(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007450
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】多孔性中空糸膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/08 20060101AFI20250109BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20250109BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20250109BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20250109BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20250109BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20250109BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D69/00
B01D71/06
B01D71/26
B01D71/32
B01D71/34
B01D71/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108858
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】三木 雄揮
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA03
4D006HA93
4D006HA95
4D006MA01
4D006MA21
4D006MA23
4D006MA28
4D006MA31
4D006MA33
4D006MA34
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC28
4D006MC29X
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC34
4D006MC39
4D006MC46
4D006MC54
4D006MC59
4D006MC61
4D006MC62
4D006NA23
4D006NA54
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB04
4D006PB08
4D006PC62
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐擦過性だけでなく透水性能にも優れ、さらに機械的な強度にも優れる多孔性中空糸膜を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するべく、本発明は、熱可塑性樹脂からなる、略円筒状の多孔性中空糸膜1であって、外周部と内周部に、中空糸膜の長手方向に連続して延在した複数の凹凸3、4を有し、該凹凸は、中空糸膜の円周方向に沿って凹部と凸部が交互に形成されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる、略円筒状の多孔性中空糸膜であって、
外周部と内周部に、中空糸膜の長手方向に連続して延在した複数の凹凸を有し、該凹凸は、中空糸膜の円周方向に沿って凹部と凸部が交互に形成されていることを特徴とする、多孔性中空糸膜。
【請求項2】
前記外周部の凹部の頂点と中空糸膜の中心を結ぶ線上に、前記内周部の凸部頂点が存在することを特徴とする、請求項1に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項3】
前記外周部の凹凸高さと、前記内周部の凹凸高さとの比率(外周部の凹凸高さ/内周部の凹凸高さ)が、1.0以上20以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項4】
前記内周部の凹部の内径/2と、前記内周部の凹凸高さとの比率(凹部の内径/凹凸高さ×100%)が1.0~33%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項5】
前記内周部の凹凸高さが1~110μmであり、前記外周部の凹凸高さが1~320μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項6】
前記外周部の凹凸の幅が1~500μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項7】
前記内周部の凹凸の幅が1~500μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項8】
前記内周部の凹部の表面開孔率を、前記内周部の凸部の表面開孔率で除した値が1.01~2.00であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項9】
前記外周部及び前記内周部は、中空糸膜の円周方向における凹凸の条数が1~200であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、主成分としてフッ素樹脂若しくはポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性中空糸膜。
【請求項11】
前記フッ素樹脂が、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及び、これら樹脂の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項10に記載の多孔性中空糸膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性中空糸膜に関する。本発明は、具体的には、外周部と内周部に凹凸を有する多孔性中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、限外ろ過膜、精密ろ過膜などの多孔膜は、電着塗料の回収、超純水からの微粒子除去、パイロジェンフリー水の製造、酵素の濃縮、発酵液の除菌・清澄化、上水・下水・排水処理など、幅広い分野で用いられている。特に多孔性中空糸膜は、単位体積あたりの膜充填密度が高く、処理装置をコンパクト化できることなどから、広く用いられている。
【0003】
多孔性中空糸膜を用いて、各種被処理液をろ過する場合、該被処理液に含まれる無機物及び/又は有機物の一部が、膜細孔内もしくは膜表面に吸着、閉塞又は堆積する、いわゆるファウリングにより透水性能が低下することが大きな問題である。
【0004】
この様なファウリング現象を抑制する方法として、特許文献1には、中空糸膜収納容器に空気を導入して容器内の液体を振動させ、中空糸膜表面に付着した微粒子を除去する物理的な洗浄方法(いわゆるエアスクラビング)が開示されている。この特許文献1のケーシングタイプのモジュールに限らず、例えばMBR(膜分離活性汚泥法)で良く用いられるような非ケーシングタイプ(浸漬タイプ)のモジュールにおいても、モジュールの下部からエアーを導入してファウリングを抑制する方法が一般的に用いられている。しかしながらこの方法は、膜のファウリングを効果的に抑制できる反面、膜同士が接触することにより膜外表面の細孔が閉塞する現象、いわゆる「擦過」が進行し易く、その結果、長期的な運転においては膜の透水性能が低下してしまう問題があった。
【0005】
このエアスクラビングの効果をより高めるために、形状を工夫した膜も開示されている。特許文献2には、中空糸に蛇行形状のクリンプを付与して中空糸同士の接触による膜面積の減少や液の滞留による処理性能の低下を抑制する膜が開示されている。
【0006】
特許文献3には、外表面側に凹凸を有する膜が開示され、擦過が抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60-19002号公報
【特許文献2】特開昭57-194007号公報
【特許文献3】国際公開第2010/063772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2及び3に開示されている膜では、エアスクラビング効果の向上や擦過の抑止に関して、十分な効果が得られるとは言い難かった。
【0009】
特許文献2に開示されている形状では、中空糸長手方向でのクリンプの周期が数mm~数十mmと長いため、膜面全体に亘って液体の流れをコントロールすることができず、その結果、ファウリングに斑が生じ、十分に効果を得ることができないという問題があった。
さらに、膜同士が接触する角度が変わる、あるいはエアスクラビングにより膜が曲がって接触することもあるため、擦過を抑止する効果は小さく、透水性能の低下を十分に抑えることができないという問題もあった。
