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  • 特開-膜電極接合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007966
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20250109BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20250109BHJP
   H01M 8/1051 20160101ALN20250109BHJP
   H01M 4/86 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M8/1051
H01M4/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109733
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 駿介
(72)【発明者】
【氏名】木村 将之
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB06
5H018BB08
5H018EE03
5H018EE08
5H018EE16
5H126AA02
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG17
(57)【要約】
【課題】本開示の課題は、耐久性に優れる膜電極接合体を提供することである。
【解決手段】本実施形態は、固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層、及び前記固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層を有する膜電極接合体であって、前記膜電極接合体が、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオン、及び前記金属イオンと包接化合物を形成できるホスト化合物を含み、前記ホスト化合物が、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩である、膜電極接合体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層、及び前記固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層を有する膜電極接合体であって、
前記膜電極接合体が、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオン、及び前記金属イオンと包接化合物を形成できるホスト化合物を含み、
前記ホスト化合物が、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩である、膜電極接合体。
【請求項2】
前記ホスト化合物が、アミノ基で置換された芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物又はその塩である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記ホスト化合物が、(-CH-CH-Y-)ユニット又は(-CH-CH-CH-Y-)ユニットの繰り返し構造を有するクラウンエーテル化合物又はその塩(Yは、それぞれ独立して、-O-、-NH-及び-NR-から選択される少なくとも1種であり、少なくとも1つのYは-NH-及び-NR-から選択され、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、2つのRが存在する場合、それらのRは、1つ又は2つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよいC~Cアルキレンを介して連結していてもよい。)である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記ホスト化合物が、(-CH-CH-Y-)ユニット又は(-CH-CH-CH-Y-)ユニットの繰り返し構造を有するクラウンエーテル化合物又はその塩(Yは、それぞれ独立して、-O-及び-NR-から選択される少なくとも1種であり、少なくとも1つのYは-NR-から選択され、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、2つのRが存在する場合、それらのRは、1つ又は2つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよいC~Cアルキレンを介して連結していてもよい。)である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記アミノ基を含むクラウンエーテル化合物の塩が、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、又はプロピオン酸塩である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、一般に、電解質膜である固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層と、固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層とを有する膜電極接合体(「MEA」とも称す)を備える。アノード触媒層は、燃料極として機能し、カソード触媒層は、空気極として機能する。MEAの両面には、さらにガス拡散層が配置されることもあり、この形態は、膜電極ガス拡散層接合体(「MEGA」とも称す)と呼ばれる。
