IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 栄組の特許一覧

<>
  • 特開-コンクリート構造体の補修装置 図1
  • 特開-コンクリート構造体の補修装置 図2
  • 特開-コンクリート構造体の補修装置 図3
  • 特開-コンクリート構造体の補修装置 図4
  • 特開-コンクリート構造体の補修装置 図5
  • 特開-コンクリート構造体の補修装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007639
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】コンクリート構造体の補修装置
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20250109BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20250109BHJP
   B05C 21/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
E04G23/02 B
B05C5/00 101
B05C21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109174
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】507175821
【氏名又は名称】株式会社 栄組
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 栄洋
(72)【発明者】
【氏名】仁田 交市
【テーマコード(参考)】
2E176
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
2E176AA03
2E176BB15
2E176BB17
4F041AA08
4F041AA17
4F041AB01
4F041BA05
4F041BA24
4F042AA16
4F042AA28
4F042BA08
4F042CB03
4F042CB08
4F042DH01
(57)【要約】
【課題】 コンクリート構造体の幅寸法の小さい表面に容易に設置でき、ノズル体をその充填材の吐出時に表面から離間しにくくして、充填材の充填を確実に行うことができるようにする。
【解決手段】 亀裂Wが露出したコンクリート構造体Cの側面3の面方向に沿って配置され一端に充填材Fの入口11を有する本体10と、本体10の他端側に突設され充填材Fを吐出するノズル体14とからなる注入器Tを備え、注入器Tの本体10をコンクリート構造体Cの上面2にアーム40を介して支持する支持機Sを備え、本体10のノズル体14とは反対側に、吐出口12から充填材Fが吐出される際に本体10に作用するモーメント荷重Mに抵抗する抵抗手段70を備え、抵抗手段70を、アーム40の先端側と本体10の他端側との間に設けられたリブ71で構成した。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体の表面であって該表面に直交する別表面を有した当該コンクリート構造体の表面に生じた亀裂に充填材を充填して補修するためのコンクリート構造体の補修装置であって、
亀裂が露出したコンクリート構造体の表面の面方向に沿って配置され一端に充填材の入口を有するとともに該コンクリート構造体に支持機により支持される本体と、該本体の他端側の側部に突設されるとともに上記コンクリート構造体の表面の亀裂に充填材を吐出する吐出口が形成されたノズル体とからなる注入器を備え、該注入器に、上記本体の入口から他端側に至る第1軸線を有した第1流路と、該第1流路の他端側から上記ノズル体の吐出口に至り上記第1軸線に直交する第2軸線を有した第2流路とを形成し、
上記本体の上記ノズル体とは反対側に設けられ上記吐出口から充填材が吐出される際に上記本体に作用するモーメント荷重に抵抗する抵抗手段を備え、
上記注入器の本体を、上記第1軸線に沿う細長状に形成し、
上記支持機を、上記第1軸線方向に直交する軸線を有し上記本体の一端側が該第1軸線方向に沿って移動可能に挿通される挿通孔を長手方向途中に有したアームと、上記本体をアームに対する所望の移動位置で位置決めする位置決め機構と、上記アームの挿通孔よりも基端側を支持するとともに空気の吸引により別表面に吸着させられ吸引解除により別表面から離脱可能な吸着盤とを備えて構成し、
