(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007560
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】透過電子顕微鏡及び透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20250109BHJP
G01N 23/20 20180101ALI20250109BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20250109BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N23/04
G01N23/20 380
H01J37/26
H01J37/22 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109045
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】大脇 健史
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001BA14
2G001BA30
2G001CA03
2G001DA03
2G001DA09
2G001GA13
2G001HA13
2G001JA02
2G001KA08
2G001SA01
5C101AA04
5C101AA13
5C101AA14
5C101AA16
5C101BB03
5C101EE04
5C101EE15
5C101EE19
5C101EE45
5C101EE69
5C101GG37
5C101HH25
(57)【要約】
【課題】広範囲且つ高解像度で試料の分析をおこなうことができる透過電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】実施形態の透過電子顕微鏡は、試料に対して所定の入射角度で平行な電子線を照射可能な照射部と、試料を保持可能な試料保持部と、試料を透過した、又は試料によって散乱された電子線の進行方向下流側に位置し、開口を有する絞り部と、絞り部の開口の、電子線の進行方向下流側に位置し、絞り部によって選択された電子線を結像する結像レンズと、結像レンズの、電子線の進行方向下流側に位置し、結像レンズによって結像された明視野像及び暗視野像を撮像する、撮像面を有する撮像部と、明視野像及び暗視野像に基づいて試料の分析を行う分析部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して所定の入射角度で平行な電子線を照射可能な照射部と、
前記試料を保持可能な試料保持部と、
前記試料を透過した、又は前記試料によって散乱された前記電子線の進行方向下流側に位置し、開口を有する絞り部と、
前記絞り部の開口の、前記電子線の進行方向下流側に位置し、前記絞り部によって選択された前記電子線を結像する結像レンズと、
前記結像レンズの、前記電子線の進行方向下流側に位置し、前記結像レンズによって結像された明視野像及び暗視野像を撮像する、撮像面を有する撮像部と、
前記明視野像及び前記暗視野像に基づいて前記試料の分析を行う分析部と、
を備える透過電子顕微鏡。
【請求項2】
前記分析部は、複数の前記入射角度を用いて得られた、前記明視野像又は前記暗視野像を含む複数の画像における、それぞれの電子線強度を用いて分析を行う、
請求項1記載の透過電子顕微鏡。
【請求項3】
前記分析部は、前記複数の入射角度のうちの一の前記入射角度について得られた前記明視野像又は前記暗視野像について、前記撮像面に平行な第1方向における前記入射角度の第1角度を第1軸、前記撮像面に平行で前記第1方向に交差する第2方向における前記入射角度の第2角度を第2軸として、前記明視野像又は前記暗視野像の電子線強度をプロットしたデータに基づき、前記試料の分析を行う、
請求項1記載の透過電子顕微鏡。
【請求項4】
前記分析部は、前記明視野像又は前記暗視野像の、3nm角より大きく10μm角より小さい範囲内で、電子線強度を処理してプロットする、
請求項3記載の透過電子顕微鏡。
【請求項5】
前記分析部は、前記データに基づき、前記試料について、結晶、非結晶又は結晶粒の分類を行う、
請求項3記載の透過電子顕微鏡。
【請求項6】
試料に対して所定の入射角度で平行な電子線を照射し、
前記試料を透過した、又は前記試料によって散乱された前記電子線の進行方向下流側に位置し、開口を有する絞り部によって選択された前記電子線を結像レンズによって結像し、
前記結像レンズによって結像された明視野像及び暗視野像を撮像し、
前記明視野像及び前記暗視野像に基づいて前記試料の分析を行う、
