(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025077504
(43)【公開日】2025-05-19
(54)【発明の名称】セラミックス粉末、セラミックス焼結体、及び、セラミックス焼結体の治癒方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20250512BHJP
C01G 25/02 20060101ALI20250512BHJP
C01B 32/914 20170101ALN20250512BHJP
【FI】
C04B35/488
C01G25/02
C01B32/914
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189747
(22)【出願日】2023-11-07
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 航
(72)【発明者】
【氏名】關根 暢秀
(72)【発明者】
【氏名】中島 靖
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】高井 優行
【テーマコード(参考)】
4G048
4G146
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB03
4G048AD04
4G146MA06
4G146MB02
4G146MB18A
4G146MB18B
4G146MB24
4G146PA08
4G146PA13
(57)【要約】
【課題】 より低温で自己治癒機能が発現されるセラミックス焼結体を得ることが可能なセラミックス粉末を提供すること。
【解決手段】 炭化ジルコニウムと部分安定化ジルコニアとを含み、炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であり、部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であり、炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上40体積%以下であり、部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上85体積%以下であるセラミックス粉末。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ジルコニウムと部分安定化ジルコニアとを含み、
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であり、
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であり、
前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上40体積%以下であり、
前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上85体積%以下であることを特徴とするセラミックス粉末。
【請求項2】
前記部分定化ジルコニアの平均粒子径が0.7μm以下であり、
前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上35体積%以下であり、
部分安定化ジルコニアの含有量が65体積%以上85体積%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス粉末。
【請求項3】
前記部分安定化ジルコニアは、安定化剤を含み、
前記安定化剤が、Y、Ca、Mg、Ce、Yb、Er、及び、Scからなる群より選ばれる1種類以上の酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックス粉末。
【請求項4】
前記安定化剤が、Yの酸化物であることを特徴とする請求項3に記載のセラミックス粉末。
【請求項5】
炭化ジルコニウムと部分安定化ジルコニアとを含み、
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であり、
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であり、
前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上40体積%以下であり、
前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上85体積%以下であり、
以下の<損傷付与条件>で損傷を与えた後に、以下の<治癒条件>で治癒させた試験片の3点曲げ強度が、損傷を与える前と比較して70%以上であることを特徴とするセラミックス焼結体。
<損傷付与条件>
3mm×4mm×44mmの試験片に、2kgfの力でビッカース圧子を圧入して、損傷を入れる。
<治癒条件>
水蒸気雰囲気中、400℃で1時間熱処理する。
【請求項6】
請求項5に記載のセラミックス焼結体を、水蒸気雰囲気中、350℃以上550℃以下で1時間以上熱処理する工程を有することを特徴とするセラミックス焼結体の治癒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粉末、セラミックス焼結体、及び、セラミックス焼結体の治癒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化誘起型自己治癒セラミックスが知られている。酸化誘起型自己治癒セラミックスは、高温大気中での酸化に対して高活性な非酸化物(以下、治癒剤ともいう)がセラミックス母材に分散している。酸化誘起型自己治癒セラミックスでは、使用中のき裂発生を引き金として、治癒剤が、外部に存在する大気中の酸素と高温条件下で酸化し、それにより生成した酸化物がき裂を自律的に充填及び接合し、強度が回復する。
【0003】
特許文献1には、セラミックス母材と、前記母材中に分散している酸化活性な非酸化物の治癒エージェントと、治癒活性剤を含む、酸化誘起型自己治癒セラミックス組成物であって、前記治癒エージェントは、前記セラミックス組成物のき裂発生による外部酸素との接触で酸化物を生成する物質であり、前記治癒活性剤は、前記治癒エージェントの酸化反応を律速する物質の拡散速度を高速化する物質であるセラミックス組成物が開示されている(請求項1参照)。また、特許文献1には、1050℃~600℃程度の範囲で有効な自己治癒機能が発現するように治癒活性剤を選定することが好ましいことが開示されている(例えば、段落[0029])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、より低温で自己治癒機能が発現されれば、有用性が高いセラミックス焼結体が提供できるのではないかと考えるに至った。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より低温で自己治癒機能が発現されるセラミックス焼結体を得ることが可能なセラミックス粉末を提供することにある。また、より低温で自己治癒機能が発現されるセラミックス焼結体を提供することにある。また、当該セラミックス焼結体を用いた、セラミックス焼結体の治癒方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、下記構成を採用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1] 炭化ジルコニウムと部分安定化ジルコニアとを含み、
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であり、
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であり、
前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上40体積%以下であり、
前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上85体積%以下であることを特徴とするセラミックス粉末。
【0009】
本発明者らは、治癒剤として炭化ジルコニウムを用いたセラミックス焼結体を、水蒸気雰囲気で加熱すると、従来よりも低温(例えば、550℃以下、500℃以下、450℃以下等)で、自己治癒機能が発現することを見出した。
そのメカニズムについては明らかではないが、本発明者らは以下のように推察している。
まず、治癒剤として炭化ジルコニウムを含むセラミックス焼結体に亀裂等の損傷が発生すると、亀裂部分に炭化ジルコニウム(ZrC)が露出する。この状態で、水蒸気雰囲気下で、350℃~550℃で1時間以上加熱すると、炭化ジルコニウム(ZrC)の表面に水酸化物が生成する。その後、さらに、水酸化物からZrO2の核が生成し、治癒剤の表面から結晶(核)が成長していく。その後、さらに反応が進み、水酸化物脱水が完了することにより、治癒が完了し、強度等が回復する。
