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2025-77322ジオポリマー組成物及びその製造方法、ジオポリマー硬化体及びその製造方法、並びにジオポリマー組成物調製用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025077322
(43)【公開日】2025-05-19
(54)【発明の名称】ジオポリマー組成物及びその製造方法、ジオポリマー硬化体及びその製造方法、並びにジオポリマー組成物調製用キット
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20250512BHJP
   C04B 12/04 20060101ALI20250512BHJP
   C04B 14/26 20060101ALI20250512BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20250512BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20250512BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20250512BHJP
   B28C 7/06 20060101ALI20250512BHJP
   B28C 7/12 20060101ALI20250512BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20250512BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20250512BHJP
【FI】
C04B28/26 ZAB
C04B12/04
C04B14/26
C04B22/10
C04B22/16
C04B24/06 A
B28C7/06
B28C7/12
C04B18/14 A
C04B18/08 Z
C04B18/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189413
(22)【出願日】2023-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄暉
(72)【発明者】
【氏名】石田 剛朗
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB01
4G056CB15
4G056CB27
4G112MB06
4G112MB41
4G112PA10
4G112PA27
4G112PA28
4G112PA29
4G112PB08
4G112PB13
4G112PB17
4G112PC03
4G112PC05
4G112PE01
(57)【要約】
【課題】優れた強度発現性と優れた安全性を兼ね備えるジオポリマー組成物調製用キットを提供すること。
【解決手段】固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットであって、固体組成物は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、シリカフュームと、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラーと、遅延剤と、を含み、液体組成物は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、水と、を含み、且つ水酸化アルカリの含有量が5質量%以下であり、減水剤及び消泡剤を含み、遅延剤がリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する、ジオポリマー組成物調製用キットを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットであって、
前記固体組成物は、
炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、シリカフューム(SF)と、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー(F)と、遅延剤(Re)と、を含み、
前記液体組成物は、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、水と、を含み、且つ前記水酸化アルカリの含有量が5質量%以下であり、
減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)が前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方に含まれており、
前記遅延剤(Re)がリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する、ジオポリマー組成物調製用キット。
【請求項2】
前記無機フィラー(F)に対する前記リン酸アルカリ金属塩及び前記クエン酸アルカリ金属塩の合計含有量が0.05~5質量%である、請求項1に記載のジオポリマー組成物調製用キット。
【請求項3】
前記水に対する、前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の合計のモル比が、0.01以上0.20未満である、請求項1又は2に記載のジオポリマー組成物調製用キット。
【請求項4】
前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が20~90%である、請求項1又は2に記載のジオポリマー組成物調製用キット。
【請求項5】
少なくとも請求項1又は2に記載のジオポリマー組成物調製用キットにおける前記固体組成物と前記液体組成物とを配合して得られる、ジオポリマー組成物。
【請求項6】
少なくとも請求項1又は2に記載のジオポリマー組成物調製用キットにおける前記固体組成物と前記液体組成物との配合物を硬化して得られる、ジオポリマー硬化体。
【請求項7】
炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、シリカフューム(SF)と、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー(F)と、遅延剤(Re)と、を含む固体組成物を調製する第1調製工程、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、水と、を含み、且つ前記水酸化アルカリの含有量が5質量%以下である液体組成物を調製する第2調製工程、及び、
少なくとも前記固体組成物と前記液体組成物とを配合してジオポリマー組成物を得る配合工程、を有し、
減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)が前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方に含まれており、
