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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007547
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車両制御装置及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/12 20120101AFI20250109BHJP
【FI】
B60W50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109020
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 雄佑
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA00
3D241BA60
3D241BB04
3D241CD07
3D241DA23Z
3D241DD07Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】車両周辺情報がモニタに表示されている場合であっても発進抑制制御を解除してしまうことのない車両制御装置を提供する。
【解決手段】車両制御装置(DS)は、車両周辺画像を車室内のモニタ(81)に表示可能に構成された周辺状況表示装置と、車両の運転者の視線方向及び運転者の顔向き方向を含む運転者情報を取得する運転者監視装置(100)と、車両のシフトレンジに基いて推定される車両の発進方向と運転者の顔向き方向とが一致していない不一致状況が発生している場合、車両の発進を抑制する発進抑制制御を実行可能に構成されたコントローラ(10)と、を備える。コントローラは、不一致状況が発生している場合であっても、運転者の視線方向がモニタに向かう方向であってモニタが前記車両周辺画像を表示しているときには、発進抑制制御を実行しない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺領域を撮像することにより画像データを生成するカメラ装置と、
前記画像データに基づく車両周辺画像を車室内のモニタに表示可能に構成された周辺状況表示装置と、
前記車両の運転者の視線方向及び当該運転者の顔が向いている方向である顔向き方向を含む運転者情報を取得する運転者監視装置と、
前記車両のシフトレンジに基いて推定される前記車両の発進方向と、前記運転者の顔向き方向と、が一致していない不一致状況が発生している場合、前記車両の発進を抑制する発進抑制制御を実行可能に構成されたコントローラと、
を備えた車両制御装置において、
前記コントローラは、
前記不一致状況が発生している場合であっても、前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向である場合、前記発進抑制制御を実行しないことを許容するように構成された、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記コントローラは、
前記不一致状況が発生しているが前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向である場合、
前記モニタが前記車両周辺画像を表示しているとき前記発進抑制制御を実行せず、
前記モニタが前記車両周辺画像を表示していないとき前記発進抑制制御を実行する、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記モニタは前記運転者が前記車両の運転席に着座した状態において当該運転者の前方に配置されており、
前記コントローラは、
前記不一致状況の一つとして、前記車両の発進方向が後退方向であって且つ前記運転者の顔向き方向が前方であるとの状況、が発生している場合、
前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向であって且つ前記モニタが前記車両周辺画像を表示しているとき前記発進抑制制御を実行せず、
前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向でないとき、又は、前記モニタが前記車両周辺画像を表示していないとき、前記発進抑制制御を実行する、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記モニタは前記運転者が前記車両の運転席に着座した状態において当該運転者の前方に配置されており、
前記コントローラは、
前記不一致状況の一つとして、前記車両の発進方向が前進方向であって且つ前記運転者の顔向き方向が前方でないとの状況、が発生している場合、前記発進抑制制御を実行し、
前記車両の発進方向が前進方向であって且つ前記運転者の顔向き方向が前方である場合、
