターム(参考)】
2H197CA03
2H197CA05
2H197CE01
2H197CE10
2H197HA03
2H197HA04
2H197HA08
2H197JA21
2H225AC35
2H225AE06N
2H225AE06P
2H225AE13N
2H225AF05P
2H225AF35P
2H225AF43P
2H225AM61N
2H225AM61P
2H225AM77N
2H225AM77P
2H225AM95N
2H225AM99N
2H225AN24N
2H225AN24P
2H225AN33N
2H225AN36N
2H225AN54N
2H225BA01N
2H225BA05N
4J032CA03
4J032CA04
4J032CA14
4J032CA62
4J032CA63
4J032CB05
4J032CE03
(57)【要約】
【課題】透過率、耐熱性及び難透水性がバランス良く改善された膜を形成できる膜形成用組成物を提供すること。
【解決手段】電子求引性基に隣接するメチレン基を有する化合物(M1)に由来する構造単位と、エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物及びハロゲン化アルキル基を2個以上有する化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物(M2)に由来する構造単位とを含む重合体を組成物に含有させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子求引性基に隣接するメチレン基を有する化合物(M1)に由来する構造単位と、エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物及びハロゲン化アルキル基を2個以上有する化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物(M2)に由来する構造単位とを含む重合体を含有する、膜形成用組成物。
【請求項2】
前記化合物(M1)は、下記式(1)で表される、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【化1】
(式(1)中、X
1は(n1+1)価の電子求引性基である。X
2は2価の電子求引性基である。Y
1及びY
2は、互いに独立して1価の有機基であるか、又は、Y
1及びY
2が互いに合わせられて、Y
1が結合するX
2及びY
2が結合するX
1と共に構成される環構造を表す。n1及びn2は、互いに独立して0又は1である。)
【請求項3】
前記化合物(M2)は、下記式(2A)で表される化合物及び下記式(2B)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【化2】
(式(2A)中、X
3及びX
4は、互いに独立して2価の電子求引性基である。Y
3は単結合又は2価の有機基である。n3及びn4は、互いに独立して0又は1である。)
【化3】
(式(2-2)中、Z
1及びZ
2は、互いに独立してハロゲン原子である。Y
4は2価の有機基である。)
【請求項4】
前記重合体は、下記式(3A)で表される構造単位を含む、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【化4】
(式(3A)中、X
1は(n1+1)価の電子求引性基である。X
2は2価の電子求引性基である。Y
1及びY
2は、互いに独立して1価の有機基であるか、又は、Y
1及びY
2が互いに合わせられて、Y
1が結合するX
2及びY
2が結合するX
1と共に構成される環構造を表す。X
3及びX
4は、互いに独立して2価の電子求引性基である。Y
3は単結合又は2価の有機基である。n1及びn2は、互いに独立して0又は1である。n3及びn4は、互いに独立して0又は1である。)
【請求項5】
前記重合体は、下記式(3B)で表される構造単位を含む、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【化5】
(式(3B)中、X
1は(n1+1)価の電子求引性基である。X
2は2価の電子求引性基である。Y
1及びY
2は、互いに独立して1価の有機基であるか、又は、Y
1及びY
2が互いに合わせられて、Y
1が結合するX
2及びY
2が結合するX
1と共に構成される環構造を表す。Y
4は2価の有機基である。n1及びn2は、互いに独立して0又は1である。)
【請求項6】
前記化合物(M1)の第一酸解離定数(pKa1)が20.0以下である、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項7】
架橋性官能基を2個以上有する化合物を更に含有する、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項8】
感光性化合物を更に含有する、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項9】
前記感光性化合物が、光酸発生剤又はキノンジアジド化合物である、請求項8に記載の膜形成用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の膜形成用組成物を用いて塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に放射線を照射する工程と、
放射線を照射した後の前記塗膜を加熱する工程と、
を含む、硬化膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の膜形成用組成物を用いて塗膜を形成する工程と、
前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程と、
放射線を照射した後の前記塗膜を現像する工程と、
現像後の前記塗膜を加熱する工程と、
を含む、硬化膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の膜形成用組成物を用いて形成された硬化膜。
【請求項13】
層間絶縁膜又は平坦化膜である、請求項12に記載の硬化膜。
【請求項14】
請求項12に記載の硬化膜を備える、表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用組成物、硬化膜及びその製造方法、並びに表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
表示素子等の電子デバイスには、平坦化膜や層間絶縁膜等の絶縁性の硬化膜が設けられる。また、これらの硬化膜を形成する材料としては、従来、ポリイミドや(メタ)アクリル系重合体が用いられている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-157173号公報
【特許文献2】特開2017-107024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリイミドにより形成された硬化膜は、耐熱性が高いものの、透過率が低い傾向がある。また、(メタ)アクリル系重合体により形成された硬化膜は、透過率は高いものの、耐熱性が低い傾向がある。そこで従来、硬化膜を形成する際には、要求される特性に応じて最適な材料が選択されている。しかしながら、近年における電子デバイスの高度化に伴い、耐熱性と透過率とを兼ね備えた膜を形成可能な新たな材料が求められている。
【0005】
表示素子は、水分や酸素との接触により劣化しやすいため、表示素子に設けられる硬化膜には、水分を透過しにくいこと(以下、「難透水性」ともいう)が求められる。特に、有機EL素子が備える有機発光層は、水分や酸素との接触により劣化しやすく、例えば長期間の駆動に伴い素子に浸入した水分によって部分的に発光しないエリア(ダークスポット)が形成されたり、水分や酸素との接触によって発光特性が低下したりすることが懸念される。そこで、耐熱性及び透過率を高度に維持しながら、難透水性を改善することが求められる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、透過率、耐熱性及び難透水性がバランス良く改善された膜を形成できる膜形成用組成物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の膜形成用組成物、硬化膜及びその製造方法、並びに液晶素子が提供される。
【0008】
[1] 電子求引性基に隣接するメチレン基を有する化合物(M1)に由来する構造単位と、エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物及びハロゲン化アルキル基を2個以上有する化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物(M2)に由来する構造単位とを含む重合体を含有する、膜形成用組成物。
[2] 上記[1]に記載の膜形成用組成物を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜に放射線を照射する工程と、放射線を照射した後の前記塗膜を加熱する工程と、を含む、硬化膜の製造方法。
[3] 上記[1]に記載の膜形成用組成物を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程と、放射線を照射した後の前記塗膜を現像する工程と、現像された前記塗膜を加熱する工程と、を含む、硬化膜の製造方法。
[4] 上記[1]に記載の膜形成用組成物を用いて形成された硬化膜。
[5] 上記[4]に記載の硬化膜を備える、表示素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物によれば、透過率、耐熱性及び難透水性がバランス良く改善された膜を形成することができる。また、本発明の膜形成用組成物によれば、透過率、耐熱性及び難透水性に優れた表示素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施態様に関連する事項について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。「構造単位」とは、主鎖構造を主として構成する単位であって、少なくとも主鎖構造中に2個以上含まれる単位をいう。
【0011】
本明細書において、「炭化水素基」は、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が有する環構造は、炭化水素構造からなる置換基を有していてもよい。
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」を包含する意味である。「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイル」及び「メタクリロイル」を包含する意味である。本明細書では、オキシラニル基及びオキセタニル基を包含して「エポキシ基」ともいう。
【0013】
《組成物》
本開示の組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、絶縁性の膜を形成するための膜形成用組成物として好ましく用いられる。本組成物により形成される膜は、表示素子等の電子デバイスに設けられる絶縁膜として好適である。本組成物は、以下に示す[A]重合体を含有する。また、本組成物は、[A]重合体とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を更に含有していてもよい。以下に、本組成物に含まれる成分、及び必要に応じて配合されるその他の成分について詳しく説明する。なお、各成分については特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
<[A]重合体>