上記注入器の本体の上記ノズル体とは反対側に設けられ上記吐出口から充填材が吐出される際に上記本体に作用するモーメント荷重に抵抗する抵抗手段を備え、該抵抗手段を、上記アームの上記挿通孔よりも先端側と上記本体の他端側との間に設けられ該アームの先端側に固定されるリブで構成したことを特徴とするコンクリート構造体の補修装置。
【請求項2】
上記リブを、上記アームの先端側に沿う第1辺と上記本体の他端側に沿う第2辺と解放された第3辺とを備えた略三角形状の板状に形成し、上記第1辺を上記アームの先端側に固定し、上記リブに、上記第3辺から上記第2辺に向けてボルトの雄ネジが螺合する貫通した雌ネジ部を有したボルト取付部を設け、該ボルト取付部の雌ネジ部にボルトを螺合して取付け、該ボルトをねじ込んでその先端を上記本体の他端側を押圧可能にしたことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造体の補修装置。
【請求項3】
上記ボルト取付部を、本体の他端側の長手方向に沿って所定間隔で複数設け、夫々のボルト取付部にボルトを取付けたことを特徴とする請求項2記載のコンクリート構造体の補修装置。
【請求項4】
上記吸着盤を、上記別表面に対向する板状の基体と、該基体の下面側に設けられ上記別表面に弾接する樹脂製の環状パッキンと、上記基体に貫通して設けられ上記基体,環状パッキン及び上記別表面で形成される空間から空気を吸引する吸引通路が形成された吸引管とを備えて構成し、
上記アームの挿通孔より基端側をユニバーサルジョイントを介して上記吸引管に支持し、該アームの上記吸着盤を挟んだ前後に、夫々、上記別表面に先端が当接する当接部材を設けたことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載のコンクリート構造体の補修装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製やモルタル製等のコンクリート構造体に生じた亀裂に充填材を充填して補修するためのコンクリート構造体の補修装置に係り、特に、充填材の注入器を設置しにくいコンクリート構造体の表面に適したコンクリート構造体の補修装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造体の補修装置としては、例えば、本願出願人が先に提案した特許第6012665号公報(特許文献1)に掲載されたものが知られている。この補修装置は、亀裂が露出したコンクリート構造体の表面の面方向に直交する方向に延びて配置され先端にコンクリート構造体の表面の亀裂が露出した部位に当接させられて充填材を吐出するノズル体を備えた棒状の注入器を備え、この注入器をアームを介して支持機により支持している。ノズル体に至る流路は、表面に対して直交するようにして、注入が確実に行われるようにしている。支持機は、空気の吸引によりコンクリート構造体の表面に吸着させられ吸引解除により表面から離脱可能な吸着盤を備えて構成されている。
【0003】
ところで、コンクリート構造体としては、種々のものを挙げることができるが、例えば、図5に示すように、新幹線などの高速軌道車両が走行するスラブ式軌道を構成するスラブを挙げることができる。スラブからなるコンクリート構造体Cは、長手方向に沿って所定間隔Eを隔てて列設される。コンクリート構造体Cは、矩形板状に形成され、コンクリート製の路盤としてのベース1上に設置され、上面2及びこの上面2に直交する側面3及び端面4とを備えている。端面4の中央には、ベース1から突設される突起5に緩衝材を介して接合される凹所6が形成されている。スラブの大きさは、例えば、長手方向の長さが4900mm、短手方向の長さが2220mm、高さが190mmに設定されている。また、隣接するスラブの所定間隔Eは、例えば、50mm~150mm程度である。
【0004】
しかしながら、上記従来の補修装置を、スラブに生じた亀裂に対して適用しようとする場合、スラブの上面2の亀裂においては容易に対応できるが、スラブの側面3の亀裂においては、スラブの側面の高さ寸法が小さいので、支持機としての吸着盤を固定できないことから、対応することができない。
【0005】