前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向でないとき、又は、前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向であって且つ前記モニタが前記車両周辺画像を表示しているとき、前記発進抑制制御を実行せず、
前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向であって且つ前記モニタが前記車両周辺画像を表示していないとき、前記発進抑制制御を実行する、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項5】
車両のシフトレンジに基いて推定される前記車両の発進方向が後退方向であり且つ運転者の顔向き方向が前方である場合、
前記運転者の視線方向が車室内であって前記車両の運転席よりも前方に配置されたモニタに向かう方向でないとき、又は、前記モニタに前記車両の周辺状況の画像が表示されていないとき、前記車両の発進を抑制する発進抑制制御を実行し、
前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向であり且つ前記モニタに前記車両の周辺状況の画像が表示されているとき、前記発進抑制制御を実行しない、
車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が車両を発進させる操作を行った場合、状況に応じて車両の発進を抑制する発進抑制制御を実行する車両制御装置及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両制御装置の一つ(以下、「従来装置」と称する。)は、運転者の視線方向と、変速機のレンジ(シフトレンジ)に基いて定まる車両の発進方向と、が一致していない場合、車両の発進を抑制する発進抑制制御を実行する。更に、従来装置は、不要な発進抑制制御が実行されないようにするために、車両周辺監視システムが取得した車両周辺情報が運転者に通知されている場合には発進抑制制御を解除する(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-78960号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、例えば、車両周辺情報がモニタ(ディスプレイ)への車両周辺画像の表示により通知されている場合、運転者がそのモニタを見ているとは限らないので、発進抑制制御を解除してしまうことが好ましくない場合がある。本発明は、係る問題を解決するためになされた。
【0005】
本発明の一態様は、
車両の周辺領域を撮像することにより画像データを生成するカメラ装置(51-54)と、
前記画像データに基づく車両周辺画像を車室内のモニタ(81)に表示可能に構成された周辺状況表示装置(55、10、80)と、
前記車両の運転者の視線方向及び当該運転者の顔が向いている方向である顔向き方向を含む運転者情報を取得する運転者監視装置(100)と、
前記車両のシフトレンジに基いて推定される前記車両の発進方向と、前記運転者の顔向き方向と、が一致していない不一致状況が発生している場合、前記車両の発進を抑制する発進抑制制御を実行可能に構成されたコントローラ(10、60、70)と、
を備え、
前記コントローラは、前記不一致状況が発生している場合であっても、前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向である場合(ステップ320、ステップ330、ステップ340の各ステップでのYes)、前記発進抑制制御を実行しないことを許容するように構成されている(ステップ370)。
【0006】
より具体的には、コントローラは、前記不一致状況が発生しているが前記運転者の視線方向が前記モニタに向かう方向である場合、前記モニタが前記車両周辺画像を表示しているときには前記発進抑制制御を実行せず、前記モニタが前記車両周辺画像を表示していないときには前記発進抑制制御を実行する。
【0007】
本発明の態様によれば、車両の発進方向と運転者の顔向き方向とが一致していない不一致状況が発生している場合、運転者がモニタに表示された車両周辺画像を見ていると推定されるとき、発進抑制制御が実行されない。従って、運転者が車両の発進方向及びモニタに表示されている車両周辺画像の何れも見ていない状況で発進操作を行った際に発進抑制制御が行われないという事態、及び、運転者がモニタに表示されている車両周辺画像を見ているから発進抑制制御が不要と考えられる場合に発進抑制制御が実行されて運転者に違和感を与える事態、を回避することができる。
【0008】
なお、本発明は、上記車両制御装置が実施する車両制御方法及びそのプログラムにも及ぶ。更に、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えている。しかしながら、本発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る車両制御装置の概略構成図である。
