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特開2025-7597コイル部品、コイル部品の製造方法および電子・電気機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007597
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】コイル部品、コイル部品の製造方法および電子・電気機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20250109BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 B
H01F27/29 123
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109107
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】丸山 智史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 毅
(72)【発明者】
【氏名】街 健祐
(72)【発明者】
【氏名】井口 修司
(72)【発明者】
【氏名】丸山 節子
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB08
5E070BA12
5E070CB06
5E070CB12
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】各種特性が向上されたコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品100は、Z1-Z2方向に沿う中心軸Oを有し、2つの電気的端部(外周側端部13、23)を有する環状導体部(第1の渦巻導体部11、第2の渦巻導体部21及びビア部VP)を有するコイル部10と、Z1-Z2方向に並ぶ第1、第2の面301、302で環状導体部を覆い、磁性粉体及びバインダを含む本体部30と、を備える。本体部は、外周縁の全てが環状導体部の内周面に接する中央領域CR及び第1の面を含み第1の材料からなる第1の領域31及び第2の面の少なくとも一部を含み第2の材料からなる第2の領域32を含む。第1の材料と第2の材料とは、磁性粉体の組成、磁性粉体の形状分布、磁性粉体の含有量、バインダの組成、バインダの含有量及び磁性粉体とバインダ以外の第3成分を含有する場合にはその組成及び含有量からなる群から選ばれる1つ以上について異なる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に沿う中心軸を有し2つの電気的端部を有する環状導体部を有するコイル部と、
前記第1の方向に並ぶ第1の面および第2の面で前記環状導体部を覆い、磁性粉体とバインダとを含む本体部と、
を備え、
前記コイル部は、前記環状導体部の2つの電気的端部の一方につながる第1の端面と、前記環状導体部の2つの電気的端部の他方につながる第2の端面とにおいて、前記本体部の表面から露出し、
前記本体部は、
外周縁の全てが前記環状導体部の内周面に接する中央領域および前記第1の面を含み、第1の材料からなる第1の領域と、
前記第2の面の少なくとも一部を含み、第2の材料からなる第2の領域と、
を含み、
前記第1の材料と前記第2の材料とは、
前記磁性粉体の組成、
前記磁性粉体の形状に関する分布である形状分布、
前記磁性粉体の含有量、
前記バインダの組成、
前記バインダの含有量、および
前記磁性粉体および前記バインダ以外の成分である第3成分を含有する場合にはその組成、およびその含有量
からなる群から選ばれる1つ以上について相違すること
を特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記第2の材料は、前記第1の材料よりも絶縁性が高い、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
互いに離間して前記本体部上に設けられ、前記第1の端面と電気的に接続される第1の外部電極と、前記第2の端面と電気的に接続される第2の外部電極とをさらに備え、
前記第1の外部電極は前記第2の面の一部を覆う第1の被覆部分を有し、前記第2の外部電極は前記第2の面の一部を覆う第2の被覆部分を有し、
前記第2の領域は、前記第1の被覆部分に対向する第1の対向部および前記第2の被覆部分に対向する第2の対向部を有する、請求項2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記第1の端面は、前記第2の面において前記本体部から露出し前記第1の外部電極に接する第1の露出面を有し、
前記第2の端面は、前記第2の面において前記本体部から露出し前記第2の外部電極に接する第2の露出面を有する、請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記第2の領域は、前記第1の対向部と前記第2の対向部との双方に連続し前記第2の面の一部を含む連続部を有する、請求項3に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記第2の領域の比抵抗は、前記第1の領域の比抵抗よりも大きい、請求項2に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記磁性粉体は金属磁性粉体を含み、
前記第2の領域の比透磁率μ2は、前記第1の領域の比透磁率μ1よりも小さい、請求項2に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記コイル部における前記第1の方向で前記第2の面に近位な側の端部と前記第2の面との離間距離d2は、前記コイル部における前記第1の方向で前記第1の面に近位な側の端部と前記第1の面との離間距離d1よりも大きい、請求項7に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記環状導体部は、前記第1の方向の前記第2の面側の端部において、前記第1の領域に接する、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項10】
第1の方向に中心軸を有し2つの電気的端部を有する環状導体部を有するコイル部と、
前記第1の方向に並ぶ第1の面および第2の面で前記環状導体部を覆い、磁性粉体を含む本体部と、
を備えるコイル部品の製造方法であって、
金型のキャビティ内に、
前記コイル部品と、
少なくとも一部が前記コイル部品の前記第1の方向の一方側に位置し、第1の磁性粉体と第1の硬化性材料とを含む第1の部材と、
前記コイル部品の前記第1の方向の他方側に位置し、第2の磁性粉体と第2の硬化性材料とを含む第2の部材と、
からなる積層構造体を配置し、
前記キャビティ内の圧力を高めることを含んで、前記積層構造体から前記コイル部品と前記本体部とからなる成形体が得られ、
前記成形体において、外周縁の全てが前記環状導体部の内周面に接する中央領域は、前記第1の部材に基づく材料からなること
を特徴とするコイル部品の製造方法。
【請求項11】
前記第1の部材と前記第2の部材とは、
前記第1の磁性粉体の組成と前記第2の磁性粉体の組成、
前記第1の磁性粉体の粒径分布と前記第2の磁性粉体の粒径分布、
前記第1の部材における前記第1の磁性粉体の含有量と前記第2の部材における前記第2の磁性粉体の含有量、
前記第1の硬化性材料の組成と前記第2の硬化性材料の組成、
前記第1の部材における前記第1の硬化性材料の含有量と前記第2の部材における前記第2の硬化性材料の含有量、および
前記第1の部材が前記第1の硬化性材料および前記第1の磁性粉体以外の第1の添加成分を含有し、前記第2の部材が前記第2の硬化性材料および前記第2の磁性粉体以外の第2の添加成分を含有する場合には、前記第1の添加成分の組成と前記第2の添加成分の組成、
からなる群から選ばれる1つ以上について相違する、請求項10に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項12】
前記第1の硬化性材料および前記第2の硬化性材料を硬化することを含む、請求項10に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項13】
前記第2の部材において前記第2の硬化性材料が硬化することを含んで生成する第2の材料体は、前記第1の部材において前記第1の硬化性材料が硬化することを含んで生成する第1の材料体よりも絶縁性が高い、請求項11に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項14】
前記コイル部は、前記環状導体部の2つの電気的端部の一方につながる第1の接続導体部と、前記環状導体部の2つの電気的端部の他方につながる第2の接続導体部とを有し、
前記第1の接続導体部は第1の端面において前記第2の面から露出し、
前記第2の接続導体部は第2の端面において前記第2の面から露出し、
前記成形体において、前記第1の接続導体部および前記第2の接続導体部は、前記第2の材料体に埋入される部分を有する、請求項13に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載されるコイル部品が実装された電子・電気機器であって、前記コイル部品は、前記コイル部が有する2つの端部のそれぞれに位置し外部に露出する露出導体部に設けられた端子部にて基板に接続されている電子・電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品、およびその製造方法、ならびに当該コイル部品が実装された電子・電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、磁性粉体及びポリマーを含むボディと、前記ボディの内部に設けられ、少なくとも一方の面の上に少なくとも1つのコイルパターンが形成された少なくとも1つの基材と、前記コイルパターンと前記ボディとの間に形成された絶縁層と、を備え、前記ボディは、前記磁性粉体の粒子の大きさが残りとは異なるように分布された少なくとも1つの領域を含むパワーインダクターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-532519明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイルが本体部に埋設された構成を有するコイル部品においてコイルに通電することにより本体部に形成される磁気回路は、コイルの内周側および外周側では、コイルの中心軸に沿った方向に進み、コイルの2つの底面側では、コイルの中心軸を横切る方向に進む。本体部におけるコイルの内周側と底面側とでは磁気特性が異なっていることが好ましい場合がある。また、コイル部品が基板に実装されたときには、本体部におけるコイルの底面側に位置する部分は、基板と対向する部分となったり、基板から突出する部分となったりする。このため、上記の部分は、本体部におけるコイルの内周側に位置する部分とは、電気特性や機械特性などが異なっていることが好ましい場合がある。
【0005】
