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特開2025-7877ヒートポンプシステムの制御方法、ヒートポンプシステムの制御装置、及び、ヒートポンプ回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007877
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ヒートポンプシステムの制御方法、ヒートポンプシステムの制御装置、及び、ヒートポンプ回路
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20250109BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20250109BHJP
   F25B 30/02 20060101ALI20250109BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20250109BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20250109BHJP
   H02P 29/62 20160101ALI20250109BHJP
   B60L 50/60 20190101ALN20250109BHJP
   B60L 58/25 20190101ALN20250109BHJP
【FI】
B60L3/00 J
F25B1/00 399Y
F25B30/02 Z
B60H1/22 651C
H02M7/48 E
H02P29/62
B60L50/60
B60L58/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109578
(22)【出願日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 駿祐
(72)【発明者】
【氏名】木村 容康
【テーマコード(参考)】
3L211
5H125
5H501
5H770
【Fターム(参考)】
3L211AA11
3L211BA23
3L211DA29
3L211DA42
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA01
5H125BB02
5H125BB03
5H125BC19
5H125CD06
5H125CD09
5H125EE05
5H125EE15
5H125FF22
5H125FF23
5H125FF27
5H501AA20
5H501CC04
5H501EE08
5H501HB07
5H501HB08
5H501HB16
5H501LL39
5H501MM05
5H770BA02
5H770EA02
(57)【要約】
【課題】電動パワートレーンを熱源とするヒートポンプシステムにおいてd軸通電を行うときに、バッテリ等の加温対象を、従来よりも迅速に加温することができるヒートポンプシステムの制御方法、ヒートポンプシステムの制御装置、及び、ヒートポンプ回路を提供する。
【解決手段】加温対象10を加温するときに、回転電機21のd軸電流を増加させるd軸通電によって電動パワートレーンで熱を生じさせる。そして、回転電機21の温度である回転電機温度Tを取得し、冷却回路11を循環する冷媒の温度である冷媒温度Tを取得し、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときには、回転電機21を冷却回路11から切り離し、d軸通電によって、回転電機21及びインバータ22のうち、インバータ22で生じた熱を用いて冷媒温度Tを上昇させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と前記回転電機を駆動するインバータとを含む電動パワートレーンと、前記電動パワートレーンを冷却する冷却回路と、前記冷却回路と熱的に接続され、コンプレッサを用いて、前記電動パワートレーンで生じた熱を加温対象に輸送する熱輸送回路と、を備えるヒートポンプシステムにおいて、前記加温対象を加温するときに、前記回転電機のd軸電流を増加させるd軸通電によって前記電動パワートレーンで熱を生じさせる、ヒートポンプシステムの制御方法であって、
前記回転電機の温度である回転電機温度を取得し、
前記冷却回路を循環する冷媒の温度である冷媒温度を取得し、
前記回転電機温度が前記冷媒温度よりも低いときには、前記回転電機を前記冷却回路から切り離し、
前記d軸通電によって、前記回転電機及び前記インバータのうち、前記インバータで生じた熱を用いて前記冷媒温度を上昇させる、
ヒートポンプシステムの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のヒートポンプシステムの制御方法であって、
前記冷媒温度に対して、前記コンプレッサの始動可否を定める第1温度を設定し、
前記冷媒温度が前記第1温度よりも低く、かつ、前記回転電機温度が前記冷媒温度よりも低いときに、前記回転電機を前記冷却回路から切り離し、
前記d軸通電によって前記インバータで生じた熱を用いて前記冷媒温度が前記第1温度以上となったときに、前記コンプレッサを始動する、
ヒートポンプシステムの制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載のヒートポンプシステムの制御方法であって、
現在の前記冷媒温度が前記コンプレッサを始動させ得る温度以上であり、かつ、現在の前記冷媒温度よりも高い目標冷媒温度が設定されたときに、前記回転電機温度と前記冷媒温度を比較し、
前記回転電機温度が前記冷媒温度よりも低いときには、前記回転電機を前記冷却回路から切り離し、
前記d軸通電によって前記インバータで生じた熱を用いて前記冷媒温度を前記目標冷媒温度に近づける、
ヒートポンプシステムの制御方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のヒートポンプシステムの制御方法であって、
前記回転電機温度が前記冷媒温度以上となったときには、前記冷却回路から切り離された前記回転電機を前記冷却回路に再接続する、
ヒートポンプシステムの制御方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のヒートポンプシステムの制御方法であって、
前記回転電機温度に対して耐熱閾値を設定し、
前記回転電機温度が前記冷媒温度よりも低い場合でも、前記回転電機温度が前記耐熱閾値以上であるときには、前記回転電機を前記冷却回路に接続する、
ヒートポンプシステムの制御方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のヒートポンプシステムの制御方法であって、
前記回転電機を駆動するときに用いる前記インバータのキャリア周波数と比較して、前記d軸通電を行うときに用いる前記インバータのキャリア周波数を高周波数に設定する、
ヒートポンプシステムの制御方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のヒートポンプシステムの制御方法であって、
前記回転電機を駆動するときの前記冷媒の流量と比較して、前記d軸通電を行うときの前記冷媒の流量を低下させる、
ヒートポンプシステムの制御方法。
【請求項8】
回転電機と前記回転電機を駆動するインバータとを含む電動パワートレーンと、前記電動パワートレーンを冷却する冷却回路と、前記冷却回路と熱的に接続され、コンプレッサを用いて、前記電動パワートレーンで生じた熱を加温対象に輸送する熱輸送回路と、を備えるヒートポンプシステムにおいて、前記加温対象を加温するときに、前記回転電機のd軸電流を増加させるd軸通電によって前記電動パワートレーンで熱を生じさせる、ヒートポンプシステムの制御装置であって、
前記回転電機の温度である回転電機温度を取得し、
前記冷却回路を循環する冷媒の温度である冷媒温度を取得し、
前記回転電機温度が前記冷媒温度よりも低いときには、前記回転電機を前記冷却回路から切り離し、
前記d軸通電によって、前記回転電機及び前記インバータのうち、前記インバータで生じた熱を用いて前記冷媒温度を上昇させる、
ヒートポンプシステムの制御装置。
【請求項9】
回転電機と前記回転電機を駆動するインバータとを含む電動パワートレーンと、前記電動パワートレーンを冷却する冷却回路と、前記冷却回路と熱的に接続され、コンプレッサを用いて、前記電動パワートレーンで生じた熱を加温対象に輸送する熱輸送回路と、を含むヒートポンプ回路であって、
前記冷却回路を循環する冷媒の前記回転電機に対する入口と、前記回転電機からの前記冷媒の出口と、を接続する流路であるバイパスと、
