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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007718
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20250109BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250109BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20250109BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0567
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109299
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】坪内 洋
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ10
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で容量維持率の低下を抑制できる非水系二次電池の提供。
【解決手段】正極と、リチウム金属負極と、電解液と、を備える非水系二次電池であって、前記電解液中に、ピロリジニウムカチオンと、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)とを含み、前記ピロリジニウムカチオンに対するリチウムイオンのモル比は、10~40であり、前記ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンのモル濃度は、3~4mol/Lである非水系二次電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
リチウム金属負極と、
電解液と、を備える非水系二次電池であって、
前記電解液中に、ピロリジニウムカチオンと、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)とを含み、
前記ピロリジニウムカチオンに対するリチウムイオンのモル比は、10~40であり、
前記ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンのモル濃度は、3~4mol/Lである、ことを特徴とする非水系二次電池。
【請求項2】
前記ピロリジニウムカチオンが、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムカチオン(Pyr13)または1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン(Pyr14)である、請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項3】
前記電解液が、ジメトキシエタンを含む、請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項4】
前記電解液が、電解質であるLiFSIと、イオン液体であるPyr13-FSIまたはPyr14-FSIとを含む、請求項2または3に記載の非水系二次電池。
【請求項5】
前記電解液中の前記イオン液体の含有割合が、0.93~2.78質量%である、請求項4に記載の非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコンなどの小型モバイル機器の普及に伴い、充電と放電とを繰り返して使用する非水系二次電池の開発が多く行われている。
特許文献1には、リチウム金属負極の電解液として、有機溶媒1リットル当たり少なくとも2モルのリチウムイミド塩濃度を有する塩濃度の高い電解液を使用した充電式リチウム電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-505538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウム金属は、非常に卑な反応電位を持ち、析出とともに電解液中の溶媒が分解されることが知られており、この分解により、サイクル特性(容量維持率)が低下すると考えられる。
通常、低塩濃度の電解液中のリチウムイオンには溶媒が配位しており、塩濃度が高濃度化することでアニオンの配位割合が増加する。アニオンはリチウムイオンに配位することで還元分解を受けやすくなり、アニオン由来の被膜の割合が増え、リチウム金属負極の析出溶解効率が向上することが知られている。一方で、高塩濃度の電解液は、アニオンを積極的に分解させるため、特許文献1のように、塩濃度の高濃度化のみによるサイクル特性の向上には限界が存在すると考えられる。
【0005】
本開示は、このような課題を鑑みてなされたものであり、簡単な構成で容量維持率の低下を抑制できる非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための一態様は、正極と、リチウム金属負極と、電解液と、を備える非水系二次電池であって、前記電解液中に、ピロリジニウムカチオンと、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)とを含み、前記ピロリジニウムカチオンに対するリチウムイオンのモル比は、10~40であり、前記ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンのモル濃度は、3~4mol/Lである。
【0007】
