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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007667
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】車両用手放し状態判定装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250109BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20250109BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20250109BHJP
   B62D 133/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D113:00
B62D119:00
B62D133:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109218
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝宗
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232CC26
3D232CC30
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA83
3D232DA84
3D232DC04
3D232DC09
3D232DC33
3D232DC34
3D232DC36
3D232DC38
3D232EA01
3D232EB04
3D232GG01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】操舵装置の組付け誤差などの要因により操舵トルクセンサの出力誤差が生じても、運転者が手放し状態にあるか否かの判定が誤判定になる虞を低減することができるよう改良された手放し状態判定装置を提供する。
【解決手段】操舵ハンドルと操舵輪との間の操舵伝達系に制御トルクを付与するよう構成されたトルク付与装置と、操舵ハンドルとトルク付与装置との間にて操舵伝達系に設けられた操舵トルクセンサと、操舵トルクセンサにより検出された操舵トルクTsが第一の所定の範囲(下限値Tr-α以上で上限値Tr+α以下)内であるときに、運転者が操舵ハンドルを保持していない手放し状態と判定するよう構成された制御ユニットと、を含む手放し状態判定装置であって、制御ユニットは、トルクが操舵トルクセンサに入力されていないと判定する状況において操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに基づいて第一の所定の範囲の可変設定を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵ハンドルと操舵輪との間の操舵伝達系に制御トルクを付与するよう構成されたトルク付与装置と、前記操舵ハンドルと前記トルク付与装置との間にて前記操舵伝達系に設けられた操舵トルクセンサと、前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクが第一の所定の範囲内であるときに、運転者が前記操舵ハンドルを把持していない手放し状態と判定するよう構成された制御ユニットと、を含む車両用手放し状態判定装置において、
前記制御ユニットは、トルクが前記操舵トルクセンサに入力されていないと判定する状況において前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに基づいて前記第一の所定の範囲の可変設定を行うよう構成された、車両用手放し状態判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用手放し状態判定装置において、前記第一の所定の範囲は、基準トルク-所定値以上で前記基準トルク+前記所定値以下の範囲であり、前記制御ユニットは、トルクが前記操舵トルクセンサに入力されていないと判定する状況において前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクを前記基準トルクとすることにより、前記第一の所定の範囲の可変設定を行うよう構成された、車両用手放し状態判定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用手放し状態判定装置において、前記制御ユニットは、車両が直進走行中であり且つ車両が車線の中央を走行中であり且つ路面が横傾斜していないと判定するときに、トルクが前記操舵輪の側から前記操舵トルクセンサに入力されていないと判定するよう構成された、車両用手放し状態判定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用手放し状態判定装置において、前記制御ユニットは、車両が直