前記回転電機の温度である回転電機温度が、前記冷媒の温度である冷媒温度よりも低いときに、前記バイパスに前記冷媒を流すことによって、前記回転電機を前記冷却回路から切り離すバルブと、
を備える、ヒートポンプ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプシステムの制御方法、ヒートポンプシステムの制御装置、及び、ヒートポンプ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両の外気を主な熱源とするヒートポンプ回路を用いた車両用暖房に関し、外気が-10℃以下である場合に、熱源を、蓄電池を冷却するための冷却水を電気温水ヒータによって加熱し、この加熱した冷却水をヒートポンプ回路の熱源とすることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7053906号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両では、電動パワートレーンを熱源とするヒートポンプシステムによって、バッテリやヒータコア等が加温(加熱)される場合がある。また、電動車両では、バッテリ等を迅速に目標温度に到達させるために、電動パワートレーンが含む回転電機のd軸電流を増加させる通電制御(いわゆるd軸通電)によって、積極的に、より多くの熱を電動パワートレーンで生じさせることがある。
【0005】
しかしながら、電動パワートレーンにおいて回転電機の熱容量は相当に大きいので、回転電機の温度が低いときには、電動パワートレーンで生じた熱は回転電機に奪われやすい。このため、バッテリ等の加温対象の加温は、d軸通電を行ったとしても、未だに長い時間を要する場合がある。
【0006】
本発明は、電動パワートレーンを熱源とするヒートポンプシステムにおいてd軸通電を行うときに、バッテリ等の加温対象を、従来よりも迅速に加温することができるヒートポンプシステムの制御方法、ヒートポンプシステムの制御装置、及び、ヒートポンプ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、回転電機と回転電機を駆動するインバータとを含む電動パワートレーンと、電動パワートレーンを冷却する冷却回路と、冷却回路と熱的に接続され、コンプレッサを用いて、電動パワートレーンで生じた熱を加温対象に輸送する熱輸送回路と、を備えるヒートポンプシステムにおいて、加温対象を加温するときに、回転電機のd軸電流を増加させるd軸通電によって電動パワートレーンで熱を生じさせる、ヒートポンプシステムの制御方法である。このヒートポンプシステムの制御方法では、回転電機の温度である回転電機温度を取得し、冷却回路を循環する冷媒の温度である冷媒温度を取得し、回転電機温度が冷媒温度よりも低いときには、回転電機を冷却回路から切り離す。そして、d軸通電によって、回転電機及びインバータのうち、インバータで生じた熱を用いて冷媒温度を上昇させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電動パワートレーンを熱源とするヒートポンプシステムにおいてd軸通電を行うときに、バッテリ等の加温対象を、従来よりも迅速に加温することができるヒートポンプシステムの制御方法、ヒートポンプシステムの制御装置、及び、ヒートポンプ回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ヒートポンプシステムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1モードの冷却回路を示すブロック図である。
図3図3は、第2モードの冷却回路を示すブロック図である。
図4図4は、第3モードの冷却回路を示すブロック図である。
図5図5は、第4モードの冷却回路を示すブロック図である。
図6図6は、極低温環境においてヒートポンプシステムを始動する場合のフローチャートである。
図7図7は、極低温環境において回転電機温度が冷媒温度よりも低いときにヒートポンプシステムの始動に要する時間を示すグラフである。
図8図8は、ヒートポンプシステムの始動後、加温対象が目標加温対象温度に到達するまでのフローチャートである。
図9図9は、走行中におけるヒートポンプシステムのモード切り替えを示すフローチャートである。
図10図10は、第3モード及び第4モードによる冷媒温度の変化を示すグラフである。
図11図11は、第1変形例のフローチャートである。
図12図12は、第2変形例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[実施形態]
図1は、ヒートポンプシステム100の概略構成を示すブロック図である。このヒートポンプシステム100は、電動車両(図示しない)に設けられ、例えば、電動パワートレーン(ePT)で生じた熱によって、所定の加温対象10を加温する。本実施形態では、ヒートポンプシステム100では、電動パワートレーンが熱源(吸熱源)である。ヒートポンプシステム100の加温対象10は、電動パワートレーンに電力を供給するバッテリ、暖房の熱源であるヒータコア、及び/または、その他の温度調整が必要な部分である。本実施形態では、加温対象10は、バッテリであるものとする。
【0012】
図1に示すように、ヒートポンプシステム100は、冷媒の循環や熱交換によって電動パワートレーンで生じた熱を加温対象10に輸送する回路であるヒートポンプ回路101と、ヒートポンプ回路101の動作を制御するコントローラ102と、を含む。
【0013】
ヒートポンプ回路101は、冷却回路11と、熱輸送回路12と、を含む。また、熱輸送回路12は、例えば、第1熱輸送回路13と第2熱輸送回路14によって構成される。
【0014】
冷却回路11は、水その他の液体(以下、単に冷媒という)を、電動パワートレーンにおいて発熱する部分に循環させることにより、電動パワートレーンを冷却する回路である。冷却回路11は、水その他任意の冷媒を用いることができる。本実施形態では、冷却回路11を循環する冷媒は、水(冷却水)である。
【0015】
本実施形態では、簡単のため、電動パワートレーンは、回転電機21とインバータ22によって構成されるものとする。回転電機21とインバータ22は、いずれも電動パワートレーンにおいて発熱する部分である。回転電機21とインバータ22は、それぞれがヒートポンプシステム100における熱源として機能する。以下では、ヒートポンプシステム100の熱源として、回転電機21、インバータ22、及び、これらの全体を特に区別する必要がないときには、これらをまとめて電動パワートレーンという。
【0016】
なお、回転電機21は、電動車両を駆動する電動機、または、バッテリの充電や電動車両の駆動に必要な電力を生成する発電機、である。本実施形態では、回転電機21は、電動車両を駆動する電動機である。また、インバータ22は、バッテリが出力する直流電力を交流電力に変換して回転電機21に入力することにより、回転電機21を駆動する。回転電機21が発電機である場合、または、回転電機21が発電機として機能する場合、インバータ22は、回転電機21が出力する交流電力を直流電力に変換してバッテリに供給するコンバータとして機能する。
【0017】
冷却回路11は、冷媒の流路に、冷却対象である回転電機21及びインバータ22の他、チラー23、外部熱交換器24、及び、第1ポンプ25を備える。
【0018】
チラー23は、電動パワートレーンを流通することによって温度が上昇した冷媒を、第1熱輸送回路13を循環する作動流体(冷媒ガス)によって冷却する。すなわち、チラー23は、冷却回路11の冷媒と、第1熱輸送回路13の作動流体と、の間で熱交換をさせる熱交換器である。換言すれば、冷却回路11において、冷媒が電動パワートレーンから回収した熱は、チラー23を介して、第1熱輸送回路13の作動流体に移動(伝導)する。したがって、ヒートポンプシステム100において、冷却回路11は、熱源から熱を回収するための構成であり、熱源回路あるいは吸熱回路等と称することもできる。
【0019】
外部熱交換器24は、冷却回路11の冷媒と、外気等と、の間で熱交換をさせる熱交換器である。外部熱交換器24は、冷却回路11を循環することによって温度が上昇した冷媒を、外気等によって冷却する。具体的には、外部熱交換器24は、例えば、電動車両のラジエータである。
【0020】
第1ポンプ25は、冷却回路11の冷媒を循環させる。本実施形態では、インバータ22と回転電機21は、この順に、冷媒の流通方向に沿って直列に配置され、第1ポンプ25は、インバータ22の上流側に配置される。このため、第1ポンプ25は、原則として、インバータ22、回転電機21、チラー23、及び、外部熱交換器24の順に、冷媒を循環させる。なお、冷却回路11は、回転電機21とインバータ22が、冷媒の流れに対して並列に配置されるように構成されていてもよい。
【0021】