前記構成によれば、炭化ジルコニウムを含むため、当該セラミックス粉末を焼結させることにより得られるセラミックス焼結体は、水蒸気雰囲気下で、350℃~550℃で1時間以上加熱すると、自己治癒機能が発現される。
【0010】
また、前記構成によれば、母材として部分安定化ジルコニアを含む。母材として部分安定化ジルコニアを用いるため、水蒸気雰囲気下にて、低温で自己治癒機能が発現される。その理由について詳細は不明であるが、母材として治癒剤と同じZr系の材料を用いているためと推察される。
【0011】
また、前記構成によれば、前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であるため、部分安定化ジルコニアに好適に分散し、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0012】
また、前記構成によれば、前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であるため、炭化ジルコニウムが好適に分散され、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0013】
また、前記構成によれば、前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上であるため、水蒸気加熱してZrO2になった際に亀裂を埋めるだけの体積を確保することができる。
また、前記構成によれば、前記炭化ジルコニウムの含有量が40体積%以下であるため、部分安定化ジルコニアに好適に分散し、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0014】
また、前記構成によれば、前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上であるため、前記炭化ジルコニウムの含有量を40体積%以下とすることができる。また、前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上であるため、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
また、前記構成によれば、前記部分安定化ジルコニア含有量が85体積%以下であるため、前記炭化ジルコニウムの含有量を15体積%以上とすることができる。
【0015】
以上より、前記構成によれば、より低温で自己治癒機能が発現されるセラミックス焼結体を得ることが可能なセラミックス粉末を提供することができる。
【0016】
さらに、本発明は、以下を提供する。
[2] 前記部分定化ジルコニアの平均粒子径が0.7μm以下であり、
前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上35体積%以下であり、
部分安定化ジルコニアの含有量が65体積%以上85体積%以下である前記[1]に記載のセラミックス粉末。
【0017】
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が0.7μm以下であると、炭化ジルコニウムがより好適に分散され、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0018】
また、前記炭化ジルコニウムの含有量が35体積%以下であると、部分安定化ジルコニアにより好適に分散し、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0019】
また、前記部分安定化ジルコニア含有量が65体積%以上であると、前記炭化ジルコニウムの含有量を35体積%以下とすることができる。また、前記部分安定化ジルコニア含有量が65体積%以上であると、得られる焼結体の初期強度をより高くすることができる。
【0020】
さらに、本発明は、以下を提供する。
[3] 前記部分安定化ジルコニアは、安定化剤を含み、
前記安定化剤が、Y、Ca、Mg、Ce、Yb、Er、及び、Scからなる群より選ばれる1種類以上の酸化物である前記[1]又は前記[2]に記載のセラミックス粉末。
【0021】
前記安定化剤が、Y、Ca、Mg、Ce、Yb、Er、及び、Scからなる群より選ばれる1種類以上の酸化物であると、焼結体の強度をより向上させることができる。
【0022】
さらに、本発明は、以下を提供する。
[4] 前記安定化剤が、Yの酸化物である前記[3]に記載のセラミックス粉末。
【0023】
前記安定化剤が、Yの酸化物であると、焼結体の強度をさらに向上させることができる。
【0024】
さらに、本発明は、以下を提供する。
[5] 炭化ジルコニウムと部分安定化ジルコニアとを含み、
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であり、
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であり、
前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上40体積%以下であり、
前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上85体積%以下であり、
以下の<損傷付与条件>で損傷を与えた後に、以下の<治癒条件>で治癒させた試験片の3点曲げ強度が、損傷を与える前と比較して70%以上であることを特徴とするセラミックス焼結体。
<損傷付与条件>
3mm×4mm×44mmの試験片に、2kgfの力でビッカース圧子を圧入して、損傷を入れる。
<治癒条件>
水蒸気雰囲気中、400℃で1時間熱処理する。
【0025】
前記構成によれば、炭化ジルコニウムを含むため、水蒸気雰囲気下で、350℃~550℃で1時間以上加熱すると、自己治癒機能が発現される。
【0026】
また、前記構成によれば、母材として部分安定化ジルコニアを含む。母材として部分安定化ジルコニアを用いるため、水蒸気雰囲気下にて、低温で自己治癒機能が発現される。その理由について詳細は不明であるが、母材として治癒剤と同じZr系の材料を用いているためと推察される。
【0027】
また、前記構成によれば、前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であるため、部分安定化ジルコニアに好適に分散し、初期強度を高くすることができる。
【0028】
また、前記構成によれば、前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であるため、炭化ジルコニウムが好適に分散され、初期強度を高くすることができる。
【0029】
また、前記構成によれば、前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上であるため、水蒸気加熱してZrO2になった際に亀裂を埋めるだけの体積を確保することができる。
また、前記構成によれば、前記炭化ジルコニウムの含有量が40体積%以下であるため、部分安定化ジルコニアに好適に分散し、初期強度を高くすることができる。
【0030】
また、前記構成によれば、前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上であるため、前記炭化ジルコニウムの含有量を40体積%以下とすることができる。また、前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上であるため、初期強度を高くすることができる。
また、前記構成によれば、前記部分安定化ジルコニア含有量が85体積%以下であるため、前記炭化ジルコニウムの含有量を15体積%以上とすることができる。
【0031】
また、前記構成によれば、前記<損傷付与条件>で損傷を与えた後に、前記<治癒条件>で治癒させた試験片の3点曲げ強度が、損傷を与える前と比較して70%以上であるため、より低温で自己治癒機能が発現されているといえる。
【0032】
以上より、前記構成によれば、より低温で自己治癒機能が発現されるセラミックス焼結体を提供することができる。
【0033】
さらに、本発明は、以下を提供する。
[6] 前記[5]に記載のセラミックス焼結体を、水蒸気雰囲気中、350℃以上550℃以下で1時間以上熱処理する工程を有することを特徴とするセラミックス焼結体の治癒方法。
【0034】
前記構成によれば、前記[5]に記載のセラミックス焼結体を用いるため、350℃以上550℃以下という低温での加熱であっても、当該セラミックス焼結体を治癒することができる。
【0035】
なお、本発明は、従来の、大気中での自己治癒とは異なる。すなわち、本発明においては、前記[5]に記載のセラミックス焼結体を、水蒸気雰囲気中ではなく、大気中で加熱したとしても自己治癒は発現されない。
前記[5]に記載のセラミックス焼結体を大気中で400℃以上に加熱すると、内部から割れを生じ、割れにより酸化が促進され、最終的に分解(粉化)が生じる。
そのメカニズムについては明らかではないが、本発明者らは以下のように推察している。
