(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007962
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】変異型TDP-43タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20250109BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20250109BHJP
A01K 67/027 20240101ALI20250109BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20250109BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250109BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250109BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20250109BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/864 100Z
A01K67/027
C07K14/47
C12N5/10
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108532
(22)【出願日】2023-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り <1> (1)発行日 2022年(令和4年)10月15日 (2)刊行物 第41回日本認知症学会学術集会 第37回日本老年精神医学会 合同開催 プログラム・抄録集 (3)公開者 勇 亜衣子、大谷 麗子、渡辺 亮平、野中 隆、東 晋二、新井 哲明、小野寺 理、長谷川 成人 (4)公開された発明の内容 勇 亜衣子、大谷 麗子、渡辺 亮平、野中 隆、東 晋二、新井 哲明、小野寺 理及び長谷川 成人が、第41回 日本認知症学会学術集会 第37回日本老年精神医学会 合同開催、プログラム・抄録集にて、野中 隆、高瀬 未菜及び長谷川 成人が発明した、「液-液相分離はTDP-43凝集体形成に関与するか?」(演題番号:PB06-1)について公開した。 <2> (1)開催日 2022年(令和4年)11月26日 (2)集会名: 第41回日本認知症学会学術集会 第37回日本老年精神医学会 合同開催 公開形式: ポスター発表 (3)公開者 勇 亜衣子、大谷 麗子、渡辺 亮平、野中 隆、東 晋二、新井 哲明、小野寺 理、長谷川 成人 (4)公開された発明の内容 勇 亜衣子、大谷 麗子、渡辺 亮平、野中 隆、東 晋二、新井 哲明、小野寺 理及び長谷川 成人が、第41回 日本認知症学会学術集会 第37回日本老年精神医学会 合同開催、ポスターにて、野中 隆、高瀬 未菜及び長谷川 成人が発明した、「液-液相分離はTDP-43凝集体形成に関与するか?」(演題番号:PB06-1)について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り <3> (1)発行日 2022年(令和4年)10月15日 (2)刊行物 第41回日本認知症学会学術集会 第37回日本老年精神医学会 合同開催 プログラム・抄録集 (3)公開者 高瀬 未菜、橋本 雅史、大谷 麗子、木村 妙子、毛内 拡、野中 隆、長谷川 成人 (4)公開された発明の内容 高瀬 未菜、橋本 雅史、大谷 麗子、木村 妙子、毛内 拡、野中 隆及び長谷川 成人が、第41回 日本認知症学会学術集会 第37回日本老年精神医学会合同開催、プログラム・抄録集にて、野中 隆、高瀬 未菜及び長谷川 成人が発明した、「アデノ随伴ウイルス発現系を用いた筋委縮性側索硬化症のモデル開発」(演題番号:PB06-5)について公開した。 <4> (1)開催日 2022年(令和4年)11月26日 (2)集会名: 第41回日本認知症学会学術集会 第37回日本老年精神医学会 合同開催 公開形式: ポスター発表 (3)公開者 高瀬 未菜、橋本 雅史、大谷 麗子、木村 妙子、毛内 拡、野中 隆、長谷川 成人 (4)公開された発明の内容 高瀬 未菜、橋本 雅史、大谷 麗子、木村 妙子、毛内 拡、野中 隆及び長谷川 成人が、第41回 日本認知症学会学術集会 第37回日本老年精神医学会合同開催、ポスターにて、野中 隆、高瀬 未菜及び長谷川 成人が発明した、「アデノ随伴ウイルス発現系を用いた筋委縮性側索硬化症のモデル開発」(演題番号:PB06-5)について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】野中 隆
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 未菜
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 成人
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA29
2G045AA40
4B063QA01
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4B063QQ79
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4B065BA01
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
(57)【要約】
【課題】変異型TDP-43タンパク質の提供。
【解決手段】野生型TDP-43のアミノ酸配列において核移行シグナル配列が欠失するとともに、以下の(a)~(c)のいずれかの変異又はこれらの組み合わせの変異を有する、変異型TDP-43タンパク質。
(a)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(b)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(c)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型TDP-43タンパク質のアミノ酸配列において核移行シグナル配列が欠失するとともに、以下の(a1)~(c2)のいずれかの変異又はこれらの組み合わせの変異を有する変異型TDP-43タンパク質であって、細胞内において凝集活性を有する、前記変異型TDP-43タンパク質。
(a1)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(a2)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第147番目及び149番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
(b1)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(b2)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第194番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
(c1)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(c2)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第229番目及び231番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
【請求項2】
野生型TDP-43タンパク質のアミノ酸配列が配列番号2、4、6又は8に示されるものである、請求項1に記載の変異型TDP-43タンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載の変異型TDP-43タンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
請求項3に記載のDNAを含むベクター。
【請求項5】
アデノ随伴ウイルスベクターである請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
請求項1に記載の変異型TDP-43タンパク質が非ヒト哺乳動物の脳に発現された、変異型TDP-43タンパク質蓄積モデル動物。
【請求項7】
請求項1に記載の変異型TDP-43タンパク質の凝集体が細胞に導入された、変異型TDP-43タンパク質蓄積モデル細胞。
【請求項8】
変異型TDP-43タンパク質の凝集体が請求項6に記載のモデル動物の脳由来のものである、請求項7に記載のモデル細胞。
【請求項9】
変異型TDP-43タンパク質の凝集体が、当該タンパク質の細胞内蓄積のシードとして機能するシード活性を有する、請求項8に記載のモデル細胞。
【請求項10】
請求項6に記載のモデル動物、又は請求項7に記載のモデル細胞に被検候補物質を接触又は投与することを特徴とする、神経変性疾患治療薬のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項6に記載のモデル動物、又は請求項7に記載のモデル細胞を含む、神経変性疾患治療薬のスクリーニング用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型TDP-43タンパク質、並びに当該タンパク質を含む変異型TDP-43蓄積モデル細胞及びマウスに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの神経変性疾患の患者脳などでは、その疾患を特徴づける細胞内凝集体が神経細胞やグリア細胞内に出現する。細胞内凝集体の主要な構成タンパク質は疾患ごとに異なっており、アルツハイマー病(AD)ではタウ、パーキンソン病(PD)やレビー小体型認知症(DLB)ではαシヌクレイン、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTLD)ではTDP-43がそれぞれの疾患特異的な細胞内凝集体の主要な構成タンパク質として同定されてきた。しかしながら、細胞内で特定のタンパク質が凝集するメカニズムに関しては殆ど明らかになっていない。このため、そのメカニズムの解明を目的として、タウ、αシヌクレインやTDP-43の細胞内蓄積を再現する種々のモデルが構築されているが、患者脳におけるタンパク質蓄積病理を忠実に再現するモデルは数少ない。TDP-43に関しては、FTLD患者脳におけるユビキチン陽性の細胞内凝集体の主要な構成タンパク質であることが2006年に報告されて以来(Arai et al, 2006およびNeuman et al, 2006)、数多くのTDP-43発現マウスが開発されてきた(Wils et al, 2010)。また、TDP-43蓄積細胞モデルについての研究も行われている(特許第5667872号)
しかしながら、患者脳に見られるリン酸化TDP-43の細胞内蓄積を十分に再現するモデルは今のところ報告されておらず、その開発が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Arai et al, Biochem Biophys Res Commun. 2006 Dec 22;351(3):602-11.
【非特許文献2】Neumann et al, Science. 2006 Oct 6;314(5796):130-3.