上記の他、冷却回路11は、バイパス26及びバルブ27と、バイパス28及びバルブ29と、を備える。
【0022】
バイパス26及びバルブ27は、必要に応じて、冷却回路11から外部熱交換器24を切り離すための構成である。バイパス26は、外部熱交換器24に対する冷媒の入口と出口を接続し、外部熱交換器24を迂回して冷媒を流通させる流路である。バルブ27は、例えばバイパス26の上流端に設けられ、チラー23を流通した冷媒の流入先を、外部熱交換器24とバイパス26のいずれかに切り替える。すなわち、バルブ27は、バイパス26に冷媒を流すことによって、外部熱交換器24を冷却回路11から切り離す。バルブ27による冷媒流路の切り替えは、コントローラ102によって適宜に制御される。
【0023】
バイパス28及びバルブ29は、必要に応じて、冷却回路11から回転電機21を切り離すための構成である。バイパス28は、回転電機21に対する冷媒の入口と出口を接続し、回転電機21を迂回して冷媒を流通させる流路である。バルブ29は、例えばバイパス28の上流端に設けられ、インバータ22を流通した冷媒の流入先を、回転電機21とバイパス28とのいずれかに切り替える。すなわち、バルブ29は、バイパス28に冷媒を流すことによって、回転電機21を冷却回路11から切り離す。バルブ29による冷媒流路の切り替えは、コントローラ102によって適宜に制御される。
【0024】
なお、上記のバルブ27及びバルブ29による流路の切り替えに応じて、ヒートポンプシステム100の動作状態には4種類のモードがある。これら各モードについては詳細を後述する。
【0025】
また、バルブ27及びバルブ29は、冷媒の流路を単純に切り替えるだけでなく、冷媒の流量を調整することができる。例えば、バルブ29は、冷媒の流路を、回転電機21とバイパス28のいずれかに一方に選択的に切り替えることができる他、必要に応じて、バイパス28を流通させる冷媒の流量を低減させることができる。このような冷媒の流量調整は、コントローラ102が制御する。
【0026】
本実施形態では、冷却回路11は、さらに、温度センサ30及び温度センサ31を含む。
【0027】
温度センサ30は、冷却回路11を流通する冷媒の温度(以下、冷媒温度Tという)を計測する。特に、温度センサ30は、電動パワートレーンを流通することによって温まった冷媒の温度を計測する。したがって、本実施形態では、温度センサ30は、回転電機21の出口とバイパス28の合流後、チラー23の上流において、冷媒温度Tを計測する。コントローラ102は、冷媒温度Tを適宜に取得することができる。
【0028】
温度センサ31は、回転電機21の温度(以下、回転電機温度Tという)を計測する。回転電機温度Tは、回転電機21の一部または全体の温度を表す。コントローラ102は、回転電機温度Tを適宜に取得することができる。
【0029】
熱輸送回路12は、冷却回路11と熱的に接続され、冷却回路11において熱源から回収した熱を、加温対象10に輸送する回路である。本実施形態では、前述のように、熱輸送回路12は、第1熱輸送回路13と第2熱輸送回路14によって構成される。
【0030】
第1熱輸送回路13は、作動流体(いわゆる冷媒ガス)の気化と液化を繰り返すことによって、熱を特定の方向に移動させる回路である。具体的には、第1熱輸送回路13は、チラー23、コンプレッサ33、水冷式コンデンサ34(WCDS:Water cooled Condenser)、レシーバ35、及び、膨張弁36によって構成され、この順に、作動流体を循環させる。これにより、第1熱輸送回路13は、チラー23から水冷式コンデンサ34に熱を移動させる。
【0031】
第1熱輸送回路13を循環する作動流体は、チラー23において、冷却回路11の冷媒と熱交換をする。すなわち、第1熱輸送回路13の作動流体は、チラー23において、電動パワートレーンで生じた熱によって温められ、気化(蒸発)する。したがって、第1熱輸送回路13において、チラー23は、作動流体の気化器あるいは蒸発器である。
【0032】
コンプレッサ33は、チラー23を介して流入する作動流体を圧縮し、これにより高温高圧となった作動流体を水冷式コンデンサ34に送る。
【0033】
なお、コンプレッサ33は、気体状態の作動流体を圧縮することを前提としている。このため、液体状態(実質的に非圧縮性)の作動流体がコンプレッサ33に流入し、いわゆる液圧縮が生じた場合には、コンプレッサ33が破損するなどの不具合が生じる。したがって、コンプレッサ33に対する作動流体の入口には、アキュムレータ(液分離機)が設けられることがある。
【0034】
しかし、作動流体の圧力損失を低減して熱輸送効率を高めるために、電動車両に搭載されるヒートポンプシステムでは、多くの場合、アキュムレータが省略される。このため、本実施形態のヒートポンプシステム100においても、コンプレッサ33(第1熱輸送回路13)は、アキュムレータを有しないものとする。一方、アキュムレータによらず、コンプレッサ33に流入させる作動流体を確実に気化し、液圧縮を生じさせないようにするために、ヒートポンプシステム100は、コンプレッサ33に流入させる作動流体の状態を管理する。
【0035】
特に、本実施形態のヒートポンプシステム100は、冷却回路11の冷媒温度Tを用いて、コンプレッサ33に流入させる作動流体の状態を管理する。具体的には、ヒートポンプシステム100では、冷却回路11の冷媒温度Tに対して閾値(以下、第1温度THという)が設定され、冷媒温度Tが第1温度TH以上であるときに限って、コンプレッサ33を始動可能となっている。この第1温度THは、局所的にはコンプレッサ33の始動可否を定めるが、実質的には、ヒートポンプシステム100全体の始動可否(ヒートポンプを開始できるか否か)を定めている。第1温度THは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。第1温度THは、例えば、約0℃である。
【0036】
水冷式コンデンサ34は、コンプレッサ33から流入する高温高圧の作動流体を、第2熱輸送回路14を流通する熱媒体(水)と熱交換させる。これにより、作動流体は、第2熱輸送回路14の熱媒体に熱を奪われ、低温高圧の状態となる。その結果、作動流体の全部または一部が凝縮(液化)する。一方、水冷式コンデンサ34における熱交換により、第2熱輸送回路14を流通する熱媒体の温度は上昇する。前述のとおり、作動流体が持つ熱は、電動パワートレーンで生じた熱を回収したものであるから、電動パワートレーンで生じた熱は、水冷式コンデンサ34を介して、第2熱輸送回路14に移動する。したがって、第1熱輸送回路13において、水冷式コンデンサ34は、熱交換器であり、かつ、作動流体の凝縮器である。
【0037】
なお、本実施形態では、第1熱輸送回路13は、上記のとおり、水冷式コンデンサ34を用いて、電動パワートレーンで生じた熱を加温対象10に移動させるが、これに限らず、第1熱輸送回路13は、水冷式コンデンサ34以外の熱交換器を用いて、電動パワートレーンで生じた熱を加温対象10に移動させることができる。例えば、第1熱輸送回路13は、水冷式コンデンサ34の代わりに、いわゆるインナーコンデンサ(空冷式コンデンサ)を配置することができる。
【0038】
この場合、この空冷式コンデンサ自体をヒータコアとして用いることで、ヒートポンプシステム100は、車室を暖房することができる。但し、水冷式コンデンサ34は、通常、空冷式コンデンサよりも熱交換効率が高いので、第1熱輸送回路13の凝縮器が水冷式コンデンサ34であるときには、電動パワートレーンで生じた熱の輸送効率が向上する。一方、コンプレッサ33がアキュムレータを有しないので、第1熱輸送回路13の凝縮器が水冷式コンデンサ34であるときには、液圧縮が生じやすい。
【0039】
レシーバ35は、水冷式コンデンサ34において凝縮することにより、低温高圧となった作動流体を一時的に貯留する。このとき、レシーバ35は、気体状態の作動流体と、液体状態の作動流体を分離する。そして、レシーバ35は、液体状態の作動流体を膨張弁36に送る。レシーバ35は、レシーバタンク、あるいは、リキッドタンク等とも称される。
【0040】
膨張弁36は、作動流体を膨張させ、低温低圧となった作動流体をチラー23に送り込む。膨張弁36は、例えば、サーモスタット膨張弁(TXV)、または、電子膨張弁(EXV)等である。
【0041】
第2熱輸送回路14は、水冷式コンデンサ34、加温対象10、及び、第2ポンプ37によって構成される。第2ポンプ37は、水冷式コンデンサ34と加温対象10との間で、熱媒体(冷媒)である水を循環させる。これにより、電動パワートレーンで生じた熱で、加温対象10が加温される。
【0042】
なお、本実施形態では、第2熱輸送回路14は、温度センサ38を含む。温度センサ38は、加温対象10の温度(以下、加温対象温度Tという)を計測する。コントローラ102は、加温対象温度Tを適宜に取得することができる。
