(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007699
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20250109BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250109BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250109BHJP
A61K 31/121 20060101ALI20250109BHJP
A61K 31/4155 20060101ALI20250109BHJP
A61K 31/423 20060101ALI20250109BHJP
A61K 31/60 20060101ALI20250109BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20250109BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20250109BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250109BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20250109BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20250109BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250109BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20250109BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K31/121
A61K31/4155
A61K31/423
A61K31/60
A61K31/365
A61K31/122
C12Q1/02
C12N9/99
C12Q1/6883 Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
A61P17/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109275
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】福本 毅
(72)【発明者】
【氏名】錦織 千佳子
(72)【発明者】
【氏名】青井 貴之
(72)【発明者】
【氏名】青井 三千代
(72)【発明者】
【氏名】竹森 千尋
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA40
4B063QA01
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(57)【要約】
【課題】ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤を提供する。
【解決手段】ヒストンアセチル基転移酵素阻害剤を有効成分として含む、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤による。前記予防及び/又は治療剤によれば、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療を行うことができる。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒストンアセチル基転移酵素阻害剤を有効成分として含む、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
皮膚障害が、光曝露によって生じるメラノサイトにおけるヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害である、請求項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
【請求項3】
皮膚障害が、光老化による皮膚障害である、請求項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
皮膚障害が、色素性乾皮症による皮膚障害である、請求項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤が、ヒストン脱アセチル化酵素4の発現異常を改善する作用を有する、請求項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
【請求項6】
ヒストンアセチル基転移酵素阻害剤が、クルクミン、C-646、A-485、アナカルジン酸、ブチロラクトン、CTPB及びガルシノールからなる群から選択される1種又は複数種である、請求項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
【請求項7】
メラノサイトの培養系に候補物質を添加し、前記メラノサイトの細胞傷害を改善する物質を選別することを特徴とする皮膚障害の予防及び/又治療剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
メラノサイトの細胞傷害を改善する物質は、ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子を検出することにより得られる、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
メラノサイトの細胞傷害を改善する物質は、メラノサイトの生存率を評価することにより得られる、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
メラノサイトの細胞傷害を改善する物質は、メラノサイトの細胞遊走能を評価することにより得られる、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
メラノサイトが多能性幹細胞由来のメラノサイトである、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
多能性幹細胞由来のメラノサイトが、色素性乾皮症の患者由来の多能性幹細胞から作製された多能性幹細胞由来のメラノサイトである、請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
メラノサイトの細胞傷害が、光曝露による細胞傷害である請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
光曝露による細胞傷害が、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害である、請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
被検者から採取した皮膚について、ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子の異常を検出する工程を含む、皮膚障害の検査方法。
【請求項16】
細胞老化随伴分泌現象因子が、MMP-1、MMP-3、TNFα及びIL-6から選択される、1種又は複数種である、請求項15に記載の皮膚障害の検査方法。
【請求項17】
ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子異常の検出が、以下の1)又は2)を用いて行われる、請求項15に記載の皮膚障害の検査方法;
1)ヒストン脱アセチル化酵素4遺伝子及び/若しくは細胞老化随伴分泌現象因子遺伝子の転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー;
2)ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子を特異的に認識する抗体。
【請求項18】
ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子の異常を検出し得る物質を含む、皮膚障害検査用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
色素細胞(メラノサイト)は、発生過程において神経堤に由来し、メラニンを産生する細胞である。メラノサイトは、皮膚においては主に表皮の基底層に存在し、周囲ケラチノサイトにメラニンを供給する。メラノサイトは、メラニン産生により紫外線からの防御を担うが、メラノサイトも紫外線によってDNA損傷を生じる。
【0003】
色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum:以下、単に「(XP)」ともいう。)では、症状が最も強く発現する標的臓器は皮膚であり、特に色素異常が必発であることから、患者のメラノサイトの紫外線応答を解析することが、XP病態解明において最重要である。XPは、常染色体潜性形式で遺伝する遺伝性光線過敏性疾患であり、重度の光線過敏と神経症状を来す遺伝性DNA修復異常症である。XP患者皮膚は紫外線によって引き起こされるDNA損傷を修復する能力を先天性に欠損するため、日光や紫外線に対する重度の光線過敏(異常な日焼け、色素異常、露光部の皮膚がん等)が病型によって様々な程度に起こる。このため、全生活空間に遮光環境を作る必要があり、XP患者及びその家族のQOLは著しく低下する。適切な遮光を怠れば重篤な光線過敏症状、雀卵斑様の色素異常が進行し、若年齢にもかかわらず高頻度に皮膚がんが発症する。さらに、半数以上のXP患者では原因不明の進行性の脳・神経変性症状を伴い、この重症度が患者予後に影響する。これより、XPの病態の解明と治療薬の確立が強く望まれており、治療薬の確立は、世界中のXP患者の為に急務である。
【0004】
XPは、遺伝的に異なるA~G群(遺伝的相補性群)とバリアント(V)型の8つの病型に分類される。日本のXPでは皮膚症状、神経症状ともに最重症型であるA群(xeroderma pigmentosum group A:XP-A)が約55%を占め、皮膚症状のみのV型が約25%といわれている。日本人に多いXP-A患者では光線過敏症状が重く、生直後から激しい日焼け症状が現れ、低紫外線量でも著明に促進された光老化が見られ、すなわち重度の日焼け反応、大きさも色調も様々なそばかす様色素斑、若年での露光部の皮膚がん等の皮膚症状がみられるが、XP-Aの病態は未だ解明されていない。またXP-A患者では聴力低下、言葉が不明瞭になる、体のバランスが取れなくなる、といった神経症状も6歳ころから顕在化し、10歳を過ぎたころから次第に転びやすい等の神経症状が出始め、聴力低下や知的障害の進行とともに言語機能も低下する。
【0005】
XPでは、症状が最も強く発現する標的臓器は皮膚であり、特に色素異常が必発であることから、メラノサイトでの研究が病態解明を進めていくうえで重要である。しかしながら、XP患者皮膚組織からメラノサイトの単離培養が困難であるため、線維芽細胞(ファイブロブラスト)を用いて解析が行われてきた(非特許文献1、2)。一方、メラノサイトとファイブロブラストでは、紫外線に対する耐性やDNA損傷に対する反応が異なるため、XPにおいてメラノサイトを用いて研究することが重要である(非特許文献3~5)。しかしながら、メラノサイトが関与する露光部で色素斑と脱色素斑が入り混じるXPの早発する光老化の病態を、XP患者由来のメラノサイトを用いて解析した報告はこれまでにない。そこで、本発明者らは、多能性幹細胞から色素幹細胞を作製し、及び当該色素幹細胞からメラノサイトを樹立する方法を見出した(特許文献1、非特許文献6)。
【0006】
エピジェネティクスを担う代表的な分子機構としてヒストン修飾が挙げられる。ヒストン修飾には、ヒストンアセチル基転移酵素(histone acetyltransferase:HAT)と、ヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase:HDAC)が関与している。HATはヒストンのリジン残基をアセチル化することにより、遺伝子発現を増加させる役割を担っている。一方、HDACはヒストンの脱アセチル化することにより、遺伝子発現を抑制させる役割を担っている。このようにHATとHDACは、遺伝子の転写制御において重要な役割を果たしており、ヒストンのアセチル化修飾は、HATとHDACの拮抗した作用により調節されている。
【0007】
ヒトのHDACには18種類あり、 classIからclassIVまでの4つのクラスに分類され、それぞれに特徴がある。classIとclassIIのHDACは亜鉛を酵素活性部位に持つ加水分解酵素であり、細胞内局在としては、classIは核に、classIIは核と細胞質に局在するという特徴がある。HDAC4は、classIIに属する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bowden et al. Int.J.Mol.Sci.2015,15985-15996
【非特許文献2】Herman et al. Environ MolMutagen.2014June;55(5): 375-384
【非特許文献3】Fukumoto et al. GenesCells.2016,Feb;21(2):185-99
【非特許文献4】Cho-TH et al.PhotodermatolPhotoimmunolPhotomed. 2008 Jun;24(3):110-4.
【非特許文献5】Emri G et al. J Invest Dermatol.2000Sep;115(3):435-40
【非特許文献6】Hosaka et al. Pigemnt Cell &MelanomaResearch, 2019, 32(5):623-633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素4(HistoneDeacetylase4:HDAC4)異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ヒストンアセチル基転移酵素阻害剤が、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.ヒストンアセチル基転移酵素阻害剤を有効成分として含む、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
2.皮膚障害が、光曝露によって生じるメラノサイトにおけるヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害である、前項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
3.皮膚障害が、光老化による皮膚障害である、前項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
