(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007812
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/20 20120101AFI20250109BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16H48/20
F16H48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109450
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】林 貴行
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA34
3J027FB01
3J027HB07
3J027HC03
3J027HC13
3J027HC23
3J027HE01
3J027HF06
(57)【要約】
【課題】大型化を抑えつつ強度を増加させる分割構造のサイドギヤを有する差動装置を提供する。
【解決手段】ベベルギヤであるピニオンギヤ11、12及びサイドギヤ13、14を有し、ピニオンギヤ11、12とのギヤ反力によりサイドギヤ13、14がデフケース10に当接して差動制限力が得られるデファレンシャル装置1であって、サイドギヤ13、14は回転軸線方向に分割され、一側面にピニオンギヤ11、12と噛み合う歯部13a、14aを有する第1サイドギヤ24、26と、デフケース10に当接する摩擦面39を有する第2サイドギヤ25、27と、を有し、第1サイドギヤ24、26の他側面に、周方向に並んで複数個備えられ第2サイドギヤ25、27に向かって突出して形成されて第2サイドギヤ25、27に回転駆動力を伝達するカム部31を備え、カム部31は第1サイドギヤ24、26の歯部14aの歯底40の周方向位置に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されるデフケースと、前記デフケースに自転可能に支持されたピニオンギヤと、前記デフケースに回転可能に支持されて前記ピニオンギヤと噛み合う一対のサイドギヤと、を有し、前記ピニオンギヤ及び前記サイドギヤはベベルギヤであるとともに、前記ピニオンギヤとのギヤ反力により前記サイドギヤが前記デフケースに当接して差動制限力を得るデファレンシャル装置であって、
前記サイドギヤは、前記回転軸線方向に分割され、一側面に前記ピニオンギヤと噛み合う歯部を有する第1サイドギヤと、前記デフケースに当接する当接面を有する第2サイドギヤと、を有し、
前記第1サイドギヤの他側面に、前記第2サイドギヤに向かって突出して形成され前記第2サイドギヤに回転駆動力を伝達するカム部を備え、
前記カム部は、前記第1サイドギヤの他側面に周方向に並んで複数個備えられ、前記第1サイドギヤの前記歯部の歯底の周方向位置に配置されている
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項2】
前記カム部は、前記第1サイドギヤの他側面の径方向外側端部に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項3】
前記カム部は、前記歯部の全ての歯底に対応して備えられている
ことを特徴とする請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項4】
前記カム部は、前記第1サイドギヤの周方向の端面が傾斜して、突出方向側の周方向長さが短く形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項5】
前記デファレンシャル装置は、車両の左右の駆動輪の間に備えられ、
前記車両に搭載された駆動源により前記デフケースが回転駆動され、
前記一対のサイドギヤの一方が、前記車両の右駆動輪に右アクスルシャフトを介して連結され、
前記一対のサイドギヤの他方が、前記車両の左駆動輪に左アクスルシャフトを介して連結されている
ことを特徴とする請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項6】
前記デファレンシャル装置は、四輪駆動車の前輪の駆動軸と後輪の駆動軸との間に備えられ、
前記車両に搭載された駆動源により前記デフケースが回転駆動され、
前記一対のサイドギヤの一方が、前記前輪の駆動軸にフロントプロペラシャフトを介して連結され、
前記一対のサイドギヤの他方が、前記後輪の駆動軸にリヤプロペラシャフトを介して連結されている