【0043】
コントローラ102は、ヒートポンプシステム100を統括的に制御する制御装置である。具体的には、コントローラ102は、上記のように構成されるヒートポンプ回路101の動作を制御する。コントローラ102は、例えば、1または複数のコンピュータによって構成され、後述する各種態様でヒートポンプシステム100を動作させるようにプログラムされている。コントローラ102は、ヒートポンプシステム100を制御するコントローラ(制御装置)と一体的に構成される場合がある。
【0044】
本実施形態では、コントローラ102は、特に、d軸通電、目標冷媒温度T の設定、及び、冷却回路11の流路の切り替え(ヒートポンプシステム100のモード切り替え)に係る制御を行う。
【0045】
<d軸通電>
コントローラ102は、加温対象10を温める必要があるときに、いわゆるd軸通電によって、積極的に電動パワートレーンで熱を生じさせることができる。d軸通電は、回転電機21のd軸電流及びq軸電流のうち、d軸電流を選択的に増加させる通電制御である。d軸通電は、回転電機21の回転状態及び出力トルクを変えずに、電動パワートレーンの消費電力を増加させ、その結果、電動パワートレーンで生じる熱を増加させる。d軸電流について「増加させる」とは、既に回転電機21に流れているd軸電流を大きくすること、または、流れていないd軸電流を流すこと、をいう。d軸通電を行うと、回転電機21では例えば銅損や鉄損による熱が増大し、インバータ22では例えばスイッチング素子の導通損失による熱が増大する。
【0046】
本実施形態では、特に、d軸通電によって電動パワートレーンで生じさせる熱を、ヒートポンプシステム100で輸送し、加温対象10を温めるシーンについて説明する。典型的には、低温環境下で停車していた電動車両を使用するときに、バッテリの暖機や車室の暖房をする必要があるシーンである。また、別の典型例は、急速充電による充電効率を向上(最適化)することを目的として、電動車両が充電スポットに到着するまでに、ヒートポンプシステム100を用いてバッテリの温度を上昇させておく必要があるシーンである。
【0047】
なお、コントローラ102は、d軸通電を行う場合に、インバータ22で用いるキャリア周波数f(スイッチング周波数)を調節(変更)する場合がある。例えば、コントローラ102は、回転電機21の停止中にd軸通電を行う場合に、回転電機21を駆動するときのキャリア周波数fよりも高周波のキャリア周波数fでインバータ22を駆動する場合がある。
【0048】
<目標冷媒温度T の設定>
コントローラ102は、冷媒温度Tに対して目標(以下、目標冷媒温度T という)を設定する。特に、d軸通電によって電動パワートレーンに熱を生じさせ、その熱によって加温対象10を温めるときには、可能な限り短い時間で、冷媒温度Tが目標冷媒温度T に到達するように、d軸通電で増加させるd軸の電流量や冷却回路11の流路等を調整する。
【0049】
例えば、ヒートポンプシステム100によって加温対象10をする必要があるにもかかわらず、冷媒温度Tが、液圧縮を生じさせずにコンプレッサ33を始動し得る温度(すなわち第1温度TH)よりも低い場合、目標冷媒温度T は第1温度THに設定される。
【0050】
また、電動車両の走行中等、ヒートポンプシステム100によっていつでも加温対象10に必要な熱を輸送し得るときには、電動パワートレーンの冷却を考慮し、目標冷媒温度T は、実験またはシミュレーション等によって定める所定の温度範囲に設定される。そして、コントローラ102は、冷媒温度T1がこの温度範囲内に収まるように、電動パワートレーンやヒートポンプシステム100の各部の動作を制御(制限)する。本実施形態では、簡単のため、走行中等の通常時には、目標冷媒温度T は、第1温度THよりも高い特定の温度(以下、第2温度THという)に設定されるものとする。
【0051】
但し、急速充電等に備えてバッテリを加温しておく必要が生じた場合や、高出力の暖房が要求された場合、目標冷媒温度T は、上記の温度範囲(第2温度TH)を超える温度(以下、第3温度THという)に設定される。この第3温度THは、電動車両の状態(バッテリの温度や残量等)や電動車両への要求(暖房の出力要求や出力上昇要求)に応じて、適宜に設定される。すなわち、第3温度THは、電動車両の走行等に係る具体的な状況に応じて適宜に設定または変更(調整)される可変値である。したがって、第3温度THは、時間の経過やそれに伴う具体的な状況の変化によって変化する場合がある。
【0052】
本実施形態では、例えば、コントローラ102は、電動車両がおかれた具体的な状況に応じて、適宜に、加温対象温度Tについて目標となる温度(以下、目標加温対象温度T という)を決定する。そして、コントローラ102は、加温対象温度Tが目標加温対象温度T に到達するように第3温度THを設定する。
【0053】
例えば、残量が低下したバッテリを充電しなければならない場合、充電(急速充電)を効率良く行うためのバッテリ温度が、目標加温対象温度T となる。このため、コントローラ102は、バッテリの温度、及び、充電スポットまでの距離等に応じて、バッテリが充電スポットに到着するまでに目標加温対象温度T に到達し、充電に適した温度となるように、第3温度THを設定し、または、変更する。
【0054】
また、電動車両の乗員が暖房を要求した場合、その暖房要求に応えるためのヒータコア温度が、目標加温対象温度T となる。このため、コントローラ102は、できる限り迅速に、ヒータコアが目標加温対象温度T となるように、第3温度THを設定し、または、変更する。
【0055】
<冷却回路11の流路の切り替え>
コントローラ102は、冷媒温度Tと、回転電機温度Tと、に基づいて、冷却回路11の流路を切り替える。これにより、コントローラ102は、ヒートポンプシステム100の動作状態、すなわちモードを切り替える。ヒートポンプシステム100の動作モードは、冷却回路11の流路の状態に応じて、第1モードM、第2モードM、第3モードM及び第4モードMの4つのモードがある。
【0056】
図2は、第1モードMの冷却回路11を示すブロック図である。図2に示すように、第1モードMは、回転電機21に冷媒を流通させ、かつ、外部熱交換器24を冷却回路11から切り離してバイパス26に冷媒を流通させるモードである。すなわち、第1モードMは、外部熱交換器24を冷却回路11から切り離し、回転電機21及びインバータ22に冷媒を循環させるモードである。したがって、第1モードMでは、d軸通電を行うときに、回転電機21で生じた熱とインバータ22で生じた熱の両方が、加温対象10に輸送される。
【0057】
第1モードMは、冷却が不要な程度に電動パワートレーンが低温状態である場合に、d軸通電によって電動パワートレーンに熱を生じさせ、その熱で加温対象10を加温するときに選択される。本実施形態では、電動パワートレーンが低温状態であって、d軸通電の開始後、回転電機温度Tが冷媒温度T以上であるときに、第1モードMが選択される。
【0058】
図3は、第2モードMの冷却回路11を示すブロック図である。図3に示すように、第2モードMは、回転電機21を冷却回路11から切り離してバイパス28に冷媒を流通させ、かつ、外部熱交換器24を冷却回路11から切り離してバイパス26に冷媒を流通させるモードである。すなわち、第2モードMは、外部熱交換器24及び回転電機21を冷却回路から切り離し、インバータ22に冷媒を循環させるモードである。したがって、第2モードMでは、d軸通電を行うときに、回転電機21に生じた熱は回転電機21に留まり続け、インバータ22で生じた熱だけが、加温対象10に輸送される。
【0059】
第2モードMは、コンプレッサ33を始動させ得ないほど電動パワートレーンが低温状態(極低温状態)である場合に、d軸通電によって電動パワートレーンに熱を生じさせ、その熱で加温対象10を加温しようとするときに選択される。本実施形態では、電動パワートレーンが極低温状態であって、d軸通電の開始後、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときに、第2モードMが選択される。
【0060】
なお、第2モードMが選択されるときには、コントローラ102は、回転電機21及び外部熱交換器24を冷却回路11から切り離した上で、バルブ29(またはバルブ27)の開度を絞り、冷却回路11を流通する冷媒の流量を低下させる場合がある。
【0061】
図4は、第3モードMの冷却回路11を示すブロック図である。図4に示すように、第3モードMは、回転電機21に冷媒を流通させ、かつ、外部熱交換器24に冷媒を流通させるモードである。すなわち、第3モードMは、外部熱交換器24と回転電機21のどちらも冷却回路11から切り離すことなく、インバータ22、回転電機21、及び、外部熱交換器24に冷媒を流通させるモードである。したがって、第3モードMでは、d軸通電を行うときに、回転電機21で生じた熱とインバータ22で生じた熱の両方が、加温対象10に輸送される。但し、回転電機21で生じた熱とインバータ22で生じた熱の一部は、外部熱交換器24を介して外気に流出する。