本発明は、本体部の機能を高めたコイル部品を提供することを目的とする。また、本発明は、当該コイル部品の製造方法、および当該コイル部品が実装された電子・電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために提供される本発明の一態様に係るコイル部品は、第1の方向に沿う中心軸を有し2つの電気的端部を有する環状導体部を有するコイル部と、前記第1の方向に並ぶ第1の面および第2の面で前記環状導体部を覆い、磁性粉体とバインダとを含む本体部と、を備える。前記コイル部は、前記環状導体部の2つの電気的端部の一方につながる第1の端面と、前記環状導体部の2つの電気的端部の他方につながる第2の端面とにおいて、前記本体部の表面から露出する。前記本体部は、外周縁の全てが前記環状導体部の内周面に接する中央領域および前記第1の面を含み、第1の材料からなる第1の領域と、前記第2の面の少なくとも一部を含み、第2の材料からなる第2の領域と、を含む。前記第1の材料と前記第2の材料とは、前記磁性粉体の組成、前記磁性粉体の形状に関する分布である形状分布、前記磁性粉体の含有量、前記バインダの組成、前記バインダの含有量、および前記磁性粉体および前記バインダ以外の成分である第3成分を含有する場合にはその組成、およびその含有量からなる群から選ばれる1つ以上について相違する。上記のコイル部品は、中央領域を含む第1の領域の材料と第2の面の少なくとも一部を含む第2の領域の材料とを相違させることができる。これにより本体部に新たな機能を付与して、本体部を高機能化することができる。
【0007】
上記のコイル部品は、中央領域を含む第1の領域の材料と第2の面近傍に位置する材料とを相違させることができるため、本体部に様々な特性を有することができる。
【0008】
上記のコイル部品において、前記第2の材料は、前記第1の材料よりも絶縁性が高くてもよい。この場合には、第2の領域が位置する第2の面側では、短絡や絶縁破壊が生じにくくなる。
【0009】
上記のコイル部品は、互いに離間して前記本体部上に設けられ、前記第1の端面と電気的に接続される第1の外部電極と、前記第2の端面と電気的に接続される第2の外部電極とをさらに備えてもよい。この場合において、前記第1の外部電極は前記第2の面の一部を覆う第1の被覆部分を有し、前記第2の外部電極は前記第2の面の一部を覆う第2の被覆部分を有し、前記第2の領域は、前記第1の被覆部分に対向する第1の対向部および前記第2の被覆部分に対向する第2の対向部を有してもよい。第2の面に外部電極の少なくとも一部が位置する場合であっても、短絡や絶縁破壊が生じにくくなる。
【0010】
上記のコイル部品において、前記第1の端面は、前記第2の面において前記本体部から露出し前記第1の外部電極に接する第1の露出面を有し、前記第2の端面は、前記第2の面において前記本体部から露出し前記第2の外部電極に接する第2の露出面を有してもよい。実装面側にコイル部の端部が位置する場合であっても、外部電極間の短絡が生じにくい。
【0011】
上記のコイル部品において、前記第2の領域は、前記第1の対向部と前記第2の対向部との双方に連続し前記第2の面の一部を含む連続部を有してもよい。
【0012】
上記のコイル部品において、前記第2の領域の比抵抗は、前記第1の領域の比抵抗よりも大きくてもよい。第2の領域の比抵抗が相対的に高いため、第1の露出面を有する導体と第2の露出面を有する導体との間に位置する部分において絶縁破壊が生じる可能性が低減される。
【0013】
上記のコイル部品において、前記磁性粉体は金属磁性粉体を含み、前記第2の領域の比透磁率μ2は、前記第1の領域の比透磁率μ1よりも小さくてもよい。第2の領域の絶縁性を相対的に高めるための一手段として、第2の材料における絶縁性の材料の含有量を高めることが挙げられる。この場合には、相対的に金属磁性粉体の含有量が低下することになる。このため、第2の領域の比透磁率μ2は第1の領域の比透磁率μ1よりも小さくなりやすい。この場合において、前記コイル部における前記第1の方向で前記第2の面に近位な側の端部と前記第2の面との離間距離d2は、前記コイル部における前記第1の方向で前記第1の面に近位な側の端部と前記第1の面との離間距離d1よりも大きくてもよい。第2の領域の比透磁率μ2が第1の領域の比透磁率μ1よりも小さい場合であっても、d2>d1とすれば、第2の領域の磁気抵抗が過度に高くなることを回避することができる。
【0014】
上記のコイル部品において、前記環状導体部は、前記第1の方向の前記第2の面側の端部において、前記第1の領域に接していてもよい。環状導体部と第1の領域との間に第1の材料が存在しないことにより、第2の領域を設けたことの利益(絶縁破壊の抑制など)をより安定的に享受することができる場合がある。
【0015】
本発明は他の一態様として、第1の方向に中心軸を有し2つの電気的端部を有する環状導体部を有するコイル部と、前記第1の方向に並ぶ第1の面および第2の面で前記環状導体部を覆い、磁性粉体を含む本体部と、を備えるコイル部品の製造方法を提供する。当該製造方法では、金型のキャビティ内に、前記コイル部品と、少なくとも一部が前記コイル部品の前記第1の方向の一方側に位置し、第1の磁性粉体と第1の硬化性材料とを含む第1の部材と、前記コイル部品の前記第1の方向の他方側に位置し、第2の磁性粉体と第2の硬化性材料とを含む第2の部材と、からなる積層構造体を配置し、前記キャビティ内の圧力を高めることを含んで、前記積層構造体から前記コイル部品と前記本体部とからなる成形体が得られる。前記成形体において、外周縁の全てが前記環状導体部の内周面に接する中央領域は、前記第1の部材に基づく材料からなる。
【0016】
上記の製造方法において、前記第1の部材と前記第2の部材とは、前記第1の磁性粉体の組成と前記第2の磁性粉体の組成、前記第1の磁性粉体の粒径分布と前記第2の磁性粉体の粒径分布、前記第1の部材における前記第1の磁性粉体の含有量と前記第2の部材における前記第2の磁性粉体の含有量、前記第1の硬化性材料の組成と前記第2の硬化性材料の組成、前記第1の部材における前記第1の硬化性材料の含有量と前記第2の部材における前記第2の硬化性材料の含有量、および前記第1の部材が前記第1の硬化性材料および前記第1の磁性粉体以外の第1の添加成分を含有し、前記第2の部材が前記第2の硬化性材料および前記第2の磁性粉体以外の第2の添加成分を含有する場合には、前記第1の添加成分の組成と前記第2の添加成分の組成、からなる群から選ばれる1つ以上について相違していてもよい。
【0017】
本明細書において、「硬化性材料」は、硬化する材料および硬化させる材料(重合開始剤など)を含む。また、「添加成分」は、強磁性体でなく、かつ硬化性材料と反応しない材料であって、部材を軟質化するための非重合性材料や、絶縁性向上のための無機粒子などが具体例として挙げられる。
【0018】
上記の製造方法は、前記第1の硬化性材料および前記第2の硬化性材料を硬化することを含んでもよい。この場合において、前記第2の部材において前記第2の硬化性材料が硬化することを含んで生成する第2の材料体は、前記第1の部材において前記第1の硬化性材料が硬化することを含んで生成する第1の材料体よりも絶縁性が高くてもよい。
【0019】
さらに、前記コイル部は、前記環状導体部の2つの電気的端部の一方につながる第1の接続導体部と、前記環状導体部の2つの電気的端部の他方につながる第2の接続導体部とを有してもよく、この場合において、前記第1の接続導体部は第1の端面において前記第2の面から露出し、前記第2の接続導体部は第2の端面において前記第2の面から露出し、前記成形体において、前記第1の接続導体部および前記第2の接続導体部は、前記第2の材料体に埋入される部分を有してもよい。
【0020】
本発明は、別の一態様として、上記のコイル部品が実装された電子・電気機器であって、前記コイル部品は、前記コイル部が有する2つの端部のそれぞれに位置し外部に露出する露出導体部に設けられた端子部にて基板に接続されている電子・電気機器を提供する。かかる電子・電気機器として、電源スイッチング回路、電圧昇降回路、平滑回路等を備えた電源装置や小型携帯通信機器等が例示される。本発明に係る電子・電気機器は、上記のコイル部品を備えるため、インダクタンス素子としての総合特性が優れる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コイル部品の本体部に、外部電極に対する絶縁性の確保機能、コイル部内の短絡抑制機能、本体部内におけるコイル部の位置決め機能、衝撃時の欠損抑制機能、といった新たな機能を付与することが可能である。本体部はこうした機能が付与されることにより高機能化され、電気特性など各種特性に優れるコイル部品が提供される。このコイル部品が電子・電気機器に実装されると、電子・電気機器の性能を向上させたり、電子・電気機器の寸法を小さくしたりすることができる。また、本発明によれば、コイル部品が実装された電子・電気機器が提供される。さらに、上記のコイル部品の製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品の形状を概念的に示す斜視図である。
図2図1のA-A’線でのXZ断面図である。
図3図2のB-B’線でのXY断面図である。
図4】磁性粉体の形状分布が異なることを説明する図である。
図5A】本発明の一実施形態に係るコイル部品の本体部の機能の一例の説明図(比較例)である。
図5B】本発明の一実施形態に係るコイル部品の本体部の機能の一例の説明図(本発明例)である。
図5C】磁性粉体の形状分布が異なることを説明する図である。
図6】本発明の一実施形態に係るコイル部品の変形例(その1)を説明するXZ断面図である。
図7】本発明の一実施形態に係るコイル部品の変形例(その2)を説明するXZ断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係るコイル部品の変形例(その3)を説明するXZ断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係るコイル部品の変形例(その4)を説明するXZ断面図である。
図10A】本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その1)であって、コイルアレイシートのXY平面図である。
図10B図10AのC-C’線でのXZ断面図である。
図11】本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その2)であって、金型のキャビティ内にコイルアレイシートなどが配置された状態を示すXZ断面図である。
図12】本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その3)であって、金型を用いた成形が行われて成形体が形成された状態を示すXZ断面図である。
図13】本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その4)であって、成形体を切断する前の状態を示す図である。
図14】本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その5)であって、成形体が切断されてコイルチップが得られた状態を示す図である。
図15】本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の他の一例の説明図(その1)である。
図16】本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の他の一例の説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の形状を概念的に示す斜視図である。図2は、図1のA-A’線でのXZ断面図である。図2には、説明の都合上、コイル部品の基板への接合状態も示している。図3は、図2のB-B’線でのXY断面図である。図4は、磁性粉体の形状分布が異なることを説明する図である。
【0025】
(全体構成)
