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  • 特開-癌治療装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007663
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】癌治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
A61N5/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109213
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】507351702
【氏名又は名称】武久 究
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100129953
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 康弘
(72)【発明者】
【氏名】武久 究
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082PA01
4C082PC00
4C082PC10
4C082PG12
4C082PG16
4C082PJ01
(57)【要約】
【課題】波長1.27μmの近赤外光を、1~3cmの大きさに集光させることができるコンパクトな癌治療装置を提供すること。
【解決手段】癌治療装置300は、超音波振動子114と、超音波振動子114の直上近傍の空間像をリレーする結像光学系111と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性溶液と過酸化水素水とを混合した混合溶液をミスト状にする超音波振動子と、
前記超音波振動子の振動面近傍の空間像をリレーする結像光学系と、を備えたことを特徴とする癌治療装置。
【請求項2】
前記結像光学系が回転楕円面鏡と集光レンズとを含むことを特徴とする請求項1に記載の癌治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、本開示は、波長1.27μmの近赤外光を癌細胞周辺に照射することで癌を治療する癌治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長1.3μm前後の近赤外光を発生できる様々な光源の中で、波長1.315μmで高出力動作が可能な化学励起ヨウ素レーザ(一般にCOILと呼ばれている。COILはChemical Oxygen-Iodine Laserの頭文字である)が広く知られている。COILには、過酸化水素水(H2O2)と水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)の混合溶液(以下、BHP溶液と呼ぶ。BHPとは、Basic Hydrogen Peroxideの頭文字である)が用いられる。
【0003】
COILは、この混合溶液と塩素ガスとの化学反応によって発生した励起一重項状態の酸素分子(O2(1Δg)と示されるが、ここでは一重項酸素と記す)のエネルギーをヨウ素原子に移乗させている。このようにすることで、励起状態のヨウ素原子が生成され、レーザ発振する。化学励起ヨウ素レーザに関しては、非特許文献1~4において説明されている。
【0004】
これに対して、ヨウ素にエネルギー移乗させずに、一重項酸素から直接レーザ発振させるレーザ光源も研究されている。このレーザ光源は酸素分子レーザと呼ばれるが、ゲインが極めて低いことから、レーザ発振は難しいとされている。酸素分子レーザに関しては、特許文献1、及び非特許文献5において説明されている。
【0005】
酸素分子レーザの波長は1.27μmであり、この波長のレーザ光は、ラマン変換に基づくラマンレーザ等からも得られる。酸素分子レーザ、すなわち一重項酸素の発光スペクトルの場合に効果が期待される応用として、癌の治療が検討されている。これに関しては、特許文献2において説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2015/114682号明細書
【特許文献2】特許第6859556号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Stephen C. Hurlick, et al., “COIL technology development at Boeing,” Proceedings of SPIE Vol. 4631, 101-115 (2002).
【非特許文献2】Masamori Endo, “History of COIL development in Japan: 1982-2002,” Proceedings of SPIE Vol. 4631, 116-127 (2002).
【非特許文献3】Edward A. Duff and Keith A. Truesdell, “Chemical oxygen iodine laser (COIL) technology and development, ” Proceedings of SPIE Vol. 5414, 52-68 (2004).
【非特許文献4】Jarmila Kodymova, “COIL--Chemical Oxygen Iodine Laser: advances in development and applications,” Proceedings of SPIE Vol. 5958, 595818 (2005).
