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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007680
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】銅製錬の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20250109BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C22B15/00 102
C22B7/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109240
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】川上 明人
(72)【発明者】
【氏名】本村 竜也
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩行
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA06
4K001BA10
4K001BA22
4K001DA03
4K001GA04
4K001JA01
4K001KA02
(57)【要約】
【課題】 工程数を抑えつつメタリックCu相の生成を抑制することができる、銅製錬の操業方法を提供する。
【解決手段】 銅製錬の操業方法は、溶錬炉において、銅精鉱から生成されるマットにおけるメタリックCuの溶解度以下の添加量の条件で、マットにメタリックCuを供給し、30分以内に前記マットを前記溶錬炉から抜き出すことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶錬炉において、銅精鉱から生成されるマットにおけるメタリックCuの溶解度以下の添加量の条件で、マットにメタリックCuを供給し、30分以内に前記マットを前記溶錬炉から抜き出すことを特徴とする銅製錬の操業方法。
【請求項2】
溶錬炉において、銅精鉱から生成されるマットにおけるメタリックCuの溶解度以下の添加量の条件で、
溶錬炉に投入するメタリックCuの1個の重量当たりの溶解必要時間を、溶解速度を0.05~0.3g/minと仮定して該メタリックCuの1個当たりの重量を該溶解速度で割って算出し、
前記メタリックCuが前記溶錬炉の溶湯内に投入されてから炉外に排出されるまでの時間を、溶解可能時間として算出し、
前記溶解可能時間が前記溶解必要時間を上回るように前記メタリックCuの1個当たりの重量を調整する、銅製錬の操業方法。
【請求項3】
溶錬炉において、銅精鉱から生成されるマットにおけるメタリックCuの溶解度以下の添加量の条件で、該マットにメタリックCuを供給し、
該メタリックCuはリサイクル原料中に含まれ、
該リサイクル原料は、粒径が20mm以上のものを含むことを特徴とする銅製錬の操業方法。
【請求項4】
前記リサイクル原料は、複数の原料個体に対して、粒度による選別をすることなくマットに供給されることを特徴とする請求項3に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項5】
複数の原料個体に対して粒度による選別を行い、篩上の原料を前記リサイクル原料としてマットに供給することを特徴とする請求項3に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項6】
前記リサイクル原料は、破砕、裁断、焼却の少なくともいずれかを行わずにマットに供給されることを特徴とする請求項3に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項7】
前記リサイクル原料は、焼却処理後、所定の粒度で篩別した篩上の原料を含むことを特徴とする請求項5に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項8】
前記リサイクル原料は、焼却処理後、粒度による篩別を行わず、溶錬炉の原料とすることを特徴とする請求項4に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項9】
前記マットへの前記メタリックCuの供給量は、前記マットへの前記メタリックCuの溶解度の98mass%に相当する量以下にすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅製錬の操業方法。
【請求項10】
前記マットへのメタリックCuの供給量は、前記マットへの前記メタリックCuの溶解度の70mass%に相当する量以上にすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅製錬の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬自溶炉の反応シャフトでは、精鉱バーナから銅精鉱、溶剤などの製錬原料とともに、反応ガスが投入される。銅精鉱が反応ガスによって酸化反応を起こすことで、反応シャフトの底部でマットおよびスラグが生成する(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-363659号公報