【非特許文献3】Wils H et al, Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Feb 23;107(8):3858-63.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景により、患者脳に見られるリン酸化TDP-43の細胞内蓄積を十分に再現するモデルの開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、野生型TDP-43の核移行シグナルを削除し、RNA結合ドメインの一部のアミノ酸を置換変異することにより、上記課題を解決することが可能となった。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 野生型TDP-43タンパク質のアミノ酸配列において核移行シグナル配列が欠失するとともに、以下の(a1)~(c2)のいずれかの変異又はこれらの組み合わせの変異を有する変異型TDP-43タンパク質であって、細胞内において凝集活性を有する、前記変異型TDP-43タンパク質。
(a1)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(a2)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第147番目及び149番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
(b1)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(b2)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第194番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
(c1)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(c2)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第229番目及び231番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
[2] 野生型TDP-43タンパク質のアミノ酸配列が配列番号2、4、6又は8に示されるものである、[1]に記載の変異型TDP-43タンパク質。
[3] [1]に記載の変異型TDP-43タンパク質をコードするDNA。
[4] [3]に記載のDNAを含むベクター。
[5] アデノ随伴ウイルスベクターである[4]に記載のベクター。
[6] [1]に記載の変異型TDP-43タンパク質が非ヒト哺乳動物の脳に発現された、変異型TDP-43タンパク質蓄積モデル動物。
[7] [1]に記載の変異型TDP-43タンパク質の凝集体が細胞に導入された、変異型TDP-43タンパク質蓄積モデル細胞。
[8] 変異型TDP-43タンパク質の凝集体が[6]に記載のモデル動物の脳由来のものである、[7]に記載のモデル細胞。
[9] 変異型TDP-43タンパク質の凝集体が、当該タンパク質の細胞内蓄積のシードとして機能するシード活性を有する、[8]に記載のモデル細胞。
[10] [6]に記載のモデル動物、又は[7]に記載のモデル細胞に被検候補物質を接触又は投与することを特徴とする、神経変性疾患治療薬のスクリーニング方法。
[11] [6]に記載のモデル動物、又は[7]に記載のモデル細胞を含む、神経変性疾患治療薬のスクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、変異型TDP-43タンパク質が提供される。本発明の変異型タンパク質が導入された細胞やマウスは、神経変性疾患のモデル細胞又はモデル動物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明における、核酸との結合能のない変異型TDP-43タンパク質におけるアミノ酸配列の変異導入位置を示す図である。
【
図2】TDP-43 FL変異体発現細胞の蛍光顕微鏡観察像である。
【
図3-1】TDP-43 FL変異体発現細胞のイムノブロット解析結果を示す図である。 プラスミド発現細胞を界面活性剤サルコシル存在下でホモジナイズして、その可溶性画分(Sar-sup)および不溶性画分(Sar-ppt)を解析した。リン酸化TDP-43特異抗体(anti-pS409/410)により、細胞内で蓄積したリン酸化TDP-43(赤矢印)がSar-ppt画分に検出された。
【
図3-2】TDP-43 FL変異体発現細胞のイムノブロット解析の結果を示す図である。プラスミド発現細胞を界面活性剤サルコシル存在下でホモジナイズして、その可溶性画分(Sar-sup)および不溶性画分(Sar-ppt)を解析した。リン酸化TDP-43特異抗体(anti-pS409/410)により、細胞内で蓄積したリン酸化TDP-43(赤矢印)がSar-ppt画分に検出された。
【
図5】TDP-43ΔNLS&FL-A発現AAVによるマウス脳でのTDP-43ΔNLS&FL-A発現を示す図である。TDP-43ΔNLS&FL-Aを神経細胞特異的に発現するAAVを成体マウス脳に接種して感染させた。AAV接種から1か月後に脳を摘出しイムノブロット解析を行った。回収したマウス右脳は界面活性剤の一種であるサルコシルを用いてホモジナイズした後に遠心分離を行い、サルコシル可溶性(Sar-sup)画分を得た。これらをヒトTDP-43特異抗体を用いてイムノブロットを行った。赤矢印:TDP-43ΔNLS&FL-A。1 x 10
9 vgのAAVを感染させたマウス(レーン1~5)では、目的のTDP-43ΔNLS&FL-Aの発現が認められ、1 x 10
8 vgのAAV感染マウスではその発現量は減少した(レーン6~10)。生理食塩水を接種したマウス(レーン11)では、その発現は確認できなかった。1~5:1 x 10
9 vgのAAVを感染させたマウス(計5匹)6~10:1 x 10
8 vgのAAVを感染させたマウス(計5匹)11:生理食塩水を接種したマウス
【
図6】TDP-43ΔNLS&FL-Aを発現させたマウス脳のイムノブロット解析を示す図である。TDP-43ΔNLS&FL-Aを神経細胞特異的に発現するAAVを成体マウス脳に接種して感染させた。AAV接種から1か月後に脳を摘出しイムノブロット解析を行った。回収したマウス右脳は界面活性剤の一種であるサルコシルを用いてホモジナイズした後に遠心分離を行い、サルコシル不溶性(Sar-ppt)画分を得た。これらをリン酸化TDP-43抗体を用いてイムノブロットを行った。赤矢印:TDP-43ΔNLS&FL-A。1 x 10
9 vgのAAVを感染させたマウスでは、(個体差はあるが)脳内で不溶化したTDP-43ΔNLS&FL-Aが認められた。1 x 10
8 vgのAAVあるいは生理食塩水を接種したマウスでは、TDP-43の蓄積は認められなかった。1~5:1 x 10
9 vgのAAVを感染させたマウス(計5匹)6~10:1 x 10
8 vgのAAVを感染させたマウス(計5匹)11:生理食塩水を接種したマウス
【
図7】TDP-43ΔNLS&FL-Aを発現させたマウス脳の免疫染色を示す図である。TDP-43ΔNLS&FL-Aを神経細胞特異的に発現するAAV(1 x 10
9 vg)を成体マウス脳に接種して感染させた。AAV接種から1か月後に脳を摘出し、その左脳をホルマリン固定した後にヒトTDP-43特異抗体を用いて免疫染色を行った。左脳を用いて免疫組織化学染色による解析を行った。その結果、海馬、内側後部頭頂皮質の神経細胞にTDP-43抗体陽性の染色像(茶色)が得られた。
【
図8】TDP-43ΔNLS&FL-Aを発現させたマウス脳におけるリン酸化TDP-43の凝集体形成を示す図である。TDP-43ΔNLS&FL-Aを神経細胞特異的に発現するAAV(1 x 10
9 vg)を成体マウス脳に接種して感染させた。AAV接種から1か月後に脳を摘出し、左脳を用いてリン酸化TDP-43特異抗体による免疫組織化学染色を行った。その結果、海馬、内側後部頭頂皮質の神経細胞にリン酸化TDP-43抗体陽性の細胞内凝集体(濃い茶色の染色像)が認められた。このような染色像は、生理食塩水を摂取したマウス脳では認められない。
【
図9】培養細胞を用いたAAV感染マウス脳サルコシル不溶性画分のシード活性を示す図である。TDP-43ΔNLSプラスミドを一過性に発現させたSH-SY5Y細胞に、TDP-43ΔNLS&FL-Aを発現するAAVを感染させたマウス脳から得られた不溶化TDP-43をシードとして添加した。細胞を回収した後、界面活性剤の一種であるサルコシルを用いて細胞をホモジナイズした後に遠心分離を行い、サルコシル不溶性(Sar-ppt)画分を得た。これらをリン酸化TDP-43抗体を用いてイムノブロットを行った。赤矢印:リン酸化TDP-431および2:未処理3:TDP-43ΔNLSプラスミドのみ発現4:TDP-43ΔNLSプラスミド発現+AAV感染後1ヶ月経過後のマウス脳の不溶化TDP-435:TDP-43ΔNLSプラスミド発現+AAV感染後3ヶ月経過後のマウス脳の不溶化TDP-436:TDP-43ΔNLSプラスミド発現+ALS患者脳より調製した不溶化TDP-43
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.概要
本発明は、野生型TDP-43のアミノ酸配列において核移行シグナル配列が欠失するとともに、以下の(a1)~(c2)のいずれかの変異又はこれらの組み合わせの変異を有する変異型TDP-43タンパク質であって、細胞内において凝集活性を有する、前記変異型TDP-43タンパク質に関する。
(a1)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(a2)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第147番目及び149番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
(b1)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(b2)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第194番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
(c1)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(c2)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第229番目及び231番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
【0010】
本発明者らは、RNAに結合できない変異型TDP-43を培養細胞に発現すると、それが細胞内においてリン酸化を受けて蓄積することを見出した。さらに、この変異型TDP-43をコードしたアデノ随伴ウイルス(AAV)を調製してマウス脳内に接種すると、脳内においてリン酸化TDP-43陽性の細胞内凝集体が観察されることを確認した。この新たな変異型TDP-43を発現するマウスモデルは、細胞内でTDP-43が蓄積するメカニズムの解明のみならず、ALSやFTLDなどの治療薬・予防法の開発にも有用と考えられる。