【0062】
第3モードMは、電動車両が走行中である場合等、電動パワートレーンが熱を持ち、電動パワートレーンの冷却が必要なときに選択される。第3モードMが選択されるときには、原則として、ヒートポンプシステム100はいつでも加温対象10を加温し得る。但し、加温対象温度Tが目標加温対象温度T となるまでに、時間がかかる場合がある。本実施形態では、電動車両が走行中であるときには、原則として第3モードMが選択される。また、電動車両の走行中にd軸通電による熱輸送が必要になった場合、回転電機温度Tが冷媒温度T以上であれば、第3モードMが選択(継続)される。
【0063】
図5は、第4モードMの冷却回路11を示すブロック図である。図5に示すように、第4モードMは、回転電機21を冷却回路11から切り離してバイパス28に冷媒を流通させ、かつ、外部熱交換器24に冷媒を流通させるモードである。すなわち、第4モードMは、回転電機21を冷却回路11から切り離し、インバータ22及び外部熱交換器24に冷媒を流通させるモードである。したがって、第4モードMでは、d軸通電を行うときに、回転電機21に生じた熱は回転電機21に留まり続け、インバータ22で生じた熱だけが、加温対象10に輸送される。但し、インバータ22で生じた熱の一部は、外部熱交換器24を介して外気に流出する。
【0064】
第4モードMは、電動車両が走行中である場合等、電動パワートレーンが熱を持ち、電動パワートレーンの冷却が必要な状況下において、目標加温対象温度T が上昇したときに選択される。本実施形態では、電動車両の走行中にd軸通電による熱輸送が必要となったときに、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低ければ、第4モードMが選択される。
【0065】
但し、回転電機温度Tが、回転電機21の耐熱限界温度を超えるおそれがあるときには、第4モードMは選択されない。本実施形態では、コントローラ102は、回転電機温度Tに対して、耐熱限界温度を超えないようにするための耐熱閾値THOHを予め設定し、第4モードMを選択しようとするときには、回転電機温度Tを耐熱閾値THOHと比較する。そして、コントローラ102は、回転電機温度Tが耐熱閾値THOH未満であれば第4モードMを選択し、回転電機温度Tが耐熱閾値THOH以上であれば、第3モードMを継続する。耐熱閾値THOHは、例えば、急激にアクセルが全開とされ、高トルクが要求された場合でも、回転電機温度Tが直ちに耐熱限界温度を超えることがないように、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0066】
なお、第4モードMが選択されるときには、コントローラ102は、回転電機21を冷却回路11から切り離した上で、バルブ29(またはバルブ27)の開度を絞り、冷却回路11を流通する冷媒の流量を低減させる場合がある。
【0067】
以下、上記のように構成されるヒートポンプシステム100の作用を説明する。ここでは、一例として、極低温の状態からヒートポンプシステム100を始動し、その後、電動車両の走行中に、急速充電に備えてバッテリを加温するシーンについて説明する。
【0068】
図6は、極低温環境においてヒートポンプシステム100を始動する場合のフローチャートである。ここでは、電動車両が極低温環境で長時間停車していた場合等、冷媒温度Tが第1温度THよりも低いときに、バッテリを急速充電するシーンについて説明する。このような、極低温環境におかれて冷えたバッテリを急速充電すると、バッテリの負極に電析が生じ、正極と短絡してしまうおそれがある。したがって、極低温環境においてバッテリを急速充電するときには、ヒートポンプシステム100を始動して、バッテリを温める必要がある。
【0069】
一方、極低温環境においては、ヒートポンプシステム100が熱源とする電動パワートレーン及び冷却回路11の冷媒も冷えているので、ヒートポンプシステム100を始動するとコンプレッサ33で液圧縮が生じるおそれがある。このため、極低温環境においてヒートポンプシステム100を使用しようとするときには、まず、d軸通電によって、冷却回路11の冷媒を十分に温めてから、コンプレッサ33(ヒートポンプシステム100)を始動する必要がある。したがって、通常は、極低温環境においてヒートポンプシステム100で熱輸送を開始し、加温対象10であるバッテリの暖機開始までに、多くの時間を要する。そこで、本実施形態のヒートポンプシステム100では、以下のとおり、迅速にヒートポンプシステム100を始動させる。
【0070】
具体的には、図6に示すように、極低温環境でヒートポンプシステム100を始動しようとするときには、コントローラ102は、ステップS10において目標冷媒温度T を第1温度THに設定する。そして、コントローラ102は、ステップS11においてd軸通電を開始し、ステップS12において第1ポンプ25を始動させる。
【0071】
また、ステップS13では、コントローラ102は、回転電機温度Tと冷媒温度Tを取得し、これらを比較する。
【0072】
ステップS13において、回転電機温度Tが冷媒温度T以上である場合(T≧T)、ステップS14に進み、コントローラ102は、流路切り替えにより、ヒートポンプシステム100を第1モードMにする。すなわち、コントローラ102は、冷媒がインバータ22及び回転電機21の両方を循環するように、冷却回路11の流路を切り替える。
【0073】
一方、ステップS13において、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低い場合(T<T)、ステップS15に進み、コントローラ102は、ヒートポンプシステム100(冷却回路11)を第2モードMにする。すなわち、コントローラ102は、冷却回路11から回転電機21を切り離し、冷媒がインバータ22を循環するように、冷却回路11の流路を切り替える。
【0074】
これにより、回転電機温度Tが冷媒温度T以上であって、第1モードMが選択されたときには、冷却回路11の冷媒は、d軸通電によってインバータ22及び回転電機21で生じた熱によって温められる。また、回転電機温度Tが冷媒温度T未満であって、第2モードMが選択されたときには、d軸通電によってインバータ22で生じた熱によって冷媒が温められる。
【0075】
その後、コントローラ102は、ステップS16において冷媒温度Tが第1温度TH以上となったことを確認すると、ステップS17においてコンプレッサ33を始動し、ステップS18において第2ポンプ37を始動する。これにより、ヒートポンプシステム100は始動し、d軸通電で生じさせた熱によって加温対象10であるバッテリが温められる。なお、ステップS16において、冷媒温度Tが第1温度THよりも低いときには、ステップS13に戻り、コントローラ102は、回転電機温度Tと冷媒温度Tの大小関係に応じて適宜に第1モードMと第2モードMの切り替えを行う。
【0076】
図7は、極低温環境において回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときにヒートポンプシステム100の始動に要する時間を示すグラフである。回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低い場合、図7に示すように、第2モードMで冷媒温度Tが第1温度TH(目標冷媒温度T )に到達するまでの時間tは、第1モードMで冷媒温度Tが第1温度THに到達するまでの時間tよりも短い(t<t)。すなわち、極低温環境において回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときには、第1モードMにしておくよりも、第2モードMを選択する方が、迅速にヒートポンプシステム100(コンプレッサ33)を始動することができる。
【0077】
熱容量が大きく温まり難い回転電機21を冷却回路11に接続していると、d軸通電によって電動パワートレーンで熱を生じさせた熱は、回転電機温度Tが冷媒温度T以上となるまで、回転電機21よって奪われてしまう。一方、電動パワートレーンのうち、熱容量(体積)が小さく温まりやすいインバータ22にだけ冷媒を循環させれば、d軸通電によってインバータ22で生じた熱は、実質的にd軸通電の開始後すぐに、冷媒温度Tの上昇に寄与する。したがって、本実施形態のヒートポンプシステム100は、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときに第2モードMにすることにより、迅速にコンプレッサ33を始動させることができる。
【0078】
