(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007453
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 21/15 20060101AFI20250109BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20250109BHJP
B60R 19/24 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B62D21/15 C
B62D25/20 C
B60R19/24 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108869
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 洸太
(72)【発明者】
【氏名】杉本 晋一
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BB16
3D203CA23
3D203CA29
3D203CA30
3D203CA33
3D203CA37
3D203CA45
3D203DA22
(57)【要約】
【課題】簡素な構造で、衝突時の乗員保護と歩行者保護とを両立させることができる車体構造を提供する。
【解決手段】車体前端構造(車体構造)は、一対のサイドメンバーと、一対のサイドメンバーの先端部に掛け渡された状態で締結されたバンパリンフォースと、バンパリンフォースの表面における、一対のサイドメンバーの先端部を延長した位置から、一対のサイドメンバーの上稜線の側にオフセットした位置に接合された、平板状の一対のスペーサと、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のサイドメンバーと、
前記一対のサイドメンバーの先端部に掛け渡された状態で締結されたバンパリンフォースと、
前記バンパリンフォースの表面における、前記一対のサイドメンバーの先端部を延長した位置から、前記一対のサイドメンバーの上稜線の側にオフセットした位置に接合された、平板状の一対のスペーサと、を備える
車体構造。
【請求項2】
前記スペーサは、当該スペーサを正面視した際の図心が、前記サイドメンバーの上稜線と下稜線との中間位置から、前記上稜線の側にオフセットした位置に設置される、
請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記スペーサの裏面側は、前記バンパリンフォースの外表面に当接した状態で接合される、
請求項1または請求項2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記スペーサは、積層された複数の平板を接合した構造を有する、
請求項1または請求項2に記載の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衝突時の衝撃を吸収してキャビンを保護する車体構造が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、フレームと、フレームに接合されたチャンネル状ブラケットと、チャンネル状ブラケットの前端面に接合された平板状部材とを備える前部車体構造が開示されている。
【0005】
このような前部車体構造にあっては、重量増の抑制やコスト低減等の観点から、より簡素な構造で、衝突時の乗員保護と歩行者保護とを両立させることが求められている。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、簡素な構造で、衝突時の乗員保護と歩行者保護とを両立させることができる車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示は、一対のサイドメンバーと、
前記一対のサイドメンバーの先端部に掛け渡された状態で締結されたバンパリンフォースと、前記バンパリンフォースの表面における、前記一対のサイドメンバーの先端部を延長した位置から、前記一対のサイドメンバーの上稜線の側にオフセットした位置に接合された、平板状の一対のスペーサと、を備える車体構造である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、簡素な構造で、衝突時の乗員保護と歩行者保護とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、車体前端構造の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、車体前端構造の要部構成を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、スペーサの詳細構造を示す正面図である。