前記遅延剤(Re)がリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する、ジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項8】
前記無機フィラー(F)に対する前記リン酸アルカリ金属塩及び前記クエン酸アルカリ金属塩の合計含有量が0.05~5質量%である、請求項7に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項9】
前記水に対する、前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属のモル比が、0.01以上0.20未満である、請求項7又は8に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項10】
前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が、20~90%である、請求項7又は8に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項7又は8に記載の製造方法で製造されたジオポリマー組成物を硬化する硬化工程を有する、ジオポリマー硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジオポリマー組成物及びその製造方法、ジオポリマー硬化体及びその製造方法、並びにジオポリマー組成物調製用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
石炭灰等の非晶質材料をアルカリ溶液で処理することによってコンクリートのように硬化するジオポリマー組成物が知られている。ジオポリマー組成物は、通常のセメントと比べて、製造時に発生するCOを低減することができる。ジオポリマー組成物に用いられるシリカ源としては、水ガラス等の液体、及びシリカフューム等のフィラーが挙げられる。例えば、特許文献1では、水酸化ナトリウムと石炭灰及び高炉スラグの粉体とを攪拌した後、シリカフュームを徐々に溶かす処理を行う方法(その場溶解法)によって、ジオポリマー組成物の凝結時間を稼ぎ、可使時間を確保する技術が提案されている。
【0003】
特許文献2では、ジオポリマー組成物の可使時間を確保するため、凝結遅延剤としてグルコン酸ナトリウムを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-237561号公報
【特許文献2】特開2021-66613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の製造方法で用いられている水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムといったアルカリ源は、その濃度に応じて使用時の安全性に対する配慮が必要になる場合がある。そこで、本開示では、優れた強度発現性と優れた安全性を兼ね備えるジオポリマー組成物及びジオポリマー組成物調製用キットを提供する。また、高い圧縮強度を有し、製造時の安全性に優れるジオポリマー硬化体を提供する。また、高い圧縮強度を有するジオポリマー硬化体を製造することが可能であり、安全性に優れるジオポリマー組成物の製造方法及びジオポリマー硬化体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットであって、前記固体組成物は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、シリカフューム(SF)と、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー(F)と、遅延剤(Re)と、を含み、前記液体組成物は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、水と、を含み、且つ前記水酸化アルカリの含有量が5質量%以下であり、減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)が前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方に含まれており、前記遅延剤(Re)がリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する、ジオポリマー組成物調製用キットを提供する。
【0007】
上記ジオポリマー組成物調製用キットは、固体組成物が炭酸アルカリを含むことによって液体組成物における水酸化アルカリの含有量を5質量%以下にしている。このような液体組成物と固体組成物とを配合してジオポリマー組成物を得ることが可能であるため、安全性に優れる。しかしながら、水酸化アルカリの含有量が低くなると従来のジオポリマー組成物では良好な強度発現性を得ることができなかった。上記ジオポリマー組成物調製用キットの固体組成物は、遅延剤としてリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有している。これらの遅延剤は、液体組成物と固体組成物の練り混ぜ直後における硬化を遅延させつつも、材齢7日の圧縮強度を十分に高くすることができる。したがって、上記ジオポリマー組成物調製用キットは、優れた強度発現性と優れた安全性を兼ね備える。このようなジオポリマー組成物調製用キットは、建設及び土木等の工事現場等、工事の迅速性と高い安全性が求められる用途において特に有用である。
【0008】
本開示の一側面は、少なくとも上述のジオポリマー組成物調製用キットにおける前記固体組成物と前記液体組成物とを配合して得られる、ジオポリマー組成物を提供する。このジオポリマー組成物は、水酸化アルカリの含有量が5質量%以下の液体組成物と、遅延剤としてリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する固体組成物と、を配合して得られるものである。したがって、優れた強度発現性と優れた安全性を兼ね備える。
【0009】
本開示の一側面は、少なくとも上述のジオポリマー組成物調製用キットにおける前記固体組成物と前記液体組成物との配合物を硬化して得られる、ジオポリマー硬化体を提供する。このジオポリマー組成物は、水酸化アルカリの含有量が5質量%以下の液体組成物と、遅延剤としてリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する固体組成物と、の配合を硬化して得られるものである。したがって、高い圧縮強度を有し、製造時の安全性に優れる。
【0010】