まず、炭化ジルコニウムを含むセラミックス焼結体に亀裂等の損傷が発生すると、亀裂部分に炭化ジルコニウム(ZrC)が露出する。この状態で、大気雰囲気下で加熱すると、まず初めにO(酸素)の固溶が生じ、オキシカーバイドを生成する。そして、オキシカーバイドの内部から核生成が進み、内部から割れを生じる。そして、割れにより酸化が促進され最終的に分解(粉化)が生じる。
このように、前記[5]に記載のセラミックス焼結体は、大気中で500℃以上に加熱すると、分解(粉化)させることができるため、原材料レベルでの再資源化を行うことができる。すなわち、元素レベルまで戻して回収する通常のリサイクルと比較して、有用性に優れる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、より低温で自己治癒機能が発現されるセラミックス焼結体を得ることが可能なセラミックス粉末を提供することができる。また、より低温で自己治癒機能が発現されるセラミックス焼結体を提供することができる。また、当該セラミックス焼結体を用いた、セラミックス焼結体の治癒方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニアとは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物を含むものである。また、本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0038】
以下で示される各成分の含有量の最大値、最小値は、他の成分の含有量に関係なく、それぞれ独立して本発明の好ましい最小値、好ましい最大値である。
また、以下で示される各種パラメータ(測定値等)の最大値、最小値は、各成分の含有量(組成)に関係なく、それぞれ独立して本発明の好ましい最小値、最大値である。
【0039】
[セラミックス粉末]
本実施形態に係るセラミックス粉末は、
炭化ジルコニウムと部分安定化ジルコニアとを含み、
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であり、
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であり、
前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上40体積%以下であり、
前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上85体積%以下である。
【0040】
上述の通り、本実施形態に係るセラミックス粉末は、部分安定化ジルコニアを含む。母材として部分安定化ジルコニアを用いるため、水蒸気雰囲気下にて、低温で自己治癒機能が発現される。その理由について詳細は不明であるが、母材として治癒剤(炭化ジルコニウム)と同じZr系の材料を用いているためと推察される。
【0041】
前記部分安定化ジルコニアの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、60体積%以上85体積%以下である。
記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上であるため、前記炭化ジルコニウムの含有量を40体積%以下とすることができる。また、前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上であるため、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
また、前記部分安定化ジルコニア含有量が85体積%以下であるため、前記炭化ジルコニウムの含有量を15体積%以上とすることができる。
【0042】
前記部分安定化ジルコニアの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは65体積%以上、より好ましくは68体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上である。
前記部分安定化ジルコニアの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは80体積%以下、より好ましくは75体積%以下、さらに好ましくは72体積%以下である。
前記部分安定化ジルコニアの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは65体積%以上80体積%以下、より好ましくは68体積%以上75体積%以下、さらに好ましくは68体積%以上72体積%である。
【0043】
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径は、1μm以下である。前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であるため、炭化ジルコニウムが好適に分散され、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0044】
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径は、好ましくは0.7μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。
前記部分安定化ジルコニウムの平均粒子径は、小さい方が好ましいが、例えば、0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上である。
前記部分安定化ジルコニウムの平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上1μm以下、より好ましくは0.3μm以上0.8μm以下、さらに好ましくは0.3μm以上0.6μm以下である。
【0045】
前記部分安定化ジルコニアは、ジルコニアと安定化剤を含む。
【0046】
前記部分安定化ジルコニア中の、ジルコニアと安定化剤との合計含有量は、前記部分安定化ジルコニア全体を100質量%としたときに、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。ジルコニアと安定化剤との合計含有量は、前記部分安定化ジルコニア全体を100質量%としたときに、99質量%以下、95質量%以下等とすることができる。
前記部分安定化ジルコニア中の、ジルコニアと安定化剤との合計含有量は、前記部分安定化ジルコニア全体を100質量%としたときに、70質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。
また、前記部分安定化ジルコニアは、ジルコニアと安定化剤とのみで構成されていてもよい。
【0047】
前記安定化剤は、特に限定されないが、Y、Ca、Mg、Ce、Yb、Er、及び、Scからなる群より選ばれる1種類以上の酸化物であることが好ましい。前記安定化剤が、Y、Ca、Mg、Ce、Yb、Er、及び、Scからなる群より選ばれる1種類以上の酸化物であると、焼結体の強度をより向上させることができる。
【0048】
なかでも、前記安定化剤は、Yの酸化物であることがより好ましい。前記安定化剤が、Yの酸化物であると、焼結体の強度をさらに向上させることができる。
【0049】
前記部分安定化ジルコニア中の安定化剤の総量は、酸化物換算で2.0mol%以上14mol%以下が好ましい。安定化剤の総量が、酸化物換算で2.0mol%以上であると、当該セラミックス粉末を焼結させて得られる焼結体の強度をより向上させることができる。また、安定化剤の総量が、酸化物換算で14mol%以下であると、部分安定化ジルコニアが生成され、所望の強度を得ることができる。
【0050】
前記安定化剤の総量は、酸化物換算で2.2mol%以上がより好ましく、2.5mol%以上がさらに好ましく、3mol%以上が特に好ましく、4mol%以上が特別に好ましい。
前記安定化剤の総量は、酸化物換算で9mol%以下がより好ましく、8mol%以下がさらに好ましく、7mol%以下が特に好ましく、6mol%以下が特別に好ましい。
前記安定化剤の総量は、酸化物換算で2.2mol%以上9mol%以下がより好ましく、2.5mol%以上8mol%以下がさらに好ましく、3mol%以上7mol%以下が特に好ましく、4mol%以上6mol%以下が特別に好ましい。
【0051】
前記安定化剤がY2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Y2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは2.2mol%以上、さらに好ましくは2.5mol%以上、特に好ましくは2.7mol%以上、特別に好ましくは2.9mol%以上である。
前記安定化剤がY2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Y2O3の含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは7mol%以下、さらに好ましくは6mol%以下、特に好ましくは5mol%以下、特別に好ましくは4mol%以下である。