透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、透過電子顕微鏡及び透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡では、電子銃を含む照射部から電子線を照射する。照射された電子線は、試料を透過、又は試料によって散乱される。この電子線は、撮像部によって撮像される。撮像部によって得られた画像は、試料の分析に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態の目的は、広範囲且つ高解像度で試料の分析をおこなうことができる透過電子顕微鏡及び透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の透過電子顕微鏡は、試料に対して所定の入射角度で平行な電子線を照射可能な照射部と、試料を保持可能な試料保持部と、試料を透過した、又は試料によって散乱された電子線の進行方向下流側に位置し、開口を有する絞り部と、絞り部の開口の、電子線の進行方向下流側に位置し、絞り部によって選択された電子線を結像する結像レンズと、結像レンズの、電子線の進行方向下流側に位置し、結像レンズによって結像された明視野像及び暗視野像を撮像する、撮像面を有する撮像部と、明視野像及び暗視野像に基づいて試料の分析を行う分析部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】実施形態における、試料に対する電子線eの入射角度を説明するための模式図である。
【
図3】実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法のフローチャートである。
【
図4】実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法の一例を示す模式図である。
【
図5】実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法の一例を示す模式図である。
【
図6】実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法の一例を示す模式図である。
【
図7】実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法の一例を示す模式図である。
【
図8】実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法の一例を示す模式図である。
【
図9】実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法の他の一例を示す模式図である。
【
図10】実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法の他の一例を示す模式図である。
【0007】
以下、図面を用いて実施形態を説明する。なお、図面中、同一又は類似の箇所には、同一又は類似の符号を付している。
【0008】
本明細書中、部品等の位置関係を示すために、図面の上方向を「上」、図面の下方向を「下」と記述する。本明細書中、「上」、「下」の概念は、必ずしも重力の向きとの関係を示す用語ではない。
【0009】
(実施形態)
実施形態の透過電子顕微鏡は、試料に対して所定の入射角度で平行な電子線を照射可能な照射部と、試料を保持可能な試料保持部と、試料を透過した、又は試料によって散乱された電子線の進行方向下流側に位置し、開口を有する絞り部と、絞り部の開口の、電子線の進行方向下流側に位置し、絞り部によって選択された電子線を結像する結像レンズと、結像レンズの、電子線の進行方向下流側に位置し、結像レンズによって結像された明視野像及び暗視野像を撮像する、撮像面を有する撮像部と、明視野像及び暗視野像に基づいて試料の分析を行う分析部と、を備える。
【0010】
図1は、実施形態の透過電子顕微鏡100の模式図である。
図2は、実施形態における、試料に対する電子線eの入射角度を説明するための模式図である。
【0011】
透過電子顕微鏡100は、照射部2と、試料保持部4と、対物レンズ6と、絞り部8と、結像レンズ9と、撮像部10と、制御部12と、分析部14と、を備える。
【0012】
試料Sは、試料面S1を有する。
【0013】
撮像部10は、撮像面11を有する。
【0014】
照射部2は、図示しない電子銃を有する。電子銃は、電子線eを放出する。なお、照射部2は、例えば、さらに、図示しない集束レンズを有する。かかる集束レンズは、電子線の平行性を維持しつつ、電子線eを絞り込める電場及び磁場を形成することが出来る。かかる集束レンズにより、電子銃から放出された電子線eは、平行な電子線となる。集束レンズは、例えば、電磁レンズである。なお、照射部2は、電子線eの平行性及び集束性を確保するために、複数の図示しない集束レンズを有していてもかまわない。
【0015】
ここで、X方向と、X方向に対して垂直に交差するY方向と、X方向及びY方向に垂直に交差するZ方向を定義する。試料Sの試料面S1、絞り部8、及び撮像部10の撮像面11は、Z方向に垂直な面内に設けられている。試料Sの試料面S1、絞り部8及び撮像部10の撮像面11は、XY面に平行に設けられている。
【0016】
電子線eは、照射部2を用いて、所定の入射角度で、試料Sの試料面S1に入射される。
【0017】
ここで、所定の角度について説明する。
図2(a)に示すように、XY面に平行な面内において、電子線eは、X方向に対する角度φで、試料Sの試料面S1に入射される。
【0018】
また、
図2(b)に示すように、電子線eは、試料Sの試料面S1に、-Z方向に対する角度θで、試料Sの試料面S1に入射される。これをさらに
図2(c)及び
図2(d)を用いて説明する。
図2(c)に示すように、XZ面に平行な面内において、電子線eは、-Z方向に対する角度θx(tiltX)で、試料Sの試料面S1に入射される。また、
図2(d)に示すように、YZ面に平行な面内において、電子線eは、-Z方向に対する角度θy(tiltY)で、試料Sの試料面S1に入射される。
【0019】
角度φ、角度θx(tiltX)及び角度θy(tiltY)は、例えば、図示しない、照射部2のディフレクター(偏光器)を用いて変化させることが可能である。