【0011】
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:ALS)や一部の前頭側頭葉変性症(Frontotemporal lobar degeneration:FTLD)には、TDP-43からなる細胞内凝集体が神経細胞やグリア細胞に認められる。TDP-43は核に局在するRNA結合タンパク質の一種であるが、患者脳ではリン酸化やユビキチン化といった翻訳後修飾を受けて細胞質や核内に蓄積している。これまでにTDP-43の蓄積機構を明らかにするために、数多くの遺伝子改変マウスなどが作製されてきたが、ALSやFTLD患者脳で観察されるTDP-43病理を十分に再現するモデルは未だ開発されていない。
【0012】
本発明では、アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus:AAV)発現系を用いてマウス脳に変異型TDP-43を発現させ、患者脳などに出現するTDP-43の異常病変を忠実に再現するモデルの開発を目的とする。変異型TDP-43を発現するAAVをマウス脳に接種し、数カ月後に脳を摘出して免疫組織化学染色や生化学解析を行った。その結果、脳内にリン酸化TDP-43抗体陽性の細胞内凝集体が観察されると共に、リン酸化TDP-43の不溶化が生化学的に確認された。
【0013】
これらのマウス脳より調製した不溶化TDP-43凝集体をTDP-43発現培養細胞に導入すると、不溶化TDP-43凝集体がシードとして機能して、培養細胞内でTDP-43の蓄積が亢進した。本研究で構築したリン酸化TDP-43が脳内に蓄積するマウスは、TDP-43の細胞内蓄積のメカニズムの解明やTDP-43蓄積を抑制する化合物などの治療薬開発に利用できる。またこのマウス脳より調製した不溶化TDP-43はその蓄積を誘導するシードとして機能することから、TDP-43蓄積を伴う細胞モデルなどの構築に利用可能であり、従来の患者脳由来シードに代わる新たなツールとして有用と考えられる。
【0014】
本発明者らは、TDP-43のRNA結合能と凝集性との関連を調べる目的で、TDP-43のRNA結合ドメインに変異を導入した変異体を複数作製し、それらの効果について検討した。
【0015】
TDP-43に関しては、RNA結合ドメインに存在するいくつかのPheをLeuに置換するとその核酸結合能が消失することが報告されている(
図1、Buratti and Baralle, 2001)。そこでいくつかのPheをLeuに置換した変異体(FL変異体、
図1)を作製して培養細胞に一過性に発現させたところ、147および149残基目のPheを共にLeuに置換した変異体(FL-A)を発現した細胞において、リン酸化TDP-43抗体陽性の細胞内凝集体が最も多く観察された(
図2)。
【0016】
さらにFL変異体発現細胞ライセートの生化学解析では(
図3)、FL-A変異体発現細胞において、界面活性剤サルコシル(Sar)不溶性画分(Sar-ppt)にリン酸化TDP-43抗体陽性バンドが認められ、この変異体が細胞内で凝集することが確認された。またFL変異と共に核移行シグナル(NLS)の欠損変異(ΔNLS)を有する変異体(ΔNLS&FL-ABC)発現細胞では、FL-A変異体の発現細胞に比べて、リン酸化TDP-43の著しい細胞内蓄積が観察された。また
図3-2より、それぞれのFL変異の凝集性に対する効果はFL-Aのみに依存し、FL-BおよびCの変異効果は非常に低いことがわかった。
【0017】
以上の結果より、TDP-43の核酸結合能に関与するFL変異体を培養細胞に発現すると、細胞内でリン酸化TDP-43の蓄積が生じることが明らかになった。またFL変異(
図1)のうちFL-AでTDP-43の細胞内蓄積が最も多く認められ、さらにNLSを除去した変異を導入することによりその蓄積が大幅に増加することを考慮して(
図3)、その2つの変異を導入したTDP-43 ΔNLS&FL-Aという新たな変異体を作製し、これをマウス脳に発現させると、マウス脳においてもリン酸化TDP-43の細胞内蓄積が生じるかについて検討した。
【0018】
常法に従って、HEK293細胞を用いてTDP-43 ΔNLS&FL-Aを発現するAAVウイルス(セロタイプ:AAV-PHP.eB)を作製した。プラスミドを導入した細胞の培地を回収し、限外濾過法によりウイルス液を濃縮し、その濃度をリアルタイムPCR法により測定した。得られたウイルスの1.0×10
8 vgあるいは 1.0×10
9 vgを成体マウス脳の両側の線条体に接種した。ウイルスの接種から1か月あるいは3ヶ月後に脳を摘出し、右脳を生化学解析(イムノブロット)、左脳を免疫組織化学解析に供した(
図4)。
【0019】
感染後1ヶ月のマウス脳(右脳)をサルコシルを含む緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離した上清(可溶性画分:Sar-sup)および沈殿(不溶性画分:Sar-ppt)を回収し、これらをイムノブロット解析に供した。
図5に示したSar-sup画分の解析より、ウイルス感染させたマウスにおいて目的のTDP-43 ΔNLS&FL-Aの発現が認められた(
図5の赤矢印のバンド)。この発現量はマウス脳に接種したウイルス量に依存しており、1.0×10
9 vgのAAVを感染させたマウス脳においてより多い発現が観察された。一方で、ウイルスの代わりに生理食塩水を接種したマウスではその発現は見られなかった。
【0020】
次いで、
図6に示したSar-ppt画分のイムノブロット結果では、1.0×10
9 vgのAAVを感染させたマウス脳のサルコシル不溶性画分にリン酸化TDP-43特異抗体陽性のバンドが確認された(赤矢印)。そのバンド強度は個体により差が見られたが、生理食塩水や1.0×10
8 vgのAAVを感染させたマウス脳ではこれらのバンドは検出されなかった。以上の結果より、AAV感染により脳内で発現したTDP-43 ΔNLS&FL-Aは細胞内でリン酸化を受けて凝集することが明らかとなった。
【0021】
上述のAAV感染マウス脳の生化学解析の結果より、TDP-43 ΔNLS&FL-Aの発現は1.0×109 vgのウイルスを感染させたマウスで顕著に観察されたことから、これらのマウス脳の免疫組織化学解析を行った。1.0×109 vgのAAVを感染させて1ヶ月後にマウス脳を摘出し、その左脳をホルマリン固定した。その後、パラフィンブロックを作製し、超薄スライス切片(8 μmの厚さのスライス)を作製し、ヒトTDP-43特異抗体およびリン酸化TDP-43特異抗体で染色した。
【0022】
その結果、
図7に示したように、海馬、内側後部頭頂皮質などにおいて、AAVウイルス感染によりTDP-43 ΔNLS&FL-Aの発現が認められた。また患者脳内で出現するリン酸化TDP-43凝集体と特異的に反応するリン酸化TDP-43特異抗体を用いてAAV感染マウス脳の切片を染色したところ、海馬や内側後部頭頂皮質などにおいて、リン酸化TDP-43特異抗体陽性の染色像が観察された(
図8)。
【0023】
以上の結果より、このAAV感染マウス脳において、リン酸化TDP-43 ΔNLS&FL-Aが細胞内で凝集体を形成することが示され、患者脳のTDP-43病理を忠実に反映する新規マウスモデルが構築できたことが明らかとなった。
【0024】
ALSやFTLD患者脳で蓄積したTDP-43にはプリオン様の性質が備わっていることが報告されている(Nonaka et al, 2013)。すなわち、患者脳よりサルコシル不溶性画分として調製した不溶化TDP-43を、TDP-43 NLSを発現した培養細胞内に導入すると、それがシードとして機能して細胞内でTDP-43 ΔNLSの凝集を誘導するのである(
図9レーン6)。そこで、AAVを感染させたマウス脳で凝集したTDP-43 ΔNLS&FL-Aが同様にプリオン様の性質を有するかどうか、すなわちシードとして機能するかどうかについて検討した。
【0025】
AAV感染マウス脳から調製したサルコシル不溶性画分(
図6のレーン4など)に50μLの生理食塩水を加えて超音波処理したものを、不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aとして用いた。予めTDP-43 ΔNLSを発現したSH-SY5Y細胞に、5μLの不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aをマルチフェクタム試薬(プロメガ)と共に添加した。数日間インキュベートした後に細胞を回収し、サルコシルを含む緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離を行ってサルコシル不溶性画分(Sar-ppt)を得た。これをリン酸化TDP-43特異抗体を用いたイムノブロット解析に供した。培養細胞にTDP-43 ΔNLSを単独で発現させても、細胞内で蓄積することはなく、したがってSar-ppt画分にはバンドはほとんど認められない(
図9レーン3)。
【0026】
一方で、ALS患者脳より調製した不溶化TDP-43をシードとして細胞に添加すると、それがシードとして機能して、細胞内でTDP-43 ΔNLSの蓄積を誘導する(
図9レーン6)。同様に、AAVを感染させたマウス脳より調製した不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aを細胞に添加すると、Sar-ppt画分にリン酸化TDP-43特異抗体陽性のバンドが出現した(
図9レーン4および5)。したがって、AAV感染マウス脳で認められた不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aは、患者脳で観察される不溶化TDP-43と同様にプリオン様性質を有することが明らかとなった。
【0027】
一方で、
図3に示したようにTDP-43 FL-AあるいはΔNLS&FL変異体を培養細胞に一過性に発現させると、それらの変異型TDP-43が細胞内で蓄積する。申請者らは、培養細胞内で不溶化したTDP-43がシードとして機能するかについても検討したが、これらはシードとして機能しなかった。これらの変異型TDP-43はマウス脳で発現したタイプとほぼ同じであるが、マウス脳に蓄積した不溶化TDP-43のみがシード活性を有していた。
【0028】
これまで、培養細胞などで細胞内TDP-43の蓄積を効率よく誘導できるシードとしては患者脳由来の不溶化TDP-43のみであり、その利用は限られていた。それに加えて、患者脳を用いるということで倫理的な問題も発生するため、多くの研究者が利用できる状況ではなく、このため誰もが容易に利用可能な研究試薬としてのツールが望まれていた。
【0029】
本発明で見いだされたTDP-43 ΔNLS&FL-A発現マウスでは、AAV感染後1ヶ月という早い期間でTDP-43 ΔNLS&FL-Aがマウス脳で蓄積するのみならず、その不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aは、患者脳で認められる不溶化TDP-43と同様にプリオン様活性を有することが判明し、この不溶化タンパク質が研究用ツールとして利用できることが示された。このTDP-43 ΔNLS&FL-Aが脳内で蓄積するマウスは、TDP-43の蓄積を伴う神経変性疾患の発症メカニズムの解明や、ALSやFTLDなどの新規な治療薬の開発に貢献できる。
【0030】
参考文献
Arai et al, Biochem Biophys Res Commun. 2006 Dec 22;351(3):602-11.
