(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025079066
(43)【公開日】2025-05-21
(54)【発明の名称】床版、及び、床版製造方法、並びに、床版接合構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20250514BHJP
E01D 19/06 20060101ALI20250514BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191485
(22)【出願日】2023-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(71)【出願人】
【識別番号】592179067
【氏名又は名称】株式会社ガイアート
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】尾花 英俊
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 輝康
(72)【発明者】
【氏名】仲野谷 渉
(72)【発明者】
【氏名】槇 駿介
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 修
(72)【発明者】
【氏名】清藤 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 遼
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 正之
(72)【発明者】
【氏名】山田 義人
(72)【発明者】
【氏名】久松 健一
(72)【発明者】
【氏名】原 健悟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康平
(72)【発明者】
【氏名】駄原 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】小野 友彰
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG45
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】床版間に生じる段差間の目地に施工される擦り付け接合部の上面となる擦り付け勾配面の勾配を緩くできるように構成された床版等を提供する。
【解決手段】本発明に係る床版10は、橋梁の桁の上に目地12を介して隣り合うように設置されて床版継手装置1により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製の床版であって、目地12と隣接する辺縁面11の上端縁側に、目地12と隣接して目地12を拡幅する目地拡幅部15を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の桁の上に目地を介して隣り合うように設置されて床版継手装置により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製の床版であって、
目地と隣接する辺縁面の上端縁側に、目地と隣接して目地を拡幅する目地拡幅部を備えたことを特徴とする床版。
【請求項2】
橋梁の桁の上に目地を介して隣り合うように設置されて床版継手装置により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製の床版であって、
目地と隣接する辺縁面側には、床版継手装置を構成する継手構成部材を、当該辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数備え、
かつ、
辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う継手構成部材と継手構成部材との間に位置される辺縁面の上端縁側に、目地と隣接して目地を拡幅する目地拡幅部を備えたことを特徴とする床版。
【請求項3】
床版継手装置は、一対の受部材とこれら一対の受部材を繋ぐ繋ぎ部材とを備えたものであって、
前記継手構成部材は、前記一対の受部材のうちの片方の受部材であることを特徴とする請求項2に記載の床版。
【請求項4】
目地拡幅部は、断面四角形状の切り欠き、又は、断面三角形状の切り欠き、又は、断面円弧状の切り欠きであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の床版。
【請求項5】
床版の上面と同一水平面上から目地拡幅部の下端までの垂直距離である目地拡幅部の深さ寸法は床版の厚さ寸法の1/2以下であり、床版の辺縁面と同一垂直面上から目地拡幅部の上端までの水平距離である目地拡幅部の幅寸法は100mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の床版。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の床版の製造方法であって、
床版成形用の型枠として、目地拡幅部となる目地拡幅部型抜き部を備えた型枠を用い、当該型枠内にコンクリートを充填することによって床版を製造したことを特徴とする床版の製造方法。
【請求項7】
橋梁の桁の上に目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版と他方の床版とが床版継手装置及び目地に充填された充填材により接合された床版接合構造であって、
一方の床版は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の目地拡幅部を備えた床版であり、
他方の床版は、目地と隣接する辺縁面側には、床版継手装置を構成する継手構成部材を、当該辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数備えた床版であり、