これを解決するために、例えば、実公昭58-1563号公報(特許文献2)に掲載された注入器を適用することが考えられる。図6に示すように、この注入器Taは、亀裂Wが露出したコンクリート構造体Cの表面の面方向に沿って配置され一端に充填材Fの入口101を有する棒状の本体100と、この本体100の他端側の側部に突設されるとともにコンクリート構造体Cの表面の亀裂Wに充填材Fを吐出する吐出口102が形成されたノズル体103とから構成されている。この注入器Taにおいては、本体100の入口101から他端側に至る第1軸線P1を有した第1流路104と、第1流路104の他端側からノズル体103の吐出口102に至り第1軸線P1に直交する第2軸線P2を有した第2流路105とが形成される。即ち、注入器Taの流路を、ノズル体103のところでL字状に折曲させている。
【0006】
これによれば、上記のコンクリート構造体Cとして側面3の場合では、注入器Taの本体100をアームを介して支持機に支持し、支持機をスラブの上面2に固着するようにすれば、ノズル体103の第2流路105を補修対象のコンクリート構造体Cの表面としての側面3に対して直交させて注入器Taを配置することができるので、このようなスラブの側面3において、充填材Fの注入を行うことができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6012665号公報
【特許文献2】実公昭58-1563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の注入器Taを用いると、幅寸法の小さいスラブからなるコンクリート構造体Cの側面3においても、これらに生じた亀裂に充填材Fを注入できるようにはなるが、ノズル体103の吐出口102から充填材Fが吐出される際に、本体100に作用するモーメント荷重M(反力)によって、上面2にある吸着盤で構成された支持機での支持だけでは十分に押さえきれずに、ノズル体103が表面から離間しやすくなって、充填材Fの漏れが生じやすくなり、充填が不十分になることがあるという問題があった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、幅寸法の小さいコンクリート構造体の表面にも容易に設置できるようにするとともに、ノズル体の吐出口から充填材が吐出される際に、ノズル体がコンクリート構造体の表面から離間しにくくして、充填材の充填を確実に行うことができるようにしたコンクリート構造体の補修装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明のコンクリート構造体の補修装置は、コンクリート構造体の表面であって該表面に直交する別表面を有した当該コンクリート構造体の表面に生じた亀裂に充填材を充填して補修するためのコンクリート構造体の補修装置であって、
亀裂が露出したコンクリート構造体の表面の面方向に沿って配置され一端に充填材の入口を有するとともに該コンクリート構造体に支持機により支持される本体と、該本体の他端側の側部に突設されるとともに上記コンクリート構造体の表面の亀裂に充填材を吐出する吐出口が形成されたノズル体とからなる注入器を備え、該注入器に、上記本体の入口から他端側に至る第1軸線を有した第1流路と、該第1流路の他端側から上記ノズル体の吐出口に至り上記第1軸線に直交する第2軸線を有した第2流路とを形成し、
上記本体の上記ノズル体とは反対側に設けられ上記吐出口から充填材が吐出される際に上記本体に作用するモーメント荷重に抵抗する抵抗手段を備え、
上記注入器の本体を、上記第1軸線に沿う細長状に形成し、
上記支持機を、上記第1軸線方向に直交する軸線を有し上記本体の一端側が該第1軸線方向に沿って移動可能に挿通される挿通孔を長手方向途中に有したアームと、上記本体をアームに対する所望の移動位置で位置決めする位置決め機構と、上記アームの挿通孔よりも基端側を支持するとともに空気の吸引により別表面に吸着させられ吸引解除により別表面から離脱可能な吸着盤とを備えて構成し、
上記注入器の本体の上記ノズル体とは反対側に設けられ上記吐出口から充填材が吐出される際に上記本体に作用するモーメント荷重に抵抗する抵抗手段を備え、該抵抗手段を、上記アームの上記挿通孔よりも先端側と上記本体の他端側との間に設けられ該アームの先端側に固定されるリブで構成している。
【0011】
これにより、コンクリート構造体の表面に生じた亀裂から充填材を充填するときは、支持機の吸着盤を別表面に載置し、注入器の本体を亀裂が露出したコンクリート構造体の表面の面方向に沿って配置し、ノズル体の先端をコンクリート構造体の表面の亀裂に対峙させて、吸着盤をその吸着により別表面に取付け、本体を支持機により支持する。この際には、注入器の本体をアームの挿通孔を進退動させて位置決め機構により所望の移動位置で位置決めする。この場合、支持機は別表面に取付けられ、注入器はコンクリート構造体の表面の面方向に沿って配置されるので、注入器を幅寸法の小さいコンクリート構造体の表面に容易に設置することができる。また、注入器の本体をアームの挿通孔を進退動させて位置決め機構により所望の移動位置で位置決めできるので、ノズル体を亀裂の位置に位置させやすくなり、それだけ操作性を向上させることができる。