[A]重合体は、電子求引性基に隣接するメチレン基を有する化合物(M1)に由来する構造単位(以下、「第1構造単位」ともいう)と、エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物及びハロゲン化アルキル基を2個以上有する化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(M2)に由来する構造単位(以下、「第2構造単位」ともいう)と、を含む。
【0015】
(化合物(M1))
化合物(M1)は、電子求引性基に隣接するメチレン基を有していればよく、特に限定されない。化合物(M1)が有する電子求引性基としては、-COH、-COR10、-C≡N、-SO3H、*1-CO-NHR10、*1-CO-NR10R11、*1-COOR10、-NO2、*1-CO-NH-、*1-CO-NR10-、*1-CO-O-、-CO-、-SO2-等(R10及びR11は、互いに独立して炭素数1~10の1価の炭化水素基である。「*1」はメチレン基との結合手を表す。以下同じ。)が挙げられる。化合物(M1)が有する電子求引性基は、化合物(M2)との反応性をより高くできる点で、これらのうち、-C≡N、-SO3H、*1-CO-NHR10、*1-CO-NR10R11、*1-COOR10、*1-CO-NH-、*1-CO-NR10-、*1-CO-O-又は-SO2-が好ましい。
【0016】
化合物(M1)が有する、電子求引性基に隣接するメチレン基(以下、「メチレン基F1」ともいう)の数は、1以上であればよく、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1がより更に好ましい。なお、メチレン基F1は、-CH2-の片側のみが電子求引性基に隣接していてもよく、両側が電子求引性基に隣接していてもよい。
【0017】
化合物(M1)の分子量は、例えば1,000以下であり、好ましくは800以下、より好ましくは600以下である。また、化合物(M1)の分子量は、好ましくは50以上である。
【0018】
化合物(M1)は、鎖状構造のみからなる化合物であってもよく、少なくとも一部が環状構造である化合物であってもよい。化合物(M1)の好ましい例としては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
(式(1)中、X
1は(n1+1)価の電子求引性基である。X
2は2価の電子求引性基である。Y
1及びY
2は、互いに独立して1価の有機基であるか、又は、Y
1及びY
2が互いに合わせられて、Y
1が結合するX
2及びY
2が結合するX
1と共に構成される環構造を表す。n1及びn2は、互いに独立して0又は1である。)
【0019】
上記式(1)において、n1=0の場合、X1で表される1価の電子求引性基としては、-COH、-COR10、-C≡N、-SO3H、*1-CO-NHR10、*1-CO-NR10R11、*1-COOR10、-NO2等が挙げられる。これらのうち、-C≡N、-SO3H、*1-CO-NHR10、*1-CO-NR10R11又は*1-COOR10が好ましく、シアノ基(-C≡N)がより好ましい。
n1=1の場合にX1で表される2価の電子求引性基、又はX2で表される2価の電子求引性基としては、*1-CO-NH-、*1-CO-NR10-、*1-CO-O-、-CO-、-SO2-等が挙げられる。これらのうち、*1-CO-NH-、*1-CO-NR10-、*1-CO-O-又は-SO2-が好ましい。
【0020】
n2=0の場合、Y1で表される1価の有機基としては、炭素数2~20の1価の脂環基、炭素数4~20の1価の芳香環基が挙げられる。
n2=1の場合にY1で表される1価の有機基、又はY2で表される1価の有機基としては、炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基、及び複素環構造を含む炭素数2~20の1価の基、並びにこれらの基の少なくとも一部の水素原子が置換基で置き換えられた1価の基等が挙げられる。
【0021】
炭素数2~20の1価の脂環基は、置換又は無置換の脂環の環部分から1個の水素原子を除いた基である。脂環は炭化水素環であってもよく複素環であってもよい。また、炭素数4~20の1価の芳香環基は、置換又は無置換の芳香環の環部分から1個の水素原子を除いた基である。芳香環は炭化水素環であってもよく、複素環であってもよい。
【0022】
これらの具体例としては、炭素数2~20の1価の脂環基として、炭素数3~20の単環の飽和脂肪族炭化水素環、単環の不飽和脂肪族炭化水素環、多環の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素環、又は脂肪族複素環から1個の水素原子を除いた基等が挙げられる。脂肪族炭化水素環の具体例としては、単環の飽和脂肪族炭化水素環として、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等を;単環の不飽和脂肪族炭化水素環として、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン及びシクロデセン等を;多環の脂肪族炭化水素環として、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナン)、ビシクロ[2.2.2]オクタン、トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン(アダマンタン)、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカン、ビシクロ[2.2.1]ヘプテン(ノルボルネン)等を、それぞれ挙げることができる。脂肪族複素環の具体例としては、ピペリジン、ピペラジン等の窒素含有脂肪族複素環;オキシラン、オキセタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロピラン等の酸素含有脂肪族複素環;チイラン、チアン、ジチアン等の硫黄含有脂肪族複素環;から1個の水素原子を除いた基等を挙げることができる。
【0023】
炭素数6~20の1価の芳香環基としては、ベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン等の芳香族炭化水素環;イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ベンゾイミダゾール等の窒素含有芳香族複素環;フラン等の酸素含有芳香族複素環;チオフェン等の硫黄含有芳香族複素環;から1個の水素原子を除いた基等を挙げることができる。
【0024】
炭素数2~20の1価の脂環基又は炭素数4~20の1価の脂環基が置換基を有する場合、当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のアルケニルオキシ基、炭素数1~5のアルコキシアルキル基、炭素数1~5のアルケニルオキシアルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基、炭素数1~5のハロゲン化アルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、保護された酸性基、ニトロ基等が挙げられる。
【0025】
n2=0の場合、Y1で表される1価の有機基は、化合物(M2)との反応性を高める観点及び耐熱性がより良好な硬化膜を得る観点から、炭素数6~20の1価の芳香環基が好ましく、置換又は無置換のベンゼン環、ナフタレン環又はピリジン環の環部分から1個の水素原子を除いた基がより好ましい。
【0026】
炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基としては、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基、及び炭素数1~20の直鎖状又は分岐状の不飽和炭化水素基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~12の直鎖状若しくは分岐状の飽和炭化水素基又は炭素数2~12の直鎖状若しくは分岐状の不飽和炭化水素基が好ましく、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状の飽和炭化水素基又は炭素数2~6の直鎖状若しくは分岐状の不飽和炭化水素基がより好ましい。
【0027】
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、炭素数3~20の単環の飽和脂環式炭化水素、単環の不飽和脂環式炭化水素、又は多環の飽和若しくは不飽和の脂環式炭化水素から1個の水素原子を除いた基が挙げられる。これらの脂環式炭化水素が有する脂肪族炭化水素環の具体例としては、炭素数3~20の1価の脂環基において例示した脂肪族炭化水素環と同様のものが挙げられる。
【0028】
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン、メチルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルメタン、1,3-ジフェニルプロパン、2,2-ジフェニルプロパン等から1個の水素原子を除いた基等を挙げることができる。
【0029】
複素環構造を含む炭素数2~20の1価の基としては、炭素数2~20の脂肪族複素環又は芳香族複素環を有する基が挙げられる。脂肪族複素環及び芳香族複素環の具体例としては、1価の複素環基において例示した複素環と同様のものが挙げられる。
【0030】
n2=1の場合のY1又はY2が置換基を有する場合、当該置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、保護された酸性基、ニトロ基等が挙げられる。
【0031】
Y1及びY2が互いに合わせられて、Y1が結合するX2及びY2が結合するX1と共に構成される環構造を表す場合、当該環構造は、脂環であってもよく、芳香環であってもよい。好ましくは脂環である。また、Y1及びY2が互いに合わせられて構成される環構造は、アルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0032】
化合物(M1)は酸解離性基を有していてもよい。酸解離性基は、カルボキシ基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、シラノール基、スルホ基等の酸性基が有する水素原子を置換する基であって、酸の作用により解離する基である。化合物(M1)として酸解離性基を有する化合物(以下、「化合物(N1)」ともいう。)を用いて[A]重合体を合成し、得られた[A]重合体とともに、感光性化合物として光酸発生剤を本組成物に配合することにより、本組成物を化学増幅型の組成物としてもよい。すなわち、組成物の一部に放射線を照射すると、露光部では放射線の照射に伴い発生した酸により酸解離性基が脱離して酸性基が生じる一方、未露光部では酸性基が有する水素原子が酸解離性基によって置換されたままとなる。これにより、露光部と未露光部で現像液への溶解性を異ならせることができ、続いて露光後の組成物を現像することにより、パターンが形成された膜を得ることができる。
【0033】
化合物(N1)の好ましい具体例としては、酸の作用により酸解離性基が脱離してカルボキシ基を生じる化合物(以下、「化合物(N1-1)」ともいう);酸の作用により酸解離性基が脱離してフェノール性水酸基を生じる化合物(以下、「化合物(N1-2)」ともいう)が挙げられる。
【0034】
化合物(N1-1)が有する酸解離性基としては、例えば、第3級炭素含有炭化水素基、アセタール系官能基、第3級アルキルカーボネート基、アルキル基含有シリル基が挙げられる。これらのうち、酸により解離しやすい点で、第3級炭素含有炭化水素基又はアセタール系官能基が好ましい。
【0035】
酸解離性基が第3級炭素含有炭化水素基である場合、化合物(N1-1)は、保護されたカルボキシ基として下記式(X-1)で表される基を有することが好ましい。
【化2】
(式(X-1)中、R
34、R