【0003】
ここで、固体高分子型燃料電池では、発電時に、触媒層において、水と酸素から過酸化水素(H)が生成されたり、過酸化水素から水酸化ラジカル(・OH)が生成されたりすることがある。この過酸化水素及び水酸化ラジカルは、固体高分子電解質膜や触媒層中に含まれるアイオノマー等の電解質樹脂を劣化させる原因となる。
【0004】
そこで、セリウムイオン等のラジカルクエンチ剤をMEA中に含有させることにより、燃料電池の発電中に発生する過酸化水素ラジカルを無害化させる技術が提案されている。酸化水素ラジカルの無害化とは、例えば、過酸化水素ラジカルからの水への反応である。
【0005】
例えば、特許文献1では、下記(a)~下記(c)のいずれかを含む、スルホン酸基を有する高分子電解質からなる固体高分子電解質膜[(a)セリウムイオン、及び、セリウムイオンと包接化合物を形成できる有機化合物(X)、(b)セリウムイオンを包接した前記有機化合物(X)からなる包接化合物(Y)、(c)セリウムイオン及び前記有機化合物(X)の少なくとも一方、及び、前記包接化合物(Y)]が開示されている。特許文献1では、特許文献1の固体高分子電解質膜は、過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対して優れた耐性を有することが記載されている。その理由は明確ではないものの、電解質膜中にセリウムイオンと有機化合物(X)を含むことにより、少なくともそれらの一部が包接化合物を形成し、それがスルホン酸基(-SO-)との相互作用を行って、スルホン酸基の一部が包接化合物(Y)でイオン交換されて所定の構造を形成することにより、高分子電解質膜の過酸化水素又は過酸化物ラジカル耐性を効果的に向上させていると推定されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-130460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、特許文献1には、ラジカルクエンチ剤としてのセリウムイオン及び18-クラウン-6-エーテルを含む高分子電解質膜又はアノード触媒層が開示されている。
【0008】
しかしながら、セリウムイオン及び18-クラウン-6-エーテルを含む膜電極接合体を調査したところ、使用中に性能低下が認められ、耐久性の点で改善の余地があることが判明した。
【0009】
そこで、本開示の目的は、耐久性に優れる膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、上記性能低下の理由の一つは、使用中にセリウムイオンが電極内を移動して偏析し、セリウムイオンの低濃度箇所が発生するためであることが分かった。そこで、本発明者らは、さらに検討を進めたところ、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩を用いることで、耐久性を向上できることを見出し、本開示に至った。
【0011】
そこで、本実施形態の態様例は以下の通りである。
(1) 固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層、及び前記固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層を有する膜電極接合体であって、
前記膜電極接合体が、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオン、及び前記金属イオンと包接化合物を形成できるホスト化合物を含み、
前記ホスト化合物が、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩である、膜電極接合体。
(2) 前記ホスト化合物が、アミノ基で置換された芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物又はその塩である、(1)に記載の膜電極接合体。
(3) 前記ホスト化合物が、(-CH-CH-Y-)ユニット又は(-CH-CH-CH-Y-)ユニットの繰り返し構造を有するクラウンエーテル化合物又はその塩(Yは、それぞれ独立して、-O-、-NH-及び-NR-から選択される少なくとも1種であり、少なくとも1つのYは-NH-及び-NR-から選択され、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、2つのRが存在する場合、それらのRは、1つ又は2つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよいC~Cアルキレンを介して連結していてもよい。)である、(1)又は(2)に記載の膜電極接合体。
(4) 前記ホスト化合物が、(-CH-CH-Y-)ユニット又は(-CH-CH-CH-Y-)ユニットの繰り返し構造を有するクラウンエーテル化合物又はその塩(Yは、それぞれ独立して、-O-及び-NR-から選択される少なくとも1種であり、少なくとも1つのYは-NR-から選択され、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、2つのRが存在する場合、それらのRは、1つ又は2つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよいC~Cアルキレンを介して連結していてもよい。)である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