【
図4】
図4は、スペーサの詳細構造を示すA-A断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態の車体前端構造の作用を説明する第1の図である。
【
図6】
図6は、実施形態の車体前端構造の作用を説明する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、実施の形態に係る車体前端構造について説明する。
【0011】
(車体構造の概略構成)
図1を用いて、車体前端構造10の概略構成を説明する。
図1は、車体前端構造の概略斜視図である。
【0012】
車体前端構造10は、図示しない車両が備える一対のサイドメンバー12a,12bと、バンパリンフォース13と、一対のブラケット14a,14bと、一対のスペーサ15a,15bとを備える。なお、車体前端構造10は、本開示における車体構造の一例である。
【0013】
一対のサイドメンバー12a,12bは、図示しない車両の前後方向に沿って延びて、車両のシャシーの骨格を形成する、矩形断面の部材である。サイドメンバー12aとサイドメンバー12bとは、車両を前後方向(X軸方向)に貫く中心線に関して線対称に配置されて、同一の形状を有する。サイドメンバー12aは、Z軸方向上部の上稜線22aとZ軸方向下部の下稜線23aとを有する。サイドメンバー12bは、Z軸方向上部の上稜線22bとZ軸方向下部の下稜線23bとを有する。
【0014】
サイドメンバー12a,12bは、車両が衝突した際に、スペーサ15a,15bとバンパリンフォース13とが受けた衝撃力を吸収する。サイドメンバー12a,12bは、球種した衝撃力によって、所定の変形モードで変形することによって、キャビンの乗員を保護する。詳しくは後述する(
図5,
図6参照)。
【0015】
バンパリンフォース13は、一対のサイドメンバー12a,12bの先端部(
図1におけるX軸正側端部)に水平方向(
図1におけるY軸に沿う方向)に架け渡された状態で締結される部材である。バンパリンフォース13は、車両が衝突した際の衝撃力をサイドメンバー12a,12bに伝達する。バンパリンフォース13は、
図1に図示しないフロントバンパの裏面側に設置されている。
【0016】
一対のブラケット14a,14bは、バンパリンフォース13とサイドメンバー12a,12bとの間に介在して、例えばボルト等によって、バンパリンフォース13とサイドメンバー12a,12bとを締結する。なお、一対のブラケット14a,14bは必須の構成要素ではなく、バンパリンフォース13とサイドメンバー12a,12bとが、直接締結されてもよい。
【0017】
スペーサ15a,15bは、バンパリンフォース13の車両前方側(X軸正側)の表面に、一対のサイドメンバー12a,12bの先端部を前方に延長した位置から、一対のサイドメンバー12a,12bの上稜線22a,22bの側(Z軸正側)にオフセットした位置に接合された、平板状の部材である。スペーサ15a,15bは、車両が衝突した際の衝撃力を、バンパリンフォース13を介してサイドメンバー12a,12bに伝達する。なお、スペーサ15a,15bの詳細構造について、詳しくは後述する(
図2、
図3、
図4参照)。
【0018】
スペーサ15a,15bは、歩行者と接触した際に、歩行者に与える衝撃を低減するために、前後方向(X軸に沿う方向)の厚さが薄い(例えば、約15mm)平板状に形成されている。また、スペーサ15a,15bの表面と裏面とは、YZ平面に沿う面状に形成されている。これによって、衝突時の受圧面の面積が大きくなるため、衝突時の衝撃力を、効率的にサイドメンバー12a,12bに伝達することができる。
【0019】
(スペーサの詳細構造)
図2、
図3、
図4を用いて、スペーサ15aの詳細構造を説明する。
図2は、車体前端構造の要部構成を示す斜視図である。
図3は、スペーサの詳細構造を示す正面図である。
図4は、スペーサの詳細構造を示すA-A断面図である。スペーサ15aとスペーサ15bとは等しい構造を有し、車両を前後に貫く、X軸と平行な中心線に対して左右対称に設置されているため、ここでは、スペーサ15aについてのみ、その詳細構造を説明する。また、構造を分かり易くするため、
図3と
図4は、ブラケット14aを省略して描いている。
【0020】
スペーサ15a,15bは、バンパリンフォース13に接合している側から順に、平板16、平板17、平板18の3枚の板状部材が積層された構造を有する。平板16は、4隅の溶接点19において、バンパリンフォース13にスポット溶接で接合される。平板17は、平板16よりも正面視(X軸に沿う方向から見たときに)で1回り小さい形状を有する。平板17の周縁部は、平板16とアーク溶接によって接合されている。平板18は、平板17よりも正面視で1回り小さい形状を有する。平板18の周縁部は、平板17とアーク溶接によって接合されている。なお、スペーサ15a,15bを構成する平板の枚数は3枚に限定されるものではない。スペーサ15a,15bに必要とされる厚さは、車両の構造によっても異なるため、評価実験等に基づいて、車両に応じた適切な枚数が設定される。
