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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007529
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ガス濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/06 20060101AFI20250109BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20250109BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B01D53/06 100
B01J20/20 B
B01J20/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108986
(22)【出願日】2023-07-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/革新的酸素富化TSAによる低環境負荷燃焼技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(72)【発明者】
【氏名】酒井 春菜
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏志
(72)【発明者】
【氏名】古木 啓明
(72)【発明者】
【氏名】児玉 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】大坂 侑吾
【テーマコード(参考)】
4D012
4G066
【Fターム(参考)】
4D012BA04
4D012CA03
4D012CA05
4D012CA06
4D012CA20
4D012CC04
4D012CC05
4D012CD01
4D012CD10
4D012CE03
4D012CF02
4D012CF10
4D012CG01
4D012CK03
4D012CK05
4G066AA05B
4G066CA27
4G066CA35
4G066CA37
4G066CA51
4G066DA03
4G066GA16
(57)【要約】
【課題】吸着材の吸着能力を高効率に発揮させ、酸素濃度の高い酸素富化空気を連続的に供給できるガス濃縮装置を提供する。
【解決手段】酸素を窒素に優先して吸着する吸着材を備えた吸着ロータを、少なくとも処理ゾーン、再生ゾーン、パージゾーンに分割してこの順に回転するようにするとともに、原料空気を処理ゾーンに通して酸素を吸着材に吸着させ、処理ゾーンを通過した空気を供給先へ送り、或いは大気放出し、再生ヒータを通過した加熱空気を再生ゾーンに通して吸着材に吸着した酸素を脱着させ、再生ゾーンを通過した空気の一部を酸素富化空気として取り出し、残りを再生ヒータの入口側へ戻して再生循環させるようにし、パージゾーンには空気を通過させて吸着ロータに残存する酸素富化空気をパージするようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガスを第2のガスに優先して吸着する吸着材を備えた吸着ロータと、前記吸着ロータを少なくとも処理ゾーン、再生ゾーン、パージゾーンに分割してこの順に回転するようにするとともに、原料ガスを前記処理ゾーンに通して第1のガスを前記吸着材に吸着させ、前記処理ゾーンを通過したガスを供給先へ送り、或いは大気放出し、加熱ガスを前記再生ゾーンに通して前記吸着材に吸着した第1のガスを脱着させ、前記再生ゾーンを通過したガスの一部を第1のガス富化ガスとして取り出し、残りを前記再生ゾーンの入口側へ戻して循環させるようにし、パージゾーンにはガスを通過させて前記吸着ロータに残存する第1のガス富化ガスをパージするようにしたことを特徴とするガス濃縮装置。
【請求項2】