【特許文献2】特開平11-140554号公報
【特許文献3】特公平01-036539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、製錬原料としてリサイクル原料の比率が増加している。しかしながら、リサイクル原料には、メタリックCuが含まれていることがある。リサイクル原料の処理量が増加すると、自溶炉などの溶錬炉へ供給されるメタリックCuの割合が増加してくる。溶錬炉へのメタリックCu供給量が増加し、メタリックCuのマットへの溶解度を超過した場合、炉内にスラグ、マット、およびメタルの3相が共存する。溶錬炉の炉底にメタルが滞留すると、不純物元素のメタル相への濃縮、また低融点メタルの炉底レンガ目地への浸透、またレンガ自体への含浸が促進され、炉底部からの湯漏れ等のリスクが増加する。また、メタル量が一定量を超過してマットタップホールレベルに到達した場合、マットホールから突如メタルが排出され、メタル製のマット樋の溶損リスク、また転炉への高不純物メタルが供給されて操業に支障が生じるおそれもある。
【0005】
そこで、前処理としてメタリックCuを微粉砕処理するなどして、メタル相の生成を抑制することが考えられる。しかしながら、前処理を行うと工程数の増加に加え、粉砕に要するエネルギーが必要になる。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、工程数を抑えつつメタリックCu相の生成を抑制することができる、銅製錬の操業方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る銅製錬の操業方法は、溶錬炉において、銅精鉱から生成されるマットにおけるメタリックCuの溶解度以下の添加量の条件で、マットにメタリックCuを供給し、30分以内に前記マットを前記溶錬炉から抜き出すことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る銅製錬の他の操業方法は、溶錬炉において、銅精鉱から生成されるマットにおけるメタリックCuの溶解度以下の添加量の条件で、溶錬炉に投入するメタリックCuの1個の重量当たりの溶解必要時間を、溶解速度を0.05~0.3g/minと仮定して該メタリックCuの1個当たりの重量を該溶解速度で割って算出し、前記メタリックCuが前記溶錬炉の溶湯内に投入されてから炉外に排出されるまでの時間を、溶解可能時間として算出し、前記溶解可能時間が前記溶解必要時間を上回るように前記メタリックCuの1個当たりの重量を調整する。
【0009】
本発明に係る銅製錬の他の操業方法は、溶錬炉において、銅精鉱から生成されるマットにおけるメタリックCuの溶解度以下の添加量の条件で、該マットにメタリックCuを供給し、該メタリックCuはリサイクル原料中に含まれ、焼却処理後、所定の粒度で篩別した篩上の原料を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る銅製錬の他の操業方法は、溶錬炉において、銅精鉱から生成されるマットにおけるメタリックCuの溶解度以下の添加量の条件で、該マットにメタリックCuを供給し、該メタリックCuはリサイクル原料中に含まれ、該リサイクル原料は、粒径が20mm以上のものを含むことを特徴とする。前記リサイクル原料は、複数の原料個体に対して、粒度による選別をすることなくマットに供給されてもよい。複数の原料個体に対して粒度による選別を行い、篩上の原料を前記リサイクル原料としてマットに供給してもよい。前記リサイクル原料は、破砕、裁断、焼却の少なくともいずれかを行わずにマットに供給されてもよい。前記リサイクル原料は、焼却処理後、所定の粒度で篩別した篩上の原料を含んでいてもよい。前記リサイクル原料は、焼却処理後、粒度による篩別を行わず、溶錬炉の原料としてもよい。
【0011】
上記銅製錬の操業方法において、前記マットへの前記メタリックCuの供給量は、前記マットへの前記メタリックCuの溶解度の98mass%に相当する量以下にしてもよい。前記マットへのメタリックCuの供給量は、前記マットへの前記メタリックCuの溶解度の70mass%に相当する量以上にしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工程数を抑えつつメタリックCu相の生成を抑制することができる、銅製錬の操業方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る銅製錬用の自溶炉の構成を概略的に示す図である。
図2】精鉱バーナ4の詳細を例示する図である。
図3】マットに対するCuの溶解度を表す状態図である。
図4】インジェクションノズルを例示する図である。
図5】実験装置を例示する図である。