35及びR
36は、次の(1)又は(2)である。(1)R
34、R
35及びR
36は、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基である。(2)R
34及びR
35は、互いに合わせられR
34及びR
35が結合する炭素原子とともに構成される炭素数4~20の脂環式炭化水素構造を表す。R
36は、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基又は炭素数6~20のアリール基である。「*」は結合手を表す。)
【0036】
酸解離性基がアセタール系官能基である場合、化合物(N1-1)は、保護されたカルボキシ基としてカルボン酸のアセタールエステル構造を有することが好ましく、具体的には、下記式(X-2)で表される基を有することが好ましい。
【化3】
(式(X-2)中、R
31、R
32及びR
33は、次の(1)又は(2)である。(1)R
31は水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基である。R
32及びR
33は、互いに独立して、炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、又は炭素数7~20のアラルキル基である。(2)R
31は、水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基である。R
32及びR
33は、互いに合わせられR
32及びOR
33が結合する炭素原子とともに構成される環状エーテル構造を表す。「*」は結合手を表す。)
【0037】
R31、R32、R33、R34、R35及びR36で表される炭素数1~12のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0038】
上記式(X-1)で表される基の具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基、1,1-ジメチルプロピルオキシカルボニル基、1-メチル-1-シクロペンチルオキシカルボニル基、1-エチル-1-シクロペンチルオキシカルボニル基、1-メチル-1-シクロヘキシルオキシカルボニル基、1-エチル-1-シクロヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0039】
上記式(X-2)で表される基の具体例としては、1-メトキシエトキシカルボニル基、1-エトキシエトキシカルボニル基、1-プロポキシエトキシカルボニル基、1-ブトキシエトキシカルボニル基、1-シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、2-テトラヒドロフラニルオキシカルボニル基、2-テトラヒドロピラニルオキシカルボニル基、1-フェニルメトキシエトキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0040】
化合物(N1-2)が有する酸解離性基は、本組成物の感度やパターン形状、保存安定性等の観点から、アセタール系官能基、第3級アルキル基又はアルキル基含有シリル基が好ましい。アセタール系官能基としては、化合物(N1-1)に用いることができる酸解離性基と同様のものを挙げることができる。中でも、「-O-C(R31)(R32)(OR33)」(ただし、R31、R32及びR33は式(X-2)と同義である。)で表される基により保護されたフェノール性水酸基であることが好ましい。
【0041】
化合物(N1-2)が有する「-C(R31)(R32)(OR33)」で表される基の好ましい具体例としては、1-アルコキシアルキル基及び1-アリールアルコキシアルキル基を挙げることができ、具体的には、例えば1-エトキシエチル基、1-メトキシエチル基、1-ブトキシエチル基、1-イソブトキシエチル基、1-(2-エチルヘキシルオキシ)エチル基、1-プロポキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、1-(2-シクロヘキシルエトキシ)エチル基、1-ベンジルオキシエチル基等が挙げられる。
第3級アルキル基の具体例としては、tert-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基等が挙げられる。
アルキル基含有シリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。
【0042】
なお、化合物(M1)が酸解離性基を有する場合、上記式(1)中のY1が有していてもよく、Y2が有していてもよく、Y1及びY2の両方が有していてもよい。
【0043】
化合物(M2)との反応性を高める観点及び耐熱性に優れた硬化膜を得る観点から、化合物(M1)としては中でも、上記式(1)中のn1が0であってX1がシアノ基である化合物、上記式(1)中のn1が0であってX1がシアノ基であり、かつX2が*1-CO-NH-、*1-CO-NR10-又は*1-CO-O-である化合物、及び上記式(1)中のn2が0であってX1が*1-CO-NH-、*1-CO-NR10-、*1-CO-O-又は-SO2-である化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用できる。
【0044】
化合物(M2)との反応性をより高くできる点で、化合物(M1)の第一酸解離定数(pKa1)は21.0以下であることが好ましく、20.5以下であることがより好ましく、20.0以下であることが更に好ましく、19.5以下であることがより更に好ましい。なお、本明細書において、化合物の第一酸解離定数は、水中での酸解離定数を表し、具体的には、密度汎関数法(B3LYP/6-311++G(d,p))に基づいてGaussian16により得られた値である。
【0045】
化合物(M1)の具体例としては、下記式(1-1)~式(1-21)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化4】
【0046】
(化合物(M2))
・エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物
化合物(M2)のうち、エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物(以下、「化合物(M2-1)」ともいう)の構造は特に限定されない。化合物(M2-1)は、鎖状構造のみからなる化合物であってもよく、少なくとも一部が環状構造である化合物であってもよい。また、化合物(M2-1)が有するエチレン性不飽和結合の数は、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2が更に好ましい。化合物(M2-1)の分子量は、例えば1,000以下であり、好ましくは800以下、より好ましくは600以下である。また、化合物(M2-1)の分子量は、好ましくは50以上である。
【0047】
化合物(M1)との反応性を高める観点から、化合物(M2-1)は、エチレン性不飽和結合に隣接する電子求引性基を有することが好ましい。エチレン性不飽和結合に隣接する電子求引性基は、*2-CO-O-、*2-CO-NH-、*2-CO-NR12-又は-SO2-(ただし、R12は炭素数1~10の1価の炭化水素基であるか、又は同一分子内の他の基(例えば、同一分子内の別のR12)に結合して、R12が結合する窒素原子と共に構成される環構造の一部を表す。「*2」はエチレン性不飽和結合との結合手を表す。以下同じ。)が好ましい。
【0048】
化合物(M2-1)の好ましい例としては、下記式(2A)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
(式(2A)中、X
3及びX
4は、互いに独立して2価の電子求引性基である。Y
3は単結合又は2価の有機基である。n3及びn4は、互いに独立して0又は1である。)
【0049】
上記式(2A)において、X3又はX4で表される2価の電子求引性基は、*2-CO-O-、*2-CO-NH-、*2-CO-NR12-又は-SO2-が好ましい。
【0050】
Y3が2価の有機基である場合、当該2価の有機基としては、炭素数1~20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の2価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基、複素環構造を含む炭素数2~20の2価の基、及び炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-又は-SO2-を含む炭素数2~20の2価の基、並びにこれらの基の少なくとも一部の水素原子が置換基で置き換えられた2価の基等が挙げられる。これら2価の有機基を構成する鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及び複素環構造を含む基の具体例としては、上記式(1)中のY1又はY2で表される1価の有機基として例示した各基から更に1個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0051】
n3及びn4は、少なくともいずれかが1であることが好ましい。また、Y3が2価の有機基の場合には、n3及びn4が共に1であることが更に好ましい。
【0052】
化合物(M2-1)の具体例としては、下記式(2A-1)~式(2A-18)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化6】
【0053】
・ハロゲン化アルキル基を2個以上有する化合物
化合物(M2)のうち、ハロゲン化アルキル基を2個以上有する化合物(以下、「化合物(M2-2)」ともいう)は、1分子内に2個以上のハロゲン化アルキル基を有していればよく、特に限定されない。化合物(M2-2)は、鎖状構造のみからなる化合物であってもよく、少なくとも一部が環状構造である化合物であってもよい。
【0054】
化合物(M2-2)が有するハロゲン化アルキル基は、「*-R13-Z3」(ただし、R13はアルカンジイル基であり、Z3はハロゲン原子である。「*」は結合手を表す。)で表される基が好ましい。R13は、直鎖状であることが好ましい。R13の炭素数は、例えば1~5であり、好ましくは1~3である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。化合物(M1)との反応性の観点から、これらのうち、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0055】
化合物(M2-2)が有するハロゲン化アルキル基の数は、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2が更に好ましい。
化合物(M2-2)の分子量は、例えば1,000以下であり、好ましくは800以下、より好ましくは600以下である。また、化合物(M2-2)の分子量は、好ましくは50以上である。
【0056】
化合物(M2-2)の好ましい例としては、下記式(2B)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
(式(2B)中、Z
1及びZ
2は、互いに独立してハロゲン原子である。Y
4は単結合又は2価の有機基である。)
【0057】