前記第1のガスが酸素であり、前記第2のガスが窒素であることを特徴とする請求項1に記載のガス濃縮装置。
【請求項3】
前記第1のガスが二酸化炭素であり、前記第2のガスがメタンであることを特徴とする請求項1に記載のガス濃縮装置。
【請求項4】
前記吸着材がCMSであることを特徴とする請求項1から請求項3いずれか一項に記載のガス濃縮装置。
【請求項5】
前記パージゾーンを通過したガスを前記パージゾーンの入口側へ戻して循環させるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3いずれか一項に記載のガス濃縮装置。
【請求項6】
前記処理ゾーンを複数の処理ゾーンに分けて、第1、第2・・・の処理ゾーンとし、前記第1の処理ゾーンには高面風速のガスを通過させて前記吸着ロータを冷却するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3いずれか一項に記載のガス濃縮装置。
【請求項7】
前記第1の処理ゾーンに流すガスの面風速は、他のゾーンの面風速のうち最も大きい面風速より大きい面風速とし、6m/sを上限としたことを特徴とする請求項6に記載のガス濃縮装置。
【請求項8】
前記処理ゾーンを通過したガスの一部又は全部を前記処理ゾーンの入口側へ戻して循環させるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3いずれか一項に記載のガス濃縮装置。
【請求項9】
前記再生ゾーンを複数の再生ゾーンに分けて、第1、第2・・・の再生ゾーンとし、前記複数の再生ゾーンを通過したガスを混合して前記再生ゾーンの入口側へ戻して循環させるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3いずれか一項に記載のガス濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素富化燃焼等に利用し、空気を原料として温度スイング吸着により酸素を吸着して濃縮するガス濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃焼技術として酸素富化燃焼技術がある。例えば、工業炉において酸素富化燃焼を行えば、火炎温度の上昇効果及び排ガス損失の減少による省エネルギー効果が期待される。
【0003】
空気中の酸素濃縮(酸素富化)方法として、深冷分離法や圧力スイング吸着法(以下、「PSA法」という。)がある。深冷分離法は空気を圧縮・冷却することで酸素を分離し、PSA法は空気中の窒素を吸着除去することで酸素を濃縮する。深冷分離法やPSA法はともに空気を圧縮・冷却するために、大量の電力を要する。
【0004】
深冷分離法は高純度酸素が得られるものの、大型の設備となり、酸素濃度の高い空気(以下、「酸素富化空気」という。)が必要な例えば燃焼炉の近くに設置することは難しい。PSA法は比較的高純度な酸素が得られ、小型化が可能であるが、減圧/高圧下で使用するため、装置の気密が必要となり、厚い鋼板や高気密バルブといった高価な材料を使用する必要が生じる。 温度スイング吸着法(以下、「TSA法」という。)は常圧で運転するため、汎用材料を使用することができ、イニシャルコストを抑えることができる。
【0005】
工業炉からは200℃以下(以下、温度は全て「摂氏」とする。)の低温排熱が排出されている。吸着材とTSA法を組み合わせることで、酸素を濃縮するためのエネルギーに低温排熱が活用できる。
【0006】
また、工業炉における酸素富化燃焼において火炎温度上昇効果を得るには、酸素濃度は30%台で十分であって、それ以上酸素濃度を上げてもその効果がほとんど変わらず、また省エネルギー効果も十分に発揮できる。酸素濃度が高すぎても炉内温度が上昇し、炉材質が耐えられない。
【0007】