進状態にあり且つ車両に作用する横力の大きさが横力判定の基準値以下であり且つ前記制御トルクの大きさが制御トルク判定の基準値以下であると判定するときに、トルクが前記操舵輪の側から前記操舵トルクセンサに入力されていないと判定するよう構成された、車両用手放し状態判定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用手放し状態判定装置において、前記制御ユニットは、トルクが前記操舵輪の側から前記操舵トルクセンサに入力されていない状において、前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクが前記第一の所定の範囲よりも大きい第二の所定の範囲内であるときに、トルクが前記操舵ハンドルの側から前記操舵トルクセンサに入力されていないと判定するよう構成された、車両用手放し状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両のための手放し状態判定装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両のための自動運転装置として、車線に対する車両の横方向位置を自動操舵により制御する車線維持支援装置、車線逸脱抑制装置及び車線変更支援装置などの操舵支援装置が良く知られている。
【0003】
操舵支援装置による操舵支援は、運転者が操舵ハンドルを把持していることを前提として行われることがある。運転者が操舵ハンドルを把持していないときには、操舵トルクの大きさが小さい状況が継続するので、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに基づいて運転者が操舵ハンドルを把持せずに手放し状態にあるか否かを判定することが知られている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクの大きさが基準値未満であるとの判定が連続して所定の回数行われると、運転者が操舵ハンドルを手放ししていると判定する手放し状態判定技術が記載されている。この手放し状態判定技術によれば、タッチセンサのような高価なセンサを要することなく、運転者の手放し状態を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-117025号公報
【発明の概要】
【0006】
〔発明が解決しようとする課題〕
車両が直進走行状態にあり自動操舵も運転者による操舵も行われていないときには、操舵トルクセンサにはトルクが作用しないので、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクは0である。
【0007】
しかし、操舵装置や操舵トルクセンサの組付けに誤差があると、車両が直進走行状態にあり且つ自動操舵及び運転者による操舵が行われていなくても、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクが0以外の値になる出力誤差が生じることがある。また、操舵輪のホイールアライメント、車両の左右の重量バランスなどがずれても、操舵トルクセンサの出力誤差が生じることがある。
【0008】
上述のような要因により操舵トルクセンサの出力誤差が生じると、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクの大きさが出力誤差に起因して基準値以上になり、運転者が手放し状態にあるにも拘らず、運転者が手放し状態にないと誤判定されることがある。
【0009】
本発明は、操舵装置の組付け誤差などの要因により操舵トルクセンサの出力誤差が生じても、運転者が手放し状態にあるか否かの判定が誤判定になる虞を低減することができるよう改良された手放し状態判定装置を提供する。
【0010】
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
本発明によれば、操舵ハンドル(14)と操舵輪(前輪16FL、16FR)との間の操舵伝達系(34)に制御トルクを付与するよう構成されたトルク付与装置(EPS装置12)と、操舵ハンドルとトルク付与装置との間にて操舵伝達系に設けられた操舵トルクセンサ(38)と、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルク(Ts)が第一の所定の範囲(下限値Tr-α以上で上限値Tr+α以下)内であるときに(S100)、運転者が操舵ハンドルを把持していない手放し状態と判定する(S110)よう構成された制御ユニット(操舵支援ECU50)と、を含む車両用手放し状態判定装置(100)が提供される。
【0011】
制御ユニットは、トルクが操舵トルクセンサ(38)に入力されていないと判定する状況において(S10~S40、又はS10、S25、S35及びS40)操舵トルクセンサにより検出される操舵トルク(Ts)に基づいて第一の所定の範囲の可変設定を行う(S50、S80)よう構成される。
【0012】