上記式(2B)において、Y4が2価の有機基である場合、当該2価の有機基としては、炭素数1~20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の2価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基、複素環構造を含む炭素数2~20の2価の基、及び炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-又は-SO2-を含む炭素数2~20の2価の基、並びにこれらの基の少なくとも一部の水素原子が置換基で置き換えられた2価の基等が挙げられる。Y4で表される2価の有機基を構成する鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及び複素環構造を含む基の具体例としては、上記式(1)中のY1又はY2で表される1価の有機基として例示した各基から更に1個の水素原子を除いた基が挙げられる。また、Y4で表される2価の有機基は、シロキサン構造を有する2価の基であってもよい。
【0058】
Y4は、化合物(M1)との反応性を高める観点から、上記の中でも、炭素数4~20の置換若しくは無置換の1価の芳香環基、又は鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-を含む炭素数2~10の2価の基が好ましい。具体的には、置換又は無置換のベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環又はピリジン環の環部分から2個の水素原子を除いた基、アルカンジイル基の炭素-炭素結合間に-O-を含む炭素数2~15の2価の基が挙げられる。
【0059】
化合物(M2-2)は、酸解離性基を有していてもよい。化合物(M2-2)として酸解離性基を有する化合物を用いて重合することにより得られた[A]重合体とともに、感光性化合物として光酸発生剤を本組成物に配合することで、本組成物を化学増幅型の組成物とすることもできる。酸解離性基の具体例としては、化合物(M1)が有していてもよい酸解離性基として例示した基と同様の基が挙げられる。
【0060】
化合物(M2-2)の具体例としては、下記式(2B-1)~式(2B-12)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化8】
【0061】
([A]重合体の合成)
[A]重合体は、例えば、上述した化合物(M1)及び化合物(M2)を単量体として用いて重合することにより製造することができる。重合方法は、使用する単量体に応じて適宜選択することができる。重合方法の具体例としては、以下の〔方法1〕及び〔方法2〕が挙げられる。
〔方法1〕化合物(M1)と化合物(M2-1)との重付加により[A]重合体を得る方法。
〔方法2〕化合物(M1)と化合物(M2-2)との重縮合により[A]重合体を得る方法。
【0062】
〔方法1〕及び〔方法2〕において、重合に使用される化合物(M1)と化合物(M2)との使用割合は、化合物(M2)のエチレン性不飽和結合又はハロゲン化アルキル基1当量に対して、化合物(M1)のメチレン基F1が0.2~2当量となる割合が好ましい。
【0063】
〔方法1〕及び〔方法2〕による重合は、適当な溶媒中で行うことができる。重合溶媒としては、単量体を溶解又は分散可能であって、かつ単量体と反応しない有機溶媒を好ましく用いることができる。重合溶媒の具体例としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、炭化水素類等が挙げられる。重合溶媒の使用量は、反応に使用する単量体の合計量が、反応溶液の全体量に対して、0.1~70質量%になるような量にすることが好ましい。
【0064】
〔方法1〕及び〔方法2〕による重合は、好ましくは、触媒の存在下で行われる。触媒としては、例えば、酸、アルカリ金属化合物、有機塩基等を挙げることができる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、蟻酸、蓚酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸等が挙げられる。アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等が挙げられる。有機塩基としては、例えばエチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、ピロール等の1級又は2級有機アミン;トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロウンデセン等の3級有機アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の4級有機アミン;等が挙げられる。
【0065】
重合に使用する触媒としては、これらのうち、特にアルカリ金属化合物又は有機塩基が好ましい。触媒の使用量は、触媒の種類や温度等の反応条件により異なり、適宜に設定することができる。例えば、アルカリ金属化合物の使用量は、例えば単量体の合計量に対して、好ましくは0.1~5倍モルであり、より好ましくは0.5~3倍モルである。また、有機塩基の使用量は、例えば単量体の合計量に対して、好ましくは0.01~3倍モルであり、より好ましくは0.05~1.5倍モルである。
【0066】
〔方法1〕及び〔方法2〕による重合は、界面活性剤の存在下で行われることが好ましい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。これらのうち、カチオン系界面活性剤を好ましく使用できる。カチオン系界面活性剤の具体例としては、例えばアルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられ、第4級アンモニウム塩を好ましく使用できる。界面活性剤の使用量は、反応に使用する単量体の合計量100モル部に対して、例えば0.001~5ミリモル部である。
【0067】
重合において、反応温度は、-20℃~180℃とすることが好ましく、0℃~150℃とすることがより好ましい。反応時間は、単量体の種類や反応温度に応じて適宜設定し得る。反応時間は、0.5~24時間とすることが好ましい。重合反応により得られた重合体は、反応溶液に溶解された状態のまま本組成物の調製に用いられてもよいし、反応溶液から単離された後、本組成物の調製に用いられてもよい。重合体の単離は、例えば、反応溶液を大量の貧溶媒中に注ぎ、これにより得られる析出物を減圧下乾燥する方法;反応溶液をエバポレーターで減圧留去する方法;等の公知の単離方法により行うことができる。
【0068】
上記の重合反応により得られる[A]重合体の好ましい態様としては、以下の重合体(A1)及び重合体(A2)が挙げられる。
重合体(A1):下記式(3A)で表される構造単位を含む重合体
重合体(A2):下記式(3B)で表される構造単位を含む重合体
【化9】
(式(3A)中、X
1は(n1+1)価の電子求引性基である。X
2は2価の電子求引性基である。Y
1及びY
2は、互いに独立して1価の有機基であるか、又は、Y
1及びY
2が互いに合わせられて、Y
1が結合するX
2及びY
2が結合するX
1と共に構成される環構造を表す。X
3及びX
4は、互いに独立して2価の電子求引性基である。Y
3は単結合又は2価の有機基である。n1及びn2は、互いに独立して0又は1である。n3及びn4は、互いに独立して0又は1である。)
【化10】
(式(3B)中、X
1は(n1+1)価の電子求引性基である。X
2は2価の電子求引性基である。Y
1及びY
2は、互いに独立して1価の有機基であるか、又は、Y
1及びY
2が互いに合わせられて、Y
1が結合するX
2及びY
2が結合するX
1と共に構成される環構造を表す。Y
4は2価の有機基である。n1及びn2は、互いに独立して0又は1である。)
【0069】
重合体(A1)は、上記式(1)で表される化合物と、上記式(2A)で表される化合物とを用いた重付加(より詳細には、マイケル付加反応を利用した重合)により得ることができる。また、重合体(A2)は、上記式(1)で表される化合物と、上記式(2B)で表される化合物とを用いた重縮合により得ることができる。上記式(3A)及び式(3B)中の各符号の説明については、上記式(1)、式(2A)及び式(2B)における各説明が適用される。
【0070】
なお、化合物(M1)と化合物(M2)との重合反応は、化合物(M1)が有するメチレン基F1の水素引き抜きを起点として進行すると考えられる。すなわち、本開示の重合反応は、活性水素を利用した重合であり、化合物(M1)に由来するメチレン基を介したポリマーが形成される。例えば、化合物(M1)として下記式(m1-1)で表される化合物を用い、化合物(M2)として下記式(m2-1)で表される化合物を用いた場合、下記スキーム1により重合反応が進行し、重付加型のポリマーが得られる。
【化11】
【0071】
また、化合物(M1)として下記式(m1-2)で表される化合物を用い、化合物(M2)として下記式(m2-2)で表される化合物を用いた場合、下記スキーム2により重合反応が進行し、重縮合型のポリマーが得られる。
【化12】
【0072】
[A]重合体における第1構造単位と第2構造単位との割合は、良好な耐熱性を硬化膜に付与する観点から、モル比で、第1構造単位:第2構造単位=40:60~60:40が好ましく、45:55~55:45がより好ましい。
【0073】
[A]重合体における第1構造単位と第2構造単位との合計量は、硬化膜の耐熱性を良好にすることに加え、高透過率及び難透水性の硬化膜を得ることが可能な組成物とする観点から、[A]重合体を構成する全構造単位に対して、75モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
【0074】
[A]重合体につき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、3,000以上であることが好ましい。Mwが3,000以上であると、耐熱性や耐薬品性が十分に高く、かつ良好な現像性を示す硬化膜を得ることができる点で好ましい。[A]重合体のMwは、より好ましくは5,000以上であり、更に好ましくは6,000以上である。また、[A]重合体のMwは、成膜性を良好にする観点から、好ましくは150,000以下であり、より好ましくは120,000以下である。
【0075】
[A]重合体につき、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、8.0以下が好ましく、7.0以下がより好ましく、6.0以下が更に好ましい。
【0076】
本組成物において、[A]重合体の含有量は、良好な耐熱性、高透過率及び難透水性を示す膜を得る観点から、本組成物に含まれる固形分(すなわち、本組成物中の溶剤以外の成分)の合計量に対して、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。
【0077】
<その他の成分>
本組成物は、[A]重合体とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を更に含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、[B]架橋性官能基を2個以上有する化合物(ただし、[A]重合体を除く。以下、単に「[B]化合物」ともいう。)、[C]感光性化合物、[D]密着助剤、[E]界面活性剤、[F]溶剤等が挙げられる。
【0078】
([B]化合物)
[B]化合物は、光又は熱によって[A]重合体の分子間又は分子内に架橋構造を形成したり、[B]化合物同士で結合を形成したりする成分である。本組成物を[A]重合体と[B]化合物とを含む組成物とすることにより、本組成物を用いて得られる硬化膜の耐熱性を更に向上させることができる。
【0079】
[B]化合物が有する架橋性官能基としては、例えば、環状エーテル基、環状チオエーテル基、カルボキシ基、環状カーボネート基、アルコール性水酸基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソシアネート基、重合性不飽和結合基(例えば、(メタ)アクリロイル基等)、β-ヒドロキシアルキルアミド基、オキサゾリン基、アルコキシメチルフェニル基等が挙げられる。
【0080】