また、本実施形態では、回転電機温度Tが冷媒温度T以上となって、d軸通電によって生じさせた熱が回転電機21に奪われない状況となったときには、回転電機21を冷却回路11に再接続し、回転電機21にも冷媒を循環させる。これにより、d軸通電によって回転電機21が生じさせた熱も冷媒の温度上昇に寄与する。したがって、本実施形態のヒートポンプシステム100は、特に迅速に冷媒温度Tを上昇させ、コンプレッサ33が始動可能となるまでの時間を特に短縮することができる。
【0079】
図8は、ヒートポンプシステム100(コンプレッサ33)の始動後、加温対象10が目標加温対象温度T に到達するまでのフローチャートである。図8に示すように、ヒートポンプシステム100を始動し、バッテリへの熱輸送を開始しときには、コントローラ102は、ステップS20において、目標冷媒温度T を第3温度THに変更し、d軸通電を継続させる。ここでは、第3温度THは、d軸通電によって、バッテリを、電析が生じさせずに急速充電を行える温度にするための冷媒温度Tである。また、ステップS21において、コントローラ102は、回転電機温度Tと冷媒温度Tの比較を継続する。
【0080】
ステップS21において、回転電機温度Tが冷媒温度T以上であるときには、ステップS22に進み、コントローラ102は、モード変更の要否を判定する。
【0081】
ステップS22において現在のモードが第2モードMであるときには、ステップS23に進み、コントローラ102は、ヒートポンプシステム100のモードを第1モードMに変更する。一方、ステップS22において現在のモードが第1モードMであるときには、コントローラ102は、ステップS23をスキップし、第1モードMを継続させる。すなわち、ヒートポンプシステム100の始動後においても、回転電機温度Tが冷媒温度T以上であるときには、コントローラ102は、ヒートポンプシステム100のモードを第1モードMにする。
【0082】
一方、ステップS21において、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときには、ステップS24に進み、コントローラ102は、モード変更の要否を判定する。
【0083】
具体的には、ステップS24において現在のモードが第1モードMであるときには、ステップS25に進み、コントローラ102は、ヒートポンプシステム100のモードを第2モードMに変更する。一方、ステップS24において現在のモードが第2モードMであるときには、コントローラ102は、ステップS25をスキップし、第2モードMを継続させる。すなわち、ヒートポンプシステム100の始動後においても、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときには、コントローラ102は、ヒートポンプシステム100のモードを第2モードMにし、回転電機21を冷却回路11から切り離す。
【0084】
そして、ステップS26では、コントローラ102は、加温対象温度Tを目標加温対象温度T と比較する。すなわち、コントローラ102は、現在のバッテリ温度を、電析が生じさせずに急速充電を行えるバッテリ温度と比較する。
【0085】
ステップS26において加温対象温度Tが目標加温対象温度T よりも低いときには、ステップS21に戻り、コントローラ102は、回転電機温度T及び冷媒温度Tの比較やモード切り替えの判定を適宜に繰り返す。一方、ステップS26において加温対象温度Tが目標加温対象温度T 以上の温度となったときには、ステップS27に進み、コントローラ102は、d軸通電を終了させる。このとき、バッテリの暖機以外にヒートポンプシステム100による熱輸送が必要とされていない場合には、コントローラ102は、コンプレッサ33及び第2ポンプ37を停止させることができる。
【0086】
このように、コンプレッサ33の始動後においても、コントローラ102は、回転電機温度Tと冷媒温度Tの大小関係に応じて、ヒートポンプシステム100のモードを第1モードMと第2モードMとで切り替える。このため、ヒートポンプシステム100では、第1モードMを継続し続けてバッテリを加温する場合よりも迅速に、バッテリ温度を目標温度(目標加温対象温度T )まで上昇させることができる。これにより、極低温時の急速充電量が増加する。また、極低温環境におけるバッテリの出力性能が向上する。また、ヒートポンプシステム100の熱効率(エネルギー効率)が向上する。
【0087】
なお、図6及び図8では、通常、回転電機温度Tが耐熱閾値THOHを超えることがない状況であるため、回転電機温度Tと耐熱閾値THOHの比較を省略しているが、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低い場合でも、回転電機温度Tが耐熱閾値THOH以上であるときには、回転電機21を冷却回路11に接続することが好ましい。
【0088】
図9は、走行中におけるヒートポンプシステム100のモード切り替えを示すフローチャートである。図9に示すように、電動車両が走行中である場合等、電動パワートレーンが熱を持つときには、コントローラ102は、ステップS30において、ヒートポンプシステム100のモードを原則として第3モードMにする。このとき、コントローラ102は、冷媒温度Tが第2温度THに維持されるように、電動パワートレーン等を制御する。
【0089】
その後、バッテリの残量が低下し、充電(急速充電)が必要になったときには、コントローラ102は、急速充電に備えてバッテリを温めるために、ステップS31において目標冷媒温度T を第3温度THに設定する。また、ステップS32において、コントローラ102は、d軸通電及びヒートポンプシステム100による熱輸送を開始する。そして、ステップS33では、コントローラ102は、回転電機温度Tと冷媒温度Tを比較する。
【0090】
ステップS33において回転電機温度Tが冷媒温度T以上である場合、ステップS34に進み、コントローラ102は、ヒートポンプシステム100のモードを第3モードMに維持する。これにより、d軸通電によって回転電機21及びインバータ22で生じた熱の両方によって、バッテリが温められる。
【0091】
一方、ステップS33において回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低い場合、ステップS35に進む。ステップS35では、コントローラ102は、回転電機温度Tを、耐熱限界以下の温度に保つための耐熱閾値THOHと比較する。そして、回転電機温度Tが耐熱閾値THOHよりも低いときには、ステップS36に進み、コントローラ102は、ヒートポンプシステム100のモードを第4モードMに切り替える。すなわち、コントローラ102は、冷却回路11から回転電機21を切り離す。
【0092】
なお、ステップS35において、回転電機温度Tが耐熱閾値THOH以上であるときには、ステップS34に進み、第3モードMが維持される。これにより、回転電機21への冷媒の循環が維持され、回転電機21の冷却が継続される。
【0093】
その後、ステップS37では、コントローラ102は、例えば、冷媒温度Tを第3温度THと比較する。そして、ステップS37において冷媒温度Tが第3温度THよりも低いときには、ステップS33に戻り、コントローラ102は、回転電機温度Tと冷媒温度Tに基づくヒートポンプシステム100のモード切り替え判定を継続する。一方、ステップS37において冷媒温度Tが第3温度TH以上となったときには、その温度を維持するために、ステップS38に進む。そして、コントローラ102は、ステップS38においてヒートポンプシステム100のモードを第3モードに変更または維持し、ステップS39においてd軸通電を終了する。これにより、電動車両が充電スポットに到着するまでには、バッテリ温度は急速充電に適した温度(目標加温対象温度T )に到達する。
【0094】
このように、本実施形態のヒートポンプシステム100では、電動車両が走行中等であって、電動パワートレーンが熱を持っている場合でも、d軸通電によって電動パワートレーンに熱を生じさせ、その熱でバッテリ等の加温対象10を加温することができる。そして、電動車両の走行中等にd軸通電によってバッテリ等を加温する場合においても、ヒートポンプシステム100は、回転電機温度Tと冷媒温度Tの大小関係に応じて、ヒートポンプシステム100のモードを切り替え、適宜に、回転電機21を冷却回路11から切り離す。
【0095】
図10は、第3モードM及び第4モードMによる冷媒温度Tの変化を示すグラフである。ここでは、バッテリの残量が低下し、充電が必要になった時刻を「t」、電動車両が充電スポットに到着する時刻を「t」とする。
【0096】