(5) 前記アミノ基を含むクラウンエーテル化合物の塩が、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、又はプロピオン酸塩である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、耐久性に優れる膜電極接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池の構成例を説明するための模式的断面図であり、例示としての燃料電池10の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態は、固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層、及び前記固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層を有する膜電極接合体であって、前記膜電極接合体が、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオン、及び前記金属イオンと包接化合物を形成できるホスト化合物を含み、前記ホスト化合物が、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩である、膜電極接合体である。
【0015】
本実施形態により、耐久性に優れる膜電極接合体を提供することができる。本実施形態においては、ラジカルクエンチ剤として機能する、セリウムイオン及び/又はマンガンイオンを膜電極接合体(例えば、アノード触媒層又は固体高分子電解質膜)中に添加する。セリウムイオン及び/又はマンガンイオンにより過酸化水素ラジカルを捕捉して無害化し得るため、膜電極接合体の劣化を抑制することができる。また、上記金属イオンに対するホスト化合物も膜電極接合体中に添加することにより、上記金属イオンの移動を抑制することができ、面方向における濃度の偏りを低減することができる。その際、ホスト化合物として、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩を用いることにより、金属イオンの移動抑制効果がさらに向上することができる。そのため、本実施形態に係る膜電極接合体は、優れた耐久性も備えることができる。
【0016】
以下、本実施形態の構成について説明する。
【0017】
固体高分子電解質膜は、電子及びガスの流通を阻止するとともに、アノードで発生したプロトン(H)を、アノード側触媒層からカソード側触媒層に移動させる機能を有する。本実施形態における固体高分子電解質膜としては、当該技術分野で公知のプロトン伝導性を有する電解質膜を使用することができる。固体高分子電解質膜としては、例えば、電解質であるスルホン酸基を有するフッ素樹脂(ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(AGC社製)、及びアシプレックス(旭化成社製)等)から形成される膜を使用することができる。
【0018】
固体高分子電解質膜の厚さは、特に制限されるものではないが、例えば、プロトン伝導性の向上の観点から、5μm~50μmである。
【0019】
カソード触媒層は、空気極(酸素極)として機能する。
【0020】
カソード触媒層は、電極触媒(単に「触媒」ともいう)及び電解質を少なくとも含む。電極触媒としては、金属担持触媒が好ましい。金属担持触媒では、金属触媒が担体に担持されている。
【0021】
担体としては、当該技術分野で公知の担体を使用することができ、特に制限されるものではない。担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の炭素材料;炭化ケイ素等の炭素化合物等が挙げられる。担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
金属触媒は、電極での反応において触媒作用を示すものであれば、特に制限されない。
空気極(カソード):O+4H+4e→2H
水素極(アノード):2H→4H+4e
【0023】
金属触媒としては、特に制限されないが、例えば、白金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム、又はこれらの2種以上の合金を使用することができる。また、白金合金としては、特に制限されないが、例えば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタン及び鉛のうちの少なくとも1種との合金を使用することができる。金属触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
カソード触媒層における電極触媒の含有量は、特に制限されるものではないが、例えば、触媒層の全質量に対して、3~40質量%である。
【0025】
カソード触媒層に用いられる電解質としては、スルホン酸基を有するアイオノマーが好ましい。アイオノマーは、陽イオン交換樹脂とも称され、アイオノマー分子から形成されるクラスターとして存在する。アイオノマーとしては、特に制限されるものではないが、例えば、当該技術分野で公知のアイオノマーを使用することができる。アイオノマーとしては、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂等のフッ素樹脂系電解質;スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質;スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレン等のスルホアルキル化プラスチック系電解質等が挙げられる。電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