TSA法を用いて酸素濃度の高い酸素富化空気を連続的に取り出し、需要地に需要量に応じて設置でき、分離用電力源単位の低い経済的な酸素濃縮装置として、特許文献1や特許文献2に記載のものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平02-241515号公報
【特許文献2】特開昭62-045317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
TSA法を用いて大気中の酸素を濃縮する方法として、窒素を吸着材に吸着させる方法と、酸素を吸着材に吸着させる方法がある。吸着材にはゼオライトや活性炭等が用いられる。特許文献1に記載の酸素濃縮装置(吸・脱着処理装置)は、吸着材としてゼオライトCa-X型を使用した吸着体を製作し、吸着領域を2つに分け第1吸着領域及び第2吸着領域とし、再生を終えた領域が第1及び第2吸着領域を順次通過するようにすると共に、第1吸着領域の出口側ガスは冷却装置を経て第1吸着領域の入口側に循環させつつ、この循環系には第2吸着領域を通過したガスを合流させ、さらにこの循環系の任意位置から循環ガスの一部を回収して酸素富化ガスを得るようにしており、実験例では酸素富化ガス中の酸素濃度は30%になったとされている。
【0010】
PSA法での酸素濃縮においても、吸着材として窒素を吸着するゼオライトであるLi-LSXやCa-Aが用いられ、実用化されている。
【0011】
これらの窒素吸着材を使用して、発明者らがTSA法においても酸素富化空気の生成を試みたところ、大きな課題が二点あることがわかった。
1.原料空気の露点温度をマイナス50℃以下にしないと、窒素の吸着容量を維持することができない。特に窒素の吸着容量が大きいLi-LSXは水分濃度の影響を著しく受ける。水分濃度の影響を受けにくいと言われているCa-Aにおいてもマイナス5℃露点の原料空気で窒素吸着能力が失われる。
2.原料空気(窒素濃度80%、酸素濃度20%とする)中の酸素濃度を20%から21%に1%上昇させるために、窒素濃度を80%から75.2%に下降させる必要がある。すなわち、原料空気の酸素量を変えずに(酸素を吸着せずに)、窒素量を減じて(窒素のみをゼオライトに吸着させて)窒素濃度を80%から75.2%に低減することで、窒素吸着除去後の空気の酸素濃度は21%になる。このように、酸素濃度を高めるには原料空気に含まれる大量の窒素を吸着除去する必要があり、窒素の吸着容量が大きな窒素吸着材が必要となる。
以上のことから、酸素富化空気の原料として大気を使用することは、これら制約のあるゼオライトLi-LSXやCa-Aでは厳しい。
【0012】
また、窒素を吸着するゼオライトでは40℃以上の温度で窒素の吸着性能が極端に低下するので、高温の排ガスを利用するTSA法では、吸着温度が高い場合には多量の吸着材を要することになり、設備コストが増大してあまり経済的ではない。
【0013】
カーボンモレキュラーシーブ(以下、「CMS」という。)は速度分離型の吸着材であり、酸素も窒素も吸着するが、酸素と窒素の吸着速度差が非常に大きい特徴があるので、この酸素と窒素の吸着速度差を利用することで、酸素と窒素を分離できる。CMSはPSA法でも用いられているが、TSA法においてもCMSを担持したハニカムロータを温度スイングさせることで、酸素富化空気を供給できるようになる。CMSは酸素の吸着容量は小さいが、原料空気の約80%を占める窒素を吸着除去して酸素富化空気を得る方法より効率的であり、吸着材の必要量を減らすことができる。さらに、CMSの酸素に対する吸着選択性を高め、うまく脱着することができれば高濃縮も可能である。
【0014】
特許文献2に開示された酸素濃縮装置(吸着装置)は、吸着ロータの吸着材としてCMSを用いることが望ましいことが示され、図1には、吸着ロータ1が空気経路2と再生経路3に跨って配置され、空気経路2と再生経路3の上流側にはそれぞれ流量調節弁4、13を介して共通のファン5を設け、並行流にて空気が吸着ロータ1に導入されるように構成されている。再生経路3では、100℃以上の加熱空気eを吸着ロータ1に通過させ、吸着ロータ1を再生する。