【0010】
また、特許文献3に開示されている膜についても、擦過は抑制されるものの中空糸の内表面側は従来と同じ凹凸を有しない膜であり実液の透水性能という意味では十分ではなかった。
また、外圧濾過を想定しており内圧濾過時は透水性能の向上は期待できないため、さらなる改善が望まれていた。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、耐擦過性だけでなく透水性能にも優れ、さらに機械的な強度にも優れる多孔性中空糸膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、熱可塑性樹脂からなる、略円筒状の多孔性中空糸膜について、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、外周部と内周部に、中空糸膜の長手方向に連続して延在した複数の凹凸を有することが、耐擦過性、実液性能の向上に極めて重要であることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)熱可塑性樹脂からなる、略円筒状の多孔性中空糸膜であって、
外周部と内周部に、中空糸膜の長手方向に連続して延在した複数の凹凸を有し、該凹凸は、中空糸膜の円周方向に沿って凹部と凸部が交互に形成されていることを特徴とする、多孔性中空糸膜。
(2)前記外周部の凹部の頂点と中空糸膜の中心を結ぶ線上に、前記内周部の凸部頂点が存在することを特徴とする、(1)に記載の多孔性中空糸膜。
(3)前記外周部の凹凸高さと、前記内周部の凹凸高さとの比率(外周部の凹凸高さ/内周部の凹凸高さ)が、1.0以上20以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の多孔性中空糸膜。
(4)前記内周部の凹部の内径/2と、前記内周部の凹凸高さとの比率(凹凸高さ/(凹部の内径/2)×100%)が1.0~33%であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜。
(5)前記内周部の凹凸高さが1~110μmであり、前記外周部の凹凸高さが1~320μmであることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜。
(6)前記外周部の凹凸の幅が1~500μmであることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜。
(7)前記内周部の凹凸の幅が1~500μmであることを特徴とする、(1)~(6)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜。
(8)前記内周部の凹部の表面開孔率を、前記内周部の凸部の表面開孔率で除した値が1.01~2.00であることを特徴とする、(1)~(7)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜。
(9)前記外周部及び前記内周部は、中空糸膜の円周方向における凹凸の条数が1~200であることを特徴とする、(1)~(8)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜。
(10)前記熱可塑性樹脂が、主成分としてフッ素樹脂若しくはポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする、(1)~(9)のいずれかに記載の多孔性中空糸膜。
(11)前記フッ素樹脂が、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及び、これら樹脂の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする、(10)に記載の多孔性中空糸膜。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、無機物や有機物を含有する液体の処理に好適な、耐擦過性、高い透水性能、耐圧縮強度を有する多孔性中空糸膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の多孔性中空糸膜を模式的に示した斜視図である。
【
図2】本実施形態の多孔性中空糸膜の外周部に形成された凹凸を拡大し、模式的に示した断面図である。
【
図3】本実施形態の多孔性中空糸膜について、中空糸膜の中心から凸部の頂点までの長さ、中空糸膜の中心から凹部の底までの長さ、及び、隣り合う多孔性中空糸膜の中心間距離を説明するための図である。
【
図4】等方的な三次元網目構造を説明するための模式図である。
【
図6】実施形態の多孔性中空糸膜の製造に用いられる製造装置の一例を模式的に示した図である。
【
図7】本実施形態の多孔性中空糸膜を用いた濾過モジュールの一例を模式的に示した図である。
【
図8】実施例1で得られた多孔性中空糸膜について、電子顕微鏡を用いて延在方向と直交する断面を観察した際の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施の形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して用いることができる。
【0017】
本実施形態に係る多孔性中空糸膜は、熱可塑性樹脂からなり、中心部分に開孔が設けられた略円筒状の多孔性中空糸膜である。
そして、本実施形態の多孔性中空糸膜は、
図1に示すように、中空糸膜の長手方向に連続して延在した複数の凹凸を有する。
ここで、本実施形態における多孔性中空糸膜の「外周部」とは、多孔性中空糸膜の延在方向と直交する断面で見た際の外周部、つまり多孔性中空糸膜の外表面部を意味する。また、本実施形態における多孔性中空糸膜の「内周部」とは、多孔性中空糸膜の延在方向と直交する断面で見た際の外周部、つまり多孔性中空糸膜の内表面部を意味する。
また、「中空糸膜の長手方向に連続して延在する凹凸」とは、
図1に示すように、多孔性中空糸膜の延在方向と直交する任意の断面で見た際、外周部及び内周部のそれぞれの凹凸3、4が略同様の形状を有しており、凹部3A、4A及び凸部3B、4Bが多孔性中空糸膜の延在方向に沿って延びていることを意味する。
【0018】
本実施形態の多孔性中空糸膜では、外周部と内周部に、中空糸膜の長手方向に連続して延在した複数の凹凸3、4を有することで、(1)濾過時の膜の外表面、内表面の流れが乱れることにより高い実液透水性能を発揮でき、(2)膜同士が接触しやすい箇所を凸部に限定することで擦過による透水性能の低下を抑止でき、(3)濾過する際の表面積が上がりさらに実液透水性能が向上し、(4)外圧濾過、内圧濾過に関わらず高い実液性能を発現させることができる、という効果を奏することができる。
【0019】
また、前記凹凸に含まれる凹部及び凸部とは、多孔性中空糸膜の延在方向と直交する断面において、中空糸膜の外周部の場合、
図2に示すように、外側に凸である部分(曲率中心が多孔性中空糸膜の外周部よりも内側となる領域)を凸部3A、膜外周部の外側に凹(曲率中心が多孔性中空糸膜の外周部よりも外側となる領域)である部分を凹部3Bという。
そして、本実施形態の多孔性中空糸膜では、
図1に示すように、前記中空糸膜の長手方向に連続して延在した複数の凹凸3、4が、いずれも、中空糸膜の円周方向に沿って凹部と凸部が交互に形成されている。これによって、上述した(1)~(4)の効果をより確実に発揮することができる。
なお、前記外周部の凹部3A及び凸部の何れか一方を有しない場合も外周部に凹凸は形成され、例えば、凸部がない場合には凹部同士が頂部で隣接した態様が考えられ、この場合も凹部同士の間に断面山状の尖形部分が形成されるが、この尖形部分は曲率中心が内側となる領域ではないので凸部とはならない。一方で、凹部がない場合には凹部同士が谷部で隣接した態様であり、凸部同士の間に尖形の溝が形成されるが、この溝は曲率中心が外側となる領域ではないので凹部とはならない。
【0020】
また、中空糸膜の内周部の場合も同様に、膜内周部から内側に凸(曲率中心が多孔性中空糸膜の内周部よりも内側となる領域)である部分を凸部4A、膜内周部の内側に凹(曲率中心が多孔性中空糸膜1の内周部よりも外側となる領域)である部分を凹部4Bという。
【0021】
次に、上記の多孔性中空糸膜の外周部を例に形成される凹凸について説明する。
なお、
図2は、前記外周部の凹凸3について説明する図であるが、前記内周部に形成される凹凸4についても同様の考え方で理解できる。
【0022】
前記凹凸の高さ、幅、及び膜外周部における凹凸部の数は、中空糸膜の外周長や凹凸の高さと幅により、適宜変更することは可能である。ただし、下記の範囲にあることが本発明の効果を十分に発揮する上で好ましい。
【0023】
前記外周部の凹凸高さは、1μm以上320μm以下であることが好ましい。ここで、凹凸高さとは、外周部の場合、
図2に示すように、凹部3Bの底をつないだ円周部の表面3Cから凸部3Aの頂点までの長さのことをいい、
