(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007870
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ツール及び線材加工機
(51)【国際特許分類】
H01F 41/061 20160101AFI20250109BHJP
B21F 35/00 20060101ALI20250109BHJP
F16H 25/12 20060101ALI20250109BHJP
H01F 41/064 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
H01F41/061
B21F35/00 Z
F16H25/12 D
H01F41/064
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109565
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000190622
【氏名又は名称】新興機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 匠
【テーマコード(参考)】
3J062
4E070
5E002
【Fターム(参考)】
3J062AA21
3J062AB31
3J062AC07
3J062BA14
3J062CC12
4E070AA04
4E070AB14
4E070BC23
5E002AC01
(57)【要約】
【課題】線材の位置を安定させることができるツール及び線材加工機を提供する。
【解決手段】ツールは、線材を加工する線材加工機に使用するスピンドル装置の回転軸に着脱可能なツールであって、前記回転軸に対して同軸的に配置されるピンと、前記回転軸の回転運動を、前記回転軸の径方向に沿った直線的な運動に変換する変換部と、前記ピンの径方向にて前記ピンの外周面に対向するように配置され、前記変換部によって変換された直線的な移動によって、前記ピンに接近するか又は前記ピンから離れる接離部とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を加工する線材加工機に使用するスピンドル装置の回転軸に着脱可能なツールであって、
前記回転軸に対して同軸的に配置されるピンと、
前記回転軸の回転運動を、前記回転軸の径方向に沿った直線的な運動に変換する変換部と、
前記ピンの径方向にて前記ピンの外周面に対向するように配置され、前記変換部によって変換された直線的な移動によって、前記ピンに接近するか又は前記ピンから離れる接離部と
を備える
ツール。
【請求項2】
前記ピンの外周面に前記線材を保持する第1保持溝が形成される
請求項1に記載のツール。
【請求項3】
前記接離部に前記線材を保持する第2保持溝が形成される
請求項1又は2に記載のツール。
【請求項4】
前記変換部は偏心カム機構を有し、
前記偏心カム機構に前記接離部は連結される
請求項1又は2に記載のツール。
【請求項5】
軸回りに回転可能なスリーブと、前記スリーブの内側に配置される回転軸とを有するスピンドル装置と、前記回転軸に着脱可能なツールと、前記スリーブ及び前記回転軸の駆動を制御する制御装置とを備える線材加工機であって、
前記ツールは、
前記スリーブに連結されるベースと、
前記ベースに設けられ、前記回転軸に対して同軸的に配置されるピンと、
前記ベースに設けられ、前記回転軸の回転運動を、前記回転軸の径方向に沿った直線的な運動に変換する変換部と、
前記ピンの径方向にて前記ピンの外周面に対向するように配置され、前記変換部によって変換された直線的な移動によって、前記ピンに接近するか又は前記ピンから離れる接離部と
を備え、
前記制御装置は、
前記回転軸の回転を制御して、前記ピンと前記接離部との間の距離を制御し、
前記回転軸及び前記スリーブの回転を制御して、前記接離部における前記ピンの軸回りの移動を制御する
線材加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、線材を加工する線材加工機に使用するスピンドル装置の回転軸に着脱可能なツール及び線材加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