[A]重合体と反応して[A]重合体の分子間又は分子内に架橋構造を形成し、硬化膜の耐熱性を優れたものとする観点から、[B]化合物が有する架橋性官能基は、オキシラニル基、オキセタニル基、チイラン基、β-ヒドロキシアルキルアミド基、ヒドロキシメチルフェニル基、アルコキシメチルフェニル基、シクロカーボネート基、及び保護されたイソシアネート基よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、オキシラニル基、オキセタニル基、β-ヒドロキシアルキルアミド基、ヒドロキシメチルフェニル基及びアルコキシメチルフェニル基よりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、オキシラニル基、オキセタニル基、β-ヒドロキシアルキルアミド基、ヒドロキシメチルフェニル基及びアルコキシメチルフェニル基よりなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0081】
[B]化合物が1分子内に有する架橋性官能基の数は、硬化膜の耐熱性を向上させる効果を十分に得るとともに、膜収縮を抑制する観点から、2~10個が好ましく、3~8個がより好ましい。
[B]化合物の分子量は、例えば1,000以下であり、好ましくは800以下、より好ましくは600以下である。
【0082】
[B]化合物の具体例としては、エポキシ基を有する化合物として、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、N,N’,N’,N’‘-テトラグリシジルグリコールウリル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N-ジグリシジル-ベンジルアミン、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-シクロヘキシルアミン、2,2’-ジアリルビスフェノールAジアリルエーテルの過酸化水素によるエポキシ化反応生成物等を;
シクロカーボネート基を有する化合物として、上記例示のエポキシ基を有する化合物のエポキシ基が保護された化合物(例えば、N,N,N’,N’-テトラ[(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)エチル]-4,4’-ジアミノジフェニルメタン)を;
チイラン基を有する化合物として、上記に例示したエポキシ基をチイラン基に置き換えた化合物を;
β-ヒドロキシアルキルアミド基を有する化合物として、例えば下記式(c-1)~式(c-7)のそれぞれで表される化合物等を;
ヒドロキシメチルフェニル基及びアルコキシメチルフェニル基の一方又は両方を有する化合物として、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(2,3,4-トリヒドロキシメチルフェニル)プロパン、下記式(c-8)~式(c-16)のそれぞれで表される化合物等を;
保護されたイソシアネート基を有する化合物として、例えばトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートにおけるイソシアネート基が保護された化合物等を、それぞれ挙げることができる。
【化13】
【0083】
また、重合性不飽和結合基を有する化合物としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の、アルキレングリコール又はポリアルキレングリコールの多官能(メタ)アクリル酸エステル;シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の、モノシクロアルカンジメタノール又はポリシクロアルカンジメタノールの多官能(メタ)アクリル酸エステル;トリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等の、3価以上の多価アルコールの多官能(メタ)アクリル酸エステル;ペンタエリスリトールAO変性多官能(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンAO変性多官能(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールAO変性多官能(メタ)アクリレート、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の、AO変性又はコハク酸変性の多官能(メタ)アクリル酸エステル;エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート等の、多官能ウレタン(メタ)アクリレート;トリ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)フォスフェートが挙げられる。なお、「AO変性」とは、エチレンオキシド(EO)変性及びプロピレンオキシド(PO)変性等のアルキレンオキシド変性を表す。
【0084】
本組成物が[B]化合物を含む場合、その含有量は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましい。また、[B]化合物の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
【0085】
([C]感光性化合物)
感光性化合物としては、放射線の照射により本組成物の溶解性を変化させる成分であればよい。感光性化合物としては、例えば、キノンジアジド化合物、光酸発生剤、光重合開始剤等が挙げられる。これらの中でも、キノンジアジド化合物又は光酸発生剤を好ましく使用できる。ここで、本明細書において「キノンジアジド化合物」は、放射線の照射によりインデンカルボン酸に変化する物質である。「光酸発生剤」は、放射線の照射により酸を発生して、組成物中の成分が有する酸解離性基を脱離させることが可能な物質である。なお、ポジ型の組成物を得る場合、感光性化合物としてはキノンジアジド化合物又は光酸発生剤が好ましく用いられる。ネガ型の組成物を得る場合、感光性化合物としては光重合開始剤が好ましく用いられる。
【0086】
・キノンジアジド化合物
キノンジアジド化合物としては、フェノール性化合物又はアルコール性化合物(以下、「母核」ともいう)と、オルソナフトキノンジアジド化合物との縮合物が挙げられる。これらのうち、使用するキノンジアジド化合物は、母核としてのフェノール系水酸基を有する化合物と、オルソナフトキノンジアジド化合物との縮合物が好ましい。母核の具体例としては、例えば、特開2014-186300号公報の段落0065~0070に記載された化合物が挙げられる。オルソナフトキノンジアジド化合物は、1,2-ナフトキノンジアジドスルホン酸ハライドが好ましい。
【0087】
キノンジアジド化合物としては、母核としてのフェノール性化合物又はアルコール性化合物と、1,2-ナフトキノンジアジドスルホン酸ハライドとの縮合物を好ましく使用でき、フェノール性化合物と1,2-ナフトキノンジアジドスルホン酸ハライドとの縮合物をより好ましく使用できる。
【0088】
キノンジアジド化合物の具体例としては、4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,3,4,2',4'-ペンタヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、トリ(p-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1-トリ(p-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1-トリ(p-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス[1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン、1,4-ビス[1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン、4,6-ビス[1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル]-1,3-ジヒドロキシベンゼン、及び4,4'-[1-[4-[1-[4-ヒドロキシフェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールから選ばれるフェノール性水酸基含有化合物と、1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホン酸クロリド又は1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロリドとのエステル化合物が挙げられる。
【0089】
上記縮合物を得るための縮合反応において、母核と1,2-ナフトキノンジアジドスルホン酸ハライドとの割合は、1,2-ナフトキノンジアジドスルホン酸ハライドの使用量を、母核中のOH基の数に対して、30~85モル%に相当する量とすることが好ましく、50~70モル%に相当する量とすることがより好ましい。なお、上記縮合反応は、公知の方法に従って行うことができる。
【0090】
感光性化合物としてキノンジアジド化合物を使用する場合、本組成物におけるキノンジアジド化合物の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、2質量部以上とすることが好ましく、5質量部以上とすることがより好ましく、10質量部以上とすることが更に好ましい。また、キノンジアジド化合物の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、60質量部以下とすることが好ましく、50質量部以下とすることがより好ましく、40質量部以下とすることが更に好ましい。
【0091】
キノンジアジド化合物の含有割合を2質量部以上とすると、活性光線の照射によって酸が十分に生じ、露光部と未露光部とにおける現像液に対する溶解度の差を十分に大きくできる。これにより、良好なパターニングを行うことができる。また、重合体成分との反応に関与する酸の量を多くでき、本組成物を用いて得られる硬化膜の耐熱性を十分に確保できる。一方、キノンジアジド化合物の含有量を60質量部以下とすると、未反応のキノンジアジド化合物の量を十分に少なくでき、キノンジアジド化合物の残存に起因する現像性及び膜の透過率の低下を抑制できる点で好適である。
【0092】
・光酸発生剤
光酸発生剤としては、波長300nm以上(好ましくは300~450nm)の活性光線に感応し、酸を発生する化合物を好ましく使用できる。波長300nm以上の活性光線に直接感応しない光酸発生剤を用いる場合、増感剤と併用することによって波長300nm以上の活性光線に感応し、酸を発生するようにしてもよい。
【0093】
光酸発生剤としては、酸解離定数(pKa)が4以下である酸を発生する化合物を好ましく使用できる。光酸発生剤により発生される酸の酸解離定数は、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下である。
【0094】
光酸発生剤の具体例としては、例えば、オキシムスルホネート化合物、オニウム塩(スルホニウム塩、ヨードニウム塩、第4級アンモニウム塩等)、スルホンイミド化合物、ハロゲン含有化合物、ジアゾメタン化合物、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0095】
オキシムスルホネート化合物、オニウム塩、スルホンイミド化合物、ハロゲン含有化合物、ジアゾメタン化合物、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、及びカルボン酸エステル化合物のそれぞれの具体例としては、特開2012-252343号公報の段落0034~0038に記載された化合物、特開2014-157252号公報の段落0078~0106に記載された化合物、国際公開第2016/124493号に記載された化合物等が挙げられる。光酸発生剤としては、これらのうち、オキシムスルホネート化合物、スルホンイミド化合物、オニウム塩、ハロゲン含有化合物、スルホン化合物及びスルホン酸エステル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用できる。
