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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007742
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/20 20120101AFI20250109BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16H48/20
F16H48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109344
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】廣田 功
(72)【発明者】
【氏名】内田 昇
(72)【発明者】
【氏名】川合 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏治
(72)【発明者】
【氏名】山本 航輝
(72)【発明者】
【氏名】平賀 直樹
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA34
3J027FB01
3J027HA01
3J027HA03
3J027HB07
3J027HC03
3J027HC07
3J027HC13
3J027HC15
3J027HC23
3J027HC29
3J027HE01
3J027HF06
(57)【要約】
【課題】カム部の反応性を向上することができるデファレンシャル装置を提供する。
【解決手段】デフケース7と、差動ギヤ11と、一対の出力ギヤ13,15と、一対の出力ギヤ13,15の差動を制限する差動制限部5と、出力ギヤ13,15に入力する駆動トルクで差動制限部5を作動させるカム部35と、差動制限部5に予圧荷重を付与する付勢部材39とを備えたデファレンシャル装置1において、出力ギヤ13,15が、差動ギヤ11と噛み合うギヤ部材25と、軸方向移動可能に配置されギヤ部材25とカム部35を介して一体回転可能に係合され差動制限部5を作動させる作動部材27とを有し、付勢部材39を、ギヤ部材25と作動部材27との間に、たわみ量が増すときに荷重が増加する範囲内で予圧荷重を付与するように配置し、付勢部材39のカム部35が作動したときの第1荷重を、カム部35が作動しないときの第2荷重より低い荷重に設定した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配置されたデフケースと、
前記デフケースに自転可能に支持され、前記デフケースの回転によって公転する差動ギヤと、
前記差動ギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤと、
前記デフケースと前記出力ギヤとの間に設けられ、一対の前記出力ギヤの差動を制限する差動制限部と、
前記出力ギヤに入力する駆動トルクで前記差動制限部を作動させるカム部と、
前記差動制限部に予圧荷重を付与する付勢部材と、
を備え、
前記出力ギヤは、前記差動ギヤと噛み合うギヤ部材と、軸方向移動可能に配置され前記ギヤ部材と前記カム部を介して一体回転可能に係合され前記差動制限部を作動させる作動部材とを有し、
前記付勢部材は、前記ギヤ部材と前記作動部材との間に、たわみ量が増すときに荷重が増加する範囲内で予圧荷重を付与するように配置され、
前記付勢部材の前記カム部が作動したときの第1荷重は、前記カム部が作動しないときの第2荷重より低い荷重に設定されているデファレンシャル装置。
【請求項2】
前記付勢部材は、駆動トルクが入力せずに前記カム部が作動しない初期状態のときに、前記第2荷重が上限値となるように設定されている請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項3】
前記付勢部材は、皿バネである請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デファレンシャル装置としては、回転可能に配置されたデフケースと、デフケースに自転可能に支持され、デフケースの回転によって公転する差動ギヤと、差動ギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤとを備えている。また、デフケースと出力ギヤとの間に設けられ、一対の出力ギヤの差動を制限する差動制限部と、出力ギヤに入力する駆動トルクで差動制限部を作動させるカム部とを備えている。さらに、差動制限部に予圧を付与する付勢部材を備えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このデファレンシャル装置では、出力ギヤが、差動ギヤと噛み合うギヤ部材と、軸方向移動可能に配置されギヤ部材とカム部を介して一体回転可能に係合され差動制限部を作動させる作動部材としての出力部材とを有する。付勢部材は、ギヤ部材と出力部材との間に配置され、出力部材を軸方向に付勢して、差動制限部に予圧荷重を付与する。
【0004】
