(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007798
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】チャック装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/16 20060101AFI20250109BHJP
B23Q 3/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B23B31/16 D
B23Q3/06 304G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109430
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】上原 哲治
【テーマコード(参考)】
3C016
3C032
【Fターム(参考)】
3C016CB06
3C016CE02
3C032FF12
(57)【要約】
【課題】小径部と大径部とを有する軸状ワークの軸方向の位置決めが、小径部を径方向外側から把持することによる芯出しに悪影響を及ぼす事態を可及的に防止して、高精度な芯出し、ひいては高精度な加工を安定的に実施可能とする。
【解決手段】このチャック装置10は、軸状ワーク1の小径部2a,2bを径方向外側から把持可能な把持部16,17と、小径部2a,2bと大径部3との間の軸方向端面4と当接して軸状ワーク1の軸方向の位置決めを可能とする軸方向位置決め部15とを備える。軸方向位置決め部15の当接面18は、小径部2a,2bの軸方向に対する軸方向端面4の傾きに倣って可動するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として軸状をなし、相対的に小径な小径部と、相対的に大径な大径部とを一体に有する軸状ワークをチャックして芯出しするためのチャック装置であって、
前記小径部を径方向外側から把持可能な把持部と、
前記小径部と前記大径部との間の軸方向端面と当接して前記軸状ワークの軸方向の位置決めを可能とする軸方向位置決め部とを備えたチャック装置において、
前記軸方向位置決め部の当接面は、前記小径部の軸方向に対する前記軸方向端面の傾きに倣って可動するように構成されていることを特徴とする、チャック装置。
【請求項2】
前記軸方向位置決め部は、内輪が前記軸方向端面に当接可能な球面軸受で構成されている、請求項1に記載のチャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャック装置に関し、特に芯出しを伴って軸状ワークをチャックするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインプットシャフトなど軸状ワークの旋削加工においては、軸状ワークを芯出しした状態で把持可能なチャック装置が用いられる。この種のチャック装置としては、チャック装置本体の前方部に設けられた把持部としての複数の爪部を径方向に移動させることで、軸状ワークの中心軸線と旋盤の回転軸線とが一致するように軸状ワークを把持可能とするものが一般的である。
【0003】
また、この際、チャック装置には、軸状ワークの鍔部端面に当接させるストッパが設けられ、このストッパを鍔部の端面に当接させることで軸状ワークの軸方向の位置決めを可能としている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでインプットシャフトなどの軸状ワークは量産部品であるから、同軸度や直角度などについてある程度の公差は許容せざるを得ない。例えば特許文献1に記載の如きチャック装置を用いて軸状ワークを把持しようとした際、爪部では把持する面(軸部の外周面)を基準に軸部の位置決めが行われるのに対し、ストッパでは鍔部の端面を基準に鍔部の位置決めが行われる。そのため、軸部の中心軸線に対する鍔部端面の直角度に相応のばらつきが生じる場合、ストッパによる位置決めが、把持部(爪部)による位置決めに悪影響を及ぼすおそれが生じる。これでは、高い加工精度を安定的に得ることは難しい。
【0006】
以上の事情に鑑み、本明細書では、小径部と大径部とを有する軸状ワークの軸方向の位置決めが、小径部を径方向外側から把持することによる芯出しに悪影響を及ぼす事態を可及的に防止して、高精度な芯出し、ひいては高精度な加工を安定的に実施可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係るチャック装置によって達成される。すなわち、この装置は、全体として軸状をなし、相対的に小径な小径部と、相対的に大径な大径部とを一体に有する軸状ワークをチャックして芯出しするためのチャック装置であって、小径部を径方向外側から把持する把持部と、小径部と大径部との間の軸方向端面と当接して軸状ワークの軸方向の位置決めを可能とする軸方向位置決め部とを備えたチャック装置において、軸方向位置決め部の当接面は、小径部の軸方向に対する軸方向端面の傾きに倣って動くように構成されている点をもって特徴付けられる。
【0008】
このように本発明に係るチャック装置では、軸状ワークの小径部と大径部との間の軸方向端面と当接して軸状ワークの軸方向の位置決めを図るための軸方向位置決め部について、当該位置決め部の当接面を、小径部の軸方向に対する軸方向端面の傾きに倣って動くように構成した。このように構成することによって、軸方向位置決め部の当接面が軸方向端面の向きに倣って動いて軸方向端面と当接した状態となる。よって、軸方向位置決め部による軸方向の位置決めが、把持部による芯出しに悪影響を及ぼす事態を回避して、安定的に小径部の芯出しを図ることができる。よって、チャックした軸状ワークに対する高精度な加工を安定的に実施することが可能となる。