目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版の上面と他方の床版の上面との間には段差が生じており、
目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版の目地拡幅部と他方の床版の上面との間に充填材が充填されて形成された擦り付け接合部の上面は、傾斜面である擦り付け勾配面に形成されたことを特徴とする床版接合構造。
【請求項8】
橋梁の桁の上に目地を介して互いに隣り合うように配置された請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の床版を用いて当該床版同士が床版継手装置及び目地に充填された充填材により接合された床版接合構造であって、
目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版の上面と他方の床版の上面との間には段差が生じており、
目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版の目地拡幅部と他方の床版の目地拡幅部との間に充填材が充填されて形成された擦り付け接合部の上面は、傾斜面である擦り付け勾配面に形成されたことを特徴とする床版接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の桁の上に目地を介して隣り合うように設置される床版等に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の桁の上に目地を介して隣り合う各床版が床版接続用継手(機械式継手)等の床版継手装置を介して接合された床版接合構造が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
横断勾配が変化する橋梁においては、橋梁の橋軸方向に沿って桁の上に目地を介して隣り合うように設置される床版1枚毎に横断勾配が異なってくるため、隣り合う床版間の橋軸直角方向端部側において各床版の上面間に段差(高低差)が生じる。
例えば特許文献1に開示された機械式継手等の床版継手装置を用いて床版を接合する場合においては、目地の幅が、例えば10mm~20mm程度と狭く設定され、かつ、横断勾配の変化が大きい橋梁では、目地を介して隣り合う各床版の上面間の段差が20mm以上になる場合がある。
従って、上述した床版継手装置を用いて床版を接合する床版接合構造において、目地の幅が狭く、かつ、目地を介して隣り合う床版間の段差が大きい場合には、目地に充填材(目地材)を擦り付けて形成される擦り付け接合部の上面(擦り付け勾配面)の勾配は、急勾配となってしまう可能性がある。
また、床版の製造誤差、床版設置工事の施工時の施工誤差等が原因となって、目地を介して隣り合う床版間の段差が大きくなってしまう場合もあり、この場合も、擦り付け接合部の上面(擦り付け勾配面)の勾配が、急勾配となってしまう可能性がある。
例えば、
図12(a)に示すように、目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10Zの上面10tと他方の床版10Zの上面10tとの間に段差bが生じた場合において、
図12(b)に示すように、一方の床版10Zの上面10tと他方の床版10Zの上面10tとの間の目地12に充填材17が充填されて形成される擦り付け接合部18Zの上面は、高い位置に設置された床版10Zの上面10tと辺縁面11との境界縁11tから低い位置に設置された床版10Zの上面10tと辺縁面11との境界縁15tにかけて傾斜して下る傾斜面(勾配面)となる擦り付け勾配面SZに形成される。
尚、床版10Zは、例えば、橋梁の橋軸方向に沿って桁の上に目地12を介して隣り合うように設置されて床版継手装置により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製の床版であって、橋梁の橋軸直角方向に沿って延長して目地12と隣接する辺縁面11側には、床版継手装置を構成する一対の受部材のうちの片方の受部材(継手構成部材)を、辺縁面11の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数備えた構成となっている。
また、充填材17としては、例えば、コンクリートやモルタル等が使用される。
例えば、
図12(a)において、隣り合う床版10Z,10Z間の目地12の目地幅aが20mm、隣り合う床版10Z,10Zの上面10t,10t間の段差(高低差)bが25mmである場合、
図12(b)のように、目地12に充填材17を擦り付けて形成される擦り付け接合部18Zの上面となる擦り付け勾配面SZの勾配は、勾配θ=tan
-1(25/20)=51°となり、当該擦り付け勾配面SZは、急勾配の擦り付け面となる。
このように、擦り付け勾配面SZが急勾配となる擦り付け接合部18Zが施工された場合、以下のような課題が生じる可能性がある。
まず、急勾配の擦り付け勾配面SZを施工する場合、急勾配での擦り付け作業においては、急勾配部分で未だ固まらない充填材が流れ出し、急勾配での擦り付け作業に手間及び時間を要してしまう。
また、後工程の防水工の接着不良(擦り付け接合部18Zの角部からの防水層剥離)が生じ易くなり、当該接着不良が生じると、床版内への雨水浸入による、鉄筋腐食や、コンクリート剥落等を招く恐れがある。
さらに、維持管理段階では、アスファルト舗装打ち換え時に、重機バケットによるアスファルト剥ぎ取りを行うが、擦り付け接合部18Zの擦り付け勾配面SZの勾配が急勾配である場合、重機バケットがアスファルトと一緒に当該擦り付け接合部18Zの急勾配部分の充填材17を剥ぎ取ってしまうリスクがあり、この場合、床版の耐久性や耐力が低下してしまう。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、床版間に生じる段差間の目地に施工される擦り付け接合部の上面となる擦り付け勾配面の勾配を緩くできるように構成された床版等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る床版は、橋梁の桁の上に目地を介して隣り合うように設置されて床版継手装置により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製の床版であって、目地と隣接する辺縁面の上端縁側に、目地と隣接して目地を拡幅する目地拡幅部を備えたことを特徴とする。