本開示の一側面は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、シリカフューム(SF)と、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー(F)と、遅延剤(Re)と、を含む固体組成物を調製する第1調製工程、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、水と、を含み、且つ前記水酸化アルカリの含有量が5質量%以下である液体組成物を調製する第2調製工程、及び、少なくとも前記固体組成物と前記液体組成物とを配合してジオポリマー組成物を得る配合工程、を有し、減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)が前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方に含まれており、前記遅延剤(Re)がリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する、ジオポリマー組成物の製造方法を提供する。
【0011】
上記ジオポリマー組成物の製造方法では、第1調製工程で調製される固体組成物が炭酸アルカリを含むことによって、第2調製工程で調製される液体組成物における水酸化アルカリの含有量を5質量%以下にしている。配合工程では、このような液体組成物と固体組成物とを配合してジオポリマー組成物を得ることが可能であるため、安全性に優れる。水酸化アルカリの含有量が低くなると従来のジオポリマー組成物では良好な強度発現性を得ることができなかった。しかしながら、上記製造方法では、固体組成物が遅延剤としてリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有している。これらの遅延剤は、配合工程における液体組成物と固体組成物の練り混ぜ直後の硬化を遅延させつつも、材齢7日の圧縮強度を十分に高くすることができる。したがって、この製造方法は高い圧縮強度を有するジオポリマー硬化体を製造することが可能であり、安全性に優れる。
【0012】
本開示の一側面は、上述の製造方法で製造されたジオポリマー組成物を硬化する硬化工程を有する、ジオポリマー硬化体の製造方法を提供する。この製造方法は上述のジオポリマー組成物の製造方法で製造されたジオポリマー組成物を用いることから、高い圧縮強度を有するジオポリマー硬化体を製造することが可能であり、安全性に優れる。このため、建設及び土木等の工事現場等、工事の迅速性と高い安全性が求められる用途において特に有用である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、優れた強度発現性と優れた安全性を兼ね備えるジオポリマー組成物及びジオポリマー組成物調製用キットを提供することができる。また、高い圧縮強度を有し、製造時の安全性に優れるジオポリマー硬化体を提供することができる。また、高い圧縮強度を有するジオポリマー硬化体を製造することが可能であり、安全性に優れるジオポリマー組成物の製造方法及びジオポリマー硬化体の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。数値範囲で用いている「~」の記号は、上限及び下限の数値を含む数値範囲を示す。例えば、「X~Y」は「X以上且つY以下」の数値範囲を示す。上限及び/又は下限を実施例に記載の数値で置換した数値範囲も本開示の開示内容に含まれる。複数例示される成分又は材料は、一種のみであってもよいし、複数を組み合わせてもよい。
【0015】
一実施形態に係るジオポリマー組成物調製用キットは、固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する。第1包装体及び第2包装体は、それぞれ、固体及び液体であることから、別々にすることによって運搬を円滑に行うことができる。ジオポリマー組成物調製用キットは、固体組成物と液体組成物とが混合されずに別々になっているため、長期間にわたって安定的に保管することができる。したがって、ジオポリマー組成物調製用キットは、取り扱い性に優れる。
【0016】
例えば、第1包装体及び第2包装体は、物理的に別体であってよい。第1包装体及び第2包装体は、例えば、ラベル表示又はICタグ等で紐づけられていてよい。紐づけの手段は特に限定されない。このようなジオポリマー組成物調製用キットは、ジオポリマー組成物を使用する直前に固体組成物と液体組成物を混合して、ジオポリマー組成物を高い安全性で簡便に調製することができる。このようにして調製されるジオポリマー組成物は、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を有する。また、CO排出量を削減することができる。
【0017】
固体組成物は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、シリカフューム(SF)と、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー(F)と、遅延剤(Re)と、を含む。固体組成物はこれら以外の成分を含んでもよい。
【0018】
液体組成物は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、水と、を含み、且つ水酸化アルカリの含有量が5質量%以下である。液体組成物はこれら以外の成分を含んでもよい。減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)は固体組成物及び液体組成物の少なくとも一方に含まれる。
【0019】
一実施形態に係るジオポリマー組成物は、上記ジオポリマー組成物調製用キットの固体組成物と液体組成物を配合して得られる。一実施形態に係るジオポリマー組成物の製造方法は、上述の固体組成物を調製する第1調製工程、上述の液体組成物を調製する第2調製工程、及び、第1調製工程で調製した固体組成物と第2調製工程で調製した液体組成物とを配合してジオポリマー組成物を得る配合工程を有する。以下に説明する内容は、ジオポリマー組成物調製用キット、ジオポリマー組成物、及びジオポリマー組成物の製造方法のそれぞれの実施形態に共通して適用される。
【0020】
液体組成物は、アルカリ源として、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリを含有する。固体組成物が炭酸アルカリを含むことから、取り扱いに注意が必要な水酸化アルカリの使用量を低減して安全性を向上することができる。液体組成物における水酸化アルカリの含有量は5質量%以下である。したがって、液体組成物は、毒物及び劇物取締法の劇物に該当せず、高い安全性でジオポリマー組成物を調製することができる。安全性を一層向上する観点から、液体組成物における水酸化アルカリの含有量は、好ましくは5質量%未満であり、より好ましくは4.9質量%以下である。十分に高い圧縮強度を有するジオポリマー硬化体を得る観点から、液体組成物における水酸化アルカリの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上である。
