(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007981
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】深溝玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/06 20060101AFI20250109BHJP
F16C 33/32 20060101ALI20250109BHJP
F16C 33/42 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16C19/06
F16C33/32
F16C33/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109764
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】和久田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】深間 翔平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓史
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA09
3J701BA37
3J701BA45
3J701BA47
3J701BA49
3J701EA02
3J701FA31
3J701FA38
3J701GA11
3J701XB03
3J701XB23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ボールの進み遅れによる保持器への負荷をなくすと共に、保持器と内輪の外径面との間、および保持器と外輪の内径面との間の干渉をなくした深溝玉軸受を提供する。
【解決手段】外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周に外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面と外輪軌道面との間を転動する複数のボール4とボール4を周方向に一定間隔で保持する保持器5とを備える深溝玉軸受において、保持器5のボール4を収容するポケット50とボール4の間に形成される周方向ポケット隙間の下限値を0.1mm、上限値を[0.09×使用ボール径-0.007](mm)に設定した。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周に外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面と外輪軌道面との間を転動する複数のボールと、ボールを周方向に一定間隔で保持する保持器とを備える深溝玉軸受において、保持器のボールを収容するポケットとボールの間に形成される周方向ポケット隙間の下限値を0.1mm、上限値を[0.09×使用ボール径-0.007](mm)に設定したことを特徴とする深溝玉軸受。
【請求項2】
前記ボールが鋼製である請求項1記載の深溝玉軸受。
【請求項3】
前記保持器の材料が、金属材である請求項1記載の深溝玉軸受。
【請求項4】
前記保持器の帯幅を、(0.2×ボール径~0.6×ボール径)mmとした請求項1又は2記載の深溝玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、深溝玉軸受、特に、トランスミッションの用途に好適な深溝玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
深溝玉軸受は、内輪・外輪とも軌道が円弧状の深い溝になっており、ラジアル荷重、両方向のアキシアル荷重、またはそれらの組合せである合成荷重を受けることができ、高速回転にも適している。このため、深溝玉軸受は、転がり軸受の中で最も多方面に使用されている。
【0003】
ところで、トランスミッションに適用される深溝玉軸受には、ミッションオイルとの相性の問題等から特許文献1の深溝玉軸受にも適用されている打ち抜き保持器を使用し、転動体としてのボールを内輪・外輪間に等間隔に保持している。
【0004】
この保持器のポケット内に保持された転動体としてのボールの公転速度は、それぞれのボールによって異なる。
【0005】
特に、トランスミッションの用途に適用する場合には、早く回るボールと遅く回るボールとで保持器を引っ張り合う、ボールの進み遅れと呼ばれる現象が発生する。このボールの進み遅れと呼ばれる現象による保持器の負荷を回避するためには、ポケットとボール間の周方向隙間を十分に確保する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、保持器におけるポケットとボール間の周方向隙間を大きく設定すると、保持器の径方向への移動量も大きくなるため、保持器が内輪の外径面に干渉したり、あるいは保持器が外輪の内径面に干渉したりして、この干渉による保持器への負荷が発生することが懸念される。保持器とボール間の周方向隙間と保持器の径方向移動量とは相反するため、どちらか一方を有利な方へ変更させると他方は不利な結果となる。