上記の構成によれば、トルクが操舵トルクセンサに入力されていないと判定する状況において操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに基づいて第一の所定の範囲が可変設定される。トルクが操舵トルクセンサに入力されていないと判定される状況において操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクは、操舵装置の組付け誤差などの要因による操舵トルクセンサの出力誤差である。よって、操舵トルクセンサの出力誤差に基づいて第一の所定の範囲を可変設定することができる。従って、第一の所定の範囲が可変設定されない場合に比して、操舵装置の組付け誤差などの要因により操舵トルクセンサの出力誤差が生じた状況において、運転者が手放し状態にあるか否かの判定が出力誤差に起因して誤判定になる虞を低減することができる。
【0013】
〔発明の態様〕
本発明の一つの態様においては、第一の所定の範囲は、基準トルク-所定値以上で基準トルク+所定値以下(Tr-α以上でTr+α以下)の範囲であり、制御ユニット(操舵支援ECU50)は、トルクが操舵トルクセンサ(38)に入力されていないと判定する状況において(S10~S40、又はS10、S25、S35及びS40)操舵トルクセンサにより検出される操舵トルク(Ts)を基準トルク(Tr)とすることにより、第一の所定の範囲の可変設定を行う(S50、S80)よう構成される。
【0014】
上記態様によれば、第一の所定の範囲は、基準トルク-所定値以上で基準トルク+所定値以下の範囲であり、トルクが操舵トルクセンサに入力されていないと判定される状況において操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクが基準トルクとされる。よって、トルクが操舵トルクセンサに入力されていないと判定される状況において操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに基づいて基準トルクを可変設定することにより、第一の所定の範囲を可変設定することができる。
【0015】
本発明の他の一つの態様においては、制御ユニット(操舵支援ECU50)は、車両(102)が直進走行中であり且つ車両が車線の中央を走行中であり且つ路面が横傾斜していないと判定するときに(S10~S30)、トルクが操舵輪(前輪16FL、16FR)の側から操舵トルクセンサ(38)に入力されていないと判定する(S50)よう構成される。
【0016】
車両が直進走行中であり且つ車両が車線の中央を走行中であり且つ路面が横傾斜していないと判定されるときには、操舵輪の側から操舵トルクセンサにトルクは作用しない。よって、上記態様によれば、トルクが操舵輪の側から操舵トルクセンサに入力されていない状況を判定することができる。
【0017】
本発明の他の一つの態様においては、制御ユニット(操舵支援ECU50)は、車両(102)が直進状態にあり且つ車両に作用する横力の大きさが横力判定の基準値以下であり且つ制御トルクの大きさが制御トルク判定の基準値以下であると判定するときに(S10~S40、又はS10、S25及びS35)、トルクが操舵輪(前輪16FL、16FR)の側から操舵トルクセンサ(38)に入力されていないと判定する(S50)よう構成される。
【0018】
車両が直進状態にあり且つ車両に作用する横力の大きさが横力判定の基準値以下であり且つ制御トルクの大きさが制御トルク判定の基準値以下であると判定されるときには、操舵輪の側から操舵トルクセンサにトルクは作用しない。よって、上記態様によれば、トルクが操舵輪の側から操舵トルクセンサに入力されていない状況を判定することができる。
【0019】
本発明の他の一つの態様においては、制御ユニット(操舵支援ECU50)は、トルクが操舵輪の側から操舵トルクセンサに入力されていない状況において、操舵トルクセンサ(38)により検出される操舵トルク(Ts)が第一の所定の範囲よりも大きい第二の所定の範囲(下限値Tr-β以上で上限値Tr+β以下)内であるときに、トルクが操舵ハンドル(14)の側から操舵トルクセンサに入力されていないと判定するよう構成される。
【0020】
トルクが操舵輪の側から操舵トルクセンサに入力されていない状況において、運転者が操舵操作を行わず操舵ハンドルを軽く保持しているときには、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクの大きさは大きい値にならない。上記態様によれば、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクが第一の所定の範囲よりも大きい第二の所定の範囲内であるときに、トルクが操舵ハンドルの側から操舵トルクセンサに入力されていないと判定される。よって、運転者が操舵操作を行わず操舵ハンドルを軽く保持し、トルクが操舵ハンドルの側から操舵トルクセンサに入力されていない状況を判定することができる。
【0021】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態にかかる手放し状態判定装置を示す概略構成図である。
