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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007816
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】デファレンシャル機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/40 20120101AFI20250109BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20250109BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20250109BHJP
【FI】
F16H48/40
F16H48/08
F16H57/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109458
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 友宏
(72)【発明者】
【氏名】池之谷 和孝
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA15
3J027FA37
3J027FB01
3J027HA01
3J027HA03
3J027HB07
3J027HC07
3J063AA01
3J063AB13
3J063AC11
3J063BA09
3J063BB11
3J063CA05
3J063CB06
3J063XB07
(57)【要約】
【課題】強度の低下とNVの悪化とを抑制することができるデファレンシャル機構を提供すること。
【解決手段】柱部11と窓部12とを有するデフケース2と、はすば歯車により構成され、デフケース2と一体回転するデフリングギヤ3と、を備えるデファレンシャル機構1であって、デフリングギヤ3では、柱部11の位相と窓部12の位相とのうちデフリングギヤ3の歯部21が片当たりする位相において、歯部21のベース部22は、歯部21の当たりが強い側が歯部21の当たりが弱い側よりも薄く形成されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱部と窓部とを有するデフケースと、
はすば歯車により構成され、前記デフケースと一体回転するデフリングギヤと、
を備えるデファレンシャル機構であって、
前記デフリングギヤでは、前記柱部の位相と前記窓部の位相とのうち前記デフリングギヤの歯部が片当たりする位相において、前記歯部のベース部は、前記歯部の当たりが強い側が前記歯部の当たりが弱い側よりも薄く形成されている
ことを特徴とするデファレンシャル機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デファレンシャル機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、デファレンシャル機構について、デフケースの窓部と柱部とによる形状差によって生じる剛性差を抑制するために、デフケースのシェル部が必要な位相のみ肉厚に形成された構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-220361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デファレンシャル機構では、デフケースとデフリングギヤとが一体化され、デフリングギヤがデフケースに支持されている。デフリングギヤの支持剛性は、デフケースでの柱部の位相と窓部の位相とで剛性差が生じる。また、デフリングギヤは、はすば歯車であるため、トルクを伝達する際に噛み合い部でスラスト力が発生してミスアライメントが起きる。このミスアライメントに起因して歯部が片当たりすると、強度の低下やNVの悪化を招く虞がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、強度の低下とNVの悪化とを抑制することができるデファレンシャル機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、柱部と窓部とを有するデフケースと、はすば歯車により構成され、前記デフケースと一体回転するデフリングギヤと、を備えるデファレンシャル機構であって、前記デフリングギヤでは、前記柱部の位相と前記窓部の位相とのうち前記デフリングギヤの歯部が片当たりする位相において、前記歯部のベース部は、前記歯部の当たりが強い側が前記歯部の当たりが弱い側よりも薄く形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、デフケースの形状が位相により異なることを考慮し、デフリングギヤのベース部を位相に応じて異なる厚さにするとともに、そのベース部は歯部の当たりが強い側が歯部の当たりが弱い側よりも薄く形成されている。