図2に示すように、凸部3Aを形成する領域の高さHaと凹部3Bを形成する領域の深さHbとの和で示すことができる。
この凹凸高さ(Ha+Hb)が1μm以上であれば、高い洗浄回復性、耐擦過性を、より高いレベルで発揮することができ、凹凸高さ(Ha+Hb)が320μm以下であれば、モジュール化する際に実用的な充填率で膜を集積することができる。同様の観点から、凹凸高さ(Ha+Hb)は、より好ましくは5μm以上200μm以下、さらに好ましくは10μm以上160μm以下である。
【0024】
また、前記内周部の凹凸高さは、1μm以上110μm以下であることが好ましい。なお、凹凸高さとは、内周部の場合も外周部と同様に、円周部の表面から凸部3Aの頂点までの長さのことをいう。
前記内周部の凹凸高さが1μm以上であれば、外周部と内周部の表面積が向上、すなわち濾過に寄与する表面積が向上するため、より高い濾過性能を発現させることができる。また、内圧濾過で使用する場合は、表面に付着した膜汚れの掻き取り効果が向上に同様に濾過性能がより向上する。一方、前記内周部の凹凸高さが110μm以下であれば内表面側の乱流効果が維持でき、内圧濾過の場合は膜汚れの掻き取り効果も良好に維持できる。加えて、外表面からの圧力等により膜が変形した際に対面する凸部同士の接触を抑制することができる。同様の観点から、前記内周部の凹凸高さは、好ましくは5μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上90μm以下である。
【0025】
さらに、前記外周部の凹凸高さと前記内周部の凹凸高さの比(外周部の凹凸高さ/内周部の凹凸高さ)は1.0以上20以下であることが好ましい。前記凹凸高さの比(外周部の凹凸高さ/内周部の凹凸高さ)が1.0以上20以下であると、前記外周部と前記内周部の凹凸高さのバランスが良く、成形性が安定し、また、透水性能と耐擦過性、機械的強度を過剰な樹脂の使用を抑えて達成することができる。同様の観点から、凹凸高さの比(外周部の凹凸高さ/内周部の凹凸高さ)は、好ましくは2.0以上15μm以下であり、さらに好ましくは2.0以上10以下である。
【0026】
また、前記内周部の凹凸高さと、前記内周部の凹部の内径/2の比(凹凸高さ/(凹部の内径/2)×100%)が1.0~33%であることが好ましい。前記内周部の凹部の内径/2の比(凹凸高さ/(内径/2))が1.0%以上であれば、内周部の表面積が向上、すなわち、濾過に寄与する表面積が向上するため、より高い濾過性能を発現させることができる。加えて、内圧濾過で使用する場合は、前記内周部の表面に付着した膜汚れの掻き取り効果が向上に同様に濾過性能が向上する。一方、前記内周部の凹部の内径/2の比(凹凸高さ/(凹部の内径/2)×100%)33%以下であれば、内表面側の乱流効果を維持でき、内圧濾過の場合は膜汚れの掻き取り効果が維持できる。加えて、外表面からの圧力等により膜が変形した際に対面する凸部同士の接触を抑制することもできる。同様の観点から、前記内周部の凹部の内径/2の比(凹凸高さ/(凹部の内径/2)×100%)は、好ましくは1.0%以上30%以内、さらに好ましくは1.0%以上25%以内である。
【0027】
また、前記外周部の凹凸の幅は、1~500μmであることが好ましい。ここで、前記外周部の凹凸の幅とは、凸部3A及び凹部3Bを形成する領域の幅のことであり、
図2に示すように、多孔性中空糸膜1の凸部3Aの幅Waと凹部3Bの幅Wbの和で表すことができる。
なお、実際の測定においては、隣り合う凹部の底を直線で結んだ距離を測定すれば良い。前記外周部の凹凸の幅が1μm以上であれば、外圧式のろ過を行った際の突起のつぶれを生じることがなく凹部の擦過を十分に抑制できる。一方、前記外周部の凹凸の幅が500μm以下であれば、膜面近傍での流体の複雑な流れにより突起先端部に無機物及び/又は有機物の付着・堆積を効果的に抑制することが可能となる。同様の観点から、前記外周部の凹凸の幅は、より好ましくは5μm以上400m以下、更に好ましくは10μm以上350μm以下である。
【0028】
前記内周部の凹凸の幅は、1~500μmであることが好ましい。ここで、前記内周部の凹凸の幅とは、凸部4A及び凹部4Bを形成する領域の幅のことである。前記内周部の凹凸の幅が、1~500μmであれば、内表面側の乱流効果が維持され、また内圧濾過の場合は膜汚れの掻き取り効果が維持される。また、前記内周部の凹凸の幅が1μm以上であれば、外表面からの圧力等により膜が変形した際に隣り合う凸部同士の接触を抑制することができる。同様の観点から、前記内周部の凹凸の幅は、好ましくは10μm以上300μm以下、更に好ましくは20μm以上300μm以下である。
【0029】
さらに、前記外周部の凹部3Bの幅Wbは、前記外周部の凸部3Aの幅Waの最大幅以下であり、前記外周部の凸部3Aの高さHaは、凹部3Bの深さHb以下であることが好ましい。前記外周部の凸部3A及び凹部3Bが、上記で示される関係を満足する場合、隣接する多孔性中空糸膜同士で外周部の凸部3Aの頂点が外周部の凹部3Bの底に当たることが防止され、擦過による凹部3Bの底の透水性能の低下を防止できる結果、多孔性中空糸膜の透水性能を安定的に実現できる。さらに、保湿剤の保持性に関しても、上記の形状により輸送時等に膜同士が擦れて膜表面の保湿剤が取り除かれる影響が小さくなるために、より高い耐乾き性を発揮することができる。
【0030】
本実施形態の多孔性中空糸膜の外周部の円周方向における凹凸の条数は、1~300であることが好ましい。前記外周部の凹凸の条数が1以上であれば、膜面近傍に複雑な流れを生じさせ、無機物及び/又は有機物の膜面への付着・堆積を防止することが可能であり、また、前記外周部の凹凸の条数が300以下であれば、中空糸多孔膜の外周部に突起を精度良く、形成することが可能となる。同様の観点から、前記外周部の凹凸の条は、より好ましくは8条以上200条以下、さらに好ましくは12条以上150条以下である。
【0031】
本実施形態の多孔性中空糸膜の内周部における凹凸の条数は、1~200であることが好ましい。前記内周部の凹凸の条数が1以上であれば、膜面近傍に複雑な流れを生じさせ内表面側の乱流効果が発現される。また、前記内周部の凹凸の条数が200以下であれば、中空糸多孔膜の内周部に突起を精度良く、形成することが可能となる。より好ましくは8条以上160条以下、さらに好ましくは12条以上100条以下である。
【0032】
また、本実施形態の多孔性中空糸膜では、前記外周部と前記内周部の凹凸の位置関係について、
図1に示すように、中空糸膜の中心Cから前記外周部の凸部3Aの頂点を結ぶ線上に、前記内周部の凹部4Bの頂点が存在することが好ましい。中空糸多孔質膜の中心Cから前記外周部の凸部3Aの頂点を結ぶ線上に前記内周部の凹部4Bの頂点が存在するとは、中空糸多孔質膜の中心Cから外周部の凸部3Aの頂点を結んだ際に内周部の凹部の底4Bの頂点のずれの比率が30%以内の位置関係にある場合である。このとき、ずれの比率は、以下の通り示される。
ずれの比率=(中心と外周部の凸部の頂点を結ぶ線分と中心と内周部の凹部の底部の線分のなす角)/(360℃/条数)×100
前記中空糸多孔質膜の中心Cから外周部の凸部3Aの頂点を結ぶ線上に内周部凹部4Bの頂点が存在すると、圧縮強度や破裂強度を高くすることができる。外圧、内圧から圧力がかかった際に応力集中を抑えられ強度を高くすることができると推定される。
【0033】
なお、前記外周部及び前記内周部凹凸の形状としては、特に限定されず種々の形状が挙げられる。
【0034】
さらに、
図3に示すように、本実施形態の多孔性中空糸膜の前記外周部の凹凸は、多孔性中空糸膜(1A,1B)の中心Cから凸部3Aの頂点までの長さr1と多孔性中空糸膜1(1A,1B)の中心Cから凹部3Bの底までの長さr2との和(r1+r2)が、隣り合う多孔性中空糸膜1A,1Bの中心間距離Lよりも小さくなること(r1+r2<L)が好ましい。これにより、隣り合う多孔性中空糸膜1同士が振動等によって擦れた場合であっても、凸部3Aの頂点が凹部3Bの底に当たることが防止される。したがって、多孔性中空糸膜1の耐擦過性が高められ、擦過による凹部3Bの底の透水性能の低下を防止し、結果として多孔性中空糸膜の透水性能の低下が抑制される。
【0035】
なお、多孔性中空糸膜の中心Cから凸部3Aの頂点の頂点までの長さ、多孔性中空糸膜の中心Cから凹部3Bの底までの長さr2、及び、多孔性中空糸膜の中心間距離Lは、以下のようにして測定することができる。
まず、2つの中空糸膜断面のマイクロスコープ写真を用意する。写真の倍率は、膜の断面全体が見える倍率であれば良い。2つの膜の断面写真は、同じ写真を使用しても良いし、膜が長手方向に略同様の構造であれば、別の箇所の写真であっても良い。この2枚の写真の裏側に厚紙を貼り付け、膜外周部に沿ってハサミで切り取り、実際の膜断面の代わりとする。中心間距離は、内径の長径と短径の交点を各膜断面の中心点として採用する。2枚の膜断面(写真を切り取ったもの)を回転させながら2つの中心点間の距離が最短となる配置を決め、その後、中心間距離を定規で実測する。その後、写真の倍率に合わせて実際の距離に換算して中心間距離Lを求める。更に同じ写真上で中心点から凸部までの長さr1(すなわち中心点から最も遠い点)と中心点から凹部までの長さr2(中心点から最も誓い外周部の点)を測定し、中心間距離Lと、r1とr2の和との長さを比較する。上記の測定は膜が小さい場合に好適にも好適に測定することができる。