図2】第一の実施形態の手放し状態判定制御ルーチンを示すフローチャートである。
図3】第二の実施形態の手放し状態判定制御ルーチンを示すフローチャートである。
図4】第三の実施形態の手放し状態判定制御ルーチンを示すフローチャートである。
図5】第四の実施形態の手放し状態判定制御ルーチンを示すフローチャートである。
図6】基準値Trが可変設定されない従来の場合(A)及び本発明に従って基準値Trが可変設定される場合(B)について、手放し状態判定の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付の図を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
実施形態にかかる手放し状態判定装置100は、図1に示されているように、操舵装置10、電動パワーステアリング・ECU40及び操舵支援ECU50を含んでおり、駆動ECU60及び制動ECU70を備えた自動運転が可能な車両102に適用されている。本明細書においては、電動パワーステアリングは必要に応じてEPS(Electric Power Steeringの略)と呼称される。
【0025】
EPS・ECU40、操舵支援ECU50、駆動ECU60及び制動ECU70は、マイクロコンピュータを主要部として備える電子制御装置(Electronic Control Unit)であり、CAN(Controller Area Network)104を介して相互に情報を送受信可能に接続されている。各マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースなどを含んでいる。CPUは、ROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。これらのECUは一つのECUに統合されてもよい。
【0026】
図1に示されているように、操舵装置10は、EPS・ECU40に接続されたEPS装置12を含み、EPS装置12は、運転者による操舵ハンドル14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型のEPS装置として構成されている。EPS装置12のラックバー18は、タイロッド20L及び20Rを介して操舵輪である前輪16FL及び16FRのナックルアーム(図示せず)に連結されている。操舵ハンドル14はステアリングシャフト22及びユニバーサルジョイント24を介してEPS装置12のピニオンシャフト26に接続されている。
【0027】
図示の実施形態においては、EPS装置12はラックアシスト型の電動パワーステアリング装置であり、電動機28と、電動機28の回転及びトルクを往復動方向の変位及び力に変換してラックバー18に伝達する例えばベルト式の変換機構30と、を有している。EPS装置12は、ハウジング32に対し相対的にラックバー18を駆動することにより、制御トルクを発生する。
【0028】
よって、ステアリングシャフト22、ユニバーサルジョイント24、ピニオンシャフト26、EPS装置12及びタイロッド20L、20Rは、操舵ハンドル14と前輪16FL及び16FRとの間に操舵の変位及びトルクを伝達する操舵伝達系34を構成している。EPS装置12は、EPS・ECU40と共働して、操舵伝達系34に制御トルクTcを付与するトルク付与装置として機能する。
【0029】
ステアリングシャフト22には、操舵角θsを検出する操舵角センサ36が設けられ、ピニオンシャフト26には、操舵トルクTsを検出する操舵トルクセンサ38が設けられている。図1には詳細に示されていないが、操舵トルクセンサ38は、弾性的にねじれ変形可能なトーションバーに対し操舵ハンドル14の側の部材及びEPS装置12の側の部材の回転角度の差、即ち相対回転角度に比例する値として操舵トルクTsを検出する。操舵トルクセンサ38は、ステアリングシャフト22に設けられていてもよい。
【0030】
なお、操舵角θs及び操舵トルクTsは、運転者の操舵操作により車両102が左旋回する際に正の値になるとする。EPS装置12は、前輪16FL及び16FRと操舵トルクセンサ38との間にて操舵伝達系34に制御トルクを付与する限り、ピニオンアシスト型又はコラムアシスト型のEPS装置であってもよい。
【0031】
EPS・ECU40は、後述の運転操作センサ80及び車両状態センサ90により検出された操舵トルクTs及び車速Vに基づいて、当技術分野において公知の要領にてEPS装置12を制御することにより、操舵アシストトルクを制御し、運転者の操舵負担を軽減する。また、EPS・ECU40は、EPS装置12を制御することにより、必要に応じて前輪16FL及び16FRを操舵することができる。よって、EPS・ECU40及びEPS装置12は、必要に応じて前輪を自動的に操舵する自動操舵装置として機能する。
【0032】