これにより、デフリングギヤにおいて歯部の片当たりを抑制することができる。その結果、強度の低下とNVの悪化とを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態におけるデファレンシャル機構を示す斜視図である。
図2図2は、デフリングギヤの支持構造を説明するための模式図である。
図3図3は、デフリングギヤで生じるミスアライメントが位相に応じて異なる大きさになることを説明するための図である。
図4図4は、位相に応じたベース部の厚さを説明するための図である。
図5図5は、歯部の当たりが強い側と弱い側とでベース部の厚さが異なることを説明するための図である。
図6図6(a)は第1変形例におけるデフリングギヤのT字型形状を説明するための図であり、図6(b)は第1変形例におけるデフリングギヤのL字型形状を説明するための図である。
図7図7は、第2変形例におけるデフリングギヤの薄肉部を説明するための図である。
図8図8(a)は第3変形例の構造における支持構造がある位相を説明するための図であり、図8(b)は第3変形例の構造における支持構造がない位相を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態におけるデファレンシャル機構について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0010】
図1は、実施形態におけるデファレンシャル機構を示す斜視図である。デファレンシャル機構1は、デフケース2と、デフリングギヤ3とを備える。デファレンシャル機構1ではデフケース2とデフリングギヤ3とが一体回転する。
【0011】
デフケース2は、柱部11と、窓部12とを有する。デフケース2の内部には、図2に示すように、デフピニオンギヤ13とデフサイドギヤ14とが噛み合った状態で収容される。柱部11は、その収容空間を形成する殻状の部分である。柱部11は、デフケース2のフランジ部15とボス部16との間を連結する。デフケース2には柱部11が二つ設けられており、この二つの柱部11にピニオンシャフト17が取り付けられている。窓部12は、二つの柱部11の間に形成された窓である。デフケース2には二つの柱部11と二つの窓部12とが設けられている。また、デフケース2の位相は、柱部11が設けらている位相と、窓部12が設けられている位相とに分けることができる。そして、デフケース2では、柱部11が設けられている位相と窓部12が設けられている位相とで、形状の差による剛性差が生じる。
【0012】
デフリングギヤ3は、歯部21と、ベース部22とを有する。デフリングギヤ3は、はすば歯車により構成されている。歯部21は、歯すじが斜めに形成された外歯である。ベース部22は、歯部21の内周側に形成された円環状の部位である。このベース部22はデフリングギヤ3の全周に亘り形成されている。円盤部23は、ベース部22の内周側に形成された円盤状の部位である。この円盤部23は軸方向位置が歯部21の中央位置と同じ位置に形成され、ベース部22の内周部から径方向内側に突出している平板部である。
【0013】
デファレンシャル機構1では、デフケース2のフランジ部15とデフリングギヤ3の円盤部23とがボルト31によって締結されている。デフリングギヤ3はデフケース2に支持されている。デフリングギヤ3の支持剛性は、柱部11の位相と窓部12の位相とで剛性差が生じる。デフリングギヤ3は、はすば歯車であるため、トルク伝達時に歯部21の噛み合いによってスラスト力が発生してミスアライメントが起きる。ミスアライメントは、ギヤの姿勢が変化する現象を表し、ギヤの噛み合い位置がずれることである。ミスアライメントには平行度誤差と食い違い誤差とが含まれる。平行度誤差は、互いの回転軸が平行に配置されたギヤ対が噛み合う場合に、両方の回転軸を含む平面に対して垂直な方向からギヤ対の噛み合い部を見た際のギヤの傾きのことである。食い違い誤差は、互いの回転軸が平行に配置されたギヤ対が噛み合う場合に、両方の回転軸を含む平面に平行な方向であって、ギヤの回転軸からギヤ対の噛み合い位置方向にギヤ対の噛み合い部を見た際のギヤの傾きのことである。このミスアライメントに起因してデフリングギヤ3の歯部21が片当たりとなる。例えばミスアライメントが大きくなるとデフリングギヤ3の歯部21が片当たりとなり、ミスアライメントが小さいと歯部21が中央当たりとなる場合がある。