アノード触媒層は、燃料極、すなわち水素極として機能する。
【0027】
アノード触媒層は、電極触媒及びアイオノマーを含む。アイオノマーは、スルホン酸基を有するアイオノマーであることが好ましい。スルホン酸基を有するアイオノマーとしては、例えば、上述ものが挙げられる。一実施形態において、アノード触媒層は、電極触媒及びアイオノマーに加え、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオン、及び、金属イオンと抱接化合物を形成できるホスト化合物を含み得る。
【0028】
電極触媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、上述の材料を用いることができる。
【0029】
スルホン酸基を有するアイオノマーとしては、特に制限されるものではないが、例えば、パーフルオロスルホン酸アイオノマー等のイオン伝導性を有する高分子電解質樹脂が挙げられる。スルホン酸基を有するアイオノマーの具体例としては、ナフィオン、アクイビオン(ソルベイ社)等が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係る膜電極接合体は、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオン、及び前記金属イオンと包接化合物を形成できるホスト化合物を含む。セリウムイオン及び/又はマンガンイオンは、ラジカルクエンチ剤として機能し、過酸化水素ラジカルを捕捉して無害化し得るため、膜電極接合体の劣化を抑制することができる。また、上記金属イオンに対するホスト化合物も膜電極接合体中に添加することにより、上記金属イオンの移動を抑制することができ、面方向における濃度の偏りを低減することができる。
【0031】
金属イオンは、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される。セリウムイオン及びマンガンイオンは、ラジカルクエンチ剤として機能する。当該ラジカルクエンチ剤は、過酸化水素から生成する水酸化ラジカルの水酸化イオンへの変換を容易にすることができ、アノード触媒層の劣化を抑制することができる。例えば、セリウムイオンによる水酸化ラジカルの水酸化物イオンへの反応は以下の通りである。
Ce3++・OH(水酸化ラジカル)→Ce4++OH(水酸化物イオン)
【0032】
セリウムイオンは、+3価でもあってもよく、+4価であってもよい。マンガンイオンは、+3価でもあってもよく、+4価であってもよい。
【0033】
セリウムイオンを得るためのセリウム塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、硝酸セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、又は硫酸四アンモニウムセリウム等が挙げられる。セリウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。セリウム塩は、有機金属錯塩であってもよい。有機金属錯塩としては、例えば、セリウムアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0034】
マンガンイオンを得るためのマンガン塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、硝酸マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、塩化マンガン、又は硫酸マンガン等が挙げられる。マンガン塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本実施形態におけるホスト化合物は、ゲスト化合物としてのセリウムイオン又はマンガンイオンと包接化合物を形成する。包接化合物は、ゲスト化合物としての上記金属イオンがホスト化合物の中に包接された形態を有する付加化合物を指す。ホスト化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本実施形態におけるホスト化合物は、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩である。ホスト化合物の環員数は、15以上であることが好ましく、18以上であることが好ましい。アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩は、セリウムイオン等の金属イオンに対して電子を供与して配位結合を形成し易く、その結果、より効果的に包接化合物を形成することができる。
【0037】
本明細書において、クラウンエーテル化合物とは、(-CH-CH-Y-)ユニット又は(-CH-CH-CH-Y-)ユニットの繰り返し構造を有する環状構造を有する化合物であり、Yは、それぞれ独立に、-O-、-NH-及び-NR-から選択される少なくとも1種である。クラウンエーテル化合物は、この環構造の中に金属イオンを捕まえて包接化合物を形成することができる。アミノ基(1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基を含む)を含むクラウンエーテル化合物は、アミノ基を環状構造中に有していてもよく(上記Yが-NH-又は-NR-となる形態)、または置換基として有していてもよい。置換基としてのアミノ基は、-NRで表され、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0038】