【0015】
発明者らがCMSを担持した吸着ロータを用いて、特許文献2にように処理(吸着)ゾーン:再生ゾーン=1:1、ワンパス再生(循環無し)とし、対向流にて実験したところ、再生出口の酸素富化空気中の酸素濃度は原料空気とほとんど変わらず、酸素濃縮性能は非常に低いものであることがわかった(後述の比較例1)。これは再生ゾーンを出た後の吸着材は昇温状態のまま処理ゾーンへ移動していくので、吸着材の吸着能力は低く酸素吸着量は著しく少ないことにもよる。この不都合を解消する目的で、吸着ゾーンに多量の空気を供給しようとすると、吸着材を冷却する目的は達成されるが、吸着材における酸素吸着は短時間で破過に達してしまい、酸素濃度を高めることができない。従って、CMSを担持した吸着ロータでのTSA法に適したフローや回転数、温度の最適化が必要である。
【0016】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、吸着材の吸着能力を高効率に発揮させ、目的とするガス濃度の高い富化ガスを連続的に供給できるガス濃縮装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は以上のような課題を解決するため、酸素を窒素に優先して吸着する吸着材を備えた吸着ロータを、少なくとも処理ゾーン、再生ゾーン、パージゾーンに分割してこの順に回転するようにするとともに、原料空気を処理ゾーンに通して酸素を吸着材に吸着させ、処理ゾーンを通過した空気を供給先へ送り、或いは大気放出し、加熱空気を再生ゾーンに通して吸着材に吸着した酸素を脱着させ、再生ゾーンを通過した空気の一部を酸素富化空気として取り出し、残りを再生ゾーンの入口側へ戻して再生循環させるようにし、パージゾーンには空気を通過させて吸着ロータに残存する酸素富化空気をパージするようにした。
【発明の効果】
【0018】
再生側の熱源として工業炉等の排熱を利用することで、酸素濃縮のためのランニングコストを大幅に下げることができる。PSA法では原料空気の圧縮又は吸着材再生のための減圧動力として電力原単位0.11kWh/Nm-25%O(2.2円/Nm-25%O)が必要である。一方、本発明のTSA法によれば、再生熱源として排熱を利用する場合、送風機の動力として電力原単位0.10kWh/Nm-25%O(2.1円/Nm-25%O)が必要となる。さらに、ハニカムのセルサイズを大きくして送風機のサイズダウンを図り、さらにCMSの吸着容量を増やすことで、電力原単位0.04kWh/Nm-25%O(0.8円/Nm-25%O)とPSA法の半分以下にまで低減できることが試算されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は本発明のガス濃縮装置の構成の例を示す図である。
図2図2は本発明のガス濃縮装置の実施例1におけるフロー図である。
図3図3は本発明のガス濃縮装置の実施例2におけるフロー図である。
図4図4は本発明のガス濃縮装置の実施例2における水分濃度の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、第1のガスを第2のガスに優先して吸着する吸着材として、吸着ロータのTSA操作に適したCMSを使用する。以下、第1のガス濃度の高いガスを「第1のガス富化ガス」という。また、第1のガスを酸素、第2のガスを窒素として説明する。CMSは炭素体に形成された細孔を精密に制御することで、分子径のわずかに異なる気体を篩い分け(分離)することができる。本発明に用いるCMSは酸素と窒素の速度分離をロータ回転や温度に合わせて設計されている。
【0021】