【0021】
図3に示すように、平板17と平板18とは、正面視で六角形状をなす。また、平板16は、正面視で矩形状をなす。しかし、平板16、平板17、平板18の形状は、このような形状に限定されるものではなく、平板状であれば、任意の形状であってよい。
【0022】
図3と
図4に示すように、スペーサ15aは、当該スペーサ15aを正面視した際の図心28が、サイドメンバー12aの上稜線22aと下稜線23aとの中間位置から、上稜線22aの側、すなわちZ軸正側にオフセットした位置に設置される。なお、図心28は、スペーサ15aの最外面に位置する平板18の面積重心の位置であってもよいし、スペーサ15aの質量の重心位置であってもよい。より具体的には、
図4に示すように、スペーサ15aの図心28を通り、スペーサ15aに垂直な軸27は、サイドメンバー12aの上稜線22aと下稜線23aとの中点を連結した軸24から、上稜線22aの側にオフセットdを有して設置される。
【0023】
このように、スペーサ15aを、オフセットdを有する位置に設置することによって、スペーサ15aに加わった衝撃力は、サイドメンバー12aの下稜線23aの側よりも、スペーサ15aにより近いサイドメンバー12aの上稜線22aの側に早く伝わる。このように、サイドメンバー12aの上稜線22aと下稜線23aとに衝撃力が伝わる時間をずらすことができるため、サイドメンバー12aを折れ曲がりやすくすることができる。詳しくは後述する(
図5,
図6参照)。
【0024】
但し、オフセットdを大きくし過ぎると、スペーサ15aの裏面側がバンパリンフォース13から上方(Z軸正側)に飛び出してしまう。このようなレイアウトでは、スペーサ15aが受けた衝撃力がバンパリンフォース13を介して、サイドメンバー12aに十分に伝わらない。したがって、オフセットdの大きさは、スペーサ15aの裏面側全体、すなわち、スペーサ15aを構成する最も裏面側の平板16の上縁25から下縁26に亘る範囲がバンパリンフォース13に接合されるように設定される。
【0025】
なお、スペーサ15aを構成する平板16,17,18は、車両が物体に衝突した際に衝撃力を受ける受圧面として作用するが、平板16,17,18の表面の面積が小さ過ぎると、車両が物体に衝突した際に、スペーサ15aが物体に貫入してしまうおそれがある。したがって、平板16,17,18の表面は、ある程度の面積を有するのが望ましい。
【0026】
本開示の車体構造は、車体前端構造10に限定されるものではなく、図示しない車両後端構造にも、同様に適用することができる。
【0027】
(車体前端構造の作用)
図5と
図6を用いて、本実施形態の車体前端構造10の作用を説明する。
図5は、実施形態の車体前端構造の作用を説明する第1の図である。
図6は、実施形態の車体前端構造の作用を説明する第2の図である。
【0028】
サイドメンバー12aは、当該サイドメンバー12aの前端(X軸正側の端部)に衝撃力が加わった際に、サイドメンバー12aを、予め設定された変形モードで変形させることによって衝撃力を吸収する。そのため、サイドメンバー12aには、
図5に示すように、衝撃力が加わった際に折れ曲がりやすい部位である折れ位置30、折れ位置31、折れ位置32が形成されている。これらの折れ位置30,31,32には、例えばビード(へこみ)が形成されており、サイドメンバー12aに衝突の衝撃力が加わった際に、サイドメンバー12aは折れ位置30,31,32で衝撃力を吸収して折れ曲がり易くなっている。
【0029】
本実施形態では、折れ位置の数を3カ所として説明するが、折れ位置の数は3カ所に限定されるものではない。また、サイドメンバー12aと対をなすサイドメンバー12b(
図1参照)にも、サイドメンバー12aと対称な位置に折れ位置が形成されている。
【0030】
本実施形態の車体前端構造10を有する車両の前端部が、正突試験においてバリアに衝突すると、スペーサ15aは衝突の際の衝撃力を受ける。そして、前述したように、サイドメンバー12aの上稜線22aの側には、下稜線23aの側よりも早く衝撃力が伝わる。上稜線22aの側に早期に衝撃力が伝わることによって、バンパリンフォース13には時計回りのモーメントが加わる。したがって、
図6に示すように、サイドメンバー12aの先端部は、折れ位置30において、上稜線22aの側、すなわちZ軸正側に折れ曲がる。
【0031】
続いて、車両の前進によって、衝撃力は、サイドメンバー12aの折れ位置31に伝わる。サイドメンバー12aは、折れ位置30から折れ位置31にかけてZ軸正側に変位する形状を有して、折れ位置31から折れ位置32にかけてZ軸負側に変位する形状を有している。すなわち、サイドメンバー12aは、折れ位置31において、上方側が凸になる形状を有している。したがって、