Buratti and Baralle, J Biol Chem. 2001 Sep 28;276(39):36337-43.
Neumann et al, Science. 2006 Oct 6;314(5796):130-3.
Nonaka et al, Cell Rep. 2013 Jul 11;4(1):124-34.
Watanabe et al, Acta Neuropathol Commun. 2020 Oct 28;8(1):176.
Wils H et al, Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Feb 23;107(8):3858-63.
【0031】
2.変異型TDP-43タンパク質
本発明の変異型TDP-43タンパク質(単に「変異型TDP-43」又は「変異体」ともいう)は、野生型TDP-43のアミノ酸配列(例えばヒトの場合は配列番号2)において核移行シグナル配列が欠失するとともに、以下の(a1)~(c2)のいずれかの変異又はこれらの組み合わせの変異を有する変異型TDP-43タンパク質である。
(a1)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(a2)第147番目及び149番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第147番目及び149番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
(b1)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(b2)第194番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第194番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
(c1)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換した変異
(c2)第229番目及び231番目のフェニルアラニンがロイシンに置換するとともに当該第229番目及び231番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異
当該変異型TDP-43タンパク質は、細胞内においてはリン酸化され、凝集活性を有する。
【0032】
ここで「核移行シグナル配列」(nuclear localization signal/sequence、NLS)とは、タンパク質を細胞核へ輸送する目印となるアミノ酸配列を意味し、「核局在化シグナル」又は「核局在化配列」ともいう。本明細書においては、単に「NLS」と表示することもある。野生型TDP-43のアミノ酸配列(ヒトの場合は配列番号2)において、NLSは第78番~第84番のアミノ酸配列であり、本発明の変異型TDP-43タンパク質においては、このNLSを欠失させている。
【0033】
本発明においては、上記(a1)の変異(F147L及びF149L)を有する変異体を「FL-A」という。
ここで、変異箇所の数字の前後のアルファベットは、それぞれ変異前のフェニルアラニン(F)、変異後のロイシン(L)を表し、数字はその変異の存在位置を表す。
上記(b1)の変異(F194L)を有する変異体を「FL-B」という。
上記(c1)の変異(F229L及びF231L)を有する変異体を「FL-C」という。
そして、(a1)と(b1)との組み合わせの変異を有する変異体を「FL-AB」、(a1)と(c1)との組み合わせの変異を有する変異体を「FL-AC」、(b1)と(c1)との組み合わせの変異を有する変異体を「FL-BC」、(a1)と(b1)と(c1)との組み合わせの変異を有する変異体を「FL-ABC」という。
【0034】
また本発明においては、(a2)上記(a1)の変異に加えて当該第147番目及び149番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異を有する変異型TDP-43、(b2)上記(b1)の変異に加えて当該第194番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異を有する変異型TDP-43、及び、(c2)上記(c1)の変異に加えて当該第229番目及び231番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異を有する変異型TDP-43も含まれる。
【0035】
さらに本発明においては、上記(a1)~(c2)の変異をそれぞれ単独で有する場合の変異型TDP-43ほか、これらの組み合わせの変異を有する変異型TDP-43も含まれる。
但し、これらの変異型TDP-43は、細胞内において凝集活性を有している。
ここで、アミノ酸の変異数を表す「数個」とは、例えば2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個又は9個を意味する。
本発明において、変異の対象となるTDP-43として上記ではヒトTDP-43(配列番号2)を例示したが、さらに他の哺乳動物由来のTDP-43に変異を加えることができる。
【0036】
ヒトTDP-43及び他の哺乳動物由来の変異箇所に対応する変異箇所を、以下の表1に示す。
【表1】
【0037】
ここで、変異箇所のアルファベットのFはフェニルアラニンを表し、番号はそのフェニルアラニンの存在位置を表す。
【0038】
3.変異型TDP-43タンパク質をコードする核酸
(1)変異型TDP-43タンパク質をコードする核酸の取得
本発明において用いられる変異型TDP-43は、アクセッション番号から野生型TDP-43の遺伝子又はアミノ酸配列情報を得て、その情報をもとに公知の遺伝子工学的手法や部位特異的変異誘発処理を行うことにより得ることができる(Sambrook J. et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (4th edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))。野生型遺伝子は、配列番号1、3、5又は7で示される塩基配列となるように化学合成するか、市販のものを用いることもできる。
【0039】
変異体をコードする核酸(DNA)は、例えば、部位特異的突然変異誘発法を利用した公知手法により取得することもできる。部位特異的突然変異誘発のための変異導入用キットとして、例えばQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Strategene)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡)、GenEdit Site-Directed DNA Mutagenesis Kit(フナコシ)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System (Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ) 等を用いることが可能である。
【0040】
また、変異型TDP-43をコードする核酸は、通常の化学合成法または生化学的合成法を用いて製造することもできる。例えば、遺伝子工学的手法として一般的に用いられているDNA合成装置を用いた核酸合成法、あるいは、鋳型となる塩基配列を単離又は合成した後に、PCR法又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を用いることができる。その後、上記のようにして得られた核酸を制限酵素等で切断する。このように切出した当該遺伝子のDNA断片を、適当な発現ベクターに挿入し、タンパク質をコードする遺伝子を含む発現用ベクターを得ることができる。
【0041】
発現ベクターの構築及び形質転換
本発明において、変異型TDP-43タンパク質は、以下に示すとおりベクターに変異型TDP-43タンパク質をコードする核酸を導入して発現ベクター(組換えベクター)を構築し、これを宿主に導入し、培養することにより得ることができる。
【0042】
本発明の変異型TDP-43をコードするDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またアデノウイルス(例えばアデノ随伴ウイルス)やレトロウイルスなどのウイルスを使用することも可能である。ウイルスベクターを使用することにより、マウスの脳内や細胞に変異体を導入することができる。
【0043】
本発明において、発現ベクターには、プロモーター、DNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。
【0044】
(3)変異型TDP-43又はその凝集体の採取及び精製
上記発現ベクターを宿主に導入し形質転換体を作製し、当該形質転換宿主を培養又は飼育し、その培養物又は非ヒト哺乳動物(例えばマウス)の脳から目的の変異型TDP-43タンパク質を採取する。「培養物」とは、(i)培養上清のほか、(ii)培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物のいずれをも意味するものである。
【0045】