4.皮膚障害が、色素性乾皮症による皮膚障害である、前項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
5.ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤が、ヒストン脱アセチル化酵素4の発現異常を改善する作用を有する、前項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
6.ヒストンアセチル基転移酵素阻害剤が、クルクミン、C-646、A-485、アナカルジン酸、ブチロラクトン、CTPB及びガルシノールからなる群から選択される1種又は複数種である、前項1に記載の皮膚障害の予防及び/又は治療剤。
7.メラノサイトの培養系に候補物質を添加し、前記メラノサイトの細胞傷害を改善する物質を選別することを特徴とする皮膚障害の予防及び/又治療剤のスクリーニング方法。
8.メラノサイトの細胞傷害を改善する物質は、ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子を検出することにより得られる、前項7に記載のスクリーニング方法。
9.メラノサイトの細胞傷害を改善する物質は、メラノサイトの生存率を評価することにより得られる、前項7に記載のスクリーニング方法。
10.メラノサイトの細胞傷害を改善する物質は、メラノサイトの細胞遊走能を評価することにより得られる、前項7に記載のスクリーニング方法。
11.メラノサイトが多能性幹細胞由来のメラノサイトである、前項7に記載のスクリーニング方法。
12.多能性幹細胞由来のメラノサイトが、色素性乾皮症の患者由来の多能性幹細胞から作製された多能性幹細胞由来のメラノサイトである、前項11に記載のスクリーニング方法。
13.メラノサイトの細胞傷害が、光曝露による細胞傷害である前項7に記載のスクリーニング方法。
14.光曝露による細胞傷害が、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害である、前項13に記載のスクリーニング方法。
15.被検者から採取した皮膚について、ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子の異常を検出する工程を含む、皮膚障害の検査方法。
16.細胞老化随伴分泌現象因子が、MMP-1、MMP-3、TNFα及びIL-6から選択される、1種又は複数種である、前項15に記載の皮膚障害の検査方法。
17.ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子異常の検出が、以下の1)又は2)を用いて行われる、前項15に記載の皮膚障害の検査方法;
1)ヒストン脱アセチル化酵素4遺伝子及び/若しくは細胞老化随伴分泌現象因子遺伝子の転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー;
2)ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子を特異的に認識する抗体。
18.ヒストン脱アセチル化酵素4及び/又は細胞老化随伴分泌現象因子の異常を検出し得る物質を含む、皮膚障害検査用キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明のヒストンアセチル基転移酵素阻害剤を有効成分として含む、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤を用いて、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ヒト皮膚由来の正常線維芽細胞由来iPS細胞から分化させたメラノサイト(HC-iMC)及びXP-A患者由来の線維芽細胞由来iPS細胞から分化させたメラノサイト(XP-A-iMC)を示す。(参考例1)
【
図2】各々のメラノサイトにおいて、MCマーカーであるSOX10、MITF、TYRの発現を示す。(参考例1)
【
図3】
図3Aは、XP-A-iMC及びHC-iMCにおいて、ゲノミックシークエンスによる変異を示す。
図3Bは、XP-A-iMCがXPAタンパク質を発現していないことを示す。(実施例1)
【
図4】XP-A-iMCがXP-Aの性質を有していることを示す。
図4Aは、Flow cytometry-basedNER 法における結果を示す。
図4BはMTT法における結果を示す。(実施例2)
【
図5】
図5AはXP-A-iMCとHC-iMCへの紫外線照射のプロトコールを示す。
図5Bは紫外線によって影響を受けるXP-A-iMCとHC-iMCの遺伝子における違いを示す。
図5CはXP-A-iMC及びHC-iMCに高線量UV-Bを照射した後に上昇又は低下するプローブを示す。(実施例3)
【
図6】XP-A-iMCの紫外線に対する細胞応答に関連する分子機構を解明するためのGO解析の結果を示す。(実施例3)
【
図7】紫外線照射後のXP-A-iMCのHDAC4発現の変化を示す。(実施例4)
【
図8】紫外線照射後のXP-A-iMCのHDAC4発現結果を示す。(実施例4)
【
図9】紫外線照射後のXP-A-iMCにおいて、scrachアッセイによる位相差顕微鏡の結果を示す。(実施例5)
【
図10】紫外線照射後のXP-A-iMCにおいて、scrachアッセイによる細胞遊走能の結果を示す。(実施例5)
【
図11】紫外線照射後のXP-A-iMCにおいて、Digitalholographicmicroscopyによる細胞遊走の観察方法を示す。(実施例5)
【
図12】紫外線照射後のXP-A-iMCにおいて、Digitalholographicmicroscopyにより測定した細胞が遊走した距離を示す。(実施例5)
【
図13】紫外線照射後のXP-A-iMCにおいて、Digitalholographicmicroscopyにより測定した細胞遊走のスピードを示す。(実施例5)
【
図14】紫外線照射後のXP-A-iMCの細胞老化の検討結果を示す。(実施例6)
【
図15】紫外線照射後のXP-A-iMCにおいてPCR法によるSASP因子群の発現結果を示す。(実施例6)
【
図16】紫外線を照射後のXP-A-iMCにおいてウエスタンブロッティング法によるSASP因子群の発現結果を示す。(実施例6)
【
図17】紫外線照射後のNHEMのHDAC4発現結果を示す。(実施例7)
【
図18】紫外線を照射後のXP-A-iMCにおいてクルクミンの効果を示す。(実施例8)
【
図19】紫外線を照射後のXP-A-iMCにおいてC-646の効果を示す。(実施例9)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ヒストンアセチル基転移酵素(HAT)阻害剤を有効成分として含む、ヒストン脱アセチル化酵素4(HDAC4)異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤に関する。
【0016】
本発明者らは、メラノサイトにおける光曝露に対する反応を探索し、皮膚障害に関する治療標的シーズとなり得る分子を網羅的に解析し、メラノサイトをエピジェネティックに制御する遺伝子としてHDAC4を特定した。さらに、光曝露後のメラノサイトにおいて、免疫蛍光抗体法を用いて細胞老化が起きていることを明らかにした。さらに、細胞老化を起こしたメラノサイトは、細胞老化随伴分泌現象(Senescence-Associated Secretory Phenotype:SASP)因子群に影響を及ぼすと考えられ、実際に多数のSASP因子群の発現上昇を確認した。即ち、光曝露によって皮膚におけるHDAC4の発現が低下し、相対的にヒストンのアセチル化が起きることから、これに伴いSASP関連遺伝子の発現が上昇することにより、様々な皮膚障害が生じると考えられる。