前記安定化剤がY2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Y2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上8mol%以下、より好ましくは2.2mol%以上7mol%以下、さらに好ましくは2.5mol%以上6mol%以下、特に好ましくは2.7mol%以上5mol%以下、特別に好ましくは2.9mol%以上4mol%以下である。
【0052】
前記安定化剤がCaOのみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記CaOの含有量は、好ましくは4mol%以上、より好ましくは5mol%以上である。
前記安定化剤がCaOのみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記CaOの含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは7mol%以下である。
前記安定化剤がCaOのみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記CaOの含有量は、好ましくは4mol%以上8mol%以下、より好ましくは5mol%以上7mol%以下である。
【0053】
前記安定化剤がMgOのみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記MgOの含有量は、好ましくは8mol%以上、より好ましくは9mol%以上である。
前記安定化剤がMgOのみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記MgOの含有量は、好ましくは12mol%以下、より好ましくは11mol%以下である。
前記安定化剤がMgOのみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記MgOの含有量は、好ましくは8mol%以上10mol%以下、より好ましくは9mol%以上11mol%以下である。
【0054】
前記安定化剤がCeO2のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記CeO2の含有量は、好ましくは10mol%以上、より好ましくは11mol%以上である。
前記安定化剤がCeO2のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記CeO2の含有量は、好ましくは13mol%以下、より好ましくは12mol%以下である。
前記安定化剤がCeO2のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記CeO2の含有量は、好ましくは10mol%以上14mol%以下、より好ましくは11mol%以上13mol%以下である。
【0055】
前記安定化剤がYb2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Yb2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは2.2mol%以上、さらに好ましくは2.5mol%以上、特に好ましくは2.7mol%以上、特別に好ましくは2.9mol%以上である。
前記安定化剤がYb2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Yb2O3の含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは7mol%以下、さらに好ましくは6mol%以下、特に好ましくは5mol%以下、特別に好ましくは4mol%以下である。
前記安定化剤がYb2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Yb2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上8mol%以下、より好ましくは2.2mol%以上7mol%以下、さらに好ましくは2.5mol%以上6mol%以下、特に好ましくは2.7mol%以上5mol%以下、特別に好ましくは2.9mol%以上4mol%以下である。
【0056】
前記安定化剤がEr2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Er2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは2.2mol%以上、さらに好ましくは2.5mol%以上、特に好ましくは2.7mol%以上、特別に好ましくは2.9mol%以上である。
前記安定化剤がEr2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Er2O3の含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは7mol%以下、さらに好ましくは6mol%以下、特に好ましくは5mol%以下、特別に好ましくは4mol%以下である。
前記安定化剤がEr2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Er2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上8mol%以下、より好ましくは2.2mol%以上7mol%以下、さらに好ましくは2.5mol%以上6mol%以下、特に好ましくは2.7mol%以上5mol%以下、特別に好ましくは2.9mol%以上4mol%以下である。
【0057】
前記安定化剤がSc2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Sc2O3の含有量は、好ましく2はmol%以上、より好ましくは4mol%以上である。
前記安定化剤がSc2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Sc2O3の含有量は、好ましくは12mol%以下、より好ましくは10mol%以下である。
前記安定化剤がSc2O3のみである場合、セラミックス粉末全体に対する前記Sc2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上14mol%以下、より好ましくは4mol%以上10mol%以下である。
【0058】
前記部分安定化ジルコニア中のジルコニアの含有量は、80質量%以上99質量%以下であることが好ましい。前記部分安定化ジルコニア中のジルコニアの含有量は、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。前記部分安定化ジルコニア中のジルコニアの含有量は、98質量%以下であることがより好ましく、97質量%以下であることがさらに好ましい。
前記部分安定化ジルコニア中のジルコニアの含有量は、85質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上97質量%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
前記部分安定化ジルコニアは、従来公知の方法により製造することができる。前記部分安定化ジルコニアは、例えば、特許7195482号公報に開示されている方法で製造することができる。
【0060】
前記セラミックス粉末は、炭化ジルコニウム(ZrC)を含む。炭化ジルコニウムを含むため、当該セラミックス粉末を焼結させることにより得られるセラミックス焼結体は、水蒸気雰囲気下で、350℃~550℃で1時間以上加熱すると、自己治癒機能が発現される。
【0061】
前記炭化ジルコニウムの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、15体積%以上40体積%以下である。前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上であるため、水蒸気加熱してZrO2になった際に亀裂を埋めるだけの体積を確保することができる。また、前記炭化ジルコニウムの含有量が40体積%以下であるため、部分安定化ジルコニアに好適に分散し、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0062】
前記炭化ジルコニウムの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは15体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは25体積%である。
前記炭化ジルコニウムの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは35体積%以下、より好ましくは32体積%以下、さらに好ましくは30体積%以下である。
前記炭化ジルコニウムの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは15体積%以上35体積%以下、より好ましくは20体積%以上32体積%以下、さらに好ましくは25体積%以上30体積%以下である。
【0063】