【0012】
この状態で、本体に充填材を供給すると、充填材は、本体の入口からその他端側に至る第1流路を通り、ノズル体の第2流路を通って吐出口から吐出されるが、ノズル体の第2流路は、第1流路に対してL字状になっており、この第2流路の第2軸線は、補修対象のコンクリート構造体の表面に対して直交しているので、充填材は亀裂内に注入されていく。この場合、ノズル体の吐出口から充填材が吐出される際に、本体にはモーメント荷重(反力)が作用し、また、本体を介してアームにもモーメント荷重が作用し、ノズル体が亀裂から離間させられようとするが、抵抗手段のリブがあるので、そのモーメント荷重がリブを介してアームに作用して支持機で受けられることになり、リブの無い場合に比較して、ノズル体がコンクリート構造体の亀裂から離間しにくくなり、そのため、充填材が漏れにくくなり、その充填を確実に行うことができるようになる。即ち、リブがない場合には、モーメント荷重により本体自体が撓みやすくなるとともに、本体とアームの挿通孔とのクリアランスの分、本体が傾斜しやすくなって、ノズル体が亀裂から離間させられようとするが、これをリブにより抑止できるのである。
【0013】
そして、必要に応じ、上記リブを、上記アームの先端側に沿う第1辺と上記本体の他端側に沿う第2辺と解放された第3辺とを備えた略三角形状の板状に形成し、上記第1辺を上記アームの先端側に固定し、上記リブに、上記第3辺から上記第2辺に向けてボルトの雄ネジが螺合する貫通した雌ネジ部を順に形成したボルト取付部を設け、該ボルト取付部の雌ネジ部にボルトを螺合して取付け、該ボルトをねじ込んでその先端を上記本体の他端側を押圧可能にした構成としている。
【0014】
これにより、本体の他端側とリブの第2辺との間にクリアランスがある等してガタつきがあっても、ボルトをねじ込んでその先端を本体の他端側を押圧することができることから、ガタつきをなくすることができ、そのため、リブでの本体の押さえを確実にして、ノズル体が表面から離間する事態をより一層抑止することができる。
【0015】
この場合、上記ボルト取付部を、本体の他端側の長手方向に沿って所定間隔で複数設け、夫々のボルト取付部にボルトを取付けたことが有効である。複数のボルトで本体の他端側を押圧することができることから、押さえを確実にすることができる。
【0016】
また、必要に応じ、上記吸着盤を、上記別表面に対向する板状の基体と、該基体の下面側に設けられ上記別表面に弾接する樹脂製の環状パッキンと、上記基体に貫通して設けられ上記基体,環状パッキン及び上記別表面で形成される空間から空気を吸引する吸引通路が形成された吸引管とを備えて構成し、
上記アームの挿通孔より基端側をユニバーサルジョイントを介して上記吸引管に支持し、該アームの上記吸着盤を挟んだ前後に、夫々、上記別表面に先端が当接する当接部材を設けた構成としている。
これにより、吐出口から充填材が吐出される際に、アームにもモーメント荷重が作用して吸着盤にこれを別表面から引き剥す方向の力が作用するが、当接部材によってもアームに作用するモーメント荷重を受け止めることができるので、吸着盤が壁面から剥がされにくくなり、ノズル体が表面から離間する事態をより一層抑止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、注入器はコンクリート構造体の表面の面方向に沿って配置されるので、幅寸法の小さいコンクリート構造体の表面に容易に設置することができる。また、ノズル体の吐出口から充填材が吐出される際に、本体にはモーメント荷重(反力)が作用し、また、本体を介してアームにもモーメント荷重が作用し、ノズル体が亀裂から離間させられようとするが、抵抗手段のリブがあるので、そのモーメント荷重がリブを介してアームに作用して支持機で受けられることになり、リブの無い場合に比較して、ノズル体がコンクリート構造体の亀裂から離間しにくくなり、そのため、充填材が漏れにくくなり、その充填を確実に行うことができるようになる。即ち、リブがない場合には、モーメント荷重により本体自体が撓みやすくなるとともに、本体とアームの挿通孔とのクリアランスの分、本体が傾斜しやすくなって、ノズル体が亀裂から離間させられようとするが、これをリブにより抑止できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体の補修装置をその使用状態とともに示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体の補修装置において、支持機の構成を示す一部切欠き側面図である。