また、本発明に係る床版は、橋梁の桁の上に目地を介して隣り合うように設置されて床版継手装置により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製の床版であって、目地と隣接する辺縁面側には、床版継手装置を構成する継手構成部材を、当該辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数備え、かつ、辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う継手構成部材と継手構成部材との間に位置される辺縁面の上端縁側に、目地と隣接して目地を拡幅する目地拡幅部を備えたことを特徴とする。
また、床版継手装置は、一対の受部材とこれら一対の受部材を繋ぐ繋ぎ部材とを備えたものであって、前記継手構成部材は、前記一対の受部材のうちの片方の受部材であることを特徴とする。
また、目地拡幅部は、断面四角形状の切り欠き、又は、断面三角形状の切り欠き、又は、断面円弧状の切り欠きであることを特徴とする。
また、床版の上面と同一水平面上から目地拡幅部の下端までの垂直距離である目地拡幅部の深さ寸法は床版の厚さ寸法の1/2以下であり、床版の辺縁面と同一垂直面上から目地拡幅部の上端までの水平距離である目地拡幅部の幅寸法は100mm以下であることを特徴とする。
本発明に係る床版によれば、辺縁面の上端縁側に目地拡幅部を備えた構成としたので、桁の上に目地を介して隣り合うように配置される床版間に生じる段差間の目地の幅を拡幅でき、当該拡幅された拡幅目地に施工される擦り付け接合部の上面である擦り付け勾配面の勾配を緩くできるので、床版間に生じる段差を緩和できるようになり、擦り付け接合部の施工の容易化、後工程の防水工の品質向上、床版の劣化抑制、維持管理段階での擦り付け接合部の破損防止等を図れるようになる。
また、本発明に係る床版の製造方法は、上述した床版の製造方法であって、床版成形用の型枠として、目地拡幅部となる目地拡幅部型抜き部を備えた型枠を用い、当該型枠内にコンクリートを充填することによって床版を製造したことを特徴とする。
また、本発明に係る床版接合構造は、橋梁の桁の上に目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版と他方の床版とが床版継手装置及び目地に充填された充填材により接合された床版接合構造であって、一方の床版は、上述の目地拡幅部を備えた床版であり、他方の床版は、目地と隣接する辺縁面側には、床版継手装置を構成する継手構成部材を、当該辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数備えた床版であり、目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版の上面と他方の床版の上面との間には段差が生じており、目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版の目地拡幅部と他方の床版の上面との間に充填材が充填されて形成された擦り付け接合部の上面は、傾斜面である擦り付け勾配面に形成されたことを特徴とする。
また、本発明に係る床版接合構造は、橋梁の桁の上に目地を介して互いに隣り合うように配置された上述の目地拡幅部を備えた床版を用いて当該床版同士が床版継手装置及び目地に充填された充填材により接合された床版接合構造であって、目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版の上面と他方の床版の上面との間には段差が生じており、目地を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版の目地拡幅部と他方の床版の目地拡幅部との間に充填材が充填されて形成された擦り付け接合部の上面は、傾斜面である擦り付け勾配面に形成されたことを特徴とする。
本発明に係る床版接合構造によれば、目地拡幅部を備えた床版を用いたことにより、擦り付け勾配面の勾配を緩くできて、床版間に生じる段差を緩和できるようになるので、擦り付け接合部の施工の容易化、後工程の防水工の品質向上、床版の劣化抑制、維持管理での擦り付け接合部の破損防止等を図れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】目地拡幅部付の床版が、橋梁において橋軸方向に沿って桁の上に目地を介して隣り合うように設置されて、隣り合うように設置された床版同士が床版継手装置により接続された状態を示す平面図(実施形態1)。
【
図2】橋梁用の床版の接続に使用される床版継手装置の一例を示す図であり、(a)は床版継手装置の分解斜視図、(b)は床版継手装置の斜視図(実施形態1)。
【
図3】目地拡幅部付の床版が、橋梁において橋軸方向に沿って桁の上に目地を介して隣り合うように設置された状態を示す平面図の拡大図(実施形態1)。
【
図5】床版の辺縁面側に設けられた受部材及び目地拡幅部を示す要部拡大斜視図(実施形態1)。
【
図6】(a)は隣り合うように設置された目地拡幅部付の床版間の段差及び拡幅目地を示す図、(b)は当該段差間の拡幅目地に施工された摩り付け接合部を示す図(実施形態1)。
【
図7】(a)は隣り合うように設置された床版の受部材の上方間の段差部分を示す図、(b)は当該段差部分に施工された擦り付け接合部を示す図(実施形態1)。
【
図8】(a)は隣り合うように設置された目地拡幅部付の床版間の段差及び拡幅目地を示す図、(b)は当該段差間の拡幅目地に施工された摩り付け接合部を示す図(実施形態2)。
