(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007579
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】トーショナルダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/12 20060101AFI20250109BHJP
F16F 15/126 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16F15/12 Q
F16F15/126 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109074
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 慎也
(57)【要約】
【課題】振動リングのエンジン側への落下を抑制可能なトーショナルダンパーを提供する。
【解決手段】ハブ100と、ハブ100と同心的に設けられる振動リング200と、ハブ100の外筒部130と振動リング200との間に設けられる環状弾性体300と、を備え、エンジンケース内に配されるトーショナルダンパー10であって、外筒部130の外周面の寸法形状と振動リング200の内周面の寸法形状との関係により、振動リング200が外筒部130からエンジンが配される領域側に抜け出さないストッパ構造を構成することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒部と、前記内筒部に一体に設けられる外向きフランジ部と、前記外向きフランジ部の径方向外側に一体に設けられる外筒部と、を有し、前記内筒部がクランクシャフトに固定されるハブと、
前記ハブと同心的に設けられる振動リングと、
前記外筒部と前記振動リングとの間に設けられる環状弾性体と、
を備え、エンジンケース内に配されるトーショナルダンパーであって、
前記外筒部の外周面の寸法形状と前記振動リングの内周面の寸法形状との関係により、前記振動リングが前記外筒部からエンジンが配される領域側に抜け出さないストッパ構造が構成されていることを特徴とするトーショナルダンパー。
【請求項2】
前記外筒部における外周面の幅方向の中央には径方向外側に突出する環状突出部を有しており、
前記環状突出部の最大外径は、前記振動リングの内周面のうち前記環状突出部よりもエンジンが配される領域とは反対側の最小内径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のトーショナルダンパー。
【請求項3】
前記環状突出部の最大外径は、前記振動リングの内周面のうち前記環状突出部よりもエンジンが配される領域側の最小内径よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載のトーショナルダンパー。
【請求項4】
前記振動リングにおける内周面の幅方向の中央には径方向内側に突出する環状突出部を有しており、
前記環状突出部の最小内径は、前記外筒部の外周面のうち前記環状突出部よりもエンジンが配される領域側の最大外径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のトーショナルダンパー。
【請求項5】
前記環状突出部の最小内径は、前記外筒部の外周面のうち前記環状突出部よりもエンジンが配される領域とは反対側の最大外径よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載のトーショナルダンパー。
【請求項6】
前記環状弾性体の端面は、前記外筒部の端面、及び前記振動リングの端面よりも内側に位置することを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載のトーショナルダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーショナルダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランクシャフトに設けられるトーショナルダンパーには、その外周面側にベルトを回すためのプーリーが設けられており、補機を駆動するための役割も担っている。そのため、トーショナルダンパーはエンジンケースの外側(フロントカバーの外側)に配されている。近年、燃費向上のため、エンジンのハイブリット化が進んでおり、補機を駆動させるためのベルトが不要になってきている。これに伴い、エンジンの小型化、トーショナルダンパーからの放射音の抑制、及びオイルシールの廃止等を狙って、トーショナルダンパーをエンジンケース内に配置させる開発が進んでいる。