4.変異型TDP-43蓄積モデル細胞及びモデル動物
前記の通り、変異型TDP-43を発現するベクター(アデノ随伴ウイルス、AAV)をマウス脳に接種すると、脳内にリン酸化TDP-43抗体陽性の細胞内凝集体が観察されると共に、リン酸化TDP-43の不溶化が生化学的に確認される。このマウス脳より調製した不溶化TDP-43凝集体をΔNLS-TDP-43発現培養細胞に導入すると、不溶化TDP-43凝集体が、細胞内で蓄積するための引き金であるシードとして機能して、培養細胞内でTDP-43の蓄積が亢進する。本発明において構築したリン酸化TDP-43が脳内に蓄積するマウスは、神経変性疾患のモデルマウスとして、TDP-43の細胞内蓄積のメカニズムの解明やTDP-43蓄積を抑制する化合物などの治療薬開発に利用できる。またこのマウス脳より調製した不溶化TDP-43は、その蓄積を誘導するシードとして機能することから、マウス脳内に蓄積した変異型TDP-43の凝集体を導入した細胞は、神経変性疾患のモデル細胞として利用することができる。
【0046】
本発明においては、動物はマウスに限定されるものではなく、他の動物についても適用することができる。モデル動物の対象としては、ラット、ウサギ、イヌ、ウマ、ヒツジ、マーモセット、サル(マカク)などが挙げられる。
【0047】
5.神経変性疾患治療薬のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、以下の(a)~(d)の動物又は細胞に候補物質(被験物質)を接触させることを特徴とするものである。
(a)変異型ヒトTDP-43発現非ヒト哺乳動物、
(b)変異型非ヒトTDP-43発現非ヒト哺乳動物、
(c)上記(a)又は(b)の動物の脳由来の変異型TDP-43凝集体が導入された細胞、又は
(d)非ヒト哺乳動物
【0048】
これにより、変異型TDP-43の凝集体の細胞内蓄積を抑制する物質をスクリーニングすることが可能となり、また、神経変性疾患治療薬をスクリーニングすることも可能となる。
スクリーニングの対象となる医薬の対象疾患は、例えば、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭葉変性症であるが、その他の疾患においてTDP-43の蓄積を伴うもの(例えば、TDP-43蓄積を伴うアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など)なども含まれる。
【0049】
「接触」とは、変異型TDP-43タンパク質又はその凝集体が導入された細胞又は非ヒト哺乳動物と候補物質(被験物質)とを同一の環境、反応系又は培養系に存在させることを意味し、例えば、細胞培養容器に候補物質を添加すること、細胞と候補物質とを混合すること、細胞を候補物質の存在下で培養すること、非ヒト哺乳動物に候補物質を投与することなどが含まれる。
【0050】
候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク質(抗体を含む)、非ペプチド性化合物、合成化合物(高分子又は低分子化合物)、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、無機酸や有機酸など)や塩基(例えば、金属酸など)などとの塩が用いられる。
【0051】
ある候補物質を投与した場合に、細胞死が緩和又は消失したことが確認できる結果が得られれば、用いた候補物質を、神経変性疾患治療薬として選択することが可能である。
【0052】
5.神経変性疾患治療薬のスクリーニング方法用キット
本発明のモデル細胞は、神経変性疾患治療薬のスクリーニング用キットの形態で提供することができる。本発明のキットは上記細胞を含むが、その他に、標識物質、細胞死検出用試薬(例えばLDH等)などを含めることができる。標識物質とは、酵素、放射性同位体、蛍光化合物及び化学発光化合物等を意味する。本発明のキットは、上記の構成要素のほか、本発明の方法を実施するための他の試薬、例えば標識が酵素標識の場合は、酵素基質(発色性基質等)、酵素基質溶解液、酵素反応停止液などを含めることができる。さらに、本発明のキットには、被験化合物用希釈液、各種バッファー、滅菌水、各種細胞培養容器、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、実験操作マニュアル(説明書)等を含めることもできる。
【0053】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0054】
培養細胞
American Type Culture Collectionから購入したヒト神経芽細胞SH-SY5Y株(American Type Culture Collection、Cat. #CRL-2266)を用いた。培養液には、10%(v/v)ウシ胎児血清、非必須アミノ酸溶液(MEM Non-Essential Amino Acids Solution (100X)、ThermoFisher、Cat. # 11140050)、ペニシリン・ストレプトマイシン・グルタミン溶液 (Penicillin-Streptomycin-Glutamine (100X)、ThermoFisher、Cat. #10378016)を加えたDMEM (Dulbecco’s modified eagle’s medium nutrient mixture)/F-12HAM(Sigma-Aldrich、Cat. # D8062-500ML)を用い、5%CO2インキュベーター(Thermo SCIENTIFIC)において37℃で培養した。培養には、コラーゲンコーティングを施してある6 cmシャーレ(BD Biocoat) および6ウェルプレート(BD Biocoat) を使用した。細胞の継代は、細胞が100%コンフルエントの状態で以下の手順で行った。6 cmシャーレ中の培地を除去した後、細胞を1.5 mLの生理食塩水で洗浄し、生理食塩水を除去した。そこに、1 mLの0.25%トリプシンを加えて37℃で5分間保温した。その後、2 mLの新鮮な培地をさらに添加し、トリプシンの反応を停止した後に、細胞を十分に懸濁し、3 mLの培地を加えた6 cmシャーレに播種した。通常、4~6×105個の細胞を3 mLの培地の入った6 cmシャーレに添加すると、3日程度でほぼ100%コンフルエント(2~3×106個/mL)となる。
【0055】
AAV作製にはHEK293T細胞を使用した。培養液には、10%(v/v)ウシ胎児血清、非必須アミノ酸溶液(MEM Non-Essential Amino Acids Solution (100X)、ThermoFisher、Cat. # 11140050)、ペニシリン・ストレプトマイシン・グルタミン溶液 (Penicillin-Streptomycin-Glutamine (100X)、ThermoFisher、Cat. #10378016)、ピルビン酸ナトリウム(GIBCO、#11360)を加えたDMEM (ダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース)、Sigma-Aldrich、#D5796-500ML)を用い、5%CO2インキュベーター(Thermo SCIENTIFIC)において37℃で培養した。
【0056】
変異型TDP-43の作製
変異型TDP-43をコードするプラスミドは、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Strategene)を用いて作製した。核移行シグナル(nuclear localization signal: NLS)を除去した変異体(ΔNLS変異体)やRNA結合に関与するPheをLeuに置換した変異体(FL変異体)の作製において、野生型TDP-43をコードするpcDNA3-TDP-43(培養細胞発現用ベクター)を鋳型として、以下のプライマーを用いてPCRを行った。ΔNLS&FL-A変異体の作製は、pcDNA3-TDP ΔNLSを鋳型として以下のプライマーでPCRを行った。
【0057】
ΔNLS-FW
GTATGTTGTCAACTATATGGATGAGACAGATGC(配列番号9)
ΔNLS-RV
GCATCTGTCTCATCCATATAGTTGACAACATAC(配列番号10)
【0058】
FL-A(F147&149L)-FW
AGACTGGTCATTCAAAGGGGTTGGGCTTGGTTCGTTTTACGGAATATGA(配列番号11)
FL-A-RV
TCATATTCCGTAAAACGAACCAAGCCCAACCCCTTTGAATGACCAGTCT(配列番号12)
【0059】
FL-B(F194L)-FW
CTTTGAGAAGCAGAAAAGTGTTGGTGGGGCGCTGTACAGAGGA(配列番号13)
FL-B-RV
TCCTCTGTACAGCGCCCCACCAACACTTTTCTGCTTCTCAAAG(配列番号14)
【0060】
FL-C(F229&231L)-FW
TCCCCAAGCCATTCAGGGCCTTGGCCTTGGTTACATTTGCAGATGATCA(配列番号15)
FL-C-RV
TGATCATCTGCAAATGTAACCAAGGCCAAGGCCCTGAATGGCTTGGGGA(配列番号16)
【0061】
AAV発現ベクターの構築