【
図9】(a)は隣り合うように設置された目地拡幅部付の床版間の段差及び拡幅目地を示す図、(b)は当該段差間の拡幅目地に施工された摩り付け接合部を示す図(実施形態3)。
【
図10】(a)は一方の床版として目地拡幅部付の床版を用いたとともに他方の床版として目地拡幅部を有しない床版を用いた場合の床版間の段差及び拡幅目地を示す図、(b)は当該段差間の拡幅目地に施工された摩り付け接合部を示す図(実施形態4)。
【
図11】(a)は一方の床版として目地拡幅部付の床版を用いたとともに他方の床版として目地拡幅部を有しない床版を用いた場合の床版間の段差及び拡幅目地を示す図、(b)は当該段差間の拡幅目地に施工された摩り付け接合部を示す図(実施形態4)。
【
図12】(a)は隣り合うように設置された床版間の段差及び目地を示す図、(b)は当該段差間の目地に施工された摩り付け接合部を示す図(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1に示すように、実施形態1に係る床版10は、橋梁の橋軸方向Xに沿って図外の桁の上に目地12を介して隣り合うように設置されて床版継手装置1により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製の床版であって、床版継手装置1を構成する継手構成部材として、一対の受部材2,2…のうちの片方の受部材2を備えるとともに、目地拡幅部15を備えた床版10である。
尚、鉄筋コンクリート製の床版とは、例えば、鉄筋、又は、PC鋼線、又は、鉄筋及びPC鋼線を内蔵した床版である。
即ち、実施形態1に係る床版10は、橋梁の橋軸直角方向Yに沿って延長して目地12と隣接する辺縁面11側には、床版継手装置1を構成する一対の受部材2,2…のうちの片方の受部材(継手構成部材)2を、当該辺縁面11の長手方向(橋軸直角方向Y)に沿って所定の間隔を隔てて複数備えた構成となっている。
さらに、実施形態1に係る床版10は、辺縁面11の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う受部材(継手構成部材)2と受部材(継手構成部材)2との間に位置される辺縁面11の上端縁側に、目地12と隣接して目地12を拡幅する空間部となる上述した目地拡幅部15を備えた構成となっている。
【0008】
即ち、目地拡幅部15は、
図3,
図4,
図5に示すように、辺縁面11の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う受部材2と受部材2との間に位置される辺縁面11の上端縁側において当該辺縁面11の長手方向(
図3,
図4の左右方向)全領域に亘って連続するように形成された空間部により構成される。
当該目地拡幅部15を形成する空間部は、辺縁面11の上端縁角部が例えば断面四角形状に切欠かれて充填材17が充填される空間部となるように構成されている。
そして、一方の床版10の目地拡幅部15と他方の床版10の目地拡幅部15とが橋梁の橋軸方向Xに沿って目地12を介して隣り合うように、一方の床版10と他方の床版10とが設置されることによって、橋梁の橋軸直角方向Yに沿って隣り合う受部材2と受部材2との間の目地12の上に、一方の床版10の目地拡幅部15と他方の床版10の目地拡幅部15とで区画されて形成された拡幅目地12Xが構成されることになる。
従って、
図6(a)に示すように、目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10の上面10tと他方の床版10の上面10tとの間に段差(高低差)bが生じた場合においては、
図6(b)に示すように、一方の床版10の上面10tと他方の床版10の上面10tとの間の拡幅目地12Xに充填材17が充填されて形成される擦り付け接合部18の上面は、高い位置に設置された床版10の上面10tと目地拡幅部15との境界縁15tから低い位置に設置された床版10の上面10tと目地拡幅部15との境界縁15tにかけて傾斜して下る傾斜面(勾配面)となる擦り付け勾配面Sに形成されることになる。
即ち、拡幅目地12Xの目地幅が、目地12の目地幅aよりも広く設定されることになるため、拡幅目地12Xに充填材17が充填されて形成される擦り付け接合部18の上面である擦り付け勾配面Sの勾配は、
図12に示したような、目地12に充填材17が充填されて形成される擦り付け接合部18Zの上面である擦り付け勾配面SZの勾配よりも緩い勾配となる。
つまり、目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10の上面10tと他方の床版10の上面10tとの間の段差を緩やかな勾配の擦り付け勾配面Sで繋ぐことができるようになり、一方の床版10の上面10tと他方の床版10の上面10tとの間の段差を緩和できるようになる。
このように、実施形態1に係る床版10によれば、辺縁面11の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う受部材2と受部材2との間に位置される辺縁面11の上端縁側に、辺縁面11の長手方向に沿って連続する目地拡幅部15を備えているので、横断勾配が変化する橋梁において橋軸方向Xに沿って桁の上に目地12を介して隣り合うように配置される床版10,10間に生じる段差間の拡幅目地12Xに充填材17が充填されて擦り付け接合部18が施工された場合、床版10,10間に生じる段差間に形成される当該擦り付け接合部18の上面である擦り付け勾配面Sの勾配を緩くでき、床版10,10間に生じる段差を緩和できるようになる。
従って、実施形態1に係る床版10によれば、橋梁の橋軸方向Xに沿って桁の上に目地12を介して互いに隣り合うように配置された床版10,10同士が床版継手装置1及び目地12,12Xに充填された充填材17により接合された床版接合構造を構成した場合、上述した擦り付け接合部18の施工の容易化、後工程の防水工の品質向上、床版の劣化抑制、維持管理段階での擦り付け接合部18の破損防止等を図れるようになる。