このようなデファレンシャル装置では、カム部が作動すると、ギヤ部材と出力部材との軸方向間隔が広くなる。一方、カム部が作動しないとき、ギヤ部材と出力部材との軸方向間隔が狭くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-49345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1のようなデファレンシャル装置では、予圧を付与する皿バネのような付勢部材を配置する場合、付勢部材は、たわみ量に対する荷重の変化がほぼない荷重の最大値近傍を含んだ荷重域に設定されている。このため、カム部に駆動トルクが掛からない初期状態から、カム部に駆動トルクが掛かってカム部のスラスト力が増大した状態に移行するときに、付勢部材の予圧荷重が最大値を通る場合がある。これは、カム部のスラスト力が増大した状態から初期状態に移行するときにも、同様の場合がある。ここで、付勢部材のたわみ量の状態に関して皿バネを例に説明する。皿バネの配置初期時点のたわみ量を所定値とすると、カム部に駆動トルクが掛かりギヤ部材と出力部材との軸方向の間隔(すなわち皿バネの配置間隔)が広くなるにつれ、皿バネのたわみ量は次第に少なくなる。逆に、ギヤ部材と出力部材との軸方向の間隔(すなわち皿バネの配置間隔)が狭くなるにつれ、皿バネのたわみ量は次第に大きくなる。このように皿バネのたわみ量が変化する中で、従来の構造では付勢部材としての皿バネの予圧荷重が最大値を通過する。こうした場合には、デファレンシャル装置への入力トルクに応じたカム部のスラスト力に、付勢部材の予圧荷重が増加しその後減少するように加わるため、差動制限特性が付勢部材の予圧荷重の最大値前後で上下に変動して制御性に悪影響を及ぼしていた。
【0007】
そこで、この発明は、付勢部材の予圧荷重が差動制限特性の制御性に悪影響を及ぼすことを抑制することができるデファレンシャル装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係るデファレンシャル装置は、回転可能に配置されたデフケースと、前記デフケースに自転可能に支持され、前記デフケースの回転によって公転する差動ギヤと、前記差動ギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤと、前記デフケースと前記出力ギヤとの間に設けられ、一対の前記出力ギヤの差動を制限する差動制限部と、前記出力ギヤに入力する駆動トルクで前記差動制限部を作動させるカム部と、前記差動制限部に予圧荷重を付与する付勢部材とを備え、前記出力ギヤは、前記差動ギヤと噛み合うギヤ部材と、軸方向移動可能に配置され前記ギヤ部材と前記カム部を介して一体回転可能に係合され前記差動制限部を作動させる作動部材とを有し、前記付勢部材は、前記ギヤ部材と前記作動部材との間に、たわみ量が増すときに荷重が増加する範囲内で予圧荷重を付与するように配置され、前記付勢部材の前記カム部が作動したときの第1荷重は、前記カム部が作動しないときの第2荷重より低い荷重に設定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、付勢部材の予圧荷重が差動制限特性の制御性に悪影響を及ぼすことを抑制することができるデファレンシャル装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るデファレンシャル装置の断面図である。
図2】本実施形態に係るデファレンシャル装置の付勢部材の正面図である。
図3】本実施形態に係るデファレンシャル装置の付勢部材の一部を断面とした側面図である。
図4】本実施形態に係るデファレンシャル装置のカム部が作動していないときの模式図である。
図5】本実施形態に係るデファレンシャル装置のカム部が作動したときの模式図である。
図6】本実施形態に係るデファレンシャル装置の付勢部材のたわみ量に対する荷重変化における荷重設定を示す図である。
図7】比較例の付勢部材のたわみ量に対する荷重変化における荷重設定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係るデファレンシャル装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るデファレンシャル装置1は、例えば、エンジンや電動モータなどの駆動源(不図示)と、左右の車輪(不図示)との間に配置されている。駆動源からの駆動力は、トランスミッション(不図示)を介してデファレンシャル装置1に伝達され、一対の出力軸(不図示)を介して左右の車輪に駆動力が配分される。
【0013】
図1図5に示すように、デファレンシャル装置1は、差動機構3と、差動制限部5とを備えている。
【0014】
差動機構3は、デフケース7と、ピニオンシャフト9と、差動ギヤ11と、一対の出力ギヤ13,15とを備えている。一例として本実施形態では、差動ギヤ11と一対の出力ギヤ13,15との噛み合い組合せに、ベベルギヤ組を用いている。
【0015】