【0096】
オキシムスルホネート化合物を例示すると、(5-プロピルスルホニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(5-オクチルスルホニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(カンファースルホニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(5-p-トルエンスルホニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、{2-[2-(4-メチルフェニルスルホニルオキシイミノ)]-2,3-ジヒドロチオフェン-3-イリデン}-2-(2-メチルフェニル)アセトニトリル)、2-(オクチルスルホニルオキシイミノ)-2-(4-メトキシフェニル)アセトニトリル、国際公開第2016/124493号に記載の化合物、特許第5914663号公報に記載の化合物等が挙げられる。オキシムスルホネート化合物の市販品としては、BASF社製のIrgacure PAG121等が挙げられる。
【0097】
スルホンイミド化合物を例示すると、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(4-メチルフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(2-フルオロフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、4-メチルフェニルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、トリフルオロメタンスルホン酸-1,8-ナフタルイミド(ナフタルイミドトリフルオロメタンスルホネート)が挙げられる。
【0098】
オニウム塩の具体例としては、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムノナフルオロ-n-ブタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムn-ドデシルベンゼンスルホネート、ジフェニルヨードニウム10-カンファースルホネート、ジフェニルヨードニウムナフタレンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロ-n-ブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムn-ドデシルベンゼンスルホネート、トリフェニルスルホニウムナフタレンスルホネート、トリフェニルスルホニウム10-カンファースルホネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、2-オキソシクロヘキシルジシクロヘキシルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、1-ナフチルジエチルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、1-(4-ベンジルオキシ)テトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート、1-(ナフチルアセトメチル)テトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート、4,7-ジ-n-ブトキシ-1-ナフチルテトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート等が挙げられる。
【0099】
ハロゲン含有化合物の具体例としては、フェニルビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-メトキシフェニルビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1-ナフチルビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン等が挙げられる。スルホン化合物の具体例としては、4-トリスフェナシルスルホン、メシチルフェナシルスルホン、ビス(フェニルスルホニル)メタン等が挙げられる。スルホン酸エステル化合物としては、ベンゾイントシレート、ピロガロールのトリス(トリフルオロメタンスルホネート)、ニトロベンジル-9,10-ジエトキシアントラセン-2-スルホネート、トリフルオロメタンスルホニルビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボジイミド、N-ヒドロキシスクシンイミドトリフルオロメタンスルホネート、1,8-ナフタレンジカルボン酸イミドトリフルオロメタンスルホネート等が挙げられる。
【0100】
感光性化合物として光酸発生剤を用いる場合、本組成物における光酸発生剤の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、光酸発生剤の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、25質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。光酸発生剤の含有割合を0.5質量部以上とすると、放射線の照射によって露光部に酸が十分に生成し、アルカリ溶液に対する露光部と未露光部との溶解度の差を十分に大きくできる。これにより、良好なパターニングを行うことができる。また、[A]重合体との反応に関与する酸の量を多くでき、得られる硬化膜の耐熱性を十分に確保できる。一方、光酸発生剤の含有割合を25質量部以下とすることにより、露光後において未反応の光酸発生剤の量を十分に少なくでき、光酸発生剤の残存による現像性の低下を抑制することができる。
【0101】
・光重合開始剤
光重合開始剤としては、光照射や加熱等によりラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。光ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えばオキシムエステル化合物、アルキルフェノン化合物 、アシルホスフィンオキサイド化合物、ビイミダゾール化合物、トリアジン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物等が挙げられる。露光により微細パターンを形成可能な点で、これらのうち、オキシムエステル化合物が好ましい。オキシムエステル化合物の市販品としては、IRGACURE OXE01、IRGACURE OXE02、IRGACURE OXE01(以上、BASF社製)等が挙げられる。
【0102】
感光性化合物として光重合開始剤を用いる場合、本組成物における光重合開始剤の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、光重合開始剤の含有量は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、25質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。
【0103】
([D]密着助剤)
密着助剤は、本組成物を用いて形成される硬化膜と基板との接着性を向上させる成分である。密着助剤としては、反応性官能基を有する官能性シランカップリング剤を好ましく使用できる。官能性シランカップリング剤が有する反応性官能基としては、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0104】
官能性カップリング剤の具体例としては、例えば、トリメトキシシリル安息香酸、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0105】
本組成物が密着助剤を含む場合、その含有割合は、本組成物に含まれる[A]重合体100質量部に対して、0.01質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
【0106】
([E]界面活性剤)
界面活性剤は、本組成物の塗布性(濡れ広がり性や塗布ムラの低減)を改良するために使用することができる。界面活性剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、これらの市販品等の公知のものの中から任意に選択して使用することができる。
【0107】
本組成物中に界面活性剤を配合する場合、界面活性剤の含有量は、本組成物中に含まれる[A]重合体100質量部に対して、0.01~1.5質量部が好ましく、0.02~1.2質量部がより好ましく、0.05~1.0質量部が更に好ましい。
【0108】
([F]溶剤)
本組成物は、[A]重合体、及び必要に応じて配合される成分が溶剤に溶解又は分散された液状の組成物であることが好ましい。使用する溶剤としては、本組成物に配合される各成分を溶解し、かつ各成分と反応しない有機溶媒が好ましい。
【0109】
溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレンジグリコールモノメチルエーテル、エチレンジグリコールエチルメチルエーテル、ジメチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0110】
これらのうち、溶剤は、エーテル類及びエステル類よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコール類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、及びプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0111】
本組成物における溶剤の含有量(溶剤を2種以上含む場合にはその合計量)は、本組成物の全成分100質量部あたり、50~95質量部であることが好ましく、60~90質量部であることがより好ましい。
【0112】
その他の成分として、上記のほか、酸拡散制御剤、増感剤、酸化防止剤、熱ラジカル発生剤、熱酸発生剤、紫外線吸収剤、増粘剤、現像促進剤、酸増殖剤、可塑剤、沈殿防止剤、重合禁止剤、連鎖移動剤等の公知の添加剤を含有させてもよい。これらの成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各成分に応じて適宜選択される。
【0113】
本組成物は、その固形分濃度(組成物中の溶剤以外の成分の合計質量が、組成物の全質量に対して占める割合)は、粘性や揮発性等を考慮して適宜に選択される。本組成物の固形分濃度は、好ましくは5~60質量%の範囲である。固形分濃度が5質量%以上であると、本組成物を基板上に塗布した際に塗膜の膜厚を十分に確保できる。また、固形分濃度が60質量%以下であると、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、更に本組成物の粘性を適度に高くでき、良好な塗布性を確保できる。本組成物の固形分濃度は、より好ましくは10~55質量%であり、更に好ましくは12~50質量%である。
【0114】
《硬化膜及びその製造方法》
本発明の硬化膜は、上記のようにして調製された組成物(すなわち、硬化性組成物)により形成される。本組成物を用いることにより、耐熱性が高く、高透過率であり、しかも難透水性に優れた硬化膜を形成することができる。したがって、本組成物は、例えば、層間絶縁膜、平坦化膜、スペーサー、保護膜、カラーフィルタ用着色パターン膜、隔壁、バンク等の形成材料として好ましく用いることができる。これらの中でも、本組成物は、表示素子が備える層間絶縁膜又は平坦化膜の形成材料として好適である。