【0009】
以下、実施形態1に係る床版10及び床版継手装置1を用いた床版接合構造について、詳細に説明する。
一例として
図1,
図2に示すように、床版継手装置1は、橋梁の橋軸方向Xに沿って隣り合う各床版10,10の辺縁面11,11側に設けられた各受部材2A(2),2B(2)と、隣り合う各床版10,10の辺縁面11,11側に設けられた各受部材2A(2),2B(2)を繋ぐ繋ぎ部材3とを備えて構成される。
図1に示すように、橋梁の橋軸方向Xに沿って隣り合う一方の床版10の辺縁面11側に設置された一方の受部材2A(2)と隣り合う他方の床版10の辺縁面11側に設置された他方の受部材2B(2)とが繋ぎ部材3により連結されることによって、隣り合うように配置された一方の床版10と他方の床版10とが連結される。
尚、
図1は、橋梁の橋軸方向Xに沿って桁の上に目地12を介して互いに隣り合うように配置された床版10,10が床版継手装置1により連結された状態を上方から見た平面図であり、当該平面図は、目地12に未だ充填材17が充填されていない状態での平面図である。
【0010】
図2に示すように、受部材2は、繋ぎ部材3に設けられた係合部7が係合する係合凹部4を備えた係合受部5と、床版10のコンクリートに定着される定着部6とを備える。
尚、当該床版継手装置1の受部材2は、例えば、型枠に鋳鉄を流し込んで係合受部5と定着部6とが一体成型された鋼製等の一体成型品により構成される。
【0011】
図2に示すように、繋ぎ部材3は、一方の受部材2の係合受部5に係合する一方の係合部7と、他方の受部材2の係合受部5に係合する他方の係合部7と、一方の係合部7と他方の係合部7とを繋ぐ連結部8とを備える。
即ち、繋ぎ部材3は、互いに隣り合う各床版10の各辺縁面11にそれぞれ設置された受部材2,2の各係合受部5,5の各係合凹部4,4に係合する一対の係合部7,7と、一対の係合部7,7を繋ぐ連結部8とを備えて構成される。
尚、繋ぎ部材3は、例えば、型枠に鋳鉄を流し込んで一対の係合部7,7と連結部8とが一体成型された鋼製等の一体成型品により構成される。
【0012】
受部材2の係合受部5は、例えば、底版51と妻壁52と側壁53と係合壁54とを備え、これら底版51と妻壁52と側壁53と係合壁54とで囲まれた係合凹部4を備える。
即ち、係合受部5は、底版51と、底版51より立ち上がるように設けられた妻壁52と、妻壁52の左右両側より延長するとともに底版51より立ち上がるように設けられた左右の側壁53,53と、左右の側壁53,53の延長端53e,53eより延長するともに底版51より立ち上がるように設けられた係合壁54とを備える。
【0013】
係合凹部4は、底版51と対向する上部開口であって係合部7を係合凹部4に挿入するための挿入口となる係合部挿入用開口41と、妻壁52と対向する開口であって連結部8を挿入するための挿入溝となる連結部挿入用開口42とを備える。
係合部挿入用開口41は、妻壁52の上端と左右の側壁53,53の上端と係合壁54の上端とで囲まれた開口であって、上方から繋ぎ部材3の係合部7を係合凹部4に挿入可能な開口により形成される。
連結部挿入用開口42は、係合壁54の左右間の中央部に形成されて係合部挿入用開口41から底版51側に連続して延長する溝であって、上方から繋ぎ部材3の連結部8を挿入可能な間隔の溝幅に形成される。
【0014】
床版10の辺縁面11側に埋設された受部材2の定着部6は、例えば、係合受部5の妻壁52の外面の左右の端部側から突出して床版10の板面に沿った方向(横(左右)方向)Hに間隔を隔てて設けられた2つの定着筋等の定着部材60A,60Aと,これら定着部材60A,60Aの終端同士を繋ぐ終端連結部材60Bとを備えた構成である。
【0015】
繋ぎ部材3の係合部7は、例えば、係合凹部4の内周壁に対向する外周壁を備えた構成であり、妻壁52の内壁面と左右の側壁53,53の内壁面とに対向する外壁面71を備えた固定部72と、係合壁54の内壁面54uに対向する内壁面73を備えた壁部74とを備えた構成である。
【0016】
係合部7の固定部72には、例えば当該固定部72を図外のボルト等の固定手段で係合受部5の底板51に固定するためのボルト挿入孔75が形成されている。
この場合、ボルト挿入孔75は、例えば、固定部72の上側に形成されたボルト頭収容締結用の凹部と、当該凹部の底面に形成されたボルト軸締結孔(雌ねじ孔)とを備えて構成される。
尚、固定部72及び固定手段としてのボルトを用いない構成としてもよい。
例えば、係合受部の係合壁の内壁面と係合部の壁部の内壁面との間に例えば図外のクサビ状の嵌入部材を固定手段として用いることで、繋ぎ部材の係合部と受部材の係合受部とが固定されるような構成等であって良く、要するに、繋ぎ部材の係合部と受部材の係合受部とを固定できる構成であれば、どのような構成であってかまわない。
【0017】
受部材2は、例えば係合凹部4の係合部挿入用開口41及び連結部挿入用開口42を外部に露出させた状態で係合受部5が床版10の辺縁面11に埋め込まれ、妻壁52から床版10の中央側に延長するように設けられた定着部6が床版10に埋め込まれている。
即ち、受部材2の係合凹部4の係合部挿入用開口41及び連結部挿入用開口42が外部に露出して他の部分が床版10のコンクリートに埋設されるように受部材2を図外の床版形成用の型枠に設置した後に当該型枠内にコンクリートを流し込んで硬化させることで、辺縁面11側に受部材2が設置された床版10が形成される。
換言すれば、
図3乃至
図5に示すように、受部材2は、係合部挿入用開口41及び係合部挿入用開口41の周囲の上面2tが露出し、かつ、連結部挿入用開口42及び係合壁54の外壁面54fが露出するように、床版10のコンクリートに埋設されていて、この露出する上面2tの上方は、繋ぎ部材3を挿入するための空間、及び、充填材17を充填するための空間として機能する上部開口空間部16に形成されている。
【0018】
尚、目地拡幅部15を備えた床版10は、例えば、以下のようにして製造すればよい。