【0009】
また、本発明に係るチャック装置において、軸方向位置決め部は、内輪が軸方向端面に当接可能な球面軸受で構成されてもよい。
【0010】
このように軸方向位置決め部を構成することによって、内輪の貫通穴に小径部を挿通した状態で、小径部の径方向外側に球面軸受を配置することができる。球面軸受であれば内輪に設けた当接面(例えば内輪の一方の側端面)を常に一定の基準点まわりに回動させることができる。よって、軸方向の高い位置決め精度を維持しつつ小径部と大径部との間の軸方向端面をその傾きに倣って自在に受けることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明に係るチャック装置によれば、小径部と大径部とを有する軸状ワークの軸方向の位置決めが、小径部を径方向外側から把持することによる芯出しに悪影響を及ぼす事態を可及的に防止して、高精度な芯出し、ひいては高精度な加工を安定的に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るチャック装置の全体構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るチャック装置の内容を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るチャック装置10の全体構成を示す断面図である。
図1に示すように、このチャック装置10は、いわゆるピンアーバチャックと呼ばれるタイプのチャック装置で、チャック本体11と、チャック本体11に対して摺動可能なピンアーバ12,13と、ピンアーバ12,13と連結されピンアーバ12,13を駆動可能な駆動部材14と、軸方向位置決め部15とを備える。
【0015】
本実施形態では、チャック装置10の中心軸線Xまわりに複数(例えば三つ)のピンアーバ12,13が配設されており、中心軸線Xに対して所定角度傾いた状態で配置されると共に、各ピンアーバ12,13は、当該角度を保った状態でチャック本体11に対して摺動可能に構成されている。
【0016】
また、本実施形態では、チャック対象となる軸状ワーク1(
図1中、二点鎖線で示している)の軸方向で互いに異なる二箇所を径方向外側から把持可能なように、第一ピンアーバ12と、第二ピンアーバ13とがそれぞれ中心軸線Xまわりに円周方向等間隔に複数(例えばそれぞれ三つ)配設されている。
【0017】
ここで、チャック対象となる軸状ワーク1は、例えば鍛造で成形されたインプットシャフトで、軸部2と、軸部2の一端に設けられたフランジ部3とを一体に有する。この場合、各第一ピンアーバ12の軸方向一端側には、軸部2のうち相対的に小径で最終的にスプライン部が形成される部分(小スプライン予定部2a)を径方向外側から把持可能な第一爪部16が設けられている。また、各第二ピンアーバ13の軸方向他端側には、小スプライン予定部2aよりも軸方向でフランジ部3側に位置し相対的に大径で最終的にスプライン部が形成される部分(大スプライン予定部2b)を径方向外側から把持可能な第二爪部17が設けられている。本実施形態では、それぞれ三つの第一爪部16と第二爪部17が設けられている。この場合、小スプライン予定部2a及び大スプライン予定部2bが本発明に係る小径部に相当し、フランジ部3が本発明に係る大径部に相当する。また、第一爪部16及び第二爪部17が本発明に係る把持部に相当する。
【0018】
軸方向位置決め部15は、軸状ワーク1の軸部2とフランジ部3との間の軸方向端面4と軸方向で当接し軸状ワーク1の軸方向の位置決めを可能とするもので、軸方向位置決め部15の当接面18は、軸部2の軸方向(すなわち軸部2の中心軸線に沿った向き)に対する軸方向端面4の傾きに倣って動くように構成されている。
【0019】
本実施形態では、軸方向位置決め部15は球面軸受19で構成されている。この場合、内輪20の一方の側端面が当接面18となり、外輪21が取付け部22を介してチャック本体11に固定されている。
図1では、環状をなす取付け部22の内周に外輪21が固定されている。この場合、内輪20の中心軸線がチャック装置10の中心軸線Xと一致する姿勢において、当接面18が所定の軸方向位置となるよう、外輪21がチャック本体11に対して所定の軸方向位置に固定されている。
【0020】
上記構成のチャック装置10は、その中心軸線Xを図示しない旋盤の回転中心となる中心軸線に一致させた状態で取付けられる。
【0021】
次に、上記構成のチャック装置10を用いた軸状ワーク1のチャック方法の一例を説明する。
【0022】
まず、
図1に示すように、軸部2をチャック装置10に向けた状態で軸状ワーク1をチャック装置10の中心位置に導入する。この際、軸方向位置決め部15としての球面軸受19の内輪20内周に軸部2を挿通させながら軸状ワーク1をチャック装置10の中心位置に導入する。そして、軸部2の外周面とフランジ部3の外周面との間の軸方向端面4を内輪20の側端面である当接面18に当接させる。これにより、軸状ワーク1のチャック装置10に対する軸方向の位置決めが行われる。
【0023】
次に、図示しない駆動装置により駆動部材14を駆動させてチャック装置10の後方側(