AAV発現用のベクターは、pcDNA3-TDP-43野生型あるいは変異型を鋳型として、以下のプライマーを用いてPCRを行い、シナプシンプロモーターを有するAAV-hsyn-EGFP(Addgene、#114213)のEGFP部分に野生型あるいは変異型TDP-43の配列を導入した。
【0062】
hSyn-TDP-FW
GGATCCGCCGCCACCATGTCTGAATATATTCGGGTA(配列番号17)
hSyn-TDP-RV
CGCGGCCGCACTAGTCTACATTCCCCAGCCAGA(配列番号18)
【0063】
PCRはPrime STAR Max Premix(Takara、R045A)を使用した。PCR産物をアガロースゲルを用いて電気泳動し、目的のバンドを切り出してNucleoSpin Gel and PCR Clean-up(Takara、U0609B)を用いてDNAを抽出した。抽出したDNAはIn-Fusion HD Cloning kit(Takara、#639648)を用いて環状化し、発現ベクターとした(野生型TDP-43を発現するベクターはAAV-hsyn-TDP wild-type、核酸結合能のない変異型はAAV-hsyn-TDP FL-Aとした)。
【0064】
AAVの調製
HEK293T細胞を10枚の10cmシャーレに2.0×10^6 cellずつ播種した。その細胞に、AAVベクター(AAV-hsyn-TDP wild-typeあるいはFL-A)、AAV-PHP.eBベクター(AAVの血清型を決めるプラスミド)、AAVヘルパープラスミドpAdDeltaF6(Addgene、#112867)およびPEI(Polysciences, Inc.)を混合したものを添加した。具体的には10cmシャーレ1枚につき、1 mLのOpti-Mem(gibco Opti-MEM #11058-021)に2.5μgのAAVベクター、5μgのpΔF6、2.5μgのAAV-PHP.eB、50μLの1 mg/mL PEIを添加し混合したのちに室温で20分間静置した。その後、混合液を全量、シャーレの培養液中に添加しトランスフェクションした。2日後に培地全量を無血清のDMEM培地に交換した。その4日後、培地を回収し、4500 rpmで5分間遠心し、細胞を取り除いた。さらに培地を0.45μmフィルター(Thermo Nalgene Rapid-Flow Filters、 #165-0045)でろ過して余分な細胞デブリ等を取り除き、遠心管(Millipore Amicon Ultra、#UFC910024)に移してメンブレン上に800μL程度残るまで5000 gで遠心した。続いて、メンブレン上にPBSを10 mL添加し、メンブレン上に800μL程度残るまで5000 gで遠心した。この操作を3回繰り返した後、メンブレン上のウイルス液を回収し、-80℃で凍結保存した。
【0065】
AAVタイター測定
AAVの特異的な配列であるWPRE配列を以下のプライマーを用いて、リアルタイムPCRで増幅した。
【0066】
FW
TGGCGTGGTGTGCACTGT(配列番号19)
RV
AGGGACGTAGCAGAAGGACG(配列番号20)
【0067】
PCR用のサンプルとして、2μLのAAV試料 とPCRアルカリ処理緩衝液(25 mM NaOH、0.2 mM EDTA)を混合し、サーマルサイクラー(BioRAD)を用いて100℃で10分間熱処理を行った。その後、50μLのPCR中和緩衝液(1M Tris-HCl、pH5.0)を添加し、ピペッティングして混合した。そのうち2μLと10μLのSYBR Green(Thermo scientific、 #4367659)、2μLのプライマー、6μLのDWを混合してリアルタイムPCRで解析した。装置はABI 7500 Fast(Thermo Fisher 、#4406984)を使用し、条件は最初の10分間を25℃、以降の40サイクルは95℃で15秒間、60℃で30秒間、72℃で30秒間を繰り返した。
【0068】
プラスミド濃度とコピー数は以下の式から求めた。
[プラスミド濃度ng/μL (1.2×10^15)]/(塩基数bp*607.4)+157.9]
プラスミド濃度と塩基数が明らかであるAAV-hsyn-EGFP(Addgene #114213)を段階希釈し、コピー数と反応時間の検量線を作製し、精製したウイルス液の反応時間からコピー数を算出した。
【0069】
マウスへのAAV感染
雄の野生型マウス(C57BL/6J)は日本エスエルシー株式会社より購入し、東京都医学総合研究所の動物飼育施設において飼育した。
マウス脳に接種した試料は以下の通りである。
1.AAV-hsyn-EGFPベクターから作製したAAV 、1.0×10^8vgあるいは1.0×10^9g(ネガティブコントロール)
2.AAV hsyn- TDP43ΔNLS&FL-A 、1.0×10^8 vgあるいは1.0×10^9 vg
【0070】
麻酔用チャンバーにマウスを入れ、3%で麻酔薬(20%イソフルラン、日本薬局方、ファイザー)をチャンバー内に充満させて数分間静置した。その後、麻酔のかかったマウスを補助イヤーバーで固定し、さらにイソフルランの吸入麻酔を2%でかけた。上記の4種類のAAVを試料として、マウスの両側の線条体に次のように接種した。
まずマウスの頭皮を切開してブレグマの位置を確認し、その位置から左右に2mm、縦に0.5 mmの箇所にドリルで頭骨に穴を開けた。試料の入ったシリンジ(HAMILTON、Cat. #80301)の針が曲がらないように深さ3 mmのところまで針を差し込み、5μLを接種した。試料の漏れを減らすため、1分間静置した後、針を抜き、反対側の穴にも同様に接種した。その後、縫合し、最後に個体識別のため、耳にパンチで穴を開けケージに戻した。
【0071】
マウス脳の摘出
マウス脳に試料を接種してから1か月後に脳を取り出した。マウスの腹腔内に0.5 mLの三種混合麻酔を接種して麻酔をかけた。三種混合麻酔は750μLの塩酸メデトミジン(ドミトール、日本全薬工業)、800μLのミタゾラム(サンド株式会社)、1 mLの酒石酸ブトルファノール(ベトルファール、Meiji Seikaファルマ株式会社)と7.45 mLの生理食塩水(日本薬局方 生理食塩水液 大塚生食注、株式会社 大塚製薬工場)に混合して作製した。麻酔処置の後に、生理食塩水(テルモ生食、Bタイプ、テルモ)により全身の脱血を行い、脳を摘出した。
【0072】
マウス脳の保存
摘出したマウス脳は、すぐにシャーレに載せ、正中線に沿ってフェザー鋼製片刃(黒刃)で左右に分割した。右脳はドライアイスで凍結し、-80℃で保存した。左脳は10%中性緩衝ホルマリン液(富士フィルム和光純薬、Cat. #062-01661)中で4℃にて固定した。時間の経過と共に組織が崩壊するだけではなく、目的とする抗原が流出する恐れがあるため、組織の固定は可能な限り迅速に行った(2-3日間)。
【0073】
パラフィンブロック包埋
固定が完了したマウス脳をパラフィンブロック包埋用カセット(SAKURA Tissue-Tek #4143)にいれ、自動パラフィン包埋装置(サクラ精機株式会社、ティシュー・テックVIP5ジュニア)を用いて、チャンネル1のプロトコルに従ってパラフィンに侵漬させた。その後、金属のパラフィン包埋用モールドにマウス脳と液体パラフィンを流し込み、0℃で固体化させパラフィンブロックを作製した。
【0074】
ビブラトーム切片の作製と免疫組織化学解析
組織用替刃ホルダー(大和光機工業株式会社、硬組織用替刃ホルダー、#BH-220)にミクロトーム用の替刃(フェザー、Microtome Blades、#S35 TYPE)を装着した薄切装置(大和光機工業株式会社、リトラトーム、#REM-710)を用いて、パラフィンブロックに包埋されたマウス脳を8μmの厚さでスライスして、切片を作製した。それらを剥離防止コートスライドガラス(MATSUNAMI)に貼り付けた。次いで、この切片をキシレンに20分間浸透させたのち、エタノールに20分間浸透させパラフィンを溶解した。
【0075】
流水で5分間切片を洗浄して残存した有機溶媒を洗い流し、0.01 M クエン酸ナトリウム緩衝液中で、121℃で20分間のオートクレーブ処理をした。その後、3%H2O2を含むPBSに浸漬し、PBSで3回洗浄を行った。ブロッキングは0.03% TritonX-100を含む10% 牛血清(CS:Bovine Serum、ThermoFisher、Cat. #16170-078)で20分間行い、6,000倍に希釈したヒト特異的TDP-43抗体(Proteintech、Cat. #60019-2-Ig)、あるいは1,000倍希釈したリン酸化TDP-43抗体(コスモ・バイオ株式会社、Cat. #TIP-PTD-P07)と共に一晩反応させた。
【0076】
翌日、PBSで3回洗浄し、二次抗体(1:1,000倍希釈:Biotin-Goat anti mouse IgG、Vector、Cat. # BA-9200-1.5あるいはBiotin-Goat anti rabbit IgG、Vector、Cat. # BA-1000-1.5)と共に室温で2時間反応させた。その後、PBSで3回洗浄し、ABC Kit(ペルオキシダーゼ標識avidin-biotin complex(ABC Standard Kit、Vector、Cat. #PK-4000)を用いてアビジン・ビオチン・ペルオキシダーゼ複合体と室温で30分間反応させた。PBSで3回洗浄し、調製した発色液(0.1% 3,3’-Diaminobenzidine(Sigma-Aldrich、Cat. #D8001-5G)および0.05% H2O2(過酸化水素水、シグマ・アルドリッチジャパン、Cat. #13-1910-5)を含むトリス生理食塩水)により20分間発色させた。