図3】本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体の補修装置をその使用状態とともに示す側面図である。
図4】本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体の補修装置の変形例をその使用状態とともに示す側面図である。
図5】本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体の補修装置が適用できるコンクリート構造体の一例を示す斜視図である。
図6】従来からあるコンクリート構造体の補修用の注入器の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体の補修装置について詳細に説明する。
図1乃至図4に示す本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体の補修装置Kは、コンクリート構造体Cの表面に形成された亀裂Wに充填材Fを注入するために用いられるものである。充填材Fとしては、例えば、セメント、モルタル、コンクリート等のセメント系材料、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂材料等周知の材料が用いられる。
【0020】
コンクリート構造体Cとしては、種々のものを挙げることができるが、上述もしたように、例えば、図5に示すように、新幹線などの高速軌道車両が走行するスラブ式軌道を構成するスラブを挙げることができる。スラブは、長手方向に沿って所定間隔Eを隔てて列設される。本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体Cの補修装置Kは、このスラブからなるコンクリート構造体Cに適用される。コンクリート構造体Cは、矩形板状に形成され、コンクリート製の路盤としてのベース1上に設置され、上面2及びこの上面2に直交する側面3及び端面4とを備えている。端面4の中央には、ベース1から突設される突起5に緩衝材を介して接合される凹所6が形成されている。スラブの大きさは、例えば、長手方向の長さが4900mm、短手方向の長さが2220mm、高さが190mmに設定されている。また、隣接するスラブの所定間隔Eは、例えば、50mm~150mm程度である。
【0021】
実施の形態に係るコンクリート構造体の補修装置Kは、このスラブからなるコンクリート構造体Cの表面としての側面3に形成された亀裂Wに充填材Fを注入するために用いられるものであり、例えば、図1図3及び図5に示すように、補修の対象となるコンクリート構造体Cの表面としての側面3に形成された亀裂Wに充填材Fを注入する。
【0022】
実施の形態に係る補修装置Kは、亀裂Wに充填材Fを注入する注入器Tを備えている。注入器Tは、亀裂Wが露出したコンクリート構造体Cの表面としての側面3の面方向に沿って配置され一端に充填材Fの入口11を有するとともにコンクリート構造体Cに支持機Sにより支持される本体10と、本体10の他端側の側部に突設されるとともにコンクリート構造体Cの表面の亀裂Wが露出した部位に当接させられ且つ充填材Fの吐出口12が形成された先端面13を有したノズル体14とから構成されている。コンクリート構造体Cは補修対象の表面としての側面3に直交する別表面としての上面2を有することになるが、支持機Sは、この別表面としての上面2に設置される。
【0023】
注入器Tには、本体10の入口11から他端側に至る第1軸線P1を有した第1流路15と、第1流路15の他端側からノズル体14の吐出口12に至り第1軸線P1に直交する第2軸線P2を有した第2流路16とが形成されている。本体10は、一端に入口11のある金属あるいは樹脂製で断面四角形に形成され、第1軸線P1に沿う細長状に形成されている。この本体10には第1流路15が形成されているとともに第2流路16の前位側が形成されている。このブロック体18に、金属あるいは樹脂製のブロック状のノズル体14が付設されており、ノズル体14には、第2流路16の後位側が形成されている。本体10の一端には、手動の開閉弁21を介して充填材Fの送給ホース(図示せず)が接続される。
【0024】