図10に示すように、電動車両の走行中等においては、冷媒温度Tは第2温度THに維持される。その後、時刻tにバッテリの充電が必要と判定され、目標冷媒温度T が第3温度THに設定されたときに、第3モードMを維持していると、バッテリの残量や充電スポットまでの距離等によっては、充電スポットへの到着時刻tまでに、冷媒温度Tが第3温度THまで上がらない場合がある。すなわち、通常の第3モードMを維持したままでは、充電スポットの到着までに、バッテリ温度を急速充電に適した温度(目標加温対象温度T )に到達させることができない場合がある。これは、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときに、d軸通電によって生じさせた熱が回転電機の温度上昇に使われてしまうからである。
【0097】
一方、回転電機21が耐熱限界を超えない範囲内で、第4モードMに切り替え、回転電機21を冷却回路11から切り離すと、d軸通電によってインバータ22で生じさせた熱は、回転電機21に奪われることなくバッテリに輸送される。このため、上記のように、電動車両の走行中等であっても、回転電機温度Tと冷媒温度Tの大小関係に応じて、第3モードMから第4モードMへの切り替えを適宜に行うことにより、充電スポットに到着する前に、迅速に、冷媒温度Tを第3温度THまで上昇させ、バッテリを急速充電に適した温度にすることができる。
【0098】
また、本実施形態では、回転電機温度Tが冷媒温度T以上となって、d軸通電によって生じさせた熱が回転電機21に奪われない状況となったときには、回転電機21を冷却回路11に再接続し、回転電機21にも冷媒を循環させる。これにより、d軸通電によって回転電機21が生じさせた熱も冷媒及びバッテリの温度上昇に寄与する。したがって、本実施形態のヒートポンプシステム100は、特に迅速に、冷媒温度Tを第3温度THまで上昇させ、バッテリを急速充電に適した温度にすることができる。
【0099】
これにより、バッテリの急速充電量が増加する。また、ヒートポンプシステム100の熱効率(エネルギー効率)が向上する。
【0100】
なお、ここでは、電動車両の走行中に、ヒートポンプシステム100のモードを第3モードMと第4モードMで切り替える例を説明したが、これに限らない。回転電機21及びインバータ22が各々の耐熱温度を超えない範囲内であれば、第3モードMから第2モードMへの切り替えを行って、さらに、一時的に外部熱交換器24を冷却回路11から切り離してもよい。同様に、第4モードMの選択中に、一時的に第2モードMに切り替えてもよい。
【0101】
[変形例]
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0102】
図11は、第1変形例のフローチャートである。第1変形例は、極低温環境においてヒートポンプシステム100を始動するときに、インバータ22のキャリア周波数fを調節する例である。この場合、例えば、図11に示すように、上記実施形態(図6参照)のステップS10とステップS11の間に、ステップS50を挿入する。その他のステップは、上記実施形態と同様である。
【0103】
ステップS50では、コントローラ102は、インバータ22のキャリア周波数fを、回転電機21を駆動するときのキャリア周波数fよりも高周波のキャリア周波数fに変更する。すなわち、コントローラ102は、回転電機21を駆動するときに用いるインバータ22のキャリア周波数と比較して、d軸通電を行うときに用いるインバータ22のキャリア周波数を高周波数に設定する。これにより、コントローラ102は、スイッチング損を増加させ、d軸通電によって、インバータ22で、より多くの熱を生じさせる。
【0104】
このように、インバータ22のキャリア周波数fを高周波数に変更し、d軸通電によってインバータ22で生じる熱を増加させると、その分、冷媒温度Tの上昇が早くなる。その結果、上記実施形態よりもさらに迅速にヒートポンプシステム100(コンプレッサ33)を始動させることができる。
【0105】
なお、ここでは、極低温環境において回転電機21の回転を停止させた状態でヒートポンプシステム100を始動するときに、予め、インバータ22のキャリア周波数fを通常よりも高い周波数に変更する例を説明したが、これに限らない。例えば、ヒートポンプシステム100のモードを第2モードMに切り替えるときに限って、インバータ22のキャリア周波数fを通常よりも高い周波数に変更してもよい。
【0106】
また、ここでは、極低温環境において回転電機21の回転を停止させた状態でヒートポンプシステム100を始動するときに、インバータ22のキャリア周波数fを変更する例を説明したが、これに限らない。例えば、走行中にキャリア周波数fを変更である場合、走行中であっても、ヒートポンプシステム100によってd軸通電で生じた熱を加温対象10に輸送する必要が生じたときには、キャリア周波数fを通常よりも高い周波数に変更することが好ましい。また、第3モードMから第4モードM(あるいは第2モードM)に切り替えるときに限って、キャリア周波数fを通常よりも高い周波数に変更してもよい。
【0107】
図12は、第2変形例のフローチャートである。第2変形例は、極低温環境においてヒートポンプシステム100を始動するときに、冷却回路11における冷媒の流量を調節する例である。この場合、例えば、図12に示すように、ヒートポンプシステム100のモードを第2モードMに切り替えたときに、コントローラ102は、続けてステップS60を実行する。その他のステップは、上記実施形態と同様である。
【0108】
ステップS60では、コントローラ102は、回転電機21を冷却回路11から切り離した上で、バルブ29(またはバルブ27)の開度を絞り、冷却回路11に流通する冷媒の流量を低減させる。すなわち、コントローラ102は、回転電機21を駆動するときの冷媒の流量と比較して、d軸通電を行うときの冷媒の流量を低下させる。これにより、インバータ22と冷媒が接する時間が長くなる。その結果、インバータ22と接する部分にある冷媒に、d軸通電によってインバータ22で生じた熱がより多く移動しやすくなる。その結果、部分的に高温となった冷媒がチラー23に流れ込むことになるので、チラー23の上流で測る冷媒温度Tの上昇が早くなる。したがって、上記実施形態よりも、さらに迅速にヒートポンプシステム100(コンプレッサ33)を始動させることができる。
【0109】
なお、ヒートポンプシステム100のモードを第2モードMにするときに限って、冷却回路11を流通する冷媒の流量を低減させているが、これに限らない。例えば、極低温環境においてヒートポンプシステム100を始動するときには、第1モードMまたは第2モードMのどちらを選択するかにかかわらず、予め、冷却回路11を流通する冷媒の流量を低減させておいてもよい。
【0110】
また、ここでは、極低温環境においてヒートポンプシステム100を始動するときに、冷却回路11を流通する冷媒の流量を低減させているが、これに限らない。例えば、走行中であっても、ヒートポンプシステム100によってd軸通電で生じた熱を加温対象10に輸送する必要が生じたときには、回転電機21及びインバータ22の冷却に支障が生じない範囲内であれば、上記と同様に、冷却回路11を流通する冷媒の流量を低減させてもよい。
【0111】
上記の第1変形例及び第2変形例は、同時に実施することができる。
【0112】
なお、上記実施形態及び各変形例では、加温対象10がバッテリであるケースについて生じる作用等を説明したが、加温対象10がヒータコアであるときにも同様の作用等が得られる。具体的には、上記実施形態及び各変形例によってヒートポンプシステム100の始動やヒータコアの温度上昇が早まると、極低温時等における暖房性能(速暖性能)が向上する。また、暖房の熱効率(エネルギー効率)が向上する。
【0113】
以上のように、上記実施形態及び各変形例に係るヒートポンプシステムの制御方法は、回転電機21と回転電機21を駆動するインバータ22とを含む電動パワートレーンと、電動パワートレーンを冷却する冷却回路11と、冷却回路11と熱的に接続され、コンプレッサ33を用いて、電動パワートレーンで生じた熱を加温対象10に輸送する熱輸送回路12と、を備えるヒートポンプシステム100において、加温対象10を加温するときに、回転電機21のd軸電流を増加させるd軸通電によって電動パワートレーンで熱を生じさせる、ヒートポンプシステムの制御方法である。このヒートポンプシステムの制御方法では、回転電機21の温度である回転電機温度Tを取得し、冷却回路11を循環する冷媒の温度である冷媒温度Tを取得し、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときには、回転電機21を冷却回路11から切り離し、d軸通電によって、回転電機21及びインバータ22のうち、インバータ22で生じた熱を用いて冷媒温度Tを上昇させる。
【0114】