図6に示すように、サイドメンバー12aの先端部が、折れ位置30においてZ軸正側に折れ曲がった際に、折れ位置31には、反時計回りのモーメント、すなわち、折れ位置31をZ軸負側に変形させるモーメントが発生する。これによって、
図6に示すように、サイドメンバー12aの折れ位置30と折れ位置31との間の区間は、折れ位置31においてZ軸負側に折れ曲がる。
【0032】
サイドメンバー12aに加わった衝撃力は、更にサイドメンバー12aの折れ位置32に伝わる。このとき、サイドメンバー12aに加わった衝撃力の多くは、既に、折れ位置30と折れ位置31におけるサイドメンバー12aの折れ曲がりによって吸収されているため、折れ位置32における変形は僅かに抑えられる。このように、サイドメンバー12aの折れ位置31と折れ位置32との間の区間は、衝突の際の衝撃力を受けた際に、Z軸正側への変形、すなわち上突が抑制される。これによって、サイドメンバー12aに加わった衝撃力は車両のキャビンに伝達されないため、キャビンの変形が抑制される。
【0033】
なお、図示はしないが、サイドメンバー12aと対をなすサイドメンバー12bも、衝突時に、サイドメンバー12aと同様の変形モードで変形する。
【0034】
また、図示はしないが、車体前端構造10が、
図5を上下反転させた構造である場合、すなわち、サイドメンバー12aが、
図5を上下反転させた形状を有する場合であっても、前述したのと同様の効果を得ることができる。すなわち、スペーサ15aを、サイドメンバー12aの先端部を延長した位置から、サイドメンバー12aの下稜線23aの側にオフセットされた位置に接合すれば、サイドメンバー12aの折れ位置30、折れ位置31における折れ曲がりの方向が、
図6に示した折れ曲がりの方向と逆になるだけで、前述したのと同様に、キャビンの変形を抑制することができる。
【0035】
(本実施の形態の作用効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る車体前端構造10(車体構造)は、一対のサイドメンバー12a,12bと、一対のサイドメンバー12a,12bの先端部に掛け渡された状態で締結されたバンパリンフォース13と、バンパリンフォース13の表面における、一対のサイドメンバー12a,12bの先端部を延長した位置から、一対のサイドメンバー12a,12bの上稜線22a,22bの側にオフセットした位置に接合された、平板状の一対のスペーサ15a,15bと、を備える。したがって、簡素な構造で、衝突時の乗員保護と歩行者保護とを両立させることができる。
【0036】
また、本実施の形態に係る車体前端構造10(車体構造)において、スペーサ15a,15bは、当該スペーサ15a,15bを正面視した際の図心28が、サイドメンバー12a,12bの上稜線22a,22bと下稜線23a,23bとの中間位置から、上稜線22a,22bの側にオフセットした位置に設置される。したがって、衝突時の衝撃力を、下稜線23a,23bよりも早く上稜線22a,22bに伝達することができる。これによって、サイドメンバー12a,12bの変形モードを、予め設定されたモードにコントロールすることができる。
【0037】
また、本実施の形態に係る車体前端構造10(車体構造)において、スペーサ15a,15bの裏面側は、バンパリンフォース13の外表面に当接した状態で接合される。したがって、スペーサ15a,15bに入力された衝撃力を、バンパリンフォース13を介して、サイドメンバー12a,12bに効率的に伝達することができる。
【0038】
また、本実施の形態に係る車体前端構造10(車体構造)において、スペーサ15a,15bは、積層された複数の平板16,17,18を接合した構造を有する。したがって、スペーサ15a,15bを僅かなスペースに設置することができる。また、サイドメンバー12a,12bの構造変更を行わずに、歩行者と接触した際の、歩行者に与える衝撃を低減することができる。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上述した実施の形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、この実施の形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
10 車体前端構造(車体構造)
12a,12b サイドメンバー
13 バンパリンフォース
14a,14b ブラケット
15a,15b スペーサ
16,17,18 平板
19 溶接点
22a,22b 上稜線
23a 下稜線
24,27 軸
25 上縁
26 下縁
28 図心
30,31,32 折れ位置
d オフセット