図6】測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る銅製錬用の自溶炉100の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、自溶炉100は、精鉱と反応用ガスとが混合する反応シャフト1、セットラ2、アップテイク3を備える。反応シャフト1の天井部には、精鉱バーナ4が備わっている。精鉱バーナ4は、銅精鉱、溶剤、リサイクル原料等(以下、これらの固体原料を製錬原料と称する)とともに、反応用主送風ガス、反応用補助ガス、及び分散用ガス(反応にも寄与する)を反応シャフト1内に供給する。例えば、反応用主送風ガス及び反応用補助ガスは、酸素富化空気であり、分散用ガスは、空気または酸素富化空気である。
【0015】
図2は、精鉱バーナ4の詳細を例示する図であって、製錬原料、反応用主送風ガス、反応用補助ガス、および分散用ガスを反応シャフト1側へ投入する投入部10を示した説明図である。
【0016】
精鉱バーナ4の投入部10は、ランス16を備え、ランス16内には分散用ガスの通る第1通路11、反応用補助ガスが通過する第4通路14が形成されている。第4通路14は、ランス16の中心部分に設けられており、第1通路11は、第4通路14の周囲に設けられている。また、投入部10は、ランス16の外側、より具体的にランス16の外周に設けられた原料流路としての第2通路12を備えている。投入部10は、さらに、第2通路12の外側、より具体的には第2通路12の外周に設けられ、反応用主送風ガスが通過する第3通路13を備えている。第3通路13は、第2通路12を囲むように設けられた管状部分によって形成されており、その上方に設けられた漏斗状のエアチャンバー17と通じている。第2通路12と、第3通路13は、円筒状の仕切り壁21により、仕切られた状態となっている。
【0017】
第1通路11は、分散用ガスを反応シャフト1内へ供給する。第2通路12は、精鉱を反応シャフト1内へ供給する。第3通路13は、反応用主送風ガスをエアチャンバー17から反応シャフト1内へ供給する。また、第4通路14は、反応用補助ガスを反応シャフト1内へ供給する。
【0018】
なお、ランス16の先端部(下端部)には、中空円錐台状の分散コーン15が形成されている。分散コーン15の側面下部151には第1通路11を通過した分散用ガスを反応シャフト1内へ吐出する複数の供給孔152が形成されている。供給孔152は、ガスの吐出方向が分散コーン15の底面円の法線方向となるように設けられている。
【0019】
精鉱バーナ4から製錬原料が反応シャフト1内に投入されると、下記反応式(1)などにより、硫化物を含む銅精鉱が酸化反応を起こし、図1で例示するように、反応シャフト1の底部でマット5およびスラグ6に分離する。なお、下記反応式(1)で、CuS・FeSがマット5の主成分に相当し、FeO・SiOがスラグ6の主成分に相当する。溶剤として、珪酸鉱が用いられている。
CuFeS+SiO+O→CuS・FeS+FeO・SiO+SO + 反応熱 (1)
【0020】
リサイクル原料にはメタリックCuが含まれていることがある。メタリックCuの量が少なければ、精鉱バーナ4からの落下の過程でメタリックCuが硫化してマット5となる。したがって、メタル相は生成されない。
【0021】
しかしながら、リサイクル原料の処理量が増えてくると、製錬原料におけるメタリックCuの割合が高くなる傾向にある。近年では、製錬原料におけるCu成分中のメタリックCuの割合が、5mass%以上16mass%以下、または5mass%以上13mass%以下、または5mass%以上8mass%以下となることがある。
【0022】
製錬原料におけるメタリックCuの割合が高くなってくると、精鉱バーナ4からの落下の過程で、メタリックCuが硫化しきれず、メタリックCuのまま落下する。マット5において、ある程度まではメタリックCuがマット5に溶解するものの、溶解限度がある。図3は、1250℃における、マットに対するCuの溶解度を表す状態図である。図3において、「matte(l)」は、メタリックCuがマットに溶解可能な範囲を示している。「matte(l)+Cu(l)」は、メタリックCuがマットに溶解できずにメタル相が生成される範囲を示している。なお、図3の状態図は、「高在越、矢沢彬 1983年選研彙報」を出典としている。
【0023】
そこで、前処理としてリサイクル原料に対して微粉砕処理するなどしてメタリックCuの粒径を小さくすることで、精鉱バーナ4から落下する過程でのメタリックCuのマット化を促進し、セットラ2内でのメタル相の生成を軽減することが考えられる。しかしながら、精鉱バーナ4からの落下過程でマット化は通過雰囲気の影響を受け、微粉化しても必ずしも反応が進行するというものではない。また、前処理を行うと工程数の増加に加え、粉砕に要するエネルギーが必要になる。本発明者らの鋭意研究によれば、メタリックCuの供給量がマット5への溶解度以下である場合には、大きい粒径のメタリックCuを用いてもメタル相の生成が抑制され、マット5へメタリックCuを溶解させられることが突き止められた。
【0024】