図2】モニタ(ディスプレイ)に表示される車両周辺画像の一例である。
図3】車両制御ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
図4】車両制御ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
図5】車両制御ECUのCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(構成)
本発明の実施形態に係る車両制御装置DS(以下、「装置DS」と称呼する。)は、図1に示した構成要素(カメラ、センサ、ECU及びアクチュエータ等)を備えている。装置DSは車両に適用(搭載)されている。
【0011】
本明細書において、「ECU」はCPU(プロセッサ)及びメモリ等を含むマイクロコンピュータを主要部として備える電子式制御装置(Electronic Control Unit)であり、コントローラとも称呼される。複数のECUを含む図1に示した構成要素は、CAN(Controller Area Network)を通して互いに情報交換可能に接続されている。
【0012】
車両制御ECU10は、後述する「車両制御としての発進抑制制御」を実行する。
【0013】
前方カメラ装置20は、前方カメラ21とイメージECU22とを含む。前方カメラ21は、所定時間が経過する毎に「車両の前方のシーン(路面及び物標を含む。)」を撮像して前方カメラ画像データを取得する。イメージECU22は、前方カメラ21からの前方カメラ画像データを解析することにより、前方カメラ画像データ内の物標の「位置、相対縦速度、相対横速度及び種別」等を含む前方カメラ物標情報を生成し、車両制御ECU10に送信する。
【0014】
前方レーダ装置30は、車両の前方に存在する物標についての情報をミリ波帯の電波を用いて取得する周知の装置であって、前方レーダ31と前方レーダECU32とを含む。前方レーダ31は、送信した電波についての情報と受信した反射波についての情報とを所定時間が経過する毎に前方レーダECU32に送信する。前方レーダECU32は、前方レーダ31からの情報に基いて、前方レーダ31の検出範囲内に存在する物標についての物標情報である「前方レーダ物標情報」を取得し、車両制御ECU10に送信する。前方レーダ物標情報は、物標までの距離、物標の方位及び物標の相対速度等を含む。
【0015】
超音波センサ装置40は、複数の超音波センサ(クリアランスソナー)41とソナーECU42とを含む。複数の超音波センサ41のそれぞれは車両の車体の周囲の所定位置に配置されていて、超音波を放射し且つ物体にて反射された超音波を受信する。ソナーECU42は、各超音波センサ41からの「超音波の放射タイミング及び反射された超音波の受信タイミングについての情報」に基いて、車両の周辺に存在する物標に関する情報を「ソナー物標情報」として取得し、車両制御ECU10に送信する。ソナー物標情報は、車両に対する物標の位置及び車体と物標との距離を含む。
【0016】
PVM(パノラミック・ビュー・モニタ)カメラ装置50は、前方PVMカメラ51、左方PVMカメラ52、右方PVMカメラ53、後方PVMカメラ54及びPVM・ECU55を備えている。PVMカメラ51-54のそれぞれは、超広角レンズを備える。
【0017】
前方PVMカメラ51、左方PVMカメラ52、右方PVMカメラ53及び後方PVMカメラ54は、所定時間が経過する毎に、車両の前方及び前側方のシーン、車両の左方のシーン、車両の右方のシーン及び車両の後方のシーンをそれぞれ撮像して画像データを取得する。
【0018】
PVM・ECU55は、PVMカメラ51-54から送信されてくる画像データに基いて、車両の俯瞰画像のデータ及び進行方向画像のデータを生成し、車両制御ECU10に送信する。なお、PVMカメラ51-54の構造、俯瞰画像及び進行方向画像は周知である(例えば、特開2022-86516号公報、特開2020-117128号公報、及び、特開2019-016825号公報等を参照。)。
【0019】
車両制御ECU10は、所定の周辺監視条件が成立した場合、PVM・ECU55からの「俯瞰画像のデータ及び進行方向画像のデータ」を表示ECU80に送信し、表示ECU80は、それらの画像データに基く「俯瞰画像及び進行方向画像」を「車両の周辺の状況を監視するための画像(車両周辺画像)」としてモニタ81に表示させる(図2を参照。)。所定の周辺監視条件は、例えば、車速SPDが所定の周辺監視車速閾値以下であり、且つ、運転者のモニタ81に対するタッチ操作により車両周辺監視機能がオン設定されているときに成立する。周辺監視条件が成立していて、後述するシフトポジションセンサ94から得られるシフトレンジが前進レンジ又はその他のレンジであるとき、進行方向画像は前方PVMカメラ51が取得した画像データに基づく車両前方の画像となる。周辺監視条件が成立していて、後述するシフトポジションセンサ94から得られるシフトレンジが後退レンジであるとき、進行方向画像は後方PVMカメラ54が取得した画像データに基づく車両後方の画像となる。周辺監視条件が成立していない場合、表示ECU80はモニタ81に「車両周辺画像以外の画像(例えば、地図画像)」を表示する。