ことを特徴とする請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の駆動系に用いられるデファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の駆動系に使用され、2個の駆動軸に差動を許容しつつ動力を伝達するデファレンシャル装置において、1個の駆動軸が空転した場合に差動機能を制限するLSD(リミテッドスリップデフ)が知られている。
例えば特許文献1に記載されているデファレンシャル装置(LSD)は、車体等に回転可能に支持されるデフケースと、デフケース内に自転可能に支持されたピニオンギヤと、デフケース内に相対回転可能に支持されてピニオンギヤに噛み合う一対のサイドギヤを備えたデファレンシャル装置である。更に、ピニオンギヤとサイドギヤとの間で駆動トルクが伝達する際にギヤ反力によってデフケースに当接し摩擦力を発生させ、差動制限力を得る構造になっている。
【0003】
更に、特許文献1のデファレンシャル装置におけるサイドギヤは、ピニオンギヤとかみ合う歯部を有する支持部材と、出力軸(駆動軸)とともに回転する出力部材と、に分割された構造になっており、支持部材と出力部材とはカム部を介して回転駆動力が伝達し、駆動力伝達時のカム部の反力によって出力部材がデフケースの摩擦面に向かって付勢する構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにサイドギヤを分割した構造にすると、限られたデフケース内のスペースに収納しようとすると、サイドギヤの各部品の肉厚が薄くなり、サイドギヤの強度が低下するといった問題点がある。
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、大型化を抑制しつつ、強度を増加させる分割構造のサイドギヤを有するデファレンシャル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のデファレンシャル装置は、回転駆動されるデフケースと、前記デフケースに自転可能に支持されたピニオンギヤと、前記デフケースに回転可能に支持されて前記ピニオンギヤと噛み合う一対のサイドギヤと、を有し、前記ピニオンギヤ及び前記サイドギヤはベベルギヤであるとともに、前記ピニオンギヤとのギヤ反力により前記サイドギヤが前記デフケースに当接して差動制限力を得るデファレンシャル装置であって、前記サイドギヤは、回転軸線方向に分割され、一側面に前記ピニオンギヤと噛み合う歯部を有する第1サイドギヤと、前記デフケースに当接する当接面を有する第2サイドギヤと、を有し、前記第1サイドギヤの他側面に、前記第2サイドギヤに向かって突出して形成され前記第2サイドギヤに回転駆動力を伝達するカム部を備え、前記カム部は、前記第1サイドギヤの他側面に周方向に並んで複数個備えられ、前記第1サイドギヤの前記歯部の歯底の周方向位置に配置されていることを特徴とする。
【0007】
これにより、第1サイドギヤの歯底の裏面にカム部が備えられるので、第1サイドギヤの板厚の薄い部分をカム部によって補強し、第1サイドギヤの強度を向上させることができる。
好ましくは、前記カム部は、前記第1サイドギヤの他側面の径方向外側端部に配置されているとよい。
【0008】
これにより、カム部を介して第1サイドギヤと第2サイドギヤとの間で回転駆動力を伝達する際に、カム部に作用する応力を抑え、カム部の大きさを抑制することができる。したがって、例えばカム部の突出高さを抑制し、サイドギヤ全体の厚さの抑制及び重量の低減を図ることができる。
好ましくは、前記カム部は、前記歯部の全ての歯底に対応して備えられているとよい。
【0009】
これにより、周方向に並ぶ全ての歯底の部位をカム部によって補強し、第1サイドギヤの強度をより向上させることができる。
好ましくは、前記カム部は、前記第1サイドギヤの周方向の端面が傾斜して、突出方向側の周方向長さが短く形成されているとよい。
これにより、カム部を介して第1サイドギヤと第2サイドギヤとの間で回転駆動力を伝達した際に、カム部の反力によって第2サイドギヤが第1サイドギヤから軸方向に離間する方向に力を受ける。したがって、第2サイドギヤをデフケースに向かって移動させて第1サイドギヤとデフケースとの摩擦力を増加させ、差動制限力を増加させることができる。
【0010】
好ましくは、前記デファレンシャル装置は、車両の左右の駆動輪の間に備えられ、前記車両に搭載された駆動源により前記デフケースが回転駆動され、前記一対のサイドギヤの一方が、前記車両の右駆動輪に右アクスルシャフトを介して連結され、前記一対のサイドギヤの他方が、前記車両の左駆動輪に左アクスルシャフトを介して連結されているとよい。