図1は本発明のガス濃縮装置の構成の例を示す図である。本発明のガス濃縮装置は、酸素を窒素に優先して吸着する吸着材を備えた吸着ロータ1を、少なくとも処理ゾーン2、再生ゾーン3、パージゾーン4に分割してこの順に回転するようにするとともに、原料ガス(例えば大気)を処理ゾーン2に通して酸素を吸着材に吸着させ、処理ゾーン2を通過したガスを供給先へ送り、或いは大気放出し、再生ヒータ5を通過した加熱ガスを再生ゾーン3に通して吸着材に吸着した酸素を脱着させ、再生ゾーン3を通過したガスの一部を酸素富化ガスとして取り出して回収し、残りを再生ヒータ5の入口(再生ゾーン3の入口側)へ戻して再生循環させるようにし、パージゾーン4にはガスを通過させて吸着ロータ1に残存する酸素富化ガスをパージする。
【0022】
吸着ロータ1はセラミック繊維紙やガラス繊維紙等の無機性及び/又は不燃性シート、金属シート、プラスチックシート、耐熱繊維不織布等のシートをコルゲート(波付け)加工し、ブロック状に積層又は円柱(ロータ)状に巻付け加工したものである。吸着ロータ1の断面はハニカム形状であり、段ボールの断面のような波形に限らず、三角形や台形、六角形等、ガスが通風するのに問題ない形状であれば特に問わない。ハニカム吸着ロータは接触面積が広く、圧力損失が低く、軽量でありながら強度が高いので、大型化が容易という特長がある。粉状又は繊維状の吸着材を抄き込んだ紙や、粉状吸着材をコーティングしたシートをコルゲート加工して積層又は巻付けてハニカム化する方法、或いは吸着材を含まない基材シートをコルゲート加工して積層又は巻付けしてハニカム化した後、吸着材粉末とバインダーを混合したスラリー中に浸漬して乾燥する方法いずれを用いてもよい。
【0023】
CMSは酸素の吸着容量が小さいため、可能な限り吸着ロータへの担持率を高くすることが望ましく、担持量50~500kg/mとすることが好ましい。担持率が低いと吸着量が少なく、吸着性能が低い。一方、担持率が高くなり過ぎると圧力損失が過剰となり、ガスの流通性が悪化して吸着性能が低下する。よって、CMSの吸着性能を最大化するため、ハニカムのセルサイズと担持量を最適化する。
【0024】
処理ゾーン2では、原料ガス(例えば大気)を流してCMSの酸素と窒素の吸着速度差を利用し、酸素のみを吸着させる。すなわち、酸素が吸着できる時間のみ処理ゾーン2にガスを流すようにする。このためには、ロータ回転数と処理風量を最適化する。酸素と窒素の吸着容量はCMSの温度によっても変化し、処理風量は冷却も兼ねるため、処理風量とロータ回転数を最適になるように調整する。なお、最適回転数より早いと吸着ロータ1の温度を昇降するのが困難となり、最適回転数より遅いと吸着・脱着効率が低くガス処理量が少なくなる。
【0025】
再生ゾーン3では、CMSを担持した吸着ロータ1に再生ヒータ5を通過した加熱ガスを流して温度スイングすることで、吸着した酸素を熱で脱着し、酸素富化ガスを生成することができる。さらに再生ゾーン3を通過したガスを再生ヒータ5の入口(再生ゾーン3の入口側)へ戻して再生循環させることで、酸素濃度を高くする。再生ゾーン3は温度を高くすることで酸素をCMSに再吸着させない。再生側の気密はある程度は必要だが、再生側の隙間から外気が導入されることで、外気取り込み=酸素富化ガス取り出しという状況になる。再生ゾーン3を通過したガスの一部を取り出して回収することで、酸素富化ガスを得る。
【0026】
パージゾーン4では、処理側のガスがゾーン間のリークや吸着ロータ1の回転の持ち込みで再生側に流入しないように、処理ゾーン2と再生ゾーン3の間にパージゾーンの壁を作る。これにより、再生循環の酸素濃度の希釈を防ぐことができる。また、パージゾーンにはガスを通過させて前記吸着ロータに残存する酸素富化ガスをパージする。また、必要に応じてパージゾーンに導入するガスを加熱し、再生ゾーンで脱着できずに吸着材に残っている酸素を脱着させる。或いは、パージゾーン4にガスを流して吸着ロータ1を冷却する。パージゾーン4には大気、処理ゾーン2を通過したガスや処理ゾーン2に入る前のガスの一部、パージ循環ガス、再生循環ガスの一部等を導入する。
【実施例0027】