なお、中空糸膜が小さく、取り扱いが困難である等の問題が無ければ、実際の膜断面を2枚、薄く切り取ってマイクロスコープ上での測定も好適に行うことができる。
【0036】
隣り合う中空糸膜の中心間距離Lを、凸部3Aの頂点の頂点までの長さr1と凹部3Bの底までの長さr2の和で除した値(L/(r1+r2))は、好ましくは1.01以上1.50以下、より好ましくは1.03以上1.25以下、最も好ましくは1.05以上1.15以下である。中心間距離Lをr1とr2の和で除した値が1.50以下であれば、膜モジュール内に充填する糸束が太くなりすぎず、その結果経済的に十分な膜充填率が確保できる。
なお、多孔性中空糸膜の長手方向のどの位置においても、長手方向に対して垂直な断面において上記の関係を満たしていると、多孔性中空糸膜の耐擦過性の向上及び透水性能の向上が顕著となる。
【0037】
また、本実施形態の多孔性中空糸膜の強度を向上させるため、多孔性中空糸膜内部の開孔は、前記内面側に多孔質体の支持層、及び/又は組紐等の支持体を有する構造とすることもできる。
また、本実施形態の多孔性中空糸膜が多層膜である場合、凹凸を有する最外層の厚みは一定であってもよいし、凸部が形成されている領域の厚みは、凹部が形成されている領域の厚みよりも大きくなっていても小さくなっていても構わない。
【0038】
なお、本実施形態の多孔性中空糸膜を構成する熱可塑性樹脂(熱可塑性高分子)については、常温では変形しにくく弾性を有し塑性を示さないが、適当な加熱により塑性を発現樹脂であれば、特に限定はされない。材料として用いられる熱可塑性樹脂は、加熱により多孔性中空糸膜の成形が可能になり、冷却し、温度が下がると再びもとの弾性体に戻る可逆変化を行い、その間に分子構造など化学変化を生じない性質を持つ樹脂である(化学大辞典編集委員会編集、化学大辞典6縮刷版、共立出版、860及び867頁、1963年)。
【0039】
前記熱可塑性樹脂の例としては、14705の化学商品(化学工業日報社、2005年)の熱可塑性プラスチックの項(1069~1125頁)記載の樹脂や、化学便覧応用編改訂3版(日本化学会編、丸善、1980年)の809-810頁記載の樹脂等を挙げることができる。具体例名を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなどである。中でも、結晶性を有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールなどは強度発現の面から好適に用いることができる。さらにそれら結晶性熱可塑性樹脂の中でも、疎水性ゆえ耐水性が高く、通常の水系液体のろ過において耐久性が期待できる、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等の疎水性結晶性熱可塑性樹脂がさらに好適に用いることができる。さらにこれら疎水性結晶性熱可塑性樹脂の中でも、耐薬品性等の化学的耐久性に優れるポリフッ化ビニリデンが、特に好適に用いることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーや、フッ化ビニリデン比率50モル%以上のフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン又はエチレンから選ばれた1種以上との共重合体を挙げることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーが最も好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂の重合方法としては、乳化重合品でも懸濁重合品でも好適に用いることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る多孔性中空糸膜は、等方的な3次元網目構造を有する多孔質膜により形成される。等方的とは、膜厚方向及び膜長手方向の孔径の変化が小さく、マクロボイドを含まない均質な構造であることを意味する。この構造は、延伸開孔法で典型的な膜長手方向に配向した構造や、非溶剤誘起型相分離法に良く見られるマクロボイドを含んだ、膜断面方向の孔径変化が大きい構造とは明確に異なる。このように均質な構造とすることで、ろ過時に凹部と凸部の両方の表面を効率良く利用できる。また、マクロボイド等の強度的に弱い部分が生じにくいため、多孔性中空糸膜の透水性を維持しながら、耐圧性等の機械的強度を高くすることが可能になる。
【0041】
等方的とは、(1)膜円周方向の断面における直径10μm以上のボイドがないこと、及び、(2)膜長手方向の断面における(膜長手方向の孔径)/(膜厚方向の孔径)(以下、配向度という)が小さいこと、の2つの条件を満たした状態である。ボイドを含まず、かつ配向度が0.25から4.0の範囲であれば等方的といってよい。このような配向度を有する場合、上述のように多孔性中空糸膜1は高い透水性と耐久性を発揮できる。
【0042】
また、ここでいう三次元網目構造とは、樹脂が無数の柱状になり、その両端で互いに接合することで三次元構造を形成している構造をいう。三次元網目構造では、樹脂はほぼ全部が柱状物を形成しており、いわゆる球状構造で無数に見られる樹脂の塊状物がほとんど見られない。三次元網目構造の空隙部は、熱可塑性樹脂の柱状物に囲まれており、空隙部の各部分は互いに連通している。このように、用いられた樹脂のほとんどが、中空糸膜の強度に寄与しうる柱状物を形成しているので、高い強度の膜を形成することが可能になる。また、耐薬品性も向上する。耐薬品性が向上する理由は明確ではないが、強度に寄与し
うる柱状物の数が多いため、柱状物の一部が薬品に侵されても、膜全体としての強度には大きな影響が及ばないためではないかと考えられる。一方、球状構造では、塊状物に樹脂が集まっているため相対的に柱状物の数が少なく強度が低い。そのため、柱状物の一部が薬品に侵されると膜全体の強度に影響が及びやすいのではないかと考えられる。このような等方的な三次元網目構造にすることにより、凸部でも高い強度を維持することができ、その結果、使用時に凸部の変形が起こらず、長期使用に際して、凹凸形状を維持できる。等方的な三次元網目構造の模式図を
図4に示す。
図4では柱状物aの接合により、空隙部bが形成されていることがわかる。参考のため、球状構造の模式図を
図5に示す。
図5は、球晶cが部分的に密集しており、その球晶cの密集部分間の間隙が空隙部dであることがわかる。
【0043】
さらに、本発明者らの検討の結果、本実施形態多孔性中空糸膜では、前記外周部の凹部の表面開孔率が前記外周部の凸部の表面開孔率より高いことが、高いろ過性能を発現する意味でも長期使用における擦過による透水性能低下を抑える意味でも好ましいことを見出した。
ここでいう前記凹部とは、上述したように、曲率中心が多孔性中空糸膜の外側となる領域であり、
図2において矢印で示す領域3Bである。また、前記外周部の凸部3Aとは、上述したように、曲率中心が多孔性中空糸膜1の内側となる領域であり、
図2において前記外周部の凹部3Bによって挟まれた領域である。前記外周部の凹部3Bの表面開孔率が凸部3Aの表面開孔率より高いことが、透水性能低下を抑制する理由は定かではないが、凹部3Bの開孔率が凸部3Aの開孔率より高くなることで、膜表面全体の開孔率を向上させるだけでなく、膜表面が同時にろ過に使用されずより開孔性が高い凹部から開孔性の比較的低い凸部の部分へと経時的にろ過に利用される表面が移っていくことが重要だと考えられる。
【0044】
また、凹部3Bは前述のとおり、エアスクラビングやせん断による洗浄回復性が高く、さらに擦過しにくい表面である。したがって、この凹部がより高い開孔性、すなわち高い透水性能を有していることで、膜表面全体として、より高い透水性能を長期間維持できるため好ましいと考えられる。凸部の表面開孔率に対する凹部の表面開孔率の比は、1.01以上2.00以下が好ましい。1.01以上であれば、高い透水性能が発揮でき、2.00以下であれば凹部だけでなく凸部もろ過に利用されるため凸凹による外表面積が向上する効果も加味されるため高い透水性能を発揮できる。より好ましくは、1.08以上1.80以下、さらに好ましくは1.10以上1.50以下である。
【0045】
また、凹凸部それぞれの開孔率は、目的により適宜定めれば良く特に限定されないが、懸濁物質等を含む被処理液のろ過安定性の観点からは20%以上であることが好ましく、より好ましくは23%以上、さらに好ましくは25%以上である。なお、表面部分の機械的強度の観点を高める観点からは、開孔率は80%以下であることが好ましい。より好ましくは70%以下であり、さらに好ましくは60%以下である。
【0046】