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径は、1μm以下である。前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であるため、部分安定化ジルコニアに好適に分散し、得られる焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0064】
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径は、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.84μm以下である。前記炭化ジルコニウムの平均粒子径は、小さい方が好ましいが、例えば、0.3μm以上、0.5μm以上、0.56μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上、0.8μm以上が挙げられる。
【0065】
前記炭化ジルコニウムは、従来公知の方法により製造することができる。また、前記炭化ジルコニウムは、市販品を用いることもできる。市販品を用いる場合、公知の粉砕手段(例えば、遊星ミル等)を用いて、平均粒子径を所望の範囲に調整してから用いてもよい。
【0066】
前記セラミックス粉末は、ジルコニア粉末全体に対してAl2O3(アルミナ)を0.005質量%以上2質量%以下の範囲内で含んでも構わない。セラミックス粉末全体に対してAl2O3を含むと、焼結助剤として機能するため、低温焼結性に優れる。
【0067】
前記セラミックス粉末がAl2O3を含む場合、前記Al2O3の含有量は、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上、特別に好ましくは0.1質量%以上、格別に好ましくは0.2質量%以上である。
前記セラミックス粉末がAl2O3を含む場合、前記Al2O3の含有量は、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下、特別に好ましくは0.25質量%以下である。
前記セラミックス粉末がAl2O3を含む場合、前記Al2O3の含有量は、より好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上0.25質量%以下である。
【0068】
前記セラミックス粉末は、アルミナ以外にも、強度等の特性の向上を目的として、焼結可能なセラミックスや熱硬化性樹脂等を含んでも構わない。
【0069】
<比表面積>
前記セラミックス粉末の比表面積は、好ましくは15m2/g以上60m2/g以下である。前記比表面積は、好ましくは20m2/g以上、より好ましくは22m2/g以上である。
前記比表面積は、好ましくは50m2/g以下、より好ましくは40m2/g以下、さらに好ましくは30m2/g以下、特に好ましくは28m2/g以下である。
前記比表面積は、好ましくは20m2/g以上50m2/g以下、より好ましくは22m2/g以上40m2/g以下、さらに好ましくは22m2/g以上30m2/g以下、特に好ましくは22m2/g以上28m2/g以下である。
【0070】
前記セラミックス粉末は、前記部分安定化ジルコニアと前記炭化ジルコニウムとを混合することにより得ることができる。混合のより詳細な方法としては、エタノールや純水等に分散させてスラリー化して湿式混合することが好ましい。湿式混合の後、乾燥し、ふるい等を通して整粒することが好ましい。前記混合は、前記部分安定化ジルコニア粒子、及び、前記炭化ジルコニウムが粉砕されない態様での混合が好ましい。
ただし、前記セラミックス粉末の製造方法としては、上記に限定されない。
【0071】
以上、本実施形態に係るセラミックス粉末について説明した。
【0072】
[セラミックス焼結体]
本実施形態に係る焼結体は、
炭化ジルコニウムと部分安定化ジルコニアとを含み、
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であり、
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であり、
前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上40体積%以下であり、
前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上85体積%以下であり、
以下の<損傷付与条件>で損傷を与えた後に、以下の<治癒条件>で治癒させた試験片の3点曲げ強度が、損傷を与える前と比較して70%以上である。
<損傷付与条件>
3mm×4mm×44mmの試験片に、2kgfの力でビッカース圧子を圧入して、損傷を入れる。
<治癒条件>
水蒸気雰囲気中、400℃で1時間熱処理する。
【0073】
上述の通り、本実施形態に係るセラミックス焼結体は、部分安定化ジルコニアを含む。母材として部分安定化ジルコニアを用いるため、水蒸気雰囲気下にて、低温で自己治癒機能が発現される。その理由について詳細は不明であるが、母材として治癒剤(炭化ジルコニウム)と同じZr系の材料を用いているためと推察される。
【0074】
前記部分安定化ジルコニアの含有量は、セラミックス焼結体全体を100体積%としたときに、60体積%以上85体積%以下である。
記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上であるため、前記炭化ジルコニウムの含有量を40体積%以下とすることができる。また、前記部分安定化ジルコニア含有量が60体積%以上であるため、焼結体の初期強度を高くすることができる。
また、前記部分安定化ジルコニア含有量が85体積%以下であるため、前記炭化ジルコニウムの含有量を15体積%以上とすることができる。
【0075】
前記部分安定化ジルコニアの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは65体積%以上、より好ましくは68体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上である。
前記部分安定化ジルコニアの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは80体積%以下、より好ましくは75体積%以下、さらに好ましくは72体積%以下である。
前記部分安定化ジルコニアの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは65体積%以上80体積%以下、より好ましくは68体積%以上75体積%以下、さらに好ましくは68体積%以上72体積%である。
【0076】
前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径は、1μm以下である。前記部分安定化ジルコニアの平均粒子径が1μm以下であるため、炭化ジルコニウムが好適に分散され、焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0077】
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径は、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.84μm以下である。前記炭化ジルコニウムの平均粒子径は、小さい方が好ましいが、例えば、0.3μm以上、0.5μm以上、0.56μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上、0.8μm以上が挙げられる。
【0078】
前記部分安定化ジルコニアは、ジルコニアと安定化剤を含む。
【0079】
前記部分安定化ジルコニア中の、ジルコニアと安定化剤との合計含有量は、前記部分安定化ジルコニア全体を100質量%としたときに、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。ジルコニアと安定化剤との合計含有量は、前記部分安定化ジルコニア全体を100質量%としたときに、99質量%以下、95質量%以下等とすることができる。
前記部分安定化ジルコニア中の、ジルコニアと安定化剤との合計含有量は、前記部分安定化ジルコニア全体を100質量%としたときに、70質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。
また、前記部分安定化ジルコニアは、ジルコニアと安定化剤とのみで構成されていてもよい。
【0080】
前記安定化剤は、特に限定されないが、Y、Ca、Mg、Ce、Yb、Er、及び、Scからなる群より選ばれる1種類以上の酸化物であることが好ましい。前記安定化剤が、Y、Ca、Mg、Ce、Yb、Er、及び、Scからなる群より選ばれる1種類以上の酸化物であると、焼結体の強度をより向上させることができる。
【0081】
なかでも、前記安定化剤は、Yの酸化物であることがより好ましい。前記安定化剤が、Yの酸化物であると、焼結体の強度をさらに向上させることができる。
【0082】