本発明の一実施形態に係るコイル部品100は、コイル導体部20を有するコイル部10、本体部30、第1の外部電極41、第2の外部電極42、外装コート50、60を備える。
【0026】
(コイル)
図2および図3に示されるように、コイル部10は、第1の方向(Z1-Z2方向)に沿う中心軸Oの周りに、渦巻形状の第1の渦巻導体部11を有するコイル導体部20を有する。第1の渦巻導体部11は、環状導体部の一部の一例である。第1の渦巻導体部11の渦巻形状は、第1の渦巻導体部11の一対の端部における内周側の端部である内周側端部12から、第1の渦巻導体部11の一対の端部における外周側の端部である外周側端部13に向けて、中心軸Oから遠ざかる形状である。図3では、第1の渦巻導体部11は、Z1-Z2方向Z1側から見て、内周側端部12から外周側端部13に向けて時計回りで中心軸Oから遠ざかる渦巻き状に導体が配置されている。本明細書において、渦巻部における「渦巻方向」とは、内周側の端部から外周側の端部へと向かう方向を意味する。
【0027】
コイル導体部20は、第1の方向に第1の渦巻導体部11と並んで配置される第2の渦巻導体部21を有する。第2の渦巻導体部21は、環状導体部の一部の他の一例である。第2の渦巻導体部21は、第1の方向(Z1-Z2方向)に沿う中心軸Oの周りに、第2の渦巻導体部21における内周側の端部である一方の端部(内周側端部22)から、第2の渦巻導体部21における外周側の端部である他方の端部(外周側端部23)に向けて、中心軸Oから遠ざかる渦巻形状を有する。第2の渦巻導体部21では、Z1-Z2方向Z1側から見て、第1の渦巻導体部11と反対周り(図3では反時計回り)で中心軸Oから遠ざかる渦巻き状に導体が配置される。
【0028】
第1の渦巻導体部11と第2の渦巻導体部21との間の第1の方向(Z1-Z2方向)の離間距離の平均値は、特に限定されない。この離間距離が小さいほどコイル部品100の高さ(Z1-Z2方向の寸法)を低くしやすいが、過度に小さい場合には第1の渦巻導体部11と第2の渦巻導体部21との間の絶縁性が低下しやすくなる。コイル部品100としての低背(低い高さ)と、第1の渦巻導体部11と第2の渦巻導体部21との間の高い絶縁性とを両立する観点から、離間距離が0.4μm以上20μm以下であることが好ましい場合がある。この離間距離は、製造面において、離間距離のばらつきを減らしたり、コイルの同一面内への支持をより確実にしたりするために、1.0μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。
【0029】
コイル導体部20を構成する導体(導電性材料)は、適切な導電性を有している限り、限定されない。銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属がコイル導体部20を構成する導体の具体例として挙げられ、例えばめっきなどの製膜技術を用いてコイル導体部20を製造することができる。コイル部10は、コイル導体部20の表面に、絶縁性のコイル絶縁部80を有する。このコイル絶縁部80により、コイル導体部20において隣り合う導体の間(互いに対向する導体の表面間)での絶縁が確保されている。コイル導体部20としての2つの端部(第1の引出端部14E、第2の引出端部24E)の末端にはコイル絶縁部80は設けられず、コイル部10は、この末端において他の部材と電気的な接続が可能である。
【0030】
第1の渦巻導体部11の内周側端部12と第2の渦巻導体部21の内周側端部22とは、ビア部VPにより電気的に接続されている。ビア部VPへの接続部分を起点とすると、第1の渦巻導体部11と第2の渦巻導体部21とは互いに反対向きに渦巻いている。ビア部VPはコイル導体部20と同様の導体で構成されていてもよい。具体的な一例において、ビア部VPは第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21を製造するプロセスでともに製造される。この場合には、ビア部VPは、第1の渦巻導体部11の内周側端部12および第2の渦巻導体部21の内周側端部22と一体化している。したがって、本実施形態では、環状導体部は第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21ならびにビア部VPを有し、外周側端部13、23が、環状導体部における2つの電気的端部である。
【0031】
第1の渦巻導体部11の外周側端部13には第1の引出部14が連設され、第2の渦巻導体部21の外周側端部23には第2の引出部24が連設される。したがって、第1の渦巻導体部11の外周側端部13は、実質的に、第1の引出部14との界面であり、第2の渦巻導体部21の外周側端部23は、実質的に、第2の引出部24との界面である。具体的な一例において、第1の引出部14および第2の引出部24は、第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21を製造するプロセスでともに製造される。この場合には、第1の引出部14は第1の渦巻導体部11の外周側端部13と境界なく一体化した部分を有し、第2の引出部24は第2の渦巻導体部21の外周側端部23と境界なく一体化した部分を有する。
【0032】
本実施形態に係るコイル部品100は、第1の引出部14から第2の面302側の向き(Z1-Z2方向Z2側)へと延設される第1の接続導体部15を有し、第2の引出部24から第2の面302側の向き(Z1-Z2方向Z2側)へと延設される第2の接続導体部25を有する。第1の接続導体部15は第1の接続端部15Eにおいて本体部30の第2の面302から露出し、第2の接続導体部25は第2の接続端部25Eにおいて本体部30の第2の面302から露出する。すなわち、第1の接続端部15Eは第2の面302において本体部30から露出し第1の外部電極41に接する第1の露出面であり、第2の接続端部25Eは第2の面302において本体部30から露出し第2の外部電極42に接する第2の露出面である。
【0033】
本実施形態では、コイル導体部20は、第1の渦巻導体部11、第1の引出部14、第2の渦巻導体部21、第2の引出部24、第1の接続導体部15、第2の接続導体部25、およびビア部VPを有し、これらは共通の製造プロセスで一体化した部分を有するように製造される。
【0034】
(外部電極)
本実施形態に係るコイル部品100は、図1に示されるように、本体部30の外側に設けられる外部電極を、コイル部品100の端子部として有する。換言すれば、外部電極は、コイル部10が外部に露出する部分である露出導体部に設けられる。具体的には、外部電極は、第1の外部電極41と、第2の外部電極42とを有する。
【0035】
より具体的には、第1の外部電極41は、本体部30の外側面に位置する第1の側方外部電極41aと本体部30の第2の面302に位置する第1の交差面外部電極41bとが連続している。第1の交差面外部電極41bは、第1の外部電極41における、第2の面302の一部を覆う第1の被覆部分である。第1の側方外部電極41aは第1の引出端部14Eに電気的に接続し、第1の交差面外部電極41bは第1の接続端部15Eに電気的に接続する。第2の外部電極42は、本体部30の外側面に位置する第2の側方外部電極42aと本体部30の第2の面302に位置する第2の交差面外部電極42bとが連続している。第2の交差面外部電極42bは、第2の外部電極42における、第2の面302の一部を覆う第2の被覆部分である。第2の側方外部電極42aは第2の引出端部24Eに電気的に接続し、第2の交差面外部電極42bは第2の接続端部25Eに電気的に接続する。
【0036】
第1の側方外部電極41aおよび第2の側方外部電極42aが設けられている場合には、図2に示されるように、基板SB上で第1の側方外部電極41aよりも十分に遠位な(X1-X2方向X2側の)位置から第2の面302に対向する位置までX1-X2方向に広がる第1の基板電極E1と第1の側方外部電極41aとの間、および第1の基板電極E1と第1の交差面外部電極41bとの間にはんだS1が位置する。同様に、基板SB上で第2の側方外部電極42aよりも十分に遠位な(X1-X2方向X1側の)位置から第2の面302に対向する位置までX1-X2方向に広がる第2の基板電極E2と第2の側方外部電極42aとの間、および第2の基板電極E2と第2の交差面外部電極42bとの間にはんだS2が位置する。このように第1の基板電極E1および第2の基板電極E2が広いため、はんだS1を介した第1の外部電極41との間およびはんだS2を介した第2の外部電極42との間に、安定した電気的接続が得られる。
【0037】
第1の外部電極41および第2の外部電極42の材料および構成は、適切な導電性を有する限り、限定されない。第1の外部電極41および第2の外部電極42の限定されない一例として、本体部30の表面に近位な側からCuめっき/Niめっき/Snめっきの構造を有する層が挙げられる。第1の外部電極41および第2の外部電極42は、銀などの導電性物質が樹脂などに分散してなる塗布型電極から構成されていてもよい。また、第1の外部電極41および第2の外部電極42は、めっきと塗布型電極との組合せであってもよい。
【0038】
(外装コート)
本体部30の上面(Z1-Z2方向Z1側の面)およびY1-Y2方向に並ぶ側面には、それぞれ、絶縁性の外装コート50、60が表面絶縁部として設けられている。本体部30の底面(Z1-Z2方向Z2側の面)における第1の交差面外部電極41b、第2の交差面外部電極42bが設けられていない部分にも絶縁性の外装コートが設けられていてもよい。また、コイル部品100は、外装コート50、60を備えていなくてもよい。この外装コート50、60は、目的に応じて、本体部30の表面の任意の位置に形成できる。外装コート50、60は本体部30に含まれる金属磁性粉体を含んでいてもよい。この場合において、外装コート50、60の断面に占める金属磁性粉体の面積は、本体部30の断面に占める金属磁性粉体の面積の50%以下であることが好ましい場合がある。
【0039】
(コイル絶縁部)
コイル絶縁部80の構成材料として、例えば樹脂材料が挙げられるが、特定の材料に制限されるものではなく、無機材料であってもよいし、有機材料と無機材料との混合体であってもよい。コイル絶縁部80は熱可塑性であってもよく、パラキシリレン系ポリマーを含む熱可塑性樹脂が具体例として挙げられる。熱可塑性樹脂の他の例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、液晶ポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。コイル絶縁部80は全体として熱可塑性を有していればよく、上記の熱可塑性樹脂に加えて、例えば無機系の絶縁性粒子を含有していてもよい。また、コイル絶縁部80の構成材料として、上記の熱可塑性樹脂以外では、熱硬化性樹脂等の有機材料や酸化物などの無機材料が例示される。
【0040】
コイル絶縁部80は絶縁性に優れることが好ましく、具体的には、ASTM D257により得られる体積抵抗率が1.0×1014Ωcm以上であることが好ましい場合がある。この体積抵抗率は、1.0×1015Ωcm以上であることがより好ましく、1.0×1016Ωcm以上であることがさらに好ましい。体積抵抗率の上限は、特に限定されない。体積抵抗率が1.0×1020Ωcm以下であってもよい。また、コイル絶縁部80は誘電特性に優れることが好ましく、具体的には、ASTM D150により得られる60Hzでの比誘電率が4.0以下であることが好ましい場合がある。この比誘電率は、3.5以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。この比誘電率の下限は、特に限定されない。比誘電率が1.0以上であってもよい。コイル絶縁部80の体積抵抗率および比誘電率の測定方法は上記ASTM D257およびD150で得られる結果と同等の結果が見込まれる限り限定されない。例えば、コイル絶縁部80に相当する材料を測定に必要な寸法に調製してなる測定用試料を別途準備し、この測定用試料を用いて成分分析やFT-IR等の分析手法を通じて構成材料を特定し、その材料について体積抵抗率などの特性評価する方法が挙げられる。