さらに、本発明者らの検討の結果、多孔性中空糸膜では、前記内周部の凹部3Bの表面開孔率が凸部3Aの表面開孔率より高いことが好ましい。前記内周側においても凸部の表面開孔率に対する凹部の表面開孔率の比は、1.01以上2.00以下が好ましい。前記外周部と同様に、膜内表面全体の開孔率を向上させるだけでなく、膜表面が同時にろ過に使用されずより開孔性が高い凹部から開孔性の比較的低い凸部の部分へと経時的にろ過に利用される表面が移っていくことが重要である。同様の観点から、前記内周部の凸部の表面開孔率に対する凹部の表面開孔率の比は、より好ましくは、1.02以上1.80以下、さらに好ましくは1.02以上1.50以下である。
【0047】
本実施形態の多孔性中空糸膜では、前記外周部において耐擦過性を損なわない範囲で全外周面における凹部の占める割合ができるだけ多いことが好ましい。前記凹部の占める割合が多くなることで、より開孔率が高くなるため、より高い透水性能と耐擦過性を発現できる。加えて、より開孔率が高く(すなわち孔数が多く)乾燥しやすい凹部に保湿剤が保持されやすいことには、耐乾き性の点からも好ましい。
この全外周面における凹部の占める割は、凹凸の数や凹凸高さ及び幅により変化する。全外周面における凹部の占める割合は、5%以上90%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上80%以下、さらに好ましくは15%以上70%以下である。
【0048】
本実施形態の多孔性中空糸膜の平均孔径及び最大孔径は、好ましくは0.01~10μmである。平均孔径及び最大孔径が0.01μm以上であれば、膜のろ過抵抗が低く、十分な透水性能が得られ、また、10μm以下であれば、分離性能にも優れた膜が得られる。同様の観点から、多孔性中空糸膜の平均孔径及び最大孔径は、より好ましくは0.02μm~5μm、さらに好ましくは0.05~1μm、である。平均孔径及び最大孔径が0.05μm以上であれば、ASTM F:316-86に記載された方法で平均孔径及び最大孔径を測定することが好ましく、平均孔径が0.05μmより小さく、測定に際して高い圧力が必要な場合は、高圧による膜の変形が問題となるため、粒子径が既知の指標物質をろ過し、阻止率が50%となる指標物質の粒子径を平均孔径、1%となる指標物質の粒子径を最大孔径とすることにより測定することができる。
【0049】
また、本実施形態の多孔性中空糸膜では、前記最大孔径を前記平均孔径で除した値が2.0以下であることが好ましい。最大孔径を平均孔径で除した値は膜が有する孔径の均一性を表す指標であり、この値が1に近いほど、より均一な孔を有する膜となるためである。上述した凹部と凸部の表面孔径の比が大きくなると、後述の最大孔径を平均孔径で除した値も大きくなる。凹部と凸部それぞれの孔径分布が変わることにより膜全体としての孔径分布が広くなるためである。前記最大孔径を前記平均孔径で除した値が2.0以下であれば、高い阻止性能できる。同様の観点から、前記最大孔径を前記平均孔径で除した値は、より好ましくは1.9以下、更に好ましくは1.8以下である。
【0050】
本実施形態の多孔性中空糸膜の前記内周部における、凸部4A同士を結ぶ内径XR(
図1)は、0.1mm~5mmであることが好ましい。内径が0.1mm以上であれば、ろ過水が中空部を流れる時に発生する圧力損失を低く抑えることが可能であり、また、5mm以下であれば、単位体積当たりの膜充填密度を高くすることができ、コンパクト化が可能である。より好ましくは0.3mm~4mm、さらに好ましくは0.5mm~3mmである。
【0051】
本実施形態の多多孔性中空糸膜の膜厚は、0.05mm~2mmであることが好ましい。ここで膜厚は、膜厚=(凹部外径-凹部内径)/2で表されるものである。前記膜厚が、0.05mm以上であれば、十分な圧縮強度、破裂強度を有する。また、前記膜厚が、2mm以下であれば、単位体積当たりの膜充填密度を高くすることができ、コンパクト化が可能である。同様の観点から、前記膜厚は、より好ましくは0.1mm以上1mm以下である。
【0052】
本実施形態の多孔性中空糸膜の破断伸度は、30%以上であることが好ましい。破断伸度が30%以上であれば、エアスクラビング等の物理洗浄に対して十分な耐久性を有する。同様の観点から、前記破断伸度は、より好ましくは50%以上である。
【0053】
次に、本実施形態に係る多孔性中空糸膜を作る好ましい製法の例を記載する。
有機液体は、本願で用いる熱可塑性樹脂に対し、潜在的溶剤となるものを用いる。本願では、潜在的溶剤とは、該熱可塑性樹脂を室温(25℃)ではほとんど溶解しないが、室温よりも高い温度では該熱可塑性樹脂を溶解できる溶剤を言う。熱可塑性樹脂との溶融混練温度にて液状であればよく、必ずしも常温で液体である必要は無い。
【0054】
熱可塑性樹脂がポリエチレンの場合、有機液体の例として、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸エステル類;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類;トリメリット酸トリオクチル等のトリメリット酸エステル類;リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル等のリン酸エステル類;プロピレングリコールジカプレート、プロピレングリコールジオレエート等のグリセリンエステル類;流動パラフィン等のパラフィン類;及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0055】
熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデンの場合、有機液状体の例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等のフタル酸エステル類;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類;メチルベンゾエイト、エチルベンゾエイト等の安息香酸エステル類;リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0056】
熱可塑性樹脂は、ペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子でもよい。ペレット・粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕する手段としては、ペレットを粗粉砕しその後微粉砕する多段粉砕方式や、微細化まで一段で行う方式等があるが、その方式は限定されるものではない。微粉砕機によっても、粉砕後の粒子が所定の粒径に達しない場合は、更なる微粉砕が可能な超微粉砕機により粉砕してよい。具体的な粉砕手段としては、ハンマーミル、ターボミル、ジェットミル、ピンミル、遠心ミル、ロートプレックス、パルベルイザー、湿式粉砕、チョッパーミル、ウルトラローター等を用いる粉砕手段が挙げられ、常温あるいは凍結粉砕方式を用いることができる。例えば、ガラス転移点が約-35℃と低いフッ化ビニリデン系樹脂は凍結粉砕方式をとることが好適である。
【0057】
所定の粒径範囲の粒子を得るために適切な分級機を使用して分級が行われる。分級後の粒子から所定粒径範囲のものを得る場合は、さらに別の分級機で分級した後、所定粒径以下の微細粉を除去し、残った粒子(中粉)を製品としてもよい。分級し、目的とする粒子径範囲より大きい範囲の粒子は再度、粉砕して所定粒子径範囲のものを得ることもできる。分級に用いられる装置として、振動篩機や慣性気流式分級機、回転羽根式分級機などがあり特に限定されるものではない。
【0058】
また2種類のポリマー混合させる場合は、各ポリマーを粉砕してから、混合機を用いて混合して用いてもよい。分級は粉砕後に実施もしくは混合後に分級してもよく特に限定されるものではない。
【0059】
粉砕後の粒子の粒子径分布は、レーザー回折、散乱式粒度分布測定装置を使用して測定することができる。
破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子は、粒子径分布から得られる体積基準のメディアン径(D50粒子径)が、50~500μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは70~400μmである。50μm以上であれば、例えば押出機等で溶融混練する際に投入時にスクリューへの噛み込み不良などが発生せず安定して投入することができる。500μm以下であれば、溶解不良などが発生せず安定して多孔質膜を製造することができる。
本明細書において、D10粒子径、D50粒子径、D90粒子径は、レーザー回折式粒子径サイズ測定装置を使用することにより測定される値をいう。
【0060】