一実施形態において、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩としては、置換基としてアミノ基を有する芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物又はその塩(アミノ基で置換された芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物又はその塩)である。アミノ基を有する芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物は、アミノ基がセリウム等の金属イオンに対して電子を供与して配位結合を形成する効果に加え、芳香族環又は脂肪族環の構造に起因して高い疎水性を有するため、他の層(例えばカソード触媒層)への移行が抑えられる。芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物としては、例えば、ベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ジベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ジベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ジベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、ジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、シクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル、シクロヘキサノ-21-クラウン-7-エーテル、シクロヘキサノ-24-クラウン-8-エーテル、ジシクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル、ジシクロヘキサノ-21-クラウン-7-エーテル、ジシクロヘキサノ-24-クラウン-8-エーテル等が挙げられ、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物としては、これらの化合物の芳香族環又は脂肪族環が少なくとも1つのアミノ基で置換された化合物が挙げられる。置換基の個数は、例えば、1~4個であり、1~3個であり、1~2個であり、1個である。アミノ基を含むクラウンエーテル化合物の例としては、具体的には、アミノベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、アミノベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、アミノベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、アミノベンゾ-24-クラウン-8-エーテル等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
アミノ基を含むクラウンエーテル化合物の塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、又はプロピオン酸塩等が挙げられる。塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
一実施形態において、ホスト化合物は、アミノ基で置換された芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物のアンモニウム塩である。アンモニウム塩の状態で触媒インク中に添加することで、アイオノマーのスルホン酸基との相互作用が減少し、触媒インク中でホスト化合物とアイオノマーの凝集を防げることができる。その結果、生産性を向上することができる。アンモニウム塩を形成する酸としては、例えば、硝酸、硫酸、又は炭酸等が挙げられる。
【0041】
一実施形態において、アミノ基を含むクラウンエーテル化合物又はその塩は、(-CH-CH-Y-)ユニット又は(-CH-CH-CH-Y-)ユニットの繰り返し構造を有するクラウンエーテル化合物又はその塩(Yは、それぞれ独立して、-O-、-NH-及び-NR-から選択される少なくとも1種であり、少なくとも1つのYは-NH-及び-NR-から選択され、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、2つのRが存在する場合、それらのRは、1つ又は2つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよいC~Cアルキレンを介して連結していてもよい。)である。2つのRを連結する「1つ又は2つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよいC~Cアルキレン」としては、例えば、-O-(C~Cアルキレン)-O-である。環状構造中に2級アミノ基(2級アミン)又は3級アミノ基(3級アミン)を含むクラウンエーテル化合物は、この環構造の中に金属イオンを捕まえて包接化合物を効率的に形成して金属イオンの移動や偏析を効果的に抑制することができる。この実施形態におけるクラウンエーテル化合物の例としては、具体的には、1-アザ-15-クラウン-5-エーテル、1-アザ-1-メチル-15-クラウン-5-エーテル、1-アザ-18-クラウン-6-エーテル、1-アザ-1-メチル-18-クラウン-6-エーテル、1-アザ-21-クラウン-7-エーテル、1-アザ-1-メチル-21-クラウン-7-エーテル、1-アザ-24-クラウン-8-エーテル、1-アザ-1-メチル-24-クラウン-8-エーテル、Cryptand222等が挙げられる。塩としては、アンモニウム塩が好ましい。アンモニウム塩の状態で触媒インク中に添加することで、アイオノマーのスルホン酸基との相互作用が減少し、触媒インク中におけるホスト化合物とアイオノマーの凝集の発生を抑制することができる。その結果、生産性を向上することができる。