【非特許文献5】宮島啓成「O2(1Δg)に基づくレーザ発振器の研究開発」卒業論文、慶応大学理工学部、1986年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが酸素分子レーザでは、利得が極めて低いことから、レーザ発振させるために、ゲイン長を数メートル以上に長くする必要がある。したがって、装置が長くて大きくなることが問題であった。
【0009】
本開示の目的は、所望の大きさの癌細胞に対して、波長1.27μmの近赤外光を照射して治療するためのコンパクトな癌治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目標を達成するために、本実施形態の癌治療装置では、超音波振動子と波長1.27μmの近赤外光を集光できる結像光学系を用いたものである。これによると、BHP溶液を、超音波振動子を用いて、アルカリ性溶液と過酸化水素水とを混合した混合溶液を霧(ミスト)状にして、塩素ガスと反応させることで、一重項酸素が発生する。このため、その一重項酸素が放射する波長1.27μmの光の像を、結像光学系を用いてリレーすることができる。よって、装置外部において、近赤外光を集光させることができる。
【0011】
本実施形態にかかる癌治療装置では酸素分子レーザを利用する場合とは異なり、装置を小型化できる。ただし発生する近赤外光はレーザ光ではないため、直径1mm以下に集光させて、光ファイバで長距離伝送させることは困難であるが、例えば、1~3cm程度の大きさの癌に対しては、同等のサイズに集光できるため、治療の効果が高い。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、所望の大きさの癌に対して、波長1.27μmの近赤外光を照射して治療するコンパクトな癌治療装置を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1にかかる癌治療装置を示す模式図である。
図2】癌治療装置における結像光学系を説明する模式図である。
図3】癌治療装置における結像光学系を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1
以下、本実施の形態にかかる癌治療装置300について、図1を用いて説明する。図1は、近赤外スポット光源100を備えた癌治療装置300の断面構造を示した構成図である。近赤外スポット光源100は、ハウジング101と、ウインド102と、結像光学系111と、超音波振動子114とを備えている。ここでは、近赤外スポット光源100が癌治療装置300に用いられるものとして説明する。つまり、近赤外スポット光源100で発生した波長1.27μmの近赤外光が癌細胞に照射される。
【0015】
癌治療装置300では、円筒形のハウジング101には、ウインド102が密着して取り付けられている。ハウジング101とウインド102とで気密容器となっている。ハウジング101とウインド102との間には、Oリングなどのシール部材が介在していてもよい。ウインド102は透明な樹脂又はガラスなどで形成されている。ウインド102は、平行平板状に形成されている。
【0016】
ハウジング101内には、結像光学系111が設置されている。結像光学系111は、直径25mmの超音波振動子114の出口近傍の空間像をリレーする。結像光学系111は、回転楕円面鏡103と、集光レンズ106とで構成されている。集光レンズ106は、回転楕円面鏡103の内側に配置されている。
【0017】
ハウジング101の内壁面に密着するように、回転楕円面鏡103が設置されている。紙面と平行な断面において、回転楕円面鏡103は楕円として示されている。この楕円の長軸方向は鉛直方向(上下方向)となっており、短軸方向は水平方向となっている。この長軸を回転中心として、楕円を中心軸AX(楕円の長軸に一致する直線)周りに回転させることで、回転楕円面鏡103となる。ただし回転楕円面鏡103は、左右に2分割された部品103a、103bで構成されている。2つの部品103a、103bを組み合わせて一体化することで、回転楕円面鏡103となっている。
【0018】
楕円の中心軸AX上に超音波振動子114が配置されている。超音波振動子114はBHP溶液が満たされたカップ115の中央上部に配置されている。超音波振動子114は、アーム115aによってハウジング101に保持されている。BHP溶液は、超音波振動子114の上面の振動面が浸るまで満たされている。その結果、超音波振動子114が振動することで、BHP溶液は霧化する。超音波振動子114が、BHP溶液をミスト状にする。なお、カップ115は周囲から冷却されていても良い。