支持機Sは、図1乃至図3に示すように、第1軸線P1方向に直交する軸線を有し本体10の一端側が第1軸線P1方向に沿って移動可能に挿通される挿通孔41を長手方向途中に有したアーム40と、本体10をアーム40に対する所望の移動位置で位置決めする位置決め機構42と、アーム40の挿通孔41よりも基端側を支持するとともに空気の吸引により別表面としての上面2に吸着させられ吸引解除により別表面としての上面2から離脱可能な吸着盤50とを備えて構成されている。位置決め機構42は、挿通孔41が形成されているアーム40の壁部にアーム40の軸線に直交する軸線を有した雌ネジ43と、この雌ネジ43に螺合しねじ込むことにより本体10を挿通孔41の内壁面に押し付ける手動のボルト44とから構成されている。
【0025】
吸着盤50は、図2に示すように、別表面としての上面2に対向する円板状の基体51と、基体51の下面側に設けられ別表面としての上面2に弾接する樹脂製の円環状パッキン52と、基体51の中心に貫通して設けられ基体51,環状パッキン52及び表面としての上面2で形成される空間から空気を吸引する吸引通路54が形成された吸引管53とを備えて構成されている。アーム40の挿通孔41より基端側は、アーム40に固定されたユニバーサルジョイント55を介して吸引管53に上下動可能に支持されている。ユニバーサルジョイント55と基体51との間にはコイルスプリング56が介装されており、管状パッキン52はこのコイルスプリング56の付勢力により別表面としての上面2に押圧させられる。57は吸引管53に形成された雄ネジに螺合して吸引管53を上下動させコイルスプリング56の強さを調整する手動ナットである。
【0026】
また、アーム40の吸着盤50を挟んだ前後には、夫々、別表面としての上面2に先端が当接する当接部材60が設けられている。前側の当接部材60は1個であり、後側の当接部材60は、アーム40後端に直交して設けられるウイング部材61に、アーム40の軸線に直交する方向に等間隔で一対設けられている。当接部材60は、ボルト頭のあるボルトで構成され、ボルト頭を接地させてアーム40の挿通孔64に進退動可能に設けられている。アーム40とボルト頭との間にはコイルスプリング62が介装されており、当接部材60はこのコイルスプリング62の付勢力により別表面としての上面2に押圧させられる。63は当接部材60としてのボルトの雄ネジに螺合して当接部材60を上下動させコイルスプリング62の強さを調整するナット、65はボルトの先端に螺合させられたキャップナットである。
【0027】
そして、実施の形態に係る補修装置Kには、本体10とは反対側に設けられ吐出口12から充填材Fが吐出される際に本体10に作用するモーメント荷重Mに抵抗する抵抗手段70が備えられている。抵抗手段70は、アーム40の挿通孔41よりも先端側と本体10の他端側との間に設けられアーム40の先端側に固定されるリブ71で構成されている。リブ71は、アーム40の先端側に沿う第1辺72と本体10の他端側に沿う第2辺73と解放された第3辺74とを備えた略三角形状の板状に形成されている。リブ71の第1辺72は、アーム40の先端側にボルト75で固定されている。また、リブ71には、第3辺74から第2辺73に向けてボルト76の頭が挿通される挿通穴77及びボルト76の雄ネジが螺合する貫通した雌ネジ部78を順に形成したボルト取付部79が設けられている。そして、ボルト取付部79の雌ネジ部78にボルト76を螺合して取付け、ボルト76をねじ込んでその先端を本体10の他端側を押圧可能にしている。ボルト取付部79は、本体10の他端側の長手方向に沿って所定間隔で複数(実施の形態では3つ)設けられており、夫々のボルト取付部79にボルト76を取付けている。
【0028】
従って、この実施の形態に係る補修装置Kを用いてコンクリート構造体Cの表面としての側面に生じた亀裂Wから充填材Fを充填するときは、図1乃至図3に示すように、支持機Sの吸着盤50をコンクリート構造体Cの別表面としての上面2に載置し、注入器Tの本体10を亀裂Wが露出したコンクリート構造体Cの側面3の面方向に沿って配置し、ノズル体14の先端面13を対象とする亀裂Wが露出した部位に当接させて、吸着盤50をその吸着により上面2に取付け、本体10を支持機Sにより支持する。この際には、注入器Tの本体10をアーム40の挿通孔41を進退動させて位置決め機構42により所望の移動位置で位置決めする。次に、抵抗手段70のボルト76をねじ込んでその先端を本体10の他端側を押圧する。
【0029】