無機微粉としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニア、炭酸カルシウム等が挙げられるが、特に平均一次粒子径が3nm以上500nm以下の微粉シリカが好ましい。より好ましくは5nm以上100nm以下である。凝集しにくく分散性の良い疎水性シリカ微粉がより好ましく、さらに好ましくはMW(メタノールウェッタビリティ)値が30容量%以上である疎水性シリカである。ここでいうMW値とは、粉体が完全に濡れるメタノールの容量%の値である。具体的には、MW値は、純水中にシリカを入れ、攪拌した状態で液面下にメタノールを添加した際に、シリカの50質量%が沈降した時点の水溶液中におけるメタノールの容量%を求めて決定される。
【0061】
無機微粉の添加量は、溶融混練物中に占める無機微粉の質量比率が、5質量%以上40質量%以下が好ましい。無機微粉の割合が5質量%以上であれば、無機微粉混練による効果が十分に発現でき、40質量%以下であれば、安定に紡糸できる。
【0062】
溶融混練における混合割合は、質量を比重で除した容量の比率が、熱可塑性樹脂が15容量%から50容量%の範囲、有機液体と無機微粉の両者の合計が50容量%から85容量%の範囲であることが、得られる中空糸の透水性能と強度のバランス、また溶融押出し操作である紡糸操作の安定性の面から好ましい。熱可塑性樹脂は、得られる多孔性多層中空糸膜の強度と紡糸安定性の点から、15容量%以上であることが好ましい。また、得られる多孔性多層中空糸膜の透水性能と紡糸安定性の点から、85容量%以下であることが好ましい。
【0063】
無機微粉を添加することで、以下の3つの利点がある。
(1)驚くべきことに、無機微粉を添加した溶融混練物を紡口から吐出して多孔性中空糸膜を得ることで、通常の真円状中空糸膜の外表面に比べて外表面凹部の表面開孔性が大きく向上する。理由は定かではないが、凹部、すなわち曲率中心が多孔性中空糸膜の外周部よりも外側となる領域外表面に無機微粉が存在することが開孔性の向上に影響していると推測される。
(2)無機微粉による増粘効果のため、等方的な3次元網目構造を有する膜が得られやすく、その結果、高い機械的強度を発揮できる。
(3)本実施のような多孔性中空糸膜を作成する際は、凹凸の高さや数が大きくなると成型安定性が大きく低下するため、外周部と内周部の両方に十分な凹凸部を持つ多孔性中空糸膜を得ることが極めて難しいが、無機微粉を添加することで溶融混練物の粘度が増大し格段に成型安定性が向上する。その結果、膜外周部、内周部において凹部の占める割合が多い多孔性中空糸膜を得ることができる。
【0064】
吐出する際の溶融混練物の粘度は、1Pa・secから1000Pa・secの範囲にあることが好ましい。1Pa・sec以上であれば、目的とする凹凸形状を精度良く得ることができ、100Pa・sec以下であれば、溶融混練物を安定に吐出させることができる。粘度を向上させる方法としては、溶融混練物に無機微粉を添加することが好ましい。通常、粘度を上げるためにはポリマー濃度を上げる、或いは高い分子量のポリマーを使うことが多いが、前者は濾過に寄与する空孔率が低下する、後者は成型不良等の問題が起こりやすい。無機微粉を添加することで、ポリマーの分子量や濃度の制約無しに溶融混練物の粘度を向上させ、紡口から吐出してから冷却するまでの空走部において凹凸形状の変形を抑えることができ、その結果、安定に多孔性中空糸膜を得ることができる。吐出時の粘度は、キャピログラフを用いて、実際に紡口から吐出する際のシェアレート(せん断速度)で測定することにより得ることができる。吐出する際の溶融混練物の粘度は、より好ましくは2Pa・sec以上800Pa・sec以下、更に好ましくは5Pa・sec以上600Pa・sec以下である。
【0065】
溶融混練における混合割合は、質量を比重で除した容量の比率が、熱可塑性樹脂が15容量%から50容量%の範囲、有機液体と無機微粉の両者の合計が50容量%から85容量%の範囲であることが、得られる中空糸及び透水性能と強度のバランス、及び溶融押出し操作である紡糸操作の安定性の面から好ましい。熱可塑性樹脂は、得られる多孔性中空糸膜の強度と紡糸安定性の点から、15容量%以上であることが好ましい。また、得られる多孔性中空糸膜の透水性能と紡糸安定性の点から、50容量%以下であることが好ましい。
【0066】
熱可塑性樹脂と有機液体及び無機微粉の溶融混練は、通常の溶融混練手段、例えば2軸押出機を用いて行うことができる。
【0067】
ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂及び有機液状体からなる混合物、又はポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂、有機液状体及び無機微粉体からなる混合物は、ヘンシェルミキサーやバンバリーミキサー、プロシェアミキサー等を用いて混合することにより得られる。
ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂、有機液状体及び無機微粉体の3成分を混合する場合の順序としては、3成分を同時に混合するよりも、まず無機微粉体と有機液状体を混合して無機微粉体に有機液状体を十分に吸着させ、次いでポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を配合して混合することが、溶融成形性や得られる多孔膜の空孔率及び機械的強度の向上の点で有利である。
ヘンシェルミキサー等による予備混練を行わずに、直接ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂及び有機液状体を別々に2軸押出し機等の溶融混練押出し装置に供給しても良い。混練性を上げるために、混合後に一度溶融混練を行ってペレット化し、このペレットを溶融混練押出し装置に供給し、中空糸状に押し出し成形し、冷却固化して中空繊維としても良い。
【0068】
混合物の溶融混練は、通常の溶融混練手段、例えば押出機を用いて行うことができる。以下に押出機を用いた場合について述べるが、溶融混練の手段は押出機に限るものではない。本実施形態の製造方法を実施するために用いられる製造装置の一例を
図6に示す。
【0069】
ここで、
図6に示す多孔性中空糸膜の製造装置は、押出機10と、中空糸成形用ノズル20と、製膜原液を凝固させる溶液が貯留される凝固浴槽30と、多孔性中空糸膜40を搬送して巻き取るための複数のローラ50を備えている。
図6に示すSの空間は、中空糸成形用ノズル20から吐出された成膜原液が凝固浴槽30中の溶液に到達するまでに通過する空走部である。
【0070】
溶融混練物は、同心円状に配置された1つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成形用ノズル20が押出機10の先端に装着され、溶融混錬物が押出機10によって押し出されて中空糸成形用ノズル20から吐出される。多層構造の膜を製造する場合、2つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成形用ノズル20を押出機10の先端に装着し、それぞれの円環状吐出口にはそれぞれ異なる押出機10より溶融混練物を供給して押出しする方法や、多層中の一層を製造した後、残りの層を塗布する方法がある。例えば、前者の異なる押出機を使用して製造する方法は、各々供給される溶融混練物を吐出口で合流させ重ね合わせることで、多層構造を有する中空糸状押出物を得ることができる。このとき、互いに隣り合う円環状吐出口から組成の異なる溶融混練物を押出すことで、互いに隣り合う層の孔径が異なる多層膜を得ることができる。互いに異なる組成とは、溶融混練物の構成物質が異なる場合、又は、構成物質が同じでも構成比率が異なる場合を指す。同種の熱可塑性樹脂であっても、分子量や分子量分布が明確に異なる場合は、構成物質が異なるとみなす。互いに異なる組成の溶融混練物の合流位置は、中空糸成形用ノズル20下端面であっても、中空糸成形用ノズル20の下端面とは異なっていてもよい。
【0071】
中空糸成型用ノズル20の吐出口の形状としては、中空糸多孔質膜の外周部と内周部に凹凸を有する形状であれば特に限定されない。すなわち、吐出口の外周及び内周に凹凸が設けられていれば特に限定されない。
【0072】
溶融混練物を吐出する際の温度は200℃から270℃が好ましい。200℃以上であると、中空部を形成させる流体の温度を高くすることができ、内表面側の凹部の表面開孔性を高くすることができる。理由は定かではないが、凹部は隣り合う凸部と凸部に挟まれるため温度がわずかに上がり蒸発する溶媒量が増えて凹部の表面開孔性が向上すると推定している。
【0073】