【0003】
しかしながら、トーショナルダンパーをエンジンケース内に配置させる場合、飛び散るオイルに曝され、かつ、エンジンケース内の温度が高くなるなど、使用環境条件が大きく変わる。そのため、耐油性の向上、耐熱性の向上、トーショナルダンパーを構成するハブと振動リングとの間に設けられる環状弾性体の高温化の抑制、及び、環状弾性体が万一破損しても振動リングがエンジン側に落下しないようにすることなど、種々の新たな課題が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、振動リングのエンジン側への落下を抑制可能なトーショナルダンパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明のトーショナルダンパーは、
内筒部と、前記内筒部に一体に設けられる外向きフランジ部と、前記外向きフランジ部の径方向外側に一体に設けられる外筒部と、を有し、前記内筒部がクランクシャフトに固定されるハブと、
前記ハブと同心的に設けられる振動リングと、
前記外筒部と前記振動リングとの間に設けられる環状弾性体と、
を備え、エンジンケース内に配されるトーショナルダンパーであって、
前記外筒部の外周面の寸法形状と前記振動リングの内周面の寸法形状との関係により、前記振動リングが前記外筒部からエンジンが配される領域側に抜け出さないストッパ構造が構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、万が一、環状弾性体が破損して、振動リングがエンジン側に移動しようとしても、振動リングのエンジン側に落ちてしまうことを抑制することができる。
【0009】
前記外筒部における外周面の幅方向の中央には径方向外側に突出する環状突出部を有しており、
前記環状突出部の最大外径は、前記振動リングの内周面のうち前記環状突出部よりもエンジンが配される領域とは反対側の最小内径よりも大きいとよい。
【0010】
なお、「幅方向の中央」とは、必ずしも、幅方向の中心付近を意味するものではなく、幅方向の端部を除くことを意味する。
【0011】
これにより、振動リングがエンジン側に移動しようとしても、振動リングの内周面が、ハブの外筒部に設けられた環状突出部に引っかかるため、エンジン側に落ちることはない。
【0012】
前記環状突出部の最大外径は、前記振動リングの内周面のうち前記環状突出部よりもエンジンが配される領域側の最小内径よりも小さいとよい。
【0013】
これにより、ハブに対して振動リングを嵌めることが可能なため、製造の際に、支障を来すことはない。
【0014】
また、前記振動リングにおける内周面の幅方向の中央には径方向内側に突出する環状突出部を有しており、
前記環状突出部の最小内径は、前記外筒部の外周面のうち前記環状突出部よりもエンジンが配される領域側の最大外径よりも小さいことも好適である。
【0015】
なお、「幅方向の中央」とは、必ずしも、幅方向の中心付近を意味するものではなく、幅方向の端部を除くことを意味する。
【0016】
これにより、振動リングがエンジン側に移動しようとしても、振動リングの環状突出部が外周リングの外周面に引っかかるため、エンジン側に落ちることはない。
【0017】
前記環状突出部の最小内径は、前記外筒部の外周面のうち前記環状突出部よりもエンジンが配される領域とは反対側の最大外径よりも大きいとよい。
【0018】
これにより、ハブに対して振動リングを嵌めることが可能なため、製造の際に、支障を来すことはない。
【0019】
前記環状弾性体の端面は、前記外筒部の端面、及び前記振動リングの端面よりも内側に位置するとよい。
【0020】
これにより、環状弾性体が大きく変形してしまうことを抑制することができる。
【0021】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、振動リングのエンジン側への落下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は本発明の実施例1に係るトーショナルダンパーの正面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例1に係るトーショナルダンパーの模式的断面図である。
【
図3】
図3は本実施例1に係るトーショナルダンパーの拡大断面図である。