【0021】
液体組成物は水を含有する。ジオポリマー組成物に含まれる水は、全て液体組成物に由来するものであってもよいし、固体組成物と液体組成物とを配合する際に水を配合してジオポリマー組成物を調製してもよい。以下の単位水量は、これらの合計値として求められる。ジオポリマー組成物における単位水量は、好ましくは170~240kg/m、より好ましくは190~230kg/m、さらに好ましくは200~220kg/m、特に好ましくは210~220kg/mである。単位水量をこのような範囲にすることによって、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状と材齢7日におけるジオポリマー硬化体の圧縮強度を十分に高い水準で両立することができる。
【0022】
ジオポリマー組成物における水に対する、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属(元素)の合計のモル比(A/W)は、好ましくは0.01以上0.20未満であり、より好ましくは0.02~0.10であり、さらに好ましくは0.03~0.08である。これによって、優れた強度発現性と良好なフレッシュ性状とを十分に高い水準で両立することができる。水酸化アルカリの配合量(固形分換算)は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば5~20kg/mであってよく、8~15kg/mであってよい。このような量の水酸化アルカリを含むアルカリ水溶液を用いてもよい。これによって、優れた強度発現性良好なフレッシュ性状を十分に高い水準に維持しつつ、安全性を十分に向上することができる。
【0023】
液体組成物は、ケイ酸ナトリウム(NaSiO、NaSiO、NaSi、NaSi等)、ケイ酸カリウム(KSiO等)、及び水ガラスを含まないことが好ましい。これによって、液体組成物と固体組成物と配合する際(配合工程)に各成分が混合されることとなり、シリカフューム(SF)、又は、シリカフューム(SF)及び無機フィラー(F)が、水酸化アルカリ、又は水酸化アルカリと炭酸アルカリを含むアルカリ水溶液中に溶解する。シリカフューム(SF)及び無機フィラー(F)以外の原料に含まれるSiOもアルカリ水溶液中に溶解してよいし、SiO以外の成分もアルカリ水溶液中に溶解してもよい。このようにして、アルカリ金属としてナトリウム及びカリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むケイ酸アルカリ水溶液が生成する。このような製造方法では、配合工程によって生じるシリカフューム(SF)及び無機フィラー(F)と水酸化アルカリ及び炭酸アルカリとの反応が、阻害されることなく円滑に進行する。このようにして、強度発現性に優れるジオポリマー組成物及び十分に高い圧縮強度を有するジオポリマー硬化体を得ることができる。
【0024】
炭酸アルカリは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。ジオポリマー組成物が炭酸アルカリを含むことによって、水酸化アルカリの含有量を低減することができる。これによって、ジオポリマー組成物の安全性を向上することができる。また、ジオポリマー組成物において炭酸アルカリがアルカリ刺激剤として作用することによって、強度発現性を向上することができる。
【0025】
炭酸アルカリの配合量(固形分換算)は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば5~100kg/mであってよい。当該配合量は、安全性と強度発現性を一層向上する観点から、10kg/m以上、又は15kg/m以上であってよい。このような範囲であれば、炭酸アルカリがアルカリ刺激剤として一層効果的に作用する。当該配合量は、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状を良好にする観点から、80kg/m以下、50kg/m以下、又は20kg/m以下であってよい。
【0026】
水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属(元素)全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属(元素)の比率は、20~90%であってよい。これによって、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状と材齢7日におけるジオポリマー硬化体の圧縮強度を十分に高い水準で両立することができる。当該比率は、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下、特に好ましくは60%以下である。これによって、配合工程の際に微細なCaCOの生成に伴って粘性が増加するのを抑制し、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状を一層良好にすることができる。当該比率は、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であってよい。これによって、ジオポリマー組成物を製造する際の安全性を一層高めつつ、炭酸アルカリがアルカリ刺激剤として一層効果的に作用して、材齢7日におけるジオポリマー硬化体の圧縮強度を一層高くすることできる。アルカリ金属(元素)としてはナトリウム及びカリウムが挙げられる。
【0027】
シリカフューム(SF)は、セメント組成物に用いられる一般的なものを用いることができる。シリカフューム(SF)のBET比表面積は10m/g以上であってよく、14m/g以上であってよく、16m/g以上であってもよい。BET比表面積の大きいシリカフュームは高い反応性を有するため、アルカリ水溶液中に早期に溶解し円滑にSiOを供給することができる。シリカフューム(SF)のBET比表面積の上限は、入手の容易性の観点から20m/g以下であってもよい。ジオポリマー組成物におけるシリカフューム(SF)の配合量は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば10~100kg/m、20~80kg/m、又は30~70kg/mであってよい。
【0028】
無機フィラー(F)は、フライアッシュ(FA)、及び高炉スラグ微粉末(BS)を含む。無機フィラー(F)は、フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)以外の無機成分を含んでよい。そのような無機成分としては、木質バイオマス灰、都市ごみ焼却灰、炭酸カルシウム、メタカオリン、下水汚泥、火山灰等、構成元素としてSi、Al及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一つを有するフィラーが挙げられる。
【0029】