床版成形用の型枠として、目地拡幅部15となる目地拡幅部型抜き部を備えた型枠を作製して、当該型枠内に、受部材2、鉄筋等を設置した後、型枠内にコンクリートを充填することによって、受部材2と受部材2との間に位置される辺縁面11の上端縁側に目地拡幅部15を備えた床版10を製造することができる。
尚、床版成形用の型枠としては、上述のように目地拡幅部15となる目地拡幅部型抜き部が予め形成された型枠を用いてもよいが、既存の床版成形用の型枠の内面の目地拡幅部15となる部分に目地拡幅部15の型抜き部となる角材等を取付けて構成された型枠を用いるようにしても構わない。
【0019】
そして、橋梁の橋軸方向Xに沿って隣り合う各床版10,10の辺縁面11,11側にそれぞれ埋設された受部材2,2の各係合凹部4,4の上方から繋ぎ部材3の各係合部7,7を各係合凹部4,4の上部の係合部挿入用開口41を介して各係合凹部4,4内に挿入するとともに、繋ぎ部材3の連結部8を各係合凹部4,4の連結部挿入用開口42に挿入していくことによって、例えば、一対の係合部7,7の各係合壁面73,73が左右の係合壁54,54の内壁面54u,54uにガイドされながら一対の係合部7,7がそれぞれ係合凹部4,4内に挿入される(
図2参照)。
さらに、係合凹部4内に挿入された係合部7を固定手段で固定することによって、繋ぎ部材3の係合部7と受部材2の係合受部5とが固定される。
以上により、互いに隣り合う床版10,10同士が床版継手装置1により連結される。
【0020】
互いに隣り合う床版10,10同士が床版継手装置1で連結された後、隣り合う各床版10,10の辺縁面11,11間の目地12に充填材17が充填されるとともに、互いに隣り合う床版10,10間における上端側における目地拡幅部15と目地拡幅部15との間で形成された拡幅目地12Xに充填材17が充填され、さらに、上部開口空間部16に充填材17が充填される。
【0021】
そして、
図6に示すように、拡幅目地12Xに充填された充填材17の上面が擦り付け勾配面Sに形成された擦り付け接合部18が施工されるとともに、
図7に示すように、橋梁の橋軸方向Xに沿って隣り合う上部開口空間部16,16に充填された充填材17の上面が擦り付け勾配面SAに形成された擦り付け接合部18Aが施工される。
尚、上部開口空間部16,16の橋軸方向Xに沿った幅(
図7の左右方向の幅)は、拡幅目地12Xの目地幅よりもさらに大きいので、擦り付け接合部18Aの擦り付け勾配面SAは、擦り付け接合部18の擦り付け勾配面Sよりも、さらに勾配の緩い勾配面に形成されることになる。
従って、当該上部開口空間部16,16の段差間に形成される擦り付け接合部18Aの施工の容易化、後工程の防水工の品質向上、床版の劣化抑制、維持管理段階での擦り付け接合部18Aの破損防止等を図れるようになる。
【0022】
以上により、橋梁の橋軸方向Xに沿って互いに隣り合う床版10,10同士が床版継手装置1及び充填材17により接合された床版接合構造が構成される。
【0023】
即ち、実施形態1に係る床版接合構造は、橋梁の橋軸方向Xに沿って桁の上に目地を介して互いに隣り合うように配置された実施形態1に係る床版10を用いて当該床版10,10同士が床版継手装置1及び目地に充填された充填材17により接合された床版接合構造であり、目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10の上面10tと他方の床版10の上面10tとの間には段差が生じており、目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10の目地拡幅部15と他方の床版10の目地拡幅部15とで構成された拡幅目地12Xに充填材17が充填されて形成された擦り付け接合部18の上面は、橋梁の橋軸方向Xに沿って傾斜する傾斜面、即ち、擦り付け勾配面Sに形成される。
【0024】
つまり、実施形態1に係る床版接合構造においては、上述した実施形態1に係る目地拡幅部15を備えた床版1を用いたので、隣り合う各床版10,10の目地拡幅部15,15の間に拡幅目地12Xが構成され、この拡幅目地12Xに充填されて形成される擦り付け接合部18の上面となる擦り付け勾配面Sとして、勾配が小さい緩勾配の擦り付け勾配面Sを形成できるようになる。
このように、拡幅目地12Xに充填されて形成される擦り付け勾配面Sとして、勾配角度が小さい緩勾配の擦り付け勾配面Sを形成できるようになり、床版10,10間に生じる段差を緩和できるようになる。
従って、実施形態1に係る床版接合構造によれば、擦り付け接合部18の施工の容易化、後工程の防水工の品質向上、床版の劣化抑制、維持管理段階での擦り付け接合部18の破損防止等を図れるようになる。
【0025】
尚、実施形態1に係る床版接合構造によれば、例えば、橋梁の橋軸方向Xに沿って桁の上に目地12を介して互いに隣り合うように配置された床版10,10間において、目地拡幅部15,15によって拡幅された拡幅目地12Xの目地の幅(接合部幅)が59mmであり、隣り合う床版10,10間の段差bが10mmであるとした場合、拡幅目地12Xに充填材17を充填して形成される擦り付け接合部18の上面となる擦り付け勾配面Sの勾配(%)は、10×100/59=約16.95となる。即ち、17%勾配(勾配角度θ=tan-1(17/100)×180/π=約9.65°)となり、緩勾配の擦り付け勾配面Sを形成できるようになる。
【0026】
実施形態2
目地拡幅部は、
図8に示すように、断面三角形状の切り欠きにより構成された目地拡幅部15Aであっても構わない。
即ち、当該目地拡幅部15Aは、床版1における橋梁の橋軸直角方向Yに沿って延長する辺縁面11の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う受部材2と受部材2との間に位置される辺縁面11の上端縁側に、当該辺縁面11の上端縁角部が断面三角形状に切欠かれて充填材17が充填される空間部となるように構成されている。
【0027】
実施形態3
目地拡幅部は、