前記部分安定化ジルコニア中の安定化剤の総量は、酸化物換算で2.0mol%以上14mol%以下が好ましい。安定化剤の総量が、酸化物換算で2.0mol%以上であると、当該セラミックス粉末を焼結させて得られる焼結体の強度をより向上させることができる。また、安定化剤の総量が、酸化物換算で14mol%以下であると、部分安定化ジルコニアが生成され、所望の強度を得ることができる。
【0083】
前記安定化剤の総量は、酸化物換算で2.2mol%以上がより好ましく、2.5mol%以上がさらに好ましく、3mol%以上が特に好ましく、4mol%以上が特別に好ましい。
前記安定化剤の総量は、酸化物換算で9mol%以下がより好ましく、8mol%以下がさらに好ましく、7mol%以下が特に好ましく、6mol%以下が特別に好ましい。
前記安定化剤の総量は、酸化物換算で2.2mol%以上9mol%以下がより好ましく、2.5mol%以上8mol%以下がさらに好ましく、3mol%以上7mol%以下が特に好ましく、4mol%以上6mol%以下が特別に好ましい。
【0084】
前記安定化剤がY2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Y2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは2.2mol%以上、さらに好ましくは2.5mol%以上、特に好ましくは2.7mol%以上、特別に好ましくは2.9mol%以上である。
前記安定化剤がY2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Y2O3の含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは7mol%以下、さらに好ましくは6mol%以下、特に好ましくは5mol%以下、特別に好ましくは4mol%以下である。
前記安定化剤がY2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Y2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上8mol%以下、より好ましくは2.2mol%以上7mol%以下、さらに好ましくは2.5mol%以上6mol%以下、特に好ましくは2.7mol%以上5mol%以下、特別に好ましくは2.9mol%以上4mol%以下である。
【0085】
前記安定化剤がCaOのみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記CaOの含有量は、好ましくは4mol%以上、より好ましくは5mol%以上である。
前記安定化剤がCaOのみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記CaOの含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは7mol%以下である。
前記安定化剤がCaOのみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記CaOの含有量は、好ましくは4mol%以上8mol%以下、より好ましくは5mol%以上7mol%以下である。
【0086】
前記安定化剤がMgOのみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記MgOの含有量は、好ましくは8mol%以上、より好ましくは9mol%以上である。
前記安定化剤がMgOのみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記MgOの含有量は、好ましくは12mol%以下、より好ましくは11mol%以下である。
前記安定化剤がMgOのみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記MgOの含有量は、好ましくは8mol%以上10mol%以下、より好ましくは9mol%以上11mol%以下である。
【0087】
前記安定化剤がCeO2のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記CeO2の含有量は、好ましくは10mol%以上、より好ましくは11mol%以上である。
前記安定化剤がCeO2のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記CeO2の含有量は、好ましくは13mol%以下、より好ましくは12mol%以下である。
前記安定化剤がCeO2のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記CeO2の含有量は、好ましくは10mol%以上14mol%以下、より好ましくは11mol%以上13mol%以下である。
【0088】
前記安定化剤がYb2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Yb2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは2.2mol%以上、さらに好ましくは2.5mol%以上、特に好ましくは2.7mol%以上、特別に好ましくは2.9mol%以上である。
前記安定化剤がYb2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Yb2O3の含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは7mol%以下、さらに好ましくは6mol%以下、特に好ましくは5mol%以下、特別に好ましくは4mol%以下である。
前記安定化剤がYb2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Yb2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上8mol%以下、より好ましくは2.2mol%以上7mol%以下、さらに好ましくは2.5mol%以上6mol%以下、特に好ましくは2.7mol%以上5mol%以下、特別に好ましくは2.9mol%以上4mol%以下である。
【0089】
前記安定化剤がEr2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Er2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは2.2mol%以上、さらに好ましくは2.5mol%以上、特に好ましくは2.7mol%以上、特別に好ましくは2.9mol%以上である。
前記安定化剤がEr2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Er2O3の含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは7mol%以下、さらに好ましくは6mol%以下、特に好ましくは5mol%以下、特別に好ましくは4mol%以下である。
前記安定化剤がEr2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Er2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上8mol%以下、より好ましくは2.2mol%以上7mol%以下、さらに好ましくは2.5mol%以上6mol%以下、特に好ましくは2.7mol%以上5mol%以下、特別に好ましくは2.9mol%以上4mol%以下である。
【0090】
前記安定化剤がSc2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Sc2O3の含有量は、好ましく2はmol%以上、より好ましくは4mol%以上である。
前記安定化剤がSc2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Sc2O3の含有量は、好ましくは12mol%以下、より好ましくは10mol%以下である。
前記安定化剤がSc2O3のみである場合、セラミックス焼結体全体に対する前記Sc2O3の含有量は、好ましくは2mol%以上14mol%以下、より好ましくは4mol%以上10mol%以下である。
【0091】
前記部分安定化ジルコニア中のジルコニアの含有量は、80質量%以上99質量%以下であることが好ましい。前記部分安定化ジルコニア中のジルコニアの含有量は、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。前記部分安定化ジルコニア中のジルコニアの含有量は、98質量%以下であることがより好ましく、97質量%以下であることがさらに好ましい。
前記部分安定化ジルコニア中のジルコニアの含有量は、85質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上97質量%以下であることがさらに好ましい。
【0092】
前記セラミックス焼結体は、炭化ジルコニウム(ZrC)を含む。炭化ジルコニウムを含むため、水蒸気雰囲気下で、350℃~550℃で1時間以上加熱すると、自己治癒機能が発現される。