具体的には、メタリックCuの供給量がマット5への溶解度以下である場合には、メタリックCuの粒径が大きくても、マット5にメタリックCuを供給してから30分以内であってもマット5へメタリックCuを溶解させられることが突き止められた。そこで、本実施形態においては、マット5にメタリックCuを供給してから30分以内にマット5を自溶炉100から外部に抜き出して、次工程へと供する。
【0025】
メタリックCuをマット5へ十分に溶解させる観点から、メタリックCuをマット5において十分に滞留させることが好ましい。本実施形態においては、メタリックCuをマット5に供給してから、10分以上経過してからマット5を自溶炉100から外部に排出することが好ましく、20分以上経過してからマット5を自溶炉100から外部に排出することがより好ましい。
【0026】
また、メタリックCuをマット5へ十分に溶解させる観点から、溶解速度に着目することが好ましい。具体的には、メタリックCuの供給量がマット5への溶解度以下であるという条件において、マット5へと投入するメタリックCuの1個の重量当たりの溶解必要時間を、溶解速度を0.05~0.3g/minと仮定して該メタリックCuの1個当たりの重量を該溶解速度で割って算出し、該メタリックCuがマット5に投入されてから炉外に排出されるまでの時間を、溶解可能時間として算出し、溶解可能時間が溶解必要時間を上回るように該メタリックCuの1個当たりの重量を調整することが好ましい。このようにすることで、メタリックCuをマット5へ十分に溶解させることができる。
【0027】
なお、メタリックCuの粒径が大きくても、メタリックCuの供給量がマット5への溶解度以下であれば、メタリックCuをマット5へ十分に溶解させることができる。したがって、メタリックCuの供給量がマット5への溶解度以下であるという条件において、メタリックCuはリサイクル原料中に含まれ、該リサイクル原料は、粒径が20mm以上のものを含んだ状態でマット5へと供給することが好ましい。なお、ここでいう粒径は三軸径の長径を意味する。リサイクル原料は、複数の原料個体に対して、粒度による選別をすることなくマット5に供給されてもよい。複数の原料個体に対して粒度による選別を行い、篩上の原料を前記リサイクル原料としてマットに供給してもよい。
【0028】
例えば、メタリックCuの供給量がマット5への溶解度以下である場合において、比表面積が452mm/g以下のメタリックCuをマット5へ供給しても、メタル相の生成を抑制することができる。この場合においては、リサイクル原料に対する微粉砕処理などの前処理を省略することができるため、工程数を抑えることができる。
【0029】
メタリックCuの比表面積が小さいほど、メタリックCuの粒径の許容範囲が広がることになり、リサイクル原料に対する微粉砕処理の必要性が低下する。そこで、本実施形態においては、メタリックCuの比表面積は、400mm/g以下であることがより好ましく、300mm/g以下であることがさらに好ましい。
【0030】
一方で、メタリックCuの比表面積が小さすぎると、メタリックCuの粒径が大きくなり、マット5に溶解させられないおそれがある。そこで、メタリックCuの比表面積に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、メタリックCuの比表面積は、133mm/g以上であることが好ましく、150mm/g以上であることがより好ましく、200mm/g以上であることがさらに好ましい。
【0031】
なお、メタル相の生成を抑制する観点から、メタリックCuの供給量をマット5への溶解限度よりも少なくすることが好ましい。本実施形態においては、マット5へのメタリックCuの供給量は、マット5へのメタリックCuの溶解度の100mass%に相当する量以下にすることが好ましく、98mass%に相当する量以下にすることがより好ましく、90mass%に相当する量以下にすることがさらに好ましい。
【0032】
一方で、メタリックCuの供給量を少なくしすぎると、リサイクル原料の処理量が少なくなってしまう。そこで、メタリックCuの供給量に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、マット5へのメタリックCuの供給量は、メタリックCuのマット5への溶解度の70mass%に相当する量以上にすることが好ましく、90mass%に相当する量以上にすることがより好ましく、95mass%に相当する量以上にすることがさらに好ましい。
【0033】
マット5へのメタリックCuの供給手法は、特に限定されるものではない。例えば、上述したように、製錬原料にリサイクル原料を混合してもよい。この場合、銅精鉱が反応ガスと反応して生成される液滴によってリサイクル原料がトラップされる。したがって、リサイクル原料の比重が5.0以下の小さい場合であっても、メタリックCuをマット5まで到達させることができる。
【0034】
または、図4で例示するように、反応シャフト1にインジェクションノズル40を設け、当該インジェクションノズル40からリサイクル原料を反応シャフト1内へと投入してもよい。この場合においても、リサイクル原料の比重が5.0以下の小さい場合であっても、メタリックCuをマット5まで到達させることができる。例えば、リサイクル原料を、スラグ6を貫通してマット5まで到達させるためには、投入速度に下限を設けることが好ましい。