スピンドル装置を有するばね製造器が提案されている。スピンドル装置の回転軸にツールが着脱可能に設けられる。線材をツールで加工することによって、ばねが製造される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ツールと線材との間に不要な隙間が発生した場合、線材の位置が安定しない。
【0005】
本開示は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、線材の位置を安定させることができるツール及び線材加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るツールは、線材を加工する線材加工機に使用するスピンドル装置の回転軸に着脱可能なツールであって、前記回転軸に対して同軸的に配置されるピンと、前記回転軸の回転運動を、前記回転軸の径方向に沿った直線的な運動に変換する変換部と、前記ピンの径方向にて前記ピンの外周面に対向するように配置され、前記変換部によって変換された直線的な移動によって、前記ピンに接近するか又は前記ピンから離れる接離部とを備える。
【0007】
本開示においては、接離部とピンとの間で線材を保持する場合、接離部の位置を線材の幅に対応した位置に調整する。
【0008】
本開示の一実施形態に係るツールは、前記ピンの外周面に前記線材を保持する第1保持溝が形成される。
【0009】
本開示においては、線材を保持する場合、第1保持溝に線材は挿入される。
【0010】
本開示の一実施形態に係るツールは、前記接離部に前記線材を保持する第2保持溝が形成される。
【0011】
本開示においては、線材を保持する場合、第2保持溝に線材は挿入される。
【0012】
本開示の一実施形態に係るツールは、前記変換部は偏心カム機構を有し、前記偏心カム機構に前記接離部は連結される。
【0013】
本開示においては、偏心カム機構によって、接離部の移動を実現することができる。
【0014】
本開示の一実施形態に係る線材加工機は、軸回りに回転可能なスリーブと、前記スリーブの内側に配置される回転軸とを有するスピンドル装置と、前記回転軸に着脱可能なツールと、前記スリーブ及び前記回転軸の駆動を制御する制御装置とを備える線材加工機であって、前記ツールは、前記スリーブに連結されるベースと、前記ベースに設けられ、前記回転軸に対して同軸的に配置されるピンと、前記ベースに設けられ、前記回転軸の回転運動を、前記回転軸の径方向に沿った直線的な運動に変換する変換部と、前記ピンの径方向にて前記ピンの外周面に対向するように配置され、前記変換部によって変換された直線的な移動によって、前記ピンに接近するか又は前記ピンから離れる接離部とを備え、前記制御装置は、前記回転軸の回転を制御して、前記ピンと前記接離部との間の距離を制御し、前記回転軸及び前記スリーブの回転を制御して、前記接離部における前記ピンの軸回りの移動を制御する。
【0015】
本開示においては、回転軸の回転を制御して、ピンと接離部との間の距離を制御し、接離部の位置を線材の幅に対応した位置に調整する。そのため、線材と接離部との間、又は、線材とピンとの間に不要な隙間が発生せず、線材の位置を安定させることができる。また回転軸及びスリーブの回転を制御して、接離部におけるピンの軸回りの移動を制御し、所望の形状になるように、線材を曲げることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一実施形態に係るツール及び線材加工機にあっては、接離部とピンとの間で線材を保持する場合、接離部の位置を線材の幅に対応した位置に調整する。そのため、線材と接離部との間、又は、線材とピンとの間に不要な隙間が発生せず、線材の位置を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1に係る線材加工機の略示正面図である。
【
図3】接離部がピンに接近した場合におけるスピンドルツールを取り付けたツール保持部の下端部を略示する部分拡大正面断面図である。
【
図4】接離部がピンに接近した場合におけるツール保持部に取り付けたスピンドルツールを略示する底面図である。
【
図5】接離部がピンから離れた場合におけるスピンドルツールを取り付けたツール保持部の下端部を略示する部分拡大正面断面図である。
【