【0011】
これにより、車両の左右の駆動輪の間に備えられたデファレンシャル装置において、サイドギヤの強度を確保しつつ板厚を抑制して、デファレンシャル装置の小型化を図ることができる。
好ましくは、前記デファレンシャル装置は、四輪駆動車の前輪の駆動軸と後輪の駆動軸との間に備えられ、前記車両に搭載された駆動源により前記デフケースが回転駆動され、前記一対のサイドギヤの一方が、前記前輪の駆動軸にフロントプロペラシャフトを介して連結され、前記一対のサイドギヤの他方が、前記後輪の駆動軸にリヤプロペラシャフトを介して連結されているとよい。
【0012】
これにより、車両の前後の駆動軸の間に備えられたデファレンシャル装置において、サイドギヤの強度を確保しつつ板厚を抑制して、デファレンシャル装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のデファレンシャル装置によれば、第1サイドギヤの板厚の薄い歯底をカム部によって補強し、第1サイドギヤの強度を向上させることができるので、第1サイドギヤの板厚を薄くすることが可能になる。
これにより、第1サイドギヤの強度を確保しつつ板厚を抑制することができ、大型化を抑えたデファレンシャル装置にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態のデファレンシャル装置の概略内部構造図である。
【
図2】本実施形態のデファレンシャル装置のサイドギヤにおける第1サイドギヤの背面図である。
【
図3】本実施形態に係る第1サイドギヤの側面図である。
【
図4】本実施形態に係る第1サイドギヤの正面図である。
【
図5】本実施形態のデファレンシャル装置のサイドギヤにおける第2サイドギヤの形状を示す正面図である。
【
図6】本実施形態に係る第2サイドギヤの形状を示す側面図である。
【
図7】本実施形態に係る第2サイドギヤの形状を示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態のデファレンシャル装置1の概略内部構造図である。
本実施形態のデファレンシャル装置1は、例えば車両の左右の駆動輪の間に搭載され、エンジンやモータ等の駆動源からの駆動力を左右の駆動輪の駆動軸(右アクスルシャフト2、左アクスルシャフト3)に夫々伝達するとともに、左右の駆動輪の回転差を吸収する差動機能を備えている。
【0016】
また、デファレンシャル装置1は、左右の駆動輪の差動を制限する機能を有するリミテッドスリップデフ(LSD)である。
図1に示すように、デファレンシャル装置1は、車幅方向に同軸上に延びる出力軸である右アクスルシャフト2と左アクスルシャフト3との間に配置され、デフケース10内に一対のピニオンギヤ(第1ピニオンギヤ11、第2ピニオンギヤ12)、及び一対のサイドギヤ(右サイドギヤ13、左サイドギヤ14)を内蔵している。
【0017】
デフケース10は、略円筒状であり、アクスルシャフト2、3と同軸に、車体に対して軸心回りに回転可能に設置されている。なお、デフケース10の周囲には、デフケース10を収納するケース18が備えられている。ケース18は車体に固定され、ベアリング19を介してデフケース10を回転可能に支持している。
デフケース10の外周面には、アクスルシャフト2、3の軸心周りに円周方向に延びるリングギヤ15が備えられている。リングギヤ15には、駆動源から入力軸16、入力ギヤ17を介して回転駆動力が入力され、デフケース10を回転させる。
【0018】
ピニオンギヤ11、12及びサイドギヤ13、14はベベルギヤである。デフケース10内に右アクスルシャフト2の左端部及び左アクスルシャフト3の右端部が挿入されて、夫々回転可能にデフケース10に支持されている。
右アクスルシャフト2の左端部には右サイドギヤ13が支持され、左アクスルシャフト3の右端部には左サイドギヤ14が支持されている。右アクスルシャフト2と右サイドギヤ13、左アクスルシャフト3と左サイドギヤ14は、例えばスプライン接続により回転駆動力を伝達可能に接続されている。右サイドギヤ13と左サイドギヤ14とは軸方向(左右方向)に間隔を置いて配置されている。右サイドギヤ13の歯部13a及び左サイドギヤ14の歯部14aは、内側の傾斜面に形成されている。
【0019】
右サイドギヤ13と左サイドギヤ14との間には、右サイドギヤ13及び左サイドギヤ14との軸方向に対して垂直に延びる支持軸であるピニオンギヤシャフト21が、デフケース10に固定されている。