操舵支援ECU50には、カメラセンサ52及びレーダセンサ54が接続されている。カメラセンサ52及びレーダセンサ54は、それぞれ複数のカメラ装置及び複数のレーダ装置を含んでいる。カメラセンサ52及びレーダセンサ54は、車両102の少なくとも前方の物標の情報を取得する物標情報取得装置として機能する。なお、レーダセンサ54に代えて、又はレーダセンサ54に加えて、LiDAR(Light Detection And Ranging)が使用されてもよい。
【0033】
更に、操舵支援ECU50には、設定操作器56及び警報装置58が接続されており、設定操作器56は、運転者により操作される位置に設けられている。図1には示されていないが、実施形態においては、設定操作器56は、LTAスイッチを含み、操舵支援ECU50は、LTAスイッチがオンである場合にLTAを実行する。なお、LTAスイッチが省略されてもよい。なお、LTAは車線維持支援制御(Lane Tracing Assist Control)を意味する。
【0034】
警報装置58は、運転者が操舵ハンドル14を把持していない手放し状態と判定されたときに作動され、警報の発出、即ち運転者が手放し状態にある旨の警報の発出を行う。警報装置58は、表示器、警報ランプのような視覚警報を発する警報装置、警報ブザーのような聴覚警報を発する警報装置、シートの振動のような体感警報を発する警報装置の何れであってもよく、それらの任意の組合せであってもよい。
【0035】
駆動ECU60には、図1には示されていない駆動輪に駆動力を付与することにより車両102を加速させる駆動装置62が接続されている。駆動ECU60は、通常時には、駆動装置62により発生される駆動力が運転者による駆動操作に応じて変化するよう、駆動装置を制御し、操舵支援ECU50から指令信号を受信すると、指令信号に基づいて駆動装置62を制御する。
【0036】
制動ECU70には、図1には示されていない車輪に制動力を付与することにより車両102を制動により減速させる制動装置72が接続されている。制動ECU70は、通常時には、制動装置72により発生される制動力が運転者による制動操作に応じて変化するよう、制動装置を制御し、操舵支援ECU50から指令信号を受信すると、指令信号に基づいて制動装置72を制御することにより自動制動を行う。
【0037】
運転操作センサ80及び車両状態センサ90は、CAN104に接続されている。運転操作センサ80及び車両状態センサ90によって検出された情報(センサ情報と呼ぶ)は、CAN104に送信される。運転操作センサ80は、駆動操作量センサ及び制動操作量センサを含んでいる。車両状態センサ90は、車速センサ、前後加速度センサ、横加速度センサ、及びヨーレートセンサなどを含んでいる。
【0038】
操舵支援ECU50は、操舵支援制御を行う中枢の制御装置である。実施形態においては、操舵支援ECU50は、他のECUと共働してLTAを実行する。LTAなどの操舵支援制御は、運転者が操舵ハンドル14を把持していることが前提条件として行われる。よって、後述の第一乃至第四の実施形態においては、操舵支援ECU50は、運転者が操舵ハンドル14を把持せずに手放ししているか否かを判定する手放し状態判定制御を実行する。操舵支援ECU50は、LTAの実行中に手放し状態を判定したときには、警報装置58を作動させて警報を発出すると共に、LTAの制御量を漸減してLTAを終了する。なお、LTAの制御は、当技術分野において良く知られており、本発明の要旨をなすものではないので、その説明を省略する。
【0039】
[第一の実施形態]
第一の実施形態においては、操舵支援ECU50のROMは、図2に示されたフローチャートに対応する手放し状態判定制御のプログラムを記憶している。図2に示されたフローチャートによる手放し状態判定制御は、設定操作器56の図1には示されていないLTAスイッチがオンでありLTAが実行されているときに、操舵支援ECU50のCPUにより所定の時間毎に繰り返し実行される。なお、このことは、後述の他の実施形態の手放し状態判定制御についても同様である。また、手放し状態判定制御の開始時には、後述の信頼度Rが0に初期化される。
【0040】
ステップS10においては、CPUは、車両102が直進走行状態にあるか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには、本制御をステップS90へ進め、肯定判定をしたときには、本制御をステップS20へ進める。この場合、カメラセンサ52により撮影された車両102の前方の画像に基づいて車線の曲率が推定され、車線に対する車両102の進行方向の傾斜角が推定されてよい。更に、例えば、車線の曲率の絶対値が曲率判定の基準値(正の定数)以下であり且つ進行方向の傾斜角の絶対値が傾斜角判定の基準値(正の定数)以下であるときに、車両102が直進走行状態にあると判定されてよい。なお、進行方向の傾斜角の判定は省略されてもよい。
【0041】