図9に示すように、断面円弧形状の切り欠きにより構成された目地拡幅部15Bであっても構わない。
即ち、当該目地拡幅部15Bは、床版1における橋梁の橋軸直角方向Yに沿って延長する辺縁面11の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う受部材2と受部材2との間に位置される辺縁面11の上端縁側に、当該辺縁面11の上端縁角部が断面円弧形状(1/4円弧)に切欠かれて充填材17が充填される空間部となるように構成されている。
【0028】
実施形態2に係る床版10、当該床版10を用いた床版接合構造、実施形態3に係る床版10、当該床版10を用いた床版接合構造によれば、実施形態1に係る床版10、当該床版10を用いた床版接合構造と同じように、隣り合う各床版10,10の目地拡幅部15A,15Aの間、あるいは、目地拡幅部15B,15Bの間に、拡幅目地12Xが構成され、この拡幅目地12Xに充填されて形成される擦り付け接合部18の上面となる擦り付け勾配面Sとして、勾配が小さい緩勾配の擦り付け勾配面Sを形成できるようになるので、実施形態1と同様な効果が得られる。
【0029】
実施形態4
上述した各実施形態においては、橋梁の橋軸方向Xに沿って桁の上に目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10及び他方の床版10として、両方とも、目地拡幅部を有した床版10を用いた床版接合構造を例示したが、橋梁の橋軸方向Xに沿って桁の上に目地12を介して互いに隣り合うように配置された床版のうちの、一方の床版として上述した目地拡幅部を有した床版10を用い、他方の床版として目地拡幅部を有しない例えば
図12に示した従来の床版10Zを用いた床版接合構造としてもよい。
実施形態4に係る床版接合構造であっても、
図10,
図11に示すように、一方の床版10の目地拡幅部の分だけ目地12の橋軸方向Xの幅が拡幅された拡幅目地12Yを形成できるので、隣り合う床版10,10Z間に段差が生じた場合、拡幅目地12Yに充填材17が充填されて形成される擦り付け接合部18Yの上面となる摩り付け勾配面Sの勾配を緩くできるようになる。即ち、
図12に示した床版接合構造と比べて、勾配が小さい緩勾配の擦り付け勾配面Sを形成できるようになるので、上述した各実施形態と同じような効果が得られる。
尚、
図10は、目地拡幅部を有した床版10が低い側に設置された場合を例示し、
図11は、目地拡幅部を有した床版10が高い側に設置された場合を例示したものである。
【0030】
即ち、実施形態4は、橋梁の橋軸方向Xに沿って桁の上に目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10と他方の床版10Zとが床版継手装置1及び目地12,12Yに充填された充填材17により接合された床版接合構造であって、一方の床版として上述した目地拡幅部を備えた床版10を用いるとともに、他方の床版としては、橋梁の橋軸直角方向Yに沿って延長して目地12と隣接する辺縁面11側には、床版継手装置1を構成する一対の受部材2,2のうちの片方の受部材2を、当該辺縁面11の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数備えた床版10Z、即ち、上述した目地拡幅部を備えない構成の床版10Zを用いる。
そして、目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10の上面10tと他方の床版10Zの上面10tとの間には段差が生じており、目地12を介して互いに隣り合うように配置された一方の床版10の目地拡幅部と他方の床版10Zの上面10tとの間に形成された拡幅目地12Yに充填材17が充填されて擦り付け接合部18Yが施工され、当該擦り付け接合部18Yの上面が橋梁の橋軸方向Xに沿って傾斜する傾斜面(勾配面)となる擦り付け勾配面Sに形成された床版接合構造となっている。
【0031】
尚、
図6乃至
図12においては、左右の床版の下面の上下位置(レベル)が左右の床版間で揃っていない状態を図示しているが、本発明の床版接合構造においては、左右の床版の下面の上下位置(レベル)が、左右の床版間で揃わない場合もあれば、左右の床版間で揃う場合もある。
【0032】
上述した目地拡幅部15,15A,15Bの大きさは、以下のように設定することが好ましい。
例えば、床版10の上面10tと同一水平面上から目地拡幅部の下端までの垂直距離である目地拡幅部の深さ寸法は床版の厚さ寸法の1/2以下とし、さらに、床版10の辺縁面11と同一垂直面上から目地拡幅部の上端までの水平距離である目地拡幅部の幅寸法を
100mm以下とした。
即ち、目地拡幅部の深さ寸法は、床版10の厚さ寸法(板厚寸法)の1/2であれば、目地拡幅部に充填された充填材17のせん断抵抗と当該目地拡幅部の下方に位置する床版部分のせん断抵抗とを同程度にできる。
しかしながら、目地拡幅部の深さ寸法が床版の厚さ寸法の1/2を超えた場合には、目地拡幅部の下方に位置する床版部分のせん断抵抗が目地拡幅部に充填された充填材のせん断抵抗よりも小さくなる可能性があるため、目地拡幅部の深さ寸法は、100mmを上限とすることが好ましい。
以上の理由により、目地拡幅部の深さ寸法は、床版の厚さ寸法の1/2以下に設定するようにした。
尚、目地拡幅部の深さ寸法の最適範囲は、20mm~40mmである。即ち、充填材17として骨材を混入した充填材17を使用でき、かつ、充填材17と床版10との一体性が確保されやすくなるため、目地拡幅部の深さ寸法を、20mm~40mmに設定することが好ましい。
また、目地拡幅部の深さ寸法の最小値は、充填材17の付着に必要な寸法とすることが望ましく、かつ、目地拡幅部の深さ寸法の最大値は、鉄筋のかぶり厚さ以下の寸法とすることが望ましい。
目地拡幅部の幅寸法は、100mmとすれば、床版間の擦り付け勾配面の勾配を所望の勾配にすることが容易となり、例えば後述するように勾配20%以下にすることが容易となるため、目地拡幅部の幅寸法は、100mmを上限とすれば必要十分である。