無機フィラー(F)中の高炉スラグ微粉末(BS)の含有量は、10体積%以上、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上である。これによって、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。無機フィラー(F)中の高炉スラグ微粉末(BS)の含有量は、90体積%以下であり、好ましくは80体積%以下、より好ましくは75積%以下、さらに好ましくは70体積%以下である。これによって、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。
【0030】
フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計に対する高炉スラグ微粉末(BS)の比率は、好ましくは10~90体積%である。フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計に対する高炉スラグ微粉末(BS)の比率は、より好ましくは30体積%以上であり、さらに好ましくは50体積%以上であり、特に好ましくは60体積%以上である。これによって、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状とジオポリマー硬化物の圧縮強度を一層十分に高い水準で両立することができる。フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計に対する高炉スラグ微粉末(BS)の比率は、より好ましくは85体積%以下、さらに好ましくは80体積%以下、特に好ましくは75体積%以下である。これによって、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状とジオポリマー硬化物の圧縮強度を一層十分に高い水準で両立することができる。
【0031】
フライアッシュ(FA)は、JIS A6201:2015に規定されるI種~IV種のうち、II種が好ましい。フライアッシュII種は、III種やIV種に比べて反応性が高いことから強度発現性に優れる。フライアッシュI種は、II種より比表面積が大きいことから反応性は高いものの、粘性が増加することに加えて、価格が高く流通量が少ないため入手し難い傾向にある。高炉スラグ微粉末(BS)のブレーン比表面積は、好ましくは3500~6000cm/gであり、より好ましくは4000~5000cm/gである。高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が高いほど反応性が高く強度発現性に優れるものの、粘性が高く可使時間が短くなる傾向にある。
【0032】
無機フィラー(F)全体に対する、フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計の比率は、例えば60体積%以上、好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上、特に好ましくは95体積%以上である。無機フィラー(F)は、フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)のみからなっていてもよい。
【0033】
無機フィラー(F)の配合量は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば450~600kg/mであってよく、465~590kg/mであってよく、470~580kg/mであってもよい。
【0034】
遅延剤(Re)は、凝結遅延剤とも称されるものであり、ジオポリマー組成物の凝結のタイミングを遅くする作用を有する。遅延剤(Re)は、リン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する。これらの成分は、水酸化アルカリの使用量を低減してジオポリマー組成物を調製したときに、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状が良好になるように凝結を遅延させつつ、その後の強度発現性を向上させてジオポリマー硬化体の材齢7日の圧縮強度を十分に高くすることができる。
【0035】
リン酸アルカリ金属塩としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム及びリン酸三カリウムが挙げられる。これらは水和物であってもよい。リン酸アルカリ金属塩は、強度発現性を一層向上する観点から、好ましくはリン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸三ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、より好ましくはリン酸二水素ナトリウムを含む。クエン酸アルカリ金属塩としては、クエン酸二水素カリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸三カリウム及びクエン酸三ナトリウムが挙げられる。これらは水和物であってもよい。クエン酸アルカリ金属塩は、強度発現性を一層向上する観点から、好ましくはクエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、及びクエン酸三ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、より好ましくはクエン酸三ナトリウムを含む。遅延剤(Re)は、リン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の一方又双方のみからなっていてもよい。
【0036】
遅延剤(Re)は、グルコン酸ナトリウムを含まなくてもよい。グルコン酸ナトリウムは、本実施形態のジオポリマー組成物調製用キットを用いてジオポリマー組成物を調製したときに、凝結を過剰に遅延させる。このため、ジオポリマー組成物調製用キット及びこれを用いて調製されるジオポリマー組成物は、グルコン酸ナトリウムを含まなくてよい。
【0037】
ジオポリマー組成物調製用キット及びジオポリマー組成物における無機フィラー(F)全体に対するリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の合計含有量は、好ましくは0.05~5質量%である。これによって、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状と材齢7日のジオポリマー硬化体の圧縮強度を高い水準で両立することができる。ジオポリマー組成物のフレッシュ性状とジオポリマー硬化体の圧縮強度を一層高い水準で両立させる観点から、リン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の上記合計含有量は、より好ましくは0.1~4質量%、さらに好ましくは0.3~3質量%、特に好ましくは0.5~2質量%である。
【0038】