この場合、支持機Sは別表面としての上面2に取付けられ、注入器Tはコンクリート構造体Cの側面3の面方向に沿って配置されるので、注入器Tを幅寸法の小さいコンクリート構造体Cの表面としての側面3に容易に設置することができる。また、注入器Tの本体10をアーム40の挿通孔41を進退動させて位置決め機構42により所望の移動位置で位置決めできるので、ノズル体14を亀裂Wの位置に位置させやすくなり、それだけ操作性を向上させることができる。
【0030】
この状態で本体10に充填材Fを供給する。充填材Fは、本体10の入口11からその他端側に至る第1流路15を通り、ノズル体14の第2流路16を通って吐出口12から吐出されるが、ノズル体14の第2流路16は、第1流路15に対してL字状になっており、この第2流路16の第2軸線P2は、補修対象のコンクリート構造体Cの表面に対して直交しているので、充填材Fは亀裂W内に注入されていく。この場合、ノズル体14の吐出口12から充填材Fが吐出される際に、本体10にはモーメント荷重M(反力)が作用し、また、本体10を介してアーム40にもモーメント荷重が作用し、ノズル体14が表面から離間させられようとするが、抵抗手段70のリブ71があるので、そのモーメント荷重Mがリブ71を介してアーム40に作用して支持機Sで受けられることになり、リブ71の無い場合に比較して、ノズル体14がコンクリート構造体Cの表面から離間しにくくなり、そのため、充填材Fが漏れにくくなり、その充填を確実に行うことができるようになる。即ち、リブ71がない場合には、モーメント荷重により本体10自体が撓みやすくなるとともに、本体10とアーム40の挿通孔41とのクリアランスの分、本体10が傾斜しやすくなって、ノズル体14が表面から離間させられようとするが、これをリブ71により抑止できるのである。
【0031】
また、リブ71に設けたボルト取付部79からボルト76をねじ込んでその先端を本体10の他端側に押圧しているので、本体10の他端側とリブ71の第2辺73との間にクリアランスがある等してガタつきがあっても、ボルト76をねじ込んでその先端を本体10の他端側を押圧することができることから、ガタつきをなくすることができ、そのため、リブ71での本体10の押さえを確実にして、ノズル体14が表面から離間する事態をより一層抑止することができる。しかも、ボルト取付部79は所定間隔で複数設けられているので、複数のボルト76で本体10の他端側を押圧することができることから、押さえを確実にすることができ、より一層確実にノズル体14が表面から離間する事態を抑止することができる。
【0032】
図4には、実施の形態に係るコンクリート構造体Cの補修装置Kの変形例を示している。これは、注入器Tにおいて、ノズル体14を、本体10の長手方向に沿って所定間隔で複数(実施の形態では3つ)設けている。これによれば、複数個所の亀裂Wに同時に充填材Fを注入することができ、注入効率を向上させることができる。
【0033】
尚、上記実施の形態に係る補修装置Kにおいて、ノズル体14は先端面13をコンクリート構造体Cの表面に当接可能に平坦に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、従来のノズル体103(図6)のように亀裂Wに挿入できるように先端先細りに形成しても良く、適宜変更して差支えない。また、上記実施の形態では、コンクリート構造体Cとして鉄道軌道用のスラブに適用した場合を示したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、どのような構造のコンクリート構造体に適用しても良く、適宜変更して差し支えない。当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
K 補修装置
C コンクリート構造体
W 亀裂
F 充填材
1 ベース
2 上面
3 側面
4 端面
T 注入器
M モーメント荷重
10 本体
11 入口
12 吐出口
13 先端面
14 ノズル体
P1 第1軸線
P2 第2軸線
15 第1流路
16 第2流路
21 開閉弁
S 支持機
40 アーム
41 挿通孔
42 位置決め機構
50 吸着盤
51 基体
52 パッキン
53 吸引管
54 吸引通路
55 ユニバーサルジョイント
56 コイルスプリング
57 手動ナット
60 当接部材
61 ウイング部材
62 コイルスプリング
63 ナット
64 挿通孔
65 キャップナット
70 抵抗手段
71 リブ
72 第1辺
73 第2辺
74 第3辺
75 ボルト
76 ボルト
77 挿通穴
78 雌ネジ部
79 ボルト取付部
図1
図2
図3
図4
図5
図6