【0041】
(本体部)
本体部30は、少なくとも第1の方向(Z1-Z2方向)に並ぶ一対の交差面(第1の面301、第2の面302)で第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21を覆い、磁性粉体とバインダとを含む。本実施形態では、本体部30は、上記の一対の交差面の間に、第1の方向(Z1-Z2方向)に延在する4つの外側面を有し、ほぼ直方体の形状を有する。本体部30は、コイル部10の端部に位置する、第1の引出部14の最も外側(X1-X2方向X2側およびZ1-Z2方向両側)の端面、および第2の引出部24の最も外側(X1-X2方向X1側およびZ1-Z2方向両側)の端面以外の部分を内包する。
【0042】
コイル部10は、環状導体部の2つの電気的端部の一方(外周側端部13)につながる第1の端面(第1の引出端部14E、第1の接続端部15E)と、環状導体部の2つの電気的端部の他方(外周側端部23)につながる第2の端面(第2の引出端部24E、第2の接続端部25E)とにおいて、本体部30の表面から露出する。
【0043】
本体部30は、第1の材料からなり第1の面301を含む第1の領域31と、第2の材料からなり第2の面302の少なくとも一部を含む第2の領域32とからなる。第1の領域31は、外周縁の全てが環状導体部(第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21ならびにビア部VP)の内周面に対向する中央領域CRを含む。中央領域CRの第1の方向の長さ(厚さ)は、中央領域CRに求められる特性や環状導体部の内周側の形状などに応じて適宜設定される。中央領域CRの厚さは、環状導体部の第1の方向の長さ(環状導体部の厚さ)と同等であってもよいし、環状導体部の厚さの半分であってもよいし、例えば1/4であってもよい。中央領域CRの厚さが環状導体部の厚さよりも薄い場合には、中央領域CRは、第1の面301側に片寄って位置してもよいし、第2の面302側に片寄って位置してもよいし、第1の面301と第2の面302とからほぼ均等に離間するように位置してもよい。
【0044】
本実施形態において、第1の材料と第2の材料とは、次の[1]から[6]からなる群から選ばれる1つ以上について相違する。
[1]磁性粉体の組成
[2]磁性粉体の形状に関する分布である形状分布
[3]磁性粉体の含有量
[4]バインダの組成
[5]バインダの含有量
[6]磁性粉体およびバインダ以外の成分である第3成分を含有する場合にはその組成、およびその含有量
【0045】
これらの少なくとも1つについて第1の材料と第2の材料とで相違させることにより、本体部30において、第1の領域31と第2の領域32とで特性を相違させることができる。その結果、本体部30にさらなる機能を付与することができる場合がある。
【0046】
本体部30において第1の方向に並ぶ第1の領域31と第2の領域32との境界とコイル部10における環状導体部が位置する部分の第1の方向の端部との位置関係は、特に限定されない。例えば、コイル部10における環状導体部からなる部分は、第1の方向の端部において、第2の領域32に接してもよい。図2では、コイル部10における第2の渦巻導体部21が位置する部分のZ1-Z2方向Z2側の端部(第2の端部102)は第2の領域32に接している。このように、コイル部10における環状導体部からなる部分と第2の領域32との間に他の材料(例えば第1の材料)が存在しないことにより、第2の領域32を設けたことの利益(絶縁性の向上など)をより安定的に享受することができる場合がある。
【0047】
(磁性粉体)
ここで、磁性粉体について説明する。磁性粉体の組成は、磁性粉体の磁性体が導電性材料からなる場合と、磁性粉体の磁性体が絶縁性材料からなる場合とが挙げられる。
【0048】
導電性材料の具体例は金属材料であり、このように磁性粉体が金属磁性粉体であるとき、その結晶学的組織は限定されない。この組織は、結晶相を含んでいてもよく、非晶質相を含んでいてもよい。ここで、結晶材料を結晶相からなる材料、非晶質材料を非晶質相からなる材料、複合材料を結晶相と非晶質材料とからなる材料と定義する。一般的なX線回折法によって得られる回折スペクトルが結晶相の種類を特定できる先鋭な回折ピークを含む場合、材料が結晶相を含む。また、一般的なX線回折法によって得られる回折スペクトルが非晶質相を示すブロードなピークを含む場合、材料が非晶質相を含む。示差熱分析により得られるDSCカーブが結晶化を示すピーク、すなわち、非晶質相から結晶相への相変化に伴う発熱を含む場合も、材料が非晶質相を含む。
【0049】
磁性体の材料系は限定されない。結晶材料の具体例として、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co系合金、Fe-V系合金、Fe-Al系合金、Fe-Si系合金、Fe-Si-Al系合金、純鉄、Mn-Zn系フェライトが挙げられる。純鉄の粉体としては、カルボニル鉄粉が好ましい。また、非晶質材料の具体例として、Fe-Si-B系合金、Fe-P-C系合金およびCo-Fe-Si-B系合金が挙げられる。複合材料の具体例として、Fe-Zr系合金、Fe-Zr-B系合金、Fe-Nb-B系合金、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金、Fe-Si-B-P-Cu系合金が挙げられる。磁性体が、Feを含む場合には、磁気特性の向上の相乗効果が特に大きい。
【0050】
磁性体の化学組成は限定されない。例えば、Fe-Si-Cr系合金は、1.0~10.0質量%のSiと、1.0~10.0質量%のCrと、Feおよび不純物からなる残部とからなってもよい。また、例えば、Fe-Ni系合金は、1.0~99.0質量%のNiと、Feおよび不純物からなる残部とからなってもよい。さらに、例えば、Fe-P-C系合金は、1.0~13.0原子%のPと、1.0~13.0原子%のCと、Feおよび不純物からなってもよい。このFe-P-C系合金は、任意元素として、Ni、Sn、Cr、B、Siからなる群から選択される1つ以上を含んでもよい。この場合、例えば、Niの量が0~10.0原子%、Snの量が0~3.0原子%、Crの量が0~6.0原子%、Bの量が0~9.0原子%、Siの量が0~7.0原子%であってもよい。Feの量は、65原子%以上であると好ましい。また、例えば、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金は、1.0~16.0原子%のSiと、1.0~15.0原子%のBと、0.50~5.0原子%のNbと、0.50~5.0原子%のCuと、Feおよび不純物からなる残部とからなってもよい。この場合、Feの量は、65原子%以上であると好ましい。
【0051】
磁性粉体の磁性体が絶縁性材料からなる場合の具体例としてNi-Zn系フェライトが挙げられる。
【0052】
磁性粉体は表面絶縁処理が施されていてもよい。磁性粉体に表面絶縁処理が施されている場合には、本体部30の絶縁抵抗が向上する。磁性粉体に施す表面絶縁処理の種類は限定されない。リン酸処理、リン酸塩処理、酸化処理などが例示される。磁性粉体が磁性粒子の表面に絶縁被膜を有してもよい。この絶縁被膜は、Si、P、Bからなる群から選択される少なくとも1つと、O(酸素)とを含んでもよい。
【0053】
磁性粉体は、複数の粉体材料が混合された混合材料であってもよい。この磁性粉体は、強磁性材料であると好ましく、軟磁性材料であるとさらに好ましい。
【0054】
磁性粉体の形状に関する分布である形状分布として、磁性粉体自体の形状(球形、針状、不定形など)、粒径に関する分布などが挙げられる。磁性粉体の粒径の範囲について例示すれば、例えば、0.10~50.0μmが挙げられる。粒径に関する分布の具体例としては、例えば、レーザ回折/散乱方式の粒径測定を磁性粉体に対して行うことにより得られる体積粒度分布や、本体部30の切断面を走査型電子顕微鏡で撮像して得られた画像(二次電子像)を解析することによって得られる磁性粉体の平均円相当径の分布が挙げられる。
【0055】
(バインダ)
本体部30において、第2の領域32に含まれるバインダは第2のポリマーを含有し、第1の領域31に含まれるバインダは第1のポリマーを含有してもよい。ポリマーはモノマーの組成や重合の程度を調整することによりその物性を容易に調整することができるため、バインダがポリマーを含有することによりバインダの特性を調整することが容易となる。ポリマーとして、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂が例示される。バインダは、水ガラスなどガラス系材料を具体例とする無機材料を含有していてもよい。
【0056】
第2のポリマーの重量平均分子量は、第1のポリマーの重量平均分子量よりも大きくてもよい。相対的に分子量が大きなポリマーを含む第2の領域32は全体として絶縁性および機械特性の観点で第1の領域31よりも高くなりやすい。この場合において、第2のポリマーの重量平均分子量と第1のポリマーの重量平均分子量との差は、第2のポリマーの重量平均分子量基準で1%以上5%以下であってもよい。第2の領域32が絶縁性および機械特性の観点が高くなることに基づく利益を安定的に享受できる。
【0057】
第2のポリマーの未反応基の存在密度は、第1のポリマーの未反応基の存在密度よりも低くてもよい。未反応基として、グリシジル基、イソシアネート基、カルボキシ基のような他の官能基との反応性が高い活性な官能基や、こうした活性な官能基と反応する活性水素を有する官能基(水酸基、アミノ基など)が挙げられる。ポリマーがラジカル性の重合触媒により重合された場合には、エチレン性不飽和結合も未反応基となりうる。
【0058】
相対的に未反応基の存在密度が低いポリマーを含む第2の領域32は全体として絶縁性および機械特性の観点で第1の領域31よりも高くなりやすい。この場合において、第2のポリマーの未反応基の存在密度と第1のポリマーの未反応基の存在密度との差は、第2のポリマーの未反応基の存在密度基準で1%以上5%以下であってもよい。第2の領域32が絶縁性および機械特性の観点が高くなることの利益を安定的に享受できる。
【0059】
第2の材料がバインダを形成するための重合触媒を含有し、第1の材料がバインダを形成するための重合触媒を含有する場合には、第2の材料における重合触媒の含有量は、第1の材料における重合触媒の含有量よりも多くてもよい。重合触媒はポリマーを形成するためのモノマーに応じて適宜設定される。重合触媒として、2-(ジメチルアミノ)エタノールなどのウレタン重合触媒、テトラオブチルホスホニウムブロマイドなどのエポキシ重合触媒、メタロセン化合物などのオレフィン重合触媒などが例示される。相対的に重合触媒の含有量が多いポリマーを含む第2の領域32は全体として高強度・高粘度となりやすい。この場合において、第2の材料における重合触媒の含有量と第1の材料における重合触媒の含有量との差は、第2の材料における重合触媒の含有量基準で1%以上5%以下であってもよい。第2の領域32が絶縁性および機械特性の観点が高くなることの利益を安定的に享受できる。
【0060】