【0042】
一実施形態において、ホスト化合物は、(-CH-CH-Y-)ユニット又は(-CH-CH-CH-Y-)ユニットの繰り返し構造を有するクラウンエーテル化合物又はその塩(Yは、それぞれ独立して、-O-及び-NR-から選択される少なくとも1種であり、少なくとも1つのYは-NR-から選択され、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、2つのRが存在する場合、それらのRは、1つ又は2つの炭素原子が酸素原子で置換されていてもよいC~Cアルキレンを介して連結していてもよい。)である。環状構造中に3級アミノ基を含むクラウンエーテル化合物(3級アミン化合物)は、金属イオンの移動抑制効果に加えて、触媒インク中におけるアイオノマーのスルホン酸基との相互作用が少ないため、触媒インク中におけるホスト化合物とアイオノマーの凝集の発生を抑制することができる。その結果、生産性を向上することができる。
【0043】
本実施形態の膜電極接合体において、ホスト化合物と金属イオンの少なくとも一部が包接化合物を形成している。
【0044】
ホスト化合物及び金属イオンは、アノード触媒層、固体高分子電解質膜、又はそれらの両方に含有させることができる。
【0045】
アノード触媒層が、ホスト化合物及び金属イオンを含有する場合、アノード触媒層は、電極触媒、電解質、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオン、及び、金属イオンとホスト化合物を少なくとも含む。上記金属イオンは、過酸化水素から生成する水酸化ラジカルの水酸化イオンへの変換を容易にすることができ、アノード触媒層の劣化を抑制することができる。
【0046】
アノード触媒層中における上記金属イオンとホスト化合物の含有量は、アノード触媒層の固形分総量に対して、0.1~20質量%であることが好ましい。なお、当該含有量について、包接化合物は、金属イオンとホスト化合物の混合物とみなす。すなわち、上記金属イオンとホスト化合物を別個に又は単に混合してアノード触媒層中に添加した場合は、高分子電解質中で包接化合物が生成していたとしてもその量は考慮せずに、配合した金属イオンと包接化合物の合計量のみを計算の対象とする。また、予め包接化合物を形成した後に、当該包接化合物をアノード触媒層中に添加した場合は、その包接化合物の量は、その包接化合物を形成した金属イオンと包接化合物の合計量とする。さらに、包接化合物を形成した金属イオンとホスト化合物以外に、さらに、包接化合物を形成していない金属イオンとホスト化合物が存在する場合はそれらも計算の対象とする。
【0047】
本実施形態における上記金属イオンとホスト化合物の相対比について、ホスト化合物の上記金属イオンに対するモル比([ホスト化合物のモル数]/[金属イオンのモル数])は、例えば、0.1~10であり、0.2~7.5であることが好ましく、0.4~5.0であることが好ましい。すなわち、ホスト化合物の含有量は、上記金属イオン1モルに対し、例えば、0.1~10モルであり、0.2~7.5モルであることが好ましく、0.4~5.0モルであることが好ましい。なお、この相対比においても、上記と同様に包接化合物は両者の混合物とみなす。
【0048】
固体高分子電解質膜がホスト化合物及び金属イオンを含有する場合、例えば以下の方法により、ホスト化合物及び金属イオンを含有する固体高分子電解質膜を得ることができる。
(1)固体高分子電解質膜を、金属イオンを含む溶液中に浸漬してスルホン酸基等の基を金属イオンにイオン交換した後、ホスト化合物を含む溶液に浸漬して、膜中にホスト化合物を含ませる。
(2)高分子電解質の分散液中に金属イオンを含有する化合物(例えばセリウム塩)を添加してスルホン酸基等の基を金属イオンにイオン交換した後、該分散液にホスト化合物を含む溶液又は固体を添加し、得られた液を用いて塗工により製膜する方法。
(3)溶媒中で金属イオンを含有する化合物(例えばセリウム塩)とホスト化合物を反応させて包接化合物を形成し、次に包接化合物を溶媒に溶解した溶液に固体高分子電解質膜を浸漬してスルホン酸基等の基を包接化合物にイオン交換して、包接化合物を膜中に含ませる方法。
(4)溶媒中で金属イオンを含有する化合物(例えばセリウム塩)とホスト化合物を反応させて包接化合物を形成し、次に包接化合物又はその溶液を高分子電解質の分散液中に添加し、得られた液を用いて塗工により製膜する。
【0049】
[膜電極接合体の製造方法]
触媒層は、例えば、電極触媒、アイオノマー及び溶媒を含む触媒インク(例えば、約10%の固形分濃度)を調製する工程と、触媒インクを基材表面に塗布し、塗膜中の溶媒を揮発させることにより基材表面に触媒層を形成する工程と、基材表面の触媒層を電解質膜に転写する工程により形成することができる。また、基材の代わりに固体高分子電解質膜に触媒インクを直接塗布する方法により、触媒層を形成することもできる。固体高分子電解質膜上にカソード触媒層及びアノード触媒層を形成することにより、膜電極接合体を作製することができる。
【0050】