図6】接離部がピンから離れた場合におけるツール保持部に取り付けたスピンドルツールを略示する底面図である。
【
図7】線材をスピンドルツールから抜き出す工程を説明する説明図である。
【
図8】実施の形態1とは異なる構成を有する他の線材加工機において、線材をスピンドルツールから抜き出す工程を説明する参考説明図である。
【
図9】実施の形態2に係るスピンドルツールの下端部を略示する部分拡大正面断面図である。
【
図10】実施の形態3に係るスピンドルツールの下端部を略示する部分拡大正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下本発明を実施の形態1に係る線材加工機を示す図面に基づいて説明する。以下の説明では図において矢印で示す上下、左右及び前後を使用する。正面及び背面は前面及び後面に夫々対応する。なお上下前後左右は発明の理解容易化のために使用されるに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
図1は、線材加工機の略示正面図、
図2は、線材加工機の略示右側面図である。
【0019】
線材加工機は直方体状のベース1と、該ベース1に立設した前壁2とを備える。該前壁2の中央部には前後方向に貫通した開口2aが設けてある。前壁2の後側には線材を前側に送出する線材送りユニット4が設けてある。線材送りユニット4は線材を挟持して送出する複数の線材送りローラ、線材送りユニット用モータ、及び軸回り用モータ(いずれも図示略)を備える。線材送りユニット用モータの駆動によって、線材送りローラが回転し、線材が前方へ送出される。線材送りユニット4は軸回り用モータの駆動によって、線材送りローラによって挟持した線材を、線材の軸回りに回転させることができる。線材は、例えば平角線である。
【0020】
開口2aの内側には、線材送りユニット4から送出された線材を案内する線材ガイド5が設けてある。線材ガイド5は前後方向を軸長方向とした半円柱状をなし、その軸心部分に溝が設けてある。線材ガイド5は軸回りに回転することができる。線材送りユニット4から送出された線材は、前記溝を通って前方に案内される。
【0021】
前壁2の正面右側にツール装置70が支持されている。ツール装置70は、前壁2に略平行な移動板70aと、前壁2の正面右側に配置され、上下方向に延びる複数の上下レール70bとを備える。移動板70aは前後方向にて上下レール70bに対向する。移動板70aの後面に摺動子(図示略)が設けられており、摺動子は上下レール70bに摺動可能に取り付けられる。ツール装置70は上下方向モータ70fを備える。上下方向モータ70fは上下方向を軸方向として前壁2に固定されている。上下方向モータ70fの駆動軸は移動板70aに連結される。上下方向モータ70fの駆動によって、移動板70aは上下方向に移動する。
【0022】
移動板70aの前面に左右方向に延びる左右レール70cが設けられている。ツール装置70はツール保持部70dを備える。ツール保持部70dは左右方向に延び、ツール保持部70dの後側に摺動子(図示略)が設けられている。摺動子を介してツール保持部70dは左右レール70cに摺動可能に連結する。ツール装置70は左右方向モータ(図示略)を備える。左右方向モータは移動板70aに固定されている。左右方向モータの駆動軸はツール装置70に連結される。左右方向モータの駆動によって、ツール装置70は左右レール70cに沿って左右方向に移動する。ツール保持部70dの左端にツールT1が取り外し可能に取り付けられる。ツールT1は、例えば線材を曲げ加工するためのツールである。
【0023】
前壁2の正面左側にツール装置71が支持されている。ツール装置71は、移動板71a、上下レール71b、左右レール71c、ツール保持部71d、左右方向モータ(図示略)、上下方向モータ71fを備える。ツール装置71は、ツール装置70と左右対称になるように配置される。移動板71a、上下レール71b、左右レール71c、ツール保持部71d、左右方向モータ、上下方向モータ71fは、左右位置が逆になることを除けば、前述の移動板70a、上下レール70b、左右レール70c、ツール保持部70d、左右方向モータ、上下方向モータ70fと同様な構成であり、その詳細な説明を省略する。
【0024】