【0020】
パワートレーンECU60は、パワートレーンアクチュエータ61を駆動可能に接続されている。アクチュエータ61は、車両の駆動装置(自車両の駆動力源)が発生するトルクを変更可能である。駆動装置が発生するトルクはギヤ機構を介して駆動輪に伝達される。従って、パワートレーンECU60は車両の駆動力を制御可能である。
【0021】
車両の駆動装置がガソリン燃料の内燃機関である場合、アクチュエータ61は例えばスロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータである。車両は電気自動車であってもよく、その場合、アクチュエータ61は電動モータのトルクを変更可能なインバータである。更に、車両はハイブリッド車両であってもよく、その場合、アクチュエータ61は電動モータ用のインバータ及び内燃機関のスロットル弁アクチュエータを含む。
【0022】
ブレーキECU70は、ブレーキアクチュエータ71を駆動することにより、車両の各車輪に配設された摩擦ブレーキ装置(制動装置)を制御し、車両に付与される制動力(摩擦制動力)を変更する。従って、ブレーキECU70は、制動力を制御可能である。
【0023】
表示ECU80は、モニタ(ディスプレイ)81に所定の画像を表示させることができる。モニタ81は、車室内であって、車両の運転席の前方(即ち、運転席に着座した運転者よりも前方)の所定位置(例えば、センタークラスター部分)に固定されている。従って、運転者がモニタ81を見ている場合、運転者の顔が向いている方向である顔向き方向は車両の前方である。
【0024】
車両制御ECU10は、更に、以下に述べるセンサと接続され、これらのセンサの出力値(検出値)を入力するようになっている。
・車両の速度(即ち、車速SPD)を検出する車速センサ91。
・車両のアクセルペダルの操作量APを検出するアクセルペダル操作量センサ92。
・車両のブレーキペダルの操作量BPを検出するブレーキペダル操作量センサ93。
・車両のシフトレバーの位置(シフトレンジ)を検出するシフトポジションセンサ94。
なお、本例において、シフトポジションセンサ94は、シフトレンジが「車両を前進させる前進レンジ(D)、車両を後退させる後退レンジ(R)、その他のレンジ(N・P)の何れであるかを示す信号を出力する。車両制御ECU10は、車両の運転状態を表す他のセンサにも接続されている。
【0025】
運転者監視装置(ドライバモニタ)100は、車両の運転者の状態(運転者の視線方向及び運転者の顔向き方向を含む。)を表す情報(運転者情報)を取得する装置であって、ドライバモニタカメラ101とドライバモニタECU102とを含む。運転者監視装置100自体は周知であり、例えば、特開2019-87143号公報、特開2019-87029号公報、特開2016-38866号公報及び特開2013-152700号公報に開示されている。
【0026】
ドライバモニタカメラ101は、車両の運転席の前方の適所(例えば、ステアリングコラムの上部)に配設され、運転者の顔を所定時間が経過する毎に撮影して顔画像データを生成する。ドライバモニタECU102は、ドライバモニタカメラ101から送信されてくる顔画像データに基いて上記運転者情報を取得し、車両制御ECU10に送信する。
【0027】
簡単に述べると、ドライバモニタECU102は、ドライバモニタカメラ101からの顔画像データに基いて顔画像を生成し、生成された顔画像を回転させ、その回転された顔画像と予め記憶されている「運転者が正面を向いているときの顔形状データ」との一致率が最大となるときの顔画像の回転角度に基いて、運転者の顔向き方向を取得する。
【0028】
ドライバモニタECU102は、生成された運転者の顔画像から顔領域を特定し、眼、鼻及び口等の顔部品の特徴点を抽出することによって顔部品を検出する。更に、ドライバモニタECU102は、プルキニエ像(角膜反射像)の位置と瞳孔中心の位置とを検出し、プルキニエ像と瞳孔中心との位置関係を求める。そして、ドライバモニタECU102は、プルキニエ像と瞳孔中心との位置関係と、運転者の顔向き方向と、に基づいて、運転者の視線方向を取得する。
【0029】
(作動の概要)