以下、本発明のガス濃縮装置の実施例1(二段再生フロー)について図2のフロー図に沿って説明する。実施例1では200セル/inchのハニカムのセルサイズにて、担持率60%(担持量250kg/m)、直径φ200mm×高さH400mmの吸着ロータ1を製作した。処理ゾーンを3つに分け、第1の処理ゾーン21、第2の処理ゾーン22、第3の処理ゾーン23とした。また、再生ゾーンを2つに分け、第1の再生ゾーン31と第2の再生ゾーン32とした。なお、本明細書では便宜上、処理ゾーン又は再生ゾーンを複数に分割する場合には、「第1、第2・・・の」と書く。各ゾーンの角度は同じとし、処理ゾーン:再生ゾーン:パージゾーン=3:2:1とした。吸着ロータ1はギヤドモータ(図示せず)等によって、第1の処理ゾーン21、第2の処理ゾーン22、第3の処理ゾーン23、第1の再生ゾーン31、第2の再生ゾーン32、パージゾーン4の順に回転駆動される。
【0028】
処理側において、送風機6を通過した原料ガスは分岐され、第1の処理ゾーン21、第2の処理ゾーン22、第3の処理ゾーン23にそれぞれ導入される。各処理ゾーンを通過したガスは合流され、送風機7にて供給先へ送り、或いは大気放出される。第1の処理ゾーン21には、ガスを高面風速で流すことにより、迅速かつ確実に吸着ロータ1を冷却し、第2の処理ゾーン22及び第3の処理ゾーン23での酸素の吸着時間を確保する。第1の処理ゾーン21に流すガスの面風速は、他のゾーン(第2の処理ゾーン22、第3の処理ゾーン23、第1の再生ゾーン31、第2の再生ゾーン32、パージゾーン4)の面風速のうち最も大きい面風速より大きい面風速とする。ただし、6m/sを超えると吸着ロータが十分に冷却され、再生循環路の酸素富化ガス濃度が頭打ちとなって送風機の動力も増えるため、6m/sを上限とする。なお、処理ゾーンの入口側に冷却器を設けて、原料ガスの温度を低下させるようにしてもよい。処理側の送風機(送風機6、7)は入口側と出口側にそれぞれ配置したが、いずれか1台のみ配置するようにしてもよい。処理ゾーンを通過したガスは、比較的窒素濃度の高いガス(窒素富化ガス)なので、必要に応じて供給先に供給して利用するようにしてもよい。
【0029】
再生側において、再生ヒータ51により加熱されたガスを第1の再生ゾーン31に導入し、吸着材に吸着された酸素を脱着させて酸素濃度を高める。第1の再生ゾーン31を通過したガスは、送風機8にて再生ヒータ52を経て第2の再生ゾーン32に導入される。第2の再生ゾーン32では酸素が脱着され、酸素濃度がより高まる。第2の再生ゾーン32を通過したガスは、送風機にて再び再生ヒータ51を通過して第1の再生ゾーン31へ導入される。このように、酸素富化ガスは第1の再生ゾーン31及び第2の再生ゾーン32を経て2段で再生され循環し、酸素が濃縮される。第2の再生ゾーン32を通過した酸素濃度が高められたガスを酸素富化ガスとして取り出す。
【0030】
パージゾーン4では、ヒータ10によって加熱されたガスを通過させ、吸着ロータ1のハニカム空隙内に残存する酸素富化ガスをパージし、再生ゾーンで脱着できずに吸着材の細孔内に残っている酸素を脱着させる。パージゾーン4を出たガスは、送風機11によって再びパージゾーン10へ導入されて循環する。パージゾーン4を単独で循環させることで、処理ゾーンと再生ゾーンの間にパージゾーンのループの壁を作り、再生循環路の酸素富化ガスの酸素濃度の希釈を防ぐことができる。
【0031】
図2のように、処理ゾーン、再生ゾーン、パージゾーンの全てのゾーンに導入するガスを同じ向きに導入する並行流とした。並行流とすることで、ゾーン間の正圧差が小さくなるため、リーク量が減り、酸素富化ガスの酸素濃度を高く保つことができる。
【0032】
本実施例1のフローにおいて、処理入口温度22℃、再生入口温度120℃、パージ入口温度100℃、マイナス30℃露点以下の除湿空気を原料ガスとし第1の処理ゾーン21の面風速5m/s、その他(第2の処理ゾーン22、第3の処理ゾーン23、第1の再生ゾーン31、第2の再生ゾーン32、パージゾーン4)の面風速1.5m/sとして酸素濃縮試験を行った。回転数は15rphとした。この結果、酸素富化ガス中の酸素濃度は24.9%(原料ガス中の酸素濃度20.9%)、パージ循環路中の酸素濃度は22.0%であった。