固体組成物は、細骨材(S)を含んでよい。細骨材(S)は、川砂、山砂、陸砂及び海砂等の天然骨材、砕砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材及び電気炉酸化スラグ細骨材等の人工細骨材、並びに再生細骨材等から選ばれる少なくとも一つを含んでよい。細骨材として、これらを単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。細骨材(S)の表乾密度は、2.2~2.9g/cmであってよく、2.4~2.8g/cmであってよく、2.5~2.7g/cmであってもよい。細骨材の配合量は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば1000~1600kg/mであってよく、1200~1550kg/mであってよく、1300~1500kg/mであってもよい。
【0039】
ジオポリマー組成物は、減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)を含む。減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)は、ジオポリマー組成物調製用キットにおける固体組成物及び液体組成物の少なくとも一方に含まれており、好ましくは固体組成物に含まれる。これによって、保存安定性を一層向上することができる。減水剤(Ad)は、リグニン誘導体、ヒドロキシ系複合体、ナフタリンスルホン酸系化合物、アミノスルホン酸系化合物、及び、ポリカルボン酸系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。本明細書におけるリグニン誘導体とは、リグニンから誘導される化合物であり、例えば、リグニンスルホン酸塩が挙げられる。減水剤(Ad)は、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。
【0040】
ジオポリマー組成物において、無機フィラー(F)全体に対する減水剤(Ad)の含有量は、0.1~1.5質量%であってよい。このようなジオポリマー組成物は、フレッシュ性状と強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。フレッシュ性状と強度発現性を一層高い水準で両立させる観点から、無機フィラー(F)全体に対する減水剤(Ad)の含有量は、好ましくは0.2~1.0質量%、より好ましくは0.3~0.6質量%である。
【0041】
消泡剤(DF)としては、セメント組成物に配合されるものを用いることが可能であり、例えば、非イオン界面活性剤タイプ、オイルタイプ、及びエマルションタイプ等が挙げられる。
【0042】
ジオポリマー組成物において、無機フィラー(F)全体に対する消泡剤(DF)の含有量は、好ましくは0.002~0.10質量%、より好ましくは0.005~0.05質量%、さらに好ましくは0.008~0.03質量%である。ジオポリマー組成物は、減水剤(Ad)を含むと気泡が発生して硬化させたときの圧縮強度が低下する場合がある。そこで、上述の比率で消泡剤(DF)を含有することによって、ジオポリマー組成物の製造コストを維持しつつジオポリマー硬化体の圧縮強度を十分に高くすることができる。
【0043】
固体組成物及び液体組成物は、それぞれ、各材料を同時又は順次に混合して調製してもよいし、一部の材料同士を配合して複数の配合物を調製した後、複数の配合物を混合して調製してもよい。固体組成物と液体組成物とを配合してジオポリマー組成物を調製する際に、さらに別の材料を配合してもよい。すなわち配合工程において、当該別の材料を配合してもよい。そのような材料としては、水、細骨材、膨張材、収縮低減剤、防錆剤、及び防水材等が挙げられる。これらの材料は、固体組成物又は液体組成物に含まれていてもよい。
【0044】
ジオポリマー組成物において、無機フィラー(F)全体に対する、炭酸アルカリ、水酸化アルカリ、シリカフューム(SF)及び水の合計の体積比(L/F)は、好ましくは0.6~1.6であり、より好ましくは0.7~1.5であり、さらに好ましくは0.8~1.4であり、特に好ましくは0.9~1.3である。このような範囲であることによって、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状とジオポリマー硬化物の圧縮強度を十分に高い水準で両立することができる。
【0045】
固体組成物及び液体組成物をそれぞれ調製する第1調製工程及び第2調製工程、並びに配合工程で用いる攪拌装置に特に制限はない。第2調製工程では、液体組成物を調製することから、通常の容器を用いて調製してもよい。第1調製工程及び配合工程では、例えば、モルタルミキサ、二軸強制練りミキサ、パン型ミキサ、グラウトミキサ又はハンドミキサ等を使用することができる。このようにして、十分に良好なフレッシュ性状を有しつつ強度発現性にも十分に優れるジオポリマー組成物を製造することができる。
【0046】
固体組成物と液体組成物とを配合して得られるジオポリマー組成物は、無機フィラー(F)、ナトリウム及びカリウムから群より選ばれる少なくとも一つを含むケイ酸アルカリ水溶液、遅延剤(Re)、減水剤(Ad)、消泡剤(DF)、並びに、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリを含有する。無機フィラー(F)の少なくとも一部は、ケイ酸アルカリ水溶液に溶解していてもよい。ケイ酸アルカリ水溶液には、無機フィラー(F)以外の材料が溶解していてもよい。ジオポリマー組成物は、細骨材、膨張材、収縮低減剤、防錆剤、及び防水材等を含んでもよい。
【0047】
ジオポリマー組成物の15打フロー(15打モルタルフロー)は、好ましくは140~220mm、より好ましくは160~210mmである。このようなジオポリマー組成物は流動性に優れ、施工性にも優れる。15打フローは実施例に記載の方法で測定される。ジオポリマー組成物の可使時間は、好ましくは90分以上であり、より好ましくは120分以上である。このようなジオポリマー組成物はフレッシュ性状に優れており、施工性に優れる。可使時間は実施例に記載の方法で測定される。
【0048】
ジオポリマー組成物は強度発現性に優れており、特に、封かん養生をしたときの強度発現性に優れる。温度20±2℃、相対湿度60±5%の恒温恒湿室で材齢7日まで封かん養生を実施した場合のジオポリマー硬化体の圧縮強度は、好ましくは36N/mm以上、より好ましくは38N/mm以上であり、さらに好ましくは40N/mm以上である。
【0049】
ジオポリマー組成物は、蒸気養生をしたときの強度発現性にも優れる。最高温度60℃で3時間保持する蒸気養生において、材齢7日におけるジオポリマー硬化体の圧縮強度は、好ましくは24N/mm以上、より好ましくは26N/mm以上、さらに好ましくは28N/mm以上である。各圧縮強度は実施例に記載の条件で測定される。このように、ジオポリマー組成物は、安全性に優れるとともに、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を有する。