触媒インクの塗布方法としては、例えば、スプレー法、ドクターブレードやアプリケーターを用いたブレードコート法、ダイコート法、リバースロールコータ法、間欠ダイ塗工法等が挙げられる。
【0051】
アノード触媒層は、アノード触媒層を形成するための触媒インク中に、上記金属イオン及び上記ホスト化合物を含有させてもよい。具体的には、アノード触媒層を形成するための触媒インクは、電極触媒、アイオノマー(例えばスルホン酸基を有するアイオノマー)、上記金属イオン、ホスト化合物、及び溶媒を含み得る。上記金属イオン及びホスト化合物は、それぞれ別に加えてもよいし、両者の複合体の形態で加えてもよい。
【0052】
[膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池の具体的構成]
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に触媒層(電極)が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子型燃料電池において、触媒層の外側には、一般に、ガス拡散層が配置される。ガス拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分である。
【0053】
以下、図1を参照しつつ、膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る固体高分子型燃料電池の構成例を説明するための模式的断面図であり、例示としての燃料電池10の要部の断面図である。固体高分子型燃料電池は、発電体と該発電体の両面に配置される燃料電池セパレータから構成される単セルの積層体を備える。複数の単セルは、積層方向に積層され、各単セルは電気的に直列に接続される。図1に示すように、燃料電池10には、基本単位である単セル1が複数積層されている。各単セル1は、酸化剤ガス(例えば空気)と燃料ガス(例えば水素)との電気化学反応により起電力を発生する固体高分子型燃料電池である。単セル1は、ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)7が両側に配置された膜電極ガス拡散層接合体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)2と、MEGA2を区画するように、MEGA2に接触するセパレータ3とを備えている。なお、本実施形態では、MEGA2は、一対のセパレータ3、3により挟持されている。
【0054】
MEGA2は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)4と、この両面に配置されたガス拡散層7、7とを含む。膜電極接合体4は、電解質膜5と、電解質膜5を挟むように接合された一対の電極6、6とから構成される。電解質膜5は、例えば、固体高分子材料で形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電極6は、例えば、白金等の触媒を担持した多孔質のカーボン素材を含む。電解質膜5の一方側に配置された電極6がアノードとして機能し、他方側の電極6がカソードとして機能する。ガス拡散層7は、ガス透過性を有する導電性部材によって形成される。ガス透過性を有する導電性部材としては、例えば、カーボンペーパー若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体、又は金属メッシュ若しくは発泡金属等の金属多孔質体等が挙げられる。本実施形態において、アノード電極はアノード触媒層から構成され、カソード電極はカソード触媒層から形成される。
【実施例0055】
以下に、本実施形態について実施例を用いて説明する。
【0056】
[実施例1]
(カソード触媒層の形成)
電極触媒としての金属担持触媒を、水及びエタノールを含むアイオノマー溶液(DE2020)中にビーズミルを用いて分散させ、触媒インクを調製した。触媒インク中のエタノールに対する水の質量比(水/エタノール)は、約1とした。得られた触媒インクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗工及び乾燥させて、カソード触媒層を形成した。
【0057】
カソード触媒層中のPt目付量は0.2mg/cm、アイオノマーとカーボンの質量比(I/C)は1.0とした。触媒粒子としては、30%Pt/Vulcan(登録商標)(田中貴金属工業社製、TEC10V30E)を用いた。
【0058】
(包接化合物(複合体)の形成)
100mLナスフラスコに4′-アミノベンゾ-15-クラウン-5-エーテル(別名:(ベンゾ-15-クラウン-5)-4′-イルアミン、TCI社)(0.01mol)を量りとり、エタノール(20mL)、水(20mL)を添加し、24時間室温で攪拌した。その後、エバポレーターで溶液を除去した後、60℃下で真空乾燥を1時間行い、固体を得た。FT-IRにてエーテル基由来のピークが低波数側にシフトしていることを確認することにより、化合物とCeが包接化合物を形成していることを確認した。
【0059】
(アノード触媒層の形成)
電極触媒として、60wt%Pt/Ketjen(登録商標)を用いた。当該電極触媒及び上記複合体を、水、エタノール及びナフィオン(登録商標)を含むアイオノマー溶液(DE2020)中に分散させ、触媒インクを調製した。この触媒インクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗工及び乾燥させて、アノード触媒層を形成した。
【0060】
アノード触媒層のPt目付量は0.1mg/cm、セリウムイオン濃度は4μg/cmとした。ホスト化合物は、上述の通り、Ce:ホスト化合物=1:1のモル比で含有されている。アイオノマーとカーボンの質量比(I/C)は、1.0とした。