【0019】
一方、超音波振動子114の直上の右側には、塩素ガスを供給するチューブ116の出口が配置している。チューブ116は、塩素ガスを超音波振動子114に向けて放出する。超音波振動子114から発生した霧状(ミスト状)のBHP溶液と、チューブ116の出口から塩素ガスとが反応する。BHP溶液と塩素ガスとの化学反応によって、一重項酸素が生成する。一重項酸素から、波長1.27μmの近赤外光があらゆる方向に放出されるが、近赤外光L1、L2が超音波振動子114に対して上側の半球状に広がって進む。なお、近赤外光L1は、中心軸AX方向から小さい角度で放出された成分であり、近赤外光L2は中心軸AX方向から大きい角度で放出された成分である。また、近赤外光L1、L2が発生する領域を発光領域E1とする。
【0020】
近赤外光L1は、集光レンズ106を通ることで屈折し、収束しながら進む。その結果、近赤外光L1は、ウインド102を通過後、集光スポットFに集光される。集光スポットFが治療部位の配置場所となる。集光レンズ106は、治療部位の周辺に近赤外光L1を集光する。集光スポットFには、結像光学系111である集光レンズ106による発光領域E1の空間像が形成される。
【0021】
集光レンズ106は、図示されていないレンズホルダーで保持されており、レンズホルダーの周囲には複数の保持棒107が取り付けられている。保持棒107によって、集光レンズ106はハウジング101内に固定されている。なお、保持棒107は、例えば、回転楕円面鏡103の反射面から集光レンズ106の周縁に向けて延びる棒状の部材である。複数の保持棒107が、集光レンズ106を支持フレームとなる。図1では、2箇所から保持棒107が延びている構成が示されているが、3箇所以上から保持棒107が延びている構成であってもよい。
【0022】
一方、近赤外光L2は集光レンズ106の外側を通る。近赤外光L2は、集光レンズ106に入らなくなるが、回転楕円面鏡103に入射する。回転楕円面鏡103で反射した近赤外光L2は収束しながら進む。回転楕円面鏡103の楕円は、2つの焦点を有している。一方の焦点から発生する光線は楕円面で反射すると、もう一方の焦点に到達する。そこで超音波振動子114の直上付近の発光領域E1は、一方の焦点付近に位置しており、他方の焦点が集光スポットFに位置している。回転楕円面鏡103で反射する近赤外光L2は癌細胞に集光されて照射される。このように、結像光学系111である回転楕円面鏡103は、近赤外光L1、L2を、発光領域E1と同程度の大きさで集光スポットFに集光させることができる。よって、1~3cm程度の大きさの癌に、近赤外光L1、L2を集光することができるため、効率良く癌を治療することができる。
【0023】
癌治療装置300では、集光スポットFが治療部配置場所となる。つまり、癌細胞を集光スポットFに配置するように、患者Pが姿勢を変える。集光スポットFはハウジング101の外側にある。つまり、近赤外光L1、L2がウインド102を通過した後、集光スポットFに集光される。癌が集光スポットFに一致するように患者Pが姿勢を調整することで、波長1.27μmの近赤外光L1、L2が癌細胞に照射される。これにより、癌細胞を効果的に破壊することができる。
【0024】
ハウジング101には、排気ダクト108が接続されている。排気ダクト108は、真空ポンプに接続されている。よって、排気ダクト108からハウジング101内の気体が排出される。このように、排気ダクト108からハウジング101が真空排気されている。
【0025】
また、カップ115の底部にはドレイン用のパイプ120が接続されている。パイプ120にはバルブ121が取り付けられている。また、ハウジング101の底部には、パイプ122が接続されている。パイプ122には、バルブ123が取り付けられている。
【0026】
レーザ動作中において、バルブ121は、閉になっている。動作終了後にBHP溶液を排出する際は、バルブ121を開くことで、BHP溶液はハウジング101内の底部に溜まり、パイプ122から外部に進む。レーザ動作中は、パイプ122に取り付けられたバルブ123は閉じられている。レーザ動作終了後にバルブ123を開いて、BHP溶液を外部に排出できるようになっている。一方、BHP溶液と塩素ガスとの反応によって生じる水もハウジング101内の底部に溜まり、パイプ122から排出できるようになっている。なお、排出後のBHP溶液を回収して再利用してもよい。
【0027】
(結像光学系111)