【実施例0033】
以下、本発明のガス濃縮装置の実施例2(並列再生フロー)について図3のフロー図に沿って説明する。実施例1と重複する部分の説明は省略する。実施例2では、実施例1のフローを単純化し、第1の再生ゾーン31、第2の再生ゾーン32それぞれに再生循環ガス気を並列に分岐して導入するようにした。すなわち、再生循環ガスの一部は再生ヒータ51により加熱され、第1の再生ゾーン31に導入され、再生循環ガスの残りは再生ヒータ52により加熱され、第2の再生ゾーン32に導入される。各再生ゾーンを通過したガスは合流され、再び再生ゾーンの入口側へ循環する。これにより、再生出口側の送風機は実施例1では2つ(送風機8、9)であったが、実施例2では1つ(送風機12)でよい。この他の構成は実施例1と同様である。なお、再生ヒータ51、52は第1の再生ゾーン31及び第2の再生ゾーン32のそれぞれの入口側に設けたが、再生ヒータを1つにして、再生ヒータを通過したガスを分岐して、それぞれの再生ゾーンに導入するようにしてもよい。再生ゾーンを通過して循環する酸素濃度が高められたガスを酸素富化ガスとして取り出して回収する。
【0034】
本実施例2のフローにおいて、実施例1と同じ条件にて酸素濃縮試験を行った。この結果、酸素富化ガス中の酸素濃度は24.9%(原料ガス中の酸素濃度20.9%)、パージ循環路中の酸素濃度は22.1%となり、実施例1と実施例2のフローでは、同じガス投入流量の場合、性能は同等であり、フローを単純化しても問題ないことがわかった。
【0035】
(水分濃度の影響)
実施例1及び実施例2では、マイナス30℃露点以下の除湿空気を用いた。ここで、水分濃度の影響を検討するため、実施例2のフローにて、処理入口ガスの湿度をマイナス44℃露点からマイナス5℃露点まで徐々に上昇させ、湿度による酸素濃縮性能への影響を評価した。この結果を図4に示す。図4(a)は再生循環路の酸素富化ガス中の露点の経時変化、図4(b)は再生循環路の酸素富化ガス中の酸素濃度の経時変化を示す。マイナス5℃露点の空気を供給しても、酸素濃度はほとんど低下せず、酸素濃縮性能を維持できることがわかった。このことから、CMSはゼオライトLi-LSXやCa-Aと異なり、水分による酸素濃縮性能への影響は非常に小さいといえる。パージ循環路では、水分が結露したため、ドレン等水を抜く処置が必要である。なお、再生循環路にもドレン等を設けるようにしてもよい。
【0036】
実施例1及び実施例2では、処理ゾーンは3つ、再生ゾーンは2つとしたが、これに限るものではなく、再生ゾーン及び処理ゾーンは1つでもよく、その他の複数であってもよい。処理側はワンパスとしたが、処理ゾーンを通過したガスの一部又は全部を処理ゾーンの入口側へ戻して循環するようにしてもよい。パージ経路は循環路としたがワンパスとしてもよく、パージ入口側にヒータを設けずともよい(この場合、酸素富化ガス中の酸素濃度は24.4%(原料ガス中の酸素濃度20.9%)、パージ循環路中の酸素濃度は20.8%であった)。再生循環路やパージ循環路に外気を取り込むダンパ等の風量調整装置を設けるようにしてもよい。さらに、本実施例では全てのゾーンで並行流としたが、これに限るものではなく、対向流にすることで、熱交換率向上による性能アップが期待できるので、適宜一部のゾーンを対向流にしてもよい。
【0037】
吸着ロータは吸着材をハニカムに担持したハニカム吸着ロータであることが好ましいが、ビーズ状又はペレット状の吸着材を内部に充填した吸着塔で構成される吸着ロータとしてもよい。また、特許文献1の図1図3のように、吸着体を円筒状に形成し、半径方向にガスを流通するようにしてもよい。本発明では、吸着材としてCMSを用いたが、CMSと同様に吸着速度差によって窒素と酸素を分離できる吸着材や酸素を窒素に優先して吸着する吸着材があれば、それを用いてもよい。再生ゾーンに導入する加熱ガスは、再生ヒータに限らず、燃焼排ガスと熱交換された加熱ガスを用いるようにすると、ランニングコストを下げることができる。