デフケース7は、軸方向両側に形成されたボス部17,19のそれぞれの外周でベアリング(不図示)を介してキャリアなどの静止系部材(不図示)に回転可能に支持されている。デフケース7には、リングギヤ(不図示)が固定されるフランジ部21が形成されている。フランジ部21に固定されたリングギヤは、駆動力を伝達する動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合い、駆動力が伝達されてデフケース7を回転駆動させる。デフケース7内には、ピニオンシャフト9と、差動ギヤ11と、一対の出力ギヤ13,15などが収容配置されている。
【0016】
ピニオンシャフト9は、端部をデフケース7に形成された孔部に係合してピン23で抜け止め及び回り止めされ、デフケース7と一体に回転駆動される。ピニオンシャフト9の両軸端側には、差動ギヤ11がそれぞれ支承されている。
【0017】
差動ギヤ11は、デフケース7の周方向等間隔に複数(ここでは2つ)配置され、それぞれピニオンシャフト9の軸端部側に支承されてデフケース7の回転によって公転する。差動ギヤ11は、一対の出力ギヤ13,15に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対の出力ギヤ13,15に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト9に自転可能に支持されている。
【0018】
一対の出力ギヤ13,15は、デフケース7内に相対回転可能に収容されている。一対の出力ギヤ13,15は、それぞれギヤ部材25と、作動部材27とからなる。なお、一対の出力ギヤ13,15において、ギヤ部材25と作動部材27とは、左右対称に形成されているので、以下では主に一方のみについて説明し、他方については説明を省略する。
【0019】
ギヤ部材25は、環状に形成され、外周側に差動ギヤ11と噛み合うギヤ部が形成されている。ギヤ部材25は、差動ギヤ11と噛み合うことにより、差動ギヤ11から一対の出力ギヤ13,15に駆動力が伝達される。加えて、一対の出力ギヤ13,15に差回転が生じたときに、差動ギヤ11を回転させる。
【0020】
作動部材27は、ギヤ部材25と軸方向に近接して配置可能なように、ギヤ部材25の軸方向の一部を収容可能に凹状の環状に形成されている。作動部材27のギヤ部材25の径方向外側に位置する部分には、軸方向に円錐状に傾斜された摺動面29が設けられている。作動部材27の内周側には、一対の出力ギヤ13,15において、一対の出力軸に一体回転可能に連結可能なスプライン形状の出力部31,33が形成されている。作動部材27は、デフケース7から一対の出力ギヤ13,15に入力された駆動力を、一対の出力軸を介して左右の車輪に出力する。
【0021】
ギヤ部材25と作動部材27との軸方向間には、回転トルクを軸方向スラスト力に変換するカム部35が設けられている。カム部35は、ギヤ部材25の内周側に設けられた複数の係合凹部と、作動部材27の外周側に設けられ複数の係合凹部に係合可能な複数の係合凸部とからなる。カム部35は、複数の係合凹部と複数の係合凸部とを係合することにより、ギヤ部材25と作動部材27とを一体回転可能とさせる。
【0022】
一方、カム部35では、複数の係合凹部と複数の係合凸部との回転方向の係合面が所定角度傾斜されたカム面となっている。カム部35におけるカム面は、デフケース7に駆動力(駆動トルク)が入力されたとき、差動ギヤ11から一対の出力ギヤ13,15に分岐して入力された駆動力により、カム部35が作動して作動部材27を軸方向外側に移動させる。カム部35による作動部材27の軸方向移動により、デフケース7と一対の出力ギヤ13,15との間に配置された差動制限部5における差動制限力を増大・強化することができる。
【0023】
差動制限部5は、デフケース7と一対の出力ギヤ13,15との間に配置されている。差動制限部5は、互いに摺動するテーパリング37と作動部材27とを有する。
【0024】
テーパリング37は、デフケース7に対して、一対の出力ギヤ13,15の作動部材27の摺動面29と対応する位置にそれぞれ配置されている。テーパリング37は、内周側に周方向に複数形成された凸部40を、デフケース7の内壁面に形成された凹部42に係合させることにより、デフケース7と一体に回転する。
【0025】
テーパリング37は、デフケース7に入力される駆動力(駆動トルク)の大きさに応じて、差動ギヤ11との噛み合い反力を受けて軸方向に移動された一対の出力ギヤ13,15の作動部材27の摺動面29と摺動する。このとき、差動制限部5の差動制限力であるテーパリング37と摺動面29との摺動摩擦は、カム部35のカムスラスト力によって増大・強化される。
【0026】
差動制限部5は、カムスラスト力の大きさに対応して、デフケース7と一対の出力ギヤ13,15との間に摩擦トルクを伝達させ、差動機構3の差動を制限する。このような差動制限部5は、トルク感応型の摩擦クラッチのうちコーンクラッチタイプとなっている。差動制限部5は、付勢部材39によって予圧荷重が付与されている。
【0027】