ステップS20においては、CPUは、車両102が車線の中央を走行しているか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには、本制御をステップS90へ進め、肯定判定をしたときには、本制御をステップS30へ進める。この場合、例えば車線の幅方向の中央に対する車両102の車幅方向の中央の横方向位置のずれ量の大きさが推定されてよい。更に、横方向位置のずれ量の大きさがずれ量判定の基準値(正の定数)以下である状況が第一の基準時間(正の定数)以上継続しているときに、車両102が車線の中央を走行していると判定されてよい。
【0042】
ステップS30においては、CPUは、路面に横方向の傾斜がないか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには、即ち路面に横方向の傾斜があると判定したときには、本制御をステップS90へ進め、肯定判定をしたときには、本制御をステップS40へ進める。この場合、車両状態センサ90の横加速度センサにより検出される車両102の横加速度Gyの絶対値が横加速度の基準値(正の定数)以下であり且つヨーレートセンサにより検出される車両102のヨーレートYrの絶対値がヨーレートの基準値(正の定数)以下であるときに、路面に横方向の傾斜がないと判定されてよい。
【0043】
ステップS40においては、CPUは、運転者が操舵操作することなく操舵ハンドル14を軽く保持しているか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには、本制御をステップS90へ進め、肯定判定をしたときには、本制御をステップS50へ進める。この場合、操舵トルクセンサ38により検出された操舵トルクTsが、下限値Trf-β以上で上限値Trf+β以下の第二の所定の範囲内にある状況が第二の基準時間(正の定数)以上継続しているときに、運転者が操舵ハンドル14を軽く保持していると判定されてよい。なお、βは後述のステップS100のαよりも大きい正の定数であってよく、Trfは後述のステップS80又はS90において設定される手放し状態判定の基準値Trの前回値である。
【0044】
ステップS50においては、CPUは、操舵トルクセンサ38により検出された操舵トルクTsの平均値Taを演算する。この場合、平均値Taを演算するための操舵トルクTsは、現在から予め設定された時間前までの値又は予め設定された制御サイクル数の値に限定されてもよい。
【0045】
ステップS60においては、CPUは、信頼度Rの前回値に1を加算することにより、信頼度Rを演算する。なお、信頼度Rは、車両102の走行が終了したときに、0にリセットされてよい。
【0046】
ステップS70においては、CPUは、信頼度Rが基準値R0(正の一定の整数)以上であるか否かを判定する。CPUは、肯定判定をしたときには、ステップS80において、手放し状態判定の基準値TrをステップS50において演算した平均値Taに設定する。これに対し、CPUは、否定判定をしたときには、手放し状態判定の基準値Trを予め設定された基準値Tr0(例えば0)に設定する。
【0047】
ステップS100においては、CPUは、αを正の定数として、操舵トルクセンサ38により検出された操舵トルクTsが、下限値Tr-α以上で上限値Tr+α以下の第一の所定の範囲内にあるか否かを判定する。CPUは、肯定判定をしたときには、ステップS110において、運転者が手放し状態であると判定し、警報装置58を作動させることにより運転者が手放し状態にある旨の警報を発出する。これに対し、CPUは、否定判定をしたときには、ステップS120において、運転者が手放し状態であるとは判定せず、警報を発出しているときには警報を停止した後、本制御を一旦終了する。なお、CPUは、警報を発出していないときには、本制御を一旦終了する。
【0048】
第一の実施形態によれば、車両102が直進走行中であり且つ車両が車線の中央を走行中であり且つ路面が横傾斜していないときには、ステップS10乃至S30において肯定判定が行われる。よって、ステップS10乃至S30によれば、トルクが操舵輪である前輪16FL、16FRの側から操舵トルクセンサ38に入力されていない状況を判定することができる。また、操舵トルクセンサにより検出されるトルクTsが第一の所定の範囲よりも大きい第二の所定の範囲内である状況が第二の基準時間以上継続しているときには、ステップS40において肯定判定が行われる。よって、ステップS40によれば、トルクが操舵ハンドル14の側から操舵トルクセンサに入力されていない状況を判定することができる。
【0049】
[第二の実施形態]
第二の実施形態においては、操舵支援ECU50のROMは、図3に示されたフローチャートに対応する手放し状態判定制御のプログラムを記憶している。図3に示されたフローチャートによる手放し状態判定制御は、設定操作器56の図1には示されていないLTAスイッチがオンでありLTAが実行されているときに、操舵支援ECU50のCPUにより所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0050】
図3図2との比較から解るように、ステップS10及びステップS40乃至S120は、第一の実施形態と同様に実行され、ステップS10において肯定判定が行われると、ステップS25が実行される。
【0051】