【0093】
前記炭化ジルコニウムの含有量は、セラミックス焼結体全体を100体積%としたときに、15体積%以上40体積%以下である。前記炭化ジルコニウムの含有量が15体積%以上であるため、水蒸気加熱してZrO2になった際に亀裂を埋めるだけの体積を確保することができる。また、前記炭化ジルコニウムの含有量が40体積%以下であるため、部分安定化ジルコニアに好適に分散し、焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0094】
前記炭化ジルコニウムの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは15体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは25体積%である。
前記炭化ジルコニウムの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは35体積%以下、より好ましくは32体積%以下、さらに好ましくは30体積%以下である。
前記炭化ジルコニウムの含有量は、セラミックス粉末全体を100体積%としたときに、好ましくは15体積%以上35体積%以下、より好ましくは20体積%以上32体積%以下、さらに好ましくは25体積%以上30体積%以下である。
【0095】
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径は、1μm以下である。前記炭化ジルコニウムの平均粒子径が1μm以下であるため、部分安定化ジルコニアに好適に分散し、焼結体の初期強度を高くすることができる。
【0096】
前記炭化ジルコニウムの平均粒子径は、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.84μm以下である。前記炭化ジルコニウムの平均粒子径は、小さい方が好ましいが、例えば、0.3μm以上、0.5μm以上、0.56μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上、0.8μm以上が挙げられる。
【0097】
前記炭化ジルコニウムは、従来公知の方法により製造することができる。また、前記炭化ジルコニウムは、市販品を用いることもできる。市販品を用いる場合、公知の粉砕手段(例えば、遊星ミル等)を用いて、平均粒子径を所望の範囲に調整してから用いてもよい。
【0098】
前記セラミックス焼結体は、ジルコニア焼結体全体に対してAl2O3(アルミナ)を0.005質量%以上2質量%以下の範囲内で含んでも構わない。セラミックス焼結体全体に対してAl2O3を含むと、焼結助剤として機能するため、低温焼結性に優れる。
【0099】
前記セラミックス焼結体がAl2O3を含む場合、前記Al2O3の含有量は、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上、特別に好ましくは0.1質量%以上、格別に好ましくは0.2質量%以上である。
前記セラミックス焼結体がAl2O3を含む場合、前前記Al2O3の含有量は、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下、特別に好ましくは0.25質量%以下である。
前記セラミックス焼結体がAl2O3を含む場合、前記Al2O3の含有量は、より好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上0.25質量%以下である。
【0100】
前記セラミックス焼結体は、アルミナ以外にも、強度等の特性の向上を目的として、焼結可能なセラミックスや熱硬化性樹脂等を含んでも構わない。
【0101】
(相対焼結密度)
前記セラミックス焼結体の相対焼結密度は、99.5%以上であることが好ましく、99.7%以上であることがより好ましく、99.8%以上であることがさらに好ましく、99.82%以上が特に好ましく、99.85%以上が特別に好ましい。前記相対焼結密度が99.5%以上であると、セラミックス焼結体がより高強度となる。
【0102】
(3点曲げ強度(損傷を与える前))
前記セラミックス焼結体の3点曲げ強度(損傷を与える前)は、500MPa以上であることが好ましく、800MPa以上であることがより好ましく、1000MPa以上であることがさらに好ましい。前記3点曲げ強度(損傷を与える前)は、大きいほど好ましいが、1300MPa以下、1500MPa以下等である。
【0103】
(強度回復率)
前記セラミックス焼結体は、下記<損傷付与条件>で損傷を与えた後に、下記<治癒条件>で治癒させた試験片の3点曲げ強度が、損傷を与える前と比較して70%以上である。
前記セラミックス焼結体は、下記<損傷付与条件>で損傷を与えた後に、下記<治癒条件>で治癒させた試験片の3点曲げ強度が、損傷を与える前と比較して70%以上であるため、より低温で自己治癒機能が発現されているといえる。
なお、以下では、下記<損傷付与条件>で損傷を与えた後に、下記<治癒条件>で治癒させた試験片の、損傷を与える前と比較した3点曲げ強度を「強度回復率」とも呼ぶこととする。
<損傷付与条件>
3mm×4mm×44mmの試験片に、2kgfの力でビッカース圧子を圧入して、損傷を入れる。
<治癒条件>
水蒸気雰囲気中、400℃で1時間熱処理する。
【0104】
前記強度回復率は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上でさらに好ましく、95%以上が特に好ましく、99%以上が特別に好ましい。
なお、損傷を与える前の3点曲げ強度よりも、損傷を与えた後に治癒させた3点曲げ強度の方が高い場合、前記強度回復率は100%を超えることとなる。
前記強度回復率は、大きい方が好ましいが、例えば、160%以下、200%以下等である。
【0105】
前記3点曲げ強度は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
【0106】
以上、本実施形態に係るセラミックス焼結体について説明した。
【0107】
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、特に限定されないが、例えば、前記セラミックス粉末を用い、後述するジルコニア焼結体の製造方法を用いて得ることができる。
【0108】
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、構造性セラミックスとして使用することができる。より具体的には、歯車、ねじ、包丁等に使用することができる。
特に、従来、治癒機能を発揮させるには、非常に高温(例えば、600℃~1050℃)にする必要があり、そのためには、当該セラミックス焼結体で構成される部品を解体して、炉に入れる必要があった。一方、本実施形態に係るジルコニア焼結体は、水蒸気雰囲気下で、350℃~550℃で1時間以上加熱すると、自己治癒機能が発現されるため、炉に入れる必要はない。従って、治癒機能を発現させるために部品を解体する必要がなく、
例えば、400℃程度の水蒸気を発生させる装置を用いれば、直接に当該部分に水蒸気を当てて治癒機能を発揮させることができる。
【0109】
[セラミックス焼結体の製造方法]
以下、セラミックス焼結体の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明のセラミックス焼結体の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0110】
本実施形態に係るセラミックス焼結体の製造方法は、
セラミックス粉末を準備する工程Aと、
前記セラミックス粉末を焼結させる工程Bとを含む。
【0111】
<工程A>
本実施形態に係るセラミックス焼結体の製造方法においては、まず、セラミックス粉末を準備する(工程A)。前記セラミックス粉末としては、[セラミックス粉末]の項で説明したものを用いることができる。
【0112】
次に、必要に応じて前記セラミックス粉末をプレス成型する。プレス成型は特に限定されないが、一軸プレスを用いることができる。プレス圧力としては、例えば、50~500MPaが好ましく、80~200MPaがより好ましい。
【0113】
<工程B>
次に、前記セラミックス粉末を焼結させる(工程B)。これにより、セラミックス焼結体が得られる。焼結の際の熱処理温度、時間、及び、プレス圧力は特に限定されないが、熱処理温度:1000℃~1500℃、時間:1~5時間、プレス圧:10~50MPaが好ましい。熱処理雰囲気は、空気雰囲気中又は酸化性雰囲気中が好ましい。
【0114】
以上、本実施形態に係る安定化ジルコニア焼結体の製造方法について説明した。
【0115】
[セラミックス焼結体の治癒方法]
本実施形態に係るセラミックス焼結体の治癒方法は、
前記セラミックス焼結体を、水蒸気雰囲気中、350℃以上550℃以下で1時間以上熱処理する工程Aを有する。
【0116】
前記工程Aにおける温度は、好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上である。