【0050】
一実施形態に係るジオポリマー硬化体は、上述のジオポリマー組成物を硬化することによって得ることができる。このジオポリマー硬化体は、製造時の安全性に優れ且つ高い圧縮強度を有する。封かん養生及び蒸気養生をしたときの材齢7日におけるジオポリマー硬化体の圧縮強度は、上述したとおりである。
【0051】
一実施形態に係るジオポリマー硬化体の製造方法は、上述のジオポリマー組成物を硬化する硬化工程を有する。このようにして得られるジオポリマー硬化体は、製造時の安全性に優れるとともに、高い圧縮強度を有する。
【0052】
ジオポリマー硬化体の用途としては、現場での施工の他に、例えば、二次製品が挙げられる。ジオポリマー組成物を硬化させてジオポリマー硬化体を作製するときには、例えば、封かん養生してもよく、蒸気養生してもよい。すなわち、硬化工程は、封かん養生で行ってもよいし、蒸気養生で行ってもよい。封かん養生及び蒸気養生をしたときの材齢7日におけるジオポリマー硬化体の圧縮強度は、上述したとおりである。
【0053】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、本開示は、以下の内容を含む。
【0054】
[1]固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットであって、
前記固体組成物は、
炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、シリカフューム(SF)と、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー(F)と、遅延剤(Re)と、を含み、
前記液体組成物は、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、水と、を含み、且つ前記水酸化アルカリの含有量が5質量%以下であり、
減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)が前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方に含まれており、
前記遅延剤(Re)がリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する、ジオポリマー組成物調製用キット。
[2]前記無機フィラー(F)に対する前記リン酸アルカリ金属塩及び前記クエン酸アルカリ金属塩の合計含有量が0.05~5質量%である、[1]に記載のジオポリマー組成物調製用キット。
[3]前記水に対する、前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の合計のモル比が、0.01以上0.20未満である、[1]又は[2]に記載のジオポリマー組成物調製用キット。
[4]前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が20~90%である、[1]~[3]のいずれか一項に記載のジオポリマー組成物調製用キット。
[5]少なくとも[1]~[4]のいずれか一つに記載のジオポリマー組成物調製用キットにおける前記固体組成物と前記液体組成物とを配合して得られる、ジオポリマー組成物。
[6]少なくとも[1]~[4]のいずれか一つに記載のジオポリマー組成物調製用キットにおける前記固体組成物と前記液体組成物との配合物を硬化して得られる、ジオポリマー硬化体。
[7]炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、シリカフューム(SF)と、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー(F)と、遅延剤(Re)と、を含む固体組成物を調製する第1調製工程、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、水と、を含み、且つ前記水酸化アルカリの含有量が5質量%以下である液体組成物を調製する第2調製工程、及び、
少なくとも前記固体組成物と前記液体組成物とを配合してジオポリマー組成物を得る配合工程、を有し、
減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)が前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方に含まれており、
前記遅延剤(Re)がリン酸アルカリ金属塩及びクエン酸アルカリ金属塩の少なくとも一方を含有する、ジオポリマー組成物の製造方法。
[8]前記無機フィラー(F)に対する前記リン酸アルカリ金属塩及び前記クエン酸アルカリ金属塩の合計含有量が0.05~5質量%である、[7]に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
[9]前記水に対する、前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属のモル比が、0.01以上0.20未満である、[7]又は[8]に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
[10]前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が、20~90%である、[7]~[9]のいずれか一つに記載のジオポリマー組成物の製造方法。
[11]上記[7]~[10]のいずれか一つに記載の製造方法で製造されたジオポリマー組成物を硬化する硬化工程を有する、ジオポリマー硬化体の製造方法。
【実施例0055】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[遅延剤の種類の影響]
(実施例1,2、比較例1~5)
<ジオポリマー組成物の調製>
ジオポリマー組成物の原料として、以下の表1に示す材料を使用した。また、シリカフューム(SF)、フライアッシュII種(FA)、及び高炉スラグ微粉末(BS)の化学成分は、表2に示すとおりであった。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1に示す材料を用いてジオポリマー組成物を調製した。具体的には、液体原料を混合して液体組成物を、固体原料を混合して固体組成物を、それぞれ調製した。液体組成物と固体組成物とを、モルタルミキサを用いて混合してジオポリマー組成物を調製した。液体組成物は、苛性ソーダ水溶液(SH)、水(w)、AE減水剤(Ad)及び消泡剤(DF)を配合して調製した。
【0060】
固体組成物は、炭酸ナトリウム(SC)、シリカフューム(SF)、フライアッシュII種(FA)、高炉スラグ微粉末(BS)、海砂(S1)、砕砂(S2)及び遅延剤(Re1~Re6のいずれか)を、モルタルミキサ内に入れて、30秒間空練りして調製した。その後、このモルタルミキサ内に、上述の液体組成物を加えて90秒間練り混ぜた。かき落としを行った後、再度90秒間練り混ぜた。このようにして、各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物を調製した。