第2の領域32に含まれるバインダのナノインデンタによる硬度は、第1の領域31に含まれるバインダのナノインデンタによる硬度よりも小さくてもよい。相対的に硬質なバインダを含む第2の領域32は全体として絶縁性および機械特性の観点で第1の領域31よりも高くなりやすい。この場合において、第2のバインダのナノインデンタによる硬度と第1のバインダのナノインデンタによる硬度との差は、第2のバインダのナノインデンタによる硬度基準で1%以上5%以下であってもよい。第2の領域32が絶縁性および機械特性の観点が高くなることの利益を安定的に享受できる。
【0061】
(絶縁性)
本体部30において、第2の材料は、第1の材料よりも絶縁性が高くてもよい。この場合には、本体部30に外部電極に対する絶縁性の確保という新たな機能が付与される。図2などに示されるように第2の面302が実装面側(基板SBに対向する側)である場合には、実装面側での短絡が生じにくくなる。特に、本実施形態のように第1の交差面外部電極41bや第2の交差面外部電極42bのような下面電極が設けられる場合には、下面電極と本体部30の絶縁性は確保されているため、下面電極間の短絡が生じにくくなる。
【0062】
第2の材料の絶縁性を第1の材料の絶縁性よりも高めるための一手段として、第2の領域32の比抵抗を第1の領域31の比抵抗よりも大きくすることが挙げられる。
【0063】
磁性粉体が金属磁性粉体を含む場合には、第2の材料が第1の材料よりも絶縁性が高くなることを安定的に実現する観点から、第2の領域32の比透磁率μ2は、第1の領域31の比透磁率μ1よりも小さいことが好ましい場合がある。磁性粉体は金属磁性粉体を含む場合には、本体部30の内部で磁性粉体が接触することによって、絶縁性を低下させる導電経路が形成される可能性が高まる。そこで、第2の領域32の絶縁性を相対的に高めるための一手段として、第2の材料における絶縁性の材料の含有量を高めることが挙げられる。この場合には、金属磁性粉体の含有量が低下するため、第2の領域32の比透磁率μ2は第1の領域31の比透磁率μ1よりも小さくなりやすい。
【0064】
この場合において、コイル部10における第1の方向で第2の面302に近位な側の端部、すなわち第2の端部102、と第2の面302との離間距離d2は、第1の端部101と第1の面301との離間距離d1よりも大きくてもよい。第2の領域32の比透磁率μ2が第1の領域31の比透磁率μ1よりも小さい場合であっても、d2>d1とすれば、第2の領域32の磁気抵抗が過度に高くなることを回避することができる。
【0065】
上記のようにμ2<μ1の場合には、下記式(1)を満たしてもよい。下記式(1)を満たす場合には、第2の領域32の磁気抵抗が過度に高くなることは生じにくい。このため、コイル部品100の磁気特性が低下することがより安定的に回避される。
|μ1×d1-μ2×d2|/(μ1×d1)≦0.1 (1)
【0066】
磁性粉体が金属磁性粉体を含む場合において第2の材料の絶縁性を第1の材料の絶縁性よりも高めることをより安定的に実現する観点から、第1の方向に直交する面(XY面)で第2の領域32を切断して第2の切断面を得て、第1の方向に直交する面で第1の領域31を切断して第1の切断面を得たときに、次の(A)または(B)の少なくとも1つを満たしてもよい。
(A)第2の切断面での磁性粉体の面積割合である第2の面積割合は、第1の切断面での磁性粉体の面積割合である第1の面積割合よりも低いこと
(B)第2の切断面での磁性粉体の平均円相当径である第2の平均円相当径は、第1の切断面での磁性粉体の平均円相当径である第1の平均円相当径よりも大きいこと
【0067】
(A)に関し、第2の面積割合<第1の面積割合とすることにより、μ2<μ1が実現されやすい。このとき、バインダの面積割合は第2の領域32の方が高くなるため、第2の領域32の絶縁性が高くなりやすい。図4を例として説明する。図4は、磁性粉体の形状分布が異なることを説明する図であり、左図は、第1の切断面での観察画像に対応し、右図は、第2の切断面での観察画像に対応する。破線の円の領域内において、磁性粉体の断面はハッチングされて示されており、バインダなど磁性粉体以外の材料(マトリックス)の断面は無色で示されている。バインダの具体例は後述するようにポリマーであり、その場合には金属磁性粉体である磁性粉体はマトリックスよりも絶縁性が低い。したがって、図4に示される2図のうち、磁性粉体の面積割合が相対的に低い左図に示される断面が第2の切断面であり、右図の断面が第1の断面である場合に、(A)を満たすことになる。
【0068】
(B)に関し、磁性粉体の平均円相当径が相対的に大きい場合には、充填率が低下しやすい。したがって、第2の平均円相当径>第1の平均円相当径とすることにより、μ2<μ1が実現されやすい。このとき、バインダの面積割合は第2の領域32の方が高くなりやすいため、第2の領域32の比抵抗が高くなりやすい。
【0069】
第2の材料の絶縁性を第1の材料の絶縁性よりも高めることをより安定的に実現する観点から、第2の材料は、第3成分として絶縁性の無機粒子を含んでいてもよい。絶縁性の無機粒子には、バインダよりも絶縁耐圧が高い材料が多く、この傾向はバインダがポリマーである場合に顕著である。第2の材料の第3成分として無機粒子を含有させることにより、第2の領域32で絶縁破壊が生じる可能性を低減させることができる。無機粒子の種類は限定されない。シリカ、アルミナ、ジルコニアなどの酸化物無機粒子が入手容易性の観点からも好ましい場合がある。
【0070】
第2の材料の絶縁性を第1の材料の絶縁性よりも高めることをより安定的に実現する観点から、第2の領域32に含有される磁性粉体は、絶縁被膜が表面に設けられた金属磁性粉体を含んでいてもよい。磁性粉体が金属磁性粉体である場合には、磁性粉体は絶縁破壊の際に導電経路を構成する。したがって、金属磁性粉体がその表面に絶縁被膜を有することにより、第2の領域32で絶縁破壊が生じる可能性を低減させることができる場合がある。
【0071】
(コイル部の短絡防止)
図5Aは、本発明の一実施形態に係るコイル部品の本体部の機能の一例の説明図(比較例)であり、図5Bは、本発明の一実施形態に係るコイル部品の本体部の機能の一例の説明図(本発明例)である。図5Cは、磁性粉体の形状分布が異なることを説明する図である。
【0072】
図5Aに示されるように、第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21の周囲にはコイル絶縁部80が設けられ、同一の渦巻導体部のターン間の短絡が防止されている。また、第1の渦巻導体部11と第2の渦巻導体部21との間には、絶縁性のインターポーザ90が絶縁部として配置されて、第1の渦巻導体部11のターンとこのターンに第1の方向で並ぶ第2の渦巻導体部21のターンとの間の短絡も防止されている。
【0073】
ところが、第1の領域31を構成する第1の材料が含む磁性粉体MP1が金属磁性粉体を含む場合において、インターポーザ90の厚さよりも磁性粉体MP1の粒径が大きいと、図5Aに示されるように、第1の渦巻導体部11のターンと第2の渦巻導体部21のターンとの間に短絡経路EPを構成するように磁性粉体MP1が位置してしまうことが懸念される。同様の短絡現象は、第1の引出部14と第2の渦巻導体部21のターンとの間や、第2の引出部24と第1の渦巻導体部11のターンとの間でも生じうる。磁性粉体MP1を含む材料を、コイル部10の周囲に配置し、加圧して本体部30を形成する場合には、コイル部10の絶縁部(コイル絶縁部80、インターポーザ90)を部分的に破壊しながら磁性粉体MP1がコイル部10の導体に接触することがあり、このとき、上記の短絡現象が生じる可能性が高くなる。
【0074】
そこで、第1の材料が含む磁性粉体MP1の形状分布を第2の材料が含む磁性粉体MP2の形状分布と相違させることにより、本体部30にコイル部10における短絡抑制という新たな機能が付与される。図5Bでは、第1の材料が含む磁性粉体MP1として、第2の材料が含む磁性粉体MP2よりも小径の金属磁性粉体が用いられている。このため、コイル部10の絶縁部(コイル絶縁部80、インターポーザ90)を部分的に破壊しながら磁性粉体MP1がコイル部10の導体に接触することがあっても、短絡には至りにくい。
【0075】
なお、インターポーザ90を構成する材料は、適切な絶縁性を有している限り限定されない。インターポーザ90は、ASTM D257により得られる体積抵抗率が1.0×1014Ωcm以上であることが好ましい場合がある。この体積抵抗率は、1.0×1015Ωcm以上であることがより好ましく、1.0×1016Ωcm以上であることがさらに好ましい。体積抵抗率の上限は、特に限定されない。体積抵抗率が1.0×1020Ωcm以下であってもよい。また、インターポーザ90は誘電特性に優れることが好ましく、具体的には、ASTM D150により得られる60Hzでの比誘電率が4.0以下であることが好ましい場合がある。この比誘電率は、3.5以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。この比誘電率の下限は、特に限定されない。比誘電率が1.0以上であってもよい。インターポーザ90の体積抵抗率および比誘電率の測定には、別途準備したインターポーザ90に相当する材料を測定に必要な寸法に調製して使用する。インターポーザ90に相当する材料は、コイル絶縁部80の場合と同様に、例えば、成分分析やFT-IR等の分析手法を通じて特定することができる。
【0076】
インターポーザ90を構成する材料は、有機材料から構成されていてもよいし、無機材料から構成されていてもよいし、有機材料と無機材料との複合材料であってもよい。インターポーザ90が複合材料からなる場合において、無機材料は粒子形状を有し、有機材料からなるマトリックスに分散していてもよい。有機材料の具体例として、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などを挙げることができる。無機材料、特に複合材料における無機材料の具体例として、酸化物、炭化物、窒化物、無機塩類などの無機材料が例示される。例えば、酸化物としては、シリカ、アルミナ、ジルコニアが挙げられる。また、例えば、炭化物および窒化物としては、それぞれ、炭化ケイ素、窒化ボロンの無機材料が挙げられる。無機塩類としては、例えば、ワラステナイト、カオリン、マイカなどの鉱物が挙げられる。これらのうち、コストおよび絶縁性の点では、酸化物、ケイ酸塩、リン酸塩などの酸化物系材料が好ましい。例えば、無機材料が、珪素(Si)、リン(P)、ホウ素(B)、カルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも1種を含むと好ましい。
【0077】
上記の短絡現象が発生する可能性をより安定的に低減させる観点から、磁性粉体の形状分布に関し、第1の方向に直交する面で第2の領域を切断して第2の切断面を得て、第1の方向に直交する面で第1の領域を切断して第1の切断面を得たときに、第2の切断面と第1の切断面とを対比して次の(a)から(d)の少なくとも1つを満たすことが好ましい場合がある。
(a)第1の切断面での磁性粉体MP1の平均円相当径である第1の平均円相当径は、第2の切断面での磁性粉体MP2の平均円相当径である第2の平均円相当径よりも小さいこと
(b)第1の切断面での磁性粉体MP1のメジアン径である第1のメジアン径は、第2の切断面での磁性粉体MP2のメジアン径である第2のメジアン径よりも小さいこと
(c)第1の切断面での磁性粉体MP1の最大円相当径である第1の最大円相当径は、第2の切断面での磁性粉体MP2の最大円相当径である第2の最大円相当径よりも小さいこと