【0035】
マット5は、次工程の錬銅炉へと供給される。マット5においてメタル相の生成が抑制されていれば、錬銅炉における操業条件について特段の調整しなくてもよくなる。
【0036】
メタリックCuの供給量がマット5への溶解度以下であるか否かは、製錬原料に対するサンプリングを行って組成比率を測定することによって、判断することができる。または、反応シャフト1のマット5に対するサンプリングを行なってメタル相が確認されていない場合に、メタリックCuの供給量がマット5への溶解度以下であると判断してもよい。
【0037】
なお、上記実施形態においては、溶錬炉の一例として自溶炉について説明したが、それに限られない。銅精鉱と、メタリックCuを含む原料とを含む製錬原料から銅の硫化物を主体とするマットを生成する溶錬炉であれば、メタリックCuの供給量がマットへの溶解度以下である場合において、メタリックCuの粒径が大きくても、マットにメタリックCuを供給してから30分以内であってもマットへメタリックCuを溶解させられ、メタル相の生成を抑制することができる。
【実施例0038】
(実施例1)
まず、事前に、状態図上でマット組成に基づいたメタリックCuのマットへの溶解限度(溶解度)をマット/メタリックCuの重量比として算出した。次に、図5で例示するように、石英タンマン管51内にマット52を充填し、石英タンマン管51をアルミナ坩堝に固定した。次に、アルミナ坩堝ごと電気炉にセットし、溶湯温度1250℃まで昇温した。
【0039】
次に、溶融させたマットに、状態図上でCuの溶解度の限度量の90mass%、または80mass%となるメタリックCu53を添加した。メタリックCu53として、純度100mass%で、比表面積が133mm/gの球状Cuを0.59g用いた。メタリック銅の投入量が、Cuの溶解度の限度量の90mass%、または、80mass%になるように、マットの量を調整した。このとき、石英タンマン管51内の溶体は、2液相共存境界線上の均一マット組成であった。
【0040】
電気炉に所定時間保持後、冷却過程でのCu析出を回避するため、電気炉からアルミナ坩堝を取り出し、石英タンマン管51ごと氷水に浸けて急冷した。電気炉における保持時間として、2分、5分、10分の3種類とした。
【0041】
なお、試験に用いたマット52およびメタリックCu53の組成を表1に示す。
【表1】
【0042】
(実施例2)
実施例2では、メタリックCu53として、純度100mass%で、比表面積が451mm/gの線状Cuを用いた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0043】
実施例2では、電気炉における保持時間を、2分と10分の2種類とした。
【0044】
(分析)
実施例の試料について、急冷後の試料内の残存Cu相(メタリックCu)の有無を確認した。残存Cu相は、CTスキャン及び試料断面の顕微鏡観察により評価した。試料断面の観察は直径17.0mmの試料に対して0.5mm単位で研磨し、観察を繰り返し、Cu相の有無を確認した。CTと併用することで評価精度を高めた。
【0045】
結果を図6および表2に示す。表2で、残留メタリックCuとは、急冷した試料断面で確認されたメタリックCu53の重量である。残留メタリックCuの重量は、急冷した試料を小割にしてメタル成分のある部分を取り出し、余分なマットを除去して重量を測定して求めた。溶解量とは、石英タンマン管51に供給したメタリックCu53のうちマットに溶解した重量である。図6および表2に示すように、実施例1,2では、マットにメタリックCuを溶解させられ、メタル相の生成が抑制されることが確認された。特に、電気炉における保持時間10分以上とすることにより、メタル相が確認されないほどに、メタリックCuをマット中に溶解させられることが確認された。図6より、メタリックCuの溶解初期は溶解速度が大きく、その後、溶解が進み、溶解限度に近づくにつれて溶解速度が小さくなっていることがわかる。すなわち、メタリックCuの溶解速度は、マット溶解限度に対する余裕度に応じて溶解速度が変化することを示唆している。実施例2において、2分後のメタリックCuの溶解量は、0.40gであった。すなわち、0.40gのメタリックCuを用いて試験をしていた場合、2分でも全てのメタリックCuが溶解したことになる。この場合、メタリックCuの溶解速度は0.2g/minとなる。一方、保持時間10分ですべて溶解した結果を用いて同様に溶解速度を計算すると、0.059g/minとなる。
【表2】
【0046】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 反応シャフト
2 セットラ
3 アップテイク
4 精鉱バーナ
5 マット
6 スラグ
10 投入部
11 第1通路
12 第2通路
13 第3通路
14 第4通路
16 ランス
51 石英タンマン管
52 マット
53 メタリックCu
100 自溶炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6