溶融混練物を吐出する際の中空糸成型用ノズル先端における圧力は、100kPa以上900kPa以下であることが好ましい。通常の紡糸において、紡口の先端部において凹凸を有する中空糸成型用ノズルの形状により、中空糸膜の形状が決まるが、先端の圧力が十分でない場合、ノズルの凹凸部(特に中空糸凸部になる部分)に十分に樹脂が分配されない。この場合、結果として、紡口吐出ノズルの凹凸形状に比して、小さい凹凸しか中空糸膜に付与されない。すなわち、凹部が浅く、凸部が低く、膜の外周部において凸部の頂点と凹部の底部が接触する膜になりやすい。吐出先端部における圧損は、実際の計算は複雑であるが、本発明の範囲においては、実施例に記載のとおり、円環状流路の相当径と吐出時の流速、及び樹脂の溶融粘度から簡易的に算出したものを好適に用いることができる。ノズル先端部の圧力が100kPa以上であれば膜同士を最近接で接触した際に凹部の底部と凸部の頂点が接触しない好適な凹凸形状を成型する上で好ましい。また、900kPa以下であれば紡糸における表面の荒れ(メルトフラクチャー)や伸度の低下が起こらず、安定して紡糸することができる。先端における圧力は、より好ましくは150kPa以上800kPa以下、更に好ましくは200kPa以上600kPa以下である。
【0074】
また、中空糸成型用ノズル20から溶融混練物が吐出されてから冷却槽30において固化するまでの空走時間は、膜の孔径などを調整するため、任意に設定してよいが、0.1秒から2秒程度が十分に相分離させることにより得られる膜が十分に開孔するため好ましい。一般的に、シリカを添加しない熱誘起相分離法や非溶剤相分離法では、吐出物の粘度が低いため、空走時間を長く取ると凹凸部が無くなってしまうが、シリカの添加により安定に凹凸形状の中空糸膜を作製することができる。
【0075】
また、吐出口20から吐出された後冷却槽30に浸漬されるまでの空走部Sにおいては、吐出方向に対して垂直な向きに冷却風をあてることが、凹部の表面開孔性の向上のために好ましい。理由は定かではないが、吐出方向に対して垂直な向きに冷却風をあてることで、凹部に空気の溜まりが生じ溶媒の蒸発が抑えられる、あるいは凹部に直接風が当たらないため表面での孔の閉塞が起こりにくい、という効果が高い開孔性を発揮する理由だと推定される。
【0076】
吐出口20から押出された中空糸状溶融混練物は、空気中あるいは水等の冷媒を通過して冷却固化され、必要に応じてかせ等(
図6では巻取りローラ50が相当する)に巻き取られる。この冷却中に中空糸状物の熱誘起相分離が誘発される。冷却固化後の中空糸状物中には、ポリマー濃厚部分相と有機液体濃厚部分相とが微細に分かれて存在する。なお、無機微粉が含まれており、無機微粉が微粉シリカである場合、微粉シリカは有機液体濃厚部分相に偏在する。この冷却固化中空糸状物から有機液体を抽出除去することで、有機液体濃厚相部分が空孔となる。よって多孔性中空糸膜を得ることができる。また、無機微粉を抽出除去することも、得られる膜の透水性能をより高める観点から好ましく行われる。
【0077】
有機液体の抽出除去及び無機微粉の抽出除去は、同じ溶剤にて抽出除去できる場合であれば同時に行うことができる。通常は別々に抽出除去する。
【0078】
有機液体の抽出除去は、用いた熱可塑性樹脂を溶解あるいは変性させずに有機液体とは混和する、抽出に適した液体を用いる。具体的には浸漬等の手法により接触させることで行うことができる。該液体は、抽出後に中空糸膜から除去しやすいように、揮発性であることが好ましい。該液体の例としては、アルコール類や塩化メチレン等がある。有機液体が水溶性であれば水も抽出用液体として使うことが可能である。
【0079】
無機微粉の抽出除去は、通常、水系の液体を用いて行う。例えば無機微粉がシリカである場合、まずアルカリ性溶液と接触させてシリカをケイ酸塩に転化させ、次いで水と接触させてケイ酸塩を抽出除去することで行うことができる。
【0080】
有機液体の抽出除去と無機微粉の抽出除去とは、どちらが先でも差し支えはない。有機液体が水と非混和性の場合は、先に有機液体の抽出除去を行い、その後に無機微粉の抽出除去を行う方が好ましい。通常有機液体及び無機微粉は有機液体濃厚部分相に混和共存しているため、無機微粉の抽出除去をスムースに進めることができ、有利である。
【0081】
このように、冷却固化した中空糸状押出し物から有機液体及び無機微粉を抽出除去することにより、多孔性中空糸膜を得ることができる。
【0082】
なお、冷却固化後の中空糸状物に対し、(i)有機液体及び無機微粉の抽出除去前、(ii)有機液体の抽出除去後で無機微粉の抽出除去前、(iii)無機微粉の抽出除去後で有機液体の抽出除去前、(iv)有機液体及び無機微粉の抽出除去後、のいずれかの段階で、中空糸状物の長手方向への延伸を、好適に行うことができる。一般に多孔性中空糸膜を長手方向に延伸する際に、中空糸膜の破断伸度が低いと目的の倍率まで延伸できずに破断してしまうため、延伸をおこない透水性を高める際にも破断伸度は重要となる。本願の製造方法で得られる多孔性中空糸膜は破断伸度が高く、好適に延伸できる。延伸により、多孔性多層中空糸膜の透水性能が向上するとともに、中空糸長手方向に垂直な向きの強度、すなわち圧縮強度や破裂強度は低下する。そのため、延伸倍率は1.1倍以上3倍以内がより好ましい。ここで言う延伸倍率とは、延伸後の中空糸長を延伸前の中空糸長で割った値を指す。例えば、中空糸長10cmの中空糸を、延伸して中空糸長を20cmまで伸ばした場合、下記式より、延伸倍率は2倍である。
20cm÷10cm=2
必要に応じて延伸後の膜に熱処理をおこない、耐圧縮強度を高めても良い。熱処理温度は通常は熱可塑性樹脂の融点以下が好適である。
また、強度を向上させるために本発明の多孔性中空糸膜の内表面側に多孔質体の支持層、及び/又は組紐等の支持体を貼り合わせる製法も好ましい実施形態である。貼り合わせる手法は、溶融状態で貼り合わせる共押し出し、或いは一度固化させた後にコーティングさせる方法のどちらでも良い。
【0083】
以上のようにして得られた多孔性中空糸膜は、中空糸膜モジュール、この中空糸膜モジュールが取り付けられたろ過装置、及びろ過装置による各被処理水の処理等に用いられる。
【実施例0084】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
フッ化ビニリデンホモポリマー(Solvay社製Solef6010)と、有機液体としてフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)(シージーエスター株式会社製)とフタル酸ジブチル(DBP)(シージーエスター株式会社製)との混合物、無機微粉体として微粉シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROSIL-R972、1次粒子径が約16nm)を用い、中空糸成形用ノズルを用いて押出機による中空糸膜の溶融押出を行った。溶融混練物として組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:30.8:6.2:23.0(質量比)の溶融混練物を、中空部形成用流体として空気を用い、共に240℃の吐出温度にて、表1中の寸法の中空糸成形用ノズルから押し出した。
吐出温度240℃で押出した中空糸状溶融混練物は、0.60秒の空中走行を経た後30℃の水を入れた凝固浴槽へ導いた。20m/分の速度で引き取り、ベルトに挟んで40m/分の速度で延伸させた後、装置の設定を140℃にした熱風を当てながら30m/分の速度で収縮させ、かせに巻き取った。
得られた中空糸状物をイソプロピルアルコール中に浸漬させてフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)及びフタル酸ジブチルを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、次いで、20質量%水酸化ナトリウム水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去し、多孔性中空糸膜のサンプルを得た。
表1に、多孔性中空糸膜のサンプルの詳細な組成及び条件を示す。実施例1で得られた多孔性中空糸膜のサンプルを、50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、液体窒素で割断を行った後、電子顕微鏡を用いて、延在方向と直交する断面を観察した。観察した画像は、
図8に示す。
【0086】
(実施例2)
異なる寸法の中空糸成形用ノズルを使用し、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜のサンプルを得た。表1に、詳細な組成及び条件を示す。
【0087】
(実施例3)
異なる寸法の中空糸成形用ノズルを使用して実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜のサンプルを得た。表1に、詳細な組成及び条件を示す。
(実施例4)
熱可塑性樹脂としてフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製Kynar740)を使用した。ペレット状のKynar740の粉砕は凍結粉砕方式にてリンレックスミル(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて粉砕を行った。振動篩機を用いて分級を行い、目開き355μm以上は取り除き、53μm以上を製品として採用した。粉砕後のD50粒径は160μmであった。