【0017】
そこで、本発明者らは、HDAC4発現異常を改善することにより、皮膚障害を予防及び/又は治療に適用し得る可能性を初めて見出した。本明細書において、細胞老化随伴分泌現象(SASP)因子とは、例えばMMP-1、MMP-3、TNFα、IL-6等が挙げられる。
【0018】
本明細書において、「HDAC4異常」とは、ヒストン脱アセチル化酵素4(HDAC4)の量的異常のこといい、特に光曝露前に比べ、光曝露後にHDAC4発現が低下することをいう。「発現」とは遺伝子レベルであってもよいし、タンパク質レベルであってもよい。本発明の予防及び/又は治療剤は、HDAC4の発現異常を改善する作用を有することを特徴とする。
【0019】
本明細書において「皮膚障害」とは、HDAC4異常に伴う皮膚障害が特に適用され、例えば、光曝露によって生じるメラノサイトにおけるHDAC4異常に伴う皮膚障害、光老化による皮膚障害、色素性乾皮症による皮膚障害等が挙げられる。ここで、「光老化」とは光曝露が繰り返された結果として認められる皮膚の外見及び機能の変化を意味し、広く光曝露によって起こり得る皮膚障害等が含まれる。具体的な皮膚障害としては、XP患者皮膚に起こり得る皮膚障害に限定されず、XP患者でない者が光曝露によって起こり得る皮膚障害も含まれる。例えば皮膚障害は、色素斑と脱色素斑が混在する色素病変、皮膚の乾燥や萎縮、皮膚の弾力性の低下、しわ・たるみの形成、若年齢から発生する皮膚がん、そばかすの形成、色素沈着、皮膚の黒化、黄ばみの増加、皮膚バリア機能の低下、角層機能の低下等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において「色素性乾皮症(XP)」とは、背景技術の欄でも説明したごとく、常染色体潜性形式で遺伝する遺伝性光線過敏性疾患である。本明細書において、XPは遺伝的に異なるA~G群(遺伝的相補性群)とバリアント(V)型の8病型すべてを含む概念で使用される。特に好適には皮膚症状、神経症状ともに最重症型であるA群(XP-A)に適用される。XPは、特に色素異常が必発であることからメラノサイトでの研究が病態解明を進めていくうえで重要である。
【0021】
本明細書において、「光曝露」とは、日常生活における通常の光曝露又はこれを超える光曝露(例えば、日焼け)に限定されず、XP患者にとって皮膚障害が起こり得るわずかな光曝露も含まれる。本明細書において「光」とは、紫外線が含まれる「光」であれば特に限定されないが、例えば日光、紫外線(例えばUV-B、UV-C、UV-A)、照明光等が挙げられ、特に日光、紫外線をいう。光の波長としては、特に限定されないが、例えば0~3000 nm、好ましくは10~400 nm、より好ましくは200~380nm、特に好ましくは280~315 nmである。線量としては、特に限定されないが、例えば10 J/m2~500 J/m2、好ましくは30~200 J/m2、より好ましくは150 J/m2である。
【0022】
本明細書において、「HAT阻害剤」とは文言通りヒストンアセチル基転移酵素(HAT)の酵素活性を阻害又は抑制する物質をいう。HATの酵素活性を阻害又は抑制することで相対的にHDAC4とHATの均衡が得られ、HDAC4の異常が改善されるものである。HAT阻害剤は、例えばクルクミン、C-646、A-485、アナカルジン酸、ブチロラクトン、CTPB及びガルシノールからなる群から選択される1種又は複数種等が挙げられる。本発明の予防及び/又は治療剤は、HAT阻害剤を有効成分として含有する。本明細書において、有効成分として含有するHAT阻害剤としては、クルクミン、C-646、A-485、アナカルジン酸、ブチロラクトン、CTPB及びガルシノール等の化合物の他、当該化合物の誘導体や、当該化合物若しくは当該化合物の誘導体の薬学的に許容される塩であってもよいし、水和物でもよい。特にクルクミン、C-646、A-485が好適である。クルクミン(UPAC名:(1E,6E)-1,7-bis(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-1,6-heptadiene-3,5-dione)は、主にウコンに高含有され、カルダモン、クローブ、クミン、胡椒、コリアンダー、パプリカ、メース等にも含まれる脂溶性のポリフェノールである。クルクミンの医学的利用の可能性として、抗腫瘍作用、抗酸化作用、抗アミロイド作用、抗炎症作用等が知られており、近年盛んに研究されている。
【0023】
本発明の予防及び/又は治療剤は、医薬組成物として使用される。医薬組成物とは、医学的用途における投与に適した組成物を意味し、有効成分としてのHAT阻害剤の他1種又は複数種の製薬学的に許容される担体及び/又は製薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。本発明の予防及び/又は治療剤としての医薬組成物は、当分野において通常用いられている薬剤用担体、賦形剤等を用いて通常使用されている方法によって調製することができる。投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤、徐放剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の製薬学的に許容される担体及び/又は製薬学的に許容される賦形剤と混合される。
【0024】
本明細書の製薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機又は無機担体物質が挙げられ、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、又は液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤及び緩衝剤等が挙げられる。更に必要に応じ、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量用いることもできる。
【0025】
本明細書の製薬学的に許容される賦形剤としては、例えば等張化剤、増量剤、防腐・殺菌剤、結合剤、酸化防止剤、溶解剤、溶解補助剤、懸濁化剤、充填剤、pH調節剤、安定化剤、吸収促進剤、放出速度制御剤、着色剤、可塑剤、粘着剤等が挙げられる。具体的には、例えば乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
【0026】
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。結合剤としては、例えば結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
【0027】
崩壊剤としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L-ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0028】
溶剤としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油等が挙げられる。
【0029】