(d)第2の切断面での磁性粉体MP2の円相当径の分布である第2の径分布と、第1の切断面での磁性粉体MP1の円相当径の分布である第1の径分布との少なくとも一方が、2つ以上のピークを有し、第1の径分布が有するピークのうち最も大径側のピークにおける最大頻度の円相当径である第1のピーク径は、第2の径分布が有するピークのうち最も大径側のピークにおける最大頻度の円相当径である第2のピーク径よりも小さいこと
【0078】
(a)に関し、第1の領域31の方が相対的に小粒径の磁性粉体が存在する可能性が高まるため、磁性粉体MP1を含む材料を加圧することを含んで本体部30を形成する場合には、加圧により環状導体部(第1の渦巻導体部11、第2の渦巻導体部21、およびビア部VP)の表面に設けられた絶縁部(コイル絶縁部80、インターポーザ90)が磁性粉体により局所的に破断されたとしても、環状導体部内での短絡が生じにくくなる。
【0079】
第2の平均円相当径と第1の平均円相当径との差は、第2の平均円相当径基準で1%以上5%以下であることが好ましい場合がある。環状導体部(第1の渦巻導体部11、第2の渦巻導体部21、およびビア部VP)内での短絡防止の観点からは、第1の平均円相当径が小さいほど好ましいが、平均円相当径が小さいと充填率が高くなる傾向を有するため、第1の平均円相当径が過度に小さいと相対的に第2の領域32の充填率が低くなり、第2の領域32の磁気抵抗が増加することが懸念される。上記範囲とすれば、環状導体部内での短絡を適切に抑制しつつ、第2の領域32の磁気抵抗が相対的に高くなりすぎることを抑制することができる。
【0080】
(b)に関し、第1の領域31の方が相対的に小粒径の磁性粉体が存在する可能性が高まるため、磁性粉体MP1を含む材料を加圧することを含んで本体部30を形成する場合には、加圧により環状導体部の表面に設けられた絶縁部が磁性粉体により局所的に破断されたとしても、環状導体部内での短絡が生じにくくなる。
【0081】
第2のメジアン径と第1のメジアン径との差は、第2のメジアン径基準で1%以上5%以下であってもよい。環状導体部内での短絡防止の観点からは、第1のメジアン径が小さいほど好ましいが、メジアン径が小さいと充填率が高くなる傾向を有するため、第1のメジアン径が過度に小さいと相対的に第2の領域32の充填率が低くなり、第2の領域32の磁気抵抗が増加することが懸念される。上記範囲とすれば、環状導体部内での短絡を適切に抑制しつつ、第2の領域32の磁気抵抗が相対的に高くなりすぎることを抑制することができる。
【0082】
(c)に関し、第1の領域31の方が相対的に小粒径の磁性粉体が存在する可能性が高まるため、磁性粉体MP1を含む材料を加圧することを含んで本体部30を形成する場合には、加圧により環状導体部の表面に設けられた絶縁部が磁性粉体MP1により局所的に破断されたとしても、環状導体部内での短絡が生じにくくなる。
【0083】
第2の最大円相当径と第1の最大円相当径との差は、第2の最大円相当径基準で1%以上5%以下であることが好ましい場合がある。環状導体部内での短絡防止の観点からは、第1の最大円相当径が小さいほど好ましいが、最大円相当径が小さいと充填率が高くなる傾向を有する場合があるため、第1の最大円相当径が過度に小さいと相対的に第2の領域32の充填率が低くなり、第2の領域32の磁気抵抗が増加することが懸念されることがある。上記範囲とすれば、環状導体部内での短絡を適切に抑制しつつ、第2の領域32の磁気抵抗が相対的に高くなりすぎることを抑制することができる。
【0084】
第2の最大円相当径は、12.0μm以上かつ50.0μm以下であり、第1の最大円相当径は、2.0μm以上かつ10.0μm以下であることが好ましい場合がある。上記の範囲であることにより、環状導体部内での短絡を適切に抑制しつつ、第2の領域32の磁気抵抗が高くなる影響を抑えることができる可能性が高まる。
【0085】
(d)に関し、第1の領域31の方が相対的に小粒径の磁性粉体が存在する可能性が高まるため、磁性粉体MP1を含む材料を加圧することを含んで本体部30を形成する場合には、加圧により環状導体部の表面に設けられた絶縁部が磁性粉体MP1により局所的に破断されたとしても、環状導体部内での短絡が生じにくくなる。図5Cに示される2つの円相当径の分布のうち、右側の分布はピークを2つ有している。双方の分布のピークのうち、最も大径側のピークを対比すると、右側の分布の方がより径が大きい。したがって、図5Cに示される2つの円相当径の分布は、左側が第1の径分布の例であり、右側が第2の径分布の例である。
【0086】
第2のピーク径と第1のピーク径との差は、第2のピーク径基準で1%以上かつ5%以下であることが好ましい場合がある。環状導体部内での短絡防止の観点からは、第1のピーク径が小さいほど好ましいが、ピーク径が小さいと充填率が高くなる傾向を有するため、第1のピーク径が過度に小さいと相対的に第2の領域32の充填率が低くなり、第2の領域32の磁気抵抗が増加することが懸念される。上記範囲とすれば、環状導体部内での短絡を適切に抑制しつつ、第2の領域32の磁気抵抗が相対的に高くなりすぎることを抑制することができる。
【0087】
第2の径分布は、第1の径分布よりもピークの数が多いことが好ましい場合がある。相対的に大径の磁性粉体が含まれている第2の領域32において、小径の磁性粉体がピークを有する程度に含有されていることにより、磁性粉体MP2の充填率を高めることが容易となり、第2の領域32の磁気特性が高まりやすい。図5Cに示される2つの円相当径の分布のうち、第2の径分布の例である右側の分布はピークを2つ有している。
【0088】
磁性粉体MP1が金属磁性粉体を含み上記の短絡が懸念される場合には、短絡現象が発生する可能性をより安定的に低減させる観点から、第2の領域32に含有される磁性粉体の体積粒度分布である第2の粒度分布と、第1の領域31に含有される磁性粉体の体積粒度分布である第1の粒度分布との少なくとも一方が、2つ以上のピークを有し、第1の粒度分布が有するピークのうち最も大径側のピークにおける最大頻度の粒度である第1の粒度は、第2の粒度分布が有するピークのうち最も大径側のピークにおける最大頻度の粒度である第2の粒度よりも小さいことが好ましい場合がある。
【0089】
第1の領域31の方が相対的に小粒径の磁性粉体が存在する可能性が高まるため、磁性粉体MP1を含む材料を加圧することを含んで本体部30を形成する場合には、加圧により環状導体部の表面に設けられた絶縁部が磁性粉体MP1により局所的に破断されたとしても、環状導体部内での短絡が生じにくくなる。
【0090】
第2の粒度と第1の粒度との差は、第2の粒度基準で1%以上5%以下であることが好ましい場合がある。環状導体部内での短絡防止の観点からは、第1の粒度が小さいほど好ましいが、上記定義の粒度が小さいと充填率が高くなる傾向を有する場合があるため、第1の粒度が過度に小さいと相対的に第2の領域32の充填率が低くなり、第2の領域32の磁気抵抗が増加することが懸念されることがある。上記範囲とすれば、環状導体部内での短絡を適切に抑制しつつ、第2の領域32の磁気抵抗が相対的に高くなりすぎることを抑制することができる。
【0091】
第2の粒度分布は、第1の粒度分布よりもピークの数が多いことが好ましい場合がある。相対的に大径の磁性粉体が含まれている第2の領域32において、小径の磁性粉体がピークを有する程度に含有されていることにより、磁性粉体MP2の充填率を高めることが容易となり、第2の領域32の磁気特性が高まりやすい。
【0092】
(機械特性)
第2の材料は、第1の材料よりも硬質であってもよい。第2の領域32はコイル部10が存在しない領域がほとんどであるから、第2の領域32を硬質にすることにより、本体部30の欠損・変形に基づく不具合が生じにくくなる。また、後述するように、磁性粉体と硬化性材料とを含む材料を第1の方向に加圧することを含んで本体部30を形成する場合には、本体部30内のコイル部10の位置制御が容易になる。
【0093】
第2の材料が第1の材料よりも硬質であることを安定的に実現する観点から、第1の方向に直交する面で第2の領域32を切断して得られる第2の切断面での磁性粉体の面積割合である第2の面積割合は、第1の方向に直交する面で第1の領域31を切断して得られる第1の切断面での磁性粉体の面積割合である第1の面積割合よりも高いことが好ましい場合がある。
【0094】
第2の領域32の方が硬質であることと、第1の領域31の磁気抵抗が高くなる影響を抑えてコイル部品100の磁気特性・電気特性を適切に保つこととを両立する観点から、第2の面積割合と第1の面積割合との差は、第2の面積割合基準で1%以上5%以下であることが好ましい場合がある。
【0095】
(変形例)
図6は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の変形例(その1)を説明するXZ断面図である。図6に示される本実施形態の変形例の1つに係るコイル部品100Aは、基本的な構造はコイル部品100と共通するため、構造が相違する点についてのみ説明し、共通する構造については説明を省略する。本例に係るコイル部品100Aでは、第1の領域31と第2の領域32との間には第1の材料と第2の材料との混合材料からなる中間層33が存在する。製造方法によってはこのような中間層33は不可避的に形成される。中間層33は、第1の方向を含む方向に組成が変化する傾斜領域を含んでいてもよい。このような中間層33を有することにより、領域間の特性の変化に基づく影響、例えば局所的な磁気抵抗の上昇や局所的な機械特性の低下などを回避することができる場合がある。
【0096】
図7は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の変形例(その2)を説明するXZ断面図である。図7に示される本実施形態の変形例の1つに係るコイル部品100Bは、基本的な構造はコイル部品100と共通するため、構造が相違する点についてのみ説明し、共通する構造については説明を省略する。図2などに示されるコイル部品100では、第2の領域32は、本体部30の第2の面302の全てを含んでいたが、本例に係るコイル部品100Bでは、第2の領域32は、第1の外部電極41の第1の被覆部分に該当する第1の交差面外部電極41bに対向する第1の対向部32F1と、第2の外部電極42の第2の被覆部分に該当する第2の交差面外部電極42bに対向する第2の対向部32F2とを有する。このため、第2の領域32は、第2の面302の一部を含み、第2の面302において第2の領域32が含まない部分を、第1の領域31が含む。第1の領域31と第2の領域32とがこのような配置関係にあることにより、第2の領域32が二律背反的な機能(絶縁性は高いが透磁率が低い)を有していた場合であっても、第2の領域32を設けた利益を得つつ、第2の領域32がもたらす影響を最小限に抑えることができる。
【0097】
なお、図2などに示される、本体部30の第2の面302の全てを含むコイル部品100は、コイル部品100Bとの関係では、第1の対向部32F1および第2の対向部32F2を含むとともに、第1の対向部32F1と第2の対向部32F2との双方に連続し第2の面302の一部を含む連続部32Cを有する、ともいえる。
【0098】
図8は本発明の一実施形態に係るコイル部品の変形例(その3)を説明するXZ断面図である。図8に示される本実施形態の変形例の1つに係るコイル部品100Cは、基本的な構造はコイル部品100と共通するため、構造が相違する点についてのみ説明し、共通する構造については説明を省略する。コイル部品100の環状導体部は、第1の方向の第2の面302側の端部である第2の端部102において第2の領域32に接していたが、本例に係るコイル部品100Cでは、環状導体部の第2の端部102は第1の領域31に接する。