本開示に係る非水系二次電池では、電解液中に、特定量のビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンと、リチウムイオンに対して特定モル比のピロリジニウムカチオンとを含む。このように特定のアニオンとカチオンとをリチウムイオンと共に存在させることで、リチウムイオンに配位しているアニオンと、カチオンとの相互作用により、溶媒和構造を制御でき、アニオンの分解量を抑制できる。また、特定のカチオンの存在により、局所的な電流集中が発生した場合であっても、当該カチオンの立体障害効果によりリチウムイオンの集中を緩和でき、リチウム析出溶解効率が向上し、結果的に容量維持率を向上させることができ、充放電効率が改善する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、簡単な構成で容量維持率の低下を抑制できる非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を適用した具体的な実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。
【0010】
非水系二次電池(非水系リチウムイオン二次電池)のサイクル容量維持率(放電容量維持率)が低下する、言い換えると、充放電効率が低下する原因としては、以下の要因が考えられる。当該要因としては、リチウム金属の不可逆反応、すなわち、電解液分解による電荷消費、微小短絡による電荷消費およびリチウム金属の電気的孤立化などが考えられる。
【0011】
ここで、特許文献1に記載の充電式リチウム電池では、リチウム金属負極の電解液として、リチウムイミド塩、具体的には、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SO;以降、LiFSIとも記す)を含む高濃度電解液を用いている。
このように、LiFSIを高濃度で含む電解液は、比較的高いLi析出溶解効率を示すが、電解液の分解抑制の観点から、改善の余地があった。
【0012】
上述したように、サイクル容量維持率が低下する原因としては、様々な要因が考えられるが、電解液分解による電荷消費が主要因と考えられる。リチウム金属は非常に卑な反応電位を持ち、析出とともに溶媒が分解される。そのため、析出するリチウム金属の表面積を小さくして、リチウムデンドライト(樹枝状結晶)の成長を抑制することや、電解液の分解が抑制されるような溶媒和構造を持つことが重要である。
【0013】
通常、低塩濃度の電解液中のリチウムイオンには溶媒が配位しており、塩濃度が高濃度化することでアニオン(例えば、後述するFSI)の配位割合が増加する。アニオンはリチウムイオンに配位することで還元分解を受けやすくなり、アニオン由来の被膜の割合が増え、リチウム金属負極の析出溶解効率が向上することが知られている。一方で、塩濃度が高濃度化すると、アニオンが積極的に分解されるため、高濃度化による効率の向上には限界が存在すると考えられる。
【0014】
本開示に係る非水系二次電池(以降、本二次電池とも記す)は、正極と、リチウム金属負極と、特定の電解液とを備え、さらに、セパレータを備えることができる。本二次電池における、正極、リチウム金属負極およびセパレータは、本開示の効果が得られる範囲で、非水系二次電池の分野で従来公知のものを適宜使用できる。
また、本二次電池は、前記電解液中に、ピロリジニウムカチオンと、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSIとも記す)とを含む。さらに、前記電解液において、放電容量維持率の向上の観点から、ピロリジニウムカチオンに対するリチウムイオンのモル比(Li/カチオン)は、10~40である。また、前記電解液において、放電容量維持率の向上の観点から、FSIのモル濃度は、3~4mol/L(M)である。
【0015】
このように、本二次電池では、リチウムイオンの他に特定のカチオンが電解液中に存在するため、リチウムイオンに配位しているビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンとの相互作用により電荷が分散され、アニオンの分解量を抑制することができる。その結果、放電容量維持率の低下を抑制できる。
また、リチウムイオンの他に特定のカチオンが存在することにより、局所的な電流集中が発生した場合であっても、当該カチオンの立体的な障害効果によりリチウムイオンの集中を緩和でき、リチウムデンドライトの生成を抑制できる。その結果、放電容量維持率の低下を抑制できる。
このように、本二次電池では、電解液中の溶媒和構造を制御することで、充放電効率が向上し、放電容量維持率が改善する。
【0016】
本二次電池では、分子サイズや分子内での電荷の分布の観点から、前記ピロリジニウムカチオンが、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムカチオン(Pyr13)または1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン(Pyr14)であることが好ましい。
【0017】
本二次電池では、電解液(例えば、LiFSI高濃度電解液)中に、電解質であるLiFSIの他に、イオン液体であるPyr13-FSIまたはPyr14-FSIを含むことができる。電解液中の電解質の含有割合は、上述したモル濃度やモル比の条件を満たし、本開示の効果が得られる範囲で適宜設定できる。
【0018】
電解液中のイオン液体の含有割合は、正電荷分散の観点から、0.93質量%以上が好ましい。また、電解液中のイオン液体の含有割合は、リチウム移動阻害による抵抗増加を抑制し、局所反応を制御する観点から、2.78質量%以下が好ましい。
【0019】
本二次電池は、電解液に用いる有機溶媒として、非水系二次電池の分野で従来公知のものを適宜使用できる。当該有機溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン、トリグライム、テトラグライム、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランおよびこれらの誘導体、ならびにこれらの任意の組み合わせおよび混合物などが挙げられる。