装置DSは、シフトレンジに基いて推定される車両の発進方向、運転者の視線方向、運転者の顔向き方向及びモニタ81に車両周辺画像が表示されているか否かに基いて、運転者が異常な発進操作を行っているか否かを判定し、その結果に基いて、車両の発進を抑制する発進抑制制御を実行したり発進抑制制御の実行を解除したりする。発進抑制制御は、アクセルペダル操作量APに関わらず、例えば、スロットル弁の開度をゼロにすることにより、車両の駆動力をクリープ走行に必要な駆動力(クリープ走行用駆動力)に維持する制御である。即ち、発進抑制制御は、アクセルペダル操作量APにより決まる通常の駆動力よりも小さい駆動力を発生させる制御である。発進抑制制御は、更に、車両を停止させるか、車速が極めて低速なクリープ車速以下に低下するまで、車両に制動力を加える制動力制御を含んでいてもよい。
【0030】
(具体的作動)
車両制御ECU10のCPU(以下、単に「CPU」と称呼する。)は、図3乃至図5にフローチャートにより示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行する。
【0031】
<発進方向が後退方向である場合の異常発進操作判定>
適当な時点が到来すると、CPUは図3のステップ300から処理を開始してステップ310に進み、車速SPDが第1車速閾値SPD1th以下であるか否かを判定する。第1車速閾値SPD1thは、車両が発進前の状態であるか否かを判定することが可能となるように極めて小さい所定値に設定されている。
【0032】
車速SPDが第1車速閾値SPD1th以下である場合、CPUはステップ310からステップ320に進み、シフトポジションセンサ94からの信号に基いてシフトレンジが後退レンジであるか否か(車両の発進方向が後退方向であるか否か)を判定する。
【0033】
シフトレンジが後退レンジである場合、CPUはステップ320からステップ330に進み、運転者の顔向き方向が前方であるか否かを上述した運転者情報に基いて判定する。例えば、CPUは、運転者の顔向き方向が車両の前後方向軸から左右方向へ90度の方向の範囲内であるとき、運転者の顔向き方向が前方であると判定する。運転者の顔向き方向が前方でない場合(即ち、運転者が後方を向いている場合)、CPUはステップ330から後述するステップ370に直接進む。
【0034】
これに対し、運転者の顔向き方向が前方である場合(即ち、発進方向と顔向き方向とが一致していない不一致状況が発生している場合)、CPUはステップ330からステップ340に進み、運転者の視線方向がモニタ81に向かう方向(モニタ方向)であるか否かを判定する。運転者の視線方向がモニタ方向でない場合、異常発進操作であるとしてCPUはステップ340からステップ350に進み、発進操作異常フラグXijoの値を「1」に設定し、その後、ステップ395に進んで本ルーチンを終了する。
【0035】
これに対し、運転者の視線方向がモニタ方向である場合、CPUはステップ340からステップ360に進み、モニタ81に車両周辺画像が表示されているか否かを判定する。車両周辺画像が表示されていない場合、異常発進操作であるとしてCPUはステップ360からステップ350に進み、発進操作異常フラグXijoの値を「1」に設定し、その後、ステップ395に進む。
【0036】
これに対し、車両周辺画像が表示されている場合、正常発進操作であるとしてCPUはステップ360からステップ370に進み、発進操作異常フラグXijoの値を「0」に設定し、その後、ステップ395に進む。なお、発進操作異常フラグXijoの値は、車両が停止したときに「0」に設定される。
【0037】
更に、ステップ310及びステップ320にて判定される条件の少なくとも一方が成立していない場合、CPUはステップ310又はステップ320からステップ395に直接進む。
【0038】
<発進方向が前進方向である場合の異常発進操作判定>
適当な時点が到来すると、CPUは図4のステップ400から処理を開始してステップ410に進み、車速SPDが第1車速閾値SPD1th以下であるか否かを判定する。車速SPDが第1車速閾値SPD1th以下である場合、CPUはステップ410からステップ420に進み、シフトポジションセンサ94からの信号に基いてシフトレンジが前進レンジであるか否か(車両の発進方向が前進方向であるか否か)を判定する。
【0039】
シフトレンジが前進レンジである場合、CPUはステップ420からステップ430に進み、運転者の顔向き方向が前方であるか否かを上述した運転者情報に基いて判定する。運転者の顔向き方向が前方でない場合(即ち、不一致状況が発生している場合)、モニタ81が運転者の前方にあることから運転者の視線方向がモニタ方向である可能性はない。即ち、異常発進操作が発生する恐れがある。そこで、CPUはステップ430からステップ440に進んで発進操作異常フラグXijoの値を「1」に設定し、その後、ステップ495に進んで本ルーチンを終了する。
【0040】
これに対し、運転者の顔向き方向が前方である場合、CPUはステップ430からステップ450に進み、運転者の視線方向がモニタ方向であるか否かを判定する。運転者の視線方向がモニタ方向でない場合、運転者は車両前方を注視している。この場合、CPUは正常発進操作であるとして、後述するステップ470に直接進む。