図1でいえば左側)に駆動部材14を移動させる。そして、駆動部材14に連結された複数の第一ピンアーバ12と複数の第二ピンアーバ13とを、チャック本体11に対して所定の角度で後方側に向けて摺動させる。これにより、各第一ピンアーバ12の軸方向一端(後方端)に一つずつ設けられた複数の第一爪部16が後方側に移動しながら中心軸線Xに向けて径方向内側に移動し、軸部2の小スプライン予定部2aを後方側に引き込みながら把持する。また、複数の第一爪部16が同期して径方向外側から共通の中心軸線Xに向けて移動する過程で小スプライン予定部2aを把持することで、小スプライン予定部2aの中心軸線Xに対する芯出しが同時に行われる。
【0024】
また、本実施形態では、各第二ピンアーバ13の軸方向他端(前方端)に一つずつ設けられた複数の第二爪部17が後方側に移動しながら中心軸線Xに向けて径方向内側に移動し、軸部2の大スプライン予定部2bを後方側に引き込みながら把持する。また、複数の第二爪部17が同期して径方向外側から共通の中心軸線Xに向けて移動する過程で大スプライン予定部2bを把持することで、大スプライン予定部2bの中心軸線Xに対する芯出しが同時に行われる。
【0025】
以上のようにして、軸状ワーク1の芯出しを伴うチャッキングが行われる。よって、この後、旋盤によりフランジ部3の後端面5にセンタ穴6を精度よく加工することが可能となる。このセンタ穴6は、後工程における軸部2外周の旋削加工ないし研削加工の際の基準穴として用いられ得る。
【0026】
以上述べたように、本実施形態に係るチャック装置10では、軸方向位置決め部15の当接面18を、軸部2の軸方向に対する軸方向端面4の傾きに倣って動くように構成したので、軸方向位置決め部15の当接面18が軸方向端面4の実際の向きに倣って動いて軸方向端面4と当接した状態となる。本実施形態の場合に即して詳述すると、上述した第一爪部16及び第二爪部17の動作により、軸状ワーク1は全体として軸部2の中心軸線がチャック装置10の中心軸線Xに一致するような位置及び姿勢に軸部2が把持される。ここで、例えば軸部2の中心軸線に対して軸方向端面4の法線方向が傾いていた場合、上述した把持動作により、軸方向端面4の法線方向がチャック装置10の中心軸線Xに対して傾いた状態となるが、当接面18は軸方向端面4に倣って動く(ここでは傾動する)ことができるので、軸部2の引き込みに伴い軸部2の中心軸線に対して軸方向端面4の法線の傾き分だけ当接面18を傾けた状態で軸方向端面4を受けることができる。従って、軸方向端面4を当接面18で受ける(当接させる)ことが、軸部2の芯出しに及ぼす影響を排除して、安定的に軸部2の芯出しを図ることができる。よって、チャックした軸状ワーク1に対する高精度な加工を安定的に実施することが可能となる。上述した理由から、本実施形態のように軸状ワーク1を引き込みながら把持するタイプのチャック装置10に対して本発明は有用である。
【0027】
また、本実施形態では、軸方向位置決め部15を球面軸受19で構成し、球面軸受19の内輪20が軸方向端面4に当接可能とした。すなわち当接面18とした。球面軸受19であれば内輪20に設けた当接面18を常に一定の基準点(内輪20の外周軌道面の中心点でありかつ外輪21の内周軌道面の中心点)まわりに回動させることができる。よって、軸方向の高い位置決め精度を維持しつつ軸方向端面4をその傾きに倣って自在に受けることが可能となる。
【0028】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係るチャック装置は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0029】
例えば上記実施形態では、軸方向位置決め部15を球面軸受19で構成し、球面軸受19の内輪20の一方の側端面を軸方向端面4に対する当接面18とした場合を例示したが、もちろんこれ以外の構成をとることも可能である。例えば図示は省略するが、当接面18を有する板状部材を軸方向に伸縮する複数の弾性部材で支持した構造としてもよい。この場合、各弾性部材が異なる伸縮態様をとることで、当接面18を有する板状部材の姿勢を自在に変えつつ軸方向端面4を受けることが可能となる。もちろん、当接面18が軸方向端面4に倣って動く限りにおいて、軸方向位置決め部15は任意の構成をとることが可能である。
【0030】
また、以上の説明では、チャック装置10として、ダブルピンアーバタイプのチャック装置を例示したが、もちろん本発明は上記以外の形式のチャック装置にも適用可能である。すなわち、チャック対象となる軸状ワーク1の小径部と大径部との間の軸方向端面4と軸方向に当接して軸状ワーク1の軸方向の位置決めを可能とする限りにおいて、本発明は任意の構成のチャック装置に適用可能である。
【0031】
また、以上の説明では、軸状ワーク1として、軸部2の一端にフランジ部3を一体に有するインプットシャフトをチャック対象とした場合を例示したが、もちろん上記以外の形態をなす軸状ワークをチャック対象とすることも可能である。すなわち、全体として軸状をなし小径部と大径部との間の軸方向端面を当接面18で受け得る限りにおいて、チャック対象となる軸状ワーク1の形態は任意である。
【符号の説明】
【0032】
1 軸状ワーク
2 軸部
2a 小スプライン予定部
2b 大スプライン予定部
3 フランジ部
4 軸方向端面
5 後端面
6 センタ穴
10 チャック装置
11 チャック本体
12 第一ピンアーバ
13 第二ピンアーバ
14 駆動部材
15 軸方向位置決め部
16 第一爪部
17 第二爪部
18 当接面
19 球面軸受
20 内輪
21 外輪
22 取付け部
X 中心軸線