ステップS25においては、CPUは、車両102に作用する横力の大きさが横力の基準値以下であるか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには、本制御をステップS90へ進め、肯定判定をしたときには、本制御をステップS35へ進める。この場合、車両状態センサ90の横加速度センサにより検出される車両102の横加速度Gyの絶対値が横加速度の基準値(正の定数)以下であり且つヨーレートセンサにより検出される車両102のヨーレートYrの絶対値がヨーレートの基準値(正の定数)以下であるときに、車両に作用する横力の大きさが横力の基準値以下であると判定されてよい。
【0052】
なお、車両102の横加速度Gyは、操舵角センサ36により検出される操舵角θs及び車速センサにより検出される車速に基づいて演算される推定横加速度に置き換えられてもよい。また、ヨーレートの判定は省略されてもよい。
【0053】
ステップS35においては、CPUは、EPS装置12が操舵伝達系34に付与する制御トルクTcの絶対値が、制御トルクの基準値Tc0(正の定数)以下であるか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには、本制御をステップS90へ進め、肯定判定をしたときには、本制御をステップS40へ進める。
【0054】
第二の実施形態によれば、車両102が直進走行中であり且つ車両に作用する横力が基準値以下であり且つ制御トルクTcの大きさが基準値以下であると判定されるときには、ステップS10、S25及びS35において肯定判定が行われる。よって、ステップS10、S25及びS35によれば、トルクが操舵輪である前輪16FL、16FRの側から操舵トルクセンサ38に入力されていない状況を判定することができる。また、第一の実施形態と同様に、操舵トルクセンサにより検出されるトルクTsが第一の所定の範囲よりも大きい第二の所定の範囲内である状況が第二の基準時間以上継続しているときには、ステップS40において肯定判定が行われる。よって、トルクが操舵ハンドル14の側から操舵トルクセンサに入力されていない状況を判定することができる。
【0055】
[第三の実施形態]
第三の実施形態においては、操舵支援ECU50のROMは、図4に示されたフローチャートに対応する基準値Tr演算制御のプログラムを記憶している。図4に示されたフローチャートによる基準値Tr演算制御は、設定操作器56の図1には示されていないLTAスイッチがオンでありLTAが実行されているときに、操舵支援ECU50のCPUにより所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0056】
図4図2との比較から解るように、ステップS10乃至S80は、第一の実施形態と同様に実行され、ステップS80が完了すると、本制御はステップS10へ戻される。なお、図4には示されていないが、第一及び第二の実施形態のステップS100乃至S120は、ステップS10乃至S80のルーチンとは別の手放し状態判定ルーチンとして実行される。なお、これらのことは、後述の第四の実施形態においても同様である。
【0057】
また、第三の実施形態においては、車両102の走行が終了したときには、ステップS50において演算された操舵トルクTsの平均値Taが不揮発性のメモリに保存される。更に、本制御の開始時には、ステップS10に先立って、ステップS5において、ステップS100における判定に使用される基準値Trが、不揮発性のメモリに保存されている平均値Taに設定される。
【0058】
[第四の実施形態]
第四の実施形態においては、操舵支援ECU50のROMは、図5に示されたフローチャートに対応する基準値Tr演算制御のプログラムを記憶している。図5に示されたフローチャートによる基準値Tr演算制御は、設定操作器56の図1には示されていないLTAスイッチがオンでありLTAが実行されているときに、操舵支援ECU50のCPUにより所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0059】
図5図2との比較から解るように、ステップS10、S25、S35及びステップS40乃至S80は、第三の実施形態と同様に実行され、ステップS10において肯定判定が行われると、ステップS25が実行される。
【0060】
また、第四の実施形態においても、第三の実施形態と同様に、車両102の走行が終了したときには、ステップS50において演算された操舵トルクTsの平均値Taが不揮発性のメモリに保存される。更に、本制御の開始時には、ステップS10に先立って、ステップS5において、ステップS100における判定に使用される基準値Trが、不揮発性のメモリに保存されている平均値Taに設定される。
【0061】
以上の説明から解るように、各実施形態によれば、トルクが操舵トルクセンサ38に入力されていないと判定されたときには、その状況において操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクTsの平均値Taが演算され、基準値Trが平均値Taに設定される。更に、手放し状態を判定するための第一の所定の範囲が、下限値Tr-α以上で上限値Tr+α以下の範囲になるように、平均値Taに基づいて可変設定される。