【0014】
本発明者らの知見により、図3に示すように、柱部11の位相と窓部12の位相とで発生するミスアライメントの大きさが異なることが分かった。柱部11の位相では、窓部12の位相に比べてミスアライメントが大きくなる場合があることが分かった。また、柱部11の位相に該当する歯部21では噛み合い時に片当たりが起きる。窓部12の位相ではミスアライメントが小さいため、窓部12の位相に該当する歯部21では噛み合い時に中央当たりとなる。このように、柱部11の位相は歯部21が片当たりとなる位相であり、窓部12の位相は歯部21が中央当たりとなる位相である。
【0015】
また、噛み合い時に歯部21の片当たりが起きると、噛み合い部において、歯部21の軸方向位置が異なる部位で、当たりが強い側と当たりが当たりが弱い側とが存在する。歯部21の片当たりが起きた状態では、歯部21の軸方向両側のうち、一方側が当たりの強い側となり、他方側が当たりの弱い側となる。図3に示すように、歯部21の片当たりが右側で起きている場合には、右当たりと表現することができる。デフケース2のようにデフリングギヤ3の支持部が柱部11と窓部12とのように位相形状差がある場合、位相による剛性差が発生し、倒れ方向にギヤ姿勢が変化してしまう。ギヤ対については、歯当たりが片当たりとなるほど強度もNV(騒音・振動)も悪化する。
【0016】
そこで、デファレンシャル機構1では、噛み合い時に歯部21が片当たりすることを抑制するために、デフケース2の位相と歯部21の当たりが強くなる側とを考慮して、デフリングギヤ3のベース部22が異なる厚さに形成されている。デフリングギヤ3を支持するデフケース2の形状が位相により異なることによる剛性変化が生じるので、柱部11と窓部12とで剛性が変化する。そのため、ミスアライメントが大きくなることにより歯当たりが片当たりとなる位相について、デフリングギヤ3のベース部22の剛性を低下させるように構成されている。ベース部22の剛性を低下させて当たり強部を逃がす。デフケース2のように柱部11と窓部12とで支持剛性が変わる構造において、柱部11の位相において剛性が低く変形が大きくなり歯当たりが片当たりになる場合、柱部11の位相においては当たりが強い側のベース部22を薄くする。
【0017】
具体的には、歯部21が片当たりとなる位相では、ベース部22の厚さが薄く形成されている。図4に示すように、柱部11の位相では窓部12の位相に比べてベース部22の厚さが薄くなる。さらに、この位相に該当するベース部22は、歯部21の当たりが強い側が歯部21の当たりが弱い側よりも薄く形成されている。つまり、柱部11の位相に該当する箇所であっても、ベース部22の全体が薄くなっているのではなく、歯部21の当たりが強くなる側のみが薄く形成されている。例えば、図5に示すように、ベース部22のうち軸方向において円盤部23に対して一方側の部分が薄く形成され、他方側の部分は窓部12の位相と同じ厚さに形成されている。図3に示すように歯部21で右当たりが生じる位相では、図5に示すように、円盤部23よりもベース部22の右側を薄くする。ベース部22では、歯当たりの強い側を薄くする。このように、歯部21の当たりが強くなる側を対象にしてベース部22の厚さが薄くなる。これにより、薄く形成されたベース部22の剛性が低下し、歯当たりを緩和させる側へ変形させやすくする。その結果、歯部21でのミスアライメントを低減でき、歯部21の片当たりを抑制することができる。
【0018】
以上説明した通り、実施形態によれば、デフケース2の形状が位相により異なることに対して、デフリングギヤ3のベース部22をデフケース2の位相に応じて異なる厚さにするとともに、ベース部22は歯部21の当たりが強い側が歯部21の当たりが弱い側よりも薄くなるように形成される。これにより、トルク伝達時に歯部21の片当たりを抑制することができる。その結果、強度の低下とNVの悪化とを抑制することができる。
【0019】
なお、歯当たりは、平行度誤差のみに依らず、平行度誤差と食い違い誤差とのバランスにより中央当たりか片当たりかが変わる。例えば片当たりとなる場合として、平行度誤差成分では右当たりとなり、食い違い誤差成分では左当たりとなる場合について、平行度誤差成分のほうが強い場合には右当たりとなり、食い違い誤差成分のほう強い場合には左当たりとなる。
【0020】