【0008】
したがって、場合によっては、余儀なく、保持器設計や軸受サイズの変更が必要になることもある。
【0009】
そこで、この発明は、保持器設計や軸受サイズを変更することなく、保持器のポケットとボール間に形成される周方向ポケット隙間の上下限値を規定することにより、ボールの進み遅れによる保持器への負荷をなくすと共に、内輪・外輪による保持器への干渉もなくした、特に、トランスミッションの用途に好適な深溝玉軸受を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、この発明は、外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周に外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面と外輪軌道面の間を転動する複数のボールと、ボールを周方向に一定間隔で保持する保持器とを備える深溝玉軸受において、保持器のボールを収容するポケットとボール間に形成される周方向ポケット隙間の下限値を0.1mm、上限値を[0.09×使用ボール径-0.007](mm)に設定したことを特徴とする。
【0011】
この保持器のボールを収容するポケットとボール間に形成される周方向ポケット隙間は、使用温度によって変化するため、この発明においては、常用最大温度100℃における隙間をいうものとする。
【0012】
また、保持器のポケットにボールが衝突するエネルギーは、質量によって異なるため、この発明における周方向ポケット隙間の大きさは、ボールが鋼球であることを前提に設定している。
【0013】
また、この発明における周方向ポケット隙間の大きさは、冷間圧延鋼板(SPCC)を型抜きして形成した打ち抜き保持器を使用して規定したものであるが、その材質としては、ステンレス鋼(SUS)の他、銅(Cu)、銀(Ag)といった金属の他、樹脂製であってもよい。
【0014】
前記保持器の帯幅は、0.2×ボール径(mm)~0.6×ボール径(mm)の範囲に設定する。0.2×ボール径(mm)以下では、保持器の移動量が大きくなってしまい、保持器と軌道輪が接触する。0.6×ボール径(mm)以上では、保持器と内輪の外径面との間のクリアランス、および保持器と外輪の内径面との間のクリアランスが小さくなって、保持器と内輪、あるいは保持器と外輪が接触する。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明は、深溝玉軸受における保持器のボールを収容するポケットとボールの間に形成される周方向ポケット隙間の下限値を0.1mm、上限値を[0.09×使用ボール径-0.007](mm)に設定することにより、ボールの進み遅れによる保持器への負荷をなくすことができる。また、この発明においては、深溝玉軸受における周方向ポケット隙間を規定することにより、保持器の動き量も規定することができるため、保持器と内輪の外径面との間、および保持器と外輪の内径面との間の干渉をなくすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
深溝玉軸受1は、
図1及び
図2に示すように、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数のボール4とを備える。ボール4は、保持器5のポケット50に収容され、周方向に一定間隔で保持されている。
【0018】
図1及び
図2に示す実施形態では、鉄板を型で打ち抜いた打ち抜きの保持器5を使用している。
【0019】
この打ち抜きの保持器5は、
図3に斜視図で示すように、打ち抜き形成された環状の保持器半体51を2個、
図4に示すように、軸方向に対面して重ね合わせ、リベット孔52に挿通したリベット53で互いに接合して形成したものである。
【0020】
保持器半体51は、内面がポケット50の半分を形成する球殻状板部51aと、隣り合うポケット50間に位置する平板部51bとが円周方向に交互に並ぶ環状体であり、平板部51bには、保持器半体51を軸方向に軸方向に対面して重ね合わせてリベット53で接合するためのリベット孔52を設けている。
【0021】
2個の保持器半体51を軸方向に対面して重ね合わせた保持器5には、ボール4を保持するポケット50が円周方向に等間隔で設けられ、各ポケット50の内面が凹球面状に形成されている。
【0022】
保持器5のポケット50の内径D1は、
図5に示すように、ボール4の直径D2よりも大きく形成され(D1>D2)、ポケット50の内径面とボール4との間に隙間を有する。
【0023】
このポケット50の内径面とボール4との間に形成される周方向の隙間を、この発明においては、周方向ポケット隙間sと呼ぶ(
図6)。
【0024】
この発明における周方向ポケット隙間sは、次のようにして測定することができる。
【0025】
まず、