一対のピニオンギヤ(第1ピニオンギヤ11、第2ピニオンギヤ12)は、ピニオンギヤシャフト21の軸心とサイドギヤ13、14の軸心の交点Oを挟んで、互いに離間して配置され、ピニオンギヤシャフト21に回転可能、則ち自転可能に支持されている。
【0020】
第1ピニオンギヤ11及び第2ピニオンギヤ12の内側の傾斜面に、右サイドギヤ13の歯部13a及び左サイドギヤ14の歯部14aに噛み合う歯部11a、12aが形成されている。
右サイドギヤ13は、歯部13aを有する第1サイドギヤ24と、デフケース10と当接する摩擦面39を有する第2サイドギヤ25と、に分割された構造になっている。また、左サイドギヤ14は、歯部14aを有する第1サイドギヤ26と、デフケース10と当接する摩擦面39を有する第2サイドギヤ27と、に軸方向(デフケース10の回転軸線Lc方向)に分割された構造になっている。
【0021】
図2は、第1サイドギヤ26の背面図である。
図3は第1サイドギヤ26の側面図である。
図4は、第1サイドギヤ26の正面図である。
図5は、第2サイドギヤ27の正面図である。
図6は第2サイドギヤ27の側面図である。
図7は、第2サイドギヤ27の背面図である。
図8は、第1サイドギヤ26の部分拡大断面図であり、
図4内に記載したA-A部の断面図である。
【0022】
なお、第1サイドギヤ24は、第1サイドギヤ26と同一形状であり、デフケース10内に軸方向で第1サイドギヤ26と反対に設置される。また、第2サイドギヤ25は、第2サイドギヤ27と同一形状であり、デフケース10内に軸方向で第2サイドギヤ27と反対に設置される。
図2~4に示すように、第1サイドギヤ26は、円環板状の部材であって、中心部に第2サイドギヤ27の軸部35が挿入される穴30を有し、一側面が傾斜してベベルギヤである歯部14aが形成されている。なお、本実施形態では、歯部14aにおける歯数が10個である。
【0023】
第1サイドギヤ26において、歯部14aが設けられた面の背面である他側面は、軸線に垂直であり、カム部31が備えられている。カム部31は軸方向外方に突出した部位である。カム部31は、第1サイドギヤ26の他側面の径方向外側端部付近に備えられ、周方向に等間隔で並んで複数個備えられている。第1サイドギヤ26におけるカム部31の個数は、歯部14aの歯数と同一の10個である。カム部31は、突出方向先端が周方向に狭くなるように、周方向側面31aが傾斜している。
【0024】
図5~7に示すように、第2サイドギヤ27は、円筒状の軸部35と、円板状の本体部36を有している。本体部36は、軸部35より大径であって軸方向長さが短く、本体部36と軸部35とが同軸上に配置され一体的に構成されている。軸部35は、第1サイドギヤ26の穴30に、軸方向に移動可能に挿入する。
軸部35の軸心には、アクスルシャフトの端部(左アクスルシャフト3の右端部)が挿入され、回転駆動力を伝達可能なスプライン穴37が形成されている。
【0025】
本体部36の一側面には、カム部31が挿入される凹部状のカム穴38が形成されている。カム穴38は、周方向に等間隔に並んで複数個(カム部31と同数)備えられている。第1サイドギヤ26のカム部31と第2サイドギヤのカム穴38とは、径方向位置が同一であり、周方向に同一間隔で配置されている。
本体部36の他側面、則ちカム穴38が設置された面の背面側には、デフケース10の内壁面10a、10bに当接して摩擦力が得られる摩擦面39(当接面)が形成されている。
【0026】
なお、本実施形態では、本体部36の他側面(摩擦面39)と、摩擦面39に当接するデフケース10の内壁面10a、10bと、は互いに平行であり、かつ軸方向(デフケース10の回転軸線方向)に対して垂直である。本体部36の摩擦面39と、当接するデフケース10の内壁面10a、10bとは、軸方向の垂直方向に対して傾斜していてもよい。
【0027】
更に、
図8に示すように、第1サイドギヤ26のカム部31の周方向位置は、その背面の歯部14aの全ての歯底40に合わせて、同一の周方向位置に夫々設置されている。
以上のような構成により、本実施形態のデファレンシャル装置1は、モータ等の駆動源より入力軸16、入力ギヤ17を介してリングギヤ15に回駆駆動力を入力した場合、デフケース10の回転に伴い、ピニオンギヤ11、12及びサイドギヤ13、14を介して、右アクスルシャフト2及び左アクスルシャフト3に動力が伝達される。
【0028】
例えば旋回走行時に右アクスルシャフト2と左アクスルシャフト3とで回転差が生じた場合には、ピニオンギヤ11、12が回転することで回転差が吸収される。