【0041】
これに対し、運転者の視線方向がモニタ方向である場合、CPUはステップ450からステップ460に進み、モニタ81に車両周辺画像が表示されているか否かを判定する。車両周辺画像が表示されていない場合、CPUは異常発進操作であるとしてステップ460からステップ440に進んで発進操作異常フラグXijoの値を「1」に設定し、その後、ステップ495に進む。
【0042】
これに対し、車両周辺画像が表示されている場合、CPUは正常発進操作であるとしてステップ460からステップ470に進み、発進操作異常フラグXijoの値を「0」に設定し、その後、ステップ495に進む。
【0043】
なお、ステップ410及びステップ420にて判定される条件の少なくとも一方が成立していない場合、CPUはステップ410又はステップ420からステップ495に直接進む。
【0044】
<発進抑制制御>
更に、適当な時点が到来すると、CPUは図5のステップ500から処理を開始してステップ510に進み、発進抑制制御フラグXykの値が「0」であるか否かを判定する。即ち、CPUは、現時点において発進抑制制御が実行されていないか否かを判定する。
【0045】
発進抑制制御フラグXykの値が「0」である場合、CPUはステップ510からステップ520に進み、車速SPDが「第1車速閾値SPD1thよりも高い第2車速閾値SPD2th」以下であるか否かを判定する。車速SPDが第2車速閾値SPD2th以下でない場合、CPUはステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。これに対し、車速SPDが第2車速閾値SPD2th以下である場合、CPUはステップ520からステップ530に進んで、発進操作異常フラグXijoの値が「1」であるか否かを判定する。
【0046】
発進操作異常フラグXijoの値が「1」である場合、CPUはステップ530からステップ540に進み、発進抑制制御を実行するために、発進抑制制御フラグXykの値を「1」に設定する。その後、CPUはステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、CPUは図示しないルーチンを実行して、発進抑制制御フラグXykの値が「1」である場合にはパワートレーンECU60及びブレーキECU70に指示を送信して上述した発進抑制制御を実行する。
【0047】
CPUがステップ530に進んだとき、発進操作異常フラグXijoの値が「0」である場合、CPUはステップ530からステップ550に進み、アクセルペダルの急踏込があり、且つ、車両が障害物と衝突する可能性があるか否か(即ち、衝突条件が成立するか否か)を判定する。具体的には、CPUは、アクセルペダル操作量APの単位時間あたりの増加量が閾値増加量以上であり、シフトレンジから推定される車両の発進方向であって車両から閾値距離以下の位置に障害物が存在するか否かを、アクセルペダル操作量AP、前方カメラ物標情報、レーダ物標情報及びソナー物標情報等に基いて判定する。そして、衝突条件が成立する場合にはCPUはステップ550からステップ540に進み、衝突条件が成立しない場合にはCPUはステップ550からステップ595に進む。
【0048】
CPUがステップ510にて「No」と判定した場合、CPUはステップ510からステップ560に進み、発進抑制制御の終了条件が成立したか否かを判定する。この終了条件は、例えば、ブレーキペダル操作量BPが閾値BP以上(即ち、ブレーキ操作がなされている)であり、且つ、車速SPDが「0」になった場合に成立する。終了条件が成立していない場合、CPUはステップ560からステップ595に進む。終了条件が成立している場合、CPUはステップ560からステップ570に進み、発進抑制制御を終了するために発進抑制制御フラグXykの値を「0」に設定し、ステップ595に進む。
【0049】
以上、説明したように、装置DSは、上記不一致状況が発生している場合に発進抑制制御を実行するが、上記不一致状況が発生していも運転者がモニタ81に表示されている車両周辺情報を注視していると推定される場合には発進抑制制御を実行しない。従って、発進抑制制御の実行・非実行(実行の解除)を適切に行うことができる。なお、装置DSは所定条件成立時に自動運転制御を実行する車両にも適用可能である。また、モニタ81は車両室内の複数個所に設けられていてもよく、その場合、運転者の視線方向が各モニタに向かっているか否かを判定できる位置にドライバモニタカメラが備えられる。
【符号の説明】
【0050】
10…車両制御ECU、20…前方カメラ装置、30…前方レーダ装置、40…超音波センサ装置、50…PVMカメラ装置、60…パワートレーンECU、70…ブレーキECU、81…モニタ(ディスプレイ)、94…シフトポジションセンサ、100…運転者監視装置(ドライバモニタ)。
図1
図2
図3
図4
図5