【
図4】
図4はトーショナルダンパーの振動特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は本発明の実施例2に係るトーショナルダンパーの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0025】
(実施例1)
図1~
図4を参照して、本発明の実施例1に係るトーショナルダンパーについて説明する。
図1は本発明の実施例1に係るトーショナルダンパーの正面図である。
図2は本発明の実施例1に係るトーショナルダンパーの模式的断面図であり、
図1中のAA断面図である。
図3は本実施例に係るトーショナルダンパーの一部拡大断面図である。
図4はトーショナルダンパーの振動特性を示すグラフであり、
図4(a)はトーショナルダンパーの固有振動数が及ぼす影響の説明図で、同図(b)は振動リングの慣性モーメントが及ぼす影響の説明図である。
【0026】
<トーショナルダンパー>
本実施例に係るトーショナルダンパー10の全体構成について説明する。本実施例に係るトーショナルダンパー10は、ハブ100と、ハブ100と同心的に設けられる振動リング200と、環状弾性体300とを備えている。
【0027】
ハブ100は金属製の環状部材である。このハブ100は、内筒部110と、内筒部110に一体に設けられる外向きフランジ部120と、外向きフランジ部120の径方向外側に一体に設けられる外筒部130とを有する。そして、内筒部110がエンジンのクランクシャフト20に固定される。なお、
図2においては、クランクシャフト20と、クランクシャフト20にトーショナルダンパー10を固定するためのボルト30の位置を点線にて示している。
【0028】
振動リング200は、金属製の環状部材である。また、環状弾性体300は、ゴム材料により構成され、ハブ100の外筒部130と振動リング200との間に設けられる。この環状弾性体300は、例えば、加硫成形により得ることができ、外筒部130と振動リング200に加硫接着される。
【0029】
以上のように構成されるトーショナルダンパー10は、エンジンケース内に配される。
図2においては、エンジンケースの一部(フロントカバーの一部)の内壁面の位置を点線Cで示している。また、
図2において、トーショナルダンパー10よりも右側がエンジンが配される領域(E)側である。
【0030】
トーショナルダンパー10においては、クランクシャフト20が共振する周波数の振動が伝わると、振動リング200が振動することによって、クランクシャフト20の共振を抑制する機能を発揮する。つまり、クランクシャフト20における回転方向(捩じれ方向)の振動に対して、クランクシャフト20の共振を抑制するように、振動リング200は設計されている。
【0031】
<トーショナルダンパーの各部材の詳細構成>
トーショナルダンパー10の各部材の詳細な構成について説明する。本実施例に係るハブ100の外筒部130においては、外周面の幅方向(トーショナルダンパー10の中心軸線が伸びる方向の幅方向)の中央には径方向外側に突出する環状突出部131を有して
いる。つまり、外筒部130の外周面は、環状突出部131が設けられた部位の外径が大きく、その両側の外径は環状突出部131の外径よりも小さく構成されている。そして、振動リング200の内周面は、外筒部130の外周面の形状に沿うように、その幅方向の中央が環状に凹んだ形状となっている。つまり、振動リング200の内周面は幅方向の中央の内径が大きく、その両側の内径は、中央の内径よりも小さくなっている。
【0032】
そして、環状突出部131の最大外径R10は、振動リング200の内周面のうち環状突出部131よりもエンジンが配される領域(E)とは反対側の最小内径R21よりも大きくなるように設定されている。また、環状突出部131の最大外径R10は、振動リング200の内周面のうち環状突出部131よりもエンジンが配される領域(E)側の最小内径R22よりも小さくなるように設定されている。
【0033】
なお、本実施例に係るトーショナルダンパー10においては、熱老化後(130℃の環境下で533時間経過後)のエンジンが配される領域(E)とは反対側への振動リング200の位置ずれ量が1mm以下となるように設定されている。これにより、振動リング200がエンジンケースの一部(フロントカバーの一部)の内壁面に接してしまうことは抑制される。
【0034】
<本実施例に係るトーショナルダンパーの優れた点>
