(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007858
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】高圧タンク
(51)【国際特許分類】
F17C 1/06 20060101AFI20250109BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109535
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 眞禎
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC05
3E172BD03
3E172CA12
3E172DA36
3E172DA90
3J046AA01
3J046BA02
3J046CA01
3J046CA04
3J046DA05
(57)【要約】
【課題】口金と補強層との間の層間剥離を抑制して要求されるクライテリアを満足することができる高圧タンクを提供する。
【解決手段】口金3,3Aは、先端部31と、フランジ部32と、小径部33と、剥離防止部34,34Aと、を有している。先端部31は、ライナの内部空間に連通する給排口31aが開口している。フランジ部32は、先端部31とは口金3,3Aの軸方向Daにおける反対側でライナに接続される。小径部33は、フランジ部32と先端部31との間で直径が最小になる。剥離防止部34,34Aは、小径部33と先端部31の外周面31pとの間に設けられ、先端部31の外周面31pから小径部33へ向けて直径が段階的に減少している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の内部空間を有する樹脂製のライナと、前記ライナの前記内部空間を外部に連通させる円筒状の口金と、前記ライナの外表面を覆い前記口金の外周面に接合される繊維強化樹脂製の補強層と、を備える高圧タンクであって、
前記口金は、前記ライナの前記内部空間に連通する給排口が開口する先端部と、該先端部とは前記口金の軸方向における反対側で前記ライナに接続されるフランジ部と、該フランジ部と前記先端部との間で直径が最小になる小径部と、該小径部と前記先端部の外周面との間に設けられた剥離防止部と、を有し、
前記剥離防止部は、前記先端部の前記外周面から前記小径部へ向けて直径が段階的に減少していることを特徴とする高圧タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から高圧の流体が充填される高圧タンクに関する発明が知られている(下記特許文献1を参照)。特許文献1に記載された高圧タンクは、樹脂製のライナと、口金と、繊維強化樹脂製の補強層と、を備える。口金はライナの内部空間と連通する給排口と、給排口の周域から径方向外側に張り出しライナに突き合わせられるフランジ部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような高圧タンクの耐久性を向上させるために、口金の外周面の補強層と接する部分に、フランジ部に近づくほど直径が減少するテーパ部を設けることが考えられる。しかし、口金にテーパ部を設けることで、口金を高圧タンクの軸方向に押し込むような力が作用したときに、口金と補強層との間で層間剥離が生じ、補強層の剛性が低下して高圧タンクの耐力が低下し、要求されるクライテリアを満足できないおそれがある。
【0005】
本開示は、口金と補強層との間の層間剥離を抑制して要求されるクライテリアを満足することができる高圧タンクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、中空の内部空間を有する樹脂製のライナと、前記ライナの前記内部空間を外部に連通させる円筒状の口金と、前記ライナの外表面を覆い前記口金の外周面に接合される繊維強化樹脂製の補強層と、を備える高圧タンクであって、前記口金は、前記ライナの前記内部空間に連通する給排口が開口する先端部と、該先端部とは前記口金の軸方向における反対側で前記ライナに接続されるフランジ部と、該フランジ部と前記先端部との間で直径が最小になる小径部と、該小径部と前記先端部の外周面との間に設けられた剥離防止部と、を有し、前記剥離防止部は、前記先端部の前記外周面から前記小径部へ向けて直径が段階的に減少していることを特徴とする高圧タンクである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の上記一態様によれば、口金が剥離防止部を有することで、口金の外周面と補強層との間の接合強度を向上させ、口金と補強層との間の層間剥離を抑制して要求されるクライテリアを満足することができる高圧タンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示に係る高圧タンクの実施形態を示す断面図。
【
図3】
図2の高圧タンクの変位と荷重との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示に係る高圧タンクの実施形態を説明する。
【0010】
図1は、本開示に係る高圧タンクの実施形態を示す断面図である。本実施形態の高圧タンク1は、たとえば、燃料電池車などの車両に搭載され、燃料電池システムへ供給される水素が充填される高圧水素タンクである。高圧タンク1は、中空の内部空間を有する樹脂製のライナ2と、そのライナ2の内部空間を外部に連通させる円筒状の口金3と、ライナ2の外表面を覆い口金3の外周面に接合される繊維強化樹脂製の補強層4と、を備えている。