【0020】
なお、
図2(b)、
図2(c)及び
図2(d)においては、透過電子顕微鏡100の光軸Oがあわせて示されている。光軸Oは、例えば、Z軸に平行である。
【0021】
試料Sは、試料保持部4によって、試料面S1がXY面に平行になるように、保持されている。
【0022】
試料Sを透過した、又は試料Sによって散乱された電子線eは、電子線eの進行方向下流側に位置した対物レンズ6及び絞り部8を用いて、撮像部10の撮像面11に結像される。ここで、電子線eの進行方向下流側は、-Z方向の側である。
【0023】
対物レンズ6は、例えば、電磁レンズである。
【0024】
絞り部8は、Z方向に平行な方向に、電子線eを遮蔽できる程度の厚さを有する。絞り部8は、開口8aを有する。電子線eは、開口8aを通過可能である。
【0025】
結像レンズ9は、例えば、電磁レンズを有する。なお、結像レンズ9は、図示しない他の結像に用いられる機構を有していてもかまわない。
【0026】
撮像部10は、例えばカメラである。また、撮像面11は、例えばカメラの撮像素子が設けられた面である。絞り部8及び結像レンズ9により、撮像面11に、試料Sの明視野像(BF像:Bright-field imaging)又は暗視野像(DF像:Dark-field imaging)が結像される。
【0027】
撮像部10は、撮像面11に結像された明視野像及び暗視野像を撮像する。
【0028】
ここで、明視野像は、試料Sを透過した電子線eのみを結像することにより得られる像である。暗視野像は、試料Sによって散乱された電子線eのうち、特定の電子線eのみを結像することにより得られる像である。
【0029】
制御部12は、例えば、照射部2の電子銃からの、電子線eの放出の制御、照射部2の集束レンズによる、電子線eの集束の制御、及び照射部2による、試料Sに対する電子線eの入射角度の制御を行う。また制御部12は、対物レンズ6の、例えば励磁量等を制御して、明視野像及び暗視野像のフォーカスを制御する。また、制御部12は、例えば、XY面内における絞り部8の移動を制御する。また、制御部12は、例えば、絞り部8の開口8aの大きさを制御する。また、制御部12は、例えば、撮像部10の露光時間の制御を行う。また、制御部12は、例えば、試料保持部4を用いた試料Sの移動や、試料Sの傾斜についての制御を行ってもかまわない。
【0030】
分析部14は、撮像部10によって撮像された明視野像及び暗視野像に基づいて、試料Sの分析を行う。
【0031】
制御部12及び分析部14は、例えば、電子回路である。制御部12及び分析部14は、例えば、演算回路等のハードウェアとプログラム等のソフトウェアの組み合わせで構成されるコンピュータである。
【0032】
図3は、実施形態の透過電子顕微鏡100を用いた試料分析方法のフローチャートである。
図4乃至
図8は、実施形態の透過電子顕微鏡100を用いた試料分析方法の一例を示す模式図である。
【0033】
実施形態の透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法は、試料に対して所定の入射角度で平行な電子線を照射し、試料を透過した、又は試料によって散乱された電子線の進行方向下流側に位置し、開口を有する絞り部によって選択された電子線を結像レンズによって結像し、結像レンズによって結像された明視野像及び暗視野像を撮像し、明視野像及び暗視野像に基づいて試料の分析を行う。
【0034】
図3乃至
図8を用いて、実施形態の透過電子顕微鏡100を用いた試料分析方法について説明をする。
【0035】
まず、試料Sを、試料保持部4に載置する(
図3のS102)。
【0036】
次に、制御部12は、例えば、照射部2を制御して、試料S上における電子線の照射地点を設定する(
図3のS104)。ここで照射地点は、例えば、試料S上のX座標(X0)及びY座標(Y0)で定義される。すなわち、照射地点は、試料S上の、どの照射地点に電子線を照射するか、を示す情報である。たとえば、制御部12及び照射部2を用いて、試料Sの照射地点である観察領域を、透過電子顕微鏡の視野中心にもっていくことになる。
【0037】
次に、制御部12は、設定された照射地点に対する電子線の照射角度(tiltX0及びtiltY0)を設定する(S106)。次に、制御部12は、撮像部10を用いて、明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)を取得する(S108)。
【0038】
次に、制御部12は、当該照射地点における最後の照射角度での明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得が終了したかどうかを判断する(S110)。最後の照射角度での明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得が終了していないと判断された場合には(S110、No)、新たな電子線の照射角度(tiltX1及びtiltY1)を設定する(S112)。違う言い方をすると、最後の照射角度での明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得が終了していない場合には、電子線の照射角度が前回の値(tiltXi及びtiltYi)から次回の値(tiltXi+1及びtiltYi+1)へと変更される。そして、新たな電子線の照射角度(tiltX1及びtiltY1)で明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)が取得される(S108)。