【0077】
発色反応は、切片を貼りつけたスライドガラスを水道水で洗浄することにより停止させた。これらの切片を乾燥させた後、Mayer’s Hematoxylin (武藤化学、Cat. #30002))により1分間処理して核染色を行い、流水で5分間洗浄した。標本を完全に乾燥させ、キシレンに10分間浸し、脱水した後、Antifade Mounting Medium for fluorescence(VECTASHIELD、Cat. #H-1000-10)を用いて封入した。作製したプレパラートは室温で保管した。観察にはオールインワン顕微鏡(KEYENCE:BZ-X710)を用いた。
【0078】
イムノブロット法によるリン酸化TDP-43の検出
凍結したマウス脳を0.25gあたり18倍容量のA68緩衝液A68緩衝液(10 mM Tris-HCl, pH 7.5/1 mM EGTA/10 %スクロース/0.8 M NaCl)中でホモジェナイズした。その懸濁液に終濃度1%となるように20%サルコシル(N-ラウロイルサルコシンナトリウム塩、Sigma-Aldrich、Cat. #L5125-500G)溶液を加えて撹拌した後、37℃で30分間保温した。その後、この懸濁液を20,400 gで室温、10分間遠心分離(TOMY MX-307、トミー精工株式会社)し、その上清を回収した。この上清をさらに113,000 gで20分間遠心分離(himac CS100GXL、エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ)した。上清をサルコシル上清画分(Sar-sup)として回収した。沈殿に500μLのPBSを添加し、再度113,000 gで20分間遠心分離(himac CS100GXL、エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ)し、上清は廃棄し、沈殿をサルコシル不溶性画分(Sar-ppt)として回収した。
【0079】
サルコシル上清画分はBCA assay(BCA Protein Assay Kit、ThermoFisher、Cat. #23225)により上清画分のタンパク質量を定量した。その残りの試料の100μLに対し、100μLの5%の2-メルカプトエタノールを含む2倍濃度SDSサンプル緩衝液(2×SB)を加えた。サルコシル不溶性画分には、50μLの5%の2-メルカプトエタノールを含む2×SBを加えた後に超音波処理(TAITEC VP-050超音波処理装置、タイテック株式会社)を行い、100℃で5分間熱処理して回収した。
【0080】
得られた試料(Sar-supおよびSar-ppt)は、13.5 %ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、200 mA、1時間の条件でPVDF膜(Millipore)に転写した。PVDF膜は3 %ゼラチン(富士フィルム和光純薬、Cat. #077-03155)を含む生理食塩水で室温、10分間ブロッキングし、10% 牛血清(CS:Bovine Serum、ThermoFisher、Cat. #16170-078)および0.1% NaN3を含む生理食塩水(10% CS/PBS)で希釈した一次抗体(1:6,000希釈:ヒト特異的TDP-43抗体(Proteintech、Cat. #60019-2-Ig)、あるいは1:1,000希釈したリン酸化TDP-43抗体(コスモ・バイオ株式会社、Cat. #TIP-PTD-P07)と共に室温で一晩反応させた。
【0081】
その後、数mLのPBSでPVDF膜を洗浄し、10% CS/生理食塩水で希釈した二次抗体(1:1,000倍希釈:Biotin-Goat anti mouse IgG、Vector、Cat. # BA-9200-1.5あるいはBiotin-Goat anti rabbit IgG、Vector、Cat. # BA-1000-1.5)と室温で1時間反応させ、PBSで洗浄した。PDVF膜は、ペルオキシダーゼ標識avidin-biotin complex(ABC Standard Kit、Vector、Cat. #PK-4000)を30分間反応させた後、PBSで洗浄し、0.1% 3,3’-Diaminobenzidine(Sigma-Aldrich、Cat. #D8001-5G)、0.2 mg/mL 塩化ニッケル(II)六水和物(富士フィルム和光純薬、Cat. #141-01045)および0.05% H2O2(過酸化水素水、シグマ・アルドリッチジャパン、Cat. #13-1910-5)を含むPBSで処理し、膜上のタンパク質バンドを10分間発色させた。発色反応はPVDF膜をDWで洗浄することで停止させた。
【0082】
サルコシル不溶性画分のシード活性の検討:
シード画分(サルコシル不溶性画分)の調製
凍結したマウス脳を0.25gあたり18倍容量のA68緩衝液A68緩衝液(10 mM Tris-HCl, pH 7.5/1 mM EGTA/10 %スクロース/0.8 M NaCl)中でホモジェナイズした。その懸濁液に終濃度1%となるように20%サルコシル(N-ラウロイルサルコシンナトリウム塩、Sigma-Aldrich、Cat. #L5125-500G)溶液を加えて撹拌した後、37℃で30分間保温した。その後、この懸濁液を20,400 gで室温、10分間遠心分離(TOMY MX-307、トミー精工株式会社)し、その上清を回収した。この上清をさらに113,000 gで20分間遠心分離(himac CS100GXL、エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ)した。
【0083】
上清をサルコシル上清画分(Sar-sup)として回収した。沈殿に500μLのPBSを添加し、再度113,000 gで20分間遠心分離(himac CS100GXL、エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ)し、上清は廃棄し、沈殿をサルコシル不溶性画分(Sar-ppt)として回収した。得られたサルコシル不溶性画分に50μLの生理食塩水を添加し、TAITEC VP-050超音波処理装置を用いて超音波処理を行い、これをマウス脳由来シード画分とした。また、ポジティブコントロールとしてALS患者脳でも同様に、脳の凍結標品(0.5 g)を用いて上記と同じ方法でサルコシル不溶性画分を得た。これに50μLの生理食塩水を添加し、TAITEC VP-050超音波処理装置を用いて超音波処理を行い、これをヒト脳由来シード画分とした。
【0084】
細胞へのシード画分の添加
培養細胞を用いたTDP-43ΔNLS&FL-A発現マウス脳サルコシル不溶性画分のシード活性に関しては、以下のように行った。
6ウェルプレートに1ウェルあたり8 x105個のSH-SY5Y細胞を播種し、一晩培養した。翌日、TDP-43 ΔNLS変異型発現プラスミド(pcDNA3-TDP-43 ΔNLS)をX-treamGENE9(Roche、Cat. # 6365809001)を用いて細胞内に導入した。具体的には、Opti-MEM(ThermoFisher、Cat. # 31985062)、プラスミド、X-treamGENE9を100μL:1μg:3μLの割合で静かに混合し、室温で15分間静置した。その後、混合液を各ウェルの培養液中に滴下した。3-5時間経過後に、5μLのマウス脳由来シードあるいはポジティブコントロールとしてのヒト脳由来シードを各ウェルの培養液中に添加した。処理した細胞は、CO2インキュベ―タ―内でインキュベートし、2日後に以下のように回収した。
【0085】
イムノブロット法による不溶化TDP-43の検出
各ウェルの培養液をアスピレーターで取り除き、そこに1 mLの生理食塩水を加えて細胞をプレートより剥がして回収した。1,800 gで5分間の遠心分離で細胞を回収し、300μLの1 %サルコシル(N-ラウロイルサルコシンナトリウム塩、Sigma-Aldrich、Cat. #L5125-500G)を含むA68緩衝液(10 mM Tris-HCl, pH 7.5/1 mM EGTA/10 %スクロース/0.8 M NaCl)を加えて、TAITEC VP-050超音波処理装置(PWM17%の強度)にて40-60秒間処理して細胞を破砕した。
【0086】
その後、300μLの1 %サルコシルを含むA68緩衝液をさらに添加し、113,000 gで20分間遠心分離(himac CS100GXL、エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ)した。得られた上清を100μL回収し、100μLの5%の2-メルカプトエタノールを含む2倍濃度SDSサンプル緩衝液(2×SB)を加えた。100℃で5分間熱処理してサルコシル上清画分:Sar-supとして回収した。さらに15μLの上清を用いてBCA assay(BCA Protein Assay Kit、ThermoFisher、Cat. #23225)により上清画分のタンパク質量を定量した。
【0087】