溶解補助剤としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
懸濁化剤としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。
【0031】
等張化剤としては、例えばブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等が挙げられる。
【0032】
緩衝剤としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。
【0033】
防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。
【0034】
抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸、α-トコフェロール等が挙げられる。
【0035】
有効成分としてのHAT阻害剤の投与量は、投与対象、投与ルート、症状、体重、年齢等によっても異なり、適宜選択することができる。有効成分としてのHAT阻害剤は、適宜他の薬剤とともに併用して投与してもよい。
【0036】
本発明は皮膚障害の予防及び/又は治療剤のスクリーニング方法にも及ぶ。スクリーニング方法としては、メラノサイトの培養系に候補物質を添加し、前記メラノサイトの細胞傷害を改善する物質を選別することを特徴とすることができる。
【0037】
「メラノサイト」(色素細胞やメラニン細胞とも呼ばれる。)とは、チロシナーゼ活性があり、メラニンを産生する細胞であって、メラニン合成のための細胞内小器官(メラノソーム)を有する、形態学的には樹枝状の細胞でその樹状突起の形状は環境によって変化する細胞を意味する。
【0038】
メラノサイトは、例えば多能性幹細胞から作製することができる。多能性幹細胞細胞として、例えば人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)等が挙げられるが、iPS細胞が好ましい。多能性幹細胞からメラノサイトへの分化誘導方法は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。具体的には実施例に記載の方法や特許6624916号に記載の方法を適用することができる。多能性幹細胞は、既に樹立されたiPS細胞を用いてもよいし、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法により作製することもでき、具体的には例えば実施例に記載の方法、Cell, 131(5): 861-872 (2007)、Cell,126(4):663-676(2006)、非特許文献6に記載の方法等が挙げられる。多能性幹細胞は、例えばXP患者由来の細胞から作製することができる。XP患者由来の多能性幹細胞の作製方法は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。具体的には、実施例に記載の方法や特開2021-17405号に記載の方法を適用することができる。培養する環境は、自体公知の環境であればよく、特に制限されるものではないが、一般的には細胞を37±1℃、5±1%CO2条件下で培養することができる。
【0039】
本明細書において、「メラノサイトの細胞傷害」は、例えば光曝露による細胞傷害であることが好適である。メラノサイトはメラニン産生により、光からの防御を担うが、メラノサイト自身も紫外線によってDNA損傷が生じ、DNAのアセチル化を制御する遺伝子HDAC4の発現異常が起こる。「光曝露による細胞傷害」は、HDAC4異常に伴う皮膚障害が好適である。本発明のスクリーニング方法において、メラノサイトの細胞傷害を改善する物質は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法により選別することができる。例えば、HDAC4及び/又はSASP因子の検出、メラノサイトの生存率の評価、又はメラノサイトの細胞遊走能の評価等の方法により、メラノサイトの細胞傷害を改善する物質を選別することができる。これらの選別方法は、光曝露の有無によって比較することによりメラノサイトの細胞傷害を改善する物質を選別することができる。本発明のスクリーニング方法に供される候補物質としては、高分子化合物であってもよいし低分子化合物であってもよい。高分子化合物の例としては、特に限定されないが、例えばタンパク質、核酸物質が挙げられ、具体的には抗体、抗体断片、ペプチド、例えばsiRNA又はshRNA等が挙げられる。低分子化合物の例としては、特に限定されない。また、低分子化合物と高分子化合物を含む物質であってもよい。
【0040】
本発明は、被検者から採取した皮膚について、HDAC4及び/又はSASP因子の異常を検出する工程を含む、皮膚障害の検査方法にも及ぶ。
【0041】
HDAC4及び/又はSASP因子の異常を検出する工程は、HDAC4及び/又はSASP因子の異常を検出可能な方法で検出する工程であれば特に限定されない。例えば、被検者の皮膚からRNA(例:全RNA、mRNA)画分を調製し、該画分中に含まれるHDAC4遺伝子及び/又はSASP因子遺伝子の転写産物を検出する工程、HDAC4及び/又はSASP因子を特異的に認識する抗体を用いた免疫学的手法により検出する工程、質量分析法により検出する工程等が挙げられる。具体的には、本発明の検査方法においてHDAC4及び/又はSASP因子の異常の検出は、以下の1)又は2)を用いて行うことができる。
1)HDAC4遺伝子及び/若しくはSASP因子遺伝子の転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー、
2)HDAC4及び/又はSASP因子を特異的に認識し得る抗体。
【0042】
RNA画分の調製は、グアニジン-CsCl超遠心法、AGPC法等公知の手法を用いて行うことができるが、市販のRNA抽出用キット(例:RNeasy Mini Kit;QIAGEN製等)を用いて、微量検体から迅速且つ簡便に高純度の全RNAを調製することができる。RNA画分中のHDAC4遺伝子及び/又はSASP因子遺伝子の転写産物を検出する方法としては、例えば、PCR(RT-PCR、競合PCR、リアルタイムPCR等)、ハイブリダイゼーション(ノーザンブロット、ドットブロット、DNAチップ解析等)を用いる方法等が挙げられる。免疫学的手法として、例えばウエスタンブロッティング法、ELISA、FIA、RIA等が挙げられる。本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、及びこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAb等が挙げられる(Exp.Opin.Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。また、本発明においては、HDAC4及び/又はSASP因子を特異的に認識する抗体として、市販の抗HDAC4抗体、抗SASP因子抗体、又は抗HDAC4抗体、抗SASP因子抗体を含むキットを使用することも好ましい。
【0043】
本発明の検査方法において、被検者においてHDAC4が、対照に比べて低値で検出された場合又はSASP因子が対照に比べて高値で検出された場合には、上記のような皮膚障害の可能性が高いと判断することができる。従って、本発明の検査方法は、上記1)、2)の工程に加えて、3)被検者においてHDAC4が対照に比べて低値で検出又はSASP因子が対照に比べて高値で検出された場合には、皮膚障害である又はその可能性が高いと判断する工程を含んでもよい。