【0062】
トルクが操舵トルクセンサ38に入力されていないと判定される状況において操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクTsは、操舵装置の組付け誤差などの要因による操舵トルクセンサの出力誤差である。
【0063】
よって、各実施形態によれば、操舵トルクセンサの出力誤差に基づいて第一の所定の範囲を可変設定することができる。従って、第一の所定の範囲が可変設定されない場合に比して、操舵装置の組付け誤差などの要因により操舵トルクセンサの出力誤差が生じた状況において、運転者が手放し状態にあるか否かの判定が誤判定になる虞を低減することができる。
【0064】
例えば、図6は、基準値Trが可変設定されない従来の場合(A)及び本発明に従って基準値Trが可変設定される場合(B)について、手放し状態判定の例を示している。なお、図6において、破線は、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクTsの平均値Taを示しており、平均値TaはΔTs(ΔTsは負の値)であり、場合(A)における基準値Trは、従来の手放し状態判定装置と同様に0であるとする。
【0065】
場合(A)においては、運転者が手放し状態にあっても、操舵トルクTsが所定の範囲の下限値-αよりも小さい領域(ハッチングが施された領域)において、操舵トルクTsが第一の所定の範囲を超えると判定され、運転者が操舵ハンドル14を把持していると誤判定される。
【0066】
これに対し、各実施形態によれば、基準値Trが平均値Taに設定され、手放し状態を判定するための第一の所定の範囲が、下限値Tr-α以上で上限値Tr+α以下の範囲に設定される。よって、場合(A)においてハッチングが施された領域においても、操舵トルクTsが所定の範囲を超えていないと判定され、運転者が手放し状態にあると判定することができる。
【0067】
特に、各実施形態によれば、トルクが操舵トルクセンサ38に入力されていないと判定された回数が多いほど高くなるように信頼度Rが演算され、信頼度Rが基準値R0以上であるときに、基準値Trが平均値Taに設定される。よって、トルクが操舵トルクセンサ38に入力されていないと判定された回数が考慮されることなく、基準値Trが平均値Taに設定される場合に比して、基準値Trを操舵トルクセンサ38が本来出力すべき操舵トルクTsの値に近づけることができる。従って、信頼度Rに関係なく基準値Trが平均値Taに設定される場合に比して、運転者が手放し状態にあるか否かを正確に判定することができる。
【0068】
以上においては、本発明を特定の実施形態及び変形例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0069】
例えば、上述の各実施形態においては、操舵支援制御はLTAであるが、車線逸脱防止制御、車線変更支援制御のように、自動操舵により車線に対する車両の横方向位置を制御する任意の操舵支援制御であってよい。
【0070】
また、実施形態においては、LTAは、運転者が手放し状態にないこと、換言すれば操舵ハンドルを把持していることを前提として行われる。しかし、LTAのような操舵支援制御は、運転者が手放し状態にあるか否かに関係なく実行され、操舵支援制御の終了条件が成立したときに、運転者が手放し状態にあるか否かの判定が行われてもよい。
【0071】
また、上述の第一乃至第四の実施形態は、それぞれ相互に独立に実行される。しかし、第一の実施形態のステップS20及びS30の少なくとも一方が、第二の実施形態に組み込まれてもよい。逆に、第二の実施形態のステップS25及びS35の少なくとも一方が、第一の実施形態に組み込まれてもよい。
【0072】
同様に、第三の実施形態のステップS20及びS30の少なくとも一方が、第四の実施形態に組み込まれてもよい。逆に、第四の実施形態のステップS25及びS35の少なくとも一方が、第三の実施形態に組み込まれてもよい。
【0073】
更に、第一及び第三の実施形態において、ステップS10乃至S40の何れかにおいて否定判定が行われたときには、信頼度Rが低下又は0にリセットされてもよい。同様に、第二及び第四の実施形態において、ステップS10、S25、S35及びS40の何れかにおいて否定判定が行われたときには、信頼度Rが低下又は0にリセットされてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10…操舵装置、12…EPS装置、14…操舵ハンドル、16FL,16FR…前輪、38…操舵トルクセンサ、40…EPS・ECU、50…操舵支援ECU、60…駆動ECU、70…制動ECU、100…手放し状態判定装置、102…車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6