以上の理由により、目地拡幅部の幅寸法は、100mm以下に設定するようにした。
尚、目地拡幅部の幅寸法の最適範囲は、50mm以下である。即ち、鉄筋かぶりを確保しやすくなるため、目地拡幅部の幅寸法を、50mm以下に設定することが好ましい。
また、目地拡幅部の幅寸法の最小値は、目地幅を大きくできる値であれば良く、特に制限されない。
【0033】
本願発明に係る床版は、例えば、隣り合う各床版間の間隔(目地12の目地幅)が10mm~40mmで、かつ、隣り合う各床版の上面間の段差が5mm以上10mm未満となる場合に、使用することによって、床版間の擦り付け勾配面の勾配を緩くできて、床版間に生じる段差を緩和できるので、効果的である。
【0034】
また、本発明においては、擦り付け接合部の施工の容易化、後工程の防水工の品質向上、床版の劣化抑制、維持管理段階での擦り付け接合部の破損防止等を図れるようにするため、床版間の擦り付け勾配面の勾配を20%以下にすることが好ましい。
尚、20%勾配は、勾配角度θに換算すると、θ=tan-1(20/100)×180/π=約11.3°である。
【0035】
尚、例えば、橋梁の橋軸直角方向Yを2等分して、走行車線用の床版を橋軸方向(車両進行方向)Xに沿って並べて接続する一期工事と、追越車線用の床版を橋軸方向(車両進行方向)Xに沿って並べて接続する二期工事とを分けて行う半断面施工(車線別床版取替工事)が知られている。
即ち、車線毎に床版を取り換える当該半断面施工においては、床版の橋軸直角方向Yに沿った辺縁面側に、当該辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて床版継手装置の受部材を配置するとともに、床版の橋軸方向Xに沿った辺縁面側にも、当該辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて床版継手装置の受部材を配置する必要がある。
従って、橋軸方向Xに沿った辺縁面の上端縁にも目地拡幅部を備えた床版を作製して、当該床版を半断面施工に用いるようにすれば、橋軸直角方向Yに沿って隣り合うように設置される床版間の段差部分に施工される擦り付け接合部の上面となる擦り付け勾配面の勾配を緩くできるようになり、当該橋軸直角方向Yに沿って隣り合うように設置される床版間の段差部分において上述した実施形態と同様な効果が得られるようになる。
【0036】
また、実施形態では、橋梁の桁の上に隣り合うように配置された一方の床版に設けられたC型金具と呼ばれるような一方の受部材と、橋梁の桁の上に隣り合うように配置された他方の床版に設けられたC型金具と呼ばれるような他方の受部材と、当該一方の受部材と他方の受部材とを繋ぐH型金具と呼ばれるような繋ぎ部材とを備えた構成の床版継手装置を用いた例を示したが、その他の構成の床版継手装置、例えば、以下のような構成の床版継手装置を用いても構わない。
即ち、橋梁の桁の上に隣り合うように設置された一方の床版に設けられたC型金具と呼ばれるような受部材と、橋梁の桁の上に隣り合うように配置された他方の床版に設けられたT型金具と呼ばれるような嵌合部材とを備えて、受部材の凹部に嵌合部材を嵌合することで、隣り合う床版同士を接続する構成の床版継手装置を用いても構わない。
この場合、本発明に係る床版は、目地と隣接する辺縁面側に、床版継手装置を構成する継手構成部材としてのC型金具と呼ばれるような受部材、又は、床版継手装置を構成する継手構成部材としてのT型金具と呼ばれるような嵌合部材を、当該辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数備え、辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う継手構成部材と継手構成部材との間に位置される辺縁面の上端縁側に、目地と隣接して目地を拡幅する目地拡幅部を備えた構成の床版となる。
あるいは、橋梁の桁の上に隣り合うように設置された一方の床版に設けられたボルトボックスと呼ばれるような凹部を有した一方の受部材と、橋梁の桁の上に隣り合うように配置された他方の床版に設けられたボルトボックスと呼ばれるような凹部を有した他方の受部材と、一方のボルトボックスと他方のボルトボックスとに跨るように設置されて一方の受部材と他方の受部材とを繋ぐ繋ぎ部材としての接合ボルトとを備えた構成の床版継手装置を用いても構わない。
この場合、本発明に係る床版は、実施形態で説明した床版と同様に、目地と隣接する辺縁面側に、床版継手装置を構成する継手構成部材としての受部材を、当該辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数備え、辺縁面の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて設けられた隣り合う継手構成部材と継手構成部材との間に位置される辺縁面の上端縁側に、目地と隣接して目地を拡幅する目地拡幅部を備えた構成の床版となる。
【0037】
また、本発明に係る床版は、橋梁の桁の上に目地を介して隣り合うように設置されてループ継手と呼ばれる床版継手装置により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製の床版にも適用可能である。
この場合、目地と隣接する辺縁面の上端縁側に、目地と隣接して目地を拡幅する目地拡幅部を備えた構成の床版となる。
【0038】
即ち、本願発明に係る床版としては、橋梁の桁の上に目地を介して隣り合うように設置されて床版継手装置により接続される四角形板状の鉄筋コンクリート製であって、目地と隣接する辺縁面の上端縁側に、目地と隣接して目地を拡幅する目地拡幅部を備えた構成であればよい。
【符号の説明】
【0039】
1 床版継手装置、2 受部材(継手構成部材)、10,10Z 床版、
11 床版の辺縁面、12 目地、12X,12Y 拡幅目地、
15,15A,15B 目地拡幅部、17 充填材、18,18Y 擦り付け接合部、
S 擦り付け勾配面。