前壁2の正面左下にツール装置73が支持されている。ツール装置73はツール保持部73dを備える。ツール保持部73dは右斜め上方向に延び、ツール保持部73dの上端にツールT2が取り付けられている。ツールT2は、例えばカッタである。以下、ツールT2をカッタT2とも称する。ツール保持部73dは、右斜め上方向及び左斜め下方向に移動可能である。
【0025】
前壁2の正面下側にツール装置74が支持されている。ツール装置74はツール保持部74dを備える。ツール保持部74dは上下方向に延び、ツール保持部74dの上端にツールを取り付けることができる。
図1において、ツール保持部74dにツールは取り付けられていない。
【0026】
前壁2の正面右下にツール装置75が支持されている。ツール装置75はツール保持部75dを備える。ツール保持部75dは上下方向に延び、ツール保持部75dの上端にツールT3が取り付けられている。ツールT3は、例えば線材を曲げ加工するためのツールである。
【0027】
前壁2の正面下側にスピンドル装置20が支持されている。スピンドル装置20は、スピンドルツールT4を保持するツール保持部19と、前記ツール保持部19に連結し、スピンドルツールT4を駆動させる第1ツール駆動用モータ20a及び第2ツール駆動用モータ20bと、ツール保持部19を上下左右前後に移動させる機構とを備える。ツール保持部19は上下方向に延び、ツール保持部19の下端にスピンドルツールT4が着脱可能に取り付けられる。第1ツール駆動用モータ20aは後述する回転軸50(
図3参照)に連結し、第2ツール駆動用モータ20bは後述するスリーブ52(
図3参照)に連結している。
【0028】
前記機構は、前壁2の上側に配置された下板10を備える。下板10は前壁2及び線材送りユニット4の上部に固定される。下板10は前後左右方向に延びる。下板10の上面に、左右方向に延びる二つの左右レール11が設けられている。二つの左右レール11は、下板10の前縁部及び後縁部にそれぞれ設けられている。前記機構は移動板13を備える。移動板13は下板10の上側に配置され、移動板13の一面(下面)が下板10の上面に対向する。移動板13の下面に複数の摺動子13aが設けられており、摺動子13aは左右レール11に摺動可能に連結する。前記機構は、左右方向モータ12を備える。左右方向モータ12は左右方向を軸方向として下板10に固定されている。左右方向モータ12の駆動軸は移動板13に連結される。左右方向モータ12の駆動によって、移動板13は左右方向に移動する。
【0029】
前記機構は移動台15を備える。移動台15は移動板13の上側に配置される。移動台15は下板部15aと、下板部15aの一縁部から略直角に突出した前板部15bとを備える。移動台15は、下板部15aの一面(下面)が移動板13の上面に対向し、前板部15bが前側に位置するように、配置される。下板部15aの下面に前後方向に延びる前後レール15cが設けられる。移動板13の上面に複数の摺動子14が設けられる。摺動子14は前後レール15cに摺動可能に連結する。前記機構は前後方向モータ16を備える。前後方向モータ16は移動板13に前後方向を軸方向として固定されている。前後方向モータ16の駆動軸は下板部15aに連結し、前後方向モータ16の駆動によって、下板部15a、即ち移動台15は前後レール15cに沿って前後方向に移動する。
【0030】
前記機構は移動板17を備える。移動板17は前板部15bの前側に配置される。移動板17の一面(後面)が前板部15bの前面に対向する。前板部15bの正面に、上下方向に延びる上下レール15dが設けられる。移動板17の後面に摺動子17aが設けられる。摺動子17aは上下レール15dに摺動可能に連結する。前記機構は上下方向モータ18を備える。上下方向モータ18は上下方向を軸方向として前板部15bに固定されている。上下方向モータ18の駆動軸は移動板17に連結される。上下方向モータ18の駆動によって、移動板17は上下レール15dに沿って上下方向に移動する。
【0031】
移動板17の前面に、ツール保持部19、第1ツール駆動用モータ20a及び第2ツール駆動用モータ20bが固定されている。左右方向モータ12、前後方向モータ16及び上下方向モータ18の駆動によって、移動板17、即ちツール保持部19、第1ツール駆動用モータ20a及び第2ツール駆動用モータ20bは上下前後左右に移動する。
【0032】