【0099】
すなわち、本例に係るコイル部品100Cでは、第1の領域31は、コイル部10における環状導体部が位置する部分における第1の方向の2つの端部(第1の端部101、第2の端部102)の双方に接するように、第1の方向に延在しており、具体的には、第1の領域31は、第1の面301を含み、第1の端部101に接し、中央領域CRを含む主要部31Cと、第2の端部102に接し、XY方向に延在する延在部31Eと、からなる。このように、環状導体部に接する材料がいずれも第1の材料であることにより、第1の材料からなる第1の領域31を設けたことの利益(絶縁部の局所的な破断によるコイル部10内での短絡の抑制など)をより安定的に享受することができる場合がある。
【0100】
図9は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の変形例(その4)を説明するXZ断面図である。図9に示される本実施形態の変形例の1つに係るコイル部品100Dは、基本的な構造はコイル部品100と共通するため、構造が相違する点についてのみ説明し、共通する構造については説明を省略する。本例に係るコイル部品100Dでは、第1の外部電極41は、第1の側方外部電極41aを有さず第1の交差面外部電極41bからなり、第2の外部電極42は、第2の側方外部電極42aを有さず第2の交差面外部電極42bからなる。コイル部品100Dにおいて、第1の側方外部電極41aが位置した部分には外装コート61が位置し、第2の側方外部電極42aが位置した部分には外装コート62が位置する。
【0101】
このため、コイル部品100Dでは、コイル部10の第1の端面は第1の接続端部15Eからなり、コイル部10の第2の端面は第2の接続端部25Eからなり、第1の基板電極E1および第2の基板電極E2と電気的に接触する部分は、実装面側(Z1-Z2方向Z2側)にのみ位置する。それゆえ、コイル部品100Dを実装する基板SBでは、第1の基板電極E1および第2の基板電極E2の面積を小さくすること、具体的には、第1の基板電極E1についてはX1-X2方向X2側に延在する部分を短くすることができ、第2の基板電極E2についてはX1-X2方向X1側に延在する部分を短くすることができる。すなわち、コイル部品100Dを用いることにより、基板SBに実装される部品の実装密度を高めることができる。
【0102】
(コイル部品の製造方法)
本実施形態に係るコイル部品の製造方法は特に限定されない。その製造方法の限定されない一例を挙げれば、次のとおりである。
【0103】
図10Aは、本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その1)であって、コイルアレイシートのXY平面図である。図10Bは、図10AのC-C’線でのXZ断面図である。図11は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その2)であって、金型のキャビティ内にコイルアレイシートなどが配置された状態を示すXZ断面図である。図12は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その3)であって、金型を用いた成形が行われて成形体が形成された状態を示すXZ断面図である。図13は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その4)であって、成形体を切断する前の状態を示す図である。図14は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例の説明図(その5)であって、成形体が切断されてコイルチップが得られた状態を示す図である。
【0104】
先ず、図10AのXY平面図および図10BのXZ断面図に示すように、第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21、第1の引出部14および第2の引出部24ならび第1の接続導体部15および第2の接続導体部25を含むコイル部10の複数が、第1の連結導体部16、第2の連結導体部26を介して互いに連結されたコイルアレイシート500を形成する。その製造方法は限定されないが、次に説明するようにめっきプロセスを用いることができる。具体的には、先ず、絶縁性のシート基材の表面の両側(Z1-Z2方向Z1側およびZ2側)上に導体層(シード層)を形成する。次に、電気めっき処理を行って、導体層の上に、図10Bに示されるように、第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21、第1の引出部14および第2の引出部24、第1の接続導体部15および第2の接続導体部25ならびに第1の連結導体部16および第2の連結導体部26を含む導体を、めっき析出物により形成する。
【0105】
導体の形成方法は限定されない。例えば、絶縁性のシート基材上の導体層に、導体のネガパターンとなる絶縁層のパターンを形成し、導体層に通電する電気めっき処理を行うことにより、ネガパターンの周囲で露出する導体層の上にめっき析出物を堆積させて、所望の形状を有する導体を形成してもよい。なお、このめっき処理において、シート基材の貫通孔にめっき析出物を充填させることにより、ビア部VPを形成することが可能である。
【0106】
続いて、導体が形成されたシート基材において、Z1-Z2方向について導体に覆われていない露出部分の少なくとも一部を除去する。具体的には、第1の方向(Z1-Z2方向)に見て、シート基材における、第1の渦巻導体部11および第2の渦巻導体部21の内縁に囲まれる領域を含むように、シート基材を除去する。上記のように、導体形成ステップにおいて絶縁層からなるネガパターンを用いる場合には、まず絶縁層を除去し、次に、絶縁層を除去したことによりZ1-Z2方向に露出する導体層を除去する。こうしてZ1-Z2方向にシート基材の一部を露出部分として露出させ、この露出部分を除去するプロセスが行われる。
【0107】
シート基材の具体的な除去プロセスは、シート基材の構成材料に応じて適宜設定される。除去プロセスは、プラズマエッチングなどのドライプロセスや、ウエットエッチングなどのウエットプロセスに大別される。除去プロセスによってシート基材の一部が除去され、除去されない残部があってもよい。例えば、シート基材が、有機材料からなるマトリックス部分とマトリックス部分に分散する無機材料との複合材料からなり、除去プロセスでは有機材料からなるマトリックス部分が除去されることによりシート基材が除去さてもよい。
【0108】
続いて、導体の露出する表面を覆うようにコイル絶縁部80を形成する。これにより、コイルアレイシート500が形成される。なお、上記の製造方法では、コイルアレイシート500の絶縁部のうち、Z1-Z2方向の両側が導体に覆われた部分は、コイル絶縁部80ではなくシート基材の残部によって構成されるが、図10Bでは表示を省略して、コイル絶縁部80と同様としている。
【0109】
こうして得られた複数のコイル部品100を含むコイルアレイシート500と、少なくとも一部がコイルアレイシート500の第1の方向の一方側(Z1-Z2方向Z1側)に位置し、第1の磁性粉体と第1の硬化性材料とを含む第1の部材311と、コイル部品100の第1の方向の他方側(Z1-Z2方向Z2側)に位置し、第2の磁性粉体と第2の硬化性材料とを含む第2の部材321と、からなる積層構造体を、金型70のキャビティ70C内に配置する。具体的には、図11に示されるように、金型70の下型71側(Z1-Z2方向Z2側)から上型72側(Z1-Z2方向Z1側)へと順番に、第2の部材321、第1の部材の一部311A、コイルアレイシート500、および第1の部材の他の一部311Bを配置する。こうして、コイルアレイシート500と、第1の部材311と、第2の部材321とを有する積層構造体が金型70のキャビティ70C内に配置される。
【0110】
第1の部材311は、第1の磁性粉体と第1の硬化性材料とを含み、成形加工後に中央領域CRを含む第1の領域31を構成する第1の材料からなる第1の材料体310となる。第2の部材321は、第2の磁性粉体と第2の硬化性材料とを含み、成形加工後に第2の領域32を構成する第2の材料からなる第2の材料体320となる。
【0111】
前述のように、本明細書において、「硬化性材料」は、硬化する材料および硬化させる材料(重合開始剤など)を含む。具体的には、グリシジル基、イソシアネート基、カルボキシ基のような他の官能基との反応性が高い活性な官能基を含む化合物や、こうした活性な官能基と反応する活性水素を有する官能基(水酸基、アミノ基など)を含む化合物が挙げられる。マグネシウムやカルシウムなど多価のイオンを含む架橋物質も、硬化性材料に含まれる。硬化性材料がラジカル性の重合触媒により重合する場合には、エチレン性不飽和結合を有する化合物も硬化性材料となりうる。上記の重合反応を行う物質の重合反応を開始・継続させる重合触媒も硬化性材料に含まれる。重合触媒として、2-(ジメチルアミノ)エタノールなどのウレタン重合触媒、テトラオブチルホスホニウムブロマイドなどのエポキシ重合触媒、メタロセン化合物などのオレフィン重合触媒などが例示される。
【0112】
第2の部材321と第1の部材311とは、次の〔1〕から〔6〕からなる群から選ばれる1つ以上について相違する。
〔1〕第2の磁性粉体の組成と第1の磁性粉体の組成、
〔2〕第2の磁性粉体の粒径分布と第1の磁性粉体の粒径分布、
〔3〕第2の部材321における第2の磁性粉体の含有量と第1の部材311における第1の磁性粉体の含有量、
〔4〕第2の硬化性材料の組成と第1の硬化性材料の組成、
〔5〕第2の部材321における第2の硬化性材料の含有量と第1の部材311における第1の硬化性材料の含有量、および
〔6〕第2の部材321が第2の硬化性材料および第2の磁性粉体以外の第2の添加成分を含有し、第1の部材311が第1の硬化性材料および第1の磁性粉体以外の第1の添加成分を含有する場合には、第2の添加成分の組成と第1の添加成分の組成
【0113】
これにより、第2の部材321から形成される第2の材料と第1の部材311から形成される第1の材料とを相違させることができ、第2の領域32の特性と第1の領域31の特性とを相違させることができる。
【0114】
こうして得られた積層構造体について、キャビティ内の圧力を高めることを含む成形加工を行うことにより、図12に示されるように、積層構造体からコイル部10と本体部30とを有する、具体的には、複数のコイル部10を含むコイルアレイシート500と本体部30を与える本体部構成部材300とを有する成形体500Aが得られる。積層構造体から成形体500Aを得るための成形加工は、加圧のほか加熱が行われてもよい。後述するように、第1の部材311における第1の硬化性材料の硬化の程度が低い場合には、例えば加熱することにより硬化を完了させることができることもある。
【0115】
なお、第2の部材321と第1の部材311の一部311Aとについては、材料的には相違するが、予備加熱処理などにより、両者を一体化していてもよい。この場合には、金型70のキャビティ70C内への積層構造体の配置が容易となる。
【0116】
上記の成形加工では、第1の硬化性材料および第2の硬化性材料を硬化することを含んでいてもよい。このような硬化プロセスが行われることにより、第1の部材311と第1の材料体310とは材質が相違し、第2の部材321と第2の材料体320とは材質が相違することになる。それゆえ、第1の部材311および第2の部材321について、成形加工の観点での固有の機能を付与させることができる。
【0117】