【0011】
ライナ2は、概して、軸方向Daに延びる細長い円筒状の形状を有している。より具体的には、ライナ2は、たとえば、軸方向Daにおける両端部が半球状またはドーム状の形状を有し、両端部の間の胴部が円筒状の形状を有し、一方の端部に開口部21を有している。より詳細には、ライナ2は、たとえば、
図1に示すように、軸方向Daの一方の端部から軸方向Daに突出して円筒状の口金3の内側に挿入される円筒部22を有している。ライナ2は、たとえば、水素不透過性の樹脂材料によって製作されている。
【0012】
補強層4は、たとえば、未硬化の硬化性樹脂を含浸させた強化繊維をライナ2および口金3の外周面の一部に巻き付けて硬化性樹脂を硬化させることで、ライナ2の外表面を覆うように形成されて口金3の外周面の一部に接合される。なお、補強層4は、たとえば、強化繊維をライナ2および口金3の外周面の一部に巻き付け、その後、強化繊維に未硬化の硬化性樹脂を含浸させて硬化させることで形成することも可能である。
【0013】
図2は、
図1の高圧タンク1の口金3の拡大断面図である。口金3は、たとえば、ライナ2と同軸の概ね円筒状の形状に設けられている。より詳細には、口金3は、ライナ2の内部空間に連通する給排口31aが開口する先端部31と、その先端部31とは口金3の軸方向Daにおける反対側でライナ2に接続されるフランジ部32と、そのフランジ部32と先端部31との間で直径が最小になる小径部33と、を有している。
【0014】
先端部31は、たとえば、
図1に示すように、口金3の外周面の一部を覆う補強層4から露出している。先端部31は、口金3の軸方向Daに直交する先端面31fを有し、その先端面31fに給排口31aが開口されている。また、先端部31は、先端面31fに隣接して、口金3の軸方向Daに概ね平行な外周面31pを有している。先端部31の直径は、たとえば、フランジ部32の直径よりも小さい。
【0015】
フランジ部32は、たとえば、口金3において直径が最大となる部分であり、口金3の軸方向Daにおいて先端部31から遠ざかるほど直径が拡大されている。口金3の軸方向Daにおいて、先端部31の先端面31fとは反対の方向を向くフランジ部32の端面32eは、ライナ2に接合されている。フランジ部32のライナ2に接合された端面32eと反対側の面32fは、ライナ2の外周面に段差なく滑らかに接続され、補強層4によって覆われている。
【0016】
小径部33は、たとえば、口金3の軸方向Daにおいて、フランジ部32の先端部31側の端部に設けられている。より具体的には、たとえば、フランジ部32は、口金3の軸方向Daにおいて先端部31へ近づくほど直径が減少しており、口金3の軸方向Daおよび径方向Drに交差する方向において高圧タンク1の内側へ向けて凹の凹曲面状に設けられている。この凹曲面状のフランジ部32の口金3の軸方向Daにおける先端部31側の端部に、小径部33が設けられている。
【0017】
また、口金3は、小径部33と先端部31の外周面31pとの間に設けられた剥離防止部34を有している。
図2に示すように、剥離防止部34は、先端部31の外周面31pから小径部33へ向けて直径が段階的に減少している。より具体的には、
図2において、輪郭を実線で示す実施形態1の高圧タンク1の口金3に設けられた剥離防止部34は、たとえば、複数の段部341,343と、複数のテーパ部342,344と、を有することで、先端部31の外周面31pから小径部33へ向けて直径が段階的に減少している。
【0018】
より詳細には、第1実施形態の高圧タンク1の口金3に設けられた剥離防止部34は、たとえば、口金3の先端部31から小径部33へ向けて、第1の段部341と、第1のテーパ部342と、第2の段部343と、第2のテーパ部344と、を有している。第1の段部341は、たとえば、先端部31の直径よりも小さい一定の直径を有して口金3の軸方向Daに延びている。先端部31の外周面31pと第1の段部341との間には、口金3の軸方向Daに垂直な径方向Drの段差が形成されている。
【0019】
第1のテーパ部342は、たとえば、第1の段部341との境界から第2の段部343との境界まで一定の割合で直径が減少している。第2の段部343は、たとえば、第1のテーパ部342との境界から第2のテーパ部344まで一定の直径を有して口金3の軸方向Daに延びている。口金3の軸方向Daにおいて、第2の段部343の長さは、たとえば、第1のテーパ部342の長さよりも短い。
【0020】
第2のテーパ部344は、第2の段部343との境界から小径部33まで、第1のテーパ部342とは異なる一定の割合で直径が減少している。口金3の軸方向Daにおいて、第2のテーパ部344の長さは、第1のテーパ部342の長さよりも短い。また、口金3の軸方向Daに対する第2のテーパ部344の傾斜角度は、口金3の軸方向Daに対する第1のテーパ部342の傾斜角度よりも小さい。
【0021】
また、
図2において、輪郭を破線で示す実施形態2の高圧タンク1Aの口金3Aに設けられた剥離防止部34Aは、たとえば、複数のテーパ部342A,344Aを有することで、先端部31の外周面31pから小径部33へ向けて直径が段階的に減少している。より詳細には、第1のテーパ部342Aの最大の直径は、先端部31の直径よりも小さく、先端部31の外周面31pと第1のテーパ部342Aとの間には、口金3の軸方向Daに垂直な径方向Drの段差が形成されている。
【0022】