線材加工機は制御装置60を備える。制御装置60は、制御部61、主記憶部62、補助記憶部63、表示部64及び操作部65等を備える。制御部61は、例えばプロセッサを備える。プロセッサには、例えばCPU、MPU又はGPU等が含まれる。なお制御部61はロジック回路を備えてもよい。ロジック回路には、例えばFPGA、ASIC等が含まれる。主記憶部62は、例えばRAMを備える。補助記憶部63は、例えばROM、書き換え可能な記憶媒体、例えばEEPROM、FlashROM又はハードディスク等を備える。補助記憶部63に、線材加工機の駆動を制御する制御プログラムが記憶される。制御部61は補助記憶部63から主記憶部62に制御プログラムを読み出して実行する。制御プログラムは記録媒体66、例えば光ディスク又は持ち運び可能なフラッシュメモリから補助記憶部63にインストールされてもよい。なお制御プログラムは、通信ネットワークNを介して、サーバから補助記憶部63にダウンロードされてもよい。
【0033】
表示部64は例えば表示パネルを有する。制御部61は制御プログラムに基づいて、表示部64に情報を表示させる。操作部65は、例えばキーボード、スイッチまたはタッチパネルを有する。操作部65はユーザの操作を受け付け、受け付けた操作に対応した信号を制御部61に送信する。
【0034】
図3は、接離部90がピン87に接近した場合におけるスピンドルツールT4を取り付けたツール保持部19の下端部を略示する部分拡大正面断面図、
図4は、接離部90がピン87に接近した場合におけるツール保持部19に取り付けたスピンドルツールT4を略示する底面図である。ツール保持部19は軸回りに回転する回転軸50と、軸回りに回転するスリーブ52とを備える。回転軸50はスリーブ52に同軸的に挿入される。回転軸50及びスリーブ52の間には隙間が設けてある。この隙間に、オイルブッシュ50dが回転軸50及びスリーブ52に対して同軸的に設けられている。オイルブッシュ50dによって、回転軸50の回転はスリーブ52に伝達されず、スリーブ52の回転は回転軸50に伝達されない。回転軸50は、後述する偏心回転部80を取り付ける取付軸50aと、前記取付軸50aが挿入され、軸回りに回転する回転筒50cとを備える。取付軸50aの下端部には雄ねじ50bが形成される。
【0035】
スピンドルツールT4は、回転軸50に取り外し可能に連結した偏心回転部80を備える。偏心回転部80は上下方向を軸方向とした円柱状をなし、その上端部に雌ねじ部80aが形成される。偏心回転部80の下面に上下方向を軸方向としたローラ81が形成される。ローラ81の軸心の位置と、偏心回転部80の軸心の位置とは径方向に偏倚する。雌ねじ80aには取付軸50aの雄ねじ50bが螺合している。即ちローラ81は、取付軸50aの回転中心(回転軸50の回転中心)から径方向に偏倚した位置にある。
【0036】
回転筒50cに取付軸50aが挿入される。取付軸50aに螺合した偏心回転部80は、回転筒50cの先端部に嵌合し、回転筒50cと一体化している。回転筒50cは第1ツール駆動用モータ20aに連結している。第1ツール駆動用モータ20aの回転によって、回転筒50c及び偏心回転部80が回転する。
【0037】
回転筒50cの下端部及び偏心回転部80はスリーブ52の下端部から突出している。スリーブ52の下端部の周面部には径方向に貫通した複数の雌ねじ52aが形成される。スリーブ52には、ベース82が連結する。ベース82は、第1筒部83と、第2筒部84と、ピン保持部85とを備える。第1筒部83は上下方向を軸方向とする。第1筒部83にスリーブ52の下端部が挿入される。第1筒部83の周面部には、径方向に貫通した複数の貫通孔83aが形成される。貫通孔83aは段付き孔である。各雌ねじ52aの位置と、各貫通孔83a位置とは対応する。オイルブッシュ50dは雌ねじ52aに対向する位置に配される。ボルト100が貫通孔83aに挿入され、雌ねじ52aに連結する。ボルト100の頭部は貫通孔83aの段に係止し、ボルト100の先端はオイルブッシュ50dに接触する。そのため、ボルト100の締付けによって、回転軸50及びスリーブ52の回転は妨げられない。
【0038】