【0039】
最後の照射角度での明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得が終了したと判断された場合には(S110、Yes)、最後の照射地点における明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得が終了したかどうかを判断する(S114、Yes)。最後の照射地点における明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得が終了していないと判断された場合には(S114、No)、新たな電子線の照射地点(X1及びY1)を設定する(S116)。違う言い方をすると、最後の照射地点における明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得が終了していない場合には、電子線の照射位置が前回の値(Xi及びYi)から次回の値(Xi+1及びYi+1)へと変更される。そして、新たな電子線の照射地点(X1及びY1)において電子線の照射角度(tiltX0及びtiltY0)が設定され(S106)、明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)が取得される(S108)。ここで、電子線の照射位置の変更は、例えば、制御部12を用いた試料Sの移動によって行われる。
【0040】
最後の照射地点における明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得が終了したと判断された場合には(S114、Yes)、分析部14は、得られた明視野像及び暗視野像に基づいて試料Sの分析を行い、分析結果を得る(S118)。この分析について、下記に述べる。
【0041】
ここで、
図4(c)、
図5(c)、
図6(c)、
図7(c)及び
図8(c)には、便宜上、それぞれ同一の像を示している。また、
図4(d)、
図5(d)、
図6(d)、
図7(d)及び
図8(d)には、便宜上、それぞれ同一の像を示している。また、
図4(e)、
図5(e)、
図6(e)、
図7(e)及び
図8(e)には、便宜上、それぞれ同一の像を示している。また、
図4(f)、
図5(f)、
図6(f)、
図7(f)及び
図8(f)には、便宜上、それぞれ同一の像を示している。また、
図4(g)、
図5(g)、
図6(g)、
図7(g)及び
図8(g)には、便宜上、それぞれ同一の像を示している。
【0042】
例えば、
図4(a)に示すように、照射部2及び絞り部8を制御して、電子線eの入射角度を変化させ、試料Sを透過した電子線eを絞り部8によって遮蔽し、試料Sによって散乱された電子線eを撮像した場合を考える。この場合に撮像された像は、
図4(g)に示す暗視野像(DF像)である。
【0043】
また、例えば、
図5(a)に示すように、照射部2及び絞り部8を制御して、電子線eの入射角度を変化させ、試料Sを透過した電子線eを絞り部8によって遮蔽し、試料Sによって散乱された電子線eを撮像した場合を考える。この場合に撮像された像は、
図5(f)に示す暗視野像(DF像)である。
【0044】
また、例えば、
図6(a)に示すように、照射部2及び絞り部8を制御して、電子線eの入射角度を変化させ、試料Sによって散乱された電子線eを絞り部8によって遮蔽し、試料Sを透過した電子線eを撮像した場合を考える。この場合に撮像された像は、
図6(e)に示す明視野像(BF像)である。
【0045】
また、例えば、
図7(a)に示すように、照射部2及び絞り部8を制御して、電子線eの入射角度を変化させ、試料Sを透過した電子線eを絞り部8によって遮蔽し、試料Sによって散乱された電子線eを撮像した場合を考える。この場合に撮像された像は、
図7(d)に示す暗視野像(DF像)である。
【0046】
また、例えば、
図8(a)に示すように、照射部2及び絞り部8を制御して、電子線eの入射角度を変化させ、試料Sを透過した電子線eを絞り部8によって遮蔽し、試料Sによって散乱された電子線eを撮像した場合を考える。この場合に撮像された像は、
図8(c)に示す暗視野像(DF像)でえる。
【0047】
分析部14は、複数の入射角度を用いて得られた、明視野像(BF像)又は暗視野像(DF像)を含む複数の画像における、それぞれの電子線強度を用いて分析を行うことが好ましい。その例について下記に記載する。
【0048】
分析部14は、例えば、複数の入射角度のうちの一の入射角度について得られた明視野像又は暗視野像について、撮像面に平行な第1方向(X方向の一例)における入射角度の第1角度(θx又はtiltXの一例)を第1軸、撮像面に平行で第1方向に交差する第2方向における入射角度の第2角度(θy又はtiltYの一例)を第2軸として、明視野像又は暗視野像の電子線強度をプロットしたデータDに基づき、試料の分析を行うことが好ましい。
【0049】
例えば、
図4(a)、
図5(a)、
図6(a)、
図7(a)及び
図8(a)では、電子線eの入射角度について、tiltYの値を一定にしたまま、tiltXの値を変化させた場合の明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)を取得しているものとする。
図4(b)、
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)及び