また、左右駆動輪の一輪の駆動力が低下した場合には、ピニオンギヤ11、12とサイドギヤ13、14とのギヤ反力により、駆動力が低下した側のサイドギヤ13、14の第1サイドギヤ24、26及び第2サイドギヤ25、27が軸方向外側に移動しようとして、第2サイドギヤ25、27の摩擦面39がデフケース10の内壁面10a、10bに押し付けられて、摩擦力によりデフケース10に対するサイドギヤ13、14の回転が抑制され、デフケース10に対するピニオンギヤ11、12の回転が抑制されて、差動が制限される。
【0029】
本実施形態では、サイドギヤ13、14が第1サイドギヤ24、26と第2サイドギヤ25、27とに分割されており、第1サイドギヤ24、26と第2サイドギヤ25、27とをカム部31及びカム穴38を介して、回転駆動力を伝達する構造になっている。
第1サイドギヤ24、26の一側面には、ピニオンギヤ11、12とかみ合うベベルギヤの歯部13a、14aが形成され、歯部13a、14aの背面側にカム部31が形成されている。そして、カム部31の周方向位置を歯部13a、14aの歯底40の周方向位置と一致するように構成している。これにより、カム部31によって第1サイドギヤ24、26の強度を向上させることができる。したがって、第1サイドギヤ24、26の板厚を抑制しつつ第1サイドギヤ24、26を伝達する回転駆動力及び差動制限力を増加させることが可能になる。
【0030】
特に、カム部31が第1サイドギヤ24、26の周方向外方端部付近に配置されている。これにより、カム部31に作用する力を低減させることができ、カム部31の突出高さ及び第2サイドギヤ25、27のカム穴38の深さを抑えて、第1サイドギヤ24、26及び第2サイドギヤ25、27の強度を確保しつつ、それぞれの板厚を抑えてサイドギヤ13、14全体、延いてはデファレンシャル装置1の軸方向の長さを抑えてコンパクト化を図ることができる。
【0031】
また、カム部31は、第1サイドギヤ24、26に歯部13a、14aの歯底40個数と同一個数設けられ、全ての歯底40に対応して、その背面に備えられている。これにより、周方向に並ぶ全ての歯底40の部位をカム部31によって補強し、第1サイドギヤ24、26の強度をより向上させることができる。
更に、カム部31及びカム穴38の周方向側端面は傾斜し、カム部31の突出方向側(第2サイドギヤ25、27側)の周方向長さが基部の周方向長さよりも短くなっているので、第1サイドギヤ24、26と第2サイドギヤ25、27との間で回転駆動力を伝達する際に、第2サイドギヤ25、27を軸方向外側に向かって押し付けるスラスト力を発生させる。これにより、第2サイドギヤ25、27がデフケース10に押し付けられて、差動制限力を増加させることができる。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではない。デファレンシャル装置1の各部の詳細な形状について適宜変更してもよい。
例えば、上記実施形態では、デフケース10の内壁面10a、10bとサイドギヤ13、14の摩擦面39とがデフケース10の回転軸線方向に対して垂直に設置されているが、回転軸線方向に対して垂直方向より傾斜していてもよい。
【0033】
また、2個のピニオンギヤ11、12が1本のシャフト(ピニオンギヤシャフト21)に支持されているが、2個のシャフトで個々にデフケース10に支持された構成でもよい。
また、デファレンシャル装置1を四輪駆動車の前輪と後輪の回転差を吸収するセンターデフに用いてもよい。例えば、四輪駆動車に搭載されたエンジンやモータ等の駆動源によりデフケース10が回転駆動され、一対のサイドギヤ13、14の一方が、左右前輪のデファレンシャル装置を含む前輪の駆動軸にフロントプロペラシャフトを介して連結され、一対のサイドギヤ13、14の他方が、左右後輪のデファレンシャル装置を含む後輪の駆動軸にリヤプロペラシャフトを介して連結されるようにする。これにより、四輪駆動車のセンターデフにおいて、内蔵するギヤの強度を確保しつつ板厚を抑制して、センターデフの小型化を図ることができる。
【0034】
本発明のデフアレンシャル装置は、自動車等の車両の走行駆動系に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 デファレンシャル装置
2 右アクスルシャフト
3 左アクスルシャフト
10 デフケース
11、12 ピニオンギヤ
13、14 サイドギヤ
14a 歯部
24、26 第1サイドギヤ
25、27 第2サイドギヤ
31 カム部
39 摩擦面(当接面)
40 歯底