そのような固有の機能の具体的な一例として、成形体500Aの形成する成形加工におけるコイルアレイシート500の金型内での位置決め機能が挙げられる。具体的には、図11に示されるように、第1の方向が鉛直方向(Z1-Z2方向)に沿い、第2の部材321がコイルアレイシート500よりも下方に位置するように配置した場合において、第2の部材321を第1の部材311よりも硬質とする。これにより、金型70に第1の方向の圧縮力が加えられたときに、コイルアレイシート500は、相対的に軟質な第1の部材311、特に第1の部材の一部311Aの内部に容易に埋入されるが、相対的に硬質な第2の部材321には埋入されにくい。これにより、成形加工の過程で、コイルアレイシート500における鉛直方向下側(Z1-Z2方向Z2側)の底部は第2の部材321の上端に接した状態で安定する。それゆえ、成形体500Aにおけるコイルアレイシート500について、鉛直方向(第1の方向)の位置精度を高めることができる。具体的には、コイル部品100において、コイル部10のZ1-Z2方向Z2側の端部と第2の面302との距離を適切な範囲とすることが容易となる。
【0118】
図11では、金型70に第1の方向の圧縮力を加える前の状態において、金型70のキャビティ70C内で下側(Z1-Z2方向Z2側)に突出する、第1の接続導体部15ならびに第2の接続導体部25および第2の連結導体部26は、その先端部が、相対的に軟質な第1の部材の一部311Aの内部に埋入し、相対的に硬質な第2の部材321の上側(Z1-Z2方向Z2側)の端部に当接している。この状態から上型72を下方に移動させて型締めすることにより、第1の接続導体部15ならびに第2の接続導体部25および第2の連結導体部26の先端部は第2の部材321へと埋入されるが、環状導体部の下方、すなわち第2の渦巻導体部21の下側は第2の部材321の上側(Z1-Z2方向Z2側)の端部に当接した状態が維持され、この部分によりコイルアレイシート500の金型70のキャビティ70C内の配置精度が確保される。
【0119】
その後、図12に示されるように、第1の部材311および第2の部材321の硬化および一体化により、第1の材料体310および第2の材料体320からなる本体部構成部材300が形成される。そして、この本体部構成部材300における第1の材料体310と第2の材料体320との境界に第2の渦巻導体部21の下側が位置することにより、成形体500Aにおけるコイルアレイシート500の配置精度が確保されている。
【0120】
なお、第1の部材311および第2の部材321は、いわゆるBステージの状態にあり、加熱により硬化される際に、一旦軟化してから硬化してもよい。その場合には、第1の部材311が軟化している間に第1の部材311への環状導体部の埋入が生じやすくなり、第2の部材321が軟化している間に第2の部材321への第1の接続導体部15ならびに第2の接続導体部25および第2の連結導体部26の先端部の埋入が生じやすくなる。この場合でも、軟化している状態であっても、第2の部材321が第1の部材311よりも相対的に硬質であれば、第2の渦巻導体部21の下側は第2の部材321の上側(Z1-Z2方向Z2側)の端部に当接した状態を維持することが可能である。そして、この状態で第1の部材311および第2の部材321の硬化を進行させれば、第1の材料体310と第2の材料体320との密着性も向上し、本体部構成部材300の機械特性や磁気特性を適切に確保することが容易になる。
【0121】
第2の部材321を第1の部材311よりも硬質とすることは、次の(I)から(VI)の少なくとも1つを満たすことによって実現されてもよい。
(I)キャビティ内に配置された積層構造体について、第2の硬化性材料の粘度は、第1の硬化性材料の粘度よりも高いこと
(II)キャビティ内に配置された積層構造体について、第2の硬化性材料の重合度は、第1の硬化性材料の重合度よりも高いこと
(III)キャビティ内に配置された積層構造体について、第2の硬化性材料に含まれる未硬化材料の含有量は、第1の硬化性材料に含まれる未硬化材料の含有量よりも少ないこと
(IV)第2の硬化性材料および第1の硬化性材料は重合触媒を含み、キャビティ内に配置された積層構造体について、第2の硬化性材料に含まれる重合触媒の含有量は、第1の硬化性材料に含まれる重合触媒の含有量よりも多いこと
(V)キャビティ内に配置された積層構造体について、第2の部材321に含まれる第2の磁性粉体の容積率は、第1の部材311に含まれる第1の磁性粉体の容積率よりも多いこと
(VI)キャビティ内に配置された積層構造体が有する第2の硬化性材料および第1の硬化性材料について、JIS K5600-9-1:2006に定義されるゲルタイムを測定したときに、第2の硬化性材料のゲルタイムは、第1の硬化性材料のゲルタイムよりも短いこと
【0122】
第2の部材321は、第1の部材311よりも絶縁性が高くてもよい。この場合には、第2の部材321から形成される第2の材料の絶縁性を、第1の部材311から形成される第1の材料の絶縁性よりも高くすることができる。
【0123】
本実施形態のようにコイル部10が環状導体部の表面を覆う絶縁部(コイル絶縁部80など)を有し、第1の磁性粉体が金属磁性粉体を含む場合には、第2の部材321を切断して第2の部材切断面を得て、第1の部材311を切断して第1の部材切断面を得たときに、次の(i)から(iv)の少なくとも1つを満たすことが好ましい場合がある。
(i)第1の部材切断面での第1の磁性粉体の平均円相当径である第1の部材平均円相当径は、第2の部材切断面での第2の磁性粉体の平均円相当径である第2の部材平均円相当径よりも小さいこと
(ii)第1の部材切断面での第1の磁性粉体のメジアン径である第1の部材メジアン径は、第2の部材切断面での第2の磁性粉体のメジアン径である第2の部材メジアン径よりも小さいこと
(iii)第1の部材切断面での第1の磁性粉体の最大円相当径である第1の部材最大円相当径は、第2の部材切断面での第2の磁性粉体の最大円相当径である第2の部材最大円相当径よりも小さいこと
(iv)第2の部材切断面での第2の磁性粉体の円相当径の分布である第2の部材径分布と、第1の部材切断面での第1の磁性粉体の円相当径の分布である第1の部材径分布との少なくとも一方が、2つ以上のピークを有し、第1の部材径分布が有するピークのうち最も大径側のピークにおける最大頻度の円相当径である第1の部材ピーク径は、第2の部材径分布が有するピークのうち最も大径側のピークにおける最大頻度の円相当径である第2の部材ピーク径よりも小さいこと
【0124】
金型70のキャビティ70C内で成形体500Aが形成されたら、これを金型70から取り出し、図13に示されるダイシングラインDL1、DL2で成形体500Aを切断する。これにより、図14に示されるように、第1の領域31および第2の領域32からなる本体部30とコイル部10とを有するコイルチップ100Zが得られる。このコイルチップ100Zに外装コート50、60を形成し、さらに第1の外部電極41および第2の外部電極42を形成することによって、コイル部品100が得られる。
【0125】
図15および図16は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法の他の一例の説明図(その1およびその2)であり、コイル部品100Bを製造する方法である。本例の製造方法は、基本的には上記のコイル部品100の製造方法の一例と共通するため、構造または方法が相違する点についてのみ説明し、共通する構造および方法については説明を省略する。
【0126】
本例に係るコイル部品100Bの製造方法では、コイル部品100において第1の領域31が本体部30の第2の面302の一部を含むため、第2の領域32を与える第2の部材321は、コイル部品100の製造方法の場合と異なり、金型70のキャビティ70C内の底面に離散的に存在する。それゆえ、本例に係る製造方法では、図15に示されるように、第2の部材321が離散的に配置された剥離部材RSをキャビティ70C内の底面に配置し、その上に、コイルアレイシート500および第1の部材311を配置する。
【0127】
この状態で第1の方向に上型72を移動させて型締めするとともに、加熱などにより第1の部材311および第2の部材321を硬化させることにより、図16に示されるように、第2の材料体320が離散的に位置し、そのXY方向の外周に接するように第1の材料体310が位置する成形体501Aが得られる。以降、成形体500Aと同様の製造方法を実施することにより、コイル部品100Bが得られる。
【0128】
(電子・電気機器)
本発明の一実施形態に係る電子・電気機器は、上記の本発明の一実施形態に係るコイル部品100、100A、100B、100C、100Dが実装された電子・電気機器であって、コイル部品100、100A、100B、100C、100Dは、コイル部10が有する2つの端部のそれぞれに位置し外部に露出する露出導体部(例えば第1の引出端部14Eおよび第2の引出端部24E)に設けられた端子部(第1の外部電極41および第2の外部電極42)にて基板SBに接続されている電子・電気機器である。本発明の一実施形態に係る電子・電気機器は、本発明の一実施形態に係るコイル部品100、100A、100B、100C、100Dが実装されているため、機器の小型化も容易であり、特にコイル部品100Dは高密度実装への対応が容易であるから、これらを備える機器は小型化が特に容易である。また、機器内に大電流を流したり、高周波を印加したりすることがあっても、コイル部品100、100A、100B、100C、100Dの特性低下や発熱に起因する不具合が生じにくい。
【0129】
以上説明した実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0130】
100、100A、100B、100C、100D :コイル部品
10 :コイル部
11 :第1の渦巻導体部
12、22 :内周側端部
13、23 :外周側端部
14 :第1の引出部
14E :第1の引出端部
15 :第1の接続導体部
15E :第1の接続端部
16 :第1の連結導体部
20 :コイル導体部
21 :第2の渦巻導体部
24 :第2の引出部
24E :第2の引出端部
25 :第2の接続導体部
25E :第2の接続端部
26 :第2の連結導体部
30 :本体部
31 :第1の領域
31C :主要部
31E :延在部
32 :第2の領域
32C :連続部
32F :第2の対向部
32F1:第1の対向部
32F2:第2の対向部
33 :中間層
41 :第1の外部電極
41a :第1の側方外部電極
41b :第1の交差面外部電極
42 :第2の外部電極
42a :第2の側方外部電極
42b :第2の交差面外部電極
50、60、61、62 :外装コート
70 :金型
70C :キャビティ
71 :下型
72 :上型
80 :コイル絶縁部
90 :インターポーザ
100Z:コイルチップ
101 :第1の端部
102 :第2の端部
300 :本体部構成部材
301 :第1の面
302 :第2の面
310 :第1の材料体
311 :第1の部材
311A:第1の部材の一部
311B:第1の部材の他の一部
320 :第2の材料体
321 :第2の部材
500 :コイルアレイシート
500A、501A:成形体
CR :中央領域
DL1、DL2 :ダイシングライン
E1 :第1の基板電極
E2 :第2の基板電極
EP :短絡経路
MP1、MP2 :磁性粉体
O :中心軸
RS :剥離部材
S1、S2 :はんだ
SB :基板
VP :ビア部
d1、d2 :離間距離
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16