付勢部材39は、皿バネからなり、軸方向に対して、弾性変形するたわみ量に応じて、付勢力となる荷重を対象部材に付与する。付勢部材39は、ギヤ部材25と作動部材27との軸方向間に配置されている。付勢部材39は、ギヤ部材25を軸方向内側(差動ギヤ11側)に付勢し、作動部材27を軸方向外側(差動制限部5側)に付勢する。ギヤ部材25と作動部材27との間に付勢部材39を配置することにより、差動制限部5に対して予圧荷重を付与する。付勢部材39として皿バネを用いることにより、周上でバランスよく軸方向に均一な荷重を得ることができ、差動制限部5に安定して予圧荷重を付与することができる。
【0028】
図4に示すように、付勢部材39は、例えば、アクセルをオフとするような駆動トルクがない、或いは駆動トルクが少なく、カム部35が作動していないとき、たわみ量が多くなり、予圧荷重が大きくなる。このとき、付勢部材39は、差動制限部5に対して大きな予圧荷重を付与する。
【0029】
図5に示すように、付勢部材39は、例えば、アクセルをオンとし、駆動トルクが付与されて最大となるまでの間のように、カム部35が作動したとき、たわみ量が少なくなり、予圧荷重が小さくなる。このとき、付勢部材39は、差動制限部5に対する予圧荷重の付与が小さくなる、又は解除される。
【0030】
ここで、付勢部材の「たわみ量」について説明する。一般的に付勢部材は組付け状態において2部材間(本実施形態では、ギヤ部材25と作動部材27)に配置される。その2部材間の配置隙間(配置高さでもよい)が変化すると、付勢部材は2部材間の配置隙間で弾性変形しつつ荷重を付与する。たわみ量とはその2部材間の配置隙間における付勢部材の弾性変形のストローク量であり、付勢部材の伸縮ストローク量を意味する。たわみ量が増すとは、付勢部材が縮む側に弾性変形することである。本実施形態では、付勢部材のたわみ量が増すにつれて付勢荷重が増加する特性を有する付勢部材、或いは付勢部材のたわみ量が増すにつれて付勢荷重が増加する特性部分を利用する付勢部材を用いることに特徴がある。
【0031】
ここで、比較例として、たわみ量に対する荷重変化における従来の付勢部材39(ここでは皿バネを代表として示す)の予圧荷重の設定を、図7に示す。従来の付勢部材39の荷重設定では、たわみ量に対して、付勢部材39が有する最大値近傍でほぼ変化のない(ほぼ一定となる)荷重設定範囲41で、荷重を付与するように設定されていた。このため、カム部35に駆動トルクが掛からない初期状態から、カム部35に駆動トルクが掛かってカム部のスラスト力が増大した状態に移行するときに、付勢部材39の予圧荷重が最大値44を通る場合がある。これは、カム部35のスラスト力が増大した状態から初期状態に移行するときにも、付勢部材39の予圧荷重が最大値44を通る場合がある。こうした場合には、デファレンシャル装置1への入力トルクに応じたカム部35のスラスト力に、付勢部材39の予圧荷重が増加しその後減少するように加わる。このため、差動制限特性が付勢部材39の予圧荷重の最大値44前後で上下に変動して制御性に悪影響を及ぼしていた。
【0032】
これに対して、たわみ量に対する予圧荷重の変化における本実施形態の付勢部材39の予圧荷重の設定を、図6に示す。本実施形態の付勢部材39の荷重設定では、たわみ量が増すときに予圧荷重が増加する荷重設定範囲43内で、予圧荷重を付与するように設定されている。つまり、予圧荷重の最大値44をデファレンシャル装置1の差動制限特性の利用範囲に用いない、或いは利用範囲から超えないように、ギヤ部材25と作動部材27との軸方向間の寸法設定がなされている。
【0033】
本実施形態の付勢部材39の予圧荷重の設定の一例としては、荷重設定範囲43において、カム部35が作動したときの第1荷重が、カム部35が作動しないときの第2荷重より低い荷重となるように設定されている。
【0034】
付勢部材39の第1荷重は、予圧荷重の設定範囲43において、カム部35が作動しているときに、たわみ量が増すときに荷重が増加し、最大値44より低い第1荷重設定範囲45内で、予圧荷重を付与するように設定されている。付勢部材39の第1荷重は、図5に示すように、カム部35が作動し、付勢部材39のたわみ量が少なくなったときに、ギヤ部材25と作動部材27とに付与される。なお、カム部35が作動したときに、ギヤ部材25と作動部材27間の配置間隔が付勢部材39の自由長と同等かそれを超える構成もあり得る。この場合には第1荷重がゼロ(0)或いは限りなく小さい設定となるが、本実施形態の技術的思想を享受するものである。
【0035】
付勢部材39の第2荷重は、予圧荷重の設定範囲43において、カム部35が作動していないときに、たわみ量が増すときに荷重が増加し第1荷重設定範囲45より高く、最大値44より低い第2荷重設定範囲47内で、予圧荷重を付与するように設定されている。付勢部材39の第2荷重は、図4に示すように、カム部35が作動していない、或いはカム部35の初期状態で、付勢部材39のたわみ量が多くなったときに、ギヤ部材25と作動部材27とに付与される。このため、付勢部材39の第2荷重は、駆動トルクが入力せず、或いは小さな駆動トルクが入力する状態で、カム部35が作動しない初期状態のときに、付勢部材39の荷重の上限値となる。なお、第2荷重設定範囲47(荷重設定範囲43)の上限値を、付勢部材39が有する荷重の最大値44として設定されてもよい。