第1のテーパ部342Aは、たとえば、先端部31の外周面31pと第1のテーパ部342Aとの間に形成された段差から第2のテーパ部344Aとの境界まで一定の割合で直径が減少している。第2のテーパ部344Aは、第1のテーパ部342Aとの境界から小径部33まで、第1のテーパ部342Aとは異なる一定の割合で直径が減少している。口金3の軸方向Daにおいて、第2のテーパ部344Aの長さは、第1のテーパ部342Aの長さよりも短い。また、口金3の軸方向Daに対する第2のテーパ部344Aの傾斜角度は、口金3の軸方向Daに対する第1のテーパ部342Aの傾斜角度よりも小さい。
【0023】
なお、図示を省略するが、剥離防止部34は、たとえば、一つの段部と一つのテーパ部を有してもよく、三つ以上の段部と三つ以上のテーパ部を有してもよい。また、剥離防止部34は、たとえば、先端部31の外周面31pとの間に段差を有する一つのテーパ部のみを有してもよく、複数の段部のみを有してもよい。また、剥離防止部34は、先端部31の外周面31pとの間に段差を有する凹曲面であってもよい。
【0024】
一方、
図2において、輪郭を二点鎖線で示す比較例の高圧タンクの口金は、先端部31の外周面31pとの境界から小径部33まで一定の割合で直径が減少するテーパ部Tのみを有し、先端部31の外周面31pから小径部33へ向けて直径が段階的に減少する剥離防止部34を有しない。
【0025】
以下、
図2において二点鎖線でテーパ部Tの輪郭を示す剥離防止部34を有しない比較例の高圧タンクとの対比に基いて、本開示に係る高圧タンクの実施形態1および実施形態2の作用を説明する。
【0026】
図3の上のグラフは、
図2において口金3の剥離防止部34を実線で示す実施形態1の高圧タンク1の荷重と変位との関係を実線で示している。
図3の下のグラフは、
図2において口金3の剥離防止部34を破線で示す実施形態2の高圧タンク1Aの荷重と変位との関係を実線で示している。なお、
図3の上下のグラフには、それぞれ、実施形態1および実施形態2の高圧タンク1,1Aの比較対象として、
図2において口金3のテーパ部Tを二点鎖線で示す比較例の高圧タンクの荷重と変位との関係を一点鎖線で示している。
【0027】
また、
図3の上のグラフでは、ゼロ点補正を行った実施形態1の高圧タンク1および比較例の高圧タンクの荷重と変位との関係を、それぞれ、破線と二点鎖線で示している。同様に、
図3の下のグラフでは、ゼロ点補正を行った実施形態2の高圧タンク1Aおよび比較例の高圧タンクの荷重と変位との関係を、それぞれ、破線と二点鎖線で示している。
【0028】
前述のように、実施形態1,2の高圧タンク1,1Aは、中空の内部空間を有する樹脂製のライナ2と、そのライナ2の内部空間を外部に連通させる円筒状の口金3,3Aと、ライナ2の外表面を覆い口金3,3Aの外周面に接合される繊維強化樹脂製の補強層4と、を備える。口金3,3Aは、先端部31と、フランジ部32と、小径部33と、剥離防止部34,34Aと、を有している。先端部31は、ライナ2の内部空間に連通する給排口31aが開口している。フランジ部32は、先端部31とは口金3,3Aの軸方向Daにおける反対側でライナ2に接続される。小径部33は、フランジ部32と先端部31との間で直径が最小になる。剥離防止部34,34Aは、小径部33と先端部31の外周面31pとの間に設けられ、先端部31の外周面31pから小径部33へ向けて直径が段階的に減少している。
【0029】
このような構成により、実施形態1,2の高圧タンク1,1Aは、口金3,3Aを高圧タンク1,1Aの軸方向に押し込むような力が作用したときに、口金3,3Aと補強層4との間の層間剥離のタイミングを遅らせることができる。より具体的には、剥離防止部34,34Aを有しない比較例の高圧タンクは、
図3の各グラフの二点鎖線上の三角印で示す変位において層間剥離が発生する。
【0030】
これに対し、実施形態1の高圧タンク1は、
図3の上のグラフの破線上の三角印で示す変位において層間剥離が発生し、実施形態2の高圧タンク1Aは、
図3の下のグラフの破線上の三角印に示す変位において層間剥離が発生する。したがって、実施形態1,2の高圧タンク1,1Aは、比較例の高圧タンクと比較して、より大きな変位が生じるまで層間剥離が発生せず、層間剥離が発生するタイミングを遅らせることができる。
【0031】
その結果、高圧タンク1,1Aの静圧縮試験において強制変位を付与したときに、最終的に150[kN]以上の反力を得ることができ、静圧縮試験のクライテリアを満足することができる。これは、比較例の高圧タンクの口金3が一定の割合で直径が減少するテーパ部Tのみを有しているのに対し、実施形態1,2の高圧タンク1,1Aの口金3,3Aは、直径が段階的に減少する剥離防止部34,34Aを有しているためであると考えられる。
【0032】
したがって、前述の実施形態1,2によれば、口金3,3Aが剥離防止部34,34Aを有することで、口金3,3Aの外周面と補強層4との間の接合強度を向上させ、口金3,3Aと補強層4との間の層間剥離を抑制して要求されるクライテリアを満足することができる高圧タンク1,1Aを提供することができる。
【0033】
以上、図面を用いて本開示に係る高圧タンクの実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0034】
1 高圧タンク
1A 高圧タンク
2 ライナ
3 口金
3A 口金
4 補強層
31 先端部
31a 給排口
31f 先端面
31p 外周面
32 フランジ部
33 小径部
34 剥離防止部
34A 剥離防止部