【0044】
本発明の検査方法において、「被検者」とは皮膚障害か不明の者、皮膚障害と疑われる者等のほか、XPに罹患しているか不明の者、XPと疑われる者等が含まれる。
【0045】
本発明は、さらにHDAC4及び/又はSASP因子の異常を検出し得る物質を含む、皮膚障害検査用キットにも及ぶ。HDAC4及び/又はSASP因子の異常を検出し得る物質として、例えばHDAC4遺伝子及び/若しくはSASP因子遺伝子の転写因子を特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー、HDAC4及び/又はSASP因子を特異的に認識し得る抗体等が挙げられる。本明細書において、「プライマー又はプローブ等」は、その機能が著しく損なわない限りにおいて、修飾することもできる。修飾としては、例えば標識物、蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が挙げられる。プライマー又はプローブ等は、任意の固相に固定化して使用することもできる。本明細書において、「固相」は、ポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に限定されず、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリー又はその他の基板等が挙げられる。本発明のキットは、さらに反応緩衝液、dNTPs、耐熱性DNAポリメラーゼ、competitor核酸、蛍光試薬、competitor抗体、標識された二次抗体、ブロッキング液等を含んでもよい。
【実施例0046】
本発明の理解を助けるために、以下に参考例及び実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものでないことはいうまでもない。なお、「参考例」では本発明の完成に至る実験内容を示す。
【0047】
(参考例1)iPS由来のメラノサイトの作製
本参考例では、XP疾患特異的色素幹細胞を作製した後、メラノサイト(MC)へ分化させ、iPS由来のメラノサイトを作製した。
【0048】
(XP疾患特異的色素幹細胞の作製)
ヒトiPS細胞株の樹立には、ヒト皮膚由来の正常線維芽細胞(TIG-120細胞;JCRB0542)及びXP-A患者由来の線維芽細胞(XP3OS)を使用した。XP3OS細胞(JCRB0303)は、XPAの日本人創始者変異(c.390-1G>C:g.15148G>C)を持つことが知られている細胞である。これらの細胞株は、JCRB生物資源バンク(日本)から入手し、ダルベッコ改変イーグル培地Dulbecco'smodified Eagle's medium (DMEM)(ナカライ)に、 10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(LifeTechnologies)を加えた培地で培養した。ヒトiPS細胞株は、これらの2つの線維芽細胞株から、CytoTune-iPS 2.0SendaiReprogramming Kit(ID Pharma Co., Ltd.)を用いて確立した(非特許文献6)。その後、ヒトiPS細胞を非接着培養皿上に播種し(50~200細胞/ml)、霊長類ES/iPS細胞用培地中で2週間培養することで、胚様体を形成させた。その後胚様体をフィブロネクチンでコートした接着培養皿上に播種し、3μM CHIR99021(Stemgent)、50 ng/ml SCF(R&D)、100 nM ET-3(American Peptide Company)、500μM dbcAMP(Sigma)、50nMTPA(12-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート(Sigma)、4ng/ml bFGF(Wako)、100μM L-アスコルビン酸(Sigma)、0.05 μM デキサメタゾン(Sigma)、1 mg/ml リノール酸-ウシ血清(Sigma)、及び1Xインスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム(Sigma)を加えたメラノサイト維持培地(Medium 254培地(Invitrogen)にHumanMelanocyte GrowthSupplement(HMGS)(Invitrogen)を添加した培地)で培養し、メラノサイトへの分化を誘導した。この間、2~3日に一度培地を交換した。分化誘導をしてから14日後に、紡錘形で黒褐色の顆粒を含有する細胞が顕微鏡観察により認められたため分化誘導を中止し、分化誘導因子を含んでいないメラノサイト維持培地に切り替えて細胞を培養した。分化誘導を中止してから7日後に、培地中に色素幹細胞が認められた。
【0049】
(XP疾患特異的メラノサイトへの分化誘導)
上述した色素幹細胞は、2日ごとに3μM CHIR99021を添加した後、約1週間後にMCに分化した。以下、XP-A患者由来の線維芽細胞由来iPS細胞からメラノサイトへ分化させた細胞をXP-A-iMC、ヒト皮膚由来の正常繊維芽細胞由来iPS細胞からメラノサイトへ分化させた細胞をHC-iMCとする。
【0050】
XP-A-iMC及びHC-iMCを位相差顕微鏡にて観察した。この結果、正常ヒト表皮メラノサイト(NHEM)と同様に、XP-A-iMC及びHC-iMCにおいて、樹状突起をもつ細長い紡錘形状の形態を有していた(
図1)。目視による細胞形態の観察に加えて、より正確を期すために、遠心分離によるペレットの観察と免疫組織化学染色を行った。遠心分離によるペレットは、目視で黒色調であったためMCへ分化していることが示された。免疫組織化学染色において、MCマーカーであるSOX10、MITF、TYRの発現によってMCの性質を持つ事を確認した(
図2)。
【0051】
(実施例1)ゲノミックシークエンスによる変異の確認
本実施例では、XP-A-iMCが正しく日本人創始者変異(c.390-1G>C:g.15148G>C)を有しているかの確認を行った。
【0052】
ゲノムDNAは、Gentra PuregeneCellKit(Qiagen, Hilden)を用いてXP-A-iMCから分離した。XPA遺伝子の日本人XP-A創始者変異g.15148G>Cの有無を確認するため(c.390-1 G>C)、この変異を含む領域を以下のPCRプライマーで増幅した。
5′-GCTGTGTGCCTAAGTT-3′(フォワード)(配列番号1)
5′-TGCAAAACTAGGAAAAGTTT-3′(リバース)(配列番号2)
Ex-Taq(タカラバイオ)
【0053】
PCR産物をアガロースゲルを用いて分解し、QIAquickGelExtraction Kit(Qiagen)を用いて精製し、AppliedBiosystems 3500Genetic Analyzer(AppliedBiosystems)を用いて同じフォワードプライマーで配列決定した(
図3A)。さらにウエスタンブロッティング法によって、XP-A-iMCは、XPAタンパク質を発現していないことも確認した(
図3B)。
【0054】
(実施例2)XP-A-iMCがXPAの性質を有していることの確認
本実施例では、XPの性質としてDNA修復が障害されているため紫外線に脆弱である性質を有することを、Flow cytometry-based NER 法(Nakano etal,2018,J Invest Dermatol, 138:467-47)及びMTT(増殖/生存)法で検討した。Flow cytometry-based NER 法は臨床診断でも用いられているDNA修復試験であり、UV-C照射後の(6-4)PPに対するモノクローナル抗体を用いてフローサイトメトリーで解析することによる方法である。