これらの中でも、高いLiFSI塩溶解性を示し、イオン伝導度を向上させ、容量維持率を向上させる観点から、ジメトキシエタンを有機溶媒として用いることが好ましい。
【0020】
また、本開示の効果が得られる範囲で、電解液中には他の添加剤を含有してもよい。
【実施例0021】
以下に複数の例を用いて本開示をさらに詳しく説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
(電解液調製)
電解質としてLiFSI(キシダ化学社製)を、イオン液体としてPyr13-FSI(東京化成工業社製)を、所定量用意し、溶媒としてDME(ジメトキシエタン)を加えて溶解させた。得られた溶液をメスフラスコに移し、所定の体積になるようメスアップし、電解液を得た。得られた電解液中のFSIのモル濃度(アニオン濃度mol/L)およびLiイオン/ピロリジニウムカチオン(Li/カチオン)のモル比を表1に示す。なお、電解液中のイオン液体の含有割合は2.78質量%であった。
なお、表1中の略語は以下のものを示す。
FSI:ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン
TFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン
Pyr13:1-メチル-1-プロピルピロリジニウムカチオン
Pyr14:1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン
EMIm:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン
Na+:ナトリウムカチオン
【0023】
[実施例2~5、比較例1~2、4~5、9]
電解液中のFSIのモル濃度およびLiイオン/ピロリジニウムカチオンのモル比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、電解液を調製した。各例の電解液中のイオン液体の含有割合は以下の通りであった。
実施例2:1.85質量%、実施例3:0.93質量%、実施例4:2.01質量%、実施例5:1.01質量%、比較例1:3.70質量%、比較例2:0.46質量%、比較例4:0.50質量%、比較例5:0.58質量%、比較例9:0.72質量%。
【0024】
[実施例6]
実施例6では、イオン液体をPyr14-FSI(東京化成工業社製)に変更し、Liイオン/ピロリジニウムカチオンのモル比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、電解液を調製した。なお、電解液中のイオン液体の含有割合は2.05質量%であった。
【0025】
[比較例3]
比較例3では、イオン液体を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、電解液を調製した。
【0026】
[比較例6]
比較例6では、イオン液体をEMIm-FSI(東京化成工業社製)に変更し、Liイオン/EMImカチオンのモル比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、電解液を調製した。なお、電解液中のイオン液体の含有割合は1.60質量%であった。
【0027】
[比較例7]
比較例7では、イオン液体を添加せず、代わりにNaFSI(東京化成工業社製)を添加し、Liイオン/Naカチオンのモル比を表1に示すように設定した以外は、実施例1と同様にして、電解液を調製した。
【0028】
[比較例8]
比較例8では、イオン液体をリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)(東京化成工業社製)に変更し、TFSIのモル濃度(アニオン濃度mol/L)とLiイオン/ピロリジニウムカチオンのモル比を表1に示すように変更した。それら以外は、実施例1と同様にして、電解液を調製した。なお、電解液中のイオン液体の含有割合は2.32質量%であった。
【0029】
(セル作製)
LiNiCoMn(1-x-y)(x=0.5、y=0.2)と、導電助剤(商品名:AB、デンカ社製)、結着剤(商品名:PVdF、クレハ社製)を混合してAl箔に塗布し、プレスすることで正極を作製した。
次に、負極として電解銅箔を用い、セパレータを介して正極と対向させ、各例で作製した電解液を注入し、コインセルを作製した。
【0030】
(放電容量維持率の評価)
0.4mA/cmの電流密度、3.0~4.3Vの電圧範囲でセル活性化を行った。その後、4mA/cmの電流密度、3.0~4.3Vの電圧範囲で20サイクルのサイクル試験を行った。
サイクル試験の20サイクル目の放電容量を、サイクル試験の1サイクル目の放電容量で除することで放電容量維持率を算出した。そして、各例の放電容量維持率を、イオン液体を用いない比較例3の放電容量維持率で除することで、放電容量維持率比を算出した。
各例の評価結果を以下の表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、電解液中に特定濃度のビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンと、リチウムイオンに対して特定モル比のピロリジニウムカチオンを含む本二次電池は、イオン液体を含まない二次電池と比較して優れた容量維持率比を有していることが分かる。
【0033】
以上で説明した本実施形態に係る発明により、簡単な構成で容量維持率の低下を抑制できる非水系二次電池を提供することができる。
【0034】
なお、本開示は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。