このように、d軸通電によって電動パワートレーンで生じさせた熱をヒートポンプシステム100で輸送して加温対象10を加温しようとするときに、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低い場合には回転電機21を冷却回路11から切り離すと、d軸通電によってインバータ22に生じさせた熱が、回転電機21に奪われなくなる。その結果、バッテリ等の加温対象を、従来よりも迅速に加温することができる。例えば、極低温環境においては、ヒートポンプシステム100の始動を早めることができる。電動車両の走行中等においても同様である。
【0115】
上記実施形態及び各変形例に係るヒートポンプシステムの制御方法では、冷媒温度Tに対して、コンプレッサ33の始動可否を定める第1温度THを設定し、冷媒温度Tが第1温度THよりも低く、かつ、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときに、回転電機21を冷却回路11から切り離し、d軸通電によってインバータ22で生じた熱を用いて冷媒温度Tが第1温度TH以上となったときに、コンプレッサ33を始動する。
【0116】
このように、冷媒温度Tが第1温度THよりも低い極低温環境においては、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときに、回転電機21を冷却回路11から切り離すことにより、特に、ヒートポンプシステム100の始動を早めることができる。その結果、バッテリ等の加温対象を、従来よりも迅速に加温することができる。
【0117】
上記実施形態及び各変形例に係るヒートポンプシステムの制御方法では、現在の冷媒温度Tがコンプレッサを始動させ得る温度(TH)以上であり、かつ、現在の冷媒温度T(=TH)よりも高い目標冷媒温度T (=TH)が設定されたときに、回転電機温度Tと冷媒温度Tを比較し、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときには、回転電機21を冷却回路11から切り離し、d軸通電によってインバータ22で生じた熱を用いて冷媒温度Tを目標冷媒温度T (=TH)に近づける。
【0118】
このように、現在の冷媒温度Tがコンプレッサを始動させ得る温度(TH)以上となる走行中等においても、現在の冷媒温度T(=TH)よりも高い目標冷媒温度T (=TH)が設定されたときには、d軸通電によって加温対象10を加温する必要が生じる。このため、上記のように、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときに回転電機21を冷却回路11から切り離すことにより、バッテリ等の加温対象10を、従来よりも迅速に加温することができる。
【0119】
上記実施形態及び各変形例に係るヒートポンプシステムの制御方法では、回転電機温度Tが冷媒温度T以上となったときには、冷却回路11から切り離された回転電機21を冷却回路11に再接続する。
【0120】
このように、回転電機温度Tが冷媒温度T以上となったときに、冷却回路11から切り離された回転電機21を冷却回路11に再接続すると、d軸通電によって回転電機21が生じさせた熱も冷媒及び加温対象10の温度上昇に寄与する。その結果、バッテリ等の加温対象10を、従来よりも迅速に加温することができる。
【0121】
上記実施形態及び各変形例に係るヒートポンプシステムの制御方法では、回転電機温度Tに対して耐熱閾値THOHを設定し、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低い場合でも、回転電機温度Tが耐熱閾値THOH以上であるときには、回転電機21を冷却回路11に接続する。
【0122】
これにより、冷却回路11から回転電機21を切り離し、一時的に回転電機21の冷却を停止させるタイミングを適切に判別できる。その結果、回転電機21をオーバーヒートさせることなく、ヒートポンプシステム100の始動や加温対象10の温度上昇のために、適切なタイミングで、冷却回路11から回転電機21を切り離すことができる。
【0123】
上記実施形態及び各変形例(特に第1変形例)に係るヒートポンプシステムの制御方法では、回転電機21を駆動するときに用いるインバータ22のキャリア周波数と比較して、d軸通電を行うときに用いるインバータ22のキャリア周波数を高周波数に設定する。
【0124】
このように、d軸通電を行うときに用いるインバータ22のキャリア周波数を高周波数に設定すると、スイッチング損を増加し、d軸通電によって、インバータ22で、より多くの熱が生じる。その結果、冷媒温度Tの上昇及び加温対象10の温度上昇が特に早くなる。
【0125】
上記実施形態及び各変形例(特に第2変形例)に係るヒートポンプシステムの制御方法では、回転電機21を駆動するときの冷媒の流量と比較して、d軸通電を行うときの冷媒の流量を低下させる。
【0126】
このように、d軸通電を行うときの冷媒の流量を低下させると、インバータ22と接する部分にある冷媒に、d軸通電によってインバータ22で生じた熱がより多く移動しやすくなる。その結果、部分的に高温となった冷媒がチラー23に流れ込むことになる。その結果、冷媒温度Tの上昇及び加温対象10の温度上昇が特に早くなる。
【0127】
上記実施形態及び各変形例に係るヒートポンプシステムの制御装置は、回転電機21と回転電機21を駆動するインバータ22とを含む電動パワートレーンと、電動パワートレーンを冷却する冷却回路11と、冷却回路11と熱的に接続され、コンプレッサ33を用いて、電動パワートレーンで生じた熱を加温対象10に輸送する熱輸送回路12と、を備えるヒートポンプシステム100において、加温対象10を加温するときに、回転電機21のd軸電流を増加させるd軸通電によって電動パワートレーンで熱を生じさせる、ヒートポンプシステムの制御装置(コントローラ102)である。このヒートポンプシステムの制御装置(コントローラ102)は、回転電機21の温度である回転電機温度Tを取得し、冷却回路11を循環する冷媒の温度である冷媒温度Tを取得し、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低いときには、回転電機21を冷却回路11から切り離し、d軸通電によって、回転電機21及びインバータ22のうち、インバータ22で生じた熱を用いて冷媒温度Tを上昇させる。
【0128】
このように、d軸通電によって電動パワートレーンで生じさせた熱をヒートポンプシステム100で輸送して加温対象10を加温しようとするときに、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低い場合には回転電機21を冷却回路11から切り離すと、d軸通電によってインバータ22に生じさせた熱が、回転電機21に奪われなくなる。その結果、バッテリ等の加温対象を、従来よりも迅速に加温することができる。
【0129】
上記実施形態及び各変形例に係るヒートポンプ回路は、回転電機21と回転電機21を駆動するインバータ22とを含む電動パワートレーンと、電動パワートレーンを冷却する冷却回路11と、冷却回路11と熱的に接続され、コンプレッサ33を用いて、電動パワートレーンで生じた熱を加温対象10に輸送する熱輸送回路12と、を含むヒートポンプ回路101である。このヒートポンプ回路101は、冷却回路11を循環する冷媒の回転電機21に対する入口と、回転電機21からの冷媒の出口と、を接続する流路であるバイパス28と、回転電機21の温度である回転電機温度Tが、冷却回路11を循環する冷媒の温度である冷媒温度Tよりも低いときに、バイパス28に冷媒を流すことによって、回転電機21を冷却回路11から切り離すバルブ29と、を備える。
【0130】
このように、ヒートポンプ回路101が、回転電機温度Tが冷媒温度Tよりも低い場合には回転電機21を冷却回路11から切り離す構成を備える場合、d軸通電によってインバータ22に生じさせた熱が、回転電機21に奪われなくなる。その結果、バッテリ等の加温対象を、従来よりも迅速に加温することができる。
【0131】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び各変形例で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0132】
10:加温対象,11:冷却回路,12:熱輸送回路,13:第1熱輸送回路,14:第2熱輸送回路,21:回転電機,22:インバータ,23:チラー,24:外部熱交換器,25:第1ポンプ,26:バイパス,27:バルブ,28:バイパス,29:バルブ,30:温度センサ,31:温度センサ,33:コンプレッサ,34:水冷式コンデンサ,35:レシーバ,36:膨張弁,37:第2ポンプ,38:温度センサ,100:ヒートポンプシステム,101:ヒートポンプ回路,102:コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12