また、前記工程Aにおける温度は、高いほど好ましいが、炉を用いなくてもよいという観点からは、好ましくは530℃以下、より好ましくは500℃以下である。
前記工程Aにおける温度は、好ましくは400℃以上550℃以下、より好ましくは400℃以上530℃以下、さらに好ましくは400℃以上500℃以下である。
【0117】
前記工程Aの時間は、好ましくは0.8時間以上、より好ましくは1時間以上である。
前記工程Aの時間は、治癒が完了すればそれ以上加熱する必要がないことから、治癒に係る時間を考慮して、好ましくは2時間以下、より好ましくは1.3時間以下である。
前記工程Aの時間は、好ましくは0.8時間以上2時間以下、より好ましくは1時間以上1.3時間以下である。
【0118】
なお、前記セラミックス焼結体の治癒方法において、前記工程Aにおける温度は、550℃を超えていても、自己治癒は発現する。ただし、550℃を超える水蒸気雰囲気を作り出すことは簡単ではないことから、550℃以下とすることが好ましい。
また、前記セラミックス焼結体の治癒方法において、前記工程Aにおける温度は、350℃未満(例えば、200℃程度)でも、自己治癒は発現する。ただし、温度が低いと自己治癒が完了するまでに時間を要することになることから(例えば、200℃の場合、48時間程度)、生産性を考慮すると、350℃以上が好ましく、より好ましくは400℃以上である。
【0119】
前記セラミックス焼結体の治癒方法によれば、前記セラミックス焼結体を用いるため、350℃以上550℃以下という低温での加熱であっても、当該セラミックス焼結体を治癒(強度の回復)することができる。
【実施例0120】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例におけるセラミックス粉末、及び、セラミックス焼結体には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0121】
[セラミックス粉末の作製]
(製造例1)
母材として、3mol%のY2O3を含むイットリア部分安定化ジルコニア(第一稀元素化学工業株式会社製)を準備した。準備したイットリア部分安定化ジルコニアの粒子径を遊星ミルにて0.49μmとなるように調整した。粒子径は、下記の粒子径の測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。
また、治癒剤として炭化ジルコニウム(第一稀元素化学工業株式会社製)を準備した。準備した炭化ジルコニウムの粒子径を遊星ミルにより調整し、平均粒子径1μmとした。
具体的には、治癒剤として炭化ジルコニウム(第一稀元素化学工業株式会社製、FSZ-003)を、遊星ミルを用い、下記粉砕条件にて粉砕した。
<粉砕条件>
遊星ミル(型番:Pulverisette6、製造メーカ:FRITSCH製)
処理条件(500ccジルコニアポット、2mmジルコニアボール:900g、エタノール150g、試料:100g、回転数:400rpm、30min粉砕)
次に、炭化ジルコニウムが30体積%、イットリア部分安定化ジルコニアが70体積%となるように秤量した。
次に、秤量した炭化ジルコニウムとイットリア部分安定化ジルコニアとをガラス瓶に入れ、ナイロンボール、エタノールを加えて24時間ボールミル(混合)を行った。その後、スラリーを60~80℃で熱して乾燥させた。以上により、製造例1に係るセラミックス粉末を得た。
なお、表1中、「3YSZ」は、3mol%のY2O3を含むイットリア部分安定化ジルコニアを意味する。
【0122】
(製造例2)
炭化ジルコニウムとイットリア部分安定化ジルコニアとの配合比率を、炭化ジルコニウムが15体積%、イットリア部分安定化ジルコニアが85体積%となるようにしたこと以外は、製造例1と同様にして製造例2に係るセラミックス粉末を得た。
【0123】
(製造例3)
炭化ジルコニウムの粒子径を遊星ミルにより調整し、平均粒子径を0.84μmとしたこと以外は、製造例1と同様にして製造例3に係るセラミックス粉末を得た。
具体的には、治癒剤として炭化ジルコニウム(第一稀元素化学工業株式会社製)を、遊星ミルを用い、下記粉砕条件にて粉砕した。
<粉砕条件>
遊星ミル(型番:Pulverisette6、製造メーカ:FRITSCH製)
処理条件(500ccジルコニアポット、2mmジルコニアボール:900g、エタノール150g、試料:100g、回転数:400rpm、45分粉砕)
【0124】
(製造例4)
炭化ジルコニウムの粒子径を遊星ミルにより調整し、平均粒子径を1.5μmとしたこと以外は、製造例1と同様にして製造例4に係るセラミックス粉末を得た。
具体的には、治癒剤として炭化ジルコニウム(第一稀元素化学工業株式会社製)を、遊星ミルを用い、下記粉砕条件にて粉砕した。
<粉砕条件>
遊星ミル(型番:Pulverisette6、製造メーカ:FRITSCH製)
処理条件(500ccジルコニアポット、2mmジルコニアボール:900g、エタノール150g、試料:100g、回転数:400rpm、15分粉砕)
【0125】
(製造例5)
炭化ジルコニウムとイットリア部分安定化ジルコニアとの配合比率を、炭化ジルコニウムが10体積%、イットリア部分安定化ジルコニアが90体積%となるようにしたこと以外は、製造例1と同様にして製造例5に係るセラミックス粉末を得た。
【0126】
(製造例6)
イットリア部分安定化ジルコニアの粒子径を遊星ミルにより調整し、平均粒子径を1.3μmとしたこと以外は、製造例1と同様にして製造例6に係るセラミックス粉末を得た。
【0127】
(製造例7)
治癒剤としてムライト(型番:KCM101、メーカー:KCM Corporation、粒子径:1.9μm)を準備した。
治癒剤としてこの製造例7で準備したムライトを用いたこと以外は、製造例1と同様にして製造例7に係るセラミックス粉末を得た。
【0128】
(製造例8)
治癒剤を用いなかったこと以外は、製造例1と同様にして製造例8に係るセラミックス粉末を得た。
【0129】
[部分安定化ジルコニアの平均粒子径の測定]
部分安定化ジルコニアの平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)を用いて測定した。より詳細には、サンプル0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で2分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2300」島津製作所社製))に投入して測定した。結果を表1に示す。
【0130】
[炭化ジルコニウムの平均粒子径の測定]
炭化ジルコニウムの平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)を用いて測定した。より詳細には、サンプル0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で2分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2300」島津製作所社製))に投入して測定した。結果を表1に示す。
【0131】
[セラミックス焼結体の作製]
製造例1~製造例8のセラミックス粉末を50mm角のダイスを用いてホットプレス焼結を行った。焼結条件は、1350℃、1時間、40MPa、空気雰囲気とした。以上により、製造例1~製造例8のセラミックス焼結体を得た。
【0132】
【0133】
[自己治癒の確認試験]
(実施例1)
3mm×4mm×44mmの試験片にした製造例1のセラミックス焼結体の3点曲げ強度を下記の方法にて測定した。結果を表2の「損傷前」の欄に示す。
次に、2kgfの力でビッカース圧子を圧入して、損傷を入れた。
損傷は、中央位置(それぞれの端部から22mmの箇所)に入れた。
損傷を与えた後の3点曲げ強度を下記の方法にて測定した。結果を表2の「損傷後」の欄に示す。
次に、水蒸気雰囲気中、500℃で1時間熱処理した。なお、表2中、Sは、「水蒸気雰囲気中」であることを示す。
熱処理後(治癒後)の3点曲げ強度を下記の方法にて測定した。結果を表2の「治癒後」の欄に示す。
なお、表2には、強度回復率(%)も示した。
強度回復率(%)は、下記式により得た。
[強度回復率(%)]=([治癒後(MPa)]/[損傷前(MPa)])×100
【0134】
(実施例2~実施例4、比較例1~比較例7)
使用するセラミックス焼結体を表2の通りに変更したこと、及び、熱処理条件(治癒条件)を表2の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、損傷前の3点曲げ強度、損傷後の3点曲げ強度、治癒後の3点曲げ強度を測定した。また、強度回復率(%)を求めた。結果を表2に示す。
【0135】
[3点曲げ強度]
3点曲げ強度は、JIS R 1601の3点曲げ強さに準拠して測定した。
なお、実施例1、実施例2、比較例2、比較例4は、すべて製造例1のセラミックス粉末を用いた焼結体であり、損傷前の3点曲げ強度は、誤差範囲内で同じであった。また、実施例1、実施例2、比較例2、比較例4の損傷後の3点曲げ強度も、誤差範囲内で同じであった。治癒後の3点曲げ強度は、治癒条件の違いに起因して、値が異なる。
【0136】