一方で沈殿画分には、50μLの5%の2-メルカプトエタノールを含む2×SBを加えた後に超音波処理を行い、100℃で5分間熱処理してサルコシル不溶性画分(Sar-ppt)として回収した。得られた試料(Sar-supおよびSar-ppt)は、13.5 %ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、200 mA、1時間の条件ででPVDF膜(Millipore)に転写した。PVDF膜は3 %ゼラチン(富士フィルム和光純薬、Cat. #077-03155)を含む生理食塩水で室温・10分間ブロッキングし、10% 牛血清(CS:Bovine Serum、ThermoFisher、Cat. #16170-078)および0.1% NaN3を含む生理食塩水(10% CS/生理食塩水)で希釈した一次抗体(1:6,000希釈:ヒト特異的TDP-43抗体(Proteintech、Cat. #60019-2-Ig)、あるいは1:1,000希釈したリン酸化TDP-43抗体(コスモ・バイオ株式会社、Cat. #TIP-PTD-P07)と共に室温で一晩反応させた。
【0088】
その後、数mLのPBSでPVDF膜を洗浄し、10% CS/生理食塩水で希釈した二次抗体(1:1,000倍希釈:Biotin-Goat anti mouse IgG、Vector、Cat. # BA-9200-1.5あるいはBiotin-Goat anti rabbit IgG、Vector、Cat. # BA-1000-1.5)と室温で1時間反応させ、PBSで洗浄した。PDVF膜は、ペルオキシダーゼ標識avidin-biotin complex(ABC Standard Kit、Vector、Cat. #PK-4000)を30分間反応させた後、PBSで洗浄し、0.1% 3,3’-Diaminobenzidine(Sigma-Aldrich、Cat. #D8001-5G)、0.2 mg/mL 塩化ニッケル(II)六水和物(富士フィルム和光純薬、Cat. #141-01045)および0.05% H2O2(過酸化水素水、シグマ・アルドリッチジャパン、Cat. #13-1910-5)を含むPBSで処理し、膜上のタンパク質バンドを10分間発色させた。発色反応はPVDF膜をDWで洗浄することで停止させた。
【0089】
結果:
TDP-43のRNA結合能と凝集性の関係について検討した。TDP-43のRNA結合ドメインに存在するいくつかのPheをLeuに置換するとその核酸結合能が消失することが報告されている(
図1)。そこでこれらのPheをLeuに置換した変異体(FL変異体、
図1)を作製して培養細胞に一過性に発現させたところ、リン酸化TDP-43抗体陽性の細胞内凝集体が観察された(
図2)。さらにFL変異体発現細胞ライセートの生化学解析では(
図3)、FL-A変異体発現細胞において、界面活性剤サルコシル(Sar)不溶性画分(Sar-ppt)にリン酸化TDP-43抗体陽性バンドが認められ、この変異体が細胞内で最も強く凝集することが確認された。またFL変異と共に核移行シグナル(NLS)の欠損変異(ΔNLS)を有する変異体(ΔNLS&FL-ABC)発現細胞では、FL-A変異体の発現細胞に比べて、リン酸化TDP-43の著しい細胞内蓄積が観察された。
【0090】
以上の結果より、TDP-43の核酸結合に関与するFL変異体を培養細胞に発現すると、細胞内でリン酸化TDP-43の蓄積が生じることが明らかになった。またFL変異(
図1)のうちFL-Aが最も強い凝集性を示し、さらにNLSを除去した変異を導入することによりその蓄積が大幅に増加することを考慮して(
図3)、その2つの変位を導入したTDP-43 ΔNLS&FL-Aという新たな変異体を作製し、これをマウス脳に発現させると、マウス脳においてもリン酸化TDP-43の細胞内蓄積が生じるかについて検討した。常法に従って、HEK293細胞を用いてTDP-43 ΔNLS&FL-Aを発現するAAVウイルス(セロタイプ:AAV-PHP.eB)を作製した。プラスミドを導入した細胞の培地を回収し、限外濾過法によりウイルス液を濃縮し、その濃度をリアルタイムPCR法により測定した。得られたウイルスの1.0×10
8 vgあるいは 1.0×10
9 vgを成体マウス脳の両側の線条体に接種した。ウイルスの接種から1か月あるいは3ヶ月後に脳を摘出し、右脳を生化学解析(イムノブロット)、左脳を免疫組織化学解析に供した(
図4)。
【0091】
AAVの感染後1ヶ月のマウス脳(右脳)をサルコシルを含む緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離した上清(可溶性画分:Sar-sup)および沈殿(不溶性画分:Sar-ppt)を回収し、これらをイムノブロット解析に供した。
図5に示したSar-sup画分の解析より、ウイルスを感染させたマウスにおいて目的のTDP-43 ΔNLS&FL-Aの発現が認められた(
図5の赤矢印のバンド)。この発現量はマウス脳に接種したウイルス量に依存しており、1.0×10
9 vgのAAVを感染させたマウス脳においてより多い発現が観察された。一方で、ウイルスの代わりに生理食塩水を接種したマウスではその発現は見られなかった。次いで、
図6に示したSar-ppt画分のイムノブロット結果では、1.0×10
9 vgのAAVを感染させたマウス脳のサルコシル不溶性画分にリン酸化TDP-43特異抗体陽性のバンドが確認された(赤矢印)。そのバンド強度は個体により差が見られたが、生理食塩水や1.0×10
8 vgのAAVを感染させたマウス脳ではこれらのバンドは検出されなかった。以上の結果より、AAV感染により脳内で発現したTDP-43 ΔNLS&FL-Aは細胞内でリン酸化を受けて凝集することが明らかとなった。
【0092】
上述のAAV感染マウス脳の生化学解析の結果より、TDP-43 ΔNLS&FL-Aの発現は1.0×10
9 vgのウイルスを感染させたマウスで顕著に観察されたことから、これらのマウス脳の免疫組織化学解析を行った。1.0×10
9 vgのAAVを感染させて1ヶ月後にマウス脳を摘出し、その左脳をホルマリン固定した。その後、パラフィンブロックを作製し、超薄スライス切片(8μmの厚さのスライス)を作製し、ヒトTDP-43特異抗体およびリン酸化TDP-43特異抗体で染色した。その結果、
図7に示したように、小脳、大脳皮質、海馬、内側後部頭頂皮質において、AAVウイルス感染によりTDP-43 ΔNLS&FL-Aの発現が認められた。また患者脳内で出現するリン酸化TDP-43凝集体と特異的に反応するリン酸化TDP-43特異抗体を用いてAAV感染マウス脳の切片を染色したところ、海馬や内側後部頭頂皮質において、リン酸化TDP-43特異抗体陽性の染色像が観察された(
図8)。以上の結果より、このAAV感染マウス脳において、リン酸化TDP-43 ΔNLS&FL-Aが細胞内で凝集体を形成することが示され、患者脳のTDP-43病理を忠実に反映する新規マウスモデルが構築できたことが明らかとなった。
【0093】
ALSやFTLD患者脳で蓄積したTDP-43にはプリオン様の性質が備わっていることが報告されている(6)。すなわち、患者脳よりサルコシル不溶性画分として調製した不溶化TDP-43を、TDP-43 ΔNLSを発現した培養細胞内に導入すると、それがシードとして機能して細胞内でTDP-43 ΔNLSの凝集を誘導するのである(
図9レーン6)。そこで、AAVを感染させたマウス脳で凝集したTDP-43 ΔNLS&FL-Aが同様にプリオン様の性質を有するかどうか、すなわちシードとして機能するかどうかについて検討した。
【0094】
AAV感染マウス脳から調製したサルコシル不溶性画分(
図6のレーン4など)に50μLの生理食塩水を加えて超音波処理したものを、不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aとして用いた。予めTDP-43 ΔNLSを発現したSH-SY5Y細胞に、5μLの不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aをマルチフェクタム試薬(プロメガ)と共に添加した。数日間インキュベートした後に細胞を回収し、サルコシルを含む緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離を行ってサルコシル不溶性画分(Sar-ppt)を得た。これをリン酸化TDP-43特異抗体を用いたイムノブロット解析に供した。
【0095】
培養細胞にTDP-43 ΔNLSを単独で発現させても、細胞内で蓄積することはなく、したがってSar-ppt画分にはバンドはほとんど認められない(
図9レーン3)。一方で、ALS患者脳より調製した不溶化TDP-43をシードとして細胞に添加すると、それがシードとして機能して、細胞内でTDP-43 ΔNLSの蓄積を誘導する(
図9レーン6)。同様に、AAVを感染させたマウス脳より調製した不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aを細胞に添加すると、Sar-ppt画分にリン酸化TDP-43特異抗体陽性のバンドが出現した(
図9レーン4および5)。
【0096】
したがって、AAV感染マウス脳で認められた不溶化TDP-43 ΔNLS&FL-Aは、患者脳で観察される不溶化TDP-43と同様にプリオン様性質を有することが明らかとなった。