本実施例に係るトーショナルダンパー10によれば、外筒部130の外周面の寸法形状と振動リング200の内周面の寸法形状との関係により、振動リング200が外筒部130からエンジンが配される領域側に抜け出さないストッパ構造が構成されている。より具体的には、外筒部130の外周面には環状突出部131が設けられ、上記のように、R10>R21となるように、ハブ100と振動リング200が構成されている。そのため、万が一、環状弾性体300が破損して、振動リング200がエンジン側に移動しようとしても、振動リング200の内周面が、ハブ100の外筒部130に設けられた環状突出部131に引っかかる。従って、振動リング200がエンジン側に落ちることはない。
【0035】
ここで、振動リングがエンジン側に落ちることを抑制するために、ハブの外筒部において、エンジン側の端部に、振動リングのエンジン側への移動を規制するフランジ状のストッパを設けることも考えられる。しかしながら、外筒部全体の幅を広くするには限度があるため、そのような構成を採用した場合には、環状弾性体と外筒部との嵌合部分の幅を狭くする必要がある。従って、環状弾性体が高温化する要因となってしまう。これに対して、本実施例に係るトーショナルダンパー10によれば、環状弾性体300と外筒部130との嵌合部分の幅をフランジ状のストッパを設ける場合に比べて広くすることができ、環状弾性体300の高温化を抑制することができる。これにより、環状弾性体300の破損を抑制することができる。
【0036】
また、本実施例に係るトーショナルダンパー10によれば、上記の通り、R22>R10となるように、ハブ100と振動リング200が構成されている。これにより、ハブ100に対して振動リング200を嵌めることが可能である。すなわち、ハブ100に対して振動リング200を
図2中相対的に右側に移動させることで、ハブ100と振動リング200を
図2に示す位置関係にすることができる。この状態で、加硫成形により環状弾性体300を成形することで、トーショナルダンパー10を得ることができる。従って、製造の際に、支障を来すことはない。
【0037】
ここで、環状弾性体300の端面は、外筒部130の端面、及び振動リング200の端面よりも内側に位置する構成を採用するのが望ましい。この点について、
図3を参照して説明する。
図3(a)は、環状弾性体300の端面310が、外筒部130の端面132、及び振動リング200の端面210よりも内側に位置する構成を採用した場合の拡大断
面図である。同図(b)は、環状弾性体300の端面310が、外筒部130の端面132、及び振動リング200の端面210よりも外側に位置する構成を採用した場合の拡大断面図である。
【0038】
クランクシャフト20の回転に伴って、ハブ100に対して振動リング200が相対的に回転すると、環状弾性体300は変形する。ここで、環状弾性体300の内部に深い位置ほど、ハブ100と振動リング200による環状弾性体300の拘束力が大きくなる。そのため、環状弾性体300においては、内部の深い位置(図中、矢印X1参照)ほど元の状態からの変形量が大きく、端面310(表面)に近い位置(図中、矢印X2参照)ほど元の状態からの変形量は小さくなる。
【0039】
図3(a)に示すように、環状弾性体300の端面310が、外筒部130の端面132、及び振動リング200の端面210よりも内側に位置する構成を採用する場合には、内部の深い位置X1と端面310に近い位置X2との変形量の差は比較的少ない。これに対して、
図3(b)に示すように、環状弾性体300の端面310が、外筒部130の端面132、及び振動リング200の端面210よりも外側に位置する構成を採用する場合には、内部の深い位置X1と端面310に近い位置X2との変形量の差は大きくなってしまう。これにより、環状弾性体300に亀裂が生じ易くなってしまう。一度、亀裂が生じると、亀裂が徐々に大きくなり、環状弾性体300が破断し易くなってしまう。従って、環状弾性体300の端面310は、外筒部130の端面132、及び振動リング200の端面210よりも内側に位置する構成を採用するのが望ましい。なお、
図3においては、環状弾性体300の片側の端面310のみを示しているが、反対側の端面についても同様であることは言うまでもない。
【0040】
(環状弾性体の劣化を抑制するための各種手法)