図7に示すように、内輪2と外輪3の幅面の片側、もしくは両側から矢印の方向に荷重を付加し、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aによってボール4を拘束した状態にする。次に、ボール4を拘束した状態で、軸受側面から保持器5を周方向(
図8の矢印の方向)に動かして保持器5の周方向の動き量を測定する。すなわち、保持器5のポケット50とボール4との間に形成される周方向ポケット隙間sは、
図6に示すとおりであるから、保持器5を一度左右どちらかに限界まで動かした後の反対方向への動き量として測定を行うことができる。
【0026】
保持器5のポケット50内に収容されたボール4の公転速度は、それぞれのボール4によって変わり、早く回るボール4と遅く回るボール4とがあり、早く回るボール4と遅く回るボール4とで保持器5を引っ張り合うという、ボール4の進み遅れと呼ばれる現象が発生する。
【0027】
このボール4の進み遅れと呼ばれる現象は、軸受回転中に発生する各ボール4が各々周方向ポケット隙間sを減少させる方向に移動することによって発生するボール4同士の位相の差のことである。
【0028】
保持器5のポケット50と、ポケット50内に収容されたボール4との間に、周方向ポケット隙間sがあると、周方向ポケット隙間sによって軸受回転中に保持器5が径方向に移動する。
【0029】
保持器5が径方向に動くと、保持器5と内輪2の外径面との間のクリアランスc、保持器5と外輪3の内径面との間のクリアランスdが減少する。
【0030】
したがって、周方向ポケット隙間sを大きく設定すると、前記クリアランスcおよびdがなくなって、保持器5が、内輪2の外径面、あるいは外輪3の内径面に接触して保持器5に負荷がかかる。
【0031】
一方、周方向ポケット隙間sが小さすぎると、ボール4の進み遅れによって保持器5に負荷がかかる。
【0032】
このため、この発明では、周方向ポケット隙間sの下限値と上限値を設定することにより、ボール4の進み遅れによる保持器5への負荷をなくし、周方向ポケット隙間sによって保持器5が径方向に動いても、保持器5と内輪2の外径面との間のクリアランスc、保持器5と外輪3の内径面との間のクリアランスdを保つようにしたものである。
【0033】
この発明における周方向ポケット隙間sの下限値は、0.1mmである。この下限値は製造公差と安全率を考慮し、ボール4の進み遅れによる保持器5への負荷が発生しない値である。
【0034】
なお、保持器5の帯幅W(
図1)は、0.2×ボール径~0.6×ボール径(mm)の範囲とする。0.2×ボール径(mm)以下では、保持器5の移動量が大きくなってしまい、保持器5と、外輪3、あるいは内輪2とが接触する。0.6×ボール径(mm)以上では、保持器5と内輪2の外径面との間のクリアランスc、および保持器5と外輪3の内径面との間のクリアランスdが小さくなって、保持器5と内輪2、あるいは保持器5と外輪3が接触する。
【0035】
トランスミッション用軸受で適用するボール4の種々のサイズ(1/4~19/32インチ)に対して保持器5とクリアランスcおよびdを確保するために必要な周方向ポケット隙間sとの関係は、
図9に示す通りであり、この
図9のプロットから近似式を求め、周方向ポケット隙間sの上限値を、[0.09×使用ボール径-0.007](mm)によって算出した。
【0036】
周方向ポケット隙間sの上限値と下限値におけるトランスミッション用軸受で適用するボール4の種々サイズに対するクリアランスcおよびdは、
図10のとおりである。
【0037】
以上の実施形態では、冷間圧延鋼板(SPCC)を型抜きして形成した打ち抜き保持器5を使用して規定したが、その材質としては、ステンレス鋼(SUS)の他、銅(Cu)、銀(Ag)といった金属を使用することができる。また、保持器5としては、樹脂製のものでもよい。
【0038】
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】この発明の実施形態に係る深溝玉軸受を一部切り欠いて示した斜視図である。
【
図3】
図1の深溝玉軸受に使用する保持器の構成部材である保持器半体を示す斜視図である。
【
図4】
図3の保持器半体を組み立てたこの発明の深溝玉軸受に使用する保持器の斜視図である。
【
図5】保持器のポケットの内径とボールの直径との関係を示す拡大図である。
【
図6】保持器のポケットとボール間に形成される周方向ポケット隙間を示す拡大図である。
【
図7】周方向ポケット隙間を測定する手順を示す部分縦断面図である。
【
図8】周方向ポケット隙間を測定する状態を示す深溝玉軸受の側面図である。
【
図9】ボール径と周方向ポケット隙間との関係を示すグラフである。
【
図10】周方向ポケット隙間の上限値と下限値におけるボール径とクリアランスとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 :深溝玉軸受
2 :内輪
2a :外側軌道面
3 :外輪
3a :外輪軌道面
4 :ボール
5 :保持器
50 :ポケット
s :周方向ポケット隙間
c、d :クリアランス