また、デフリングギヤ3の支持剛性によるミスアライメントが左倒れである場合であっても、食い違い誤差では左当たりが強い場合には、歯部21が左当たりとなる場合もある。つまり、デファレンシャル機構1では、歯部21の片当たりが左当たりとなる場合もある。このような場合には、歯部21の当たりが強い側が左側となるため、その位相においてベース部22の左側が薄く形成されることになる。
【0021】
また、ミスアライメントが大きい場合に必ず片当たりとなるわけではない。同様に、ミスアライメントが小さい場合に必ず中央当たりとなるわけではない。つまり、ミスアライメントが大きい場合でも中央当たりとなる場合もあり、ミスアライメントが小さい場合でも片当たりとなる場合もある。
【0022】
また、図4に示す位相は、説明の便宜上、境界線とともに記載されているものであって、このような明確な境界を設けなくてもよい。要するに、ベース部22は柱部11側が窓部12側よりも相対的に薄く形成された部分を含んでいればよく、柱部11の位相が全て窓部12の位相よりも厚くなくてもよい。さらに、ベース部22の厚さは位相に応じて徐々に変化してもよく、段々に変化してもよい。
【0023】
また、図6図8に示すように、デファレンシャル機構1の変形例を構成することが可能である。第1変形例のデファレンシャル機構1では、図6(a),図6(b)に示すように、支持構造の剛性の違いで歯当たりが片当たりとなる位相において、歯当たりが強い側とは反対側でベース部22を円盤部23に接続する。歯部21が中央当たりとなる位相は歯当たりが良い位相であるため、この位相においてデフリングギヤ3は、図6(a)に示すように、ベース部22と円盤部23との接続部分の形状がT字型に形成され、円盤部23がフランジ部15に支持されている。一方、歯部21が右当たり(片当たり)となる位相は歯当たりが悪い位相であるため、この位相においてデフリングギヤ3は、図6(b)に示すように、ベース部22と円盤部23との接続部分の形状がL字型に形成され、円盤部23がフランジ部15に支持されている。歯部21が右当たりとなる場合、円盤部23はベース部22の左端部側から径方向内側に延在する。円盤部23に接続される側が、歯当たりの強い側とは反対側となるようにベース部22と円盤部23との接続部分がL字型に形成されている。このL字型の構造により、円盤部23が設けられていない側(右側)の歯部21およびベース部22の剛性が低下し、歯当たりを緩和させる側へ変形させやすくする。
【0024】
第2変形例のデファレンシャル機構1では、図7に示すように、支持構造の剛性の違いで歯当たりが片当たりとなる位相において、支持構造の剛性によりデフリングギヤ3が倒れる方向と歯当たりが強い側とが同じ場合、支持構造である円盤部23を薄くする。図7に示す例では、左側にギヤ倒れが起きる姿勢変化が生じている状態で、歯部21の左側は歯当たりが強い側となっている(左当たりが起きている)。円盤部23は、その位相に対応する位置に薄肉部23aを有する。円盤部23の厚さが位相に応じて部分的に薄くされることにより、剛性が部分的に低下し、その位相では元々の姿勢変化(ギヤ倒れ)に加えてより姿勢変化(ギヤ倒れ)を起きさせる。この薄肉部23aを有する構造により、円盤部23の剛性が低下し、歯当たりを緩和させる側へ変形させやすくする。
【0025】
第3変形例の構造は、ドリブンギヤに適用可能な構造である。例えばカウンタドリブンギヤ100では、図8(a),図8(b)に示すように、歯部101と、ベース部102と、円盤部103と、孔部104とを有する。カウンタドリブンギヤ100は周方向の一部分において円盤部103に孔部104が設けられた構造を有する。孔部104は、円盤部103の一部を軸方向に貫通する貫通孔であり、カウンタドリブンギヤ100の周方向に沿って延在する形状を有する。例えばカウンタドリブンギヤ100全体では三か所に孔部104が設けられている。カウンタドリブンギヤ100は、図8(a)に示すように、円盤部103により支持されている位相と、図8(b)に示すように、円盤部103に孔部104が設けられていて支持されていない位相とを含む。このカウンタドリブンギヤ100は部分的に支持されていない位相を持つ構造となる。この場合、図8(b)に示すように、孔部104により支持がない部位のベース部102の肉厚を厚くする。孔部104が設けられている位相のベース部102の肉厚は、円盤部103によって支持されている位相のベース部102の肉厚よりも厚い。
【符号の説明】
【0026】
1 デファレンシャル機構
2 デフケース
3 デフリングギヤ
11 柱部
12 窓部
15 フランジ部
21 歯部
22 ベース部
23 円盤部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8