【0115】
本組成物を用いて、例えば以下の工程1A~工程3Aを含む方法を行うことにより硬化膜を製造することができる。
(工程1A)本組成物を用いて塗膜を形成する工程(塗布工程)
(工程2A)上記塗膜に放射線を照射する工程(露光工程)
(工程3A)放射線を照射した後の前記塗膜を加熱する工程(加熱工程)
【0116】
また、硬化膜の製造に際し、感光性化合物が配合された組成物を用いることにより、感光性化合物の種類に応じてポジ型又はネガ型の硬化膜を形成することができる。本組成物を用いて、例えば以下の工程1B~工程4Bを含む方法を行うことにより、パターンを有する硬化膜を製造することができる。
(工程1B)本組成物を用いて塗膜を形成する工程(塗布工程)
(工程2B)上記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程(露光工程)
(工程3B)放射線を照射した後の塗膜を現像する工程(現像工程)
(工程4B)現像後の塗膜を加熱する工程(加熱工程)
以下、各工程について詳細に説明する。
【0117】
[塗布工程]
塗布工程では、膜を形成する面(以下、「被成膜面」ともいう)に本組成物を塗布し、好ましくは加熱処理(プレベーク)を行うことにより溶媒を除去して被成膜面上に塗膜を形成する。被成膜面の材質は特に限定されない。例えば、層間絶縁膜を形成する場合、TFT等のスイッチング素子が設けられた基板上に本組成物を塗布し、塗膜を形成する。基板としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、樹脂基板が用いられる。塗膜を形成する基板の表面には、用途に応じた金属薄膜が形成されていてもよく、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理等の各種表面処理が施されていてもよい。
【0118】
本組成物の塗布方法としては、例えば、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、スリットダイ塗布法、バー塗布法、インクジェット法等が挙げられる。これらの中でも、スピンコート法、スリットダイ塗布法又はバー塗布法により行うことが好ましい。プレベーク条件としては、本組成物における各成分の種類及び含有量等によっても異なるが、例えば60~130℃で0.5~10分である。形成される塗膜の膜厚(すなわち、プレベーク後の膜厚)は、0.1~12μmが好ましい。被成膜面に塗布した本組成物に対しては、プレベーク前に減圧乾燥(VCD)を行ってもよい。
【0119】
[露光工程]
工程2A及び工程2Bでは、上記塗膜の少なくとも一部に対して放射線を照射する。なお、工程2Bにおいて、塗膜に対し所定のパターンを有するマスクを介して放射線を照射することにより、パターンを有する硬化膜を形成することができる。放射線としては、例えば、紫外線、遠紫外線、可視光線、X線、電子線等の荷電粒子線が挙げられる。これらの中でも紫外線が好ましく、例えばg線(波長436nm)、i線(波長365nm)が挙げられる。放射線の露光量としては、0.1~20,000J/m2が好ましい。
【0120】
[現像工程]
現像工程では、露光工程で放射線を照射した塗膜を現像する。具体的には、露光工程で放射線が照射された塗膜に対し、現像液により現像を行い、これにより放射線の照射部分を除去するポジ型現像、又は放射線の非照射部分を除去するネガ型現像を行う。現像液としては、例えば、アルカリ(塩基性化合物)の水溶液が挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、特開2016-145913号公報の段落0127に例示されたアルカリが挙げられる。アルカリ水溶液におけるアルカリ濃度としては、適度な現像性を得る観点から、0.1~5質量%が好ましい。現像方法としては、液盛り法、ディッピング法、揺動浸漬法、シャワー法等の適宜の方法が挙げられる。現像時間は、組成物の組成によっても異なるが、例えば30~120秒である。なお、現像工程の後、パターニングされた塗膜に対して流水洗浄によるリンス処理を行うことが好ましい。
【0121】
[加熱工程]
工程3Aでは、放射線照射後の塗膜を加熱する処理(ポストベーク)を行う。また、工程4Bでは、現像工程で現像された塗膜を加熱する処理(ポストベーク)を行う。この加熱処理により更に硬化反応が進行し、耐熱性に優れた硬化膜を得ることができる。ポストベークは、例えばオーブンやホットプレート等の加熱装置を用いて行うことができる。ポストベーク条件について、加熱温度は、例えば120~250℃である。加熱時間は、例えばホットプレート上で加熱処理を行う場合には5~40分、オーブン中で加熱処理を行う場合には10~80分である。工程4Bの加熱処理では、目的とするパターンを有する硬化膜を基板上に形成することができる。硬化膜が有するパターンの形状は特に限定されず、例えば、ライン・アンド・スペースパターン、ドットパターン、ホールパターン、格子パターンが挙げられる。
【0122】
本組成物により得られた硬化膜は、ドライエッチングレジストとして使用することもできる。硬化膜をドライエッチングレジストとして使用する場合、エッチング処理としては、アッシング、プラズマエッチング、オゾンエッチング等のドライエッチング処理を採用することができる。
【0123】
<表示素子>
本開示の表示素子は、本組成物を用いて形成された硬化膜を備える。表示素子としては、例えば、液晶表示素子、有機EL素子等が挙げられる。本組成物を用いて形成される硬化膜の種類は特に限定されない。本組成物によれば、優れた耐熱性、難透水性及びベンディング耐性(耐折り曲げ性)を示し、かつ高透過率の硬化膜を得ることができる点で、本組成物はこれらの中でも、表示素子の膜形成用組成物、すなわち、基材上に作製されたTFT回路や配線の段差を被覆する絶縁層である平坦化膜や、多層配線における配線同士又は配線と基板との間を絶縁する絶縁層である層間絶縁膜を形成するための膜形成用組成物として特に好適である。
【0124】
本組成物を用いて形成された硬化膜は、難透水性かつベンディング耐性に優れることから、フレキシブルディスプレイ用の表示素子に好ましく適用できる。フレキシブルディスプレイとしては、折り畳みが可能なフォルダブルディスプレイ、折り返しや折り曲げが可能なベンダブルディスプレイ、巻き取りが可能なローラブルディスプレイ等が挙げられる。本組成物を用いて形成された硬化膜は、これらの中でも特に、フォルダブルディスプレイ用の表示素子に設けられる硬化膜として好適であり、フォルダブルディスプレイ用の層間絶縁膜又は平坦化膜として特に好適である。
【0125】
以上詳述した本開示によれば、以下の手段が提供される。
〔手段1〕 電子求引性基に隣接するメチレン基を有する化合物(M1)に由来する構造単位と、エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物及びハロゲン化アルキル基を2個以上有する化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物(M2)に由来する構造単位とを含む重合体を含有する、膜形成用組成物。
〔手段2〕 前記化合物(M1)は、上記式(1)で表される、〔手段1〕に記載の膜形成用組成物。
〔手段3〕 前記化合物(M2)は、上記式(2A)で表される化合物及び上記式(2B)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の膜形成用組成物。
〔手段4〕 前記重合体は、上記式(3A)で表される構造単位を含む、〔手段1〕~〔手段3〕のいずれか一に記載の膜形成用組成物。
〔手段5〕 前記重合体は、上記式(3B)で表される構造単位を含む、〔手段1〕~〔手段4〕のいずれか一に記載の膜形成用組成物。
〔手段6〕 前記化合物(M1)の第一酸解離定数(pKa1)が20.0以下である、〔手段1〕~〔手段5〕のいずれか一に記載の膜形成用組成物。
〔手段7〕 架橋性官能基を2個以上有する化合物を更に含有する、〔手段1〕~〔手段6〕のいずれか一に記載の膜形成用組成物。
〔手段8〕 感光性化合物を更に含有する、〔手段1〕~〔手段7〕のいずれか一に記載の膜形成用組成物。
〔手段9〕 前記感光性化合物が、キノンジアジド化合物又は光酸発生剤である、〔手段8〕に記載の膜形成用組成物。
〔手段10〕 〔手段1〕~〔手段9〕のいずれか一に記載の膜形成用組成物を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜に放射線を照射する工程と、放射線を照射した後の前記塗膜を加熱する工程と、を含む、硬化膜の製造方法。
〔手段11〕 〔手段1〕~〔手段9〕のいずれか一に記載の膜形成用組成物を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程と、放射線を照射した後の前記塗膜を現像する工程と、現像後の前記塗膜を加熱する工程と、を含む、硬化膜の製造方法。
〔手段12〕 〔手段1〕~〔手段9〕のいずれか一に記載の膜形成用組成物を用いて形成された硬化膜。
〔手段13〕 層間絶縁膜又は平坦化膜である、〔手段12〕に記載の硬化膜。
〔手段14〕 〔手段12〕又は〔手段13〕に記載の硬化膜を備える、表示素子。
【実施例0126】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0127】
[重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)]
下記合成例で合成した重合体のMw及びMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、以下の装置及び条件で測定した。測定したMw及びMnから分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
・装置:昭和電工(株)製のGPC-101
・GPCカラム:(株)島津ジーエルシー製のGPC-KF-801、GPC-KF-802、GPC-KF-803及びGPC-KF-804を結合したもの
・移動相:テトラヒドロフラン((メタ)アクリル系重合体の場合)、又はリチウムブロミド及びリン酸含有のN,N-ジメチルホルムアミド溶液([A]重合体及びポリイミドの場合)
・カラム温度:40℃
・流速:1.0mL/分
・試料濃度:1.0質量%
・試料注入量:100μL
・検出器:示差屈折計
・標準物質:単分散ポリスチレン
【0128】
[単量体]
重合体の合成に用いた単量体の略称は以下のとおりである。
《化合物(M1)》:下記式AM-1~式AM-7のそれぞれで表される化合物
【化14】
【0129】
《化合物(M2-1)》:下記式DO-1~式DO-5のそれぞれで表される化合物
【化15】
【0130】
《化合物(M2-2)》:下記式DH-1~式DH-5のそれぞれで表される化合物
【化16】
【0131】
[化合物(M1)の第一酸解離定数(pKa1)]
表1に、密度汎関数法(B3LYP/6-311++G(d,p))に基づいてGaussian16により得られた化合物(M1)から発生する一段階目の酸解離定数(第一酸解離定数(pKa1))を示す。
【0132】
【0133】
1.重合体の合成
[合成例1]重合体P-1(重付加型樹脂)の合成
100mLの二つ口フラスコに、窒素下で、重合モノマーとして、2-ピリジンアセトニトリル100モル部及び4,4’-ジアクリロイルオキシビフェニル100モル部、界面活性剤としてテトラブチルアンモニウムブロミド0.01モル部、並びに溶剤としてアニソールを、重合溶液の固形分濃度が30質量%となるように加え、重合溶液が均一になるまで室温(25℃)で撹拌した。その後、塩基としてジアザビシクロウンデセン200モル部を加え、室温で30分、60℃で8時間重合した。重合後、メタノール水溶液に再沈殿させることで得られた固形分を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで、重合体P-1を得た。得られた重合体P-1のMwは15,300、分子量分布(Mw/Mn)は3.92であった。