該熱可塑性樹脂を使用し空走時間を1.2秒とした以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜のサンプルを得た。表1に、詳細な組成及び条件を示す。
【0088】
(実施例5)
フッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KFW1000)と、有機液体としてアジピン酸ビス2-エチルヘキシル(DEHA)とセバシン酸ジブチル(DBS)との混合物を使用し、溶融混練物として組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:アジピン酸ビス2-エチルヘキシル:セバシン酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:18.5:18.5:23.0(質量比)とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜のサンプルを得た。表1に、詳細な組成及び条件を示す。
【0089】
(比較例1)
凹凸形状を有さない中空糸成形用ノズルを使用して実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜のサンプルを得た。表1に、詳細な組成及び条件を示す。
【0090】
(比較例2)
外周側にのみ凹凸形状を有する中空糸成形用ノズルを使用して実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜のサンプルを得た。表1に、詳細な組成及び条件を示す。
【0091】
(比較例3)
異なる寸法の中空糸成形用ノズルを使用して実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜のサンプルを得た。表1に、詳細な組成及び条件を示す。
(比較例4)
外表面凸部頂点と中心を結ぶ線上に内表面凹部頂点が存在しない中空糸成形用ノズルを使用して実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜のサンプルを得た。表1に、詳細な組成及び条件を示す。
【0092】
<評価>
得られた多孔性中空糸膜のサンプルについて、以下の評価を行った。
なお、評価の際の測定は、特に記載がない限り全て25℃で行っている。評価結果は、表1に示す。
【0093】
(1)多孔性中空糸膜の内周部の凸部内径(mm)、内周部の凹部内径(mm)、外周部の凸部外径(mm)、外周部凹部外径(mm)の測定
多孔性中空糸膜のサンプルを、膜長手方向に垂直な向きにカミソリ等で薄く切り、顕微鏡を用いて、中空糸膜の延在方向と直交する断面の、凸部内径、凹部内径、凸部外径、凹部外径を測定した。ここでいう、外周部の凸部外径とは、外周部の凸部同士を結んだ同心円の直径である。外周部の凹部外径とは、外周部の凹部の頂点(膜厚が最も薄くなる部分)同士を結んだ同心円の直径である。内周部の凹部内径、内周部の凸部内径に関しても同様である。
【0094】
(2)多孔性中空糸膜の凹凸の高さH(μm)、幅W(μm)及び凹凸の条数の測定、凹部の頂点と中空糸膜の中心を結ぶ線上に、内周部の凸部頂の点が存在するか否かの確認
走査型電子顕微鏡により、多孔性中空膜の延在方向と直交する断面において、外周部の凹凸の形状を明確に確認できる任意の倍率で撮影した写真を用いた。その写真上で、膜厚が最も薄い部分(通常、凹部の頂点)を通る内径と同心円状の円の直径と凸部の頂点(最も膜厚が厚い箇所)を通る内径と同心円状の円の直径の差を測定し、下記式により凹凸の高さHとした。また凹凸幅は、膜厚が最も薄い箇所から凹凸の高さHの半分となる位置における凸部の幅を凹凸の幅とした。凹凸部の数は、膜断面全体の画像を撮影し、目視で凹凸部の数(条数)を数えた。内周部も同様である。
また、走査型電子顕微鏡により、外周部の凹部の頂点と中空糸膜の中心を結ぶ線上に、内周部の凸部頂の点が存在するか否かを確認した。
【0095】
(3)多孔性中空糸膜の純水透水量(L/m2/hr)の測定
多孔性中空糸膜のサンプルを、50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を湿潤化した。約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.1MPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外表面へと透過してくる純水の透過水量を測定し、以下の式(4)により純水透過流束を決定した。ここに膜有効長とは、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。また、測定数は10点とし、その平均値を各条件における純水透水量とした。ここで膜内径には凸部内径と凹部内径の算術平均の値を使用した。
【数1】
【0096】
(4)細孔構造、多孔性中空糸膜の内周部の凹部と凸部の開孔率(%)
HITACHI製電子顕微鏡SU8000シリーズを使用し、加速電圧3kVで多孔性中空糸膜の内周部の表面を20個以上の孔の形状が確認できる倍率で撮影し、細孔構造を確認した。その後、撮影した画像を用いて、例えば、国際公開第2001/53213号公報に記載されているように画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて孔部分を黒く塗り潰し、その後透明シートを白紙にコピーすることにより、孔部分は黒、非孔部分は白と明確に区別した。その後に市販の画像解析ソフトWinroof2018 Ver4.23.1を使い、判別分析法により二値化を行った。こうして得た二値化画像の占有面積を求めることにより開孔率を求めた。
【0097】
(5)耐圧縮強度(MPa)
長さ約5cmの多孔性中空糸膜のサンプルの一端を封止し、他端を大気開放とし、全ろ過法にて外表面より40℃の純水を加圧し大気開放端より透過水を出した。加圧圧力を0.1MPaより0.01MPa刻みで昇圧し、各圧力にて15秒間圧力を保持し、この15秒間に大気開放端より出てくる透過水をサンプリングした。中空糸の中空部がつぶれないうちは加圧圧力が増すにつれて透過水量(重量)の絶対値も増してゆくが、加圧圧力が中空糸の耐圧縮強度を超えると中空部が潰れて閉塞が始まるため、透過水量の絶対値は加圧圧力が増すにも関わらず、低下する。透過水量の絶対値が極大になる加圧圧力を耐圧縮強度とした。
【0098】
(7)耐擦過性(%)
多孔性中空糸膜のサンプルを用い、国際公開第2004/112944号に記載の方法と同様にして、膜面積25m2の陰圧型中空糸膜モジュールを作製した。すなわち、複数の多孔性中空糸膜の両端をウレタン樹脂で接着固定し、一方の端部の外周に液密に接着固定されたカートリッジヘッドと他方端部外周に液密に接着固定された下部リングとを有し、円筒型の中空糸膜モジュールを作製した。カートリッジヘッド側、及び下部リング側接着固定層のろ過部界面間の有効長が2000mmであった。中空糸両端の接着固定層の直径は約150mmであった。以上のようにして、陰圧型の中空糸膜モジュールを作成した。得られた中空糸膜モジュールを使用し、8m3の容積の活性汚泥槽に浸漬した。また、原水としてBODが750mg/Lである工場排水を用いた。活性汚泥中のMLSS濃度は約10g/Lで一定とした。透水量は、吸引ポンプにより膜の中空部を陰圧にして、全量ろ過方式で段階的に透水量を上げていき、膜間差圧が急激に上昇しない(25℃換算で10kPa/週を越えない)限界の透水量を測定した。
【0099】
上記のろ過運転は、膜曝気量6Nm
3/時間の空気を常に曝気しつつ、ろ過/逆洗のサイクル運転とした。ろ過/逆洗のタイムサイクルはろ過/逆洗:9分/1分、逆洗時の逆洗流量はろ過時の流量と同流量とした。擦過を促進するために珪藻土(中央シリカ製:#600-H)を活性汚泥槽中に1000ppmとなるように添加し、0.5m/日の濾過速度で約1ヶ月間運転をおこない、運転前後での有効長10cmの中空糸膜の純水透水量を測定し、下記式により耐擦過性を求めた。
【数2】
【0100】
(7)透水性能
多孔性中空糸膜のサンプルを用いて、
図7に示すような濾過モジュール11を作成した。濾過モジュール11は、有効膜長さ1m、中空糸本数300本からなり、両末端の中空糸間をエポキシ系封止材13で封止されている。モジュールの上部端部は中空糸膜の中空部が開口しており、また下部端部は中空糸膜の中空部が封止されている。原水及びエアーの導入口14を経て、中空糸の外表面側より濁度2~4度の河川水を濾過し、上部端部の内表面側より濾過水を得た。設定Flux(設定Flux(m/日)は濾過流量(m3/日)を膜外表面積(m2)で割った値)を段階的に上げていき膜間差圧が急激に上昇し始める直前のFluxを限界Flux(m/日)とした。膜間差圧の急激な上昇は、50kPa/5日程度の上昇速度を目安に判断した。
【0101】
【0102】
表1の結果から、実施例の多孔性中空糸膜の各サンプルを用いた場合には、耐圧縮強度、透水性能試験及び耐擦過性のいずれについても良好な結果を示すことがわかった。