【0038】
(比較例1)
CMSを担持した吸着ロータを用いて、処理ゾーン:再生ゾーン=1:1、ワンパス再生(循環無し)、対向流にて試験を行った。マイナス30℃露点以下の乾燥ガス(乾燥ガス中の酸素濃度20.9%)を面風速2m/sで処理ゾーンに導入し、100℃の加熱ガスを面風速2m/sで再生ゾーンに導入した。再生入口及び再生出口の酸素濃度はいずれも20.9%であり、変化がなかった。よって、再生出口の酸素富化ガス中の酸素濃度は原料ガスとほとんど変わらず、酸素濃縮性能は非常に低いものであることがわかった。
【0039】
(比較例2)
次に、比較例1と同様の条件で、再生循環にて試験を行った。再生入口の酸素濃度20.9%に対し、再生出口の酸素濃度は21.7%であった。このことから、ワンパス再生では酸素濃度が上がらず、再生循環が酸素濃縮には必要であることがわかった。しかしながら、0.8ポイントの上昇にとどまり、さらに酸素濃度を上昇させるにはフローの最適化が必要である。
【0040】
実施例1及び実施例2では、200セル/inchのハニカム吸着ロータを用いたが、セル数を例えば50セル/inchに減らし、担持量を本実施例と同じく250kg/mとすることで、酸素濃縮性能を維持したまま、圧力損失が最大75%低減できるので、送風機サイズを下げることができる。酸素富化TSA法は送風に係る電力が主な消費エネルギーなので、運転コストを大幅に削減することができる。酸素富化PSA法では原料空気の圧縮又は吸着材再生のための減圧動力として電力原単位0.11kWh/Nm-25%O(2.2円/Nm-25%O)が必要である。一方、本発明の酸素富化TSA法において、200セル/inchのハニカム吸着ロータを用いた場合、送風機の動力として電力原単位0.10kWh/Nm-25%O(2.1円/Nm-25%O)が必要であり、運転コストは酸素富化PSA法と同等である。さらに、セル数を例えば50セル/inchに減らした場合、酸素濃縮性能を維持したまま、電力原単位0.08kWh/Nm-25%O(1.6円/Nm-25%O)にまで低減できる。CMSの吸着容量を2倍にすることが期待されており、この場合、電力原単位0.04kWh/Nm-25%O(0.8円/Nm-25%O)と酸素富化PSA法の半分以下に低減できることが試算されている。
【0041】
本実施例及び比較例では、第1のガスを酸素、第2のガスを窒素として説明したが、これに限らず、第1のガスを二酸化炭素、第2のガスをメタンとする等、ガスの種類に応じて第1のガスと第2のガスを適宜変更するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のガス濃縮装置の適用先として、工業炉が想定される。圧力損失を嫌う各種燃焼装置との相性も良く、大型化も比較的容易であることから導入しやすく、一層省エネルギー効果が期待できる。酸素濃度を25~30%程度に高めた酸素富化燃焼は、燃料消費量を約1~3割削減できる等省エネルギー性に優れており、工業炉等の燃料削減に貢献する。また、空気極の酸素濃度上昇により発電効率向上が期待できるSOFC(固体酸化物形燃料電池)も有望な適用先である。
【0043】
本発明は酸素と窒素の速度分離であるが、CMSで吸着速度差をつけることができるガスであれば、メタンと二酸化炭素の分離、水素とその他の物質の分離、プロパンガスとプロピレンの分離等も可能であり、本発明のフローを使用でき、数種類の混合ガスからの成分分離に展開することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 吸着ロータ
2 処理ゾーン
3 再生ゾーン
4 パージゾーン
5 再生ヒータ
6、7、8、9、11、12 送風機
10 ヒータ
21 第1の処理ゾーン
22 第2の処理ゾーン
23 第3の処理ゾーン
31 第1の再生ゾーン
32 第2の再生ゾーン
51、52 再生ヒータ
図1
図2
図3
図4