第2筒部84は上下方向を軸方向とし、第1筒部83よりも外径が大きく、内径は小さい。第2筒部84は第1筒部83の下端に同軸的に連なる。第2筒部84の下端部に径方向に貫通した通路84aが形成される。第2筒部84の下端にピン保持部85が固定される。ピン保持部85は、上下方向を軸方向とした円柱状をなす。ピン保持部85は、回転軸50及びスリーブ52に対して同軸的に配置される。ピン保持部85の外周部分に凹部85aが形成される。凹部85aは上下方向に貫通する。凹部85aは平面視または底面視にて、ピン保持部85の軸心側を底にしたコの字状乃至U字状をなす。ピン保持部85の中心に円柱状のピン87が保持される。ピン87はピン保持部85から下側に突出する。ピン87の下端部の外周面にリング状の第1保持溝87aが形成される。第1保持溝87aには線材101が保持される。
【0039】
第2筒部84の内側に偏心回転部80が挿入される。偏心回転部80は第2筒部84の内側にて回転可能である。通路84aに、第2筒部84の径方向に移動可能なスライダ86が設けられる。スライダ86には有底円筒形の収納室86aが形成される。収納室86aは上側が開放される。ローラ81は収納室86aに上側から挿入される。スライダ86に、第2筒部84の径方向に貫通する段付きの雌ねじ86aが設けられる。雌ねじ86aにボルト86bが連結される。ボルト86bの頭部は雌ねじ86aの段に係止し、ボルト86bの軸の先端部は収納室86a内に配置される。ローラ81は、ボルト86bの軸の先端部と、収納室86aの側面(収納室86aにおけるボルト86bに対向する側面)との間に配置される。即ち、ローラ81は、ボルト86b及び収納室86aの側面の間に挟持され、スライダ86に固定される。
【0040】
第2筒部84の径方向におけるスライダ86のボルト86bの反対側部分の下側に、凹部85aは位置する。スライダ86のボルト86bの反対側部分に接離部90が連結される。接離部90は、スライダ86に連結する連結部91と、線材101を保持する保持部92とを備える。連結部91は上下に延び、連結部91の上部はボルト100によって、スライダ86に連結される。連結部91の下部は凹部85aの内側に挿入される。連結部91の下端はピン保持部85よりも下側に配置される。
【0041】
保持部92は連結部91の下端から略直角に突出する。保持部92の突出端部は、上下方向にてピン保持部85の下面に対向し、且つ、ピン保持部85の径方向にてピン87に対向する。保持部92の突出端部の上面に第2保持溝92aが形成される。第2保持溝92aは、上側及びピン87側が開放された段状をなす。第2保持溝92aは線材101を保持する。保持部92における第2保持溝92aが形成された部分は、他の部分に比べて薄い。
【0042】
第1筒部83及び第2筒部84の外側にカバー88が設けられている。カバー88は板状をなす。回転軸50、スリーブ52、第1筒部83及び第2筒部84はカバー88に挿入される。カバー88は取り外すことができる。
【0043】
なお偏心回転部80、ローラ81、ベース82(第1筒部83、第2筒部84及びピン保持部85)、スライダ86及び接離部90等はスピンドルツールT4を構成する。第1筒部83に取り付けたボルト100を取り外すことによって、スピンドルツールT4を回転軸50及びスリーブ52から取り外すことができ、スピンドルツールT4に代えて、他のツールを回転軸50及びスリーブ52に取り付けることができる。また偏心回転部80、ローラ81及びスライダ86等は、変換部、即ち偏心カム機構を構成する。偏心カム機構によって、回転軸50の回転運動は回転軸50の径方向に沿った直線的な運動に変換される。本実施の形態においては、例示として、回転軸50の回転運動として上下軸回りの回転運動を示し、回転軸50の径方向に沿った直線的な運動として左右方向の運動を示す。
【0044】
制御部61は、例えば平角線の線材101をスピンドルツールT4によって保持する場合、第1ツール駆動用モータ20aを正転させる。偏心回転部80は回転し、ローラ81は通路84aの一端側(
図3及び
図5の左側)に移動する。接離部90はピン87に接近する。線材101は第1保持溝87a及び第2保持溝92aに挿入され、線材101は接離部90及びピン87によって保持される。
【0045】