【0061】
(膜電極接合体の作製)
得られたカソード触媒層及びアノード触媒層のそれぞれを、ナフィオン(登録商標)膜(NR211)の両面にそれぞれ熱転写して、膜電極接合体E1を作製した。熱転写の条件は、140℃、50kgf/cm(4.90MPa)、5minとした。初期性能試験用の膜電極接合体の電極面積は、1cm×1cm(1cm)とした。耐久性試験用の膜電極接合体の電極面積は、3.6cm×3.6cm(12.96cm)とした。この膜電極接合体を撥水層付きペーパー拡散層(GDL)で挟んで試験セルを作製した。
【0062】
[実施例2]
ホスト化合物として1-アザ-18-クラウン-6-エーテル(別名:1,4,7,10,13-ペンタオキサ-16-アザシクロオクタデカン、TCI社)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E2を作製した。
【0063】
[実施例3]
ホスト化合物として1-アザ-1-メチル-18-クラウン-6-エーテル(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E3を作製した。なお、1-アザ-1-メチル-18-クラウン-6-エーテルは、以下の方法により合成した。
【0064】
温度計及び撹拌機を備えた3つ口フラスコ中で、263g(1モル)の1-アザ-18-クラウン-6-エーテル及び75g(2.5モル)のホルムアルデヒドを500mLのメタノールに溶解させた。得られた溶液に、164g(2モル)の酢酸ナトリウム、240g(2モル)の酢酸、及び46.1g(0.7モル)のシアノ水素化ホウ素ナトリウムを加え、窒素置換しながら25℃で2時間撹拌して反応させた。反応終了後、分液操作を行うことにより、N-メチル化体である1-アザ-1-メチル-18-クラウン-6-エーテルを得た。なお、H-NMR及びMSにより当該化合物が得られたことを確認した。
【0065】
[実施例4]
ホスト化合物としてCryptand222(別名:4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン、TCI社)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E4を作製した。
【0066】
[実施例5]
ホスト化合物として1-アザ-18-クラウン-6-エーテルの硝酸塩(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E5を作製した。1-アザ-18-クラウン-6-エーテルの硝酸塩は、100mLナスフラスコに1-アザ-18-クラウン-6-エーテルと硝酸塩とを1:1のモル比で量りとり、エタノールと水の混合溶媒に添加し、24時間室温で攪拌した。その後、エバポレーターで溶媒を除去した後、60℃下で真空乾燥を1時間行うことにより得た。
【0067】
[実施例6]
ホスト化合物として4′-アミノベンゾ-15-クラウン-5-エーテルの硝酸塩(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E6を作製した。4′-アミノベンゾ-15-クラウン-5-エーテルの硝酸塩は、100mLナスフラスコに4′-アミノベンゾ-15-クラウン-5-エーテルと硝酸塩とを1:1のモル比で量りとり、エタノールと水の混合溶媒に添加し、24時間室温で攪拌した。その後、エバポレーターで溶媒を除去した後、60℃下で真空乾燥を1時間行うことにより得た。
【0068】
[比較例1]
ホスト化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体C1を作製した。
【0069】
[比較例2]
ホスト化合物として18-クラウン-6-エーテル(別名:1,4,7,10,13,16-ヘキサオキサシクロオクタデカン、TCI社)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体C2を作製した。
【0070】
[評価]
(耐久性試験:電圧低下率)
上記試験セル(電極面積:12.96cm)を発電用セルに組み込み、低加湿環境(90℃、40%RH)において耐久性試験を行った。耐久性試験は、セル温度を90℃とし、水素/空気を供給し、電流密度0.05A/cmにおける固体高分子型燃料電池の初期の特性及び耐久性試験負荷後の特性を評価した。アノード側は露点67℃、カソード側は露点67℃となるようにそれぞれ水素及び空気を加湿してセル内に供給し、運転初期のセル電圧及び運転開始後の経過時間とセル電圧との関係を測定した。結果を下記表1に示す。また、上記のセルの評価条件において、運転初期のセル電圧及び運転開始後200時間経過後のセル電圧を測定した。
【0071】
(生産性:粒度)
<粒度分布の測定方法>
触媒インクの粒度分布は、マイクロトラック・ベル社製の粒度分布測定装置(MT3000II)を用いて測定し、D50の値を使用した。触媒インクの粒度分布D50(単位:μm)が5μm以下である場合をA、D50が6~10μmの場合はBとした。
【0072】
【表1】
【0073】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0074】
以上、本実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
1:セル、2:MEGA(膜電極ガス拡散層接合体)、3:セパレータ(燃料電池用セパレータ)、4:膜電極接合体(MEA)、6:電極、7:ガス拡散層、10:燃料電池、21、22:ガス流路
図1