図8(b)は、tiltX及びtiltYに対して、明視野像又は暗視野像の電子線強度をプロットしたデータDのまとめである。それぞれの図に示した白抜きの矢印を使って、それぞれのtiltX及びtiltYに対応してプロットされたデータDを示している。電子線強度のプロットは、明視野像又は暗視野像の、3nm角より大きく10μm角より小さい範囲内で、電子線強度を処理して行われることが好ましい。3nm角以下の範囲内の場合、範囲が小さすぎて電子線強度のバラツキが大きくなり、安定した分析を行うことができない。一方10μm角以上の範囲内の場合、範囲が大きすぎて、複数の結晶粒や非晶質の部分が混じってしまい、有効な分析結果を得ることができない。ここで「処理」は、例えば電子線強度を、3nmより大きく10μm角より小さい範囲内で積分処理することである。しかし、ここでの「処理」は、積分処理に限定されるものではない。
【0050】
なお、
図4(b)、
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)及び
図8(b)では、
図4(a)、
図5(a)、
図6(a)、
図7(a)及び
図8(a)による明視野像(BF像)及び暗視野像(DF像)の取得によってそれぞれ得られるデータの位置を白抜きの矢印で変更している。
【0051】
電子線強度は色で示されている。白色となる箇所が多い場合は電子線強度が強いことを示している。黒色となる箇所が多い場合は電子線強度が低いことを示している。
【0052】
tiltX及びtiltYを変化させることにより、
図4(b)、
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)及び
図8(b)に示したデータを得ることができる。
【0053】
図9は、実施形態の透過電子顕微鏡100を用いた試料分析方法の他の一例を示す模式図である。ここで、
図9(a)に示した試料分析方法は、例えば
図4乃至
図8を用いて説明した試料分析方法の例に対応している。
図9(b)に示した試料分析方法は、試料S上の中心からの距離(r)及びXY面に平行な所定の方向からの角度(θ)で、電子線強度のデータDをプロットする試料分析方法である。どちらの試料分析方法も、好ましく用いることが出来る。また、それ以外の方法も用いることが出来る。
【0054】
図10は、実施形態の透過電子顕微鏡100を用いた試料分析方法の他の一例を示す模式図である。分析部14は、上記のデータに基づき、試料Sについて、結晶、非結晶又は結晶粒の分類を行う。
図10(a)は、試料Sの透過電子顕微鏡写真の一例である。領域1、領域3及び領域5は、アモルファス(非結晶)領域である。領域2、領域4及び領域6は、結晶粒部分である。
図10(b)は、
図10(a)で示した各領域に対応する、撮像面に平行な第1方向(X方向の一例)における入射角度の第1角度(θx又はtiltXの一例)を第1軸、撮像面に平行で第1方向に交差する第2方向における入射角度の第2角度(θy又はtiltYの一例)を第2軸として、明視野像又は暗視野像の電子線強度をプロットしたデータDである。領域1、領域3及び領域5の場合は、すべて中心が最大強度となっている。これに対して、領域2、領域4及び領域6の場合は、中心以外の部分に、強度が高い部分が見られる。このようにして、試料Sについて、結晶、非結晶又は結晶粒の分類をおこなうことが可能である。
【0055】
なお、分析部14により行われる分析は、上記のものに限定されるものではない。
【0056】
また、制御部12が、照射部2を用いて、電子線eのホローコーン照射(中空円錐照射)を行うことも、好ましい。ホローコーン照射では、電子線eを、中空円錐のパターンに成型した上で、試料Sに照射する。この場合、撮像された画像のボケやコントラスト低下の原因となる非弾性散乱の影響を軽減することが出来る。また、散乱角の小さな電子が除外されるため、撮像された画像を劣化させる多重散乱効果を抑制することが出来る。なお、ホローコーン照射の場合は、明視野像の取得及び明視野像に基づく分析は必要とされない。
【0057】
次に、実施形態の透過電子顕微鏡の作用効果を記載する。
【0058】
例えば、ナノビーム回折法(Nano-Beam Diffraction:NBD)を用いた分析は、電子線を試料S上の微小領域に集束させて測定する必要があることから、測定範囲が狭く、また、測定に時間がかかる。
【0059】
これに対して、実施形態の透過電子顕微鏡を用いた場合には、電子線を試料S上の大領域に照射して、角度を色々と変えて測定することができるから、測定範囲が広く、かつ、測定の時間がかからない。
【0060】
実施形態の透過電子顕微鏡及び透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法によれば、広範囲且つ高解像度で試料の分析をおこなうことができる透過電子顕微鏡及び透過電子顕微鏡を用いた試料分析方法の提供が可能となる。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態及び実施例を説明したが、これらの実施形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
2:照射部 4:試料保持部 6:対物レンズ 8:絞り部 8a:開口 9:結像レンズ 10:撮像部 11:撮像面 12:制御部 14:分析部 100:透過電子顕微鏡 D:データ O:光軸 S:試料 S1:試料面 e:電子線 θ:角度 θx:角度 θy:角度 φ:角度