【0061】
各実施例及び各比較例で調製したジオポリマー組成物1m当たりの各材料の単位量は表3に示すとおりとした。表3に示すとおり、遅延剤(Re)を含有しないジオポリマー組成物を基準サンプル(比較例1)として、各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物を調製した。各ジオポリマー組成物の調製に用いた遅延剤の種類と、各成分及び各材料の比又は割合を、表4に纏めて示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3及び表4中の記号「L」は、炭酸ナトリウム(SC)、苛性ソーダ水溶液(SH)、水(w)及びシリカフューム(SF)の合計を示し、記号「F」は、フライアッシュII種(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計(無機フィラーの合計)を示す。各記号は、表1にも示されている。
【0064】
【表4】
【0065】
表4中、「A/W」は、ジオポリマー組成物に含まれる水に対するアルカリ金属のモル比を示す。ジオポリマー組成物に含まれる水は、苛性ソーダ水溶液(SH)に含まれる水と、上水道水(w)の合計である。表4中、「Si/A」は、Lに含有されるアルカリ金属に対する二酸化ケイ素(SiO)のモル比を示し、「単位水量」は、苛性ソーダ水溶液(SH)に含まれる水と、水(w)の合計の単位量である。「アルカリ構成比」は、アルカリ源(SC+SH)に含まれるアルカリ金属の合計量を基準(100モル%)としたときの、炭酸ナトリウム(SC)に含まれるアルカリ金属(Na)と苛性ソーダ水溶液(SH)に由来するアルカリ金属(Na)の各モル%である。表4中、「NaOH濃度」は、液体組成物におけるNaOHの含有量である。すなわち、各実施例及び各比較例で用いた液体組成物は、毒物及び劇物取締法の劇物に該当しないものである。表4中、「Re/F」は無機フィラー(F)全体に対する遅延剤(Re)の含有量である。表4中、「Ad/F」は無機フィラー(F)全体に対する減水剤(Ad)の含有量である。表4中、「DF/F」は無機フィラー(F)全体に対する消泡剤(DF)の含有量である。
【0066】
<ジオポリマー組成物の評価>
各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物をそれぞれ所定の型枠に流し込んで、封かん養生及び最高温度60℃での蒸気養生を行った。封かん養生は、温度20±2℃、相対湿度60±5%の恒温恒湿室で材齢7日まで実施した。蒸気養生は、20℃で3時間の前置きの後、蒸気によって、昇温速度13.3℃/hrで60℃に昇温して3時間保持し、降温速度13.3℃/hrで20℃に降温した。その後、材齢1日で脱型し、それ以降は温度20±2℃、相対湿度60±5%の恒温恒湿室で気中養生を行った。このようにして得られた円柱試験体(直径5cm×高さ10cm)を用いて、材齢7日における圧縮強度を測定した。測定結果は表5に示すとおりであった。
【0067】
【表5】
【0068】
表5に示すとおり、遅延剤としてリン酸アルカリ金属塩を含む実施例1、及びクエン酸アルカリ金属塩を含む実施例2のジオポリマー組成物は、比較例1~4のジオポリマー組成物よりも圧縮強度が十分に高かった。各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物について、遅延剤を用いなかった比較例1を基準(100%)としたときの各圧縮強度の比率を算出した。これらの算出結果は、表5の「基準との圧縮強度比」の欄に示すとおりであった。
【0069】
[遅延剤の含有量の影響]
(実施例1-1~1-3、実施例2-1~2-4)
<ジオポリマー組成物の調製>
実施例1及び実施例2で用いた遅延剤の配合量を変更して、実施例1-1~1-3及び実施例2-1~2-4のジオポリマー組成物を調製した。調製した各ジオポリマー組成物1m当たりの各材料の単位量は表6に示すとおりであった。各ジオポリマー組成物の調製に用いた遅延剤の種類と、各成分及び各材料の比又は割合を、表7に纏めて示す。なお、表6及び表7には、比較のため、表3及び表4に示した比較例1、実施例1,2の値も併記した。表6及び表7中の記号の意味は、表3及び表4と同じである。各実施例では、表6及び表7に示すとおり各遅延剤の配合量を変えてジオポリマー組成物を調製した。実施例1,2と同じ手順で、ジオポリマー組成物の評価を行った。評価結果は、表8に示すとおりであった。
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
表7及び表8に示すとおり、各実施例のジオポリマー硬化体は、高い圧縮強度を有することが確認された。各実施例のジオポリマー組成物のフレッシュ性状を確認するため、表6~8に示す各実施例及び比較例1のジオポリマー組成物の15打フロー試験を行った。15打フロー試験は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準じて実施した。各実施例のジオポリマー組成物について、遅延剤を用いなかった比較例1を基準(100%)としたときの15打フローの比率を算出した。これらの算出結果は、表9の「基準との15打フロー比」の欄に示すとおりであった。
【0074】
表7及び表8に示す各実施例及び比較例1のジオポリマー組成物の可使時間の評価を行った。可使時間の測定には硬度計(全長:23cm、貫入部位:円錐形)を用いた。直径18.5cm、高さ10cmの円筒型の容器に、各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物を入れ、5分ごとに硬度計を挿入して貫入抵抗値を測定した。打ち込み・成形可能な貫入抵抗値を1.0N/mmとし、この値を超えない時間を可使時間とした。測定結果は表9に示すとおりであった。
【0075】
【表9】
【0076】
遅延剤としてクエン酸アルカリ金属塩を用いた場合、無機フィラー(F)に対するクエン酸アルカリ金属塩の含有量が1.0質量%以上になると(実施例2-2~2-4)、単位水量を増やすことで15打フローの値が大きくなり、フレッシュ性状が向上することが確認された。遅延剤としてリン酸アルカリ金属塩を用いた場合も、同様の傾向が確認された(実施例1-2,1-3)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示によれば、優れた強度発現性と優れた安全性を兼ね備えるジオポリマー組成物及びジオポリマー組成物調製用キットが提供される。また、高い圧縮強度を有し、製造時の安全性に優れるジオポリマー硬化体が提供される。また、高い圧縮強度を有するジオポリマー硬化体を製造することが可能であり、安全性に優れるジオポリマー組成物の製造方法及びジオポリマー硬化体の製造方法が提供される。