【0134】
[合成例2~5、13]重合体P-2~P-5、P-16の合成
重合に使用するモノマーの種類及び量を表2に記載のとおり変更した点以外は合成例1と同様に重合を行い、重合体P-2~P-5、P-16をそれぞれ得た。
【0135】
[合成例6]重合体P-6(重縮合型樹脂)の合成
100mLの二つ口フラスコに、窒素下で、重合モノマーとして、フェニルアセトニトリル100モル部及び2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン100モル部、界面活性剤としてテトラブチルアンモニウムブロミド0.5モル部、並びに溶剤としてアニソールを、重合溶液の固形分濃度が30質量%となるように加え、室温で重合溶液が均一になるまで撹拌した。その後、塩基として、40%水酸化ナトリウム水溶液1000モル部を加え、室温で30分、50℃で8時間重合した。重合後、メタノール水溶液に再沈殿させ、得られた固形分を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで、重合体P-6を得た。得られた重合体P-6のMwは98,100、分子量分布(Mw/Mn)は5.01であった。
【0136】
[合成例7~12、14]重合体P-7~P-12、P-17の合成
重合に使用するモノマーの種類及び量を表2に記載のとおり変更した点以外は合成例6と同様に重合を行い、重合体P-7~P-12、P-17をそれぞれ得た。
【0137】
【0138】
[合成例15]重合体P-13(重付加型樹脂)の合成
100mLの二つ口フラスコに、窒素下で、重合体P-5を2g、テトラヒドロフランを、重合溶液の濃度が20質量%となるように加えた。重合溶液を室温で撹拌した状態で、1規定塩酸水溶液を20g加えて、室温で6時間反応することで、テトラヒドロピラニル基を脱保護した。反応後、メタノール水溶液に再沈殿させ、得られた固形分を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで、重合体P-13を得た。
【0139】
[合成例16]重合体P-14((メタ)アクリ系重合体)の合成
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、メタクリル酸メチル40モル部、メタクリル酸グリシジル20モル部、メタクリル酸20モル部、及びスチレン20モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2.0g、並びに溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)50mLを加え、70℃で6時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することにより重合体P-14を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは37,400、分子量分布Mw/Mnは3.02であった。
【0140】
[合成例17]重合体P-15(ポリイミド)の合成
2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン100モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、そこに4,4’-オキシジフタル酸無水物100モル部を加え、40℃で8時間反応させることにより、ポリアミック酸を20質量%含有するポリアミック酸溶液を得た。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸の濃度を10質量%とし、そこにピリジン及び無水酢酸を添加して、90℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約70%のポリイミドを15質量%含有するポリイミド溶液を得た。得られたポリイミド溶液をメタノールに加え、析出した固形物をメタノール水溶液で洗浄し、得られた固形物を乾燥することで、重合体P-15を得た。得られた重合体P-15のMwは32,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.21であった。
【0141】
2.膜形成用組成物の調製及び評価
[実施例1]
(1)組成物R-1の調製
重合体P-1 100質量部と、架橋剤Add-1 10質量部と、密着助剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)5質量部と、界面活性剤(商品名「FTX-218」、ネオス社製)0.5質量部とを混合した。さらに、固形分濃度が20質量%となるように、溶剤としてガンマ-ブチロラクトンとジエチレングリコールエチルメチルエーテルとの混合溶液(ガンマ-ブチロラクトン:ジエチレングリコールエチルメチルエーテル=50:50(質量比))を添加した後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過することにより、組成物R-1を調製した。
【0142】
(2)耐熱性の評価
スピンナーを用い、組成物R-1をシリコン基板上に塗布した後、90℃にて2分間ホットプレート上でプレベークして、膜厚3.0μmの塗膜を形成した。次いで、プロキシミティ露光機(キヤノン社製の「MA-1200」(ghi線混合))を用いて、3,000J/m2の光を基板面全体に照射した後、窒素に置換したクリーンオーブン中でこのシリコン基板を250℃で60分間加熱することで硬化膜を形成した。形成した硬化膜の1%熱重量減少温度を示差熱・熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社製の「TG/DTA220U」)を用いて空気下で測定した。1%重量減少温度が300℃以上の場合を「良好(○)」とし、250℃以上300℃未満の場合を「可(△)」とし、250℃未満の場合を「不可(×)」として耐熱性を評価した。その結果、この実施例では「良好(○)」の評価であった。
【0143】
(3)透過率(光透過性)の評価
スピンナーを用い、組成物R-1をガラス基板上に塗布した後、90℃にて2分間ホットプレート上でプレベークして膜厚3.0μmの塗膜を形成した。次いで、プロキシミティ露光機(キヤノン社製の「MA-1200」(ghi線混合))を用いて、3000J/m2の光を基板面全体に照射した後、窒素に置換したクリーンオーブン中で、このガラス基板を250℃で60分間加熱することで硬化膜を形成した。形成した硬化膜の透過率を紫外可視分光光度計(日本分光社製の「V-630」)により測定した。波長380nmの光の透過率が70%以上の場合を「良好(○)」とし、50%以上70%未満の場合を「可(△)」とし、50%未満の場合を「不可(×)」として透過率を評価した。その結果、この実施例では「良好(○)」の評価であった。
【0144】
(4)難透水性の評価
厚さ25μmのポリイミドシート上に、組成物R-1を膜厚10μmになるようスピンナーを用いて塗布し、80℃で1.5分間プレベ-クした。次いで、プロキシミティ露光機(キヤノン社製の「MA-1200」(ghi線混合))を用いて、3,000J/m2の光を基板面全体に照射した後、250℃にて60分間加熱し、ポリイミドシート上に硬化膜を形成した。このポリイミドシートと硬化膜との積層フィルムを、蒸留水15gを入れたアルミカップの開口部に、硬化膜の形成面を内側にして配置して、アルミカップの開口部を積層フィルムで密封するように覆った。これを50℃の恒温槽に入れ、150時間後のカップの重量減少を測定し、単位面積当たりの透水量を計算にて求めた。重量減少の値が500g/cm2以下の場合を「良好(○)」とし、500g/cm2を超えて700g/cm2以下の場合を「可(△)」とし、700g/cm2を超える場合を「不可(×)」として難透水性を評価した。この値が500g/cm2以下であれば、硬化膜の透水性は十分低く、良好であるといえる。その結果、この実施例では「良好(○)」の評価であった。
【0145】
[実施例2~20、比較例1~3]
配合組成を表3に示すとおり変更した点以外は、実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で、組成物R-2~R-20、RC-1~RC-3をそれぞれ調製した。なお、実施例2~20及び比較例1~3についても実施例1と同様の種類及び配合量の密着助剤及び界面活性剤を配合した。実施例15~20及び比較例2、3については、組成物に感光性化合物を配合した。また、それぞれの組成物を用いて、実施例1と同様にして各種評価を行った。さらに、感光性化合物を配合した実施例15~20及び比較例2、3については、以下(5)に示す感度(放射線感度)の評価を行った。評価結果を表3に示す。感光性化合物を配合した実施例15~20のうち、実施例15、17~20はポジ型組成物であり、実施例16はネガ型組成物である。
【0146】
(5)感度(放射線感度)の評価
スピンナーを用い、60℃で60秒間HMDS処理したシリコン基板上に、組成物を塗布した後、90℃にて2分間ホットプレート上でプレベークして、膜厚3.0μmの塗膜を形成した。この塗膜に、キヤノン社製の「MPA-600FA」露光機を用い、幅10μmのライン・アンド・スペースパターンを有するパターンマスクを介して、所定量の紫外線を照射した。次いで、現像液(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド2.38質量%水溶液)を用い、25℃で60秒間現像処理を行った後、超純水で1分間流水洗浄を行った。幅10μmのライン・アンド・スペースパターンを形成可能な最小露光量を測定し、この測定値が2,000J/m2未満の場合を「良好(○)」とし、幅10μmのライン・アンド・スペースパターンが得られたが、最小露光量が2,000J/m2以上の場合を「可(△)」とし、幅10μmのライン・アンド・スペースパターンが得られなかった場合を「不可(×)」として感度を評価した。なお、感光性化合物を配合していない組成物は、感度(放射線感度)の評価を実施しなかったことから、表3では「-」と示した。
【0147】
【0148】
表3中、化合物の略称は以下のとおりである。
NQD:キノンジアジド化合物(4,4’-〔1-〔4-〔1-〔4-ヒドロキシフェニル〕-1-メチルエチル〕フェニル〕エチリデン〕ビスフェノール(1.0モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロリド(2.0モル)との縮合物)
PI:Irgacure OXE-01(BASF社製)
CAR:4,7-ジ-n-ブトキシ-1-ナフチルテトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート
Add-1~Add-6:下記式Add-1~式Add-6のそれぞれで表される化合物
【化17】
【0149】
表3に示すように、実施例1~20の組成物は、耐熱性、透過率及び難透水性のいずれも「○」又は「△」の評価であり、各種特性がバランス良く改善された。これらの中でも、[A]重合体の合成に使用する化合物(M1)としてAM-1~AM-4、AM-6、AM-7を用いて合成した重合体P-1、P-2、P-4~P-13、P-16、P-17を含む組成物は、耐熱性が「○」の評価であり、優れていた。また、感光性化合物を配合した実施例15~20の組成物は感度も優れていた。
【0150】
これに対し、[A]重合体に代えて(メタ)アクリル系重合体を用いた比較例1、2は、硬化膜の透過率は「○」の評価であったものの、硬化膜の耐熱性が「×」、難透水性が「△」の評価であり、実施例1~20よりも劣っていた。また、[A]重合体に代えてポリイミドを用いた比較例3は、硬化膜の耐熱性は「○」であったものの、透過率が「×」であり、難透水性も「△」の評価であり、実施例1~20よりも劣っていた。