【0055】
(Flow cytometry-based NER 法)
Flow cytometry-based NER 法によりXP-A-iMC及びHC-iMCのDNA病変修復を評価した。具体的にはXP-A-iMC及びHC-iMCを10cmディッシュに播種し、翌日に30 J/m2のUV-Cを照射し、照射直後又は照射6時間後にXP-A-iMC及びHC-iMCを採取した。その後、(6-4)PPに対するマウス一次モノクローナル抗体(1:1,000、Cosmo BioCo.,Ltd.)で22℃で1.5時間染色し、AlexaFluor 488抗体(1:200、Thermo FisherScientific)を含むPBS-TBに22℃で1時間再懸濁し、さらに5μg/mlヨード化プロピジウム(Thermo Fisher)を含むPBSに再懸濁し、XP-A-iMC及びHC-iMCを染色した。染色後、FACSVerseフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて分析した。すべてのデータは、FlowJoソフトウェア(BDLife Sciences)を用いて解析した。DNA病変の除去率は、平均蛍光強度に基づいて算出した。UVを照射していないXP-A-iMC及びHC-iMCの蛍光強度をバックグラウンドとし、UV照射直後の細胞の蛍光強度を100%とした。蛍光強度の減少は、6時間後に測定した。
【0056】
(MTT法)
MTT法により細胞生存率を確認した。具体的には、CellProliferationKit I (MTT assay)(Roche)を用いて、製造元のプロトコールに従ってUV-B照射後24時間後のXP-A-iMC、HC-iMC及びNHEMを評価した。培地は、MTT試薬との反応直前にフェノールレッドフリー培地(Lifeline CellTechnology)に交換した。そして、最終産物を96ウェルプレートに移し、Emax precision microplate reader(MolecularDevices)を用いて595nmと650nmの吸光度で測定した。細胞生存率は、UVを照射してないものとの相対値で表した。
【0057】
Flow cytometry-based NER 法における結果を
図4Aに示す。
図4Aは、未照射、UV-C照射直後及びUV-C照射6時間後の(6-4)PP相対シグナル強度を示す代表的ヒストグラムを示す。HC-iMCとXP-A-iMCでは、UV-C照射後6時間以内に(6-4)PPがそれぞれ96.5%と6.1%修復されることが示された。同様の結果が、3回の独立した実験から得られた。
【0058】
MTT法における結果を
図4Bに示す。照射後24時間の細胞生存率を、低線量(10 J/m
2, 20 J/m
2)又は高線量(100 J/m
2, 200 J/m
2)でそれぞれ評価した(
図4B)。参考データとして、市販のNHEMの生存率も評価した(Gaddameedhi S et al 2010)。HC-iMCの生存率は、NHEMの生存率とほぼ同様であり、200 J/m
2ではベースライン時より有意に低下したが、100J/m
2では低下しなかった。一方、XP-A-iMCでは≧20 J/m
2 UV-B照射で有意に低下した。
【0059】
(実施例3)XP-A-iMCを用いたXPの病態解明研究
本実施例では、XP-A-iMCの紫外線応答を解析し、メラノサイトにおける紫外線刺激に対する反応を網羅的に探索し、XPの病態形成に直接的に関与し治療標的シーズとなりうる分子(創薬標的分子)の特定を検討した。
【0060】
XP-A-iMCとHC-iMCを10cmディッシュに播種し、それぞれ低線量(30 J/m
2)又は高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射した後、37℃で4時間又は12時間インキュベート(
図5A)してから網羅的に転写プロファイル解析を行った。遺伝子転写プロファイリングは、GeneChip
TM Human Genome U133 Plus 2.0 Array (Affymetrix)を用いて、製造元のプロトコールに従って実施した。データは、Robust Multichip Average (RMA) 法を使用してGeneSpring13.1.1software(Agilent Technologies, Inc.)を用いて解析した。UV-Bによって影響を受けるXP-A-iMCとHC-iMCの遺伝子における違いを明らかにした。
【0061】
XP-A-iMCとHC-iMCの遺伝子発現量が大幅に変化した(10倍以上)プローブの数を
図5Bに示す。発現量が大幅に変化した(10倍以上)プローブの数を検討してみると、HC-iMCに低用量UV-Bを照射した場合、27のプローブ(アップレギュレート15、ダウンレギュレート12)の発現量が変化することが解った。しかし、照射前と比較して照射4時間後に10倍以上変化するが、照射12時間後には、ほぼすべての遺伝子が照射前のレベルに戻ることが判明した。一方、XP-A-iMCに低線量UV-Bを照射すると、72のプローブ(34のアップレギュレートと38のダウンレギュレート)の発現レベルが照射4時間後に大きく変化し、これはHC-iMCで観察されたよりもかなり多い数であった。
【0062】
次に、HC-iMCに高線量UV-B(150 J/m
2)を照射して4時間後に10倍以上発現が上昇又は低下する26又は55のプローブをピックアップした。これらのプローブのHC-iMC及びXP-A-iMCにおける照射4又は12時間後の遺伝子発現量を
図5Cに示す。HC-iMCでは、すべての発現量が12時間後には元のレベルに戻っていた。一方、XP-A-iMCでは、ほぼ全てのプローブの発現レベルが12時間後でも基底レベルに戻らず、アップレギュレーション又はダウンレギュレーションしたままであることが分かった(
図5C)。遺伝子の発現レベルが、照射後12時間経過しても照射前のレベルに戻らないことが、XP-A-iMCの特徴であることが判明した。(
図5C)
【0063】
より詳細にXP-A-iMCのUV-Bに対する細胞応答に関連する分子機構を解明するためにGO解析(p<0.05)を実施した。高線量UV-B照射12時間後に、XP-A-iMCで特異的に発現が上昇した遺伝子(n=49)の結果から、細胞増殖と細胞死の制御がXP-A-iMCの主要なGO用語カテゴリであり、プログラム細胞死の制御(p=0.004)、アポトーシス過程の制御(p=0.004)、細胞増殖の制御(p=0.004)、刺激への応答(p=0.004)と細胞死の制御(p=0.007)であった。一方、132個の特異的に発現低下した遺伝子から示唆されたXP-A-iMCの主要GO用語カテゴリには、細胞分裂(p=3.15 x 10
-10)、分裂期細胞周期(p=3.88x10
-9)、染色体分離(p=8.64 x 10
-8)、分裂期細胞周期過程(p=3.12 x 10
-7) 及び細胞周期過程 (p=2.04x10
-6)が含まれていた(
図6)。
【0064】
(実施例4)Histone Deacetylase 4(HDAC4)の特定
本実施例では、XP-A-iMCで特異的に発現が低下した132の遺伝子プローブのうち、特徴的な挙動を強く示す遺伝子としてヒストン脱アセチル化酵素4(HDAC4)を特定した(