【0036】
付勢部材39は、たわみ量が増すときに荷重が増加する荷重設定範囲43内で予圧荷重を付与するので、付勢部材39の荷重が、付勢部材39が有する最大値44を超えることがない。付勢部材39の第1荷重を第2荷重より低く設定することにより、カム部35が作動したときから初期状態に戻ろうとしたとき、ギヤ部材25と作動部材27との間に、付勢部材39が有する最大値44の予圧荷重が掛かることがない。このため、カム部35が初期状態に戻り易くなり、カム部35の反応性を向上することができる。従って、付勢部材39の予圧荷重が差動制限特性の制御性に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。加えて、第2荷重をカム部35が作動しないときの上限値とすることにより、第1荷重が、付勢部材39が有する荷重の最大値44に近づくことがなく、カム部35の反応性を安定して向上することができる。
【0037】
このようなデファレンシャル装置1では、回転可能に配置されたデフケース7と、デフケース7に自転可能に支持され、デフケース7の回転によって公転する差動ギヤ11と、差動ギヤ11と噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤ13,15とを備えている。また、デフケース7と出力ギヤ13,15との間に設けられ、一対の出力ギヤ13,15の差動を制限する差動制限部5を備えている。さらに、出力ギヤ13,15に入力する駆動トルクで差動制限部5を作動させるカム部35と、差動制限部5に予圧荷重を付与する付勢部材39とを備えている。また、出力ギヤ13,15は、差動ギヤ11と噛み合うギヤ部材25と、軸方向移動可能に配置されギヤ部材25とカム部35を介して一体回転可能に係合され差動制限部5を作動させる作動部材27とを有する。さらに、付勢部材39は、ギヤ部材25と作動部材27との間に、たわみ量が増すときに荷重が増加する範囲内で予圧荷重を付与するように配置されている。そして、付勢部材39のカム部35が作動したときの第1荷重は、カム部35が作動しないときの第2荷重より低い荷重に設定されている。
【0038】
付勢部材39は、たわみ量が増すときに荷重が増加する範囲内で予圧荷重を付与するので、付勢部材39の荷重が、付勢部材39が有する最大値44を超えることがない。付勢部材39の第1荷重を第2荷重より低く設定することにより、カム部35が作動したときから初期状態に戻ろうとしたとき、ギヤ部材25と作動部材27との間に、付勢部材39が有する最大値44の荷重が掛かることがない。このため、カム部35が初期状態に戻り易くなり、カム部35の反応性を向上することができる。
【0039】
従って、このようなデファレンシャル装置1では、付勢部材39の予圧荷重が差動制限特性の制御性に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0040】
また、付勢部材39は、駆動トルクが入力せずにカム部35が作動しない初期状態のときに、第2荷重が上限値となるように設定されている。
【0041】
このため、付勢部材39の上限値の第2荷重より低い荷重である第1荷重が、付勢部材39が有する荷重の最大値44に近づくことがなく、カム部35の反応性を安定して向上することができる。
【0042】
また、付勢部材39は、皿バネである。
【0043】
このため、付勢部材39の周上でバランスよく軸方向に均一な荷重を得ることができ、差動制限部5に安定して予圧を付与することができる。加えて、付勢部材39の周方向に均一な予圧荷重を得ることにより、付勢部材39の予圧荷重の設定を安定化することができる。
【0044】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0045】
例えば、本実施形態に係るデファレンシャル装置では、差動制限部が、デフケースと一体回転可能に配置されたテーパリングを有しているが、これに限らず、テーパリングを用いずに、作動部材を、デフケースの内壁面に摺動させてもよい。或いは、差動制限部は、フラットディスク状の単板や交互に配置された多板を用いたり、デフケースに対して出力ギヤの作動部材を直接に摩擦摺動させてもよい。
【0046】
また、差動ギヤと一対の出力ギヤとの噛み合い組合せには、フェースギヤ組や、互いに平行な軸配置の並行軸組など、種々の組合せを用いることができる。いずれの場合においても、少なくとも出力ギヤは、ギヤ部材と作動部材とを備える。
【0047】
また、付勢部材は、皿バネに限らず、コイル状、板状、ウェーブ状など種々の形状から、配置スペースと予圧荷重特性とを踏まえて選定できる。
【0048】
また、第1荷重と第2荷重とは、一部の荷重範囲が重なり合って設定されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 デファレンシャル装置
5 差動制限部
7 デフケース
11 差動ギヤ
13,15 出力ギヤ
25 ギヤ部材
27 作動部材
35 カム部
39 付勢部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7