環状弾性体300の劣化を抑制するための各種手法について説明する。環状弾性体300の損傷(破損)を抑制するために、環状弾性体300の劣化を抑制するためには、環状弾性体300の高温化を抑制する必要がある。そして、環状弾性体300の高温化を抑制するためには、クランクシャフト20の高速回転時において、環状弾性体300の歪量を少なくする必要がある。4気筒エンジンの場合、様々な次数の振動が発生するが、4次振動と6次振動において、顕著な大きな振動ピークが生じる。なお、N次とは、クランクシャフト1回転に現われる振動サイクルを意味しており、例えば、1回転で1回の振動の場合には、1次となる。また、クランクシャフト単体(トーショナルダンパーを設けない状態)で発生する振動ピークに対して、トーショナルダンパーを設けることで、振動ピークは低減する。これにより、元々の振動ピークが発生する周波数よりも低周波側にできる元の振動ピークよりも小さな振動ピークは1節と呼ばれ、高周波側にできる元の振動ピークよりも小さな振動ピークは2節と呼ばれる。また、以下の知見も得ている。すなわち、クランクシャフト単体で振動ピークが発生する周波数にトーショナルダンパーの共振周波数(固有振動数)を合わせると、1節の振動ピークと2節の振動ピークが同等となる。これに対して、クランクシャフト単体で振動ピークが発生する周波数よりも低周波側にトーショナルダンパーの共振周波数(固有振動数)をずらすと、1節の振動ピークよりも2節の振動ピークが高くなる。逆に、クランクシャフト単体で振動ピークが発生する周波数よりも高周波側にトーショナルダンパーの共振周波数(固有振動数)をずらすと、2節の振動ピークよりも1節の振動ピークが高くなる。また、振動リング200の慣性質量が重いほど、1節と2節の振動ピークは低くなり、かつ、1節の振動ピークが発生する周波数と2節の振動ピークが発生する周波数の差が大きくなる。
【0041】
図4においては、横軸がエンジン回転数(rpm)、縦軸が環状弾性体300の歪(%)であるグラフを示している。なお、横軸は周波数に対応し、縦軸は振動の大きさに対応する。図中、実線L11と実線L31は、6次のグラフを示しており、図中、左側の振動
ピークが6次1節であり、右側のピークが6次2節である。また、図中、実線L21と実線L41は4次のグラフを示しており、図中の振動ピークは4次1節である。これらは、トーショナルダンパー10の固有振動数を、クランクシャフト20の共振周波数に合わせた場合のグラフである。
図4(a)に示すように、エンジン回転数が5000rpm付近で4次1節と6次2節が連成しており、環状弾性体300の発熱が高くなってしまうことが分かる。そこで、トーショナルダンパー10の固有振動数を高周波側にずらすと、次数の高い6次2節の振動ピークを低減することができる。点線L12と点線L22は、それぞれトーショナルダンパー10の固有振動数を高周波側にずらした場合の6次と4次のグラフを示している。これらのグラフから分かるように、6次2節の振動ピークは低減できるものの、4次1節の振動ピークは上昇傾向である。そのため、トーショナルダンパー10の固有振動数の調整だけでは、環状弾性体300の温度の低減効果は十分ではない。
【0042】
図4(b)中、点線L32と点線L42は、それぞれ振動リング200の慣性質量を重く変更した場合の6次と4次のグラフを示している。これらのグラフから分かるように、6次2節の振動ピークは低減しつつ高周波側にずれて、4次1節の振動ピークは低減しつつ低周波側にずれるため、両次数の連成も抑制される。
【0043】
また、環状弾性体300の高温化を抑制する手法としては、放熱効果を高める構成を採用することができる。すなわち、振動リング200の厚み(径方向の幅に相当)を厚くしたり、振動リング200と環状弾性体300との嵌合幅(中心軸線方向の幅)を広くすることで、環状弾性体300からの放熱量を高めることができる。これにより、環状弾性体300の高温化を抑制することができる。
【0044】
更に、環状弾性体300の厚みが厚いと発熱・蓄熱量が大きくなってしまうため、当該厚みは薄い方が環状弾性体300の高温化を抑制することができる。なお、振動リング200に凹凸を設けて表面積を広くすることでも、振動リング200からの放熱効果を高めて、環状弾性体300の高温化を抑制することができる。本実施例では、
図2に示すように、振動リング200のエンジンが配される領域(E)側に凹凸を設ける構成が採用されている。
【0045】
以上のような対策によって、環状弾性体300の高温化を抑制することができる。なお、環状弾性体300の材料としてH-NBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)を採用した場合、常用耐熱限界温度は130℃であるが、上記の対策により、環状弾性体300の最高温度を130℃以下にすることができる。
【0046】
(実施例2)