線材101を折り曲げる場合、制御部61は第1ツール駆動用モータ20a及び第2ツール駆動用モータ20bを同期回転させる。回転軸50及びスリーブ52が軸回りに同期回転し、接離部90及びピン87はピン87の軸回りに回転する。接離部90、特に連結部91は線材101に接触し、線材101はピン87の周りで折り曲げられる。線材101に対する折り曲げを繰り返すことによって、例えば変圧器のコイルを製造することができる。接離部90を、線材101の幅に対応した適切な位置に配置することによって、線材101と接離部90との間、及び、線材101とピン87との間に不要な隙間が発生せず、線材101の位置を安定させることができる。不要な隙間が発生した場合、曲げ加工においてコイルが不要に変形し、コイルの品質及び歩留まりが低下するおそれがある。
【0046】
剛性が小さい線材101を折り曲げる場合、折り曲げ時に、折り曲げた線材101の内側に皺が発生しやすい。ピン87の第1保持溝87aに線材101を挿入することによって、折り曲げた線材101の内側に皺が発生することを抑制できる。
【0047】
前述したように、保持部92における第2保持溝92aが形成された部分は薄い。以下、前記部分を薄厚部分と称する。コイルの作製中に、コイルの隙間(線材の間)に薄厚部分が挿入される。薄厚部分の厚みは薄いので、コイルの隙間が不要に広がることを防止することができる。なおコイルを製造しない場合、保持部92における第2保持溝92aが形成された部分は厚くてもよい。
【0048】
図5は、接離部90がピン87から離れた場合におけるスピンドルツールT4を取り付けたツール保持部19の下端部を略示する部分拡大正面断面図、
図6は、接離部90がピン87から離れた場合におけるツール保持部19に取り付けたスピンドルツールT4を略示する底面図である。
【0049】
制御部61は、例えばスピンドルツールT4による線材101の保持を解除する場合、第1ツール駆動用モータ20aを逆転させる。偏心回転部80は回転し、ローラ81は通路84aの他端側(
図3及び
図5の右側)に移動する。接離部90はピン87から離れる。線材101は第2保持溝92aから外れ、接離部90及びピン87による線材101の保持は解除される。
【0050】
図7は、線材101をスピンドルツールT4から抜き出す工程を説明する説明図である。
図7Aに示すように、初期状態において、接離部90はピン87よりも左側に位置し、接離部90及びピン87によって線材101は保持されている。線材101は第1保持溝87a及び第2保持溝92aに挿入されている。
【0051】
制御部61は第1ツール駆動用モータ20aを逆転させ、接離部90を線材101から離れさせる(
図7B参照)。制御部61は左右方向モータ12を駆動させて、スピンドルツールT4を右側に移動させる。線材101は第1保持溝87aから外れる。即ち、線材101は第1保持溝87a及び第2保持溝92aから外れる。線材101は保持部92とピン87との間に配置され、線材101の下側に干渉するような物体はない(
図7C参照)。制御部61は上下方向モータ18を駆動させて、スピンドルツールT4を上側に移動させる。スピンドルツールT4は線材101から離れる。換言すれば、線材101は、相対的に保持部92とピン87との間から下側に抜ける(
図7D参照)。本実施の形態によれば、
図7Aの保持状態から、3工程(
図7B~
図7D)を経て線材101はスピンドルツールT4から外れる。
【0052】
図8は、実施の形態1とは異なる構成を有する他の線材加工機において、線材101をスピンドルツールT4から抜き出す工程を説明する参考説明図である。
図8Aに示すように、他の線材加工機はピン保持部201と、ピン保持部201に保持されたピン202と、ローラ203とを備える。ピン202は円筒状をなし、ピン保持部201を上下に貫通する。ピン202の下端部はピン保持部201の下面よりも下側に突出している。ピン202の下端部に、ピン202よりも大径の薄い円盤202aが同軸的に設けられている。円盤202aの上面はピン保持部201の下面に対向する。円盤202aの上面とピン202の外周面とによって、段状の保持溝202bが形成される。ピン202は軸方向、即ち上下方向に移動可能である。
【0053】
ローラ203はピン保持部201の隣に、
図8においては、ピン保持部201の左隣に配置される。ローラ203は上下方向を軸方向とし、ローラ203の下端部はピン保持部201の下面よりも下側に突出する。ローラ203の下端部周面とピン保持部201の下面とによって、段状の保持溝204が形成される。
図8Aに示すように、初期状態において、線材101は二つの保持溝202b、204に挿入され、保持される。線材101は円盤202aの上面と、ピン保持部201の下面との間に狭持される。