図7)。HDAC4はヒストン修飾に重要な役割を果たし、細胞増殖、細胞周期進行、分化、発生に重要で、オートファジーやマイトファジーにも関与していることが過去の報告で知られていて、XPで観察される病態を確かに説明することもでき、メラノサイトをエピジェネティックに制御する遺伝子である可能性が考えられる。HDAC4の挙動としては、UV-B照射4時間後にいずれのMCでも低下し、12時間後にNHEMとHC-iMCで回復したが、XP-A-iMCではHDAC4の発現が回復しない傾向があり、UV照射12時間後に減少し続けた(
図7)。RT-PCR法とウエスタンブロッティング法を用いてXP-A-iMCのHDAC4の発現を、多角的に確認した(
図8A、B)。
【0065】
(実施例5)XP-A-iMCの細胞遊走能における検討
本実施例では、紫外線照射後のXP-A-iMCの細胞遊走能を、scratchアッセイとDigital holographic microscopyを用いて検討した。
【0066】
移動能力が低下することを、scratchアッセイとDigitalholographicmicroscopyを用いた解析で明らかにした。具体的には、60 mmディッシュにXP-A-iMCとHC-iMCを播種し、コンフルエントになったところで、高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射した後、小さなスクレーパーで掻破して裂隙を作成した。その後裂隙が細胞遊走によって埋まる様子を、位相差顕微鏡で連日観察した(
図9)。scratchアッセイによる細胞遊走能の結果を
図10に示す。HDAC4の減少したXP-A-iMCではHC-iMCに比べて、有意に細胞遊走が障害されていることが判明した。
【0067】
デジタルホログラフィック顕微鏡でも細胞遊走を検証した(
図11)。高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射後のXP-A-iMCとHC-iMCの動きのイメージングとトラッキングには、HoloMonitor
(R) M4 microscope(Phase Holographic ImagingAB)を使用した。XP-A-iMCとHC-iMC(1×10
4個)を6ウェルプレートに播種し、高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射後72時間の遊走をトラッキングした。
図12は細胞が遊走した距離を示し、
図13は細胞遊走のスピードを示す。UV-Bを照射後のHDAC4の低下したXP-A-iMCでは遊走能が低下していることが確認できた。これより、XP-A-iMCの表現型が、XP-A患者に特徴的な皮膚症状である色素沈着や色素脱失を引き起こす可能性が示唆された。また実施例2では、XP-A-iMCでは光照射により生存率が低下することが示されたことから、メラノサイトの培養系に候補物資を添加し、メラノサイトの生存率やメラノサイトの細胞遊走能を評価することにより、メラノサイトの細胞傷害を改善する物質が得られることが期待できる可能性もある。
【0068】
(実施例6)XP-A-iMCの細胞老化における検討
本実施例では、紫外線照射後のXP-A-iMCの細胞老化が起きているかを免疫蛍光抗体法を用いて検討した。
【0069】
60 mmディッシュにXP-A-iMCとHC-iMCを播種し、約70%コンフルエントになったところで、高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射した後、24時間後にDNA損傷の指標であり、かつ細胞老化を評価する指標であるγH2AXの発現を検証した。XP-A-iMCではHC-iMCに比べ著明なγH2AXの発現上昇を蛍光抗体法で確認し、細胞老化が促進していることが判明した(
図14)。
【0070】
さらに、細胞老化を起こしたメラノサイトは、炎症を惹起する細胞老化随伴分泌現象(Senescence-AssociatedSecretoryPhenotype; SASP)因子群に変化があると考え、RT-PCR法を用いて、多数のSASP因子群の発現上昇を検証した。紫外線(150 J/m
2)を照射後に、HDAC4の発現が低下したXP-A-iMCでは、多数のSASP因子群の発現上昇を確認した(
図15)。さらにウエスタンブロッティング法によりSASP因子群の発現を確認した(
図16)。発現上昇したSASP因子群が慢性の炎症を引き起こすことは他のがん種では報告されているが、XP-A患者においては、発現上昇したSASP因子群が慢性の炎症を引き起こすことで、特徴的な光発がんの発生増加を含めた光老化の著明な促進である皮膚症状の原因であると考えられる。そこでHDAC4の低下を抑制することで、XPの皮膚症状を総合的に抑制できることが示唆された。一方、NHEMでも、著しい高線量(500 J/m
2)のUV-Bを照射した場合には、XP-A-iMCに紫外線(150 J/m
2)を照射した際と同様に、SASP因子群の発現上昇を認めた(
図15)。
【0071】
(実施例7)NHEMでのHDAC4の発現低下
本実施例ではNHEMにおけるHDAC4発現を確認した。NHEMを60mmディッシュに播種し、著しい高線量(500 J/cm
2)のUV-Bを照射した後、24時間後にRT-PCR法を用いてHDAC4の発現を確認した(
図17)。紫外線照射によって著明にHDAC4の発現が低下するという病態は、紫外線量を著しく増加させた場合では健常者からのメラノサイトでも同様であることも確認でき、HDAC4の低下は、光老化で一般的に重要な可能性が示唆された。
【0072】
(実施例8)クルクミンによるHDAC4発現改善作用
60 mmディッシュにXP-A-iMCを播種し、約70%コンフルエントになったところで、高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射した後、クルクミンを細胞培地に加えて24時間培養した後に、RT-PCR法を用いてHDAC4の発現を確認した。対照にはクルクミンの溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射によって低下したHDAC4の発現が有意に回復していることを認めた(
図18)。またその効果は、クルクミン濃度依存性であることも確認出来た。
【0073】
(実施例9)C-646によるHDAC4発現改善作用
60 mmディッシュにXP-iMCを播種し、約70%コンフルエントになったところで、高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射した後、C-646を細胞培地に加えて24時間培養した後に、RT-PCR法を用いてHDAC4の発現を確認した(
図19)。対照にはC-646の溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。高線量(150 J/m
2)のUV-Bを照射によって低下したHDAC4の発現が有意に回復していることを認めた。
本発明のヒストンアセチル基転移酵素阻害剤を有効成分として含む、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療剤によれば、ヒストン脱アセチル化酵素4異常に伴う皮膚障害の予防及び/又は治療を行うことができ、XP患者のみならず、例えば光老化による多く皮膚疾患に適用可能であり大変有用である。特にXP患者にとっては、効果的な治療方法が未確立であるため有用である。また、HDAC4とメラノサイトに着目した新規皮膚障害の予防及び/又は治療剤のスクリーニングをすることができる。