図5には、本発明の実施例2が示されている。
図5は本発明の実施例2に係るトーショナルダンパーの模式的断面図であり、
図1中のAA断面図に相当する。本実施例に係るトーショナルダンパー10Xの全体構成については、実施例1と同様である。すなわち、本実施例に係るトーショナルダンパー10Xも、ハブ100Xと、ハブ100Xと同心的に設けられる振動リング200Xと、環状弾性体300Xとを備えている。
【0047】
そして、実施例1と同様に、ハブ100Xは、金属製の環状部材であり、内筒部110と、外向きフランジ部120と、外筒部130Xとを有する。そして、内筒部110がエンジンのクランクシャフト20に固定される。なお、
図5においても、クランクシャフト20と、クランクシャフト20にトーショナルダンパー10Xを固定するためのボルト30の位置を点線にて示している。
【0048】
そして、実施例1と同様に、振動リング200Xは、金属製の環状部材である。また、環状弾性体300Xは、ゴム材料により構成され、ハブ100Xの外筒部130Xと振動
リング200Xとの間に設けられる。
【0049】
以上のように構成されるトーショナルダンパー10Xも、エンジンケース内に配される。
図5においては、エンジンケースの一部(フロントカバーの一部)の内壁面の位置を点線Cで示している。また、
図5において、トーショナルダンパー10Xよりも右側がエンジンが配される領域(E)側である。トーショナルダンパー10Xにおける振動抑制機能については、実施例1で説明した通りであるので、その説明は省略する。
【0050】
<トーショナルダンパーの各部材の詳細構成>
トーショナルダンパー10Xの各部材の詳細な構成について説明する。本実施例に係る振動リング200Xにおける内周面の幅方向(トーショナルダンパー10Xの中心軸線が伸びる方向の幅方向)の中央には径方向内側に突出する環状突出部220を有している。つまり、振動リング200Xの内周面は、環状突出部220が設けられた部位の内径が小さく、その両側の内径は環状突出部220の内径よりも大きく構成されている。そして、外筒部130Xの外周面は、振動リング200Xの内周面の形状に沿うように、その幅方向の中央が環状に凹んだ形状となっている。つまり、外筒部130Xの外周面は幅方向の中央の内径が小さく、その両側の内径は、中央の内径よりも大きくなっている。
【0051】
そして、環状突出部220の最小内径R20は、外筒部130Xの外周面のうち環状突出部220よりもエンジンが配される領域(E)側の最大外径R12よりも小さくなるように設定されている。また、環状突出部220の最小内径R20は、外筒部130Xの外周面のうち環状突出部220よりもエンジンが配される領域(E)とは反対側の最大外径R11よりも大きくなるように設定されている。
【0052】
なお、本実施例に係るトーショナルダンパー10Xにおいても、熱老化後(130℃の環境下で533時間経過後)のエンジンが配される領域(E)とは反対側への振動リング200Xの位置ずれ量が1mm以下となるように設定されている。これにより、振動リング200Xがエンジンケースの一部(フロントカバーの一部)の内壁面に接してしまうことは抑制される。
【0053】
本実施例に係るトーショナルダンパー10Xも、外筒部130Xの外周面の寸法形状と振動リング200Xの内周面の寸法形状との関係により、振動リング200Xが外筒部130Xからエンジンが配される領域側に抜け出さないストッパ構造が構成されている。より具体的には、振動リング200Xの内周面には環状突出部220が設けられ、上記のように、R20<R12となるように、ハブ100Xと振動リング200Xが構成されている。また、本実施例に係るトーショナルダンパー10Xによれば、上記の通り、R11<R20となるように、ハブ100と振動リング200が構成されている。以上の構成により、上記実施例1と同様の効果が得られる。
【0054】
環状弾性体300Xの端面が、外筒部130Xの端面、及び振動リング200Xの端面よりも内側に位置する構成を採用するのが望ましい点についても、実施例1で説明した通りである。環状弾性体の劣化を抑制するための各種手法についても、実施例1で説明した通りである。
【符号の説明】
【0055】
10,10X:トーショナルダンパー
20:クランクシャフト
30:ボルト
100,100X:ハブ
110:内筒部
120:外向きフランジ部
130,130X:外筒部
131:環状突出部
132:端面
200,200X:振動リング
210:端面
220:環状突出部
300,300X:環状弾性体
310:端面