【0054】
他の線材加工機の制御装置はピン202を下方に移動させる。線材101は保持溝202bから外れる(
図8B参照)。次に制御装置は、ピン保持部201、ピン202及びローラ203を上側に移動させる。線材101は保持溝204から外れる(
図8C参照)。次に制御装置は、ピン保持部201、ピン202及びローラ203を右側に移動させる。線材101はローラ203の下側に配置され、円盤202aよりも上側に配置される(
図8D参照)。次に制御装置はピン保持部201、ピン202及びローラ203を上側に移動させる。線材101は、ローラ203及び円盤202aよりも下側に配置される。換言すれば、線材101は、二つの保持溝202b、204から下側に抜ける(
図8E参照)。上述のように、他の線材加工機によれば、
図8Aの保持状態から、4工程(
図8B~
図8E)を経て線材101はピン202及びローラ203から外れる。
【0055】
このように、実施の形態に係る線材加工機においては、接離部90を備えない他の線材加工機に比べて、線材101をスピンドルツールT4から外すために必要な工程数を削減することができる。
【0056】
実施の形態1に係る線材加工機にあっては、回転軸50の回転を制御して、ピン87と接離部90との間の距離を制御し、接離部90の位置を線材101の幅に対応した位置に調整する。そのため、線材101と接離部90との間、又は、線材101とピン87との間に不要な隙間が発生せず、線材101の位置を安定させることができる。また回転軸50及びスリーブ52の回転を制御して、接離部90におけるピン87の軸回りの移動を制御し、所望の形状になるように、線材101を曲げることができる。
【0057】
また第1保持溝87a及び第2保持溝92aに線材101を挿入させて、線材101を保持することができる。
【0058】
また偏心カム機構によって、接離部90の移動、即ちピン87への接近運動及びピン87からの離反運動を実現することができる。
【0059】
(実施の形態2)
以下本発明を実施の形態2を示す線材加工機の図面に基づいて説明する。実施の形態2に係る構成のうち、実施の形態1と同様な構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図9は、スピンドルツールT4の下端部を略示する部分拡大正面断面図である。実施の形態2においては、ピン87に第1保持溝87aが形成されていないことを除けば、実施の形態1と同様な構成である。剛性が大きい線材101を折り曲げる場合、折り曲げ時に、折り曲げた線材101の内側に皺は発生しにくい。そのため、剛性が大きい線材101を折り曲げる場合、実施の形態2に示すように、ピン87に第1保持溝87aを設けなくてもよい。
【0060】
(実施の形態3)
以下本発明を実施の形態3を示す線材加工機の図面に基づいて説明する。実施の形態3に係る構成のうち、実施の形態1または2と同様な構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図10は、スピンドルツールT4の下端部を略示する部分拡大正面断面図である。実施の形態3においては、線材が平角線ではなく、丸線102である。保持部92の突出端面に、断面円弧状の第2保持溝92bが形成されている。第2保持溝92bの曲率は丸線102の外周形状に対応する。第2保持溝92bを断面円弧状に形成することによって、線材として丸線102を使用する場合でも、丸線102を第2保持溝92bによって保持することができる。
【0061】
なおコンピュータプログラムは、単一のコンピュータ上で、または1つのサイトに配置されるか、若しくは複数のサイトにわたって分散され、通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0062】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0063】
101 線材
20 スピンドル装置
50 回転軸
52 スリーブ
60 制御装置
80 偏心回転部(変換部、偏心カム機構)
81 ローラ(変換部、偏心カム機構)
82 ベース
86 スライダ(変換部、偏心カム機構)
87 ピン
87a 第1保持溝
90 接離部
92a 第2保持溝
T4 スピンドルツール