以上に説明したように、癌治療装置300では、結像光学系111として、集光レンズ106と回転楕円面鏡103の2つの光学部品が用いられている。超音波振動子114の出口近傍が発光領域E1となっている。集光レンズ106が発光領域E1で発生した近赤外光L1を集光スポットFに導いている。回転楕円面鏡103が発光領域E1で発生した近赤外光L2を集光スポットFに導いている。集光レンズ106と回転楕円面鏡103の両方を用いている理由について、図2図3を用いて以下で説明する。
【0028】
図2は回転楕円面鏡103だけを用いた場合の模式図であり、図3は集光レンズ106だけを用いた場合の模式図である。回転楕円面鏡103のみを用いた場合、図2に示すように、中心軸AXから小さい角度の近赤外光L1は回転楕円面鏡103に当たらないため、集光スポットFの外側を通過し、集光スポットFに集光されない。その結果、近赤外光L1はロスとなり、光の利用効率が低くなってしまう。
【0029】
集光レンズ106のみを用いた場合は、図3に示すよう、中心軸AXから大きな角度の近赤外光L2は集光レンズ106を通らないため、集光スポットFの外側を通過し、集光スポットFに集光されない。その結果、近赤外光L2はロスとなり、光の利用効率が低くなってしまう。
【0030】
このように、回転楕円面鏡103又は集光レンズ106の一方のみを用いた場合、集光スポットFに集光されない光の割合が高くなる。ノズル近傍から発生した波長1.27μmの光の多くの割合が、治療部配置場所に集められず、ロスとなってしまう。そこで本実施形態にかかる癌治療装置300では、集光レンズ106と回転楕円面鏡103の2つの光学部品を用いて2つの結像光学系111が形成されている。結像光学系111は、発光領域E1の空間像を集光スポットFにリレーする。集光レンズ106と回転楕円面鏡103の集光スポットFは一致している。癌細胞に対して効果的に近赤外光L1、L2を照射することができる。例えば、1~3cm程度の大きさの癌を効果的に治療することができる。
【0031】
なお、癌治療装置300では、ウインド102の上側に大きな開口部113aを有するベッド113が設置されている。患者Pは患部を下向きにして寝る体勢を取る。近赤外光L1、L2は開口部113aを通過して、患部に照射される。なお、開口部113aには近赤外光L1、L2を透過する透明な窓が設けられていてもよい。
【0032】
以上に説明した癌治療装置300では、サイズが1~3cmの乳癌などの癌治療装置に好適である。さらに、皮膚での透過率の高い波長1.27μm光を照射することができる。一重項酸素が発生する波長1.27μmの光を用いることで、効率よく癌を治療することができる。一重項酸素の発光ラインは、基底状態の酸素分子の吸収スペクトルと一致する。よって、効率よく癌を治療することができ、治療効果を高めることができる。
【0033】
一重項酸素分子は、1.268μm近傍に数十本の発光ラインから成る発光スペクトルを有し、これは基底状態の酸素分子の吸収スペクトルと一致する。つまり、酸素分子の一重項状態では、その励起準位のエネルギーに相当する光子を放出するため、基底状態の酸素分子はその光子を強く吸収する。なお、強く吸収するとは、吸収断面積が比較的に大きいことを意味する。そこで、波長1.27μm光を癌細胞周辺に照射することで、癌細胞周辺に存在している溶存酸素が効率良く一重項状態に励起される。
【0034】
酸素分子に多数の吸収ラインがある理由としては、基底状態でも一重項状態でも、その電子状態は、酸素分子が2原子分子であることに起因する多数の回転準位に分離しているからである。すなわち、エネルギーの吸収や放出に伴って遷移する際の上準位と下準位のそれぞれの回転準位の違いによって、遷移するエネルギーが僅かに異なるからである。近赤外スポット光源100は、BHP溶液の化学反応により励起酸素を発生している。従って、波長1.27μm光の出力を簡単に高められる。大出力の波長1.27μm光が得られるため、短時間で癌を治療できる。
【0035】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。
【符号の説明】
【0036】
300 癌治療装置
100 近赤外スポット光源
101 ハウジング
102 ウインド
103 回転楕円面鏡
103’ 回転楕円面鏡の楕円の全体
115 カップ
115a アーム
106 集光レンズ
107 保持棒
108 排気ダクト
120、122 パイプ
121、123 バルブ
111 結像光学系
113 ベッド
113a 開口部
114 超音波振動子
116 チューブ
L1、L2 近赤外光
AX 中心軸
E1 発光領域
P 患者
F 集光スポット
図1
図2
図3